【夏果】森のエルフを元気づける会
紀藤トキ
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シナリオID:2365
オープニング
フィルエス大森林のエルフを襲ったのは、混沌の大腐樹との交戦以来の未曽有の危機であった。信仰の拠り所でもあったハイアルヴが、帝国の皇妃に乗っ取られていたという衝撃の事実。世界樹が生存の為とはいえエルフを含む生物をエーテルと化して収奪したという情報。変化と言う物を嫌い、伝統に乗っ取った安定をこそ至上としていた多くのエルフにとって、長い人生の基盤が物理的にも精神的にもひっくり返るような異変であった。
「……もう、おしまいよ。ゾンビは追い払えても、平和な里は戻って来ないわ。死んだ同胞も……」
「グレイオンスは冒険者を信じろと言っていたけど、我らエルフは独力で危機も解決できぬ弱き存在だったのか?」
大森林南方、友好関係にあるリザードマン達の農村の外側に避難していたエルフの集団は、すっかり沈んでいた。環境が変わったことも大きい。リザードマン達は長年の同盟もあり親切であったが、エルフにとって頭上に樹々がない悲しみ。果物や野菜に良く肥えた肉や川魚など、新鮮な森の恵みが無い状況では食事も進まなかった。野菜はまだしも、果実は沼沢地での栽培に適していない。
「森の同胞たちの為、果実の手配は行っているのですが……」
「俺達も狩りを手伝っている。微力ながら、力に成りたい」
リザードマンは野菜の提供と果実の輸入。旧帝国方面から、何か手伝えることは無いかと義侠心で来たハーフビーストの一団も、平原で鍛えた狩りの腕を役立てている。軍人ではなくバルディオンの個人的な伝手であるそうで、真面目ではあるが無理しがちかもしれない。そんな所に立ち上がったのが、意外な事に長年の仇敵であるドワーフだ。
「ワシらとて、去年は邪竜に国土の半分をボロボロにされたわい。じゃが、うずくまってどうなるんじゃ!」
「お前らがそんなんじゃ、張り合いが無い。さっさと立ち上がって『これだからドワーフは野蛮なんですわ』とか言ってみんか」
彼らが用意したのは酒。当然の如く酒。エルフの酒量とか好みには配慮しているあたり、気遣いはあるようだ。さらに、最近では大陸中の多くの場所で見かけるようになったゴブリン達も、エルフを心配しているようである。
「ドン・ゴーフルの命でアダムやサチコと戦える者が森へ行った。俺達は世話をする。任せろ」
白衣にコック帽を纏い、恰好だけはばっちりなゴブリンズだが、彼らの本職はマフィアだ。包丁を握る手つきも何やら怪しいし、鍋は被るものではない。フライパンで殴ってはいけないし、蓋は盾ではない。装備の状態すら怪しい彼らに厨房の仕切りを任せるのは不安しかないのでは? そんな所に、暇をしていたらしい王国の王子……ではなく冒険者ウィルが何やら仕切りだす。
「人間、お祭りとか楽しい事があれば気分は上向くだろう。人間の三大欲求のうち、安心して眠る事は出来ているだろうし、食べ物も大丈夫なら後は分かるだろう?」
「我らが食べ物は料理する。任せろ」
「わからないが不安しかない……」
「酒じゃな」
根拠のない自信とやる気に満ちたゴブリン。リザードマンは首を傾げ、ドワーフは分かりやすく自分の欲求を答える。冒険者ウィルは無駄に良い声で高らかに言い放った。
「人が生きるために必要な最後の要素は、浪漫さ。水着の美人、美男子が甲斐甲斐しくお世話してくれたり、ステージで色気を振りまいてくれれば、種族を越えた熱情が芽生える事もあるかもしれないね。ひとたび魂に火が付けば、エルフは強い種族だ。きっと自分の脚で立ち上がることができるさ」
「……ええと、つまり?」
「水着ショーをやろう。美味しい物を飲んだり食べたりしながら、楽しい物や美しい物を見て、僕らが明日を生きる糧にしようじゃないか」
なんかイイ感じの事を言っていたが、自分が楽しみたいだけであった。しかし、冒険者ギルドへは正式の依頼として受理もされている。真面目なリザードマン達は、ウィルの与太を真に受けて舞台の設営を始めているようだ。ハーフビーストは狩りの他、リザードマンが手配した果実の運送なども手伝っているらしい。ゴブリンはやる気こそあれ食材を無駄にしそうだし、ドワーフは……。あれ? ドワーフが一番まともなんじゃないですかね。
「とりあえず最終的に、避難してきたエルフたちが楽しく笑顔になれば良いんだ。要因が酒でも食べ物でも安心でも浪漫でもいいじゃないか。いや、僕は好きだね、そういう人の強さがさ」
自由人は黙っていてほしい。ともあれ、ギルドには依頼が張り出されたのである。
「……もう、おしまいよ。ゾンビは追い払えても、平和な里は戻って来ないわ。死んだ同胞も……」
「グレイオンスは冒険者を信じろと言っていたけど、我らエルフは独力で危機も解決できぬ弱き存在だったのか?」
大森林南方、友好関係にあるリザードマン達の農村の外側に避難していたエルフの集団は、すっかり沈んでいた。環境が変わったことも大きい。リザードマン達は長年の同盟もあり親切であったが、エルフにとって頭上に樹々がない悲しみ。果物や野菜に良く肥えた肉や川魚など、新鮮な森の恵みが無い状況では食事も進まなかった。野菜はまだしも、果実は沼沢地での栽培に適していない。
「森の同胞たちの為、果実の手配は行っているのですが……」
「俺達も狩りを手伝っている。微力ながら、力に成りたい」
リザードマンは野菜の提供と果実の輸入。旧帝国方面から、何か手伝えることは無いかと義侠心で来たハーフビーストの一団も、平原で鍛えた狩りの腕を役立てている。軍人ではなくバルディオンの個人的な伝手であるそうで、真面目ではあるが無理しがちかもしれない。そんな所に立ち上がったのが、意外な事に長年の仇敵であるドワーフだ。
「ワシらとて、去年は邪竜に国土の半分をボロボロにされたわい。じゃが、うずくまってどうなるんじゃ!」
「お前らがそんなんじゃ、張り合いが無い。さっさと立ち上がって『これだからドワーフは野蛮なんですわ』とか言ってみんか」
彼らが用意したのは酒。当然の如く酒。エルフの酒量とか好みには配慮しているあたり、気遣いはあるようだ。さらに、最近では大陸中の多くの場所で見かけるようになったゴブリン達も、エルフを心配しているようである。
「ドン・ゴーフルの命でアダムやサチコと戦える者が森へ行った。俺達は世話をする。任せろ」
白衣にコック帽を纏い、恰好だけはばっちりなゴブリンズだが、彼らの本職はマフィアだ。包丁を握る手つきも何やら怪しいし、鍋は被るものではない。フライパンで殴ってはいけないし、蓋は盾ではない。装備の状態すら怪しい彼らに厨房の仕切りを任せるのは不安しかないのでは? そんな所に、暇をしていたらしい王国の王子……ではなく冒険者ウィルが何やら仕切りだす。
「人間、お祭りとか楽しい事があれば気分は上向くだろう。人間の三大欲求のうち、安心して眠る事は出来ているだろうし、食べ物も大丈夫なら後は分かるだろう?」
「我らが食べ物は料理する。任せろ」
「わからないが不安しかない……」
「酒じゃな」
根拠のない自信とやる気に満ちたゴブリン。リザードマンは首を傾げ、ドワーフは分かりやすく自分の欲求を答える。冒険者ウィルは無駄に良い声で高らかに言い放った。
「人が生きるために必要な最後の要素は、浪漫さ。水着の美人、美男子が甲斐甲斐しくお世話してくれたり、ステージで色気を振りまいてくれれば、種族を越えた熱情が芽生える事もあるかもしれないね。ひとたび魂に火が付けば、エルフは強い種族だ。きっと自分の脚で立ち上がることができるさ」
「……ええと、つまり?」
「水着ショーをやろう。美味しい物を飲んだり食べたりしながら、楽しい物や美しい物を見て、僕らが明日を生きる糧にしようじゃないか」
なんかイイ感じの事を言っていたが、自分が楽しみたいだけであった。しかし、冒険者ギルドへは正式の依頼として受理もされている。真面目なリザードマン達は、ウィルの与太を真に受けて舞台の設営を始めているようだ。ハーフビーストは狩りの他、リザードマンが手配した果実の運送なども手伝っているらしい。ゴブリンはやる気こそあれ食材を無駄にしそうだし、ドワーフは……。あれ? ドワーフが一番まともなんじゃないですかね。
「とりあえず最終的に、避難してきたエルフたちが楽しく笑顔になれば良いんだ。要因が酒でも食べ物でも安心でも浪漫でもいいじゃないか。いや、僕は好きだね、そういう人の強さがさ」
自由人は黙っていてほしい。ともあれ、ギルドには依頼が張り出されたのである。
解説
沈んでいるエルフ避難民を元気づけましょう。手段は問いませんがパカ倫には気を付けて下さい。
なお、某通りすがりの冒険者の強い主張により指定ユニフォームは水着となっていますが、強制力はないです。
プレイング冒頭にやりたい事として下記のナンバーを入れて頂けると、執筆する私が助かります。
複数選んでも構いませんが、一か所辺りの描写はその分薄くなります。
1:縁の下の力持ち
舞台を設営したり、設備などを用意したりと言った活動をします。
主に、現地民であるリザードマンや帝国から来たハーフビーストが携わっています。
準備の仕事を終えたら次の仕事に行きそうな感じです。
2:ステージパフォーマンス
舞台の上で、人を惹き付けて鼓舞するような演目をやりましょう。
劇でも良いし、音楽でも構いません。エルフの男女が元気になるように頑張りましょう。
でもアルパカに怒られるようなエッチなのは駄目です。
3:厨房対応
ゴブリンマフィア達がうっかり食材を無駄にしないように頑張りましょう。
ここに避難しているエルフたちは野菜や果実を懐かしがっていますが、何でも食べれます。
