【彩都】瑠璃浜と宝石酒
炙りとろ左門
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シナリオID:2315
オープニング
「ようやく赤字から脱出しましたわ……」
フェイデン子爵ノーキスは三日三晩かけて計上し、出来上がった収支計算書に突っ伏した。マイナスからスタートした財政が、ようやく子爵領の運営として「まあぎりぎり正常」といえる値になったのである。
それでも零細経営から片足脱した、といった規模である。ここでこけるわけにはいかない。
「もう一押し必要ですわ。そして夏が来る。わかりますわね? ストゥルルソン」
王国査察官であり子爵補佐官を務めるレヴィル=ストゥルルソンは静かに頷き、『ラズライト・ビーチ開発計画書』
『瑠璃洞整備計画書』『酒造建設計画書』のみっつを机の上に並べた。
「夏本番までにシメますわよ……ラズライト・ビーチの完成は最重要項目として、瑠璃洞の整備も間に合わせたいところだわ」
ビーチの存在だけでは薄い。瑠璃洞と合わせることで、フェイデン子爵領にはこのような美しい観光拠点があると強く印象づけられるのだ。ついでに美味しい酒もつければ話題性も上がるというもの。
「ビーチと瑠璃洞は人手が確保できればなんとかなりますが、酒造に関しては……箱は用意できても、『種』が」
酒とは一朝一夕でできるものではない。ゆえにアリステアが提案したのが『サングリア』だった。それも現状、材料の調達面で褪野の酒としてのオリジナリティは『玻璃砂糖の利用のみ』となっている。
「玻璃砂糖は一度に大量に作ることができません。希少価値を売りにするには手軽さが損なわれます」
「そうですわね……それでうまくいくこともあるでしょうけど、気軽に飲めるものも必要ですわね」
「酒造技術の向上も同時に行う必要がありましょう。ですが……」
褪野にもともといる職人と、エディンから酒造技術を持ち込んだ職人の折り合いが悪いのだ。アリステアが間に入ってくれているが、もう一押し必要そうである。
「とにかく、喫緊の課題をどうにか片付けましょうか」
「そうね。いつも通り、手筈を整えてくれるかしら」
お任せください、とレヴィルは礼儀正しく頭を垂れる。
彩都開拓団に声をかけ、また冒険者たちにも力添えを頼む。そうして、この領地は再興の道を歩んでいくのだ。
フェイデン子爵ノーキスは三日三晩かけて計上し、出来上がった収支計算書に突っ伏した。マイナスからスタートした財政が、ようやく子爵領の運営として「まあぎりぎり正常」といえる値になったのである。
それでも零細経営から片足脱した、といった規模である。ここでこけるわけにはいかない。
「もう一押し必要ですわ。そして夏が来る。わかりますわね? ストゥルルソン」
王国査察官であり子爵補佐官を務めるレヴィル=ストゥルルソンは静かに頷き、『ラズライト・ビーチ開発計画書』
『瑠璃洞整備計画書』『酒造建設計画書』のみっつを机の上に並べた。
「夏本番までにシメますわよ……ラズライト・ビーチの完成は最重要項目として、瑠璃洞の整備も間に合わせたいところだわ」
ビーチの存在だけでは薄い。瑠璃洞と合わせることで、フェイデン子爵領にはこのような美しい観光拠点があると強く印象づけられるのだ。ついでに美味しい酒もつければ話題性も上がるというもの。
「ビーチと瑠璃洞は人手が確保できればなんとかなりますが、酒造に関しては……箱は用意できても、『種』が」
酒とは一朝一夕でできるものではない。ゆえにアリステアが提案したのが『サングリア』だった。それも現状、材料の調達面で褪野の酒としてのオリジナリティは『玻璃砂糖の利用のみ』となっている。
「玻璃砂糖は一度に大量に作ることができません。希少価値を売りにするには手軽さが損なわれます」
「そうですわね……それでうまくいくこともあるでしょうけど、気軽に飲めるものも必要ですわね」
「酒造技術の向上も同時に行う必要がありましょう。ですが……」
褪野にもともといる職人と、エディンから酒造技術を持ち込んだ職人の折り合いが悪いのだ。アリステアが間に入ってくれているが、もう一押し必要そうである。
「とにかく、喫緊の課題をどうにか片付けましょうか」
「そうね。いつも通り、手筈を整えてくれるかしら」
お任せください、とレヴィルは礼儀正しく頭を垂れる。
彩都開拓団に声をかけ、また冒険者たちにも力添えを頼む。そうして、この領地は再興の道を歩んでいくのだ。
解説
皆さんはビーチシーズンを前に、フェイデン子爵ノーキスからラズライト・ビーチと瑠璃洞の最終整備を依頼されました。
ついでにエディン公子アリステアからも、エディン産のフルーツをつかった酒の改良と酒蔵の確保を頼まれています(これは以前のシナリオで獲得した領地特徴に基づきます)。
目 的:ラズライト・ビーチと鍾乳洞の整備
副目的:エディン産のフルーツを使った「サングリア」の改良または酒造技術の向上
■ラズライト・ビーチの整備状況
砂浜への道が整備され、浜辺も大きなごみが取り除かれた状態で、白い砂の投入準備ができています。
