【想石】野外音楽堂で祭典を【彩都】
炙りとろ左門
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シナリオID:1915
オープニング
「シノ……何?」
アリステアは思わず聞き返した。フェイデン子爵ノーキスは、執務室の机に肘をつき、神妙な面持ちで組んだ指の上に顎を乗せる。
「エドゥノーグの方で、カカオブームに続く宝石ブームが発生したらしいの」
「あ、ああ……色々と騒ぎも起こっているようだけれど」
「これにノらない手はありませんわ。便乗よ便乗。稼ぎどきよ」
鉱山下層への突入計画に必要な予算を確保するためにも、この機は逃せない。
「でも、ただ他に追随するだけでは一時の流行に過ぎませんわ」
必要なのは、この地で何を、どのように流行らせるのか、ということ。
「それで考えましたの。アリステア、私と貴方の婚約発表はまだ内々のもので、祝賀会はまだですわね?」
「う、うん……そろそろお披露目しようかって、父上もおっしゃっているけれど」
「その話、使わせていただきたいの」
「へっ?」
ノーキスはアリステアに1枚の紙を差し出した。『野外音楽堂』とキャプションがつけられたスケッチだ。
「簡単に言うと……春を前にしたこの季節に、結婚や絆を確かめ合う祭典を催して、それを定着させたいと思っているの」
恋人や、友情や、深い絆を結ぶ者たちのための祭典。花や花びらを模したチョコレート、絆の証として送り合う宝飾品類。祭典会場としての『野外音楽堂』。
「時間がないから、開拓団にも部門を新設しての突貫工事だけれど」
「とにかく場所を先に作りたい、ってことなんだね」
「ええ。祭典の内容については、こちらで詰めますわ」
アリステアは渡された資料をめくる。相変わらず、領地の発展に精力的な人だ。
「宝石……宝石か。この間提案させてもらった果実酒についても、果実をそのまま入れて……宝石酒、とか。ありかもしれない」
「まあ、素敵。それもまとめておいてくださる? 私はこれから開拓団の皆を集めますから」
そういって、ノーキスは慌ただしくも執務室を出て行ってしまう。見ていて思うのだが、この領主はまったく心身休まるという気配がない。
「……帰ってくるころに、お茶とお菓子を用意しておかないとね」
解説
マスターより
リプレイ
「やあ、ノーキス。それから……レヴィル」
シルヴィア・A・カペルは軽装に身を包んだ2人に軽く挨拶をする。レヴィルの方を見た時にやや間があいてしまったが、無言のうちに「あのことは内密に」「そうだね」というやりとりがなされる。
いけない、集中集中。今回の依頼は野外音楽堂の建設である。
「それで、ノーキス様、予算はどれほどでしょう」
リサ・ベイカーはノーキスから一通り計画内容について話を聞いた後、そう尋ねた。
「今回はあまり心配せずともよろしくてよ。エディン侯が随分協力的に話を受けてくださったから。どちらかというと問題は、時間ですわね」
ノーキスの答えに、リサはむうと考え込む。
「確かに、資材を搬入するにもそれなりに時間はかかります……木材や石材は切り出す余裕があるとして、」
他の部分。草花などの植物は、フェイデン領以外からも融通してもらう必要がある。
「取り敢えず、構想を一度形にしてみましょう。それぞれ意見を挙げてもらって良いですか?」
リサは集った冒険者たちの顔を見回した。アスティン・ヴェルラインとエルゼリオ・レイノーラが大判の紙を広げ、メモの準備をする。
「野外音楽堂、ということでしたね。愛や絆を確かめ合う祭典……乙女の憧れ!」
シェルリア・リトヴァールはうっとりとそう言葉にしてから、咳払いの後、スケッチ紙を取り出した。
「絵は得意なのでお手伝いしますっ。『木のぬくもりや花を寄せて』ということですから、草花などの植物のモチーフをまず盛り込むとして……」
「生花が難しければ、木の彫刻を置くという手もあるね。そして音楽堂なら、音響にも気を遣わないといけない。となると、全体的に扇状に広がっているのが望ましいと思う」
