【鬼哭】サチコ派ゴブリンを追え!
七海真砂
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シナリオID:2744
オープニング
それは果たして、自分にとって、どのような存在になるのだろうか。
●離反者の行方
ブラックデスの幹部であるサチコが、ドン・ゴーフルから離反した。
それは、サチコ単独での動きに留まらなかった。サチコは手勢を率いて姿を消していたし、更には、帝国各地に散っていたブラックデスの実働部隊――サチコの配下――が、呼応するかのように、続々と動き始めていた。
「サチコ派のゴブリン達は、どうやら東を目指して移動を開始しているようです。殿下はサチコ派のゴブリンに国外退去を指示していますが、従うつもりがあるのかどうか――南ではなく、東を目指しているというのも、なんともきな臭い状況です」
冒険者ギルドへ依頼を持ち込みに来た兵士ナルディは、ゴブリン情勢を気にして情報収集に来ていたクーネさんに、そう話を切り出していた。
サチコ派ゴブリン達の狙いはわからない。
わからないが、彼らが揃いも揃って東を目指しているというのが気がかりだと、レイウェスト達は考えたらしい。
「そこで、このサチコ派ゴブリン達の捕縛依頼が出ることになりました。分からない事は多いものの、向かう先が東だと分かっているのなら、やりようはある訳です」
ナルディはそう言って、依頼書と一緒に地図を掲示した。
「帝国東部に差し掛かる一角に、リュノーと名付けられた小さな川があります。橋は二つ。東部鎮守都市エスタルとの行き来をするために復旧された橋と、帝国崩壊前に使われていて、今は半ば朽ちている――そうですね、新橋と旧橋と呼びましょうか」
普通に考えれば、多くのゴブリンが新橋を通って、更に東へ向かおうとするだろう。
そこを待ち受けて、彼らの移動を阻止し、サチコ派ゴブリンをうまく捕縛して欲しい。
……と、そうした動きを警戒し、あえて旧橋を通って東へ向かおうとするサチコ派ゴブリンもいるだろう。
そのため、旧橋方面にも向かって欲しいと、ナルディは言う。
「橋を通らずに川を渡ろうとするゴブリンもいるだろうが、それはある程度諦める訳だな」
「そうです。できるだけ多くのゴブリンを捕縛できれば、それに越した事はありませんが……」
サチコの配下のゴブリンたちは手練れ揃いだ。橋だけに場所を絞っていても、突破されてしまう可能性は十分にある。
川全体を警戒しようとすれば、どうしても戦力は分散せざるを得ない。それならば場所を絞って、そこを通ろうとするゴブリンだけでも確実に取り押さえたい……という意向のようだ。
なるほどな、とクーネさんは頷いた。
「それからもう一つ。彼ら、サチコ派のゴブリン達が目指している場所がどこなのかを、できれば突き止めて頂きたいのです」
サチコ達が離反したことで、レイウェストやバルディオンはゴブリン同士の戦争が巻き起こることを危惧している。
サチコ派ゴブリン達が目指している場所は、サチコ派の本拠地、そこまでいかなくても何らかの拠点となる場所かもしれない。戦力が結集しようとしている場所が掴めれば、その対策も、行いやすくなるはずだ。
「捕らえたその場で尋問してみるか?」
「方法はお任せします」
ナルディが否定しないという事は、そういう事なのだろう。
ふむ、ふむ、といくらか呟いた後、クーネさんは言った。
「そういう事なら、私は新橋の方へ行こう。サチコ派のゴブリンは断続的に現れるだろうから、しばらく張り込んで迎撃していく必要があるな。……半日は滞在するだろうから『イダの刻印』を何とかしたい者にも、ちょうど良いだろう」
クーネさんと一緒に半日ほど戦えば、『イダの刻印』を振り払えるらしいということは実証されている。そうしたい『イダの刻印』持ちが居たら一緒に新橋で戦ってくれ、とクーネさんは呼びかける。
「旧橋側にも戦力が必要だが、ま、皆なら上手いこと分かれてくれるだろう。よろしくな」
解説
マスターより
リプレイ
「そうね。前衛は袂に布陣して……ギャメルさん、あの辺りにもお願いしていいかしら?」
「わかった。仕掛けて来るぜ」
新橋に到着した一行は、早速準備に取り掛かっていた。クーネさんと頷き合ったザザ=ステルヴィナが周囲を見回しつつ告げると、鳴子の罠を設置していたギャメルが頷き、巧みに鈴を取り付けていく。
「じゃあ、穴はこの辺りがいいかな?」
「そうだな、頼む」
エルゼリオ・レイノーラは橋の西側、戦闘の邪魔になりにくそうな位置を相談しながら、穴掘り紋具「グレイウォッシャー」を設置した。途端に、深さ10mほどの穴が出来上がっていく。この穴は、捕縛したサチコ派ゴブリンを一時的に留置するのに利用する計画だった。
「……サチコの奴……何を考えてやがんだ……」
橋の手前に布陣しつつ、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは思わず呟く。
ドン・ゴーフル、いやゴブリンという種族そのものの危機が訪れているといっても過言ではないこの状況下に、よりにもよってイダ・バルダスと手を組むだなんて。
「親子の間で確執があった訳では無さそうな上、タイミングが解せないな」
「はい……」
同じように疑問を口にするクーネさんの言葉にエルも頷く。サチコはドン・ゴーフルに忠実な幹部かつ娘であったはずだ。
(……目的、は、何?)
