【想石】愛と絆を信じて【彩都】

炙りとろ左門

コメント 5

シナリオID:1947

オープニング

 野外音楽堂『アイビーズリラ』の控室に置かれた姿見の前で、フェイデン子爵ノーキスは自分の姿を見つめていた。
 結婚式ではない。あくまで婚約のお披露目。しかしノーキスの二つ名に合わせた衣装は、純白のドレスだ。
「もう後戻りはできませんわね」
 口にしてしまえば、思いの外ずっしりとした重みがあった。
 これまで、どのような重責にも耐えてきた。周囲の人々の存在があってこそ、耐えられた。
 しかしこの役目は、自分だけのものではない。
「……ノーキス」
 控室に入ってきたアリステアは、婚約者(ノーキス)の姿を見て、一瞬言葉に詰まったようだった。
「あら、見惚れてくださいましたの?」
「あ……う、うん。綺麗だよ。いつも綺麗だなって思ってるけど、今日は一段と……」
 アリステアも正装だ。瞳の色に合わせた、落ち着いた色合い。少女騎士といった出立ちのため、なんだか花嫁を護衛する騎士のような並びになってしまっているのがおかしくて、ノーキスは小さく笑う。
「……ノーキスは、これでいいの?」
「それはこちらの台詞でしてよ。あなたの大事な婚約式を、利用するのですから」
 フェイデンの更なる発展のために。未来のために。2人のための婚約式では、ないのだ。
「利用だなんて。それこそ僕が……そう言いたい。君にとっても、大事なことのはず……」
「私(わたくし)は領主ですもの。夢見る乙女ではないの」
「それでいいの?」
 同じ質問を重ねる。ノーキスは迷うことなく首を横に振った。
「私たちが抱くことを許されているのは、為政者としての理想以外にない……そうでしょう?」
「そう、だけど」
 アリステアにはそれを否定できない。貴族に生まれついた、自分達には、決して。
「勘違いしないでいただきたいの。選ばされたのではない。私は選んだのよ」
 そして、アリステアに手を差し出す。
「あなたの心に他の女性がいるのはわかっています。それでもなお、あなたは私を支えようとしてくれている。であれば、私もその気概に誠実でなければならないわ。もしかしたら死ぬ時くらいには……お互いのこと、愛せているかもしれませんもの」
 契約でもなく、同情でもなく。それは2人の間に確かに結ばれる絆として。

── ○ ──

「大丈夫でしょうか」
 工芸師ヴィラールは満点の星空を見上げ、つぶやいた。
 祝祭(セレモニー)が始まろうとしている。主役の2人は、今どんな想いでいるのか。
「大丈夫でしょう」
 ヴィラールの不安げな声に、査察官レヴィルはなんでもないように答える。その手の中には、果実を漬け込んだホットワインがあった。片方をヴィラールの方に差し出し、レヴィルは刺繍の施された布が敷かれた石椅子に腰掛ける。
「お二人は、ご自分が貴族であることの責任を理解していらっしゃる」
「……責任」
「生まれついて背負うもの、というものがあります」
 それは生き方であったり、運命であったり。
「あなたにも、職人としての矜持が。私には……いえ、私は気楽なものでしたが」
 そうだろうか、とヴィラールは思う。相当な苦労をしたようだ、とノーキスがレヴィルについて話していたのを覚えていた。
「いずれにせよ……幸福かどうかなんてものは、自分が選ぶか選ばないかという話ですから」
 ぐい、とレヴィルはワインを呷る。
「誰しも、それと信じて選んだ道行くしかないのですよ」

