【祝祭】ゴブリンの祝祭【大遠征】
おおくまねこ
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シナリオID:3453
オープニング
●
「ゴールディからお祭りの招待状が届いているよ。シルバードで『名もなき小鬼の生誕の地が見つかったこと』と、世界が平和を取り戻したことを祝してのお祭りをやるそうだ。功労者である冒険者達にも、ぜひ参加してほしいとのことだ」
冒険者の店のマスターはそう言うと、カラフルなイラストが描かれた一枚の紙を取り出した。そこには、楽器を演奏しているゴブリンや、スイーツを食べているゴブリンなど、楽しげなイラストが描かれていた。だが、特に冒険者達の目を引いたのは、巨大なドラゴンの頭蓋骨と、その頭上に描かれている巫女装束を着たサチコらしき女性だった。
「ああ、このドラゴンかい? これは実はドラゴンではなく、大型クリーパーだよ。名は『七頭獣の大魔』。サウゼル大樹海の調査の時に、調査チームが仕留めた大物だ。君達の中には、討伐に参加した人もいるんじゃないかな? 倒した後、死体が残ったから、それを今回のお祭りの目玉として、御輿的な何かに改造したみたいだね」
微妙におどろおどろしいイラストに、マスターは苦笑した。
「お祭りは、『ゴブリンらしく』がテーマだそうだ。といっても、イ・…ええと、誰だっけ。名前が思い出せないが……そう、レイウェスト皇子の母が示したような『亜人としてのゴブリンらしさ』じゃない。『名もなき小鬼』が夢見た、『人類の一員としてのゴブリンらしさ』だ。それがお祭りのテーマらしい。だから、音楽隊も出るし、スイーツの露店もたくさん出る。そして、『名もなき小鬼』を神様として祀る祭壇もね」
マスターはそう言って、サチコのイラストを指差した。
「そうそう。サチコはこれからは『名もなき小鬼』を祀る巫女として活動するそうだ。世界は平和になったとはいえ、彼女はブラックデスの相談役はまだ続けるようだし、苦労の種は多い。彼女を励ましに行くのもいいんじゃないかな」
マスターは微笑んだ後、最後にこう付け加えた。
「あとは……冒険者ギルドの職員としてこれを口にするのは複雑ではあるのだけど、ゴールディ・ゴブリンの未来の為に尽力したいのなら、これを機にブラックデスの門を叩くのもいいかもしれない。顔と名前が売れている冒険者なら鉄砲玉としては扱われず、クリーンな仕事を回してもらえるだろうし。なんにせよ、これからの生き方を決めるのは君達だよ。君達の所属を縛っていた盟約はもうないのだから」
「ゴールディからお祭りの招待状が届いているよ。シルバードで『名もなき小鬼の生誕の地が見つかったこと』と、世界が平和を取り戻したことを祝してのお祭りをやるそうだ。功労者である冒険者達にも、ぜひ参加してほしいとのことだ」
冒険者の店のマスターはそう言うと、カラフルなイラストが描かれた一枚の紙を取り出した。そこには、楽器を演奏しているゴブリンや、スイーツを食べているゴブリンなど、楽しげなイラストが描かれていた。だが、特に冒険者達の目を引いたのは、巨大なドラゴンの頭蓋骨と、その頭上に描かれている巫女装束を着たサチコらしき女性だった。
「ああ、このドラゴンかい? これは実はドラゴンではなく、大型クリーパーだよ。名は『七頭獣の大魔』。サウゼル大樹海の調査の時に、調査チームが仕留めた大物だ。君達の中には、討伐に参加した人もいるんじゃないかな? 倒した後、死体が残ったから、それを今回のお祭りの目玉として、御輿的な何かに改造したみたいだね」
微妙におどろおどろしいイラストに、マスターは苦笑した。
「お祭りは、『ゴブリンらしく』がテーマだそうだ。といっても、イ・…ええと、誰だっけ。名前が思い出せないが……そう、レイウェスト皇子の母が示したような『亜人としてのゴブリンらしさ』じゃない。『名もなき小鬼』が夢見た、『人類の一員としてのゴブリンらしさ』だ。それがお祭りのテーマらしい。だから、音楽隊も出るし、スイーツの露店もたくさん出る。そして、『名もなき小鬼』を神様として祀る祭壇もね」
マスターはそう言って、サチコのイラストを指差した。
「そうそう。サチコはこれからは『名もなき小鬼』を祀る巫女として活動するそうだ。世界は平和になったとはいえ、彼女はブラックデスの相談役はまだ続けるようだし、苦労の種は多い。彼女を励ましに行くのもいいんじゃないかな」
マスターは微笑んだ後、最後にこう付け加えた。
「あとは……冒険者ギルドの職員としてこれを口にするのは複雑ではあるのだけど、ゴールディ・ゴブリンの未来の為に尽力したいのなら、これを機にブラックデスの門を叩くのもいいかもしれない。顔と名前が売れている冒険者なら鉄砲玉としては扱われず、クリーンな仕事を回してもらえるだろうし。なんにせよ、これからの生き方を決めるのは君達だよ。君達の所属を縛っていた盟約はもうないのだから」
解説
目標:シルバードのお祭りに参加する。
舞台:ゴールディの首都シルバード
依頼人:ブラックデス
●お祭りについて
昨年末にゴールディ・ゴブリン始まりの地が発見されたことと、世界平和を祝うお祭りです。名もなき小鬼が神として祀られる最初のお祭りでもあります。祭事を仕切る巫女はサチコが務めます。
名もなき小鬼の好物であったスイーツの露店が多く出ているほか、メインイベントとして、音楽隊を引き連れたサチコがシルバードを巡回するパレードも行われます。音楽隊としてのパレード参加も歓迎されるでしょう。
●登場NPC
サチコ
名もなき小鬼の実子。世界が平和になったため、願い通りゴブリンの神『名もなき小鬼』の巫女になった。今後は名もなき小鬼という神がいたことを世界から忘れられないよう、細々と活動をしていくつもりのようだ。また、神殿の建設も目標としているらしい。なお、ブラックデスの相談役の地位はブラックデスのマフィア達に引き止められてしまったため、辞職していない。祭りでは『名もなき小鬼の巫女』として、パレードの先頭を歩く。サチコ以外の巫女さんも随時募集中。なお、サチコの巫女衣装はシルバード在住のゴブリンのデザイナーが作成する予定だが、冒険者が代わりに作成してもいい(十二単みたいな重ね着するタイプのゴージャスなものになるので、複数名デザイナーがいてもいいです)。
七頭獣の大魔
サウゼル大樹海で激闘の末に討伐された、数百年生きた大型クリーパー。センターに生えていたドラゴン型の頭部の頭蓋骨がお祭りの目玉として、馬車と合体した御輿的な何かになっている。パレードでサチコのすぐ後ろを走る。上に乗りたい人がいれば上にも乗れる(スタッフと客どちらの待遇でもOK)。
●ブラックデスへの就職希望について
顔と名の売れた冒険者を採用する場合、マフィアらしいブラックデスではなく、外部に見せるための「綺麗な側のブラックデス」としての採用となる。具体的にはゴールディの治安要員やサウゼルへの探検隊、案内人、他国との交渉役、ビッグオウムの世話係など(本人の希望も考慮)。
マスターより
こんにちは。おおくまねこです。今回はシルバードが舞台のお祭りです。奮ってご参加下さい!
