俗・生徒会の挑戦?~学園購買バトル編~
弓月 蒼
コメント 5
シナリオID:2325
オープニング
●旧校舎裏の落書き
駆けろ、宙を舞え、叩きつけられろ。戦わなければ――――この空腹は満たせない。
●仁義無き購買バトル
さあ、始まりました風雲急を告げる夏の学園購買バトル、オープン級。
各生徒終業チャイムより一斉にスタート。本校舎2階階段を過ぎた所で先頭は予想通り『パン食の貴公子』
『パン食の貴公子』が渡り廊下のハナを進むぞ。直ぐ後ろで虎視眈々と『双箸使いの猫』がじわじわ進出。
更に各生徒一団となって『サンドウィッチの騎士』『はぐれ庶民弁当派』『御総菜パンの魔女』は此処に居た!
期待の新入生、『俊足カレーパンサー』『ゴールディの赤い梅星』はぐっと離れて最後方、ここからどう巻き返すのか。
特別棟2階階段を回って先頭は変わらず『パン食の貴公子』。おおっと此処で『双箸使いの猫』が仕掛けた。
特別教室棟1階の直線を前にして『双箸使いの猫』が仕掛けた。『パン食の貴公子』を抜いて先頭に躍り出た。
最終コーナーを回って最後の直線。先頭は『双箸使いの猫』、追走する『パン食の貴公子』は少々苦しいか。
あっ、『ゴールディの赤い梅星』がぐんぐん出てきた。『ゴールディの赤い梅星』が来た。
しかし『サンドウィッチの騎士』も負けてないぞ。両者迫真の鍔迫り合い、これは接戦だ。
『俊足カレーパンサー』ずるずる後退、力配分を間違えたか、『梅星』と『騎士』に阻まれ進めません!
ここで『御総菜パンの魔女』外から攻める。『御総菜パンの魔女』速い!『御総菜パンの魔女』速い!!
『パン食の貴公子』は此処までか、『双箸使いの猫』を『魔女』が猛追! 『猫』か、『魔女』か!
購買まで残り50、凄い末脚だ! 『魔女』だ! 『魔女』だ! 『魔女』がそのまま購買にゴール……!
――――第六学年の意地……! 第五学年の『双箸使いの猫』を捻じ伏せ、『御総菜パンの魔女』が差し切りました……!
――――
「……何これ?」
「長期休暇前名物、仁義無き学園購買バトルです!」
「…………――――何? これ???」
「長期休暇前名物、仁義無き学園購買バトルです?」
……何一つ分からない。と言う顔で首を傾げた『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスに対し。
強く拳を握り力説するのは王党派貴族『地豪』セクエンス子爵家の令息、ステファン。
末尾が疑問符の方が『白筆』ロクサーヌ伯爵家の姫、クローディア。3名共同クラスの朋友である。
そんな貴族の3人にとって、高々購買の商品を奪い合う為にそんな大仰な――――或いは大げさな。
競争が必要な理由が分からない。特に最近目に見えて元気が無いオルファレナに至っては。
学園内でこんな(不毛な)催しがされている事自体知らなかった。ほんとに、こう……何これ?
「今回はオープン級だったので誰も必殺技を使いませんでしたが」
「必殺……えっ……?」
「次回はフリー級……必殺技が吹き荒れる激走が期待されますね……」
「えっ、ローディそんな何か面白可笑しい子だったの……? ステフ……?」
「特に、夏前のフリー級は選挙活動にも大きな宣伝効果が有ります」
「待って。去年はこんなの無かったよね? 私が知らなかっただけじゃないよね?」
「貴族派は無敗の女王、『焼きそばパン王子』を出して来るかもしれません」
「何? どうしたの?? 学園外から精神攻撃とかされてる???」
「彼女の『乱・天粕紅星牙』は未だかつて破られた事の無い恐ろしい技……」
「ダメ……! 突っ込みが追い付かない……っ!!!」
突如始まった仁義無き学園購買バトル! 君は、生き残る事が出来るか……!!
●先輩からの教示
「おやん? 誰か俺のことを呼んだかにゃあ?」
「貴方は――――第五学年屈指の強豪購買走者、『双箸使いの猫』先輩……!」
「誰……?」
渡り廊下で騒ぐ2年生達に声を掛けてきたのは何処かで見た気がする双剣使いの上級生。
そう言えばついさっき購買に向かってすごい勢いで駆けて行った学園生の1人がこの人だった様な。
……そうでない様な。
「そんな購買走者初心者に説明してやるっぺよ。仁義無き学園購買バトルとは。
夏冬の一時期、実に一週間に渡り行われる学園生による食を賭した生存競争――――!」
「――――生存競争!?」
「階級はオープン級とフリー級、そして投票によって走者が決まる年末グランプリ!
