【褪野】開拓団募集! あつまれ褪野の森
炙りとろ左門
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シナリオID:1298
オープニング
冒険者たちが提出した財政再建案や、新しい産業の可能性の示唆。それらを目にした王国査察官、レヴィル=ストゥルルソンは中央に「子爵領再興計画」を進言した。その結果、レヴィルは正式にフェイデンへと赴任することになった。
(体の良い左遷だと思ってはいたが……)
執務室の机に齧り付き唸りながら書類を決裁する少女、フェイデン子爵ノーキスの様子を見て、レヴィルはわずかに微笑む——存外、退屈しない。
「ああもうこの書類の山いつになったら減りやがりますの……! あら、ストゥルルソン、今、笑いまして!? この私の無様な姿を見て!?」
「誤解です、ノーキス様。無様とは思いませんよ。人間、努力し励む姿は好ましいものです。……少しお休みになられた方がよろしいかと存じますよ」
レヴィルは決裁済みの書類を仕分け箱から取り出し、机の上でとんとんと縁を揃える。ノーキスはようやく手を止めて、丸まっていた背中を伸ばし、椅子の背もたれに寄りかかった。
「牧羊、焼き物、用土改良、堆肥づくり、簡易港の開発に鍾乳洞の調査、商人たちの誘致、投資契約……一気に慌ただしくなりましたわ。民の負担になっていないと良いのだけれど」
「皆が皆、賛成しているというわけではありませんしね。しかし概ね、彼らは前向きに、そして自発的に取り組んでいるかと思います。民と領地を想うあなたの心に応えたいと言って」
ノーキスはむっと口をつぐむ。なんだかこそばゆくて、視線が彷徨ってしまう。
「で、であればさっさとあの計画も進めてしまいますわよ!」
ノーキスは一束の計画書を取り出した。きりよく休ませようと思っていたレヴィルは眉を顰めたが、ノーキスはぐいぐいとそれをレヴィルに押し付けてくる。渋々それを受け取ったレヴィルは、表紙の「開拓団募集要項」の文字を指でなぞる。
「冒険者たちに開拓を手助けしてもらう……ギルドとよく話がつきましたね」
「冒険者ギルドは中立中庸ですもの。話自体はそう難しくはなかったけれど……」
ノーキスは言葉を濁す。
「新たな後援者も、この開拓団への反応でだいぶ絞り込めますね。彼らには今回、あの鍾乳洞を探索してもらうということでよろしいですか?」
フェイデン領の南部、海沿いの崖の下で発見された地下鍾乳洞。先日の調査で、そこに玻璃花と呼ばれる水晶が湧出していたことが報告されている。2人もその目で確認した。
すぐにでも鉱山を奪還したいところが、領内は未だ慌ただしい。それに、この情報を知る者たちが勝手に鉱山に出入りしないよう、あそこはまだ亜人たちに占拠されていた方が都合がいい。
「鍾乳洞の探索は、今回は準備のみですわ。先に冒険者で構成された開拓団が立ち入ることで、出資者の機嫌を損ねるかもしれませんもの」
「であれば……」
「開拓団結成については、彼らにも了承を得ていますわ。今回は顔合わせ……食事でもしていただきながら、商談ということになるかしら」
胃が痛いですわ、とノーキスが小さく呟いた。交渉ごとは不得意ではないにしろ、緊張しないというわけではない。最小のリスクで最大の利益を引き出すことについては、相手の方が何枚も上手だ。
「けれど、やるしかありませんわね。ストゥルルソン、最終調整を頼みます」
レヴィルは承服の礼をとり、書類を手に執務室を出る。仕事はまだまだ、山積みだ。
解説
マスターより
リプレイ
「ノーキス様、明日の立食会のお品がきです」
立食会前日。慌ただしく執務をこなすノーキスのもとに、リサ・ベイカーが馳せ参じる。同じく執務室には、ヨル・スレイマン、ルベア・ベルニ、シルヴィア・A・カペル、サマエラ=フォリウム、そしてリゼット・ブランが集まっている。開拓団の名称を決めるためだ。
「ありがとう、助かります」
ノーキスは品書きにざっと目を通す。最近はじめた牧羊をアピールするための羊肉料理には、領地で取れる他の食材も添えられている。海で取れる魚介類を用いた料理もまた、バリエーション豊かだ。
「私とそう変わらないのに、すでに商人として立派に活躍されているのね」
それは前回彼女の助力を得たときも感じたことだ。ノーキスは満足そうに頷いて、それを決裁し、レヴィルに手渡す。
