辿り着く行先へ

広大野人

コメント 19

シナリオID:3353

オープニング

●
 オルセン太守コンラート・マフダルより留守を託されたソレートン・プロオン代行官は、極北から南下してきたクリーパーの侵攻を食い止めている存在が、名も無き神の一柱であるファンゾムだという事を公式に発表した。
 クリーパーが城壁からでも視認できる距離という事もあり、オルセンの住民達はその献身に感謝して――いるだけに留まらず、出来る事はないのかと異様な盛り上がりを見せた。
「なんだが、ファンゾムが伝説の女神みたいに崇められているみたいだけど……いいのかな」
 苦笑を浮かべているのはトレイシーだった。
 ファンゾムと個人的に関わりがある者からしたら、現実との乖離があり過ぎて微妙な気分になる。大型以上に目されるクリーパーを足止めしている事を考えれば、その評価も妥当なものかもしれないが……。
 書類に目を通しながらイグシィが街中で聞いた話をした。
「祈祷集会なるものが開かれ、ファンゾムに声援を送っているらしい」
「意味あるの? 届かないでしょ」
「僕は良いと思うよ。各人が出来る事をする……それはジード様が願った世界の在り方だ」
 効果と効率を得意とする彼らしくない台詞にトレイシーは目を丸くした。
「驚いた。イグシィ君からそんな言葉が出て来るなんて」
「商売の基本は、意味の無い事に意味を、価値の無い事に価値を見出す事だ。意味があるかないかじゃない。成したいか成したくないか、だと思う」
 イグシィはペンの動きを止め、窓の外の風景に視線を向ける。
 意味が無いからと言って何もしない事こそ無意味だ。何かをしたいという気持ちが、人を前に進ませる。
「……僕に生きて欲しいと願った人の想いに応える為に、僕は生きる。生き延びてみせる」
 決心にも似た独白に、トレイシーは心の中で呟いた。
(やっぱり、愛する人が出来ると、変わるものなんだね)
 きっと、ファンゾムも何か理由があったのだろう。
 その理由を見いだせたからこそ、彼女はまだ戦っている。だったら、それに応えるのが、人というものだ。
「……これ、頼まれていたものだよ。正真正銘、最後の『瞳』を使ったものだね」
 トレイシーが机の上に並べたのは幾つかの小瓶。
 先日、王国騎士エナハルト・ティルムがイグシィの所に訪れた際に置いていったものだ。ゾンバルダの残党から冒険者が回収したものらしい。イグシィはそれをトレイシーに渡した。『瞳』の処分ではなく、どうにかして活用できないかと託したのだ。
 その成果が並んだ小瓶だった。
「副作用は最小限に抑えられたと?」
「研究データは私の頭の中にあるんだから、当然だね」
 授恵者の力を大幅に強化させる純粋な『瞳』ではないものの、役に立つ事は間違いない。さしずめ、『瞳孔』と呼ぶべきか。
「効能だけど、短い間だけ、自身のエーテルを体皮上に纏わせる事ができる。多分だけど、クリーパーの中に入っても消化されずに持ち堪えられるんじゃないかな」
 流石にそこまで実験をした事が無いから分からないが、『瞳』の作用の内、身体強化やバッドステータスへの耐性強化を応用したので、理論上は可能なはずだ。
「これでファンゾム救出の手段が整った。後は、クリーパーへの対処だ」
「それがイグシィのやっている事なんでしょ」
 彼はソレートン代行官にも働きかけ、私費を投じ、住民達と協力してある物を大量生産していたのだ。膨大な書類はそれに関するものだった。
「敵の特性上、授恵者のスキル攻撃は威力が半減してしまう。しかし、スキルを用いない攻撃や非授恵者の攻撃は通用する……だったら、少しでも強い攻撃手段を用意しないと」
「それで投石器だったんだ」
 騒音(ゴッル)と名付けられている小型投石器は組み立ても操作も簡単で民兵でも牽引を含めた運用が可能だ。それでいて威力は非授恵者の弓や弩を上回る。
 ドワーフ王国が邪竜と戦う為に作成された投石器の一台を、組織(ソーン・クリエ)が違法に買い取った経緯が、巡り回って、オルセンを救う手段の一つになったのだから、運命とは分からないものだ。
 トレイシーが感心したような表情を魅せた。
「不思議だね。『瞳』も投石器も、組織(ソーン・クリエ)が王国を打倒する為に作ったものなのに、今、オルセンに住む人々の為に活かされるなんて」
 その言葉にイグシィは頷く。
「……意味はあったんだ」
 冒険者と彼らが歩んだ道のりが、目に見える形となって現れていた。

●
 ソレートン代行官を取り囲むように駐留兵と民兵の幹部、冒険者達が領主館に集まっていた。
「ファンゾム様のお力でクリーパーはオルセン郊外から身動きをしていない。真冬の到来によって作戦行動が出来なくなる前に、決着をつける。その為の準備も整った」
 地図に記されたのは郊外の地形。
 オルセンからはやや離れているのは一目で分かる。
「城壁に備え付けてある防御兵器は、当然の事ながら射程が届かない。しかし、郊外の陣地に設置した大型投石器であれば有効打が与えられるはずだ。更に今回、イグシィ殿の協力により多数の小型投石器も用意した」
 射程の問題で小型投石器は陣地の外、つまり、クリーパーを半円で取り囲む形になる。
「民兵達は各投石器を使って集合化した巨大クリーパーに攻撃。予備役を含む正規兵は出現が予想される人サイズのクリーパーの対処に当たる。冒険者達は各自、遊撃的に動き、柔軟に戦線をフォローしていただきたい。頭数が必要であれば兵も預けよう」
 代行官は言葉をそこで区切り、そして、冒険者達を改めて見回した。
「なお、冒険者達には、ファンゾム様の救出も頼みたい。詳細はイグシィ殿からの説明を聞いて欲しい」
 目配せを受け、イグシィが軽く頭を下げると地図上の駒を差した。
「救出班の選出と細かい作戦は冒険者の皆さんに託しますが、注意しなければならないのは、投石攻撃までのタイムリミットと救出後にクリーパーの討伐が終了するまで耐え忍ぶ事です」
 ファンゾムが発しているエーテルに集合化した巨大クリーパーが引き寄せられる形となっているので、救出後、彼女を安全な場所まで移動させてしまうと、それを追いかけたクリーパーが投石器の射程外に行ってしまう可能性があるからだ。
「クリーパーの内部がどうなっているか分かりませんが、賢者の話によると、全身が徐々に消化されてしまうらしいです。それを防ぐ為、特別な薬を用意しました……が、こちらは副作用もあります。運用は気をつけていただきたいです」
 イグシィは最後にそう締め括った。