んで、グランプリ王者には『購買の王』の称号と副賞の年間半額券が贈られるって寸法だにゃ」
「『購買の王』!? そ、それって不敬罪とかに問われないの!?!?」
「勿論『王』以外にも好走した購買走者には二つ名が与えられたりするべさ。
俺っちの『猫』や、今日のオープン戦の覇者『魔女』なんかもそうだべな」
「名前は良くてもやってること凄く辛い……!!」
「そして次のフリー級には去年の『王』、無敗の女王『焼きそばパン王子』が出走予定……
敗けられねえだ。俺も今年用に秘蔵の必殺技を温めてっからよお……!」
「待って、情報量が多過ぎてついていけてません! え、何。必殺? 購買への競争で……? 殺すの?」
「それは言葉の綾だべな」
「良かった!!!!」
なにも良くないけれど、涙が出そうな位安心した。せめて平穏な学園生活くらい護らせて欲しい。
そもそも何がどうなって、こんな意味不明なお祭りが容認されているのかも分からないけれど。
学園経営の購買が噛んでいる以上、最低限見て見ぬ振りはされているのだろうから。
一学園生でしかないオルファレナにはどうしようもない。色々落ち着かないが見て見ぬ振りするしか……
「ま、あくまで購買バトルは力、速、心の強さを競う物。
ノーフィジカル、ノーパンクラーとも言うしにゃあ。技ばかり拘っても勝てるもんじゃねえべ」
「そんな言い回し知らない……あ、でも良く分かりましたありがとうございます」
ぺこりと。知りたくない事でも教えられたら頭を下げるのが侯爵令嬢の嗜み。
オルファレナの応対に気を良くしたのか。何処となく『猫』っぽい先輩はにんまり笑んで親指を立てた。
「なぁに、新人に道を示すのも先輩購買走者の義務だべ。
ただ、だからって闇の購買走者にはくれぐれも注意した方が良いけどにゃあ」
「なにそれ!?」
「闇の購買走者。それは誇り高き学園購買バトルを穢す邪悪な貴族達の尖兵……
奴らの悪辣な罠に掛かり、俺っちの相棒は……」
「……えっ、まさか……死……」
「渡り廊下の窓ガラス割って3ヵ月掃除当番を命じられた後、購買走者を引退したにゃ」
「なんか凄い悲しい事になってる!!!」
「奴から預かった長箸に誓って、俺っちは必ず『王』の座につかにゃあならんでよ……!!」
「その情熱、他に向き先無かったんですか……?」
拳を握る第五学年の先輩を他所に。どうも付いて行けそうに無いかも……と思ったオルファレナは。
そっと視線を逸らし自らの教室に戻ろうとした。だが、その後背に忍び寄る2つの影。
「と言う事で、オルファレナ様をフリー級に参加希望しておきました!」
「生徒会と『学園派』の知名度向上の為に頑張って下さい……私、いっぱい応援します……!!」
「何で流れでそういう事しちゃうの!?!?!?」
普段から面白そうな事にはこぞって首を突っ込む『白銀の薔薇』も、流石にこの様な事態は想定外であり。
その悲鳴が二年生教室廊下に響き渡ると共に――――結果的に我らが聴講生達の出番と相成った訳である。
駆けろ、宙を舞え、叩きつけられろ。戦わなければ――――この空腹は満たせない。
●仁義無き購買バトル
さあ、始まりました風雲急を告げる夏の学園購買バトル、オープン級。
各生徒終業チャイムより一斉にスタート。本校舎2階階段を過ぎた所で先頭は予想通り『パン食の貴公子』
『パン食の貴公子』が渡り廊下のハナを進むぞ。直ぐ後ろで虎視眈々と『双箸使いの猫』がじわじわ進出。
更に各生徒一団となって『サンドウィッチの騎士』『はぐれ庶民弁当派』『御総菜パンの魔女』は此処に居た!
期待の新入生、『俊足カレーパンサー』『ゴールディの赤い梅星』はぐっと離れて最後方、ここからどう巻き返すのか。
特別棟2階階段を回って先頭は変わらず『パン食の貴公子』。おおっと此処で『双箸使いの猫』が仕掛けた。
特別教室棟1階の直線を前にして『双箸使いの猫』が仕掛けた。『パン食の貴公子』を抜いて先頭に躍り出た。
最終コーナーを回って最後の直線。先頭は『双箸使いの猫』、追走する『パン食の貴公子』は少々苦しいか。
あっ、『ゴールディの赤い梅星』がぐんぐん出てきた。『ゴールディの赤い梅星』が来た。
しかし『サンドウィッチの騎士』も負けてないぞ。両者迫真の鍔迫り合い、これは接戦だ。
『俊足カレーパンサー』ずるずる後退、力配分を間違えたか、『梅星』と『騎士』に阻まれ進めません!
ここで『御総菜パンの魔女』外から攻める。『御総菜パンの魔女』速い!『御総菜パンの魔女』速い!!
『パン食の貴公子』は此処までか、『双箸使いの猫』を『魔女』が猛追! 『猫』か、『魔女』か!
購買まで残り50、凄い末脚だ! 『魔女』だ! 『魔女』だ! 『魔女』がそのまま購買にゴール……!
――――第六学年の意地……! 第五学年の『双箸使いの猫』を捻じ伏せ、『御総菜パンの魔女』が差し切りました……!
――――
「……何これ?」
「長期休暇前名物、仁義無き学園購買バトルです!」
「…………――――何? これ???」
「長期休暇前名物、仁義無き学園購買バトルです?」
……何一つ分からない。と言う顔で首を傾げた『白銀の薔薇』オルファレナ・アルヴァ・クラティアスに対し。
強く拳を握り力説するのは王党派貴族『地豪』セクエンス子爵家の令息、ステファン。
末尾が疑問符の方が『白筆』ロクサーヌ伯爵家の姫、クローディア。3名共同クラスの朋友である。
そんな貴族の3人にとって、高々購買の商品を奪い合う為にそんな大仰な――――或いは大げさな。
競争が必要な理由が分からない。特に最近目に見えて元気が無いオルファレナに至っては。
学園内でこんな(不毛な)催しがされている事自体知らなかった。ほんとに、こう……何これ?
「今回はオープン級だったので誰も必殺技を使いませんでしたが」
「必殺……えっ……?」
「次回はフリー級……必殺技が吹き荒れる激走が期待されますね……」
「えっ、ローディそんな何か面白可笑しい子だったの……? ステフ……?」
「特に、夏前のフリー級は選挙活動にも大きな宣伝効果が有ります」
「待って。去年はこんなの無かったよね? 私が知らなかっただけじゃないよね?」
「貴族派は無敗の女王、『焼きそばパン王子』を出して来るかもしれません」
「何? どうしたの?? 学園外から精神攻撃とかされてる???」
「彼女の『乱・天粕紅星牙』は未だかつて破られた事の無い恐ろしい技……」
「ダメ……! 突っ込みが追い付かない……っ!!!」
突如始まった仁義無き学園購買バトル! 君は、生き残る事が出来るか……!!