プレイングの方針として、大きく三つの方向性があります。参加人数次第ではありますが、複数の役割での参加だと描写が相対的に薄くなるかもしれないので、いずれかに絞ることを推奨いたします。
・お祭り参加者としての参加
・お祭りスタッフとしての参加(露店経営、パレードの音楽隊、名もなき小鬼の巫女、雑踏警備員など)
・ブラックデス採用面接を受ける
●ブラックデスへの就職について
このシナリオにおいては、ブラックデスに就職を希望することが可能なシナリオです。採用の条件は【経験・実績と希望ポストにより応相談】となります。プレイングにおいて【ブラックデス就職希望】あるいはそのように理解できる文言が記載されており、条件を満たしていた場合、称号を付与いたします。
リプレイ
●
「よし、入って来な!」
「失礼します」
小奇麗なダークスーツに身を包んだオゴスは扉をくぐると、部屋で待っていたブラックデスの幹部達に一礼した。幹部だけあり凶悪なツラ構えのゴブリン達が勢ぞろいしていたが、オゴスはそもそもブラックデスへの就職希望者だ。臆することはなかった。
(俺はトップ層の冒険者ではないので顔と名が充分売れているか若干疑問です。ですが、堂々と振舞いましょうか)
オゴスは勧められた椅子に座った後、面接官の様子をよく観察した。数は三名。雰囲気的に、真ん中にいる白髪まじりのゴブリンが一番偉いゴブリンだろう。向こうもマフィアの幹部らしく、黒で統一されたスーツを着ていた。
「ヘイ、ミスター。まずは名前を聞かせてもらおうか」
「オゴスです」
「……ほう。どこかで聞いたことある名前だな……オゴスさん。ここまでどうやって来た?」
「シルバードまではビッグオウム便で。ここまでは徒歩です」
オゴスは落ち着いた態度で、はきはきと答えた。
「ところであなた、いい匂いね。香水つけてるの?」
「はい。『ゴールディ・グリーン』を使ってます」
「なるほど、いいセンスだわ」
オゴスが答えると、左の席に座っていたゴブリナが微笑んだ。
(死と隣り合わせの戦場とはまた別の緊張感がありますね……)
歴戦の授恵者とはいえ、オゴスも人の子である。就職面接で全く緊張しないほど、図太くはなかった。
「オゴスさんの特技を教えてくれ」
「シーフの特性のおかげで機動力と索敵能力に優れております。好きな得物は暗針と魔導書。シーフの動きと魔法の射程が合わさると何かと便利な局面が多かったですよ」
「ふむ。魔導書か……言っちゃあ悪いが、顔に似合わず知性派なんだな」
「はい。よく言われます。見ての通り、ホブゴブリンですからね」
オゴスは特に腹を立てることもなく答えた。自分の顔がごろつきっぽいのは百も承知だ。
「アンタなら、腕っぷしの方は問題ねえだろう。それじゃあ、あんたの希望するポストを聞かせてもらおうか」
「はい。希望するポストはゴールディの治安要員か、他国との交渉役です」
「ほぉ……治安要員は分かるが、交渉役ってのはなんでだ?」
真ん中の壮年ゴブリンが問うと、場の空気が張り詰めていくのを感じた。
「俺はいかにも荒っぽいホブゴブリンの容姿ですが、そんな俺が外交用の上等なスーツを着て理路整然とした言葉を扱うことで、人類文明の一員としてのゴブリンというインパクトを他国に強く与えられるかと」
「なるほどなぁ……。お前さんは頭の回転も速そうだ。他国との交渉役……外交官としてぜひウチで働いてくれ」
壮年のゴブリンはニカッと歯を見せて笑った。
「ありがとうございます!」
●
「さあ、らっしゃいらっしゃい! 『ゴブリンの神』が愛したお菓子、その名も『ドン菓子』だぜ!」
ギャメルはシルバードで屋台を出す下準備として、冒険者ギルドの記録から、『名も無き小鬼』(ゴブリンの神)の情報を調べてきた。
(名も無き小鬼のことは相変わらず思い出せねえが……その嗜好についてはいくつか調べがついたぜ)
ギャメルの再調査の結果、かつて『名も無き小鬼』は甘露蟻蜜を使った冒険者作の様々なデザートを試食したことがあったらしい。それ以外にも、名も無き小鬼が甘味も愛したという記録はいくつも残されており、彼が甘党だったことは間違いないようだ。ギャメルは深めのフライパンに油を引き、麦の粒を加熱していく。やがて麦はポンポンと派手な音を立てて弾け、膨らみ始めた。ポンポン、という弾ける音が鳴り止んだら完成だ。これはかつて、ギャメルが『名も無き小鬼』のイメージアップの為に作った菓子だ。その菓子には名も無き小鬼は直接関与はしていなかったため、ギャメルの記憶も鮮明に残っていた。
「ドン菓子、ドン菓子はいらんかねー!」
ゴブリンの顔のマークとゴールディの文字が墨書されている看板を店の前に出し、ギャメルは大きく声を張り上げる。ギャメルが用意した麦の菓子の味付けは全部で三種類。甘露蜜絡め、ゴールディ産のチョコパウダー、そして塩味だ。ギャメルはゴールディで商売する権利も持っていたので、ブラックデスはギャメルの露店にはそれなりに手厚い支援もしてくれた。
「ふう、もうじき日が沈む。けっこう売れたな……」
ギャメルは露店でドン菓子を売り捌きつつ、将来のことを考える。
(ヒールで怪我を、医療知識で病気を癒す診療所を開こうかな。妹の薬もここで売れたら、あいつも喜ぶだろうし……)
「オレの一番の願いはゴールディの衛生環境の向上だ。命を落とす弱い命を減らすことだぜ」
ゴブリン族の将来を案じるギャメルのことはきっと、ゴブリンの神も優しく見守ってくれるだろう。
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「大きな戦いも終わって、どこもお祭りですね。これから大変なので景気づけの意味もありそうですけど」
ヴィルヘルミナは喧騒に酔いしれるシルバードのゴブリン達を眺めながら、ぽつりと呟いた。今日のヴィルヘルミナはオフだ。参加者として、シルバードの祭りを楽しむつもりでいる。
「これはチョコバナナというのですか……シンプルながら、なかなか美味しいですね。バナナが新鮮だからでしょうか」
「おう。気に入ったか? 好きなだけ食っていきな! お代はもらうがな、がはは」
「シルバーアクセサリーもありますね。髑髏など、禍々しいデザインが多いのはマフィアの総本山だからでしょうか」
ヴィルヘルミナはお菓子を買い食いしたり、金属製アクセサリーの露店を物色しながら、シルバードを練り歩いた。そうこうしているうちに、巨大なクリーパーの御輿を引き連れ、オウムのようにド派手な衣装を着たサチコが雑踏の奥から出てきた。
「あれがパレードですか。サチコの衣装も少し派手ですが綺麗ですね」
ヴィルヘルミナはサチコのパレードに目を奪われた。よくよく見ると、着ぐるみを着た笛吹き着ぐるみ男や、なんとなく見覚えのあるエルフの巫女、そして御輿の上で宙がえりをする半裸のナハシュなど、見知った顔も行列に混じっていた。
(大魔はこうしてみると、あの死闘から結構経ったのだと感じます。過ぎ去ってみれば早く感じますね)
自分達が倒したクリーパーが有効に活用されているのを見て、ヴィルヘルミナは頬を綻ばせた。あの調子なら、あの大型クリーパーの亡骸は移り変わる時代の流れと共に、これから永きにわたってシルバードで愛されていくのかもしれない。
「ヒト種族のなかでは種として一番大きな変化があった気がするゴブリンですが、これからどうなっていくでしょうね」
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「夢が叶ったな。おめでとう、サチコ」
レピド・クロサイトは巫女装束で着飾ったサチコに祝辞を述べた。巫女装束とは言うが、サチコの衣装は極彩色のかなり派手なものだった。
「ありがとうございます」
「ところでずいぶんとカラフルな衣装だな」
「はい。『全部の色を混ぜると黒になる』という、名も無き小鬼の残した言葉を参考にして作られた衣装なので」
「なるほど、ブラックデス由来なんだな」
サチコの言葉に、レピドは感心した。
「ところで今、サチコはどのような気持ちだ?」
レピドが尋ねるとサチコは一瞬考え、
「とりあえず、嬉しいです。やることはたくさんありますが」
と答えた。表情は普段と同じぼうっとした感じのままだが、心なしか声は弾んでいるように聞こえた。
「そうか。……最近俺にもぼんやり『夢』のようなものが出来てな。だから、夢を実際に叶えた者の感想が気になった、それだけだ」
「そうですか。あなたの夢も叶うといいですね」
「ああ、ありがとう」
レピドの夢……それは人間時代の自分のような孤児が裏社会に落ちることを防ぎたい、というものだった。具体的なアイデアについては現在は考え中だ。
(俺が誰かに教えられる技術といえば、とりあえずシーフの技術が思いつくが。それだとあの男になってしまう……)
レピドは一瞬視界に某変態仮面の笑顔が浮かんだので、ぶんぶんと首を横に振った。
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ぴーひゃらぴー。ぴーひゃらぴー。ぱっぱらぱー!
