【学乱】太く短く、政治討論部の始動!

紀藤トキ

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シナリオID:1110

オープニング

 学園長の打ち出した『無記名投票』という施策を、教室で聞き知ったトマス・ダンテ伯子はわかりやすく嫌そうな顔をした。

「面倒だな」
「面倒ですよねえ」

 揃ってげんなりしたトマスと腹心のタイコモ。前の席に座ってお弁当(サンドウィッチ)を食べていたシオンとカナン(政治知らない組)はピンと来ていないようだが。

「今まではトマス様にしか来なかった勧誘が、直接我々配下に来るかもしれないという事ですよ」

 と説明を受けるとげんなり顔が伝染した。

「とはいえ。我々に与えられた選挙という物は権利でありかつ義務でもある。投票か……」
「トマス様が立候補してくれれば入れますよ?」
「それは楽でいい」
「やめてくれ。家と所領の先行きを考えるだけで手いっぱいだ。学園のことなど責任を負えるものか」

 生徒会に所属すれば多くの貴族後継や、そうでなくとも将来の有力者に顔を売ることができる。が、ダンテ家の目指す立ち位置的にはそういった繋がりは望ましくない。むしろ、不偏不党であること、王の法の番人であることを生き残りの術としてきたのだから。

「今一度、中立の立場を示すのが必要ではないかと思いますよ」
「要するに投票先を明らかにしていないだけの風見鶏、口説き落とす対象だと狙われるだけではないか?」
「まあ、そうですね。なので、めんどくさい中立だと思われるようにしたらどうでしょうか」

 タイコモが持ち出したのは、現在各派閥が触ろうとしていない、あるいは触りたくない要素を場に出す事だった。異種族、平民、あるいは学生と言うには歳を重ねてしまった大人などにも門戸を広げたスタンスを見せる、という事だ。

「ちょうど、トマス様は学生でありながら冒険者でもありますからね。この件を依頼に出せば、幅広い方が見てくださるのでは? まず広く意見を聞きたいという此方の立ち位置を示したうえで、密室ではない公開の討論場を作りましょう」

 と、タイコモが言い出したのはある意味悪辣な提案であった。配下も含め、4名分の票とダンテ家嫡子の後援を得る機会を設ける。誰からも見える場所で、それなりに口の立つ四年生(トマス)を相手に持論をぶって納得させろ、という提案である。

「重い菓子折りをもってくるような芸の無い連中はこれで排除できるかと思いますよ」
「あとはまあ、万が一でも私に討論で負けたらまずい立場の奴らも来ないだろうな」

 ぶっちゃければ、討論相手として怖いのはそういう立ち位置の連中だ。今の学園で、人を集めて上に立っているのは概ね口が立つか金と権力を持っているかのどちらかである。逆に言えば、口が立つがゆえにリーダーに収まっている連中は、たかが4票を得るために負けるかもしれない場所には向かうまい。

「噂の学園派は接触をしに来るかもしれませんが……」
「まあ、知らない相手ではないしな。来るならば話は聞くさ。とはいえ学園外で(冒険者として)の交誼だけを理由に協力を要請されるなら、頷くわけには行かない。私にも立場はある」
「まあその辺は分かっているんじゃないですかね、あちらも」

 別に、考えようによってはトマスを口説き落とせなくても良い。持論を衆目の場で思う存分語る事ができるだけでも価値がある。そう考える者もいるだろう。面倒なのは、あまり頭の良くない奴らが議論と言う名の脅迫や買収を試みに来る場合だが。あまり相手をボロボロにせずに穏便に帰って貰うのが良いだろう。

「……どうやっても角が立ちそうだな。買収に金を積みに来る奴は、断っただけでも面子が潰れるぞ」
「要らないお金なら、いっそそのまま孤児院に寄付して頂けばよいのでは?」
「いや、さすがにそれは……。いや、待てよ」

 見た目だけなら賢そうに見えなくもないシオンの意見へ、駄目を出そうとしてからタイコモは考え込む。悪くない提案だという気がしたのだ。「部活中に拠出された金品は寄付として扱う」とあらかじめ公言しておき、それを信じずに持ってくるものに対してはそのまま受け取って宣言通りに寄付に回す。ついでに「王家の孤児院への寄付」として金額つきで正規の手続きを踏んでおけば、彼らにとって名誉ではある。悔しい想いはするだろうが、話をひっくり返すほどの無礼は働くまい。

「よし。放課後に教室を借りて自由討論でもしようじゃないか。別に私でなくとも、他の面々と論を戦わせても良い。そうだな、政治討論部とか言う名前で活動届けも出しておくか」

 自分の手の者だけで4人いるので、適当に顧問さえ見つければとりあえずの申請条件は満たしているだろう。

「顧問は名前だけで十分だな。あの老人は我がダンテ家に借りがある。余計な事は出来ない筈だ。あとで名前を貸すように伝えておけ」
「はあ……、リヴァマス老ですか。分かりました」
「蛇のお爺さん先生の講義は面白い」
「……カナン、あなたあの授業受けてたのですか」

 かくして。突然現れた政治討論部は、部長はトマス・ダンテ。副部長は平民で姓はないシオン、顧問はリヴァマス老と言う体制で活動を開始した。次回の活動内容は、生徒会選挙についての討論で、見学には身分種族などの制限はない。その後の活動予定については、選挙が終わったら廃部する予定だと掲示には書かれている。見学会と言いつつ今後はない。その意図を読み取った、ある程度頭の良い各派閥の生徒達は苦笑したり苦虫を噛み潰したような顔をしたりしつつ、損得計算の上で不干渉を決め込んだ。

 だが。

「ハハハ、これはいい。中立中立とうるさく言っていたダンテ家も王の名の元の官吏。王党派の下につくという当然の結論に気づいたのだな? 部活動と言う体裁をとっているのは、配下もまとめて派閥入りしようという配慮か。なかなか賢いではないか」

 何の根拠も理もなくポジショントークだけで話がつくと考えている王党派貴族の子とか。

「孤児院へ寄付? まあ、表向き寄付にすれば税が誤魔化せるか。小賢しいが、その小賢しさには親近感があるね。いいだろう。君達の票はボクが買った!」

 世の中は金で動くと思っている穏健貴族派子飼いの有力商人の子とか。

「人を集める、ですか。確かダンテ家の跡継ぎは婚約者もいないとか。私が口説き落とせば、お父様もお喜びでしょう。伯爵家なら、まあ悪くは無いわ」
「お嬢様の美貌は領内に響いておりますれば」