料理する場合は上に服を着ないと危ないと思いますが、あえて水着エプロンをすれば発案者の冒険者が喜びます、たぶん。
4:フロア対応
給仕は!!! 水着で!!!! と強く主張している冒険者がいたようですが、別に違う服を着ていても怒られません。
ドワーフのおっさんどもは言われた通り水着で酒を配ろうとしていますが、そのままやらせるとエルフは元気にならないです。
5:子供対応
エルフ的なお子様枠の中には外見年齢で20歳位までいます。見た目より大人びた子もいれば、図体の割に幼い子もいます。
教育的配慮などでステージから遠い席を用意されていますが、PCが誘って何かやる事にすれば舞台に上がっても構いません。
6:交流
PCやNPCと仲良くお話したりする選択肢。
7:その他
上の選択肢にないことなど、もしもあれば。
マスターより
私の中のドワーフが意外と義侠心にあふれていたのが意外でした。
というわけで、お祭りです。補足情報として下記に種族ごとの特徴を書きますね。
NPCは冒険者ウィルがその辺にいるかもしれません。
エルフは若い男女と子供が主体で、戦闘力が無い文化人や農民です。長老や狩人は前線に行きました。中には自身の無力さを嘆いている者もいます。
ここには滅んだ一族の人はいません。親族の中の戦士や遠い親戚が亡くなった位の悲劇はありますが、一族で自分だけ生き残ったレベルでの悲惨な人は居ない感じです。
ドワーフはこのために遠路はるばる酒を持ってきています。実はツンデレかもしれません。
ゴブリンはサチコらに戦場へ帯同されなかったブラックデスの下っ端です。やる気はあるのですが、技術が無いです。指導すれば皮むき位はできるようになりそうです。
ハーフビーストはバルディオンの差配で帝国からの支援物資を運んできた人たちです。軍人では無いですが現地で狩りもしている働き者です。
人間代表があの人なのは不安しかないので、エルフへのまともな激励や勇気づけをしてあげても良いかもしれません。
リプレイ
●
フィルエス大森林から南へ逃げてきたエルフ達は、慣れない環境に疲弊していた。歴史的にも、邪竜に焼かれることに慣れたドワーフ王国とは土台から違うのだ。そんな彼らに一時とはいえ安らいで欲しいという思いは、きっと善きものだろう。
「……何故、水辺でもないのに水着の者がいるのだ?」
「水辺以外で水着を着ても良いものなのか、私も疑問ではございましたが……」
もてなされる側のエルフと、もてなす側のレティシア・レインフィールが同じ疑問を抱く。世間知らずのエルフ達に「夏に疲れた人をもてなす時に水着を着るのは普通の事さ。大森林では違うのかい?」などと説いているウィルが原因なのは言うまでもない。
「泥中でこそ蓮は美しく咲くというだろう? ましてここにいる僕も君もただの冒険者。人助けの為に肌を見せることに何の問題があるだろうか。いや、無いね!」
「冗談では無かったのですか。あ、いえ。今日は私は子供たちの相手をしようと思っておりましたので、ちょっと……」
言葉を濁しつつ、逃げ去るレティシアの恥じらいをもウィルは堪能しているようだ。そんな彼の元へ、その素性を察して挨拶に訪れる者もいる。
「王族貴族として振舞う時と、冒険者として振舞う時のメリハリはつけた方が楽しいけれどね。そうはできない不器用な小鳥もまた愛らしいかな。その点、君は付き合いがいいね、シルヴィア」
「宴の趣向は全力で楽しむものです。方々に楽しんで頂く心は、技芸にも通じるところがございます」
などと澄まして返しつつも、シルヴィア・A・カペルの頬は赤い。
「うん。その考え方はとても良いね。覚悟を決めて、より夏らしい装いになるのもお勧めだよ?」
「今日は日差しもきついので、申し訳ありません」
などと、上に肩掛けを羽織っているあたりをからかわれれば、きゅっとストールの端を握って視線を逸らした。ご満悦のセクハラ王子を良しとする者ばかりではない。
「これ以上おかしなことを言い出さないよう、ウィル係を設けるべきだ」
ローザリカ・L・ディオールはそのような事を言いだした。水着で給仕をせよなどと、訳の分からない事を言いだすあたり、暑さでやられている可能性もある。いや、普段からああだった気もする。しかし、これ以上犠牲者を増やさないために、一肌脱がねばとローザリカはショールを落とした。
「は??」
黒の薔薇柄レースが映えるモノキニ姿で、王子のお酌につこうという婚約者に、ジュスト・ヴェルジーの理性と感情が試される。こんな姿で自由過ぎる王子に近づいたら、何が起こるか分かりはしない。ギルドにはラッキー何とかとかアンラッキー何とかとかいうスキルだって売られているのだ。
「とりあえず、不敬に成らぬようにこれを」
羽織っていたシャツを被せ、露な肌を隠す婚約者に、ローザリカは小悪魔の笑みを浮かべる。嫉妬。焦り。普段の余裕がない婚約者殿を見るのは実に心地良い。
「は? この僕のどこが不敬だっていうんだ」
そう口を尖らすローザリカの大きな部位を、男物のシャツを引っかけ、何とか覆い隠す。ジュストは心を無にしつつ、ボタンを上から下へ手早く留めた。そんなどたばたする一角に、普段通りの装いでザザ=ステルヴィナが歩を進める。どこか見覚えのある金髪の冒険者、と思っていたが周囲に貴族子女がいるところから、その正体へ思い至ったらしい。
「ごきげんよう。北方辺境伯領正騎士ザザ=ステルヴィナと申します。――お久し振りと……」
「困ったな。僕はあまりこういう事は言いたくないのだけれど」
言いかけたザザを、ウィルは鋭い目で制した。ザザが知ってか否か、帝国滅亡以後の冒険者の取り扱いに関する申し合わせを成立させた会合の王国代表は、このウィルことウィリアム第二王子である。各国のどの組織も、新しき冒険者の取り込みを帝国の件が一段落するまで見合わせること。それが、人材を巡る争いを避けるための取引だった。こともあろうに王国の、王家に近い家が約定を破っているなどと噂されることは避けねばならない立場に、ウィリアムはいる。
「内定の二文字を忘れないようにね。……僕は、友人に、人を見る目が無かったと思いたくはないんだ」
そう釘を刺してから、ウィリアムはウィルに戻り、いささか芝居がかった様子で、肩を竦めた。
「やれやれ、今日の主役はエルフの皆なんだがね。一介の冒険者の僕の周りに人が集まり過ぎるな。……そうだ、いい事を考えたぞ」
ウィリアムの顔に、悪戯っぽい、というには可愛げのない悪童の表情が浮かんだ。
●
音頭を取ったウィリアムの周囲から視線を外してみても、訪れている面々の装いはまちまちだ。言われたとおりに水着でやって来た者もいれば、我関せずと普段通りの格好の者もいる。
「水着必須なら、上にTシャツを着て、エプロンですかね?」
「……その辺は他の方に任せます」
海辺の街出身のリサ・ベイカーはそこまで忌避感はないようだが、山の民であるヴィルヘルミナは眉を顰めていた。素直に水着で来たギャメルは、恰好だけはコック風の同族を見て今更ながらおかしいと気付いたらしい。
「っていうか水着エプロンってなんだ!?」
「格好は自由だが、衛生面には気を付けて欲しい所なのだ。不注意で駄目にしては食材に申し訳ないのだ」
「そうだね。見た目も大事だけど、肝心な料理で失敗しては意味が無いし」
ウィルへ苦情を申し立てたギャメルへ、ストレガ・L・リベルガストラが一言注意を入れる。水着の上から前掛けをした海神・江流は、髪をバンダナで抑えて落ちないよう気遣っていた。必須でないなら、油跳ねも気になるしやめておこうかなと、炒め物を念頭にリサは言う。
「まぁ良いや、衛生とケガに気をつけて調理しよーぜ……」
ギャメルは、もう今更だと耳をしんなりさせた。別の場所でも、水着派と普段着派が入り混じっている。
「水着は! たくっさん! 作ったんだけどね!」
見せたい相手もいないし、そもそも土方仕事に水着も無いだろうと思うトゥーリ。しかしその横では水着で仲良く作業に勤しむセロンガード・シュタインドルフとティトの姿がある。
「舞台周りの設営を終えたら、果実の運送も手伝いにまいりましょう」
「仕事、大事だけど……。少し、お休みもいいよ?」
「それもそうですね。働き過ぎも良くありませんし」
帝国からやってきている面々に交じって汗を流すセロンガードは、細いながらも鍛えられた上半身を惜しみなく披露していた。隣のティトも慰安とかは良く分かっていないようだが、セロンガードに合わせて水着姿だ。ティトにおねだりされてコロッと方針を変える程度には、今回はお仕事モードでは無いのだろう。卒なく作業をこなしているセロンガードと違い、ティトの肌へはほどほどに泥が跳ねていた。
「汚れたから、後で水浴び、しよ?」
「ええ、後で。ですけれど」
そんなやり取りを耳にすると、トゥーリの頬も赤くなる。
「うー、確かにこの格好だと暑いけど、別に水着で無くてもいいよね?」
種族的にそれほど違和感なく上体を晒しているリザードマンや、毛皮が暑くて脱いだハーフビーストの作業員に交じっていると、自分だけ厚着をしているような気になって来るトゥーリだが、別に大湿地帯の普段着は水着ではない。
「あの、ここに鉢植えを置いても良いですか? 客席から舞台を見た時に、その、ちょうど良いかなって」
えへへ、と笑いながら大きな鉢植えを降ろすゲルダ・クラインは薄紫の愛らしい水着の上にキャミソール風のアウターを着けていた。うすく身体のラインが透けて見える辺りがお洒落感を漂わせる。
「……それ、引っ掛けたりしない? 大丈夫かな?」
「気を付けてれば平気です!」
心配してしまったトゥーリに、ぐっと力こぶポーズを作るゲルダ。別に力こぶは浮いて出ないが、授恵者なので力持ちではある。向こうでは同じサイズの鉢植えをリザードマンが2人で運んでいるのが見えた。