必要な食材の確保や料理長と話をつけるためにレヴィルが退室したところで、ノーキスは一度ペンを置いた。
「待たせましたわね。お茶が冷めてしまったかしら?」
「いや、構わない。……同じ王国民だ。助けになることができればと思うよ」
そう優雅に応じるシルヴィアは、ノーキスと同じく王国貴族だ。そしてしげしげとカップを見つめる。
「これが、今進めている焼き物かい?」
カップには色が入っていない。しかし波を表現するような器形の曲線美が際立っている。
「海、綺麗だものね。らしくていいと思うわ」
ルベアもまたそう評して、指でカップの腹を撫でる。
「色を入れるなら青かしら? 確かベルクさんが釉薬の調合比と絵付けの図案を考えていたわよ」
「そうなのかい? じゃあ後で話を聞きに行こうかな。この場では、開拓団の名前を決めないとね」
シルヴィアがそう切り出すと、リゼットがはっと気づいたように顔をあげる。
「瑠璃はどうでしょう?」
「玻璃と対になる貴石か」
ヨルがなるほどと頷いた。
「はい。海、見せてもらいましたけど、ルベアさんの言う通り綺麗な海だなって。あそこの開拓も重要な要素と聞いていますし」
「なるほど。私からは『コルヌコピア』という名前を挙げさせてもらおう」
「こる……?」
サマエラの言う聞き慣れない響きにリゼットは首を傾げる。
「昔、豊かさの象徴であったという角の名前らしい。他はどうだろう?」
「では、私は——」
シルヴィアは玻璃に関する名称を用意していた。「水晶」と「始まり」を意味する単語を組み合わせたシルヴィアの案は、それでいてどこか古典的な響きを持っている。ルベアからは「玻璃姫支援団」、リサからは「玻璃花プロジェクト」などが挙がった。
「玻璃姫」と呼ばれているノーキスがまるで自分のことを言われているようだと照れに負けて机の下に隠れたあたりで、ヨルが苦笑しつつ「彩都開拓団」という一案を出す。
「目指すものを掲げるのはどうだろう、と」
「それは……妙案ですわ」
おずおずと机の下から顔を出したノーキスが頷く。それにリサは微笑んだ。
「褪野と呼ばれた地が、これから彩都と呼ばれるようになる。素敵ですね」
「ええ……そのために、あなたたちの力を借りたいの」
立ち上がったノーキスは、こほんと咳払いをした。
「では、彩都開拓団を売り込むための作戦会議といきましょう」
● 商談、朗らかに
そうして迎えた立食会は、運よく快晴に恵まれた。領主館の庭に運び出された丸机に、それぞれ料理が並べられる。
この席を望んだのは3人の商人たち。出資する相手をこの目で見極めたい——というのが、彼ら共通の考えだ。それぞれ商人という職業柄、当然顔見知りなのだろう。まずはノーキスを囲んで朗らかに挨拶を交わす。
「こちら、エスト・ポーラのベイカー商会からいらした方ですの。先日から貴重な助言をいただいておりますわ」
「リサ・ベイカーです。アドバイザーとして関わらせていただいております」
「あらまあ、お若いのに。関心関心。ねえ?」
リザードマンの老商人がしわがれた声で相好を崩し、ハーフビーストの青年商人を見やる。
「励みになるんじゃないかしら?」
「……ふん」
獣人商人はぶっきらぼうに鼻を鳴らす。だが、リサを侮っているわけではないというのは、態度で伝わってくる。どうやら商人には珍しい、職人気質らしい。
「おいおい、女の子には優しくしなきゃ」
それをエルフの商人が場を取り持つ。
リサから今日の予定について軽く説明を受けた3人は、挨拶もそこそこに、冒険者から声をかけられるとゆるゆると散っていく。
「頼りになりますわ」
「ありがとうございます。開拓団については、全体を見ていきたかったので。アスティンさんも今回はそのように」
アスティン・ヴェルラインは開拓方針を見直すための情報を手に入れるため、方々から話を聞いて回るようだ。
「内容はそれとなく知らせるね」
「ええ、お願いします」
器用ですわね。ノーキスが賛辞をこめてそう伝えると、アスティンは苦笑いした。
「まぁ、こういうので値踏みされるのはお互い様……ってね」
アスティンが去ったあとで、Alexandra・Hexe・Claudiaが資料と紅茶を片手に顔を出す。
「フェイデン嬢、リサさん。お飲み物をお持ちしましたよ」
「ありがとうございます」
