果実の街の甘い秋
崎田航輝
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シナリオID:2520
オープニング
残暑も少しずつ遠ざかり、木々が色づく頃。
果実に溢れるその街にも新たな彩りが実っていた。
深く濃い色が目を引くぶどう。爽やかな紅が美しいりんご。
朝露に煌めくその瑞々しさが、そよ風に乗って芳しい香りを運び――今、街に秋果の季節の訪れを告げていた。
都市同盟、その平野部に座する街――ユームタルト。
年間を通じて様々な果物が育てられるそこは、“果実の街”の名で呼ばれ……その色彩と美味で、旅人や近隣の者にはよく知られていた。
そして秋が訪れた今時分。
「何とも、美しいじゃないか」
街を歩む人々が感嘆に仰ぐのは、道を飾るアーチ。
早春にはいちごが飾られていたそこには今、観賞用のぶどうが生っていて……紫に艶めく、美しい秋色を見せている。
だけでなく、そこを歩んで進めばぶどうの農園。
この時期人気のぶどう狩りが催されているばかりでなく……ログハウスでジャムやケーキの料理を楽しむ事も出来るから、多くの人々で賑わっていた。
勿論、ぶどうだけではなく――清涼に薫るりんごや、大きく実った栗。種々の秋の果実を使った美味はカフェでも味わえる。
濃密な甘味のタルトタタン、マロンクリームが芳醇なケーキ。ぶどうたっぷりのパフェ。
ワインやシードルも、特産のものが楽しめるから……こちらも多くの人で笑顔が絶えないのだった。
いつでも果実に溢れた街だけど、実りの秋もその味が一層楽しめる時期だから。
「多くの人に、もっと街を知ってもらいたいですね――」
そう呟くのは、景色を眺める街の長。
早速その為にと――冒険者達を観光に招く事に決めたのだった。
そうして冒険者達は果実の街を訪れる。
秋の風に、甘く芳醇な香りが漂っている。
そんな景色の中で、それぞれに歩み出した冒険者達は――
果実に溢れるその街にも新たな彩りが実っていた。
深く濃い色が目を引くぶどう。爽やかな紅が美しいりんご。
朝露に煌めくその瑞々しさが、そよ風に乗って芳しい香りを運び――今、街に秋果の季節の訪れを告げていた。
都市同盟、その平野部に座する街――ユームタルト。
年間を通じて様々な果物が育てられるそこは、“果実の街”の名で呼ばれ……その色彩と美味で、旅人や近隣の者にはよく知られていた。
そして秋が訪れた今時分。
「何とも、美しいじゃないか」
街を歩む人々が感嘆に仰ぐのは、道を飾るアーチ。
早春にはいちごが飾られていたそこには今、観賞用のぶどうが生っていて……紫に艶めく、美しい秋色を見せている。
だけでなく、そこを歩んで進めばぶどうの農園。
この時期人気のぶどう狩りが催されているばかりでなく……ログハウスでジャムやケーキの料理を楽しむ事も出来るから、多くの人々で賑わっていた。
勿論、ぶどうだけではなく――清涼に薫るりんごや、大きく実った栗。種々の秋の果実を使った美味はカフェでも味わえる。
濃密な甘味のタルトタタン、マロンクリームが芳醇なケーキ。ぶどうたっぷりのパフェ。
ワインやシードルも、特産のものが楽しめるから……こちらも多くの人で笑顔が絶えないのだった。
いつでも果実に溢れた街だけど、実りの秋もその味が一層楽しめる時期だから。
「多くの人に、もっと街を知ってもらいたいですね――」
そう呟くのは、景色を眺める街の長。
早速その為にと――冒険者達を観光に招く事に決めたのだった。
そうして冒険者達は果実の街を訪れる。
秋の風に、甘く芳醇な香りが漂っている。
そんな景色の中で、それぞれに歩み出した冒険者達は――
解説
●概要
都市同盟にある街、ユームタルトへ観光に招かれました。
ぶどう狩りを中心に楽しんでゆく事が出来ます。
●ユームタルトについて
同盟の平野部にある都市です。
農業が盛んで、特に果物類の生産、取引が多く行われています。
今の時期はぶどうを中心に秋の果物が出回っています。
●行える事
ぶどう狩りを中心に自由に散策出来ます。
以下、立ち寄れる場所やイベントの例を示します。
1.ぶどう狩り
農園の中で、生っているぶどうを自由に採って食べる事が出来ます。
大きなものや小粒のものなど品種は様々です。
色も赤みや青みの強いものやピンク色に近いもの、オレンジがかったものなどがあり、それぞれ微妙に味も違うようです。
2.料理
採ったぶどうをログハウスで料理出来ます。
器具や調味料など基本的なものは揃っていますが、持ち込みも可です。ぶどう以外の果物を買っていればそれを使っても構いません。
ジャムや簡単なケーキなどを作るのが人気なようです。
料理が出来ない方は教えてもらう事も出来ます。
3.カフェ
スイーツを楽しめます。
メニューは秋の果物が材料ならば様々なものがあるでしょう。
人気の品としてタルトタタンやぶどうたっぷりのパフェ、マロンクリームケーキなどがあります。
他にもソルベやぶどう大福、ムースにマカロンなどが揃っています。
飲み物も果実のジュースの他、ワインやシードルなど色々と見つかるでしょう。
4.お土産
収穫したばかりの果実や農園製のジャムが買えます。
カフェのメニューのお持ち帰りも出来ます。
また、街ではぶどうやりんごをテーマにしたクッションや日用品などのグッズも人気です。
5.散策
この時期は街が秋の果実で飾られています。
観賞用のぶどうで出来たアーチが並ぶ道や、家々にも鉢植えのぶどうなどが並んでいて、歩むだけでも色彩や香りを楽しめるでしょう。
マスターより
同盟の一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
ぶどう狩りを中心に街を散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
「よっし、たらふく食うぞ!」
色彩に満ちる農園で――ナハシュはぶどう狩りを始める所だ。
果実は大きさも香りも千差万別で……隣に並ぶヨル・スレイマンも興味深げ。
「結構種類豊富なんだね。旅をしてるとここまではお目にかかれないな」
「ああ、早速食べようぜ!」
と、ナハシュはその全種類制覇を目指して進み出す。
するとその芳香で味も想像出来るから――
「すっぱいのは俺の! 激甘ぇのは主にお前が食え」
「うん。あ、こっちのは良さそうだよ」
と、酸味のありそうな房をヨルが勧めると、ナハシュは頷いて実食。少のし歯ごたえと、丁良い渋みが美味だった。
「こいつはいいな」
「甘いのも美味しいね」
オレンジの粒はトロピカルで、ピンクの粒は柔らかな風味。そのどれもが甘やかでヨルは舌鼓を打つ。
一方、色の薄い房は酸味がメイン。ナハシュがそれを好むのを見ると、ヨルも味見して頷いた。
果実というよりは旨みの強い野菜とも言えそうで。
(この味なら酒のアテにも何か使えるかもしれないな……)
考えつつ、お気に入りを選ぶと――ナハシュがそれと自分の好みのぶどうを袋に詰めてマジカルポケットへ入れた。
「それ便利だよねえ」
「ああ、後で食おうぜ」
そうしてお腹も膨れると、二人はお土産売り場へ。
「へえ。色々あるね」
ワインは年代も揃っていて、ヨルは感心。ナハシュと共に試飲もしつつ、お勧めの数点を購入した。
「この辺も買っとくか」
と、ナハシュはジャムに目を留めて……お勧めの品と気に入った品種のものを買う。
ヨルは更にお菓子も購入。タルトとケーキを選んだ。
「お土産には十分だね」
「あ、待て」
出ようとするヨルをナハシュがふと止める。
視線の先に大きめのクッションがあった。ぶどうの形で、もこもこの可愛いデザインだ。
「これ、ハンモックに乗せたら気持ちよさそうじゃねえ?」
「確かに、部屋の中にもあって良いな。ほら、君のとこ殺風景だしさ」
という事で、ヨルも同じものを複数購入していくのだった。
結果、飲み物に食べ物、クッションまで揃って大満足だ。
「帰ったらこのワインで宴会だな!」
「その時は料理も少しするからね」
ヨルの言葉に、ナハシュはまた「ああ!」と期待を浮かべて。果実の薫る風の中、二人は歩み出した。
「涼しくて、いい香りで。良い所ね……」
