開催!北境武闘祭!!!.1223
弓月 蒼
コメント 3
シナリオID:3005
オープニング
●冒険者ギルドにて
それはある日唐突に張り出された一枚の木綿紙に端を発する。
或いは、漸く雪辱の機会がやって来た――――などと、前回を体験した者ならば言うだろうか。
好奇心旺盛な冒険者達の人集りを超えると、そこに記されていたのは明瞭な一文。
つまり典雅な催しを好む『王国』に在っては多く無い。血と泥に塗れた武闘会への招待状だった。
『第二回北境武闘祭 参戦規範』
1つ、試合方式は最大16人参加型、変則3回戦方式とする。
2つ、武器、スキルの制限は無し。戦闘不能、降参、場外で敗北とする。
3つ、定員超過の場合特殊対応。枠が空いた場合、ゲストが参戦する。
4つ、『王国』の為に剣を捧げる意思在りし者は、申込み時の表明を以てのみ受領する。
5つ、武芸のみならず心構えも選定し、成績を問わず登用の対象とする。
我こそは一廉の武芸者たらんとする者よ、北境へと集え。
●北方辺境の夏
「騎士団総員、捧げ――――――――剣」
無数の花片が舞って散る。規律正しく、鞘走った五千近い剣の切っ先が天へと捧げられる。
『王国』北境、城塞都市『ノストガルデン』では、殉職した『白騎士』の慰霊式典が行われていた。
遺体は損傷が激しく、運ばれて即日火葬に処された為葬式も何も無いが。それはそれ。
破天荒な人物ではあれ、命を救われた者も少なくはない騎士の死となれば陳情も有る。
何より、当人が生来大勢で騒ぐ事を好む性質だった。別れもまた――――同様だろうとは。
同領の領主、『アーチボルト辺境伯』メルヴィン・トマス・アーチボルトの見である。
「……執政府も、随分と静かになってしまったな、アルバート」
「然様にございますね。アストリッド様は、良くも悪くも騒がしい方に御座いましたから」
そんな騎士達の姿を見下ろし、メルヴィンは翌日に予定された催しへと視線を向ける。
此度の『第二回 北境武闘祭』はかつて、辺境騎士団選定試験、と称された登用試験を実戦形式にした物だ。
つまり、武を競う事で技術の伝達を。同時に登用を試みることで人材の発掘を。
双方を同時並行して行う事でより広く在野の人間に興味を持って貰おうという意図の施策である。
……が。今回に関しては無論そればかりではない。一昨年より続いた『迅雷侯』との暗闘。
その結果として、王国北方の守護を担う北方辺境騎士団は多大な実害を被り、人材不足に喘いでいる。
勿論、"帝都崩壊”以降の冒険者については各国の協定によって保護されている身分ではあるが。
実力は最早お墨付きだ。例えば、これと良い勝負をする“崩壊以前”の授恵者は即戦力と言って良い。
次期皇帝と王室の第一王女の婚姻が発表されたということは、遠からず『帝都』奪還の報が上がるだろう。
少なくとも、余人はともかく『北方辺境伯』はこれに十分な備えを以て応じられなければならない。
その為には、より『王国』に根ざした騎士の登用が必要不可欠である――――と。
(……いや。これは、言い訳だな)
メルヴィンは、そんな自分の考えを自嘲するように否定する。
義弟の様に思っていた部下と、義姉の様に思っていた部下を共に失い、加え私人としての懊悩も有り。
自分の精神が、御世辞にも冷静とは言えない状態に在ることに彼は既に気付いていた。
そんな自分が、果たして北境の領主に相応しいのか。という問へ、未だ明確な解答が得られないでいる。
にも関わらず、今回無理を押して武闘祭の実施へ踏み切ったのは、“彼女”がそれを殊更好んだからだ。
感傷であり――――領政の私物化と罵られたなら、ぐうの音も出るまい。
「アルバート、私情で政を振り回す私は辺境伯失格だな」
「いいえ、メルヴィン様。名君に必要なのは、確かに超人的な精神性と同質の体力と言えましょう」
「であれば、私にはいずれもない。真似事の鍍金すらも見ての通りだ」
「ですが、超人には人の気持ちは分かりませぬ」
黙り込み、静かに息を吐いたメルヴィンに、アルバートは珈琲を注ぎながら問い掛ける。
彼の役割は、主を甘やかすことではない。叱咤激励することでもない。
自ら名君たらんとすると“辺境伯”の望みの通り。彼を“名君”たらしめること。
その為であれば、例え過ぎた言であると罰されようとも。彼だからこそ出来る役割を演じるのみ。
「第四位よりの申し出はどう為さるお心算ですか?」
「……彼次第だ。その場に居ながら誰も救えなかった私に、止める資格は」
「資格、と言うならば。貴方様以外誰にそれが在りましょう」
――――先代辺境伯より仕えている家令長、アルバートの諫言に。
メルヴィンもまた、琥珀の液体を見つめ沈黙する。感情だけでは、国家の安寧は成り立たないとは言え。
足元で寝ていた、すっかり成体となった灰色の雌猫が。飼い主の奮起を促すように“にゃあ“、と鳴いた。
●楔の試練
「はぁーん。あーの馬鹿弟子、知らねぇ間に死にやがったのか」
髪を掻いて応じた白髪の老人に、晩春に頭までフードを被った森人が肩を竦める。
北境の外れ。世捨て人の多いこんな場所でも、2人の姿は誰から奇人と指を差されても不思議は無いが。
「という事で、次世代の維持の為御助力願いたい訳です。我が主」
「は、手前は何時になったらこんな糞の様な茶番に飽きるんだ? 道化野郎がよ」
「勿論、僕が飽きるまでですよ。何せ……この国には、愉快な火種が多過ぎる」
「そいつに片っ端から火を点けて回ってる野郎が良くも言う。……ま、良い。丁度暇してた所だ」
「おや? おやおやおやぁ? どういう風の吹き回しで? 貴方が自発的に動くなんて何十年ぶりですか」
元から、期待すらしていなかったのだろう。面白がる様な森人の問に。
どうでも良さそうな――――心底からどうでも良さそうな眼差しで以て。
人のことなどまるで理解する気のない『超人』は、けれどそれでも尚――――だからこそ。
吐き捨てるが如くの悪態を貫いた。
「あの馬鹿弟子はあれでそこそこの出来だった。あれが死んだなら今の世は余っ程なんだろうぜ。
なら、今度こそ出来るかもしれねえだろうが。手前や――――俺を殺せる様な怪物がよ」
「ははは、それはどうでしょうねえ。そんな――――笑える時代が来るなら良いんですが」
老人。『北境の楔』と呼ばれる男はいわゆる“ヒトの域を超えてしまった者”だ。
