リブラネスタの夜に天秤は揺れる

真柄 葉

コメント 0

シナリオID:2023

オープニング

 エラトゥーン都市同盟リブラネスタ。
 華やかなりし冒険者の街中にあって、一際は存在感を放つ館に一人の貴種が訪れていた。

「狭い所だけど、ゆっくりとくつろいでおくれ」

 館の主人『ヴィルジニア・テレーザ・セルッティ』に直々に迎えられ、豪奢な応接室へと通されたのは、リーンエス王国第一王女『メアリー・リーンエス』その人であった。

「本日はお忙しい中、お招きいただきましてありがとうございます。ヴィルジニア様」
「なに、気にする事はないよ。アタシもアンタに会ってみたかったしね」
「ふふ、リブラネスタの『女狐』にそう言っていただけて、光栄ですわ」

 値踏みする様に見つめてくるヴィルジニアに、メアリーはくすくすと上品に笑う。

「それにしてもアンタが来るとはね、てっきりウィリアム辺りが来るものだと思っていたけど」
「あら、お兄様の方がよろしかったかしら? ですが、お兄様方はお忙しい身の上なのです。それに、わたくしも王家の一員として政務を行わなくてはいけない身。いつまでも兄達に甘えてばかりはいられませんわ」
「政務か。聞けば『学園』や『動乱』もうまくやったみたいだね」
「まぁ、ご存知でしたの? ですが、あれ等は周りの皆様のお力添えがあっての事ですわ。わたくし一人の功績ではありせんの」
「はは、そうかい。アンタがそういうのならそうなんだろう。いいお仲間恵まれたようだね」

 対面する二人の女性。身分は違えど、どちらも組織の上層を担う者達だ。共感するところもあるのだろう。互いに相手を尊重しながら、言葉の応酬は続く。

「この街でのスケジュールは全て聞いているよ。アタシの手の届くところにいる限り、アンタに危害が及ぶことはないさね。何も心配せず、政務に励むといいよ」
「ありがとうございます、ヴィルジニア様。この街でそのお言葉ほど頼りになるものは他にございませんわ」

 自慢げにそう言ったヴィルジニアに、メアリーは爛漫な笑みを返した。
 後ろに控える部下達が見つめる中、二人は時間も忘れ言葉を交わし続ける――。

●
 名残惜しくもヴィルジニアとの会談を終えたメアリーは、今回の来訪の主目的である場所へ足を向けた。
 そこはロスガリアの剣鞘にして、授恵者たちのゆりかご。
 リブラネスタがロスガリア大陸に誇る冒険者ギルドの総本部である。

「冒険者の皆様に、お知らせがございますわ!」

 声も高らかに壇上に上がった少女に、冒険者達は何事かと視線を向けた。

「わたくしはメアリー・リーンエスと申します! 冒険者の皆様を対象にしたパンクリアース学園編入試験が開始されたことをお伝えにまいりましたの!」

 壇上を見上げる冒険者達を確かめたメアリーは、その視線に向けゆっくりと語り始める。

 先の変革により、その存在意義を大きく変えたパンクリアース学園。
 王党と貴族という単純にして歪な構造を改革せしめた冒険者達の力。
 讃えよう、その功績を。
 そして、受け入れよう、新たな力を。

 歴戦の猛者たちを前に臆することなく滔々と語る。
 それはまさに王族の威厳と言われるものであったかもしれない。

「入学希望者以外の方も受験できますので、ぜひ会場にいらしてくださいませ!」

 最後に優雅に膝を折ったメアリーに、冒険者達から拍手と喝采が送られた。
 ある者は王国機種の勇気ある行動と求心力に感動し、またある者はそのカリスマ性に新たな騒乱の気配を感じる。
 壇上を降りたメアリーを冒険者達が囲む。
 メアリーは嫌な顔一つ見せる事無く、その求めに応じ言葉を交わした――。

●
 時間いっぱいまで冒険者達と言葉を交わしたメアリーは、冒険者ギルドを後にするとリブラネスタの視察へと繰り出した。
 大陸で最も華やかで先進的と言われる港湾都市の様子を、メアリーは観察する。
 その後、街の有力者達との会合を持ったメアリーは、持ち前の愛嬌と胆力で自らの存在を印象付けると、夕刻にはヴィルジニアの元へと舞い戻った。

「随分とお疲れのようだけど、今日の夜会(パーティ)はやめにしておくかい?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、折角ヴィルジニア様が用意してくださったパーティですもの。このくらいどうって事ありませんわっ!」
「ふふ、そうかい、それは喜ばしい限りだね」

 迎えに出たヴィルジニアに、メアリーはグッと拳を握り笑顔を返す。
 二人は再会を喜びつつ、夜会の舞台となるホール脇の控室へと入っていく。

「うちに押し入ってくる賊なんていないとは思いたいが、腹の中に抱えているのがアンタだからね、どうなるかわからない」
「ご心配には及びませんわ。わたしくの部下達は皆優秀ですもの」
「ああ、そうだね。どの面を見ても一筋縄ではいかなさそうだ」