甘酸っぱい芳香が鼻先をくすぐる。
そんなぶどう農園を……エデル=マグノリアはケン・Z・ブラッドリーと歩み始めていた。
「そうだな。早速採ってみるか」
言ったケンは、濃い紫の美しい品種を見つけてエデルを手招き。
二人でぷちりと採って、口に運んだ。
「ん、甘くて美味しい――」
「ああ、よく熟してる」
溢れる果汁に、頷き合って。その美味に季節の恵みを実感する。
そうしてまた別のぶどうを求めて進むと……ふとエデルが視線を上げた。
少し高い場所に、甘い香りを漂わすぶどうが生っていて……きっと美味しいだろうと思えたのだ。
故にエデルは台座を使って採る事にした、のだが。
置く場所が少し手前過ぎたか、僅かに届かないので手をぐっと伸ばすと――
「あ、とれた! ……ひゃっ!」
ぷちりと採れたは良いけれど……その拍子によろけて落ちそうになる。
が、それが途中で止まった。
ケンがしかと、体を抱きとめていたのだ。
「楽しむのもいいけど気をつけないとだめだぞ」
「ひぇ、ご、ごめんなさい」
エデルはあわあわ。
ケンにとっては心配ながら、約得でもあったけれど……エデルは恥ずかしさにぱっと立ち上がり、暫し照れに赤らむ。
それでも、食べたぶどうは美味しくて。ケンと食べさせ合って、笑みを交わした。
ただ、時には甘くないものもあって。
「ん、む……すっぱい……」
「……こっちもだ。酸味が強いのもあるんだな」
「ケン様のも? ふふ、おそろいね?」
エデルはそれが嬉しくて、また笑みを零すけれど――ケンも笑顔を返しながら、ふとちょっとした思いつきが頭に浮かんでいた。
そして酸味の強いぶどうを、また一つ採って。
「これが甘くなる方法があるんだが知ってるか?」
「……?」
エデルが仄かに小首をかしげ、何かを言おうと口を開く。
その言葉を待たず――ケンは自身の口にぶどうを含んで口移し。そのまま少し長めにエデルの唇を味わった。
「な……甘くなっただろう?」
「……あの、その」
エデルは照れを隠せずもじもじ。
「……うう、私が照れてるの見て、面白がっていない?」
「そんな事はないさ」
ケンの言葉には「本当?」とちょっぴり膨れっ面を見せるけれど……それでも恋人には甘くなってしまうのがエデル。
だから最後にはまた寄り添って。二人はまた、甘い時間を過ごしてゆく。
「どれも良さそうだなー」
農園の果実を眺めて、サイラスは歩む。
ワイン造りの素材を探しがてら、ぶどう狩りにやってきた所。他では見ない品種も多いから味見をしてから買おうと思っての事だ。
「この辺は自前でこっそり作るにも限度があるし……」
色々と見つけられればいい、と。
早速一つ一つ確かめていくと……品種は全てが千差万別。香りの強いぶどうは、長く寝かせても芯のある芳香を纏うワインになりそうだし――
「これは、まろやかになるな」
皮の薄いものは、親しみやすい味の一本になるだろう。
酸味と甘味のバランスの良いものは、料理にも合うワインが出来る確信があった。
「色味も多彩だしなー。……よし、これくらいか」
と、軽く頷く。
めぼしいものを選んだのだが――それは一種や二種ではなく。
最終的には各品種を樽で注文。冒険者としての収入をここぞと活かし、買付といえるほどの量を調達して荷馬車に積んでいくのだった。
「後は他の果物も見ていくか」
と、酒になりそうなりんごなどの果実も確認。
数多の収穫に満足すると……サイラスは荷馬車で帰路へ向かうのだった。
「わぁ、どれも綺麗です!」
ぶどう狩りに訪れたエルナ・クルプファルツは――その色とりどりの果実に瞳を輝かせていた。
歩むだけでも目が楽しい。
けれど勿論、味と芳香も楽しみたいから。
「良い香り――!」
オレンジがかった果実に惹かれてそれを口に運ぶと、トロピカルな味わいに魅了されて……桃色の果実も見つけると、そのまろやかな甘やかさに舌鼓。
中でも香りがよく、甘味と酸味のバランスが良いものを収穫するとログハウスへ。
布を被せたそれらの果実をよく踏んで、果肉を潰すと……別の目の細やかな布で濾してぶどうジュースを作った。
「とってもよく出来ました!」
そしてそれをテーブルに置いて、街の景色と一緒に楽しむ。
「すっかり秋の色ですね――」
紅葉に人々の賑わい、涼やかな風。
眺めながら味わうジュースは、皮の色味が鮮やかに出て見目にも美しい。
勿論、味も甘味と酸味の均整が取れた上品な仕上がり。仄かに残る果肉の食感もまた快くて……長閑な時間に心も癒えた。
「さあ、新たな冒険にさあ出発です!」
そして明日へのエネルギーに満ちたのならば、元気に街へ。
まずは絶品のタルトタタンを求めてカフェを目指し、踊るように歩み出していった。
「こっちだよ。にいさま」
ログハウスに隣接した庭園。
白の丸テーブルが映えるその一角へ――ルーンス・ラグネルはヴィナスを案内してきていた。
「さあ」と椅子を引くと、ヴィナスは「うん」と大人しく座る。
何しろ今日は――
「にいさまのハピバ企画第一弾を始めるよ!」
そんな言葉と共に用意されたのは、紅茶と料理の材料。
そう、月末に誕生日を迎えるヴィナスへの……ティーパーティーをプレゼントする会だった。
「という訳でカインママを連こ――じゃなくてゲストに呼んだよ!」
「ママじゃねぇけどな」
と、隣に立つのはカイン・ステラ。
言いながらも材料を今一度確かめてから、ぱんと手を叩いて。
「やっていくか。そんなに時間はかからねぇから、ヴィナは待っててくれな」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
ヴィナスが言って微笑むから、カインはお菓子、ルーンスは紅茶を準備開始。
「さてと」
まずカインは、ぶどう狩りでの味見もしつつ、街に並ぶ多様な品種のぶどうを確かめて。
「ここは色々葡萄があるな……」
オレンジ、ピンク、そして紫や緑の房を揃える。
そしてログハウスで生地を作り、薔薇とラズベリーのコーディアル入りのスポンジケーキを焼いていった。
(ホントはルーンスも作りたかったんだろうけどな……)
曰く“抜け駆けしたくない”のだと、今日はお菓子担当を任された。
(ま、よくわかんねぇけど――)
託されたからには良いものを作るのみ、とカインは作業を続けていく。
そのルーンスはというと、ぶどうを選定中。
ただの紅茶ではなく、ぶどう紅茶を作ろうと思ったのだ。
コンポートに紅茶を注ぐシンプルなものではあるが――これだけ品種があるからこそ、ぴったりなものも見つかって。
「うん、良いのができそう」
選んだぶどうは甘さ控えめで、香りと風味重視。
それを甘露アリの恵みを使って煮る事で……甘さも丁度良くなるのだ。
そうして香り高いコンポートが完成。紅茶に馴染むよう、それを軽く潰していった。
ヴィナスはそんな二人を眺めている。
(……頑張ってくれてるな)
ルーンスには冒険者になってから、料理を教えてあげた事もあった。
今見ると、だいぶ手慣れてきているようで……そこに成長と、ルーンスの思いを感じて胸があたたかになる。
(カインママは……うん)
その手際の良さを見て改めて実感する。
(ママ否定してるとこ悪いけど、ママだしなぁ……。お母さんって言ったら凹みそうだし)
ただ、それ故に優しさを感じるのだ。
(俺はあの人と、親子になれなかったしね)
ふと想起する。形の上で親子でも、言葉に値する程の絆は持てなかったと。
(……)
ヴィナスは緩く首を振る。丁度、二人の準備が終わる所だ。
カインは持参したクリームと、色とりどりのぶどうでケーキを飾り付け。コンポートも間に挟んだ豪華仕様に仕上げていた。
ルーンスもコンポートに紅茶を注ぎ、カインのケーキと共にテーブルへ。
「にいさま、お誕生日おめでとう!」
「おめでと、ヴィナ」
カインも並んで伝えると、「うん」と応えてヴィナスは実食。
丁度良い甘さの紅茶と……ぶどうとふわふわのスポンジが相性抜群なケーキを楽しんだ。
このケーキの出来には「やっぱママじゃん」と思ったりもするけれど――味以上に、誕生日に作ってくれたのが嬉しくて。
「二人ともありがとう。本当に嬉しい」
返したのは素直な言葉と笑顔。
だからルーンスもまた喜びを表情に表す――ヴィナスが元気である事が、自分には一番なのだから、と。