廃材を再利用したオブジェやコテージ、管理棟や遊技場がいくつか建設中で、いずれも内装の手入れが必要です。
■瑠璃洞の整備状況
鉱山に潜むクリーパーが退治されたため、黒玻璃花の除去と洞窟観光ルートの策定及び整備が必要です。
ビーチおよび瑠璃洞についてより詳しくは「【褪野】ラズライトビーチ開発計画」に、サングリアについては「【想石】愛と絆を信じて【彩都】」のリプレイに記載があります。
■復興ポイントについて
本シナリオの結果に応じて、「産業」の【復興ポイント】が増減します。
【復興ポイント】はシナリオの成否段階に応じて貯まるポイントで、フェイデン子爵領の復興・発展を数値化したものです。
現在、以下のような状態になっています。
内政:4pt/外交:2pt/財政:1pt/産業:8pt/魅力:6pt
■彩都開拓団について
フェイデン子爵領の再興と発展のため、冒険者を中心として構成された組織です。
開拓団にはそれぞれ、【農業】【採掘】【漁業】【工芸】【畜産】【土木】の小部門が用意されています。
これらには子爵領の職人たちが親方として配属されており、技術指導を行います。
今回より開拓団に参加を希望されるPCは、プレイング冒頭に「【開拓団参加希望:◯◯】」(◯◯は小部門名)とご記入ください。
※開拓団所属者の判定が有利になったり、未所属者の判定が不利になったりする、などということはありません。あくまで開拓依頼をより楽しむためのフレーバー要素です。
マスターより
初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。解説に収まりきらないNPC部分は省かれましたが適宜指名できます。NPCまわりの特記事項についてはマスターページをご一読ください。
本シナリオは「【褪野】」シリーズのサブストリーム「【彩都】」の第8話です。「【褪野】」を知らなくても問題ありませんが、第1話「【褪野】今からでも頼れる冒険者がいるんですの!?」OPにフェイデン領の情報がありますので、フェイデンってなんぞやという方はどうぞ。
本依頼にはOPにも登場したNPC「ノーキス=フェイデン」および「レヴィル=ストゥルルソン」が関連づけられており、挨拶をしたり、必要に応じて応答します。質問の際はコメント冒頭に【Q】をつけてください。
※NPCによる質疑応答については、OPや解説において判断に迷う表現があった場合のみで、基本的にはOPや解説に書かれていることが全てとなります。
それでは皆様のご参加&プレイング、お待ちしております!
リプレイ
● まばゆき白沙にて
「ご無沙汰しております、ノーキス様」
彩都計画の商人頭を務めるリサ・ベイカーは、ノーキスとしばらくぶりの挨拶を交わす。
「ええ、来てくださって嬉しいわ」
ノーキスはリサを屈託ない笑顔で迎えつつ、エルゼリオ・レイノーラと海神・江流にも微笑みかけた。
「ラズライト・ビーチの仕上げをお願いしたいの」
「内装の手入れだっけ?」
江流が、リサから事前に共有されていたことを復唱する。ノーキスは頷き、3人を建築中のコテージへと招いた。
「場所によってはこれから床張りなのですけど、インテリアの選定や外装が丸々残っていて」
「なるほど……浜辺は白くなる予定だし、白を基調に……あるいはフェイデンの森をテーマにしてみるとか……いずれにせよ、統一性はあったほうがいいよね」
エルゼリオは腕を組んで考えを整理したのち、ノーキスに対して2、3ヒアリングを行う。
「そうですわね……その中なら、田園風がいいですわね。ああ貴族たちが来てくれれば潤いはしますけれど……褪野を後にした人々が戻ってきて、ほっと一息つける故郷の姿をそのままにしておきたいの」
「了解!」
エルゼリオたちは頷くと、一旦現場を出て、外に置かれた机の上に大判の紙を広げた。計画書とするのだ。
「インテリアは白木か、白く塗装して、天板は塗装せずにそのまま使うことでアクセントに。同様に水色に塗ったインテリアを用意して並べて使うと、ビーチって感じがするかなって」
エルゼリオの建築知識が遺憾なく発揮されたインテリア設計図を、職人たちと、木工技術を持つ江流が覗き込む。
「いいんじゃないかな。椅子も同様に……座面の敷物なんだけど、シャルガネの畳を応用できないかなと」
江流の提案に、リサが少し考え込む。
「畳というと、調湿性能に優れていると聞きます。見栄えも座り心地も良くなりそうですね。ただ、いぐさの調達が……このあたりだと籐で代用する形になるかと」
「ああ、籐か。確かにリゾートっぽいかも」
そうして、彩都にいる職人たちに新たに作り方を教える必要がない、且つ材料の調達が安く済むという点で、籐が採用されることになった。江流は続けて、履き物を脱いでくつろげるスペースを提案。こちらも籐を用いて用意することになった。
「潮風を考慮すると、金属使用はなるべく避けたいな……組み木って、できるかな?」