「同胞とはいえ、全く知らない者達ではありますが……」
立ち働く人々を遠目に、リディリディ・トゥラ・イェレミースは住処や隣人を失った同族へ思いを馳せる。縁は薄いとはいえ、何かをしてあげても良いと考えて、荷物に楽器がある事を思い出した。あまり目立つことは好きではないが、その程度ならばしても良いかと、出演受付中らしいステージへ向かう。
「出演希望かな、レディ。では何をする予定なのかと、名前を書いて貰えるかい?」
「あの、あまり人が居ないように見えるのですが……?」
受付に居たのはキオルティス。リディリディはなんと、彼を含めて3人目の出演希望者らしい。最初の一人は冒険者ウィルだという。
●
自由人から逃げ出してきたレティシアは、宣言通りにエルフの子供たちがいる一角にいた。厨房に回った友人から聞いた今日の献立を、腹ペコなエルフの子らへ伝えるのだ。どのような料理か、どう食べるのか。どこかで読んだ面白い逸話や、冒険者として聞いた話なども盛り込み、とにかく子供たちが飽きないようにと頑張っている。
「好きな香りの花は選んだ? それじゃあ、次は袋を持ってね」
エルフの少女達はコルネリウス・アーラの周りに集まっている。彼女たちが選んだドライフラワーは、自分の住まう花鳥園で育てたもの。贈答されるような花もあれば、野草もあった。乾燥する前はどのような花だったのか、咲き方は、季節は、色合いはと問われるがままに答えながら、香り袋を作っていく。
「本当に、大森林にもないお花があるの?」
「本当に無いかは、わかりませんけれど」
フィルエス大森林には世界樹があり、エーテルも豊富だ。あるいはコルネリウスの知らないどこかで咲いているかもしれないと言えば、不安そうだった少女はホッとした様子だった。自分も最初は優しい家族に守られた小さな世界で育まれ、外の世界では様々な物を学んだと伝えると、彼女らの興味は外の世界に移ったようだ。……まあ、子供にとって小さくて優しい世界だったのは同じかもしれないけれど、エルフの森と違って多種族からなる家庭だったことまで話すと混乱させてしまいそうなので黙っておこう。
「学園って、前に兄上が遊びに行ったところね? どんなところ?」
「それはですね……」
今までと同じ生活がすぐ取り戻せずとも、大森林の外の世界で楽しく過ごしている同族がいると知って貰えれば良いとコルネリウスは願う。ステージの飾りつけを終えたゲルダも、小さめの鉢植えを幾つか分けて貰って子供たちの区画へやってきていた。
「レティシア様、宜しいでしょうか?」
と断って、ゲルダが食いしん坊エルフの卵らに紹介したのは、用意してもらった果樹の苗木だ。彼らが見慣れた植物は沼沢地での栽培は難しいだろうが、鉢植えであれば可能だと考えたらしい。あるいは、故郷に帰れば植えなおしても良い。
「育てるのは大変かもしれませんが、きっと、美味しい果物が出来ると思いますよ」
「おお……、当番作ろうよ。当番!」
良好な感触に、手間を掛けたリザードマン達へ感謝の念を送った。そのリザードマンをはじめ、ステージ設営やテーブルセットに掛かっていた面々は作業が一段落し、しばしの休息についている。
「あー。疲れたねー。お腹もすいたかも」
トゥーリの声に、笑いが漏れた。ハーフビーストとリザードマンがくつろぐ中にただ一人、セロンガードが混ざっている。そこは実にモフモフした空間であった。
「そういえば、皆さんは何を思って帝国から遥々ここまで来たのでしょうか」
ふとセロンガードが感じた疑問に、ハーフビーストたちは顔を見合わせた。バルディオンに頼まれたから、と言うのが一つ。これまで関係が薄かったエルフはともかく、リザードマンにはヴィント奪還での援軍に対する感謝がある。だが、それだけでもないと彼らは言った。
「この件は皇帝陛下が為さった事だろう? ちゃんとした戦争をエルフに仕掛けたなら、こんな気分にはならなかったかもしれないんだが……」
栄えある帝国軍が旗を並べて進軍するならいざ知らず、無数のゾンビで蹂躙するなどヤコブ・ヴィリアンの所業と変わらない。彼らの中には家族をヤコブにゾンビとされた者もいるらしく、今回の件に釈然としない思いがあるようだった。本格的に皇帝へ異を唱える所まではいかずとも、不満と言うには些細な違和感が、エルフ達への援助と言う形で出て来たのだろう。
「水着ショーはまだ、かな?」
さほど外面には出ていないが、ワクワクしている様子のティトを微笑ましく見つめつつ、セロンガードは己の身の振り方を考える。帝国の未来は、いずこにあるのだろう。
●
「同胞諸君、まずは基本からなのだ。敵を刺すのと食材の皮むきは持ち方から全然違うのだ」
「危ねえから最初はゆっくりだぜ、兄弟。よしよし、良い調子だ」
厨房では、ストレガによるゴブリンマフィアへのお料理教室が行われていた。成り行きでもう一方の講師役になったギャメルは調理の腕前は確かなのだが、白衣にコック帽のマフィアに混ざると水着ゴブリンの場違い感は半端ない。言いつけを守ったのはギャメルの方なのに、釈然としないことこの上なかった。だいたいウィルが悪い。
「食べ物を粗末にしない、遊ばない、手は清潔にですよ」
ゴブリンマフィア達はといえば、ヴィルヘルミナに子供の様に諭されても、エルフ達の助けになるようゴーフルに命じられているとの事で苛立ちも見せず素直な物である。
「野菜中心なメニューが良いですかね?」
「俺は野菜にコレを合わせて、炒めソバ飯を作ろうと思う」
江流はシャルガネ出身らしく、米の力を信じている。米を食べれば力が出る物なのだ。エルフが好む野菜と、味付けも野菜ベースのソースに醤油を合わせて香りも武器にしたいと言う。
「なるほど、ではわたしは定番の野菜炒めと、野菜串焼きと……。リディさん達の為にお肉も焼こうかな」
リサも品目を決め、食材へ手を伸ばした。洗ったり、下拵えはゴブリン達が早速始めている。
「うむ、上々なのだ。皮についている芋が随分減ったのだ」
ストレガは出来の良いゴブリンを激賞しつつ、カットされた野菜をスープへ投入。味付けは彼女がやり、あく取りや火の番はしっかり教えて任せていく。上下社会の極みであろうマフィアは言われたことはきっちり守れるようで、危険な「隠し味」等を試しはしない。危険と言えば。
「なぜですの! この私がいれば気品と可憐さに満ちた美食の饗宴で、天にも昇る心地にさせて頂きますのに!」
「それ、本当に天にも昇っちまう奴だろ」
「食材を無駄にすることはストレガの名に懸けて許せないのだ」
様々な前科からか、リリリリスは調理場から出禁になっていた。隅っこで痙攣しているコックゴブリンは、勧められるがままに味見をしてしまったらしい。
「納得いきませんわ!」
悲しい犠牲だった。火を使うものをストレガに任せ、ギャメルはエルフが好みそうな果実の洗浄やカット、フルーツサンドの作成を中心にゴブリンを仕切っている。
「こいつはちょっと面倒だからオレがやるぜ。あ、クリームは贅沢に使った方が甘くて旨いぞ」
刺々しいパイナップルを引き受けつつ、簡単なイチゴや柔らかいバナナを回すと、年長の厳ついゴブリン達は素直に調理に勤しむ。傍から見るとシュールな光景だが、当人たちはいたって真面目なものだ。しばらく経つと、覚えの良いゴブリンはもう少し難しい工程へも手が出せるようになる。
「果実盛は早めにお出ししたいのだ。行けそうなのだ?」
「盛り付け、これくらいでカッコいいか? 見栄えも大事だしな」
「あ、少し手が空いたのでお手伝いします。どう切ればいいんです?」
ストレガに問われ、最後の仕上げに掛かっていたギャメルが大皿へ向く。葉っぱや花、実などを表現しようと思うとゴブリンマフィア達が雑に切った果物では難しい。ギャメルの意向を受けて、リサも飾り切りを作っていく。
「俺はステージ脇で作って渡したいから、先に出かけるぞ。食材が足りなくなったらまた戻って来るから」
「皆さんお疲れでしょうし、簡単なまかないでも作りましょう。後で海神さんの所へも持っていきますね」
「良いですね! エルフの子供さんを見ている皆さんにも、お休み時間があるようなら持って行ってあげようかな」
余分の鉄板や調理器具はあるようだが、移動と設営はこれからだ。肩慣らしに腕を回す江流を見つつ、ヴィルヘルミナとリサが軽食の算段をする。本番開始まで、あと少しだ。
●
「さあさあ、誇り高き森の種族諸君。今日はアンタ達の再起のための羽休みだ。いずれ来る飛躍の時の為、いまは多いに食って飲んで遊んでくれたまえ」
サウンドボマーで開会の宣言をするのはルチル・プルメリア・グレイハーツ。横から口だけ出したどこかのヒューマン王族と違い、エルフ達を受け入れ、世話をしているのはリザードマンである。司会の人選としては妥当なところだろう。ざっと会場を見回せば、コルネリウスやレティシア、ゲルダらの声掛けで元気そうな子供たちと違い、大人たちの席はどこか倦怠感が漂っていた。
「おや。元気がないようだね。どうしたそれでも誇り高き森の種族かい? 住む場所を追い出されただけで誇りは失われる物か?」
「な、何を言うか!」
若いエルフは単純なだけに煽り耐性が無い。カッカする所を適度に酒や料理に向けて貰いつつ、最初の出し物の紹介へと入る。
(……というか、ステージの予定がら空きなんだけどねぇ……)
「もう演奏して良いのですか。ただ待っているのも疲れるのですけれど」
ステージにあがるリディリディはそんな事を言うが、大きなチェロを抱えて袖に待機していた程度で疲れるほど、授恵者はやわではない。どちらかというと、彼女が感じていたのは気疲れである。
(……同族とはいえ、見慣れぬ顔がこんなに大勢……。しかも、ドワーフまでうろちょろしています。聞いていませんでした!)