そして和やかなティーパーティーは続く。
秋の風が三人を撫ぜる。甘い香りに包まれた中に、流れるのは穏やかな時間だった。
「綺麗で――美味しい幸せを感じる町ですね」
秋の優しい空気と、甘やかな果物の香りを楽しみながら……エヴァン・ピオネロは視線を巡らせていた。
隣に並ぶアルマ・ヴァレンタインも笑顔で頷いて。
「うんうん、美味しそうな果物があっちこっちに見えるねー、“果実の街”っていうんだっけ」
「まさに名前の通りですね」
その心楽しい景色に、暮らす人々の気遣いと努力を感じて……エヴァンはそこに感謝を抱きながらアルマへ向いた。
「まずはどこへ行きましょうか?」
「やっぱり最初は……カフェで目いっぱいスイーツを楽しもっか?」
という訳で二人はカフェへ。
旬なメニューに目移りしてしまうから――
「いろいろ味わえるよう二人でシェアしよっか?」
「はい!」
笑み合って、アルマがまずぶどう大福とムースを選ぶと――
「タルトタタンに、栗のケーキも食べたいです。あっ、それと色とりどりのぶどうのパフェも……!」
エヴァンもまた大好きな品々を注文。
飲み物は、二人とも搾りたてのジュースにした。
「お酒はもーちょっと先だからね」
アルマがやってきたグラスを手に取ると、それにはエヴァンも頷いて。
「初めてのお酒はアルマと二人で頂く約束を忘れてませんからね」
微笑んで、自身もグラスを軽く掲げる。
アルマもそれに応えて。
「これも美味しそうだよね!」
「そうですね。――では、乾杯!」
「かんぱーい!」
二人で新鮮な甘味を楽しんで……早速スイーツも実食。
「はい、あーん」
「アーン――ん、美味しいです」
アルマが差し出したムースを、エヴァンはあむり。その幸せと芳醇な甘さに心も一層穏やかで。
あーんをお返しすると、アルマもタルトタタンの深い甘みや栗のケーキの香り高さを、同じ幸せと共に楽しむのだった。
そうしてお腹がいっぱいになれば――ぶどうのアーチの道へ。
アルマがはい、と抱っこ待ちの体勢をとると……その可愛さに笑みつつ、エヴァンはぎゅっと持ち上げる。
すると前よりちょっぴり高くなった目線に、アルマが目を輝かせた。
「わぁ、エヴァくんまた背が伸びた?」
「ふふ……ぼく170cmになりましたよ」
エヴァンはえへんと誇らしげ。
だから、と傍の顔を見て。
「これからも……アルマが遠くまで見渡せるよう支えますからね」
「うん、これからも……ね」
アルマが腕をぎゅっとすると、エヴァンはそれも愛しくて。
そっとキスを交わし、二人は季節の薫る道を進み出す。
「イュン! 今日はジャムを作ろう!」
肩に乗る子兎と共に、フリューリングスルフト=ティエラはログハウスに入った所。
採ったぶどうだけじゃなく、イュンの食べられるりんごやベリー類の果物も用意して……それらを鍋で煮始めていた。
「二人へのお土産にするんさぁ」
思いを込めて、瓶に幾つもの色彩を詰めていく。
「それから……簡単なケーキ、教えて欲しいさぁ」
家で待つ友人に振る舞いたいからと、教えを受けて生地を作り、窯で焼き……果実とクリームで飾ったケーキも学んで。
「えへへ、イュンおいしい?」
鳴いて応えるイュンと共に、フリューも笑顔で完成品の美味を味わった。
その後ふたりは散策へ。
「素敵やねぇ」
紅葉、果実、人々の笑顔。
涼風が音色を運ぶたび、フリューの歩調はリズムを刻み、声は紡ぐ言の葉を探す。
『秋の贈り物、紫、ピンク、オレンジ、青。一粒ひとつぶに詰まったそれが口の中で弾ける――』
――すっぱい? 甘い?
――ワインにしようか、お菓子にしようか
――悩ましい時間も贈り物
――けれどお腹は空くから早く決めなきゃ
歌い、踊り、フリューは今日を楽しむ。
秋風が、そのメロディに応えるように――爽やかに吹き抜けていた。
「街中がぶどうづくしだね」
秋色に彩られた街並み。
そんな景色に、歩む海神 江流が声を零すと――隣のガルシアも頷いていた。
「ええ。ユームタルトはあまり来たことがありませんでしたが、こんなにもぶどう尽くしな場所があったとは……」
「秋以外はどんな感じなんだろう」
「その時々の果物がいっぱいなのかも知れませんね」
そんな会話を交わしつつ進めば、カフェが見えてきたから――
「今日は目一杯楽しみましょう」
「うん」
と、二人は食を楽しんでいく事にした。
メニューを見ると、江流はその豊富さに感心する。
「ぶどう大福……こういうのもあるのか」
折角だからと頼む事にして、飲み物も吟味。大福ならばお茶も欲しいけれど。
「これに合わせる飲み物だと、何がおすすめかな? ……渋めのジュースか。良さそうだね」
店員に話も聞いて、それも頼む事にする。
と、ガルシアはメニューを見てあっと気づいた。
「お酒もありますよ?」
「確かにぶどうの名産ならワインは外せないか」
という訳でワインも二人分を注文。ガルシアはぶどうたっぷりのパフェを頼み……二人の品が卓に並んだ。
早速口に運ぶと――
「ん、良いね」
江流は大福の柔らかさと果実の瑞々しさに舌鼓。渋いジュースとの相性もよく、未知の食べ合わせに心を弾ませる。
ガルシアも色味と風味が千差万別のぶどうを楽しみつつ、ワインを一口。
すると……すぐに顔が真っ赤に。
「凄く美味しいですね、江流様も楽しんでいますか?♪」
「うん。ガルシアさんは酒弱いんだから、程々にね」
「勿論です♪」
ガルシアは応えるが、既にベロベロ。
「江流様、江流様、あのまかろん? って他の方が食べてるのも気になります、あれも食べてみませんか?」
「甘いものばかりで大丈夫かい?」
言いながらもガルシアが頷くので追加注文。さっくりした歯ごたえと甘味を堪能する。
江流はワインと合わせる肉が欲しくなってきて……ミートパイがあったのでそれを味わった。
そうしてお腹を満たしながら、窓を見ると外はすっかり秋の風景で。
「油断してるとすぐに今年も終わっちまうんだろうな」
肩に乗せた揺満月がコロコロ鳴くのを聞きながら、空を見て――あの娘を想う。
「冬は……どうするか」
「……私は予定がありませんし、良かったらその……色々とご一緒でも」
ガルシアが少し遠慮がちに言うと、江流はそれに微笑んで頷く。
そうしてガルシアの酔いが覚めた頃、また二人は散策へ歩み出した。
香りと景色が五感を撫ぜていく。
初めて訪れたその街を、じっくり記憶するように――ルイドは歩んでいた。
「秋、か」
さらさらと揺れる植物に、感じるのは季節の移ろい。ついこの間まで暑かったのに、今はもうその名残しか感じられなくて。
「気温もそうだが、目や鼻でも……いや、これはこの街特有かね?」
巡る程に視界に映る、りんごやぶどう。
その色彩と香りも随分と色濃く鮮やかに思えて。
「さすが“果実の街”ってわけか」
気分もよく歩いていくと、賑わう店先へ出た。
「……ん、こっちは土産か」
見えるのはクッションに色味豊かな食器。
何とも可愛らしく、自分には似合わない気がするばかりだが――
「これは、香水か」
と、瓶が並ぶ一角で目を留める。
フレッシュなりんごが香るもの。瑞々しいぶどうが香るもの。種類は数多くあって、ルイドは頷く。
「悪くないな」
また秋の空気を思い出して浸りたくなる事もあるかも知れない。その時にこんな香りがあれば、助かるだろう。
だからそれを幾つか購入して。
「さて」
次はどこへ行こうか。
新しい景色、新しい時間。それらを心に留めながら……ルイドはまた歩んでゆく。
ロゼットはカフェにて食事を始める所。
今日のお目当ては、甘い香りのタルトタタンと――
「どれも良い色ね」
と、澄んだ色味に思わず惹かれる……ワインだ。
赤に白、そしてロゼワイン。
街のぶどうで生まれたそれは、どれも芳しく。グラスを揺らすだけで花束のような芳香が漂う。
勿論、果実の旨味も十二分に出ていて――白を頂くと、するりとした喉越しから華やかな風味が広がった。
赤は瑞々しささえ感じられる芳醇さがあって……それらを飲んではタルトを一口。キャラメリゼした林檎の酸味と甘さで口直しして、次の味を楽しむ。
「ん……これは贅沢な楽しみ方ね」
ロゼワインもさっぱりとしながら、意外な程香り高く。
グラスを見つめて、ふと思いを馳せる。
