【大変動】前線キャンプにドンが来る。でも、その前に

そうすけ

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シナリオID:809

オープニング

●
 冒険者たちの活躍により、サウゼル大樹海北部の前線キャンプは無事に解放された。周囲にいた危険な野生生物や小中型のクリーパーたちも徐々に排除されつつある。
 だが……。

 隠れ家の一室で、ブラックデスのドン・ゴーフルと幹部のタ・ロウが話し合っている。
 部屋にいるのは2人だけだ。
「最終的にはゴールディに移り住んでもらうつもりだが、あの調子じゃ、今すぐって訳にもいかねェだろ」
 何のことかと言えば、古ゴブリンたちのことである。
 保護した古ゴブリンのうち何人かをゴールディに連れてきていたのだが……。
 彼らは言葉も通じないうえに非常に好戦的で、隙あらば世話役の者を攻撃し、逃げ出そうとする。
 唯一、彼らと言葉を交わせるドン・ゴーフルと引き合わそうにも、あんなに暴れられてはとても無理だ。
「だからだよ。諸々の事情を聞くためだけに兄弟たちをこっちに連れてくるより、オレが前線キャンプに出向くっていってんだ。いずれ、兄弟たちに毒林檎を食わせて操っているヤツにたっぷり礼をしねえといけねぇからな。あと、大樹海の南から聞こえてくるという不気味な鳴き声のことも気になる」
「いや、ドン。ちょっとお待ちを」
 ドン自ら前線キャンプに出向く?
 これはまた、とんでもないことを言いだした。
 タ・ロウはドンの御前で渋い顔をする。こんな時に限って、お目付け役のサチコがいない。
「なんでぇ、何を待つことがあるって言うンだ。どうせ毎日隠れ家を渡り歩いてんだ。いっそ、大樹海に身を隠したほうが安全だろう? ホワイトライフもレッドブーツも、まさか大樹海にまでヒットマンを送り込んでは来ないだろうよ」
「あのですね、ドン。前線キャンプの周りには連中よりずっと危険なヤツらがうろついているんです。冒険者たちがせっせと排除してくれてはいるんですがね……」
 それに、とタ・ロウは続ける。
「前線キャンプの施設の修繕に一切手をつけていません。いま行っても、ドンに寝泊まりして頂く場所がねぇんですよ」
「じゃ、急いで直せ。うちの連中だけで手が足りねぇなら、ヴァイオレットレオンに要請して若い衆に手伝いに来てもらえ。あと、冒険者ギルドにも追加で依頼を出せ。以上!」
 言うだけ言うと、ドン・ゴーフルは腕を組んでソファーに体を深く沈めた。
 こうなったら何を言っても無駄だ。
 タ・ロウはため息を堪えた。
「……わかりました。すぐに手配します」

解説

●やること。 >前線キャンプ運営本部/タグ【本部】 二階建て、地下室あり。前線キャンプ解放の戦い(【大変動】押し寄せる白き災厄/明乃そらMS)で傷んでいます。 ※ ドン・ゴーフルたちが、ここを大樹海南部攻略のベースにすることが決まっています。 >治療所/タグ【治療所】 前線キャンプ解放の戦い(【大変動】大脱出の末に/空色みなもMS)では被害なし。 しかし、いつまた襲われるか……。診療所の畑から野菜を収穫してください。 キャベツとジャガイモ、タマネギ。それにソラマメが取れます。 ※診療所の中には薬草の他『ゴブリナ草』も有り。 >小屋/タグ【小屋】 平屋の小屋が6棟。 前線キャンプ解放の戦い(【大変動】小屋の中の四学者/ろばたにスエノMS)で、小屋の扉に大穴が開いています。他にも破損が……。 >倉/タグ【倉】 地下ありの倉が3つあります。うち1つが前線キャンプ解放の戦い(【大変動】のしかかる闇/革酎MS)で、屋根が崩落。床が抜けて地下室が埋まっています。 食料や大樹海で見つけた貴重な資源、燃料などを保管できるように建て直してください。 >古ゴブリンのお世話/タグ【お世話】 前線キャンプ内にあるグランドで、キャンプファイヤー。 古ゴブリンたちに美味しい物をたくさん食べてもらい、彼らが食べさせられた毒林檎の毒を薄めましょう。 野菜は『診療所の畑』と無事だった『倉』に、小麦粉も『倉』にあります。火を起こす燃料も『倉』に。 調理器具や調味料の類は『本部の食堂』にあります 水はキャンプ内の井戸で汲んでください。 肉は倒した魔物ロングホーン(【大変動】震える大樹海、悪夢の先触れ/そうすけ)があります。生食はできませんが火を通せば食べられます。ほぼ牛肉。 ●NPC1 ブラックデスの幹部、タ・ロウ 手下とBDに友好的マフィア『ヴァイオレットレオン』の若い衆を連れてきます。 彼らは主に塀を修復、ほか手が足りないところに入ります。 プレイングで指定されない限り、リプレイには登場しません。 ●NPC2 保護された古ゴブリンたち。 少しずつ攻撃的でなくなってきていますが、それでも油断すると……。 ただ、彼らはご飯を食べているときはとても大人しく、友好的です。 言葉は通じませんが、手振り身振りでコミュニケーションをとることはできます。 ●その他 前線キャンプ周辺の敵性生物は追い払われています。 戦闘は起こりませんが、時々、南の方から不気味な鳴き声が聞こえてきます。

マスターより

前線キャンプを急ぎ修繕してください。同時に、保護している古ゴブリンたちのケアもお願いいたします。 よろしければご参加ください。 お待ちしております。

リプレイ

●
 地平線から朝日がゆっくりとあらわれて、はて知れぬ原始樹海を照らしあげる。聞いたこともない鳥やサルの鳴き声が神秘的に響き渡るなかで、夜が朝に変わっていく。
 大樹海の最深部あたりから聞こえてくる謎の鳴き声がどんなに恐ろしくても、逃げださずにサウゼルにとどまっている動物たちがいる証拠だ。ただ、本来あるべきサウゼルの朝よりも圧倒的に静かではあるが。
 破壊を免れた小屋とキャンプ本部に分散して収容されていた古ゴブリンたちが、ブラックデスやヴァイオレッドレオンの若い衆に連れられてグランドにでてきた。生あくびを繰り返すマフィアたちと違い、大樹海で暮らす古ゴブリンたちは夜明け前からしっかり目が覚めている。
 今日から本格的に前線キャンプの改修工事が始まる。日中は作業の邪魔にならないように、お世話係の冒険者たちがグランドで古ゴブリンたちを見守ることになっていた。
 ゴールディの情報屋ラズリーは、作業分担表を広げるブラックデスの幹部タ・ロウに聞いた。
「古ゴブのなかに手とか縛ってへんのがおるけど、大丈夫なん?」
「そいつらは数日前に保護された。こっちが優しく接していりゃ、いきなり襲いかかってくることはない……らしい。ま、冒険者たちに任せておけば問題ないだろう」
「らしいって、めっちゃ無責任やな」
 古ゴブリンたちがグループごとに分けられ、地面に腰を下ろす。やはり、キャンプに連れてこられてからまだ日が浅いグループの着座が最後になった。
「よし、じゃあ始めるとするか」
 タ・ロウはよろしく頼むぞと一言を添えて、冒険者たちに作業の開始を告げた。