人見知りからの怯懦は天敵を見つけた嫌悪からの怒りに代わり、それでも慣れない事をする緊張はぬぐえない。本来は演奏よりも歌の方が得意な彼女だが、大勢の前で歌うのは抵抗があるし、ドワーフに聞かせたくもなかった。なるべく嫌な顔を視界から外すように目をすがめつつ、一曲目の演奏をはじめる。
「ほう……これは」
(故郷では、彼らの里で良く歌われる楽曲と聞いていましたが、知っている方がいたようで良かったです)
観客が口ずさむ歌詞も、だいたいリディリディが知っているのと同じで、時折変化があるのは部族によるのだろうか。眼を閉じ、微笑む者も、涙ぐむ者もいる。
「失礼、俺も演奏に参加させてもらっていいかな? 曲の調子は大体覚えたから」
「え、あ……はい。いいですよ」
キオルティスが途中で竪琴を手に参加し、チェロの独奏から合奏へと変わる。様々な場所を旅していただけあって、エルフの楽曲のレパートリーもあったらしい。合奏など面倒だな、と少し思ったリディリディだが、合わせる必要もなく自由に弾いていて良さそうなので気にしない事にした。
●
ステージからエルフの楽の音が流れる中、厨房から追い出されたリリリリスとハルハン・ツァガーンナルは、水着姿で出来上がった料理を運ぶのに精を出していた。一部がはちきれんばかりに大きなリリリリスと、全体的に立派なサイズのツァガーンナルに淡白なエルフ男性も視線を奪われ、伴侶が居る場合は怒られていた。
「厨房をお任せ頂けなかったのは仕方ありませんわ。ならば私の華麗なフロア捌きを見せて差し上げますわっ!
「リリリリス、鎖は邪魔じゃないですか?」
なぜか手足に絡む鎖は、水着の一部なのだろうか。ツァガーンナルの疑問に、リリリリスは一言、「ハンデですわ」と答える。何に対しての、そして誰に対してのハンデなのかも謎で、もしかしなくても口から出まかせの可能性すらあるが、ツァガーンナルは素直だった。
「ハンデなんですね。つまり、鎖を解いたらもっと華麗に……! ボクも見倣わないと」
自分にはこれ以上外せるウェイトも無いので、ツァガーンナルはニッコリ笑顔で加点を狙う。まだまだ料理は作られているし、ドワーフ給仕どもは酒しか運ばないのであまり役に立っていない。あと、水着の男ドワーフはちょっと、リディリディならずとも視界に入れたくない人も多いアレであった。
「焼きソバ飯、出来上がってるよ。」
「いい匂いですね。あちらの子供たちのテーブルへ、12皿なのですが、頂けますか?」
屋台飯の江流の匂いは、漂った先の子供たちの胃袋をノックアウトしたらしい。どんな食べ物かレティシアから説明を受けて、食べてみたくなったようだ。守役はゲルダとコルネリウスに任せて買い出し当番らしい。
「それ、美味しいのか?」
「気になるようなら、お一つどうかな? 初めて見るものだろうから、お代は食べてからで構わない」
釣られてやってきたエルフの若者に、江流は声と皿を差し出した。彼らにとっては異郷の料理も材料は慣れた食材ばかり。食べ始めてしまえば、なかなか好評のようだ。野菜とソバとコメを炒めるだけ、というシンプルさも良いらしく、エルフ女子たちはこれなら自分でも作れそうだと頷いている。
「さあ、サラダの次はスープなのだ。どんどん行くのだ!」
「フルーツサンド、もう一つできあがったぞ。卓を空けたいから持って行ってくれ」
厨房では、マフィアを使って人力の違うストレガ組とギャメル組が次々と料理を完成させ、運び手が足りずに自分達からも配膳に回っている。ヴィルヘルミナも一度運びに行ったのだが、エルフからの冷たい視線に引き上げる羽目になった。
「ちょっと、あなたもドワーフなんでしょう? あいつらにちゃんと服を着る様に言ってちょうだい」
「……知らない部族のドワーフなので、ちょっと……。申し訳ないのですが」
「がはは、エルフも酒は行けるんじゃろう? これは甘くてお前たち向けじゃぞ!」
たぶん彼らなりの善意なのだろう。しかし、水着のむくつけきおっさんドワーフ達には、いかにこういう席での冗談を解するヴィルヘルミナとて近づきたくはない。というかあまり同類に見られたくなかった。
(エルフ達とは別の意味で、外の世界を知らなすぎる……)
国に戻ったら誰に言えばよいだろうかと、ヴィルヘルミナはため息を吐いた。
●
リディリディの演奏はしっとりと沼地に響き、キオルティスが時に踊って間を繋いで、エルフ達にも好評であった。
(とはいえ、2人ではこれ以上の時間はキツいね……。アタイの話で繋いで後でもう一度演奏してもらえば何とかなるか?)
「フッ、お困りかな? マネージャー君」
ステージ横でルチルが悩んでいた所、空気を読まない声が響いた。うさんくさい笑顔とブーメランパンツ型水着のみを纏った冒険者ウィルの周囲に、困惑顔の面々が従っている。
「こちらの皆さんは僕と話したいそうなのだけれど、知っての通り僕は一人しかいない。なのでステージショーの相方を務めて貰いがてらお話しようと思ったんだ」
いいアイデアだろう、とばかりに輝く笑顔の自由人に、ストッパーを買って出ていた筈のローザリカがやれやれと肩をすくめた。
「どだい、殿下を僕が制するなんて不敬と言うものだった」
「いやあ、その素敵な装いから一肌脱いで、体当たりで来られたら負けちゃったかもしれないけれどね?」
「それは勘弁して頂きたい……」
ジュストも相手がアレなだけに、質の悪いジョークに返す言葉にも覇気が無かった。最大の武器は彼シャツで封印されており、戦艦ローザリカは戦力の多くを失っている。それでも結構な絶景ではあるが、百戦錬磨のウィルの目と心を奪うには力が及ばなかったようで、結局変な事を始めてしまった。
「その、本当に……、ステージへ上がるのですか。この、恰好で……?」
しんどそうといえば2人同様に水着姿のシルヴィアもだ。ちゃんと上に羽織物をして露出を抑えてはいるものの、ステージに上がると言われて困り顔である。そもそも水着ではないザザには、貴族女子たちが感じているような羞恥と言う意味でのハードルは無いが、ウィルがこんな無茶を言いだした切っ掛けが自分の挨拶かもと思うと居心地は悪い。
「殿下、じゃなくウィルさんは意地悪ですわね……。出し物と言っても、何をなさるのかしら?」
「そうだなあ。僕は少々手品の心得がある。シルヴィアは貴族の御令嬢で、ザザは騎士。僕は王子ってところでどうだい?」
そのまんまやないかい! と一同は思ったが口には出さなかった。一応、ステージ上で手品の合間に聞きたい事は訪ねても良いらしい。ザザにせよ、シルヴィアにせよ、聞きたかったのは帝国について。エルフにとっても他人事ではないのだから、聞いて貰ってもまあ良いだろう。というより、エルフ達にも聞かせて問題ない程度しか話すつもりはない、という意思表示であった。
「……偉い事になったなあ」
もはや乾いた笑いを浮かべるしかないジュストの声を聴いて、ローザリカがびくっと背筋を伸ばす。
「い、いや。別に嗅いでない!」
ウィルはもう好き放題だし、こっそり彼シャツの匂いに浸っていたら緊張もほぐれて落ち着いた……、ところに本人の声が聞こえて心拍数が跳ねあがったようだ。
「君達は、どうする?」
「一応、最後までお付き合いさせてください。王子役に傍付きの一人もいないと絵にならないでしょう」
「私も侍女役を務めさせていただきます」
ジュストと、慌てて猫を被ったローザリカもステージへ上がる。
「さあ、お待ちかね。次の演目は『ドキッ 実は貴族だらけの手品ショー』だよ。貴族様の会話なんて、アタイ達も見た事無いから間違いがあってもご容赦あれ」
ルチルの口上に、リディリディらの楽曲の余韻に浸っていたエルフがステージを注視する。まさか本物の貴族だらけとは思わずとも、美男美女ばかりの舞台に男女問わず目を瞬いた。エルフも美形ぞろいではあるが、ヒューマンの健康的な水着姿の美しさとはまた少し趣が違う。緑のサーフパンツのジュストを侍らせたブーメラン王子は男の色気を無駄遣いしていたし、豪勢なたわわを彼シャツで封じたローザリカは直で見えない分、何だかやらしい。比べれば露出も凹凸もおとなしいシルヴィアですら、表情にこそ出ないものの所作に滲む恥じらいが別の魅力を振りまいていた。
「独り普通の格好だと浮いてしまうわよね……。これも粗相への罰なのかしら」
御令嬢役のシルヴィアから一歩下がって騎士役を務めるザザが苦笑する。
●
どこかの王国の王子と、やんごとなき御令嬢が供を連れてお茶をする。ウィルのでっちあげた舞台設定はそう言う感じらしい。気が多い王子は誰かと会話をする度に「これは僕の愛の証だ」などと赤いバラをどこからか取り出しては気障な仕草で贈っては、浮気が気づかれたとばかりに令嬢の機嫌取りに勤しむコントを、打ち合わせなしの力技でこなしている。無駄に才能豊かなエンターテイナーぶりであった。
「紅茶のお代わりでございます」
「ああ、ありがとう侍従君。君に僕の心からの愛と感謝を」
