【豊穣】実りの上でステップを~新暦1222年10月
一乃口
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シナリオID:2529
オープニング
実りの秋の季節――エラトゥーン都市同盟にある古都エスト・ポーラも例に漏れず、多彩な農産物がその収穫期を迎える。
農家を通じた繋がりが大きい商家もまた、農家と共に繁忙期を迎えるモノだ――。
アルアータ商家、パトラ=L=アルアータも勿論忙しくなっている。
往々にして、事業として拡大が成された案件を除けば、今年のデキがどの程度良い状態なのかや、収穫量。
そう言った時価に対するやり取りが主だって来る。
祖父の仕事を間近で見て来たパトラは、この辺りに関しては――――まぁ書類の量に眩暈を覚えてたとしても想定の範囲内であった。
(それよりも――)
パトラは今年もそろそろ来る頃だろうと思って居た扉をノックする音に。
「どうぞ」
ため息を堪えて、パトラは返事をする。
失礼しますと、使用人の1人が封書を持って部屋へと入りパトラの元へ手紙を手渡した。
「お嬢様、今年も来ましたよ」
「えぇ、そうでしょうね――」
毎年の事で見慣れてしまった封蝋、内容を予測しているからこそナイフで封を切って行く作業も淀み無い。
パトラに取っての懸念は去年伝えた要望を先方が失念して居ないか、だった――。
――。
――――。
「……はぁ」
重たい溜息を吐く、それでも去年の失敗を活かせた事に関してだけは、パトラは自分を褒めたいと思った。
届いた手紙はエスト・ポーラから北西に位置する『ぶどう農園』からの招待状、と言う名前の祭事への参加依頼であった。
ぶどうの収穫祭の一環として”ワインを作る為のぶどう踏み”をする事になるのだが。
如何せん、多いのだ。
圧倒的にその量が、多いのだ――。
去年パトラは同じように招致されて、ぶどう農園を訪れた。
割と毎年の事だったので、その時は想像もしなかったのだが――現地へ行くと一昨年参加した商家の若手の女性陣の顔ぶれが、半数程居なかったのだ。
どういうコトなのか、無論パトラは農園の者に尋ねた。
農夫が「いやあ、おめでたい事での欠席は仕方ないですよね」と笑いながらパトラに聞かせた。
恋人ができたからとか、友人の結婚式に参加するとか、お腹に子供が居るから手伝えないとか――足を捻挫したとか。
「一年の間に、そんなに?」
最後のは仮病では? パトラは思ったが、他所の商家相手に農園を挟んで口を出すのも憚れるモノであった。
その日、パトラは体力の限界を迎えながらも結構な物量を踏み抜いた。
この大変さに、サボりたがる者が現れる気持ちも分からなくも無いとは思っても、その後に得られる商権は捨てがたくもある――。
そしてパトラは「来年、アルアータ商家に参加を乞うなら、先に他の商家の参加状況を添えてくださいね」と伝えたのだ。
伝えていて良かったと、今心底思っている。
その後、数日に及んだ筋肉痛を思い出し、去年より減った商家の娘の辞退理由に『結婚して家を出たので』と記されたのが2名。
同世代と、年下の顔を思い出す。
気にならないと言えばウソになるが、そんな事よりもアルアータ商会としてパトラは行動へ移るのだ。
なにせアルアータ商会内でも、この仕事に駆り出せる面子が減っていたのだ、似たような理由で。
予測できるピンチに、打開策を持ち込まない手は無い。
要領を得た作業と、今回は農園にもパトラから要望を出して準備を進める。
それは以前、ぶどう農園側にも話していた事ではあった。
数日後、ぶどう農園からパトラの要望に対して条件付きではあるものの、色よい返答を得る。
そうなれば、後は次の仕事だ。
「そう、私よりも体力がある人達に頼りますわ」
ぶどう農園からの承諾を得たパトラが、冒険者ギルドを通じて依頼を啓示する。
農家を通じた繋がりが大きい商家もまた、農家と共に繁忙期を迎えるモノだ――。
アルアータ商家、パトラ=L=アルアータも勿論忙しくなっている。
往々にして、事業として拡大が成された案件を除けば、今年のデキがどの程度良い状態なのかや、収穫量。
そう言った時価に対するやり取りが主だって来る。
祖父の仕事を間近で見て来たパトラは、この辺りに関しては――――まぁ書類の量に眩暈を覚えてたとしても想定の範囲内であった。
(それよりも――)
パトラは今年もそろそろ来る頃だろうと思って居た扉をノックする音に。
「どうぞ」
ため息を堪えて、パトラは返事をする。
失礼しますと、使用人の1人が封書を持って部屋へと入りパトラの元へ手紙を手渡した。
「お嬢様、今年も来ましたよ」
「えぇ、そうでしょうね――」
毎年の事で見慣れてしまった封蝋、内容を予測しているからこそナイフで封を切って行く作業も淀み無い。
パトラに取っての懸念は去年伝えた要望を先方が失念して居ないか、だった――。
――。
――――。
「……はぁ」
重たい溜息を吐く、それでも去年の失敗を活かせた事に関してだけは、パトラは自分を褒めたいと思った。
届いた手紙はエスト・ポーラから北西に位置する『ぶどう農園』からの招待状、と言う名前の祭事への参加依頼であった。
ぶどうの収穫祭の一環として”ワインを作る為のぶどう踏み”をする事になるのだが。
如何せん、多いのだ。
圧倒的にその量が、多いのだ――。
去年パトラは同じように招致されて、ぶどう農園を訪れた。
割と毎年の事だったので、その時は想像もしなかったのだが――現地へ行くと一昨年参加した商家の若手の女性陣の顔ぶれが、半数程居なかったのだ。
どういうコトなのか、無論パトラは農園の者に尋ねた。
農夫が「いやあ、おめでたい事での欠席は仕方ないですよね」と笑いながらパトラに聞かせた。
恋人ができたからとか、友人の結婚式に参加するとか、お腹に子供が居るから手伝えないとか――足を捻挫したとか。
「一年の間に、そんなに?」
最後のは仮病では? パトラは思ったが、他所の商家相手に農園を挟んで口を出すのも憚れるモノであった。
その日、パトラは体力の限界を迎えながらも結構な物量を踏み抜いた。
この大変さに、サボりたがる者が現れる気持ちも分からなくも無いとは思っても、その後に得られる商権は捨てがたくもある――。
そしてパトラは「来年、アルアータ商家に参加を乞うなら、先に他の商家の参加状況を添えてくださいね」と伝えたのだ。
伝えていて良かったと、今心底思っている。
その後、数日に及んだ筋肉痛を思い出し、去年より減った商家の娘の辞退理由に『結婚して家を出たので』と記されたのが2名。
同世代と、年下の顔を思い出す。
気にならないと言えばウソになるが、そんな事よりもアルアータ商会としてパトラは行動へ移るのだ。
なにせアルアータ商会内でも、この仕事に駆り出せる面子が減っていたのだ、似たような理由で。
予測できるピンチに、打開策を持ち込まない手は無い。
要領を得た作業と、今回は農園にもパトラから要望を出して準備を進める。
それは以前、ぶどう農園側にも話していた事ではあった。
数日後、ぶどう農園からパトラの要望に対して条件付きではあるものの、色よい返答を得る。
そうなれば、後は次の仕事だ。
「そう、私よりも体力がある人達に頼りますわ」
ぶどう農園からの承諾を得たパトラが、冒険者ギルドを通じて依頼を啓示する。
解説
●解説
ぶどう農園での収穫祭、ワイン作りの『ぶどう踏み』への招待です。
【1】ぶどう狩り
こちらではぶどう狩りを楽しむ事ができます。
ワインを作る原料のぶどうは収穫が済んでおり、こちらはまた別の品種です。
採ったぶどうを味わったりと楽しむ方はこちら。
【2】ぶどう踏み
ワイン作りのためにぶどうを踏むお仕事です。
男女種族を問わず、ぶどう踏みを体験できます。1~2名なら同時に入れる桶があります。
近くに並べれば複数名で話しながら踏めるでしょう。
パトラはひたすらぶどうを踏む事になります。ひたすらぶどうを踏む事になります。
応援するのもひとつです。
【3】旧礼拝堂の食堂
新しいのが建てられた後、あまり使われ無くなっていました。
それを改修して、ワインとそれに合う料理の提供をする場として利用することにしました。
こちらでは昨年から成熟されたワインの提供。未成年の方はぶどうジュースの提供があります。
館内の雰囲気を楽しみながらの食事やお祝い事を催す方はこちらへ。
ワインのお供に、香草の効いたソーセージ、ぶどうを使ったスイーツなどの提供がございます。
マスターより
9度目まして、一乃口です。
ちょっとぶどう率高いんですが、ワイン飲み比べましょう! くらいの勢いで行きます!