 ヴィルジニアはメアリーの後ろにずっと控えている騎士たちを見た。姿こそそこにはないが、視えない場所にも多数の気配がする。
 抜かりのないメアリーとその配下たちの陣容に、ヴィルジニアは口元の弧を深くした。

「とはいえ、国賓を護衛無しで迎えたとあっちゃ、うちの面子が潰れるんでね。悪いが、こちらでも用意させてもらったよ」
「当然のご判断かと思います。お立場があると大変ですわね」
「それをアンタが言うかい?」

 二人はくすくすと笑い合う――。

 時は黄昏の刻。王国の貴種を迎えた歓待の宴が開かれようとしていた――――。

解説

●目的 建前:セルッティ商会の本館で開かれる夜会の護衛。 本音:メアリーの歓迎パーティに参加して楽しんでください。 ●場所 エラトゥーン都市同盟リブラネスタにある、セルッティ商会本館。 ヴィルジニアが商会主を務める商館の一室で、貴族の屋敷にも負けない立派なホールです。 パーティの本会場は本館の二階にあります。テラスもあり美しく整えられた中庭を見下ろせたりします。 その中庭には屋外席やステージも設けられています。 ●人物 ・メアリー・リーンエス ウィリアム・リーンエスの妹にあたるリーンエス王国の第一王女。 王国が誇るパンクリアース学園の入学斡旋の為にリブラネスタ及び冒険者ギルドを公式訪問しています。 ・ヴィルジニア・テレーザ・セルッティ メアリーの来訪のホスト役を務めるリブラネスタ市長の女性。 ●補足 ちなみにメアリーの当日のスケジュールは。 1:ヴィルジニアとの会談 2:冒険者ギルドでの演説 3:リブラネスタ視察 4:街の有力者との会合 5:夜会(パーティ) と、超多忙です。表情に出したりはしないでしょうが、きっととても疲れていると思います。 ※会食⇒有力者との会合まではOP時点ですでに終えています。 なお、王国側からもメアリーの護衛として王国騎士が数名帯同しています。 表には出てきませんがメアリーを影から護衛する部隊も秘かに待機していますので、彼女の身が危険にさらされることはないでしょう。 皆様はヴィルジニアの依頼によりパーティに参加しています。王国に立場ある方もいらっしゃるとは思いますが、今回はあくまで「冒険者」として参加していただきます。 パーティ会場にはリブラネスタの有力者たちも多数います。 一応彼等も護衛対象になっていますので、守ってあげてください。 とはいえ、まぁ何もないと思うので、招待客気分で気軽にパーティを楽しんでください。 メアリーとお話したりダンスに誘ったりするのもいでしょう。ヴィルジニアと酒を酌み交わしたり、話をするのもいいかもしれません。 裏方に回って自慢の料理を振舞ったり、中庭のステージで芸事を披露するのもいいですね。 花火型紋具なんかを使ってパーティの演出に回るのもありなんじゃないでしょうか。 一応、本館の護衛という依頼なので、真面目に護衛任務にあたってももちろんいいです。

マスターより

いつもお世話になっております。真柄 葉と申します。 今回のシナリオはイベントシナリオ! せっかくメアリーちゃんがリブラネスタに来ているので、歓迎せねば! という事で皆でパーティしてお出迎えしましょう! 皆さんのご参加をお持ちしております!

リプレイ

 それは貴族の夜会かと見紛うばかりの豪華な夜会だった。

「マルミット、お約束して。ここでは私を姫さまと呼んではいけませんよ」
「おっ! 今日は名前で呼ぶんだね! 約束するよ!」
 キラキラと輝く夜会の中、二人のゴブリン(ナジクとマルミット)が言葉を交わす。
 二人は(空想上の)姫と騎士の関係なのだが、今日は依頼として参加した夜会(パーティ)。身分は伏せ、用意された衛士の服に着替えて、ホールの入口を護っていた。
「あれが王国の騎士か……やっぱり本物は違うな」
 マルミットがメアリーを護衛する騎士の所作や気遣いを見ながら感心する。
 いつか自分もあんなふうに姫を守りたい。その為にも貪欲にこのチャンスを活かさなければならない。『何も持たない者』を返上しなくてはならない。
 マルミットはそう思いながら、ちらりと横を見た――。

「あれが本物の姫君か。なんて愛らしくて綺麗なんだ」

 姫(ナジク)は、王女メアリーを見つめていた。
 『姫さま』なんて冗談みたいな渾名を着けられた自分とは何もかもが違う本物。
 何をどうすれば『アレ』と『俺』を同類と見れるのかはさっぱりわからないが、マルミットはそれでいいのだろうか。
 ナジクは心に一抹の不安がよぎり、ちらりと隣を見た――。

●
 戦場(厨房)に鬼神(サイラス)が現れたのは、夜会が始まる数時間前だった。
 サイラスは冒険者だと名乗ると、驚くコックたちを掻き分け、料理長の元へ。
「重要な夜会なんだろう、手伝うぜー」
 そう料理長に話しかけると、見習いが鱗を剥いでいた魚を拝借し、華麗な包丁さばきを見せた。