最初にローザリカに任せたら屈んだ時の様子がとんでもない事になってしまい、以後の給仕役はジュストが奪い取っている。その辺の鞘当てに王子は気付いているのかどうか。感謝の言葉と共にまた薔薇が出て来た。おかげで令嬢シルヴィアだけでなく、ジュストの周囲も薔薇の花で一杯である。水着姿では隠せるような袖もないので、多分マジカルポケットの変種なのだろう。間違っても、ブーメランパンツの中に仕舞っている物を出したのではない筈だと信じたい。
「王子、自分が信じるものが根本から崩れてしまったら……、貴方はどうしますか?」
「おや、君は僕の愛が信じられなくなったって事かな? 例え信じてきたものが崩れても、それを信じて愛しんだ理由はなくならないよ。そう、この大輪の花の様にね」
幾度かの演劇じみた会話に挟まれたシルヴィアの問いに、ウィルは大きな身振り手振りで答え、最後に大きな薔薇の花束を取り出した。「観衆の皆にも聞いてみようじゃないか。永遠に続くと信じた平和が崩れたとしても、君達がそれを信じた気持ちの尊さは否定されない。そうだろう?」とエルフに向けて声を上げる。
「……今あるものがあって当然と思わず、守るために戦わなければなりませんね」
「そう信じ、愛するものの為に戦い、守らねばならない時はあるものさ。僕と同じ考えだと願っているよ。君も、観客のエルフ諸氏もね」
「私も、今こうして貴方と杯を酌み交わす一時に感謝を……。ああ、観客の皆様とも、ですね」
そろそろ演目を締めに入っていると察したシルヴィアが、エルフ達へ向けて杯を掲げ、ウィルがえいやと腕を振れば今日一番の量の薔薇の花弁が客席に舞う。
「これで僕の愛の力もそろそろ打ち止めかな。ああ、騎士君。君も何か言いたい事があるのだったっけ?」
そろそろ最後、と言う含みでウィルがザザを見ると、少し逡巡してからザザは問いを投げた。
「イ……お、お国の妃様の力は王様以上と言っても過言ではないですし、お国の中も両方の派閥で分断されていると愚慮いたしますが、どうなのでしょう」
「さあ、大した家庭内不和だけれど、僕には関係ない事だからね。興味はないな。……でも、最後に立っているのが僕の友人だと良いとは思うかな」
さすがにステージの会話でイダや帝国といった名を出して良いかといえば憚られ、演技にかこつけて言い換えた内容は配慮も込みでウィルに伝わったらしい。返答を解釈するに、リーンエス王国が皇帝の周辺を探っていると踏んでいたが、それはザザの買いかぶり過ぎだったのだろうか。
(いえ、それとも。私に話す価値があるか危ぶまれているのかしらね)
「さて、では今度こそ、これにて閉幕としようか。エルフの皆さんも、ご清聴ありがとう。ああ、カーテンコール代わりに僕とお茶したい観客の方が居たら、歓迎するよ? もう渡せる愛は残っていないけれども、ね」
そんな言葉と共にステージ上からウィンク一つ。
「休憩でしたら、作り置きのまかないがありますわよ!」
「ウィル! リリリリスがまかない作ってくれた様子なので、一緒に、どうでしょう?」
「ほう。というかこれはまた魅力的な水着のお嬢さんたちだね。ぜひ、ステージへ上がってくれたまえ」
客席から上がった声は、エルフ達のものではなくリリリリスとツァガーンナルの水着給仕ペアだった。モテ王子を演じるウィルは壇上から鷹揚に手招きする。リリリリスが綺麗な所作で給仕を務め、ウィルの前に見た目は美味しそうな何かが並んだ。
(いや、しかし。その皿はもしや)
(もしかしたら、アレでしょうか)
壇上と客席に散らばる冒険者達の勘が警鐘を鳴らす。しかし、『あの皿が王子を黙らせるならそれでもいいんじゃ?』と思って黙る冒険者もいた。それを口へ運んだウィルが一つ頷く。
「……これは毒だね? 僕は立場上、色々な毒の味を知っているが、これは初めて味わうな。姫、あなたは食べてはいけない。報いを受けるのは僕一人でいい」
まだ劇の王子の立ち位置を全うしているあたり、余裕があるのかもしれないが。顔を青くしてウィルは斃れた。
「殿下! 気をお確かに! 殿下!」
「はい、楽しんで頂けたかな? これにて『ドキッ 実は貴族だらけの手品ショー』は閉幕だ。いやあ、貴族って本当に恐ろしいものだねえ」
周囲が慌てる中、ルチルが演目の幕を引く。なるほど劇か、その割に会話は現実を反映しているようだったな、あれが人間の風刺劇と言う奴か、などと納得するエルフ達の脇で、冒険者達は微妙な顔になっていた。
「水着ショー、面白かった、ね」
「想像していたのとは違いましたが、まあ……」
惜しみなく拍手を送るティトの横で、セロンガードが苦笑する。世が世なら仮想敵国の大物だが、遊びの場で笑って見るだけなら害は無い。いや、ティトの教育には害があるかも知れないが。
「王国の立場は大丈夫なのでしょうか……。いえ、私が考えるような事ではありませんが……」
レティシアは今見た内容を心の棚に上げ、子供たちの世話へと没頭した。なお、冒険者ウィルの生命に別条はなく、舞台袖で普通の顔をして立ち上がったのだが、味覚はしばらくおかしくなってしまったそうだ。
フィルエス大森林から南へ逃げてきたエルフ達は、慣れない環境に疲弊していた。歴史的にも、邪竜に焼かれることに慣れたドワーフ王国とは土台から違うのだ。そんな彼らに一時とはいえ安らいで欲しいという思いは、きっと善きものだろう。
「……何故、水辺でもないのに水着の者がいるのだ?」
「水辺以外で水着を着ても良いものなのか、私も疑問ではございましたが……」
もてなされる側のエルフと、もてなす側のレティシア・レインフィールが同じ疑問を抱く。世間知らずのエルフ達に「夏に疲れた人をもてなす時に水着を着るのは普通の事さ。大森林では違うのかい?」などと説いているウィルが原因なのは言うまでもない。
「泥中でこそ蓮は美しく咲くというだろう? ましてここにいる僕も君もただの冒険者。人助けの為に肌を見せることに何の問題があるだろうか。いや、無いね!」
「冗談では無かったのですか。あ、いえ。今日は私は子供たちの相手をしようと思っておりましたので、ちょっと……」
言葉を濁しつつ、逃げ去るレティシアの恥じらいをもウィルは堪能しているようだ。そんな彼の元へ、その素性を察して挨拶に訪れる者もいる。
「王族貴族として振舞う時と、冒険者として振舞う時のメリハリはつけた方が楽しいけれどね。そうはできない不器用な小鳥もまた愛らしいかな。その点、君は付き合いがいいね、シルヴィア」
「宴の趣向は全力で楽しむものです。方々に楽しんで頂く心は、技芸にも通じるところがございます」
などと澄まして返しつつも、シルヴィア・A・カペルの頬は赤い。
「うん。その考え方はとても良いね。覚悟を決めて、より夏らしい装いになるのもお勧めだよ?」
「今日は日差しもきついので、申し訳ありません」
などと、上に肩掛けを羽織っているあたりをからかわれれば、きゅっとストールの端を握って視線を逸らした。ご満悦のセクハラ王子を良しとする者ばかりではない。
「これ以上おかしなことを言い出さないよう、ウィル係を設けるべきだ」
ローザリカ・L・ディオールはそのような事を言いだした。水着で給仕をせよなどと、訳の分からない事を言いだすあたり、暑さでやられている可能性もある。いや、普段からああだった気もする。しかし、これ以上犠牲者を増やさないために、一肌脱がねばとローザリカはショールを落とした。
「は??」
黒の薔薇柄レースが映えるモノキニ姿で、王子のお酌につこうという婚約者に、ジュスト・ヴェルジーの理性と感情が試される。こんな姿で自由過ぎる王子に近づいたら、何が起こるか分かりはしない。ギルドにはラッキー何とかとかアンラッキー何とかとかいうスキルだって売られているのだ。
「とりあえず、不敬に成らぬようにこれを」
羽織っていたシャツを被せ、露な肌を隠す婚約者に、ローザリカは小悪魔の笑みを浮かべる。嫉妬。焦り。普段の余裕がない婚約者殿を見るのは実に心地良い。
「は? この僕のどこが不敬だっていうんだ」
そう口を尖らすローザリカの大きな部位を、男物のシャツを引っかけ、何とか覆い隠す。ジュストは心を無にしつつ、ボタンを上から下へ手早く留めた。そんなどたばたする一角に、普段通りの装いでザザ=ステルヴィナが歩を進める。どこか見覚えのある金髪の冒険者、と思っていたが周囲に貴族子女がいるところから、その正体へ思い至ったらしい。
「ごきげんよう。北方辺境伯領正騎士ザザ=ステルヴィナと申します。――お久し振りと……」
「困ったな。僕はあまりこういう事は言いたくないのだけれど」
言いかけたザザを、ウィルは鋭い目で制した。ザザが知ってか否か、帝国滅亡以後の冒険者の取り扱いに関する申し合わせを成立させた会合の王国代表は、このウィルことウィリアム第二王子である。各国のどの組織も、新しき冒険者の取り込みを帝国の件が一段落するまで見合わせること。それが、人材を巡る争いを避けるための取引だった。こともあろうに王国の、王家に近い家が約定を破っているなどと噂されることは避けねばならない立場に、ウィリアムはいる。
「内定の二文字を忘れないようにね。……僕は、友人に、人を見る目が無かったと思いたくはないんだ」