解説

皆さんのお陰で完成した野外音楽堂『アイビーズリラ』にて、愛と絆の祭典「エターナルバンド・セレモニー」が行われることとなりました。第1回は領主ノーキスとエディン公子アリステアの婚約発表を兼ねての祭典となります。 皆さんはこの「エターナルバンド・セレモニー」に招待されました。心ゆくまでお楽しみください! 主目的:エターナルバンド・セレモニーを楽しむ 副目的:大陸全体の祭事としての「愛と絆の祭典」の名称を考える ■できること 【1】音楽堂で演奏する  ステージで祝福の音楽を奏でましょう! 【2】祝祭舞踏に参加する  音楽に合わせ、パートナーと踊ることができます。NPCも指名可 【3】チョコレート菓子制作体験に参加する  ドライフルーツとチョコレートを用いた菓子制作体験ができます。 【4】玻璃花アクセサリー制作体験に参加する  小さな玻璃花を用いたアクセサリー制作体験ができます。 【5】「愛と絆の花植え」をする  「幸せを招く」「祝福」の花言葉を持つ福寿草を植えることができます。 【6】おいしいごはんをたべる  チョコレート菓子から兎肉の香草焼き、草花粥など。果実の入ったホットワインも配られます。 ■NPC ★ノーキス=フェイデン  ヒューマン/女/19歳  フェイデン子爵であり、見た目は深窓の美少女ですが、話しはじめると大胆な言葉遣いで周囲を驚かせます。 ★レヴィル=ストゥルルソン  ヒューマン/男/23歳  フェイデン子爵領を担当する王国査察官です。高い背丈と寡黙な性格からくる威圧感で誤解されがちですが、割と良い人です。 ★アリステア=エディン  ヒューマン/男/17歳  エディン侯爵令息(継嗣は弟)。少女のように可憐な姿から「妖精姫」と呼ばれていますが、本人は「男なのに」と気にしている様子。ノーキスの婚約者です。 ★ヴィラール=サージェス  ハーフビースト(ロップイヤー)/男※/16歳  事故死した双子の兄に代わり、「ガラス職人ヴィラール=サージェス」を名乗る男装女子です。正体については、ノーキスとレヴィル、そして関わった冒険者しか知りません。今回は【4】の教導役です。 ■特記 プレイングで指定しなければ、NPCの描写は最低限か、登場しません。 字数の都合でNPCとのやりとりがカットされる場合もございます。ご了承ください。 マスターページは参照しなくても問題ありませんが、上記の他、描写やマスタリングに関する項目があります。

マスターより

初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。 副目的については、ロスガリアにおけるバレンタインの名前を公募します、ということです! 他のシナリオからも寄せられた名前案とあわせた中からひとつが選ばれます。 本シナリオは「【褪野】」シリーズのサブストリーム「【彩都】」の第6話です。「【褪野】」を知らなくても問題ありませんが、第1話「【褪野】今からでも頼れる冒険者がいるんですの!?」OPにフェイデン領の情報がありますので、フェイデンってなんぞやという方はどうぞ。 本依頼にはOPにも登場したNPC「ノーキス=フェイデン」および「レヴィル=ストゥルルソン」が関連づけられており、挨拶をしたり、必要に応じて応答します。質問の際はコメント冒頭に【Q】をつけてください。 NPCによる質疑応答については、OPや解説において判断に迷う表現があった場合のみで、基本的にはOPや解説に書かれていることが全てとなります。【ご質問の内容によってはお答えできない場合がございますが、書かれていないことで判定を行なったりすることはありませんので、そこはご安心ください】。 それでは、皆様のプレイング、お待ちしております!

リプレイ

● 想いを込めたお菓子づくり
 くるみ、アーモンドにヘイゼル。それらに蜂蜜を絡ませて焼き、食感の変化と酸味を楽しむため、干しいちじくを混ぜる。ここにカカオパウダーをまぶして甘味と苦味のバランスをとる。
「愛と、絆……かぁ」
 トゥーリは調理中、ふと小さく呟いた。眼裏(まなうら)に浮かぶ顔は、好き(ライク)と愛している(ラブ)の中間くらい。そんな相手に贈ろうと想うものに、最初は悩んでいた。
 恋。愛。絆。それらひとつとっても、胸を焦がす想い、共に在る安寧、誰よりも大切に思う気持ち、あるいはそのすべてと——その形は人によって様々だ。
 この胸の裡の想いが、これからどのように育っていくのかは分からない。ただ言えることは、今作っているお菓子は「自分(トゥーリ)らしいものだ」ということ。
「……よし、できた!」
 出来上がったお菓子は、ナッツバー。それらを丁寧にひとつずつ、プレゼントとしてラッピングしていく。
 これを食べた人が、おいしいと笑顔になってくれるように。
 そしてそれを側でずっと見ていたいと思った時、この気持ちは花開くのだろう。


 シェルリア・リトヴァールは会場にノーキスとアリステアの姿を認め、眩しそうに目を細めた。2人の婚約を祝いに来たのだが、着飾った2人が並ぶとずいぶん華やかだ。同じく飾り付けられた野外音楽堂『アイビーズリラ』も、招かれた人々の笑顔で賑わっている。
 貴族は愛情だけで相手を選ぶことはできないが、幸せになってほしい——と、シェルリアは2人を見つめた。
「創作なら悲恋も悲劇も大好物ですけど、それは『現実じゃないから』……ですからね」
 幸せも、不幸せも。創作だから、あるいは現実だから、楽しむことも、乗り越えることもできるのだ。
 挨拶に忙しそうな2人には後で話しかけようと、シェルリアは気を取り直してチョコレート菓子の製作体験コーナーへと近づく。チョコレートの甘い香りにつられてか、親子連れも多い。
「ふむふむ、砂糖や蜂蜜漬けのドライフルーツをチョコレートにくぐらせて固める……お手軽でいいですね! チョコがメインでフルーツがアクセントになっているものも、作ってみたいです!」
 そして食べ比べる! シェルリアはうきうきと、調理器具を手に取るのだった。


