桜風に憩う

崎田航輝

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シナリオID:706

オープニング

 瓦屋根の家並みを抜けると、自然が美しい広場に辿り着く。
 この時期特に鮮やかに映えるのは、可憐な薄紅が花開き始めた――桜。並木となって、広場全体を清らかな色彩で飾り立てていた。

「今年も綺麗に咲き始めたなぁ」
 言って仰ぐのは、訪れた人々。今年も花見を楽しめる事に、皆が心踊らせていた。
 倭桜(わおう)ノ街――シャルガネの一角に位置するその地区は名に違わず、この季節になると道々で桜が開花を始める。
 その華やかさに、花のもとで宴を催す慣習もあり――毎年和やかに賑わうのが恒例となっていた。
 今年も勿論、広場で多くの人々が楽しんでいる。
 宴や鑑賞をして過ごすものばかりでなく、屋台を引いて商売するものや、大きな鍋を用意して料理を振る舞うもの……皆が春の訪れを祝うように。
 また桜は広場だけでなく街の各所にあり、どこを歩いても桜色を楽しむ事が出来る。少し歩き疲れたなら、食事処や甘味処に欠かないのもまたこの街のいい所。
「折角の桜の時期だ。もっと明るく――そしてもっと多くの人に、楽しんでもらいたいな」
 景色を眺めつつそう呟くのは、地区の長。
 この街が自分でも好きな彼は……思いと共に、歩き出していた。
 気兼ねなくここで時を過ごし、楽しんでくれて、そして魅力を広めてくれるかも知れない――そんな人達を招こうと思ったのだ。

 そうしてそれから長い時間も経たない頃。
 桜の香る街に招待されたのは、勿論――。

解説

●概要  シャルガネにある地区「倭桜ノ街」へ観光に招待されました。  街の中にて、お好きに過ごすことが出来ます。  時間帯、訪れる場所などは自由です。 ●倭桜ノ街について  シャルガネの端に近い位置に存在する地区。  東方風の色濃い街並みが特徴的。  今の時期は花見が催されていて、広場を中心に盛り上がっています。広場以外にも、町の各所に桜が植わっていて美しく咲き始めています。  長らく平和を保ってきた街だからか、雰囲気はやわらかで、おおらかな人々が多い印象です。また食事や土産物の店なども多く並んでいます。   ●立ち寄れる場所  街の中であれば自由ですが、以下に例を記載します。 1.桜広場  広い敷地に桜並木が連なっています。  遊歩道や、屋台や並んでいる場所、住民が料理を振る舞っている場所などがあります。  住民が作っている料理は東方風の煮物。参加して手伝ったり、別の料理を作ってみることも出来ます。  屋台は米菓や飴菓子、焼きトウモロコシなど。他、シャルガネにありそうな軽食なら見つかる可能性は高いです。 2.食事処  寿司や魚の定食、酒など東方風の食事が楽しめます。 3.甘味処  餡子を使った餅や団子、干菓子など、東方風の甘味が楽しめます。 4.神社  広場とは少し離れた位置にある神社です。  天下泰平の神が祀られており、参拝などをしていく事も出来ます。  おみくじやお守りなども売られています。 5.流鏑馬体験  鎧を着込み、馬に乗って的に矢を当てる儀式を体験出来ます。  馬と戯れるだけでも大丈夫なようです。 6.翠の園  広場と比較して静かめな公園です。  細い川が流れており、草花が茂っていて穏やかな景観が楽しめます。  野良猫や兎など、動物の姿が垣間見えることもあります。  夜間はそれぞれの場所で、灯籠などが点けられます。

マスターより

シャルガネの一地区に招かれての観光シナリオとなります。 街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。 やらなければならない行動などもありませんので、自由に過ごしてみて下さい。 また、同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名などを記載して頂けると助かります。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

「綺麗な桜並木だね」
 清らかな薄紅が、青空に映えている。
 そんな広場の景色をエルゼリオ・レイノーラは眺めていた。
「何か圧倒されちゃうな……」
「ええ」
 と、隣のノノアもまた並木に目を惹かれている。シャルガネは何度か訪れた事があるけれど、この街に来たのも桜を見るのも初めてで。
「これが桜なんですね」
「うん」
 応えるエルゼリオも、ここまで見事なものは初めてだ。その幻想的な光景に、心奪われないではいられない。
「ここに住む人達でさえ、景色に魅了される……その気持ちが判るね」
 見回せば、盛り上がる人々。屋台も見えてくるので、ノノアは興味を向けた。
「屋台、沢山あるみたいですね」
「折角だし寄っていこうよ!」
 というわけで二人で屋台へ。
「へ~。これが東方風の屋台なんだねぇ。スッゴクわくわくするよ!」
「甘い香りがします……あれは何でしょうか」
 見るとそれは綿菓子だ。
「美味しそう、買っていく?」
「ええ」
 更に近くから芳ばしい匂いがして……見ると、醤油を塗った焼きトウモロコシだ。
 それも買って、カステラを見つければそれも入手してつまみつつ。桜の下にシートを敷いて、共に腰かけた。
 そこで頂く東方の味は格別だ。
 風が吹けば、仄かに花も香って。
「こうやって桜の下に居ると、何故か世界と隔絶された様に気分になるね」
「そうですね」
 はむ、とトウモロコシを齧りながらノノアも頷く。
 花の嫋やかさが、全てを癒すような景色。
「此処だけ、別世界みたいで――大陸が未曾有の大異変に襲われているなんて嘘みたいだ」
 呟くエルゼリオは、しかし実際は明日すらどうなってるか分からないと知っている。
 ノノアもそれは同じ。
「わたし達がこの世界を守る事で来年もまた再びこの桜を見れるかもしれないですね」
「うん。そうだね」
 そうしたら、とエルゼリオは仰いで。
「来年もノノアさんとこうやって桜が見れると良いなぁ~……」
「ええ、また、見たいですね」
 そんな時が来ると良い。
 ノノアも思いながら言って――二人は立ち上がる。そうしてお土産に桜餅を買って、またゆるりと歩み出していった。

「他じゃ見られねぇ景色だな」
 ケン・Z・ブラッドリーは桜色の街並みを散策していた。
 瓦葺きに木造の引き戸、卯建。風情ある眺めに、自然と興味が向く。
 と――不意に、甘味屋から走ってきた男とぶつかる。
「いってぇなてめぇ、どこ見て……ん?」
 ケンは言おうとして――ふとその店に見知った顔を見つけた。
「シャロンじゃないか。こんなところでなにやって……」
 困った様子の彼女に、呟きかけてから――すぐ瞳を細める。
 それはとある違和感を覚えたからだった。
 ――時間はほんの僅かだけ遡る。
 シャロン・ラ・モリエールは店で団子を頂いていた。
 食感はもちもち、餡子も甘くて満足だった……けれどお会計が妙に高い。尋ねると店員は言った。
「お連れさんの分です。奢りだという話では……」
「連れ? そんな人いません!」
 シャロンは驚く。
 どうやら、相席の男に会計を押し付けられていたらしい。説明しても、男は出ていってしまったのでどうにもならなかった。
 そんな状況を――ケンはすぐに把握していたのだ。
「おい、兄ちゃん……なにか知ってるなお前」
 ケンの迫力に、その男は強くも出られない。一歩近づけば、「す、すみませんでした!」とすぐに跪いて白状していた。
 それからは“話し合い”。
「いやぁ、兄ちゃんごちそうになって悪いな」
「い、いえ……」
 諸々あって、場は丸く収まった。
 男が半泣きで去ってゆくと、シャロンはぺこりと頭を下げる。
「助かりました……」
「それじゃ、気を取り直してデートといこうか」
「はい……って? え? デート?」
 目を見開くシャロンの手を、ケンは握る。シャロンは最初は驚いたけれど……それでも素直についていった。
 建築を眺め、神社に立ち寄り、桜を楽しむ。
 シャルガネはケンの母の故郷でもある。それを伝えると、シャロンは頷いて表情を和らげ――花を仰いだ。
「私の武術のお師匠様も、こちらの出身だったんです」
「そうだったのか」
「ええ。会えるかなと思いましたけど、そう都合よくいきませんね。黒髪で強い人でしたよ。あと蛇が嫌いでした」
 そんな風に微笑みつつ……ゆっくりと会話。
 ケンも頷いて言葉を返し――暫し春の暖かさと共に、二人は緩やかな時間を過ごした。