レピドは愛猫を模した着ぐるみ『丸ごとショウガ』を着込み、フルート担当としてサチコのパレードに参加していた。
「なんかずいぶんでけえ猫がいるな」
「ずいぶん凝った衣装だなあ。スゲエ」
ただし、その衣装はキジトラの着ぐるみだった。レピド愛用のコスプレ衣装『まるごとショウガ』だ。これを着ることで愛猫と一体化した気分になれるという優れものである。のちにレピドは語る。
「お祭りなら着ぐるみでもOKだと思った、反省はしていない」
「にゃーにゃーにゃー!」
「……ん? ショウガも歌ってるのか?」
レピドの頭の上に乗ったショウガ(本人)もとても楽しそうだ。ショウガはレピドから落下しないようにしっかり爪を立てていたが、着ぐるみが分厚いので、レピドはノーダメージだった。
●
「よーし! 今日は遊ぶぞ! いろいろなアレがこうなって帝国のお代官サマやることになったから、なかなかゴールディのほうにも来れなくなるだろうし?」
帝国の代官としての転職が決まったアルマ・ヴァレンタインは、忙しくなる前に遊んでおこうと、ゴールディのお祭りにやってきていた。お祭りだけあり、シルバードはかつてないほどの賑わいを見せている。地味にありがたいことに、ゴブリンは平均身長がさほど高くないため、背の低いアルマもぴょんぴょん跳ねずとも遠くまで景色が見渡せる。
「あ、このチョコレートのお菓子おいしそう。ねえ、中に何入ってるの?」
「おう。嬢ちゃん。スゲエだろ。去年、伝手でエドゥノーグ産のチョコが格安で手に入ったんだ。ドロドロに溶かしたチョコを樹海で獲れたバナナに突っ込めば、チョコバナナの出来上がりよ!」
「へえー。家で作るのも簡単そう! いただきます! あ、おいしい!」
「あ、ギャメルだ。ねえ、これなんて名前のお菓子?」
「おう! こいつは『ドン菓子』って言うんだ! 麦の粒を炒って膨らませるんだぜ!」
「ポンポン鳴るのが楽しい! 後で作り方教えてよ!」
「ああ、いいぜ! 帝国に移住したゴブリン達にも食わせてやってくれよな!」
アルマは露店の屋台をひたすら食べ歩き、超人的な味覚でそれを記憶していく。「帝国に移住したゴブリンに食べさせてあげたいから」と理由を説明すると、ほとんどのゴブリンはもったいぶらずにレシピも教えてくれた。帝国にはゴブリンの移民もたくさんいる。覚えたレシピを帝国のゴブリン達に披露すれば、故郷の味としてきっと喜ばれるだろう。
「今日覚えた料理をゴブリン住民さんとかにお出ししたらハートキャッチ! できちゃうかも? 掴むのがハートじゃなく胃袋になるかもだけどまあそれはそれでヨシ! かなあ」
アルマは領民想いの強かな代官になれそうだ。
●
「ケジメをつける良い機会、なのかしらね」
リューイ=ヴァレンゴルトと共に依頼書を見ていたユニス・ソロアーヌ・アクエリリーアはぽつりと言うと、リューイは怪訝そうな顔をした。
「? 何かやりたいことがあるのか? ユニス」
「ええ。巫女としてパレードに参加したいの。リューイも一緒に来てくれる?」
ユニスが蠱惑的な仕草で片眼をパチンと瞑ると、リューイは一瞬固まった後、頷いた。
「巫女? ああ。俺もシルバードの祭りには顔を出すつもりだったから構わないが」
(巫女装束のユニスか……楽しみだな)
リューイは胸の高鳴りを隠せなかった。
「きれいだな」
ゴブリンの神の巫女としてサチコに付き従って歩くユニスの姿を少し離れたところから眺めていたリューイは、ほう、息を漏らした。ユニスはサチコの着ている衣装の簡易版の極彩色の派手な衣装を見事に着こなしていた。極めて個人的な感想ではあるが、凹凸の少ないサチコよりも、グラマラスなエルフであるユニスの方が綺麗だとさえ思う。もちろん、大魔の遺骨の御輿や、楽団なども随伴するパレード自体も十分に美しいのだが、リューイの視線はユニスに釘付けになっていた。
「ケジメ、か」
リューイはふと、出かける前にユニスが言っていた言葉を思い出した。リューイはゴブリンロードとしてこの世に生を受けたが、ゴールディで過ごした日々は決して輝かしいものではなかった。授恵者として目覚め、冒険者として活動するようになってからも、そのことにはずっと負い目を感じていた。
「こんな晴れやかな気持ちで、シルバードで過ごせるなんてな」
(エルフにしては肉感的らしい私は、巫女の装束に負けていないようで良かったわ)
サチコのすぐ後ろを歩きながら、ユニスは思う。
(私は私の意思で、ゴブリンに近づいたの)
かつて、ユニスには婚約者がいた。しかし、将来を誓った幼馴染は死んでしまった。
「あなたのことは忘れはしない。でも、私はゴブリンであるリューイとのこれからを選ぶわ……ごめんなさい」
パレードの途中、ゴブリンの神の像の前で、ユニスは自分の心の中にいる幼馴染に今の自分の決意をはっきりと告げた。
「あ、リューイだわ」
パレードの更新中、観衆に混じって遠巻きにこちらを見ているリューイが目に入り、ユニスは軽く手を振った。
(素直に嬉しそうな彼を見て、私も楽しくなるわね)
(俺も、もう自分を許してもいい頃合いか)
リューイは笑顔でユニスへと手を振り返し、街を更新するゴブリンの神の巫女達の行列についていく。
(あなたについていきたい)
リューイはそう言ってくれたユニスとのこれからに思いを馳せながら、この祝祭の明るく楽しい空気に浸ることにした。
「彼女がパレードで疲れてしまったなら、後でしっかり労おう」とも思いながら。
●
「うめえ! ドン菓子うめえ!」
「ナハシュ、あっちに焼きもろこしもあったよ」
「お、それも美味そうだな! これ食い終わったら行こうぜヨル!」
ナハシュとヨル・スレイマンは二人でシルバードの祭りに遊びに来ていた。サチコが巫女になり、以前やっつけた大魔もなんか御輿になったと聞いた二人がシルバードからの招待状を蹴る理由は何もなかったのだ。
「うおおお! 本当に馬車に改造されてやがる! かっけー! 俺も頭1個貰えばよかった!」
七頭獣の大魔の御輿目当てに遊びに来たナハシュは、大魔の骨でデコられた馬車(御輿)を見て、感動を隠せなかった。
「一番新しい神の巫女か。神からは遠い地だと思っていたけど、うん。様になっている」
「あーそういや巫女になるとかなんか言ってたっけ。だからスーツ着てねえのか」
「あ、あそこにキジトラマン(レピド)もいるね」
「おお、本当だ。あの格好ぬくそうだな……」
御輿や楽団を引き連れ、極彩色の巫女装束を着てゆっくりと街の真ん中を歩くサチコは、なかなか堂に入った巫女だった。ヨルはサチコの巫女姿を見て目を細めている。
「ナハシュ。冒険者を縛っていた盟約はもう消えたけど、"綺麗な側のブラックデス"じゃ君の就職先にはならなさそうだね」
「そうだな。お綺麗な方は色々煩ぇだろうしな」
「でも巫女もいいよ。きっと君は似合うだろう間違いない」
ヨルは熱っぽい目でナハシュの方を見た。そしてヨルはシグモルの黒い法衣がどうのこうの、シャルガネの巫女は白と赤のコントラストがどうのこうのと、巫女装束の浪漫について、熱心にナハシュに力説し始めた。だが、ナハシュはすぐ飽きたので生あくびをした後、さっさと御輿の方に走っていってしまった。
「着ねえ、ならねえ、興味ねえ。じゃあな!」
(ナハシュ、いつか君も巫女装束を着てくれると信じている。いっそ生徒会選挙の公約にすればよかっただろうか……いや、何を考えてるんだ、俺は)
ヨルは巫女装束姿のナハシュと一緒にパンクリアース学園に登校する姿を幻視し、空を見上げた。
「これに乗るために来たんだよ! ひゅーーー!!!」
ナハシュは七頭獣の大魔の上に仁王立ちし、ご満悦だった。
「ナハシュさん! 危ないので宙返りはご遠慮ください!」