リサは説明のために喋り続けて乾いた喉を、紅茶で潤す。と、Alexandraが持っている資料が、前回自分が提案した「石材の接着剤」についてのものだと気づく。
「膠灰……高温で焼成した石灰岩の粉末。水だけで溶いて接着に使うほか、さらに砂利を混ぜて成形すればこれ自体が建材となります。許可を得て進めていた焼成環境の実験データがとれましたので、今回はそれを利用させてもらおうかと」
「この3日で……!? お疲れ様です」
リサは驚きつつ、受け取った資料を眺める。その横で、Alexandraは「ついでに、」とノーキスに切り出す。
「鉄重石の件ですが、採掘解禁の際にギルド側へ直接の取引は可能でしょうか?」
「鉄重石を? でも、あれは現状では加工技術がないと……」
「はい。ですが合金化した鉄重鋼の強度……これは、神匠も見逃せないかと」
なるほど、とノーキスは頷く。
「覚えておきますわ。けれど、まずは皆と相談させていただきますわね。鉱山はまだ奪還できていませんし、枯渇しているかもわかりませんもの」
「では、そのように」
Alexandraがリサから戻ってきた資料を片手にいそいそと場を離れる。
「あなたも少し休んでいらして? 昨晩、お料理の仕込みでサマエラ嬢と遅くまで頑張っていたでしょう?」
「やるべきことだと思ってのことですから。でもありがとうございます。では、またあとで」
リサもその場を辞し、ノーキスはふうと息をついた。それから慌てて居住まいを正す。
「あら。いけませんわ。戦いはこれから。気を引き締めませんと」
◆─◆─◆
「全員が出資してくださったり……は難しいですよね」
エフィルミアは難しい顔をする。3人の商人はいずれも優秀だが、しかし優秀であるが故に、全員を囲い込むようなことがあれば他の商人やその取引相手からも不満が出る。ゆえに今回契約を取り付けるのは1人だけ。そして決定権は彼らにあるため、集まった冒険者たちはそれぞれの商人にアピールをすることになったのである。
そこでエフィルミアとサマエラ、そしてアルマ・ヴァレンタインはエルフの商人にターゲットを絞る。
「やっぱり領民を飢えさせないこと。毎日きちんと食事ができる安心感はあらゆる活動の基盤です」
エフィルミアの考えに、サマエラも頷く。
「ああ、食の向上は活力に繋がる。私も食いあぶれたことがある身ゆえ……こちらには力を入れていきたい」
「そうすると、土の話からするのがいいかな」
アルマがそう作戦を立てていると、
「うんうん、面白そうな話をしてるね。私にも聞かせて?」
と、エルフの商人がかろやかに割り込んできた。
エフィルミアたちは驚き、会話の主導権を奪われかけていることに気づいたサマエラが口を開く——。
「これ、すごく美味しい。な、パヴェル」
が、近くでもりもりと食事を楽しんでいたコハクとパヴェル・A・サムルガチェフがさらにスピードをあげる。いや、勢いを増しているのはコハクだけなのだが、おいしいおいしいと食べる姿は見ている者の毒気を抜く。
「今日は端から端まで食べ尽くす」
きらりと光る瞳。それが偶然、エルフの商人を捉えた。
「私はおいしくないよ」
「そっかー」
すかさず命乞いをしたエルフの商人に、コハクが興味薄そうに答える。それを見守っていたエフィルミアたちだったが、押すなら今だとエルフの商人につめかけた。
「商人さん、このフェイデンの人たちが飢えないように力を貸してくれませんか?」
「先日土壌調査を担当したのだが、資料に不明な点はなかっただろうか?」
「土の改善とか、堆肥の作り方とか、ぜひエルフの立場から意見を聞かせてもらいたいなって」
エフィルミア、サマエラ、アルマに詰め寄られ、エルフの商人はたじろぎつつも話を受ける。
エフィルミアは事前に、前回の地質調査や畑の生育状況から、どの場所にどんな野菜が適しているかを頭に入れていた。枝豆や蕎麦、じゃがいもなど、痩せた土地でも育つ野菜の種や苗を安く手に入れたい。そしてゆくゆくは大豆、とうもろこし、小麦などの主食として優秀な食物を作りたい——。
「そしてそのためには、土をどうにかしないといけないと思うし……あと、飼料に用いる植物なんかにも手を入れて、畜産物の品質向上、っていうのも……」
アルマがサマエラから受け取った資料を広げながら、情報取引を開始する。エルフの商人はすっかりペースを乱されてしまい、苦笑しながら応じるのだった。
◆─◆─◆
「さすが貴族飯だ。美味しい」