このワインは昨年より以前のぶどうによるものだ。今日採れたぶどうも、これから時間をかけて来年以降のワインとして樽で眠っていくのだろう。
「そう考えると毎年、通いたくなる人の気持ちも分かるわね」
実感と共に……そんなスイーツやワインをお土産にしたいと思った。
「その為にも――どれが美味しいかしっかり確かめておかないと」
と、呟きながらロゼットはワインの追加を注文。
季節が運ぶ香りと味を、まだまだ楽しんでいった。
秋風の香る通りで、ミゼリア・L・ステュクスは景色を眺めて歩む。
「……」
静かな佇まいに表情は無く、余人には人形然として見えただろう。けれどその心には、目に映る全てへの溌剌とした興味があって。
「とても、きれい」
呟きと共に、草花や果実の色彩を楽しんでから――ぶどう狩りへと向かう事にした。
するとそこでも、視界を満たす果実に圧倒される。
果実をもぐのも初めての事だから、勝手も判らなかったけれど……周りの人々の事も少し眺めながら、遠慮がちにぷちりと果実を採って。
(おいしい……)
甘いものは好きなミゼリアだから、その味にも虜になって……ぷちり、ぷちりと少しずつ採っては口に運び、甘い粒を見つければ心を踊らせた。
そして収穫をした後はログハウスへ。
手順も教えてもらいつつ――
「……ありがとう、ございます」
静かに言葉を返してから、果実を煮ていく。
するとぶどうが鮮やかなジャムへと変わっていく過程もまた珍しく。静かに驚きながら、感動を覚えて――
「ん、おいしい……」
出来上がりを味見もすると濃い甘さが快かった。
瓶に詰めて完成すると感慨もひとしお。
香りも色も、浴びる風も。全てが新しいその街を、ミゼリアはまた歩み出していった。
「こちらへ、ルベア嬢」
「ええ――」
ティトリー=R=アルバートが案内する先へ、ルベア・ベルニは歩みゆく。
その足取りは少し、重かった。
強く、落ち込む出来事があった。
その事を知る人にも、外出に誘われたけれど……ルベアは気を使わせるのも申し訳なくて遠慮してしまっていた。
けれどそれから間を置かず、こうしてティトリーにも誘われた。
自分はいつも通り振る舞っていたつもりだったけれど。
(そうじゃ、なかったのかな)
事実、エスコートするティトリーも……ルベアの異変には気づいていた。
だからこそ気晴らしにと、カフェへと連れてきたのだ。
事情は知らないけれど。
「どうぞ」
一歩先を行ってルベアへ椅子を引いてあげる。
なるべく、自然に見えるように。気を遣われていると思ったら、ルベアは遠慮してしまうと思ったから。
でも、そうしようと努力している事がルベアにはすぐに判る。
ティトリーの背中から「何とかしなきゃ」というものを感じるから――
(……やっぱり、私は今変かも)
ルベアは自覚して、目を閉じる。
そんな姿に、ティトリーは最後には聞いた。
「その……最近何か、ありましたか」
「……、ええ」
ルベアは小さく口を開く。
こんな場だし詳しくは言わない。
でも、そっと伝えた。助けられたはずの人を、見殺しにしたのだと。
「……そうだったんですか」
「いくら考えても、自分の足りなさが悔しくて」
ルベアはそれ以上は告げなかった。
でも、ティトリーはそれだけで痛いほど心が想像出来る。
だから、真っ直ぐにルベアを見つめる。そしてぶどうタルトをひとかけらフォークに刺して。
「人間ひとりが掬いあげられるものは多くありません。けれど……ルベア嬢のその選択によって、確かに救われた人もいたはずです」
その人たちが、自分の命に負い目を感じることがないように、と。
「……貴方にできることは、掴んだ未来に胸を張ることだと。そう、思います」
それは今自分が紡げる精一杯の言葉だった。
「……」
「すみません、差し出がましかったら――」
「ううん」
ルベアは首を振る。
言葉が全てを解決はしない。
でも、彼なりに必死に励ましてくれてるのを感じた。
好きなはずのフルーツパフェも最初は味がしなかったけど――そう思ったら、美味しく感じられるようになってきて。
自分はやっと少し、笑えるかも知れないから。
「ありがとう」
心から、その言葉が零れた。
ミア=リゼルは、ティトリーがルベアをカフェへ連れてゆく所を見ていた。
「ルベアさんを誘うことに成功したようですね……! 気弱な方だと思っていましたが、意外と……」
エスコートするその姿に、感心の声を零す。
それでも、ルベアはやはり自分の親友だという思いもあるから……暫し二人を、陰で見守る事にするのだった。
「……」
ルベアの表情は、始め暗いようだった。
彼女が悩んでいる事を、ミアは知っている。
だから、心が締め付けられるようだった。自分にも喪うものがあり……慰めるには互いに悲しみが深すぎたから。
それがすぐに癒えるものではないとも判っている。
(私たちは、選んだ道を歩んでいくしかない――)
それが選択に対する責任。
そしておそらく、これから先も同じ事に何度も直面するのだろう。
戻れない道の上で――
(私たちは……)
ううん、と首を振る。
(しっかりしなさい、ミア=リゼル!)
見ればルベアは少しだけ、元気を取り戻していた。
だったら自分だって、と。
(弱気になっていては、せんせいの理想は叶えられないのですから――)
だから両手で自分の頬をぱん、と挟んで。ミアは二人が店を去るのを見届けて、自身も踵を返していった。
「わぁ、色んなぶどうがあるね」
農園の色彩豊かな果実に――リルディライラ・アステールは静かに見惚れていた。
仲間達と共にぶどう狩りへと訪れた所。
皆を連れるブレイズ・アステールは、視線を巡らせて成程と呟く。
「いい場所じゃないか」
「うん、どれも美味しそう」
そう頷くのはアルエット・アステール。
ぶどう色のチュニックに、黒のパンツとブーツも揃え……汚れても目立たぬように対策は万全だ。
平素は音楽以外にあまり興味を持たぬアルエットではある――けれどぶどうは好きだから、俄にわくわくとして。
「早速、採ろう」
「ええ」
応えて果実をぐるりと見回すのはパド。
よしと頷くと、腰に手を当てて。
「いーい、ぶどうは確かに傷つきやすいとか潰れやすいとかあるけど、案外手で掴むくらい平気な程度には丈夫だから」
心構えを伝えながら……隠しきれない程度には大きいコンテナを用意して。
「さあ、気にせずじゃんじゃん狩っていくわよ。……ってああ!」
と、言いつつも早速、コンテナを見とがめたスタッフにずるずると没収されて……少々唇を尖らせながら。
「何よケチ~」
「まあ、持てる分だけを持ち帰って、後はここで楽しんで行きましょ?」
言って、果実に手を伸ばすのはアルカディアだ。
まずは鮮やかな紫のひと粒を口に運び……あら、と目を見開いた。
「予想以上においしいわ」
果汁が弾け、甘やかな風味が広がる。新鮮なだけでない無二の美味だ。
リルディライラも大きな粒をぷちりと採って、あむり。
「ん、おいしい」
ぶどうは美味なばかりでなく可愛いから、リルディライラにとっても大好きなもの。その上で、瑞々しい採れたてを自ら味わえるから……目元も仄かに和らいで。
「初めて見る種類もあるねえ」
「ん、あのオレンジのは、特に気になる」
と、そのぶどうを仰ぐのはアルエットだ。
しっかりと準備してきた足台に上がり、手を伸ばして……ぷちっともいで口に運ぶ。すると普通の品種よりも華やかで、トロピカルな風味が広がった。
「美味しい。あ、あれも」
と、黒に近いものも見つけて、そちらにも移動。上機嫌に鼻歌を歌いながら……もぐもぐと美味を楽しんでいく。
汚れ対策こそしているけれど、食べ方は綺麗で丁寧。
そんな姿に、アルカディアは「ふふ」と微笑みながら――自分もまた一粒。千差万別の味に、次々と手が伸びてゆく。
「たくさん食べてしまいそうね」
「向こうに生ってるのも良さそうじゃない」
と、歩んでいくのはパド。
そこにあるのは小粒のぶどうだ。
ぷちりと房を採って、一粒、また一粒と口に運び……パドは「うん」と頷く。
「やっぱぶどうは小さい実のやつに限るわね。甘いし何より粒の数が多いから、なんかお得な気持ちになるわ」
実際、それも美味。