「やべっ! 怒られた!」
テンションが上がり過ぎたナハシュはついはしゃいでしまい、マフィアに怒られた。
●
日が沈み、宿屋に向かう途中、ヨルはふと立ち止まった。
「ヨル、どうした?」
(節目の時だからナハシュにはちゃんと想いを伝えておきたい)
ヨルはナハシュをまっすぐに見つめた。
「君はいつか超越者になるだろ。だからいずれ必ず、俺の方が先に死ぬ訳だけど。……だから、ええと」
「おう」
「……その日までは、何があっても君と共に居ていいだろうか。ナハシュ」
「なんだ、出てく予定でもあったのか?」
「そういうわけではないんだけど」
「まあいいか! 好きにしろよ。お前は別にいてもいい」
ナハシュは愛も情も解らないが、ヨルは己だけしかいない世界に入ってきたもう一人のような人物なので、特に断る理由もない。ナハシュの言葉に、ヨルはぶるりと震えた。
「それよりあの串焼き美味かったな!」
「はー……。うん。いいね、もう一本買おうか」
●
「いつか帰ってくるだろう。シグモルに例があるのだから。供物は甘いものでお願いするのだ」
慌ただしく祭りの準備をしていたブラックデスのゴブリン達に一通り挨拶をして回った後、ストレガ・L・リベルガストラは微笑んだ。火の神ボルガニスクや迷宮神エドゥノーグなど、この大陸には時折神は姿を見せる。ならば、『ゴブリンの神』 となった彼だって、そのうち地上に顔を出すだろうと、ストレガはそう信じていた。
「聴衆よ、聞くがいい。帝都崩壊から三年半、この世界には色々なことがあった。私は全てとは言わないが、冒険者として多くを見てきた。世界を救った英雄の中には紛れもなく我らゴブリンもいたし、ゴブリンの神となった『名も無き小鬼』の果たした役割も大きい。故に語ろう。『ストレガ』は記録し、語り継ぐことが役割であるが故に――」
ストレガは祭りを盛り上がるための語り部としての役割を引き受けた。その手にはストレガがこれまでギルドに出してきた報告書の写しがある。全てを語るにはさすがに時間が足りなさ過ぎた為、ストレガは世界規模の事件や、名も無き小鬼に関連したエピソードに絞って聴衆に語り聞かせた。そして小さなゴブリンには、甘露アリの蜜で作った飴を与えた。
「そうそう、あの日私は多忙な彼の為にこの飴を作ったのだ」
●
「ブラックデスの顧問の任を任せてもらいたい。ここまでのゴブリン史を編纂し書を広めたいのだ。これからのゴールディが本当の意味で人類の一員として認められるためには、我らのことをもっと知ってもらう必要もあると思うのだ」
祭りの後、ストレガはブラックデスに正式に所属するため、サチコ達ブラックデス幹部にそう願い出た。
「頭のいいストレガさんなら、大歓迎だ。『表』のブラックデスには、あんたみたいなゴブリンが必要だ」
幹部達にも冒険者としてのこれまでのゴールディへの貢献が認められたストレガは、二つ返事でブラックデスの顧問の役職に任じられることとなった。
「『ストレガ』の引継は代々首領に報告し活動していたのだ。これからも所属に関係無く同胞と隣人の為に知識を提供するのだ」
とはいえ、肩書きを得たからといって、ストレガの生活が劇的に変化するわけではない。彼女はこれまで通り、同胞の隣人の未来の為に良き知識を広めていくだろう。記録するのが学舎と共に始祖より代々受け継がれてきた、『ストレガ』の使命なのだから。
「まずは『大脱出』の続き、彼が神の座に至るまでと、サチコ代行就任から故郷の発見までの記録を書こう。題目は『大脱出』にちなんで『帰還』とするのだ」
●
「ブラックデスの構成員……。ビッグオウムの世話係が気になりますけれど、特定の組織に入るつもりはないので応募は無しですね」
トーラはビッグオウムの厩舎のある方角を眺めながら、ぽつりと呟いた。
(ビッグオウムに乗れたら色んな所、それこそ大陸の外に何があるか冒険に出れるかもしれないのですけど……)
後ろ髪を引かれる思いを感じつつ、トーラはビッグオウムの厩舎から遠ざかっていく。
「はあ。無理なものは諦めてお祭りを楽しみましょうか」
トーラは気持ちを切り替え、ゴールディの祭りを楽しむことにした。そしてあちこちの露店で買い食いなどしていたトーラは、街の一画に人だかりができていることに気付いた。
「あれ、なんでしょう?」
トーラがそちらを見ると、見慣れた大きなオウムたちが人々に包囲され、トウモロコシやピーナッツなどを貪っていた。
「ビッグオウムと触れ合おう! 餌やり体験コーナーだぜ!」
『オウオウ! 俺達は雑食ダ! フルーツでも果物でも、なんでも持ってきナ!』(注:フルーツと果物は同じ食べ物です)
「せっかくなので、餌やりは体験しておきましょう!」
トーラはぴゅーっと走り、ビッグオウムの餌やりの列に並んだ。そしてトーラの順番が来ると、ビッグオウムの世話をしていたゴブリンがニカッと笑った。
「おう。アンタか」
「あれ、どこかでお会いしました?」
「おう。ギルドの依頼の輸送で何度もな。ま、アンタらはビッグオウムのジョッキーなんていちいち覚えちゃいないだろうが」
「すみません。ビッグオウムのジョッキーさんでしたか!」
トーラはぺこりと頭を下げた。
「せっかくだ。カゴの中じゃなく、背中の上に乗ってみるかい?」
「えっ。いいんですか?」
トーラは目を輝かせた。ビッグオウム便で移動する際、冒険者はビッグオウムのぶら下げた頑丈なカゴにぶら下げられて運ばれるのが常だ。オウムの背中に乗れるのは、ゴブリンのジョッキーだけなのだ。
「ああ。今日は祭りだからな。世界平和の功労者への俺からのプレゼントさ」
●
「いい眺めだろ?」
『アア、イイ眺めダ』(注:ビッグオウム)
「ええ、本当に綺麗な景色ですね」
ジョッキーはトーラを後ろにを乗せてシルバードの空を一周してくれた。トーラはその目に、シルバードと、その前に広がるサウゼル大樹海の景色を焼き付ける。極北に向かう前の思い出作りだ。
(家とお婆ちゃんにお手紙も出そうかな? いつか、こういったお祭りを楽しむ気持ちもなくなるかもしれませんけれど、楽しかった想い出があったことくらいは残しておいてもいいかな?)
●
「『人類の一員としてのゴブリンらしさ』をテーマとした祭りか……ならば俺も商業デビューを果たしたゴブリン画家として、この記念すべき祭りを絵画にし後世に残そうと思う」
ナハティガル=ラーはゴールディで祭りがあると聞き、はりきっていた。帝都決戦の少し前、ナハティガルが描いたケンタウロスの絵は画商に引き取られ、それなりの値段で売れた。つまり、ナハティガルは晴れて商業デビューしたゴブリンの画家だということになる。
「――ふむ、極彩色の力強い作品になるだろう」
ナハティガルはゴブリン達に頼み、七頭獣の大魔御輿の上に載せてもらった。御輿の上から見下ろすゴブリン達の喧騒は、生きていた時の大魔にも負けないくらい活力にあふれていた。
シャシャシャ! ナハティガルは木炭を縦横無尽に走らせ、様々な角度から巫女姿のサチコや、祭りの楽しむゴブリン達の姿を描きまくる。スケッチが終わった後は水彩絵の具で着色だ。
「うむ、エネルギッシュなゴブリンの姿が描けたぞ!」
ナハティガル画伯はさっそく感想を聞くため、あわよくば描いた絵をゴールディの美術館やブラックデスの邸宅に飾ってもらおうと、サチコの元へと走った。
「サチコ。俺が描いた絵を見てくれないか。アンタの感想を聞かせてほしい」
「はい。いいですよ」
「ありがとう。どうだ?」
サチコはナハティガルの絵をじいっと見た後、こう言った。
「これは……あの時の大魔でしょうか? この虹色の光線のようなものは大魔の恐ろしい光の剣……ですかね?」
(なぜだ……?)