何か、きっと理由があるはず。しかし、その理由が今のエル達には見えてこない――。
「ともあれ、ドン・ゴーフル殿の為にも情報を掴んでやろう」
「そうだな……」
それが判れば、サチコの考えもいくらか見えてくるのだろうか――。ハヤトはクーネさんに頷き返しながら、まだ静かな街道を見つめる。
ゴブリンの接近を真っ先に察知したのは、栗鼠のリルとエーテルリンクを結んでいたエルだった。街道の様子が見える木の上にリルを残してきたエルは、周囲を警戒しながら進む三人のゴブリンの姿を見つけていた。
「ありがとう。集まって」
エルゼリオは周囲に合図すると、強力なエーテルの波動を開放し、周囲の皆のエーテルを一気に増幅・上昇させる。黄金色の光を立ち登らせながら、クーネさんが前方に見え始めたゴブリン達を見据えた。
「一気に捕縛するぞ」
「了解、です……いきます」
漆黒の髪を靡かせ、エーテルを纏ったミゼリア・L・ステュクスは一気に大地を舞った。ゆらり、影から影へと渡るように駆けるミゼリアの姿に気付いた、サチコ派ゴブリン達が短剣を構える。
(連撃、ですか……でも)
瞬間的に指先を繰り、黒縛の手枷でそれを受け止めれば、黒きエーテルが花弁のように散る。
その後ろから飛来する無数の光弾は、オゴスの元から放たれたものだ。オゴスは反撃を受けぬよう、巧みな身のこなしで脇へ抜けると粘性のエーテルを上手く操って、木の上に上がった。
(手練れと聞いているからな。一気に追い詰めよう)
衝撃刃を飛ばしながら距離を詰めたレピド・クロサイトは、竜牙の暗針に赤光のエーテルを纏わせ、刃と成して斬りつけた。途端に糸状へと変化したエーテルが、サチコ派ゴブリンの一人へと纏わりつく。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!」
そこにハヤトが吼えながら飛び込み、紅雷纏う暴雷の竜巻と化したかのような連撃を繰り出す。
レピドとハヤトに足を止められたサチコ派ゴブリンは、他の二人に先に行くよう促そうとするが、
「所属は特に無い、ただのクーネさんがお相手しよう」
ハヤトを真似するように名乗ったクーネさんが、宝剣マフダルを叩きつけると見る間に動けなくなる。最後に残った一人も、
「だめ……わたしのことを、みて?」
ミゼリアの囁きが絡みつくように忍び寄り、ミゼリアから離れ難くなる。その首筋目掛けてエルゼリオが竜石の祭刀の柄頭を強打すると、サチコ派ゴブリンは意識を失った。
「よし、こっちも行くぜ!」
「ああ」
ハヤトの声に頷き返すとレピドは一気に攻撃を集中させる。後ろからオゴスの魔弾とエルの矢が飛ぶ中、サチコ派ゴブリンは道を切り拓いて突破を試みようとするが、ハヤトもレピドも決して退くことは無く。反対に、サチコ派ゴブリンを戦闘不能へと追い込んでいった。
「緒戦の結果は上々、ね」
橋の守りを固めていた、ザザやギャメル、ルイド達が胸を撫で下ろす。すぐさま、意識を失ったゴブリンをルイドがロープで縛り上げ、戦闘不能になったゴブリンは、オゴスが光縛呪で拘束していった。
「あなたも、こっち」
ミゼリアはクーネさんが対峙していたゴブリンの元へ向かうと、しなだれ掛かりながらロープを巻いていく。ふわりと漂う良い匂いと共に、上目遣いで「ここから……どこへ、行こうと、していたのかしら……?」と、じっと見つめるミゼリアだったが、ゴブリンはなかなか口を割らない。
「貴方達が目指しているのは、ゴブリン達の故郷――大樹海じゃなくて?」
「フン……」
ザザは思いきってストレートにぶつけてみるが、ゴブリンはそうそっぽを向くだけだった。
「じゃあ、武器は取り上げて。穴に入っていて貰おう」
「あの、預かってもいい、ですか……」