●先輩からの教示
「おやん? 誰か俺のことを呼んだかにゃあ?」
「貴方は――――第五学年屈指の強豪購買走者、『双箸使いの猫』先輩……!」
「誰……?」
渡り廊下で騒ぐ2年生達に声を掛けてきたのは何処かで見た気がする双剣使いの上級生。
そう言えばついさっき購買に向かってすごい勢いで駆けて行った学園生の1人がこの人だった様な。
……そうでない様な。
「そんな購買走者初心者に説明してやるっぺよ。仁義無き学園購買バトルとは。
夏冬の一時期、実に一週間に渡り行われる学園生による食を賭した生存競争――――!」
「――――生存競争!?」
「階級はオープン級とフリー級、そして投票によって走者が決まる年末グランプリ!
んで、グランプリ王者には『購買の王』の称号と副賞の年間半額券が贈られるって寸法だにゃ」
「『購買の王』!? そ、それって不敬罪とかに問われないの!?!?」
「勿論『王』以外にも好走した購買走者には二つ名が与えられたりするべさ。
俺っちの『猫』や、今日のオープン戦の覇者『魔女』なんかもそうだべな」
「名前は良くてもやってること凄く辛い……!!」
「そして次のフリー級には去年の『王』、無敗の女王『焼きそばパン王子』が出走予定……
敗けられねえだ。俺も今年用に秘蔵の必殺技を温めてっからよお……!」
「待って、情報量が多過ぎてついていけてません! え、何。必殺? 購買への競争で……? 殺すの?」
「それは言葉の綾だべな」
「良かった!!!!」
なにも良くないけれど、涙が出そうな位安心した。せめて平穏な学園生活くらい護らせて欲しい。
そもそも何がどうなって、こんな意味不明なお祭りが容認されているのかも分からないけれど。
学園経営の購買が噛んでいる以上、最低限見て見ぬ振りはされているのだろうから。
一学園生でしかないオルファレナにはどうしようもない。色々落ち着かないが見て見ぬ振りするしか……
「ま、あくまで購買バトルは力、速、心の強さを競う物。
ノーフィジカル、ノーパンクラーとも言うしにゃあ。技ばかり拘っても勝てるもんじゃねえべ」
「そんな言い回し知らない……あ、でも良く分かりましたありがとうございます」
ぺこりと。知りたくない事でも教えられたら頭を下げるのが侯爵令嬢の嗜み。
オルファレナの応対に気を良くしたのか。何処となく『猫』っぽい先輩はにんまり笑んで親指を立てた。
「なぁに、新人に道を示すのも先輩購買走者の義務だべ。
ただ、だからって闇の購買走者にはくれぐれも注意した方が良いけどにゃあ」
「なにそれ!?」
「闇の購買走者。それは誇り高き学園購買バトルを穢す邪悪な貴族達の尖兵……
奴らの悪辣な罠に掛かり、俺っちの相棒は……」
「……えっ、まさか……死……」
「渡り廊下の窓ガラス割って3ヵ月掃除当番を命じられた後、購買走者を引退したにゃ」
「なんか凄い悲しい事になってる!!!」
「奴から預かった長箸に誓って、俺っちは必ず『王』の座につかにゃあならんでよ……!!」
「その情熱、他に向き先無かったんですか……?」
拳を握る第五学年の先輩を他所に。どうも付いて行けそうに無いかも……と思ったオルファレナは。
そっと視線を逸らし自らの教室に戻ろうとした。だが、その後背に忍び寄る2つの影。
「と言う事で、オルファレナ様をフリー級に参加希望しておきました!」
「生徒会と『学園派』の知名度向上の為に頑張って下さい……私、いっぱい応援します……!!」
「何で流れでそういう事しちゃうの!?!?!?」
普段から面白そうな事にはこぞって首を突っ込む『白銀の薔薇』も、流石にこの様な事態は想定外であり。
その悲鳴が二年生教室廊下に響き渡ると共に――――結果的に我らが聴講生達の出番と相成った訳である。
解説
さあ、始まりました学園購買バトル!勝つのは誰だ!!!
●成功条件
学園購買バトルが恙なく完了する。
●失敗条件
学園側に笑えない範囲の物理的損害が出る。
(窓ガラスが割れた、辺りまでがセーフティラインとする)
●行動選択
本シナリオでは以下の選択肢を行動案冒頭に記載する事を推奨する。
【1】購買走者
仁義なき学園購買バトルに参戦する。
【2】闇の購買走者
仁義なき学園購買バトルに参戦する。
必殺技の対象が拡張される。
優勝すると学園内の貴族達の発言力が向上する。
【3】その他
仁義なき学園購買バトルを観戦したり応援する。
これと言って特殊な効果は無い。
NPCと話がしたい場合もこちら。
●仁義なき学園購買バトル(パンクリアスタ)
終業チャイムと共にスタートされる購買への徒競走。
オープン級は純粋な身体能力勝負だが、フリー級では各自1つ。
事前に学園購買バトル運営委員会に提出した必殺技の使用が認められる。
●ノーフィジカルノーパンクラ―
各購買走者は、ステータスとして基礎配点15点を持つ。
必殺技を設定しなかった場合、基礎配点が16点になる。
以下の3項目に、配点を全て割り振ることで走者としてエントリされる。
1項目の最大配点は10点。
力:競り合い依存。競り合いに負けると力の差分、速が低下する。
速:移動速度依存。高ければ高い程に早く購買に着く。
心:追い越し依存。前の走者より心が低い場合、追い越せない。
(※追い越せなくとも競り合いは発生する)
●必殺技(テク)
自分の前か、後ろを走る対象に対して1度だけ効果を発揮する走行技巧。
以下3つを定めることで申請がされたと判定される。
原則、必殺技は"必殺技を申請した者"しか対象に出来無いが、
闇の走者が使う必殺技は”全ての走者”を対象に出来る。
【対象】『前』か、『後』かのいずれか。
同位置に2人以上居る場合、心が低い方に発動する。
【対象能力】『力』、『速』、『心』のいずれか。
必殺技が発動した場合、対象の能力を無条件で『3』低下させる。
【発動時期】『序盤』『中盤』『終盤』のいずれか。
なお、必殺技は”対象が居れば”必ず発動する。
●注意事項
・ノリ重視のコメディシナリオです。今回勝利しても『王』にはなれません。
・オルファレナは強制参加させられ、何故か走る予定になっています。
・皆の購買を悪用するなんて許せねえ、学園購買バトルで勝負だ!