●本部
 解散後、ケン・Z・ブラッドリーとシャロン・ラ・モリエールは、グランドを突っ切って本部へ向かった。
 さっそく朝ごはんの配給が始まっており、あちらこちらで古ゴブリンたちが楽器の代わりに手や足を地に打ちつけてリズムを取っている。お世話係に任ぜられた冒険者たちが古ゴブリンたちの間を、湯気のたつ木の鉢を持って忙しそうに動き回っていた。
「俺たちの朝飯はどうなってんだ?」
「本部の食堂に用意されているそうですよ。さっきラズリーから聞きました」
 硬い丸パンと搾りたてのオレンジジュースというシンプルな朝食を取った後、ふたりはそれぞれ別の場所へ足を運んだ。
 ケンは地下へ、シャロンは一階を見て回る。
 ケンは地下室の扉を開いてかび臭い空気を外に逃がすと、そのまま入り口で立ち止まった。
「さぁて……どういじったもんか」
 腕を組んで思案にふける。
 ドン・ゴーフルはこの前線キャンプをサウゼル大樹海攻略の拠点にするという。
 もともとここは、かつて混ざりものであったゴブリンたち――ドン・ゴーフルたちが暮らしていた村を再発見するための中間拠点として大樹海に作られた。今回の大変動で、そこに大樹海の異変を調べて原因を取り除く、という目的が新たに加わったのだが……。
(あの三本角、ドン・ゴーフルを相当怨んでいるみたいだったしな。怨む理由がいまいち分からなかったが……ドンが大樹海まで出張ってきていることを知ったら、絶対、襲ってくるぞ)
 三本角とは、ケンが他の仲間たちと一緒に戦ったメドゥの指先幹部、『緑の親指』アダムのことだ。
 原生動物やクリーパーを退けているうちに、様々なことが分かってきていた。ドン・ゴーフルを憎むアダムが、サウゼル大変動を引き起こした可能性は非常に高い。
「第一に考えなきゃならないのは、ドンの安全確保だな」、と独りごちる。
 ケンは、ここが万が一にも戦場となった場合を考えた。戦術的観点からみても、緊急時の脱出口が必要だ。
(床下に脱出用の隠れ通路でも設けるか。地下室からキャンプの塀の外へめぐらせれば――)
 ケン様、と呼ぶ声に振り返る。
「お、シャロンじゃないか。どうした?」
「ケン様、私にアイデアがありまして、ご協力いただけると嬉しいのですが」
「そっちもなにか案があるのか? 俺はここに隠し通路的なものを作ろうと考えているんだが……」
「いいですね。私が思いついたアイデアとよく似ています」
 シャロンはケンに、シャルガネ風のシノビ屋敷によくある『どんでん返し』を真似て、非常用の脱出扉を作る案を話す。
「探波対策に、ダミーの回転芯を壁内に設置すればより完璧だと思います」
「あとはそこの入り口に、迎撃用の吊り天井ってのもありか?」
 どれもケンの建築・土木スキルがあればできないことではない。多少、時間はかかるだろうが。
 存外子供っぽいところがあるというドン・ゴーフルが、隠し戸を開いては閉じて喜んでいる姿が目に浮かぶ。
 ふたりは俄然やる気がでてきた。
「そうと決まったらさっそく始めましょう……ドンに私が気配り上手ないい猫だって見直させるのよ!」
「ああ、ドンも絶対気に入って褒めてくれるぜ」

 その頃。
 ナハティガル=ラーは二階のスタッフルームにいた。
 開け放たれた窓から風が吹き込み、テーブルの上に無造作に放りだされていた宿泊台帳をばらばらとめくる。ナハティガルが歩くたびに足もとで床板のきしむ音がして、埃が舞いあがる。
「ドン達が寝泊まりするとしたら――恐らくは此処か……?」
 棚やロッカーのある広い部屋は、ドン・ゴーフルと付き添いの幹部たちが寝泊まりするのにちょうどいい。壁にかけられた大きな掲示板や、机と椅子は地下室に運ぶことにしよう。
 さっと頭の中で、地下室を会議室にする算段をつける。
 スィーリーンに計画を話すと、いいですね、と明るい声が返ってきた。
「ドン・ゴーフル様が直々に来られるのですから、急いで整えなくてはなりませんね。窓やドア鍵の点検に回ってくださっている、ギャメル様とオゴス様にお伝えしてきしましょう」
「ああ、頼む。さて……手始めに、ここを襲撃した古ゴブリンたちが壊したものを外に運びだすとするか」
 ナハティガルは、脚が折れた小さなキャビネットを持ち上げた。
「お待ちください」
「なんだ?」
 スィーリーンは持ち上げられたキャビネットのまえにしゃがみ込むと、折れた脚をじっくりと調べた。
「ここから外せそうです。新しく脚を作って差し替えれば……サイドキャビネットとしてちょうどい大きさですし、直して使いましょう。上にオシャレなランプを置けば、ドン・ゴーフル様に快適に眠っていただけますよ」
 手細工や木工はお手のもの。家具の修繕もお任せください、とスィーリーンは床の照り返しに目を細めながら言った。
「では、あちらへ移動させておく。修繕に必要なものがあればいってくれ。探しておこう」
 スィーリーンは新しい脚を作るのにちょうどよい大きさの角材と、塗料の手配をナハティガルに頼んだ。新しい脚が割る目立ちしないように、色を塗り直したい。木工細工に必要な道具も頼む。
「角材は外にだされている廃材の山から探すとして、塗料は……売店を探すか。倉の方も見に行ってみよう。足りない家具はゴールディに戻って手配してもいい」
「では、私はギャメル様とオゴス様たちを呼んでまいります」
 ぐるりとスタッフルームを見まわす。
「それと、タ・ロウ様も。ドン・ゴーフル様のお部屋の好みをお聞きして、それに近い雰囲気になるように……希望通りとまではいかないでしょうけれど、少しでも気持ちよくお過ごしいただける部屋に仕上げたいと思います」
「俺も彼に話がある。タ・ロウは俺が連れてこよう」
 ナハティガルは壁の掲示板を外した。

 窓から差し込む強い日差しが天井や壁面に反射し、木目の床に広がる瑠璃色の影が美しい。大樹海の芳醇な香りが、早くも夏を感じさせる風にのって本部の二階にやってくる。
 ギャメルは窓枠に手をついて、うーんと伸びをした。
「坊ちゃん?」
「ん? サボってないぜ。いい天気だなぁって思ったら、つい……ふああっ!」
 欠伸がでた。
 ギャメルはつい先日、大樹海の南部近くから戻ってきたばかりだ。まだ体に疲れが残っている。連日にわたりクリーパーや手負いの原生動物、古ゴブリンと白い蛇たちと戦いながらの移動だったのだ。とくに帰りは古ゴブリンたちを連れていたので、行き以上に体力と気力が使われた。
「下でオレンジジュースでももらってきましょうか?」
 にこにこと笑いながらオゴスがいう。
「うーん。オレンジジュースか。ここはキリッとするためにコーヒーをブラックで!」
「坊ちゃんにはまだ早いですよ。胃を悪くしてしまいます」
「もう。そうやっていつも子供扱いする」
 腰に拳をあてて怒るギャメルを見つめるオゴスの目はとても優しい。
「では、間をとってミックスジュースにいたしましょう」
「ミックスジュースのどこが間なんだよ」
「俺が飲みたくなったんです……と、オレンジの他にバナナは見ましたが、牛乳はありましたかね?」
 ないと思うぜ、と窓を閉めながらギャメルが言う。
「しぼりたてならともかく、腐るんじゃないか」
 カチリ、と音をたてて鍵をかけた。壊れてはいないが、防犯の役に立つとは思えないほど簡素なものだ。外についている金属の返しは、ドロボウではなくサル対策だろう。
 スィーリーンがやって来た。
「リンゴならありましたよ」
「リンゴはダメだ。メドゥの指先が毒を入れたやつが混じっているかもしれないからな!」
「メドゥの指先が?」
「ただの指先じゃない。幹部なんだ。名前はアダム……認めるのは嫌だけどオレたちと同じゴブリンだ!」
 ギャメルは怪訝な顔をするオゴスたちに、これまでに大樹海で行われた戦いと、戦いの中で分かったことを語った。
「毒林檎で古ゴブリンたちを……ひどい奴ですね。出会うことがあったらとっちめてやりましょう。ところで、スィーリーンさん。何か俺たちに御用ですか?」
「ナハティガル様と話し合って、スタッフルームをドン・ゴーフル様と幹部の方々が寝泊まりする部屋に決めました。おふたりにも片付けを手伝っていただきたいのです」
「もちろん! 部屋が決まったなら、真っ先にやらなくちゃいけないことがあるな!」
「それはなんですか、坊ちゃん?」
「毒ガス対策だよ。ドン・ゴーフルは常に命を狙われているんだ。しっかり対策しておかないとな!」
 ギャメルはオゴスに一階におり、スタッフルームの真下の部屋で香水を撒くように頼んだ。
「オレのするどい鼻で、見えない壁や窓の傷みがわかるかなーって」
「なるほど、ではさっそく撒きに行きましょう。ついでに、地下にいるケンさんとシャロンさんにも伝えてきます」
「地下にはナハティガル様が掲示板を持って降りていかれました。地下室を会議室にするそうです」