であれば、予定通りグレイウォッシャーで掘った穴の中に放り込んでおこう、と口にするクーネさんに、エルは申し出ると残留思念感応で何か読み取れないかと試みる。レピドもまた、ゴブリン達と戦った場所を確認するが、「ここを突破して東へ向かわなければいけない」という感情が強く、具体的な場所までは掴みづらい。
「ただ……これほど東、を、意識している、なら……大樹海というのは、無さそうですね……」
サウゼル大樹海はロスガリア大陸の南方に位置している。南への意識が薄すぎて、可能性が低いのではないか、というエルの予測に、なるほどとザザは頷いた。
「拠点……、エスタルの地下、は、壊れてる、し……?」
「もっと東……辺境都市群、なのかもな」
東といっても……と考え込むエルに、レピドが口にする。アダムが逃げ込んだアキュアリスタの遺跡も、東といえば東にある。同じ遺跡を目的地にしているとは限らないが……辺境都市群のどこかが目的地という可能性はありそうだった。
「他の、ゴブリンを捕まえる間に、はっきり、と、させたい……ですね……」
この後もサチコ派のゴブリン達がやって来るはずだ。彼らから、何とか情報を引き出したいと口にするエルの言葉に、シャドウは淡々と己の指先を見た。
(やはり、口を割らせるには拷問だろうか)
残酷かもしれないが、何枚でも躊躇なく剥がせる自信はある。そんなシャドウの姿に、考えていることを察したのか、クーネさんは隣に立つと言った。
「……最後まで誰も口を割らなかった場合は、その手でいこう」
「そうだな」
誰かが口を割らせることに成功したら、やる必要は無いからね、と頷くシャドウ。もうしばらく様子を見ようというクーネさんの言葉に異論は無かった。
「さて、今のうちに水分補給を済ませておくとするか。長丁場だからな、交代で休憩も取ろう」
水袋を手にしたルイドの呼びかけに頷き、一行は交代で休息を取りながら辺りの警戒に戻る。
その頃――旧橋側にもサチコ派ゴブリンが現れていた。
「ぐっ!?」
「掛かったね。今のうちだよ」
キオルティスが仕掛けていた罠にサチコ派ゴブリンが掛かり、躓いている間に、ラティア・ミゼリアが超視覚を生かして構えた矢を放つ。足を貫かれたサチコ派ゴブリンへと、アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは瞬間的に加速し一気に距離を詰めた。
「ここから先には行かせないぜ!」
シュトルツを振り上げ、一気に叩き斬る。サチコ派ゴブリンは受けた傷に構わず突破を試みようとするが、その周囲に稲妻が荒れ狂う。
「そうはさせないのだ」
ストレガ・L・リベルガストラの呟きと共に、稲光は無数の蛇のようにサチコ派ゴブリンへと絡みつき、その移動を阻害する。そこへ、進み出たキオルティスが姿勢を低く構えると、足元目掛けて二刀流による超高速三段連撃を繰り出す。
「く……」
「おっと」
反対に振るわれた刃を、瞬間的に高めた反応速度で回避するキオルティス。そこに再びラティアが弓を構えた。
「私は、不殺を狙う余裕があるほどの手練れではないので……やりすぎてしまったら、ごめんなさい……私も、死にたくはないので……」
なるべく戦闘力を奪う方向で狙いたいと、弦を引き絞りながらも自信なさげな表情を崩さないラティアの言葉に、一瞬サチコ派ゴブリンの顔が強張る。――飛来した矢は、その右手首を貫き、衝撃と痛みにサチコ派ゴブリンは武器を落とした。
「………」
そんな戦闘を迂回するように、橋の上流側を通り抜けようとするサチコ派ゴブリンがいた――が。そこに、魔弓による不意打ちの矢が飛んだ。
「悪いな。ここを通す訳にはいかないんだ」
立ち上がったテテリカと、サチコ派ゴブリンが睨み合う。