ヨルはもぐもぐとカルパッチョを食べる。貴族飯とはいうが、今食べているものに関しては、実はリサとサマエラの仕込みだったりする。しかし貴族主催の立食会に出されても味の劣らぬ出来——。
「いや、何しにきたんだよ」
目的があるだろ目的が。そう小声でツッコミを入れるナハシュに、ヨルはふふっと微笑む。
「何事も社会勉強だよ」
「タダ飯食いにきたのかと」
「失敬な。俺はちゃんと開拓団の名前を考えたし、光栄なことに採用された」
「皿置け皿」
ヨルの名誉のために言うと、別に彼は食い意地が張っているタイプではない。そう、これは作戦——この無愛想なハーフビーストの商人との空気を和らげるための。
「おいしいのに。あんたもそう思わないか?」
「……まあ」
商人は黙々と魚肉マリネを口に運んでいる。胃袋を掴むことには成功したようだ。
「この、皿」
そして彼の小さな呟きを、ベルク・オスマットとシルヴィアは聞き逃さない。
2人は立食会の準備期間中、釉薬を数種類試作し、玻璃花についても過去の記録に当たっていた。ベルクは玻璃花を釉薬の材料に使えないかとも考え、玻璃花をモチーフにした図案もいくつか描き上げた——そして同時進行で、職人に頼み、実際に焼き物も作ってもらっていた。
そしてそれを、立食会で用いたのである。
「素晴らしいだろう? これが褪野の焼き物だ。まだ試作段階だけどね」
シルヴィアが他にも何枚か皿を見せると、商人は興味深そうに描かれた絵を指でなぞる。
「この図案は?」
「我が考えた」
ベルクの言葉に商人の目がきらりと光る。
「あんた、冒険者だろう?」
「冒険者だが、今は開拓団の一員として話している」
なるほど、と満足げに頷く商人に、ナハシュが問う。
「ここの工芸はなかなかのもんなんだろ? あんたならどのあたりに目と値をつける? もしくはどういう作品が特にイカしてるとか、あるか?」
「あ、それ、俺も聞きたいな」
黒い耳と尻尾を揺らして、アルフィー・リッパーが身を乗り出す。
「鉱山が奪還できるまでは、玻璃花の代わりに焼き物工芸をするにしても、玻璃花が採れるようになったその日から有名になれる、というわけではないと思うからさ。それに、」
と、アルフィーは目を輝かせる。
「同じハーフビーストとして……若いのにすごいなって!」
「ン゛ッ」
青年はごふっと咳き込む。どうやら照れているようだ。尻尾がゆらゆらと揺れている。
「……確かになかなか、技術はある。俺が評価するのは、繊細さと大胆さ。その点、この薄さで貝殻のような起伏をつけることができるのは、素晴らしい。技術の限界に挑み続ける姿勢が見える作品は、必ず報われる」
「へえ……なんだかいいね、その言葉」
「この玻璃花というのも、興味深い」
「あ、ここの装飾品は俺が。こう見えて手先の器用さには自信があってさ」
アルフィーが机の上の花瓶に引っ掛けられたブレスレットを指さす。ほうとそちらを向いた商人に、シルヴィアは「今」と確信し、たたみかける。
「工芸品を名産まで押し上げるとなると宣伝活動が必須。そこで貴族に……ノーキス子爵に活躍してもらおうと思っている。彼女が自領の焼き物でお茶を飲み、装飾品を身につけて、社交会で話題になれば、いずれは商人や庶民にも浸透する……その為には目利きができる人物が必要だ。協力して欲しい」
「あんたたちは……なぜそこまで? この土地の人間じゃないんだろう?」
首を傾げる商人に、ヨルは「面白いから」と簡潔に答えた。
「フェイデンはほぼ手付かずと言っていい土地。背水の陣の領主に未開の土地に冒険者。君にとっても、悪くない話だと思うな、俺は」
◆─◆─◆
(子爵が若い女の子だとは思わなかったな……)
挨拶を終えたエルゼリオ・レイノーラが、思わずといった様子で見つめていたせいだろう、ノーキスはおかしそうにふっと微笑んだ。
「歳もそう変わらないのだから、楽になさって」
そうは言うものの、相手は子爵である。そんな緊張気味のエルゼリオに、ライオネル・ギシュムが料理を取り分けた皿をさっと差し入れる。
「これ、おいしいよ! フェイデンは痩せた土地って聞いてたけど、少ない食材でこれだけの食事を出せるなら凄いことだよね!」
「あなたたちの助力があってこそですわ」
掛け値なしの賞賛。貴族は言葉を取り繕う生き物だが、ノーキスはこの場ではそれを避けた。
「あなたも開拓団に参加してくださる、と」