その域まで至っていないと自認する森人すらも薄々理解している事ではあるが。
ヒトの閾値を超えることと、神格に挑む資格を得ることは必ずしもイコールではない。
彼らはいずれも、神位に値せず。けれど生まれ落ちてしまった“異物”の類だ。
それがヒトに災うならばこれを魔人と呼び。それがヒトを寿ぐならばこれを英雄と称す。
しかしいずれにした所で――――再現性が0という異常者に過ぎない以上は。
「それで、此度は何人を上限とします?」
「2人だ。俺の時間も無限にはねぇ。つーかまあ、次が最後の挑戦になんだろ」
「畏まりました。では、僕も偶には真面目に働きましょうかね」
彼らの様な人種にとっては。生も、死も、国家の存亡すら舞台芝居のような物だ。
それでも、かつてはヒトとして生まれ、今を生きる者達を愛するからこそ世俗に浸る。
故に。ヒトの真似事をするように、古くヒトを辞めた者達は非対称に口元を歪めてみせた。
かくて、北方辺境の夏は今一度――――剣戟と共に、幕を上げる。
それはある日唐突に張り出された一枚の木綿紙に端を発する。
或いは、漸く雪辱の機会がやって来た――――などと、前回を体験した者ならば言うだろうか。
好奇心旺盛な冒険者達の人集りを超えると、そこに記されていたのは明瞭な一文。
つまり典雅な催しを好む『王国』に在っては多く無い。血と泥に塗れた武闘会への招待状だった。
『第二回北境武闘祭 参戦規範』
1つ、試合方式は最大16人参加型、変則3回戦方式とする。
2つ、武器、スキルの制限は無し。戦闘不能、降参、場外で敗北とする。
3つ、定員超過の場合特殊対応。枠が空いた場合、ゲストが参戦する。
4つ、『王国』の為に剣を捧げる意思在りし者は、申込み時の表明を以てのみ受領する。
5つ、武芸のみならず心構えも選定し、成績を問わず登用の対象とする。
我こそは一廉の武芸者たらんとする者よ、北境へと集え。
●北方辺境の夏
「騎士団総員、捧げ――――――――剣」
無数の花片が舞って散る。規律正しく、鞘走った五千近い剣の切っ先が天へと捧げられる。
『王国』北境、城塞都市『ノストガルデン』では、殉職した『白騎士』の慰霊式典が行われていた。
遺体は損傷が激しく、運ばれて即日火葬に処された為葬式も何も無いが。それはそれ。
破天荒な人物ではあれ、命を救われた者も少なくはない騎士の死となれば陳情も有る。
何より、当人が生来大勢で騒ぐ事を好む性質だった。別れもまた――――同様だろうとは。
同領の領主、『アーチボルト辺境伯』メルヴィン・トマス・アーチボルトの見である。
「……執政府も、随分と静かになってしまったな、アルバート」
「然様にございますね。アストリッド様は、良くも悪くも騒がしい方に御座いましたから」
そんな騎士達の姿を見下ろし、メルヴィンは翌日に予定された催しへと視線を向ける。
此度の『第二回 北境武闘祭』はかつて、辺境騎士団選定試験、と称された登用試験を実戦形式にした物だ。
つまり、武を競う事で技術の伝達を。同時に登用を試みることで人材の発掘を。
双方を同時並行して行う事でより広く在野の人間に興味を持って貰おうという意図の施策である。
……が。今回に関しては無論そればかりではない。一昨年より続いた『迅雷侯』との暗闘。
その結果として、王国北方の守護を担う北方辺境騎士団は多大な実害を被り、人材不足に喘いでいる。
勿論、"帝都崩壊”以降の冒険者については各国の協定によって保護されている身分ではあるが。
実力は最早お墨付きだ。例えば、これと良い勝負をする“崩壊以前”の授恵者は即戦力と言って良い。
次期皇帝と王室の第一王女の婚姻が発表されたということは、遠からず『帝都』奪還の報が上がるだろう。
少なくとも、余人はともかく『北方辺境伯』はこれに十分な備えを以て応じられなければならない。
その為には、より『王国』に根ざした騎士の登用が必要不可欠である――――と。
(……いや。これは、言い訳だな)
メルヴィンは、そんな自分の考えを自嘲するように否定する。
義弟の様に思っていた部下と、義姉の様に思っていた部下を共に失い、加え私人としての懊悩も有り。
自分の精神が、御世辞にも冷静とは言えない状態に在ることに彼は既に気付いていた。
そんな自分が、果たして北境の領主に相応しいのか。という問へ、未だ明確な解答が得られないでいる。
にも関わらず、今回無理を押して武闘祭の実施へ踏み切ったのは、“彼女”がそれを殊更好んだからだ。
感傷であり――――領政の私物化と罵られたなら、ぐうの音も出るまい。
「アルバート、私情で政を振り回す私は辺境伯失格だな」
「いいえ、メルヴィン様。名君に必要なのは、確かに超人的な精神性と同質の体力と言えましょう」
「であれば、私にはいずれもない。真似事の鍍金すらも見ての通りだ」
「ですが、超人には人の気持ちは分かりませぬ」
黙り込み、静かに息を吐いたメルヴィンに、アルバートは珈琲を注ぎながら問い掛ける。
彼の役割は、主を甘やかすことではない。叱咤激励することでもない。
自ら名君たらんとすると“辺境伯”の望みの通り。彼を“名君”たらしめること。
その為であれば、例え過ぎた言であると罰されようとも。彼だからこそ出来る役割を演じるのみ。
「第四位よりの申し出はどう為さるお心算ですか?」
「……彼次第だ。その場に居ながら誰も救えなかった私に、止める資格は」
「資格、と言うならば。貴方様以外誰にそれが在りましょう」
――――先代辺境伯より仕えている家令長、アルバートの諫言に。
メルヴィンもまた、琥珀の液体を見つめ沈黙する。感情だけでは、国家の安寧は成り立たないとは言え。
足元で寝ていた、すっかり成体となった灰色の雌猫が。飼い主の奮起を促すように“にゃあ“、と鳴いた。
●楔の試練
「はぁーん。あーの馬鹿弟子、知らねぇ間に死にやがったのか」
髪を掻いて応じた白髪の老人に、晩春に頭までフードを被った森人が肩を竦める。
北境の外れ。世捨て人の多いこんな場所でも、2人の姿は誰から奇人と指を差されても不思議は無いが。
「という事で、次世代の維持の為御助力願いたい訳です。我が主」
「は、手前は何時になったらこんな糞の様な茶番に飽きるんだ? 道化野郎がよ」
「勿論、僕が飽きるまでですよ。何せ……この国には、愉快な火種が多過ぎる」