大丈夫、すぐに橋にいる仲間達が来てくれるはずだし――橋を渡り切った地点には、エーテルリンクを結んだゴリラのオニフスベも待機してくれている。一人だが一人では無いと言い聞かせて次の矢を番えようとしたテテリカに、サチコ派ゴブリンがエーテルを纏った強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐ……」
「テテリカくん! いけない、皆!」
交戦の様子に気付いたアラン・スミシーは駆けながら、衝撃刃を飛ばして援護に入る。すぐに、その声を聞いたアルベルトが走った。
「俺達の戦いを見て、厄介だと判断したんだろうが……川を渡らせる訳にはいかない!」
強靭な肉体を駆使してシュトルツを構え、その背中へと斬りつける。続けざまに、風のエーテルを纏って加速したラティアの矢が、サチコ派ゴブリンの足と地面を縫い付けるように貫く。その間に、テテリカは癒しの光を操り、体勢を立て直していった。
「下っ端に用は無い、が……幹部級の居所、吐いて貰うぞ」
暗爪刀「狐爪」と 暗刺刀「狐牙」を構えながら、ベルク・オスマットは全身に威圧感を立ち登らせていた。激しい乱撃が嵐のように繰り出され、サチコ派ゴブリンを切り刻むが、相手は癒しのエーテルでその傷を塞ぎながらベルクを振り払おうとする。
「させん。さあ、幹部級の居所を吐け」
「しつっっこい!」
常に止まることなく動き続けるベルクは、サチコ派ゴブリンの行く手を遮り続けていたが、喰らう反撃の重さにじわじわと体が重くなっていく。
(潮時か)
共倒れに、なる訳にはいかない。足を止めたベルクの脇をすり抜けていくサチコ派ゴブリンを、ベルクはもう振り返ることすらしなかった。代わりに見据えたのはサチコ派ゴブリンの足跡である。
「さて……読み取れると良いのだが」
残留思念感応で、ベルクはサチコ派ゴブリンの思念を読み取ろうとする。東へ、痛い、邪魔だ、うるさい、しつこい……苛立つような感情と共に流れ込んでくる思念に交じって、南、というフレーズが流れ込んでくる。
「幹部級の居所をしつこく尋ねた甲斐があったらしいな」
東ではなく、南……南側は新橋が掛かっている方向だ。幹部級がそこを通るつもりなのであれば、情報を引き出すチャンスにもなるだろう。
「ベルク=ターク、頼むぞ」
その旨を走り書きしたベルクは愛馬を新橋の方に走らせる。ベルク自身はここに残り、川を直接渡ろうとするサチコ派ゴブリンへの対処を続けるつもりだった。
「早、い……!」
新橋では、何度目かになるサチコ派ゴブリンの迎撃が行われていた。ザザのクレネルウォールが橋を渡ろうとするサチコ派ゴブリンの邪魔をするが、その透明な光の壁を乗り越えてサチコ派ゴブリンは進もうとする。
エルは瞬時に判断を下すと、重撃射を放った。対象にエーテルが纏わりついたそこへルイドの魔弾が炸裂し、シャドウが目にも止まらぬ早業で素早く敵を三回切り付ける。
「っ」
その瞬間、繰り出された反撃の刃を、シャドウはすべての感覚を研ぎ澄ませて見切り、紙一重で回避する。しかしそれによって体勢を崩した隙を突き、サチコ派ゴブリンは橋の突破を試みた。
「ハヤト!」
「ああ、そうはさせねぇぜ!」
爆発的な脚力をもって天を駆け抜けたハヤトが、そこに立ち塞がる。すかさず、ザザがアーケインストリームを荒れ狂わせてサチコ派ゴブリンの動きを阻害すると、更にエルの精密射撃が足を貫いて動きを鈍らせようと試みる。
「加勢しますよ」
「さんきゅ」
オゴスの魔法が飛ぶ中、短く答えたハヤトが峰打ちを狙って殴りかかる。相手を気絶させることを狙った一撃だったが、サチコ派ゴブリンはフラつきながらも踏ん張り耐える。
「俺の回復はいい、ハヤトを」
「わかった」
エルゼリオに呼びかけながら、ルイドは防御性能を瞬間的に高めてサチコ派ゴブリンの反撃を受け止め、竜鱗の盾で押し戻すように突き飛ばす。すかさず、シャドウが再び三連撃を繰り出すと、
「うるぁあ!」