巫女姿のサチコとシルバードのゴブリンを描いたはずなのに、なぜか大型クリーパーの絵と勘違いされてしまったナハティガルはショックで固まってしまった。
●
日が沈み、ゴブリン達が御輿を片付け始めたタイミングで、ナハティガルはもう一度サチコへと声をかけた。
「サチコ。俺は本当のところ、巫女ではなく、『名も無き小鬼』……いや、これからは『ゴブリンの神』と呼ぶべきなのだろうな。ともかく、遺児であるアンタに跡目を継いで欲しいと思っている。やはりその気はないのか?」
サチコの周りにはわずかな護衛がいるのみ。他のゴブリン達はみな作業に集中している。サチコは静かに首を横に振った。
「申し訳ありませんが、私は『名もなき小鬼』の跡目はやはり継げません。私はブラックデスの仕事よりも、ゴブリンの神のことを語り継ぐ者になりたいのです。『父』が、世界から忘れられてしまわないように」
「――そうか。ならば仕方ないな」
サチコの決意は固いようだ。ナハティガルは頷き、その場を後にした。
●
「こいつがまた、とんでもねー化け物だったんだ! ドラゴンだぜ、ドラゴン。おまけに首は七本もあって、世界の終わりみてーな凄えビームを降らせる魔法も使えてよ……一瞬で森が更地にされちまった」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは屋台の料理をぱくつきながら、シルバードのゴブリン達に『名も無き小鬼』の故郷発見の際の激しい戦いを人々に語り聞かせていた。あまりの戦闘規模に聴衆は最初半信半疑だったが、実際にそのクリーパーのバカでかい頭が街中をぐるぐる回っていたので、ゴブリン達もハヤトの話を信じざるを得なかった。
「わあ! すごい! お兄さん、凄く強いんだね!」
「ドラゴン倒したの! 凄い! ドラゴンスレイヤーだ! もっとお話し聞かせて!」
はしゃぐ幼いゴブリン達。いつの時代も、どこの国でも、どんな種族でも、怪獣退治の英雄は子供達の憧れなのだ。
「ああ、いいぜチビ共。しばらくはこっちにいるからよ。ブレイブファング傭兵団団長の武勇伝、好きなだけ聞かせてやるぜ!」
そして英雄に憧れるのは子供達だけではない。若い女性ゴブリンもたくさん寄ってきたが、ハヤトが果たして紳士だったのかは、あえてここでは触れずに置こう。
●
「サチコ。俺はヴァイオレットレオンから正式にガランの名を継ぐ者として認められた」
祭りが落ち着いた頃合いを見て、ハヤトはサチコに正式にガランの名を継いだ事を報告しに行った。
「そんでだ。これからも俺達はブラックデスの味方だ。荒事の際は傭兵団が優先して請負うし、ヴァイオレットレオンも表裏の仕事のフロント組織として使ってもらえねえか?」
ハヤトはサチコにそう提案した。ハヤトの目的は、自分の傭兵団の売込みと母方の実家でもあるマフィアファミリー、ヴァイオレットレオンのゴールディにおける地位確立である。
「ありがとうございます。ゴールディの危機の際は、ハヤトさんの傭兵団にすぐ声をかけさせていただきますね」
「おう!」
サチコはハヤトの申し出の一つを喜んでくれた。
「そして、ヴァイオレットレオンとの協力の方ですが」
「ああ」
「裏の仕事は任せたくないです」
「んあ?」
サチコの返答にハヤトは面食らった。まさか断られるとは思ってなかったのだ。
(まさか叔父貴がなんかやらかしたとかじゃねーよな……ブラックデス幹部の女を寝取ったとか……)
「……まだ、後ろ暗い仕事を任せるほどにはヴァイオレットレオンは信用されてねーってことか?」
ハヤトが怪訝そうな顔で問うと、サチコは首を横に振った。
「いえ、そうではなく。ハヤトさんや、冒険者の方の多くは表の世界で十分な功績を残されています。そういった方々を裏の世界に巻き込むことは気が引けます。ハヤトさんのような方々は、外国に見せる用の『綺麗なブラックデス』の方にご協力いただきたいのです」
(ようするにこれからのブラックデスは『カタギ』化を推進していく方向で行くってことか……)
サチコの腹を聞き、ハヤトは納得がいった。
「そうか。分かった。好意はありがたく受け取っとく。その代わり、表の世界の荒事なら、いつでも駆けつけるからよ。俺達はブラックデスの懐刀だとでも思ってくれや」
「ええ、ありがとうございます」
ハヤトの言葉にサチコはぺこりと頷いた。
●
「いやぁ~、本当に良かったぜ!」
冒険者達はシルバードを立ち去る前、酒場でささやかな宴会をしていた。何度も依頼を共にしたことの冒険者達にハヤトが声をかけたのだ。帝国奪還お疲れ様回、といったところか。
「「乾杯!」」
ジョッキを打ち合わせた冒険者達は、エール(アルマのみジュース)をぐいっと煽り、これまでの苦労を労いあったのだった。
「よし、入って来な!」
「失礼します」
小奇麗なダークスーツに身を包んだオゴスは扉をくぐると、部屋で待っていたブラックデスの幹部達に一礼した。幹部だけあり凶悪なツラ構えのゴブリン達が勢ぞろいしていたが、オゴスはそもそもブラックデスへの就職希望者だ。臆することはなかった。
(俺はトップ層の冒険者ではないので顔と名が充分売れているか若干疑問です。ですが、堂々と振舞いましょうか)
オゴスは勧められた椅子に座った後、面接官の様子をよく観察した。数は三名。雰囲気的に、真ん中にいる白髪まじりのゴブリンが一番偉いゴブリンだろう。向こうもマフィアの幹部らしく、黒で統一されたスーツを着ていた。
「ヘイ、ミスター。まずは名前を聞かせてもらおうか」
「オゴスです」
「……ほう。どこかで聞いたことある名前だな……オゴスさん。ここまでどうやって来た?」
「シルバードまではビッグオウム便で。ここまでは徒歩です」
オゴスは落ち着いた態度で、はきはきと答えた。
「ところであなた、いい匂いね。香水つけてるの?」
「はい。『ゴールディ・グリーン』を使ってます」
「なるほど、いいセンスだわ」
オゴスが答えると、左の席に座っていたゴブリナが微笑んだ。
(死と隣り合わせの戦場とはまた別の緊張感がありますね……)
歴戦の授恵者とはいえ、オゴスも人の子である。就職面接で全く緊張しないほど、図太くはなかった。
「オゴスさんの特技を教えてくれ」
「シーフの特性のおかげで機動力と索敵能力に優れております。好きな得物は暗針と魔導書。シーフの動きと魔法の射程が合わさると何かと便利な局面が多かったですよ」
「ふむ。魔導書か……言っちゃあ悪いが、顔に似合わず知性派なんだな」
「はい。よく言われます。見ての通り、ホブゴブリンですからね」
オゴスは特に腹を立てることもなく答えた。自分の顔がごろつきっぽいのは百も承知だ。
「アンタなら、腕っぷしの方は問題ねえだろう。それじゃあ、あんたの希望するポストを聞かせてもらおうか」
「はい。希望するポストはゴールディの治安要員か、他国との交渉役です」
「ほぉ……治安要員は分かるが、交渉役ってのはなんでだ?」
真ん中の壮年ゴブリンが問うと、場の空気が張り詰めていくのを感じた。
「俺はいかにも荒っぽいホブゴブリンの容姿ですが、そんな俺が外交用の上等なスーツを着て理路整然とした言葉を扱うことで、人類文明の一員としてのゴブリンというインパクトを他国に強く与えられるかと」
「なるほどなぁ……。お前さんは頭の回転も速そうだ。他国との交渉役……外交官としてぜひウチで働いてくれ」
壮年のゴブリンはニカッと歯を見せて笑った。
「ありがとうございます!」
●
「さあ、らっしゃいらっしゃい! 『ゴブリンの神』が愛したお菓子、その名も『ドン菓子』だぜ!」
ギャメルはシルバードで屋台を出す下準備として、冒険者ギルドの記録から、『名も無き小鬼』(ゴブリンの神)の情報を調べてきた。
(名も無き小鬼のことは相変わらず思い出せねえが……その嗜好についてはいくつか調べがついたぜ)
ギャメルの再調査の結果、かつて『名も無き小鬼』は甘露蟻蜜を使った冒険者作の様々なデザートを試食したことがあったらしい。それ以外にも、名も無き小鬼が甘味も愛したという記録はいくつも残されており、彼が甘党だったことは間違いないようだ。ギャメルは深めのフライパンに油を引き、麦の粒を加熱していく。やがて麦はポンポンと派手な音を立てて弾け、膨らみ始めた。ポンポン、という弾ける音が鳴り止んだら完成だ。これはかつて、ギャメルが『名も無き小鬼』のイメージアップの為に作った菓子だ。その菓子には名も無き小鬼は直接関与はしていなかったため、ギャメルの記憶も鮮明に残っていた。
「ドン菓子、ドン菓子はいらんかねー!」
ゴブリンの顔のマークとゴールディの文字が墨書されている看板を店の前に出し、ギャメルは大きく声を張り上げる。ギャメルが用意した麦の菓子の味付けは全部で三種類。甘露蜜絡め、ゴールディ産のチョコパウダー、そして塩味だ。ギャメルはゴールディで商売する権利も持っていたので、ブラックデスはギャメルの露店にはそれなりに手厚い支援もしてくれた。
