桜の街と新たな春
崎田航輝
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シナリオID:2065
オープニング
景色が華やかな薄紅に色づいて、風も仄かに花薫る。
爛漫な季節の訪れを告げるように、美しく咲き誇るのは――桜。街を象徴する可憐なその色彩が青空に映えて……春の旺盛が始まろうとしていた。
歩めば風情ある瓦屋根が目に留まり、耳を澄ませば何処かから琴の音が響く。
着物に草履、風流な姿をした人々が石畳の道を行き交うそこは……倭桜ノ街。
日々おおらかな空気の流れるそこは――この時期、一層明るく楽しい雰囲気に満ちていた。
というのも――
「ああ、なんと美しい事か」
道行く人々も思わず足を止めて、仰ぐ。
そこには桜の木が立っており……しなやかな枝を、満開の花が彩っているのだ。
無論、道に植わっているばかりでなく、先へ歩めば桜広場がある。そこには遊歩道に沿って無数の桜があり――視界を桜色に染める程の景色があった。
この時期はそんな桜の下で宴を催す慣習もあり……今年も例に漏れず、そこへ歩む人々は皆楽しげ。
屋台を引いて商売する者や、料理を振る舞う者。艶やかな桜に音楽で興を添える者――それぞれが思い思いの時間を過ごし始めている。
お弁当に甘味にと、春ならではの味覚も勿論沢山出ている。そんな美味と共に花見を過ごすのは何よりの贅沢に違いなかった。
「今年も、綺麗な桜が咲いたな――」
と、呟く町長もまた感慨深い思いで桜を見上げている。
一つ前の春から花が落ち、夏を過ごし、紅葉をして、寒い冬を越えて。
芽吹きの季節に、またこうして美しい桜に出会えた事が何より嬉しかった。
「昨年よりも、沢山の人が楽しんでくれているようだし……」
見回せば、確かに去年よりも観光客の姿が多い。
それもこの街を楽しみ、魅力を広める事に一役買ってくれた――冒険者達がいたからだと実感する。
だからこそ――
「花見の季節こそ……彼らに来てほしいな」
花咲く街に沢山の華を持たせてくれた者達。
彼らを招かずに新たな季節の幕は開けないと思うから……町長は早速、その為に歩み出してゆく。
そして新たな桜の季節に、冒険者達は桜の街へ招かれた。
旺盛を迎えた桜は美しい色を帯びて、穏やかな春風に揺れている。
そんな景色の中で、冒険者達は――
爛漫な季節の訪れを告げるように、美しく咲き誇るのは――桜。街を象徴する可憐なその色彩が青空に映えて……春の旺盛が始まろうとしていた。
歩めば風情ある瓦屋根が目に留まり、耳を澄ませば何処かから琴の音が響く。
着物に草履、風流な姿をした人々が石畳の道を行き交うそこは……倭桜ノ街。
日々おおらかな空気の流れるそこは――この時期、一層明るく楽しい雰囲気に満ちていた。
というのも――
「ああ、なんと美しい事か」
道行く人々も思わず足を止めて、仰ぐ。
そこには桜の木が立っており……しなやかな枝を、満開の花が彩っているのだ。
無論、道に植わっているばかりでなく、先へ歩めば桜広場がある。そこには遊歩道に沿って無数の桜があり――視界を桜色に染める程の景色があった。
この時期はそんな桜の下で宴を催す慣習もあり……今年も例に漏れず、そこへ歩む人々は皆楽しげ。
屋台を引いて商売する者や、料理を振る舞う者。艶やかな桜に音楽で興を添える者――それぞれが思い思いの時間を過ごし始めている。
お弁当に甘味にと、春ならではの味覚も勿論沢山出ている。そんな美味と共に花見を過ごすのは何よりの贅沢に違いなかった。
「今年も、綺麗な桜が咲いたな――」
と、呟く町長もまた感慨深い思いで桜を見上げている。
一つ前の春から花が落ち、夏を過ごし、紅葉をして、寒い冬を越えて。
芽吹きの季節に、またこうして美しい桜に出会えた事が何より嬉しかった。
「昨年よりも、沢山の人が楽しんでくれているようだし……」
見回せば、確かに去年よりも観光客の姿が多い。
それもこの街を楽しみ、魅力を広める事に一役買ってくれた――冒険者達がいたからだと実感する。
だからこそ――
「花見の季節こそ……彼らに来てほしいな」
花咲く街に沢山の華を持たせてくれた者達。
彼らを招かずに新たな季節の幕は開けないと思うから……町長は早速、その為に歩み出してゆく。
そして新たな桜の季節に、冒険者達は桜の街へ招かれた。
旺盛を迎えた桜は美しい色を帯びて、穏やかな春風に揺れている。
そんな景色の中で、冒険者達は――
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ観光に招かれました。
街の中にて過ごしてゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●倭桜ノ街について
シャルガネの一端にある街区。東方文化の色濃い街並みが特徴的。
桜が満開となり、広場を中心に盛り上がっています。
長らく平和を保っており、おおらかな人々が多い印象です。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
街を自由に散策する事が出来ます。
以下、立ち寄れる場所やイベントなどの例を示します。
1.桜広場
広い敷地に桜並木が連なっており、花見を楽しめます。
遊歩道の他、屋台の並ぶ場所もあります。屋台は蕎麦や寿司などの他、たい焼きやたこ焼き、いちご飴などもあります。
住民が料理を振る舞っている場もあり、たけのこご飯やお吸い物などが作られています。料理に参加しても良いでしょう。
また、楽師が道々で琴や三味線を奏でています。演奏に加わって興を添えても良いでしょう。
他、静かな東屋などもあります。
2.桜占い
目を閉じて手で器を作り、桜吹雪から花びらを掬う「桜占い」が流行っています。
掬えた数が一枚だと未知の出来事の吉兆、二枚だと良縁の吉兆、三枚だと仕事の吉兆、四枚だと不運の凶兆、それ以上だと良悪の入り混じった前触れ、とされているようです。
枚数に自身で意味を見出す事も普通に行われます。
3.食事
食事処や弁当屋で春の味覚が楽しめます。
蕗やわらびといった山菜の煮物や天ぷらが楽しめる山菜定食(又は弁当)や、鰆や鯛が味わえる焼き魚定食(又は弁当)などが人気です。
清酒や桜のワインなどもあります。
4.甘味
桜餅や餡子やみたらしの団子、桜の粉末を使ったわらび餅などが人気です。
桜を使ったクリームのケーキやミルクレープ、桜ムースやソルベなど、独自の発展を遂げた甘味も楽しめます。
5.神社
東方の祭事に由来する文化として、甘茶が無料で振る舞われます。静かに咲く桜と共に楽しんで行けます。
他、お参りやおみくじ、流鏑馬体験なども出来ます。
6.翠の園
ツツジに芝桜、勿忘草など、春の花が咲く穏やかな景観が楽しめます。
また、野良猫や兎などの動物の姿も垣間見えます。
7.川釣り
川の下流にて、人々で集まって釣りをする催しが開かれています。
ニジマスやイワナなどを釣り、料理をしたり持ち帰ったり出来ます。
墨やベニバナの塗料を使って魚拓をとる事も出来ます。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
今回は満開の桜の中を散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
はらはらと舞う花弁が、道を桜色に飾る。
「おや」
涼やかな着物でそんな街を散策するヨル・スレイマンは――ふと神社に見知った人影を見つけていた。
それはナハシュ。丁度甘茶の湯呑を受け取っていた所で……気づいてヨルに振り向く。
「おう、来てたのか」
「神社にいるの珍しいなと思ったら……それは?」
「甘茶。タダだってよ! しかも甘いらしいし、これはもうお前向きだな」
「へえ。じゃあ、一緒に飲むかい」
という事でヨルも受け取り、境内の一角に隣り合って座った。
そこもまた桜が満開。広場よりは穏やかで、長閑な眺めだ。
「桜が綺麗なのはシャルガネのいいところだよね」
言いつつヨルは甘茶を一口。ふくよかな甘みを楽しむ。
ナハシュも「そうだな」と言って甘茶を味わうと……目を白黒。砂糖とは違う、その特有の甘さに少々見下ろした。
「確かに甘いな、こりゃ」
呟きつつまた飲むけれど――半分ほど飲んだ所で残りをヨルへ。
「やっぱ甘すぎるから、やる。こりゃしょっぱいのと飲みてえなー」
「じゃあ今度はそうしよう」
言いつつ、ヨルはひとまずそちらも飲んでから……共に散策に歩き出した。
途中、目を留めたのは流鏑馬。駆けゆく馬と、矢を放つ射手の姿にナハシュは感心の口笛を吹く。
「ひゅー! 騎馬賊みてえ!」
「馬に乗りながら矢を射るのはなかなか器用だね。君はああいうのも結構得意そうだけど」
「どうかな。あんま弓は使わねえからな」
ナハシュは首を傾げた。
「案外やったら当たらねえかもしれねえよ。空いてそうだし、確かめてみるか」
「やるの? いいけども――」
ヨルは応えつつ、そうだと思いつく。
「三つ的を射るんだろ? 少なかった方がこの後酒を奢ることにしようか」
何事も楽しまないとね、と。
それにはナハシュも乗り気だ。
「おっ、いいぜいいぜ? なら勝負は一回。酒は此処の高級米酒だ!」
という訳で二人で参加。
それぞれの馬を慣らしつつ、弓の感覚を確かめる。
「改めて使おうとすると、やっぱり独特だね」
「しなりがかなり強いな」
ナハシュも矢を番えつつ呟く。東方色の強い弓は平素使わない為、特有の感触で。馴染むのは簡単では無さそうだった。
それでも数度の試射をして……まずはナハシュが出走。
(こいつは、中々――!)
馬は乗れても、慣れぬ弓との兼ね合いはやはり特殊。的には当てたが、三射目は掠めるに留めた。
続くヨルは――
(成程、これは不安定だ)
こちらも揺れ動く視界に難儀しつつ、一射目は掠め、残りは的中させていく。
馬から下りて、割れた的を確認すると……
「同点って所だね。引き分けかな」
「じゃ、どうする?」
「まあ、二人で買って飲むとしようか」
ヨルが言うと、ナハシュは「おう!」と応えて……また二人で並んで歩む。
思いがけず共に花見が出来た事が、ヨルには嬉しくて。
(御神籤は引き損ねたけど、これは幸先が良さそう、かな)
思いと共に、華やかな景色の中を進んでいった。
花の淡い香りの中に、芳しい湯気が漂う。
桜広場の一角にて、サイラスは町人に交じって料理を始める所だった。
「さて、今日はと」
用意したのは寸胴。
そこには鶏ガラや干した小魚を、前日から煮ていたスープが入っている。
それを改めて火にかけつつ……醤油と味醂、砂糖を煮溶かした“かえし”も同時に作成。
ネギを刻みつつ、ついでに作った煮卵の様子も見ながら。
「あとはこれかなー」
取り出したのは豚肉を塊で煮たものだ。
こちらも醤油ベースに、生姜も効かせていて……厚めにスライスすると食欲をそそる。
それに少々周りの目が集まるのも、さもあろう。
次にサイラスが用意したのは、小麦粉で練った生地。それを包丁でリズミカルに切って――卵色が美しい麺が出来た。
この街で主に食される蕎麦やうどんとは、趣の違ったもの。
それを茹でていくと……大きめの器にかえしとスープを投入して。
「もう一品いけるか」
と、冷えた白米を取り出し、豚肉の残りを賽の目に切って卵と共に炒める。
香り付けに醤油も入れて、焼き飯が出来ると……そこで麺をさっとすくい上げ、器の方に入れて麺定食の完成だ。
「これでいいか」
桜花弁のペーストを使ったアイスも準備済み。
それらを並べると、サイラスは早速試食。つるるっと麺を啜り、食感とスープのハーモニーを確認した。
焼き飯もパラパラに仕上がっていて、桜アイスも香り高く。
「ま、よく出来たかなー」
花見をしながら、美味なひとときを送ってゆくのだった。
「今年も桜の季節ですね――!」
風に花舞う美観の街を、エルナ・クルプファルツは歩みゆく。
可愛らしいピンクの花弁に視線を奪われながら、散策するだけでも心楽しいけれど……「あっ!」と神社を見つけるとまずはお参り。
「――」
祀られた神様へ手を合わせ……未知の環境を旅した冒険の数々を語って聞かせて。
参拝が済めば、馬場を駆けゆく馬の姿に目を留めた。
「ヤブサメと言うのですね!」
わくわくと瞳を輝かすエルナは、その足で参加。
馬を撫でて、信頼を築いてからしっかりと慣らしつつ。乗って駆け出すと共に弓弦を引き絞って。
「えいっ!」
瞬間、放った弓は的中。
三つの的を綺麗に射抜いて歓声をさらうのだった。
「動いたら甘いものが食べたくなってきましたね!」
という事で次は甘味屋へ。
まずは綺麗な桜餅を買って、実食。
「もちもちです!」
綺麗な見た目と優しい甘さを楽しんで。
串団子もみたらしと餡子を購入しつつ、お茶も用意して桜の下へ。
敷物に座って満開の花を仰ぎながら――団子を口に運び、お茶もズズズ、と啜って一息。ほっと和む気持ちで花見を楽しんだ。
「……去年は脳がつるつるだった気がしますねぇ~」
その時の気持ちも思い出しつつ、まったりと時間を送って。
「こうして、どこからでも桜が見れる……なんだか不思議な世界に来た気分です!」
散策を再開すれば、あらゆる角度の桜が鑑賞できて……エルナは暫し、そんな桜色の時間を楽しんでいった。
ツツジに菜の花、そして桜。
春色の旺盛を迎えた翠の園へ、フリューリングスルフト=ティエラは子兎のイュンと共に訪れていた。
「今年も綺麗な桜が咲いてるさぁ♪」
彩り豊かな景色を眺めて、心が楽しくなれば――思い出すのはここで踊り歌った事。