吼えたハヤトの拳打蹴撃がサチコ派ゴブリンを戦闘不能へと追い込む。ザザはエーテルを繰ると、光縛呪でその体を縛り上げた。
「あんた、サチコの腹心の一人だろ? けどよ、本当にサチコについて行っていいのか?」
ギャメルは、そんなサチコ派ゴブリンに揺さぶりをかけるように肩へ触れながら語り掛けた。
「冒険者ギルドが掴んだ情報によると、サチコは刻印持ちの部下を招集して、部下の生命を代償に大掛かりな儀式に取り組むらしいじゃないか」
「何を、言っているんだ?」
眉を顰めたサチコ派ゴブリンからは、困惑と動揺が伝わって来る。エンパシーでそれを受け取ったギャメルは静かに思案した。
(そうした情報は特に持っていなかった、って感じか? サチコ側についちゃいるが、こういう話に動揺するってことは、心酔してるってほど忠誠してる訳でも無さそうだ)
「だからさ、ドンの側に戻って来いよ。そんでサチコの行先を教えてくれ」
エスタル、聖地、アキュアリスタ……ギャメルはカマをかけるように、いくつかの地名を挙げて尋ねてみる。だが大きな変化は感じられず、彼らが向かおうとしていた先までは掴めない。
「新手、です……」
「回復するよ、集まって」
更なるサチコ派ゴブリンの接近を察知したエルの言葉に、エルゼリオは頷くと、ハイパーヒーリングオーラで皆の傷を癒していく。度重なる戦闘で積み重なった疲労にスキルの残数……厳しい戦いが待ち受けていることを、エルゼリオは直感していた。
それでも、
「――犠牲者は絶対に出さないよ!」
味方にも、敵にも……そう改めて誓い、橋のたもとに布陣する。
「三人か、厳しいねえ」
旧橋側に迫るサチコ派ゴブリンの姿を見やったアランは、手強そうだと呟きながら、仲間達に呼びかけエーテルの波動を開放した。ゆらゆらと立ち登る蒼白い光を纏いながら、ラティアはエーテルを収束させて破壊力の増した矢を鋭く射出する。
「アルベルトさん、右手のゴブリンを頼んでいいかい?」
「わかった。中央の足止めを頼む!」
キオルティスに頷き返して、アルベルトはウンボイクザームに輝くエーテルを纏わせながら、突き進んでくるサチコ派ゴブリンを食い止めた。キオルティスは中央のサチコ派ゴブリンからの一撃を何とか躱すと、相手の肉体を蝕むためのエーテルを纏わせた刃を突き出す。
そんな二人の左手側を、もう一人のサチコ派ゴブリンが通過しようとするが、
「通さないぞ」
脇に潜んでいたテテリカが、不意を突くように矢を放つ。そこに絡みついたのはストレガの放った蜘蛛糸のようなエーテル。すかさずラティアがグラヴィティボルトで行動阻害を試みた。
「おじさん、前に立つのは向いてないんだけどねえ……仕方ないよねえ、踏ん張るよぉ」
それでも突っ込んでくるサチコ派ゴブリンを、アランは何とか竜石の祭刀で受け止める。
(なるべく傷付けたくは無いのだ、でも)
移動を阻害するための手は使い尽くしてしまった。観念させるにはやむを得ないと、ストレガは構えた手元から魔法を放つ。
「ええい、退け!」
「っく!」
中央を突破しようとするサチコ派ゴブリンの一撃に、キオルティスの体が裂け、血飛沫が舞う。それでも踏み止まるように竜牙の細剣を構え、魔法を飛ばして反撃するキオルティス。みんなまとめて回復しようね、と眩く温かい太陽光に似た癒しの光がアランの元から広がった。
「オニフスベ、頼む」
友人たるテテリカの呼びかけに、オニフスベは白い毛並みを揺らして睨みを利かせた。突破を試みようとしたサチコ派ゴブリンの足が再び止まり、オニフスベを迂回して先を目指そうとするが、追いすがったキオルティスの衝撃刃がその足元を切り裂く。
「すみません、行かせる訳にはいきませんので……」
更にラティアがエーテルを込めて、破壊力の増した矢で反対側の足を貫くと、思うように動けなくなったサチコ派ゴブリンの足元がモタつく。