音楽に造詣のあるシルヴィアが、全体の形についてまず提案する。これに異論はなく、シェルリアは「なら、」と手を合わせた。
「音響のために布も使いますよね? カーテンに刺繍や染色をするのはどうでしょう」
「いいと思う」
シルヴィアが頷いたところで、アスティンが一度書き取りの手を止めた。アスティン自身はあまり催事やその会場に縁がないが、そこそこ意見が出てくるとぼんやりとした予想図が輪郭を帯びてくる。
「中央にステージ……みたいなのは必要だよね」
「そうだね。ステージもそうだけど、観客席も木目が特徴的な、美しいものにしたいな」
シルヴィアの希望を受け、扇型の会場の奥に緩く弧を描いたステージを追加して、エルゼリオは続けて外壁について提案する。
「なら、大きな木の空洞にステージを作りました……みたいなデザインはどうかな?」
外壁を石組ではなく木組に。エルゼリオがさっとスケッチしたものを、リサは覗き込んだ。
「少しお金はかかりそうですけど……雰囲気がありますね」
「でしょ? 木葉の部分は、芝生や造花でそれっぽく表現できると良いけど……ステージ自体も花や蔦で飾ってもいいよね。『秘密の花園』みたい」
今回、新しく設立された土木部門へ異動したエルゼリオは、いきいきとした表情で作業にあたっていた。そして「どうかな?」と、ジュスト・ヴェルジーとローザリカ・L・ディオールの両人を振り返る。
「『秘密の花園』か……ロマンチックだね」
ジュストはちらりと、横隣のローザリカを見やる。
「ああ。商売の基本とも通じるが、やはり特別感の演出は必要だろうからね」
「……言いたいことはわかるけれど、もっと情感を込めてみないか?」
ローザリカの返事に、ジュストは軽く肩をすくめてみせた。もちろん冗談だが。
「では『ロマンチストの従弟殿』に合わせてやろう」
それに、ローザリカは扇を広げて反撃する。
「彫刻の案もあったが、花壇やプランターなども可能な限り盛り込みたいところだ。季節ごとに植え替えるにしろ、いつでも花が楽しめるように寄せ植えにするにしろ、なにかシルエットが浮かぶように配置してみても面白いかもしれない。花の彩りさえも音楽の一部として取り入れてみたい、と考えている」
「そうなると、結構広さが必要かな」
エルゼリオはシェルリアと一緒になって何枚かスケッチを切る。が、完成させるには工期が必要であると試算し、ひとまず花の種類ごとに区切って並べるに留めることとなった。
「でも今後、そういった演出も取り入れられるといいよね。夜間に灯りをともしても見栄えすると思うし……」
エルゼリオはリサに頼み、将来的な設計の項目としてそれを追加してもらう。
「それから、植える花の種類だけど……今の時期ならどんな花がいいのかな?」
アスティンが花壇の配置を書き入れながら尋ね、ジュストは少し考え込んだ。
「今の時期に咲く花で個人的に好きなのは……水仙やスノードロップかな。香りも良いし。寒さに強いのはパンジーやビオラ、華やかさならシクラメン。ヘレボルスもおすすめだよ。虫除けにハーブを植えるのも良いけど……地植えは危険なものがあるかな……」
ミントとかミントとかミントとか。その脅威の繁殖力について聞かされたアスティンは、へえと目を丸くする。
「草花によって育ちやすい土の質も違うから、こちらでまとめておこう」
「うん、頼むよ」
アスティンはジュストに紙と筆記具を渡す。ジュストはそれをローザリカにも渡しつつ、彼女のために椅子を引いた。ローザリカは流れるような動作で腰を下ろしつつ、インク壺にペン先を浸す。
「土産物として、押し花の栞というのはどうだろう。剪定した花の有効活用例としても、だが。2人で揃いのものとなれば、人気が出そうじゃないか?」
「素敵です! そういうの良いですよね……」
シェルリアは胸の前で手を組んで妄想の世界へと旅立っていった。押し花の栞を揃いで買った2人、身分違いの恋、一度は引き裂かれるもその栞が2人を再び引き合わせる——一瞬にしてそのような筋書きが脳裏を過ぎる。