だから今年も新たな春に、舞いと旋律を。
思いと共にイュンを肩に乗せ、扇を開いて。
――薄紅色の君、再び会えた喜びをここに歌おう。
――桜、美しき君。会いたいと焦がれた時間、共にする今、すべてが愛おしいと。
――今ならわかる気がするんだ。
成長と心の変化故だろう、あの頃から歌も変化しつつ。
舞いも一層巧みで、艶やかで。時の移ろいを噛みしめながら――フリューは花弁をそっと掴み、持ち帰る事に決めた。
「――うん」
その後は川下へ。
「お! 何かやってるさぁ」
釣りだと聞くと、早速自分も参加。本格的な釣り竿を用意して。
「やるからには本気さぁ!」
集中を高め、エーテルの波も駆使して……気配を見つけると糸を上手く操り、餌に食いつかせる。
瞬間、餌を取られる前に先手を取って釣り上げて。
「獲ったどー!」
艶めく大振りの虹鱒をゲット。
食べる分以外はリリースする事にして……大物は墨を使って丁寧に魚拓を取るのだった。
「いい記念になったさぁ!」
その出来栄えに人々も盛り上がる中、フリューは歌も歌ってみせて……催しに一層の興を添えるのだった。
嫋々と響く、風流な音色。
「綺麗な演奏……」
桜の下、耳朶に触れた音楽に惹かれて……アステルは楽師達の姿を見つけていた。
三味線に琴、小鼓。
東方由来の旋律とリズムは美しくも雅で――暫し聴き惚れたアステルは、だからこそ自身も参加してみたくなって。
「いいかな?」
「是非、ご一緒に」
そう応えた楽師達と共に、アステルはフルートをそっと奏で出す。
すると玄妙な曲の中に、透き通る音色が美しく溶け込んで。風情に煌めきを与えるように、豊かな響きを加えていた。
龍笛の強い音に対し、柔らかなフルートを重ねると、それもまた無二のハーモニー。人々の足を自然と止めさせ、その耳を傾けさせていた。
「ありがとう!」
演奏が終わると、拍手する人々や礼を述べる楽師達に自分も礼を返して……東屋に寄って暫し休憩する。
そこは広場の中心よりもゆったりと時が流れていて。
「静かな中で見る桜も綺麗だな……」
ふと、そうだと思いつく。
「絵、描こう!」
早速筆をとり、色をのせはじめた。
楽しさと、綺麗さ。今日感じた事、目にした事、耳にした事までもを目いっぱいに詰め込むようにして。
「こんな感じかな――?」
単に花を描き写しただけじゃない、生き生きとした桜色。
爛漫なその一枚は、眺めているだけでも楽しくて。アステルはゆっくりと時間をかけて、その色彩を完成に近づけていくのだった。
桜広場の中に、一際行列の伸びる一角がある。
それは良い香りを漂わす――やおよろず亭の出店した屋台だ。
「大繁盛なのだ~!」
粽と共に客足を確認してきた大福は……改めて店に戻って品揃えを確認していた。
今年は多彩なチマキをメインに据えており――桜おこわが綺麗な惣菜チマキや、桜白餡入りの甘味チマキにと、食事もデザートも網羅。
勿論どの品も人気で、周囲はそれらを手にした人々で賑わっていた。
俄に忙しくもなってきたので……大福は母に声をかける。
「おっ母、店番も手伝うのだ~」
「あら、ありがとう」
でもね、と。母は柔らかに笑んで申し出を遠慮した。
「大福も粽も『冒険者』としてこの一年頑張ってきたんだから。今年は招かれた側として桜の季節を楽しんでおいで」
「おっ母……」
深い優しさに満ちた言葉に、大福は涙を堪えながらも……キリッとした表情を見せる。
「ありがとうなのだ! 粽、今日はいっぱい遊ぶのだ!」
わふ、と粽が応えると、大福は粽も食べられる薄味のチマキを幾つか貰って……広場を出発。
まずは町長を見つけて――
「おや、大福さん。いつもお世話になっています」
「こちらこそなのだ!」
そんな挨拶を返すと、はらりと降る桜の下で占い。小さな手でももっちりと、三枚の花弁をゲットした。
翠の園では粽にも釣り竿を咥えてもらって。
「一緒に釣り上げるのだ!」
言葉通り、強い引きを感じてざばぁん、と釣り上げたのは大振りな虹鱒。お刺身入りのチマキも出来そうだとお持ち帰りしつつ、改めて街を一周する。
「今年もにぎやかなのだー」
見慣れた愛しい風景に、皆の笑顔。
出会えるその全てが嬉しくて。桜の木陰を見つけると粽と共に寝転がった。
「粽、大福この街が好きなのだ」
すると粽も同意するように喉を鳴らす。
そうして見合っていると、互いの鼻先に……桜の花弁がひらり。
一緒に盛大なくしゃみをして、笑い合って。
「粽! 一緒にちまき食べるのだ!」
桜の街で、桜色の優しい味わいを。そんなひとときが、とても幸せだった。
華やかな桜色の広場へ、ベルク・オスマットはヤウズ・オスマットと共に歩み入っていた。
「良い景色じゃ」
「そうだねぇ」
ヤウズは頷きつつ、ベルクの顔をちらりと見やる。
その顔には嬉しげな色があって……目を向けたベルクは応えるように言った。
「父様をはじめ、一族はみな今も行方知れずだからな。ヤウズだけでも無事でよかったのじゃ」
ヤウズの瞳には賢者の石――他でもないホムンクルスの証がある。
だから全てが元通りという訳ではない。それでもこうして再会して、共に時間を過ごせる事がベルクには嬉しかったのだ。
故に屋台を見つけるとそちらに歩みを向けて。
「再会の祝いだ。ヤウズも好きに飲んで食え、お代は全部妾が持つぞ♪」
「うん」
ヤウズもこくりと頷いて、それに続く。
そうしてまずは酒を手に入れると、それに合いそうな筍ご飯も入手して。各種の刺し身も揃えると……桜の下に座った。
早速、食事を始めると――
「これは旨い」
虹鱒の刺し身は程よく脂が乗っていて美味。
筍ご飯も香り高く、優しい味わいで……春の味の相性の良さを実感する。
「本当だ、おいしい」
ヤウズもその美味を味わっていると――ベルクが「むっ」と何かに反応していた。
他でもない清酒である。
「この食事と良く合うな」
透き通った味は刺し身やご飯をより風流な味わいにしてくれる。ただでさえ酒好きなベルクは……くい、くい、と次々に瓶を空けていた。
仄かに頬も赤くなっていて。
「お姉ちゃんは相変わらずお酒好きだねぇ」
ヤウズはそんな様子に呆れつつも懐かしさを覚える。
「お父さんのお酒盗み飲みして怒られてた頃から変わってないよ」
「むー、そんな事……あったな」
ベルクは半眼気味ながら、その事をありありと思い出していた。
こっぴどく叱られたものだが――それも今では郷愁を覚える記憶だ。
家族の思い出話をするなんて、今までは出来なかったから。
「ヤウズ、もっと食べたいものはないのか」
「えっ? うーん、じゃああれ、たい焼きかな」
ヤウズがそれを見つけて指すと、ベルクは早速二人分買ってきて。再びヤウズの隣に座ると、一つを渡して上機嫌に食べ始めた。
「ここの酒は甘いものにも良く合うのじゃ」
「ん、美味しい」
ヤウズは自分もかぷっと食べつつ……ベルクを見て微笑む。
皇帝派から解放されなければ、この穏やかな時間は送れなかったろう。
「ほんとに、良かった」
「ん……皇帝派は……絶対に根絶やしじゃ……」
見るとベルクが酔い潰れている。
だからヤウズは膝枕をしてあげた。昔から背の変わらぬ姉。その頭を撫でつつ、仰ぐ桜は……淡く優しい色合いをしていた。
「とっても綺麗……!」
桜に溢れた広場の中、ルルト・アーキスは猫のタマさんとお留守番。
薄紅の色彩の中、楽しげな空気にわくわくそわそわとしながら視線を巡らせていると――そこに歩んで来るのがアルバス・ロウル。
「ただいま!」
「おかえりー!」
ルルトが笑顔で迎えると、アルバスも笑みを返して隣に座った。
「いい席があったな」
「桜がよく見える特等席なんだよ♪ ……わわっ、いっぱいだね!」
と、ルルトが目を輝かせるのは、アルバスが沢山の食べ物を買い込んで来ていたからだ。
頷くアルバスは品々を並べてゆく。
「また珍しいものがたくさんあったぞ」
色味の良い筍ご飯、香り高いお吸い物、揚げたての山菜の天ぷら。
どれも美味しそうで……何よりルルトが喜ぶ様子が目に浮かんで、つい買いすぎてしまったのだった。
「では、食べるか」
「うん!」
という訳で早速二人で頂きますをして実食。
筍ご飯はふわりと春の香りが立ち上る上品さ。味も優しくて、お吸い物の玄妙な塩加減とも相性抜群だ。
天ぷらは勿論、さくさく。
その食感も楽しくて、ルルトは思わず笑みを零す。
「ふふふー、どれも美味しいね」
「ああ。どれもうまいな。外で花を愛でながらの食事もいいものだ」
アルバスは言いつつ美しい桜にも目を楽しませていた。
季節の景色と美味。それをルルトと共に堪能出来るのが何より嬉しかったから。
タマさんにも、ルルトがおやつを準備している。それをかりかりと囓るタマさんを、アルバスは時折撫でてあげつつ――
「スイーツはどれがいい?」
花見団子、桜餅、御手洗団子、桜ムースも並べてゆく。
ルルトが目に留めたのは――
「あっ、このお団子かわいい!」
という事でそれをはむりと頬張って、ご機嫌。
「では俺も」
と、アルバスも団子を味わい、さらに他の甘味も楽しんで。撫でられるタマさんも、ごろごろと喉を鳴らし――皆で和やかに時間を送った。
だけでなく、楽師の雅な音楽が聞こえてくればルルトが耳を澄ませて。
「ねね、ボクたちも交ぜてもらおうよ!」
「それは楽しそうだ。行こう!」
アルバスも頷くと、二人で秋に教わった三味線を手にして――そこへ参加。
楽師が琴で流れるような音を弾けば……二人は視線を交わし、そこに明るい旋律を加えて。アルバスが体でもリズムを刻めば、ルルトも呼応するように弾むような音色を鳴らした。
桜を背景に、響くのは華やかで鮮やかな音楽。
この春も、その後も、楽しさに溢れる時間がやってくる――そんな期待を込めるように。
「楽しいね!」
「ああ」
ルルトの言葉にアルバスも同じ心で応える。
そのメロディに踊るように、桜が楽しげにそよいでいた。
「わぁ、今年も満開だね……」
道に連なる桜に目を奪われたように――ララベル・サン・ディーベルは明るい笑顔を浮かべていた。
ふしぎ亭の仲間と共に、街へやってきた所。アリエッタも視界に広がる桜色の景色に楽しげな様相を見せている。
「とっても綺麗だね」
「風流というのかしら、いいものね」
と、テュリン・ヴィングも頷いて視線を巡らせていた。
風に揺蕩って踊る花弁は美しく、時折聞こえる琴や三味線の音色もまた雅。
ゴルバルティアも見回しながら感心の色だ。
「もうこんな桜の綺麗な時期になったのか~。って私がゆっくり立ち止まって見てたりしたら邪魔になるか……」
言って歩み出すと、ララベルもたたっと走り出して、にこっと皆に笑む。
「それじゃあ皆、早く行こうよ」
「ああ――」
と、それに軽く返事をするアーテミシアはというと――
「まあオレは春眠花よりナントカってやつだけどな……」
見回しながら目に留めるのは、屋台の並ぶ一角。
ララベルもそれを見て、「それじゃあ」とそちらに向いて。
「何か買ってから散歩しよっか?」
それに皆も頷いたので――苺飴やたい焼きなど思い思いの食べ物を買ってから、散策を始めてゆく。
「甘くて美味しいね」
苺飴をはむはむと齧りつつ、アリエッタは皆と一緒に道を進む。
飴の甘さは濃いめで、中の苺は甘酸っぱくて。そのコントラストを楽しんでいると……ふと並木に差し掛かった所で前方に気づく。
「あっ、子供達が何かやってるよ。何だろう」
見ると花吹雪の下で手の器を作っていて――あぁ、とテュリンが顎に指を当てた。
「そういえば、一風変わった占いがあると聞いたわね。あれがそうなんじゃないかしら?」
確かに子供達は、花びらの枚数で一喜一憂しているようだ。
「折角だし皆でやってみない?」
「要するに、目ェつぶってぱっと花びら取りゃいいンだろ?」
アーテミシアは言うと、すぐに目を閉じて……後は軽く腕を前に出しながらさっと虚空を握ってみせる。
それから手を開いて。
「これでいいのか」
「三枚……仕事の吉兆だっけ? わぁ、楽しみだね」
ララベルは覗き込んで、どこかワクワクとした様子だ。
アーテミシア本人はと言うと、仕事は言われずともこなすつもりなので感慨というほどのものはないけれど――
隣のゴルバルティアは「せっかくだしな♪」と乗り気気味で。
「これでいいのか?」
と、目を閉じると早速手で器を作って……掬ったのは一枚の桜。
「一枚って……なんだかあんまりいい結果じゃなさそうだけど……」
「確か、未知の出来事の吉兆だったよね」
ララベルが言うと、ゴルバルティアは首を傾げつつ。
「うーん、分かんねぇ……」
まあ、何かいいことがあるなら楽しみにしておいてもいいかも知れない。そんなふうに結論付けたのだった。
その横ではテュリンも挑戦中。
「私は……と、あら、沢山ね」
掌には十枚ほど花弁が舞い降りてきていた。
結果としては良悪織り交ぜた前触れとされているが――
「ま、悪く無さそうね」
テュリンは深刻には捉えない。
というのも、何かが来る気配があるのなら備えておけば良いだけの話だと思うからだ。
「まあ、基本的には、ね……」
ぽつりと呟いていると――そんな隣ではアリエッタも興味津々。
「じゃあ次はあたし」
と、自分も目を瞑って手の器を作り……風を掬ってみせる。
するとそこにのっている花びらは、二枚。
良縁の吉兆ではある。けれど考え方によれば今ある縁が進展する兆しでもあり――アリエッタは何となくララベルを見てから、少し照れたように首を振るのだった。
そのララベルはというと――
(更に急接近とか、吉兆が出るといいな……)
恋人達の事を思いつつ、宙に手を差し出している。
と、ばさばさっ!