 美貌ではあるがちょっと勘違いしてしまった男爵令嬢とか。

「ダンテ家の者は前から平民を傍近く置いていたが……。とうとう異種族にまで手を広げたのか。いいな!! 実にいい!!! 私も前から犬猫系ハーフビースト生徒の手触りは最高だと思っていたのだ!!!!! きっと彼とは分かり合えると思う」

 ハーフビースト愛が歪んでペットのように思っている貴族の教師とか。

「議論だと。ハハハ、くだらん。手を回して奴の弱みを探れ。無いなら作れ。そうだな、あいつは平民女に入れあげていたはずだ。部活動とやらで奴が楽しくやってる間にお気に入りの……。なんとかいう平民女を呼び出して捕らえておけば、衆目の前で這いつくばる羽目になるさ」

 以前にトマスにやりこめられたようで恨みのある傲慢な貴族派貴族の子とか。

 色々な面白チャレンジャーがやってくることを、トマスたちはまだ知らない。

解説

背景事情とNPCのごたごたを除くと、皆さんの政治的スタンスを表明したりする場所を用意したよ! と言うシナリオです。 ● 既に立場がはっきりしている人はプレイング冒頭に【王党派】【貴族派】【学園派】【無党派】と書いてください。 【酒より煙草派】【過激派】【オトナ派】のように上記以外の集団を生んでも良いです。即席派閥がもし大集団になっても、このシナリオ外では通用しません。悪しからず。 このシナリオ内で自らの立場を変えたい人は【王党派】→【無党派】のようにプレイング冒頭に頂けると嬉しいです。 基本的に、プレイングに書いてない限りPCの意見が大きく変わる結果は返しません。 「王国学園の話、プレイヤーは関わってもいいんだけどキャラクターが平民や異種族や大人なのでなあ……」 という方が、「うちの子を説得してくれ!」とお願いして依頼に参加すると今後に取れるアクションの幅が広がるやもしれません。 そんな感じのご利用も大歓迎です。ご縁を広めたり深めたりしてくださいませ。 ● 基本的な舞台は、放課後のちょっと大きい教室です。場外乱闘があっても良いですが本筋はこの場所です。 しゃべると喉が渇くのでお茶とお菓子くらいは用意されていますが、お酒は持ち込み禁止です。 お酒が入って政治と野球の話するの良くないって言いますしね。 王国の常識に反する意見を表明しても「部活で意見を戦わせてる間の事」で許されます。 「そもそも王ってなんで偉いの?」みたいなふんわりした事を質問しても大丈夫。 でも、王や王家への度の過ぎた不敬はについてはトマスが個人的にイラッとするかもしれません。 他国の王がいない政治体系を論じるくらいはまったく問題ないですが、王は死ねみたいなことを言うと摘まみだされます。 トマス一派の票を狙う場合は理と利害と興味とで彼が納得しそうなことを言うと良いと思います。 配下の人たちも同様です。 ● やってくる面白ポジションの刺客たちは放置された場合、ダイス事故が無ければトマスらが行間で片付けます。 (トマスらがOPで対策を練っている奴はほぼ潰せますが、予期していない奴は失敗する可能性もそこそこあります) 皆さんの側で退治してくださった場合はトマス一派に害は及ばないでしょう。 『政治討論部』は現状ではこの一回限りで消滅する予定なので、特に部員募集はしていません。 トマスに翻意させられれば入部も可能ではあります。その場合は希望者に称号を配布いたします。

マスターより

紀藤です。 学園や王国は面白そうなガジェットだけど、設定自体が閉鎖的なのでうちの子入りにくい。 そんなあなたへぴったりのシナリオ、だといいなあ。 最後の面白刺客たちを書いてるのが一番楽しかったという秘密ですらない自白をしておきます。 トマス君に変な婚約者が生えたり、複数派閥の誘いへの対抗判定に失敗して板挟みになったり……。 そんな未来が来ないように彼らを助けてあげてくださいませ。 皆様のバラエティ豊かな意見や行動をお待ちしております。 (解説の字数が足りなくなったので余った字数にNPC紹介を入れておきます) ●味方戦力2 ●NPC トマス・ダンテ(キャスター)  良くも悪くも貴族のお坊ちゃま。学園生としては結構優秀。魔術とか法学とかやってる。  派閥に属したくないらしい。 タイコモ・チー(ヒーラー)  下級貴族チー家の次男坊。頭はこの中で一番よく回る。経済学とか商学とかやってる。  大体いつも苦労している。 シオン(ウォーリア)長髪の方 カナン(シーフ)短髪の方  平民の娘。ダンテ家に青田買いされて学園に通っている。どっちも脳筋。  礼法の授業とか紋章学とかなんのためにあるかわからんと思っている。

リプレイ

 三々五々、人が集まり始めている。ざわつく教室を、薄く開けた準備室の扉からトマス一派が覗いていた。

「思ったよりも盛況ですね」

 広めの部屋を押さえておいてよかった、と世話役のタイコモが安堵する。しかし、中には何やら迷い込んだ者もいるようだ。

「あにょ、ここはどこ? 私はララノア……」

 周りの意識高めな様子に目を回すララノアは、奥のテーブルに何とか辿り着く。と、その陰にしゃがみ込むユズと目が合った。

「……あの、……もしかして、君も、迷子……?」

 おぼつかない様子のララノアをこっそり観察していたユズはシンパシーを感じていたらしい。それはララノアの側も同じだ。

「はぅー、仲間がいまして安心なのでしーっ」
「ひとり、不安……でも、二人、なら、……心強い」

 隅っこのテーブルで迷子派が結成された。隣のテーブルではもう少し落ち着いた面々が談笑している。

「エールに枝豆、美味しいですよ。と言えば良いのでしょうか」
「それには同意するのだけど、飲むのは次の機会だね」

 用意された飲み物リストを眺めつつ、イデアがそう呟いた。シルヴィア・A・カペルも酒を飲むこと自体はやぶさかではないのだが、今日の主旨はお堅いらしいので、エールに枝豆派の活動は次回に持ち越しとなる。しかし、そんなまじめな空気を弁えない連中は諍いをおこしたりもしていた。