 可憐な桜を眺めながら、カイン・ステラとヴィナスも広場を訪れていた。
 カインのお目当ては東方の料理だ。
 こんな機会だからと、煮物を始め、その玄妙な味わいの作り方を学ぼうという心持ち。出汁の取り方から、丁寧に眺めつつ。
「これ一つとっても、他にはないやり方だな――」
「お母さんは研究熱心だね」
 と、そんな姿にヴィナスは表情を和らげる。
 カインはちらりと向いた。
「かあちゃんじゃねえよ。……大体、ヴィナスの方が年上だろ」
 それには、ヴィナスはすぐに言葉を返さない。
 少なくとも、二人目の母より年下のカインの方が母親っぽいとヴィナスは思う。けれど冷遇されていた事なんて話せない。
 だから笑って流しつつ――聞けるレシピはメモして手伝った。
 味の確認はカイン。
 醤油や味醂で風味が豊かになるのを実感しつつ……隠し味の蜂蜜の効果も確かめて。
「こっちは、コメ料理か」
 土鍋で炊かれる筍ご飯や炊き込みご飯も、行程やその彩りをチェックした。
 その内に煮物も完成してくる。
 温かな湯気が上がって、ヴィナスも感心の声音だ。
「どれも、美味しそうだね」
「煮物って、少量作るよりは少し多めに作った方が美味しく作れそうな感じだな」
 それは現地の人々も肯定して……カインはふむと腕を組む。
「シェアハウスで作って皆に振舞うとかもいいかな。コメ料理もあればご馳走になるし。……何だよ」
 と、視線に気づき隣を見ると、ヴィナスはいや、と微笑み。
「話を聞いてるとさ。カインは発想がやっぱりお母さんだよね」
「……かあちゃんじゃねえよ」
 カインは少々不機嫌気味になるが……ヴィナスは付け加えた。
「あまり否定すると、カインがいた孤児院の子から母ちゃんいなくなっちゃうから、否定は程ほどにね」
「……」
 と、カインはそれには軽い吐息で応えて。
「作る時は手伝ってもらうんだから、しっかりメモしろよ」
「はいはい。兄貴分は弟分を甘やかすものですから。メモも手伝いもお安い御用」
 ヴィナスも慣れたように、作業を続けるのだった。

 ぽかぽかとした日差しが、白紅の花を優しく照らす。
 大きな野点傘のもと、朱の毛氈(もうせん)の敷かれた席では……桜と青空と、何とも心地良い陽気が味わえた。
 そんなゆるゆるとした空気の中――エルナ・クルプファルツはずず、とお茶をひと啜り。
「春ですねぇ~……」
「ええ。春ですねぇ~……」
 隣で応えるユークリア・フィナンシェもずずずず、とお茶をふた啜り。
 何か会話が交わされる訳でもない。のんびりと、緩みきった時間の中で……二人は只々ゆったりと寛いでいる。
 それを少し離れた位置から、キーゼは観察していた。
「……」
 甘酒を飲みつつ、改めて二人を眺める。
 エルナは桃の花の柄が可憐な和服。髪も今日は和風の飾りで留めていた。
 ユークリアも矢絣(やがすり)が趣深い和装で、髪には簪(かんざし)を挿している。
 そんな様相は目を惹くものだったが……顔を見ると二人共、シンプルな二重線みたいに目を細めていて……口はぽぇ~と開いた逆三角。
 エルナはまったりと問いかける。
「春と言えばなんでしたかねぇ~……」
「春と言えばあれですねぇ~……」
 ユークリアは桜を見上げたまま応えた。
「あれって言うと何かありそうなんですけれどねぇ~……」
「……」
 ――のどか過ぎて脳がツルツルになっている。
 キーゼはまた一口、甘酒を飲みつつ……陽気にあてられた二人の会話が怪しくなってゆく様を、まざまざと目の当たりにしていた。
「キーゼさんや……春って何でしょうね~」
「こうして穏やかにのんびりできる季節、でいいんじゃないですか?」
 ユークリアの言葉には、とりあえず返しながら。
 キーゼが観察を続けていると、不意にエルナ達を見つめる小さな少年達がいた。エルナはのんびり笑顔のまま挨拶する。
「おやおやこんにちは」
「……ん~」
 少年らは何か考えるように近づいた。
「おばちゃん、何歳?」
 ぴきりと空気が零下に固まる。子供ながらに、年齢が近しくないと判ったのかも知れない。
「……」
 触れてはいけない乙女の秘密に触れてしまった少年を、エルナは笑顔のまま見つめ返す。いつしか背中からゆらゆらとオーラが立ち昇っていた。
 ユークリアにもダメージはあったが、それでも慌てて助けを求める。
(キーゼさん、何とかして下さい!)
(……是非もありませんね)
 キーゼも流石に動かない訳には行かないので……純粋無垢かつ悪意のない様子の少年達に、ごほんとフォローを挟んだ。
「いいですかね、子供たち。女性はいつでも若くきれいに思われたいと思っていますので……可能な限りおねえさんと呼びましょう。生きるための知恵です」
「えー?」
「えー、じゃありません。特にエルフの方は実年齢が高齢のケースもありますのでお気を付けを……」
「キーゼさん、何か言いました?」
「……」
 今度はキーゼの余計な一言に矛先が向く……というところで、店員が団子を運んできた。
 するとエルナはほわりとのんびりモードに戻り。
「君も一つ食べるかい?」
 団子を分けてあげて少年達を喜ばせていた。
 それにキーゼとユークリアもひとまず安堵して……またのんびりと時を送ってゆく。

「ふぁ~、綺麗さぁ……」
 フリューリングスルフト=ティエラは街並みの桜に瞳を煌めかせていた。
「そうか、この時期に咲くキミはサクラって言うんね」
 故郷を出る前に何度か見た事はあった。その名を今日初めて知って、不思議な感慨を抱く。
 勿論、今日の目的はそれだけではない。
「今日はお小遣い沢山持ってきたさぁ。食べ尽くす勢いでいくぞ!」
 と、早速甘味処に立ち寄ると……そこで行き会ったのが、コハクだ。
 違和感のないよう、コハクも今日はシャルガネの和装。羽織はラフにし、帯の巻き方もアレンジしてオリジナルの風合いにしていた。
 フリューは笑みかける。
「今入るところ?」
「ん、ここに沢山の甘いものがあると聞いた」
 コハクが応えると、折角ならと共に入店。
 まずは善哉(ぜんざい)を頼むと、その優しい甘さと温かさにほう、と吐息して。更にコハクはお品書きを眺めつつ。
「果物たっぷりの黒蜜……これも」
 と、注文してはむはむとさくらんぼや桃を堪能した。
「ん~~っ!! おいしい!」
 フリューもまた同じ物を注文して、感嘆の笑み。
 だけでなく、コハクに同道して食べ歩きもして……寿司、煮魚、また甘味と、お腹を満たしていった。
 大食いのコハクも美食の数々には満足。
「最後に、あれも」
 と、お団子を買って散歩を続けた。
 翠の園へ辿り着くと、そこも桜の景色。
 薄紅の美観に、フリューは白いマントを被衣(かつぎ)の如く被り、軽やかな足取りでその中心へ。
「ちょいとお借りするさぁ♪ 春やし綺麗やし。恋の歌にしてみよか――」
 顔半分を隠し口元だけ見せて、優美に踊り、歌い始めた。
『春風に舞い戯る薄紅の 美しき君の名 今日知れり』
 爪先でステップを踏み、風と花弁を活かして。
『桜 桜 桜。この目この心全てを奪い去る君の名 幾度も唇に乗せ歌い 恋焦がれよう――』
 艶やかで、そして美しく。
 酒に酔ったような心地よさの中、廻り、声を紡ぐ。
 コハクはその姿を眺めながら、お団子を一口。
「今日は、良い日」
 甘味と踊りと桜。そんな風流を楽しんでいった。