 腕を見込まれたサイラスはコックたちに交じり、夜会に出す料理を作り始める。
 料理長から、好きにやってくれ。とのお墨付きをもらったサイラスは、早速とメインディッシュとなるベーコンステーキを焼き始めた。焼き色を確かめながらも、すぐ隣では蒸かした芋をマッシュする。ベーコンからあふれ出てくる大量の脂を潰した芋に注ぎ入れ、豪快ながら繊細な付け合わせを作り上げた。
 そのまま休むことなく魚に手を伸ばしたサイラスは、次の料理(アクアパッツァ)へ取り掛かる。
 港で今日揚がったばかりの新鮮な魚を鍋に入れ、王国カペル領から取り寄せた白ワインを振りかける。王国と同盟の架け橋を料理で表したサイラスの一品に、何時しかコックたちも釘付けだった。

「見てないで、手伝えっての」

 そんなコックたちに苦笑しつつも、サイラスは次々と料理を完成させていく――。

●
「あの腹黒王子であればどれだけ疲れていようが放置する所だが……流石に妹君にそれをするのは酷か」
 給仕服に身を包み、甲斐甲斐しく賓客の世話を焼くベルク・オスマット。
 気に掛けるのは多勢に囲まれる王国の姫君だった。
 小さな成りで激務をこなす彼女に、どこかシンパシーを覚えたのか、ベルクは事あるごとにメアリーの元へ赴き、その世話を焼いた。
 侍る騎士たち、そして陰に潜む気配に警戒されぬよう、付かず離れず彼女の様子を窺う。自分の正体は伝えているが、それが警戒心を解くにはつながらない事をベルクもわかっていた。
 だから必要以上に踏み込まない。自分が気苦労の種となってはいけないと、影に徹する。
「まったく……王国の姫に我は何をしているのか」
 壁際へ下がったベルクが呟いた。
 それでも、悪い気はしない。それも、彼女のカリスマがなせる業か。
 ベルクは自嘲気味に笑うと、喉に手を当てたメアリーの元へ飲み物を運んでいった。

●
「いやさぁ、なんでこれなんだ?」
「なんでって、一応王族が参加する夜会だからね。正装するのは礼儀だ」
「そうは言うけどよ、これ冒険者として参加してくれって話だろ? 普段着の方がよくねぇか?」
「まぁ、そう言わずにさ。君の普段着は、ほら、色々と刺激が強いからね」
 正装し夜会に参加したナハシュとヨル・スレイマン。しかし、護衛の任務だと気を入れて来てみたものの、各要人にはきっちりと護衛がついている。なるほど、お仕事(建前)ね、と主催者の意図を悟ったヨルは、早速巡回を始めた(適度に手を抜き始めた)。

「いやぁ、流石にいい酒だな。それに飯も美味い」
「王国のお姫様を招待しているみたいだからね。主催者(ヴィルジニア君)も気合を入れてるんだろう」
 立食形式の会場を警護のために巡回を行いつつも、適度に食事と酒をつまみつつ夜会を楽しむ。
「そういやぁあれだろ、メアリーってこの間の『組み立ててたら外に出れなくなった神具』の時にいた奴だろ」
「そうなの? 王族なのに抜けてるんだな……?」
 酒と料理を拝借して壁際に下がった二人は、人垣の中で歓談するメアリーを見た。
「今回は学園の入学試験がどうたらで来たらしいな」
「ああ、そうみたいだね。昼間にギルドでちらっと見たよ」
「お前は受けないのか?」
「学園の入試をかい?」
「最近は文字が読めるようになったんだし、いけんじゃねえの」
「入試ねぇ……うーん、受けてみようかな」
 冗談半分に勧めて見たら肯定された。ナハシュは驚いてヨルを見る。
「よかったら、君も来るといいよ。せっかく地頭がいいんだしね。それに、いい経験になるんじゃないかな。試験がどんなものか。学園がどんなものか、それを知るだけでも受ける価値はあると思うよ」
「……いや、俺はいい」
 しかし、ナハシュはヨルの誘いに首を振った。
「だってよ、あそこは年中服を着なきゃならねえんだろ?」
「っ……あ、あっははは! そうだ、そうだったね。それは君には無理かもしれない」
「んだよ、笑い過ぎだ」
 そのナハシュの返しがあまりにナハシュ過ぎて、ヨルは周りの目も気にせず腹を抱える。
 不機嫌に酒を煽るナハシュをヨルは改めて見つめた。
 将来を見越せば、学園に触れるのは悪い事じゃない。彼にとっては必ずプラスになる。
 (……仕方がない。今は引き下がろう)
 そう思いつつ、ヨルは空いたグラスに酒を注いでやった。

●
 夜会は華やかな時を刻む。
「……流石に腹減ったな。あんな豪華な食事見せつけられてちゃ、たまらない」
 ナジクが今にも鳴りだしそうな腹を押さえた。
「マルミットは……って、どこ行きやがった?」
 我が騎士は大丈夫だろうかと視線を振ると、いつの間にか彼女の姿が無い。
「まさか、飽きて帰ったんじゃ……」
 と、ナジクが訝しんでいると――。
「マルミット、休憩だって! 一緒にご飯食べよ! もう腹ペコだー!」
 皿に山盛りの料理をもって、マルミットが現れた。
 マルミットは、驚くナジクに微笑むとホールの一角を指さす。
「……いいですわよ、貴女がそこまで言うのならご一緒して差し上げます」
「ありがたき幸せであります、我が姫君」
「え……?」
「ほら、行こう!」
 マルミットは呆気にとられるナジクの手を取った――。