「許して欲しいのだ」
ストレガは叡智に至る万覚帳を構えると、その丈夫な装丁を思いっきりサチコ派ゴブリンの首筋へ叩きつけた。強打され、ぐらりと揺れた体を、すぐさま光縛呪で拘束し、更にロープをきっちり掛ける。
「お仲間は夢の中へ行ったみたいだな?」
あんたは、どうする?
そう呼びかけるように見据えるアルベルトだったが、サチコ派ゴブリン達は降参しようとはしない。その後も攻撃を積み重ね、最終的に捕縛には成功したものの、消耗は大きかった。
断続的に迫る敵との戦いは、二つの橋の周辺で続けられた。限界ギリギリまで二つの橋の間で動き回っていたベルクが旧橋側へと合流した時、そこでは、意識のあるサチコ派ゴブリン達に向かって、ストレガが静かに語り掛けていた。
(これが上手くいかなければ……)
拷問も辞さない心構えで、アルベルトがその行方を見守る。テテリカもまた、オニフスベと共にいつでも尋問に取り掛かれるように待機していた。
「サチコ殿の目的は神になることではなく、ドンを助ける事に変わりはないはずなのだ。サチコ殿は決してイダに屈したわけではない、そうだろう? ……ならば我々が、汝らの代わりにサチコ殿を助けてもいいはずなのだ」
ゴブリンという種族の未来のために、できることを、する。
(同胞を善導するのがストレガなのだ)
だから、どうかサチコ殿の居場所を教えて欲しいと呼びかけるストレガに、サチコ派ゴブリン達は顔を見合わせて押し黙る。それでもドン側についている冒険者には話す訳にはいかないと、口を噤む様子に、ストレガは一人のゴブリンを選んで肩に手を掛けた。
「目的地は東……イェルノー荒野なのだ?」
エンパシーを通じて、驚きと衝撃の感覚が伝わって来る。見ればサチコ派ゴブリン達の間に、ハッとした表情が広がっていて。
(当たりのようなのだ)
いくつかの単語を呼び掛けるつもりでいたストレガだったが、最初の一言がビンゴだったと直感していた。
「オゴス、小道具は大事だ。これを見せてやると良い」
クーネさんが渡したロープを手に、オゴスは囚われたサチコ派ゴブリン達のいる穴へと向かっていた。訝るようなゴブリン達の視線を浴びながら、オゴスは範囲外には音が届かなくなる結界を作成する。
「これで連中には聞こえません。……俺も、サチコさんに協力したいんです」
他の冒険者達の隙を突いて、皆が脱出できるよう相談がしたいと、オゴスは手にしたロープを見せた。
自分にもイダの刻印があるという真実を語りながら、嘘を散りばめるオゴスの演技は見事な物だった。「脱出計画を盤石なものにしたいから、サチコさんの目的地を俺にも教えて欲しいんです」と訴えるオゴスに、幹部級ゴブリンが口を開いた。
「イェルノー荒野にある遺跡だ。そこでサチコ様は神に至る儀式を行う予定でいらっしゃる」
「儀式を……」
神になると宣言したサチコが、実際にその儀式を行うための場所に、サチコと配下達は集まろうとしているのだ。
「そうですか、ありがとうございます。では……」
「!? お、おい!?」
オゴスはエリアサイレンスを解くと、すぐに穴から離れていく。呼び止めようとするサチコ派ゴブリン達には目もくれず、結界のすぐ外で待っていた皆に、聞き出した情報を伝える。
「いかなる方法で、いかにしてサチコさんが神になるつもりなのかは、わかりません。ですが――放ってはおけないでしょう」
「そうだな。それに、レイウェスト皇子が征竜と交わしたという言葉が本当なら……それと向き合う時が来ているのだろう」
頷き返しつつ、クーネさんが皆を見る。
「『神座に至らんとし 世に害を成すものを 殺せ』だったか――サチコを止めなければ、奴自身がその為にやって来るに違いない」