手元のぶどうをつまみに、ワイン美味しいしながら書いたので大丈夫です。
今回はパトラも来ていますが、基本的にずっとぶどうを踏んでいます。
複数の【タグ】での行動時に、描写が薄くなる傾向があります。
ご一緒に行動される方への『呼び方』などが特殊な場合はプレイングへと記載の程、よろしくお願い致します。
では、素敵な一時が過ごせますように。
リプレイ
「ようそこ、冒険者の皆様」
古都エスト・ポーラにあるぶどう農園のオーナーである壮年の男が、訪れた面々を出迎える、招待したパトラ=L=アルアータは既に作業に勤しんでいる所である。
諸注意事項は簡潔に伝えられ、案内をする農家の者が各々の先頭に立って道を案内するのであった。
秋風の独特な匂いに、ぶどうの香りが混じって来る。
「ふぅん、ずいぶんよく育ったぶどうじゃない。これなら収穫も楽しみね」
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサは金色の髪を揺らしながら、その実りを見渡す。
好きに取って食べてもいいとの道案内の言葉に、美味しいぶどうの見分け方がレクチャーとして添えられる。
アルトはその案内を聞いてないフリをしながら、しっかりと聞いた。
しっかりと聞いた。
「どれを採っても別に美味しそうだけど、参考にはなりそうだ!」
農夫がアルトの癖のある感謝の伝え方に、どう返せばいいか悩んでいる間に、アルトはぶどう畑の中へと姿を消した。
それに続いてぶどう狩りへと向かう冒険者の面々を農夫は笑顔で見送り、それぞれの時間が始まる。
「モネ、見てごらん。あれが葡萄だよ」
ラーナフが連れの、腕に抱えたうさぎのモネに見えるようにぶどう農園を紹介する。
ぶどう狩りに行く面々の背を見送ったラーナフはモネをゆっくりと下ろすと持ち込んだ画材を広げる。
「色んな色があるね」
拡げた紙、持ち込んだ絵筆で、モネと共に眺める景色を描き始めた。
(いや自作の酒とかで踏むのに人のまで踏むのはねぇ?)
自身よりも背の低いぶどうの木に実った果実を、サイラスの金の瞳がじっと見つめて品を定める。
鍛冶から酒造まで、多岐にわたるクリエイティブリザードマンである彼は、そのぶどう酒の製造にも精通している。
故に、自分で作って飲む分はまだしも、人に飲ませる物の酒造に関しては遠慮する事にしたのだった。
そんな事はさておき、お眼鏡に叶ったぶどうをひと房摘み取る。
「うん、いいんじゃね」
摘み取ったぶどうのひと粒ひと粒を厳しく見ていた鋭い眼光が柔らかくなって頷く、手でその実をひとつ口に運ぶ。
ぷちり。
と口内で広がるぶどうの甘い香りと瑞々しい果汁、それを吟味するサイラスの眼光は再び鋭さを思い出す。
その味を吟味する舌の正確差を頭で処理する。
その様子に、農夫が息を呑んだ事にサイラスは気付かなかっただろう。
「うん、美味いじゃん」
サイラスはその房の実りを楽しんだ後、作業をしていた農夫へと声を掛ける。
「他にもぶどうの種類ある?」
農夫はサイラスの問いに今いる場所から順に数種類の品種が実っているという話を聞き。
「そうか、ありがと」
折角だから制覇しよう、赤銅色の鱗聳える尾を揺らしながらサイラスは次なる実りを求めて行く。
(色んな種類があるんだ)
農夫とサイラスのやり取りを聞いていたアルトは、すでに摘み取ったぶどうをもぐもぐと味わいながら思った。
(そう聞いたら他のぶどうだって味わいたくなるじゃない!)
と思いながらも、ひと房を摘み取った手にはまだ多くのぶどうが実っている。
美味しいのだけど、このペースで食べてみると次のぶどうへと足を向けられるのはもう少し先の事だろう。
「美味い! こんなに美味しい葡萄は初めてです!」
ぶどうの木を隔ててもよく通る声が、アルトの耳に届いた。
声の主であるダニエル・ヘリントンは摘み取ったぶどうを味わう度にとても美味しそうに食べていた。
美味い美味いとぶどうを食べるダニエル。
ぶどうの木の隙間から、ダニエルの美味しそうに食べる笑顔をがアルトのいる場所からも見えた。
そんな様子を見て居るとアルトも今食べているぶどうが、さっきよりも美味しいと感じるようになってくる。
ダニエルの元気な声が、ふっと止まって。
アルトは気になって様子を伺う、別に美味しいぶどうが気になるだけなんだから勘違いしないようにと言う言葉が、アルトの背中が語っている――気がする。
ダニエルが農夫と楽しそうに談笑していた。
「ここの葡萄は凄いですね! 美味しいです!」
輝く笑顔に、輝くバルク――――何時脱いだんだろう? アルトはぶどうの木の影で思った。
「丹精込めて作りましたから!」
農夫もまた農筋スマイルで答えた。
「この調子で、ここの葡萄を食べ尽くしてみせます!」
次のぶどうの木を目指す意思を全身で表したダニエルのポーズが華麗に決まる。
「ならば向うの違う品種は如何ですかな!」
アルトはその言語圏の違いに、桃色の瞳を点にしながら眺めていた。
「ワインはまだ早いですが、葡萄ジュースをいただきます!」
ワインを一緒に飲める時が楽しみだと会話するダニエルと農夫の後ろを、アルトはこっそりついて行って違う品種のぶどうも楽しむ事が出来たという。
●
ぶどう踏み、それはワイン造りの製法として古くから馴染まれている工程であり、このぶどう農園に於いては季節の風物詩と言えるだろう。
既に点在する桶の上では、ぶどうを踏む淑女の姿がチラホラと見える――その様子を眺めて談笑する商家、ワインを片手に談笑する者の中にキーゼの姿もあった。
笑い声や、歌を歌いながら実りの上で踏まれるステップ。
それに合わせて楽器を奏でる農夫も手慣れたモノだった。
楽しそうな雰囲気で行う淑女の傍ら、ちょっと毛色が違うのが1人、既に相当踏込んでいる。
パトラがまだまだ踏む量が多いと思った頃。
「同じエスト・ポーラの仲間としては、わたしもパトラさんに協力しますね!」
聞き覚えのあるリサ・ベイカーの声に振り返ったパトラ。
リサは珍しい光景のスケッチもしておきたいと、持参した画材をセッティングした後――着座。
「あ、ちゃんとあとでぶどう踏みにも参加しますので安心してください」
ぶんぶんと手を振るリサの笑顔を遠くに見るパトラ。
「もし宜しければパトラ様、ご一緒しても宜しいでしょうか」
そんな1人だけ様相違うパトラに声を掛けるネーヴェ・グラヌローザの雰囲気に、パトラは一旦クールダウンしてから「もちろん、歓迎しますわ」と答える。
一瞬、その表情が凄かったとかなんとか。
「ふふ、こういったことをするのは初めてですの。もし宜しければコツなどご教示頂けますと嬉しいですわ」
清めた白い素足が、桶に満たされたぶどうの上にゆっくりと乗る。
「コツですか、そうですわね……」
ネーヴェはパトラから聞いた通りに、ぶどうを踏み始める。
そっと、そうっと――ぷち、ぷちと足の先からゆっくりと足の裏をかかとへ向けて重心を傾け足の面積全部を使って踏む。
こそばゆい、何とも言えない感触に緊張感も次第に薄れてネーヴェは普段よりも笑顔になる。
「ふふふ、何だか童心に返ったみたいです」
ネーヴェは次第にコツを得たのか、次第に安定感のあるステップで踏んでいく。
「私には幼少期の記憶は殆ど御座いませんが、こんな風にぶどう踏みを手伝った頃もあったのかもしれませんわね」
明るい表情で聞こえてくるネーヴェの言葉は、パトラには重みがあるように思えた。
歌いながら踏む人達の様子も、緊張感の溶けたネーヴェの銀の瞳に映る。
「何事も楽しんだもの勝ちと申しますわ。さ、パトラ様もご一緒に」
華麗なステップを踏み共に歌へ誘うネーヴェにパトラは答えて即興に併せて歌う。
「あ、さっきより良い絵になりそうです」
ネーヴェとパトラがぶどうを踏む様子をスケッチしていたリサの筆が、歌に合わせてより手が進む。
「ふう、今はこんな所ですね」
スケッチを終えたリサが画材を整理すると、パトラとネーヴェの元に向かう。仕上げた画は後にパトラの元へ送られる予定だ。
「わたしもぶどう踏み参加です!」
「ようやく来たんですわね?!」
登場したリサを見たパトラの剣幕に、まぁまぁと足を水で清めつつ流すリサがぶどう踏みに加わりながらパトラヘ声を掛ける。
「あ、少し休んでもいいですよ?」
「まだ平気ですわっ」
ネーヴェはそんな2人のやり取りを見て、笑ってしまう。
歌に混じって交わされる商家らしい会話が、ステップ混じりに行き交った。
(ぶどうを踏む……こう言ってみるとなんか不思議な感じもするが、必要な工程なんだよな?)