 そういえばもう、八日も何も食べてない。
 草花の感触に目覚めたリリリリスは、翠の園に横たわる自分にぼんやりと気づいていた。
「私とした事が気を失って……」
 起きようとする、が、栄養がない為だろう。
(動けませんわ……)
 すると、視界の隅に映る野兎がもそもそ。美味しそうに草を食べている。
 リリリリスはじっと見つめてから。
「そうですわ……これを食べれば当面の飢えが……」
 自然と手を伸ばし、目の前の草をむしゃぁと口に含むのだった。
「――あぁ、何だかとても見たくないものを見てしまいました」
 と、それを見下ろしてドン引きする者が一人。
 ギーゼラだ。見慣れた派手な後ろ姿が突如草を食べ始めたので……言葉に出来ぬ感情で瞑目していた。
 自分もヤバイ奴とよく言われるが、彼女はもっとヤバイ奴だと改めて思う。
 そういう者を見ると逆に冷静になってしまうので……いつもの調子が出なくて困る。すると何だか腹も立ってきて。
「……あぁ、刺激的な味がしますわ……私の手料理からしたらモノ足りない味付けですが……、それでも仕方な――ぎゅべむ」
 途中でギーゼラが容赦なく顔を踏んづけていた。
「だ、誰ですの! 高貴な私の頭を踏むのは!」
「こんにちはリース。あまりに無様だったもので、コボルトと間違えてしまいましたよ?」
 ギーゼラが見下ろすと、しかしリリリリスは……あら、と微笑む。
「友人でしたのね。ギーゼラ様、ご壮健そうで――ぎゅむ!」
 ギーゼラが追い打ちに踏んだのは、友人ではないから。
 そう、断じて――友人ではないから。
「う、動けませんわ……しかし、コレは……」
 なのにリリリリスはいつしか恍惚としていて。
「やめて、そんな嬉しそうな顔で僕を見ないで!」
「い、いえ、別に心地よさなんて感じてませんので! ぐりぐりされても悪く無い感じがしてくるとかそんなハズは」
「あぁもう何をしても希望に満ちた顔で見てくるこいつ本当嫌い!」
 ぐりぐりとする、そんな間もリリリリスが更に寄ってくるので……ギーゼラは空恐ろしい気持ちで叫んでいるのだった。

「賑やかですね――」
 人々が楽しげに行き交う広場を、ノックス・マグナは眺めていた。
 東方にはこれまで縁もなかった。けれど丁度遠洋で東方の遺物の調査も行った所でもあるから、これを機に見識を深めたい、と。
 散策しつつ、中でも興味を持つのは音楽。
 不思議な弦楽器の音が聞こえて、そちらへ歩んでみると……現地の者が周りの手拍子に合わせて演奏していた。
 三本の弦に長いネックを持つ、三味線だ。
「素敵な曲ですね」
「ありがとう。貴方も音楽を?」
「ええ」
 演奏者の問に頷いて、ノックスは現地の曲について教えを請う。
 すると彼は旋法や、拍子の取り方……多くの知識を教えてくれた。その全てが新鮮で、ノックスは音楽も文化も果てないものと実感する。
「色々なものを見て、聴いて……糧としなければなりませんね」
 思いと共に、曲を心に覚えさせて。
 散策を再開すると饅頭を手にして……美味もしっかりと味わうのだった。

「ここがシャルガネの教会……ってことでいいのかな」
 柳がそよぐ参道を歩み、朱塗りの鳥居をくぐる。
 その先の境内をヨル・スレイマンは見回していた。
 他国の神事に纏わる文化には興味がある。故に手順も教わり、参拝も行った。その風合いも独特で。
「天下泰平って戦争で勝てるってこと? 違う……?」
「純粋に、平穏が永く続いてほしい――そのような思いを込めて祀られたと聞いております」
 巫女の言葉に頷きつつ、おみくじも一つ購入。
「こういうところについてるのは少し変わっているかな。でも勝負運は全てに通じるところあるしね」
 と、見ると大吉。新たな道が拓ける、と記されていた。
 それから屋台で鯛焼きなど買いつつ、和酒も手に入れて。
「これは美味だな!」
 微酔いに桜を仰ぐ。
 周りを見れば、厳かというよりは穏やかで。人々は思い思いに神の御許で過ごしている。
「こういうあり方はとても快く感じるな」
 思いと共にまた酒を一口。花も一層、美しく見えた。

 華やぐ季節に、人々は皆笑顔だ。
 すれ違うそんな幸せを、時折見やりながら。カルフ・オルヴォもまた花を仰いでいた。
 思うのは過去の事。
 否、今もなお消えぬ過日への思い。
「あいつ等も見たかったろう」
 心に呟いて、ふと瞳を閉じて。屋台の呼び込みに応じ、何か旨いものでも口にすれば、また心に多くの顔を浮かべて。
 酒を手にすれば、溺れる訳でもなく淡々と。舞う花弁を静かに浴びながら呑んでいた。
 歩むうち、神社を横目にしても手を合わせはしない。元より神は信じず、それは異国心であっても同じだから。
 ただ、それでも――
「迷子か」
 近くに泣く子供があれば、手を貸して。境内にいた親の元へと連れて行っていた。
「礼はいらん」
 去り際には、ぶっきらぼうに言うばかりだけれど。その子がまたはしゃいで遊び始め、構ってくれば――「迷子になるぞ」と頭を撫でて親へと促す。
「……」
 それは自分がすべき事を考えあぐねていても……生きて行くべき時間がそこにあるから。
 故にカルフはまた暫し、日常へと歩み出す。

 屋台が空に温かな湯気を昇らせる、そんな広場の一角にストレガ・L・リベルガストラは訪れていた。
「良い香りがしてきたのだ」
 当代のストレガは東方文化が贔屓。食に並々ならぬこだわりを持つ気風が好みだ。
 出汁の取り方と醤油と味噌は、自身でも重宝している所。だから愉快げに眺めつつ――手伝える屋台を見つけて助力。
 揚げ物の店舗にて、作るのは――
「唐揚げなのだ」
 こんな時の為レシピは研鑽している。
 生姜を溶かした醤油で下味を付けて、サッと揚げてお出しする。
「熱いから気をつけるのだ」
 すると現地の者でも、そのざくっとした衣と、柔らかくほどける肉の食感、そして溢れる肉汁に舌鼓を打っていた。
「美味い!」
「良かったのだ」
 応えつつ、気づいた点は抜け目なくメモもして。
 休憩合間に他の屋台で焼きトウモロコシを買うと……リスのように回しながら黙々と食べるのが作法、と聞き及んだ通りにはぐはぐと頂いた。
 そうして醤油と味噌を土産に購入し、また屋台へ。
 するとそこへ――散策中のアヴェラ・ウッチェロが行き会った。
「唐揚げ、おすすめなのだ」
「あら、それなら一つ」
 と、ストレガに応えて購入し、その美味に感心しつつ。
 他の屋台で蕎麦も頂くと、つゆの味わいにアヴェラはふと考えを巡らせる。
(これ、家で再現するならどうすればいいかしら)
 東方文化には美味な物が多い。だから自然とそんな事を思って――ぼんやりと、自身の進む道にも思いを及ばせた。
(わたしはどこへ進むのかしら)
 暗殺者として鍛えた技は、冒険者家業では役立つ。だが、それ以外で役立てようとすれば裏の世界だろう。
 メイドとして鍛えた技術は、そのままメイドに役立つが……他の家に仕える気にはならない。
 料理だけ抜き出して料理人、というのもあるが、家庭料理と商品は違うものだ。
 そうなると――
「結局、冒険者が一番なのかしらね」
 少し、深く考えすぎてしまったかも知れない。
「折角の桜がもったいないし――」
 羊羹(ようかん)を口にしつつ、今は楽しもうと思い直す。
 桜と食事と、それから――
(あっ、あの人の指、いい感じね)
 道行くシャルガネの人々の手元をそっと、眺めたりもするのだった。