 洗いたてのシーツを抱えたギャメルにドン・ゴーフルが好きな色を聞かれ、タ・ロウは口の端に咥えた葉巻を上下に揺らした。
「ドンが好きな色? 黒に決まってんだろ」
 だが、それは快適な都会、ゴールディにいてのこと。密林のなかで黒一色というのも気が滅入る。第一、熱が集まって暑くてしょうがない。
「白いペンキとニスなら沢山あるのですが……木目を生かした自然な色合いでは駄目でしょうか」とスィーリーン。
「いいんじゃねえか。別に文句はいわねえと思うぜ」
 そこまで我儘ではないはずだ。嫌だと駄々をこねたらさっさとゴールディに戻ってもらう。タ・ロウはドン・ゴーフルがここへ来ることに大反対だった。
「しかし……お前ら、気遣いは嬉しいがちぃっとやり過ぎじゃねえか? 隠し扉に隠し通路、緊急脱出用のすべり台。どこの忍者屋敷だよ。ま、オレはキライじゃないがな」
 すべり台の上から下を眺めつつ、ここでサバゲーをしたら面白そうだと、不謹慎なことを考える。
「すべり台、いいだろ? オレの発案で、オゴスに作ってもらったんだ。まだやすり掛けが残っているけど、完成したら滑ってみてよ」
「私とケン様が作っている仕掛けも、あとで確認してくださいね。秘密の通路も是非」
「おう。楽しみにしているぜ」
 タ・ロウは本部をあとにした。小屋に向かって歩きながら、ナハティガルから受けた質問をじっくり考える。
「二百年以上前に袂を分かった同胞、彼等の身に何が起こっているのか、か」
 返答は夕食時にすることになっていた。
「オレにも、いやドンでさえよく分かっちゃいねんだがな……」
 帽子を脱いで振り返る。
 本部の屋根にあがったオゴスとナハティガルに向けて一振りし、小屋へ急いだ。

●小屋
 前線キャンプには、大樹海の観光にきた客や学術調査で訪れた学者たちを止める宿泊小屋が6棟ある。そのうちの一つ。第一次襲撃時に、逃げ遅れた四学者たちが立て籠った小屋は大幅な修復が必要な状態だった。
 テテリカは大きな穴の開いた扉の前で、頭をかいていた。
「この大穴には心当たりがある……緊急時だったのでマイナデアに頼んで壊してもらったやつだな」
 あの時は学者たちを守って無事脱出させることに集中していた。こうやって落ち着いて見てみると、思っていたよりも開けられた穴が大きい。
「……元通りに直さねばな。オニフスベ!」
 ウォホ、と拳をついてテテリカの傍にやってきたのは、真っ白な体毛と色白のヒューマンのような肌色が特徴のゴリラだ。
「古ゴブリンたちと遊んでいたところを呼びつけてすまないな」
 白い体は大樹海のなかで目立つ。よほど強いものでないと生き残れない。それゆえ、古ゴブリンたちはオニフスベを白い蛇と同じぐらい、崇め、親しみをこめて接しているようだ。何か争いが起こっても、オニフスベがのっしのっしと近づいていくだけで、たちまち収まっていた。
「ウホ?」
「うん、扉をまること交換したほうがな、早いような気がしてきた。手ごろな板を探して持って来てくれないか」
 お安い御用だ、とばかりにオニフスベが分厚い胸を叩く。
 ちょうどいい大きさと厚みの木板がなければ、薄い板でもいい、と頼む。
「仮の扉にするから。その時はあとで樹海に入って、木を切ってこよう」
 一晩では無理かもしれないが、乾燥させたものでちゃんとした扉を作ればいい。
「テテリカの兄ちゃん、オレもついて行ったほうがいいかなぁ」
 パヴェル・A・サムルガチェフがタオルで首の汗をぬぐいながら言う。
 運ぶだけならオニフスベだけで大丈夫だが、大きさや厚み、虫に食われて傷んだところがないかなどは、やはり人の目で確認しなくてはならないだろう。
「頼んでもいいか」
「いいとも。じゃあ行こう。ついておいで、オニフスベ」

 パヴェルたちが井戸の横の資材置き場(いまは廃材置き場になっている)へ向かってすぐ、テテリカがロープを使って扉の大きさを調べていると、小屋の裏からテス・クラルスが表にまわってきた。
「テテリカさん、できることあるかな?」
「こっちは問題ない。パヴェルも手伝ってくれているし。そっちはどうなんだ。一から建てなおす必要がありそうか?」
 テスは顔の横に指で丸を作った。
「問題なさそうだよ。ちょっと補強は必要だけどね」
 そこへ小屋の周りに散らばる瓦礫の片付けをしていたロイ・アウレアとエヴァン・ピオネロがやってきて、会話に加わった。
「テテリカさんは特に気になる点ってありますか?」
「一番気になるのは、やっぱりこの扉だな」
「オレは扉もですが、蛇の攻撃で歪んだ外壁や屋根も気になりますね。テスは大丈夫、っていうんだけど」
 ちらりと隣にたつテスへ視線を向ける。
「外壁も屋根も本格的に直すとなったら、一度解体しなきゃダメなんだよ。基礎に問題はないから、いまは補強するだけにしておくのがいいと思う。夜までに古ゴブリンたちの寝床を少しでも多く作ることのほうが大事だ」
 まだまだこれから古ゴブリンたちの数は増えるだろう。いまでも部屋の数が足りていないという状況なのだ。ドン・ゴーフルたちがここにやってくれば、グランドで寝てもらう古ゴブリンたちもでてくる。
 エヴァンは穴の開いた扉にそっと手を当てた。
「壁や屋根の傷み具合を見てると、ここで皆さんが身を張ったのだと感じて感慨深いです。できればこのまま……記念ってワケじゃないけど、大樹海で起こったことを何時までも忘れないように、小屋につけられた戦いの爪痕を残しておくのもいいかもしれませんね」
 ああ、そうだ。とテテリカが声をあげる。
「戦いといえば、小屋の周りに逆茂木を作りたいと思っているんだ。襲撃を受けてもすぐ潰されないようにな」
「それなら、塀の外に作る方がいいと思いますよ」
 エヴァンの提案を聞いて、ロイとテスがキャンプの敷地の外へ目を向ける。
 前線キャンプを野生生物の侵入から守っていた塀は、白い蛇たちの襲撃でほとんど倒壊している。いまブラックデスとヴァイオレットレオンの若い衆が、汗だくになりながら新しい塀を立てているところだ。
「それも道理だな」、とテテリカ。
「ぼくも屋根や壁の防水処理が終わったら手伝いに行こうかな?」
 あら、とテスがいたずらっ子のように微笑む。
「そんなに簡単に終わると思っているのかい? とんでもないね。いっぱいやって欲しいことがあるんだ。ね、ルプス」
 腰を屈めて、地面に伏せた黒狼の耳の後ろをかいてやる。
 ルプスは気持ちよさそうに目を細め、舌を出してくつろぐ。
「いいな。ぼくもモフりたい……。それで、ぼくは何をすれば」
「そうだね。まずは私とロイで力を合わせて屋根に木材を持ち上げるから、エヴァくん、打ち付けてもらえるかな?」
 エヴァンは小屋の屋根を仰いだ。
 平屋造りなので、屋根はさほど高くない。でも、もしかしたら、傷んでいる屋根板を踏み抜いて落ちるかも……。
 なんてことを考えていたら、ロイが休憩にしようと言った。
「無理して怪我でもしたら大変だ。ちゃんと休憩も取って、効率よく作業を進めていこう。小屋の外だけでなく、中もいろいろ手を加えないといけないしね」
「おや、あれは。タ・ロウさんだったかな? こっちにくるみたいだよ」