白身魚のムニエルを切り分けながら、ノーキスはエルゼリオに確認する。
「は、はい。今までも井戸を掘ったり、公衆水洗の整備をしたり、開拓……復興……の、経験があります。なので、こちらでもお役に立てましたら、と」
「頼もしいですわ。こちらでは玻璃花のことをよく勉強なさっていたわね」
そして、ノーキスはリザードマンの老商人をちらりと見やる。すでに老商人の周りには数人の冒険者が話を持ちかけているが、老商人の様子を見るに、「商談」へはまだ持ち込めていないようだった。
そこへ、アスティンが戻ってくる。
「お疲れ様。どの商人も乗り気ではあるけれど……彼女はなかなか食えないね。さすが年の功というか、慎重というか」
アスティンの言葉に、キリアン・フィッツジェラルドは頷く。
「この場に出てきて、かつ無関心ではないのですから、勝機はあるかと」
「なるほど。ではキリアンさんならどう切り崩しますか?」
エルゼリオの問いに、キリアンはアスティンを見てから、老商人へと視線を戻した。
「畜産に使っている動物や乳製品に関する宣伝からはじめます。ちょうどほら、お食事を楽しまれているようですから。ヴェルラインさんにも援護してほしいのですが」
「彼女は流通で辣腕を振るっている……と。わかった、それを切り口にしていこう」
アスティンが頷き、キリアンと共にノーキスの元を離れる。
「エルゼリオさんは玻璃花についてお勉強したんだよね? 俺も! 自分で言うのもなんだけど、手先は器用な方だし、一緒に玻璃花と工芸品の話をしてみるのはどうかな」
「賛成。頃合いを見計らって行こう」
ライオネルとエルゼリオが作戦を立て、ノーキスはエルフの商人の元へご機嫌伺いに。その様子を、横目でちらりと確認した老商人は、面白そうに目を細めた。
「もぐもぐもぐ」
「まあまあ。ふふ、私、いっぱい食べる子は好きよ」
そんな老商人の元で無限の胃袋を持つコハクが可愛がられつつ。しかしコハクは肉を飲み込んだところでぴたりと動きを止めた。
「あら? お腹いっぱいになっちゃった?」
「ううん……」
「「「あれだけ食べてっ!?」」」
老商人の問いかけに首を振るコハクに、周囲の面々は思わずツッコミをいれた。
「いくつか持ち帰りたい……」
出入りしている喫茶店の面々へのお土産だ。しかし、普通に保存するのでは鮮度を保てない。ゆえにコハクはしょんぼりと耳を折る。
「まあ。確かにこのお料理は美味しいですものね。とくにこの羊肉は、こちらで育てているものだとか?」
老商人は、さっとテーブルについたアスティンとキリアンに水を向ける。先手を打たれたアスティンはどきりとしたが、キリアンが即座に頷いてカバーする。
「ええ。飼料を改良できれば、もっと上質なものになるでしょう」
「……それを周囲に売り込むとき、あなたならどうするか。ご意見を伺いたく」
アスティンがそう尋ねると、老商人は笑って頷いた。
「そうねえ。レシピと羊肉を都市の料理人に売って、ブランド化を狙おうかしらね。鮮度を保ったまま輸送はできないもの」
ね、と老商人は隣に座っていたレイヤ・ダライ=カホールに同意を求める。レイヤの故郷はディズルの水運を生業としており、食事の合間に情報を交換していた。
「鮮度を保ったまま……できなくもないかもしれませんね?」
「あら?」
老商人が目を瞬く。それに、レイヤは皿から焼き菓子をひとつ取って、マジカルポケットに収納してみせた。
「マジカルポケットというものがありまして、こんなことができるんです」
そして、収納した焼き菓子を再び取り出し、もぐもぐと咀嚼する。
「まあ」
「そして、特筆すべきはこうです!」
レイヤは次に焼き菓子の載った皿を布で包み、それを丸ごとマジカルポケットに収納した。
「あー!」
コハクが目の前で消えたお菓子にショックを受ける。
「もちろん限界はありますが、軽いものなら大量に運べます」
「お菓子……」
「冒険者ならフットワークも軽いし、道中の危険も排除しやすいかと思うわ」
エミリア・シバがコハクを宥めつつ、続ける。
エミリアは、この老商人を引き込みたいと考えていた。もちろん、どの商人を引き込んでも利は得られるだろうが、将来性を鑑みて、商通路の確保と維持は外せない要素と考えたからである。
子爵領は寄り親を失い、宙に浮いたまま。流通を通じて繋がりを得ることも子爵領の安定のためには必要なことであるし、なによりノーキスも経営を学ぶ機会を得られる。