●
「すみません、今日は冒険者として来ていますから」
 とある商会の子息だと言う男からの誘いを丁重に断り、リサ・ベイカーは溜息をついた。
 髪を下ろしドレスで来たのが間違いだったのか、やたらと声をかけられる。
 賓客は王女以外全てヴィルジニアの客なのだから、商人が多いのは仕方が無い。だけど――。

「随分と苦労しているみたいだね」

 なんて思っていたら、思いもしない人物から声をかけられた。
「ヴィルジニア様」
「久しぶりだね。とは言っても、覚えていないかもしれないけど」
 現れたのはヴィルジニアだった。リサは慌てて居住まいを正し、膝を折る。
「わたしの事をご存知なんですか?」
「ふふ、男どもは知っているみたいだけどね」
 ヴィルジニアはリサの問いには答えず、退散していった子息の背を見た。
「まぁ色々と気苦労もあるだろうけど、楽しんでおくれ。ここで得るものは少なくないはずだよ」
 そして、それだけを言い残すとリサの元を離れていった。

「得るもの……ですか」
 去っていくヴィルジニアを見つめながら、リサは苦笑する。
「わかりました。それではお言葉に従って沢山のお土産を持って帰る事にします」
 リサは耳を澄ますと、鋭い聴覚で要人の声を拾い始めた。

●
 そんな二人(リサとヴィルジニア)のやり取りを会場の隅で見つめる人物がいた。
 『検分』という名のつまみ食いを実施しながら、エルファリアはヴィルジニアの背を目で追う。
「今日もお忙しい事で」
 すぐに客たちに囲まれるヴィルジニア。
 先日受けた依頼の折に見た彼女の顔を思い出す。自分の家が襲撃されるというのにまるで消えないあの余裕。胆がでかいとかそういう問題とは思えない。
 それもあってか、依頼とは別の思惑を勘ぐる者達がいた。
 エルファリア自身もそれは思った。だけど、それを勘ぐってなんになるのか。裏の思惑を暴いて誰が得をするのか。偉い人に目をつけられてもいい事なんて一つもない。
 自分は厄介事に首を突っ込むつもりも、巻き込まれるつもりはない。
「一体幾つの顔を持っているのか知りませんが、私は気にしませんので、そちらも気にしないでくださいね」
 歓談する主催者(ヴィルジニア)を見てそう呟く。そして『賢い人の駆け引きの駒にはなりたくないので』と続けた。
 夜会の喧騒で呟きを掻き消し、エルファリアは頂いたお仕事をのほほんとこなす――。

 そしてここにも、会場を隙無く見つめる人物がいた。
 グレイブ・ヤードは夜会の会場となっていたホールをゆっくりと巡回する。
 場が華やかであればあるほど、その影もまた濃くなる。
 社交の場は互いの利を高める。同時に、他人の利を奪う場所でもある。それは貴族だろうが商人だろうが関係ない。光ある所に闇がある様に、朗らかに歓談する笑顔の裏には、醜く獰猛に獲物を狙う牙がある。

「ご多分に漏れず、この場もそういう類ですね」

 そうわかっていてもグレイブは手を出さない。そもそも手を出す義理もない。
 ただ黙って集めればいい。情報となる、会話を、言葉を、癖を、動きを――。
 それが何に繋がるかはわからない。何にも繋がらないかもしれない。
 それで構わない。それはそういうものだと理解しているから。

「疑っている訳ではありませんよ。ただ観察しているだけです」

 テラスへと赴いたグレイブが、中庭を見下ろした。
 ステージでは舞手が踊り、観客達が喝采を送っている。
「縮図のようですね」
 小さく呟いたグレイブは、次の場所へと足を向けた――。

●
 アリオン・リューは緊張と高揚が入り交じる複雑な心境の中にあった。
 先程、面識のあったメアリー王女へ挨拶に伺った時、思い切って聞いてみた。
『今宵限りの騎士として、お傍に侍ることをお許しください』と。
 メアリーは一瞬驚いたが、相好を崩しアリオンに許可を出す。
 本来の護衛であった騎士たちはあまりいい顔をしなかったが、メアリーの決めた事に文句を言う者もいなかった。
 こうして、アリオンはメアリーに侍る騎士たちの末席に加わったのだが――。
「これが近衛騎士か……思った以上に大変だ」
 騎士とはいえその役割は多岐に及ぶ。アリオンがよく知る騎士は戦場をかける勇ましき戦士たち。しかし、メアリーに侍る騎士たちは、護衛と警戒に特化した護衛騎士だ。
 普段見る事のない騎士のあり様に、アリオンは戸惑った。だが、その分学ぶことも多かった。
「しっかりと覚えていかなきゃ」
 まだ自分の理想とする騎士像を完全に固められていない。だからこそ、様々な騎士のあり様に触れたいと望む。
 アリオンは急がしく会場を行き来するメアリーの騎士たちに付き従い、そのあり様を学ぶ――。