「お酒に合うお菓子を作りたいわね」
 会場内にある菓子作りのコーナーを覗き込んで、エミリア・シバはにこやかに笑んだ。用意されているものはチョコレートとトッピング用のフルーツやナッツだが、材料を持ち込むことも許可されている。
 まずはチョコレート菓子の基本について料理人が話す。チョコレート自体、褪野(フェイデン)に流れてきたのは最近であるため、料理人の創意溢れるレシピ集なども用意されていた。
「なるほどねぇ……そうしたら、この段階でお酒をちょっと入れて、お砂糖の代わりに【甘露アリの恵み】を……」
 エミリアは段階的に味見をしつつ、材料のバランスをとっていく。その手元を、料理人が興味深そうに見つめていた。
「あっあの、レシピを見せて頂いてもよろしいでしょうか……!」
「役に立つものなら良いのだけれど」
 ドライフルーツやナッツをまぶせば食感の違いも味わえる、どこか大人な味わいのチョコレート。出来上がったものを手に、エミリアは料理が供されているテーブルへと向かった。

● 祝宴の席にて
「人の結婚を祝う鬼なぞ、おかしなことじゃ」
 くふ、と夕霧は口角を上げる。その手には豪勢な料理が取り分けられた皿。サラダに盛り付けられた魚介を口に運び、染み出す出汁に頬を緩める。
「何の因果かは知らぬがの」
 貴族の婚約発表にしても、大陸としての祭事にも別段興味はないが、冒険者となれば実質タダ飯というような内容の依頼さえある。まあ、今回冒険者が招かれたのはこの地と冒険者の縁にもよるのだろうが。
 ゆえに、この機会が台無しになってしまうと食い伝手がなくなる。それは困ると、夕霧は食事を楽しみつつも会場内に怪しい者がいないか目を光らせる。
「……今のところは平和じゃの」
 大陸のそこかしこでは、物騒な事件も起きているが。それでも日常は続いていくということだろう。
 ステーキを切り分け、葉野菜で包んでまたひと口。穏やかな風が、花の香りを運ぶ——。


 アスティン・ヴェルラインもまた、食事をしつつ会場を見回っていた。
(ま、さすがに何かが起きるとは思わないけど…。酔っ払いとか出ても面倒だしね)
 酒ももちろん振る舞われている。アリステアが試しにと取り寄せたエディン領の果実と酒、そしてフェイデン領の玻璃砂糖で作ったサングリアだ。酒造の技術も、アリステアを通じてエディンからもたらされ、今後フェイデンの新産業として検討されるという。
 アリステアはノーキスを良く支えている——2人の姿を認め、アスティンは咀嚼していたものを飲み込んだ。
 恋も、愛も、結婚も。どこか遠いところにあって、自分にはよくわからない、というのが、アスティンの正直な感想だ。幼い頃に喪ったものの大きさゆえか、深い人間関係とは縁遠い。あるいは、無意識に避けているのかもしれないが……。
(それでも、良い未来があって欲しいと思うよ)
 仲間と呼べる人々。フェイデン領に関わる、また自身もそうすることで繋がった人々、それぞれに。
「……なんて。ま、俺がいちいち心配するようなことでもないけどね」
 ひとりごち、アスティンは小さく肩を竦めた。


 エデル=マグノリアは興味深くその鍋の中を覗き込んでいた。穀物粥であるとのことだが、彩り豊かな草花が散りばめられている。
「これらは、食べられる花なんです」
 料理人は鍋をかき回し、器にそれをよそうとエデルに差し出した。
「ただ放り込むだけではそれぞれえぐみが出てしまうので、きちんと下処理をする必要がありますが……綺麗でしょう?」
「ええ、とても。生きたいと思う力(食欲)をそそる華やかさね」
 味付けはどうなっているのだろうか、とエデルは興味津々に器を受け取る。そしてひと口含み、目を瞬いた。
「鶏ね。思ったより味は薄いけど……」
 草や花を食むと、じんわりと濃い出汁が滲み出る。どこか懐かしい味わいに、ほっと息をついた。
「この地は豊かではなかったので、こうして少しでも栄養を、と。病人にも作ることがありますね」
 なるほど、とエデルは頷いた。栄養価のほどはともかく、食べやすい。味も濃淡を作ることで、飽きさせない工夫がなされている。
「作り方を教えて頂いても?」
「もちろん」
 料理人は笑みを深めた。冒険者たちの尽力によって褪野に戻ってきた職人のひとりであるという彼は、「誇らしいことです」と続けた。


