【学進】『仲良し屋台』と賑やか学園祭

白葉うづき

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シナリオID:3444

オープニング

●命名、『仲良し屋台』
 帝都奪還作戦が人類の勝利で終わり、冬期休暇も明けた後、パンクリアース学園にも生徒たちの多くが戻ってきた。戦勝の余韻に浸りながら日常が再び訪れようとしている。延期になっていた学園祭が開かれるのも、生徒たちの歓喜をさらに大きなものにした。
 そして今回の戦争では、身分も種族も関係なく全人類が協力したからこその勝利ということが知れ渡っている。必然的に学園内に漂っていた派閥関係も、その壁を薄いものにしていた。

「屋台……それも、通常と多文化クラスの生徒を混ぜたグループで運営する?」
「うん」
 多文化クラスに属するアルド・シャウアーは、同じ一学年である通常クラスの入る教室を訪れていた。突然の提案にざわめく中、クラスでもひときわ影響力のありそうな貴族の青年がアルドを鋭く見つめている。
「多文化クラスで二十人協力を取り付けてるんだ。皆、通常クラスの皆と一緒に屋台が出来ればな、って思ってる」
「平民と俺たちが協力するなんて」
「そもそも学園祭は有志で出し物するのが主である。わざわざ俺たちが協力する理由は? メリットは?」
 賑やかな学園祭も、そのほとんどはクラブや有志が主導することで出し物を行っている。やるとなれば時間も準備も必要だ、それをするだけの価値があるのかと、青年は問うていた。
「お互いを知ることで、有事の時にも、協力して事に当たれるように、なる。同じ時間を過ごすことが、お互いを知る第一歩になるし、初めてのことだらけだからこそ、力を合わせられると思うんだ」
 対するアルドも続ける。少しずつでも、彼らと自分を隔てる溝がなくなればいい。そもそもそれを感じること自体、自分でも歩み寄れていないのだ。それを知っているから、どんなに気後れしても退かない。
「僕、もっとあなたたちのことが知りたいんだ。皆も同じ気持ちで、だからいい機会だと思ってる。どうか、お願いします!」
「何を甘いことを」
「遊ぶために学園へ来たの?」
 通常クラスの面々は肩を竦め、ため息を吐く。失敗してしまったのかな、そうアルドは尻尾を下げたが。
「――で。出す屋台は決まっているのか?」
「え?」
 続いたのは肯定的な言葉。驚くアルドに青年、レパシュ・ラフォンは頷く。
「勘違いしないでほしい。ただ、何も知らないまま批判し毛嫌いするのも、やってみない内に否定するのも愚だ。中には受け入れられない者もいるだろうが、積極的に組み込もう。当日来なかったらそれはそれ、最低限回るようにはする。それでいいな?」
「うん!」
「勝手に決めるのか! 横暴な!」
「全員とは言っていない。興味のある者だけ参加すればいい、勝手にな。強制参加とは言っていないし、最低俺と彼らだけでもやる。――いい加減現実を見ろ、世界は変わってきている。置いてかれるならそこにいろ」
 レパシュがそう言うと、貴族だろう青年は黙ってしまう。
「で、屋台を総称する名前は考えてあるか?」
「え! ……ええと」
 急に矛先を向けられたアルドは、唸った末に答えた。
「な、……『仲良し屋台』、なんて、どう……かな」
「いいだろう。では仔細を詰めようか」

「僕もやろうかな……」
「レパシュ様が協力されるなら……それに、平民の暮らしにも興味がありますわ」
 少しずつ通常クラスの人々が賛同を決める中。眉をひそめてその光景を見ていた生徒がいた。

●学園祭を楽しもう!
「ありえませんわ、平民たちと屋台なんて」
「敵相手に共闘するならまだしも、普段の生活までと言われると……」
「放っておきましょう。ここの紅茶やお菓子に敵うこともないのだから。あんなに走り回って、どうして必死になれるのかわからないわ」
 アンジェル・ランターニュは学園のカフェテラスで優雅に紅茶を飲む。本当に理解が出来なかった。あんなに冷たくして、あしらって、それでも希望をもって話しかけてくる。
「誰にでも声をかけて、親切のつもりかしら。子犬のくせに生意気」
「アンジェル様?」
「何でもないわ」
 少女は微笑む。
「きっと上手くいかないし、また学園は昔のように戻ります。それまでの辛抱よ」