そう釘を刺してから、ウィリアムはウィルに戻り、いささか芝居がかった様子で、肩を竦めた。
「やれやれ、今日の主役はエルフの皆なんだがね。一介の冒険者の僕の周りに人が集まり過ぎるな。……そうだ、いい事を考えたぞ」
ウィリアムの顔に、悪戯っぽい、というには可愛げのない悪童の表情が浮かんだ。
●
音頭を取ったウィリアムの周囲から視線を外してみても、訪れている面々の装いはまちまちだ。言われたとおりに水着でやって来た者もいれば、我関せずと普段通りの格好の者もいる。
「水着必須なら、上にTシャツを着て、エプロンですかね?」
「……その辺は他の方に任せます」
海辺の街出身のリサ・ベイカーはそこまで忌避感はないようだが、山の民であるヴィルヘルミナは眉を顰めていた。素直に水着で来たギャメルは、恰好だけはコック風の同族を見て今更ながらおかしいと気付いたらしい。
「っていうか水着エプロンってなんだ!?」
「格好は自由だが、衛生面には気を付けて欲しい所なのだ。不注意で駄目にしては食材に申し訳ないのだ」
「そうだね。見た目も大事だけど、肝心な料理で失敗しては意味が無いし」
ウィルへ苦情を申し立てたギャメルへ、ストレガ・L・リベルガストラが一言注意を入れる。水着の上から前掛けをした海神・江流は、髪をバンダナで抑えて落ちないよう気遣っていた。必須でないなら、油跳ねも気になるしやめておこうかなと、炒め物を念頭にリサは言う。
「まぁ良いや、衛生とケガに気をつけて調理しよーぜ……」
ギャメルは、もう今更だと耳をしんなりさせた。別の場所でも、水着派と普段着派が入り混じっている。
「水着は! たくっさん! 作ったんだけどね!」
見せたい相手もいないし、そもそも土方仕事に水着も無いだろうと思うトゥーリ。しかしその横では水着で仲良く作業に勤しむセロンガード・シュタインドルフとティトの姿がある。
「舞台周りの設営を終えたら、果実の運送も手伝いにまいりましょう」
「仕事、大事だけど……。少し、お休みもいいよ?」
「それもそうですね。働き過ぎも良くありませんし」
帝国からやってきている面々に交じって汗を流すセロンガードは、細いながらも鍛えられた上半身を惜しみなく披露していた。隣のティトも慰安とかは良く分かっていないようだが、セロンガードに合わせて水着姿だ。ティトにおねだりされてコロッと方針を変える程度には、今回はお仕事モードでは無いのだろう。卒なく作業をこなしているセロンガードと違い、ティトの肌へはほどほどに泥が跳ねていた。
「汚れたから、後で水浴び、しよ?」
「ええ、後で。ですけれど」
そんなやり取りを耳にすると、トゥーリの頬も赤くなる。
「うー、確かにこの格好だと暑いけど、別に水着で無くてもいいよね?」
種族的にそれほど違和感なく上体を晒しているリザードマンや、毛皮が暑くて脱いだハーフビーストの作業員に交じっていると、自分だけ厚着をしているような気になって来るトゥーリだが、別に大湿地帯の普段着は水着ではない。
「あの、ここに鉢植えを置いても良いですか? 客席から舞台を見た時に、その、ちょうど良いかなって」
えへへ、と笑いながら大きな鉢植えを降ろすゲルダ・クラインは薄紫の愛らしい水着の上にキャミソール風のアウターを着けていた。うすく身体のラインが透けて見える辺りがお洒落感を漂わせる。
「……それ、引っ掛けたりしない? 大丈夫かな?」
「気を付けてれば平気です!」
心配してしまったトゥーリに、ぐっと力こぶポーズを作るゲルダ。別に力こぶは浮いて出ないが、授恵者なので力持ちではある。向こうでは同じサイズの鉢植えをリザードマンが2人で運んでいるのが見えた。
「同胞とはいえ、全く知らない者達ではありますが……」
立ち働く人々を遠目に、リディリディ・トゥラ・イェレミースは住処や隣人を失った同族へ思いを馳せる。縁は薄いとはいえ、何かをしてあげても良いと考えて、荷物に楽器がある事を思い出した。あまり目立つことは好きではないが、その程度ならばしても良いかと、出演受付中らしいステージへ向かう。
「出演希望かな、レディ。では何をする予定なのかと、名前を書いて貰えるかい?」
「あの、あまり人が居ないように見えるのですが……?」
受付に居たのはキオルティス。リディリディはなんと、彼を含めて3人目の出演希望者らしい。最初の一人は冒険者ウィルだという。
●
自由人から逃げ出してきたレティシアは、宣言通りにエルフの子供たちがいる一角にいた。厨房に回った友人から聞いた今日の献立を、腹ペコなエルフの子らへ伝えるのだ。どのような料理か、どう食べるのか。どこかで読んだ面白い逸話や、冒険者として聞いた話なども盛り込み、とにかく子供たちが飽きないようにと頑張っている。
「好きな香りの花は選んだ? それじゃあ、次は袋を持ってね」
エルフの少女達はコルネリウス・アーラの周りに集まっている。彼女たちが選んだドライフラワーは、自分の住まう花鳥園で育てたもの。贈答されるような花もあれば、野草もあった。乾燥する前はどのような花だったのか、咲き方は、季節は、色合いはと問われるがままに答えながら、香り袋を作っていく。
「本当に、大森林にもないお花があるの?」
「本当に無いかは、わかりませんけれど」
フィルエス大森林には世界樹があり、エーテルも豊富だ。あるいはコルネリウスの知らないどこかで咲いているかもしれないと言えば、不安そうだった少女はホッとした様子だった。自分も最初は優しい家族に守られた小さな世界で育まれ、外の世界では様々な物を学んだと伝えると、彼女らの興味は外の世界に移ったようだ。……まあ、子供にとって小さくて優しい世界だったのは同じかもしれないけれど、エルフの森と違って多種族からなる家庭だったことまで話すと混乱させてしまいそうなので黙っておこう。
「学園って、前に兄上が遊びに行ったところね? どんなところ?」
「それはですね……」
今までと同じ生活がすぐ取り戻せずとも、大森林の外の世界で楽しく過ごしている同族がいると知って貰えれば良いとコルネリウスは願う。ステージの飾りつけを終えたゲルダも、小さめの鉢植えを幾つか分けて貰って子供たちの区画へやってきていた。
「レティシア様、宜しいでしょうか?」
と断って、ゲルダが食いしん坊エルフの卵らに紹介したのは、用意してもらった果樹の苗木だ。彼らが見慣れた植物は沼沢地での栽培は難しいだろうが、鉢植えであれば可能だと考えたらしい。あるいは、故郷に帰れば植えなおしても良い。
「育てるのは大変かもしれませんが、きっと、美味しい果物が出来ると思いますよ」
「おお……、当番作ろうよ。当番!」
良好な感触に、手間を掛けたリザードマン達へ感謝の念を送った。そのリザードマンをはじめ、ステージ設営やテーブルセットに掛かっていた面々は作業が一段落し、しばしの休息についている。
「あー。疲れたねー。お腹もすいたかも」
トゥーリの声に、笑いが漏れた。ハーフビーストとリザードマンがくつろぐ中にただ一人、セロンガードが混ざっている。そこは実にモフモフした空間であった。
「そういえば、皆さんは何を思って帝国から遥々ここまで来たのでしょうか」
ふとセロンガードが感じた疑問に、ハーフビーストたちは顔を見合わせた。バルディオンに頼まれたから、と言うのが一つ。これまで関係が薄かったエルフはともかく、リザードマンにはヴィント奪還での援軍に対する感謝がある。だが、それだけでもないと彼らは言った。
「この件は皇帝陛下が為さった事だろう? ちゃんとした戦争をエルフに仕掛けたなら、こんな気分にはならなかったかもしれないんだが……」
栄えある帝国軍が旗を並べて進軍するならいざ知らず、無数のゾンビで蹂躙するなどヤコブ・ヴィリアンの所業と変わらない。彼らの中には家族をヤコブにゾンビとされた者もいるらしく、今回の件に釈然としない思いがあるようだった。本格的に皇帝へ異を唱える所まではいかずとも、不満と言うには些細な違和感が、エルフ達への援助と言う形で出て来たのだろう。
「水着ショーはまだ、かな?」
さほど外面には出ていないが、ワクワクしている様子のティトを微笑ましく見つめつつ、セロンガードは己の身の振り方を考える。帝国の未来は、いずこにあるのだろう。
●
「同胞諸君、まずは基本からなのだ。敵を刺すのと食材の皮むきは持ち方から全然違うのだ」
「危ねえから最初はゆっくりだぜ、兄弟。よしよし、良い調子だ」
厨房では、ストレガによるゴブリンマフィアへのお料理教室が行われていた。成り行きでもう一方の講師役になったギャメルは調理の腕前は確かなのだが、白衣にコック帽のマフィアに混ざると水着ゴブリンの場違い感は半端ない。言いつけを守ったのはギャメルの方なのに、釈然としないことこの上なかった。だいたいウィルが悪い。
「食べ物を粗末にしない、遊ばない、手は清潔にですよ」
ゴブリンマフィア達はといえば、ヴィルヘルミナに子供の様に諭されても、エルフ達の助けになるようゴーフルに命じられているとの事で苛立ちも見せず素直な物である。