「ギルドという後ろ盾もある、隊商の護衛役……というのを考えていたのだけれど、自分たちで運んでしまうというのもアリかしら? 問題はコストと、供給性ね」
いくら冒険者といえど、開拓団につきっきりというわけにもいかない。授恵者を抱える冒険者ギルドは明確な目標を持っているし、やるならノーキスとギルドの間で追加契約を結ぶべきだろう。
「あの」
リゼットがおずおずと前に出る。
「私たちは、この地に根付いているわけではありません。他にそれぞれ、自分の領地や実家や、拠点があります。でも、冒険者の流動性は強みであるかな、と」
冒険者という雇われの存在を不安に思う者もいるだろう。だが、その性格は見方を変えれば市場価値となる。リゼットは一度言葉を萎ませたが、これではいけない、と首を振って顔を上げた。
「私もヴェルクリエの商家の娘ですから、家で扱えるものかは真っ先に考えます」
「あなたは、使えると思うのね」
うんうんとリゼットは力強く頷いた。
(こ、こんな感じでいいのかな。お兄ちゃんたちは……いつも大変なんだね)
緊張に頬を染めるリゼットを、老商人は微笑ましく見つめる。
「海路についてはどう考えて……いますか?」
続いてルベアが口を開く。老商人は「港を作るという話でしたね」と受けた。
「すぐに利益が出るわけでもなく、いろいろ課題もありますし……海にはクリーパーもいるということだから。でも、私たちなら対応もできるかな、と。それから、準備ができた時に、早く利益を出せるようになりたくて」
ノウハウが欲しい。そう正直に口にするルベアに、老商人はふっと表情を変えた。
ルベアは「しまった」と思った。商人に対し、知識をタダで渡せというのはよろしくない——しかし、老商人は気を悪くしたわけではなさそうだった。
「あなたたちは何を出せるの?」
その一言は、彼女が交渉のテーブルについたことを意味した。
((今だ!))
エルゼリオとライオネルが身を乗り出す。
「地下鍾乳洞で採掘できる水晶を加工した宝飾品は、社交界のご婦人方を虜にするはずです。貴女の知識と手腕が開拓団には必要です。ご協力を」
「冒険者は実入りが多い分、財布の紐も普通の人より緩いし……冒険者が集まるここを拠点に商売を始めれば、優位に立てると思う。どうかな?」
「ええ、ええ。よろしいかと」
老商人はふたりから説明を聞きながら、ルベアに向かって片目を瞑ってみせた。「私、あなたたちみたいな一生懸命な正直者が大好きよ」——老商人の目は、そう語っていた。
● 戦いを終えて
かくして、フェイデンにはリザードマンの老商人が留まることとなった。他のふたりも名残惜しそうにしていたのだが、力の均衡を鑑み、直接助力はできずとも、間接的に関わっていけたらと好意的だった。
「エルフの商人さんは、ノーキスさんと直接契約は結べないけれど、老商人との取引で以って間接的な支援を——だそうだよ」
アルマが嬉しそうに、エルフの商人が書き留めてくれたメモをノーキスに差し出す。そこにはエフィルミアが望んだ野菜の種や苗の情報、サマエラ宛には土づくりの方法などが書かれていた。ノーキスはそれを受け取り、嬉しそうに目を細める。
「ありがたいことですわ。あなたたちの尽力にも感謝を」
ハーフビーストの青年商人からは、アルフィーに伝言が託されていた。
「鉱山が奪還されない限り、釉薬の材料の確保も手間取るだろうから、向こうで融通してくれるって」
それも老商人の個人的な契約に基づくという。であれば、波風も立たないだろう。
「……あなたたちがいてくれて、本当によかった」
ノーキスはほっと息をつく。これでまた一歩、進むことができた。
「この褪野が彩りで、民の笑顔で満ちるように。これからも、よろしくお願いしますわね」
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準20 / 4〜25人
2021年08月25日 10時48分20秒 公開
参加者
相談掲示板
皆様いらっしゃいませ。 フェイデン子爵、ノーキスですわ。よろしくお願いしますわね。 何か疑問点があれば答えられる範囲で答えますわ。まあ、今回はお祭りのようなものですから、あまり深く考えずに楽しんでくださいませ。 あっ、でもあまり羽目を外しすぎてはいけませんわよ…?