「そいつに片っ端から火を点けて回ってる野郎が良くも言う。……ま、良い。丁度暇してた所だ」
「おや? おやおやおやぁ? どういう風の吹き回しで? 貴方が自発的に動くなんて何十年ぶりですか」
元から、期待すらしていなかったのだろう。面白がる様な森人の問に。
どうでも良さそうな――――心底からどうでも良さそうな眼差しで以て。
人のことなどまるで理解する気のない『超人』は、けれどそれでも尚――――だからこそ。
吐き捨てるが如くの悪態を貫いた。
「あの馬鹿弟子はあれでそこそこの出来だった。あれが死んだなら今の世は余っ程なんだろうぜ。
なら、今度こそ出来るかもしれねえだろうが。手前や――――俺を殺せる様な怪物がよ」
「ははは、それはどうでしょうねえ。そんな――――笑える時代が来るなら良いんですが」
老人。『北境の楔』と呼ばれる男はいわゆる“ヒトの域を超えてしまった者”だ。
その域まで至っていないと自認する森人すらも薄々理解している事ではあるが。
ヒトの閾値を超えることと、神格に挑む資格を得ることは必ずしもイコールではない。
彼らはいずれも、神位に値せず。けれど生まれ落ちてしまった“異物”の類だ。
それがヒトに災うならばこれを魔人と呼び。それがヒトを寿ぐならばこれを英雄と称す。
しかしいずれにした所で――――再現性が0という異常者に過ぎない以上は。
「それで、此度は何人を上限とします?」
「2人だ。俺の時間も無限にはねぇ。つーかまあ、次が最後の挑戦になんだろ」
「畏まりました。では、僕も偶には真面目に働きましょうかね」
彼らの様な人種にとっては。生も、死も、国家の存亡すら舞台芝居のような物だ。
それでも、かつてはヒトとして生まれ、今を生きる者達を愛するからこそ世俗に浸る。
故に。ヒトの真似事をするように、古くヒトを辞めた者達は非対称に口元を歪めてみせた。
かくて、北方辺境の夏は今一度――――剣戟と共に、幕を上げる。
解説
もう一度、俺より強い冒険者に、逢いに行く……!
●成功条件
北境武闘祭が恙なく終了する。
●失敗条件
北境武闘祭が恙なく終了しない。(試合外で死傷者が出た場合中断)
●選択肢
・いずれかの行動を選択すること。行動案の先頭記載を推奨。
【1】参戦!
・参戦し、優勝を目指す。戦いたい相手が居る場合、指名のこと。
(※不正防止の為、指名の相手と必ず戦えるとは限らない)
【2】応援!
・参戦しない。北境武闘祭に参戦しない場合は原則、全部こちら。
執政府訪問、出店巡り、某騎士の墓参りなどしたい場合もこちら推奨。
【3】その他
・参戦とも応援とも異なるがどうしてもやりたいことが有る場合こちら。
行動成功は担保されない。
●執政府前緑地公園改め武闘祭試合場
大理石が敷き詰められた武舞台。半径5ヘクスの円形。
勿論授恵者が本気で一撃入れれば破損するし、足場も悪くなるが修理はされない。
舞台が破損した結果地面に足がついても場外とは判定されない。
規定の範囲から外に出てしまって初めて場外と判定される。
●試合について
・あくまで勝ち進む程出番が増える方式。
1回戦:4人組によるバトルロイヤル×4。各1名選出。
2回戦:4人を2組に分け1対1×2。各1名選出。
3回戦:決勝戦。勝者が優勝。
●戦果褒章
・【1】では試合結果と当人の希望を加味し、騎士団への勧誘が行われる場合がある。
これを受領した場合の将来的身分は『北方辺境伯領従騎士』
現在『従騎士』の受領資格を有する者は『北方辺境伯領正騎士』に格上げ。
辺境伯のお抱えの為、王家叙勲を必要とする『王国騎士』を目指す場合不適当。
受領した場合も当面『内定』扱いの為、後々気が変わって蹴っても良い。
もし正騎士以上の幹部格を目指す場合、自己申告の上2回戦以上進出必須。審査有。
●【楔の試練】
・舞台裏。英雄『北境の楔』と手合わせを希望するキーワード。
【3】を選び、行動案の何処かに上記文言が記載されているとエンカウントする。
此度の同人物は喪われた弟子の時代を探しており、最大2名まで選定される。
超人的に強い以外気紛れで適当な人物な為、誰も選ばれない可能性も当然有る。
●注意事項
・対人要素が強い為、戦いたくない方は【1】以外の選択肢を強く推奨。
・試練を潜り抜けたとして特権的優位性は何も有りません。武に生き武に死にたい方どうぞ。
・勝負事は最終的に相性と時の運。
マスターより
87度目まして。お久しぶりです。『王国』のシリアス&ダーク担当、弓月蒼です。
北方の夏。辺境の夏、と言えばバトル&ロワイヤルじゃろがい!という事でこうなりました。
本シナリオは北方辺境伯領で行われる陰惨な政争……とは何の関係もありません。
気楽に斬ったり斬られたり焼いたり焼かれたりして下さい。夏だしね!多少はね!!
尚、お遊び要素強めではありますが、得た評価。積み重ねた物。人物の立場や心情などは、
取り返しがつく物ではありませんので、どうぞ予めくれぐれもご了承下さい。
リプレイ
●予選開始
其処には、何もない。
にも関わらず、人は何故か。その象徴でしかない"死者"の痕跡に祈りを捧げる。
「何となく、そんな気はしてましたけれど」
『不忘の劫火』アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、其処に置かれた無数の酒瓶。
そこにもう一つを立て掛け、物のついでとばかりに蜂蜜を添えた。
戦友へ、手向けに。等と――――そんな、厚顔な事が言えたならまだ良かった。
その喪失は、誰より自身に誇りを抱かんとする彼女にとって痛恨という他はない。
確かに、彼の白の騎士は以前の彼女より武人として優れていた。けれどそれは言い訳でしかない。
護られるばかり。救われるばかりで、結局一度も救えなかった。
(喪ったのでも、まして奪われたのでもない)
見棄てたのだ、と。アウレーリアはそう自認する。
悼む言葉すら出て来ない。空々しく愁嘆場を演じるには、北境の空は乾き過ぎていて。
「それでも。諦め悪く足掻くと言ったならやっぱり、貴女は笑うのかしら」
彼女ほどの強者を溢し、遍く弱者を護るなど狂気の如き戯言だ。
けれど、それでも。
"誰もが無理だって言ってる事をやってのけんのはさ。そりゃ気持ち良いに決まってんだろ?"