「……大方意見が出揃った頃でしょうか」
めくるめく夢の世界を周遊中のシェルリアに代わり、Alexandra・Hexe・Claudiaが控えめに手を挙げる。
「であれば、どこに建設するかということも決めなければ。今後の開拓計画においても、景観や周辺環境を壊すことなく、以上の内容を無理なく盛り込める土地……且つ、アクセスにも難儀しない場所、となると。どうでしょう……?」
この土地や開拓計画のことは、ノーキスやレヴィル、そして親方衆が一番詳しいだろう。
(私だけでは、せいぜい土地柄に合うか合わないか……くらいしか意見できませんしね)
Alexandraは内心で小さく息をつく。花に関しては役立てそうであるし、そちらに力を入れるつもりではあるが。
「そうですわね……私とアリステアの婚約の披露に合わせての建設となりますから、首府の所有森林内が良いと思いますわ。ちょうど再開発予定で整地した公園がありますの」
ノーキスは、レヴィルが広げた地図の該当箇所をペンで丸く囲む。
「では、そこの地質調査から行おうか。土の入れ替えも必要になってくるかもしれない。建物にしろ、ベンチにしろ……しっかりと安定させておかないとな。なにしろ領主の婚約発表の場ともなれば、中途半端では許されないだろう」
サマエラ=フォリウムが軽く荷物をまとめ、ほぼ形になった設計図を覗き込んでそう呟くと、一同しっかりと頷いた。
「じゃあ設計図をみんなに共有しないとね、」
エルゼリオが軽く手で紙面を扇いでインクを乾かす。そこへ、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが急足で訪れた。
「さて、設計図はどうなっている? 出来上がっているなら確認させてくれ!」
「あ、ちょうど今まとめが終わったところですよ」
リサがアルベルトに水を渡しつつ、スケッチの最終稿を見せる。それに、アルベルトはほうと息をついた。
「なるほど。これは素晴らしい音楽堂になるな。……よし! 力仕事は俺に任せろ!」
「はい。資材や資金の配分はこれから……すぐにまとめますので、その間に設計図の共有をお願いします」
「おう!」
インクの乾いた設計図を丸め、アルベルトは意気揚々と実動組の元へ戻っていく。それを見送り、リサはすぐに予算案の作成に取り掛かった。
● 愛と絆の祭のために
野外音楽堂は首府に建設されることになった。ゲルダ・クラインは木材や植木鉢の運搬に手を貸したあと、次々と資材が運び込まれていく公園内を見回す。
「いろんな方が音楽に触れ合えるような場所になるといいですね……もちろん、祭典の場にふさわしい、心躍るような場所にもなれば」
ただの公会堂ではなく音楽堂としたのは、ノーキスがここを頻繁に利用していきたいと考えているからだろう。そして音楽は、きっと人と人の絆を深めるものであってくれるはずだ。ゲルダは開拓団の所属ではないが、尽力するつもりで気合を入れ直す。
「ほい。重いでしょ、持つわ」
「あっ」
そうしてゲルダが荷台から降ろそうとした木板を、サイラスが横からひょいと抱えあげた。
「ありがとうございます」
「いいよー。そっちの植木鉢を向こうに頼むわ」
「はい!」
ゲルダはいくつか植木鉢を重ねると、よいしょと持ち上げる。向かう先には、地質の調査結果を花壇作成組に伝えるサマエラの姿があった。
「お待たせしました。植木鉢、ここに置いておきますね」
「ああ、ありがとう、ゲルダ。重かっただろうに」
サマエラは眉尻を下げるが、ゲルダはむしろ胸を張る。
「いえ、わたし、力仕事は得意なので。むしろどーんと任せてください」
「それは頼もしいな。じゃあ土や花苗も……あ、」
君に任せようか、と言おうとして、サマエラは手を打つ。
「向こうでエミリアとスィーリーンが、内装について話していた。意見を欲しがっていたから、そちらを頼めるだろうか」