「討論が熱くなるのは構いませんが、婦女子もいる場です。限度を弁えるべきでは?」
「ぐ、黙れ冒険者風情が。俺の家は名誉ある……」
「はぁ……。言いたくはありませんが、あなたは血筋に拘り過ぎです」

 家門を笠に着て討論というより無理難題を言っていた王党派の貴族に、イヴェール・イリュジオンがそっと名を告げる。実家とは大喧嘩したとはいえ、名を変えたわけでもない。始まりの百家の家名を名乗った彼女を二度見して、居心地が悪くなったらしい貴族は捨て台詞と共に立ち去った。

(少し懐かしい気がした、と言っては失礼でしょうか)

 プライドの高そうな貴族に、勘当された実家の空気を思い出すイヴェール。その向こう、トマスに聞こえるように不正蓄財やら買収について高説を垂れていた商家の子息の言い草は、ルベア・ベルニが冷たく切って捨てた。

「政治討論じゃなくて、金儲けの知識自慢。その知識も小賢しいっていうかただただ狡いのね。そういうものなのかしら」
「貧乏貴族には有効かもしれないが、ダンテ家が困窮しているとは聞かないな」

 すっぱりダメ出しをされ、シルヴィアからの援護射撃を受けた商家の子息もすごすごと引き下がっていく。うるさい奴らから解放された主催のトマスが、開会のあいさつの為に正面へ向かった。

「さて、そろそろ開催時間のようだよ。良ければこっちに座るかい?」
「ありがとう。興味はあったから来たのだけど、少し場違いに感じてしまうわね」

 所在なさげだったルベアは、シルヴィアの誘いにホッとした様子で応じる。

「む? そろそろ始まるのか?」
「カナン、久しぶり」

 お茶やお菓子を追加しに出てきたシオンとカナンを、サマエラ=フォリウムとララベル・サン・ディーベルが目ざとく見つけた。他にも様子に気づいた数名が雑談を収めていく。

「今日は政治討論部の見学会へようこそ。体裁として部とはいったものの、今回限りの予定だ。気軽に話をして欲しい」
「ええー!? これで終わりって、それはもったいないよ!」

 と、エルゼリオ・レイノーラが異を唱えた。主催が顔を出す前に、先に来ていた者で座を温めている間に感じた事がある。

「種族・身分・派閥を問わない討論の場ってスゴく貴重だと思うんだよね。学園の外ではそういうの関わりなく集まる事もあるけど……」

 学内でそのような場所はなかなかない、とエルゼリオはいう。討論まで行かずとも、交流を始める場としての意義があるのではないか、と言うのが彼の意見だった。それを皮切りに、意見が出始める。

「私も、トマス様には部の活動を継続していただきたいのです」
「ゲルダ嬢も? 彼と同じ理由だろうか」
「いえ。私のような庶民は、これまで政治とは縁遠い立場にありましたから」

 ゲルダ・クラインも、エルゼリオと同様に討論部の存続を希望していた。その理由にあるのは迷いと不安。突然に生徒会選挙と言う形で選択を迫られたのに、その選択肢がどういった物であるのかがわからない。

「ゲルダ嬢は私と同じ四回生だったはずだが、それでもこの場で学べる事がある、か。ならば部を残す意味もありそうだ」

 そう口にしたトマスの意図に、弁論に交渉の備えをしていたキーゼがまず気づく。

(やはり、あくまでも中立であろうと考えているわけですか)

 聴講生である冒険者のみの意見で頷いた訳ではなく、在校生からも要望があったという事を印象付けたいのだろう。トマスがどこかの派閥に肩入れしないというのは、貴族派のアルベイルを推すキーゼにとっても望ましい。

「そうだな。こういう場があり、私のようなゴブリンが参加する、ということにも意味があるのではないかと思う」

 討論部の見学会場で、ゴブリンのサマエラを見て驚いたような顔をした者もいた。しかし、それで席を蹴らずに同じテーブルで話をすれば、心理的な距離は減じる。そういう一歩は双方にとって必要なのかもしれない、とサマエラは訥々と語った。得たりと次に声を上げたのはイズレンディル・パラリムだ。

「学園長は『人は生まれに依って生きるに非ず』と語られましたが、それは身分だけではないでしょう。種族による生まれの差についても考えて頂きたい」
「へぇ……、正直学園内の政治にゃ興味はなかったが。面白い事を話してるじゃねぇか」

 イズレンディルの言葉に、ハヤト=ガラン=ヴォルファングが興味を向ける。一つ、疑問が浮かんだのだ。

「なぁ、王国の貴族様達はなんでヒューマン至上主義なんだ?」
「確かに、それは知りたいわ」
「では、王国貴族の一員として解説しよう。我が国のあまり好ましくない伝統というものをね」

 ハーフビーストのルベアも首をかしげると、シルヴィアが話を引き取った。

「リーンエス王国を建国した当時、功績のあった王家と始まりの百家という貴族がいてね。それがすべてヒューマンだったのがおそらくの原因さ」

 降嫁などという言葉にもあるように、王家や始まりの百家の貴族の血筋は他より上であり尊いという感覚がある。尊い血筋は皆ヒューマンであった。それがいつの間にか転じて、ヒューマンでなければ尊くない、という意識に変わっていったのではないか、とシルヴィアが簡単にまとめた。無論、見てきたわけではないのでおそらくという枕はつくにせよ。

「今の王国で平民すらヒューマンを良しとする風潮も、長年の貴族社会からの影響だろうね」
「それは……寂しい事ですね」

 思わず、といったふうにコルネリウス・アーラが口を挟んだ。周囲の目が集まったことに気づき、恋人へ目を向ける。穏やかな笑顔に背を押されて、コルネリウスは立ち上がった。

「私は多種族の孤児の兄弟の中で育ちました……皆、生い立ちも様々です」

 彼女はまず自らの育ちを語り、皆が公平だという父の教えと、ともに育った兄弟との交流を語る。そこで得たものを糧にして今ここに立つコルネリウスの健やかな姿は、その教育が悪しきものではなかったという何よりの証明のようにも思えた。