「ふう、もうじき日が沈む。けっこう売れたな……」
ギャメルは露店でドン菓子を売り捌きつつ、将来のことを考える。
(ヒールで怪我を、医療知識で病気を癒す診療所を開こうかな。妹の薬もここで売れたら、あいつも喜ぶだろうし……)
「オレの一番の願いはゴールディの衛生環境の向上だ。命を落とす弱い命を減らすことだぜ」
ゴブリン族の将来を案じるギャメルのことはきっと、ゴブリンの神も優しく見守ってくれるだろう。
●
「大きな戦いも終わって、どこもお祭りですね。これから大変なので景気づけの意味もありそうですけど」
ヴィルヘルミナは喧騒に酔いしれるシルバードのゴブリン達を眺めながら、ぽつりと呟いた。今日のヴィルヘルミナはオフだ。参加者として、シルバードの祭りを楽しむつもりでいる。
「これはチョコバナナというのですか……シンプルながら、なかなか美味しいですね。バナナが新鮮だからでしょうか」
「おう。気に入ったか? 好きなだけ食っていきな! お代はもらうがな、がはは」
「シルバーアクセサリーもありますね。髑髏など、禍々しいデザインが多いのはマフィアの総本山だからでしょうか」
ヴィルヘルミナはお菓子を買い食いしたり、金属製アクセサリーの露店を物色しながら、シルバードを練り歩いた。そうこうしているうちに、巨大なクリーパーの御輿を引き連れ、オウムのようにド派手な衣装を着たサチコが雑踏の奥から出てきた。
「あれがパレードですか。サチコの衣装も少し派手ですが綺麗ですね」
ヴィルヘルミナはサチコのパレードに目を奪われた。よくよく見ると、着ぐるみを着た笛吹き着ぐるみ男や、なんとなく見覚えのあるエルフの巫女、そして御輿の上で宙がえりをする半裸のナハシュなど、見知った顔も行列に混じっていた。
(大魔はこうしてみると、あの死闘から結構経ったのだと感じます。過ぎ去ってみれば早く感じますね)
自分達が倒したクリーパーが有効に活用されているのを見て、ヴィルヘルミナは頬を綻ばせた。あの調子なら、あの大型クリーパーの亡骸は移り変わる時代の流れと共に、これから永きにわたってシルバードで愛されていくのかもしれない。
「ヒト種族のなかでは種として一番大きな変化があった気がするゴブリンですが、これからどうなっていくでしょうね」
●
「夢が叶ったな。おめでとう、サチコ」
レピド・クロサイトは巫女装束で着飾ったサチコに祝辞を述べた。巫女装束とは言うが、サチコの衣装は極彩色のかなり派手なものだった。
「ありがとうございます」
「ところでずいぶんとカラフルな衣装だな」
「はい。『全部の色を混ぜると黒になる』という、名も無き小鬼の残した言葉を参考にして作られた衣装なので」
「なるほど、ブラックデス由来なんだな」
サチコの言葉に、レピドは感心した。
「ところで今、サチコはどのような気持ちだ?」
レピドが尋ねるとサチコは一瞬考え、
「とりあえず、嬉しいです。やることはたくさんありますが」
と答えた。表情は普段と同じぼうっとした感じのままだが、心なしか声は弾んでいるように聞こえた。
「そうか。……最近俺にもぼんやり『夢』のようなものが出来てな。だから、夢を実際に叶えた者の感想が気になった、それだけだ」
「そうですか。あなたの夢も叶うといいですね」
「ああ、ありがとう」
レピドの夢……それは人間時代の自分のような孤児が裏社会に落ちることを防ぎたい、というものだった。具体的なアイデアについては現在は考え中だ。
(俺が誰かに教えられる技術といえば、とりあえずシーフの技術が思いつくが。それだとあの男になってしまう……)
レピドは一瞬視界に某変態仮面の笑顔が浮かんだので、ぶんぶんと首を横に振った。
●
ぴーひゃらぴー。ぴーひゃらぴー。ぱっぱらぱー!
レピドは愛猫を模した着ぐるみ『丸ごとショウガ』を着込み、フルート担当としてサチコのパレードに参加していた。
「なんかずいぶんでけえ猫がいるな」
「ずいぶん凝った衣装だなあ。スゲエ」
ただし、その衣装はキジトラの着ぐるみだった。レピド愛用のコスプレ衣装『まるごとショウガ』だ。これを着ることで愛猫と一体化した気分になれるという優れものである。のちにレピドは語る。
「お祭りなら着ぐるみでもOKだと思った、反省はしていない」
「にゃーにゃーにゃー!」
「……ん? ショウガも歌ってるのか?」
レピドの頭の上に乗ったショウガ(本人)もとても楽しそうだ。ショウガはレピドから落下しないようにしっかり爪を立てていたが、着ぐるみが分厚いので、レピドはノーダメージだった。
●
「よーし! 今日は遊ぶぞ! いろいろなアレがこうなって帝国のお代官サマやることになったから、なかなかゴールディのほうにも来れなくなるだろうし?」
帝国の代官としての転職が決まったアルマ・ヴァレンタインは、忙しくなる前に遊んでおこうと、ゴールディのお祭りにやってきていた。お祭りだけあり、シルバードはかつてないほどの賑わいを見せている。地味にありがたいことに、ゴブリンは平均身長がさほど高くないため、背の低いアルマもぴょんぴょん跳ねずとも遠くまで景色が見渡せる。
「あ、このチョコレートのお菓子おいしそう。ねえ、中に何入ってるの?」
「おう。嬢ちゃん。スゲエだろ。去年、伝手でエドゥノーグ産のチョコが格安で手に入ったんだ。ドロドロに溶かしたチョコを樹海で獲れたバナナに突っ込めば、チョコバナナの出来上がりよ!」
「へえー。家で作るのも簡単そう! いただきます! あ、おいしい!」
「あ、ギャメルだ。ねえ、これなんて名前のお菓子?」
「おう! こいつは『ドン菓子』って言うんだ! 麦の粒を炒って膨らませるんだぜ!」
「ポンポン鳴るのが楽しい! 後で作り方教えてよ!」
「ああ、いいぜ! 帝国に移住したゴブリン達にも食わせてやってくれよな!」
アルマは露店の屋台をひたすら食べ歩き、超人的な味覚でそれを記憶していく。「帝国に移住したゴブリンに食べさせてあげたいから」と理由を説明すると、ほとんどのゴブリンはもったいぶらずにレシピも教えてくれた。帝国にはゴブリンの移民もたくさんいる。覚えたレシピを帝国のゴブリン達に披露すれば、故郷の味としてきっと喜ばれるだろう。
「今日覚えた料理をゴブリン住民さんとかにお出ししたらハートキャッチ! できちゃうかも? 掴むのがハートじゃなく胃袋になるかもだけどまあそれはそれでヨシ! かなあ」
アルマは領民想いの強かな代官になれそうだ。
●
「ケジメをつける良い機会、なのかしらね」
リューイ=ヴァレンゴルトと共に依頼書を見ていたユニス・ソロアーヌ・アクエリリーアはぽつりと言うと、リューイは怪訝そうな顔をした。
「? 何かやりたいことがあるのか? ユニス」
「ええ。巫女としてパレードに参加したいの。リューイも一緒に来てくれる?」
ユニスが蠱惑的な仕草で片眼をパチンと瞑ると、リューイは一瞬固まった後、頷いた。
「巫女? ああ。俺もシルバードの祭りには顔を出すつもりだったから構わないが」
(巫女装束のユニスか……楽しみだな)
リューイは胸の高鳴りを隠せなかった。
「きれいだな」
ゴブリンの神の巫女としてサチコに付き従って歩くユニスの姿を少し離れたところから眺めていたリューイは、ほう、息を漏らした。ユニスはサチコの着ている衣装の簡易版の極彩色の派手な衣装を見事に着こなしていた。極めて個人的な感想ではあるが、凹凸の少ないサチコよりも、グラマラスなエルフであるユニスの方が綺麗だとさえ思う。もちろん、大魔の遺骨の御輿や、楽団なども随伴するパレード自体も十分に美しいのだが、リューイの視線はユニスに釘付けになっていた。
「ケジメ、か」
リューイはふと、出かける前にユニスが言っていた言葉を思い出した。リューイはゴブリンロードとしてこの世に生を受けたが、ゴールディで過ごした日々は決して輝かしいものではなかった。授恵者として目覚め、冒険者として活動するようになってからも、そのことにはずっと負い目を感じていた。
「こんな晴れやかな気持ちで、シルバードで過ごせるなんてな」
(エルフにしては肉感的らしい私は、巫女の装束に負けていないようで良かったわ)
サチコのすぐ後ろを歩きながら、ユニスは思う。
(私は私の意思で、ゴブリンに近づいたの)
かつて、ユニスには婚約者がいた。しかし、将来を誓った幼馴染は死んでしまった。
「あなたのことは忘れはしない。でも、私はゴブリンであるリューイとのこれからを選ぶわ……ごめんなさい」
パレードの途中、ゴブリンの神の像の前で、ユニスは自分の心の中にいる幼馴染に今の自分の決意をはっきりと告げた。
「あ、リューイだわ」
パレードの更新中、観衆に混じって遠巻きにこちらを見ているリューイが目に入り、ユニスは軽く手を振った。