マスターより
70度目まして響けファンファーレ。シリアス&ダーク専攻MS、弓月蒼です。
生徒会の積み重ねが大分進んだので、今回は七夕に因んで息抜き回となります。
何に因んで何処抜いたらこうなるのか、と言う御意見は重く受け止めつつ。
どうぞお気軽にご参加頂けましたら幸いです。
リプレイ
●白銀の薔薇は困惑しかない。
「何で……!? 何でこうなっちゃったの……!?」
誰にも答えられない問を投げつつ、手元の『生徒会を宜しくお願いします襷』を見る。
そんな『白薔薇』直系侯爵家令嬢が居るわけがない! が、そんな事になるのが『白銀の薔薇』ことオルファレナなのである。
「大丈夫、ですか? 少しでも息抜きになるといいですね」
「なると思う!?」
「体を思い切り動かせば気晴らしにもなるかな、と」
「……あ……言われてみれば、一理ある……かも?」
あまりに奇怪な催しに思わず悲鳴を上げてしまったが。元々冒険を愛し身体を動かすのも大好きと言う彼女である。
最近どうにも鬱々としていたのは事実でもあり、或いはそういった気遣いをしてくれたのだろうか。
であれば悪い事をしてしまったかもしれない……と、『銀涙の縁』ヴィルヘルミナの言に僅かに眉を寄せる。一方――――
「あれ? キミって確か――辺境伯主催の舞踏会の時、ボクと踊ってくれた……」
「み゛゛゛゛!!!!」
『透徹の蒼眸』エルゼリオ・レイノーラの言に小動物めいた悲鳴を上げたのは『白筆』伯爵家令嬢クローディア。
基本、一部生粋のお姫様を除くと“学生”の自分と“令嬢”の自分を切り分けている学園生は少なくない。
その点彼女はお姫様寄りではあったが、さりとて辺境伯家の夜会で踊った相手に声を掛けられる……と言う展開は。
平常予期しないものだ。怯えた仔栗鼠みたいになるのも仕方なく。
「あのあのあのあの、レイノーラ様も本日はお日柄も良く私の様な二学年の塵芥に何の御用で」
「あれ。オルファレナさんの似顔絵? あ、オルファレナさんの応援か~、実はボクもなんだけど」
「きゃ―――――ッッッ!!!」
目がぐるぐるになって慌てて隠そうとするも時既に遅し。羊皮紙に描かれたクローディアの絵画の腕前は中々の物ではあったが。
しかし人に見られるとなると全然話が変わるのが、繊細な乙女心という奴なのである。
「……なんか、ローディ、楽しそうで、良いよね」
「そんな目で見たら可哀想ですよ。何でしたら……来ます?」
「わぁーん、何でヴィルは男の子じゃないのー!」
理不尽な事を言いながら開かれた両手に飛びつく恋愛弱者をよしよし甘やかすヴィルヘルミナ。
パンクリアース学園2—3教室は今日もとかく騒がしさの渦中にあり――――
――――同時刻、5年教室廊下。本日開催されるレースの出走者が掲示板の片隅に貼られると。
興味本位で覗きに来た一団に混ざり、『指し手』ジュスト・ヴェルジーは思い掛けない物を見たと言う様に瞬いた。
「いや、我らが『白銀の薔薇』は愛されているねぇ」
現状、彼女は偶像でありそれ以上ではない。けれど彼女の本意はさておき。
こう自然と知名度を上げようと取り計らう人間が周囲に居ると言うのは、この学園内では稀有な事象だ。
「催し物で購買意欲を刺激すると言う新手の手法か……広告効果は期待出来るな、なるほど興味深い」
隣で大きく頷く『リベラの天秤』ローザリカ・L・ディオールはまた何か愉快な勘違いをしている様だが。
さりとて、この学園内が“どういった仕組み”で組み換えられているかを把握しつつあるジュストからすれば。
“額面通り”で素直に受け取って良い物とも思えない。そう――――或いは。
「ところでロゼは誰が優勝すると思う?」
ちょっとした遊び、或いは面白半分の問に、まさかそんな剣呑な笑みが返ると果たして誰が想像するだろう。
いや、この薔薇色の髪の少女が相当な負けず嫌いであることは重々理解してはいたが――――
「うん? この僕に挑むと? ……いいだろう、その賭け乗った」
然してそこそこ処ではない。彼女は特定の挑戦に対しては――――“筋金入りの”負けず嫌いなのである。
――――
「暑天晴れ渡る正午、本日も始まりました夏の学園購買バトル、フリー級。
今日も飢えた獣達が鎬を削って不毛な争いに身を投じます。解説は僕、キャストル・アングリフで宜しくおねしゃっす」
「何ですかこれ……」
それは誰にも分からない。彼女が何故スタート位置に付いているのか。運営委員会とは何なのか。
何故別に頼まれても居ないのに自らをパシリと任ずるのか。第1ゲート、イヴェール・イリュジオン以外分かる訳もない。
「理解には苦しみますが、本気でやってるのですね……」
「成程——――私。完全に、理解りました……!この競争いの意味が……ッ!」
さりとて。理解に苦しむ者が居る一方で完全に理解っちゃった者も居るのがこの学園購買バトルである。
第2ゲート『その心に火をつける』アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは何処か次元を超えた彼方へ視線を向ける。
「冬休み直前の編入で、何かやってるのは見たんだけど……そう……そういうこと……」
盗賊適性の授恵者としては負けられない。第3ゲート『鋭剣の淑女』ルベア・ベルニは自らの尻尾を丸めて繰り返し頷く。
頭をフードですっぽり隠す彼女はいわゆる“人見知り”に分類される訳だが。そんな彼女が何故勇気を出してしまったのか。
「飯の確保は大事だからな」「速さは正義! よーっし、やるぞー!」
『青天の騎士』ナキルと『神に勝利せし者』エフィルミアは揃って第4、第5ゲートを占める。