「ふわぁぁぁ!」
花弁が山盛りに落ちてきてびっくり。
勢いに引っ張られるように前傾になると……伸ばしたままの腕が、目の前にいたアリエッタの胸に触れて。
「わっ、ごっ、ごめん!」
それに驚いて大きく後ろに下がると――今度はそこにいたテュリンと激突。もみくちゃになった結果押し倒す事になるのだった。
テュリンは覆い被さられたまま、ため息をついて。
「やっぱりね……判ってはいたわよ。備えが出来ない事もあるって事は……」
それにララベルは「ご、ごめん!」と顔を真赤にして。慌てて飛び起きて平謝りをするのだった。
そんな出来事もありつつ、一行は川辺へ。
「川にも花弁が流れてきてて綺麗だね……」
その美観にララベルが見とれていると……ふと川下から賑わう声が聞こえた。
アリエッタはわぁ、と指をさす。
「釣りやってるよ」
「楽しそうだね。折角だから勝負しちゃおうか?」
ララベルの言葉に皆は頷いて……早速釣り竿も用意して始める事にする。
「ま、寛げそうだしな」
と、アーテミシアは十二分な量の酒を買ってきて、それを傍らに寝転がり。竿は地面に差したままゆるりと過ごし始めた。
皆もそれぞれに針を水面に沈めてゆく。
ゴルバルティアも慎重に針を投入すると……ゆるゆると動かして感触を確かめつつ。
「うーん……餌に食いついてるとか、私には全然わかんねーけどなぁ……」
「大きい引きが来たら判るかもしれないよ?」
ララベルの言葉に、テュリンも頷いて竿をしならせ――ちゃぷんと餌を着水させていた。
「こういうのは焦らず待つ事が大事そうだからね。慌てず行きましょ」
「うん」
と、アリエッタも楽しげに餌をくくりつけて。ひゅるりと勢いをつけて針を飛ばし、流れの良い場所に沈めていた。
すると早速くいくいと糸が引く。
「あっ、来たみたい」
それを逃さず一気に引き上げると……銀色の美しいイワナだ。
「わぁ、釣れたよ」
「へぇ……」
中々良い獲物もいそうだな、と。
アーテミシアは感心混じりの目も向けつつ、あくまで自分はごろごろと。杯を傾けて、そよ風にも涼みつつ……寛ぎながら引きを待つ。
勿論、餌に食いついたと見ればしっかりと引き上げて。こちらも大物の虹鱒をゲット。
「こっちにも来たわよ」
と、テュリンも暫し格闘しつつ、最後には二匹連なったヤマメを釣り上げた。
「わぁ、皆凄いね」
ララベルは自分も負けじと一度針を戻し、再度気合を入れて竿を振る。
と、着水もしてないのに何かに引っかかった感じがして――
「あれ?」
「ってベル、スカートスカート!」
見るとテュリンのスカートが針で捲れ上がっているのだった。
「はわわわわ……!」
ララベルは真っ赤になって針を取ろうとするが、引っ掛かりが強くて苦戦。その内に用具に躓いて転び――アリエッタの胸に飛び込む形で倒れ込んだ。
「わっ……」
アリエッタは少々ぽかんとしてから、仄かに顔を赤くする。
「ごっごめん、わざとじゃ……!」
ララベルは起き上がろうとするも、今度は水辺で滑って落ちそうになった。
それは何とかゴルバルティアが支えるも――
「ってどこ触ってんだっ!」
不可抗力気味に触れてきたララベルに、ばちん。ビンタで頬に紅葉を作るのだった。
そんな事もありつつ――
「っと。よく出来たわね」
テュリンが一番の大物で魚拓を取る。紙にいっぱいになるほどの大きさに、皆も拍手を送るのだった。
そうして最後には焼き魚を作って。
「ん、美味しいね……!」
ララベルの言葉には皆も頷く。
香ばしい匂いに、美味。そして桜の景色――春を満喫して、皆で楽しい時間を送っていった。
「華やかな景色だなぁ」
桜色の街を、パヴェル・A・サムルガチェフは散策していた。
通りは絢爛ながら賑やかで。開放的な空気が楽しい気分にさせてくれる。
「何か食べたいものはあるかぁ?」
「そうですね。では、飴を」
と、応えるのは行き掛けに誘った遊女。屋台の苺飴を所望するので、パヴェルは自分も買って一緒に味わう事にして。
「ん、甘くてうまいなぁ。あれも買ってみるかぁ」
隣の屋台でたこ焼きや焼きそばを見つけると、それらも購入。その食べっぷりに遊女もくすりと笑んでいるのだった。
と――
「あれは……流鏑馬?」
神社の一角でそれを目に留めると、パヴェルは興味を惹かれる。
「まあ、馬に乗って弓矢を?」
遊女は言いつつも、期待の視線を送ってもくるので……パヴェルは「やってみるかぁ」と参加する事に決めた。
早速、相棒となる馬を慣らしてから馬場を前にして。
「真っ直ぐ駆ければいいんだな」
先にやっていた者達の見様見真似にはなるけれど、それでも弓の感触を確かめつつ……出走。
(おぉ――)
すると、浴びる風と揺れ動く視界で狙いを定めるのが難しい。
ただ、それでも意識を集中。髪を靭やかに靡かせながら弓弦を引き絞って――射撃。三つの的を見事射抜いてみせた。
「ふぅ、疲れたなぁ」
馬から下りると、そんな声も零れるけれど。
「とっても素敵でしたよ」
遊女もそう言って出迎えてくれるので、パヴェルは微笑んで。また共に桜の下へ歩み出す。
「シャルガネ……どういう所でしたっけ……」
セロリ・サーティーンは街をゆるりと歩んで巡っていた。
その風流な景色に、刺激される記憶もある。
けれどその記憶自体は思い出せない。それは自身がホムンクルスとなったからなのだろうとは、判るけれど。
「……とにかく、楽しみましょう」
賑やかさと桜色の景色に惹かれたのは事実。
なら、これが少しでも自身の心を癒せればいい。
故にと、まずは神社へ向かうと――そこで甘茶を供された。
「お金は要らないんですね……」
言葉に甘えて飲んでみると、ふわりと優しい甘味が広がる。
「あ、美味しい」
その温かさがどこか心地よくて。
舞い散る桜も美しく、それを眺めると心が和む思いだった。
その足で、お参りにも挑んでみる事に。
「えっと……二回お辞儀して二回手を叩いてもう一回お辞儀……」
作法を教わりつつも、完全には理解しきれずに。きょろきょろと見回して少々挙動不審になってしまうけれど――最後には完遂して。
――世に安寧が訪れますように。
そんな思いと共に参拝を終えた。
その後、ついでにおみくじも引いてみると――
「末吉……」
読んでみると仕事や縁について良し悪しあるようで。
「末吉って良いんですか悪いんですか……?」
そんな疑問を抱いて、聞いてみると概ね悪くないらしいと回答を得たりして。
「もう少し、桜を見ましょうか」
再び甘茶で休憩。桜をのんびり眺めて、寛ぎの時間を過ごすのだった。
二度目の桜の季節は、一層快く感じられて。
「う~ん、と――」
伸びをしながら、アルフィー・リッパーは広場を歩んでゆく。
(桜ってのはなんか人を温かい気持ちにさせるな)
仰ぐのは夜桜。
煌めく星空と、淡いピンクの花びらのコントラストが美しく幻想的で――風に揺れる様もどこか優しい風合い。
いつもは日中見ていたから、今年は趣も違って見えた。
そうして少し歩んで、静かな桜のもとに座り。そっと話しかけるのは尻尾のリボン――大切な友人の形見だ。
「なあ、見れるか? 桜と星空だ……」
まるで一緒に仰ぐみたいに、自分も視線を一度上にやる。
それはやっぱり、とても美しいけれど。
(ルーシェと見れたらどんなに綺麗だったか……)
二人で感動して、祭りもはしゃいで回れただろう。
それは多分とても幸せな時間で。きっと夢のようなものなのだろう、と。魅力的な景色だからこそ思いが心に生まれてくる。
それからふわりと尻尾を揺らし――目を閉じては彼女を思い描く。
傍にいるかのように。
その息遣いまで感じられるくらいに。
(きっと君もそこで見ていてくれると信じているから)
だから、と目を開く。
「また来年も来ような、ルーシェ……。その時は、お酒を持って二人で成人祝い、なんてどうだ?」
少しだけ笑みを零して。
舞い降りるのは、静かで儚い花びらだけ。その清らかな景色を、アルフィーは長い時間見つめていた。
はらりはらりと桜が風に踊る。
その中で子供達が占いに興じるのを――並木へ歩んできたアルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロは眺めていた。
「桜の花びらで占うなんてなんだかオシャレだねー」
「ええ、シャルガネらしくて楽しいですね」
二人で笑みを交わすのは、勿論自分達もやってみたいと思ったからで。
「エヴァくん先にやってみるー?」
「はいっ。では――」
と、まずエヴァンが目を閉じて「エィッ」と掬うと……その手には花弁が一枚。未知の良運に、エヴァンは嬉しげな顔を見せる。
「吉でした」
「どんないいことが起きるか楽しみだねー」
笑みを返したアルマが次に挑戦すると――掌に優しい感触。二枚の花びらがそこに舞い降りてきていた。
「良縁、かー」
それも吉兆を示すもの。
だけれどアルマは照れたように表情を和らげて。
「ボクはもう十分恵まれてるけどね」
そう呟くから、エヴァンも照れた気持ちで――
「お互いにあたりましたね」
そんなふうに頷き合うのだった。
それから本格的に広場の散策へ。鮮やかな桜並木を眺めながら……エヴァンはアルマをそっと抱き上げている。
「ふふ、すっかり抱っこしてもらうのが当たり前になったねー」
「そうですね」
アルマの顔も声も、近くなってエヴァンも笑みを零す。
アルマもそんな笑顔が傍で見られるから嬉しい気持ち。だけでなく、桜も出店も遠くまでよく見えるから。
「あ、あれ美味しそうー」
と、苺飴を見つけるとエヴァンも「本当ですね」と興味を惹かれて購入。濃紅の美味を一緒に口に運んだ。
「ん、美味しいー」
「甘くて美味しいです……」
そんな気持ちの共有が出来ると、エヴァンは幸せな心持ちで。
歩むほどに桜も美しく咲き誇っていて――空に映える色彩に手も届きそうだから、アルマは一層楽しげだ。
「キレイだねー」
「ええ、本当に」
エヴァンも頷きながら……そんなアルマをすぐ傍で見られるこの場所が、何より特等席だと思える。
だからその嬉しさと、笑顔のアルマに魅かれる心のまま――その頬にキスをした。
「笑顔のアルマが……大好きです」
伝える言葉と共に、見せるのは照れた笑み。
触れたその感覚に、アルマは仄かに目を見開いて――それから淡く顔を赤らめながら、「うん」と頷いて。
「ボクもだーいすき! だよ」
素直な想いと共に、自分もまたお返しのキスをした。
まるで花が触れたような感触に、頬がくすぐったくて嬉しくて――エヴァンは瞳を細めてから、また抱き上げる腕に力を入れ直す。
「次は向こうを見ましょうか」
「うん。おデートは続くよ、どこまでもー……! だねっ」
「はい、どこまでも行きますよー」
そうして二人でまた前へと進む。
風にそよぐ桜のアーチが、二人を祝福するように――鮮やかな花弁を頭上に舞い踊らせていた。
「では、ここで仕上げをしよう」
花の薫る桜広場に、温かな湯気が昇る。
人々が料理をする一角で……エル=バ=ノイアンもまた料理をするところ。
準備を隣から興味深げに覗き込むのは、海神・江流だ。
「それで、ノイアンは何を?」
「ハモだ。真鯛も用意した」
言ってまな板においたそれは下拵え済み。湯引きし始めると……同時に真鯛はムニエルと焼き魚にしていく。
「美味しそうね」
「ああ、楽しみだ」
と、それを眺めるのはルベア・ベルニと、シルヴィア・A・カペル。
花見にあたって、一人一品おすすめの品を用意する――。そんなふうに決めてきた結果ノイアンが用意した春の魚に、興味津々なのだった。
ノイアンはハモに海藻も添えてハモちりにすると、白焼きも用意。丁度真鯛の方も焼き上がってきて……ぱちぱちと快い音が響く。
「後は、ハーブ塩と山椒で味付けして……こんなものだろうか」
「香りも良いね」
シルヴィアがそんなふうに期待感を高めていると――隣では江流も作業を始めていた。
ルベアがそちらに目を向ける。
「江流さんは何を?」
「ん、こっちはカブ」
と、江流は丁度そのカブの皮を剥いているところ。
さりさりと手際よく、無駄なく剥き終わると――カブは綺麗な薄切りにして。
「あとはこれで、と」
傍らに用意したのは桜の塩漬け。彩りも良いそれを薄切りと和えて、少々置く事で……桜の薫る千枚漬けが出来上がった。
そこに買ってきた筍ご飯を添えて。
「シャルガネらしく、春らしくならこんなとこでしょ」
「何だか、素敵ね」
雅な風流さのそれに、ルベアは感心の面持ち。
「ノイアンのと合わせると春の彩り御膳ってトコか」
「ああ。――ルベアは何を?」
と、ノイアンが目を向けると、ルベアは綺麗な包みを用意していた。
「私はクッキーよ」
開いて見せるそれは、可愛らしい形の逸品。
幾つかの色を用意してあるけれど、総じて色使いは淡く……桜の塩漬けがワンポイントのように載っていて、それが目を惹く。
「甘さは控えめにしたから食後とか、お酒にも合うと思う」
「なら、これを持ってきて正解だったかな」
言って瓶を取り出して見せるのはシルヴィア。
それは故郷から持参してきた赤と白のワインだ。
この街で清酒と緑茶も買ってきていて――
「食事に応じて楽しめるだろう? デザートも用意してきたよ」
と、もう一つ、箱に詰めてきたのは苺のシャーベット。マジカルポケットに入れて冷たさを保ってきている。
「練習した上で作ったし、味見もしたから味は保証するよ」
食べる時にまた出すよと言うと、三人も楽しみに頷いて――桜の傍で早速食事会だ。
「ずいぶん豪華な装いになったな」
色も香りも豊かな品々に、そんなふうに言葉を零しつつ……ノイアンはカブの千枚漬けをまずは食べてみる。
「これは……不思議な風味だ」
程よい歯ごたえと共に、瑞々しさが感じられて。桜の香りと仄かな塩味が食べるほどに食欲をそそるのだ。
「癖になりそうだな」
「本当だね」
シルヴィアもそれを食べて頷いている。筍ご飯も、旬らしい柔らかさと旨味を持った筍が、香り高く……千枚漬けとも良く合った。
ルベアもその両者を少々興味深げに頂いている。元々食べた事のない組み合わせだったからというのもあるけれど。
「春っぽい食べ合わせね」