「人がいっぱいですね、神父。王都はどこもこんな感じなんでしょうか」
「ええ、とても賑やかです。人込みに流されないように気を付けて、ピオ」
 メルチス・アダラードとヒューマンの少年は学園祭に賑わうパンクリアースに来ていた。ピオは次期の学園入学を目指しており、今日は家族であるアルドの様子を見にと、学園の見学がてら保護者であるメルチスと訪れている。周りには同い年くらいの少年少女もいた。皆、学園に入ることを楽しみに来ているのだろう。ピオも胸が弾む。初めて来る場所、学びを受けられる校舎、これだけ同年代に会うこともない。すべてがきらきらして見えた。
「アルド兄、どんな屋台をやるんでしょうか」
「食べ物の屋台をすると書いてありましたね。それも、貴族など身分のある子たちとやると……上手くやっているでしょうか、いえアルドならと思いますが」
「神父、落ち着いて。大丈夫ですよ」
 繋いでいた手を引き、声をかける。メルチスも微笑んだ。
「そうですね。私たちも応援しなくては!」
「はい!」

 『仲良し屋台』は順調に準備が進んでいた。校舎の一角にスペースをもらい、協力して屋台を立て、食事用のテーブルや椅子も周りに用意してある。ここまで来るのに本当に時間がかかった。貴族の子たちは予算や売り上げのこともあまり考えない提案が多かったし、商家の子はむしろそのことばかり気にしていたし、料理も出来る方が少ない。平民の子たちが出来ることでカバーする形だが、まだまだ遠慮していた。その調整にアルドは奔走し、協力してここまでこぎつけたのだ。
「レパシュ、それは……?」
「何だ、ちゃんと決めただろう。ここでは羊肉のシチューを作ると」
「そうだね、うん」
 アルドはレパシュの手元を見る。シチューに入れるべき野菜がごろごろと転がっていた。とてもワイルドな大きさだ。
「小さい子も来るし、もう少し小さめに切ってもいいと思うな」
「なるほど。ああ、金銭のやり取りもやるからな、任せてくれ」
「うん……あ、僕も横にいるから!」
 レパシュのサポートをしつつ、アルドは周りの屋台も少しだけ見て回る。本当に最低限の人数で回している状態だし、ギリギリだけど、ハプニングが起こらなければなんとかやっていけるだろう。起こったら、頑張る。
「そういえばアルド。立候補をすると聞いた、演説に行かなくて平気か」
 今年は学園祭と体育祭、そして選挙シーズンも一気に到来している。必然的に今日も人の集まる場所で演説が行われる予定らしいが、アルドは首を振る。
「僕が発案したことは最後までやりたいんだ。それに……皆を利用するみたいで、嫌だから」
 皆を働かせておいて自分だけ、なんて絶対にごめんだ。
「甘いな」
「大事なの!」
 少し膨れて見せると、レパシュは笑う。この数日で本当に親しくなれたとアルドは感じていた。それからあの子のことを思い出した。去年会ってから、まともにお話も出来ていない貴族の子、アンジェル。あの後何度も訪ねて声をかけたが、結局一度も来てくれなかった。
「せめて、ご飯を食べに来てくれたら嬉しいな」
 屋台にはどんなお客さんが来てくれるだろうか。協力してくれた子も、来てくれた人たちも、楽しんでくれたら。そう願いながら、屋台で準備をする皆に声をかけた。