「内装……飾り付けだけでなく、綺麗に音が響くように柱や壁を設置しないといけませんね」
そういえばサイラスが外壁を担当していた。そちらとも擦り合わせる必要があるだろう。
「わかりました。残りの運搬を終えたら、そちらに向かいますね」
「よろしく頼む」
── ○ ──
「ふむふむ。ノーキスさんとアリステアさんの婚約お披露目会は、割とすぐ行われるんですね」
トーラはサマエラから直近の予定を聞くと、用意された苗木を見やる。
「なるほど、それで蝋梅……」
「ろーばい?」
ツィーラ・イェレミースは首を傾げた。ツィーラはフィルエス大森林の出身だが、草木や花の名は詳しくない。身近なものすぎて、逆に名を尋ねる機会がなかったのだ。
「これ、ろーばいって名前だったんだー」
「はい。蝋のように花弁が透き通っているので、蝋梅です」
トーラは解説を付しつつ、その数を確かめる。領主館の庭に植えられていた分だけであるため、景観のアクセントに使ってくれとのことだった。
「四季折々の花を植えるとのことでしたから……ええと、ジュストさんがまとめてくれた内容によると、その花が好む土の組成が類似している種類を寄せ植えて……」
「んん……?」
ツィーラはさらに小首を傾げる。なんや、難しい。
「よくわからないけど、任せて!」
名前こそ知らないが、花や木が知らせる季節の移り変わりや、その美しさについては人一倍知識がある。今の時期に咲いている花苗を詰めた荷車を覗き込み、それぞれを迷うことなく手に取ると、すでに耕した地面に植えていく。
「ええと、森ではこんなふうに咲いてた気がするぅー……、……よし! できたー」
「おお……」
赤、黄色、白。いずれも背の低い小花だが、自然と地面を覆うような絶妙なバランスで配置されていた。
「隙間を埋めるように、ちょっと花弁の大きな花を植えると、映えますね。さすがツィーラさんです!」
「でへへー」
褒められ、ツィーラは頬を緩ませる。苗木の選定もツィーラに手伝ってもらった方が良さそうだと、トーラは蝋梅の苗を抱えた。
「これはどこに植えたほうがいいと思いますか?」
「そうだね、これはとっても大きくなるから——」
トーラとツィーラが和気藹々と土をいじるその反対側で、ジュストとローザリカも苗植えに励んでいた。
「土いじりなんて、子供の頃以来だな」
ふと漏れた言葉に、ローザリカの手が止まる。2人にとって花は、古びた小箱に仕舞い込んだ思い出のひとつだった。
(おばあ様がご存命だった頃は、一緒に花を植えたり、摘んだりして)
(……もらった花が枯れてしまうのが、悲しくて仕方がなくて)
それぞれ郷愁に目を細めては、溜め息を隠した。
花冠を結んでは無邪気に笑い合っていたあの頃には、どうしたって戻れるはずはないのだ。
「『野外』というのが良いよね。開放的で」
ノーキス曰く「突貫」ということもあろうが、天気の良い日に花と緑に囲まれて挙式が出来たら、確かに思い出深い1日となりそうだ。ヨル・スレイマンはしみじみと頷きつつ、出来合いのベンチに腰掛けてタオルで汗を拭う。すでに担当した花壇の花は植え終えたところで、しばしの休憩というわけだ。
「あ、ヨル。ちょっとどいてくれ、次それ掘るから」
「ん?」
そこへ現れたナハシュが、ちょいちょいと手でヨルを退けようとする。何を掘るのやらと思えばもう片手にはのみが。このベンチを仕上げたいらしい。ヨルは素直に立ち上がり、ナハシュの仕事を後ろから覗き込む。
「へええ……こう言っちゃあれだけど、君にこんな洒落た仕上げをする感性があったなんて」
ナハシュはベンチの脚や天板の隅に花や蔦模様を器用に刻んでいく。その手際もさることながら、図柄も素朴で温かみがある。
「褒めてんのか? 馬鹿にしてんのか?」
「もちろん褒めてるよ」
ヨルはじっと、ナハシュの作業を見つめる。ナハシュは集中しているようで、一言も喋らない。それがどこか退屈でもあるが、ナハシュの手によって生まれる美麗な曲線は、惚れ惚れとする出来だ。