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いしますね! …玻璃は、向こうが透けるように透明です。信頼できそうですね。 今回は立食会ですね、楽しみです!フェイデンは海沿いの街、きっと美味しいものもたくさん…! …おっと、お仕事も忘れてはいません、いませんよ? 前回の報告書を読んだ感じ、いろいろな商業のチャンスがありそうです。 わたしは竜人商人のヒトとお話してみようかと思います。わたしの故郷ともつながりがありそうですし、 これからフェイデンが盛り上がるなら物流は大きな利益になると思いますから!
シーフコハク、よろしく。 私、食べ物、食べる
アルマだよ、どーぞよろしくねー。 前回参加のみんなのおかげもあって発展性はありそうー。 開拓団は【農業】か【畜産】が気になるー…かな? とりあえずボクは長耳商人さんと農業談義でもさせてもらおうかなと。
リゼット・ブランです よろしくお願いします! ええと、アピールって私達冒険者だけじゃなくて、開拓団の皆さんの事もで、良いんですよね? 個人的には獣人商人さんとお話してみたいです。 前回焼き物の展望があったみたいですけど、そこはまだ押せなくても 今の職人さんの腕をアピールできたらって思います。 >ノーキスさん 一つ聞きたいのですが、各部門…私は工芸を特に聞きたいのですけど 親方の職人さんと下につく皆さんの技術レベルってどんな感じでしょうか? 工芸でもどのジャンルが現状では得意ってありますか?
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 ノーキスさんもレヴィルさんもお元気そうでなによりです! 無茶して倒れないようにだけは気を付けてくださいねー! 『最も冒険者への好感度が高い商人が、出資者として今後フェイデン領に出入りします。』なので 1人しか出入りしてくれないのですよね…くぅぅ、全員来てほしい…!(ぐぬぬ) 獣人商人さんの工芸知識も、焼き物の産地としてフェイデンを有名にするなら欲しいし。 竜人商人さんの商業知識も、鍾乳洞を観光地としたり、今後交易を活発にするなら欲しいし。 うーん…でも、まずは農民が飢えないようにするのが大事なので、長耳商人さんの農業知識が一番欲しいかな? ……す、すいません!もうちょっと悩みます…!!
シルヴィアだ。今回はよろしく頼むよ。 獣人商人に焼き物と玻璃花をアプローチをしてみるつもりだ。 開拓団では工芸部門だね。 ……っと、リゼットの分も【Q】を付けて質問させて貰おう。 リゼット、申し訳ないけど君の発言を借りるね。
【Q】1 『一つ聞きたいのですが、各部門…私は工芸を特に聞きたいのですけど 親方の職人さんと下につく皆さんの技術レベルってどんな感じでしょうか? 工芸でもどのジャンルが現状では得意ってありますか?』 (リゼットの発言より引用) 【Q】2 『【褪野】今からでも頼れる冒険者がいるんですの!?』でノーキスは暫くは夜会には行かないと言っていたけど、今後必要であれば夜会に行ったり、お茶会を開いたりする事が出来るという認識で良いのかな? 領地がもう少し落ち着いてからになるとは思うけど……。
ルベアよ、宜しく。 商人へのアプローチはまだ考え中。どれも捨てがたい選択肢ではあるのよね……。 開拓団はー……前回のことがある手前、やっぱり【漁業】かしらね。
賑わっているようで何よりですわ。 前回お世話になった方は息災で何より。 …べ、別に気にかかっていたとかではありませんのよ!? ああ、売り込みについてなのですけれど、商人の方々は少なくとも領内や開拓団所属の親方たちや職人たちについてはすでに把握済みですわ。ですので今回は「開拓団に所属する冒険者」について売り込んでいただきたいの。 それも踏まえて… 【A1】 もともと技術職のレベルは、贔屓目をさっ引いても高い方ですわ——その職人たちのほとんどが出稼ぎに出てしまっているのは、なんとかしなくてはいけない問題ですが、今回は気になさらなくてよろしくてよ。 鉱山から水晶やその他鉱物が採れていた頃は、それらの加工品として工芸もまた盛んでしたの。具体的にはガラス製品ですわね。鎢重石(タングステン)の採掘も見込めましたけれど、こちらの加工はかなり難があって… ただいずれにせよ、鉱山が奪還できるまでは、領内の土を使った焼き物が中心となるかしら。 まとめますと、得意なのはガラス工芸、現状手をつけているのは焼き物工芸、ですわね。 【A2】 その認識で構いませんわ。おっしゃる通り、領内が落ち着いてからになりますけれど…