尚、この両名も勝負事となるといちゃらぶは何処かへ行ってしまう属性なのか、お互い明らかに相手に勝つ気しかない。
「ふふふ……この学園で最速を決める日がやって来たね……このレースで優勝して『学園最速』の座は頂くんだからっ!」
そしてレースの主旨を把握しているのかいないのか、『ホットパンツの使者』サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは此処に居た。
第6ゲートは学園生ですらない彼女であるが、現在の学園は聴講生には寛容である。寛容過ぎるにも程があるのではないだろうか。
「美味しいお昼を食べるため。今日もおじさんは戦うのであった……」
お昼ご飯って言うのはね。何て言うか、救われてないといけないんだよ……みたいな事を呟きつつ。
遠くを見つめるのは第7ゲート、『菫青石の騎士』海神・江流。流石に紫水晶のお姫様は不在ながらやる気十分でレースに挑む。
「皆さん、元気ですね。……まあ、勝つ気はないので適当にやりますか」
その隣、真面目に走る気など体力の無駄遣いと言わんばかりの黒尽くめ。第8ゲートは『這い寄る者』キーゼである。
やる気は0だがその精神状態の凪っぷりには定評がある。果たしてどんな番狂わせを見せるのか。
「称号に興味はないが――……副賞の年間半額券は魅力的だな」
拳を握り隣とは逆にやる気十分の第9ゲートは『無想の銀鬼』ナハティガル=ラー。だが残念……! これはフリー級!
副賞が得られるのは年末のグランプリなのである……! 相変わらずの天然を抱えて銀髪鬼よ何処へ行く。
「正々堂々、がんばりますねっ!」
そんなイロモ……個性派達に囲まれた第10ゲート、本試合初参加の『豆戦車』ゲルダ・クラインが前向きに告げる。
普段から平穏な日々をただ粛々と送っていた筈の彼女がどうしてこんなレースに混ぜられてしまったのか。
「……あ……はい。何かこう、がんばる……ます」
その隣、虚ろに呟く第11ゲート、『白銀の薔薇』オルファレナ、第12ゲートベテラン走者『|双箸使いの猫《デュアル・キャット)』。
更に第13ゲートに貴族派からの刺客、大本命の『焼きそばパン王子』と続き――――
●仁義無き、学園購買バトル
「――――酔狂だな」
そんな盛り上がりを、特別教室棟側より眺めるのは『黒の後継』アルベイル・ライゼンナクト。
渡り廊下の先、よりゴールである購買に近い位置ではあるが、今は未だ喧噪すら程遠い。
「これは……ガス抜きなのか、それとも何かの隠れ蓑なのか……どう思われます?」
「こういった行事は学園派が動き易い。恐らく、先の“貴血連盟”の一件を受けてのことだろう」
つまり、後押しの一種だろうと応じる『竜』の仔に、問うた『彩都の商人頭』リサ・ベイカーが首を傾げる。
となると、学園派支援と見るべきなのか。今一つ“これ”を学園が黙認する意図が読めない所だが――――
「そう言えば、次の選挙はどうされるんですか?」
此方の問が本命だ。首を傾げじっと見遣るリサを視線だけが一度通り過ぎ。
「無論参戦する。少なくとも、今年まではな」
視線を校舎へ戻したアルベイルの視線を商家の娘は追いながら思う。この人は何処を見て、何を望んでいるのだろう。
それが少なくとも、支配や権益と言った通り一辺倒の貴族が求める物ではないことは徐々に分かって来た。
「貴方の望む世界は、何処にあるんですか」
けれど――――その眼差しは余りにも遠く。果たして、その理想に人は付いてこれる物かと怪訝が過ぎ。
そうして漏れた問に、一瞥を向け直した黒の公爵の後継者は。赤い瞳を細め口元だけで笑った。
「すぐ其処に」
少しだけ分かった事がある。この少年が己が描く未来を打ち明ける相手が居るとすれば。
それは、彼のその冷えた眼差しの先に未来を見られる者だけだ。思えば彼は何時でも問い掛けていた。
“このままの未来で、本当に良いのか”――――と。
それに応じられる明確な解が。今は未だ、リサの中には――――無い。
――――
さて。そうして購買走者最終第14ゲート。『気高き白』コルネリウス・アーラは緊張の只中に在った。
概ねノリと実益で参加を決めた学園購買バトルだが、果たしてエントリの勢いに酔っていたのか。
渡り廊下で遭遇した『黒の後継』に“応援して下さいね!”等と言う無茶振りを解き放ってしまった為である。
まさか了承が得られるとは思っていなかった結果が、渡り廊下の先で待ち構えている。何でこうなったのか、無論自業自得である。
「それでは今、合図と共に一斉にスタート!」
パァン、と。イヴェールが投げた閃光塗弾の音が響き渡ると各人が一斉に走り出し、方々から応援の声が上がる。
先ず立ち上がり先頭を競うのはエフィルミア、サフィラ、江流の3名。果たしてこれは三つ巴か――――と思いきや。
「常に前を走るのは――――私っ!」
序盤戦、競り合いを制しエフィルミアが一歩先に抜きん出ると、これに押されてじりじり下がるサフィラと江琉。
両名を横目に2番手はアウレーリア。先行するエフィルミアの背後にぴたりと付けて独走を許さない。
その後ろ、3番手をサフィラが走り4番手以降は混戦が続くが――――
「させ、ません……!!」
ここで2度目の競り合いが発生。ナハティガルを下がらせたイヴェールが4番手に踊り出る。
これによって上手く5番手に付けた『焼きそばパン王子』と6番手に『白銀の薔薇』オルファレナが併走する傍ら。
序盤の山場は此処に在った。渡り廊下へと回り込む第一コーナー、ここでキーゼの『外套脱衣』!!