「多種族と共に生きる事には、種族本来の能力差・互いの持つ信仰など、ぶつかる面も多くあります。ですが、ぶつかった分だけ、本人の知識と可能性を広げるでしょう」

 コルネリウスはそこから一歩、さらに議論を踏み込んだ。

「……それは学園にとっても、良い刺激になるのではないでしょうか」
「学園そのものをどうこうするのは、生徒の本分ではないのだが。それでも今日の議題にあげたいと?」

 面白そうにトマスが問い返すと、イズレンディルが恋人の話を引き取った。

「ぶつかり合う事が出来るのは学生の特権です。可能であれば、留学生として他種族の枠を確保したいのです」

 提案している2人も、これが簡単に受け入れられると考えているわけではない。今いるこの場所でそのように受け止められるか、と言う試しの段階だ。

「随分刺激的な話題だ。生徒会の権限はあくまで学園内の学生自治の範疇。留学制度の創出などは対象外ではあろうが……。敢えて考えてみるのも面白い。生徒会に手をあげている各派はどう考えるだろうか」

 トマスの言葉に、我こそは派閥の意見の代弁者なりと視線を返す者はあまりいない。そもそも王党派や貴族派の代表者がやってこないような場を作ったのだから当然ではある。その時、静まり返った教室の扉が、音を立てて開かれた。

●
「あの、ここは焼肉パーティ会場ではない、……のでしょうか」

 自分に向いた数十の瞳に、リディリディ・トゥラ・イェレミースは気圧されつつ、それでも最後まで言葉を発する。肉がここにあるかないかは彼女にとってとても大事な事だ。

「いや、今日は食事はないが……。茶と菓子程度はあるので、食べていくと良い」
「あ。いえ、その……。はい、頂いていきます」

 肉が無いというトマスの返事に帰ろうかと思ったが、たくさんの視線の圧に負けたリディリディは室内のテーブルへとついた。ちょうどその席では、ユズが首をかしげている。

「えと、そもそも……王党派、貴族派、学園派、の違い、……何?」
「私にはよくわからないでし……。お貴族様とは……難しい……」
「あの、私も、はい。わかりません」

 ユズとララノアの会話に、新参のリディリディも自然に溶け込めている。彼女達は、何故かここに来てしまった。別に難しい政治の事を話したくて来たわけではないのだ。そんな迷子たちの即席チームも、これで3人。

「ふむ。似たような匂いを感じる席なのだ。とりあえずお邪魔するのだ」

 とことこと近づいてきたストレガ・L・リベルガストラが4つ目の椅子を埋めた。

「して、派閥の違いであるが、先ほどから聞いていた話を纏めるので良ければ教えるのだ」
「助かりますぅ」
「ありがと……」
(もぐもぐ。お肉が恋しい)

 ストレガが簡単に纏めた所に拠れば、王党派の主軸は王家の権威の元で自分たちが国を治めたい貴族の子息。貴族派は国の舵取りを自分達主導で行いたい貴族の子息がまとめている。

「学園派は、ちょうど説明があるから聞くと良いのだ」

 ストレガがそう言った先で、学園派の論客であるレティシア・レインフィールが自分たちの立ち位置を表明していた。

「私は学園はその名の通り、あくまで学びの園で在るべきと考えております。その学びが政治介入により阻害されるなど以ての外でございます」

 のっけから、家の政治的立場で分裂している王党派と貴族派に喧嘩を売っている。貴族の生まれではあれ、個人として学園に関わることになった授恵者でもある。最近依頼に出ていたような、貴族の上下関係を学園に持ち込む弊害に目をつぶれなかったのだろう。

「学園派は生徒会の権限により外部からの政治介入を防ぎ、本来在るべき学園の形を取り戻す事を掲げています。それにより、能力が有る方が身分を問わず入学可能な場所にしたく存じます」
「身分を問わないというのは、それは異種族であってもでしょうか?」

 確認するようにコルネリウスが問えば、レティシアはしっかりと頷いた。派閥や身分、種族に囚われぬ個人として学園生活を送る事が望みであるとレティシアは言う。

「わたしは、派閥争いなどそもそも学園ですべきでないと思います」

 ついで手をあげたレイヤ・ダライ=カホールは、派閥というものは同床異夢の輩ではないかと考えていた。人生の目的は人によって、立場によってバラバラの筈で、そんな者たちが徒党を組んでも意味がないだろう、と。

「貴族は自らの領地と領民の為に。商家は資本の為に。平民は身の回りのヒトの為に。学園はそれぞれの目的を果たす手段を増やす場でありましょう」

 あるいは、そうであって欲しいという願い。派閥よりも個人での動きを大事に思う故か、レイヤは学園派に属してはいないが主張は近いように思えた。イズレンディルやコルネリウスの提言も取り込める懐の深さもある。知人のレティシアが提唱していた学園派の主張を、イヴェールは興味深く聞いていた。学園派の話だけを聞いて決断するには早いとも思う。

「ですが、あまりに急進的な改革には、学園の良き所を無にする危険はないでしょうか」

 と、一石を投じたのはアウレーリア・フォン・ネーベルベルクだ。学園と言う場の本質は為政者たりうる優秀な人材の育成の筈。欠点もままあれど、これまで王国を運営してきたのは貴族とその従者達だ。それを輩出した元々の学園のポテンシャルは否定すべきでない。

(業腹だけど、同意ですね……)

 帝国貴族のアウレーリアを刺すような目で睨みつつ、Alexandra・Hexe・Claudiaは内心でそう呟く。教育は為政者の武器だと彼女も考えていた。帝国の将来を担うだろう人材を招集し、王国の為政者としての心得を教育すれば次代の帝国をさらに王国寄りにする事も叶うだろうに。

(……そういった視野に欠けているから、貴族派は学園を、そして王党派は貴族の扱いを誤っているのでしょうか)

 あるいは、分かった上でそうしているのかもしれない。王国にとっての最善は個々の貴族にとっての最善ではないのだ。アウレーリアは議論の中でそのズレを狙っていた。

「しかし、学び舎の椅子は限られているのも事実です。そこに相応しくない能力の者の代わりに、身分や国籍を問わない優秀な人材を入れる事が王国の益にも叶うのではないでしょうか」