ルイドはそんなパトラ達の様子をちらりと見ながらぶどう踏みに挑戦していた。
大抵の事は挑戦してみる精神で臨むルイドは、馴染みのない『ぶどうを踏む』と言う行為を体感する。
「……こんなもんかね」
ぷちぷちとした足裏の感触は不思議だった、農夫に尋ね問題ない事を確認したルイドは気晴らしを兼ねてぶどう狩りへ足を運んだ。
「……?」
レピド・クロサイトは首を傾げていた、白混じる朱色の髪が首の角度にあわせて揺れる。
(モッタイナイオバケが出るから冒険者が呼ばれたんじゃないのか?)
草葉の陰で特別出演しそうな何かが踏み止まる――そんな事は無かった、いいね?
農夫の説明を聞いたレピドは、この作業が必要な事だと教わった。
「実りへの感謝を忘れずに、か――」
教わった言葉を口にしながら、レピドはぶどう踏みに挑んだ。
ぷちぷちと潰れて行く感触に少しずつ慣れて行く。
踏めば踏むだけ、美味しいワインが作れると聞いたレピドは淡々とその作業を繰り返す。
表情には表れないが、踏み続ける中でレピドは楽しんでいた。
ある程度の量を踏み切ったレピドが農夫へ感謝されながらその場を離れ――――そして、自身が踏み始める頃からぶどうを踏んで居るパトラに気付く。
「なぁ、アンタ……少し、休んだ方がいいんじゃないのか」
レピドに声を掛けられたパトラがゆらりと顔を向けた。
「そうですわね……そうしますわ」
そう言うとパトラは立ったまま休憩した。
(余程ワインが好きなんだな)
レピドはそんなパトラを心の中で応援すると、もう少しぶどうを踏んでおこうと戻ったという。
ぶどう踏みに参加した冒険者は多い。
その中でも一際気合が入って居るように見える2人――シルク・メイプルリーフとキラリ=マバユイの2人組。
シルクは一張羅が、キラリもまた服にぶどうの果汁が飛んでも平気なように水着姿なのだ。
本気度が伺えますね?
「収穫祭――すなわち大地へ神への感謝を示す祭、誠心誠意ふみふみさせていただきます」
シルクは祈り、それを終えるとキラリの手を取ってぶどうの桶へと足を踏み入れる。
ぷち、ぷちぷちと。
足の裏にぶどうの粒が弾ける感触が伝わってくる。
「お~……ぶどうを踏むってこんな感触なんだ」
珍しい足の裏の感触に、キラリの左右異色の瞳が、同じ輝きで煌めく。
「さぁ、キラリさん手を――転ぶと危ないですから」
差し出されたシルクの手に、キラリもまた手を伸ばす。
互いに向合ってぶどうを踏む、左右にバランスを取るうちに互いの指を搦めて手を繋ぐのも自然な流れだろう。
支え合いながらぶどうを踏む2人は、息を合わせて左右の足を交互に揺らした。
「……えへへ♪」
次第に要領を得たキラリが、楽しそうに笑い、シルクも楽しいですねと微笑み掛けた。
ふみふみ、ふみふみと作業が続く。
実りの上で続くステップに、キラリは別の実りが正面で揺れ続ける状況に、視線が泳いで――――泳いで流れ着くのだ。
仕方ない。
シルクの正面、キラリの目の前で――上を向けば上を、下に揺れれば下を。
「うわっ」
そんな視線の運動は次第に三半規管に効いたのか、キラリが短い悲鳴と共に足を滑らせ、正面のシルクの豊穣にキラリの顔面が埋まる。
「安心してください、このシスターシルク衝撃吸収力には定評があります」
倒れ込んでも大丈夫ですと、笑顔を見せるシルク。
しかし、キラリがまた足を滑らせると行けないので――――そう言うわけで、シルクはキラリをしばらくぎゅむっとする事にした。
(孤児院の弟妹を思い出しますね)
キラリをぎゅむっとしているシルクは、遠くにいる弟妹の顔を思い出しながら、しばらく離さなかったという。
農婦の説明を聞いた。
「えっ何、踏むの……!?」
ワイン作りに興味があったのでやって来たヨル・スレイマンと、共に訪れたナハシュ。
「確かにどうにかして潰して絞るのかと思ってたが、踏むのか?踏む……???」
驚くヨルとナハシュの様が可笑しいのか農婦が笑い終えると説明を続けた。
「ナハシュは知ってた?」
ヨルが聞いて。
「いや、知らねえ!」
元気な返事が返って来る、そんな2人目の前でデカイ桶へ農婦がぶどうを投入して行く。
「いや、確かに葡萄がワインになる過程は全く想像できなかったのだけど、これはだいぶ意外だな」
「成程なー! この桶に入れて踏みまくるのか!」
桶いっぱいになったぶどうを見ながらナハシュが言う。
「ちょっと、いやかなり面白そうじゃねえ? 踏むぜ踏むぜ!!」
準備を終えた2人が、桶に満たされたぶどうの上へと踊り立つ。
体重が伝わった端から弾ける感触が、くすぐったいような感触と共に足裏から伝えて来る。
不思議な気分だ。
「これで合ってる?」
ヨルがこわごわと足を上げては下げて、ナハシュへ聞く。
「おもしれえ!!」
ヨルとは対照的に遠慮なく踏んでいるナハシュを見て、ヨルは確り踏んだ方が良いのだろうと見習った。
よく踏んだ方が良いと聞いたのを思い出して、ぐっと体重を掛ける。
ふと、ヨルは気付いた。
「もしかして、これちょっと長時間だと筋トレになるやつ?」
ヨルは疑問を、共にぶどうを踏むナハシュへ向けた。
「筋トレ……もしかして女共の脚がたまに太いのはそれか?」
近くに居た農婦の表情は特に変わらなかった。
単調作業に飽きる性質なナハシュは楽器を取り出すと踏みながら奏でる。
「よし! 葡萄ふみオンステージだ! 周囲の奴も歌って踊っていいぜ!」
伴奏に、歌も添えられる。
(ナハシュは何でも楽しそうにやるよな。……でも歌まで歌うのは少し珍しい)
そんなナハシュの様子に微笑んだヨルは、伴奏に併せて歌い出し――ぶどう踏みは続く。
ミゼリア・L・ステュクスも、またぶどう踏みに参加者の1人だ。
初めて見るぶどう踏みに、どこからか聞こえてくる歌や伴奏。
「すごい……こうやってワインとかにするんですね……」
その表情は変化に乏しく、まるで童話に出てくる闇の世界のエルフに見紛うかのようだが。
おずおずと農夫へ手伝いを申し出て、説明を聞きながらこくこくと頷く。
その様子から純粋な子だと、ミゼリアの印象は周囲に残ったという。
初めてのぶどう踏み。
自分の体重が伝わる事で、少し感じた抵抗感がぷつんと弾けて――更に体重を掛けるとそのひとつひとつの感覚が短く弾ける。
(たのしい……かも)
無表情なままだが内心とても嬉しい、黙々と夢中でぶどう踏みを頑張った。
結構な量を踏んだ気がする。
たくさん踏み過ぎて居ないか、心配したミゼリアが農夫へと尋ねると。
「そんなことは無い、沢山踏んでくれて助かるよ」
そう向けられた笑顔に、ミゼリアのステップはまた軽やかになる。
「ぶどうを、踏むん? 面白そうさぁ!」
フリューリングスルフト=ティエラが早速ぶどう踏みを始めようと、イュンを抱っこして桶の上にぴょんと乗り込む。
「いっち、にぃ、いっち、にぃ♪」
声に併せたステップで丸みを帯びた尻尾も揺れる。
「楽しいさぁ♪ね、イュン」
きゅっと鳴く仲良しのイュンと一緒に、楽しくなってフリューは歌う。
「たん、たん、たたん。熱く、陽気に、ステップ踏めば。葡萄弾けて、豊かな雫の出来上がり」
歌うフリューの近くを、絵を描き終えたラーナフが通り掛る。
「へぇ、ワインはああやって作るんだね」
そのラーナフの声に気付いたフリューが歌を止めて声を掛けた。
「ラーナフさんも一緒にやろうさぁ♪」
手を振って呼び掛ける。
「おや、フリューさんかい? こんにちはっと……え、俺も?」
フリューの誘いを断り切れないラーナフは、既にぶどうの上――慣れない感触に戸惑う。
「う、動きにくいね中々に」
「リズムよくやるといい感じさぁ」
既に要領を得たフリューが見本のようにイュンとぶどうを踏んで見せて。
「リズム? え、え」
見様見真似に戸惑いがちなステップでラーナフはぶどうを踏んだ。
「お疲れさまさぁ♪」
ぶどうを踏み終えたフリューが、農婦から差し入れられた葡萄ジュースをラーナフへ手渡す。
「はは、これは明日筋肉痛かな」
受け取った杯で乾杯をして、ひとくち――疲れた身体に程よい果汁の甘味が優しく香る。
「筋肉痛? どうして?」
フリューのきょとんとした顔。
「いいねぇ若いって」
ラーナフは遠い目をした、そう明日じゃなければ数日後と言う事もある。
「なんだいモネ。そんな目をして」
モネの瞳は何時見ても可愛いので、ラーナフは大して気にしない事にしてモネを撫でた。
「ここのぶどうは小粒だが美味かったな」
ぶどう狩りを満喫したルイド、彼の知る大粒のぶどうは規格外なので、比較対象としてズレていたのはここだけの話だ。
ふらりと農園を歩いて居るとぶどう踏みの現場を横切った。
「ずいぶんと頑張ってんな……さて、ワインでも飲みに行くか」
ルイドはまだぶどうを踏んでいるパトラを横目にワインを飲むために別の会場へ足を向ける。
ワインに興味のあったミゼリアも、そっとその後に続いたと言う。
「行こう、ロイ!」
テス・アウレアがロイ・アウレアの手を引いて行く、2人はぶどう踏み体験に参加していた。
テスは知識でこのような催しを知っていたが、実際に参加するのは初めてだった。
(こんなに……殺伐とした表情で行うものだっけ?)