「何とも、風情ある街ですねぇ」
 歳をとるとこういったのほほんとした場所が落ち着く――そんな思いと共に、シャーデンフロイドは街を訪れていた。
 色々と、興味はあるけれど――
「せっかくの異国情緒漂う地区ですし」
 と、まず立ち寄ったのは貸衣装屋。
 そこで桜の柄が風流な和装へ着替えてから広場へ向かう。かろりと下駄を鳴らしつつ、屋台で飴菓子を買って。
 その甘味に笑みを零しつつ、仰ぐ桜は美しい。
「桃源郷ってこういう場所を指すのでしょうね。なにもかも、忘れてしまえそうになります」
 と――その近くに、アルフィー・リッパーも散策をしてきていた。
 双彩の瞳に桜色を映す、その表情は物珍しげで。
「綺麗ですよねぇ」
「ああ、初めて見る花だ」
 シャーデンフロイドの声に、応えて頷く。
 花を見てお腹が膨れるわけじゃない……とは思いつつも、こういうのも悪くはない。だからその無二のピンク色を、今は楽しんでいた。
 とはいえ、お腹が空いているのは事実。
 屋台も気になるけれど、今はお店で甘いものを食べたい気分で。
「甘味屋、行こうかな」
「おや、楽しそう。ご一緒しても?」
「ああ」
 というわけで二人で甘味処へ。
 お品書きを広げるとアルフィーはわくわく。
「どれにしようか……」
 “野良猫”と言われ、根無しであちこちを転々としていた身。故にゆっくりと甘味を選び放題な贅沢が、幸せに感じる。
「では、ワタシは善哉と大福を」
「じゃあ、俺も善哉と……あと団子!」
 やってきた善哉を二人で頂くと、ほっとする味に心を安らがせて。
 シャーデンフロイドは大福と淡い塩気と甘味を、アルフィーは団子のもちもちとした快い食感を楽しんだ。
 お腹が満たされて、アルフィーはふぅと一息。
「どれも、美味しかったな」
「そういえば、シャルガネには「シノビ」がいるらしいですね。探しにいきません?」
 折角の機会だからとシャーデンフロイドが言えば、アルフィーもそれも楽しいかも知れないなと応えて。
 また暫し、散策を続けていった。

「粽~、今年もまたお花見の季節がやって来たのだ~!」
 傍らの狼と共に、大福は神社に面した並木を仰いでいた。
 くぅんと粽が応えて鳴くと、自分も上機嫌に尾を振りつつ。視線を下ろすそこは境内の隣にある流鏑馬(やぶさめ)場だ。
 この街の出身でもある大福は、今日はお手伝い。家族総出の形で、人々を迎え入れようとしている。
「よろしくなのだ」
 と、粽には案内役として『受付はこちら』の看板を首にかけさせて。
 大福自身は鎧や的、乗馬指導の準備に向かってゆく。
 と、そこに丁度歩んでくる令嬢が一人。
 甘味処で買った団子をはむはむと食べつつ、ぶらぶらしてきた――キャロライン・スノーイーリスだ。
「流鏑馬? まぁ、面白そうですわね!」
「お馬さんと戯れるだけでもいいのだ!」
 大福の言葉に、厩舎を奥に見つけたキャロラインは瞳をきらきら。動物好きでもある故に、惹かれるままに入場した。
 そんな馬の姿に、道行くニール・ロブラリアもまた足を止めて。
「乗ることも出来るんだ」
 折角なら、と踏み入ってゆく。
 そしてリディリディ・トゥラ・イェレミース、エフィルミア、エヴァン・ピオネロもまた参加して……皆で体験してゆく事となった。
 まずは馬に乗る前に、鎧の着用。
 袴をはいて、装束姿となり――すね当てを着けたら艷やかな黒色の具足に腕を通す。
「着るだけでも……大変なのですね」
 部位の多さに、エヴァンは少々手こずりつつ。それでも現地の指導者に教えられ、皆とも互いを確認し合って……帯も留めて完成だ。
 指導者へ礼を言いつつ、少し気分も上がって刀を振る真似をしつつ。
「……異国の戦士になった気分です!」
「ええ! わたくし今めちゃんこ強そうですわー!」
 キャロラインもご満悦にくるくる回っている。
「こうすれば、もっと素敵です!」
 鎧姿でもごっつくならないようにと、エフィルミアは帯をリボンでアレンジ。どんな時も可愛さを忘れない、そんな信念の元に……羽織と花飾りで全身もコーディネートしていた。
 それから弓の引き方もそれぞれに学び――乗馬へ。
 大福は皆を馬の元へ案内しつつ、注意も喚起する。
「お馬さんのすぐ後ろは通らないでくださいなのだ~」
 皆がそれに頷く中……リディリディも一頭へ歩み寄っていた。
「よろしくお願い、しますね……」
 まずは目を合わせ、挨拶する。
 馬がそっと顔を寄せてくると、リディリディも微笑んで優しく撫でてあげた。
 元より馬に乗るのは慣れている。だからか馬の方もすぐに気を許し、顔を擦り付けてくれるようになる。
 エヴァンもまた、目の前の馬にほわりと笑みを向けて。
「お世話に……成りますね」
 手の甲そっと鼻先に近づけ匂い嗅がせて。鬣(たてがみ)の付け根や鼻面を擦り、気持ち良さげになったらそっと抱く。
 ふるる、と馬が静かな声で応えてくれると……エヴァンはその一頭へと乗っていた。
 ニールもまた自分の相棒となる馬に「短い時間だけどよろしくね」と挨拶。触れ合って信頼を築いてから、背に乗ると……一気に視界が高くなる。
 見えるのは一段と近くなった桜。
 その彩につい、視線を留めるのは――桜には少しだけ郷愁めいた想いがあるから。
 昔、養親が「お前は桜の咲く頃に生まれたんだ」と言っていた事があった。だから自分は、こんな風にたくさんの桜が咲く土地の出身なのかも知れない、と。
「あ、レスト、樹に登るのはダメ」
 と、前を見てもらっていた栗鼠が視界に入ってくると、自分も目を前に戻す。
 その頃にはエフィルミアも交感能力で馬に挨拶し、乗っていた。
「よろしくね?」
 ひひん、と応えた馬は準備も万端というように蹄を鳴らす。エフィルミアも弓を手に、リズムを図りつつ……馬場へ入っていった。
 大福がそこへ声をかける。
「大丈夫。大福がついてるのだ。お馬さんもお客さんの事が好きみたいなのだ。きっと的に当たるのだ~」
「ええ……!」
 行きましょう、とエフィルミアが言うと、馬が駆け出す。
 一番大事なのは、息を合わせる事。
(私だけが弓を上手に撃てても駄目、馬だけが張り切っても駄目――)
 だからこそ面白い、と。
 エフィルミアはしっかりと弓を引き絞り、矢を発射。立てられた三つの的を、順に割っていった。
「出来ました……!」
「むむっ! やりますわね……!」
 と、感心の声を零すキャロラインもまた馬場へ。自分も成果を上げてみせよう、と凛と矢を番える。
「行きますわ!」
 そのまま奔らせる馬は、かなりの速度。だがキャロラインは馬上でも姿勢を微動だにさせず、鏃を視線の先に合わせたまま。
「ふ、的が止まって見えましてよ!?」
 瞬間、射った矢で小気味良く的を貫いていった。 
 初めてとは思えぬ腕前に拍手が上がる。
 次はエヴァン。
「走って……矢を射るのは初めて……です」
 声音は少しの緊張。
 けれど、空気が静まり馬と自分の呼吸が重なったら――
「行きましょう……!」
 馬に合図を出し出走。流れる景色の向こうに浮かぶ的へ――精確な射撃。見事に全てを命中させた。
 続くニールも、冷静な眼差しのままに連射。リズムを刻むように軽やかに的を貫いてゆく。
「ん、上手く出来たかな」
「凄い、ですね……」
 呟くリディリディは自前の弓で挑戦。
 慣れた物とはいえ、弓を撃つ事は久しぶりだったけれど――馬がその呼吸に、しかと速度を合わせてくれて……リディリディもまた全てを的中させていた。
 終わって見れば皆、最上の結果だ。
「ありがとう」
 エヴァンは馬を撫で、皆にも労いを述べて。
 キャロラインも礼を返し、馬を撫でてあげていた。
「今日はありがとう存じます! 貴方はイケメンですわね! 毛並みも滑らかで堪りませんわ~」
 馬も喜びを鳴き声に表す、そんな隣でエフィルミアも馬を褒めてあげていた。
「楽しかったよ、ありがとー!」
 皆もまた馬を労い、礼を言い合って。
 快くその場を辞すると、皆で広場へ。
 桜を見ながら、エフィルミアは綿菓子の美味に感心の笑顔を浮かべた。
「ふわふわで甘くて凄い……! お土産のものも買わないと……」
「そう、ですね……」
 応えるエヴァンも綿菓子を手に柔らかな笑顔で。皆と共に、ゆったりと美観を過ごしてゆく。