 フェイデン子爵ノーキス、そしてエディン公子アリステアの婚約祝い。その会場の警備を任された——のではなく、招待を受けただわは、2人の姿を目に留めた。
 婚約——自分には程遠い世界だ。こういった場には、客よりも警備要員として呼ばれる方がまだ馴染みがある。
 が、今回は違う。こうして顔を見るのははじめてだが、招かれた以上は礼儀として挨拶をしておくべきだろう、と、だわは2人から人が離れたところで声をかけた。
「フェイデン子爵閣下。アリステア卿。ご婚約、誠におめでとうございます」
 だわは恭しくお辞儀をした。ノーキスとアリステアもそれに応じたが、ノーキスは次の瞬間には笑っていた。
「ありがとう。さ、楽になさって。冒険者の皆さんとは、いつも気楽にお喋りさせてもらっているの」
「……いつもなら『茶をしばく』と言い始めるので、これでも結構他所行きなんです」
 アリステアが苦笑しつつ、だわに小さく囁く。それに、だわは今一度ノーキスを振り返った。ノーキスはいつのまにか場を離れ、だわに料理を盛り付けた皿を持って帰ってくる。
「さ、どうぞ!」
「あ、ありがとう……ございます」
 肉。肉。肉。思い出したように野菜。そして胃を休めるための草花粥。間違いない、肉を好みしものの配膳だ。ひと口食べて、その優しい味わいに目を細める。それをみたノーキスもまた、ふっと微笑んだ。
「あなたも、褪野を好きになってくれると嬉しいわ」


「今度こそ祭だな! ホットワインに香草焼き、菓子まであるじゃねえか! よりどりみどりだぜ!!」
 ナハシュはわくわくと更に肉肉肉を取り分ける。野菜もお食べ。
 愛だとか絆だとかはよくわからないが、小難しいことを考えるのはあいつの仕事、とナハシュはヨル・スレイマンを振り返る。
「酒もあるぞ」
 そう呼びかけるが、ヨルは会場の様子を見回していた。主にナハシュが手がけた装飾部分を、だ。
「君も結構器用だよね」
 そして、貴族たちと挨拶を交わすノーキスを振り返る。
「ノーキス君は立派だよね⋯⋯」
 貴族の不自由さは正直好きにはなれないが、彼女はその上で真っ直ぐ自分の道を行く。ヨルは感嘆のため息を漏らした。
「愛と絆は見えないものだから、貫いていけるのは強さだよ」
「ふーん?」
 俺にはちょっとできないんだよな——などと思いつつ、ようやくナハシュを振り返れば、ナハシュは「良く分かんねえけどこの肉うめぇな」という顔で肉を頬張っていた。野菜もお食べ。
「食わねぇのか?」
「食べるけど」
 ナハシュが美味しそうに料理や酒を楽しんでいるのを見て、ヨルは苦笑しつつ、暗くなりがちな思考を一時中断した。今日は晴れの日だ。楽しまなければ損というものだろう。
「チョコレート、フェイデンにも持ち込まれたんだね。砂糖漬けドライフルーツのチョコレートがけ……これは見た目もおしゃれだなあ」
「肉もうまいぞ!」
「そうそう君、野菜もお食べよ——って」
 顔を上げたヨルの視線の先には、香草焼きやステーキなどを縛ってマジカルポケットに突っ込もうとしているナハシュ。
「これはお土産」
「君は本当に変わらないな!?」
 ナハシュが気に入った料理は、じっくり味わって作り方を学んでおくとしよう。


● 玻璃に閉じ込めた気持ち
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
 ヴィラールを見つける前に、向こうから声をかけられた。ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンは、いくぶん顔色の良いヴィラールを見て微笑む。
「ヴィラール様も。こちらでは玻璃花のアクセサリーを作れるんですね」
「はい。黒玻璃花——あ、変異玻璃花はそう呼ぶことになったんですが、それについては、まだ危険性があるということで、並んでいません」
 詳細な分析結果は後日依頼を出した時に、ということだった。ヴァレリアは頷きつつ、他に薄ら色のついた玻璃花があることに気づく。淡紫に、薄黄色に薄紅色。数は少ないが、通常の玻璃花とは分けられている。
「これは?」
「別の鉱床から見つかったものです。同じガラス質なんですけど……どうして色がつくのかは、地質学に詳しい人に見てもらっています。こちらは危険性なしと判断されたので、少量回してもらいました」
 赤いのはまだ見つかってないんです、と、ヴィラールはヴァレリアの瞳を覗き込む。
「でも、青はありますよ」
「なるほど。玻璃花を用いた工芸品の幅も広がりそうですね」
 熱心に玻璃花を観察するヴァレリアに、ヴィラールは目を瞬いた後、小さく笑って頷く。
「ええ。いろんな色を使ってブレスレットとか、どうでしょう」
 仮置きした玻璃花が、陽光を受けて煌めいた。