解説

●目標  仲良し屋台の成功、または学園祭を楽しむ ●仲良し屋台  学園の一角に設けられた屋台群。十軒あり、それぞれ食べ物や飲み物、雑貨を売っています。時々トラブル(火傷、提供やレジの遅さからの言い争い、盗難騒ぎ)が起こるところもあるようです。多文化クラスは二十人、通常クラスは数人しか参加しておらず、どこもギリギリで運営しています。大変そうに見えたので手伝う、と言えば歓迎されます。屋台の一例は以下の通り。 ・鶏やサラダのサンドイッチ ・羊肉の入った具沢山シチュー ・豚のロースト ・紅茶とお菓子 ・ビーズ、ガラスで作られたアクセサリー ●できること  ・屋台の手伝いや人集め、人寄せなど『仲良し屋台』の手助け  ・入学希望者たちの案内や学園の説明  ・学園祭を楽しむ、立候補者としての演説  ・アルドやメルチスたちへ関わる  ほか、学園祭に関わることならばできるだけ対応いたします。 ●NPC ・アルド・シャウアー  学園一年生。半獣人の授恵者で冒険者、今はエーテルと世界や自分の役立てることについて勉強を続けている。  かつて孤児院で暮らし、異種族の子どもたちとは家族と呼べる関係。学園でもいつか皆が分け隔てなく仲良くできればと願っている。今回の生徒会役員選挙で庶務に立候補しており、その話もできます。 ・アンジェル・ランターニュ  銀と黒が混ざったような髪色を持つ貴族令嬢。学園一年生であり貴族派、いまだに異種族を嫌悪する。学園の変容について嘆かわしいと考え、『仲良し屋台』には近づかない気でいる。アルドを目で追ってしまうのが最近の悩み。 ・レパシュ・ラフォン  金髪、後ろで髪を編み込んだ貴族青年。学園一年生。家は王党派だが自身は学園派に傾いている。王国貴族であるが広い見分を持ちたいと考え、積極的に様々なことへ挑戦する。料理も金勘定もしたことがない。 ・メルチス・アダラード  教会の孤児院を受け持つ神父。アルドの育て親ともいえ、学園祭もはらはらとしながら見守っている。最近新しい家族が増えたらしい。 ・ピオ  アルド出身の孤児院にいるヒューマンの子ども。12歳。最近は自身で文章を書いたり、異種族同士で暮らせる社会について学んでいる。学園の入学のために勉強をしている。 ●備考 手伝っていただける場合、報酬は屋台の食べ物となります。

マスターより

お世話になっております。白葉うづきです。 学園祭でのお祭りです。どうぞ楽しんでくださればと思います。 何かご質問・雑談があれば主にアルドが掲示板にてお答えします (出発間際だとお返事が間に合わない可能性があります)。 これが、アルドが関連NPCとして出る最後のシナリオとなります。 皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように! ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●屋台を始めよう!
 多文化クラスと通常クラスの一年生が共同の屋台を出す。異質で、けれどある意味今の時代らしい催しを聞いたヨル・スレイマンは、その発起人があの少年だということを知ると心底愉快な気持ちになった。彼はやってやった。新しい風を起こしたのだ。
「あっはははは! いや、本当にすごいなアルド君」
「夢中で頑張れたんだ。皆の力があってだけど」
 アルド・シャウアーは照れくさそうにはにかむ。以前ならば恐縮していただろう彼も、素直に称賛を受け取れるようになっていた。それも成長だ。
「君たちも運がいい。最初に歩み寄るのが、一番勇気がいるんだ」
 確立した自分の考えを変えるのは、自分でも難しいと知っている。そう告げると、貴族の少年レパシュは、そうだなと嬉しげに答えた。
「ゲルダお姉さんもラティアお姉さんも、来てくれてありがとう!」
「いいえ、私がやりたかったので。ぜひ、アルド様たちのお手伝いをさせてください」
「私も、人手が足りないと聞いたので……」
 ゲルダ・クライン、ラティア・ミゼリアも手助けに駆け付けていた。ゲルダは周囲を見回す。わずかながらだけれど、異種族や平民、貴族の生徒が肩を並べ、同じ目標を達成しようとしている。その光景だけで何か込み上げてくるようだ。
(アルド様の叶えたせっかくの機会、最大限に助力しましょう)
「あ、これ……差し入れです。休憩中にでも皆さんで……いえ、少ないですね……」
「わ、チョコレート!」
「お菓子作りの材料とか、色々……好きなように使っていただければと、思います……」
「ありがとうお姉さん」
 嬉しそうに微笑む少年は、前に見た時と同じ眩しい笑顔を湛えていた。ばたばたと走り回る彼を見ながら、ラティアはふと思う。
(……そういえば、アルドくんは確か……ちょうどいい、のかも……?)