インテリア細部の設計については、エルゼリオの希望を江流が実現可能な範囲に落とし込んでいく。デザインについてはリサの【おしゃれ眼】が活かされ、カントリーという風合いにマッチした素朴なかわいらしさが足される。
「で、問題は、お金と材料……だよね」
こればかりはエルゼリオや江流の知識では不足だ。二人の視線を受け止めて、リサはとんと自分の胸を叩いた。
「任せてください!」
一から作るものもあるが、こういうものは既製品や中古品、不用品を手直しすることで大幅に資金的・人的コストを削減できる。リサの【商業知識】により、あまり潤沢とは言えない予算内でぴったりと見積もりが収まった。
「あ、鮮やかな手際ですわ……さすがですわね」
出来上がった見積書を手に、ノーキスは目を丸くする。
「このビーチリゾート計画が成功した暁には、維持費にも回しつつ、あなた方や職人たちへの還元もしていかなくてはね。ありがとう」
具体的な道のりが示されたことで、職人たちが動き始める。3人もビーチに白砂を入れる手伝いをするため、それに続いた。
● 譲れぬものも、同じ器で
酒蔵は荒れていた。フェイデンとエディンの職人たちはそれぞれに思い描く理想の酒というものがあるらしく、それが噛み合わないらしい。
「俺たちはここでずっと麦酒を造ってきたんだ。それを突然、見た目ばかりの酒に酒蔵を譲れってか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「のどごしを楽しむだとかどうのといって、味や見目は二の次ではな」
「なんだと!?」
「あわわわ……」
間に入っているアリステアは両者の勢いに圧されて潰されそうになっていた。
「まあ、揉め事?」
酒蔵の外まで響く声、緊張した雰囲気の中、エミリア・シバは場の間を持たせるようにおっとりと呟き、アリステアを引っ張り出す。
「はうあっ。ありがとうございます、エミリアさん……」
そしてアリステアはサイラスとイズル・M・ヴォルゴールの姿にも気づくと、軽く会釈した。
「情けないのですが、この通りの様子で……」
「大丈夫、おねえさんたちに任せて?」
エミリアたちは今にも取っ組み合いになりそうな職人たちの間に割って入る。
「まあまあ、落ち着いて。話を聞かせてくれないか?」
そしてイズルが手近な椅子を引いて座ることで、話し合おうという空気が作られた。そして、二人がそれぞれの意見をまとめる。
「職人同士で作る酒の種類が違うんだな。うちでは酒造ごとに特徴あるけど、フェイデンは麦酒が中心で、んで、エディンの職人さんたちが作りたいのは……果実酒?」
「ははーん」
サイラスが腕を組んだ。エディンの職人たちは、エディン公子にいいところを見せたいと張り切って、彼の素案で通したいらしい。
「まーでも新しい酒を作りたいとなったら、それが現実的なんじゃない?」
他の酒と比べても仕込んで比較的すぐに用意ができるという点で、この忙しい計画においては果実酒に軍配が上がる。
「なんかの取引の起点にできれば尚良しだけど、とりあえず見た目で楽しんでもらって、話題にしてもらうところからやね。その間に漬け込みが必要なのを用意してさ」
麦酒も果実酒も好む層はあまり重ならない。そしてビーチに遊びに来る者たちの客層と重ねたいと思うなら、やはり後者だ。
「今の時期だと桃だろか?」
「そうだね、あとはさくらんぼとか」
イズルの領地は林檎酒の醸造が主産業である。その経験からしてみても、果実酒に完全移行するのではなく、種類はあった方が良いという意見だ。
「玻璃砂糖とエディンの果物でできるお酒を用意しつつ……サイラスのいう通り、その間に漬け込み酒の準備かな。そういえばフェイデンは、最終的に何を基軸産業にしたいんだろう?」
イズルの問いに、アリステアがおずおずと手をあげる。
「えと、ガラス工芸だと聞いています」
「玻璃か……なるほどね。じゃあ、玻璃砂糖の増産体制も整えないといけないわけだ。漬け込み酒には大量に使うから」
「そうねえ……」
エミリアはそこで、ぐっと押し黙ってしまったフェイデンの職人たちの様子を見つつ、双方に呼びかけた。
「フェイデンの職人は、この地方での環境での酒造りに、そしてエディンの職人はフルーツの産地としてそれぞれに一日の長があるわね。……でもそれ以前に、おねえさんの持論としては、お酒っていうのは楽しむための飲み物だと思ってるの」
味、見た目、香り、のどごし――それぞれのこだわりがあるとしても、酒を飲んで楽しむ者たちのことを想うことも大切だ。
「お互いの持てる力をぶつけあって、より良いお酒づくりを目指せたらって、思うのよね」
そういえば、とエミリアはぽんと手を叩いた。
「鍾乳洞……瑠璃洞だったかしら。あそこの環境を、お酒造りに利用できないかしらね?」
● 瑠璃洞にて
「結構肌寒いのね……」
ルベア・ベルニは腕をさすりながら鍾乳洞内を進む。
「クリーパーがいなくなって、この洞窟も静かになった感じがするけど……それはそれとして、やることはやらなくちゃね」
今回の目標は、進路上に露出する黒玻璃花の除去だ。過去何度か潜ったことがある経験と記憶から、黒玻璃花のおおよその分布を割り出す。