どちらも味が濃くなく、優しい風合い。
それがこの景色の中で食べる食事としても、相応しいという気がした。
「ありがとう。こっちも頂こうかな」
と、江流が視線を注ぐのはノイアンのハモだ。
ノイアンはそこへポン酢を用意して。
「ハモちりはこれで食べるのがいい。酒にも合うはずだ」
「ポン酢か。良さそうだな」
早速江流がそれで口に運んでみると……淡い弾力と柔らかさを併せ持った白身が、ポン酢をよく絡める。ハモ自体の旨味もそこに加わって、得も言われぬ美味だ。
シルヴィアは白焼きもはふりと食べて瞳を細める。
「この魚はさっぱりとしていて良いね」
何より焼き加減が上手く出来ていると判るから。
「流石料理上手だ」
「ああ……ありがとう」
ノイアンの応えにふっと笑むと、シルヴィアは皆も見回して。
「清酒にもワインにもよく合うよ」
「そうだね。清酒は勿論だけど……このワイン自体が美味しいのもあるかな」
と、江流は杯を傾けてそれを味わっている。
赤ワインは芳醇ながら穏やかな風味で、白ワインは優しい口当たりながらフルーティ。どちらも料理の味を邪魔しない、透き通った美味だ。
ルベアもお酒は程々に楽しみつつ。
「鯛の方も美味しいわ」
ムニエルはほろりと柔らかに焼けた身が濃厚な味わい。焼き魚はぱりぱりと、皮まで美味しい逸品だった。
そうしてそこそこに食事が進むんだ所で、ルベアはクッキーを皆へ。
「ありがとう」
言って受け取ったシルヴィアは、早速一口。
かぷりと齧って、ん、と少し瞳を開く。
「美味しいね」
クッキー自体が丁度よい焼き加減で、かりっと噛む事に淡くバターの風味が広がる。そこに桜の香りと味が加わって……東方風の趣ある美味に仕上がっていた。
ノイアンもかりかりと齧って頷いている。
「美味だ」
「ご飯の後にぴったりな感じだね」
江流もそんなふうに言って舌鼓を打っていた。
最後のデザートには、シルヴィアのシャーベットを。苺の甘酸っぱさと、快い冷たさを……ノイアンはゆるりと味わう。
「最近は暖かくなってきたからな。清涼感があって良い」
「そうね。冷たいのも、美味しい――」
ルベアもスプーンで口に運んで頷く。
その美味と、眺める桜の景色に……感じるのは心地よさだ。
ルベアの両親が居なくなったのは、どちらも春だった。だから別れのイメージが強すぎて、以前は春が嫌いだったけれど。
(……)
今はものの見え方や感じ方も変わってきて――
(ちょっと好き……かも)
そう思える自分が居た。
そんなルベアの横顔を少し見やりつつ、江流はまた桜を仰ぐ。
――来年はこの桜をどういう気持で眺めているのだろう。
それは今このときには、判らないけれど。
(俺も後悔のないよう、今年をやりきらないとな)
清廉な景色に、そう思いを新たにして――シャーベットを口に運び。
「ん、美味しい」
「良かった」
シルヴィアはそう言って自分もまた一口。
友人達と共に過ごせる憩いの時間を楽しみながら……美しい桜をそっと仰いでいた。
「まぁ、一面桜色に染まって本当に綺麗……!」
肌を撫ぜる爽風までもが、花の色を帯びたようで。
その美しさに――並木を眺めるネーヴェ・グラヌローザは声音に花を咲かせていた。
ええ、とその隣で頷くのはキーゼ。いつもの黒外套を桜色の景色に映えさせながら、花に溢れた美観に視線を巡らせる。
「流石は“倭桜ノ街”、でしょうか」
「どこからか風に乗って美しい音色も聴こえて参りますし……これが風流と言うものでしょうか」
耳を澄ますネーヴェに、キーゼも倣うと――確かに琴や三味線の旋律が耳朶に届くのが判った。
何とも明るい曲で、キーゼはそれにもこの街らしい雰囲気を感じて。
「そういえば、常に何かのお祭りか何かしてませんかね、ここ?」
「お祭りは人が集まります。それだけ繋がりを大切にしているのかもしれません」
「確かに、それはこの街らしいですね」
「では参りましょう?」
ネーヴェが笑みと共に歩み出すから、キーゼも並んで散策をしてゆく。
風に踊る桜は、見ていて飽きがこない。それに目を楽しませつつ……キーゼは隣もまた見やる。
ネーヴェの髪に花びらがついていたのだ。
だからそれをそっと取り払って。
「お似合いですよ、というには少々無粋ですね、この花びらの量は」
「ありがとうございます」
笑んで告げてから、ネーヴェは木々を仰いだ。
「私は趣があって好きですわ、花吹雪。雪みたいですし」
その季節だけの美しさ。
そこにキーゼも成程、と呟いて歩みを続けると……ふと前方に苺飴の屋台を見つけた。
キーゼは先日苺狩りに行った事を思い出しつつ――
「いちご飴、ありますよ」
「まあ。先程から漂っていた甘い匂いはもしかしてこれだったのかしら」
「折角ですし、頂いていきましょうか」
言うとネーヴェも肯くから、キーゼは香りと飴の色合いの違う二つを購入して……一つをネーヴェへと渡した。
ネーヴェは礼を述べて受け取ると、早速味わい始める。
自分も食べつつ歩みを再開したキーゼは、そんな横顔を見つめると――
「そちらの味は、どんな感じですかね?」
不意打ち気味に、横からその唇を奪って……囁く。
「なるほど、とても甘いですね」
「飴、ですもの……」
だからネーヴェは目を丸くして……頬を赤らめ、恥ずかしげに唇を尖らすしかないのだった。
ただ、また少し歩くと――お返しとばかりにキーゼの外套をつまんで顔を引き寄せる。
「私も味見させて下さいな」
そうして口づける……ふりをして飴の方を齧った。
「……」
「すると思いました?」
言って見せるのは悪戯っぽい笑い。
その表情もまた、魅力的なものだから――
「……参りましたね」
少しだけ、キーゼはその瞳を和らげて。
降参を告げると、改めてネーヴェが微笑むから……また共に並んで、桜の間を進んでいった。
「えへ~、久しぶりのデートだね」
冬から学園寮住まいをしている身としては、今日のような日が嬉しくて……エルシー・サリバンは上機嫌でハル・チフと腕を組んで歩む。
「そうですねっ」
と、ハルもまた同じ心でわくわくとしながら――
「あっ、見えてきましたよ」
見つめる前方には、釣りで賑わう小川沿い。
人々が楽しむ景色に、二人は笑み合って。早速参加して作法を教えてもらう事にする。
「これで釣れるんですね。凄い!」
故郷では出来ない体験に、ドキドキと胸を高鳴らせつつ。ハルが餌の付け方や投げ方を教わる隣で、エルシーもまたしっかりとコツを覚えて。
「ハル、行こう♪」
つい騒いでしまうからと、指すのは空いた場所。
それにハルも頷いて……静かな一角で糸を垂らした。
「……」
ハルは水中を窺いつつも、ふとした折に隣を見る。
今、エルシーは学園で、自分は依頼で頑張っている。
時間の過ごし方が前とは変わって――少し離れる度にエルシーが大人っぽくなる事に気づいて、意識する度にドキリとするのだ。
「学園ではどうですか?」
「大変な事もあるけど、楽しいよ」
エルシーは色々な経験を離す。
その笑顔がキラキラとしているから……ハルは嬉しくなって相槌を打った。
ただ、男友達の話を聞くと、胸が少しキュッとして。
「仲良し、なのですか? どんなふうに……」
「? どうかしたの?」
エルシーがキョトンとするから、そこで始めてハッとする。
「わわ! ごめん、少しだけ、嫉妬しました――」
それからハルは気を取り直して、依頼の話。
「胡椒ダルの影にクリーパーがいて……胡椒の粉がぶわーってなったのですよ!」
「ふふ、聞いてるだけでくしゃみが出そう――」
と、エルシーがまた笑んでくれるから、ハルは嬉しくて話を続けた。
エルシーもそれが楽しかったけれど。
(知らない事、多い……)
毎日、当たり前に報告してた事が出来ない。それがこう言う事なのだと、今改めて実感したような思いだった。
少しだけ、ハルが遠くに感じられるような気がして――
「あっ、引いてるー!」
「わ! 本当です!」
「逃がしちゃダメー!」
釣り竿がしなると大騒ぎ。逃さず引き上げて。
「つ、釣れた!」
大物ゲットに、驚きつつ……ハルも嬉しそうに尻尾を振るのだった。
その後も釣果は良好で。
「二人で一、二……二十匹? 凄い釣れたねー」
しんみりした気持ちも塗り替えられたように、エルシーも笑顔。持参の体の酒樽と、桜のチップで魚を燻製にする事にした。
完成すると、早速実食。
「美味しいです!」
香ばしくも旨味たっぷりで、ハルは笑顔で舌鼓。イワナの骨も残さず平らげる。
エルシーもあむあむと食べて、その出来に満足だった。
そうして食後、二人で並んで座ると――ハルはそっとエルシーの肩を抱く。
「互いに離れていても僕の気持ちはエルのそばに居るのです」
今を大切に、幸せを噛み締めて。
「――うん」
エルシーも頷く。
伝え切れない物語で違って来る心。それでも伝えるから、と。
「ハルの事も沢山教えてね。私の居場所はここだもん」
言ってハルの肩にもたれる。
さらさらと川がせせらいでいる。そこに流れるのは穏やかで、そして優しい時間だった。
「桜。いい匂いですね」
風に木々が靡いて、さらさらと快い音色を響かせる。
軽やかな足取りでそんな景色を見やるのはハルハン・ツァガーンナル。仲間達と共に並木道へと歩み入っていた。
「とても落ち着きます」
「ああ、他では中々見られない美観だな」
ナタリア・フィッツジェラルドも、応えながら桜を眺めつつ。視線を留めるのはそこにいる現地の子供達だ。
花びらを手で受けていて――
「あれが桜占いか」
縁起担ぎとも思えば、興味を惹かれる。元より占いも神事に通じるものがあり、風土に根ざした文化に触れられるのならば、と。
「皆でやってみないか」
「いいですね」
頷いたキリアン・フィッツジェラルドは、姉とは好対照に運気やジンクスは気にしないタイプだけれど……それでも皆で楽しめると思うと少しわくわく。
コハクも尻尾をゆるゆると揺らしながら参加表明をするので――
「そうね。皆が嗜むなら――わたしも戯れ程度にやってみてもいいわ」
と、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクもそっとそこに加わった。
声音はしとやかで、落ち着いた面持ち……だけれど。表には出さぬ程度にそわそわし、皆をちらちら見やっている。
というのも、あくまで貴人としての態度は崩さないけれど……内心はウキウキのミーハー少女。占いと聞いて気にしないではいられなくて。
「それじゃあ、わたしから」
早速目をぎゅっと瞑り――掌の器を出して、はらりと触れた感触に目を開ける。
するとそこには二枚の桜。
「まあ、良縁……。いえ、縁なんて、もう沢山あるものね」
心でわくわくしつつも、それを抑えて言うのだった。
その様子に表情を淡く和らげつつ……次はナタリアが挑戦。掌に触れる沢山の感触に目を開けると――
「これは……五、六、七……十枚!?」
想像を超える枚数に少々混乱。
「量があるという事は、吉兆だけでなく悪い事も……」
想像を巡らせて顔を青くしつつも、すぐに首を振って。
「否、考え方次第だ。吉兆と凶兆が同じ分とは限らないのだから、殆どが良い兆しである可能性も……」
と、必死で頭を巡らせているのだった。
「良い事、沢山あると良いですね」
そんなふうに言葉をかけつつ、次にチャレンジするのはハルハン。
そっと掌で器を作り、目を開くとそこには二枚の花びらがあって。
「同じ枚数ですね」
アウレーリアにそう笑いかける。
良縁と言っても考え方は様々だけれど……元より占いは信じるも信じないも自由だから。
「リアと、それに皆とも縁が続く吉兆かもしれないです」
「何だか素敵な解釈ですね」
言ってキリアンも掌を虚空に差し出し、花吹雪を掬ってみる。
と、そこには見覚えのある枚数があって。
「あれ、これは……十枚ですね。姉さんと一緒だ」
「そうか」
ナタリアはちらりと視線を向けて。
「悪い事が沢山起こるかも知れないから注意しておくんだぞ」
「自分の時と言ってる事が違う!?」
ひどい、と泣きつくキリアンに、ナタリアは「判った判った、良いこともあるさ」となだめている……そんな横ではコハクが一枚の花びらを手にしつつ。
「沢山付いた……」
尻尾に花弁がくっついたので、それを皆で一枚一枚取ったりするのだった。
そんな調子で庭園に到着すると――
「わぁ、綺麗ですね」
桜だけでなく、色彩に溢れた春の木々や花々に満ちていて。その眺めにキリアンは心躍る様子で視線を巡らせる。
「ええ、本当ね……」
と、アウレーリアもそんな美観の中では蝶よ花よのお嬢様らしく、静々とした足取りで歩んでいた。
けれど――そこでふとナタリアが花の間に何かふわふわしたシルエットを見つける。
「猫か。兎もいるな」
「えっ?」
アウレーリアが思わず目を向けると……そこに柔らかな毛並みの猫が数匹。日向ぼっこをしているようで、寝転がってゴロゴロとしていた。
近くでは兎も草をかりかりと齧っていて――こちらもまた真っ白な毛並みが可愛らしく。
ナタリアはそんな野生動物の生の営みを感慨深げに眺めつつ。
「リアもコハクも、こういうの好きなんだろう?」
「ん……」
コハクは応えつつ、既に兎に近寄ってもふもふと撫でている。
そんな様子を見ていると……じっとしていたアウレーリアもまた、もふらーとしての本能が零れ出してきて。
「もふらなきゃ――!」
脇目も振らずそちらへ。
すると興味を持ったのか、猫の方からも近寄ってくるので――
「何て触り心地……! ああ、そっちの猫ちゃんもいらっしゃい!」
あとはひらすらもふもふ。童女の如くきゃっきゃとはしゃぎ、めくるめくもふもふの渦に沈んでいった。
キリアンはそんな様子を眺めつつ、ハルハンに向いて。
「ナルさんはどんな動物が好きですか?」
「そうですね、ボクは……」
と、ハルハンが応えるそこにもまた、のそのそと猫がやって来る。なのでハルハンは羽根ペンでじゃらしてみる。
するとその猫はよじよじと前脚を伸ばしつつ、ごろごろするから――
「ふふ。可愛いですね」
ハルハンは微笑みつつ、暫し猫と遊んであげるのだった。