 ルプスが起き上がって体を振った。
 四人も並んでタ・ロウを迎える。
「おう、ご苦労さん。どんな感じだ」
「どんな感じも何も、まだ始めたばかりですよ」とロイ。
 私がいうのもなんだけど、とテスが一歩前へでる。
「ここを直して使えるようにしても、すぐに古ゴブリンたちでいっぱいになりそうだよ。おとなしいものから順にゴールディへ送ったほうがいいんじゃないかな?」
「それも考えている。というか、だ。もともとそうするつもりだった。ただ――」
「ただ? ただ何だよ」
 タ・ロウは手にしていた帽子をかぶった。
 テテリカたちはタ・ロウの沈黙の中に答えを見つけた。メドゥの指先によって凶暴化したままの古ゴブリンたちを大量にゴールディに移せば、人々にいらぬ誤解を招くかもしれない。古ゴブリンたちは自分たちとは違う、野蛮だと。いくら毒林檎でメドゥの指先に操られたと説明しても、一度抱いてしまった嫌悪感はぬぐえない。差別が生まれるだろう。
 それはゴールディのゴブリンにとっても、古ゴブリンにとっても、悲劇的なことだ。
「……いま、薬を急ぎ作らせている。それができれば、兄弟たちをゴールディに迎え入れることができるだろうよ」
「薬? なにか分かったんですか?」
「お前たちが集めてくれた毒林檎や毒林檎の芯を、大勢の『知恵ある者たち』が調べてくれている。それでなんとかアタリがつけられたところだ」
 ただ完全には分析しきれていないらしい。ブラックボックスの部分を残しながらも、ほぼ有効な薬が少しずつ作り始められているという。
 大量生産ができないので、一つ一つがとても貴重だ。
「大樹海にはまだまだ兄弟たちがいるはずだし、これから先、クソッタレのメドゥの指先と戦うときにも必要になる。ここにいる兄弟たちには、ゴブリナ草と合わせて少量ずつ摂取してもらうことになるだろう。そんなワケだから、美味いメシをたらふく食わせて、さっさと毒を排出してもらわねぇとな」
 太陽は空の一番高いところにある。丁度、お昼時だった。
 古ゴブリンたちはあまり昼を食べる習慣がないらしく、朝食の時のように騒がしくない。
 エヴァンはお腹に手を当てた。
「でも、ぼくたちはお腹が空きましたよ。パヴェルさんとオニフスベも呼んで、本部でお昼を頂きましょう」
「そうしな。オレは倉、いや先に診療所の様子を見に行くか」
 小屋の前でタ・ロウと別れた四人は、まずパヴェルたちを呼びに行くことにした。

●治療所、もしくは診療所
「いったいどっちなんだろうねぇ。こういうことはきちんとしてくれなきゃ。いや、別におじさんは困らないけど」
 ディレイン・オールドケイジは体を伸ばすと、腰に手をやった。畑に入る前に準備体操をしているのだが、普段からなれない畑仕事は体に堪えるようだ。
「……ははっ、大変そーじゃなくて、大変だったなぁ」
 ぽん、ぽん、と腰を叩く。
「もうひと頑張りするかね。全部抜いてしまおう」
 前回、巨大な虫にここが襲撃されたとき、幸いにも畑に被害は出なかった。虫たちの目当ては、ただれたまま一向に直らない火傷を治すための薬草だったのだろうか。
 次にまた、襲撃を受けた時は畑が無事である保証はない。だったら、いまのうちに収穫できるものは全部取ってしまい、倉で保管するのが一番いいだろう。
 今夜のご馳走に、ここでとれた野菜が使われるが、全部は使いきれないはずだ。
(それにしても、あの火傷……誰に、どうやってつけられたんだろうねぇ。だいたい察しはついているけど)
 タマネギを引っこ抜いていると、顔に影がかかった。すぐ横に人の気配を感じるが、面倒くさくて顔を上げなかった。
「種類ごとにまとめて山作っとくから、適当に運んでってよ」
「断る。こういう時には自分をジジイ扱いしていいってことしているんだ。悪いな、他をあたりな」
 そろりと目を横へ流すと、大樹海に相応しくないウイングチップの先が見えた。ピカピカに磨き上げられている。
 ブラックデスの幹部、タ・ロウが立っていた。
 ディレインは土を投げてつけてやりたくなった。もちろん、やらないが。
「随分、小さいな」
「小さくても美味しいよ。きっと」
 タマネギは本来、冷涼な気候を好む植物だ。南方のジャングルの中に、自然に生えることはない。ここにタマネギを植えた人物は、ここまで育てるのにかなり苦労しただろう。人の苦労も知らないで、小さいと文句をつけるのはいかがなものか?
「長時間かがんで腰やっても大変なんで、ちょっと休憩するよ」
 ディレインは一定時間ごとに休憩兼ねて、治療所内の薬品を確認し、保管記録の数とあっているか調べていた。
「ここにあるのって、俺たちが荷車で頑張って運んだのも含まれてるんでしょ? なんだか感慨深いよねえ」
 なぜか一緒についてきたタ・ロウに話しかける。
「そうだろうな。よくは知らんが。いまもゴールディから有志の商人が薬やら食料やらを馬車に積んで向かっているって話だ。薬が届いたら仕分けてなおしてくれ。イーヤ・レプリスにも頼んでおくからよ」
「はいはい。ブラックデスは人使いが荒いねぇ」

 診察所に入ると、アルマ・ヴァレンタインが、指をあやまって金づちで叩いてしまったヴァイオレットレオンの指に添え木をあて、包帯を巻いていた。
「ほい。これでOK。念のために包帯も巻いたけど、回復魔法でほとんど直っているからね」
 フォークもちゃんと持てるからご飯も食べられるよ、とアルマは満面の笑みで若者を送り出した。
「ん~、どうしたの? どこか怪我でもしたのかな?」
「ああ、そうだ。腰痛や筋肉痛に効く薬草、余裕あったら分けてもらえないかなあ。この年になるとね……」
「いいよ。でもその前に診察をしなきゃ。はい、そこに横になってください」
 診察なんかしなくても、と腰が引けたディレインの腕をとり、有無を言わせず診察台に寝かせる。
「はい、リラックスして。ちょっとくすぐったいですよ~」
「え、待って。ねえ、ちょっとま――」
 タ・ロウは、アルマに全身こちょこちょされて身もだえするおじさんを、ニヤニヤ笑いながら見守った。
「こりゃなんとも可愛らしい女医さんだねぇ。時間があればオレも見てもらおうか」
 じゃあ、代わってよ、という叫び声を無視して、タ・ロウは診療所の外に出た。
 ちょうどイーヤがエルシー・サリバンと一緒に戻ってきたところだった。ふたりは保存する野菜を、無事だった倉に運んでいたのだ。
「あら、タ・ロウさん。こんにちは」
 おっとりと頭を下げるイーヤの横で、栗鼠のティムを肩に乗せたエルシーが元気に腕をあげる。
「こんにちは、タ・ロウさん! 作業がちゃんと進んでいるか、見回りですか?」
「まあ、そんなところだ。オレだけ仕事しないでいるわけにはいかねぇからな」
 診察台の上でのびている誰かさんが聞いていたら怒りだすであろう発言である。……と思っていたら、診療所からアルマがテケテケと歩きでてきて一言。
「だったらタマネギを運んでくれ、と患者さんが息も絶え絶えに言ったのだよ」
「そいつぁオレの仕事じゃねぇ。人にはそれぞれ役割ってのがあるんだ。なあ、アンタたちもそう思うだろう?」
「なんのことだかよく分かりませんが、そういうことにしておきましょう」
 うふふ、あはは、と明るい笑い声がタマネギの畝にしばらく響き渡った。エルシーの肩でティムがぴょんと跳んで一回転する。
「ずいぶん賑やかだな」
 御世話係に野菜を届けに行っていたスヴァン=ウォルフ=ユーウェンが、木箱を持ってもどってきた。
 朝一度、エルシーがソラマメとジャガイモを少し持っていったので、二回目の収穫物である重いキャベツと残りのジャガイモをスヴァンが運んだのだ。
 ちなみに、朝一回目に倉へ野菜を持っていったのはアルマである。
「ついでに本部へ行って、昼メシを取ってきた。飲み物は治療所の中にもあったよな」
「あ、それ。ボク、気になっていたんだけど、ここは診療所? 治療所? どっちなのかな?」
 配られた前線キャンプのマップに書かれている名称と、作業指示書に書かれている名称が違っていた。
 タ・ロウがアルマの差し出した二枚を、怪訝な顔で見比べる。
「いい加減な仕事をした奴がいるな。これを作ったのは……ソウスケのやつか。バカ野郎め。後で叱っておく」
「ねえねえ、それよりスヴァンさん。お世話係の人たち、夜は何を作るか言ってた?」
 エルシーが、ひょい、とスヴァンが両手で持つ木箱の中を覗き込む。
 木箱のなかには、紙に包まれたパンとチーズが入っていた。
「カレーと、あと何を作るっていってたかな。すまん、忘れた」
「ううん、全然……。そうか、カレーか。うちは兄弟が多いからよく作ったなぁ。スパイスがきいたやつ」
「そうなのか。エルシーは何人兄弟なんだ?」
「弟妹が12人でね、みんな可愛いんだよ~」
 いきなりスヴァンが、ぅあー、と奇声を発した。
「ど、どうしたの」 
「おい、尻尾は触るな。やめろ」
 ティムが枝を駆けるように、モフモフの尻尾の上を行ったり来たりしていた。