「それから、観光ルートの策定と……酒を冷やせそうな場所だったか?」
ベルク・オスマットはエミリアから預かった案件をメモした紙片を広げる。
「確かに、このあたりの水の冷たさは利用できるかもね。飲用としてはともかく……」
サイラスがふと口にした「アイスワイン」の構想も加えて、出来上がった酒を冷やしておける環境を鍾乳洞内に求めたのだ。
ルベアがあたりをつけた場所へ、ベルクが双波をあてて地形探査と地図作成をしている間、ルベアは麻袋を開いて慎重に黒玻璃花を回収していく。麻袋がいっぱいになれば一度外に出て集積所へまとめると、再び中へ潜る。
それを何度か繰り返したところで、ルベアは汗を拭った。
「思えばよくここまで来られたものよね」
領地が接収されるかもしれないと騒いでいた当初から一年が経過しようとしている。それに懐かしさを覚えたのは、ルベアだけではなかったらしい。ベルクもまた頷いた。
「ここからまた一層、この地は豊かになっていくだろうな。港の整備はどうなっている?」
「一応、同時進行中みたい。簡易港だからそれほど躓くようなこともないみたいで、ひとまずはビーチのほうをってことみたいね」
ルベアは彩都開拓団の【漁業】組だ。特に大きなトラブルもなく進行しているのならそれに越したことはない。ノーキスの話では、以前提案されたボートツアーや釣り体験などもビーチの開設に間に合わせるという。
「そうか。では、こちらもしっかり仕上げなければな」
ベルクが書き出した地図をもとに、ルート策定のための第二陣が出発する予定だ。ベルクは滑りやすいところや崖があるところに印をつけていく。
「……こんなものだろう。こちらの写しを」
「ありがとう」
ルベアは2枚のうち1枚を受け取ると、先に帰路に着く。ベルクはその後から壁歩きを駆使して歩き、残りの問題を洗い出していった。
「ん、お疲れ様」
サマエラ=フォリウムは、麻袋いっぱいの黒玻璃花をルベアから受け取ると、荷馬車に乗せる。
「まだまだ採れそうか?」
「少し残ってるわね。この地図に印をつけておいたわ」
「お、さんきゅ!」
ナキルがその地図を横から覗き込む。その手にはルベアと同じく、麻袋がある。
「ではこの地図に沿って、気になる箇所をさらに書き入れつつ……」
「ええ。各ルートへの意見も欲しいところね」
サマエラの確認に応え、ルベアはナキルから受け取った水筒を傾けて水分をとる。
「……ありがと。中が結構冷えるから、羽織るものがあった方がいいかも」
「わかった。ではナキル、行こうか」
「おう!」
休憩所に向かったルベアを見送りつつ、サマエラとナキルは地図を手に鍾乳洞探索へと向かう。
「観光拠点とするからには、安全性にもしっかり配慮しないとな」
「そうだな。こう、薄暗いから……足元にもうちょっと灯りがいるよな」
ナキルは【暗視】を使ってあたりを見回し、特に足元の暗さに目をつけた。その隣で、サマエラがランタンの光を天井にかざす。
溜まった透明度の高い地下水が、天井付近で結晶化している玻璃花の光を反射して輝いている。どこを見ても美しい景色だが、それゆえに足元がおろそかになることは多そうだ。
「ちょっと開けた場所は休憩所みたいにしたいよな〜」
あかりはランタンか、ヒカリゴケか。それに加え、ナキルは【土木】組に検討してもらえるよう、椅子や机の設置についても付記する。
「そうだな。あと……通路が狭いところは、すれ違い時の事故が心配だ。そういうところが少ないルートを選びたい」
サマエラは複数あるルートについて、三段階で危険度を記載した。後続の探索グループにも評価をしてもらう予定だ。
「ああ、一応ルートごとに必要な資材の見積もりも出さないと、だめか」
はっと気がついたナキルが空中で算盤を弾きつつ眉根を寄せ、サマエラもそれに頷く。
「確かに。……往復するだけでも結構時間がかかるから、ひとまずこのルート以外は後続に任せよう」
「ん、そだな。その……結構冷えてきたし」
「……私もだ。これについても要検討、だな」
ルベアの助言通り上着を羽織ってきた二人だが、やはり長時間滞在しているとなかなかに冷える。サマエラはメモに「適宜防寒着の貸し出しが必要」と書き加えた。
ジュスト・ヴェルジーはランタンを光源に、ローザリカ・L・ディオールをエスコートしつつ瑠璃洞内を進んでいた。
「話のあった通り、足元への照明だけでなく、舗装も必要そうだね」
ジュストはそう言いつつ、バランスを崩したローザリカを抱き止める。各種スキルを有している冒険者としてではなく、一般人としての視点から意見を出すために、ローザリカはあえて【暗視】や【バランス感覚】を用いていなかった。
「……ありがとう」
体全体を支えるために密着しているために、どうにも気恥ずかしい――ローザリカは「これは決してやましい下心や打算ではない」と胸中で言い訳しつつ、現況に甘んじている。
その、どこかしおらしい様子にジュストは小首を傾げたが。
(もしかして、甘えてくれているのかな?)