「食い物の金額は決まってるだろ? で、客が買う個数もそれなりに決まってるわけだ。客もぴったりお代を出すことなんてあんまりないしな、早見表か釣りセット作って纏めておけ」
「はい!」
 サンドイッチの屋台を担当する少年少女の中に、青年の男性が一人。いつの間にかナハシュが混じっていたと思ったら、とても役立つアドバイスを授けていた。様子を見に来たアルドが目を瞬かせるのを見て、ヨルは教える。
「俺の連れだよ。ナハシュというんだけど、彼も手伝いにきたから、大丈夫」
「そうなんだ! ありがとう、ナハシュお兄さん!」
「おう! 学園おもしれえだろ、楽しめよ!」
 どうして手伝いをと聞かれれば、今年は最初から参加してると思ったからだ、きっと。アルドとヨルに軽く手を振り、そのままナハシュは雑貨の屋台へ。ここは物が多いし計算が得意な奴がいた方がいいだろう。そう考えながら赴くと、そこにはゲルダがいた。
「なあ、数字に強いやついるか?」
「え? ええ」
 ナハシュの話を聞いたゲルダは、その意図に頷く。彼女は自身の洞察力を駆使し、適材適所に人員を振り分けられるよう見て回っていた。
「商人の息子さまと、それから家で商売をやっている方にここをお願いしようかと」
「値段も計算しやすい金額にしてもいいだろ」
 ゲルダとナハシュが話し合う最中、一年生たちもぽつぽつと言葉を発し、加わってくれた。二人(ゴブリンとハーフリング)を忌避する様子も見られない。ある程度話がまとまると、ナハシュは隣にいた貴族の少年の肩を気安く叩く。
「これで少しはマシになる、はずだ。頑張れ」
「平民の言葉も聞いてみるものだな。……あ、ありがとう」
「すげえ、礼くれんのか」
 そう言うとすぐに顔を逸らしてしまった。ゲルダは瞳を細め、それからまた別の一年生たちのところへと向かう。彼らの強みを活かした仕事を頼んでいると、興味は持っているが知識がない、という生徒もいた。
「それなら、彼に教えてもらってはいかがでしょうか」
「私がこの方に? どうせなら貴方でもよろしくてよ」
「俺も上手くできるか……」
「大丈夫です。わたしが保証しますよ」
 ゲルダの言葉に、二人は顔を見合わせてから頷く。少年が少女に説明し始めるのを見てから、また他の屋台へと赴いた。

 楽しそうな、賑やかな声が準備をする屋台の外に響いている。上等そうな服を着て背筋をピンと立てているのが貴族や商家の子どもで、走り回ったり表情豊かな子どもは多文化クラスというところの子だろうか。
(学園祭も学生も、今も『昔』も縁のある世界じゃないだろう)
 だからこそ、経験することは面白みがある。声を掛けようとして、ルイドはふと気付いた。貴族の子と、異種族の子が声を掛け合い、忙しそうに協力している。ルイドはしばらくその光景を眺めて――柔らかく瞳を細めた。
「よぉアルド、元気そうだな?」
「ルイドお兄さん! うん、元気だよ、来てくれたんだ」
 嬉しそうに尻尾が揺れる少年に笑んでから、屋台を回りたいことと、協力を申し出る。おすすめをと聞こうとしたが、首を振った。
「一通り回りてえ、いいか?」
「うん! えへへ」
「ずいぶん嬉しそうだな」
「ルイドお兄さんといられるの、嬉しいから」
 アルドが案内をして屋台を回っていく。彼が担当する屋台のシチューは、具材の大きさが揃ってはいなかったが、温かくて素朴な味がした。サンドイッチもローストも粗削りだが味は申し分ない。
「うん、美味い。どれも美味いのはきっちりやってる証拠だな」
「ふめぇひょな」
 いつの間にか、向かいのベンチでナハシュが屋台の食べ物に囲まれながら食べていた。好評に、アルドも周りで見ていた生徒たちもほっとしたようだ。
「アクセサリー、ブレスレットもあるか? 記念に買ってくわ」
 雑貨屋に置いてあるものも素朴だったが、物は良く見える。黒と灰のシンプルなものを選び、宣伝も兼ねてその腕に巻いた。