●
「……飽きましたわ」
 まだ夜会も途中だというのに、バンビは最速で飽きていた。
 美味い料理と酒に囲まれちょっとした貴族気分に浸っていたのも遥か昔。腹が膨れると、そんな感情はどこかへ飛び去った。
 やる事がなくなったバンビは、ふらふらとテラスへ。そこから見えた光景に、あっとひらめいた。
 思い立ったが吉日。行動に移すのも最速だ。
 何の躊躇もなく中庭へ飛び降りると、完璧な五点着地を決め着地。そのままステージへ。
 演奏中の吟遊詩人を押しのけステージに立ったバンビは、襤褸の中からトランプを取り出した。
 戸惑う観客をしり目に、バンビは最速でトランプを切りだす。ハイスピードキャスターの名に恥じぬそのシャッフルに、観客達からはどよめきと共に拍手が零れだす。
 拍手に後押しされる様に、バンビのシャッフルは更にスピードを増し、ついには――――。
「消えた!」
 観客の一人が声を上げる。
 そう、バンビの手元にあったトランプがきれいさっぱり消え失せたのだ。
 観客は見事な『手品』に拍手喝采を送った。
「お後がよろしいようで」
 やりきったバンビは優雅に一礼し、最速でその場を後にした――。

●
 それは大人でさえ逃げ出しそうな過密スケジュールだった。
「こりゃ、大変だ」
 シグルド・オルセンは、まだ10代半ばの少女がこの激務をこなしているのかと驚いた。
 自分が彼女位の時分は……。
「思いだせん」
 きっと空でも眺めながら草笛でも吹いていただろう。それに比べたら、あの少女のなんと多忙な事か。
「壊れなきゃいいけどな」
 そんな心配が思わず口に出てしまう。体力的にはもちろんだが、まだ未熟だろう精神では大の大人を相手にするのは辛いだろう。
 せめて、一息入れる時に知り合いの冒険者と気楽におしゃべりしてくれればと思う。
 自分が話を聞いてやっても良かったが、俺では相手も畏まるかと思いとどまった。

 シグルドは人垣に囲まれるメアリーをちらりと見ながら食事を摘まむ。
「そういえば、学園の新入生を募集していたのだったか」
 昼間にギルドで聞いた演説を思い出す。
「……今更、俺には意味がないな」
 望まれるのなら応えてやりたいとも思うが、それも自分の役目ではないとも思う。
 シグルドは影からそっとメアリーを見つめた。それが自分にとっての立ち位置だというように――。

●
「とっても似合ってるよっ!」
「ふふ、サフィラ様のチョイスが素晴らしいのですわ」
 サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとフクシア・S・シュルツは、他の参列者にも負けず劣らぬ煌びやかなドレスを纏っていた。
 二人の出会いは先日の職業体験。その時結んだ縁から、サフィラが夜会を一緒に楽しもうと声をかけたのだ。
 サフィラがコーディネートした淡い桜色のドレスに身を包んだ二人は、ホールに響く楽団の音色に気付いた。
「ダンスが始まるようですわね」
「えっ! ダンスってあのダンス!?」
「えっと……どのダンスかはわかりませんが、たぶんそのダンスですわ」
 なぜか驚いているサフィラに、フクシアは苦笑を向ける。
「そっかー、ダンスかー。一人で踊るダンスは得意なんだけど、あれってやっぱり――――うわぁー、お貴族様的なダンスだよね」
 と、サフィラは始まったダンスを見て肩を落とした。
 ホールの中心にメアリーを始めとする賓客が集い、優雅なダンスに興じている。
「ふふっ、では――」
 むむむと唸るサフィラの正面に立ったフクシアが、胸に手を当て首を垂れた。

「お嬢様、私と踊っていただけませんか?」

 まるで貴族の子息のように。
 目をぱちくりするサフィラの手をすっと取ると、体を寄せ腰に手を回した。
「私、男性パートもできますのよ」
 と、戸惑うサフィラの耳元で囁いたフクシアは、腕にそっと力を入れる。
「で、でも、あたし踊れないよ……?」
「大丈夫ですわ。私がお教えいたしますから」
 不安気に見下ろしてくるサフィラに、フクシアはにこりと微笑んだ。

●
 会場を一巡し終えた『だわ』は、渇いた喉を水で潤しながら先ほどの一幕を思い出す。

 巡回中、多数の賓客に囲まれる王女殿下の顔に疲労の気配を見て取り、回復の助けになればと蜂蜜茶を差し入れた。
 よくよく考えれば、一介の冒険者の差し入れなど受け取るはずもないのだろうが、王女殿下は喜んで手に取り、感謝の言葉まで下さった。
 自領(ルクサリア領)では騎士とはいえ領外へ出れば平民だ。ましてや今は一人の冒険者でしかないのに、だ。
「騎士も平民も分け隔てなくか」
 開け放たれた窓から吹き込む風が、会場の熱に当てられた体を冷やしてくれる。
「……もう春だな」
 今は領主様から遍歴の許可を頂いているが、あまり長く領地を空ける訳にもいかない。旅を終えて帰郷する時期も近づいてきている。
 このまま冒険者稼業を畳み、領地へと戻れば、あの子の想いを無碍にする事になるのだろうか。
「……いや、考え過ぎか。まだお互いただの友人だ。距離を取るなら傷が浅くてすむ今の内がいいだろう」
 小さく呟いただわは、その言葉を飲み込むようにコップに残った水を一気に煽った。