これは仕事。加えて、人目にもつかない場所だ。ジュストもそれらしい言い訳がたつことに気づくと、ぐっと距離を縮めた。
「じゅ、ジュスト……!?」
ただでさえ密着しているのに、ジュストはローザリカの首筋に顔を埋めるような距離まで軽く屈んだ。吐息が耳朶を掠める感覚に肌が粟立つ。嫌なのではない、むしろ――。
「じっとしていて、ロゼ」
「……!」
甘い囁き。ローザリカは静かに両目を閉じた。ジュストは耳元でふっと微笑むと、
「取れた」
……ローザリカの背後の壁に生えていた黒玻璃花を素早く除去した。
「……」
「転んだら背中を怪我していたかもしれない。危なかったね」
ジュストはランタンを一度置くと、何食わぬ顔で採取した黒玻璃花を袋にまとめ、【マジカルポケット】へと収納する。
ローザリカは思わず真顔になり半眼でジュストを睨むと、ポーチの中から取り出した【閃光塗弾】を振りかぶり、ジュストの背後の壁に当てた。
「ここは危険箇所としてマークしておこう。滑りやすく舗装が必要であり、黒玻璃花除去後の手入れも要る、と」
「そうだね」
ジュストは笑顔を保っている。
「からかって悪かったよ、ロゼ。反応が可愛くて、つい」
だが、ふとその表情が艶然としたものへと変わり、ふたたびローザリカの腰を抱く。
「少し体が冷えているね。こうすれば暖かいかな」
「……ばか」
むくれて閉じたローザリカの唇を、ジュストの指がなぞった。
先遣隊が集めた情報をもとに、ヨル・スレイマンとナハシュが最後の仕上げを請け負う。ナハシュが残った黒玻璃花を除去している間にヨルが各ルートの評価を行い、最も安全なルートが導き出された。
「ここから先はこのメインルート近傍の黒玻璃花を重点的に除去していこう」
「おう」
ナハシュだけでなく、【壁歩き】を使える者たちの作業によって黒玻璃花は大部分が回収できた。あとは段階的な除去計画で対応できるだろう。
「……気をつけてね? 君なら大丈夫だろうが……」
そうヨルが声をかけた先にいるナハシュはというと、ヨルの手によって完全防備を施されていた。
「鉱石っていうのは結構鋭利だからね、手だけじゃなくて脚まわりとか傷つくかもしれないし。寒いからって厚着してもらったけど正解だったな」
「若干動きにくいけどな……」
ナハシュが着ているもこもことした服は、先日冒険者たちが助けた親羊の毛から作られたものだという。耐寒性に優れ、吸湿性も高い。やや嵩張るが、ただ歩く分には気にならない。
「しっかし、こんだけあるなら一、二個……っつかこの袋ごと持って帰ってもよくねえ?」
黒玻璃で満杯になったバックパックを【マジカルポケット】に放り込み、ナハシュはふたつめのバックパックの口を開ける。
「浄化が必要みたいだから。ほしいなら、処理したものをもらうといいよ。……黒曜石みたいに綺麗だよね。これ、器に加工したりできないかなあ」
玻璃花の淡い光にそれをかざし、ヨルは「それにしても」と続けた。
「ビーチやコテージの開放はいつかな。サングリアも楽しみだし……そういえばナハシュ、去年買った水着、また放り出して無くしたりしてないだろうね?」
「あ? 水着?」
ナハシュは一旦手を止めて記憶を探る。あれは……あれはどこにしまったっけ。
「……あるはず。多分」
多分きっとめいびー。おそらく帰宅後はやさがしと大掃除になるんだろうなと思いつつ、探検気分で機嫌のいいヨルがそのままこのことを忘れてくれると助かるのだが――と、ナハシュはバックパックに黒玻璃花を詰めていくのだった。
● ラズライト・ビーチ ビフォー&アフター
ノーキスは各所から上がってきた報告書を捲り、なるほどと頷いた。
「まとめてくださってありがとう。この規模ならビーチ開放までにどうにか解決できそうね」
ビーチも白い砂を入れ終わり、馴染ませる作業が行われている。各種建屋の進捗も引き継ぎがはじまっていた。
「お酒の問題も解決してくれて……本当に助かったわ。アリステアもこの地の一員として馴染めていけたらいいのだけど」
というわけで、とノーキスは一旦報告書を置いて、暮れなずむ海岸を背後に両手を広げた。
「完成する頃にまた、招待状をお送りしますわ。楽しみになさっていてね!」
「ご無沙汰しております、ノーキス様」
彩都計画の商人頭を務めるリサ・ベイカーは、ノーキスとしばらくぶりの挨拶を交わす。
「ええ、来てくださって嬉しいわ」
ノーキスはリサを屈託ない笑顔で迎えつつ、エルゼリオ・レイノーラと海神・江流にも微笑みかけた。
「ラズライト・ビーチの仕上げをお願いしたいの」
「内装の手入れだっけ?」
江流が、リサから事前に共有されていたことを復唱する。ノーキスは頷き、3人を建築中のコテージへと招いた。
「場所によってはこれから床張りなのですけど、インテリアの選定や外装が丸々残っていて」
「なるほど……浜辺は白くなる予定だし、白を基調に……あるいはフェイデンの森をテーマにしてみるとか……いずれにせよ、統一性はあったほうがいいよね」
エルゼリオは腕を組んで考えを整理したのち、ノーキスに対して2、3ヒアリングを行う。
「そうですわね……その中なら、田園風がいいですわね。ああ貴族たちが来てくれれば潤いはしますけれど……褪野を後にした人々が戻ってきて、ほっと一息つける故郷の姿をそのままにしておきたいの」
「了解!」
エルゼリオたちは頷くと、一旦現場を出て、外に置かれた机の上に大判の紙を広げた。計画書とするのだ。
「インテリアは白木か、白く塗装して、天板は塗装せずにそのまま使うことでアクセントに。同様に水色に塗ったインテリアを用意して並べて使うと、ビーチって感じがするかなって」