「野菜中心なメニューが良いですかね?」
「俺は野菜にコレを合わせて、炒めソバ飯を作ろうと思う」
江流はシャルガネ出身らしく、米の力を信じている。米を食べれば力が出る物なのだ。エルフが好む野菜と、味付けも野菜ベースのソースに醤油を合わせて香りも武器にしたいと言う。
「なるほど、ではわたしは定番の野菜炒めと、野菜串焼きと……。リディさん達の為にお肉も焼こうかな」
リサも品目を決め、食材へ手を伸ばした。洗ったり、下拵えはゴブリン達が早速始めている。
「うむ、上々なのだ。皮についている芋が随分減ったのだ」
ストレガは出来の良いゴブリンを激賞しつつ、カットされた野菜をスープへ投入。味付けは彼女がやり、あく取りや火の番はしっかり教えて任せていく。上下社会の極みであろうマフィアは言われたことはきっちり守れるようで、危険な「隠し味」等を試しはしない。危険と言えば。
「なぜですの! この私がいれば気品と可憐さに満ちた美食の饗宴で、天にも昇る心地にさせて頂きますのに!」
「それ、本当に天にも昇っちまう奴だろ」
「食材を無駄にすることはストレガの名に懸けて許せないのだ」
様々な前科からか、リリリリスは調理場から出禁になっていた。隅っこで痙攣しているコックゴブリンは、勧められるがままに味見をしてしまったらしい。
「納得いきませんわ!」
悲しい犠牲だった。火を使うものをストレガに任せ、ギャメルはエルフが好みそうな果実の洗浄やカット、フルーツサンドの作成を中心にゴブリンを仕切っている。
「こいつはちょっと面倒だからオレがやるぜ。あ、クリームは贅沢に使った方が甘くて旨いぞ」
刺々しいパイナップルを引き受けつつ、簡単なイチゴや柔らかいバナナを回すと、年長の厳ついゴブリン達は素直に調理に勤しむ。傍から見るとシュールな光景だが、当人たちはいたって真面目なものだ。しばらく経つと、覚えの良いゴブリンはもう少し難しい工程へも手が出せるようになる。
「果実盛は早めにお出ししたいのだ。行けそうなのだ?」
「盛り付け、これくらいでカッコいいか? 見栄えも大事だしな」
「あ、少し手が空いたのでお手伝いします。どう切ればいいんです?」
ストレガに問われ、最後の仕上げに掛かっていたギャメルが大皿へ向く。葉っぱや花、実などを表現しようと思うとゴブリンマフィア達が雑に切った果物では難しい。ギャメルの意向を受けて、リサも飾り切りを作っていく。
「俺はステージ脇で作って渡したいから、先に出かけるぞ。食材が足りなくなったらまた戻って来るから」
「皆さんお疲れでしょうし、簡単なまかないでも作りましょう。後で海神さんの所へも持っていきますね」
「良いですね! エルフの子供さんを見ている皆さんにも、お休み時間があるようなら持って行ってあげようかな」
余分の鉄板や調理器具はあるようだが、移動と設営はこれからだ。肩慣らしに腕を回す江流を見つつ、ヴィルヘルミナとリサが軽食の算段をする。本番開始まで、あと少しだ。
●
「さあさあ、誇り高き森の種族諸君。今日はアンタ達の再起のための羽休みだ。いずれ来る飛躍の時の為、いまは多いに食って飲んで遊んでくれたまえ」
サウンドボマーで開会の宣言をするのはルチル・プルメリア・グレイハーツ。横から口だけ出したどこかのヒューマン王族と違い、エルフ達を受け入れ、世話をしているのはリザードマンである。司会の人選としては妥当なところだろう。ざっと会場を見回せば、コルネリウスやレティシア、ゲルダらの声掛けで元気そうな子供たちと違い、大人たちの席はどこか倦怠感が漂っていた。
「おや。元気がないようだね。どうしたそれでも誇り高き森の種族かい? 住む場所を追い出されただけで誇りは失われる物か?」
「な、何を言うか!」
若いエルフは単純なだけに煽り耐性が無い。カッカする所を適度に酒や料理に向けて貰いつつ、最初の出し物の紹介へと入る。
(……というか、ステージの予定がら空きなんだけどねぇ……)
「もう演奏して良いのですか。ただ待っているのも疲れるのですけれど」
ステージにあがるリディリディはそんな事を言うが、大きなチェロを抱えて袖に待機していた程度で疲れるほど、授恵者はやわではない。どちらかというと、彼女が感じていたのは気疲れである。
(……同族とはいえ、見慣れぬ顔がこんなに大勢……。しかも、ドワーフまでうろちょろしています。聞いていませんでした!)
人見知りからの怯懦は天敵を見つけた嫌悪からの怒りに代わり、それでも慣れない事をする緊張はぬぐえない。本来は演奏よりも歌の方が得意な彼女だが、大勢の前で歌うのは抵抗があるし、ドワーフに聞かせたくもなかった。なるべく嫌な顔を視界から外すように目をすがめつつ、一曲目の演奏をはじめる。
「ほう……これは」
(故郷では、彼らの里で良く歌われる楽曲と聞いていましたが、知っている方がいたようで良かったです)
観客が口ずさむ歌詞も、だいたいリディリディが知っているのと同じで、時折変化があるのは部族によるのだろうか。眼を閉じ、微笑む者も、涙ぐむ者もいる。
「失礼、俺も演奏に参加させてもらっていいかな? 曲の調子は大体覚えたから」
「え、あ……はい。いいですよ」
キオルティスが途中で竪琴を手に参加し、チェロの独奏から合奏へと変わる。様々な場所を旅していただけあって、エルフの楽曲のレパートリーもあったらしい。合奏など面倒だな、と少し思ったリディリディだが、合わせる必要もなく自由に弾いていて良さそうなので気にしない事にした。
●
ステージからエルフの楽の音が流れる中、厨房から追い出されたリリリリスとハルハン・ツァガーンナルは、水着姿で出来上がった料理を運ぶのに精を出していた。一部がはちきれんばかりに大きなリリリリスと、全体的に立派なサイズのツァガーンナルに淡白なエルフ男性も視線を奪われ、伴侶が居る場合は怒られていた。
「厨房をお任せ頂けなかったのは仕方ありませんわ。ならば私の華麗なフロア捌きを見せて差し上げますわっ!
「リリリリス、鎖は邪魔じゃないですか?」
なぜか手足に絡む鎖は、水着の一部なのだろうか。ツァガーンナルの疑問に、リリリリスは一言、「ハンデですわ」と答える。何に対しての、そして誰に対してのハンデなのかも謎で、もしかしなくても口から出まかせの可能性すらあるが、ツァガーンナルは素直だった。
「ハンデなんですね。つまり、鎖を解いたらもっと華麗に……! ボクも見倣わないと」
自分にはこれ以上外せるウェイトも無いので、ツァガーンナルはニッコリ笑顔で加点を狙う。まだまだ料理は作られているし、ドワーフ給仕どもは酒しか運ばないのであまり役に立っていない。あと、水着の男ドワーフはちょっと、リディリディならずとも視界に入れたくない人も多いアレであった。
「焼きソバ飯、出来上がってるよ。」
「いい匂いですね。あちらの子供たちのテーブルへ、12皿なのですが、頂けますか?」
屋台飯の江流の匂いは、漂った先の子供たちの胃袋をノックアウトしたらしい。どんな食べ物かレティシアから説明を受けて、食べてみたくなったようだ。守役はゲルダとコルネリウスに任せて買い出し当番らしい。
「それ、美味しいのか?」
「気になるようなら、お一つどうかな? 初めて見るものだろうから、お代は食べてからで構わない」
釣られてやってきたエルフの若者に、江流は声と皿を差し出した。彼らにとっては異郷の料理も材料は慣れた食材ばかり。食べ始めてしまえば、なかなか好評のようだ。野菜とソバとコメを炒めるだけ、というシンプルさも良いらしく、エルフ女子たちはこれなら自分でも作れそうだと頷いている。
「さあ、サラダの次はスープなのだ。どんどん行くのだ!」
「フルーツサンド、もう一つできあがったぞ。卓を空けたいから持って行ってくれ」
厨房では、マフィアを使って人力の違うストレガ組とギャメル組が次々と料理を完成させ、運び手が足りずに自分達からも配膳に回っている。ヴィルヘルミナも一度運びに行ったのだが、エルフからの冷たい視線に引き上げる羽目になった。
「ちょっと、あなたもドワーフなんでしょう? あいつらにちゃんと服を着る様に言ってちょうだい」
「……知らない部族のドワーフなので、ちょっと……。申し訳ないのですが」
「がはは、エルフも酒は行けるんじゃろう? これは甘くてお前たち向けじゃぞ!」
たぶん彼らなりの善意なのだろう。しかし、水着のむくつけきおっさんドワーフ達には、いかにこういう席での冗談を解するヴィルヘルミナとて近づきたくはない。というかあまり同類に見られたくなかった。
(エルフ達とは別の意味で、外の世界を知らなすぎる……)
国に戻ったら誰に言えばよいだろうかと、ヴィルヘルミナはため息を吐いた。
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リディリディの演奏はしっとりと沼地に響き、キオルティスが時に踊って間を繋いで、エルフ達にも好評であった。
(とはいえ、2人ではこれ以上の時間はキツいね……。アタイの話で繋いで後でもう一度演奏してもらえば何とかなるか?)