そう言って、クーネさんが見つめたのは北の空。北壁山脈の更に向こう側……征竜が住まう地、極北のある方角であった。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)難しい 報酬:標準17 / 6〜50人
2023年01月29日 23時03分45秒 公開
参加者
相談掲示板
シーフのオゴスと申します。皆様どうぞよろしく。 クーネさんの予想によれば俺達冒険者の戦力分けは新旧で7:3が目安になりそうですね。 俺は新橋側に行きたいと思います。ゴブリンにかけられた例の厄介な刻印を解く機会ですから。
レピド・クロサイト、シーフだ。よろしく頼む。 俺は刻印もないことだし【旧橋】の方にいくかな。人数比によっては移動も可能だ。
シーフのキオルティス。今回はどうぞ宜しくね! 俺は旧橋に行こうかな…と思ってるよ。 なるべく早く旧橋までに到達出来たら…と思ってたり。 そう言えば、サチコたち離反ゴブリンの中で、能力者って どのくらい居るのかな…。能力者が居ると新橋/旧橋間の 連絡を取られたら何となく厄介かな、って思ってみたり。
エスタル方面の東…。 人馬族の聖地とエーテル石が目的か? だとすれば通す訳にもいかんし、場合によってはレミーラ婆さん達に連携が必要になるな。 我は新橋と旧橋の間を駆け回ろうと思う。
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 ・・・レイウェスト殿下の盟友であるドン・ゴーフルから離反したって事はサチコ一派はレイウェスト殿下の敵って事か。 ならば、容赦はしない。 旧橋に向かってくるサチコ一派を迎撃するぜ!
ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。どうぞヨロシクね! >配置 新橋と旧橋に現れるゴブリンの比率は七対三って事らしいし、ボクはメインの新橋に向かうね。 >初動 ボクよりINIの高い希望者は付与後に行動して貰う事になっちゃうけど、開始時に【ウェイブ・オブ・インフィニティロア】を全体付与する予定だよ。
キャスターのザザ=ステルヴィナよ。 今回はどうぞよろしくね。 私は新橋の方に行かせて頂くわん。 >行動 新橋には「アーケインストリーム」を設置して、橋を渡ろうとするサチコ派ゴブリンさん達の移動を阻害する予定。 その他、希望される方がいるなら開始時に「ウォーターウォーク」を付与する事も可能よん。
シューターのラティア・ミゼリアです、よろしくお願いします…… 一応、旧橋のほうを予定していますが……人数に偏りがあるようなら、移動はできます。 >行動 捕縛が基本とのことなので、あまり全力で攻撃をするわけにもいかないんですよね…… 戦闘能力は高いとのことですし、私なんかが加減している余裕があるかしら……バッドステータスを付与する方向で動いた方がいいでしょうか……?
シャドウだ。よろしく。 俺は人手がいりそうな新橋の方へ行くよ。 しかし新橋というとあれだな。 飲み屋街とかそういうのを思い浮かべてしまうな。 どうでもいいことだが。
ヒーラーのアラン・スミシーだ!どうぞよろしく! 今のところ旧橋に行く人の方が割合が多いっぽいれども、 ヒーラーが足りないか居ない方に行くので、現状は旧橋に行く指針。 ヒーラーの人手が足りるようなら新橋の方へと転換するね。 ハウリング・オブ・ブルーフレアをなるべく最速でぶっ放すつもりだ、 あと純粋にヒーリングに集中するから、後ろは任されたよ~!
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! とにかく向かって気やがるサチコ派ゴブリン共を片っ端からぶっ飛ばして捕まえりゃいいんだよな? んじゃ、俺は今のバランスを見て新橋よ方で暴れることにすんぜ!!