●学園祭を歩こう
「最近はどうですか?」
「そうだ、聞いてくださいコルネリウスさん!」
 コルネリウス・アーラとメルチス・アダラード、ピオは三人で賑やかな祭りを進んでいく。最近は孤児院にドワーフの子どもが加わったらしい。新しい家族だと、メルチスは優しくコルネリウスに話す。ピオがここにいる理由や、他の皆もそれぞれ頑張っているという話にも花が咲いた。
「よければ、こちらを読んでみてください」
「これは?」
 コルネリウスが渡したのは、学園についてさまざまな情報が載った新聞。コルネリウスが部長を務める新聞部の皆で作成した、学園祭の特集記事だ。ピオが目を輝かせて文字を辿る。
「すごい、色んなことがわかりますね」
「部活も、学園祭で色んな催しをしてるんです。実際に見た方がわかりやすいですね」
「とても素晴らしい活動を為されているんですね」
 眩しそうに瞳を細めるメルチスに表情を緩め、ピオにも視線を送る。今の学園はきっと、コルネリウスの家族の未来に役立つ場所だ。
「学園は過渡期を過ぎ、ずいぶんと変わったんです。異種族や平民の生徒がいることも日常になってきたんですよ」
 そうしてコルネリウスは彼らを『仲良し屋台』へと案内する。駆けだすピオの背を見送り、感動のあまり泣き出すメルチスにハンカチを貸した。

「やあ、可愛いお嬢様。元気にしていたかな?」
 ふわりと撫でるシルヴィア・A・カペルに、大鼬のファは嬉しそうに頭を擦り付ける。挨拶を終えた後、シルヴィアは祭りに賑わう学園を眺めた。卒業してから一年、彼女にとっては懐かしい風景だ。
「君は行きたいところがあるのだろう、ヴィナス」
「そうだね、まず――おや」
 問いかけたのとほぼ同時に、足元にいたファが突然走り出す。急いで追っていくと、とある生徒に飛びつくのが見えた。少年は驚いた後、嬉しそうにファを撫でる。
(彼がそうなのか)
「どうしてここにいるの? ねえ、もしかして」
「飼い主に内緒でついてきてしまってたんだ。あなたに会いたかったのかな?」
 ファと視線を合わせていた少年に声をかける。
「お兄さんは?」
「ヴィナスだよ。あなたは?」
 互いの自己紹介を済ませ、改めて確信する。今日は彼に会いに来た。シルヴィアもヴィナスに合わせるよう挨拶し、『仲良し屋台』のことを聞く。
「私も屋台を見せてもらおうか。おすすめはあるかな?」
「腹が減っているなら、羊肉のシチューがあるぞ」
 声をかけたのは貴族の少年だ。レパシュ・ラフォンと名乗った彼は、話してみるとシルヴィアに似通った側面を持つらしい。苦戦しながらもシチューを分け、決して早くはない会計を終えた彼に、シルヴィアは思わず話しかけた。
「料理やお金の勘定か。私も苦手だったよ」
「貴方も経験が?」
「ああ。けれどやってみるだけで世界の解像度は上がり、わからなかった相手の考えや行動の意図が多少は掴める」
 自身の世界が広がり、不明瞭だった人々の顔がはっきりと見えてくるような心地。歩ける場所が広がるというのはなんと心躍るのだろうか。
「ただ、分かり合うためにも、己の血の誇りは忘れないで欲しい」
 自身を形作るものを大切にするからこそ、何物にも侮られない自分が確立できる。どの種族、どんな立場の相手だろうとそれは変わらない。そう真摯に語り掛ければ、レパシュも真面目な顔で頷く。
「貴方は賢人だな」
「少しでも君の道が良きものであるよう、願ってるだけだよ。そうだ」
 続けてシルヴィアは『学園交流部』について話す。今はまだ部にも出来てないが、認められれば遊びに来てほしいと。
「君の友人も連れて、ぜひ」
「行こう。きっとアルドも興味がある」
 少年は自信を持って頷いた。

 近くにいたメルチスという神父も、ファと知り合いらしい。二人が話している間、ヴィナスはお菓子とアクセサリーを購入した。戻ったヴィナスは本題を話し出す。
「アルドは奉仕活動に興味はないかな」
「奉仕、活動?」
 不思議そうな彼に、今行っている事業で発行したレシピを渡した。こういったものを売った売り上げを寄付したり、各地の孤児院で知識や技術を教え、子どもたちの未来に繋げる活動だ。
「特に、このレシピの制作者が熱心だったんだけど……辺境にある迷宮の奥深くで心を深く傷つけてしまって、今シルヴィアの領で療養している。いつ治るかは、はっきり言ってわからない」
「え!?」
「そんな、うそ」
 二人の顔から血の気が引く。話の流れから、それが誰なのかを悟ったのだろう。
「でも、この活動を止める訳にはいかない。協力者を探している。考えてほしい。……すまない、混乱させてしまったね」
 言葉を失くした少年に、何かを問うのは酷だろう。青褪めながら口元を抑えるメルチスに告げる。
「興味のある人がいたら声をかけていただければと。……俺は年上の男にも母であった男の無意識の献身に報いたいのです」
「はい、ええ……きっと気にかける子が、います」
 ローレラウラにあるアーダベルト商会、ルース・アーダベルトを訪れるようにと言葉を残し、ヴィナスはこの場を後にした。