凝縮された風味と零れんばかりの果汁で、満足感も与えてくれるから……皆もまたそれを味わっては楽しんだ。
リルディライラは種々のぶどうを改めて見つめる。
「これだけ種類があれば、いろんな色のジャムが作れそう」
きれいだろうなあ、と。
呟くその言葉に、アルカディアもふむと頷いて。
「ジャムね。いいじゃない」
それから「どうかしら」と皆へ向く。
「アステールの興行で、ぶどうキャンディやジャムクッキーを子供に配るのは?」
「良さそう。ジャムクッキー、わたしも大好き」
リルディライラが言うと、アルカディアは「勿論皆の分も作るわよ」と笑顔。
だからリルディライラは仄かに声音を華やがせて。
「楽しみ。ちゃんとわたしもお手伝いするよ。それに……きっと子供たちも喜んでくれるよ」
「ぶどうを色々使うっていうのは良いわね」
と、それにはパドも同意の声。
「皮とかも捨てたりするなら、しっかり洗って染め物に使うのもありじゃない?」
「それも良さそう」
アルカディアもそう応える……と、丁度ぶどう狩りの終端までやってきた。
「一座のみんなへのお土産、どうしましょうか? 摘んだぶどう以外にも考えなきゃね」
「そりゃあワインに決まってるじゃない」
パドが笑顔で返すと、アルカディアは首肯した。
「それじゃあ成人済みの子にはワイン、未成年の子にはジュースにする?」
「採ったぶどうでコンフィチュールを作るのも良いかも」
そう提案するのはアルエットだ。
ジャムを作るならそれも一緒に、と。
「冬の間も楽しめるから。パンにのせたり、パイに包んで焼いても美味しくなるよ」
「それも、楽しみ」
リルディライラはわくわくしながら……前方のカフェにも気づいた。
「カフェのメニューもお土産に出来るんだよね。リンゴにマロンのお菓子、食べたいなあ」
「なら、寄っていこうか」
アルエットが言うと皆も賛成して、歩み出す。
だから一層、リルディライラは足取りが軽い。
なにせ、街にはまだまだお土産があるのだから。
「動物たちはブドウ食べられないから――寝床用にクッションとかブランケットとか、買っていってあげようかな。あとで見に行っていい?」
「勿論。こんな機会だし見られるだけ見ていきましょ」
パドがそう言えば、皆は農園の外へ。
豊かな甘味に、豊かな色彩。沢山の楽しみを持ち帰ろうと――秋風の下の散策は続いてゆく。
色彩に満ちる農園で――ナハシュはぶどう狩りを始める所だ。
果実は大きさも香りも千差万別で……隣に並ぶヨル・スレイマンも興味深げ。
「結構種類豊富なんだね。旅をしてるとここまではお目にかかれないな」
「ああ、早速食べようぜ!」
と、ナハシュはその全種類制覇を目指して進み出す。
するとその芳香で味も想像出来るから――
「すっぱいのは俺の! 激甘ぇのは主にお前が食え」
「うん。あ、こっちのは良さそうだよ」
と、酸味のありそうな房をヨルが勧めると、ナハシュは頷いて実食。少のし歯ごたえと、丁良い渋みが美味だった。
「こいつはいいな」
「甘いのも美味しいね」
オレンジの粒はトロピカルで、ピンクの粒は柔らかな風味。そのどれもが甘やかでヨルは舌鼓を打つ。
一方、色の薄い房は酸味がメイン。ナハシュがそれを好むのを見ると、ヨルも味見して頷いた。
果実というよりは旨みの強い野菜とも言えそうで。
(この味なら酒のアテにも何か使えるかもしれないな……)
考えつつ、お気に入りを選ぶと――ナハシュがそれと自分の好みのぶどうを袋に詰めてマジカルポケットへ入れた。
「それ便利だよねえ」
「ああ、後で食おうぜ」
そうしてお腹も膨れると、二人はお土産売り場へ。
「へえ。色々あるね」
ワインは年代も揃っていて、ヨルは感心。ナハシュと共に試飲もしつつ、お勧めの数点を購入した。
「この辺も買っとくか」
と、ナハシュはジャムに目を留めて……お勧めの品と気に入った品種のものを買う。
ヨルは更にお菓子も購入。タルトとケーキを選んだ。
「お土産には十分だね」
「あ、待て」
出ようとするヨルをナハシュがふと止める。
視線の先に大きめのクッションがあった。ぶどうの形で、もこもこの可愛いデザインだ。
「これ、ハンモックに乗せたら気持ちよさそうじゃねえ?」
「確かに、部屋の中にもあって良いな。ほら、君のとこ殺風景だしさ」
という事で、ヨルも同じものを複数購入していくのだった。
結果、飲み物に食べ物、クッションまで揃って大満足だ。
「帰ったらこのワインで宴会だな!」
「その時は料理も少しするからね」
ヨルの言葉に、ナハシュはまた「ああ!」と期待を浮かべて。果実の薫る風の中、二人は歩み出した。
「涼しくて、いい香りで。良い所ね……」
甘酸っぱい芳香が鼻先をくすぐる。
そんなぶどう農園を……エデル=マグノリアはケン・Z・ブラッドリーと歩み始めていた。
「そうだな。早速採ってみるか」
言ったケンは、濃い紫の美しい品種を見つけてエデルを手招き。
二人でぷちりと採って、口に運んだ。
「ん、甘くて美味しい――」
「ああ、よく熟してる」
溢れる果汁に、頷き合って。その美味に季節の恵みを実感する。
そうしてまた別のぶどうを求めて進むと……ふとエデルが視線を上げた。
少し高い場所に、甘い香りを漂わすぶどうが生っていて……きっと美味しいだろうと思えたのだ。
故にエデルは台座を使って採る事にした、のだが。
置く場所が少し手前過ぎたか、僅かに届かないので手をぐっと伸ばすと――
「あ、とれた! ……ひゃっ!」
ぷちりと採れたは良いけれど……その拍子によろけて落ちそうになる。
が、それが途中で止まった。
ケンがしかと、体を抱きとめていたのだ。
「楽しむのもいいけど気をつけないとだめだぞ」
「ひぇ、ご、ごめんなさい」
エデルはあわあわ。
ケンにとっては心配ながら、約得でもあったけれど……エデルは恥ずかしさにぱっと立ち上がり、暫し照れに赤らむ。
それでも、食べたぶどうは美味しくて。ケンと食べさせ合って、笑みを交わした。
ただ、時には甘くないものもあって。
「ん、む……すっぱい……」
「……こっちもだ。酸味が強いのもあるんだな」
「ケン様のも? ふふ、おそろいね?」
エデルはそれが嬉しくて、また笑みを零すけれど――ケンも笑顔を返しながら、ふとちょっとした思いつきが頭に浮かんでいた。
そして酸味の強いぶどうを、また一つ採って。
「これが甘くなる方法があるんだが知ってるか?」
「……?」
エデルが仄かに小首をかしげ、何かを言おうと口を開く。
その言葉を待たず――ケンは自身の口にぶどうを含んで口移し。そのまま少し長めにエデルの唇を味わった。
「な……甘くなっただろう?」
「……あの、その」
エデルは照れを隠せずもじもじ。
「……うう、私が照れてるの見て、面白がっていない?」
「そんな事はないさ」
ケンの言葉には「本当?」とちょっぴり膨れっ面を見せるけれど……それでも恋人には甘くなってしまうのがエデル。
だから最後にはまた寄り添って。二人はまた、甘い時間を過ごしてゆく。
「どれも良さそうだなー」
農園の果実を眺めて、サイラスは歩む。
ワイン造りの素材を探しがてら、ぶどう狩りにやってきた所。他では見ない品種も多いから味見をしてから買おうと思っての事だ。
「この辺は自前でこっそり作るにも限度があるし……」
色々と見つけられればいい、と。
早速一つ一つ確かめていくと……品種は全てが千差万別。香りの強いぶどうは、長く寝かせても芯のある芳香を纏うワインになりそうだし――
「これは、まろやかになるな」
皮の薄いものは、親しみやすい味の一本になるだろう。
酸味と甘味のバランスの良いものは、料理にも合うワインが出来る確信があった。
「色味も多彩だしなー。……よし、これくらいか」
と、軽く頷く。
めぼしいものを選んだのだが――それは一種や二種ではなく。
最終的には各品種を樽で注文。冒険者としての収入をここぞと活かし、買付といえるほどの量を調達して荷馬車に積んでいくのだった。
「後は他の果物も見ていくか」
と、酒になりそうなりんごなどの果実も確認。
数多の収穫に満足すると……サイラスは荷馬車で帰路へ向かうのだった。
「わぁ、どれも綺麗です!」
ぶどう狩りに訪れたエルナ・クルプファルツは――その色とりどりの果実に瞳を輝かせていた。