きっとあの女騎士であれば、尚も笑って背中を押すに違いない。
■
北境武闘祭は今回が第二回だ。基本的なルールは変わらず、既に結果を出している者が居る。
真剣に上を目指す者は当然そういった"前回の好成績者"への対策は備えてくるものだ。
となれば、誰もが手探りであった第一回に比べても尚、相性が大きく響く。
即ち。互いに手の内がバレている前提で、勝負運が物を言う試合が多発するに違いない。
「――と言う事で、だ。まぁ気負わずに楽しんで来るといい」
「はいっ! いけるところまで、がんばってきますねっ」
『ゴールディ・ゴブリンズ』ナハティガル=ラーからの言葉を受けて。
気合充分と言った体で応じたのは第一回北境武闘祭優勝者『俊剣』ゲルダ・クライン。
自分自身の不足点を求めて、此度も参戦を決めた小さな修羅である。
さて、とは言ってもこの催しに優先出場権はない。試合が始まれば誰もが平等。
新調した剣と盾を携え武舞台へ上がると、既に他の面々は揃っていた。
北境武闘祭予選、第一回戦。参戦者はウォーリア1、シーフ2、そしてヒーラー1。
東、『俊剣』ゲルダ・クライン
西、『夜翔の流星』ララベル・サン・ディーベル
南、『鋭剣の淑女』ルベア・ベルニ
北、『薔薇と炎の伯爵令嬢』ローザリカ・L・ディオール
「――――行きます」
先ず、様子見に徹したルベアを他所に、前回参加者でもあるララベルが動く。
疾風足の先は、月季花扇と言う獲物が魔法使いの気配を漂わせるローザリカ。
「おや、僕を正面から打ち倒せる心算なのかな?」
「どうかな、僕も自分の力を試してみたいだけだから」
火力に特化したララベルの三連撃が鋭くローザリカの余力を削るも、一手で詰め切るには浅い。
もし初手花零鳥の前に他の誰かが追撃を加えたなら"速攻で押し切る"ことも可能だったろう。
……が、結論から言えばそうはならなかった。
ララベルの火力は眼に見えた脅威であり、反応速度に優れるルベアは乱戦を嫌って待機。
結果、ローザリカから距離を取ったララベルへゲルダが愛剣を携え突っ込んだ。
「っ、手応えが「残像だよ。喰らえっ、旋風――――」
しかし"吹き飛ば"されれば一手で詰み兼ねない以上、当然彼も備えている。
残像で竜の突撃を躱したララベルが体制を崩したゲルダへ矛先を向ける。
――――その、動きの切り換わりの一瞬を、ローザリカは見逃さない。
「可憐な薔薇には、棘があると憶えておくと良い「しまっ」
薔薇の宝棘を纏った蹴りから放たれる魔力の衝撃波。
直撃を受けたララベルが耐えきれずに膝を付く。と、其処まで見に徹したルベアが遂に動く。
「綺麗な足技……でも。油断は大敵はお互い様、よね」
"誰かを倒した隙"を狙っていた彼女の歩法には一切の躊躇いがない。
瞬き一つの間でローザリカへの距離を詰めると右手を囮に左手の短剣を真っ直ぐ突き出す。
体躯を苛む破鎧の呪、けれど衝撃そのものは花の彩衣で大半相殺すると。
ローザリカは自身の生命力回復の為一歩下がる。が、其処に再度剣を振り上げたゲルダが追い縋る。
「せーのでっ! 行きますっ!!「なっ――――!」
どん、と。備えた生命賦活を完全無視した竜の突進。
次の瞬間、ローザリカの体躯は場外に吹き飛ばされており――――
(全身武装の戦士……攻撃が通るか怪しい)
それを見て、ルベアは決勝に備えていた切り札をきる。
空中歩法で場外へ翻すと、虹彩の幻影をゲルダへ。
これが、功を奏していたなら乾坤一擲の一撃として機能したろう。
しかしルベアが感じ取ったのは拒絶の意思。即ち、対象を取る戦技は抵抗可能という事実。
結果、ルベアが自ら場外へ着地してしまった事で第一回予選の結果は定まった。
勝者――――ゲルダ・クライン。
「流石に前大会覇者の面目躍如と言った所だな」
「おぉー、おっさんすげぇー」
指を立てて上記の如き解説に徹していたナハティガルの言に、聞いていた子供達が瞳を輝かせる。
おっさん……と、思わず遠い目をする銀髪鬼を余所に、大会は粛々と進んでいく。
●楔の試練
「お断りしまーすっ☆」
「何故ですか……!」
「やぁ普通嫌ですよ。辺境伯家の家紋印なんて一瞬たりと携帯したくありません。
責任取れませんもん。という事で、どうぞご自分でお返し下さい? がんばえー」
へらっと笑って応じた『隠者』ノイマン・アガスティアに。
漸く彼を捕まえたイヴェール・イリュジオンの頬が若干イラッ……と引き攣る。
とは言え相手の言い分も分からないではない。何せ、アーチボルトは公爵に準ずる家格の貴族だ。
その家紋を刻まれた指輪など、好んで持ち歩きたい人間など余程の奇人だろう。
「んで、結局手前はやんのかやんねえのか」
加え、何故かその場に居合わせた白髪の老人の言葉に。イヴェールは嘆息一つ、幻想器を抜く。
力が必要だ。すべき事は1つ残ってしまったが、いずれにせよこれから先、その一点は変わらない。
眼前の老人の圧倒的“出鱈目さ”は以前目の当たりにして理解しているが。
何の気紛れか、手合わせしてくれると言うならば否やは無い。
「……全力でいけばいいので?」
「抜いて勝てると思うなら、好きにしな」
其処からの数瞬は、まるで現実感が無かった。一切の守備を棄てた一撃必殺。
突貫から戦士の一断、そして、千鳥雷切斬。
並の使い手であれば、知覚より速く命を溢すだろう一閃。それと跳ね上がった鞘が打ち合う。
と、思った次の刹那。間近に迫った白い残影が首を掴み天地が反転。剣先は空を斬った。
「――――がっ」
「覚悟は、悪くねえ」
次いで、背中から落ちたと分かる衝撃。異様、否。異常な反応速度で往なされた――――と。
其処に――――別の角度から放たれた衝撃刃に、老人が身を翻す動きを見せた。
「……よお、暇人」
以前は、挨拶すら叶わず鎧袖一触とされた。なれば、反撃を受けなかっただけ大きな一歩だ。
相変わらず、動きの“前動作”は見えないが。回避の仕草は"絶対に届かない程"ではない。
「ヴィルヘルミナです。御老人」
「老人じゃねえ」
そして、次の一手でも以前の経験が生きた。どうせ"見て避ける"など土台不可能だ。