「フッ、お困りかな? マネージャー君」
ステージ横でルチルが悩んでいた所、空気を読まない声が響いた。うさんくさい笑顔とブーメランパンツ型水着のみを纏った冒険者ウィルの周囲に、困惑顔の面々が従っている。
「こちらの皆さんは僕と話したいそうなのだけれど、知っての通り僕は一人しかいない。なのでステージショーの相方を務めて貰いがてらお話しようと思ったんだ」
いいアイデアだろう、とばかりに輝く笑顔の自由人に、ストッパーを買って出ていた筈のローザリカがやれやれと肩をすくめた。
「どだい、殿下を僕が制するなんて不敬と言うものだった」
「いやあ、その素敵な装いから一肌脱いで、体当たりで来られたら負けちゃったかもしれないけれどね?」
「それは勘弁して頂きたい……」
ジュストも相手がアレなだけに、質の悪いジョークに返す言葉にも覇気が無かった。最大の武器は彼シャツで封印されており、戦艦ローザリカは戦力の多くを失っている。それでも結構な絶景ではあるが、百戦錬磨のウィルの目と心を奪うには力が及ばなかったようで、結局変な事を始めてしまった。
「その、本当に……、ステージへ上がるのですか。この、恰好で……?」
しんどそうといえば2人同様に水着姿のシルヴィアもだ。ちゃんと上に羽織物をして露出を抑えてはいるものの、ステージに上がると言われて困り顔である。そもそも水着ではないザザには、貴族女子たちが感じているような羞恥と言う意味でのハードルは無いが、ウィルがこんな無茶を言いだした切っ掛けが自分の挨拶かもと思うと居心地は悪い。
「殿下、じゃなくウィルさんは意地悪ですわね……。出し物と言っても、何をなさるのかしら?」
「そうだなあ。僕は少々手品の心得がある。シルヴィアは貴族の御令嬢で、ザザは騎士。僕は王子ってところでどうだい?」
そのまんまやないかい! と一同は思ったが口には出さなかった。一応、ステージ上で手品の合間に聞きたい事は訪ねても良いらしい。ザザにせよ、シルヴィアにせよ、聞きたかったのは帝国について。エルフにとっても他人事ではないのだから、聞いて貰ってもまあ良いだろう。というより、エルフ達にも聞かせて問題ない程度しか話すつもりはない、という意思表示であった。
「……偉い事になったなあ」
もはや乾いた笑いを浮かべるしかないジュストの声を聴いて、ローザリカがびくっと背筋を伸ばす。
「い、いや。別に嗅いでない!」
ウィルはもう好き放題だし、こっそり彼シャツの匂いに浸っていたら緊張もほぐれて落ち着いた……、ところに本人の声が聞こえて心拍数が跳ねあがったようだ。
「君達は、どうする?」
「一応、最後までお付き合いさせてください。王子役に傍付きの一人もいないと絵にならないでしょう」
「私も侍女役を務めさせていただきます」
ジュストと、慌てて猫を被ったローザリカもステージへ上がる。
「さあ、お待ちかね。次の演目は『ドキッ 実は貴族だらけの手品ショー』だよ。貴族様の会話なんて、アタイ達も見た事無いから間違いがあってもご容赦あれ」
ルチルの口上に、リディリディらの楽曲の余韻に浸っていたエルフがステージを注視する。まさか本物の貴族だらけとは思わずとも、美男美女ばかりの舞台に男女問わず目を瞬いた。エルフも美形ぞろいではあるが、ヒューマンの健康的な水着姿の美しさとはまた少し趣が違う。緑のサーフパンツのジュストを侍らせたブーメラン王子は男の色気を無駄遣いしていたし、豪勢なたわわを彼シャツで封じたローザリカは直で見えない分、何だかやらしい。比べれば露出も凹凸もおとなしいシルヴィアですら、表情にこそ出ないものの所作に滲む恥じらいが別の魅力を振りまいていた。
「独り普通の格好だと浮いてしまうわよね……。これも粗相への罰なのかしら」
御令嬢役のシルヴィアから一歩下がって騎士役を務めるザザが苦笑する。
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どこかの王国の王子と、やんごとなき御令嬢が供を連れてお茶をする。ウィルのでっちあげた舞台設定はそう言う感じらしい。気が多い王子は誰かと会話をする度に「これは僕の愛の証だ」などと赤いバラをどこからか取り出しては気障な仕草で贈っては、浮気が気づかれたとばかりに令嬢の機嫌取りに勤しむコントを、打ち合わせなしの力技でこなしている。無駄に才能豊かなエンターテイナーぶりであった。
「紅茶のお代わりでございます」
「ああ、ありがとう侍従君。君に僕の心からの愛と感謝を」
最初にローザリカに任せたら屈んだ時の様子がとんでもない事になってしまい、以後の給仕役はジュストが奪い取っている。その辺の鞘当てに王子は気付いているのかどうか。感謝の言葉と共にまた薔薇が出て来た。おかげで令嬢シルヴィアだけでなく、ジュストの周囲も薔薇の花で一杯である。水着姿では隠せるような袖もないので、多分マジカルポケットの変種なのだろう。間違っても、ブーメランパンツの中に仕舞っている物を出したのではない筈だと信じたい。
「王子、自分が信じるものが根本から崩れてしまったら……、貴方はどうしますか?」
「おや、君は僕の愛が信じられなくなったって事かな? 例え信じてきたものが崩れても、それを信じて愛しんだ理由はなくならないよ。そう、この大輪の花の様にね」
幾度かの演劇じみた会話に挟まれたシルヴィアの問いに、ウィルは大きな身振り手振りで答え、最後に大きな薔薇の花束を取り出した。「観衆の皆にも聞いてみようじゃないか。永遠に続くと信じた平和が崩れたとしても、君達がそれを信じた気持ちの尊さは否定されない。そうだろう?」とエルフに向けて声を上げる。
「……今あるものがあって当然と思わず、守るために戦わなければなりませんね」
「そう信じ、愛するものの為に戦い、守らねばならない時はあるものさ。僕と同じ考えだと願っているよ。君も、観客のエルフ諸氏もね」
「私も、今こうして貴方と杯を酌み交わす一時に感謝を……。ああ、観客の皆様とも、ですね」
そろそろ演目を締めに入っていると察したシルヴィアが、エルフ達へ向けて杯を掲げ、ウィルがえいやと腕を振れば今日一番の量の薔薇の花弁が客席に舞う。
「これで僕の愛の力もそろそろ打ち止めかな。ああ、騎士君。君も何か言いたい事があるのだったっけ?」
そろそろ最後、と言う含みでウィルがザザを見ると、少し逡巡してからザザは問いを投げた。
「イ……お、お国の妃様の力は王様以上と言っても過言ではないですし、お国の中も両方の派閥で分断されていると愚慮いたしますが、どうなのでしょう」
「さあ、大した家庭内不和だけれど、僕には関係ない事だからね。興味はないな。……でも、最後に立っているのが僕の友人だと良いとは思うかな」
さすがにステージの会話でイダや帝国といった名を出して良いかといえば憚られ、演技にかこつけて言い換えた内容は配慮も込みでウィルに伝わったらしい。返答を解釈するに、リーンエス王国が皇帝の周辺を探っていると踏んでいたが、それはザザの買いかぶり過ぎだったのだろうか。
(いえ、それとも。私に話す価値があるか危ぶまれているのかしらね)
「さて、では今度こそ、これにて閉幕としようか。エルフの皆さんも、ご清聴ありがとう。ああ、カーテンコール代わりに僕とお茶したい観客の方が居たら、歓迎するよ? もう渡せる愛は残っていないけれども、ね」
そんな言葉と共にステージ上からウィンク一つ。
「休憩でしたら、作り置きのまかないがありますわよ!」
「ウィル! リリリリスがまかない作ってくれた様子なので、一緒に、どうでしょう?」
「ほう。というかこれはまた魅力的な水着のお嬢さんたちだね。ぜひ、ステージへ上がってくれたまえ」
客席から上がった声は、エルフ達のものではなくリリリリスとツァガーンナルの水着給仕ペアだった。モテ王子を演じるウィルは壇上から鷹揚に手招きする。リリリリスが綺麗な所作で給仕を務め、ウィルの前に見た目は美味しそうな何かが並んだ。
(いや、しかし。その皿はもしや)
(もしかしたら、アレでしょうか)
壇上と客席に散らばる冒険者達の勘が警鐘を鳴らす。しかし、『あの皿が王子を黙らせるならそれでもいいんじゃ?』と思って黙る冒険者もいた。それを口へ運んだウィルが一つ頷く。
「……これは毒だね? 僕は立場上、色々な毒の味を知っているが、これは初めて味わうな。姫、あなたは食べてはいけない。報いを受けるのは僕一人でいい」
まだ劇の王子の立ち位置を全うしているあたり、余裕があるのかもしれないが。顔を青くしてウィルは斃れた。
「殿下! 気をお確かに! 殿下!」
「はい、楽しんで頂けたかな? これにて『ドキッ 実は貴族だらけの手品ショー』は閉幕だ。いやあ、貴族って本当に恐ろしいものだねえ」
周囲が慌てる中、ルチルが演目の幕を引く。なるほど劇か、その割に会話は現実を反映しているようだったな、あれが人間の風刺劇と言う奴か、などと納得するエルフ達の脇で、冒険者達は微妙な顔になっていた。
「水着ショー、面白かった、ね」
「想像していたのとは違いましたが、まあ……」
惜しみなく拍手を送るティトの横で、セロンガードが苦笑する。世が世なら仮想敵国の大物だが、遊びの場で笑って見るだけなら害は無い。いや、ティトの教育には害があるかも知れないが。
「王国の立場は大丈夫なのでしょうか……。いえ、私が考えるような事ではありませんが……」
レティシアは今見た内容を心の棚に上げ、子供たちの世話へと没頭した。なお、冒険者ウィルの生命に別条はなく、舞台袖で普通の顔をして立ち上がったのだが、味覚はしばらくおかしくなってしまったそうだ。
マスターコメント
皆様お疲れ様でした。
後半には冒険者ウィルがアホな事しまくってますが、おかげさまでエルフたちの機嫌はボチボチ上がったようです。
「お料理は満足! ステージは故郷の歌は楽しかったけど、後の手品はやってる人間が奇妙で手品に集中できなかった」
とエルフAが言っていたようです。
ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:標準20 / 10〜50人
2022年08月02日 12時48分18秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いしますね。 私は3:厨房対応にしようかと。
ツァガーンナルです! 4:フロア対応で頑張りたいと思います
ギャメルだぜ! みんな、よろしくな。 3:厨房対応で、ブラックデスの人たちと簡単な調理作業ができたらなって思ってるぜ。 なにか初心者でも作りやすいメニューを完成させたい。
リサです。3の厨房で調理します。