 診療所、もしくは治療所の水瓶から水を汲みだし、畑仕事でよごれた手を洗った。青空の下、みんなで昼食を取る。
「いただきます!」
 ちょうどその時、大樹海で新素材の『母蜘蛛の糸』をとってきたグループが戻ってきたので、タ・ロウは彼らと一緒に倉へ行った。
 薬の在庫チェックと棚の整頓を、タ・ロウから頼まれたイーヤが立ちあがる。
「そういえば、ここに来てからまだ一度も、例の恐ろしい鳴き声を聞いていませんわね」
「あ、ほんとうだねぇ」
 小鳥たちにパン屑を撒いてやりながらディレインがいう。
「おかけで危険なクリーパーも手負いの原生生物も来ないから、平和でいいねぇ」
「しかし、聞こえないならないで不安になるな。何も起こらなければいいが」
 エルシーが勢いよく立ち上がり、パンパンと手を叩いた。
「考えていてもしょうがないよ。はい、休憩終了。どんどん働くよ!」
 腕まくりをするエルシーに、イーヤが声をかける。
「サリバンさんは、わたしを手伝っていただけませんか? 畑仕事は男性お二人に任せて、ヴァレンタインさんも」
「じゃあ、ぼくはまた襲撃があるかもなので、貴重な薬草類をしまっておける頑丈な棚とか、いざという時に持ち運びやすいキャリーケースみたいなのでも作くろうかなあ」
「お願いしますわ。では取りかかりましょう。夕飯までには終わらせてしまいたいですわね」
「ゴブリナ草は中毒性あるから、個別に監視強めで保管してもいいかもね」、と中の仕事を手伝おうとしたおじさんを、イーヤは「手は足りていますわ」と入口でやんわり畑の方へ押し戻した。
 スヴァンが笑い出しそうになるのを堪えながら、ディレインに鍬(スキ)を差し出す。
「どっちが多くジャガイモを掘り起こせるか、勝負しよう」
 精一杯、真面目な顔を繕ったつもりだったのだが……。
 耳と尻尾は嘘がつけない。
 目の前のディレインが憮然としていた。

●倉
「またここですか、今回は生き埋めは勘弁ですね」
 全倒壊している倉の修繕担当者たちの仕事は、これ以上はないというぐらいうんざりした顔の、キーゼの一言から始まった。
 目を閉じれば、必死になって地下から這い出た時のことがありありと思い出される。そういえばあの老人、今頃どうしているのだろうか。
 他の場所はある程度、前線キャンプ解放とともに投入されたブラックデスたちによって片づけられていたのだが、ここだけは全くの手つかずで、キーゼたちが脱出したあの日のまま残されている。
 他にここの担当となった者たちも、ただもう呆然自失、どこから手をつけていいのやら、と途方に暮れていた。
 朝食の時、あんなに賑やかだったグランドも、すっかり静まっている。時々、争うような物音が聞こえてくるが、白いゴリラがすぐに仲裁に入って大事にはならないようだった。
 どのぐらいたっただろう。
「まずは廃材を片付けないことには先に進みませんわね」
 ネーヴェ・グラヌローザが、ともかくなんとかしなければと気力を振り絞り、みんなを励ます。
「皆様、きっと今日中に片付けられますわ。協力しあいましよう。キーゼさん、ご指示を」
 いきなり現場リーダーになってくれと請われて、キーゼは驚いた。他のみんなは、と見まわしてみれば、全員、すでに指示待ちの顔になっている。
 考えてみればそれも道理か。なんといっても倉の屋根が落ちた時、他の仲間や古ゴブリンと一緒に、地下室にとじこめられた当事者なのだから。
「ではまず、瓦礫の撤去と清掃、内部を整えることを優先して仕事を進めていきましょう」
 キーゼはコルネリウス・アーラたちに細かく指示を出すと、口と鼻を布で覆い、暗い穴のような脱出口から地下の様子を調べることにした。エンライトで灯りを作ると、脱出口から体を入れる。
 自分たちが命を繋いだ小さな空間の周りで梁や柱が複雑に絡み合い、絶妙なバランスを保って完全に埋まるのを防いでいた。
(やはり、順番に屋根から取り除いていかなければ何もできないようですね)
 ふう、と息を吐いてから、キーゼは地上に戻った。

 コルネリウスはナハシュとともに、新しい建材を調達。倉に近いグランドの一角を資材置き場として確保することになった。同時に、リサイクル可能な廃材の仕分けも請け負う。
「誰かがきちんと管理しないと、進むものも進みませんから」
 資材置き場の確保は、交渉をブラックデスともヴァイオレットレオンともに顔が聞くナハシュがやることになった。
 ナハシュはゴールディに流れ着いたあと、暫く中規模犯罪組織に身を置いていた。どうやら前線キャンプに知った顔がいたらしい。任せろ、というのでお願いした。
 すでに作業は始まっており、続々とコルネリウスのところへ瓦礫が運ばれてくる。一見、使えなさそうなガラクタにしかならないものでも、よくよく見れば何かしら使い道があるものだ。
「どうしても使えないものは大きさを揃えて薪にしてしまいましょう。夜、グランドでキャンプファイヤーをするようですし」
 よし、と自分で自分に気合を入れると、コルネリウスは腕まくりをした。夜にご馳走が食べられることを期待して。
 ふと無事に残っていた倉のほうを見ると、診療所の畑で採れた野菜が運び込まれているところだった。夜の食材はあれとは別に、お世話係に渡されているはずだ。
「新鮮な野菜って貴重ですよね。あれ、お肉はどこで解体しているんでしょう。まったく血の臭いがしませんけど」
 そう思いながら野菜が運び込まれていくのを見ていると、代わりに板に乗せられた白くて大きな塊が蔵の中から出て来た。
 ブラックデスだろうか。四人がかりでグランドへ運んで行く。
(あ、ロングホーンのお肉を塩づけして保存していたんですね。なるほど)
 野生生物やクリーパーを呼び寄せないための配慮だろう。
 昼過ぎには別の冒険者たちが、大樹海で採れた新素材をもって帰ってくることになっている。それまでにはせめて、崩れた屋根だけでも片づけてしまわねば。
「早く立てなおさないと、ですね」