「パトラさん、大丈夫?」
ちらりと見えたパトラの様子を見て、テスはそっとエールを送った。
ロイがずっと立ち仕事をしているパトラの腰を心配した。
「あ、ありがとう……大丈夫ですわ」
これでまだ行けます、とぶどうを踏み始めるパトラ。
そんなパトラにロイが提案を交える。
「仕事と思うと余計に辛くなりますので……いっそ『葡萄踏み祭り』にしませんか?」
冒険者は美男美女が多い――集客力として参加しお祭りムードを色濃くして仕事っぽさを除こうと言う提案だ。
「それは面白そうですわね……」
ぶどうを踏む足を止めたパトラは、ロイにお礼を伝える。
「先方にも掛け合って見ますわ」
パトラの表情は、商家の者としての顔だった。
「楽しみにしてますね」
テスが作業をしている他の農婦達にも一緒に踏まないか誘う、裏方の仕事も多い為一度は断られる。
でも1人くらいなら抜けても大丈夫だろうと、農夫の1人が農婦の背を押した。
ロイの手と、農婦の手を取り連れてテスが近くの桶へと入り、ぶどうを踏み始める。
彼女の年齢は60歳くらいだと言う。
「61歳? なんだぁ! 若い若い」
テスに手を取られる農婦は困った顔で笑う。
エルフの年齢で言えばもっと上だろう、ロイは共にぶどうを踏みながら、最大の敵は『飽き』だと思い。
テスへと歌いながらぶどうを踏む事を提案。
農婦がそれを聞いて、昔からの伝統ある歌を披露して、3人は歌に合わせてステップを踏んだ。
「葡萄を踏むのですか……?」
「秋の風物詩だね」
ぶどう踏みのことをシルヴィア・A・カペルから教わりながら、ガルシアは共にぶどう踏みへと参加した。
「葡萄を踏んでワインが出来るのですか、なんだか不思議ですね……」
ガルシアへワイン造りについてシルヴィアが話している所で既知の友、ルーンス・ラグネル達だった。
「やぁ、ルーンス」
「こんにちは、シルヴィア」
シルヴィアに呼ばれ、ルーンスが挨拶をする。
一緒に農園を訪れていたヴィナス、カイン・ステラとも挨拶を交わし、ガルシアは控えめな会釈を返す。
シルヴィアが数歩、ヴィナスの前へ歩み寄り。
「ヴィナスは誕生日おめでとう」
シルヴィアの祝いの言葉に、「私からも」とガルシアもお祝いの言葉をヴィナスへ送る。
「ありがとう。シルヴィア達も葡萄踏みか、お互い楽しもうね」
ヴィナスの言葉に、シルヴィアも「あぁ、そちらも」と各々ぶどう踏みを行う場へ向かう。
シルヴィアがぶどう踏みに関してのレクチャーを施し、ガルシアの手を取ってぶどうの詰まった桶へと支えていざなう。
故郷はワインの名産地でもあるシルヴィア、初体験のぶどう踏みにガルシアへ優しい笑顔を向けながらも楽しみだと感じていた。
2人で入れる大きめの桶の上、足の裏に慣れない感触が伝わってくる。
ガルシアの青い瞳が不安を宿して揺れる。
「なんだかとても、変な感触です……あ、手を離さないでください、倒れそうで……ごめんなさい」
ガルシアは戸惑いながらぶどうを踏む、その重心はゆらりと傾きもしたが、シルヴィアがそれを優しく手で支えた。
「離さないよ。大丈夫、ゆっくりで良いからね」
楽しそうにガルシアを支えながらぶどう踏みを楽しむシルヴィア。
「終わったらワインを飲もうか。もう少しだから頑張ろう」
ガルシアの不安を和らげるように、歌いながらシルヴィアはぶどうを踏んだ。
その想いもまた、ワインに魂を与えるのだとガルシアへ微笑みながら。
パトラへ挨拶を済ませたルーンスとカインが支度を終えた所で、こちらのぶどう踏みも始まった。
カインの伝言を聞いたパトラは、桃農家とパティシエどちらにも伝えておくと返事をしている。
親に内緒で貸衣装アリの観光イベントにしている話をパトラしたのだと、ルーンスがヴィナスへの雑談に混じえて話す。
「それ、大丈夫だったのか?」
2人の会話を聞いてカインが不安を漏らすが、ヴィナスも笑いながらお咎め無しになったと答えた。
そんな兄弟2人のぶどう踏みは経験者故か、余裕すら感じる。
カインは初めてのぶどう踏みだった、馴れない感触に少しずつ傾く重心のせいでまだ心許無く感じた。
ヴィナスとルーンスからぶどう踏みのコツをレクチャーをされたカインは次第に要領を得ていく。
「じゃ、そろそろ……おーい!」
カインが慣れて来た所でルーンスが近くの農夫へ手を振った。
予め農夫に頼んでおいた、椅子がルーンスの元へ運ばれて来る。ルーンスの両手は椅子の背に置かれ、そして足はぶどうの上だ。
「やっぱり慣れてるやり方がいいね」
椅子に捕まり立ちしながら残りのぶどうを踏み始めるルーンス。
「あれは?」
カインが不思議そうにヴィナスに尋ねた。
ヴィナスは椅子に座りながらぶどうを踏むルーンスの姿を微笑ましく思いながらカインの疑問に答える。
「あの子の大切な人は、少々足が悪くてね、立って葡萄踏みができない。桶の近くで腰かけて片足だけ軽く踏む彼女の両手を取るのがあの子のいつも」
慣れたやり方であり、特別なやり方でもある。
ルーンスとヴィナス、その2人のやり取りにはもう1人の大事な人の話題もあがる――普通の兄弟以上の仲の良さを目の当たりにするカイン。
(強火じゃなくて業火じゃね?)