曝け出された艶やかな水着に、レースは過酷な混沌へと雪崩れ込むのである。
――――
「よし、僕は先頭を走る桃色エルフが気に入った! 生徒会長だろう? やはり命運を託すならああでなくては!」
「俺は今3番手の褐色肌の娘が勝つと思うな。如何にも挙動が軽いし、未だ切り札を切ってない感じがする」
「ほう? 従兄弟殿はああいった服装が好みかこの俗物め」
「いや、俺の話ちゃんと聞いてた……?」
ジュストとローザリカか喧々囂々とやり合いながら彼ら彼女らなりに観戦を楽しむ傍ら。
開始より少し出遅れてやって来た姉妹は、その謎の催しの不可解な盛況っぷりに2人揃って目を丸くしていた。
「おお~月ちゃん。何か面白いことしてるねぇ~。何してるんだろぉ~?」
『おっとりさん』御邑 都はただちょっぴり普通より義妹が大好きなだけのおっとり聴講生である。
美味しいご飯と義妹が居れば幸せな彼女は――――しかし義妹にはない特技があった。
「お姉ちゃん待っ……え、こ、これも……授業の、一環……でしょう、か……凄い……です!」
手に汗握る『前にさしたる花櫛の』御邑 奈月の眼前では最速集団が駆け抜け、団子になった中速集団が過ぎる所。
彼女が大切な黒羊人形を心の支えにする位に臆病なことは言うまでも無く。
事故が想定されるこんなレースの見学なんて危なく無いかな……と、横を通り過ぎる際。
オルファレナも何となく不安を憶える程度には心配を煽る振る舞いをしている事は当人すら気付いてはいない。
そんな奈月のほぼ眼前でキーゼが外套を脱衣した。誰が見ても間違いのない悲劇である。
都はその類稀なる危機回避能力の全てを賭してかの 邪智暴虐の黒尽くめを視界から除かなければならぬと決意した。
郁には王国が分からぬ。郁はただのおっとりお姉ちゃんである。義妹と1つの食べ物を分け合う様にして生きて来た。
しかし、義妹の窮地には人一倍敏感であった。携えていたブランケットを義妹の眼前に被せるまで、この間実に0.1秒。
まさに無拍子からの紫電一閃、逆風石火の早業である。
「……え? えと……、あれ。お姉……ちゃん? 見えな……」
「おー! これも授業なんだねぇ~♪ ……何の授業なのかなぁ~!!」
義妹の扱いに慣れた完璧な誤魔化し方だった。流石お姉ちゃん。略してさす姉である。かくして競技は無情にも恙無く続いていく……
――――
「オルファレナさん頑張れ――――!!」
「オルファレナ様あと半分ですよ――――!!」
エルゼリオとクローディアの応援が木霊する。クローディアに到っては羊皮紙をばっさばっささせて目立つ事この上無い。
が、その声援には確かな友情の色が感じられ、この子は素直な子なんだろうなあと思わず見遣ったのがまずかったか。
「え、え、え、な、何か変な事しちゃいました!?」
「いや、もしかして、オルファレナさんを出場させたのってクローディアさん? 気分転換させるため……とか」
「あ、えっと……幼馴染で相談して、ですけど……はい、ええ、まあ。それなりに……最近元気無かったので」
俯いたクローディアを眺めてエルゼリオが思わず笑う。確かに、そういう事は指摘されると恥ずかしい物かもしれない――――と。
「ちょっと待って!? ローディって私の応援してくれてるんだよね――――!?」
「してる! してますよ!! 頑張れオルファレナ――――!」
「わぁん友情って儚い―――――!!」
そんなやり取りが行われている最中。そのすぐ背後で行われている惨劇に視線が向かないで済んだのは。
果たして良かったのか、悪かったのか。それはきっと誰にも決められる物ではないだろう。犯人は奴。
「くっ、油断しました……!!」
絶対油断ではない何かに苛まれて大きくつんのめったコルネリウスに罪はない。
誰だって背後から外套下に黒い水着しか着てない男が迫って来たら距離を取りたくなる。彼女だけの責では断じてない。
断じてないが、それによって無駄に速度を奪われた事は間違いない。可哀想過ぎる。
そんな彼女の前を走るナキルからしても、彼女が壁になって良く見えなかったから間一髪難を逃れたものの。
或いは酷い映像を目に焼き付ける寸前まで行ったことは文字通り紙一重の幸運だと言えた。何なのこのレース恐い。
そんな、各所に大いなる被害を出しながら続くデッドヒート。動きを見せたのは先頭集団――――桃色エルフと炎の令嬢である。
「人は今日を生きるべく日用の糧を得る……即ち競争とは生存、生存とは闘争なのです……!」
好戦的過ぎる帝国貴族の没落令嬢アウレーリアが灼熱の闘気を燃やして加速する。
その歩みはまさに『炎の恵み、焼きたての栄光』。最序盤から先頭を駆け続けた春色の妖精をかわし先頭へ躍り出る。
他方、ひっどい技で中速集団を軒並み引き摺り下ろそうとしたキーゼにブロックされたゲルダ、ルベア、江琉の三名は。
知覚を拒む艶やかな水着と競り合うと言う尊厳の危機と相対するも。
(嘘嘘嘘嘘嘘嘘、で、でも負けたくない……!)