「お祭りのつもりで来たんだがなあ」
「それは次の機会に、だね」
愛や絆を確かめあう祭典——ノーキスはそれを根付かせたいのだという。
ふと、自分とナハシュの間にあるものはなんと呼ぶべきものか、ヨルは考えを巡らせた。
「おーい、屋根板を持ってきたぞ!」
と、そこへアルベルトが木板を重ねて運んできた。角を傷つけないよう、慎重に地面に下ろす。
「おっ、ありがとな。登って作業でもよかったんだが……」
「掘ったぶん木組がずれるといけないからな。作業が終わったらまた俺が運ぼう」
「屋根にも掘るの?」
ヨルは驚いた。目を留めるものなど多くはないだろうに。
「細けぇところにある、こう……洒落た感じの装飾見ると、洒落てんなあって思わないか?」
「なるほど……」
言語化も勢いと雰囲気なのがまたナハシュらしい。ヨルは感心しつつ、装飾の終わったベンチを眺める。
「うん、素敵だ。よく見ると気付けるさりげなさがまた、いいね」
祭りの時はここに屋台も出るといいな、などと話しながら、のみの頭を打つ小気味良い音が響くのを聞いていた。
── ○ ──
「うーん……この場所に仕切りがあったほうがいいかな……」
ゲルダはステージに近づいたり離れたりしながら、最適な音響環境の設計に取り組んでいた。スィーリーンとエミリア・シバ、そしてサイラスがそれを見守る。
「ゲルダちゃんの話では、ベンチの配置にも気を配ったほうが良いそうよ」
エミリアが新しい配置図をスィーリーンとサイラスにみせる。色々と補助線が引かれているが、そのひとつひとつが計算されたものであることに一同は舌を巻いた。
「音響理論はわかりませんが、ベンチの装飾、かわいらしかったですね。1人用の椅子もいくつか補充したいところです」
「ナハシュちゃんがやってくれたのよね。溝に宝石をあしらったらどうか……って案も出てたけど、防犯上見送りになったみたい」
防犯といえば、とエミリアは続ける。
「人が集まれば犯罪も起き得るわよね。防犯関係についても詰めたほうがよさそう」
すなわち、死角を潰すこと。エミリアはきょろきょろと会場内を見回し、ゲルダが「ここです!」と柱を立てたところへ歩み寄ると、位置の微調整について話し合う。
「ふむ……皆様それぞれの得意分野を活かしての作業。であれば私は……」
スィーリーンはステージの縁に布を渡し、留め具に造花をあしらって波を作る。
「お、洒落てるね」
「ありがとうございます、サイラス様。あとは上の方に何かあればと思うのですが……」
「上かあ」
スィーリーンとサイラスは共に上を見上げる。仮組みから本組みの準備が進められている外壁は、確かに今のままでは少し寂しい。
「そういえば、エドゥノーグの宝石ブームなんだけど。宝石自体はこっちには流れてきてないんだっけ?」
「ええ、はい、そのようですね。ですので話題の宝石を確保するのには少し手間がかかるとかで」
サイラスの問いに、スィーリーンは頷く。
冒険者による持ち込みがある程度、となれば、それでひと作品は確かに難しいだろう。サイラスは顎をさすりつつ、ふと思いついたことを口にする。
「褪野にはガラス工芸があるんだっけ。できそうなら、こう、ステンドグラスとか作れんのかね。色とりどりのガラスが合わさって光を通すの、宝石にも見劣りしないと思うんだけど」
「色ガラスですか……私は製法には明るくないので、工芸部門にお話を上げてみましょうか」
工期的に可能かどうかは、職人でなければ判断ができない。稼働している工房の空き状況にもよるだろう。
それについて2人が話し込んでいるうちに、屋根の取り付け作業がはじまった。
「私もいつか、こういうお祭りとかで……挙式、とか」
エフィルミアは想像を巡らせる。花吹雪の中、多くの人に祝福されて歩む先に居る、運命の相手は——。
(べっ別に相手がナキルくんとは言ってないし)
壇上で待つ「運命の人」の顔が浮かんだ瞬間、エフィルミアはぱっと頬を赤らめた。
「あ、ミア。そっち押さえててくれるか?」