「ヴィナス、君は冒険者業を続けるのかな」
 帰り際、シルヴィアが尋ねる。
「副業で続けるよ」
「そうか。なら、人手が足りない時には呼んで欲しい」
 出来る限り力になると伝えれば、ヴィナスは感謝を返す。そうして、自分が何もできなかった友人のことを思い出した。
(せめて、私の故郷で心穏やかに過ごしてくれれば)
 また一緒に冒険することを願いながら、二人は学園祭を巡る。

●屋台飯と休憩
「さあさあ、『仲良し屋台』のサンドイッチにお菓子だよ!」
「屋台にはうまいシチューとかうまい飯もあるぜ! 安くてうまい! 最高だな! 貴族もうまいと唸った屋台飯だ! レパシュ・ラフォンって奴とか貴族も関わってる、材料も吟味してるってことだ!」
 ヨルは木箱に入れた商品を歩きながら売り、ナハシュは自分の食べた料理を念写で映し出し、それぞれ屋台の宣伝をしてまわる。二人とも貴族と多文化を区別せず、けれど意識をして呼びかけを行った結果、何人もの興味を引くことが出来たようだ。ナハシュの掲げた映像を、一人の少女が見つめる。その少女に、コルネリウスが声をかけた。
「気になりますか」
「貴女、冒険者の」
「お久しぶりですね、アンジェルさん」
 苦い顔をされるのは想定内だ。だけど、それだけではない気もする。
「シチューお好きですか? おすすめですよ」
「わたくし、興味がないとあれの協力を断りましたから」
 どうやら彼女は、手伝っていないのに顔を出すのはどうかと思っているらしい。
「ただお客さんとして行ったらいいんですよ」
「……気が向いたら、様子を見に行ってもよくてよ。どうせ上手くいっていないのだから」
 これは、素直でない言葉だ。コルネリウスは小さく表情を緩めた。

「すみません……休んでいる時に押しかけてしまって」
「ううん」
 平気、と笑う彼はどこか無理をしているようだった。ラティアは調理の補助をしていたから、何があったかは推し量れない。ただ彼と話をしておきたかった。
「私にとって、とても重要なお話をします」
 居住まいを正し、向き合うラティアにアルドも視線を向け、見上げる。身長の差はそのまま年齢の差も感じさせた。けれど彼女にとっては、その方がいい。
「前に、私のこと……大好きって、言ってくれましたよね?」
「うん。僕、お姉さんのこと好きだよ」
 ラティアは瞳を細める。
 言葉通りに受け取っても、いいですよね?
「私、子どもが欲しいんです。今も私を大好きでいてくれるなら、私と……どうですか?」
「……え?」
 少年はしばらくの間、時が止まったように静止した。
「お姉さん、と?」
「無理にとは言いませんけど……」
「ええ!?」
 やっと事態を理解したらしい彼は、口を開いては閉じ、目を見開く。それからぽつぽつと喋りだした。
「ご、めん、なさい。僕、その……全然そんなこと、考えられない」
 まだアルドは子どもと言っていい年齢だ。やりたいこともたくさんある、恋愛のことも何も知らない。いきなりの告白に何かを返すには、何もかも幼いと自分でも思う。
「わかりました……」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいんですよ」
 尻尾を下げる彼に、ラティアは優しく声をかけた。