 同じく、玻璃花のアクセサリー作りにおいて、サマエラ=フォリウムは頭を悩ませていた。
 今日の記念に、というほどのものにはならなくても、今まで紡いだ縁がある。ノーキスに祝いの品を贈りたかった。
「あまり気の利いたものは手持ちになかったんだが、これなら、と……」
 邪魔になりにくい耳飾りはどうだろうか、とサマエラはヴィラールに尋ねる。ヴィラールは良いと思います、と頷いた。
「ノーキス様は、耳飾りをアリステア様に合わせていらっしゃいますね。少し淡いですが、こちらなどどうでしょう」
 ヴィラールが差し出したのは、黄緑色に淡く色づいた玻璃花だ。アリステアの瞳の色である。
「なるほど。玻璃花を使えるのならば、そちらの方が良いだろうな」
「ノーキス様もお喜びになると思います。ただ特定の方向からの衝撃には脆いので、蓋付きの台座で保護すると良いかと」
 サマエラは頷きながら、慎重に玻璃花の表面を磨き上げる。玻璃花はその研磨にかなり技術がいるため、すでに加工されたものを柔らかい布で拭く程度のものだが、艶が出るとなんだか嬉しくなる。
「まあ、ノーキスはなんでも喜んでくれそうだが……やはり、努力したいからな」
 誠実な彼女に捧げるのは、同じく誠実な気持ちであれ、と。サマエラは磨き上げられた玻璃花をかざし、微笑んだ。

 スィーリーンもまた、主催の2人に挨拶を終えた後、玻璃花のアクセサリー製作体験に参加していた。
 装飾品作りは好きだ。趣味でもある。そして何より、数は少ないが色づいた玻璃花もあるということで、参加せずにはいられなかった。
「ヴィラール様、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「お任せください。といっても、僕の方が学ぶことの方が多そうですが。僕が詳しいのは、素材としての玻璃花のことですからね」
 工芸師の皆さんと日々勉強はしていますが、とヴィラールはすでに台座を取り付けた玻璃花をいくつか並べる。
「作り方をできるだけ覚えて帰りたくて。自力でも作ってみたいのです。……設備がないと難しいでしょうか?」
「設備もそうですが、技術ですね。玻璃花に限らず、石英宝飾は扱いが難しくて」
 面を磨く程度なら、ドワーフ王国で手にはいるような高硬度研磨具があれば可能だ。
「なるほど。ではこちらで楽しんでいくことにします」
「はい。おすすめは髪飾りとか……そうそう、今回はノーキス様のショールやヴェールの布端に小さい玻璃花をあしらったんです。布製品や革紐との組み合わせも良いと思います」
 そうして、レースと革紐に玻璃花をあしらったチョーカーができあがった。首元に結んでもいいし、手首に巻いてもツノに巻いても良い。その作業中、いつのまにか周囲に人だかりができていたことに気づいたスィーリーンは、やわくはにかんだ。


 アーシェル・G(ジェヘナ)・クラインの栗鼠(ロロ)は、 セヴラン・クアルトの栗鼠(ララ)を見つけると、ぱっとアーシェルの肩から飛び降りてララに近づいた。
 そしてふかふかの尻尾に隠していた、つやつやに磨いたどんぐりをララに差し出す。
「……ロロは相変わらず、ララにぞっこんだな」
 アーシェルの呟きを理解したのかどうかはわからないが、ララはすんとすましながらも、ちらちらとロロの方を見ている。
「そうだね。そして僕たちは男2人でアクセサリー作り、と……」
 セヴランは冗談めかしてそう呟く。静かに流れる音楽を背景に、2人は机に向かっていた。
「いいじゃねえか。こういうの、俺は結構好きだし。セヴランはどんなのを作るんだ? 俺は首飾り」
「そうだね……」
 セヴランは少し悩む素振りを見せる。花を並べて髪飾りも可愛いし、玻璃花を花弁に見立てた、ゆらゆら揺れる耳飾りも良い。セヴランは小さな玻璃花を手に取ると、アーシェルの耳元にかざしてみた。
「悩むなあ」
 続いて髪、そして首元にかざした所で、ふと思いつく。襟飾りだ。首襟の両端を金属の留め具で結ぶ、洒落たアクセサリーである。
 そうと決まれば早い。黙々と作業に入るセヴランに、アーシェルは苦笑しつつ、自分も作業に戻った。
「……よし! ララ、プレゼントだ」
「おや、てっきりあの子たちに作るんだと思っていたのだけど……」
 2人の共通の友人たちの顔を思い浮かべつつセヴランが顔を上げると、アーシェルはセヴランにも首飾りを差し出した。
「お前だけ仲間はずれってことは絶対ない。唯一無二の親友に贈る、友情の証だ。受け取ってくれ」
「……嬉しいよ、ありがとう。じゃ、僕からも」
 セヴランは出来上がった襟飾りを、アーシェルの襟元に飾った。
「最近、不義理ばかりしてると思っていたからね」
「そうか? じゃ、また旅に出ようぜ」
 ララとロロと一緒に。アーシェルがそう付け足してロロを振り返ると、ロロは半眼でアーシェルを見上げていた。『自分のは?』とも言いたげだ。
「ロロのはねぇ——いって! わかったわかった、作ってやるからひっかくな!」
「あはは」
 セヴランは声を上げて笑う。穏やかな時間が、音楽と共に流れていた。