●
 エーテルの淡い光だけが周囲を照らしていた。
 ファンゾムは深い闇の中で、クリーパーに圧壊されぬよう、エーテルの『場』を形成し続けていたのだ。
(…………)
 生き残る事。ただそれだけを思い、力を振り絞って耐えてきたのだが、疲労はいよいよ頂点に達しようとしていた。
 このまま力を使い切って消滅するか、クリーパーに飲み込まれるか……絶望と『行先』に辿り着けるという希望が、せめぎ合っている。
(せめて声が聞きたいわねぇ)
 最期の時が迫った時は、己に残されたエーテルの全てを爆発させ、相打ちするつもりだ。
 けれど、その前に――ファンゾムはそう願うのであった。

解説

●目的 クリーパーの討伐 ●状況 『【帝国】迫りくる死地』の結果に基づき、クリーパーはオルセン郊外で身動きを止めています。冒険者達は依頼を受け、クリーパーの討伐及びファンゾムの救出を目指します。 なお、冒険者達は以下の戦場を選択して参戦頂きます。 【1】ファンゾム救出 【2】民兵援護 ※プレイングに選択表明が無かった場合はアドリブ対応とします。 ※役割の割り振りは均等である必要はありません。 ●戦場選択内容 【1】ファンゾム救出 ・集合化した巨大クリーパーからファンゾムを救出します。救出後はクリーパーの討伐が完了するまで、彼女を守りながら敵を引き付けます。 【2】民兵援護 ・陣地外にて小型投石器を扱っている民兵を、クリーパーから守ります。必要に応じ、民兵を十数人~数百人程度借り受ける事も出来ます。 ●クリーパー 『大型』以上と思われるクリーパー。姿形は『墨色の形状をした凝膠体の塊』。集合化クリーパーは5mを越えるサイズ。最小の人サイズは条件に応じて出現する。 【判明している能力】 攻撃方法:体当たり、触手、強力な酸や分離体の射出等 分離合流:あるタイミングを使用して分離や合流が可能 エーテル吸収:エーテルを用いたアクションスキルによって受けたダメージの半分を直後に回復する(倒せれば回復しない)。 足音を感知して出現したり、冒険者の力量に応じて集合する場合もある。 ●味方勢力 ファンゾム:名の無き神の一柱。集合化した巨大なクリーパーに取り込まれ、その内部で『場』を形成して辛うじて生き長らえている。彼女の救出・護衛の際は、友好度及び交友関係の有無によって判定時、有利になる可能性があります。 民兵:判定の複雑さを回避する為、最小単位を1小隊(5人)1ヘクス占有として扱います。槍や弓、投石器で武装可能です。 (PL情報)征竜信者が対クリーパー戦に参加します。独立派はオルセンから脱出済みです。 ●特別な薬 トレイシーが作成した授恵者用の薬で集合化クリーパーに取り込まれても活動が可能。効果時間は5ラウンド。効果時間経過後、5ラウンドはあらゆるアクションスキルの使用ができない副作用が発生する。 ●その他 ・アドリブ対応多めになる可能性もありますのでご了承下さい。 ・NPCとの関わりにおいては、これまでの関わりによる友好度が存在します。友好度による『差』はあるものとしてご理解下さい。

マスターより

 おはようございます! 当依頼にて85作目となった広大野人です。  『【帝国】迫りくる死地』のシナリオ結果により、『オルセン郊外が舞台』『民兵の戦力が維持』『征竜信者の参戦』など、冒険者達に若干有利な状況となっています。  ファンゾムの救出が出来なかった場合、集合化クリーパーは民兵達に襲い掛かる事になるので、救出は作戦成功の要となります。  また、小型投石器にて武装している民兵達は、人サイズのクリーパーでも無防備に近い状態です。投石器による攻撃数が少なくなればなるほど、集合化クリーパーに与えるダメージ量が低下します。  救出作戦と民兵援護をどのように行うのか、しっかりと作戦を練り、準備を整えていただければと思います。  それでは、依頼へのご参加、お待ちしております!

リプレイ

●
 運命というものが人の縁を紡いだものだとしたら、ロゼットはこの日、多くの人の運命に関わったのかもしれない。
「貴方達を警戒、敵視する冒険者も居るわ。共闘してくれるなら、この戦闘中は仲立ちしましょう」
 そう呼び掛けた相手は、鍛え上げられた体躯を持つ征竜信者の1人、ナフツクだった。
 ロゼットは以前、オルセンで彼らを調査した。その時、自身と仲間達が得た情報から、ナフツクに接触したのだ。
「具体的には、どのような共闘か? 貴様らの指図を受けるつもりはないぞ」
「回復を支援するわ」
「我々を助ける意味を理解して言っているのか?」
 ナフツクの返しにロゼットは聖印を握り締める。
「対象は異なるけど私も信仰者よ。信仰自体を否定はしないわ」
「なるほど、そういう理由か。わかった。お前の『信仰心』に免じて共闘してやる」
 ぶっきらぼうな態度ではあったが、ナフツクからは猜疑心は感じられなかった。
 戦場へと向かう彼にロゼットが、もう一つ、お願いする。
「それと……まもなく始まる、帝都の決戦で全ては決まる。だから……その結果が出るまで、過激な行動を慎んで欲しいの」
「案ずるな。あのクリーパーを倒せば、我らは極北へ戻るつもりだ」
 征竜が勝てば人類粛清が開始される。信者は巻き込まれないように故郷に帰るだろうし、征竜が負ければ、信者の立場は更に悪くなるだろう。迫害を恐れ、どの道、帰る事になるのだから。