ブラコンの火加減を上方修正したという。
ぶどうを踏みながら、ルーンスが改めてヴィナスへ言葉を送る。
「にいさまお誕生日おめでとう!」
同業者の手伝いも出来て、誕生日のお祝いもできる一石二鳥とはこの事だった。
カインもまたヴィナスへとお祝いの言葉を――。
「誕生日の料理や菓子のリクエストを受けるから、考えておけと」
ルームシェアをしていると言う2人、カインらしい言葉はヴィナスにはちゃんと伝わっているだろう。
「ありがとう」
2人に祝われるヴィナスは、誕生日は何度祝って貰えても嬉しいものだと微笑みながら答えた。
ぶどうを踏み終えるまで、大切な人の事を話して過ごす3人の時間は笑顔が絶えなかったと言う。
ワインやソーセージを楽しんだルイドは、再びぶどう踏みをしている現場を横切った所、まだぶどうを踏んでいるパトラを目視した。
「……もう1回やっとくか」
不憫に思ったのか、パトラが踏む予定のぶどうをルイドは先刻よりも気合を入れて踏んだと言う。
●
「うむ、このワインは最高だな! 素晴らしい!!」
ワインを味わい、褒める言葉が力強い――アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト、ワインの香りに焼き立てのソーセージの香りが食堂に漂う。
口にしたソーセージがパリッと音を立てて、アルベルトの舌の上を香草の風味と弾けた肉汁が楽しませる。
その味わいを、楽しむべくワインをぐっと飲むアルベルト。
沁みる味わいに唸る。
「そしてこのソーセージもワインに合って良い! 実に素晴らしい!」
調理を担当していたシェフも、その豪快な誉め言葉に鼻を高くする。
「よし、このワインに合うシルトラース帝国料理を調理するぜ!!」
力強い青い瞳が、更なる美味を求めるべく調理場へと身を踊らせる。
帝国料理に興味を抱いたシェフは快くアルベルトを厨房へ迎え入れて、揃っていた食材からシルトラース帝国料理を再現すべくアルベルトの挑戦は始まった。
そしてアルベルトの手によって、帝国料理風ソーセージもテーブルに並び始める。
備わっていた調味料が、本場とはちょっと違うようだ。
「完全再現とは言えないが、ワインに合うぜ!」
事の経緯を伺いながらソーセージとワインを既に味わっていた、ストレガ・L・リベルガストラ。
そしてまだ若年故にぶどうのジュースと共にソーセージを食べていたトゥーリもアルベルトの料理を歓迎する。
「おかわり!」
結構なペースで食べるトゥーリに、作り手側は作り応えを覚えた事だろう。
ストレガはワインの色や重さを楽しみながら、ソーセージ以外にもチーズやナッツと食べ比べながら味を楽しんでいた。
ワインの話題ができるアルベルトとワインを飲みながら、そのワインに合わせる料理や肴の話をしていたのだったが。
思いの外、ワインの味に合う料理の話題に熱が入り。
(まさか、作り始めるとは……)
ストレガとしては『どんな料理も美味しい』が結論なのだが。
より多くの種類を楽しめる事になったので、レシピの研究が捗ると言う所だろう、好奇心逞しい赤い瞳が、並んだ料理を興味深そうに観察する。
「いただきまーす!」
トゥーリは並んだ料理をぱくっと口に運んでもぐもぐ。
「うん、美味しいよ!」
トゥーリは美味しい料理が増えて、より食とぶどうジュースが進む。
ストレガもアルベルトの品を口に運ぶ――――その風味をワインと合わせて余韻を楽しんだ、またひとつ新しい発見ができた気がする。
「どうだ? この料理は? このワインに合うだろう?」
「うん、美味しいな。アルベルト殿、これはどんなレシピなのだ?」
アルベルトとストレガがレシピ談義に戻りそうなところで、ぶどう踏みを終えた冒険者の面々が食堂へと顔を出す。
「乾杯! お疲れ様ー!」
ロイとテスが一緒のテーブルでワインと共にソーセージ料理を食べる。
「美味しー!」
テスのお酒トークはワインと共に進み、ロイはそれを肴に楽しんだ。
「あー楽しかった」
ロイは年代物のワインや新酒のワインとも飲み比べて行く。
食堂内ではシェフの料理とアルベルトの料理、そしてストレガのオススメの肴も並び始めて、食べ比べや飲み比べの様相を増す。
「これはなかなか……」
「すごいですね」
ガルシアと共に食堂へ訪れたシルヴィア、ワインと共に食べ比べと並んだ量に少し苦笑する。
なんにせよ、とガルシアとワインで乾杯する。
「ぶどう踏みは楽しかったかい?」
シルヴィアが聞き、ガルシアは小さく頷いてワインを口に運ぶ。
ふわりとした感覚は、お酒のせいか――まだ少し戻らない地面の感覚のせいだろうか。
ミゼリアはエルフ素体のホムンクルスである。
眼前のソーセージ食べ比べに、飲み比べもできるワインの各種。
もぐもぐ、ごくごくと出されるソーセージとワインへ挑む。量は食べられないので味わう。
「……おいしい……ですね」
「そうだろう! この料理もワインに合うぞ!」
ミゼリアの言葉に、アルベルトが新たな料理を作ってミゼリアの前へ置いた――食べ切れるだろうか。
ストレガは食堂の様子を見守りながら、新たに増えた料理を考察していた、その手にはもうワインは無くぶどうジュースでお酒は程々に控える。
「お腹いっぱいだよ」
とてとて鳴る蹄の音を立てながらトゥーリは腹ごなしのぶどう園散歩に出ていた。
ぶどうのジュースも、ソーセージもどれも美味しかった。
先程までの食堂の賑やかさとは違う、ぶどう農園の静かな空気。
どことなくぶどうの香りが至る所から漂って甘く感じる園内を歩いて居た。
農夫から見学しても良い館内を訪ねて、ぶどう園を横切って行く――その途中でトゥーリは立ち止まった。
「大丈夫なのかな?」
「……疲れましたわ」
椅子の上でぐったりしたパトラをトゥーリが館内へと運んであげた。
古都エスト・ポーラにあるぶどう農園のオーナーである壮年の男が、訪れた面々を出迎える、招待したパトラ=L=アルアータは既に作業に勤しんでいる所である。
諸注意事項は簡潔に伝えられ、案内をする農家の者が各々の先頭に立って道を案内するのであった。
秋風の独特な匂いに、ぶどうの香りが混じって来る。
「ふぅん、ずいぶんよく育ったぶどうじゃない。これなら収穫も楽しみね」
アルト=ミルドレッド=バ・ロッサは金色の髪を揺らしながら、その実りを見渡す。
好きに取って食べてもいいとの道案内の言葉に、美味しいぶどうの見分け方がレクチャーとして添えられる。
アルトはその案内を聞いてないフリをしながら、しっかりと聞いた。
しっかりと聞いた。
「どれを採っても別に美味しそうだけど、参考にはなりそうだ!」
農夫がアルトの癖のある感謝の伝え方に、どう返せばいいか悩んでいる間に、アルトはぶどう畑の中へと姿を消した。
それに続いてぶどう狩りへと向かう冒険者の面々を農夫は笑顔で見送り、それぞれの時間が始まる。
「モネ、見てごらん。あれが葡萄だよ」
ラーナフが連れの、腕に抱えたうさぎのモネに見えるようにぶどう農園を紹介する。
ぶどう狩りに行く面々の背を見送ったラーナフはモネをゆっくりと下ろすと持ち込んだ画材を広げる。
「色んな色があるね」
拡げた紙、持ち込んだ絵筆で、モネと共に眺める景色を描き始めた。
(いや自作の酒とかで踏むのに人のまで踏むのはねぇ?)
自身よりも背の低いぶどうの木に実った果実を、サイラスの金の瞳がじっと見つめて品を定める。
鍛冶から酒造まで、多岐にわたるクリエイティブリザードマンである彼は、そのぶどう酒の製造にも精通している。
故に、自分で作って飲む分はまだしも、人に飲ませる物の酒造に関しては遠慮する事にしたのだった。
そんな事はさておき、お眼鏡に叶ったぶどうをひと房摘み取る。
「うん、いいんじゃね」
摘み取ったぶどうのひと粒ひと粒を厳しく見ていた鋭い眼光が柔らかくなって頷く、手でその実をひとつ口に運ぶ。
ぷちり。
と口内で広がるぶどうの甘い香りと瑞々しい果汁、それを吟味するサイラスの眼光は再び鋭さを思い出す。
その味を吟味する舌の正確差を頭で処理する。
その様子に、農夫が息を呑んだ事にサイラスは気付かなかっただろう。
「うん、美味いじゃん」
サイラスはその房の実りを楽しんだ後、作業をしていた農夫へと声を掛ける。
「他にもぶどうの種類ある?」
農夫はサイラスの問いに今いる場所から順に数種類の品種が実っているという話を聞き。
「そうか、ありがと」
折角だから制覇しよう、赤銅色の鱗聳える尾を揺らしながらサイラスは次なる実りを求めて行く。
(色んな種類があるんだ)
農夫とサイラスのやり取りを聞いていたアルトは、すでに摘み取ったぶどうをもぐもぐと味わいながら思った。
(そう聞いたら他のぶどうだって味わいたくなるじゃない!)