 ネーヴェは、大きな屋根板を引っこ抜こうとして抜けず、尻もちをついた。黒猫のアーテルが心配そうに、ニャンと細い鳴き声をあげる。
「心配してくれてありがとう、アーテル。危ないから、離れていてね」
 支給された分厚い手袋をしっかりとはめ直す。サイズが大きいので、油断していると、木のささくれなどにひっかけて脱げてしまうことが多かった。
 いっそのこと手首のあたりを紐で結んでしまおうかしら。そんなことをぼんやり考えつつ、さっきの屋根板に手を伸ばす。
 あ、っと声が出た。
 後ろから逞しい腕が伸びてきて、ネーヴェが掴もうとしていた屋根板を軽々と引っこ抜いたのだ。
 屋根板が抜かれてできた隙間に、別の割れた屋根板が音をたてて滑り込む。
 大きな音だった。驚いたアーテルが、黒い尻尾をピンとたてて跳びさがった。ほんのちょっぴり、崩れた屋根全体が横へ流れた感じがする。
「……力仕事をこなせるやつが必要ということで呼ばれた。任せてくれ」
 振り返ると、エル=バ=ノイアンがむっつりとした顔で立っていた。少々パサついている長い黒髪を、後ろで束ねている。目の下のクマが怖い。
「ありがとうございます」
「……別に。仕事だから」
 腰に片手斧をぶら下げた偉丈夫は、すっとネーヴェの前に出ると、黙々と屋根をどかし始めた。大きくて重いものは片手斧で割って小さくし、後ろに回す。
 ネーヴェはノイアンからそれを受け取り、運ぶ。
「待て、その廃材……錆釘が出ている。俺が運ぼう」
 端材を纏めて抱え、コルネリウスのところへ運んで行く背にネーヴェは微笑んだ。
(ノイアン様って見た目は怖い人ですけど、本当はとってもお優しい方なのですね)
 アーテルがやって来て、ネーヴェの足の間を8の字に抜けながら、体を擦りつける。構ってくれ、遊んでくれ、と言っているのだ。
「たくさん働きましたので、お腹が空きましたね。お昼にいたしましょう」
 戻ってきたノイアンと話をして、本部にみんなの分の食事も一緒に取りに行くことにした。

 みんなで輪になって座り、パンとチーズの簡単な昼食を取る。話題は自然と、キーゼたちが倉の地下室にとじこめられたときのことになった。
「――というわけで、無事に出ることができました」
 脱出時に作った穴はそのまま塞がらずに残っているが、キーゼはそこから地下に降りようとは思わない。
「完全に屋根を撤去してから出なければ、安全を確保できませんから」
「それもそうだな」
 ノイアンが立ちあがると、ほかのみんなも立ちあがった。
「……あと少しだ。頑張ろう」
「そうですね。屋根が撤去されたら、僕が地盤のゆるみをしっかりと確認してから、地下室におりてもらいます。そのあと、僕は本部に戻って新しく立てる倉の図面を引いてきます」
 キーゼは上部が崩れても階段が埋まらぬよう囲いを配置、また地下から開けられる換気口も計画しているという。
「教訓とは活かして、ですよ。前回のような幸運は二度も無いでしょうし」
 手袋をはめながら、ネーヴェがいう。
「そういえば、その時怪我をした古ゴブリン様たちは、いまもここにいらっしゃるのでしょうか?」
 キーゼは首を横に振った。
「キャンプ解放時に身柄を押さえた古ゴブリンたちは、全員、ゴールディに送りました。彼らがまだ、メドゥの指先に与えられた毒林檎の影響が強く残っている状態で。キャンプで古ゴブリンたちを保護することになったのは、その時の古ゴブリンたちが暴れて手がつけられなかったからと聞きいています」
 作業を再開した。
 本部に図面を引きにいったキーゼの代わりに、ノイアンが現場の指揮をとる。
「その床はまだ応急処置をしているだけだ、抜けるかもしれない。気をつけろ」
 屋根の瓦礫をどかせてみると、床板の大部分が痛んでいた。特に階段付近はひどい。壁を崩さないように気をつけながら降りて行く。
 地下には奇跡的に、使えるものが残っていた。
「必要なのは野菜と小麦粉か。それならそっちの袋の中だ」
 ノイアンはコルネリウスとともに、一階の床に開いた穴に応急処置を施しながら、夕食の材料を取りに来たお世話係にテキパキと場所を教える。
 時にはネーヴェがお世話係を手伝って、運搬を手伝うこともあった。
 地下室を片づけ終えたころ、キーゼが丸めた図面を脇に抱え、掘削道具を運ぶナハシュと一緒に戻ってきた。
「そろそろ暗くなりますので、倉の建て直しは明日にしましょう。きょうは地下の階段口に鍵のついた扉を作って、作業を終えたいと思います」
 うーん、と伸びをしたネーヴェの足の横を、小さな影がものすごいスピードで駆けていった。悲鳴を飲み込み、振り返ってみると、アーテルが前足でネズミを押さえていた。
「え、どこにいたんだ」、とノイアン。
「油断も隙もあったものではありませんね。ハーブを使った忌避剤を置きましょうか――?!!」
 ネズミたちが大量に地上へ走りでてきた直後、地中から低くとどろく、大樹海そのものを包み込んでしまうような轟音がした。それはまるで、大地や空やあらゆる事物の核から発せられたようでもあり、この世に存在しない物質が声を得て不平不満をぶちまけているかのようにも聞こえた。
「これは……。今まで聞いたどの鳴き声よりも、大きくて恐ろしい」
 しばらくの間、前線キャンプは静寂に包まれた。

●グランド
 話はその日初めての、恐ろしい鳴き声が聞こえる数時間前に戻る。

「古ゴブリンさん達に美味しい物食べて貰って、元気になって欲しいな」
 エルゼリオ・レイノーラは夕飯の支度をするために、水瓶を抱えて井戸へ水を汲みに向かった。愛らしい風貌に似つかわしくない、眉間に皺を作って。
 前線キャンプにある唯一の井戸はとても深く、桶一杯の水をくみ上げるだけでもかなり疲れるで、とエルゼリオはラズリーから脅されていた。
 だけど、とエルゼリオは思う。問題はそこじゃない。襲撃を受けた後でも、井戸水が料理にも使えるかどうかだ。これでも男だ、水汲みぐらい一人でできる。
(……楽勝だよ、って思っていたけど。えー、なにこれ、すっごく大変)
 一人で手繰り寄せる桶が、やたらと重たい。ようやく井戸から引き上げたばかりの桶を覗き込んでみると、そこには白い液体が入ったガラス瓶が入っていた。どうりで重いはずだ。
(でも、なんだろう、これ?)
 つめたい井戸水に手を入れて、瓶をひとつ取りだしてみる。コルク栓を抜いて鼻を近づけた。
「もしかして牛乳?!」
「どれどれ、私に見せてみるのだ」
 いつのまにかストレガ・L・リベルガストラが後ろに立っていた。
 驚きを飲み込んで、どうぞ、とストレガに詮を抜いた瓶を渡す。
「………………」
「どう?」
「うむ。濃くて野性味あふれる牛乳なのだ。これでバターが作れるのだ! ホクホクあつあつのポテトにつけて食べると美味しいのだ。そうだ、エルゼリオ殿」
 エルゼリオは牛乳瓶を取りだすと、空になった桶を井戸の底へ落とした。
「なにかな、ストレガさん」
「カレーを作るそうだな。ナンも作るのであれば、バターが必要であろう」
 あっ、と小さく声をあげる。
 ナンは初めから作るつもりだったが、バターのことをうっかり忘れていた。
 ストレガがにやりと笑う。
「水を汲み終わったら、バターを一緒に作るのだ。つくりかたは私が横で教える」
 どうやら拒否権はないようだ。ストレガの中ではすでに決定事項らしい。
 いいよ、と力の抜けた声で言って、エルゼリオは桶を引き上げた。今度はさっきよりも軽い。半分の時間で桶を井戸から出せた。
「とてもきれいな水だよ」
 桶を傾けて、手で水を受ける。ひと口のんで、ため息のような声がでた。
 水は清く冷たく、町にあるどの井戸水と比べても遜色ないばかりか、断然トップとは言わぬまでも美味しい。素晴らしい水だ。
「そうだ。水をオープンキッチンまで運んだら、バターを作る前に調味料を本部の食堂へ取りに行ってもいいかな?」
「調味料なら、さっきシルヴィア殿が取りに行ったのだ」
 丁度その時、本部からシルヴィア・A・カペルの悲鳴が聞こえてきた。
「い、いまのは……」
「行ってみるのだ!」