●
 イズレンディル・パラリムの献策に、代行官ソレートン・プロオンは唸った。
「なるほど……そこまで陣形を考えていなかったが、イズレンディル殿が言う通り、等距離に同密度で敷いた方が対処しやすいな」
「ファンゾムさんを救出した際、その方面の戦力は左右に除けるように言い含めておけば良いだけです」
 地図上の駒を動かしながら説明するイズレンディルに代行官は感心する。
「クリーパーからの脱出が『どこ』になっても良ければ、救出組も動き易いだろう……しかし、どの隊も目標から等距離という形であれば……」
 駒を配置し直す代行官。クリーパーをぐるりと囲む包囲戦になる訳だ。
 つまり、それだけ守る範囲が広がる事も意味する。
「人サイズに分離して出現する奴等をどう捌くか、だな? 可能であれば機動防御で対応したい所だが……」
「私が授恵者の能力を用いて分散状況を確認します」
「幽体離脱か……危険ではないのか? 集合体に狙われるような事があれば、ひとたまりもないぞ」
「だとしても、誰かがやらなければなりません」
 小さな規模は兎も角、大規模な出現時、戦力を率いて駆け付ける必要があるだろう。その為には早期の発見と適切な判断が求められる。
「分かった。それでは、イズレンディル殿にも民兵を預けよう。投石器を扱うより殴りたいという過激な連中だが、きっと、役には立つはずだ」
 それはそれで気苦労がありそうだなと思うイズレンディルであった。

●
 集合化した巨大なクリーパーに冒険者達は挑もうとしていた。
 ブレイドと東雲・更紗の二人と共に最前線に立つアルマ・ヴァレンタインが真剣な眼差しを正面に向けたまま、言葉を紡いだ。
「集合体のどの辺に取り込まれてるのか、外からだと分かりづらいんだね」
 クリーパーは構造物では無いし、テレパスは相手(ファンゾム)がセットしていなければ通じる事は無い。優れた戦術眼は相手が、ある程度の知能を持っているからこそ役に立つものだ。
 そして、身動きが無い相手を看破するには……難易度が高かった。
 がっしりと腕組したブレイドが告げる。
「自分が救出担当……か? 責任重大というやつだな……分かっていると思うが、順逆自在の術(いれかえ)は対象が確認できていないと使えない」
 封印解除や今回の救出作戦……ファンゾムとの縁を感じつつ、更紗も懸念を発する。
「せめて、おおよその場所さえ分ればいいのですが……」
「ゆっくり調べている暇もないし、博打するにはリスクが大きすぎる」
 ブレイドの言葉通り、救出作戦が失敗すればファンゾムは消滅。タイミングによってはクリーパーが民兵に襲い掛かり、大損害……というのはあり得る事だ。
 如何様に居場所を探るか……その問いに各々が思案する前に、ルイドがクリーパーを威圧するように力強く踏み出した。
「俺は……諦めねぇ。博打ならば、勝つまでだ!」
 クリーパーは知能を持たないが自他の認識は出来る。強大なエーテル(ファンゾム)を取り込んでいる所、同等にも感じられる存在を認めれば、脅威に思うだろう。
 身動きしなかった集合化クリーパーの姿形がぐにゃりと変わった。
 更紗が指を差す。
「見て下さい!」
 ぼこりと音を立てた塊からエーテルの光が漏れている。しかし、それは一瞬の事。大事そうに中央へと引き落とされた。
「集合体クリーパーの中央、やや上側だね」
 一連の動きをしっかりと観察していたアルマが看破すると、更紗に視線を合わせる。その意味を汲み取って、更紗は頷いた。
「後は全力を尽くすだけ、ですね」
 直後、クリーパーから無数の触手が放たれ、戦いが始まった。