(素直に嬉しそうな彼を見て、私も楽しくなるわね)
(俺も、もう自分を許してもいい頃合いか)
リューイは笑顔でユニスへと手を振り返し、街を更新するゴブリンの神の巫女達の行列についていく。
(あなたについていきたい)
リューイはそう言ってくれたユニスとのこれからに思いを馳せながら、この祝祭の明るく楽しい空気に浸ることにした。
「彼女がパレードで疲れてしまったなら、後でしっかり労おう」とも思いながら。
●
「うめえ! ドン菓子うめえ!」
「ナハシュ、あっちに焼きもろこしもあったよ」
「お、それも美味そうだな! これ食い終わったら行こうぜヨル!」
ナハシュとヨル・スレイマンは二人でシルバードの祭りに遊びに来ていた。サチコが巫女になり、以前やっつけた大魔もなんか御輿になったと聞いた二人がシルバードからの招待状を蹴る理由は何もなかったのだ。
「うおおお! 本当に馬車に改造されてやがる! かっけー! 俺も頭1個貰えばよかった!」
七頭獣の大魔の御輿目当てに遊びに来たナハシュは、大魔の骨でデコられた馬車(御輿)を見て、感動を隠せなかった。
「一番新しい神の巫女か。神からは遠い地だと思っていたけど、うん。様になっている」
「あーそういや巫女になるとかなんか言ってたっけ。だからスーツ着てねえのか」
「あ、あそこにキジトラマン(レピド)もいるね」
「おお、本当だ。あの格好ぬくそうだな……」
御輿や楽団を引き連れ、極彩色の巫女装束を着てゆっくりと街の真ん中を歩くサチコは、なかなか堂に入った巫女だった。ヨルはサチコの巫女姿を見て目を細めている。
「ナハシュ。冒険者を縛っていた盟約はもう消えたけど、"綺麗な側のブラックデス"じゃ君の就職先にはならなさそうだね」
「そうだな。お綺麗な方は色々煩ぇだろうしな」
「でも巫女もいいよ。きっと君は似合うだろう間違いない」
ヨルは熱っぽい目でナハシュの方を見た。そしてヨルはシグモルの黒い法衣がどうのこうの、シャルガネの巫女は白と赤のコントラストがどうのこうのと、巫女装束の浪漫について、熱心にナハシュに力説し始めた。だが、ナハシュはすぐ飽きたので生あくびをした後、さっさと御輿の方に走っていってしまった。
「着ねえ、ならねえ、興味ねえ。じゃあな!」
(ナハシュ、いつか君も巫女装束を着てくれると信じている。いっそ生徒会選挙の公約にすればよかっただろうか……いや、何を考えてるんだ、俺は)
ヨルは巫女装束姿のナハシュと一緒にパンクリアース学園に登校する姿を幻視し、空を見上げた。
「これに乗るために来たんだよ! ひゅーーー!!!」
ナハシュは七頭獣の大魔の上に仁王立ちし、ご満悦だった。
「ナハシュさん! 危ないので宙返りはご遠慮ください!」
「やべっ! 怒られた!」
テンションが上がり過ぎたナハシュはついはしゃいでしまい、マフィアに怒られた。
●
日が沈み、宿屋に向かう途中、ヨルはふと立ち止まった。
「ヨル、どうした?」
(節目の時だからナハシュにはちゃんと想いを伝えておきたい)
ヨルはナハシュをまっすぐに見つめた。
「君はいつか超越者になるだろ。だからいずれ必ず、俺の方が先に死ぬ訳だけど。……だから、ええと」
「おう」
「……その日までは、何があっても君と共に居ていいだろうか。ナハシュ」
「なんだ、出てく予定でもあったのか?」
「そういうわけではないんだけど」
「まあいいか! 好きにしろよ。お前は別にいてもいい」
ナハシュは愛も情も解らないが、ヨルは己だけしかいない世界に入ってきたもう一人のような人物なので、特に断る理由もない。ナハシュの言葉に、ヨルはぶるりと震えた。
「それよりあの串焼き美味かったな!」
「はー……。うん。いいね、もう一本買おうか」
●
「いつか帰ってくるだろう。シグモルに例があるのだから。供物は甘いものでお願いするのだ」
慌ただしく祭りの準備をしていたブラックデスのゴブリン達に一通り挨拶をして回った後、ストレガ・L・リベルガストラは微笑んだ。火の神ボルガニスクや迷宮神エドゥノーグなど、この大陸には時折神は姿を見せる。ならば、『ゴブリンの神』 となった彼だって、そのうち地上に顔を出すだろうと、ストレガはそう信じていた。
「聴衆よ、聞くがいい。帝都崩壊から三年半、この世界には色々なことがあった。私は全てとは言わないが、冒険者として多くを見てきた。世界を救った英雄の中には紛れもなく我らゴブリンもいたし、ゴブリンの神となった『名も無き小鬼』の果たした役割も大きい。故に語ろう。『ストレガ』は記録し、語り継ぐことが役割であるが故に――」
ストレガは祭りを盛り上がるための語り部としての役割を引き受けた。その手にはストレガがこれまでギルドに出してきた報告書の写しがある。全てを語るにはさすがに時間が足りなさ過ぎた為、ストレガは世界規模の事件や、名も無き小鬼に関連したエピソードに絞って聴衆に語り聞かせた。そして小さなゴブリンには、甘露アリの蜜で作った飴を与えた。
「そうそう、あの日私は多忙な彼の為にこの飴を作ったのだ」
●
「ブラックデスの顧問の任を任せてもらいたい。ここまでのゴブリン史を編纂し書を広めたいのだ。これからのゴールディが本当の意味で人類の一員として認められるためには、我らのことをもっと知ってもらう必要もあると思うのだ」
祭りの後、ストレガはブラックデスに正式に所属するため、サチコ達ブラックデス幹部にそう願い出た。
「頭のいいストレガさんなら、大歓迎だ。『表』のブラックデスには、あんたみたいなゴブリンが必要だ」
幹部達にも冒険者としてのこれまでのゴールディへの貢献が認められたストレガは、二つ返事でブラックデスの顧問の役職に任じられることとなった。
「『ストレガ』の引継は代々首領に報告し活動していたのだ。これからも所属に関係無く同胞と隣人の為に知識を提供するのだ」
とはいえ、肩書きを得たからといって、ストレガの生活が劇的に変化するわけではない。彼女はこれまで通り、同胞の隣人の未来の為に良き知識を広めていくだろう。記録するのが学舎と共に始祖より代々受け継がれてきた、『ストレガ』の使命なのだから。
「まずは『大脱出』の続き、彼が神の座に至るまでと、サチコ代行就任から故郷の発見までの記録を書こう。題目は『大脱出』にちなんで『帰還』とするのだ」
●
「ブラックデスの構成員……。ビッグオウムの世話係が気になりますけれど、特定の組織に入るつもりはないので応募は無しですね」
トーラはビッグオウムの厩舎のある方角を眺めながら、ぽつりと呟いた。
(ビッグオウムに乗れたら色んな所、それこそ大陸の外に何があるか冒険に出れるかもしれないのですけど……)
後ろ髪を引かれる思いを感じつつ、トーラはビッグオウムの厩舎から遠ざかっていく。
「はあ。無理なものは諦めてお祭りを楽しみましょうか」
トーラは気持ちを切り替え、ゴールディの祭りを楽しむことにした。そしてあちこちの露店で買い食いなどしていたトーラは、街の一画に人だかりができていることに気付いた。
「あれ、なんでしょう?」
トーラがそちらを見ると、見慣れた大きなオウムたちが人々に包囲され、トウモロコシやピーナッツなどを貪っていた。
「ビッグオウムと触れ合おう! 餌やり体験コーナーだぜ!」
『オウオウ! 俺達は雑食ダ! フルーツでも果物でも、なんでも持ってきナ!』(注:フルーツと果物は同じ食べ物です)
「せっかくなので、餌やりは体験しておきましょう!」
トーラはぴゅーっと走り、ビッグオウムの餌やりの列に並んだ。そしてトーラの順番が来ると、ビッグオウムの世話をしていたゴブリンがニカッと笑った。
「おう。アンタか」
「あれ、どこかでお会いしました?」
「おう。ギルドの依頼の輸送で何度もな。ま、アンタらはビッグオウムのジョッキーなんていちいち覚えちゃいないだろうが」
「すみません。ビッグオウムのジョッキーさんでしたか!」
トーラはぺこりと頭を下げた。
「せっかくだ。カゴの中じゃなく、背中の上に乗ってみるかい?」
「えっ。いいんですか?」
トーラは目を輝かせた。ビッグオウム便で移動する際、冒険者はビッグオウムのぶら下げた頑丈なカゴにぶら下げられて運ばれるのが常だ。オウムの背中に乗れるのは、ゴブリンのジョッキーだけなのだ。
「ああ。今日は祭りだからな。世界平和の功労者への俺からのプレゼントさ」
●
「いい眺めだろ?」
『アア、イイ眺めダ』(注:ビッグオウム)
「ええ、本当に綺麗な景色ですね」
ジョッキーはトーラを後ろにを乗せてシルバードの空を一周してくれた。トーラはその目に、シルバードと、その前に広がるサウゼル大樹海の景色を焼き付ける。極北に向かう前の思い出作りだ。
(家とお婆ちゃんにお手紙も出そうかな? いつか、こういったお祭りを楽しむ気持ちもなくなるかもしれませんけれど、楽しかった想い出があったことくらいは残しておいてもいいかな?)