エルゼリオの建築知識が遺憾なく発揮されたインテリア設計図を、職人たちと、木工技術を持つ江流が覗き込む。
「いいんじゃないかな。椅子も同様に……座面の敷物なんだけど、シャルガネの畳を応用できないかなと」
江流の提案に、リサが少し考え込む。
「畳というと、調湿性能に優れていると聞きます。見栄えも座り心地も良くなりそうですね。ただ、いぐさの調達が……このあたりだと籐で代用する形になるかと」
「ああ、籐か。確かにリゾートっぽいかも」
そうして、彩都にいる職人たちに新たに作り方を教える必要がない、且つ材料の調達が安く済むという点で、籐が採用されることになった。江流は続けて、履き物を脱いでくつろげるスペースを提案。こちらも籐を用いて用意することになった。
「潮風を考慮すると、金属使用はなるべく避けたいな……組み木って、できるかな?」
インテリア細部の設計については、エルゼリオの希望を江流が実現可能な範囲に落とし込んでいく。デザインについてはリサの【おしゃれ眼】が活かされ、カントリーという風合いにマッチした素朴なかわいらしさが足される。
「で、問題は、お金と材料……だよね」
こればかりはエルゼリオや江流の知識では不足だ。二人の視線を受け止めて、リサはとんと自分の胸を叩いた。
「任せてください!」
一から作るものもあるが、こういうものは既製品や中古品、不用品を手直しすることで大幅に資金的・人的コストを削減できる。リサの【商業知識】により、あまり潤沢とは言えない予算内でぴったりと見積もりが収まった。
「あ、鮮やかな手際ですわ……さすがですわね」
出来上がった見積書を手に、ノーキスは目を丸くする。
「このビーチリゾート計画が成功した暁には、維持費にも回しつつ、あなた方や職人たちへの還元もしていかなくてはね。ありがとう」
具体的な道のりが示されたことで、職人たちが動き始める。3人もビーチに白砂を入れる手伝いをするため、それに続いた。
● 譲れぬものも、同じ器で
酒蔵は荒れていた。フェイデンとエディンの職人たちはそれぞれに思い描く理想の酒というものがあるらしく、それが噛み合わないらしい。
「俺たちはここでずっと麦酒を造ってきたんだ。それを突然、見た目ばかりの酒に酒蔵を譲れってか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「のどごしを楽しむだとかどうのといって、味や見目は二の次ではな」
「なんだと!?」
「あわわわ……」
間に入っているアリステアは両者の勢いに圧されて潰されそうになっていた。
「まあ、揉め事?」
酒蔵の外まで響く声、緊張した雰囲気の中、エミリア・シバは場の間を持たせるようにおっとりと呟き、アリステアを引っ張り出す。
「はうあっ。ありがとうございます、エミリアさん……」
そしてアリステアはサイラスとイズル・M・ヴォルゴールの姿にも気づくと、軽く会釈した。
「情けないのですが、この通りの様子で……」
「大丈夫、おねえさんたちに任せて?」
エミリアたちは今にも取っ組み合いになりそうな職人たちの間に割って入る。
「まあまあ、落ち着いて。話を聞かせてくれないか?」
そしてイズルが手近な椅子を引いて座ることで、話し合おうという空気が作られた。そして、二人がそれぞれの意見をまとめる。
「職人同士で作る酒の種類が違うんだな。うちでは酒造ごとに特徴あるけど、フェイデンは麦酒が中心で、んで、エディンの職人さんたちが作りたいのは……果実酒?」
「ははーん」
サイラスが腕を組んだ。エディンの職人たちは、エディン公子にいいところを見せたいと張り切って、彼の素案で通したいらしい。
「まーでも新しい酒を作りたいとなったら、それが現実的なんじゃない?」
他の酒と比べても仕込んで比較的すぐに用意ができるという点で、この忙しい計画においては果実酒に軍配が上がる。
「なんかの取引の起点にできれば尚良しだけど、とりあえず見た目で楽しんでもらって、話題にしてもらうところからやね。その間に漬け込みが必要なのを用意してさ」
麦酒も果実酒も好む層はあまり重ならない。そしてビーチに遊びに来る者たちの客層と重ねたいと思うなら、やはり後者だ。
「今の時期だと桃だろか?」
「そうだね、あとはさくらんぼとか」
イズルの領地は林檎酒の醸造が主産業である。その経験からしてみても、果実酒に完全移行するのではなく、種類はあった方が良いという意見だ。
「玻璃砂糖とエディンの果物でできるお酒を用意しつつ……サイラスのいう通り、その間に漬け込み酒の準備かな。そういえばフェイデンは、最終的に何を基軸産業にしたいんだろう?」
イズルの問いに、アリステアがおずおずと手をあげる。
「えと、ガラス工芸だと聞いています」
「玻璃か……なるほどね。じゃあ、玻璃砂糖の増産体制も整えないといけないわけだ。漬け込み酒には大量に使うから」
「そうねえ……」
エミリアはそこで、ぐっと押し黙ってしまったフェイデンの職人たちの様子を見つつ、双方に呼びかけた。
「フェイデンの職人は、この地方での環境での酒造りに、そしてエディンの職人はフルーツの産地としてそれぞれに一日の長があるわね。……でもそれ以前に、おねえさんの持論としては、お酒っていうのは楽しむための飲み物だと思ってるの」
味、見た目、香り、のどごし――それぞれのこだわりがあるとしても、酒を飲んで楽しむ者たちのことを想うことも大切だ。
「お互いの持てる力をぶつけあって、より良いお酒づくりを目指せたらって、思うのよね」