であれば――――耐えれば良い。瞬きと瞬きの合間を縫う様な"無拍子"を受けて、尚。
その衝撃を噛み締め尚、英雄は再起する。抜身の太刀に青の焔。至近からの胴薙ぎ一閃。
高く鋭い金属音だけを残し、後方へ跳んだ老人が無骨な片手剣を鞘走らせ提げて嗤う。
「――――カリヨンだ」
■
"短縮要素は特にないので、コメガ=エシします"
(あまり気にしたことは有りませんでしたが、コメガ=エシするとどうなるのでしょう……)
北『白金の盾』フリーダ=ブロムヴィストが虚空に視線を向けながら物思いに沈む最中。
その眼前では細かくも鋭い金属音が断続的に響いている。
「死んでいる間にどれだけ進んだか、楽しみですね――――"形成"」
「私は――――もっと強くならなくてはならないんです……!」
東、『Berserker』バル・ヌール・スケアクロウと西、『いつでもお傍に』トーラと打ち合う。
予選、第二回戦は果たして何かの事故でもあったか。南、パヴェル・A・サムルガチェフの棄権により。
初手から3人での戦いと相成った訳だが。フリーダが様子見した必然として。
序盤戦は前者2人が激しく打ち合う近接戦へと雪崩込んだ。
(集中砲火を避けるなら、近接職にはそもそも近付かないのが一番です)
他方、バルは攻撃に特化した適正の持ち主であり、回避に長けるトーラでも完全には避け切れない。
ならばと先手必勝で攻め立てた訳だが、澱による硬質化を貫くには膂力が足りず。
「楽しみましょう?」
「あの人の様には、行きませんが……」
脳裏に描くは白の騎士の奇妙な体捌き。反撃の一撃を、間一髪で避けると大槌を両手で握り直す。
其処へ――――"今"とばかりに踏み込んだのはフリーダだ。バルに視線を奪われたトーラへ前方落下。
からの、竜の突撃。これを、トーラは全神経を研ぎ澄ませ避ける。
「っ、見誤りましたか……!」
結果、場外ギリギリでたたらを踏んだフリーダへ、振り抜かれるは小人の大槌。
フリーダが最後の一歩分を押し出され、縁から落ちた姿を確認しバルが無拍子で仕掛けるも。
「私に負けるようでは修行のやり直しかと思いますよ?」
偽鎗に頬を抉られながら、返しの三連撃が残された余力を削り取る。
かくて造人の狂戦士は倒れ、小人の少女は大きく息を吐くと飾り猫耳を揺らした。
「――――では、未だ進んでも大丈夫そうですね」
彼女の技の再現は叶わずとも。これは紛れもなく、積み重ねた力の証明。
勝者――――トーラ。
●賢者の祭典
「……そう、ですか。報告感謝します」
『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールの報告に、メルヴィンは表面上冷静さを保ち首肯した。
かつて同領の騎士であった黒槍の傭兵の現状に、思う所が無い訳も無い。
――――しかし。
「公主様も『迅雷』も『王国』の犠牲者でありながら加害者となった。
例え当時、『帝国』への対策として必要だったのだとしても、私はこのままには……」
続く言葉には鎮痛の色を禁じ得ない。恐らく、彼女は自分がどれほど危うい言葉を投げているか。
その自覚がない。何せ、彼女が同情を寄せている相手は万に及ぶ犠牲者を出した国家犯罪者達だ。
例えその背景にどの様な悲惨な事実が秘匿されていたとして。その名誉の復興など有り得ない。
そしてそれを"『王国』を正す"事であると。もしもそんな勘違いをしているのであるならば。
「レインフィール伯爵令嬢。私には、貴女の心がとても傷んでいるだろうことは良く分かります。
ですから、この話は此処だけの物として収めましょう」
メルヴィンは言葉を選ぶようにして前置きした上で。
恩義ある相手へのせめてもの助言であることが分かるよう、"敢えて"かく応じる。
「その上で、今。私からウィリアムにすべき言伝は何も無い。この意味が分かりますね」
歴史とは、語り継がれる物であり。語り継がれなかった出来事には理由がある。
証明出来ない過去の傷を掘り返すことは乱を招き、そして国家に於いて乱とは無条件で悪に他ならない。
そう聞いて尚、呑み込み難いと唇を噛むレティシアには、未だ少し難しい事なのかもしれない。
けれどこの一点に於いて、領主にして護国の剣である辺境伯が譲歩することはとても難しい。
何故なら。結果最初に犠牲になるのは常に――――無力な平民であるからだ。
平民と貴族。もし嫌が応にもどちらかが犠牲になるとすればどちらからか、と問われたなら。
彼は恐らく。"貴族である"と、断言したに違いない。
■
「武術だけでは盛り上がらんだろう」
そう思っていたことが、北、『『ストレガ』の意志』ストレガ・L・リベルガストラにも確かにあった。
予選第三回戦。南、『北方辺境伯領従騎士』ジュスト・ヴェルジーが真顔で首を傾げた。
「やぁやぁ、遅れてごめんなさい。さて僕で最後かな?」
東、『フロム・ヘル』レピド・クロサイトが更に自分の前方3人の参加者を見た。
そうして、遅れてやって来た西側へノイマンが武舞台へ上がると、全てを理解したレピドが呟いた。
「……魔法使い、ばかりではないか?」
前衛はレピドのみ。残魔法使い×3である。武術とは一体何だったのか。
「これは――――良い催しですね……!」
観客席。『森を識る者』リディリディ・トゥラ・イェレミースが焼いた肉の串を追加した。
これまで散々出店を荒らして来たのは今、この時の為である。
リディリディは武術に興味がない。リディリディの関心は何処の屋台の串焼きが一番か、である。
だが、その次――――の、次の次くらいには、他人が操る魔法の興味があって観戦に来た。
これまでの力と力、技と技の競い合いは正直串焼きに負けていて憶えていない。だが、今回は違う。
「では、先ず僕から参りましょう。――――風よ」
先ず、動いたのはノイマン。回避に専念するレピドを余所に、向けた杖先に澱が集中する。
しかし、その切っ先は何処も狙ってはいない。意味不明な高密度の澱が、豪風となって"足元"を穿つ。
「……は」
吹き飛ばされたぐちゃぐちゃになった武舞台は正確に5m直線。思わず、リディリディから声が漏れた。
「――――おぉ」
(最悪だ――――!!)