 学園派による意見、と見せつつ意図的に対立を煽る。彼女にしてみれば、貴族派と学園派が足並み揃える事は望ましくない。学園の混乱が、帝国復興までの時間稼ぎになれば良し。悪くとも帝国民を取り込むべき有為な人材と王国側に意識させられればそれでよい。

(その窓口としても、帝国民は機能するでしょう。私も含めて)

 身分や立場に拠らず、と主張する学園派は果たして、潜在的には敵である帝国民への機会も等しく与えるべきと考えるだろうか。レイヤにとってはこの躊躇こそが派閥の問題点だ。個人がその視点で判断すればよい、それだけのことだ。ただ、それだけのことをできるだけの知識と視野を得るのは、常日頃からそうあるべきと考えていた将来の指導者層以外にとって容易ではない。鶏が先か卵が先か、教育が先か選択が先か。

「王党派や貴族派を支持する人はどんな学園を理想とするのでしょうか」

 再びの疑問がゲルダから出たが、ここにその両派の代弁者はいない。トマスは念のため見回してみた。

(リーラント伯爵家には色々手を出してるが、俺自身は別に貴族派と言う訳ではないしな)

 バンビは我関せずとお茶を飲んでいる。貴族派支持を公言しアルベイルに与する立場のキーゼは、大勢を相手に演説するつもりで来たわけではないので目立たずにいた。

(うーん。レイノーラ家は王党派だけど、ボク自身は無党派かな~?)
(実家は王党派でしょうが、私には関係ありませんね。まあ辺境伯の依頼を良く受けるので王党派寄りの立ち位置かもしれませんが……)

 エルゼリオとイヴェールは王党派に属する血筋なのだが、家の立場に立って意見を言う気は毛頭ないので黙っている。しれっと出席していたティトと、彼女に気づいてびっくりしているセロンガード・シュタインドルフは王党派や貴族派に潜入してこそいるが心は帝国民だ。それに貴族ではないので主導的な立ち位置と言う訳でもない。仕方がなくトマスが答えることになった。

「……ふむ。私見ではあるがゲルダ嬢の問いに答えるなら。どちらの派閥も現状維持を願うだろう」

 レイヤの言う個人主義は理想だが、現実には未来を見据えた学生は少ない。上級貴族の子弟は生まれた時から自分の人生の先行きを見据えているからこそ、そうではない普通の子供達を置きざりにして争いを主導しているのだ。興味深げにバンビが耳を傾ける中、トマスがまだ言葉を続けている。

「王党派も貴族派も、これまでに学園で得ているもの、例えば入学の推薦権などを失う事は好まないだろう。だから変革は少ない」

 推薦の権利は貴族全体が得ている権益で、一方の派閥だけ狙い撃ちで無くせるようなものではない。それは貴族専用の食堂席や運動場などの優遇も同様だ。選挙で目に見える変化があるとすれば、彼らの実家同士の関係性。あるいは彼ら自身の婚約などにも影響があるかもしれない。

「生徒会選挙で学生に影響が出るのは、むしろ派閥ではなく立候補者個人の主張だろうな」

 嘘か本当か、過去には食堂のメニューに市販の有名店のケーキを入れるとか、揃いの女子制服を作るだとか言う公約を掲げた候補もいたとかいないとか。自分が選ばれないとわかって遊びで出てきた記念立候補者の中には面白い連中もいたらしい。

「……私は平穏が崩れる事は好まない。その立場から言うとどの派閥が良いだろうか」
「これも私見だが、貴族派だろうな」

 サマエラの個人的な問いに、トマスはそう断言した。

「アルベイルは公爵家の出だ。これまで貴族派をけしかけていたのが誰かは知らないが、対抗できるとは思えない。貴族派の主導権は彼が握るだろう。そして王党派は旗頭となりえたオルファレナ嬢が椅子を蹴ったが故にしばらくは混乱する」

 王党派としての候補を統一できるかどうかすら危うい、とトマスは言う。そして学園派は伝統を破壊する側ゆえに、そこが選挙に勝てば荒れるだろう、とも。

「そう考えれば、先ほどの学園派の意見は鋭いですが、懸念はまだまだ多いですね」
「としても、そういう視座が入ってくるだけでも大きな違いだよ」

 イデアが静かに呟けば、シルヴィアは楽し気に応じる。実際の所、学園長の行動は十分に学園を引っ掻き回している。これまで先導者についていくだけだった下級貴族や平民にそれ以外の選択肢を見せ、派閥に属さない個人である授恵者を無視できない数で招き入れた。現状の打破と言う意味では、既に後戻りできない成果をあげているのだ。

(まずい事になるなら、手を貸してやらねぇとな)

 友人の選択を悪しざまに言うようなトマスの言葉に少しむっとしたハヤトだが、ファミリーに置き換えてみれば学園派に肩入れする彼女の危うさに合点はいった。敵対する貴族派ばかりか、王党派内部にも敵を作りかねない決断ではある。

「伝統は、大事ですね。大森林でもそうでした」

 話を聞いていたリディリディは、故郷の平和な様子を思い浮かべ、波風立たないのならば貴族派が良いと思ったようだ。一方、変革すべきは急いで試行し、駄目なら他の手段をと考えるバンビから見ればそこは魅力ではない。

(動きが速い所、というと学園派? もう少し考えるか)

 大物然と腕組みをして耳を傾けるゴブリンは、少しばかり目立っていた。静かに考え込むように見えるイデアは実のところ派閥に興味はない、というよりはわかない。どうでもいいので誰かに誘われれば応じるくらいだが、そこまで勧誘に積極的な者はいないようだ。

「王国も学園も、もう少し門戸が広ければいいのに……」
「学園派ですか。では私もそうしましょう」

 同席のルベアの呟きに、ちょうどよかったとばかりに相乗りをした。

●
 議論が進む中、シオンとカナンが席を外そうとした事に、数人の冒険者が気が付いた。

「何、呼び出し? 用件はなんだろうか」
「話したいことがあるので屋上へ来て欲しいと、手紙が。無視しても良かったのですが、討論部に乗り込まれても面倒ですので」
「私はカナンの付き合い」

 サマエラが聞き出した事情に、眉をひそめたAlexandraが席を立つ。迷惑そうな2人の様子から、妨害の意図があるのだろうと洞察したのだ。

「このような時に、席を外させる行為の意味を誰も気に留めないとでも?」
(こんなとーろんぶ? とかはじめたら、狙われそうな気がしてたんだよね)

 同様に、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブも危機感を覚えていた。

(えっ、ひょっとして告白? 告白?)