 巨大な槍(アルクトス)が宙に轟き、迫って来る触手を薙ぎ払った。
「作戦の邪魔はさせません」
 突入する仲間を援護するようにゲルダ・クラインが『道』を作る。
 救出の為に用意された特別な薬には、効果時間が設定されているのだ。出来る限り、潜り込めるような位置にまで接近したい。
 しかし、それをクリーパーが黙って見ているはずがないのだ。
「抉る事はできそうです」
 体重を乗せた一撃に、凝膠体の塊が音を立てて変形。
 一部位が剥がれ落ちるように消える――が、それは、あっという間に埋まってしまった。けれど、冒険者達はその程度で諦めはしない。
 エーテルの光に包まれた白銀の巨剣が、埋まりきれるよりも前に突き立てられた。ヴィルヘルミナの踏み込みは、ただ剣を突き出し、振るっただけでも、恐ろしい程の威力をみせる。
「この様子なら、攻撃を立て続けに繰り返す事で勝機が見いだせそうです」
 ステップを踏むように姿勢を入れ替えると触手の攻撃を紙一重で避けつつ、荷重を掛けて袈裟懸けに剣を落とした。
「ゲルダさん、私の後に続いて下さい」
「わかりました。背を借ります」
 触手を避けるように脇からスッと進み出たゲルダの一撃がクリーパーを貫く。
 タイミングを合わせる事で抉り取る量を増やす試みは上手くいった。
 他の冒険者達の攻撃も続き、凹むように形状が湾曲した所で、ヴィルヘルミナとゲルダの二人がダメ押しとばかりに、更に踏み込む。
 クリーパーの左右に押し出された部位から、剣山のように放たれる触手群を互いの背を守るように凌ぐ。
「右側(そちら)をお願いします、ヴィルヘルミナ様!」
「任せられました!」
 ヴィルヘルミナの持つ剣の刀身を足場に弾丸のように槍を構え跳ねるゲルダ。その反動を活かし、ぐるりと緑色の髪を流して回るヴィルヘルミナ。
 それぞれがクリーパーの部位を抉り落とした。
 このチャンスをアルマと更紗が狙う。
「再生(チャージ)などさせるものか!」
「はい。再生させる間も与えません!」
 定めた位置に向かって膨大なエーテルが放たれ――ぐずぐずと不気味に発している墨色の領域にルイドが飛び込んだ。
(視界が効かねぇか、そりゃそうだ。クリーパーの体内にいるようなもんだ)
 ルイドは掻き進む中、耳に意識を集中させる。
 見えないのならば、頼りになるのは耳だ。ギシギシと何かをすり潰そうな不快な音が聞こえる……。
 彼女(ファンゾム)の名を叫ぶ。
 その声が聞こえるかどうか分からない。だからと言って、呼ばないという選択は、彼には無かった。
「おい、聞こえたら返事をくれ! ファンゾム!」
 背後が断たれる気配と仲間達が退路を維持しようとする戦う音の中、彼女からの返事は聞こえない。救出する為の算段を誤ったのか……そんな不安が過ぎる。
「頼む――俺を、置いて……逝くな!」
 突き出すように伸ばした手が、何かに触れ、力強く握り締めた。
「ルイド君、遅いわよぉ~」
「聞こえているのなら、返事をしろと言ったぞ」
 ぐっと引き寄せ、彼女が維持している『場』ごと、その身体を抱き締める。
 凍るように冷えた体温だが、命の鼓動は確かに感じられた。
「今さっき、聞こえたのぉ」
 気が抜けたのか、エーテルが枯渇したのか、全身をルイドに預けるファンゾム。後は、脱出するだけだが……彼女を抱えたままは困難だ。
 それを見越したようにレティシア・レインフィールが身を挺して退路を守っていた。 
「薬の必要性はなさそうでございますね」
 縮小しているが『場』の維持は出来ている。しかし、いつまで保つか分からない以上、回復よりも先に脱出を優先すべきと判断した。
 ルイドがファンゾムの身体を渡すように押し出して来て、レティシアが受け取るように引き寄せる。
「私達を守って下さった事に感謝申し上げます。ですが、あのような事は二度ともうなさらないでください」
「手厳しいわねぇ」
 苦笑を浮かべた彼女の背に手を当てながらレティシアはゆっくりと優しく告げる。
「私はもう……誰にも置いていかれたくないのです」
 戦場でその願いが届く事の方が稀だと分かっている。
 だからと言って、想いを閉ざす事も諦める事もしたくはないものだ。
「大丈夫よぉ。これからはぁ、私が見送る方になるからぁ」
 微笑を浮かべたファンゾムの返事に頷くと、レティシアは今一度、力を込めた。
 次の瞬間、クリーパーの体内から抜け出す。
 折角捕らえた獲物を逃がしてなるものかと、周囲から数えるのも馬鹿らしくなるほど触手が伸びて来た――のを、アルマと更紗の魔法が吹き飛ばす。
 それでも尚、縋るように伸びる触手に、クレア・エクレールが斬りかかった。
 退路確保のために、最前線に立ち続けていたのだ。
「ファンゾムさんはボク達の恩人。ファンゾムさんのお陰で、ボクはイグシィと再会出来て、今がある……」
 授恵者ではないイグシィは、厳しい戦場には立てない。けれど、その代わりに特別な薬やクリーパー討伐に必要な準備を整えた。
 数奇な運命の糸を紡いだ恩に、彼の分も背負って、クレアは今、ここに在る。
 地面にペタリと座り込んだファンゾムを庇うように立つと、触手を捌く。
「……だから、絶対助けるし、守るからね!」
「何か……手があるよう、ねぇ~。でも、ルイド君達はまだ、中よぉ」
「大丈夫。そっちも何とかするから!」
 横一文字の斬撃。
 後方からの視線が届いた僅かな合間。だが、それだけでも冒険者達には十分だった。
 更紗が備えに出しておいたクレネルウォールの影からブレイドがエーテルを放つ。
「ここまでお膳立てされて失敗しましたじゃ、腹くくるようだ」
 形容しがたいエーテルの流れが戦場を一陣の風の如く駆け抜け、次の瞬間、ブレイドとファンゾムの位置が入れ替わった。
 直後、倒れるようなクリーパーの直撃を受けるブレイド。
 授恵者とはいえ、致命傷は避けられない事態を――近くに居たクレアは気にせずに、ルイドとレティシアの退路を作る為に三連撃を見舞って抉り続けていた。
「驚くという感情があるかどうかしらないけど、手品みたいだよね」
 意地悪そうな微笑を浮かべるクレア。
 ファンゾムと入れ替わったブレイドは、彼本人ではなく、エーテルで模した分身だったからだ。ダメージを受けても消滅するだけで、ブレイド本人には、何ら影響は無い。
「後は、二人が無事に脱出できれば良いだけだよ!」
 渾身の斬撃を休まず叩き込むと、薄くなった部位が内側から弾けるように吹き飛ぶ。
 レティシアの支援を受けながらルイドが自力で突破してきたのだ。
「制限時間には間に合ったようです」
「彼奴は……そうか……一先ず、と言った所だな」
 脱出してきた二人の視線は、ファンゾムに向けられていた。
 救出後、討伐が完了するまで護衛を引き受けている冒険者達が彼女の傍に居る。
 ルイドは副作用で重くなってきた足を強引に前へと進めた。
「まだ、終わってないってのによ」
 ふと、安堵の声が漏れる。戦いは続いているが、今、この瞬間だけは、救えた事を――手が届いた事を素直に受け止めても良いはずなのだから。