そういえば、とエミリアはぽんと手を叩いた。
「鍾乳洞……瑠璃洞だったかしら。あそこの環境を、お酒造りに利用できないかしらね?」
● 瑠璃洞にて
「結構肌寒いのね……」
ルベア・ベルニは腕をさすりながら鍾乳洞内を進む。
「クリーパーがいなくなって、この洞窟も静かになった感じがするけど……それはそれとして、やることはやらなくちゃね」
今回の目標は、進路上に露出する黒玻璃花の除去だ。過去何度か潜ったことがある経験と記憶から、黒玻璃花のおおよその分布を割り出す。
「それから、観光ルートの策定と……酒を冷やせそうな場所だったか?」
ベルク・オスマットはエミリアから預かった案件をメモした紙片を広げる。
「確かに、このあたりの水の冷たさは利用できるかもね。飲用としてはともかく……」
サイラスがふと口にした「アイスワイン」の構想も加えて、出来上がった酒を冷やしておける環境を鍾乳洞内に求めたのだ。
ルベアがあたりをつけた場所へ、ベルクが双波をあてて地形探査と地図作成をしている間、ルベアは麻袋を開いて慎重に黒玻璃花を回収していく。麻袋がいっぱいになれば一度外に出て集積所へまとめると、再び中へ潜る。
それを何度か繰り返したところで、ルベアは汗を拭った。
「思えばよくここまで来られたものよね」
領地が接収されるかもしれないと騒いでいた当初から一年が経過しようとしている。それに懐かしさを覚えたのは、ルベアだけではなかったらしい。ベルクもまた頷いた。
「ここからまた一層、この地は豊かになっていくだろうな。港の整備はどうなっている?」
「一応、同時進行中みたい。簡易港だからそれほど躓くようなこともないみたいで、ひとまずはビーチのほうをってことみたいね」
ルベアは彩都開拓団の【漁業】組だ。特に大きなトラブルもなく進行しているのならそれに越したことはない。ノーキスの話では、以前提案されたボートツアーや釣り体験などもビーチの開設に間に合わせるという。
「そうか。では、こちらもしっかり仕上げなければな」
ベルクが書き出した地図をもとに、ルート策定のための第二陣が出発する予定だ。ベルクは滑りやすいところや崖があるところに印をつけていく。
「……こんなものだろう。こちらの写しを」
「ありがとう」
ルベアは2枚のうち1枚を受け取ると、先に帰路に着く。ベルクはその後から壁歩きを駆使して歩き、残りの問題を洗い出していった。
「ん、お疲れ様」
サマエラ=フォリウムは、麻袋いっぱいの黒玻璃花をルベアから受け取ると、荷馬車に乗せる。
「まだまだ採れそうか?」
「少し残ってるわね。この地図に印をつけておいたわ」
「お、さんきゅ!」
ナキルがその地図を横から覗き込む。その手にはルベアと同じく、麻袋がある。
「ではこの地図に沿って、気になる箇所をさらに書き入れつつ……」
「ええ。各ルートへの意見も欲しいところね」
サマエラの確認に応え、ルベアはナキルから受け取った水筒を傾けて水分をとる。
「……ありがと。中が結構冷えるから、羽織るものがあった方がいいかも」
「わかった。ではナキル、行こうか」
「おう!」
休憩所に向かったルベアを見送りつつ、サマエラとナキルは地図を手に鍾乳洞探索へと向かう。
「観光拠点とするからには、安全性にもしっかり配慮しないとな」
「そうだな。こう、薄暗いから……足元にもうちょっと灯りがいるよな」
ナキルは【暗視】を使ってあたりを見回し、特に足元の暗さに目をつけた。その隣で、サマエラがランタンの光を天井にかざす。
溜まった透明度の高い地下水が、天井付近で結晶化している玻璃花の光を反射して輝いている。どこを見ても美しい景色だが、それゆえに足元がおろそかになることは多そうだ。
「ちょっと開けた場所は休憩所みたいにしたいよな〜」
あかりはランタンか、ヒカリゴケか。それに加え、ナキルは【土木】組に検討してもらえるよう、椅子や机の設置についても付記する。
「そうだな。あと……通路が狭いところは、すれ違い時の事故が心配だ。そういうところが少ないルートを選びたい」
サマエラは複数あるルートについて、三段階で危険度を記載した。後続の探索グループにも評価をしてもらう予定だ。
「ああ、一応ルートごとに必要な資材の見積もりも出さないと、だめか」
はっと気がついたナキルが空中で算盤を弾きつつ眉根を寄せ、サマエラもそれに頷く。
「確かに。……往復するだけでも結構時間がかかるから、ひとまずこのルート以外は後続に任せよう」
「ん、そだな。その……結構冷えてきたし」
「……私もだ。これについても要検討、だな」
ルベアの助言通り上着を羽織ってきた二人だが、やはり長時間滞在しているとなかなかに冷える。サマエラはメモに「適宜防寒着の貸し出しが必要」と書き加えた。
ジュスト・ヴェルジーはランタンを光源に、ローザリカ・L・ディオールをエスコートしつつ瑠璃洞内を進んでいた。
「話のあった通り、足元への照明だけでなく、舗装も必要そうだね」
ジュストはそう言いつつ、バランスを崩したローザリカを抱き止める。各種スキルを有している冒険者としてではなく、一般人としての視点から意見を出すために、ローザリカはあえて【暗視】や【バランス感覚】を用いていなかった。
「……ありがとう」
体全体を支えるために密着しているために、どうにも気恥ずかしい――ローザリカは「これは決してやましい下心や打算ではない」と胸中で言い訳しつつ、現況に甘んじている。
その、どこかしおらしい様子にジュストは小首を傾げたが。
(もしかして、甘えてくれているのかな?)