● あなたと育む愛と絆
 花言葉は地域ごとに異なるものだ。褪野(フェイデン)においては、「幸せを招く」「祝福」といった花言葉で知られている。典型的な春告げ花(エフェメラル)だが、その姿は愛らしい。
 トーラは福寿草を植えたいという人々に、花の特徴や植え方を説明していた。
 野生の福寿草が好んで根を伸ばすのは、冬に枯れ、夏に葉を茂らせる樹木の近くである。すなわち、会場入り口付近に生えている蝋梅の近くがよいだろうということで、その近くに植えていくことにする。
 持ち帰って育てたいという初々しい2人には植木鉢を勧めつつ、水やりの頻度や追肥の仕方などをレクチャーする。土いじりは初めてだという少年が、おずおずと同じ年頃の少女の手を引いて現れた時には、トーラは思わずにっこり笑ってしまった。
「幸せを招く、かあ」
 ふと浮かんだのは、黒髪の美少年。トーラはそれを、あわてて打ち消そうとして、いやしかし、と思い直す。
「あのひとに幸せが……穏やかな時が訪れますように」
 それを願うくらいは、きっと許されるだろう。
 暖かな春の風に、福寿草の花が揺れていた。


「ここがいいかなあ」
 エフィルミアは苗を抱え、福寿草にとって居心地の良い場所を探す。そうして見つけた場所に、ナキルと一緒にかがみ込んだ。ナキルはシャベルで地面を掘り、水を注いで湿らせると、「準備できたぜ」とエフィルミアを促した。
 そして2人で苗に手を添えて植え、やさしく土をかける。
「うん! ばっちり!」
 配られたネームタグをそばに挿せば、エフィルミアとナキルが植えたものだとわかる。タグの裏には、こっそりとメッセージを。エフィルミアはばれないかどきどきしていたが、ナキルの視線は舞台のほうに向いていた。
「こーら、余所見」
「違うって。あの……花嫁衣裳、ミアも似合うんだろうな……って」
 振り返ったナキルが、エフィルミアの瞳を覗き込む。
「いつか、オレの為に着てもらうぜ」
「きっ……!? 気が早い! ナキルくんなんてまだまだ恋人初心者なんだからね!」
 ひよこどころかたまごなんだから! とエフィルミアは照れ隠しに頬を膨らませる。ナキルは「お前もだろ」と言いかけたが、飲み込んだ。自ら虎の尾を踏みにいく必要はない。
「……じゃ、前に『まだダメ』だったヤツ(キス)、良いか?」
「この流れでよく言い出せたね!? 初心者だって言ったじゃん!」
 そう言いつつも、すでに2人の距離はだいぶ縮まっていた。
 どちらともなく手を重ね、目を閉じれば唇が触れ合う。お互いに「あたたかくて、やわらかいなあ」などと思いつつ、示し合わせたように離れて。
「……恋人になったんだもんね。これくらいは……あげてもいいよ?」
 小さく優しい、甘い囁き。それに、ナキルははにかんだ。
「ありがとな」
 そして、エフィルミアの耳元で囁く。
 ——捕まえたぜ、エフィルミア。

● 想いを調べに乗せて
 演奏が始まった。もともと会場内には緩やかな音楽が流れていたが、ダンスに合わせて曲目が変わろうとしている。その前に参加型の演奏会が挟まれていた。
 フリューリングスルフト=ティエラは、降ろした髪を上だけ少し取って、簪でくるりとまとめた。動きやすく快活ないつもの服は着替え、フリルをふんだんに使ったゆったりした礼装用のドレスである。
 楽器はないが、歌と踊りで紡ぐ。韻律(リズム)は万国共通だ。花と風とともにひらりと裾をはためかせたフリューは、伸びやかに歌い上げる。