「くぅううううう頑張れわたし……っ!」
過去最大級に心理的に追い詰められたゲルダの一念発起により、競り合いに敗北したキーゼはじわじわ順位を下げ。
それを全力で、露骨に、ある種の恐怖と共に迂回したルベアとワンツーフィニッシュで中速集団の最前列に上り詰める。
即ち――――乙女心の強さが此処に証明された訳である。
●決着、勝利は誰の手に
渡り廊下を越えて階段を下り最終コーナー。先頭を駆けていたのはこの段階でも『火恵の淑女』。
その後背を追うエフィルミアが真後ろのサフィラへ向けて放った『春風の色仕掛け』が終盤戦の始まりであった。
「っ、まさか……あたしが、この、『最速ホットパンツ』が魅了し返されるなんて……!!」
だが、彼女とてやられっ放しではない。後背を走るイヴェールへ。
“さあ、お前もホットパンツになれ……!”と言わんばかりの『魅惑のホットパンツ』をばっちり決める。
―――――だがこの時信じられない事が起こった。イヴェールの精神はパシリだったのだ。
「個数限定パンの為に……今、私は修羅になる……!」
修羅鋼鉄の精神の前には誘惑など何処吹く風。駆け抜けるイヴェールは絶妙な位置をキープしており。
しかし彼女を追う『やきそばパン王子』も此処でグランプリ覇者の意地を見せる。
「やるね、ならば受けるが良い、これが僕の『乱・天粕紅星――――」
「あ、ごめんなさいちょっと邪魔です」
後背から迫りつつあったゲルダの『ドラゴンチャリオッツ』(Notスキル)が『やきそばパン王子』を跳ね飛ばす。
憐れグランプリ覇者は錐揉み回転、しかし不意打ちは合法なのがこの学園購買バトルである。つまり。
「加速するなら――――今……!」
「やらせはせん、この瞬間に全てを賭ける……!!」
「くっそ――――ミアに追いつけなくとも、せめてゲルダ姉ちゃんは……!」
競り合う3人。ルベア、ナハティガル、ナキルが揃って必殺『小麦粉塵脚』『無想ノ極』『オレの走りはこんなモンじゃねェぜ!』で以て。
『焼きそばパン王子』をボコボコにする。これも勿論合法でありレースの必然。運が悪かったとしか言い様が無い。
そして、此処からは完全に実力が物を言う。先頭集団の最後尾はサフィラ。
その後ろ、中速帯集団で一歩抜きん出たのは――――ゲルダにブロックされていたナキル。
次いで、ナキルには一歩劣る物の競り合いの影響が少なかったナハティガルを――――最後の最後でコルネリウスが差し切った。
以下、最終コーナーで江琉をブロックしそのままゴールしたゲルダ、すぐ真後ろにピタリと付けていたルベア。
中盤そんな江琉に必殺技の発動を弾かれた結果良い所無しで終わった『双箸使いの猫』。
『焼きそばパン王子』に押し負けて順位を下げた『白銀の薔薇』、それとほぼ併走する江琉と続き、キーゼのゴールでレースは幕を閉じる。
優勝『灼火の栄光』アウレーリア。二位『春風の誘惑』エフィルミア。三位『修羅』イヴェール。四位『最速ホットパンツ』サフィラ。
そして五位『優駿』ナキル。此処までが、学園購買バトルフリー級入賞者として、大いなる賞賛が送られた。
――――
「オーロラ、完走おめでとう!」
「わ、ロゼット! ありがとう! ありがとう! もう駄目かと思ったけど、勝てなかったけど私頑張ったよう!!」
購買横で待ち構えていた『慈愛深き神官』ロゼットに駆け寄ってはしっかと抱き付くオルファレナ。
相変わらず距離感がおかしい侯爵令嬢。けれどその挙動に普段と違う物を感じたのは付き合いの長い彼女ならではだったろう。
「元気が無い、と聞いたけど……」
そう尋ね、視線を合わせたロゼットに。白銀の薔薇が瞬き、困った様に笑って、視線を落とした。
彼女は貴族だ。貴族だから抱えている物。背負わなくてはならない物。そういった柵が沢山ある。
けれど、溢したその言葉は、特別な。とてもとても特別な物で。
「……大切な人が、罪を犯して。その人を、私だけが救えるなら。……私は、救うべきなのかなあ」
湿った声音の問い掛けに。彼女に声を掛けようとしていたヴィルヘルミナが一歩踏み出し掛け、迷う様に足を止めた。
聞いてしまったのは偶然であっても。それはきっと彼女にとってとても重い問であり。
これ以上踏み込んで良いのか、悪いのか、そこを決めかねている彼女に背負えるかと言えば難しい問だ。
見て見ぬふりが出来る程、ヴィルヘルミナは自分が器用で無い事も知っていた。だからこそ彼女は一度踏み止まる。
「……貴方に縁のある人は皆、貴方が好きだから――――貴方にとって避けられない問題なら、応援するわ」
困惑を押し殺して言葉を探すロゼットの言葉にじっと耳を傾ける。オルファレナの背は酷く頼りなく。
そう言い切った女神官に。白銀の令嬢は黙ってぎゅうと抱き着く事で応じた。今は、きっとそれで十分だった。
「オーロラさ―――――ん!!」
「エフィ! 入賞おめでとうっ! 凄かった!!」
「ふふふ、でしょー、ですよねー、偶にはバカ騒ぎで気分転換も悪くないでしょ?」
「私は普通の冒険の方が良いんだけどなああああああああっ!!」
そうして、購買から戻って来たエフィルミアに今度はオルファレナの方が捕まると。
そこから先はもうしっちゃかめっちゃかと言った有様で。あれよあれよと言う間に人から人へ連れ去られる少女を見て。
ロゼットは思わず笑いを漏らして。ヴィルヘルミナはまるで眩しい物でも見る様にそれを見送る。
見れば『蒼玉の青薔薇』シルヴィア・A・カペルがエフィルミアと2人抱き寄せて大層甘やかしている様だった。
「エフィもオルファレナもお疲れ様。頑張ったね!」
へとへとになったオルファレナも、最後の気力を振り絞ってみせる。とはいえ何だかんだと言って甘えたなのは間違いなく。
果たして誰が言ったか。『白銀の薔薇』は愛されている。それは、きっと彼女が築いた絆そのものであり――――