「んーーー! 綺麗な景色ねぇ――」
 すぐ頭上から遠景まで。
 続く薄紅の並木をエミリア・シバは見つめていた。
「桜って言ったかしら? この町の人が、この時期にお花見っていうのをやるのは納得の美しさだわ!」
 風に香りを感じれば、毎年でも来たくなる。
 そんな思いで嗅覚を研ぎ澄ませていると――
「あら? 美味しそうなお酒の匂いがするわね?」
 辿るとその先は……食事処。
 桜もいいけれど、エミリアはやっぱりお酒も好きだから。
「特産のお酒と食べ物を味わうっていうのはやっておかないとね!」
 店からも外の桜を見られるという事で――お勧めの煮付けと天ぷら、そこに和酒も合わせて注文した。
 すると煮付けは柔らかな身が美味で、天ぷらはさくさく。酒は仄かに辛口で、キレのある後口が魅力的だった。
 実家でのとある事情により、嗅覚だけでなく味覚も鋭い。だからその微妙な味わいを余さず堪能できて――
「そこだけは家の教育に感謝ねぇ」
 しみじみと、杯を傾けていた。

 瓦、揺れる柳、灯籠。
「すごい。綺麗。素敵……!」
 初めて訪れたシャルガネの美しい風景に、エリオン・ザ・スターシーカーはテンションもうなぎのぼりだった。
 行きたい場所は多々あるけれど、まずは神社から寄って。
「土地の霊への挨拶は大事だものね――」
 お参りの後、鈴が綺麗なお守りも入手。
 勿論景色と料理も捨てがたいと広場へ向かい――雄大な桜色を楽しんだ。
「綺麗だなぁ――あ、いい匂い」
 と、屋台を見れば立ち寄る。
「これは何て名前なの?」
「醤油煎餅だよ。初めてですかい?」
 店主は網で焼いたそれに、醤油をさっと塗って海苔を巻く。買って食べたエリオンは、香ばしい風味に瞳を輝かせた。
「わあ、美味しい……もう一つくださいな」
 製法を見てるのも楽しくて、他にも飴菓子や米菓を味わってゆく。
 最後は呉服屋で着物を召して、装飾にも使える組紐も購入して。
「やっぱり森を出てきてよかった」
 楚々とした格好で道に出ると、改めて思う。
「もっともっと、いろんな場所に行きたいな」
 世界にはまだまだ美しいものがあるのだから、と。

「倭桜ノ街、か」
 花香るその街を、スヴァン=ウォルフ=ユーウェンは眺めていた。
 桜の綺麗な場所と聞いた事はあったが、訪れるのは初めて。こうして見ると、確かに、という気がする。
 猫のノアと共に同道するガレシアス=エルムートも心は同じだ。
「良い景色では無いですか。甘味も楽しみですね」
「うん。早く行こうよ」
 と、わくわくと笑むのはクロハ=ヴェローナ。桜と共に甘いものがお目当てでもあるから……早速甘味処を見つけて、二人の腕を引いてゆく。
 店内の席につくと、お品書きを見て楽しげだ。
「いっぱいあるね。どれにしよう?」
「おすすめから頼んでいくとしましょうか?」
 ガレシアスは苺大福に三色団子、金平糖や桜餅を注文してゆく。
 クロハやスヴァンもあんころ餅などを頼んでみて――やってきた品を珍しげに見た。
「リブラネスタでは見られない甘味ばかりですね」
「この黒いの、チョコレートじゃないのか」
 スヴァンが呟くと……店員に餡子だと教えられてふむ、と頷く。
「豆から作ったのか」
「その点もどこかチョコレートと似ていますね――」
 と、ガレシアスが一口、食べてみると穏やかな甘味で。
「チョコレートとはまた違った味わいですね」
「確かに」
 スヴァンも大福をもにもにと食べて、頷く。
「チョコレート以外にも美味いものがあるとはな」
「ほんとだ、おいしー!」
 クロハも大福を食べて、苺の甘酸っぱさと餡子の甘さに満開の笑み。更にお団子にも手を伸ばして口に入れてゆく、と……。
「おだんごもちもち~! おいし……ん! んんん!!」
 勢いよく食べすぎて喉に詰まり、慌てて胸をどんどん。何とか飲み込んで、はぁ~と安堵の息をついていた。
「食べながら喋るな。それとゆっくり食え」
「うん。でも、おいしすぎて食べすぎちゃうね」
 スヴァンに応えつつも、クロハはまたぱくぱくと食べ続けるのだった。
 実際、スヴァンも餡子にハマっている。もしかすると、黒いものは美味いのかもしれない……そんな事も思いつつ。
 ガレシアスは緑茶も注文。
「ん、独特の苦味がありますね」
 けれどその渋味がお菓子の甘味と良く合って、美味だ。
「スヴァン殿、熱いですから冷まして飲むといいですよ」
「ああ」
 頷くスヴァンもずず、と啜ってその趣深い風味を味わっていた。
 食事を終えた一行は広場へ。並木が続く美観の中で――クロハは楽しげにくるくる回る。
「みてみて桜いっぱい! 舞ってる! きれい~」
「はしゃぎ過ぎだ。静かにしろ」
 スヴァンも言いつつ、その風情には無二の美しさを感じてもいた。
 花見酒も出来るという事で、ガレシアスは小さな盃に少量注いでもらう。
「なにそれ? お水?」
「これは水ではなくお酒ですよ」
 クロハに応えていると、澄んだ和酒に花びらがひらりと一片舞い落ちて。膝の上で丸くなるノアを撫でながら、ガレシアスは一口。
「こういう日もまた、悪くはないですね」
「うん」
 クロハもこくりと応える。
 色々な所を見てきたけれど、桜は多分見た事がなかった。思うと貴重な景色だという気がして……記憶に留めるようにその色彩を仰いでいた。

「とても素敵なところですわね」
 ネーヴェ・グラヌローザは桜の見える道を行く。
 歩くだけでも花の香りが漂っていて、快い。黒猫のアーテルも応えるように、小さく鳴き声を返していた。
 微笑むネーヴェは、はぐれないようにと人の少ない翠の園へ。
 道中、ふとスヴァン達に出会えば――
「まあ、来られていたのですね」
「そっちも散策か」
 応えるスヴァンにええ、と返して。ではまた、と、ガレシアスやクロハにも挨拶を交わし――休憩所の東屋に座った。
 そこから花を眺めていると、穏やかな陽気に誘われてついアーテルと一緒にお昼寝もしてしまいつつ。
「少し歩きましょうか?」
 伸びをしてから言うと、アーテルもにゃあと肯定するので散歩へ。並木の下を進みながら――綺麗な花びらを何枚か拾い集めた。
 ――春の思い出に。
 乾燥させて栞にしようと考えて……仄かに足取り軽く、ネーヴェとアーテルは花の道を歩んでいった。