『撒いた種は芽吹き花開く
 風は舞い喜び躍る
 手を叩いて祝福を告げよう

 進もう共に 繋いだ花束 幸せを運ぶから』

 指先から繋いだ温もりが、この先の未来に伝わり、広がっていくように。フリューはイュン(連れの兎)を抱え預かっていたノーキスの目の前に降り立つと、小さな花束を差し出す。
「貴方が大事に紡いで歩んできたことは、確かに伝わるから」
 ——絆という花は必ず、貴方を支えるから。
「……ありがとう」
 ノーキスは薄ら涙ぐみ、花束を受け取るとそれに軽く口づけを落とす。
「今日のこと、忘れないわ」


 フリューとノーキスのやり取りを眺めつつ、海神(うみがみ)・江流(える)は思う。あれが、『貴族の責任』というものなのだ。
 家を護り、民を護るためという、使命。本人たちにさえどうすることもできないことと思えば、無力感が胸に広がる。
「ほら、江流」
 やや肩を落とした江流の背中を、シルヴィア・A(アルヴィン)・カペルが軽く押す。
「貴族と平民の恋——私や君のような存在が異端なんだ。それでも諦められるものではないと……君もよくわかっているじゃないか」
「ああ」
 ルベア・ベルニも2人のそばに進み出る。
「さ、歌いましょ」
 ノーキスとアリステアの選択に多くの幸福があるように、と。
 江流の肩に乗った揺満月がころころと鳴いた。3人とも舞台に上がり、礼を取る。拍手が収まる頃、シルヴィアがハープの弦をゆるりと弾いた。
 それをリードに、江流とルベアで主旋律を奏でる。今回歌こそないが、それはよく知られている恋愛劇で歌われているものだった。気づいた観客がひとり、またひとりと歌声を合わせていく。

(愛と絆、か)
 笛の音を響かせながら、ルベアは考える。
 仲間に抱いているのは、「絆」だろう。父や、あの子に抱いているのは、「愛」と「絆」の両方だろうと思う。それぞれ、家族愛と、友愛と——だが、異性に向けるような愛については、まだきちんと理解できていない。
 冒険者になる前、恋らしいと思えるような感情を抱いたことはあった。だが、そうだと認めることが恐ろしく、想いを告げることはできなかった。抱えたままの方が大事にできると、思ったのだ。
 心の柔らかいところにそっとしまったままの気持ち。それに名前をつけるとしたら、いったいなんなのか——。
(江流さんやシルヴィアさんなら、知ってるのかしら)

 間奏を揺満月と共に奏で、シルヴィアはふっと微笑んだ。
 曲の最後は、最初と同じようにハープで導かれる。ひとつひとつと消えていく音を惜しむような雰囲気の中、最後のメロディを奏でたあと、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「楽しかったよ」
 ありがとう、と江流とルベア、そして揺満月をねぎらい、シルヴィアは続けてノーキスとアリステアに挨拶をする。
「君たちの選択は立派だ。祝福を」
「ありがとうごさいます。貴方がたの道の上にも、光の導きがあらんことを」
 アリステアが丁寧に応じる。光はまた影をも作るが、自分の体から影を切り離すことができない以上、共に歩んでいくしかない——そしてその道のりには、多くの困難が待ち受ける。
 だが、シルヴィアは微笑んで見せた。『それでも』と、言えるだけの強さを求めたから。

 江流はご機嫌な様子の揺満月を撫でつつ、ここにはいない少女のことを思った。彼女は今何を思い、何を求めているのか。抱えているものの重さに、泣いていないだろうか。
 いや、彼女は貴族だ。きっと、涙を流すことをよしとはしないだろう。それが、江流にとっては苦しい。
 彼女の選び取る道に、後悔がないように。そしてその上に多くの幸福があるようにと願うことしかできない、自分もまた。