ジュストの見立てでは、故意犯である。相手は明らかに武舞台を"意図的に"破壊しようとしている。
こうなると、天の眼でも持たない限り境界線が読めず、自然中央に集まらざるを得ず。
そして、魔法使いに密集が悪手である事は言うまでもない。
「あ、あの森人悪意しか無いのだ!」
「――――盾よ」
ストレガの声に合わせジュストの視線が向くと同時。無音で精霊の礫が放たれるも。
間髪入れず掌を向けた『隠者』の澱の障壁がこれと打ち合い、相殺した。
恐らく両者の魔法攻撃力は近似値にあるが、こういった場合戦技の相性が物を言う。
「……なら、接近戦で――――」
「"そこに留まれ"「く……っ!」
縫われたように、レピドの足が止まる。ストレガにとって、彼は『隠者』以上の脅威。
そして重力場は"足場"を縛るが故に避け得ない。
「お、ナイス支援!」
「ならば――――その集中を乱す……!」
しかし、『隠者』の余計な一言が災ったか。レピドが印を切るとノイマンの額に魔乱の呪いがぺたり。
「うぇ、ヤバ」
再度放たれる精霊の礫に、やはり澱の障壁を合わせるも。今度はこれを貫いてノイマンの法衣に穴が開く。
ぐっ、と拳を握るジュストを余所に、ストレガは銃眼光壁による城塞化を進め。
ノイマンの杖が向くとほぼ同時、重力場を逃れたレピドが漆黒の短刀を握って飛び掛かった。
「ぎゃー、降参降参! ギブギブー!」
此処でノイマン降参。だが、此処で一手を費やした代償は大きかった。
三発目の精霊の礫がレピドを射たジュストに、城塞化を果たしたストレガが襲い掛かる。
豪風と焔舞鳥。互いの魔力が衝突し、互いの障壁がこれを弾くも。
炎の精霊に銃眼光壁を纏めて破壊されたストレガを、障壁を二枚備えたジュストが押し切る。
「なるほど……こういう戦い方が――――そして、やはり玄関口の屋台の串焼きが一番でしたね」
魔法の知識を求めることに関しては貪欲なリディリディも大満足の予選第三回戦。
勝者――――ジュスト・ヴェルジー。
●餞
「……まさか、こんな形で再会するなんてね」
一番は酒瓶。次に練習剣。花束が三番目、という辺りに人柄が出ていると言えようか。
若い騎士たちの多くがその背中を仰ぎ見たように。その鮮烈な生き様は嫌が応にも痕を遺す。
高価な葡萄酒を墓標に注ぐ『サフィラ探検隊(仮)』サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブもまた。
視線を落とし声を掛けることに、まだ違和感を消しきれないでいる様だった。
「せっかくアストをドヤ顔で助けて、タイマンで勝負して、負かして……」
言いたい事なら沢山あった。罵倒だって幾らでも出て来た。なのに口応えの一つも無い。
そんな筈は、無いのに。
「……私達の勝ち逃げですよ? いいんですか?」
『気高き白』コルネリウス・アーラはしゃがみ込んで問い掛ける。
コルネリウスは桃色のポピー。サフィラはシオン。
其処にもう一つ。白いアネモネが重ねられた。
それぞれに、想いを込めて捧げた花を眺め。応じの無い問を噛み締め。
視界を滲ませたサフィラが。それを見つめる友人と、想い人に抱きつきながら声を殺し呟く。
「ごめん……ハヤト、コルネ……ちょっと、肩借りるねぇ……っ」
長命種である森人にとっての時間の感覚は、唯人とはどうしても異なる。
友達を喪うなんて、もっとずっと先の事だと思っていた。
けれどそうではないのだ。人は死ぬ。別れは突然訪れる。例外は、ない。
「……寂しい、ですね」
コルネリウスが唇を噛む。彼女はきっとすべき事を全うした。唯人の生を貫いたのだから。
自分もまた、後悔の無い生き方をしよう。彼女が、きっとそうしたように。
「……悪ぃ。少し行ってくるわ。サフィラ、頼んで良いか」
拳を握った褐色肌の傭兵が踵を返すと、残された森人2人はただ黙って花をもう一輪。
それは白のポピー。どうか、貴女の残した夢が色褪せないように。
"おやすみなさい、アストリッドさん"
■
予選第四回戦。辺境騎士団の一般騎士では唯一の参加者、北、亜人のザザが落ち込んでいた。
東、『北方辺境伯領従騎士』デイジー・ロックウェルに速攻で場外に吹き飛ばされたからだ。
そもそも治療師は竜の突撃を避ける術に乏しい。
故、相性勝ちの側面も在ろうが脱落は脱落。相手が従騎士内定のデイジーであった事で余計お辛い。
(鋭い打ち込みだったな。学園の先輩とは言え油断出来る相手じゃない……か)
他方、これを一歩退いて眺めていたのは南、『紫水晶の婚約者』海神 江流。
挙動は彼が群を抜いて早いが、予選では生き残る事が先ず第一。となれば攻めるは下策である。
同様のことは西、『銀嶺の旋律』リコリス・アデュラリアにも言え。