●どたばた屋台
「学園も賑やかに戻ったね」
「こうして実際に見るのは、また違うな」
 生徒会役員であるローザリカ・L・ディオール、ジュスト・ヴェルジーは巡視という仕事がてら、『仲良し屋台』へと向かっていた。そこにはかつて二人が手助けした少年がいて、彼がきっかけとなってクラス混合の屋台を運営しているらしい。屋台に着くと、皆が忙しく働いていた。客もそこそこいるようで、貴族も平民も入り混じり活気にあふれている。その中に、少年がいた。
「感慨深いね。ロゼもそうだろう?」
「……ああ。胸が熱い」
 これまでも学園は変革の時にさらされ続けてきた。その流れが実を結び、彼らの屋台へと繋がったのだ。これからの学園、そして国すらも変わっていく中で、少年はその希望に思える。
「おい遅いぞ!」
「も、申し訳ありません!」
 一つの屋台で声が上がる。どうやら食事の提供が遅れてるらしい。貴族の青年らしい学生は苛立たし気に表情を歪める。
「せっかく僕が来てやってるというのに、これでは味の方もお粗末なものだろう。喜べ、他の者にも伝えて――」
「少しいいだろうか」
 青年と店員の間へスマートにジュストは入り込む。すると、青年は動揺した姿を見せた。高名な家柄の副会長、さらにその後ろにはジュストの婚約者と知られる会計も控えていたのだ。戸惑わないわけがない。
「予想外というものは得てして起こる。その矛が誰かを傷つける前に収めてくれないか」
 誰かは誰を指すのか。ジュストが微笑むと貴族の青年は途端に塩らしくなり、遅れて出てきたシチューを持って去っていった。
「何か起こったのかい?」
 ローザリカが屋台を覗くと、ゲルダが状況を説明してくれる。
「思ったよりの盛況で、提供する器が間に合わなくなってきているんです」
「それなら――」
「では――」
 そのトラブルも、ローザリカのアドバイスとゲルダの手腕によってすぐさま解決。後輩から尊敬の眼差し、婚約者からはお疲れ様の言葉と柔らかい微笑みが向けられた。

「じっくり見て行ってくれ」
 ルイドの言葉に、にたにたと笑いながら雑貨を見ていた生徒がこそこそ去っていく。先ほども手癖の悪い生徒が逃げるのをすぐさまひっ捕らえた。この屋台は良くない方向にも有名になっているらしい。まあ、そんな輩もルイドが残らず目を光らせている訳だ。彼が店先に立ったり、巡回しているだけでその効果は絶大だった。そしてもう一人、食べながら屋台を回っていたナハシュが何かを見つける。
「あ、お前」
 胸元に商品を抱えた人影を追いかける。すぐに追いつき、じりじり下がる犯人相手へ何の気なしに短剣を出そうとすると、にゅっと横から腕が伸びた。ヨルだ。
「ストップ! そこまで。学園だとここがボーダーだ」
「あ。切るのも折るのも駄目か?」
「駄目」
 ナハシュは短剣をしまい、足を蹴り上げて転ばせる。
「ぐぇ」
「学園で助かったな! ゴールディならお前、今頃死んでるぜ」
「行こうか」
 朗らかに言うナハシュが去るのを見送り、ヨルは顔面蒼白の犯人を立ち上がらせた。それからもナハシュの目は各所で光り、幾人かを警備室送りにした。

●それぞれの進む道
「ジュストお兄さん、ローザリカお姉さん!」
 少し時間が空いたのだろう。アルドと、レパシュという少年が挨拶に来てくれた。
「アルド君、本当によく頑張ったね」
 ジュストは心からの称賛を送り、また選挙についても応援の言葉を贈る。
「あのね。役員っていうお兄さんやお姉さんを見て、とても格好いいと思ってた」
 ピンと背を伸ばし、自分ではない誰かのためにも頑張れる姿。憧れて、少年もそうなりたいと願ったのだ。
「それを実行できる君も素晴らしいよ。君は夢に向かって確かに、俺の予想以上に前進しているよ」
 そう言うと、アルドは嬉しそうにはにかんで、泣きそうに笑った。
「ラフォン卿も、皆の姿勢も素晴らしい。これからの活躍にも期待しているよ。時間があればとは思うが、皆にも伝えてくれるかな」
「ヴェルジー卿にそんな言葉をいただくとは、恐縮です」
「君たちのような学園性がいれば、俺も安心して卒業できる」
 それは、ジュストの心からの本音。変わりゆく学園や世界の中で、彼らはかけがえのない光となるだろう。続けて、ローザリカも素直な言葉を贈る。想いを上手く伝えられるか、ほんの少し不安を抱えて。
「……そうだな、この屋台と笑顔にあふれる皆……見ているだけでわかる。この屋台にかける想いと熱量、実現に向けて努力して頑張ったことも」
「駄目かな、って何度も思った。でも、お姉さんたちを思い出したり、鉢植えを見たら、勇気がもらえたんだ」
 ――けれど、言葉以上にもう、少年は色んなものを受け取ってくれていた。
「これからもきっと大丈夫だ」
「うん。本当に、ありがとう」
 幸せそうに、少年は瞳を細める。