●
 民兵達の存在に気が付いたクリーパーから分離体が次々に現れた。トーラは自らが囮になる事で投石器を扱う民兵達を守っていた。
「サウンドボマーを使う程ではなかったようです」
 トーラはそんな独り言を呟く。もっとも、明確な戦闘区域では使用ができないスキルではあるが。
 地中に捜査系のスキルを使って分かった事は、驚愕の事実だった。
 それは全容が掴めないほど、地中の中にクリーパーが広がっていたからだ。
 倒しても倒しても次々に出現してくる訳だ。ここまで巨大な存在は珍しいが、群体型のクリーパーならではの特徴とも言えるかもしれない。
 気をつけないと、思わぬ場所から湧き出て被害が大きくなるだろう。
 クリーパーの注意を引くようにエーテルを積極的に行使するトーラ。
「わたしを見て?」
 知能を持たぬクリーパーだからこそ、トーラから発せられる脅威に目を反らす事ができなかった。
 スサマジイキョウイ――ダガ、エーテルハオオクナイ。
 もし、クリーパーに感情があり、それを人が認識できるように表現したら、そのように言ったかもしれない。
 超越者としての力は、少なくとも、この場では誰もが想像できなかったであろう事象を引き起こしたのだ。
「……思ったより、数が沢山揃ったようですね」
 本来であれば、多数の民兵を動員して出現させる量が、トーラ一人の為に出て来てしまったのだ。
 とてもではないが、トーラ一人で捌き切れる量ではないし、万が一でもトーラが倒れてしまえば、大量に出現した分離体が投石器隊を襲う事になる。
 そこへ、民兵達を引き連れたイズレンディルとルベア・ベルニが分離体群を挟み込むように駆け付けた。二人とも戦況を広く観察できる所に居たからだ。
「ベルニさんの隊の方が少ないので、私達が主攻になります。各自、全力突撃です」
 怒声と共に突貫する民兵達。
 イズレンディルの魔法攻撃が的確なタイミングで放たれて、かなりの数を消滅させた。
 その状況を確認し、ルベアは弓隊へ指示を出す。まずは、敵に囲まれているトーラに援護だ。
「ここがオルセンにとっては大一番ってね……いつだって、私は出来る限りのことをするだけだけど」
 幾本かの矢が弧を描いて飛ぶ。
 その下をルベアは槍を構えた民兵達と共に突貫。
 槍衾を受けた敵にトドメを差すようにルベアが三連撃を放っていく。
「今です、トーラさん」
「助かります」
 密度が薄くなった所に、トーラが魔法攻撃を叩き込んだ。
 ボロボロと崩れ落ちていく分離体共。空いたスペースにすかさず民兵を進ませるルベア。
「今頃になってだけど分かってきたかも」
 占有している空間には、湧いて出て来ない事。人サイズの分離体は冒険者のエーテルに合わせて合流しようとする事。合流する際に隙を見せる事。
 どんなに強大な存在であっても、ルール(世界の理)からは逃れられない。
 能力が分かってしまえば恐れる事は何もない。トーラと合流したルベアは勢いそのままに分離体群の中を突破して、イズレンディルの所まで辿り着いた。
「消耗した幾人かを交代させて」
 イズレンディルの隊は代行官が率いる本隊が元になっているからだ。偶然だったにせよ、民兵の補充が容易だったのは、ルベアにとっては運が良かった。
「なんだか……多いような気が……」
「ベルニさんの活躍に代行官も期待しているのでしょう。大丈夫ですよ、ちょっと血気盛んな人達だけですから」
 イズレンディルの説明に心の中で苦笑するルベア。
 凛とした表情を崩さなかったのは、彼女がこれまでの様々な出来事を乗り越えてきたからだろうか。
「こんな可愛い冒険者と一緒に戦えるだ。頑張るぜ」
 しかし、調子良さそうな民兵の1人がそんな言葉を発し、ルベアを慌てさせた。
「か、可愛くは、ないから!」
 彼女の照れたような声が戦場に響いた。

 激戦を繰り広げているのは、集合化クリーパーを挟んだ反対側でも同様だった。
 冷静に戦況を把握しつつ、キオルティスが民兵達と共に確実に一体ずつ分離体を葬っていく。
「地下の地質が関係しているみたいだね」
 地表に出ているのは群体の一部だ。大部分は地下に残っており、そこから地表の音やエーテルに引き寄せられる形で分離体が出現している。
「分離と合流をわざと繰り返させる事で、クリーパー自体を疲弊させる事ができるはず」
 その為に必要な要素は、分離体を効率よく出現させる手段と力量を持った冒険者の存在、そして、クリーパーを速やかに倒せる戦力だろう。
 理屈としては分かっていても、実行するのは難しい。まして、民兵を含んだ大規模戦闘となれば尚の事だ。
「民兵の士気も大事な所だ。一応、俺からも声は掛けてはいるが……ここは然るべき人が行う事だと思うよ」
 その台詞をキオルティスは投石器隊を率いるシルヴィア・A・カペルへと向けた。
 無論、常人離れした働きを見せるキオルティスの鼓舞は民兵達にとって心強いものだ。しかし、ここぞという所では、力(スキル)を持った人が行うべきだ。それこそ、役割分担と言える。
「キオルティス。私は……誰も死なせたくない」
「だろうね」
 事実、シルヴィアは回復魔法にて戦線を維持していた。
 士気を上げれば彼らは『人類の盾』として役目を果たすだろう。その結果、クリーパーを倒す事もできるかもしれない。けれど、戦場は非情だ。傷つき、力尽きる者もいるだろう。
 それでも、誰かが背負わなければならない。民兵に託したコンラート・マフダルの心の内を少しだけ垣間見た気がした。
 もし、この場に太守が居たら、かの者はどう語るのか……思案の後、シルヴィアは全軍の前に進み出ると振り返る。
 次の言葉が彼らを死地に誘う事になるとしても。
「此処にいる我らは、全て『人類の盾』だ。盾として命を燃やそう」
 彼女の髪が風に揺れて流れるように舞い、高々と掲げた軍刀の切っ先を集合化クリーパーに向かって突き出した。
「我らが敵を倒し続ける事が、名も無き神の一柱を支える事になる!」
 割れんばかりの歓声。
 投石器隊はペースを速めて攻撃を続行。その振動を感知したのか、あるいは集合化クリーパーが受けたダメージを回復させる為に分離体を呼んだのか、次々に分離体クリーパーが現れる。
「投石器隊を直掩隊は死守!」
 シルヴィアの発破に応じ、槍や剣で武装した民兵達がクリーパーを迎撃。
 あちらこちらで戦いが繰り広げられ、シルヴィアは可能な限り魔法で支援をする。危うい所にはキオルティスが割って入って戦線を維持する。
「ここが正念場だ。立ち止まるな」
 敵を一体倒せば、それだけ勝利へと繋がるのだから。