と思いながらも、ひと房を摘み取った手にはまだ多くのぶどうが実っている。
美味しいのだけど、このペースで食べてみると次のぶどうへと足を向けられるのはもう少し先の事だろう。
「美味い! こんなに美味しい葡萄は初めてです!」
ぶどうの木を隔ててもよく通る声が、アルトの耳に届いた。
声の主であるダニエル・ヘリントンは摘み取ったぶどうを味わう度にとても美味しそうに食べていた。
美味い美味いとぶどうを食べるダニエル。
ぶどうの木の隙間から、ダニエルの美味しそうに食べる笑顔をがアルトのいる場所からも見えた。
そんな様子を見て居るとアルトも今食べているぶどうが、さっきよりも美味しいと感じるようになってくる。
ダニエルの元気な声が、ふっと止まって。
アルトは気になって様子を伺う、別に美味しいぶどうが気になるだけなんだから勘違いしないようにと言う言葉が、アルトの背中が語っている――気がする。
ダニエルが農夫と楽しそうに談笑していた。
「ここの葡萄は凄いですね! 美味しいです!」
輝く笑顔に、輝くバルク――――何時脱いだんだろう? アルトはぶどうの木の影で思った。
「丹精込めて作りましたから!」
農夫もまた農筋スマイルで答えた。
「この調子で、ここの葡萄を食べ尽くしてみせます!」
次のぶどうの木を目指す意思を全身で表したダニエルのポーズが華麗に決まる。
「ならば向うの違う品種は如何ですかな!」
アルトはその言語圏の違いに、桃色の瞳を点にしながら眺めていた。
「ワインはまだ早いですが、葡萄ジュースをいただきます!」
ワインを一緒に飲める時が楽しみだと会話するダニエルと農夫の後ろを、アルトはこっそりついて行って違う品種のぶどうも楽しむ事が出来たという。
●
ぶどう踏み、それはワイン造りの製法として古くから馴染まれている工程であり、このぶどう農園に於いては季節の風物詩と言えるだろう。
既に点在する桶の上では、ぶどうを踏む淑女の姿がチラホラと見える――その様子を眺めて談笑する商家、ワインを片手に談笑する者の中にキーゼの姿もあった。
笑い声や、歌を歌いながら実りの上で踏まれるステップ。
それに合わせて楽器を奏でる農夫も手慣れたモノだった。
楽しそうな雰囲気で行う淑女の傍ら、ちょっと毛色が違うのが1人、既に相当踏込んでいる。
パトラがまだまだ踏む量が多いと思った頃。
「同じエスト・ポーラの仲間としては、わたしもパトラさんに協力しますね!」
聞き覚えのあるリサ・ベイカーの声に振り返ったパトラ。
リサは珍しい光景のスケッチもしておきたいと、持参した画材をセッティングした後――着座。
「あ、ちゃんとあとでぶどう踏みにも参加しますので安心してください」
ぶんぶんと手を振るリサの笑顔を遠くに見るパトラ。
「もし宜しければパトラ様、ご一緒しても宜しいでしょうか」
そんな1人だけ様相違うパトラに声を掛けるネーヴェ・グラヌローザの雰囲気に、パトラは一旦クールダウンしてから「もちろん、歓迎しますわ」と答える。
一瞬、その表情が凄かったとかなんとか。
「ふふ、こういったことをするのは初めてですの。もし宜しければコツなどご教示頂けますと嬉しいですわ」
清めた白い素足が、桶に満たされたぶどうの上にゆっくりと乗る。
「コツですか、そうですわね……」
ネーヴェはパトラから聞いた通りに、ぶどうを踏み始める。
そっと、そうっと――ぷち、ぷちと足の先からゆっくりと足の裏をかかとへ向けて重心を傾け足の面積全部を使って踏む。
こそばゆい、何とも言えない感触に緊張感も次第に薄れてネーヴェは普段よりも笑顔になる。
「ふふふ、何だか童心に返ったみたいです」
ネーヴェは次第にコツを得たのか、次第に安定感のあるステップで踏んでいく。
「私には幼少期の記憶は殆ど御座いませんが、こんな風にぶどう踏みを手伝った頃もあったのかもしれませんわね」
明るい表情で聞こえてくるネーヴェの言葉は、パトラには重みがあるように思えた。
歌いながら踏む人達の様子も、緊張感の溶けたネーヴェの銀の瞳に映る。
「何事も楽しんだもの勝ちと申しますわ。さ、パトラ様もご一緒に」
華麗なステップを踏み共に歌へ誘うネーヴェにパトラは答えて即興に併せて歌う。
「あ、さっきより良い絵になりそうです」
ネーヴェとパトラがぶどうを踏む様子をスケッチしていたリサの筆が、歌に合わせてより手が進む。
「ふう、今はこんな所ですね」
スケッチを終えたリサが画材を整理すると、パトラとネーヴェの元に向かう。仕上げた画は後にパトラの元へ送られる予定だ。
「わたしもぶどう踏み参加です!」
「ようやく来たんですわね?!」
登場したリサを見たパトラの剣幕に、まぁまぁと足を水で清めつつ流すリサがぶどう踏みに加わりながらパトラヘ声を掛ける。
「あ、少し休んでもいいですよ?」
「まだ平気ですわっ」
ネーヴェはそんな2人のやり取りを見て、笑ってしまう。
歌に混じって交わされる商家らしい会話が、ステップ混じりに行き交った。
(ぶどうを踏む……こう言ってみるとなんか不思議な感じもするが、必要な工程なんだよな?)
ルイドはそんなパトラ達の様子をちらりと見ながらぶどう踏みに挑戦していた。
大抵の事は挑戦してみる精神で臨むルイドは、馴染みのない『ぶどうを踏む』と言う行為を体感する。
「……こんなもんかね」
ぷちぷちとした足裏の感触は不思議だった、農夫に尋ね問題ない事を確認したルイドは気晴らしを兼ねてぶどう狩りへ足を運んだ。
「……?」
レピド・クロサイトは首を傾げていた、白混じる朱色の髪が首の角度にあわせて揺れる。
(モッタイナイオバケが出るから冒険者が呼ばれたんじゃないのか?)
草葉の陰で特別出演しそうな何かが踏み止まる――そんな事は無かった、いいね?
農夫の説明を聞いたレピドは、この作業が必要な事だと教わった。
「実りへの感謝を忘れずに、か――」
教わった言葉を口にしながら、レピドはぶどう踏みに挑んだ。
ぷちぷちと潰れて行く感触に少しずつ慣れて行く。
踏めば踏むだけ、美味しいワインが作れると聞いたレピドは淡々とその作業を繰り返す。
表情には表れないが、踏み続ける中でレピドは楽しんでいた。
ある程度の量を踏み切ったレピドが農夫へ感謝されながらその場を離れ――――そして、自身が踏み始める頃からぶどうを踏んで居るパトラに気付く。
「なぁ、アンタ……少し、休んだ方がいいんじゃないのか」
レピドに声を掛けられたパトラがゆらりと顔を向けた。
「そうですわね……そうしますわ」
そう言うとパトラは立ったまま休憩した。
(余程ワインが好きなんだな)
レピドはそんなパトラを心の中で応援すると、もう少しぶどうを踏んでおこうと戻ったという。
ぶどう踏みに参加した冒険者は多い。
その中でも一際気合が入って居るように見える2人――シルク・メイプルリーフとキラリ=マバユイの2人組。
シルクは一張羅が、キラリもまた服にぶどうの果汁が飛んでも平気なように水着姿なのだ。
本気度が伺えますね?