 客が増えているような気がするのは、気のせいではないだろう。ローザリカとジュストが近くのベンチで食事を取っている光景は、やはり客寄せの効果もあったらしい。貴族を中心に相談へ来る生徒も多かった。
「君も来たんだね」
 遠くから屋台を伺うアンジェルに、ローザリカは笑顔を見せる。
「べ、別に気になったから来たわけではないのよ、そう。お腹が空いたから、仕方なく」
「ふふ。とても美味しいから、楽しんでくるといい」
 そっと背中を押して見送る。卒業まであと少し。惜しいくらい、これからが楽しみだ。

 少年が掲げた公約についてヨルが問うと、孤児院が、と始まった。
「全然違う種族だった僕らは、お互い怖がって、顔も見たくない時もあった。でも神父がね。『ご飯を食べましょう』って」
 そこで知らなかった皆のことを知れた。一緒に食事をすることが少年の『仲良くなる方法』になったのだ。
「もう一つ話したいことがあって」
 それは、ヨル自身の未来のこと。
「学園外で剣や読み書きを教える、みたいな仕事をしたくて。率直に、出来ると思う?」
 人との距離を一定に保っていたヨルが踏み出そうとしている一歩。迷いが入り混じる気持ちを、最も教えを授けた少年に告げれば。真っすぐで熱のこもる視線がヨルを見ていた。
「ヨルお兄さんなら出来る」
 絶対に、と小さな手がヨルの手を握った。それからも話を続けた後、ヨルは少年の背を叩く。これからも輝くだろう君に、想いを込めて。
「胸を張っておいで。そしたら結構何とかなる。今の君は格好良いよ」

 一緒に休憩を取ったゲルダは、少年に話す。この学園に、世界にはヒトを隔てる溝がある。それを正しく理解した上で乗り越えるための行動を起こすことは、誰にでも出来ることではない。
「わたしが入学した頃は、今よりももっと――『異種族』や『平民』は、『ひとり』とは数えられないことが当たり前の世界でした」
 そして彼女は納得してしまった。ここはそういう国で、それが常識なんだと。貴族と平民、ヒューマンと異種族、能力の優劣。ゲルダはいつの間にか、そんな数えきれないほどの違いを『当たり前』にしたいと考えていた。
「誰もが『ひとり』と数えられる世界。わたしも、目指してみようと思うんです」
 だから、その輝きを見せてくれた少年に、ゲルダは心からの礼を告げる。
「一緒だね」
「お互い、頑張りましょうね」
 二人の同志は、強く手を握り合った。

「アルドくん、立候補するんですね」
「うん。動かなきゃ、始まらないと思って」
 なんと大きく成長したのだろうと、コルネリウスは目を細める。それでもまだ成長途中なのだ。
「お手伝いしますよ。君の願いは、私も目指している夢でもあります」
 もしかしたら、自分を見守ってくれる人たちも、こんな気持ちを抱いていたかもしれない。
「私はこれからもずっと、君を見守っていますから」
「うん! 見ててお姉ちゃん。そしたら僕、何でも頑張れる!」

「忙しかったな……」
 ルイドは思わず笑っていた。巡回に見張り、時折配膳や運搬も手伝った。けれどどこかやり切った顔をしている学生たち――そして自分にも、いい思い出になった。
「いい縁を繋いだな、アルド」
「うん! ありがとうルイドお兄さん。またやりたいね」
 そうだなと頭を撫でた後は、片付けだ。もう少し、学生たちとの時間を過ごそう。

マスターコメント

学園祭、お楽しみいただけましたでしょうか。 屋台は大成功をおさめ、学生たちも楽しい時間を過ごせたようです。 手伝ってくださった皆さんには、学生たちからの感謝が贈られるでしょう。 MVPは記録に残りませんが、楽しんでくださった皆様へ。 ご参加いただき、またアルドたちと関わっていただきありがとうございました!
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ易しい 報酬:無し10 / 6〜10人

2024年02月13日 16時27分47秒 公開

大成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0