●
 ブレイドが行使した順逆自在の術(いれかえ)によって、眼前に移動してきたファンゾムの容態の悪さにローザリカ・L・ディオールは息を呑んだ。
 外傷は無いが、エーテルの消耗が激しい。そこに加え、不眠不休だった事も容易に想像ができた。ただ一人、『場』を形成しながらクリーパーの中に居続ける……その不安と孤独は神であろうがなかろうが、想像絶する事だろう。
 じわりと目元が熱くなる。
「……僕の前から急に消えるなど、許さない」
「駆け落ちなら~どうしていたのかしらぁ?」
「地の果てまで追いかけるだけだ」
 そんな軽口の応酬も、再会できたからこそ。
 念の為、回復魔法を行使してみたが、喪われたエーテルまではすぐに回復できない。つまり、ファンゾムを戦力として見込めないので、討伐まで冒険者達で守り通すしかない。
「借りが増えるわぁ」
「僕への踏み倒しも許さないし、させるつもりもないから」
 ファンゾムを捕らえようと伸びてくる触手から守るようにローザリカは一歩進み出た。
 そこに並び立つのは魔法による攻撃を繰り返し行っているジュスト・ヴェルジーだった。
(ここまでは計画通りだ)
 投石器の攻撃も開始されたので、後はファンゾムを守る事に専念するだけ。
 それが如何に困難かは、救出作戦が開始されてから戦場の経過を観察し続けていたジュストだからこそ、よく分かる。
 ルイドとレティシアには副作用があって、すぐにスキルを用いる事が出来ない。その二人を援護していた冒険者達の消耗も大きい。
(そして、クリーパーの能力は俺とは相性が悪いと来ている)
 キャスターの真骨頂は、エーテルを用いた強力無比のスキル攻撃だ。しかし、敵にはエーテルを吸収するという能力があるので、集合化したクリーパーには存分に力を発揮できない。
「フォローは託すよ」
「良い働きを魅せてくれるのだろう?」
 ローザリカからの視線をジュストは爽やかな微笑で返した。
 くだらない言い訳を許してくれる人でない事を、ジュストは誰よりも知っているつもりだ。
「働きに惚れ増してもいいんだよ、ロゼ」
 耳がくすぐったくなるような呟きに、短く返事をしながらそっぽ向くローザリカ。
 勝ち誇った表情でジュストはエーテルを高める。
 要は分かってる……敵が持つエーテル吸収の能力には一定の制限があるのだ。如何に効率良くクリーパーの力を削ぐか……そこに着眼した時、答えは明らかだった。
「一撃で倒しきれれば、エーテルを吸収できない。そして、分離体の合流を防げれば……」
 地表に大量出現した分離体は、個体が危うくなると集合する習性があるようだ。
 冒険者達と民兵らによって大きなダメージを受けた集合化クリーパーは消耗を回復する為に分離体を集める……そこを狙う事で、結果的にクリーパーを弱められると考えられた。
「だから、集合化した敵だけじゃなく、分離体も倒すぞ」
 発生させた超重力は壁となって分離体と集合化クリーパーを隔てた。
 移動力が低い事は、極北での戦いの時には広く知られている事だ。
 故に足止めは極めて有効だった。おまけに今回は出現数も多く、足を止められ進む事も退く事も出来なければ、ただただ立ち尽くす存在になるだけ。
 その様子を見てアルマは確信した。
「そっか……足音に反応させて分離体が大量に出現させた方が、効率的なんだ」
 合流するにせよ分離するにせよ、何らかのアクションを消費する。
 そここそ、付け入る隙であった。あとは分離体を倒しきれる殲滅力さえ揃えば良い。エーテルバリアを展開しつつ、更紗が告げる。
「今こそ、総攻撃ですね」
「それじゃ、遠慮はいらないか」
 ブレイドは頷くとエーテルを込めた蹴りをやや大きめのサイズの分離体に叩き込んだ。行動を阻害させる事ができれば、棒立ちにさせる事も、今なら可能だ。
 そこに手数の多さを活かしてクレアが猛攻を仕掛けた。
「ルイドさんにファンゾムさんを任せて、ボク達は襲ってくる奴を薙ぎ払うよ!」
 トリプルファングは、エーテルを直接ぶつける技(使用回数があるスキル)ではなく、通常攻撃の延長だ。その為、敵が持つ特殊能力は適用されず、ダメージの通りが良い。
 身動きできずにただ切り刻まれる分離体をブレイドとクレアに託し、わらわらと数だけは多い分離体共にはヴィルヘルミナが挑んでいた。
 彼女の剣に薬の副作用から回復したレティシアから、支援魔法が届く。
「出来る限り援護致しますので、存分に戦い下さい」
 威力を増す支援魔法も有効な戦術の一つだ。倒しきれればエーテル吸収されないのだから、攻撃力を底上げすれば、それだけ確実に葬れる確率は上がる。
 眩く光を放つ剣はレティシアとヴィルヘルミナ自身のエーテルを帯びて巨大な刀身を現わした。
「ありがとうございます。おかげさまでクリーパーに圧されないように動けます」
 気合の声と共に振り下ろした渾身の一撃は、多数の分離体を消滅させた。もし、民兵が見ていたら呆然とする程の威力だったのは間違いない。
 しかし、一気に倒したという事はスペースが開く事を意味する。雪崩れ込むように幾体もの分離体が一斉に迫って来た……が、一角が吹き飛ばされて弾けた。
 塵と化して消えていく分離体共の中から、ゲルダが不退転の覚悟で一歩踏み込む。
「ここから先、ファンゾム様の近くには一歩も近づけさせません」
 前線が壁としての役割をしっかりと果たした事でジュストは万全を期してエーテルを練り上げ始めたが、その様子に回復支援兼直湧きした分離体の討伐を行っていたローザリカが感心したように言葉を紡いだ。
「この超重力(グラビティ)の配置……大した使い方だ。実にいやらしい(かしこい)」
 射程圏内の任意の2か所に設置する召喚術は分離体共の位置を誘導させた。知能が無きに等しいからこそ、奴等の動きは移動が容易い方向に集まってくるものだ。
 ジュストは高めるだけ練ったエーテルを放ちながら言い放つ。
「翠風挽歌(シルフィード・エレジー)」
 圧倒的な衝撃波が一帯の分離体を全て吹き飛ばした。