ノーキス、丁寧な回答をありがとう。 「開拓団に所属する冒険者」の売り込みなんだね。商品についての売り込みと勘違いしていたよ……聞いて良かった……!( 話をする商人とアプローチ方法、両方考え直してみるね。良い交流会にしよう。
シューターのアスティン。よろしく。 前に参加したときの担当と自前の技能を考えれば、担当するなら畜産か農業になるのかな…? 冒険者の売り込み…うーん…。方向性としては、 知識、意欲、経験、とかをアピールする方向 後は、趣味嗜好、からアプローチ、とかかな。 まぁ、ずばり相談ベース話をしてみるっていうのもありだよね。 こういう展望、考えを持っているが知識人としてどう思うか、みたいな。
挨拶が遅れました!シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 狩猟経験が活かせそうなのだと漁業でしょうけど、僕としてはどういう訳か畜産に興味が…… 農業も捨て難いんですけどね。 動物に関する知識を示したり、畜産なら動物肉の他にも乳製品に舌鼓を打つような食レポで(2)の要綱を満たす形になるんでしょうかね?
リサです、よろしくお願いしますね。 わたしは…そうですね…… 料理を作る方でお手伝いしようかな? 食材アピールにも、冒険者のアピールにもなるかなって。
ノーキスさん シルヴィアさん ありがとうございます! 冒険者のアピールですか…… ううん。職人さんたちの腕が確かなら 材料と出来た品物の流通って大事だと思うんですけど もうちょっと考えてみますね
アルフィー・リッパーだ。美味しそうなご飯に釣られてきた…
私も商品について売り込む気満々でした…!恥ずかしい! ノーキスさんありがとうございますっ。 冒険者がこんなにフェイデンに集まるんだよーってところを見せるだけでも アピールになると思うので、皆でご飯食べて楽しみましょー! 私は開拓団に入るなら【農業】かなって思ってまして! 長耳商人さんとお話をしに行こうと思います。 肥料の作り方とか、フェイデンに適した野菜の苗とか色々と聞きたいですっ。(ぐっ)
こ、これはMSのOPの書き方が悪いですわね!!シバいておきますわ!!!!!(( もちろん、冒険者さんたちが領内のことをきちんと把握しているか、というのもポイントだと思いますの。ですからこれぞ!と思う部分をアピールしてくださいまし!
エルゼリオ・レイノーラです。 今回はヨロシクね! ボクは「竜人商人」へのアプローチを試みる予定。 開拓団へは【採掘】での参加を希望するつもりだよ~。
もうこんな時間だけど、エミリアよ。 おねえさんも採掘への参加希望で、商売をするなら一番流通が大事かしらって思うので 竜人商人さんとお話してみたいと思っているわ
ライオネルだよ!よろしくね。 俺はまず美味しくご飯を食べて、竜人商人さんと話に行ってみるよー! 流通をよくすればフェイデンの現状も良くなるんじゃないかなって。 開拓団は【工芸】を希望する予定!
―は、鎢重石…ですって? ここでそんなものの名を聞くことになろうとは… …ぁ。失礼、先に挨拶からですね。 キャスター、クラウディアです。 私は…重点を置くならやはり【工芸】でしょうか。 報告書にあった、石灰岩の建材としての利用には覚えがあります。 用例の準備程度なら、3日の範疇で対応可能でしょう。
>ノーキスさん Σいやいや、私がポンコツなのがいけないので! MSさんには優しくしてあげてください!( これぞ!というものをアピール出来るように頑張ります!