 違う方向で興味を覚えたララベルもそっと尾行を始め、目に見えるよりも大所帯となる。隠れて尾行するサフィラに視線を送られたハヤトが、行く先を予測してエーテルを向けてみれば、案の定屋上に人が溜まっていた。

(先回りしよっか)
(ああ)

 校舎内では走らない面々より早く、外階段から屋上へ。何やら机が置かれていたが、無視して突っ切る。

「女1人呼び出してこの人数たぁ、この学園てなぁどんだけ腐ってやがんだよ!?」
「なんだてめぇ? おい、やっちま……うぇ?」

 隠れたまま回り込んでいたサフィラが、後頭部をがつんと一撃。頭の悪そうな学生が突っ伏する。

「こ、こいつ!? ふざけやがって!」
「きゃー、ハヤトこわーい」

 棒読み口調で悲鳴を上げるサフィラと、呆れたような顔で笑うハヤト。一方、シオンとカナンは屋上へ通じる出口でガラの悪そうな生徒達と対面していた。

「な、なんだ。1人で来るんじゃねぇのかよ」
「そんな馬鹿はいない」
(あれ? なんか思ってたのと違うかも。……でも、邪魔していいのかな、これ)

 やり取りの様子はララベルの期待と違って甘くない。顔で相手を判断してはいけないとも思って様子を見ていると、男は乱暴にカナンへ手を伸ばした。が、Alexandraに平手打ちされた上にサマエラに叩き伏せられる。もう1人は飛び出したララベルが腕を捻りあげた。

「そこまだ! って弱……っ」
「痛ててててっ! くそ、お前ら! 出てこい!」

 男が悲鳴を上げると、屋上の戸が開いてハヤトが顔を出した。

「ん? 呼んだか? こっちは片付いたぜ?」

 両名に事情を聴くに、時々こういう呼び出しはあるのだとか。

「大丈夫? 選挙って、大変なんだね」
「今日のは裏が取れていましたが、思ったより大勢でしたので……、助かりました」

 心配するララベルに、シオンが頭を下げる。2人ではこのように一網打尽にはできなかっただろう。とはいえいちいち表ざたにする気はないらしい。ぞろぞろと討論会場へ戻ってくる、と。

「トマスさんを口説き落とすとか凄い自信だなぁ」

 綺麗に着飾った男爵令嬢がエルゼリオと会話していた。性別はしっかり男性のエルゼリオだが、ぱっと見では美少女に見間違う容姿である。

(くっ……中性的美少女枠の子ね。でも、ライバルがこの子だけなら……)

 と、室内を覗き見ると、すがるような目のリディリディと目があった。

(この人もこの部屋から逃がしてくれないのでしょうか……。怖い)
(エルフの癖に、大きい。お胸大きい枠までいるなんて!)

 全くかみ合わない視線を交わした令嬢に、エルゼリオが手を伸べた。

「キミ、弁論に自信があるなら、ちょっと討論でトマスさんと対戦してみて欲しいかも」

 弁論。そういえば部屋の入り口にそんな言葉があった気もする。

「べ、弁論ではなく、女性としての魅力で……」
「トマスは忙しいようだ。少し私と話さないかい?」

 何やら面倒ごとの気配を感じたシルヴィアが、一直線にトマスへ向かうエルゼリオと令嬢をインターセプトした。同席のイデアとルベアを見て令嬢は目を丸くする。

(ハーフビーストに、美青年まで。どこまで守備範囲が広いのよ……)

 そんな誤解に戦慄する令嬢を他所に、シルヴィアはエルゼリオから手短に事情を聴きだした。

「確かに君は美人だ。私が男だったら口説いていたよ」

 シルヴィアは崩した言葉遣いだが、身についた所作は明らかに貴族層のもの。令嬢は姉属性系美女の出現に、ぐぬぬと内心うなりを上げる。

(いえ、貴族の妻としては年下の方が望ましい筈ですわ!)

 男爵令嬢15歳。まなじりを決してトマスの方を見れば、ゲルダ(ハーフリング)と何やら話しているように見えた。幼気系美少女までいるとは、おそるべしダンテ家。

「く。甘く見ておりました。女を磨いて出直してまいりますわ」

 勝手に敗北を認めた令嬢は素直に引き下がっていった。

●
 そんな風にごたごたしていた間にも、会話は弾んでいる。

「貴族派・王党派が勝利した場合の他国への影響を分かる範囲で教えてほしいのだ」

 と言うストレガの質問に、トマスは首をかしげた。

「国政の話ならば、貴族派が主導権を取るならば帝国領へ派兵が始まるだろう。王党派も権益は欲しいだろうが、今は王家の意を汲んだ辺境伯が抑えている」

 王国が帝国領土を切り取り、一強体制が盤石になれば次に矛先はどこへ向くか。強大化した貴族の中には良からぬことを企む者もあらわれるやもしれない。大陸は荒れる可能性がある。

「学園選挙で、ということであれば外交に与える影響はほとんどあるまい」
「なるほどなのだ」

 と納得した様子のストレガと違い、帝国に所縁のある面々は内心穏やかならぬ話ではある。

「影響がない……と断じるのは如何でしょうか」

 と、意見を述べたのは帝国滅亡以前に留学していて難を逃れたナハト・シュライバーだ。帝国民の中には有為の人材もいる筈で、それを見出し、育てる事は王国の益にもなると説く。

「帝国の復興や情勢の安定のみならず、王国の発展の為に。種族や身分、出身に関わらず受け入れる、懐の広い陣営がより強くなるのでは、と考える次第です」

 先のアウレーリアの言葉と似ているが、ナハトは王国にも王家にも学園にも恩義を感じており、そこに悪意はなかった。彼が学園生活で不満を感じているのは、一つ。

「なんと。噂に聞いていた通りダンテ君はハーフビーストを排斥していないのだね」

 さっき部室に入ってきたあの教師だ。自分達を差別しない、といえば良い事のように思えるが、すぐに触ってくるセクハラ教師である。彼は周囲を見回して、ルベアの座るテーブルへ歩み寄った。