歩むだけでも目が楽しい。
けれど勿論、味と芳香も楽しみたいから。
「良い香り――!」
オレンジがかった果実に惹かれてそれを口に運ぶと、トロピカルな味わいに魅了されて……桃色の果実も見つけると、そのまろやかな甘やかさに舌鼓。
中でも香りがよく、甘味と酸味のバランスが良いものを収穫するとログハウスへ。
布を被せたそれらの果実をよく踏んで、果肉を潰すと……別の目の細やかな布で濾してぶどうジュースを作った。
「とってもよく出来ました!」
そしてそれをテーブルに置いて、街の景色と一緒に楽しむ。
「すっかり秋の色ですね――」
紅葉に人々の賑わい、涼やかな風。
眺めながら味わうジュースは、皮の色味が鮮やかに出て見目にも美しい。
勿論、味も甘味と酸味の均整が取れた上品な仕上がり。仄かに残る果肉の食感もまた快くて……長閑な時間に心も癒えた。
「さあ、新たな冒険にさあ出発です!」
そして明日へのエネルギーに満ちたのならば、元気に街へ。
まずは絶品のタルトタタンを求めてカフェを目指し、踊るように歩み出していった。
「こっちだよ。にいさま」
ログハウスに隣接した庭園。
白の丸テーブルが映えるその一角へ――ルーンス・ラグネルはヴィナスを案内してきていた。
「さあ」と椅子を引くと、ヴィナスは「うん」と大人しく座る。
何しろ今日は――
「にいさまのハピバ企画第一弾を始めるよ!」
そんな言葉と共に用意されたのは、紅茶と料理の材料。
そう、月末に誕生日を迎えるヴィナスへの……ティーパーティーをプレゼントする会だった。
「という訳でカインママを連こ――じゃなくてゲストに呼んだよ!」
「ママじゃねぇけどな」
と、隣に立つのはカイン・ステラ。
言いながらも材料を今一度確かめてから、ぱんと手を叩いて。
「やっていくか。そんなに時間はかからねぇから、ヴィナは待っててくれな」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
ヴィナスが言って微笑むから、カインはお菓子、ルーンスは紅茶を準備開始。
「さてと」
まずカインは、ぶどう狩りでの味見もしつつ、街に並ぶ多様な品種のぶどうを確かめて。
「ここは色々葡萄があるな……」
オレンジ、ピンク、そして紫や緑の房を揃える。
そしてログハウスで生地を作り、薔薇とラズベリーのコーディアル入りのスポンジケーキを焼いていった。
(ホントはルーンスも作りたかったんだろうけどな……)
曰く“抜け駆けしたくない”のだと、今日はお菓子担当を任された。
(ま、よくわかんねぇけど――)
託されたからには良いものを作るのみ、とカインは作業を続けていく。
そのルーンスはというと、ぶどうを選定中。
ただの紅茶ではなく、ぶどう紅茶を作ろうと思ったのだ。
コンポートに紅茶を注ぐシンプルなものではあるが――これだけ品種があるからこそ、ぴったりなものも見つかって。
「うん、良いのができそう」
選んだぶどうは甘さ控えめで、香りと風味重視。
それを甘露アリの恵みを使って煮る事で……甘さも丁度良くなるのだ。
そうして香り高いコンポートが完成。紅茶に馴染むよう、それを軽く潰していった。
ヴィナスはそんな二人を眺めている。
(……頑張ってくれてるな)
ルーンスには冒険者になってから、料理を教えてあげた事もあった。
今見ると、だいぶ手慣れてきているようで……そこに成長と、ルーンスの思いを感じて胸があたたかになる。
(カインママは……うん)
その手際の良さを見て改めて実感する。
(ママ否定してるとこ悪いけど、ママだしなぁ……。お母さんって言ったら凹みそうだし)
ただ、それ故に優しさを感じるのだ。
(俺はあの人と、親子になれなかったしね)
ふと想起する。形の上で親子でも、言葉に値する程の絆は持てなかったと。
(……)
ヴィナスは緩く首を振る。丁度、二人の準備が終わる所だ。
カインは持参したクリームと、色とりどりのぶどうでケーキを飾り付け。コンポートも間に挟んだ豪華仕様に仕上げていた。
ルーンスもコンポートに紅茶を注ぎ、カインのケーキと共にテーブルへ。
「にいさま、お誕生日おめでとう!」
「おめでと、ヴィナ」
カインも並んで伝えると、「うん」と応えてヴィナスは実食。
丁度良い甘さの紅茶と……ぶどうとふわふわのスポンジが相性抜群なケーキを楽しんだ。
このケーキの出来には「やっぱママじゃん」と思ったりもするけれど――味以上に、誕生日に作ってくれたのが嬉しくて。
「二人ともありがとう。本当に嬉しい」
返したのは素直な言葉と笑顔。
だからルーンスもまた喜びを表情に表す――ヴィナスが元気である事が、自分には一番なのだから、と。
そして和やかなティーパーティーは続く。
秋の風が三人を撫ぜる。甘い香りに包まれた中に、流れるのは穏やかな時間だった。
「綺麗で――美味しい幸せを感じる町ですね」
秋の優しい空気と、甘やかな果物の香りを楽しみながら……エヴァン・ピオネロは視線を巡らせていた。
隣に並ぶアルマ・ヴァレンタインも笑顔で頷いて。
「うんうん、美味しそうな果物があっちこっちに見えるねー、“果実の街”っていうんだっけ」
「まさに名前の通りですね」
その心楽しい景色に、暮らす人々の気遣いと努力を感じて……エヴァンはそこに感謝を抱きながらアルマへ向いた。
「まずはどこへ行きましょうか?」
「やっぱり最初は……カフェで目いっぱいスイーツを楽しもっか?」
という訳で二人はカフェへ。
旬なメニューに目移りしてしまうから――
「いろいろ味わえるよう二人でシェアしよっか?」
「はい!」
笑み合って、アルマがまずぶどう大福とムースを選ぶと――
「タルトタタンに、栗のケーキも食べたいです。あっ、それと色とりどりのぶどうのパフェも……!」
エヴァンもまた大好きな品々を注文。
飲み物は、二人とも搾りたてのジュースにした。
「お酒はもーちょっと先だからね」
アルマがやってきたグラスを手に取ると、それにはエヴァンも頷いて。
「初めてのお酒はアルマと二人で頂く約束を忘れてませんからね」
微笑んで、自身もグラスを軽く掲げる。
アルマもそれに応えて。
「これも美味しそうだよね!」
「そうですね。――では、乾杯!」
「かんぱーい!」
二人で新鮮な甘味を楽しんで……早速スイーツも実食。
「はい、あーん」
「アーン――ん、美味しいです」
アルマが差し出したムースを、エヴァンはあむり。その幸せと芳醇な甘さに心も一層穏やかで。
あーんをお返しすると、アルマもタルトタタンの深い甘みや栗のケーキの香り高さを、同じ幸せと共に楽しむのだった。
そうしてお腹がいっぱいになれば――ぶどうのアーチの道へ。
アルマがはい、と抱っこ待ちの体勢をとると……その可愛さに笑みつつ、エヴァンはぎゅっと持ち上げる。
すると前よりちょっぴり高くなった目線に、アルマが目を輝かせた。
「わぁ、エヴァくんまた背が伸びた?」
「ふふ……ぼく170cmになりましたよ」
エヴァンはえへんと誇らしげ。
だから、と傍の顔を見て。
「これからも……アルマが遠くまで見渡せるよう支えますからね」
「うん、これからも……ね」
アルマが腕をぎゅっとすると、エヴァンはそれも愛しくて。
そっとキスを交わし、二人は季節の薫る道を進み出す。
「イュン! 今日はジャムを作ろう!」
肩に乗る子兎と共に、フリューリングスルフト=ティエラはログハウスに入った所。
採ったぶどうだけじゃなく、イュンの食べられるりんごやベリー類の果物も用意して……それらを鍋で煮始めていた。
「二人へのお土産にするんさぁ」
思いを込めて、瓶に幾つもの色彩を詰めていく。
「それから……簡単なケーキ、教えて欲しいさぁ」
家で待つ友人に振る舞いたいからと、教えを受けて生地を作り、窯で焼き……果実とクリームで飾ったケーキも学んで。
「えへへ、イュンおいしい?」
鳴いて応えるイュンと共に、フリューも笑顔で完成品の美味を味わった。
その後ふたりは散策へ。
「素敵やねぇ」
紅葉、果実、人々の笑顔。
涼風が音色を運ぶたび、フリューの歩調はリズムを刻み、声は紡ぐ言の葉を探す。
『秋の贈り物、紫、ピンク、オレンジ、青。一粒ひとつぶに詰まったそれが口の中で弾ける――』
――すっぱい? 甘い?