それも含め、ナタリアは動物と戯れる皆を父性のような感慨を交えて記憶に刻んでいた……が、そこでアウレーリアがふと我に返る。
猫も兎もいいけれど、何とも魅力的な狼と白熊を連れて来ておいてこれは浮気ではないかしら、と。
「という訳でもふらせなさい」
早速ハルハンとコハクを捕まえてもふもふ。
「わっ。ふふ、くすぐったいです――」
「むふー」
そんなふうに二人が瞳を細めていると、傍らでキリアンも微笑んで。
「何だか良いですね。こういう時間って」
「ええ――」
もふられつつ、ハルハンも頷く。
来年も、また一緒に花見がしたい。
そんな思いと共に、はらはらと風に流れ行く桜を見つめていた。
「ここにするか」
春色に溢れる広場の一角で、だわは足を止める。
うん、と応えるのは隣に並ぶサラ。食事にもぴったりな場所だからと――二人で腰を下ろしていた。
「桜が綺麗だ」
そこは丁度雄大な木の下。
だわが仰ぐと、さらさらと優しく枝が揺れていて……サラも頷く。
「うん、きれいだ、ね。花びらが、ひらひらって、踊ってて、楽しそう」
「ああ……穏やかで落ち着く。平和だな」
美観を楽しめつつも、快い静けさで。
遠くの賑わいも時折眺めつつ、二人は早速弁当を取り出した。
出来合いではなく、それぞれが作ってきたものである。
「お前は、何を作ってきたんだ?」
「わたしは、ね。シャルガネ風の、おにぎり、だよ。シャケと、おかか! あとね、玉子焼きも」
「成程、美味そうだな」
「ん……だわおにいちゃんは?」
「俺か。これだ」
と、だわは蝋引きした紙を開ける。
そこに入っているのはサンドイッチ。味付けした肉と山菜を柔らかいパンに挟んであり、食べやすいようにふたくちサイズに切ってある。
サラはわぁ、と仄かに瞳を輝かせて。
「だわおにいちゃんも、お料理、するんだ、ね」
「ああ」
だわは頷く。以前は出された飯を食う側だったけれど、今ではすっかり作る側だ。
見目にも綺麗なサンドイッチに、サラは見入っている。
(だわおにいちゃんの作った、ごはん、食べてみたいなぁ……)
それから、そうだと思いついて。
「ね、お弁当、交換、しない?」
「交換……そうだな、お前が作ったのも食べてみたい」
という事で二人で弁当を近づけて。
「わたし、おにぎりと、玉子焼き、あげる。おかかで、いい?」
「……ありがとう。おかか、美味いよな。では、こっちも」
言ってだわが幾つかサンドイッチを差し出すと、サラはぱぁっと笑んで受け取って。
「わぁ、ありがとう!」
それから「いただき、ます」と大切そうに口に運ぶ。
かぷりと齧るとと……程よいしっとりさにまた笑みを零していた。
「えへへ、おいしい、ね」
「口に合ったか。良かった」
「これは、どうやって、作ってる、の?」
「これか。調味料に漬け込んだ肉と、山菜に火を通してな……」
説明していくと、サラは一つ一つ頷いていく。
そんな様子も眺めつつ……だわもおにぎりと卵焼きを頬張る。
仄かな塩味と、ふんわりした食感。そこにサラの優しさも感じられて――だわは嬉しげに目を細めた。
「……ん、美味いな」
「……うれしい」
サラも微笑みを返す。
と、そこにはらりと桜が踊る。流れる優しい時間が、花を一層美しく見せていた。
「おや」
涼やかな着物でそんな街を散策するヨル・スレイマンは――ふと神社に見知った人影を見つけていた。
それはナハシュ。丁度甘茶の湯呑を受け取っていた所で……気づいてヨルに振り向く。
「おう、来てたのか」
「神社にいるの珍しいなと思ったら……それは?」
「甘茶。タダだってよ! しかも甘いらしいし、これはもうお前向きだな」
「へえ。じゃあ、一緒に飲むかい」
という事でヨルも受け取り、境内の一角に隣り合って座った。
そこもまた桜が満開。広場よりは穏やかで、長閑な眺めだ。
「桜が綺麗なのはシャルガネのいいところだよね」
言いつつヨルは甘茶を一口。ふくよかな甘みを楽しむ。
ナハシュも「そうだな」と言って甘茶を味わうと……目を白黒。砂糖とは違う、その特有の甘さに少々見下ろした。
「確かに甘いな、こりゃ」
呟きつつまた飲むけれど――半分ほど飲んだ所で残りをヨルへ。
「やっぱ甘すぎるから、やる。こりゃしょっぱいのと飲みてえなー」
「じゃあ今度はそうしよう」
言いつつ、ヨルはひとまずそちらも飲んでから……共に散策に歩き出した。
途中、目を留めたのは流鏑馬。駆けゆく馬と、矢を放つ射手の姿にナハシュは感心の口笛を吹く。
「ひゅー! 騎馬賊みてえ!」
「馬に乗りながら矢を射るのはなかなか器用だね。君はああいうのも結構得意そうだけど」
「どうかな。あんま弓は使わねえからな」
ナハシュは首を傾げた。
「案外やったら当たらねえかもしれねえよ。空いてそうだし、確かめてみるか」
「やるの? いいけども――」
ヨルは応えつつ、そうだと思いつく。
「三つ的を射るんだろ? 少なかった方がこの後酒を奢ることにしようか」
何事も楽しまないとね、と。
それにはナハシュも乗り気だ。
「おっ、いいぜいいぜ? なら勝負は一回。酒は此処の高級米酒だ!」
という訳で二人で参加。
それぞれの馬を慣らしつつ、弓の感覚を確かめる。
「改めて使おうとすると、やっぱり独特だね」
「しなりがかなり強いな」
ナハシュも矢を番えつつ呟く。東方色の強い弓は平素使わない為、特有の感触で。馴染むのは簡単では無さそうだった。
それでも数度の試射をして……まずはナハシュが出走。
(こいつは、中々――!)
馬は乗れても、慣れぬ弓との兼ね合いはやはり特殊。的には当てたが、三射目は掠めるに留めた。
続くヨルは――
(成程、これは不安定だ)
こちらも揺れ動く視界に難儀しつつ、一射目は掠め、残りは的中させていく。
馬から下りて、割れた的を確認すると……
「同点って所だね。引き分けかな」
「じゃ、どうする?」
「まあ、二人で買って飲むとしようか」
ヨルが言うと、ナハシュは「おう!」と応えて……また二人で並んで歩む。
思いがけず共に花見が出来た事が、ヨルには嬉しくて。
(御神籤は引き損ねたけど、これは幸先が良さそう、かな)
思いと共に、華やかな景色の中を進んでいった。
花の淡い香りの中に、芳しい湯気が漂う。
桜広場の一角にて、サイラスは町人に交じって料理を始める所だった。
「さて、今日はと」
用意したのは寸胴。
そこには鶏ガラや干した小魚を、前日から煮ていたスープが入っている。
それを改めて火にかけつつ……醤油と味醂、砂糖を煮溶かした“かえし”も同時に作成。
ネギを刻みつつ、ついでに作った煮卵の様子も見ながら。
「あとはこれかなー」
取り出したのは豚肉を塊で煮たものだ。
こちらも醤油ベースに、生姜も効かせていて……厚めにスライスすると食欲をそそる。
それに少々周りの目が集まるのも、さもあろう。
次にサイラスが用意したのは、小麦粉で練った生地。それを包丁でリズミカルに切って――卵色が美しい麺が出来た。
この街で主に食される蕎麦やうどんとは、趣の違ったもの。
それを茹でていくと……大きめの器にかえしとスープを投入して。
「もう一品いけるか」
と、冷えた白米を取り出し、豚肉の残りを賽の目に切って卵と共に炒める。
香り付けに醤油も入れて、焼き飯が出来ると……そこで麺をさっとすくい上げ、器の方に入れて麺定食の完成だ。
「これでいいか」
桜花弁のペーストを使ったアイスも準備済み。
それらを並べると、サイラスは早速試食。つるるっと麺を啜り、食感とスープのハーモニーを確認した。
焼き飯もパラパラに仕上がっていて、桜アイスも香り高く。
「ま、よく出来たかなー」
花見をしながら、美味なひとときを送ってゆくのだった。
「今年も桜の季節ですね――!」
風に花舞う美観の街を、エルナ・クルプファルツは歩みゆく。
可愛らしいピンクの花弁に視線を奪われながら、散策するだけでも心楽しいけれど……「あっ!」と神社を見つけるとまずはお参り。
「――」
祀られた神様へ手を合わせ……未知の環境を旅した冒険の数々を語って聞かせて。
参拝が済めば、馬場を駆けゆく馬の姿に目を留めた。
「ヤブサメと言うのですね!」
わくわくと瞳を輝かすエルナは、その足で参加。
馬を撫でて、信頼を築いてからしっかりと慣らしつつ。乗って駆け出すと共に弓弦を引き絞って。
「えいっ!」
瞬間、放った弓は的中。
三つの的を綺麗に射抜いて歓声をさらうのだった。
「動いたら甘いものが食べたくなってきましたね!」
という事で次は甘味屋へ。
まずは綺麗な桜餅を買って、実食。
「もちもちです!」
綺麗な見た目と優しい甘さを楽しんで。
串団子もみたらしと餡子を購入しつつ、お茶も用意して桜の下へ。
敷物に座って満開の花を仰ぎながら――団子を口に運び、お茶もズズズ、と啜って一息。ほっと和む気持ちで花見を楽しんだ。
「……去年は脳がつるつるだった気がしますねぇ~」
その時の気持ちも思い出しつつ、まったりと時間を送って。
「こうして、どこからでも桜が見れる……なんだか不思議な世界に来た気分です!」
散策を再開すれば、あらゆる角度の桜が鑑賞できて……エルナは暫し、そんな桜色の時間を楽しんでいった。
ツツジに菜の花、そして桜。
春色の旺盛を迎えた翠の園へ、フリューリングスルフト=ティエラは子兎のイュンと共に訪れていた。
「今年も綺麗な桜が咲いてるさぁ♪」
彩り豊かな景色を眺めて、心が楽しくなれば――思い出すのはここで踊り歌った事。
だから今年も新たな春に、舞いと旋律を。
思いと共にイュンを肩に乗せ、扇を開いて。
――薄紅色の君、再び会えた喜びをここに歌おう。
――桜、美しき君。会いたいと焦がれた時間、共にする今、すべてが愛おしいと。
――今ならわかる気がするんだ。
成長と心の変化故だろう、あの頃から歌も変化しつつ。
舞いも一層巧みで、艶やかで。時の移ろいを噛みしめながら――フリューは花弁をそっと掴み、持ち帰る事に決めた。
「――うん」
その後は川下へ。
「お! 何かやってるさぁ」
釣りだと聞くと、早速自分も参加。本格的な釣り竿を用意して。
「やるからには本気さぁ!」
集中を高め、エーテルの波も駆使して……気配を見つけると糸を上手く操り、餌に食いつかせる。
瞬間、餌を取られる前に先手を取って釣り上げて。
「獲ったどー!」
艶めく大振りの虹鱒をゲット。
食べる分以外はリリースする事にして……大物は墨を使って丁寧に魚拓を取るのだった。
「いい記念になったさぁ!」
その出来栄えに人々も盛り上がる中、フリューは歌も歌ってみせて……催しに一層の興を添えるのだった。
嫋々と響く、風流な音色。
「綺麗な演奏……」
桜の下、耳朶に触れた音楽に惹かれて……アステルは楽師達の姿を見つけていた。
三味線に琴、小鼓。
東方由来の旋律とリズムは美しくも雅で――暫し聴き惚れたアステルは、だからこそ自身も参加してみたくなって。
「いいかな?」
「是非、ご一緒に」
そう応えた楽師達と共に、アステルはフルートをそっと奏で出す。
すると玄妙な曲の中に、透き通る音色が美しく溶け込んで。風情に煌めきを与えるように、豊かな響きを加えていた。
龍笛の強い音に対し、柔らかなフルートを重ねると、それもまた無二のハーモニー。人々の足を自然と止めさせ、その耳を傾けさせていた。
「ありがとう!」
演奏が終わると、拍手する人々や礼を述べる楽師達に自分も礼を返して……東屋に寄って暫し休憩する。
そこは広場の中心よりもゆったりと時が流れていて。
「静かな中で見る桜も綺麗だな……」
ふと、そうだと思いつく。
「絵、描こう!」
早速筆をとり、色をのせはじめた。
楽しさと、綺麗さ。今日感じた事、目にした事、耳にした事までもを目いっぱいに詰め込むようにして。
「こんな感じかな――?」
単に花を描き写しただけじゃない、生き生きとした桜色。
爛漫なその一枚は、眺めているだけでも楽しくて。アステルはゆっくりと時間をかけて、その色彩を完成に近づけていくのだった。
桜広場の中に、一際行列の伸びる一角がある。
それは良い香りを漂わす――やおよろず亭の出店した屋台だ。
「大繁盛なのだ~!」
粽と共に客足を確認してきた大福は……改めて店に戻って品揃えを確認していた。
今年は多彩なチマキをメインに据えており――桜おこわが綺麗な惣菜チマキや、桜白餡入りの甘味チマキにと、食事もデザートも網羅。
勿論どの品も人気で、周囲はそれらを手にした人々で賑わっていた。
俄に忙しくもなってきたので……大福は母に声をかける。
「おっ母、店番も手伝うのだ~」
「あら、ありがとう」
でもね、と。母は柔らかに笑んで申し出を遠慮した。
「大福も粽も『冒険者』としてこの一年頑張ってきたんだから。今年は招かれた側として桜の季節を楽しんでおいで」
「おっ母……」
深い優しさに満ちた言葉に、大福は涙を堪えながらも……キリッとした表情を見せる。
「ありがとうなのだ! 粽、今日はいっぱい遊ぶのだ!」
わふ、と粽が応えると、大福は粽も食べられる薄味のチマキを幾つか貰って……広場を出発。
まずは町長を見つけて――
「おや、大福さん。いつもお世話になっています」
「こちらこそなのだ!」
そんな挨拶を返すと、はらりと降る桜の下で占い。小さな手でももっちりと、三枚の花弁をゲットした。
翠の園では粽にも釣り竿を咥えてもらって。
「一緒に釣り上げるのだ!」
言葉通り、強い引きを感じてざばぁん、と釣り上げたのは大振りな虹鱒。お刺身入りのチマキも出来そうだとお持ち帰りしつつ、改めて街を一周する。
「今年もにぎやかなのだー」
見慣れた愛しい風景に、皆の笑顔。
出会えるその全てが嬉しくて。桜の木陰を見つけると粽と共に寝転がった。
「粽、大福この街が好きなのだ」
すると粽も同意するように喉を鳴らす。
そうして見合っていると、互いの鼻先に……桜の花弁がひらり。
一緒に盛大なくしゃみをして、笑い合って。
「粽! 一緒にちまき食べるのだ!」
桜の街で、桜色の優しい味わいを。そんなひとときが、とても幸せだった。
華やかな桜色の広場へ、ベルク・オスマットはヤウズ・オスマットと共に歩み入っていた。
「良い景色じゃ」
「そうだねぇ」