一撃受ければ致命傷という典型的魔法使いにとって攻めの隙を晒す愚は極力避けたい。
結果、膠着状態の中素直に動こうとしたザザが真っ先に被害に合った訳であるが。
「まあ……こうなると、此方を狙いたくなるのも分かります」
リコリスの言に、今まさに攻撃に移ろうとした江流が一瞬虚を突かれ足を止める。
戦術眼と洞察力で以て動きを読んだ、のであれば大した物だと頭の片隅で賞賛も浮かぶが。
宙空に浮かんだ白い澱の光。流星煌に込められた魔力を見れば。
この一撃を"躱しきれば"そのまま押し込める相手であることは瞭然である。
「「――――出し惜しみは、しない/しません」」
奇しくも戦術は同じ路線。多段魔法陣から降り注ぐ無数の裂光を、全霊を研ぎ澄ませ避けながら。
江流が迫る。一歩、二歩、三歩――――そして、天から放たれていた光芒が晴れる。
「……あと、一歩だったのですが」
かくんと膝から崩れたリコリスの身を横たえると、残った江流が脇差と短刀を左右に構える。
直後――――
「目指せ正騎士! あとはアナタだけみたいね!」
大剣を振り被り突っ込んで来たデイジーの一撃をぎりぎり避けると、振り下ろした三連撃。
それが盾と鎧に弾かれた上、即、回復魔法で無に帰したことを確認して思わず嘆息が溢れる。
「……キツい戦いになりそうだ」
始まった泥沼の戦いの結果、互いに戦技という戦技を消耗し合い。
結局、最後の決め手となったのは回復魔法による持久力だった。
「やっと――――捉えたっ!!」
高速で振り抜いた大剣が江流の体躯の軸を捉え、その軽くはない体躯ごと武舞台へ叩き付ける。
勝者――――デイジー・ロックウェル
●続・楔の試練
「――――お爺さん! お久し振りです!!」
「帰ぇれ桃色小僧」
即応した老人だが、『破雷の盾』エルゼリオ・レイノーラがこれまでの戦いを物陰から見ていた事。
つまりは彼我の戦力調査をしていたことなど、当然の如く承知の上だろう。
その上で、態々姿を晒したと言うことは勝算があるという事だと。
笑みすら浮かべながら祭刀を抜いたエルゼリオに、抜き身のまま『楔』が相対する。
「随分間合いが遠いな」
「色々準備があるからね!」
此処まで挑戦者との立ち会いを見て来たエルゼリオにはその異常な反応速度は承知の上。
故、長射程の戦技を携えて来た訳だが――――件の老人を眼前に、"下準備"は悠長が過ぎた。
無音の歩法、起こりの無い振り下ろし。それそのものは見慣れた物。
しかし、精度。威力が。速度が――――それらを絶技と表し相違無い物へと昇華している。
咄嗟に澱を宿した竜鱗の盾を掲げ、盾ごと斬られ血を吐き転がる。
徹底して守備を固めた心算でいて尚、生命賦活で耐えるのが精一杯だ。
「腕は上がった。強くなった。で、その力で何を欲する」
「……っ」
「……だから、手前は小僧だってんだよ」
一矢報いようにも、その頂きは余りに高く。
「……で。もう一人はどうすんだ」
「やるに決まってんだろ……俺は『白騎士』を超える男だ」
最も遅れてやって来た、『ブレイブファング傭兵団団長』ハヤト=ガラン=ヴォルファング。
その言葉に、白髪の老人が馬鹿にした様に鼻で笑う。
だが、この日。この時に限って言えば、ハヤトにも退けぬ理由があった。
"勝ち逃げ"される訳には行かないのだ。もう大丈夫だと――――此処で見送ってやる為に。
「その証明の為にあんたに挑ませて貰う……!」
「やってみせろ、仔狼」
横薙ぎに振るった神速の剣戟。それは未だ誰一人まともに受けられた事の無い一閃。
全身の神経、知覚、感覚、その全てを賭して――――ハヤトはその一撃を避ける。
痛撃は頬皮一枚。振り被った紅狗璃が、老人が振り上げた鞘と打ち合い高い音を響かせる。
■
本戦、第一戦。北にトーラ、南にゲルダ。共に小人の2人が相対する。
「何処まで行けるか……胸を借りさせて頂きます」
「はい、全力で行きますっ!」
『隠者』に滅茶苦茶にされた武舞台に、けれど両者はまるで揺れず真っ直ぐに立つ。
正しく強者の出で立ちであり、その決着は容易に付かないだろうことを観客に予期させた。
しかし、その予測は大きく覆される。
(――――っ、通らない……!)
盾を構え護りに徹したゲルダの馬鹿げた硬さを、トーラの連撃では貫通し得ない。
他方、ゲルダの無拍子はトーラの反応速度を更に上回る。
護り、受け、押し切る。あたかも騎士の理想を体現したが如き正面突破で以て。
トーラの無数の連撃を受けきったゲルダの剣先が、その小さな体躯を弾き飛ばした。
――――勝者、ゲルダ・クライン。
そして続く、本戦第二戦。西にジュスト。東にデイジー。
学園での同級生であり、何かと縁のある2人が対面し、互いに視線を逸した。
((……やり難い……!!!!))