「収穫祭――すなわち大地へ神への感謝を示す祭、誠心誠意ふみふみさせていただきます」
シルクは祈り、それを終えるとキラリの手を取ってぶどうの桶へと足を踏み入れる。
ぷち、ぷちぷちと。
足の裏にぶどうの粒が弾ける感触が伝わってくる。
「お~……ぶどうを踏むってこんな感触なんだ」
珍しい足の裏の感触に、キラリの左右異色の瞳が、同じ輝きで煌めく。
「さぁ、キラリさん手を――転ぶと危ないですから」
差し出されたシルクの手に、キラリもまた手を伸ばす。
互いに向合ってぶどうを踏む、左右にバランスを取るうちに互いの指を搦めて手を繋ぐのも自然な流れだろう。
支え合いながらぶどうを踏む2人は、息を合わせて左右の足を交互に揺らした。
「……えへへ♪」
次第に要領を得たキラリが、楽しそうに笑い、シルクも楽しいですねと微笑み掛けた。
ふみふみ、ふみふみと作業が続く。
実りの上で続くステップに、キラリは別の実りが正面で揺れ続ける状況に、視線が泳いで――――泳いで流れ着くのだ。
仕方ない。
シルクの正面、キラリの目の前で――上を向けば上を、下に揺れれば下を。
「うわっ」
そんな視線の運動は次第に三半規管に効いたのか、キラリが短い悲鳴と共に足を滑らせ、正面のシルクの豊穣にキラリの顔面が埋まる。
「安心してください、このシスターシルク衝撃吸収力には定評があります」
倒れ込んでも大丈夫ですと、笑顔を見せるシルク。
しかし、キラリがまた足を滑らせると行けないので――――そう言うわけで、シルクはキラリをしばらくぎゅむっとする事にした。
(孤児院の弟妹を思い出しますね)
キラリをぎゅむっとしているシルクは、遠くにいる弟妹の顔を思い出しながら、しばらく離さなかったという。
農婦の説明を聞いた。
「えっ何、踏むの……!?」
ワイン作りに興味があったのでやって来たヨル・スレイマンと、共に訪れたナハシュ。
「確かにどうにかして潰して絞るのかと思ってたが、踏むのか?踏む……???」
驚くヨルとナハシュの様が可笑しいのか農婦が笑い終えると説明を続けた。
「ナハシュは知ってた?」
ヨルが聞いて。
「いや、知らねえ!」
元気な返事が返って来る、そんな2人目の前でデカイ桶へ農婦がぶどうを投入して行く。
「いや、確かに葡萄がワインになる過程は全く想像できなかったのだけど、これはだいぶ意外だな」
「成程なー! この桶に入れて踏みまくるのか!」
桶いっぱいになったぶどうを見ながらナハシュが言う。
「ちょっと、いやかなり面白そうじゃねえ? 踏むぜ踏むぜ!!」
準備を終えた2人が、桶に満たされたぶどうの上へと踊り立つ。
体重が伝わった端から弾ける感触が、くすぐったいような感触と共に足裏から伝えて来る。
不思議な気分だ。
「これで合ってる?」
ヨルがこわごわと足を上げては下げて、ナハシュへ聞く。
「おもしれえ!!」
ヨルとは対照的に遠慮なく踏んでいるナハシュを見て、ヨルは確り踏んだ方が良いのだろうと見習った。
よく踏んだ方が良いと聞いたのを思い出して、ぐっと体重を掛ける。
ふと、ヨルは気付いた。
「もしかして、これちょっと長時間だと筋トレになるやつ?」
ヨルは疑問を、共にぶどうを踏むナハシュへ向けた。
「筋トレ……もしかして女共の脚がたまに太いのはそれか?」
近くに居た農婦の表情は特に変わらなかった。
単調作業に飽きる性質なナハシュは楽器を取り出すと踏みながら奏でる。
「よし! 葡萄ふみオンステージだ! 周囲の奴も歌って踊っていいぜ!」
伴奏に、歌も添えられる。
(ナハシュは何でも楽しそうにやるよな。……でも歌まで歌うのは少し珍しい)
そんなナハシュの様子に微笑んだヨルは、伴奏に併せて歌い出し――ぶどう踏みは続く。
ミゼリア・L・ステュクスも、またぶどう踏みに参加者の1人だ。
初めて見るぶどう踏みに、どこからか聞こえてくる歌や伴奏。
「すごい……こうやってワインとかにするんですね……」
その表情は変化に乏しく、まるで童話に出てくる闇の世界のエルフに見紛うかのようだが。
おずおずと農夫へ手伝いを申し出て、説明を聞きながらこくこくと頷く。
その様子から純粋な子だと、ミゼリアの印象は周囲に残ったという。
初めてのぶどう踏み。
自分の体重が伝わる事で、少し感じた抵抗感がぷつんと弾けて――更に体重を掛けるとそのひとつひとつの感覚が短く弾ける。
(たのしい……かも)
無表情なままだが内心とても嬉しい、黙々と夢中でぶどう踏みを頑張った。
結構な量を踏んだ気がする。
たくさん踏み過ぎて居ないか、心配したミゼリアが農夫へと尋ねると。
「そんなことは無い、沢山踏んでくれて助かるよ」
そう向けられた笑顔に、ミゼリアのステップはまた軽やかになる。
「ぶどうを、踏むん? 面白そうさぁ!」
フリューリングスルフト=ティエラが早速ぶどう踏みを始めようと、イュンを抱っこして桶の上にぴょんと乗り込む。
「いっち、にぃ、いっち、にぃ♪」
声に併せたステップで丸みを帯びた尻尾も揺れる。
「楽しいさぁ♪ね、イュン」
きゅっと鳴く仲良しのイュンと一緒に、楽しくなってフリューは歌う。
「たん、たん、たたん。熱く、陽気に、ステップ踏めば。葡萄弾けて、豊かな雫の出来上がり」
歌うフリューの近くを、絵を描き終えたラーナフが通り掛る。
「へぇ、ワインはああやって作るんだね」
そのラーナフの声に気付いたフリューが歌を止めて声を掛けた。
「ラーナフさんも一緒にやろうさぁ♪」
手を振って呼び掛ける。
「おや、フリューさんかい? こんにちはっと……え、俺も?」
フリューの誘いを断り切れないラーナフは、既にぶどうの上――慣れない感触に戸惑う。
「う、動きにくいね中々に」
「リズムよくやるといい感じさぁ」
既に要領を得たフリューが見本のようにイュンとぶどうを踏んで見せて。
「リズム? え、え」
見様見真似に戸惑いがちなステップでラーナフはぶどうを踏んだ。
「お疲れさまさぁ♪」
ぶどうを踏み終えたフリューが、農婦から差し入れられた葡萄ジュースをラーナフへ手渡す。
「はは、これは明日筋肉痛かな」
受け取った杯で乾杯をして、ひとくち――疲れた身体に程よい果汁の甘味が優しく香る。
「筋肉痛? どうして?」
フリューのきょとんとした顔。
「いいねぇ若いって」
ラーナフは遠い目をした、そう明日じゃなければ数日後と言う事もある。
「なんだいモネ。そんな目をして」
モネの瞳は何時見ても可愛いので、ラーナフは大して気にしない事にしてモネを撫でた。
「ここのぶどうは小粒だが美味かったな」
ぶどう狩りを満喫したルイド、彼の知る大粒のぶどうは規格外なので、比較対象としてズレていたのはここだけの話だ。
ふらりと農園を歩いて居るとぶどう踏みの現場を横切った。
「ずいぶんと頑張ってんな……さて、ワインでも飲みに行くか」
ルイドはまだぶどうを踏んでいるパトラを横目にワインを飲むために別の会場へ足を向ける。
ワインに興味のあったミゼリアも、そっとその後に続いたと言う。
「行こう、ロイ!」
テス・アウレアがロイ・アウレアの手を引いて行く、2人はぶどう踏み体験に参加していた。
テスは知識でこのような催しを知っていたが、実際に参加するのは初めてだった。
(こんなに……殺伐とした表情で行うものだっけ?)
「パトラさん、大丈夫?」
ちらりと見えたパトラの様子を見て、テスはそっとエールを送った。
ロイがずっと立ち仕事をしているパトラの腰を心配した。
「あ、ありがとう……大丈夫ですわ」
これでまだ行けます、とぶどうを踏み始めるパトラ。
そんなパトラにロイが提案を交える。
「仕事と思うと余計に辛くなりますので……いっそ『葡萄踏み祭り』にしませんか?」
冒険者は美男美女が多い――集客力として参加しお祭りムードを色濃くして仕事っぽさを除こうと言う提案だ。
「それは面白そうですわね……」
ぶどうを踏む足を止めたパトラは、ロイにお礼を伝える。
「先方にも掛け合って見ますわ」
パトラの表情は、商家の者としての顔だった。
「楽しみにしてますね」
テスが作業をしている他の農婦達にも一緒に踏まないか誘う、裏方の仕事も多い為一度は断られる。
でも1人くらいなら抜けても大丈夫だろうと、農夫の1人が農婦の背を押した。
ロイの手と、農婦の手を取り連れてテスが近くの桶へと入り、ぶどうを踏み始める。
彼女の年齢は60歳くらいだと言う。
「61歳? なんだぁ! 若い若い」
テスに手を取られる農婦は困った顔で笑う。
エルフの年齢で言えばもっと上だろう、ロイは共にぶどうを踏みながら、最大の敵は『飽き』だと思い。
テスへと歌いながらぶどうを踏む事を提案。
農婦がそれを聞いて、昔からの伝統ある歌を披露して、3人は歌に合わせてステップを踏んだ。
「葡萄を踏むのですか……?」
「秋の風物詩だね」
ぶどう踏みのことをシルヴィア・A・カペルから教わりながら、ガルシアは共にぶどう踏みへと参加した。
「葡萄を踏んでワインが出来るのですか、なんだか不思議ですね……」
ガルシアへワイン造りについてシルヴィアが話している所で既知の友、ルーンス・ラグネル達だった。
「やぁ、ルーンス」
「こんにちは、シルヴィア」
シルヴィアに呼ばれ、ルーンスが挨拶をする。
一緒に農園を訪れていたヴィナス、カイン・ステラとも挨拶を交わし、ガルシアは控えめな会釈を返す。
シルヴィアが数歩、ヴィナスの前へ歩み寄り。
「ヴィナスは誕生日おめでとう」
シルヴィアの祝いの言葉に、「私からも」とガルシアもお祝いの言葉をヴィナスへ送る。
「ありがとう。シルヴィア達も葡萄踏みか、お互い楽しもうね」
ヴィナスの言葉に、シルヴィアも「あぁ、そちらも」と各々ぶどう踏みを行う場へ向かう。
シルヴィアがぶどう踏みに関してのレクチャーを施し、ガルシアの手を取ってぶどうの詰まった桶へと支えていざなう。
故郷はワインの名産地でもあるシルヴィア、初体験のぶどう踏みにガルシアへ優しい笑顔を向けながらも楽しみだと感じていた。
2人で入れる大きめの桶の上、足の裏に慣れない感触が伝わってくる。
ガルシアの青い瞳が不安を宿して揺れる。
「なんだかとても、変な感触です……あ、手を離さないでください、倒れそうで……ごめんなさい」
ガルシアは戸惑いながらぶどうを踏む、その重心はゆらりと傾きもしたが、シルヴィアがそれを優しく手で支えた。
「離さないよ。大丈夫、ゆっくりで良いからね」
楽しそうにガルシアを支えながらぶどう踏みを楽しむシルヴィア。
「終わったらワインを飲もうか。もう少しだから頑張ろう」
ガルシアの不安を和らげるように、歌いながらシルヴィアはぶどうを踏んだ。
その想いもまた、ワインに魂を与えるのだとガルシアへ微笑みながら。
パトラへ挨拶を済ませたルーンスとカインが支度を終えた所で、こちらのぶどう踏みも始まった。
カインの伝言を聞いたパトラは、桃農家とパティシエどちらにも伝えておくと返事をしている。
親に内緒で貸衣装アリの観光イベントにしている話をパトラしたのだと、ルーンスがヴィナスへの雑談に混じえて話す。
「それ、大丈夫だったのか?」
2人の会話を聞いてカインが不安を漏らすが、ヴィナスも笑いながらお咎め無しになったと答えた。
そんな兄弟2人のぶどう踏みは経験者故か、余裕すら感じる。
カインは初めてのぶどう踏みだった、馴れない感触に少しずつ傾く重心のせいでまだ心許無く感じた。
ヴィナスとルーンスからぶどう踏みのコツをレクチャーをされたカインは次第に要領を得ていく。
「じゃ、そろそろ……おーい!」
カインが慣れて来た所でルーンスが近くの農夫へ手を振った。
予め農夫に頼んでおいた、椅子がルーンスの元へ運ばれて来る。ルーンスの両手は椅子の背に置かれ、そして足はぶどうの上だ。
「やっぱり慣れてるやり方がいいね」
椅子に捕まり立ちしながら残りのぶどうを踏み始めるルーンス。
「あれは?」
カインが不思議そうにヴィナスに尋ねた。
ヴィナスは椅子に座りながらぶどうを踏むルーンスの姿を微笑ましく思いながらカインの疑問に答える。
「あの子の大切な人は、少々足が悪くてね、立って葡萄踏みができない。桶の近くで腰かけて片足だけ軽く踏む彼女の両手を取るのがあの子のいつも」
慣れたやり方であり、特別なやり方でもある。
ルーンスとヴィナス、その2人のやり取りにはもう1人の大事な人の話題もあがる――普通の兄弟以上の仲の良さを目の当たりにするカイン。
(強火じゃなくて業火じゃね?)