ヤウズは頷きつつ、ベルクの顔をちらりと見やる。
その顔には嬉しげな色があって……目を向けたベルクは応えるように言った。
「父様をはじめ、一族はみな今も行方知れずだからな。ヤウズだけでも無事でよかったのじゃ」
ヤウズの瞳には賢者の石――他でもないホムンクルスの証がある。
だから全てが元通りという訳ではない。それでもこうして再会して、共に時間を過ごせる事がベルクには嬉しかったのだ。
故に屋台を見つけるとそちらに歩みを向けて。
「再会の祝いだ。ヤウズも好きに飲んで食え、お代は全部妾が持つぞ♪」
「うん」
ヤウズもこくりと頷いて、それに続く。
そうしてまずは酒を手に入れると、それに合いそうな筍ご飯も入手して。各種の刺し身も揃えると……桜の下に座った。
早速、食事を始めると――
「これは旨い」
虹鱒の刺し身は程よく脂が乗っていて美味。
筍ご飯も香り高く、優しい味わいで……春の味の相性の良さを実感する。
「本当だ、おいしい」
ヤウズもその美味を味わっていると――ベルクが「むっ」と何かに反応していた。
他でもない清酒である。
「この食事と良く合うな」
透き通った味は刺し身やご飯をより風流な味わいにしてくれる。ただでさえ酒好きなベルクは……くい、くい、と次々に瓶を空けていた。
仄かに頬も赤くなっていて。
「お姉ちゃんは相変わらずお酒好きだねぇ」
ヤウズはそんな様子に呆れつつも懐かしさを覚える。
「お父さんのお酒盗み飲みして怒られてた頃から変わってないよ」
「むー、そんな事……あったな」
ベルクは半眼気味ながら、その事をありありと思い出していた。
こっぴどく叱られたものだが――それも今では郷愁を覚える記憶だ。
家族の思い出話をするなんて、今までは出来なかったから。
「ヤウズ、もっと食べたいものはないのか」
「えっ? うーん、じゃああれ、たい焼きかな」
ヤウズがそれを見つけて指すと、ベルクは早速二人分買ってきて。再びヤウズの隣に座ると、一つを渡して上機嫌に食べ始めた。
「ここの酒は甘いものにも良く合うのじゃ」
「ん、美味しい」
ヤウズは自分もかぷっと食べつつ……ベルクを見て微笑む。
皇帝派から解放されなければ、この穏やかな時間は送れなかったろう。
「ほんとに、良かった」
「ん……皇帝派は……絶対に根絶やしじゃ……」
見るとベルクが酔い潰れている。
だからヤウズは膝枕をしてあげた。昔から背の変わらぬ姉。その頭を撫でつつ、仰ぐ桜は……淡く優しい色合いをしていた。
「とっても綺麗……!」
桜に溢れた広場の中、ルルト・アーキスは猫のタマさんとお留守番。
薄紅の色彩の中、楽しげな空気にわくわくそわそわとしながら視線を巡らせていると――そこに歩んで来るのがアルバス・ロウル。
「ただいま!」
「おかえりー!」
ルルトが笑顔で迎えると、アルバスも笑みを返して隣に座った。
「いい席があったな」
「桜がよく見える特等席なんだよ♪ ……わわっ、いっぱいだね!」
と、ルルトが目を輝かせるのは、アルバスが沢山の食べ物を買い込んで来ていたからだ。
頷くアルバスは品々を並べてゆく。
「また珍しいものがたくさんあったぞ」
色味の良い筍ご飯、香り高いお吸い物、揚げたての山菜の天ぷら。
どれも美味しそうで……何よりルルトが喜ぶ様子が目に浮かんで、つい買いすぎてしまったのだった。
「では、食べるか」
「うん!」
という訳で早速二人で頂きますをして実食。
筍ご飯はふわりと春の香りが立ち上る上品さ。味も優しくて、お吸い物の玄妙な塩加減とも相性抜群だ。
天ぷらは勿論、さくさく。
その食感も楽しくて、ルルトは思わず笑みを零す。
「ふふふー、どれも美味しいね」
「ああ。どれもうまいな。外で花を愛でながらの食事もいいものだ」
アルバスは言いつつ美しい桜にも目を楽しませていた。
季節の景色と美味。それをルルトと共に堪能出来るのが何より嬉しかったから。
タマさんにも、ルルトがおやつを準備している。それをかりかりと囓るタマさんを、アルバスは時折撫でてあげつつ――
「スイーツはどれがいい?」
花見団子、桜餅、御手洗団子、桜ムースも並べてゆく。
ルルトが目に留めたのは――
「あっ、このお団子かわいい!」
という事でそれをはむりと頬張って、ご機嫌。
「では俺も」
と、アルバスも団子を味わい、さらに他の甘味も楽しんで。撫でられるタマさんも、ごろごろと喉を鳴らし――皆で和やかに時間を送った。
だけでなく、楽師の雅な音楽が聞こえてくればルルトが耳を澄ませて。
「ねね、ボクたちも交ぜてもらおうよ!」
「それは楽しそうだ。行こう!」
アルバスも頷くと、二人で秋に教わった三味線を手にして――そこへ参加。
楽師が琴で流れるような音を弾けば……二人は視線を交わし、そこに明るい旋律を加えて。アルバスが体でもリズムを刻めば、ルルトも呼応するように弾むような音色を鳴らした。
桜を背景に、響くのは華やかで鮮やかな音楽。
この春も、その後も、楽しさに溢れる時間がやってくる――そんな期待を込めるように。
「楽しいね!」
「ああ」
ルルトの言葉にアルバスも同じ心で応える。
そのメロディに踊るように、桜が楽しげにそよいでいた。
「わぁ、今年も満開だね……」
道に連なる桜に目を奪われたように――ララベル・サン・ディーベルは明るい笑顔を浮かべていた。
ふしぎ亭の仲間と共に、街へやってきた所。アリエッタも視界に広がる桜色の景色に楽しげな様相を見せている。
「とっても綺麗だね」
「風流というのかしら、いいものね」
と、テュリン・ヴィングも頷いて視線を巡らせていた。
風に揺蕩って踊る花弁は美しく、時折聞こえる琴や三味線の音色もまた雅。
ゴルバルティアも見回しながら感心の色だ。
「もうこんな桜の綺麗な時期になったのか~。って私がゆっくり立ち止まって見てたりしたら邪魔になるか……」
言って歩み出すと、ララベルもたたっと走り出して、にこっと皆に笑む。
「それじゃあ皆、早く行こうよ」
「ああ――」
と、それに軽く返事をするアーテミシアはというと――
「まあオレは春眠花よりナントカってやつだけどな……」
見回しながら目に留めるのは、屋台の並ぶ一角。
ララベルもそれを見て、「それじゃあ」とそちらに向いて。
「何か買ってから散歩しよっか?」
それに皆も頷いたので――苺飴やたい焼きなど思い思いの食べ物を買ってから、散策を始めてゆく。
「甘くて美味しいね」
苺飴をはむはむと齧りつつ、アリエッタは皆と一緒に道を進む。
飴の甘さは濃いめで、中の苺は甘酸っぱくて。そのコントラストを楽しんでいると……ふと並木に差し掛かった所で前方に気づく。
「あっ、子供達が何かやってるよ。何だろう」
見ると花吹雪の下で手の器を作っていて――あぁ、とテュリンが顎に指を当てた。
「そういえば、一風変わった占いがあると聞いたわね。あれがそうなんじゃないかしら?」
確かに子供達は、花びらの枚数で一喜一憂しているようだ。
「折角だし皆でやってみない?」
「要するに、目ェつぶってぱっと花びら取りゃいいンだろ?」
アーテミシアは言うと、すぐに目を閉じて……後は軽く腕を前に出しながらさっと虚空を握ってみせる。
それから手を開いて。
「これでいいのか」
「三枚……仕事の吉兆だっけ? わぁ、楽しみだね」
ララベルは覗き込んで、どこかワクワクとした様子だ。
アーテミシア本人はと言うと、仕事は言われずともこなすつもりなので感慨というほどのものはないけれど――
隣のゴルバルティアは「せっかくだしな♪」と乗り気気味で。
「これでいいのか?」
と、目を閉じると早速手で器を作って……掬ったのは一枚の桜。
「一枚って……なんだかあんまりいい結果じゃなさそうだけど……」
「確か、未知の出来事の吉兆だったよね」
ララベルが言うと、ゴルバルティアは首を傾げつつ。
「うーん、分かんねぇ……」
まあ、何かいいことがあるなら楽しみにしておいてもいいかも知れない。そんなふうに結論付けたのだった。
その横ではテュリンも挑戦中。
「私は……と、あら、沢山ね」
掌には十枚ほど花弁が舞い降りてきていた。
結果としては良悪織り交ぜた前触れとされているが――
「ま、悪く無さそうね」
テュリンは深刻には捉えない。
というのも、何かが来る気配があるのなら備えておけば良いだけの話だと思うからだ。
「まあ、基本的には、ね……」
ぽつりと呟いていると――そんな隣ではアリエッタも興味津々。
「じゃあ次はあたし」
と、自分も目を瞑って手の器を作り……風を掬ってみせる。
するとそこにのっている花びらは、二枚。
良縁の吉兆ではある。けれど考え方によれば今ある縁が進展する兆しでもあり――アリエッタは何となくララベルを見てから、少し照れたように首を振るのだった。
そのララベルはというと――
(更に急接近とか、吉兆が出るといいな……)
恋人達の事を思いつつ、宙に手を差し出している。
と、ばさばさっ!
「ふわぁぁぁ!」
花弁が山盛りに落ちてきてびっくり。
勢いに引っ張られるように前傾になると……伸ばしたままの腕が、目の前にいたアリエッタの胸に触れて。
「わっ、ごっ、ごめん!」
それに驚いて大きく後ろに下がると――今度はそこにいたテュリンと激突。もみくちゃになった結果押し倒す事になるのだった。
テュリンは覆い被さられたまま、ため息をついて。
「やっぱりね……判ってはいたわよ。備えが出来ない事もあるって事は……」
それにララベルは「ご、ごめん!」と顔を真赤にして。慌てて飛び起きて平謝りをするのだった。
そんな出来事もありつつ、一行は川辺へ。
「川にも花弁が流れてきてて綺麗だね……」
その美観にララベルが見とれていると……ふと川下から賑わう声が聞こえた。
アリエッタはわぁ、と指をさす。
「釣りやってるよ」
「楽しそうだね。折角だから勝負しちゃおうか?」
ララベルの言葉に皆は頷いて……早速釣り竿も用意して始める事にする。
「ま、寛げそうだしな」
と、アーテミシアは十二分な量の酒を買ってきて、それを傍らに寝転がり。竿は地面に差したままゆるりと過ごし始めた。
皆もそれぞれに針を水面に沈めてゆく。
ゴルバルティアも慎重に針を投入すると……ゆるゆると動かして感触を確かめつつ。
「うーん……餌に食いついてるとか、私には全然わかんねーけどなぁ……」
「大きい引きが来たら判るかもしれないよ?」
ララベルの言葉に、テュリンも頷いて竿をしならせ――ちゃぷんと餌を着水させていた。
「こういうのは焦らず待つ事が大事そうだからね。慌てず行きましょ」
「うん」
と、アリエッタも楽しげに餌をくくりつけて。ひゅるりと勢いをつけて針を飛ばし、流れの良い場所に沈めていた。
すると早速くいくいと糸が引く。
「あっ、来たみたい」
それを逃さず一気に引き上げると……銀色の美しいイワナだ。
「わぁ、釣れたよ」
「へぇ……」
中々良い獲物もいそうだな、と。
アーテミシアは感心混じりの目も向けつつ、あくまで自分はごろごろと。杯を傾けて、そよ風にも涼みつつ……寛ぎながら引きを待つ。
勿論、餌に食いついたと見ればしっかりと引き上げて。こちらも大物の虹鱒をゲット。
「こっちにも来たわよ」
と、テュリンも暫し格闘しつつ、最後には二匹連なったヤマメを釣り上げた。
「わぁ、皆凄いね」
ララベルは自分も負けじと一度針を戻し、再度気合を入れて竿を振る。
と、着水もしてないのに何かに引っかかった感じがして――
「あれ?」
「ってベル、スカートスカート!」
見るとテュリンのスカートが針で捲れ上がっているのだった。
「はわわわわ……!」
ララベルは真っ赤になって針を取ろうとするが、引っ掛かりが強くて苦戦。その内に用具に躓いて転び――アリエッタの胸に飛び込む形で倒れ込んだ。
「わっ……」
アリエッタは少々ぽかんとしてから、仄かに顔を赤くする。
「ごっごめん、わざとじゃ……!」
ララベルは起き上がろうとするも、今度は水辺で滑って落ちそうになった。
それは何とかゴルバルティアが支えるも――
「ってどこ触ってんだっ!」
不可抗力気味に触れてきたララベルに、ばちん。ビンタで頬に紅葉を作るのだった。
そんな事もありつつ――
「っと。よく出来たわね」
テュリンが一番の大物で魚拓を取る。紙にいっぱいになるほどの大きさに、皆も拍手を送るのだった。
そうして最後には焼き魚を作って。
「ん、美味しいね……!」
ララベルの言葉には皆も頷く。
香ばしい匂いに、美味。そして桜の景色――春を満喫して、皆で楽しい時間を送っていった。
「華やかな景色だなぁ」
桜色の街を、パヴェル・A・サムルガチェフは散策していた。
通りは絢爛ながら賑やかで。開放的な空気が楽しい気分にさせてくれる。
「何か食べたいものはあるかぁ?」
「そうですね。では、飴を」
と、応えるのは行き掛けに誘った遊女。屋台の苺飴を所望するので、パヴェルは自分も買って一緒に味わう事にして。
「ん、甘くてうまいなぁ。あれも買ってみるかぁ」
隣の屋台でたこ焼きや焼きそばを見つけると、それらも購入。その食べっぷりに遊女もくすりと笑んでいるのだった。
と――
「あれは……流鏑馬?」
神社の一角でそれを目に留めると、パヴェルは興味を惹かれる。
「まあ、馬に乗って弓矢を?」
遊女は言いつつも、期待の視線を送ってもくるので……パヴェルは「やってみるかぁ」と参加する事に決めた。
早速、相棒となる馬を慣らしてから馬場を前にして。
「真っ直ぐ駆ければいいんだな」
先にやっていた者達の見様見真似にはなるけれど、それでも弓の感触を確かめつつ……出走。
(おぉ――)
すると、浴びる風と揺れ動く視界で狙いを定めるのが難しい。
ただ、それでも意識を集中。髪を靭やかに靡かせながら弓弦を引き絞って――射撃。三つの的を見事射抜いてみせた。
「ふぅ、疲れたなぁ」
馬から下りると、そんな声も零れるけれど。
「とっても素敵でしたよ」
遊女もそう言って出迎えてくれるので、パヴェルは微笑んで。また共に桜の下へ歩み出す。
「シャルガネ……どういう所でしたっけ……」
セロリ・サーティーンは街をゆるりと歩んで巡っていた。
その風流な景色に、刺激される記憶もある。