これは仕事。加えて、人目にもつかない場所だ。ジュストもそれらしい言い訳がたつことに気づくと、ぐっと距離を縮めた。
「じゅ、ジュスト……!?」
ただでさえ密着しているのに、ジュストはローザリカの首筋に顔を埋めるような距離まで軽く屈んだ。吐息が耳朶を掠める感覚に肌が粟立つ。嫌なのではない、むしろ――。
「じっとしていて、ロゼ」
「……!」
甘い囁き。ローザリカは静かに両目を閉じた。ジュストは耳元でふっと微笑むと、
「取れた」
……ローザリカの背後の壁に生えていた黒玻璃花を素早く除去した。
「……」
「転んだら背中を怪我していたかもしれない。危なかったね」
ジュストはランタンを一度置くと、何食わぬ顔で採取した黒玻璃花を袋にまとめ、【マジカルポケット】へと収納する。
ローザリカは思わず真顔になり半眼でジュストを睨むと、ポーチの中から取り出した【閃光塗弾】を振りかぶり、ジュストの背後の壁に当てた。
「ここは危険箇所としてマークしておこう。滑りやすく舗装が必要であり、黒玻璃花除去後の手入れも要る、と」
「そうだね」
ジュストは笑顔を保っている。
「からかって悪かったよ、ロゼ。反応が可愛くて、つい」
だが、ふとその表情が艶然としたものへと変わり、ふたたびローザリカの腰を抱く。
「少し体が冷えているね。こうすれば暖かいかな」
「……ばか」
むくれて閉じたローザリカの唇を、ジュストの指がなぞった。
先遣隊が集めた情報をもとに、ヨル・スレイマンとナハシュが最後の仕上げを請け負う。ナハシュが残った黒玻璃花を除去している間にヨルが各ルートの評価を行い、最も安全なルートが導き出された。
「ここから先はこのメインルート近傍の黒玻璃花を重点的に除去していこう」
「おう」
ナハシュだけでなく、【壁歩き】を使える者たちの作業によって黒玻璃花は大部分が回収できた。あとは段階的な除去計画で対応できるだろう。
「……気をつけてね? 君なら大丈夫だろうが……」
そうヨルが声をかけた先にいるナハシュはというと、ヨルの手によって完全防備を施されていた。
「鉱石っていうのは結構鋭利だからね、手だけじゃなくて脚まわりとか傷つくかもしれないし。寒いからって厚着してもらったけど正解だったな」
「若干動きにくいけどな……」
ナハシュが着ているもこもことした服は、先日冒険者たちが助けた親羊の毛から作られたものだという。耐寒性に優れ、吸湿性も高い。やや嵩張るが、ただ歩く分には気にならない。
「しっかし、こんだけあるなら一、二個……っつかこの袋ごと持って帰ってもよくねえ?」
黒玻璃で満杯になったバックパックを【マジカルポケット】に放り込み、ナハシュはふたつめのバックパックの口を開ける。
「浄化が必要みたいだから。ほしいなら、処理したものをもらうといいよ。……黒曜石みたいに綺麗だよね。これ、器に加工したりできないかなあ」
玻璃花の淡い光にそれをかざし、ヨルは「それにしても」と続けた。
「ビーチやコテージの開放はいつかな。サングリアも楽しみだし……そういえばナハシュ、去年買った水着、また放り出して無くしたりしてないだろうね?」
「あ? 水着?」
ナハシュは一旦手を止めて記憶を探る。あれは……あれはどこにしまったっけ。
「……あるはず。多分」
多分きっとめいびー。おそらく帰宅後はやさがしと大掃除になるんだろうなと思いつつ、探検気分で機嫌のいいヨルがそのままこのことを忘れてくれると助かるのだが――と、ナハシュはバックパックに黒玻璃花を詰めていくのだった。
● ラズライト・ビーチ ビフォー&アフター
ノーキスは各所から上がってきた報告書を捲り、なるほどと頷いた。
「まとめてくださってありがとう。この規模ならビーチ開放までにどうにか解決できそうね」
ビーチも白い砂を入れ終わり、馴染ませる作業が行われている。各種建屋の進捗も引き継ぎがはじまっていた。
「お酒の問題も解決してくれて……本当に助かったわ。アリステアもこの地の一員として馴染めていけたらいいのだけど」
というわけで、とノーキスは一旦報告書を置いて、暮れなずむ海岸を背後に両手を広げた。
「完成する頃にまた、招待状をお送りしますわ。楽しみになさっていてね!」
マスターコメント
お疲れ様でした! これでビーチが開けるぞ! やったー!
ちなみに差し込めなかったのですが、前回生まれた羊さんの命名についても承りました。早速ありがとうございます〜。
▼現在の復興ポイント
内政:4pt/外交:2pt/財政:1pt/産業:9pt/魅力:6pt
それでは、またお会いしましょう〜。
イベントシナリオ普通 報酬:多い14 / 10〜25人
2022年07月13日 11時01分37秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー さて、お酒に行こうかと。まず普段の依頼で仕事しないしね醸造(
イズル・M・ヴォルゴールです。よろしく。 今のところ副目標の酒造技術に行こうと思っているけど、他にどれぐらいい希望者いますか? 主目標が環境整備だから、酒関係が多いなら移動も考えます。
王国査察官、レヴィルです。このたびはお集まりいただき、ありがとうございます。 不足や不明点があれば可能な範囲でお答えしますので、お申し付けください。
「ナキルだ、よろしくな。 さて、度々踏み入ったし、今回も瑠璃洞の方で動こうと思うぜ。 記憶力と暗視あたりで地形やら手を加えた方が良さそうな場所だとか、そういうのを書き出すかな。 とりあえずは単独行動予定ってとこだな。」
顔出しが遅くなりまして。海神江流だよ。 俺はビーチの方へ。 コテージとかの内装に手を出そうかなとか。