●
「お初にお目にかかります、殿下。私はレティシア・レインフィールと申します」
 貴族の身でありながらあくまで冒険者としてメアリーへ挨拶するレティシア。それは堅苦しくなく、けれど無礼ではない絶妙な所作だった。
「まぁ、レインフィール伯爵のご息女でいらっしゃいますか。初めまして、メアリー・リーンエスです」
 応えるメアリーはそんなレティシアの気遣いに笑顔を向けた。
「ギルドでの演説、大変素晴らしいものでございました。私はもう卒業した身ではございますが、どの様な後輩が入学されるのか楽しみでございます」
「そうでしたのね。私もどの様な方がいらしてくれるか楽しみでなりません」
 もうすぐそこに迫った入学式に二人は揃って想いを馳せる。
「あ、そういえば」
 ふと何かを思い出したのか、ポンと手を打ったレティシアに、メアリーは小さく首を傾げた。
「お兄様(ウィリアム殿下)も学園の卒業生でございますが、殿下もいつかご入学される予定なのでしょうか?」
「今春の予定はございませんが……いずれは、でしょうね」
「その時が来るのをお待ちしております」
 首を傾げたメアリーにレティシアはふっと微笑んだ。

●
「1,2,3……1,2,3……」
「お上手ですわ。その調子で――ここで手を離します」
「こ、こう?」
 ホールの中央から少し外れた場所で、二人は音楽に合わせダンスに興じる。
 フクシアのリードもあり、元々踊りが得意なサフィラはすぐにコツを覚えた。
 二人は何時しかホールの端から中央へと移動し、他の参加者に混じりダンスを披露する。

 音楽が途切れ、小休止に入った。

「ふぅ……お貴族様ダンスも結構楽しいね! ……って、シア?」
「あ、はい? そうですわね」
「どうかした?」
「いえ、折角メアリー王女がいらっしゃいますので、ご挨拶でもと思いまして」
「ああ、シアも子爵家だもんね」
「貧乏貴族ですけど」
 と、シアはそう言いながらも誇らしく笑う。
「それじゃ一緒に行こ! あたしも挨拶したいし!」
「サフィラ様とご一緒なら心強いですわ。よろしくお願いします」
 二人は仲良く手を繋ぎメアリーの元へと向かっていった――。

●
「お初にお目にかかります、ユークリア・フィナンシェです。この度は開かれた学園へご尽力いただきまして、誠にありがとうございます。私も次の試験を受験いたします。王国の地でお会いできることを楽しみにしていますね」
 王族である彼女を前に、堂々たる口上を述べたユークリア。しかし、その貴族然とした笑顔の裏では――。
(ふわぁー! メアリー様、めっちゃかわいいー!)
 と、自分より背の高い少女を見上げ一人で萌えていた。
「王女殿下。ここでお会いできたのも何かのご縁です。よろしければ、一曲踊っていただけないでしょうか」
 気を抜けば緩んでしまいそうな頬を引き締め、ユークリアは手を差し出す。
「私でよろしければ、喜んで」
 応えたメアリーはその手を取り、ホールの中央へ。

 音楽に合わせ踊りながら、メアリーに話しかける。
 メアリーにとっての兄(ウィリアム)とはどういった人なのか。
 使っている香水や化粧品。衣装はどこで手に入れているのか。
 ダンスを合わせながら他愛のない会話を交わす。

 同年代と話をする事で、少しの間だけでも忙しさを忘れて欲しい。
 それがユークリアの願い。二人は曲が終わるまで話に花を咲かせた――。

●
「それで、これがその新作なんですけど――」
 自慢のメロンパンを持参し、メアリーに挨拶したルアンナ・ミュラーは早速と本題に入る。
 それは学園の『卓上遊戯俱楽部』出身の彼女が新たに作成した新しい遊戯(ゲーム)だった。
 ルアンナはその遊戯(ゲーム)で使うカードの絵柄として、メアリーとウィリアムの肖像の使用許可を取りに来たのだった。
 ルアンナがサンプルを見せながら説明するドゥジンシならぬ『ドゥジン遊戯』を、メアリーは興味深く見つめる。
「――といった感じのものなんですが、どうでしょう?」
「私はかまいませんが……お兄様はどうでしょう」
「あ、ダメでしょうか……?」
「うーん……いいんじゃないでしょうか?」
 不安気に聞き返すルアンナに、メアリーは悪戯っぽく微笑んだ。
「本当ですか!? ありがとうございます! 出来上がったらメアリー王女にもお一つプレゼントしますね!」
「まぁ、嬉しい。楽しみにしていますね」
 貴族も平民も関係なく、対等な関係で接する事が出来る遊戯(ゲーム)。それはメアリーの理想と合致するはずだ。ルアンナは微笑む彼女の一助になれればと、遊戯(ゲーム)の完成を約束した。