「失礼、同席させて頂けるかな」

 礼儀正しいように見えてその視線は耳に釘付けである。不躾な視線に嫌な顔をするルベア。

「触っても宜しいか?」
「良い訳ないでしょ! ペット扱いするんじゃないわ」

 断られると思っていなかったのか、教師の手が所在なさげに宙に漂った。

「手を出すつもりかい? 種族問わず立派な犯罪になるよ」

 とどめにシルヴィアに切って捨てられる。悲しげな顔でふらふらと立ち去る様子を見れば、話が通じないわけではないらしい。ならば、とティトが立ち上がった。

「あの……。ちょっと、いいかな」
「何かね、素晴らしい白狼のお嬢さん。ああ、私をそんな目で誘惑しないでくれ給え」
「してない。……でも言いたい事ある、よ」

 意を決したように立つ少女の足は震えている。

「ぼくは、ぼくたちは、ペットじゃない、よ。同じ、人」
「……くっ。ペットだなどと。首輪に繋いで三食お世話してお散歩もして良いなどと考えたことしかございません!」

 熱量だけ強いダメな感じの否定が来た。が、どうやらこの男はこの男なりに相手の気持ちは考えてはいる様子。嫌がる相手に無理やり触るのではなく、触るだけでも嫌がられると理解できていなかったタイプらしい。話を聞いていたナハトからも普段の苦情を伝えると、大袈裟なまでに後悔していた。

「くっ。手触りを堪能する間に、そんな不快そうな顔をさせていたとは。一生の不覚……」
「まあまあ、悪気が無かったんなら今後改めればいいんじゃないかな? それより、どんなところが好きだったのさ」

 あまり追い詰めても困ると思ったサフィラが話を振ると、最初は控えめに、そのうち熱を入れてもふもふについて語りだす。声が高くならないよう、適度にコントロールして気分よく語って貰おう。無論隔離席で。

(あのもふもふ具合が素晴らしいのは確かですが、最高ですが。この場の話題にはそぐわないでしょうね)

 セロンガードは教師に若干の共感を抱きつつも、ダンテ家の悪い噂になってもいけない。ティトにバレるわけにもいかない。会話に加わらず遠くから見つめるのみであった。

●
 幾つか問題はあったようだが、討論部は盛況なようだ。参加者の自由な討論に耳を傾け、考え込むトマスにキーゼが言葉を掛けた。

「学園派の考え方は、王国を形作る『王と貴族』の在り方自体を否定しかねない。そうは思いませんか?」
「主張通りに学内でのみの話ならば、王権の否定にはなるまい。が、貴族の権益は間違いなく侵しているな」

 そんな会話を耳にしたララノアは、そもそも貴族など必要なのかと考える。外交やまとめるという意味で必要なのかもしれないが、そんなものがなくとも民だけでも回るのかもしれない。無論、その思考を口に出すほどに愚かではないが。

「いえ。学園派はあくまで学園内での事。卒業後は本来あるべき所に戻るだけです」

 トマスの返答に、レティシアが説明を入れる。ついでにさらっと勧誘も試みた。

「王党派や貴族派からの勧誘にお困りの様子。学園派への支持を表明されてはいかがでしょう?」
「確かに、面倒ではあるが……。ダンテ家にはクラティアスほど我意を通す力はないよ」

 トマスは首を振った。学園派に肩入れすれば、王党派も貴族派も敵対と見なすだろう。学園で敵対したことを貴族派や王党派の貴族が水に流す保証はない。

「理想を語るのは素晴らしい……。しかし、理想ありきで物事を考えるのでは、正直忌み嫌う貴族派と何ら変わりません」
「嫌っているわけではないのだがね。彼らも共に王国を支える軸なのだから」

 当面の中立を維持させるというキーゼの目標は果たせたようだ。だが、エルゼリオとゲルダの要望についても、トマスは受け入れることにした。身分や種族などを問わぬ討論の場を残す事に良い顔はされないだろうし、弁えぬ愚か者の嫌がらせは続くだろうが、決定的な敵対にまでは至るまい、と。

「それでは、今回はここまでとする」

 トマスのその宣言をもって、第一回の政治討論部の活動は終了した。

マスターコメント

色々な疑問などがあったようで、トマス視点では一通り回答を返せたかな……? と思っています。 トマス一派は(伯爵なので爵位的には下級ですが)自己判断するべく育った上級貴族枠がトマス、基本的には上についていくが場合によっては別の貴族に乗り換える下級貴族枠がタイコモ、上に権利を握られている平民枠のシオンとカナン、とバランスよくおりました。 でも、こいつらにそれぞれの立場から所感を語らせる字数はさすがになく。授恵者じゃない平民学生や下級貴族の意見とかを、誰かに聞かれてたらそういう出番もあったかもしれません。 シナリオ結果は、大過なく会が終わり、いろいろと意見も出していただけたので、大成功で返しています。 MVPは、解説役をしてトマスの出番を肩代わりしてくれた方に。称号は、部の存続を願ってくれたお2人に部員称号をお送りしています。 また、トマスに話しかけたり勧誘してくださった方、面白刺客を迎え撃ってくださった方。 判定結果はリプレイの通りですが、構ってくださってありがとうございました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 10〜25人

2021年07月16日 00時17分45秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 私はワイン派で……え、だめ?← 派閥の話はさておき、面白刺客の相手をしたいと思ってるよ。女子学生の身に危険が迫ってるようだから、トマスに恨みのある傲慢な貴族派貴族の対応予定だ。

  2. ルベア・ベルニ

    ルベアよ、宜しく。 ……解説の異種族云々がドンピシャすぎて参加したから、まだどう動くかは決めてないんだけど。 とりあえず今の所は、色々な話を聞けたらなって思ってる。

  3. No.3

    イデアです。よろしくお願いします ……酒より煙草派やワイン派も可能ならば豆派もあるのでしょうか まあ正直派閥等はどうでも良いのですが、私は無難に中立派ということにしておきますか 私も行動は未定ですので、一先ず挨拶のみで失礼しますね