ウォーリア、ルイド。良しなに。 俺もひとまず新橋予定、捕縛用にロープも持っておく。必要ありゃ移動は問題ねぇ。 >加減 一般人なら手加減しねぇと殺す可能性が高くなるが、授恵者ならルール上相当なオーバーキルでなけりゃ戦闘不能で済むはずなんで、全力で殴っちまっていいんじゃねぇかな。
ここまでの宣言を纏めてみた、間違いがあったらすまない。 現状の比率を鑑みて、ひとまず俺は新橋の方に希望を変える。 【新橋】(刻印解除はこちら) オゴス エルゼリオ ザザ シャドウ ハヤト ルイド レピド 【旧橋】 キオルティス アルベルト ラティア アラン 【その他】 ベルク(新橋・旧橋の間を駆け回る)
よし、現状の人数で振り分けの度合いはちょうどいい感じかな? おじさんは相変わらず旧橋にいることにしよう、 ヒーリングに注力するから思い切り暴れておいで!
エル、です。…シューター、です。 どうぞ、よろしく。 新橋、に、行こうと、思い、ます。 尋問用(?)、に、残留思念感応、持っていって、み、ます…。
レピドさんは人数の纏めをありがとうございます。 俺の個人行動の流れはこのような予定です。 潜伏しながら捜波で索敵。敵と距離をとりながら魔法攻撃。倒れた敵に光縛呪。 敵一人を尋問。演技で協力者と偽り情報を聞き出すつもりでいます。目論見が上手くいくといいんですがね。 実際に冒険者ギルドを裏切ることはないのでご安心を。
手加減とかは気にしなくて大丈夫そうですかね……? 余裕がなさそうなので、助かります…… 一度に対峙する敵は多くないようなので、範囲攻撃は使わず、一人一人確実に減らしていくつもりで……いけ……るといいなあ……
ウォーリアの、ミゼリア……です。よろしく、おねがいします……ね。 ええと……では、わたしも、新橋のほうに……むかい、ます。 タンクのうごきの、よてい……です。 【新橋】(刻印解除はこちら) オゴス エルゼリオ ザザ シャドウ ハヤト ルイド レピド エル ミゼリア 【旧橋】 キオルティス アルベルト ラティア アラン 【その他】 ベルク(新橋・旧橋の間を駆け回る)
シューター、テテリカ。よろしく頼む。 俺は旧橋にむかう。刻印の件は大丈夫だ。 俺自身は離れて魔弓での射撃。 ゴリラを連れて行き、橋に立ちふさがりZOCを発動させる。 【新橋】(刻印解除はこちら) オゴス エルゼリオ ザザ シャドウ ハヤト ルイド レピド エル ミゼリア 【旧橋】 キオルティス アルベルト ラティア アラン テテリカ 【その他】 ベルク(新橋・旧橋の間を駆け回る)
ヒーラーのギャメルだ! よろしくな! 新橋チームで参加させてもらうぜ。 敵が潜伏しやすい場所に、音が出る罠を設置しようかな。 手練だし多分見破られちまうだろうけど、敵が奇襲しにくい状況を作っておきたい。 味方の潜伏場所は除外しておく。 殺傷能力のない鳴子の罠だから、混戦になっても味方に被害は出ないぜ。 戦闘では敵に突破されねぇように攻撃と回復、あと高回避の敵用に輝腕。 あとは尋問か。 エンパシー使ってカマかけてみるか。 【新橋】(刻印解除はこちら) オゴス エルゼリオ ザザ シャドウ ハヤト ルイド レピド エル ミゼリア ギャメル 【旧橋】 キオルティス アルベルト ラティア アラン テテリカ 【その他】 ベルク(新橋・旧橋の間を駆け回る)
ストレガなのだ。宜しくなのだ。 刻印は解除されてるので旧橋に加わるのだ。 【新橋】(刻印解除はこちら) オゴス エルゼリオ ザザ シャドウ ハヤト ルイド レピド エル ミゼリア ギャメル 【旧橋】 キオルティス アルベルト ラティア アラン テテリカ ストレガ 【その他】 ベルク(新橋・旧橋の間を駆け回る)