「着いたね」
「う、うん」
 街へ踏み入るハル・チフの言葉に、隣のエルシー・サリバンは緊張気味に応えていた。
 ぎこちなさは、ここ着く前からだった。
 ハルの告白から、ずっと。
 それから変わった接し方に、ハルは憂う心を自覚する。だからこそ――今日のお誘いは嬉しくてしょうがなかった。
 告白は後悔していない。彼女の気持ちをちゃんと汲んで、確かめたい。
 どんな返事だとしてもいい旅行にする、そう決めたから。
「行こうか」
 言って歩み出す。
 並ぶエルシーはまだ心が追いつかない、けれど。
「わぁ、桜……!」
 広場で色彩を目にすると、顔を明るくする。
「ピンクで綺麗~! あ、ハル、ハル美味しそうだよっ」
 屋台を見つければ、自然と元気もこみ上げてきてハルの裾を引っ張る。
 そうして一緒に焼きトウモロコシを買って。エルシーが綿菓子の可愛らしさに惹かれると、ハルは微笑ましげにそれも手に入れて。
「美味しいー!」
 戦利品を大口で食べるエルシーは、楽しげだった。
 ハルも頷き花を仰ぐ。
「とっても綺麗だね」
 桜の魔法なのだろうか。いつしか二人の空気は幼い頃に戻ったようで。
 そして花みたいに笑う彼女が、やっぱりハルは好きだった。
 ――幸せだな。
 するとエルシーもまた、そんなハルの笑顔を見ると嬉しくなって、気持ちが素直に出てくる。
 一度深呼吸して。
「あのね、お付き合いって意識すると上手く話せないの」
 ハルが寂しそうで、自分も辛かった。
 でも、ようやく好きと自覚出来た。
「……笑ってくれるハルが好き。ずっと一緒に居たい」
 赤面しながらも、しっかりと伝える。
 ハルは笑顔で頷いた。
「嬉しい、嬉しいよ! ずっと一緒にいて」
 嬉しさにギュッとしてから、慌てて離す。
「ご、ごめん、つい……」
「う、ううん。いいの」
 それから散策を再開。お揃いの桜が掘られたシルバーナイフを購入した。
 歩みながら、エルシーはそっと自分から手を繋ぐ。
 ハルも優しく握り返した。
「意識していいよ。僕、それでも笑って貰えるよう頑張るね」
 だから一緒に、と。
 想いを見守るよう、桜風が二人を撫ぜていた。

 桜広場の東屋は、夕刻にはひとけがなくなる。
 そこでシルヴィア・A・カペルは桜柄の着物を纏い……簪を挿していた。
「ありがとう」
 着付けを手伝ってくれた女性に礼を言うと、そこから歩み出してゆく。
 彼女は現地で受けた、恋文代筆の依頼人だった。その為に彼女の周りの事、或いは街の事を聞き込むのだ。
 とはいえ彼女自身の事や、送る人の事は既に聞いてある。長くかからずに完成するだろう。
「――」
 道中、ふと思う。
 本当は、自分は恋心というものはよく分からない。自分には、必要のないものだから。
 故に憧れはしないけれど――それでも恋をしている人の言葉や表情は好ましくて。その人の情動を共有して、言葉や曲に封じ込めてみたい、と。
(それが私に出来る唯一の永いものになればいい)
 そんな事も、考えながら。
 ――そういえば先生と旅をしていた時もシャルガネの桜を見た。
「買って貰った飴が美味しかったなぁ」
 きっとあの人は祖父と見たかったんだろうけれど……それも一つの思い出。一度目を伏せてから、シルヴィアはまた歩み出す。

「良いところね」
 風情ある街並みを、セリーヌは見回していた。東方の文化は趣があって目が惹かれる。
「それにしても――」
 と、ふと振り向くと、そこにはセロンガード・シュタインドルフとティトの姿。二人も歩きながら、睦まじく景色を眺めていた。
(全く、妬いちゃうわね)
 思いつつ歩み寄ると、セロンガードが丁度甘味処を見つけている。
「寄っていきますか」
 それにティトも頷くので……三人で同道。早速お団子を注文した。
 セリーヌははむりと食べて、食感に感心。
「もちもちしてる、ね」
「ほんと、美味しいわ!」
 セリーヌもあむあむと堪能して至福の笑顔。みたらしも追加で頂いて、甘じょっぱい美味を楽しんだ。
「お茶も、ほっとするわね」
 ずず、と啜って温かな吐息を零すと、セロンガードも頷いて団子を口に運ぶ。
「こういう場でしか食べられないものも、悪くないですね」
 そうしているといつしか日も落ち始めてきて。
「広場、行きましょ? 夜桜が綺麗そうだわ」
 セリーヌの言葉に二人も頷いて、皆で広場へ。
 仄かな灯りで彩られた道に進むと――そこに見えるのは美しく夜空に映える桜並木。
「晴れていて、良かったわね」
 少し曇りの方が綺麗な月らしいとも聞くけれど……今の景色も優美だった。
 奥の方へ向かえば、遊歩道も曲線を描き始めて――途中から分かれ道も現れて、まるで花の迷路だ。
 夜の中ではそれが一層顕著で、ティトはその景色にふと訓練時代を思い出す。
「少し走ってみたい、ね」
 うずうずと、静かな狩猟本能のようなものを垣間見せたティトに――セロンガードは何となく警戒心を覚える。
「トレーニングですか? 良いですね、それならお一人で……」
「標的がいた方が良いと思う、の」
「ちょ――」
 視線を向けてきたティトに、セロンガードは後ずさる。
 こういう時のティトに、捕まったら何をされるか判らない。迷う前に、セロンガードは反射的に走り出した。
 なれば逃さないと、ティトもガチ気味なダッシュで追いかけ始める。
「逃さない、よ」
「本気じゃないですか……!」
 セロンガードは本能的な危機感に、ひぃと声を上げて速度を上げる。しかしティトもカーブの内側から差を詰めてゆく。
 高速で駆け出した二人に、周囲の人々は何だ何だと目を向ける。ある者は食い逃げかと、ある者は痴話喧嘩かと、驚き交じりの興味の視線であった。
 ティトは逃げ惑うセロンガードの姿も、どこか楽しむようにして走っている。
 セリーヌは息をついていた。
「本当に仲が良いのね……最近まで全然面識がなかったなんて本当かしら」
 呟きつつ、暫し二人の追いかけっ子を眺めて……屋台で買ったカステラをはむ、とつまんでいるのだった。