 エルゼリオとストレガの二人が駆けつけてきたときにはもう、シルヴィアはショックから立ち直っていた。
「なんでもない。大丈夫だから、水汲みに戻って」
 不意を突かれて声をあげてしまったが、それはいまが平時であるからで。
(依頼を受けている最中なら引っ掛からなかったかな)
 井戸へ戻っていく二人を窓枠の中に見ながら、独りごちる。
 戦いを積み重ねて得た感が働いて直撃こそ免れたものの、迎撃用の吊り天井にはかなり驚かされた。
 そう、シルヴィアは本部の修繕を担当する者たちがドン・ゴーフルのために作った仕掛けにまんまと引っ掛かってしまったのだ。
「さ、気を取り直して。ソラマメのスープに必要な調味料と、あとはカレーと焼肉に必要なものを持っていこう。基本の塩と胡椒は……あるある」
 シルヴィアは先日、ノヴァーク伯爵家の厨房で習ったソラマメのスープを作ろうと思っていた。大きめに切った野菜をゴロゴロ入れて、古ゴブリンたちにとっても食べ応えがあるようにする。
「あ、丁度いい深鍋みーつけた」
 これでブイヨンが作れる。野菜の皮や切れ端だけでなくロングホーンの骨や余った肉を、時間をかけてコトコト煮込もう。
 ほかに何かいいものがないか、と台所を隅々までチェックする。と、棚にオレンジが入った籠をみつけた。朝食で出されたオレンジジュースを作った残りだ。砂糖があれば、マーマレードが作れると思い、探してみたがどこにも見当たらない。蜂蜜もなかった。
 元々なかったのではなく、恐らく、超がつくほど甘いもの好きのドン・ゴーフルの目に触れないよう、タ・ロウがどこかに隠してしまったのだろう。
「残念。そういえば……タ・ロウ、甘い新素材が見つかったとか、今朝いっていたような……」
 それはこのほど大樹海の北西部で発見された『甘露アリの蜜』のことだろう。
 シルヴィアは無事だったほうの倉の地下室に、保管してあるとタ・ロウが言っていたことを思い出した。
「よし。エルゼリオのために取りに行きますか」
 なぜエルゼリオのためなのか。カレーの隠し味にちょっぴり加えると味に深みと風味がまして美味しくなるからだ。肉を柔らかくするのにも使えるから、ストレガにも喜んでもらえるだろう。
 シルヴィアは調味料を詰め込んだ籠を腕に下げ、倉へ向かった。

 大多数の古ゴブリンたちがお昼寝をするグランドに、ノコギリやトンカチの音が響いている。
 シファー・アルムグニーは怯える三毛猫のサファーを膝に抱いて、起きている若い古ゴブリンたちとのお喋りを楽しんでいた。楽しんでいるのはシファーだけかもしれないが。
 というのも、シファーは古ゴブリンたちの言葉を喋れないし、理解もできないからだ。
「そこは以心伝心。気合でカバーするんだギャ!」
 古ゴブリンたちの関心と視線が、サファーに集中していることにシファーは気づいていない。
「気合でカバーしたら以心伝心じゃねーだろ……てか、おいシファー。サボってないで手伝え!」
 涙目のアルフィー・リッパーが、オープンキッチンの平台から、シファーに包丁がわりのナイフを向ける。
 アルフィーがいま切っているのは、診療所の畑で収穫されたばかりのタマネギだ。
「アギャ?」
「アギャ、じゃねーよ。野菜炒めはオマエの担当だろう? あ、いいや。切らなくていい、俺が準備しておいてやる。かわりに倉にニンジンを取りに行ってくれ」
「しょうがないギャね」
 立ち上がろうとした瞬間、サファーはシファーの膝の上から猛ダッシュで逃げ出した。
 平台の下に駆けこんで、アルフィーの足の間でうずくまる。
「サファー、どうしたんだギャ?」
「いいから早くいってこいって」
 アルフィーはタマネギを刻んだ手で目をこすってしまい、ぎゃっ、と悲鳴をあげた。
 シファーと喋っていた(かどうかはわからない)古ゴブリンたちが、心底面白そうに肩をゆすり、腹を抱えて、笑い声をあげる。
(ちくしょう……古ゴブの奴らに恩を売っておいても悪くないな、なんか有益な情報をもらえるかもしれないな、なんて考えた俺がバカでした。みてろ。メチャメチャ美味しいものを作って食べさせてやるぜ。絶対、ありがとう、さっきは笑ってゴメンナサイって言わせてやるからな!)
 こうして闘志を燃やしたアルフィーは、高速でタマネギを切り刻んだ。
「すごい、すごい。アルフィーもやればできる子なのだギャア。じゃあ、ニンジンを取りにいくとするギャか」
 ちょうど、本部から出てきたシルヴィアが倉に向かっている。シファーはシルヴィアに同行することにした。
「シファーはニンジンを取りにいくギャ。シルヴィアは何を取りに行くギャ?」
「『甘露アリの蜜』をね。マーマレードを作ろうと思って」
「なにそれ。ドン・ゴーフルが好きそうな名前だギャー。あげると喜びそうだギャ」
 シファーはニンジンを『甘露アリの蜜』で煮て甘くしたものを、ドン・ゴーフルにために作ろうと思った。
「シファーも少し分けてもらうギャ」
 倉に行くとタ・ロウがいたので、扉の鍵を開けてもらい中に入った。
「おい、料理に使うのは構わねぇが、くれぐれもドンにそのまんま渡すんじゃねーぞ。サチコっていうおっかねぇゴブリナに、地の果てまで追いかけ回されるからな」
 シファーは愛らしく笑うことでタ・ロウの気を削ぎ、誤魔化した。ちょっとだけなら、とドン・ゴーフルに食べさせるつもりだったのだ。
 アルフィーに頼まれたニンジンは、一階にあった。『甘露アリの蜜』はシルヴィアが地下に取りにいった。
 無事だった倉は、いまシファーたちがいる倉のほかにもう一つあった。前線キャンプには三つの倉が立っていたが、うち一つは白い蛇につぶされている。
 オープンキッチンに戻ろうとしたとき、もう一つの倉から戸板に乗せられた白くて大きな塊が運び出されるのが見えた。
「塩漬けにして保管されたロングホーンの肉だ。いまから出して塩抜きしねぇと料理に仕えねぇだろ」

 陽が暮れて、大樹海が藍色に沈んでいく。
 グランドの中央で端材を使ったキャンプファイヤーが焚かれ、お世話係の面々は、夕飯の支度を急ピッチで進めていた。古ゴブリンたちの分だけでなく、前線キャンプで働いている全員分の食事を作らなくてはならないからだ。
「急ぐのだ! みんな腹ペコなのだ!!」
 塩抜きした肉に香草を挟んで焼きながら、ストレガがお世話係たちに檄を飛ばす。
 あおるように古ゴブリンたちも手や足を鳴らす。
 エルゼリオはカレー鍋をかき交ぜる。すでにソラマメのスープを作り終えたシルヴィアは、焼いたナンにバターを塗っている。塗り終えたら……数が多いのでいつになるかわからないが、古ゴブリンたちと一緒にソラマメのスープを食べるつもりだ。毒見というわけではないが、目の前で食べてあげれば彼らも安心するだろう。
 傍らではご飯を炊く鍋が勢いよく蒸気を吹いていた。
 シファーとアルフィーの二人は……。
「ふんふん、アレをこうしてこうだギャね! こんなのちょちょいのちょ……んギャアア! こ、焦げた……。シ、シファーと同じ色のお肉だギャ(はぁと)」
「おまっ、何が自分と同じ色だ!」
 アルフィーは、ふしゃー、と頭から湯気をあげた。
 それを見ていた古ゴブリンたちの間で笑いが起こる。美味しい匂いで幸せな気分になっているのか、古ゴブリンたちの顔には凶暴性の欠片も見当たらない。
 アルフィーは内心で、してやったり顔になった。口の端がゆるゆるとほころんでいく。
 シファーが横から顔を覗き込んできたので、あわててぶすっとした顔に戻した。
「あーあ。どうするんだよ、ったく……。味付けで誤魔化せるか……いや、これは俺たちが食べる分にするか」
「そうするギャ……ごめんギャ」
「でも頑張ったな……あとは……古ゴブリンたちが美味しく食べてくれるのを祈ろうぜ」
「ご飯食べてる時にこみゅにけーしょん取るギャ? 一緒にご飯食べるとより美味しくなるものだもんギャね! いっぱい食べて毒をひり出すんギャよ!」
「ひり……って、おま……」
 いま調理中、といいながら、アルフィーはフライパンの肉をひっくり返す。
 いい焼き目がついていた。
「シファーが言う通り、毒の中和にも効くならなんか美味いもんでも作って食べながら話すか」
 その時――。
 大樹海の木々を根から震わせる恐ろしい鳴き声が、南の方から聞こえて来た。ワンワンと耳に痛いほどの残響をのこし、鳴き声は闇に溶けていった。
 しばらくの間、オープンキッチンの周りは肉や野菜が焼ける音と、ご飯の鍋が噴きこぼれる音だけになった。
「い、いまの鳴き声は何なのだ?」
「原生動物やクリーパーが北上する原因。彼らが恐れる何か……じゃないかなぁ」
 畑仕事と備品点検を終えたディレインたちがやってきていた。本部や倉、小屋からもテテリカたちが集まってくる。
 グランドに楽しい雰囲気が戻りつつあった。
「何かとは何なのだ?」
 ストレガは、香草焼の肉の横にバターを添えたポテトを置いた。
「しーらない。おじさんいっぱい頑張ったから、ご褒美ほしいなあー」
 どうぞ、と横からエルゼリオが空の皿を差し出す。
「取り敢えず、ボクのメニューはこんなカンジ! 魔物ロングホーンの肉のビーフカレーだよ。白いご飯とナン、どっちがいい?」
 さらに反対側からはシルヴィアが。
「ソラマメのスープも召し上がれ」