ブラコンの火加減を上方修正したという。
ぶどうを踏みながら、ルーンスが改めてヴィナスへ言葉を送る。
「にいさまお誕生日おめでとう!」
同業者の手伝いも出来て、誕生日のお祝いもできる一石二鳥とはこの事だった。
カインもまたヴィナスへとお祝いの言葉を――。
「誕生日の料理や菓子のリクエストを受けるから、考えておけと」
ルームシェアをしていると言う2人、カインらしい言葉はヴィナスにはちゃんと伝わっているだろう。
「ありがとう」
2人に祝われるヴィナスは、誕生日は何度祝って貰えても嬉しいものだと微笑みながら答えた。
ぶどうを踏み終えるまで、大切な人の事を話して過ごす3人の時間は笑顔が絶えなかったと言う。
ワインやソーセージを楽しんだルイドは、再びぶどう踏みをしている現場を横切った所、まだぶどうを踏んでいるパトラを目視した。
「……もう1回やっとくか」
不憫に思ったのか、パトラが踏む予定のぶどうをルイドは先刻よりも気合を入れて踏んだと言う。
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「うむ、このワインは最高だな! 素晴らしい!!」
ワインを味わい、褒める言葉が力強い――アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト、ワインの香りに焼き立てのソーセージの香りが食堂に漂う。
口にしたソーセージがパリッと音を立てて、アルベルトの舌の上を香草の風味と弾けた肉汁が楽しませる。
その味わいを、楽しむべくワインをぐっと飲むアルベルト。
沁みる味わいに唸る。
「そしてこのソーセージもワインに合って良い! 実に素晴らしい!」
調理を担当していたシェフも、その豪快な誉め言葉に鼻を高くする。
「よし、このワインに合うシルトラース帝国料理を調理するぜ!!」
力強い青い瞳が、更なる美味を求めるべく調理場へと身を踊らせる。
帝国料理に興味を抱いたシェフは快くアルベルトを厨房へ迎え入れて、揃っていた食材からシルトラース帝国料理を再現すべくアルベルトの挑戦は始まった。
そしてアルベルトの手によって、帝国料理風ソーセージもテーブルに並び始める。
備わっていた調味料が、本場とはちょっと違うようだ。
「完全再現とは言えないが、ワインに合うぜ!」
事の経緯を伺いながらソーセージとワインを既に味わっていた、ストレガ・L・リベルガストラ。
そしてまだ若年故にぶどうのジュースと共にソーセージを食べていたトゥーリもアルベルトの料理を歓迎する。
「おかわり!」
結構なペースで食べるトゥーリに、作り手側は作り応えを覚えた事だろう。
ストレガはワインの色や重さを楽しみながら、ソーセージ以外にもチーズやナッツと食べ比べながら味を楽しんでいた。
ワインの話題ができるアルベルトとワインを飲みながら、そのワインに合わせる料理や肴の話をしていたのだったが。
思いの外、ワインの味に合う料理の話題に熱が入り。
(まさか、作り始めるとは……)
ストレガとしては『どんな料理も美味しい』が結論なのだが。
より多くの種類を楽しめる事になったので、レシピの研究が捗ると言う所だろう、好奇心逞しい赤い瞳が、並んだ料理を興味深そうに観察する。
「いただきまーす!」
トゥーリは並んだ料理をぱくっと口に運んでもぐもぐ。
「うん、美味しいよ!」
トゥーリは美味しい料理が増えて、より食とぶどうジュースが進む。
ストレガもアルベルトの品を口に運ぶ――――その風味をワインと合わせて余韻を楽しんだ、またひとつ新しい発見ができた気がする。
「どうだ? この料理は? このワインに合うだろう?」
「うん、美味しいな。アルベルト殿、これはどんなレシピなのだ?」
アルベルトとストレガがレシピ談義に戻りそうなところで、ぶどう踏みを終えた冒険者の面々が食堂へと顔を出す。
「乾杯! お疲れ様ー!」
ロイとテスが一緒のテーブルでワインと共にソーセージ料理を食べる。
「美味しー!」
テスのお酒トークはワインと共に進み、ロイはそれを肴に楽しんだ。
「あー楽しかった」
ロイは年代物のワインや新酒のワインとも飲み比べて行く。
食堂内ではシェフの料理とアルベルトの料理、そしてストレガのオススメの肴も並び始めて、食べ比べや飲み比べの様相を増す。
「これはなかなか……」
「すごいですね」
ガルシアと共に食堂へ訪れたシルヴィア、ワインと共に食べ比べと並んだ量に少し苦笑する。
なんにせよ、とガルシアとワインで乾杯する。
「ぶどう踏みは楽しかったかい?」
シルヴィアが聞き、ガルシアは小さく頷いてワインを口に運ぶ。
ふわりとした感覚は、お酒のせいか――まだ少し戻らない地面の感覚のせいだろうか。
ミゼリアはエルフ素体のホムンクルスである。
眼前のソーセージ食べ比べに、飲み比べもできるワインの各種。
もぐもぐ、ごくごくと出されるソーセージとワインへ挑む。量は食べられないので味わう。
「……おいしい……ですね」
「そうだろう! この料理もワインに合うぞ!」
ミゼリアの言葉に、アルベルトが新たな料理を作ってミゼリアの前へ置いた――食べ切れるだろうか。
ストレガは食堂の様子を見守りながら、新たに増えた料理を考察していた、その手にはもうワインは無くぶどうジュースでお酒は程々に控える。
「お腹いっぱいだよ」
とてとて鳴る蹄の音を立てながらトゥーリは腹ごなしのぶどう園散歩に出ていた。
ぶどうのジュースも、ソーセージもどれも美味しかった。
先程までの食堂の賑やかさとは違う、ぶどう農園の静かな空気。
どことなくぶどうの香りが至る所から漂って甘く感じる園内を歩いて居た。
農夫から見学しても良い館内を訪ねて、ぶどう園を横切って行く――その途中でトゥーリは立ち止まった。
「大丈夫なのかな?」
「……疲れましたわ」
椅子の上でぐったりしたパトラをトゥーリが館内へと運んであげた。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました!!(埋没五体投地)
大変よく踏めました! ご参加ありがとうございました!
お陰様でパトラちゃんの体力は間に合いました。
リプレイお待たせしてしまいましたが、楽しんで頂ければ幸いです。
では、またご縁があればお会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 6〜25人
2022年11月02日 10時28分39秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
皆様、ご参加ありがとうございます。 10月12日出発となりますので、時間はまだまだございますが、白紙にはご注意くださいませ。 マスターより。
遅くなったわ…アルトよ もし誰か一緒していい人いれば助かる…