「お神籤とか言うご神託がよく当たるそうだ。行ってみないか?」
 街の人々に観光のおすすめを聞いて、提案したロイ・アウレアに――「それはあやかりたいね」とテス・クラルスも同意して。二人は神社を訪れていた。
「こう、かな」
 異郷の神にご挨拶に伺うのも観光の醍醐味。
 ロイが郷に従って祈ると、その仕草をテスも真似て参拝して。その後はお目当てのおみくじを、二人で一つずつ引いてみる。
 と――
「縁は結ばれている、だって」
「果たした出逢いを手放さぬように、か」
 テスとロイ、二人とも恋愛の項目には互いに意識する部分もあって。
 共に大吉で、明るい未来が記されていたから……浮かれつつも、兜の緒を締めよう、と二人で頷き合っていた。
 それからまた街へ歩み出して。
「穏やかな時間が流れている場所だね」
「ああ――」
 春風を受けながら、桜を愛でつつ手を繋いで散策。
 広場へつくと、一層鮮やかな花を愉しみつつ――味醂(みりん)と出汁の効いた煮物を肴に、濁酒と焼酎で乾杯。
「旨いなぁ」
「うん」
 満面の笑みのロイに、テスも表情を和らげて。
 ひらりと降りた花びらが酒に浮くと、その風情にほっこりとして。実に幸せだと、そんな気持ちになる。
 日が落ちてくると、春でも風が冷える。
 テスがそう思えば――ふわり。ロイが肩に羽織を掛けてくれた。
「――」
 朱と白の花筏(はないかだ)の鮮やかさに驚きながら、感謝を伝えようと見上げれば……黒に金波の羽織姿のロイがそこにいて。
「酔い覚ましに歩くか」
「……ん」
 二人で翠の園へ。
 この地の穏やかな人達と異国情緒に心洗われながら――景色を見れば、紫の帯が色濃くなって、一つずつ灯籠が灯ってゆく。
 その中で月に浮かぶ華やかな桜。
 そしてそこに溶け込む幸せそうな横顔。ロイは先刻言わなかった言葉を零した。
「……美しい」
「……美しいのはロイの方だよ」
 テスはつい返してから、言葉を隠すように口元を袖で覆う。
 ――心臓が爆発しそうなのはこの地の魔法だろうか。
 けれどそれはロイも同じ気持ち。
 ここで穏やかに暮らして、有事にはテスと情景を守る、そんな生活も良いかも知れない、と。
 思いながら……緩やかな時間に幸せを感じていた。

「あら、素敵な雰囲気じゃない」
 街にやってきたアルラ・ニグラスは、その眺めに微笑みを浮かべていた。
 桜も既に垣間見えている。だからララベル・サン・ディーベルもまた顔を明るくして。
「凄く綺麗だね。お花見、楽しみだな」
「ええ」
 それに頷き同道するのはイル・シャーリィ。
 ララベルに誘われて来た、それ自体は嬉しいけれど――アリエッタに変な事でもされないようにと見張るのも忘れない。
 ララベルは何となく視線の意味を感じ取って、顔を赤らめて。
「きょ、今日は大丈夫だから。何もしないよ?」
「その言葉が一番疑わしいけど……まあ、行こうか」
 と、ルーシカが歩み出せば、皆も続き――まずは神社へ寄ってゆく。
 アリエッタは物珍しげだ。
「わぁ、何だか不思議な場所」
「折角だし、何かお願い事でもしていくか」
 言ってルーシカがお参りすると、皆も倣う。
 ルーシカは手を合わせてちょっとだけ迷ってから――
(皆の活力となる料理のアイディアが浮かんでくるように、と)
 まだまだ自身を未熟と思うからこそ、レパートリーを増やしていきたかった。
 皆もそれぞれに願いを抱くと、次はおみくじ。
「ふふ、こういうのって何だかどきどきするわね?」 
 アルラが早速引いてみると、大吉。明るい日々を過ごせると書かれている。
 ルーシカも大吉。努力が実を結ぶと記述されていて――
「料理運も悪くなさそうかな」
「幸先いいわね?」
 微笑むアルラは、再び自分の物に目を落とす、と……唯一の注意として『不意の接触多し』と書かれていて――
「わぁ、なんか色々書いてある……見て見て? みんなのはど……」
 と、覗き込んできたララベルが石畳の境に足を引っ掛けて。アルラのお尻を抱きしめる形で倒れ込んでゆく。
「はわわ……ごめん」
 真っ赤になってとっさに立ち上がると、全く同じ場所に今度は踵をぶつけて後ろへ。
 バランスを取ろうと振り返りつつ……イルとアリエッタ、二人の胸を掴みながら押し倒すのだった。
 アリエッタは倒れたまま見上げる。
「ララベル、また?」
「わっ、え、えっとこれは……!」
「ついさっき、ああ言っていたのに……結局こうなるわけね……?」
 イルは微笑みながらも、こめかみに怒りマークを浮かべている。
「おみくじでいい結果でも出たのかしら……。私の結果、聞く? 大吉で総運はとても良いのに、身近な友人についてだけ注意が喚起されているのだけれど」
「ご、ごめん……」
 いつの間にかララベルは正座しているのだった。ちなみにララベルの結果はとても良く……「幸運の機を逃さぬ」と書かれている。
「でも“足元注意”か。気をつけなよ?」
 ルーシカの言葉に、「はい……」とララベルは背を正すしかないのだった。
「それじゃあ次は、お花見だね」
 と、アリエッタが屋台で買ったたい焼きを皆に配ると、皆はそれを食べつつ広場へ。
 そこは桜色の並木が雄大で優美な美観だ。
 暫し遊歩道を進みつつ、いい場所を見つけるとララベルが敷物を敷いて、そこで花見を始める。
 ルーシカは間近で見る桜をゆっくりと堪能した。
「上品で、優しい色合いで……いい花だね」
「ええ」
 イルも頷く。
 話には聞いていても、桜をこうして見る事はあまりなかった。だから景色が心に新鮮で。
 花の芳香もしてきて、風情を感じる。
「不思議な香りね……食べ物にも入っていると聞いた時は驚いたわ」
 言って手にしているのは桜餅。葉だけでなく花弁も入れられているもので桜色が美しい。
 ララベルも、お寿司を折に詰めて貰ったものを用意していた。
 皆もまた、お団子や、供されていた煮物を受け取ってきて持ち寄っていて……花を見ながらの食事と洒落込む。
 するとお寿司は仄かな酢が効いていて他所にない風味。
 煮物は出汁と醤油が味わい深く、染みたお揚げが何とも美味で。
「ふふ、美味しいわね~」
 アルラがほっぺに手を当てていると、ルーシカもそれには同意。和の味を、自分でも再現出来るようにとじっくり味わっていた。
 イルは餅と一緒にお団子も用意して。
「アリィも食べましょ?」
「うん、ありがと」
 二人ではむり。もっちり食感と優しい甘味に瞳を細めていた。
 その内に、陽も落ちてくると――ひとつ、ふたつ。灯籠が灯され、月下に桜が映える。
「この雰囲気に合うのは……お酒でしょ~」
 という事でアルラはお酒も用意。飲める人は一緒に飲みましょ、と、夜桜を見ながら楽しんでゆく。
 ララベルも見上げて、そっと桜に手を伸ばそうとする……と、バランスを崩してよろめき、今度はルーシカの胸元にダイブした。
「ご、ごめん……!」
 謝るララベルに、ルーシカは溜息をついて。
「まー、いつもの事だから」
 結局おみくじ通りになった、と思いつつ……桜の鑑賞を続けるのだった。
 ララベルも改めて眺めながら。
「舞い散る花弁、凄く綺麗……皆はもっと綺麗だけど」
 最後は小声で呟く。
 そんな様子にも、アルラは微笑みつつ。
「それじゃ、最後はごみを片付けて……行きましょ」
 皆で美観を保った後、また歩き出してゆく。

「とても綺麗ですね……!」
 声音までその色彩のように明るくして、スィーリーンは夜の桜を眺めていた。
 並木の道には灯籠が置かれ、優しく、温かく灯っている。歩むほどに、その橙色の灯りに花が照らされる様が垣間見えて。
「何て幻想的なんでしょう……!」
 清らかな色が溶け合い、無二の彩が燦めく。それにうっとりと、見惚れないではいられない気持ち。
 花弁は優美で、細工物のモチーフにも良さそうだから、じっくりと見物もしながら。
「ブローチに、髪飾りにもぴったりですね――」
 形をどう活かせるのか、思いを巡らせるだけでもまた楽しくて。
 その内に屋台が並ぶ賑やかな一角に辿り付く。多くの品々に、スィーリーンは少しばかり目移りしつつ。
「何か頂いて行きましょうか」
 甘い匂いに惹かれてカステラを一つ。
 そっとひとかけ、口に運ぶと優しい甘さが広がって。
「美味しいです……!」
 そんな風情にも瞳を細め――暫し桜の下でのひとときを過ごしていった。