● 共に手を取り合って
 ハイド=トリアニスはエレノア・D(ダーナ)・グリフィスをエスコートしつつ、会場に入った。それぞれが思い思いに音楽に合わせて踊る様は、晩餐会のような形式ばった雰囲気はない。招待された貴族の中には目を白黒させている者もいるが、穏やかな音楽が姦しさを感じさせないためだろうか、順応を見せている。
 それを楽しげに見つめるエレノアに気づいたハイドは、そっとエレノアに手を差し出した。
「お嬢様、私と踊って頂けませんか?」
「ええ、もちろん」
 エレノアは上品に笑うと、ハイドの手を取る。
 エレノアにダンスを指導しているのはハイドだ。リードの仕方も、ステップのクセもお互いよくわかっている。
 でも——。
「今日は、指導はいりませんよ。楽しみましょう?」
 授業ではなく、義務でもなく、ハイドと楽しく踊りたい。エレノアが悪戯っぽく小声で囁けば、ハイドもまた笑みを返した。
 手袋越しに淡く伝わる体温と、互いの鼓動が感じられるほどの距離。風に乗った花びらがハイドの髪にひっかかったのを、エレノアが愛おしげに目を細めて見つめる。
「花びらがついているわ。素敵ね」
「お嬢様にも」
「えっ?」
 どこかしら、と思えどもダンス中に手を離すわけにもいかない。一度気になってしまうとなかなか集中できなくなってしまうもので、一巡後、エレノアはそそくさと会場脇へと引き下がる。
「ど、どこですか? ハイド」
「……取れましたよ」
 薄紅色の花弁をエレノアの髪から抜き取ったハイドは、それをそっと懐へとしまう。
「あのね、ハイド……渡したいものがあります」
「お嬢様から?」
 ふたりきりで休めるベンチに腰を下ろし、エレノアは隠し持っていたチョコレートの包みを差し出した。
「いつもありがとう。感謝の印よ」
 こうして改まって渡すのは少し気恥ずかしい。ハイドは驚いた後、恭しくそれを受け取った。
「このような過分な……私こそ、お嬢様のお世話をさせていただき光栄です」
 ハイドは一度立ち上がり、エレノアの前に膝をつくとその手を取る。
「……どうかいつまでも、お傍に置いていただきたい」
「もちろん」
 2人で歩む道が、この先もずっと続いていくように——重ねた手の暖かさと重さを忘れまいと、エレノアは微笑んだ。


「お手をどうぞ、レディ」
 ジュスト・ヴェルジーが手を差し出したのは、ローザリカ・L(リベラ)・ディオールだった。
「……従弟殿」
 ローザリカは扇を開いて表情を隠す。この場で、ダンスへの誘いが何を意味するのか分かっているのか、と。
 許されるのは、許したのは、会場でのエスコートのみ。ダンスは、勘違いされない文脈上でしか踏んだことがない。
「……貴族の婚約とは——婚姻とは、斯くあるべきだと、自分でも思うよ」
 義務と使命と、相手と、誠実に向き合うと努力する2人が——たとえ今は他の人を愛していても、いつかはお互いのことを愛せているかもしれないという希望を抱いていくと決めた2人が示したものに、ジュストは、自分も向き合わなければならないと思ったのだ。
 愛と絆の祭典——貴族の婚約発表も兼ねたこの場所で、貴族の子女が共に踊るということの意味を、ジュストとて分からぬわけではない。
 ローザリカは目を伏せた。
 何かと、理由をつけてジュストの手を避けてきた。最初は純粋な照れ隠しだったのだが、いつしか、その手を取ることがジュストを縛り付けることになるのではないかと恐れたのだ。
 大切にすれば壊される。そんな恐怖もあったろう。
「今だから言うけど、昔ダンスを断られた時は……凄く、ショックだったんだ」
 大嫌い、なんて言ってしまった。と、ジュストは悔恨をこぼす。
「だからね——」
 謝罪を続けようとしたジュストの口を、ローザリカは閉じた扇を添えて塞ぐ。
「謝るな、馬鹿」
 言葉尻に感情が滲みそうになり、ローザリカは慌てて俯いた。
「私が、謝れなくなる」
 動けないでいたのは、何も自分だけではなかったと分かってしまったから。
 ローザリカは一呼吸おいて扇をしまうと、ジュストのほうへ一歩、踏み出した。差し出された手を取れば、おかしいくらい遠慮がちに握り返される。
「ちゃんとリードしてくれよ」
 こんな状態では、きっとうまく踊れやしないけど。
 どうだっていい。共に心を差し出してゆけるのなら——。

マスターコメント

皆さん、お疲れ様でした! ご参加ありがとうございました。 終わりがとてもよかったのでこれ以上何か書くのは蛇足……と思ったので、名称案についてはエピローグノベルをお待ちくださいませ。こちらも素敵な名前をありがとうございましたー!   それではまた、お会いしましょう〜
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 4〜25人

2022年02月28日 21時38分00秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. レヴィル=ストゥルルソン

    皆様、お集まりいただきありがとうございます。 今回は特に…大丈夫かと思われますが、ご質問は【18日12時まで】の受付となりますので、ご留意くださいませ。

  2. 海神 江流

    シーフの海神江流だよ。 今回は宜しくね。 【1】で演奏でもしようかなと考えてるよ。

  3. トーラ

    トーラです。 よろしくお願いしますね! わたしは【5】のお手伝いをしようと思っています。 こういうことは得意なので、何かあれば声をかけて下さいね!

  4. ナキル

    「ナキルだ、よろしくなっ! と…まぁ、とりあえず顔出し程度だけどな。 予定が未定……気になるのが多いってのもあるけど…さーて、どうすっかな。」

  5. エフィルミア

    エフィルミアです!よろしくお願いします! 行動は考え中ですけど、ナキルくんと一緒に何か出来ればって思ってます!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0