●
「『人類の一員としてのゴブリンらしさ』をテーマとした祭りか……ならば俺も商業デビューを果たしたゴブリン画家として、この記念すべき祭りを絵画にし後世に残そうと思う」
ナハティガル=ラーはゴールディで祭りがあると聞き、はりきっていた。帝都決戦の少し前、ナハティガルが描いたケンタウロスの絵は画商に引き取られ、それなりの値段で売れた。つまり、ナハティガルは晴れて商業デビューしたゴブリンの画家だということになる。
「――ふむ、極彩色の力強い作品になるだろう」
ナハティガルはゴブリン達に頼み、七頭獣の大魔御輿の上に載せてもらった。御輿の上から見下ろすゴブリン達の喧騒は、生きていた時の大魔にも負けないくらい活力にあふれていた。
シャシャシャ! ナハティガルは木炭を縦横無尽に走らせ、様々な角度から巫女姿のサチコや、祭りの楽しむゴブリン達の姿を描きまくる。スケッチが終わった後は水彩絵の具で着色だ。
「うむ、エネルギッシュなゴブリンの姿が描けたぞ!」
ナハティガル画伯はさっそく感想を聞くため、あわよくば描いた絵をゴールディの美術館やブラックデスの邸宅に飾ってもらおうと、サチコの元へと走った。
「サチコ。俺が描いた絵を見てくれないか。アンタの感想を聞かせてほしい」
「はい。いいですよ」
「ありがとう。どうだ?」
サチコはナハティガルの絵をじいっと見た後、こう言った。
「これは……あの時の大魔でしょうか? この虹色の光線のようなものは大魔の恐ろしい光の剣……ですかね?」
(なぜだ……?)
巫女姿のサチコとシルバードのゴブリンを描いたはずなのに、なぜか大型クリーパーの絵と勘違いされてしまったナハティガルはショックで固まってしまった。
●
日が沈み、ゴブリン達が御輿を片付け始めたタイミングで、ナハティガルはもう一度サチコへと声をかけた。
「サチコ。俺は本当のところ、巫女ではなく、『名も無き小鬼』……いや、これからは『ゴブリンの神』と呼ぶべきなのだろうな。ともかく、遺児であるアンタに跡目を継いで欲しいと思っている。やはりその気はないのか?」
サチコの周りにはわずかな護衛がいるのみ。他のゴブリン達はみな作業に集中している。サチコは静かに首を横に振った。
「申し訳ありませんが、私は『名もなき小鬼』の跡目はやはり継げません。私はブラックデスの仕事よりも、ゴブリンの神のことを語り継ぐ者になりたいのです。『父』が、世界から忘れられてしまわないように」
「――そうか。ならば仕方ないな」
サチコの決意は固いようだ。ナハティガルは頷き、その場を後にした。
●
「こいつがまた、とんでもねー化け物だったんだ! ドラゴンだぜ、ドラゴン。おまけに首は七本もあって、世界の終わりみてーな凄えビームを降らせる魔法も使えてよ……一瞬で森が更地にされちまった」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは屋台の料理をぱくつきながら、シルバードのゴブリン達に『名も無き小鬼』の故郷発見の際の激しい戦いを人々に語り聞かせていた。あまりの戦闘規模に聴衆は最初半信半疑だったが、実際にそのクリーパーのバカでかい頭が街中をぐるぐる回っていたので、ゴブリン達もハヤトの話を信じざるを得なかった。
「わあ! すごい! お兄さん、凄く強いんだね!」
「ドラゴン倒したの! 凄い! ドラゴンスレイヤーだ! もっとお話し聞かせて!」
はしゃぐ幼いゴブリン達。いつの時代も、どこの国でも、どんな種族でも、怪獣退治の英雄は子供達の憧れなのだ。
「ああ、いいぜチビ共。しばらくはこっちにいるからよ。ブレイブファング傭兵団団長の武勇伝、好きなだけ聞かせてやるぜ!」
そして英雄に憧れるのは子供達だけではない。若い女性ゴブリンもたくさん寄ってきたが、ハヤトが果たして紳士だったのかは、あえてここでは触れずに置こう。
●
「サチコ。俺はヴァイオレットレオンから正式にガランの名を継ぐ者として認められた」
祭りが落ち着いた頃合いを見て、ハヤトはサチコに正式にガランの名を継いだ事を報告しに行った。
「そんでだ。これからも俺達はブラックデスの味方だ。荒事の際は傭兵団が優先して請負うし、ヴァイオレットレオンも表裏の仕事のフロント組織として使ってもらえねえか?」
ハヤトはサチコにそう提案した。ハヤトの目的は、自分の傭兵団の売込みと母方の実家でもあるマフィアファミリー、ヴァイオレットレオンのゴールディにおける地位確立である。
「ありがとうございます。ゴールディの危機の際は、ハヤトさんの傭兵団にすぐ声をかけさせていただきますね」
「おう!」
サチコはハヤトの申し出の一つを喜んでくれた。
「そして、ヴァイオレットレオンとの協力の方ですが」
「ああ」
「裏の仕事は任せたくないです」
「んあ?」
サチコの返答にハヤトは面食らった。まさか断られるとは思ってなかったのだ。
(まさか叔父貴がなんかやらかしたとかじゃねーよな……ブラックデス幹部の女を寝取ったとか……)
「……まだ、後ろ暗い仕事を任せるほどにはヴァイオレットレオンは信用されてねーってことか?」
ハヤトが怪訝そうな顔で問うと、サチコは首を横に振った。
「いえ、そうではなく。ハヤトさんや、冒険者の方の多くは表の世界で十分な功績を残されています。そういった方々を裏の世界に巻き込むことは気が引けます。ハヤトさんのような方々は、外国に見せる用の『綺麗なブラックデス』の方にご協力いただきたいのです」
(ようするにこれからのブラックデスは『カタギ』化を推進していく方向で行くってことか……)
サチコの腹を聞き、ハヤトは納得がいった。
「そうか。分かった。好意はありがたく受け取っとく。その代わり、表の世界の荒事なら、いつでも駆けつけるからよ。俺達はブラックデスの懐刀だとでも思ってくれや」
「ええ、ありがとうございます」
ハヤトの言葉にサチコはぺこりと頷いた。
●
「いやぁ~、本当に良かったぜ!」
冒険者達はシルバードを立ち去る前、酒場でささやかな宴会をしていた。何度も依頼を共にしたことの冒険者達にハヤトが声をかけたのだ。帝国奪還お疲れ様回、といったところか。
「「乾杯!」」
ジョッキを打ち合わせた冒険者達は、エール(アルマのみジュース)をぐいっと煽り、これまでの苦労を労いあったのだった。
マスターコメント
お祭りを満喫できましたでしょうか。ブラックデスへの就職が決まった方はおめでとうございます。お疲れ様でした!
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない13 / 4〜25人
2024年02月16日 10時16分00秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ヒーラーのギャメルだぜ! よろしくな、楽しもうぜ! オレは甘いものの露店を開こうかな。 名もなき小鬼との思い出は消失しちまってるけど、たしか冒険者ギルドの記録を見返すことは可能なんだよな。 そういった資料から名もなき小鬼と縁ある食べものを出すつもり!
ナハシュだ!よろしく。 七頭獣の大魔に乗れるんだろ!!のってくらぁ!!!
ヨル・スレイマン。 ゴールディでも本格的に神が祀られるようになるとは感慨深いね。 今日はお祭りを楽しんでくる予定。宜しくね。
......(出発は今夜23時となります。プレイングの送り忘れにはご注意下さい)
(コイツ直接脳内に‥‥‥)