●
「皆さん援護します! だらし無ぇ『人サイズのクリーパー』を倒しましょう!」
 戦場にダニエル・ヘリントンの威勢の良い声が響く。
 分離体クリーパーを迎撃する民兵達をダニエルは支援していたのだ。敵は倒されれば消滅するだけだが、人はそういう訳にはいかない。
 負傷兵が出れば安全な場所に後退させなければならないし、戦死者を放置すると士気に関わる。その為、長期戦になればなるほど、不利だ。
「次はどこでしょうか?」
 弓を構え、援護射撃を繰り返すレタラ・スマリへと質問を投げかけた。
「地下の動きが分かれば、先回りの目途はある程度、つきそうだ。ダニエル氏、右端の隊の傍だ」
 戦域の地下に広く群体クリーパーが広がっている。奴等が分離体となって地表に現れるには、その距離を浮上(移動)しなければならない。途中、堅い岩が埋まっていれば迂回もする。
「分かった。備えておきます。右側の隊の皆さん、おかわりのだらしねぇ敵がお出ましです!」
「事前に出現位置が分かっていれば、その分、対処はしやすいという事だ」
 エーテルを込めて矢を番えるレタラ。
 狙った訳ではないだろうが、捜波と超聴覚、天眼の組み合わせは、把握できる範囲が定められているが、分離体の動きを把握する事が出来たのだ。
 真横や真後ろに出現する直湧きへの対処が、この戦場において役に立った。
「湧く場所が分かれば退避も楽だな」
 ダニエルが副次的な効果にも気が付く。回復支援を行っている身としては大変ありがたい事だ。
 負傷兵を下がらせるタイミングも分かれば、それだけ安全だし、効率的に動かす事もできる。
「投石器隊の攻撃も順調だな。ダニエル氏、回復魔法は後どれくらい使えそうか?」
「少し、危うくなってきました」
 行使できる回数には限りがある以上、仕方ない事。
 だからこそ、戦場の動きをよく把握しておかなければならない。ダニエルの真剣な表情に彼が何を考えているのか、レタラは察した。
 先程の質問の意図を『逆に』捉えてしまったのだろう。
「もう少しだけ、保てれば良さそうだ」
「という事は?」
 返って来た質問にレタラは口元を緩めた。
「地中からの反応が小さくなっているって事だ」
 それはつまり――冒険者達の視界の中に存在するクリーパーで全部という事だ。

 戦場で怖いのは何が起こるか分からないという事だろう。
 追い詰められたクリーパーの分離体共が合流を始める。中央の集合化クリーパーほどではないにせよ、民兵では太刀打ちできるレベルではないサイズを形成し出したのだ。
「此奴らは俺が引き受けた! 民兵の皆さんは安心して攻撃に専念してくれ!」
 漆黒の大剣を振るって奮闘を続け、民兵達を守りきったアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが合流化したクリーパー共の前に立つ。
 恐らくは……まだ冒険者であれば打ち倒せるはずだ。
 そこへ屈強な体躯を持つ戦士――ナフツクが十数人の部下を引き連れて駆け付けた。ずっと支援を続けていたロゼットも一緒だ。彼らもまた分離体クリーパーを倒し続けていたようだ。
「征竜信者か」
 アルベルトは淡々と言い放つ。
 状況を見るに、共闘のような形になっているが、警戒を怠るつもりも無かった。
 ナフツクはアルベルトを一瞥しただけで、ズンと進み出る。
「噂に聞く皇子の片腕か。安心しろ、貴様とは肩を並べて戦うつもりなどない」
「こっちの台詞だ。邪魔ならクリーパーごとぶっ叩く」
 仲の悪そうな二人の間にロゼットが文字通り割って入った。
「支援は隔たりなく飛ばすから恨まないでね」
「「恨むか!」」
 思わず台詞が被り、アルベルトとナフツクは憮然とした表情を浮かべた。
 しかし、それも一瞬の事。互いに戦士としての力量を感じ、剣をクリーパー共に向けて構える。
「次の戦場が楽しみだ。我が名はナフツク。征竜様に付き従う忠実なる信徒だ」
「俺はアルベルトだ。レイウェスト殿下の騎士で、いずれ征竜を打ち倒す者だ」
 視線が交わり散らした火花が消え去るよりも早く、二人の戦士が、この戦いの仕上げとなる戦闘に挑む。
 立場も心情も異なる彼らの戦いは、民兵達の援護も受け、劇的な勝利へと導かれた。


 集合化したクリーパーと地中から湧き続けた分離体クリーパーは、止む事の無い投石器からの攻撃と、冒険者や民兵達との戦いで消耗を続け、夕刻前には存在そのものが消滅したのであった。


●
 散発的な遠距離攻撃や直湧きしたクリーパーからファンゾムを守り切ったルイドは大剣を地面に突き立て、夕陽を望む。激戦は過ぎてしまえば静かなものだ。
 ファンゾムがふらふらと揺れながら脇に立ち――ルイドは肩を回して彼女を支える。
「……もう二度と陽は見られないと思っていたのに」
「守るって言ったろ。それに……見ろよ」
 彼女と共に振り返ると、冒険者達と大勢の民兵が夕陽の中、健闘を称え合う姿が見えた。
 何か一つでも欠けていたら、成し遂げられなかった光景だ。そして、二人がかつて成し遂げられなかった風景でもある。
「ありがとう、みんな」
 ファンゾムの珍しくしおらしい声が風に乗って流れた。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  リプレイ上は快勝した様子ですが、判定ではギリギリでした。幾人かの行動がなければ、間違いなく失敗していたと思いますので、運が良かったとも言えますし、皆様一人ひとりの結果とも言えます。誰かが欠けていたら、どうなっていたか分かりません。  とは言っても、結果を見れば『大成功』です。辿り着いた結末は、望まれる形であったと思っています。そういう意味で統一の称号を全員に配布してあります。いずれ、オルセンを舞台にして事後シナリオを用意したいと思います。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会あればご参加の程、お待ちしております。
イベントシナリオ

イベントシナリオ難しい 報酬:多い19 / 4〜25人

2023年12月14日 11時18分54秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。 神の一柱の救出と聞いて、協力させてもらうわ。 >作戦の概要 現状は、神ファンゾムをクリーパーが取り込んで膠着状態。 これを特別な薬を服用した救出班で、ファンゾムを救出する。 なお薬の効能から、クリーパー体内の活動は5ラウンドが目安。 救出の後、大型・小型投石器によるクリーパーへの攻撃を開始、 予想される各種サイズのクリーパーから、ファンゾムと民兵を 守りつつ、クリーパーの撃破を目指す、かしらね。 >PL情報 オルセン内にいた不穏分子については、ひとまず危険はなし。 征竜信者も、対クリーパーという点じゃ他人事じゃないのね。 >選択肢 とりあえず【2】に。 【1】が作戦の要点だから不足するなら、お手伝いはするわ。 【1】ファンゾム救出 【2】民兵援護 ロゼット

  2. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    >選択肢 【1】ファンゾム救出 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ・・・征竜信者は信用して良いんだろうな?