●
「おう、ご苦労さん」
 タ・ロウは自分の横を叩いて、ナハティガルに座れと促した。
 オゴスとギャメルにナハティガルはどこやと聞くラズリーの声が、喧騒の中で微かに聞こえる。
「男前はつれぇな」
「一日中追いかけ回されていたわけではない。彼女もちゃんと仕事をしていたよ」
 どうだか、とタ・ロウは肩をすくめた。
「それよりも答えを聞こう。古ゴブリンはドンやゴールディを憎んでいるのか?」
 否。と短く、強い返事。
「それはオメェの方がよく分かってンじゃねぇのか。実際に何度も兄弟たちと戦ったオマエたちのほうが」
「……やはり操られているだけなのか。では、白蛇とは一体何なんだ?」
「歴史を学べ、若者よ。てか、爺さん婆さんからなにも聞かされちゃいねぇのか。大脱出以前の、ゴブリンの物語をよ。ドン・ゴーフルの大脱出、本にもなっているだろう?」
 タ・ロウは葉巻に火をつけた。
「あとは直接ドンに聞け」
 葉巻を口の端に加えたまま、くいっとアゴを動かして、キャンプファイヤーの向こうを指した。
 ギャー、ギャー、とシファーの歓喜に満ちた声が上がる。
 ドン・ゴーフルが前線キャンプにやって来たのだ。
 かつて袂を分かった兄弟たちと対話するため。そして、大樹海で起こっている異変に対処するために。
 
 前線キャンプを囲む木々は黒々とした影に包まれ、恐れを抱いて沈黙する。

マスターコメント

大変お待たせいたしました。 みなさんのおかけ気で前線キャンプは元通り……いえ、パワーアップしました! 古ゴブリンたちも美味しいものをたらふく食べられて満足。 毒林檎よりもずっとずっと美味しいものがあることを再認識した模様。 回復も早まったようですよ。 ご参加ありがとうございました。
イベントシナリオ(50人)

イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準26 / 5〜50人

2021年04月29日 19時04分33秒 公開

成功

相談掲示板

  1. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。よろしく頼むよ。 【お世話】で古ゴブリン達の介抱をする予定だ。豆と野菜のスープを作りたいな。野菜の皮や切れ端、ロングホーンの肉も使ってブイヨンに出来たら。

  2. ストレガ・L・リベルガストラ

    ストレガなのだ。よろしくなのだ・ 私も【お世話】のほうで調理するのだ。薬草香草詰めた肉塊でも。

  3. ギャメル

    ギャメルだぜ! みんな、よろしくな! オレ、ドン・ゴーフルが快適に過ごせるように【本部】をキレイにしときてぇな。

  4. テテリカ

    俺はテテリカ。シューターだ。よろしく頼む。 【小屋】を直しにいく。

  5. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 【本部】を整えに行こうと思います。

  6. アルマ・ヴァレンタイン

    アルマだよ、どーぞよろしく。 【治療所】のほうに行こうかなと思ってるよ。

  7. シャロン・ラ・モリエール

    シャロンです! 私はいまのところ【本部】で検討中です。

  8. ディレイン・オールドケイジ

    ディレインだ、よろしく。 治療所を見に行くつもりだよ。

  9. エルゼリオ・レイノーラ

    エルゼリオ・レイノーラだよ。今回は宜しくね! ボクは【お世話】の方に行こうかな? って思ってる。

  10. キーゼ

    さて、よろしくお願いします。 崩れた際に現場にいましたからね。 【倉】に行きましょう。元通りは無理でも、最低限機能としては復旧させたいですし

  11. コルネリウス・アーラ

    コルネリウスです、よろしくお願いします。 手も必要でしょうし、【倉】の建て直しに回ろうと思います。

  12. ネーヴェ・グラヌローザ

    ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 私も特に人手の多く必要な場所のひとつと思われる【倉】に回りたく存じます。 力仕事はそれほど得意という訳では御座いませんが、釘を打ち付けたり廃材を運び出したりなど、何かしら出来ることを見つけて頑張りたいですわ。

  13. エルシー・サリバン

    エルシー・サリバンだよ。ヨロシクね。 担当を纏めたので間違ってたら直して欲しいよ。 私は…うーん…もう少し考えるね。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン 【小屋】 テテリカ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル

  14. ロイ・アウレア

    ロイ・アウレアです。 【小屋】…一択、よろしくお願いします。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル

  15. シファー・アルムグニー

    んギャ~! シファーだギャ! 古ゴブとっても気になるので【お世話】しに行くギャ! お世話できるかって? ……う~ん…… …………うう~ん………… なるように! なるギャ!

  16. エヴァン・ピオネロ

    エヴァン・ピオネロです。【小屋】が少ないので…行きますねー! 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー

  17. エルシー・サリバン

    【治療所】に決めたよ。 収穫した野菜を【お世話】に届けたり いつ襲われるか判らないって事だから、薬を持ち出し易くリスト化してケースに詰めたりするね。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー

  18. エル=バ=ノイアン

    (「'ω')「 スッ (_'ω')_ バァン 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー

  19. アルフィー・リッパー

    【お世話】 とりあえずなんか美味いもんでも作ってやるぜ 肉食えば元気になるだろ

  20. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアーのケンだ よろしくな・・・そうだなぁ取りあえず俺は【本部】にまわろう 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー

  21. パヴェル・A・サムルガチェフ

    ん。キャスターのパヴェルだ。よろしく頼むぜ。 知り合いもいるようだし【倉】に向かうぜ。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン パヴェル・A・サムルガチェフ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー

  22. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    ウォーリアのスヴァンだ。【治療所】に行くとしよう。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン スヴァン=ウォルフ=ユーウェン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン パヴェル・A・サムルガチェフ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー アルフィー・リッパー

  23. オゴス

    オゴスです。皆様、どうぞよろしく。 俺は【本部】にいきますね。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー オゴス 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン スヴァン=ウォルフ=ユーウェン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン パヴェル・A・サムルガチェフ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー アルフィー・リッパー

  24. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 俺も【本部】に行こうと思う。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー オゴス ナハティガル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン スヴァン=ウォルフ=ユーウェン 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン パヴェル・A・サムルガチェフ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー アルフィー・リッパー

  25. イーヤ・レプリス

    イーヤよ、よろしく。 出発間際に失礼するわね。 【診療所】に行くわ。 【本部】 シャロン・ラ・モリエール(検討中) スィーリーン ギャメル ケン・Z・ブラッドリー オゴス ナハティガル 【治療所】 ディレイン・オールドケイジ アルマ・ヴァレンタイン エルシー・サリバン スヴァン=ウォルフ=ユーウェン イーヤ・レプリス 【小屋】 テテリカ ロイ・アウレア エヴァン・ピオネロ 【倉】 ネーヴェ・グラヌローザ コルネリウス・アーラ キーゼ エル=バ=ノイアン パヴェル・A・サムルガチェフ 【お世話】 エルゼリオ・レイノーラ ストレガ・L・リベルガストラ シルヴィア・A・カペル シファー・アルムグニー アルフィー・リッパー

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0