けれどその記憶自体は思い出せない。それは自身がホムンクルスとなったからなのだろうとは、判るけれど。
「……とにかく、楽しみましょう」
賑やかさと桜色の景色に惹かれたのは事実。
なら、これが少しでも自身の心を癒せればいい。
故にと、まずは神社へ向かうと――そこで甘茶を供された。
「お金は要らないんですね……」
言葉に甘えて飲んでみると、ふわりと優しい甘味が広がる。
「あ、美味しい」
その温かさがどこか心地よくて。
舞い散る桜も美しく、それを眺めると心が和む思いだった。
その足で、お参りにも挑んでみる事に。
「えっと……二回お辞儀して二回手を叩いてもう一回お辞儀……」
作法を教わりつつも、完全には理解しきれずに。きょろきょろと見回して少々挙動不審になってしまうけれど――最後には完遂して。
――世に安寧が訪れますように。
そんな思いと共に参拝を終えた。
その後、ついでにおみくじも引いてみると――
「末吉……」
読んでみると仕事や縁について良し悪しあるようで。
「末吉って良いんですか悪いんですか……?」
そんな疑問を抱いて、聞いてみると概ね悪くないらしいと回答を得たりして。
「もう少し、桜を見ましょうか」
再び甘茶で休憩。桜をのんびり眺めて、寛ぎの時間を過ごすのだった。
二度目の桜の季節は、一層快く感じられて。
「う~ん、と――」
伸びをしながら、アルフィー・リッパーは広場を歩んでゆく。
(桜ってのはなんか人を温かい気持ちにさせるな)
仰ぐのは夜桜。
煌めく星空と、淡いピンクの花びらのコントラストが美しく幻想的で――風に揺れる様もどこか優しい風合い。
いつもは日中見ていたから、今年は趣も違って見えた。
そうして少し歩んで、静かな桜のもとに座り。そっと話しかけるのは尻尾のリボン――大切な友人の形見だ。
「なあ、見れるか? 桜と星空だ……」
まるで一緒に仰ぐみたいに、自分も視線を一度上にやる。
それはやっぱり、とても美しいけれど。
(ルーシェと見れたらどんなに綺麗だったか……)
二人で感動して、祭りもはしゃいで回れただろう。
それは多分とても幸せな時間で。きっと夢のようなものなのだろう、と。魅力的な景色だからこそ思いが心に生まれてくる。
それからふわりと尻尾を揺らし――目を閉じては彼女を思い描く。
傍にいるかのように。
その息遣いまで感じられるくらいに。
(きっと君もそこで見ていてくれると信じているから)
だから、と目を開く。
「また来年も来ような、ルーシェ……。その時は、お酒を持って二人で成人祝い、なんてどうだ?」
少しだけ笑みを零して。
舞い降りるのは、静かで儚い花びらだけ。その清らかな景色を、アルフィーは長い時間見つめていた。
はらりはらりと桜が風に踊る。
その中で子供達が占いに興じるのを――並木へ歩んできたアルマ・ヴァレンタインとエヴァン・ピオネロは眺めていた。
「桜の花びらで占うなんてなんだかオシャレだねー」
「ええ、シャルガネらしくて楽しいですね」
二人で笑みを交わすのは、勿論自分達もやってみたいと思ったからで。
「エヴァくん先にやってみるー?」
「はいっ。では――」
と、まずエヴァンが目を閉じて「エィッ」と掬うと……その手には花弁が一枚。未知の良運に、エヴァンは嬉しげな顔を見せる。
「吉でした」
「どんないいことが起きるか楽しみだねー」
笑みを返したアルマが次に挑戦すると――掌に優しい感触。二枚の花びらがそこに舞い降りてきていた。
「良縁、かー」
それも吉兆を示すもの。
だけれどアルマは照れたように表情を和らげて。
「ボクはもう十分恵まれてるけどね」
そう呟くから、エヴァンも照れた気持ちで――
「お互いにあたりましたね」
そんなふうに頷き合うのだった。
それから本格的に広場の散策へ。鮮やかな桜並木を眺めながら……エヴァンはアルマをそっと抱き上げている。
「ふふ、すっかり抱っこしてもらうのが当たり前になったねー」
「そうですね」
アルマの顔も声も、近くなってエヴァンも笑みを零す。
アルマもそんな笑顔が傍で見られるから嬉しい気持ち。だけでなく、桜も出店も遠くまでよく見えるから。
「あ、あれ美味しそうー」
と、苺飴を見つけるとエヴァンも「本当ですね」と興味を惹かれて購入。濃紅の美味を一緒に口に運んだ。
「ん、美味しいー」
「甘くて美味しいです……」
そんな気持ちの共有が出来ると、エヴァンは幸せな心持ちで。
歩むほどに桜も美しく咲き誇っていて――空に映える色彩に手も届きそうだから、アルマは一層楽しげだ。
「キレイだねー」
「ええ、本当に」
エヴァンも頷きながら……そんなアルマをすぐ傍で見られるこの場所が、何より特等席だと思える。
だからその嬉しさと、笑顔のアルマに魅かれる心のまま――その頬にキスをした。
「笑顔のアルマが……大好きです」
伝える言葉と共に、見せるのは照れた笑み。
触れたその感覚に、アルマは仄かに目を見開いて――それから淡く顔を赤らめながら、「うん」と頷いて。
「ボクもだーいすき! だよ」
素直な想いと共に、自分もまたお返しのキスをした。
まるで花が触れたような感触に、頬がくすぐったくて嬉しくて――エヴァンは瞳を細めてから、また抱き上げる腕に力を入れ直す。
「次は向こうを見ましょうか」
「うん。おデートは続くよ、どこまでもー……! だねっ」
「はい、どこまでも行きますよー」
そうして二人でまた前へと進む。
風にそよぐ桜のアーチが、二人を祝福するように――鮮やかな花弁を頭上に舞い踊らせていた。
「では、ここで仕上げをしよう」
花の薫る桜広場に、温かな湯気が昇る。
人々が料理をする一角で……エル=バ=ノイアンもまた料理をするところ。
準備を隣から興味深げに覗き込むのは、海神・江流だ。
「それで、ノイアンは何を?」
「ハモだ。真鯛も用意した」
言ってまな板においたそれは下拵え済み。湯引きし始めると……同時に真鯛はムニエルと焼き魚にしていく。
「美味しそうね」
「ああ、楽しみだ」
と、それを眺めるのはルベア・ベルニと、シルヴィア・A・カペル。
花見にあたって、一人一品おすすめの品を用意する――。そんなふうに決めてきた結果ノイアンが用意した春の魚に、興味津々なのだった。
ノイアンはハモに海藻も添えてハモちりにすると、白焼きも用意。丁度真鯛の方も焼き上がってきて……ぱちぱちと快い音が響く。
「後は、ハーブ塩と山椒で味付けして……こんなものだろうか」
「香りも良いね」
シルヴィアがそんなふうに期待感を高めていると――隣では江流も作業を始めていた。
ルベアがそちらに目を向ける。
「江流さんは何を?」
「ん、こっちはカブ」
と、江流は丁度そのカブの皮を剥いているところ。
さりさりと手際よく、無駄なく剥き終わると――カブは綺麗な薄切りにして。
「あとはこれで、と」
傍らに用意したのは桜の塩漬け。彩りも良いそれを薄切りと和えて、少々置く事で……桜の薫る千枚漬けが出来上がった。
そこに買ってきた筍ご飯を添えて。
「シャルガネらしく、春らしくならこんなとこでしょ」
「何だか、素敵ね」
雅な風流さのそれに、ルベアは感心の面持ち。
「ノイアンのと合わせると春の彩り御膳ってトコか」
「ああ。――ルベアは何を?」
と、ノイアンが目を向けると、ルベアは綺麗な包みを用意していた。
「私はクッキーよ」
開いて見せるそれは、可愛らしい形の逸品。
幾つかの色を用意してあるけれど、総じて色使いは淡く……桜の塩漬けがワンポイントのように載っていて、それが目を惹く。
「甘さは控えめにしたから食後とか、お酒にも合うと思う」
「なら、これを持ってきて正解だったかな」
言って瓶を取り出して見せるのはシルヴィア。
それは故郷から持参してきた赤と白のワインだ。
この街で清酒と緑茶も買ってきていて――
「食事に応じて楽しめるだろう? デザートも用意してきたよ」
と、もう一つ、箱に詰めてきたのは苺のシャーベット。マジカルポケットに入れて冷たさを保ってきている。
「練習した上で作ったし、味見もしたから味は保証するよ」
食べる時にまた出すよと言うと、三人も楽しみに頷いて――桜の傍で早速食事会だ。
「ずいぶん豪華な装いになったな」
色も香りも豊かな品々に、そんなふうに言葉を零しつつ……ノイアンはカブの千枚漬けをまずは食べてみる。
「これは……不思議な風味だ」
程よい歯ごたえと共に、瑞々しさが感じられて。桜の香りと仄かな塩味が食べるほどに食欲をそそるのだ。
「癖になりそうだな」
「本当だね」
シルヴィアもそれを食べて頷いている。筍ご飯も、旬らしい柔らかさと旨味を持った筍が、香り高く……千枚漬けとも良く合った。
ルベアもその両者を少々興味深げに頂いている。元々食べた事のない組み合わせだったからというのもあるけれど。
「春っぽい食べ合わせね」
どちらも味が濃くなく、優しい風合い。
それがこの景色の中で食べる食事としても、相応しいという気がした。
「ありがとう。こっちも頂こうかな」
と、江流が視線を注ぐのはノイアンのハモだ。
ノイアンはそこへポン酢を用意して。
「ハモちりはこれで食べるのがいい。酒にも合うはずだ」
「ポン酢か。良さそうだな」
早速江流がそれで口に運んでみると……淡い弾力と柔らかさを併せ持った白身が、ポン酢をよく絡める。ハモ自体の旨味もそこに加わって、得も言われぬ美味だ。
シルヴィアは白焼きもはふりと食べて瞳を細める。
「この魚はさっぱりとしていて良いね」
何より焼き加減が上手く出来ていると判るから。
「流石料理上手だ」
「ああ……ありがとう」
ノイアンの応えにふっと笑むと、シルヴィアは皆も見回して。
「清酒にもワインにもよく合うよ」
「そうだね。清酒は勿論だけど……このワイン自体が美味しいのもあるかな」
と、江流は杯を傾けてそれを味わっている。
赤ワインは芳醇ながら穏やかな風味で、白ワインは優しい口当たりながらフルーティ。どちらも料理の味を邪魔しない、透き通った美味だ。
ルベアもお酒は程々に楽しみつつ。
「鯛の方も美味しいわ」
ムニエルはほろりと柔らかに焼けた身が濃厚な味わい。焼き魚はぱりぱりと、皮まで美味しい逸品だった。
そうしてそこそこに食事が進むんだ所で、ルベアはクッキーを皆へ。
「ありがとう」
言って受け取ったシルヴィアは、早速一口。
かぷりと齧って、ん、と少し瞳を開く。
「美味しいね」
クッキー自体が丁度よい焼き加減で、かりっと噛む事に淡くバターの風味が広がる。そこに桜の香りと味が加わって……東方風の趣ある美味に仕上がっていた。
ノイアンもかりかりと齧って頷いている。
「美味だ」
「ご飯の後にぴったりな感じだね」
江流もそんなふうに言って舌鼓を打っていた。
最後のデザートには、シルヴィアのシャーベットを。苺の甘酸っぱさと、快い冷たさを……ノイアンはゆるりと味わう。
「最近は暖かくなってきたからな。清涼感があって良い」
「そうね。冷たいのも、美味しい――」
ルベアもスプーンで口に運んで頷く。
その美味と、眺める桜の景色に……感じるのは心地よさだ。
ルベアの両親が居なくなったのは、どちらも春だった。だから別れのイメージが強すぎて、以前は春が嫌いだったけれど。
(……)
今はものの見え方や感じ方も変わってきて――
(ちょっと好き……かも)
そう思える自分が居た。
そんなルベアの横顔を少し見やりつつ、江流はまた桜を仰ぐ。
――来年はこの桜をどういう気持で眺めているのだろう。
それは今このときには、判らないけれど。
(俺も後悔のないよう、今年をやりきらないとな)
清廉な景色に、そう思いを新たにして――シャーベットを口に運び。
「ん、美味しい」
「良かった」
シルヴィアはそう言って自分もまた一口。
友人達と共に過ごせる憩いの時間を楽しみながら……美しい桜をそっと仰いでいた。
「まぁ、一面桜色に染まって本当に綺麗……!」
肌を撫ぜる爽風までもが、花の色を帯びたようで。
その美しさに――並木を眺めるネーヴェ・グラヌローザは声音に花を咲かせていた。
ええ、とその隣で頷くのはキーゼ。いつもの黒外套を桜色の景色に映えさせながら、花に溢れた美観に視線を巡らせる。
「流石は“倭桜ノ街”、でしょうか」
「どこからか風に乗って美しい音色も聴こえて参りますし……これが風流と言うものでしょうか」
耳を澄ますネーヴェに、キーゼも倣うと――確かに琴や三味線の旋律が耳朶に届くのが判った。
何とも明るい曲で、キーゼはそれにもこの街らしい雰囲気を感じて。
「そういえば、常に何かのお祭りか何かしてませんかね、ここ?」
「お祭りは人が集まります。それだけ繋がりを大切にしているのかもしれません」
「確かに、それはこの街らしいですね」
「では参りましょう?」
ネーヴェが笑みと共に歩み出すから、キーゼも並んで散策をしてゆく。
風に踊る桜は、見ていて飽きがこない。それに目を楽しませつつ……キーゼは隣もまた見やる。
ネーヴェの髪に花びらがついていたのだ。
だからそれをそっと取り払って。
「お似合いですよ、というには少々無粋ですね、この花びらの量は」
「ありがとうございます」
笑んで告げてから、ネーヴェは木々を仰いだ。
「私は趣があって好きですわ、花吹雪。雪みたいですし」
その季節だけの美しさ。
そこにキーゼも成程、と呟いて歩みを続けると……ふと前方に苺飴の屋台を見つけた。
キーゼは先日苺狩りに行った事を思い出しつつ――
「いちご飴、ありますよ」
「まあ。先程から漂っていた甘い匂いはもしかしてこれだったのかしら」
「折角ですし、頂いていきましょうか」
言うとネーヴェも肯くから、キーゼは香りと飴の色合いの違う二つを購入して……一つをネーヴェへと渡した。
ネーヴェは礼を述べて受け取ると、早速味わい始める。
自分も食べつつ歩みを再開したキーゼは、そんな横顔を見つめると――
「そちらの味は、どんな感じですかね?」
不意打ち気味に、横からその唇を奪って……囁く。
「なるほど、とても甘いですね」
「飴、ですもの……」
だからネーヴェは目を丸くして……頬を赤らめ、恥ずかしげに唇を尖らすしかないのだった。