 夜に映える桜は美しく、そして上品で。
「ここは、平和だな……」
 木々が並ぶ美観を見ながら、ベルク・オスマットは広場を歩いている。
 視線を巡らせれば、街の人々が皆笑顔で桜を眺め、穏やかな雰囲気を楽しみ、時に美味を堪能して過ごしている。
 その実感を抱きながら、ベルクも散策を続け――屋台を見つければ米菓を購入。米を甘く蒸して焙煎したもので、さくさくとした歯応えを楽しんだ。
 それからまた花を見つめて、人波の間を縫ってゆく。
 ゆったりとした時間が流れているのは、そこに平穏が満ちている何よりの証拠。
 そしてそんな瞬間があれば、いつかまた騒乱が訪れる事もあるだろう。少なくとも、ベルクの歩む先には。
「……」
 だからこそ、来るべき時の為にベルクは今、安寧を過ごす。
 優しい夜風が流れてゆく。思いを馳せながら、揺れる花をベルクは見上げていた。

「やぁ、綺麗な桜並木だなぁ」
 夜空に浮かびあがって見える春の花は、清廉にして典麗。それを瞳に映しながら、ハーヴィは漫ろ歩いてゆく。
 特に夜の桜は、月明かりにも映えて比類のない美しさだ。
「あ、飴菓子だ」
 と、足を止めるとそこは屋台。艷やかな透明の飴を溶かしながら形成して――それを果実に絡めている。
「へぇ、こんな風に作られてるんだね。一つ貰おうかな」
 早速それを購入し、歩みながら口にすると――
「ふふっ、甘くて美味しい」
 それからまた桜を仰ぐと、思い出すのは青春時代。
「といっても、学生の身だったのはつい最近だったけれど――」
 友人達と夜桜を仰ぎ。屋台を楽しんだ事。
 けれど他の皆と逸れ、二人きりになって――
「あの日も月がきれいだったなぁ。ふふふ」
 卒業と共に自然消滅してしまったけれど、それも甘酸っぱい思い出だ。
「さぁてと、次は何を食べよっかな」
 少しの郷愁と共に。また、ハーヴィはゆるりと歩み出す。

 無茶のお詫びに、今日はお願いを聞いて貰う日。
 だからコルネリウス・アーラは隣り立つその人の手を、そっと取った。
「居なくならないように、手をずっと繋いでいてくださいね」
「はい、判りました」
 ぎゅっと握られた手に、自分も優しく力を込めて。与えられた温度に心を返すように、イズレンディル・パラリムは笑いかける。
 今日は一日付き合うと決めたから。
「居なくなりはしませんから安心してくださいね」
 その声と笑みに、コルネリウスも頷いて――二人は広場へと歩み出した。
 ぎゅっと手を握るとほっとする。だからコルネリウスは楽しい気持ちも生まれて、周りに興味津々。
「折角ですから様々な料理を食べたいですね! あ、あちらはどうでしょう?」
 と、おでんの屋台に立ち寄って……一人分を頼んで、二人で分け合う事にする。
 コルネリウスはそのまま、食べようとするけれど――
「……イズさん、食べづらかったら手は離してもいいんですよ?」
「ええと、そうですね」
 少し苦戦してしまって、思わずふふっと笑み。
 それから食事中だけは手を離し、温かな滋味を楽しんだ。
 その後はお団子も買って、優しい甘味を味わって。幸せいっぱいにひとときを過ごしてゆく。
 食事を終えたら、遊歩道を散歩。灯籠の淡い橙と、月明かり。薄っすらとした光を纏う夜桜を眺めて歩んだ。
「綺麗ですね」
「ええ、本当に」
 イズレンディルの言葉に、コルネリウスは応えて仰ぐ。
「桜は初めてなんです。花も可愛くて綺麗なのに……すぐに、散ってしまうんですね」
 それが少し寂しい。
 けれど――イズレンディルは頷きながらもやわく微笑んだ。
「それでも、来年になればまた咲くそうです。とても力強い樹なのでしょう」
 一年後には、きっとまた逢える。
 だから小さな桜が花開くように、コルネリウスも瞳に希望を映した。
「それなら、来年も……一緒に見に来ましょう」
「ええ。来年も一緒に」
 イズレンディルも言って、握る手にまた心を込める。
 ゆっくり、ゆったりと、二人は歩んでゆく。美しい桜に見守られたその道は、未来にまで続いてゆく気がした。

マスターコメント

お疲れさまでした。 花見は大いに盛り上がりました。冒険者の皆さんが街全体で観光を楽しんだ事で、街の者にとっても喜ばしい結果となった事でしょう。
イベントシナリオ(50人)

イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準50 / 4〜50人

2021年03月29日 09時40分05秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. イル・シャーリィ

    イル・シャーリィよ。よろしくね。 何人かで観光に来てるわ。

  2. ロイ・アウレア

    ロイ・アウレアです。 何時もの如く、のんびりとデートをしてると思います。 すれ違ったら、よろしく!

  3. セロンガード・シュタインドルフ

    セロンガードです。 SAKURAを見物に参りました。 もしどこかで無事に出会えた時は よろしくお願いします。

  4. ユークリア・フィナンシェ

    ユークリア・フィナンシェです。 お友達と全力で日和りにいきます。

  5. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。 私は花見をしつつお仕事かな。 もしすれ違ったらよろしく。楽しい一日にしよう。

  6. エリオン・ザ・スターシーカー

    エリオンだよ。よろしくね。 桜かあ。僕、見るの初めてなんだ。とっても楽しみ! 一人で歩いているだけでも楽しそうだよね。お誘いがあるなら、それも嬉しいけれど! 皆も素敵な一日を過ごせるといいな。

  7. スィーリーン

    スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 桜、とても綺麗ですね……! 夜に桜広場に行ってみるつもりです。

  8. エルナ・クルプファルツ

    エルナです!皆様よろしくお願いしますね!ユークリアさん達とのどかにお茶して過ごす予定です!

  9. エヴァン・ピオネロ

    エヴァン・ピオネロです。流鏑馬を初体験…します! 一人で行くので、他にも流鏑馬をする方が居たら…現地で応援し合いましょう。

  10. No.10

    リディリディです・・・。 その、よろしくお願いします。 シャルガネは初めて行く土地となるので、色々見て回ろうかと思いましたが、 流鏑馬が出来るという事なので、ひさしぶりに弓を引いてきます。

  11. フリューリングスルフト=ティエラ

    フリューリングスルフト言うさぁ、フリューって呼んでね! うちは食事か甘味処にも行きたいなぁ〜。 あ、翠の園で踊ってるやも! 絡みは歓迎なんで見かけたり会ったら仲良くしてさぁ♪(手をふりふり)

  12. コルネリウス・アーラ

    コルネリウスです、よろしくお願いします。 イズさんと桜並木をお散歩しに行く予定です。

  13. エヴァン・ピオネロ

    リディリディさんへ 流鏑馬…ご一緒の方が居て嬉しいです!ヨロシク…お願いします。 何名くらい流鏑馬されるか…判らないので、皆さんへ…って形で 帰りに、屋台と…桜に行きませんか?と誘ってますので、少し見れるかもです。

  14. No.14

    あ、その・・・、ピオネロさん・・・。 すでに書いたプレイングの変更が難しいのですが、町を見て回れるのはその・・・、魅力的です。その時にはよろしくお願いします。

  15. エフィルミア

    エフィルミアです!よろしくお願いします! 私も流鏑馬に挑戦しますねっ。 弓の扱いくらいお手の物ですよ!多分! 屋台と桜も一緒に楽しみましょー!

  16. エヴァン・ピオネロ

    流鏑馬…増えましたね…!エフィルミアさん…ヨロシクです! ぼくのプレは、屋台と桜に誘った後は、MS一任なので プレの変更までは考えなくても大丈夫ですよ、安心してくださいね。 はい、楽しく過ごしましょうー!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0