「ひょあっ!?」
ナキルに声をかけられて現実に引き戻されたエフィルミアは、思わず飛び上がりかけ、すぐに平静を取り戻す。2人がいる場所はステージにかかる屋根の上なのだ。
「あぶねえから、集中だぞ」
「わっわっわかってるもん! ここね!」
「ん、ありがとな」
エフィルミアがぐっと反り返った木板を押さえ、ナキルが木づちで叩いて均していく。やがて木組みが嵌る感触があり、ナキルは額の汗を拭った。
(あ、今のかっこいい……かも)
思ってても言ってあげないけど! とエフィルミアはすぐに目を逸らす。この胸のどきどきはきっと、高所作業だから。そういうことだ。
「よし、反対側はアルベルト達に任せてるから、降りようぜ」
「うん」
エフィルミアも借りた木槌で数カ所叩きながら歪みがないかを確認し、ナキルと一緒に地面に降りる。
「そういえば、入口の方どうするかでちょっと難儀してたような。手伝いに行くか」
「ツィーラさんたちが蝋梅を植えてて……リサさんが絵を飾りたいって言ってたっけ。うん、行ってみよ——」
と、エフィルミアが踏み出した先の端材に蹴躓く。それを咄嗟にナキルが支えた。
「っと、足元に気をつけ……」
一瞬にして縮まった距離に、交錯する視線。煌めく瞳に見惚れ、ナキルは言葉を切る。
「ナキルくん……?」
「……最近、また可愛くなった?」
「えっ!?」
エフィルミアは今度こそ飛び上がる。いつものような豪速球ではなく、不意にぽろっと漏れたような言葉だったからだろうか。
「ととと当然でしょ!」
エフィルミアは思わず肯定してしまい、耳まで赤くなる。そして、
「ナキルくんのばか!」
やはり、そう言ってしまうのだった。
── ○ ──
「うん、順調だね」
作業も終盤に近づく頃、アスティンは全体のバランスを逐次確認しつつ、工期を適宜見直していく。天候に恵まれたこともあってか、予定よりも早く完成となりそうだ。
「いつかこんな場所で、素敵な人と絆を確かめ合いたいですね……まだそういう人はいませんけど……」
なので素敵な人同士の(ドゥジン的)妄想を膨らませておきます、とシェルリアは心の中でぐっと拳を作る。
「結婚、か……」
シェルリアの呟きに、ルベア・ベルニは小さく反応すると、階段上に積まれた花壇に視線を逃した。季節ごとに花の入れ替えが楽になるようにと提案したものだ。
(私もいつか、こんな素敵なところで……出来るのかしら)
どんな相手が伴侶になるかは不明であるし、そもそも出会えるかどうかも不透明だが——とルベアは悲観的だ。しかし、人並みに憧れはある。
「あとは細かい仕上げだね」
アスティンの声に、シェルリアとルベアは現実に引き戻された。アスティンが手を振る先には、バケツを引っ提げたラシェルとだわがいる。
「待たせたの。いやー割と量が要ると思ってな」
ラシェルがそう言って、両手のバケツを地面に降ろす。
「それは?」
「防腐剤だ」
ルベアが首を傾げると、だわが言葉少なに答え、刷毛をそれぞれに手渡していく。
「……虫除けにいろいろ混ぜた、特製の」
レシピはすでにレヴィルに渡してある、とだわは続ける。
「……だわさんってすごいわよね。測量から設計までやったって聞いたけど……」
刷毛を受け取りつつ、ルベアは関心したように特製防腐剤を覗き込む。爽やかなハーブの香りがした。
「俺1人の仕事じゃない。防腐剤も、調合したのはラシェルだしな」
「おぬし、謙虚じゃのぅ」
ルベアはもう片手でバケツのひとつを手に取ると、上を見上げた。
「じゃあ、上は私に任せて」
「わかった。じゃあ俺たちで手分けして、ベンチやテーブルに塗ろう」
「よしきた」
だわとラシェルがそれぞれベンチに防腐剤を塗っていき、シェルリアとアスティンが「防腐剤塗りたて」の印をつけていく。ルベアはいつもの癖で屋根へ飛び上がろうとして、手に持っているものに気づき、梯子を使った。
ぺたぺた。ぺたぺた。
無心の作業のうちに、ルベアはふと、風にふわりと乗ってきた花の香りに手を止めた。