●
「初めましてメアリー王女。私はエフィルミアと申します。学園で生徒会長をさせていただいております」
「まぁ、貴女が。お会いできて光栄ですわ、生徒会長様」
 礼儀正しく挨拶するエフィルミアにメアリーは笑顔を向けた。
「よろしければ少しお話したいのですが」
「もちろん、喜んで」
 テラスへと出た二人は、『開かれた学園』を標榜する学園の今後について言葉を交わす。
「――エルフであり女である私が生徒会長と言う要職に選ばれた。これはきっと学園として大きな一歩なのだと思います」
 ヒューマン至上主義で男性社会。そんな閉鎖的な世界で要職へと就いた自分に出来る事がきっとあると、エフィルミアは熱く語る。
「見ていてください。選んでくれた皆の為にも、私が生徒会長である事を後悔なんてさせません!」
 そう言って頼もしい笑みを浮かべたエフィルミアに、メアリーは嬉しそうに微笑んだ。

「よろしければ一曲いかがでしょうか。私達(王族とエルフ)が手を取り合う所を皆にも見てもらいたいんです」
 そう言って手を差し伸べてくるエフィルミアに、メアリーは小さく頷くとその手を取った。

●
「お久しぶりです、メアリー様。レイノーラ男爵家が次男、エルゼリオ・レイノーラです。お元気そうで何よりです」
 テラスで休んでいたメアリーに、エルゼリオは完璧な王国式礼をもって挨拶する。
「お兄様の帰還祝勝会以来ですが……ボクの事、覚えてらっしゃいますか?」
「もちろんですわ、エルゼリオ様。ご無沙汰しております」
 ちょっぴり不安気に顔を上げたエルゼリオに、メアリーはにこりと微笑んだ。
 エルゼリオはその笑顔にほっと胸をなでおろす。
「最近はとてもご多忙の様ですが、体調など崩されておりませんか?」
「ご心配ありがとうございます。ほら、この通り、全然平気ですわ」
 メアリーは胸を張って見せるが、その表情はどことなしか優れないようにも感じる。
「……そうだ、メアリー様。よろしければ――」
 と、エルゼリオは横笛を取り出すと「一曲どうですか」と目線で問いかけた。
「喜んで」
 メアリーはこくりと頷き瞳を閉じる。

 エルゼリオが奏でる笛の音色は、まるで月の光のように優しい。
 相棒のツチノコ(ツッチー)が曲に合わせ体を揺らすのを見ながら、メアリーは静かにその音色に聞き惚れた――。

●
「先日は栄誉を賜りありがとうございました。今後も王国の益になる様に努めていくつもりです」
 メアリーを前に海神・江流は胸に付けた勲章(白光章)に手を添え膝を折った。
「ありがとうございます。期待しております」
「……殿下、不躾な質問をする事をお許しください。……私の様な者でも、過日のような栄誉を積み重ねて行けば、王国爵を賜る事は出来るのでしょうか」
 それは突拍子もない問いかけだった。
「なぜそれを望むのか伺っても?」
「……私には生涯をかけてでも助けになりたい人がいます」
 護衛の騎士が訝し気に見つめる中、江流は言葉を紡ぐ。
「しかし、それを成す為には今の自分は足りない。彼女の隣に立つことすらままならないのです」
「……なるほど、その方は貴族なのですね」
 視線を下げたまま語る江流に、メアリーはふっと微笑んだ。

「可能ですわ」

 そう言って、メアリーはテラスにいるエルゼリオを見る。
「ただ、それは途方もない挑戦だと思ってくださいまし」
 メアリーは『挑戦』だと言った。
 一朝一夕でなれるものではない。遥か彼方のあまりにも小さな光に過ぎない。それはわかっている。しかし道はある。
「ありがとう、ございます」
 その厳しくも優しい言葉に、江流は絞り出すように呟いた。

●
「応援しているよ」
 二人(メアリーと江流)のやり取りを遠くから見守っていたシルヴィア・A・カペルが呟いた。
「どうかしましたか?」
「いや、気にしないで。それよりこれは――」
 ギーゼラの問いに首を振ったシルヴィア。ホールの隅で語らう二人の間には一冊の本があった。
 それはドゥジン教徒ギーゼラ渾身の一作(王子×殿下モノ(純愛&一般向け))。最近信仰に目覚めつつあるシルヴィアは、ギーゼラの新作を楽しみに待っていたのだ。
「それにしても艶やかな描写だ。それに登場人物の関係性が読み手の胸を打つね……流石神に捧げる本(供物)だ」
「フフフ、そこまで褒められると照れちゃいますねぇ!」
「それほどの一品だという事だよ。これは王女にもぜひ紹介しておきたいね」
「おっ、行っちゃいますか!」
 そして二人は新作(供物)を携え、メアリー(同好の士)の元に向かった。