「お互いこうして騒げるのは学生の間だけだろうしね。思い切り楽しむべきだよ」
笑いかけるシルヴィアに、釣られてオルファレナが微笑むと。その表情を確かめてカペルの至宝は白銀の姫の頬に触れる。
驚いた様に背が伸びた様に思わず瞳を細めるも。随分と心を窶したのだろう。この数ヶ月で少し痩せた様だった。
勿論、それを直接指摘する訳にはいかない。いかないが――――さりとて。放っておいて良いわけがない。
「君もエフィも、私にとっては可愛い後輩だから。先輩としての私に、何か力になれる事があれば言ってね」
「ぅぁー……は、はい!」
――――照れたように応じるオルファレナの明るさを。それだけ救いたいと言う人間が多いと言うことなのだろう。
周囲を見回せば、影に日向に。彼女の仕草を気に留めている人間の多いこと。これも或いは、一種の才能だろうか。
そうして一通り騒ぎが終わった頃。自分が学園生だった頃には無かった未知の催しで呆気に取られていた学園卒業生。
『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールはと言えば、完全にお祭り騒ぎに混ざる機を逸していた。
結果、参加した授恵者達の中でも一際練度の低いオルファレナが最後までバテていたのは偶然か――――必然か。
「だ、大丈夫ですか? 飲み物などは十分摂られましたでしょうか……!」
「あ、先輩……はい。大丈夫です。何だか久々に身体を動かしたなーって……?」
慌てて差し出した手巾で額の汗を拭こうとすると。汗に濡れた白銀の髪がさらりと揺れる。
普段はあまり気にする事も無いが――――綺麗な子だと。不意にそんな事を想った矢先の事。
視線を追って気が付いた。その手巾は彼女が普段使う白百合のそれではなく。描かれていたのは一輪の銀の薔薇。
「……あれ。先輩、『白銀』に知り合いでもいらっしゃるんですか?」
何気ないその問にレティシアが驚いて手を引っ込めようとして。え、と声は遅れて落ちた。
「それ『銀花織』ですよね? ――――『白銀花の祝祭』が『白銀』主導の時だけ織られる……」
不思議そうに瞬く『白銀の薔薇』の青の奥底。群青色の光を目の当たりにしてレティシアは血の気が引く音を聞いた。
名前だけは知っている『白銀花の祝祭』。聖霊節を独自解釈したような、白薔薇系貴族特有の祭事。
方々の貴族が招かれて訪れる事も有ると聞くが――――青に黒を落とした群青の瞳。更に黒を混ぜたなら、どうなるだろう。
まるで縦糸と横糸が交わる様に。かくて、宿縁は巡り巡る。
――――
学園裏。『誓約の剣』Alexandra・Hexe・Claudiaは独り粗末な木製の墓所で佇んでいた。
夏の陽射しは嫌が応にも降り注ぎ。青いと言う程白いAlexandraには少々厳しい季節が訪れている。
「……こうしてここでゆっくり過ごすのは久しぶり……だね」
ざっと掃除を終えた墓標に掛かった銀の鎖へ言葉を紡ぐ。それは此処にはもう居ない星屑の少女の遺した残滓である。
良く良く見れば所々が黒く染まり。それがどうしても気になった彼女は手拭で鎖を丁寧に拭っていく。
(銀が黒くなるのは、火山のせい……でも、このあたりはフィルエスから随分遠いはず)
それでも、輝かしい物は必ずくすむ。其処に何処か寂しさを感じないかと言えば――――嘘になるだろう。
特別教室棟からは長く学園生達の楽しげな声が響いていた。何か催しをしていたのだろうと思うものの、見に行く気にはなれず。
(貴女が居た時代も……この学園は、こうだったのかな)
例え幾度年が巡ろうと。例え何度夏が過ぎようと。変わる物があり、変わらぬ物がある。
喪われた物が決して元には戻らない様に。今まさに芽吹きつつあるものによって時代は移り変わっていく。
それでもやはり。同じ物を見て、感じてみたかったと。そんな感傷までは理屈で割り切れる物ではないのだろう。
応えは決してない問を投げて空を仰ぐ――――王国の長い夏は、未だ始まったばかりだ。
マスターコメント
皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。
この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。
今回に関しては弓月は悪くない! 弓月は悪くない!!
と、強く主張しつつ。突然始まった謎のレース企画でしたが楽しんで頂けたら幸いです。
MVPは純粋に、優勝・準優勝各一名にお送りしつつ。称号は適切に分配させて頂きます。
そろそろ総選挙が近付きつつありますが、学園の日々は今後も出来るだけ触れていくつもりです。
ではでは、ご縁がありましたらまた次の機会にお会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し22 / 10〜25人
2022年07月25日 04時39分17秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 しかしまた羽目を外した催しですね。 私は【3】になります。出走される方は頑張っていただければ。
時々この学園、おかしなことやってるわね(汗) 参戦するか迷ってるけど、今は【3】で観戦させてもらうわ。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 パンクリアスタですって!キング…いい響きです…! これはシーフとしても生徒会長としても負けるわけにはいきませんね! 【1】で優勝狙いに行きますっ。 いざ尋常に…勝負!
にゃ!シーフのサフィラだよっ! あたしも【1】で優勝を狙うよっ!
「ナキルだ、よろしくな。 つっても、もう出発だけどな。 【1】にいるぜー」