厳しい冬を耐え忍び、春がやってくるのだ。
「……春だけじゃなくて、いつもみんなに使ってもらえて、愛される場所になると良いわね」
「おい、」
と、梯子を登ってきただわに声をかけられて、ルベアは立ち上がった。
「どうかした?」
「いや……心配だったんでな」
「高いところなら慣れてるから、平気よ?」
「そうではなく……」
だわがちょいちょい、とルベアの尻尾の方を指差す。
「え——あ、あああ!?」
そこには、しっとりと濡れた尻尾があった。
セオ・ウルジオは、音楽堂の外周近くに設置した石材を加工していた。雨風があることを考えれば、石椅子があっていい。木椅子と違って簡単には動かせないため、配置には時間を要したが、位置が決まってしまえばあとは仕上げだけだ。
座面はできるだけ平らに、雨水がたまらないよう傾斜を施す。側面にかけて蔦模様を刻むことで排水を助けつつも見た目は優美に。そうして出来上がった石椅子を少し離れたところから眺めて、セオは満足げに頷いた。
「よ、順調だな」
「あ、カフさん」
そこへ、カルフ・オルヴォが水を持って戻ってくる。セオは水を受け取って一口含んだ後、あっと声を上げた。
「座りましょう! ね、」
できたてぴかぴかの自作の石椅子にカルフを導きつつ、セオは上機嫌で隣に腰掛ける。
「案内板はどうですか?」
「ん、」
カルフは案内板の製作にあたっていた。そこそこ広い公園ということもあり、出入り口がどこか、受付や事務所はどこか、控室は……といったものが必要だと思ったのだ。端材を使ったのだが、これがまた「秘密の場所への案内」というような雰囲気を醸していて、受けが良かった。
「元々森だから、街中なのにそんなうるさくなくて、いいな」
小鳥の囀り、木々のささめき。遠くには冒険者達が息を合わせて作業をする声。そのいずれもが心地よく、時間と共に流れていく。
「そういや、ここの名前を考えてくれ、ってのもあったな」
「野外劇場、アイビーズリラ……とかどうでしょう?」
他にも複数案が出ていることは知っている。セオは一案として、考えているものを挙げた。
「アイビーの花言葉は、『永遠の愛』や、『友情』……竪琴は音楽と木々の神話から取りました」
ここで、たくさんの想いが育まれるように。相手を好きだと思うさまざまな形が、祝福のもとに育つように。セオは、自分のそんな想いが——どうか彼にも伝わるようにと願いを込めた。
「完成したら、僕たちも聴きにきましょうね」
なんでもない約束も、なんだか気恥ずかしくなってしまって、セオは笑って誤魔化す。
「……ああ、そうだな。まったく、お前には勝てないよ」
「? 何がですか?」
「いや、こっちの話」
カルフも頬をかいて、肩を竦める。そして小さくあくびをひとつした。連日夜中まで作業をしていたこともあり、そこそ疲労が溜まっている。
「ちょっとここで昼寝させてもらおうかね」
暖かな木漏れ日は、すぐそこまで春が訪れていることを告げていた。
● ハルカナデ
「かわいい!」
リサが作ったウェルカムボードを見て、アリステアは目を輝かせた。それに、リサは少し照れたように応じる。
「黒板にチョークで描くのはあまり経験がなかったので、思うようにはいかなかったのですが……」
「いえ! とっても素敵です!」
絵を飾るスペースを探していたリサは、カルフが案内板を設置しているのを見て、ウェルカムボードを作ることを思いついたのだ。これなら外壁がステージまでの視線を遮ることはない。
「入口付近の花植えも、だいたい終わりましたね」
Alexandraも倒れかけた煉瓦を直しつつ、色とりどりのビオラが埋める外周を見渡す。
「あとは、あれだな、名前だ」
アルベルトは入り口にかかるアーチに飾る看板を担いでくると、脇に下ろした。名称が決まらなければ、名入れができない。
「えーと、挙がってるのは……『久遠の彩』、『幻奏庭園』、『逢花堂』、『花絆堂』、『ラビアヨナーデ』……これは春を呼ぶって意味らしい。で、『アイビーズリラ』、だそうだ。なんでもアイビーの花言葉が、『永遠の愛』と『友情』なんだと」