――ワインにしようか、お菓子にしようか
――悩ましい時間も贈り物
――けれどお腹は空くから早く決めなきゃ
歌い、踊り、フリューは今日を楽しむ。
秋風が、そのメロディに応えるように――爽やかに吹き抜けていた。
「街中がぶどうづくしだね」
秋色に彩られた街並み。
そんな景色に、歩む海神 江流が声を零すと――隣のガルシアも頷いていた。
「ええ。ユームタルトはあまり来たことがありませんでしたが、こんなにもぶどう尽くしな場所があったとは……」
「秋以外はどんな感じなんだろう」
「その時々の果物がいっぱいなのかも知れませんね」
そんな会話を交わしつつ進めば、カフェが見えてきたから――
「今日は目一杯楽しみましょう」
「うん」
と、二人は食を楽しんでいく事にした。
メニューを見ると、江流はその豊富さに感心する。
「ぶどう大福……こういうのもあるのか」
折角だからと頼む事にして、飲み物も吟味。大福ならばお茶も欲しいけれど。
「これに合わせる飲み物だと、何がおすすめかな? ……渋めのジュースか。良さそうだね」
店員に話も聞いて、それも頼む事にする。
と、ガルシアはメニューを見てあっと気づいた。
「お酒もありますよ?」
「確かにぶどうの名産ならワインは外せないか」
という訳でワインも二人分を注文。ガルシアはぶどうたっぷりのパフェを頼み……二人の品が卓に並んだ。
早速口に運ぶと――
「ん、良いね」
江流は大福の柔らかさと果実の瑞々しさに舌鼓。渋いジュースとの相性もよく、未知の食べ合わせに心を弾ませる。
ガルシアも色味と風味が千差万別のぶどうを楽しみつつ、ワインを一口。
すると……すぐに顔が真っ赤に。
「凄く美味しいですね、江流様も楽しんでいますか?♪」
「うん。ガルシアさんは酒弱いんだから、程々にね」
「勿論です♪」
ガルシアは応えるが、既にベロベロ。
「江流様、江流様、あのまかろん? って他の方が食べてるのも気になります、あれも食べてみませんか?」
「甘いものばかりで大丈夫かい?」
言いながらもガルシアが頷くので追加注文。さっくりした歯ごたえと甘味を堪能する。
江流はワインと合わせる肉が欲しくなってきて……ミートパイがあったのでそれを味わった。
そうしてお腹を満たしながら、窓を見ると外はすっかり秋の風景で。
「油断してるとすぐに今年も終わっちまうんだろうな」
肩に乗せた揺満月がコロコロ鳴くのを聞きながら、空を見て――あの娘を想う。
「冬は……どうするか」
「……私は予定がありませんし、良かったらその……色々とご一緒でも」
ガルシアが少し遠慮がちに言うと、江流はそれに微笑んで頷く。
そうしてガルシアの酔いが覚めた頃、また二人は散策へ歩み出した。
香りと景色が五感を撫ぜていく。
初めて訪れたその街を、じっくり記憶するように――ルイドは歩んでいた。
「秋、か」
さらさらと揺れる植物に、感じるのは季節の移ろい。ついこの間まで暑かったのに、今はもうその名残しか感じられなくて。
「気温もそうだが、目や鼻でも……いや、これはこの街特有かね?」
巡る程に視界に映る、りんごやぶどう。
その色彩と香りも随分と色濃く鮮やかに思えて。
「さすが“果実の街”ってわけか」
気分もよく歩いていくと、賑わう店先へ出た。
「……ん、こっちは土産か」
見えるのはクッションに色味豊かな食器。
何とも可愛らしく、自分には似合わない気がするばかりだが――
「これは、香水か」
と、瓶が並ぶ一角で目を留める。
フレッシュなりんごが香るもの。瑞々しいぶどうが香るもの。種類は数多くあって、ルイドは頷く。
「悪くないな」
また秋の空気を思い出して浸りたくなる事もあるかも知れない。その時にこんな香りがあれば、助かるだろう。
だからそれを幾つか購入して。
「さて」
次はどこへ行こうか。
新しい景色、新しい時間。それらを心に留めながら……ルイドはまた歩んでゆく。
ロゼットはカフェにて食事を始める所。
今日のお目当ては、甘い香りのタルトタタンと――
「どれも良い色ね」
と、澄んだ色味に思わず惹かれる……ワインだ。
赤に白、そしてロゼワイン。
街のぶどうで生まれたそれは、どれも芳しく。グラスを揺らすだけで花束のような芳香が漂う。
勿論、果実の旨味も十二分に出ていて――白を頂くと、するりとした喉越しから華やかな風味が広がった。
赤は瑞々しささえ感じられる芳醇さがあって……それらを飲んではタルトを一口。キャラメリゼした林檎の酸味と甘さで口直しして、次の味を楽しむ。
「ん……これは贅沢な楽しみ方ね」
ロゼワインもさっぱりとしながら、意外な程香り高く。
グラスを見つめて、ふと思いを馳せる。
このワインは昨年より以前のぶどうによるものだ。今日採れたぶどうも、これから時間をかけて来年以降のワインとして樽で眠っていくのだろう。
「そう考えると毎年、通いたくなる人の気持ちも分かるわね」
実感と共に……そんなスイーツやワインをお土産にしたいと思った。
「その為にも――どれが美味しいかしっかり確かめておかないと」
と、呟きながらロゼットはワインの追加を注文。
季節が運ぶ香りと味を、まだまだ楽しんでいった。
秋風の香る通りで、ミゼリア・L・ステュクスは景色を眺めて歩む。
「……」
静かな佇まいに表情は無く、余人には人形然として見えただろう。けれどその心には、目に映る全てへの溌剌とした興味があって。
「とても、きれい」
呟きと共に、草花や果実の色彩を楽しんでから――ぶどう狩りへと向かう事にした。
するとそこでも、視界を満たす果実に圧倒される。
果実をもぐのも初めての事だから、勝手も判らなかったけれど……周りの人々の事も少し眺めながら、遠慮がちにぷちりと果実を採って。
(おいしい……)
甘いものは好きなミゼリアだから、その味にも虜になって……ぷちり、ぷちりと少しずつ採っては口に運び、甘い粒を見つければ心を踊らせた。
そして収穫をした後はログハウスへ。
手順も教えてもらいつつ――
「……ありがとう、ございます」
静かに言葉を返してから、果実を煮ていく。
するとぶどうが鮮やかなジャムへと変わっていく過程もまた珍しく。静かに驚きながら、感動を覚えて――
「ん、おいしい……」
出来上がりを味見もすると濃い甘さが快かった。
瓶に詰めて完成すると感慨もひとしお。
香りも色も、浴びる風も。全てが新しいその街を、ミゼリアはまた歩み出していった。
「こちらへ、ルベア嬢」
「ええ――」
ティトリー=R=アルバートが案内する先へ、ルベア・ベルニは歩みゆく。
その足取りは少し、重かった。
強く、落ち込む出来事があった。
その事を知る人にも、外出に誘われたけれど……ルベアは気を使わせるのも申し訳なくて遠慮してしまっていた。
けれどそれから間を置かず、こうしてティトリーにも誘われた。
自分はいつも通り振る舞っていたつもりだったけれど。
(そうじゃ、なかったのかな)
事実、エスコートするティトリーも……ルベアの異変には気づいていた。
だからこそ気晴らしにと、カフェへと連れてきたのだ。
事情は知らないけれど。
「どうぞ」
一歩先を行ってルベアへ椅子を引いてあげる。
なるべく、自然に見えるように。気を遣われていると思ったら、ルベアは遠慮してしまうと思ったから。
でも、そうしようと努力している事がルベアにはすぐに判る。
ティトリーの背中から「何とかしなきゃ」というものを感じるから――
(……やっぱり、私は今変かも)
ルベアは自覚して、目を閉じる。
そんな姿に、ティトリーは最後には聞いた。
「その……最近何か、ありましたか」
「……、ええ」
ルベアは小さく口を開く。
こんな場だし詳しくは言わない。
でも、そっと伝えた。助けられたはずの人を、見殺しにしたのだと。
「……そうだったんですか」
「いくら考えても、自分の足りなさが悔しくて」
ルベアはそれ以上は告げなかった。
でも、ティトリーはそれだけで痛いほど心が想像出来る。
だから、真っ直ぐにルベアを見つめる。そしてぶどうタルトをひとかけらフォークに刺して。
「人間ひとりが掬いあげられるものは多くありません。けれど……ルベア嬢のその選択によって、確かに救われた人もいたはずです」
その人たちが、自分の命に負い目を感じることがないように、と。
「……貴方にできることは、掴んだ未来に胸を張ることだと。そう、思います」
それは今自分が紡げる精一杯の言葉だった。
「……」
「すみません、差し出がましかったら――」
「ううん」
ルベアは首を振る。
言葉が全てを解決はしない。
でも、彼なりに必死に励ましてくれてるのを感じた。
好きなはずのフルーツパフェも最初は味がしなかったけど――そう思ったら、美味しく感じられるようになってきて。
自分はやっと少し、笑えるかも知れないから。
「ありがとう」
心から、その言葉が零れた。
ミア=リゼルは、ティトリーがルベアをカフェへ連れてゆく所を見ていた。
「ルベアさんを誘うことに成功したようですね……! 気弱な方だと思っていましたが、意外と……」
エスコートするその姿に、感心の声を零す。
それでも、ルベアはやはり自分の親友だという思いもあるから……暫し二人を、陰で見守る事にするのだった。
「……」
ルベアの表情は、始め暗いようだった。
彼女が悩んでいる事を、ミアは知っている。
だから、心が締め付けられるようだった。自分にも喪うものがあり……慰めるには互いに悲しみが深すぎたから。
それがすぐに癒えるものではないとも判っている。
(私たちは、選んだ道を歩んでいくしかない――)
それが選択に対する責任。
そしておそらく、これから先も同じ事に何度も直面するのだろう。
戻れない道の上で――
(私たちは……)
ううん、と首を振る。
(しっかりしなさい、ミア=リゼル!)