デイジーからすれば苦手な級友。ジュストからしても見知った同級生。
前者は関係性から。後者は生徒会役員という立場から。まさかボコボコにも出来ない。
しかし先手を取ったのはデイジー。予選が泥沼も泥沼だった所為で戦技は殆ど枯れているが。
幸い、ジュストは打たれ弱く突進であれば未だ余力が有る。
一気に詰めた速攻で一撃。そう決めていたデイジーに、ジュストがふと呟いた。
「あ、そこ危ないからね」
「は?」
彼が立っていたのは『隠者』が壊した瓦礫の上。そして、デイジーが踏み込んだのはその影。
勿論誰のかと言えばジュストの影であり、彼は自分の陰に"大きめの大理石の破片"を隠していた。
そして、バランス感覚を有さないデイジーはジュストの罠を"洞察"し切れず見事に転ぶ。
「舞い踊れ、焔舞鳥」
盛り上がりも何も無い不可視魔法で仕留めなかったのは、学友へのせめてもの手向けか。
勝者――――ジュスト・ヴェルジー。
●それぞれの未来
北境武闘祭――――決勝。
「俺にしては――――頑張った方だと思いたいけど、ねっ!!」
ジュスト、渾身にして切り札たる翠風挽歌。連鎖爆発する風の魔法を。
その小柄な少女が剣と盾のみを携え真っ向勝負で潜り抜けて来るのは、対する側からは悪夢にも等しい。
「っ――――とらえ、ましたっ!!」
吹き荒れた瓦礫と瓦礫の隙間から、金の髪と緑の瞳の影が跳び出してきた瞬間。
彼は敗北を確信した。何せ、攻撃魔法以外の札は既に全て切った後。せめて回復魔法か障壁がもう一枚あれば。
いや、今はこの小さな騎士の対魔法強度を賞賛すべきか――――そんな事を想いつつの剣戟一閃。
体躯に芯から貫いた衝撃は、なるほど。武闘祭二連覇の偉業に相応しい重さを以て響いた。
「そこまで! 勝者――――」
再度頂点に辿り着いた小人が、審判に指示されあたふたと真っ直ぐ剣を掲げる。
「さて……優勝祝いとなってしまったか」
食事にでも誘おうと思っていたナハティガルが、観客席で苦笑した。
こんな"頑張り"に相応しいとなれば。これは流石に場所を選ばなければならない様だ――――と。
「それで、アルバート。結果はどうなった?」
「従騎士1名が内定。別の1名が正騎士に昇格。それと、優勝者ですが……」
「……ああ」
速報として入ってきた名を一瞥して、メルヴィンが納得の色と共にふと呟く。
「……彼女は、もう殿堂入りで良いのではないかな?」
第二回北方武闘祭優勝者――――ゲルダ・クライン。
――――他方、城塞都市の外れ。
「――――は。幸運任せ、でどうにかなんのは暗殺ぐらいのもんだぜ仔狼」
「っ、く……そ、爺……っ!」
物理的に制圧されたハヤトが呻く一方、息一つ乱さないままの老人が軽く肩を竦める。
散々足掻いた結果として、傷の無い場所が無い程に痛め付けられたが。
それでも、恐らく挑戦者の中で屈指の悪足掻きをしたことについては『楔』も認めない訳には行くまい。
と、杖を付きながら執政府方面からやって来たのはフードで顔半分隠した怪しい森人。
「おや、また随分な有様。それで誰か良い人柱は見つかりました?」
――――こと、『隠者』ノイマンである。
あまりと言えばあまりの言い分に、自分の足の下に居るハヤトが未だ意識がある事を指で示すが。
ノイマンの方は気にした素振りもなくその辺に落ちていた木の棒でハヤトを突いてみせる。
「ま、一人見所がある奴は居た。が、『楔』に相応しいかは未知数だな」
「へえーぇ。これはこれは。ではその方を弟子に取られるので?」
「どうかねぇ。奴が力を求めてんなら話は早いが、ありゃなんだ?
……つか、その辺で止めとかねえと俺ぁあと知らねえぞ」
最後の力を使い果たしぐったり倒れた褐色肌の半獣人を余所に、白髪の老人は肩を鳴らす。
果たして、彼女が己の命を賭す程に何かに執着することなど有るのだろうか、と。
「ま、それも含めて少し考えてみといてくれや」
「……はあ」
名指しで残されていた緑髪の山人が困惑混じりに頷くと。
まるで面白がるように、或いは悪戯な子供が興味深い玩具を見つけたとでも言う様に。
剣一本、鞘一本のみを携えて、『北境の楔』と呼ばれる老人は虚空にくつくつと嗤いを刻む。
■
――――北方辺境伯領執政府、2階。執務室前。
(――――あれからずっと。貴女との最後の約束の事を考えているの)
自らの全てを対価としても惜しくはないと。そう乞うて手に入れた一房の遺髪。
編み込んだその腕輪に手を触れ、『蒼賢』ザザ=ステルヴィナは意を決し扉を押し開く。
執務机に座っているメルヴィンに呼ばれたのは早朝のこと。
墓参りを経て、対する覚悟が固まったのは昼過ぎのこと。漸く、答えが出せそうだった。
「『蒼賢』ザザ。私はあくまで貴公の意思を尊重する。それが、私の。
そして『白騎士』の願いだと信じるからだ。――――貴公の導き出した返答を聞かせて欲しい」
「『メルへのフォロー頼むわ』――――これが、アストリッドさんの最後の言葉でした」
最期の時。果たそうとした役割。責任。それを彼女は全部抱えて、攫って行った。
それが正しかったのか、間違っていたのか。ザザには、その是非については分からない。
けれど。
「あの人は最後まで、メルヴィン様の事は勿論。……私の事まで気にかけて下さった」
強い人だった。優しい人だった。そんな人から託された物を、置き去りにしたくなかった。
それは我儘かもしれない。一度した誓約を反故にするなど騎士失格と言われても異論はない。
それでも。
「……貴公の願いは分かった。では、北方辺境伯メルヴィン・トマス・アーチボルトの名に於いて。
貴公の北方辺境騎士団序列第五位の内定を棄却する」
「……」
「次いで。ザザ・ステルヴィナ。貴公に北方辺境騎士団序列第三位『蒼騎士』の内定を下す。
合わせて現序列第三位『隠者』を第二位へ昇格。以上の任命は帝国の騒乱終結後施行される」
空白があった。瞬きも無く”託された”言葉に。紫の瞳が揺れる。
「――――私、は」
「異論ないか」
「っ……拝命、確かに承りました」
片膝を付いたザザへ、席を立ったメルヴィンが掌を差し出す。
それは、一度は道を別った主従が互いの役割を誓いあう。儀礼に過ぎないのだとしても。
「ザザ。私には貴公が必要だ。どうかこの国を護る為、力を貸して欲しい」
――――其処には確かに、遺されたものがあったに違いない。
北境に蒼く。新たな夏の風が吹く。
マスターコメント
皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。
この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。
先ず、入賞なされた方々。対人は相性と読み合いが醍醐味です。お見事でした。
しかし、それ以外の皆様も様々に頭を捻られた事が良く分かる素敵な行動案ばかりでした。
お礼も兼ねまして『大成功』をお送りさせて頂きます。
もちろん武闘祭である以上、結果として勝敗は着く物ではありますがそこに是非は有りません。
あくまでルールに則った場合の強さ。でしか有りませんのでどうぞご自分の道を突き進んで下さい。
尚、組み合わせは完全に籤運一発勝負、妙な偏りは乱数の仕業です。
MVPは優勝者と準優勝者に。その他、特殊な関係を結んだ方に称号を発行してあります。
ではでは、ご縁がありましたらまた次の機会にお会いしましょう。
イベントシナリオ普通 報酬:多い25 / 15〜25人
2023年06月19日 11時09分18秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
バル・ヌール・スケアクロウです。 優勝はともかく良い経験かと思い【1】を選択しますよー。
レピド・クロサイトだ、よろしく頼む。 腕試しに来たので【1】へ行く予定だ。
操作ミスで消してしまいましたね。 私は【3】で試練に行ってみようかと 何かと勘違いしてましたね…前回参加してませんでしたし