「……え、も、もしかして僕が決める流れでしょうか」
アリステアはぱちぱちと目を瞬く。
「ノーキス様とアリステア様の婚約話が元になった計画ですから」
「そ、そうでしたね……恐縮です。アルベルトさんも、ご説明までありがとうございます」
うーん、と悩むアリステア。どれも素敵な名付けなだけに、迷う。
「……そうですね、確かに計画の始まりは僕たちの婚約でも……いろんな人がここで祝福されていくと思えば、やっぱり——」
褪野に春が来る。そして、祝福の鐘が鳴る——。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:多い25 / 4〜25人
2022年02月13日 16時33分44秒 公開
参加者
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー とりま建設に注力予定
No.2
キャスターのラシェルじゃ、よろしゅうの! むむぅ、わしも建設に注力かのぅ?(悩んでいる様子)
「ナキルだ、よろしくな。 今回は野外音楽堂ってヤツの建設…設営とかそんなカンジか…? 後は音楽祭の名前だっけか…なんか、「フェス」とか「フェスティバル」だとか、そんなんで似た祭りを聞いた気がするな…総称的なヤツか…。」
スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 私は主に建物の装飾や内装に注力したいと考えています。
皆様、集まってくださってありがとう。これからも使い続ける施設になるから、素敵なの音楽堂をお願いしますわ。 質問は、9日の12時までの受付となりますので、ご注意くださいませね。
No.6
〉ナキル殿 副目的は、多分これは祭りの名称じゃなく、建物の名称募集じゃないかの?
「>ラシェル …あ、コレ建物の名称かっ!完全に勘違いしてたぜ、指摘サンキューな! っつても、いまだにコレってのが思い付いてねーな… あー……でも、時期が時期だし…「春告祭」…?安直か…いや、建物の名前だったか…この辺のネーミングは得意なヤツに丸投げした方が賢明な気がして来たな…。」
んあっと!参加だけしていて挨拶してなかったや。 ツィーラ・イェレミースだよぅー!よろしくね!! はー、おんがくどうの建設なんだね。 え、なんだろ。よくわかんないけど、開拓団の【土木】以外は今回関係ない感じなの?
…あ、答えて良いのかしら?|-・) 開拓団の【土木】および他部門の募集は希望者がいれば、というついでの案内で、今回の皆様の尽力に所属は問いませんわ。
わー!教えてくれてありがとうっ! かんしゃかんしゃ。 でもごめんね、Qをつけるべきだったねぇ。でへへ。 えっと、じゃああらためて、行動なんだけど あたしは特にスキルがあるわけじゃないから、やれることを探しながらかなぁ。 誰か一緒に行動しない?
滑り込みで参加させて頂いたトーラです。 よろしくお願いします! 土木の方で参加しようと思います。 周りに植木や花を植えて華やかな会場にしようかと。 ツィーラさん、やることが決まっていないならご一緒しませんか?
ありがとうトーラ! ひとりでちょっと寂しかったんだぁ。 植木や花だね。でへへー、よろしくぅ!
ありがとうございます。 ツィーラさんよろしくお願いしますね! とりあえず花壇を作ってお花や植木を植えれないかと思っているので、花や樹木の種類や他に思い付いたことを行動に書いて貰えたらと思います。
カルフ・オルヴォだ。宜しく頼む。 『野外音楽堂』の建築で人手が必要なら手伝う前提で 手が足りてるなら、施設内の案内看板を考えてる。 副目的の方は得意じゃねえんで誰か頼んだ。
こんにちはセオ・ウルジオです。 僕は客席を作ってみたいと思います。 あとは名称も考えられたらいいなぁ。 よろしくお願いしますね。