見ればルベアは少しだけ、元気を取り戻していた。
だったら自分だって、と。
(弱気になっていては、せんせいの理想は叶えられないのですから――)
だから両手で自分の頬をぱん、と挟んで。ミアは二人が店を去るのを見届けて、自身も踵を返していった。
「わぁ、色んなぶどうがあるね」
農園の色彩豊かな果実に――リルディライラ・アステールは静かに見惚れていた。
仲間達と共にぶどう狩りへと訪れた所。
皆を連れるブレイズ・アステールは、視線を巡らせて成程と呟く。
「いい場所じゃないか」
「うん、どれも美味しそう」
そう頷くのはアルエット・アステール。
ぶどう色のチュニックに、黒のパンツとブーツも揃え……汚れても目立たぬように対策は万全だ。
平素は音楽以外にあまり興味を持たぬアルエットではある――けれどぶどうは好きだから、俄にわくわくとして。
「早速、採ろう」
「ええ」
応えて果実をぐるりと見回すのはパド。
よしと頷くと、腰に手を当てて。
「いーい、ぶどうは確かに傷つきやすいとか潰れやすいとかあるけど、案外手で掴むくらい平気な程度には丈夫だから」
心構えを伝えながら……隠しきれない程度には大きいコンテナを用意して。
「さあ、気にせずじゃんじゃん狩っていくわよ。……ってああ!」
と、言いつつも早速、コンテナを見とがめたスタッフにずるずると没収されて……少々唇を尖らせながら。
「何よケチ~」
「まあ、持てる分だけを持ち帰って、後はここで楽しんで行きましょ?」
言って、果実に手を伸ばすのはアルカディアだ。
まずは鮮やかな紫のひと粒を口に運び……あら、と目を見開いた。
「予想以上においしいわ」
果汁が弾け、甘やかな風味が広がる。新鮮なだけでない無二の美味だ。
リルディライラも大きな粒をぷちりと採って、あむり。
「ん、おいしい」
ぶどうは美味なばかりでなく可愛いから、リルディライラにとっても大好きなもの。その上で、瑞々しい採れたてを自ら味わえるから……目元も仄かに和らいで。
「初めて見る種類もあるねえ」
「ん、あのオレンジのは、特に気になる」
と、そのぶどうを仰ぐのはアルエットだ。
しっかりと準備してきた足台に上がり、手を伸ばして……ぷちっともいで口に運ぶ。すると普通の品種よりも華やかで、トロピカルな風味が広がった。
「美味しい。あ、あれも」
と、黒に近いものも見つけて、そちらにも移動。上機嫌に鼻歌を歌いながら……もぐもぐと美味を楽しんでいく。
汚れ対策こそしているけれど、食べ方は綺麗で丁寧。
そんな姿に、アルカディアは「ふふ」と微笑みながら――自分もまた一粒。千差万別の味に、次々と手が伸びてゆく。
「たくさん食べてしまいそうね」
「向こうに生ってるのも良さそうじゃない」
と、歩んでいくのはパド。
そこにあるのは小粒のぶどうだ。
ぷちりと房を採って、一粒、また一粒と口に運び……パドは「うん」と頷く。
「やっぱぶどうは小さい実のやつに限るわね。甘いし何より粒の数が多いから、なんかお得な気持ちになるわ」
実際、それも美味。
凝縮された風味と零れんばかりの果汁で、満足感も与えてくれるから……皆もまたそれを味わっては楽しんだ。
リルディライラは種々のぶどうを改めて見つめる。
「これだけ種類があれば、いろんな色のジャムが作れそう」
きれいだろうなあ、と。
呟くその言葉に、アルカディアもふむと頷いて。
「ジャムね。いいじゃない」
それから「どうかしら」と皆へ向く。
「アステールの興行で、ぶどうキャンディやジャムクッキーを子供に配るのは?」
「良さそう。ジャムクッキー、わたしも大好き」
リルディライラが言うと、アルカディアは「勿論皆の分も作るわよ」と笑顔。
だからリルディライラは仄かに声音を華やがせて。
「楽しみ。ちゃんとわたしもお手伝いするよ。それに……きっと子供たちも喜んでくれるよ」
「ぶどうを色々使うっていうのは良いわね」
と、それにはパドも同意の声。
「皮とかも捨てたりするなら、しっかり洗って染め物に使うのもありじゃない?」
「それも良さそう」
アルカディアもそう応える……と、丁度ぶどう狩りの終端までやってきた。
「一座のみんなへのお土産、どうしましょうか? 摘んだぶどう以外にも考えなきゃね」
「そりゃあワインに決まってるじゃない」
パドが笑顔で返すと、アルカディアは首肯した。
「それじゃあ成人済みの子にはワイン、未成年の子にはジュースにする?」
「採ったぶどうでコンフィチュールを作るのも良いかも」
そう提案するのはアルエットだ。
ジャムを作るならそれも一緒に、と。
「冬の間も楽しめるから。パンにのせたり、パイに包んで焼いても美味しくなるよ」
「それも、楽しみ」
リルディライラはわくわくしながら……前方のカフェにも気づいた。
「カフェのメニューもお土産に出来るんだよね。リンゴにマロンのお菓子、食べたいなあ」
「なら、寄っていこうか」
アルエットが言うと皆も賛成して、歩み出す。
だから一層、リルディライラは足取りが軽い。
なにせ、街にはまだまだお土産があるのだから。
「動物たちはブドウ食べられないから――寝床用にクッションとかブランケットとか、買っていってあげようかな。あとで見に行っていい?」
「勿論。こんな機会だし見られるだけ見ていきましょ」
パドがそう言えば、皆は農園の外へ。
豊かな甘味に、豊かな色彩。沢山の楽しみを持ち帰ろうと――秋風の下の散策は続いてゆく。
マスターコメント
お疲れ様でした。
各所で楽しんで時間を過ごしたことで、街全体が盛り上がりました。大いに賑わったことで、町長としても喜ばしい結果となったでしょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2022年10月26日 09時46分26秒 公開
大成功
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