  3. ダニエル・ヘリントン

    ダニエル・ヘリントン、ヒーラーです。 よろしくお願いします。 >選択肢 【1】ファンゾム救出 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル

  4. トーラ

    シーフのトーラです。 偏ってしまいますけれど、わたしも民兵援護に行こうと考えているのでファンゾムさんと縁がある方は救出の方に専念して頂ければと考えています。 人手不足の様なら移動も大丈夫です。 >征竜信者 クリーパーが相手の内は大丈夫ではないかと。 征竜にとってクリーパーは敵ですし、信者もおそらくは自分の命が大事でしょうから。 【1】ファンゾム救出 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  5. ローザリカ・D・ケレス

    ……ここまで耐えてくれていたんだ、必ず救出しよう。 ヒーラーのローザリカ、よろしく。 僕はファンゾム君の救出へ。 薬の効果が5ラウンド、その後のスキル使用不可も5ラウンド。 その間のカバーとして薬を飲む直前にインフィニティロアを使ってみたい。 攻撃力が上がれば救出をよりスムーズに行えそうだし、 救出後の防御力も欠かせないだろうから少しでも能力を底上げできればと思ってね。 >選択肢 【1】ファンゾム救出 ローザリカ 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  6. ゲルダ・クライン

    ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いしますね。 ファンゾム様の救出にて、侵入経路および退路を作る必要があるかと思いますので、そのどちらか、もしくは両方の担当できればと思います。 薬の副作用で使用できなくなるスキルは「アクションスキル」とのことですので、おそらく特性は使用できるのかな、と。 ですので、突入時に「チャージインパクト」、救出メンバーが中に入り次第「殺界」で経路を維持、(殺界の範囲内は移動ができないので)脱出の際に解除――のような動きになるかな、と思います。 ご要望がありましたら対応可能かと思いますので、何でもおっしゃっていただけますと嬉しいです! 【1】ファンゾム救出 ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  7. ゲルダ・クライン

    はわ、すすすすみません発言が被りました! 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  8. ロゼット

    >ゲルダ >特別な薬 >アクションスキルの使用ができない副作用 たぶん、この「アクションスキル」って使用タイミングが メイン・サブ・リアクションのスキル全般じゃないかしら。 パッシブスキルみたいなタイプは影響なしで。 副作用が出るのは薬が切れた後だから、 体内への突入時は関係ないけれど。 体内からの救出後、薬が切れた後はファンゾムを守るのに スキルが使えないのが大変そうだから、薬は飲まないで 体内には突入せず、あえて外で待って、助け出された ファンゾムを守るって人がいても良いかもしれないわね。

  9. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく。 行先は【1】で。 薬の副作用に関してはロゼット殿が挙げてくれたような認識でいたので、俺は中には入らず救出より救出後の安全確保に重きを置く方で動こうかなと考えているよ 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  10. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 凸凹ふれんずの二人(ブレイドさん、更紗さん)と一緒に【1】で参加よてい 今のところの動きだけどボクと更紗さんの合(体)タイダルストリームぶっぱで ファンゾムさんのところまで届く侵入経路を開通…というか拡張?して ブレイドさんのプリズムシャドウの入れ替えで一気にクリーパー外まで救出 そのままだと入れ替わりで内部に取り残されるなアレな状況になるので プリズムは復体した分身くんに発動してもらってリスクを回避…でいこうかなと 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) アルマ ブレイド 更紗 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  11. ルイド

    ウォーリア、ルイド。どうか、良しなに。 【1】に参加する。 特に貫通力のあるスキルを所持してないのとエーテル吸収の影響も鑑みて、通常攻撃メインで経路のこじ開けを手伝おうかと。救出後は守りに尽力する。 副作用は、俺も能動的なスキル使用に対して発生する印象だったな。副作用がかかるとしても5ラウンド以降のためにカバリングは持って行くつもりなんで、もし特性が使えるんなら守り易くはなるんだが。 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) アルマ ブレイド 更紗 ルイド 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ

  12. トーラ

    『あらゆる』とあるのでメイン、サブ、ロング、リアクションのスキルが使えないのかと思っていましたがどうなんでしょう? とりあえずわたしは前回と同じく索敵とサウンドボマーでの敵の誘導を行いますね。 スキルでの攻撃か吸収されるので、杖を持っての通常攻撃で行こうと思います。

  13. ゲルダ・クライン

    >薬の副作用 なるほど、ご指摘ありがとうございます……! おっしゃるとおり、スキルの種類ではなくタイミングの可能性が高そうですね。 特性含め、5ラウンドの間はすべてのスキルが使用できない想定で行動案を練ってみますね。

  14. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【2】で民兵と連携して戦うつもりだよ。 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) アルマ ブレイド 更紗 ルイド 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ シルヴィア

  15. ローザリカ・D・ケレス

    僕自身の行動としてインフィニティロアの使用予定は変わらず。 薬は飲まずに、常に回復スキルを使えるように備えておこうかなと。 スキルは回復やバフを中心に、エーテル吸収防止に攻撃は素で行うつもりだ。

  16. イズレンディル・パラリム

    直前の参加になってしまいすみません。 キャスターのイズレンディルです。 【2】に参加しますね。 火力担当になる予定です。 それと不要な気もしますが念のため代行官殿へ、 民兵の布陣が敵から同距離で各所の配置に数の偏りが無いように、 加えてファンゾムさんの救出後に退避方向に居る民兵は左右に避難するよう、依頼しておきますね。 初期配置は半円のようですから、もし可能でしたら半円の出口方向に避難していただければスムーズかもしれません。 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) アルマ ブレイド 更紗 ルイド 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ シルヴィア イズレンディル

  17. ゲルダ・クライン

    度々すみません……! 侵入経路の作成にチャージインパクトを、と考えていたんですが 改めて確認したら今回の大型クリーパーは全長5mで、チャージインパクトの範囲である直径3hex(約15m)はやや過剰ですね……。 チャージインパクトは敵味方の識別が行えませんし、別の高火力スキルを持っていきますね。

  18. ヴィルヘルミナ

    直前の参加になりますが、ヴィルヘルミナです。よろしくお願いします。 【1】の方の手伝いに回ろうと思います。人手は少しくらい多くても良さそうなので。

  19. ルベア・ベルニ

    発言がぎりぎりになっちゃったけど… シーフのルベアよ、宜しく。 【2】で民兵をちょっと借りつつクリーパーの対処をするつもり。 【1】ファンゾム救出 ローザリカ ゲルダ(侵入経路の作成、退路維持) ジュスト(救出後の安全確保) アルマ ブレイド 更紗 ルイド ヴィルヘルミナ 【2】民兵援護 ロゼット アルベルト ダニエル トーラ シルヴィア イズレンディル ルベア

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0