「初めましてギーゼラと申します! 清く正しいドゥジン信徒ですよぉ!」
 シルヴィアに紹介されギーゼラが名乗る。メアリーは一瞬目を見開くが、すぐに笑顔で挨拶を返した。
 メアリーとしばし他愛のない会話を交わした二人は、ついに本題へと入る。
「……なるほど、ありがたいお申し出ではありますが」
 そう言ったメアリーが二人に目配せする。
 二人は互いに顔を見合わせると、言われるままに顔を近づけた。
(とても嬉しいお申し出ですが、ここではだめですよ!?)
 護衛騎士に聞こえないよう、囁くメアリーの声は必死だ。
(うちの騎士だけじゃなくて、同盟の偉い人もいっぱいいるんですから!?)
 それは公然の秘密。公にされてはいけない乙女の嗜み。
 メアリーは二人に訴えかけつつも、チラチラとギーゼラの本を見ている。
「……これは大変失礼しました、殿下。それでは後日、王宮にお届けに上がるという事でよろしいでしょうか」
 そんなメアリーの立場をすぐに理解したシルヴィアが頭を下げる。
「なるほどなるほど! それではこれと一緒に秘蔵の書も同封しなくてはいけませんね!」
「ひ、秘蔵、ですか!?」
 ギーゼラの言葉に声を上げたメアリーに、騎士達が驚いている。
「おほんっ! そうですね、後日検分させていただきます。もちろん、秘蔵の書もです」
 居住まいを正し二人に向き直るメアリー。つんと澄ましている風に見えるが、その手はソワソワと落ち着かない。
「かしこまりました殿下。ではその様に」
「楽しみに待っててくださいね! とっておきですからっ!」
「はい、くれぐれもよろしくお願いしますね?」
 揃って頭を下げた二人に、メアリーは念を押したのだった――。

●
「メアリー殿下は大人気だね」
 大勢の人に囲まれるメアリーを見てジュスト・ヴェルジーは苦笑する。
「隣に薔薇を侍らせながら他の花へよそ見とは、感心しないな?」
 浮気性な従弟殿をローザリカ・L・ディオールが挑発的に覗き込んだ。
「これは失礼。それじゃ、俺の視界が塞がるくらいに近寄せなくてはね」
 あからさまな挑発にジュストは肩をすくめると、その細い腰に腕を回す。
「これでいかがだろう、愛しの薔薇姫殿」
「ふむ、そうだな。60点と言った所か」
「60点か。うーん、手厳しい」
 二人は小さく笑い合うと、腕を組みなおしホールの一角へと向かう。
「それで、どちらで紹介されたい?」
 並んで歩きながらローザリカが問いかけた。それはジュストに突き付けた究極の二択。
 『従弟』か『婚約者』か。
 ローザリカは不敵な笑みを浮かべジュストに選択を迫る、が――。

「なんだ、紹介してくれるのかい?」

 随分と意地の悪い訊き方をしてくるローザリカに、ジュストは肩をすくめ、そう訊き返した。
 口にはしないが、そこには『婚約者として』との注釈が入る。それをローザリカもわかったのだろう、あえて返事をせず、じろりと睨み付けてきた。
「おや、ディオールの。アンタも来てくれたのかい」
 そんな二人の前に、ヴィルジニアが現れる。
「ヴィルジニア女史、先日は世話になった。そして本日のお招きを感謝する」
 ローザリカはジュストから腕を放し、優雅に膝を折る。
「なに、頼んだのはこちらだからね。それよりも、そちらはお相手かい?」
「ああ、紹介させていただけるかな。これなるはジュスト・ヴェルジー。王国が誇る『翡翠の園』ヴェルジー家の次男だ」
「お初にお目にかかる、ヴィルジニア女史。彼女の婚約者ジュスト・ヴェルジーと申します」
 紹介を受けヴィルジニアに王国貴族式の礼を取ったジュスト。
 隣で膨らむ驚きの気配を感じながら、ヴィルジニアと視線を交えた。
「ふふ、そうかい。ヴェルジー家の」
 それだけでヴィルジニアにはわかってしまったのだろう。それ以上何も言わず、夜会を楽しんでおくれと、その場を去っていった。

「あそこまではっきりと言うとはな」
「事実なのだからしょうがないじゃないか」
 ローザリカの呆れた溜息に、ジュストはおどけて見せる。
「しかし、言葉にすると……存外不安になるものだね」
「不安?」
「ああ、不安だね」
 ローザリカの細い腰をグッと引き寄せたジュストが、耳元で囁きかける。
「いつ悪い虫がつくか、気が気じゃない」
「……馬鹿。それはこちらの台詞だ」
 珍しくわかりやすい形で可愛げを覗かせた婚約者殿に、ローザリカは頭を預けてやった――。

マスターコメント

おつかれさまでした! 色々な思惑が交錯する? 楽しい? 夜会となりました! メアリーはこれにて王国へ帰還します。 いよいよ、パンクリアース学園の入学式ですからね! それでは、ご参加ありがとうございました! お楽しみいただければ幸いです!
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 4〜25人

2022年03月28日 10時21分13秒 公開

大成功

相談掲示板

投稿はありません

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0