  4. シルヴィア・A・カペル

    >イデア ふふ、その場合エールと枝豆派が良いな。この季節にぴったりだ。 そういえば、最近イデアとは中々絡めてないね……私は先述の貴族派貴族に対応する予定だけど、もしイデアが何かやるなら協力するから遠慮なく声を掛けて欲しい。私も特に説得したい・されたいは無いから、お茶とお菓子を楽しみながら世間話でもOKだ。 >ルベア 君は確か狐のハーフビーストだったよね。愛が歪んだ貴族教師の標的にされないか心配だから、個人的に護衛というか、気にかけていても良いかい?( 世間話は歓迎だから、ルベアも何時でも声を掛けてね。

  5. レイヤ・ダライ=カホール

    ケーキ派は!?ケーキ派もありますよね!ないはずがありませんよね!? ……あ。(ちょっと顔を赤く染め咳払いしてごまかしながら) こほん、ええと。 レイヤ・ダライ=カホールです。さっきのは忘れてください。 面白刺客と触れ合うのも政治の話も面白そうですね。 わたしも行動は未定だったりしますが、今回は文字数制限が最大の敵かもしれません…300文字って短いですね。

  6. レティシア・R・クラティアス

    ごきげんよう。レティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 僭越ながら私は【学園派】の者として、討論に参加させて頂きます。 その、トマス様の為に少々癖がおありの方々のお相手が出来ないのは 大変申し訳ないのですけれども……!

  7. イズレンディル・パラリム

    エルフのイズレンディル・パラリムと申します。 今回は自由に討論が出来るということですので、個人的な提言をさせて頂こうと思い参りました。 折角門戸を広げて頂けるのであれば、各国から留学生を招く制度等も出来ればと思っております。 種族間の交流を活発にさせたいという立場ですね。 完全に第三者の立ち位置ですので、派閥としては【無党派】になりそうです。 私も刺客の方々のお相手は出来そうにないのでお任せすることになりそうです。

  8. コルネリウス・アーラ

    エルフのコルネリウスです、よろしくお願いします。 種族間交流の活動もしていますし、派閥は【無党派】で、私も留学生制度についての意見に触れられればと思っています。 刺客さんのお相手は、申し訳ないのですが、対応して頂ける方にお任せ出来ればと。

  9. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、みんなよろしくな!! 俺も特にどこに肩入れってのもねぇから【無党派】ってやつだな! ん?誰だお前は【覗き派】じゃないのかとか呟いた奴!? 特に主張してぇこともねーから刺客とやらをサクサクっと片付けておくとすっかな♪

  10. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!サフィラだよっ! あたしも特にこれ!って推しが無いから 【無党派】かなぁ? とーろんはちょっと苦手だから 刺客対策に動こうかなぁっ

  11. No.11

    >シルヴィア様 では、私は【エールと枝豆派】になりましょうか ありがとうございます。ただ申し訳ないのですが、お恥ずかしい事に討論について特に何も思い浮かばなくてですね…… ですので、癖のある方々(NPC)のお相手や世間話でもしようかと考えております

  12. シルヴィア・A・カペル

    留学生制度か、素敵だね。種族間の交流が活発になるのは良いことだと思う。 レティシアは【学園派】の討論、よろしく頼むよ。私は出来る限り刺客を排除しよう。 >イデア よし、それなら私も【エールと枝豆派】で。私の方は、参加している【学園派】と一緒にプレに書いておこう……当日持ち込めないのが残念だ← イデアの動きについても了解だ。今のところ面白刺客の対応は私と君とハヤトとサフィの四人だけみたいだから、連携、或いは分担していければ良いなと思ってるよ。ごたごたが片付いたらお茶で一息入れたいね。同班のサフィとハヤトも誘いたいけど、二人の都合もあるだろうしふんわり書いておく位にするよ。 >面白刺客対応 ハヤトは刺客を片づける……ということは、傲慢な貴族派貴族の対応をする予定なのかな? それなら私は男爵令嬢と貴族の教師の対応をメインにしよう。それでトマスの想定外のお客様はカバーできると思う。一応「全体的に警戒」とは書いておくつもりだ。何か手伝えることがあれば言ってね。 部室にレイヤの気に入るケーキがあると良いね←

  13. ララノア・グラヌローザ

    あ、あら?ここは? 自己紹介?えっと…えっと…その…ララノアでしっ よろしゅくお願いいたしまし!!(がばちょ …………あの、ここは何かの集まりでしょうか…。 ど、どうしましょう…とりあえず、隅っこにいましで!!だだだいじょうぶでし!わたし、雑草でしので!お邪魔しましぇーーんっ(ぴぇぇ

  14. ルベア・ベルニ

    なんかこうしているだけでも色々な方針やら提案が聞けるわね……。 単純に話聴いてるだけじゃなく、私も刺客対策に動こうかな……。 >シルヴィアさん 私、これでも一応大人なんだけど…… いえ、それぐらい愛が歪んでたら年齢なんか関係ないのかしら。 気にかけてくれてありがとう、助かるわ。 学園のこととかも実情は全然分からないことだらけだから、世間話ついでに色々教えてくれると嬉しい。

  15. シルヴィア・A・カペル

    ララノアもよろしくね。お茶を飲んでリラックスしてくれれば大丈夫だ(ぐっ >ルベア 人間、愛が歪むと何をするか分からないからね(まがお( 快諾ありがとう。今回はルベアの騎士役をさせて貰おう。刺客対策に参加してくれるのはすごく助かるけど、刺客が貴族だからルベアが嫌な思いをするかもしれない……そういう意味でも護衛させてもらうつもりだ。 世間話も楽しみにしてるね。学園についても出来る限り伝えさせて貰いたい。皆の討論の解説が出来れば、とも思ってるよ。

  16. ララノア・グラヌローザ

    Σし、シルヴィア様っっ ぁぁぁにゃ、ありがとうご邪魔しな(あせあせ おち、落ち着いて…おち……(すーはー深呼吸 ぇぅぅ…が。がんばりましっっ

  17. No.17

    まだ挨拶をしていませんでした。 あの・・・、遅くなり申し訳ありません。 リディリディです、よろしくお願いします・・・。 最初は【無党派】として動きますが、変わるかもしれません。

  18. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    私も挨拶をしていませんでした、ごめんなさいね。 アウレーリアよ、宜しく。行動は一応、討論側かしら。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0