ただ、また少し歩くと――お返しとばかりにキーゼの外套をつまんで顔を引き寄せる。
「私も味見させて下さいな」
そうして口づける……ふりをして飴の方を齧った。
「……」
「すると思いました?」
言って見せるのは悪戯っぽい笑い。
その表情もまた、魅力的なものだから――
「……参りましたね」
少しだけ、キーゼはその瞳を和らげて。
降参を告げると、改めてネーヴェが微笑むから……また共に並んで、桜の間を進んでいった。
「えへ~、久しぶりのデートだね」
冬から学園寮住まいをしている身としては、今日のような日が嬉しくて……エルシー・サリバンは上機嫌でハル・チフと腕を組んで歩む。
「そうですねっ」
と、ハルもまた同じ心でわくわくとしながら――
「あっ、見えてきましたよ」
見つめる前方には、釣りで賑わう小川沿い。
人々が楽しむ景色に、二人は笑み合って。早速参加して作法を教えてもらう事にする。
「これで釣れるんですね。凄い!」
故郷では出来ない体験に、ドキドキと胸を高鳴らせつつ。ハルが餌の付け方や投げ方を教わる隣で、エルシーもまたしっかりとコツを覚えて。
「ハル、行こう♪」
つい騒いでしまうからと、指すのは空いた場所。
それにハルも頷いて……静かな一角で糸を垂らした。
「……」
ハルは水中を窺いつつも、ふとした折に隣を見る。
今、エルシーは学園で、自分は依頼で頑張っている。
時間の過ごし方が前とは変わって――少し離れる度にエルシーが大人っぽくなる事に気づいて、意識する度にドキリとするのだ。
「学園ではどうですか?」
「大変な事もあるけど、楽しいよ」
エルシーは色々な経験を離す。
その笑顔がキラキラとしているから……ハルは嬉しくなって相槌を打った。
ただ、男友達の話を聞くと、胸が少しキュッとして。
「仲良し、なのですか? どんなふうに……」
「? どうかしたの?」
エルシーがキョトンとするから、そこで始めてハッとする。
「わわ! ごめん、少しだけ、嫉妬しました――」
それからハルは気を取り直して、依頼の話。
「胡椒ダルの影にクリーパーがいて……胡椒の粉がぶわーってなったのですよ!」
「ふふ、聞いてるだけでくしゃみが出そう――」
と、エルシーがまた笑んでくれるから、ハルは嬉しくて話を続けた。
エルシーもそれが楽しかったけれど。
(知らない事、多い……)
毎日、当たり前に報告してた事が出来ない。それがこう言う事なのだと、今改めて実感したような思いだった。
少しだけ、ハルが遠くに感じられるような気がして――
「あっ、引いてるー!」
「わ! 本当です!」
「逃がしちゃダメー!」
釣り竿がしなると大騒ぎ。逃さず引き上げて。
「つ、釣れた!」
大物ゲットに、驚きつつ……ハルも嬉しそうに尻尾を振るのだった。
その後も釣果は良好で。
「二人で一、二……二十匹? 凄い釣れたねー」
しんみりした気持ちも塗り替えられたように、エルシーも笑顔。持参の体の酒樽と、桜のチップで魚を燻製にする事にした。
完成すると、早速実食。
「美味しいです!」
香ばしくも旨味たっぷりで、ハルは笑顔で舌鼓。イワナの骨も残さず平らげる。
エルシーもあむあむと食べて、その出来に満足だった。
そうして食後、二人で並んで座ると――ハルはそっとエルシーの肩を抱く。
「互いに離れていても僕の気持ちはエルのそばに居るのです」
今を大切に、幸せを噛み締めて。
「――うん」
エルシーも頷く。
伝え切れない物語で違って来る心。それでも伝えるから、と。
「ハルの事も沢山教えてね。私の居場所はここだもん」
言ってハルの肩にもたれる。
さらさらと川がせせらいでいる。そこに流れるのは穏やかで、そして優しい時間だった。
「桜。いい匂いですね」
風に木々が靡いて、さらさらと快い音色を響かせる。
軽やかな足取りでそんな景色を見やるのはハルハン・ツァガーンナル。仲間達と共に並木道へと歩み入っていた。
「とても落ち着きます」
「ああ、他では中々見られない美観だな」
ナタリア・フィッツジェラルドも、応えながら桜を眺めつつ。視線を留めるのはそこにいる現地の子供達だ。
花びらを手で受けていて――
「あれが桜占いか」
縁起担ぎとも思えば、興味を惹かれる。元より占いも神事に通じるものがあり、風土に根ざした文化に触れられるのならば、と。
「皆でやってみないか」
「いいですね」
頷いたキリアン・フィッツジェラルドは、姉とは好対照に運気やジンクスは気にしないタイプだけれど……それでも皆で楽しめると思うと少しわくわく。
コハクも尻尾をゆるゆると揺らしながら参加表明をするので――
「そうね。皆が嗜むなら――わたしも戯れ程度にやってみてもいいわ」
と、アウレーリア・フォン・ネーベルベルクもそっとそこに加わった。
声音はしとやかで、落ち着いた面持ち……だけれど。表には出さぬ程度にそわそわし、皆をちらちら見やっている。
というのも、あくまで貴人としての態度は崩さないけれど……内心はウキウキのミーハー少女。占いと聞いて気にしないではいられなくて。
「それじゃあ、わたしから」
早速目をぎゅっと瞑り――掌の器を出して、はらりと触れた感触に目を開ける。
するとそこには二枚の桜。
「まあ、良縁……。いえ、縁なんて、もう沢山あるものね」
心でわくわくしつつも、それを抑えて言うのだった。
その様子に表情を淡く和らげつつ……次はナタリアが挑戦。掌に触れる沢山の感触に目を開けると――
「これは……五、六、七……十枚!?」
想像を超える枚数に少々混乱。
「量があるという事は、吉兆だけでなく悪い事も……」
想像を巡らせて顔を青くしつつも、すぐに首を振って。
「否、考え方次第だ。吉兆と凶兆が同じ分とは限らないのだから、殆どが良い兆しである可能性も……」
と、必死で頭を巡らせているのだった。
「良い事、沢山あると良いですね」
そんなふうに言葉をかけつつ、次にチャレンジするのはハルハン。
そっと掌で器を作り、目を開くとそこには二枚の花びらがあって。
「同じ枚数ですね」
アウレーリアにそう笑いかける。
良縁と言っても考え方は様々だけれど……元より占いは信じるも信じないも自由だから。
「リアと、それに皆とも縁が続く吉兆かもしれないです」
「何だか素敵な解釈ですね」
言ってキリアンも掌を虚空に差し出し、花吹雪を掬ってみる。
と、そこには見覚えのある枚数があって。
「あれ、これは……十枚ですね。姉さんと一緒だ」
「そうか」
ナタリアはちらりと視線を向けて。
「悪い事が沢山起こるかも知れないから注意しておくんだぞ」
「自分の時と言ってる事が違う!?」
ひどい、と泣きつくキリアンに、ナタリアは「判った判った、良いこともあるさ」となだめている……そんな横ではコハクが一枚の花びらを手にしつつ。
「沢山付いた……」
尻尾に花弁がくっついたので、それを皆で一枚一枚取ったりするのだった。
そんな調子で庭園に到着すると――
「わぁ、綺麗ですね」
桜だけでなく、色彩に溢れた春の木々や花々に満ちていて。その眺めにキリアンは心躍る様子で視線を巡らせる。
「ええ、本当ね……」
と、アウレーリアもそんな美観の中では蝶よ花よのお嬢様らしく、静々とした足取りで歩んでいた。
けれど――そこでふとナタリアが花の間に何かふわふわしたシルエットを見つける。
「猫か。兎もいるな」
「えっ?」
アウレーリアが思わず目を向けると……そこに柔らかな毛並みの猫が数匹。日向ぼっこをしているようで、寝転がってゴロゴロとしていた。
近くでは兎も草をかりかりと齧っていて――こちらもまた真っ白な毛並みが可愛らしく。
ナタリアはそんな野生動物の生の営みを感慨深げに眺めつつ。
「リアもコハクも、こういうの好きなんだろう?」
「ん……」
コハクは応えつつ、既に兎に近寄ってもふもふと撫でている。
そんな様子を見ていると……じっとしていたアウレーリアもまた、もふらーとしての本能が零れ出してきて。
「もふらなきゃ――!」
脇目も振らずそちらへ。
すると興味を持ったのか、猫の方からも近寄ってくるので――
「何て触り心地……! ああ、そっちの猫ちゃんもいらっしゃい!」
あとはひらすらもふもふ。童女の如くきゃっきゃとはしゃぎ、めくるめくもふもふの渦に沈んでいった。
キリアンはそんな様子を眺めつつ、ハルハンに向いて。
「ナルさんはどんな動物が好きですか?」
「そうですね、ボクは……」
と、ハルハンが応えるそこにもまた、のそのそと猫がやって来る。なのでハルハンは羽根ペンでじゃらしてみる。
するとその猫はよじよじと前脚を伸ばしつつ、ごろごろするから――
「ふふ。可愛いですね」
ハルハンは微笑みつつ、暫し猫と遊んであげるのだった。
それも含め、ナタリアは動物と戯れる皆を父性のような感慨を交えて記憶に刻んでいた……が、そこでアウレーリアがふと我に返る。
猫も兎もいいけれど、何とも魅力的な狼と白熊を連れて来ておいてこれは浮気ではないかしら、と。
「という訳でもふらせなさい」
早速ハルハンとコハクを捕まえてもふもふ。
「わっ。ふふ、くすぐったいです――」
「むふー」
そんなふうに二人が瞳を細めていると、傍らでキリアンも微笑んで。
「何だか良いですね。こういう時間って」
「ええ――」
もふられつつ、ハルハンも頷く。
来年も、また一緒に花見がしたい。
そんな思いと共に、はらはらと風に流れ行く桜を見つめていた。
「ここにするか」
春色に溢れる広場の一角で、だわは足を止める。
うん、と応えるのは隣に並ぶサラ。食事にもぴったりな場所だからと――二人で腰を下ろしていた。
「桜が綺麗だ」
そこは丁度雄大な木の下。
だわが仰ぐと、さらさらと優しく枝が揺れていて……サラも頷く。
「うん、きれいだ、ね。花びらが、ひらひらって、踊ってて、楽しそう」
「ああ……穏やかで落ち着く。平和だな」
美観を楽しめつつも、快い静けさで。
遠くの賑わいも時折眺めつつ、二人は早速弁当を取り出した。
出来合いではなく、それぞれが作ってきたものである。
「お前は、何を作ってきたんだ?」
「わたしは、ね。シャルガネ風の、おにぎり、だよ。シャケと、おかか! あとね、玉子焼きも」
「成程、美味そうだな」
「ん……だわおにいちゃんは?」
「俺か。これだ」
と、だわは蝋引きした紙を開ける。
そこに入っているのはサンドイッチ。味付けした肉と山菜を柔らかいパンに挟んであり、食べやすいようにふたくちサイズに切ってある。
サラはわぁ、と仄かに瞳を輝かせて。
「だわおにいちゃんも、お料理、するんだ、ね」
「ああ」
だわは頷く。以前は出された飯を食う側だったけれど、今ではすっかり作る側だ。
見目にも綺麗なサンドイッチに、サラは見入っている。
(だわおにいちゃんの作った、ごはん、食べてみたいなぁ……)
それから、そうだと思いついて。
「ね、お弁当、交換、しない?」
「交換……そうだな、お前が作ったのも食べてみたい」
という事で二人で弁当を近づけて。
「わたし、おにぎりと、玉子焼き、あげる。おかかで、いい?」
「……ありがとう。おかか、美味いよな。では、こっちも」
言ってだわが幾つかサンドイッチを差し出すと、サラはぱぁっと笑んで受け取って。
「わぁ、ありがとう!」
それから「いただき、ます」と大切そうに口に運ぶ。
かぷりと齧るとと……程よいしっとりさにまた笑みを零していた。
「えへへ、おいしい、ね」
「口に合ったか。良かった」
「これは、どうやって、作ってる、の?」
「これか。調味料に漬け込んだ肉と、山菜に火を通してな……」
説明していくと、サラは一つ一つ頷いていく。
そんな様子も眺めつつ……だわもおにぎりと卵焼きを頬張る。
仄かな塩味と、ふんわりした食感。そこにサラの優しさも感じられて――だわは嬉しげに目を細めた。
「……ん、美味いな」
「……うれしい」
サラも微笑みを返す。
と、そこにはらりと桜が踊る。流れる優しい時間が、花を一層美しく見せていた。
マスターコメント
お疲れ様でした。
花見は大いに盛況で、街全体としても盛り上がりました。店やイベントにも多くの来客を齎す事になり、理想的な結果となりました。
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準36 / 4〜50人
2022年04月26日 23時11分27秒 公開
大成功
参加者
ヨル・スレイマン
- サイラス
エルナ・クルプファルツ
ナハシュ
パヴェル・A・サムルガチェフ
ベルク・オスマット
ルルト・アーキス
アーテミシア
アルマ・ヴァレンタイン
ララベル・サン・ディーベル
ゴルバルティア
フリューリングスルフト=ティエラ
海神 江流
テュリン・ヴィング
- キーゼ
- アステル
コハク
アリエッタ
エルシー・サリバン
ハル・チフ
エヴァン・ピオネロ
ネーヴェ・グラヌローザ
ハルハン・ツァガーンナル
アウレーリア・フォン・ネーベルベルク
ナタリア・フィッツジェラルド
大福
エル=バ=ノイアン
ルベア・ベルニ
シルヴィア・A・カペル
アルフィー・リッパー
アルバス・ロウル
キリアン・フィッツジェラルド
だわ
サラ
ヤウズ・オスマット
セロリ・サーティーン
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー とりあえず屋台あたりにいようかと
エルシーだよ、ヨロシクね! 【7.川釣り】で遊ばせて貰うよ。
ハルです! エルシーと一緒に釣りをします! よろしくお願いします!
ツァガーンナルです! お誘いを受けたので遊びに!
ノイアンだ。明日出発だな。 俺は友人たちと一緒に行動する予定だが…皆にとっても良い1日となるように。
フリューリングスルフト=ティエラ、フリューって呼んでさぁ♪ うちは川釣りしてみようかな!絡みは大歓迎さぁ!
アドリブ、他者絡み歓迎。 【Jura】 ・行動 友人達とお出かけという事で楽しそうな張り切りわんこ。 花見に行くとは聞いていたが基本こういうお祭り事だと両手に尻尾まで使って食べ物を保持して食べまくるのがコハク。 歩くブラックホールは伊達じゃない。