エルタ・リコの何でもない一日
空色みなも
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シナリオID:644
オープニング
この町にある冒険者の宿「女神の賽子亭」の名物女主人、シリス・アローゼアは宿に貼られた掲示板をしげしげと眺めていた。
「今日は珍しく、大きな仕事がないねえ」
いつもハキハキとしているシリスが、のんびりとした声を出す。
小さな町の冒険者の宿にも関わらず、女神の賽子亭にはひっきりなしに大きな仕事や難しい仕事が舞い込んでくる。
それは薬となるキノコの採集であったり、なぜか遺棄されたゴリラの退治であったり、近くの集落を襲ったクリーパーの討伐であったり――。
しかし、この日はそうした難しい依頼が掲示板に並んでいない。
「まあ、悪いことじゃない。町が平和な証拠だからね」
とはいえ、滞在する冒険者が仕事に困るようではいけない。
シリスはしばし考え込むような仕草を見せる。
「あたしの遊びにでも付き合って貰って、それで小遣いでも出すかね」
長い耳にサイコロの耳飾りを揺らしながら、シリスはウキウキとした様子で、テーブルで朝食をとる冒険者たちに声をかけに向かった。
●
「おねーちゃん、見て見て、あれ!」
「あら、あれは……柿かしら?」
エルタ・リコに暮らすシブリングス姉妹の妹、イスタが服の袖を引っ張ることで、姉のアネータは歩みを止め、イスタの指差す方向を見やった。
イスタの指差す先では、屋台で柿が売られていた。
しかも、その柿は珍しいことに人の頭ほどに大きく、雪が詰め込まれた箱に大半が埋もれている。
「珍しいだろう? 冬の間、柿を雪に埋めて作ったシャーベットさ。冒険者の人たちが柿を護るときに魔法の吹雪を使っていた、という話から着想を得たんだ」
柿を売っていたのは、やはりエルタ・リコで青果商を営む男だ。
この青果商人は、屋敷の庭に巨大柿の木を植えており、それが危機にさらされた際、冒険者に依頼を出したことがあるのだ。
イスタは物欲しそうな目で、指をくわえて巨大柿を眺めている。
それを見たアネータは、財布の中身と柿の値札を見比べて、困ったような顔をしていた。
●
「ふぅ、一旦休憩を取りましょう」
エルタ・リコから数日の距離にある集落カラーフレムで、青年アックス・ドレッドは額の汗をぬぐいながら、木材を肩に担いで運んでいた周囲の人々に声をかけた。
カラーフレムは黒猫の姿をしたクリーパーに襲われ、住人の多くが犠牲になった過去を持つ。
アックスはその際の生き残りの一人であり、エルタ・リコで霊を祀る際に使用される色付き炎の蝋燭を作っていた職人でもある。
今は様々な設備がクリーパーに破壊された集落の復興に、アックスも従事している。
「なんとしても、次の祭までに蝋燭を間に合わせないと……」
カラーフレムで犠牲になった同胞の霊を祀るためにも、早く再び蝋燭を生産できる態勢を整えなければならない。
アックスは静かに決意を燃やしていた――深紅の蝋燭の炎のように。
解説
マスターより
リプレイ
青果商の屋台を前に、アネータが困り顔をしていると、スッ、と横からリディリディ・トゥラ・イェレミースが割って入って来た。
「美味しそうですね。私に一つ、頂けませんか」
リディリディには心の機微が分からぬ。けれども美食に対しては、人一倍敏感であった。
繊細な感情に疎いリディリディは、物欲しそうなイスタを横目に、その場で柿のシャーベットを一人、賞味しようと考えていた。
このまま止める者がなければ、リディリディはイスタの目の前で、詳細なグルメレポートを行なっていただろう。
「わあ、とても立派な柿ですね」
そこへ訪れた救世主が、散歩中ふらりと屋台に惹かれて立ち寄った、コルネリウス・アーラであった。
コルネリウスは人々の様子、そして柿の箱に貼られた値札を流れるような目線で追うと、瞬時に状況を理解し、助け舟を出した。
「一人では食べきれそうもありませんし、どうでしょう。よかったら、お金を出し合って皆さんで分けながら食べませんか?」
「えっ、いいの?」
コルネリウスの提案を聞いて、希望が見えたイスタが目を輝かせる。
「そのお話、よければ私にも乗らせてください」
そこに先程から少し遠目に屋台を眺めていたスィーリーンも現れて加わった。
果物を用いた菓子が好物のスィーリーンは、シャーベットに興味津々であったものの、一人で食べきるには大きいサイズの柿に、二の足を踏んでいたのだ。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「いえいえ、いいんですよ。それより、早く食べてみましょう!」
深々と頭を下げるアネータに、食欲が先に立つリディリディが配膳を促す。
「ヘタのところを切って、中身をすくうんですね……! 面白いです」
青果商から借りた鋸で凍った柿のヘタが切り取られ、中身が器に盛りつけられていく様子に、スィーリーンは興味深げに見入っていた。
「故郷の森にも雪は降りましたが、こんな素敵なアイデアは思い付きませんでした」
「冒険者の方なので特別にお教えしますが、塩をまくと雪はより冷たくなるんですよ」
雪で果物を凍らせるという発想に、コルネリウスも感心した様子だ。
青果商もかつて冒険者に助けられた恩義からか、秘密の製法をコルネリウスにこっそり教えていた。
「冷たくて甘くて、とても美味しいです……! 冷やすと食感も変わるのですね」
実際にシャーベットを口にしたスィーリーンが、顔をほころばせる。
柿のシャーベットは果実の持つ素朴な甘みに、シャリッとした食感が加わり、他の菓子では味わえない妙味を生み出していた。
「お肉とはまた違った美味しさがありますね。冷たくて汁気も豊富、果実は食べ飽きたと思っていましたが、これは実にいいです」
どちらかというと肉類が好物であるところのリディリディも、口いっぱいにシャーベットを頬張って満足げに頷いている。
「友人や故郷の家族にも、教えてあげたいです」
コルネリウスもシャーベットが満足のいく味だったのか、柔らかく微笑んだ。
見れば、アネータもイスタも初めての味に感動を覚えている様子だった。
「あまり美味しいものですから、あっという間になくなったように感じますね」
中身が空っぽになった柿の皮を見て、スィーリーンが名残惜しそうに呟く。
「え、おかわり……ですか? ふふ、では今日は贅沢して、もう一個食べちゃいましょうか」
そしてコルネリウスは、もっと欲しいとでも言いたげなイスタの顔を見て全てを察し、青果商に注文を伝えたのだった。
●
エルタ・リコの町角、小洒落た飲食店のテラス席で、男女二人がお茶を口にしていた。
「この前はチョコ、ありがとうな」
そのうちの一人、御堂・秀哉が、互いにティーカップを置いた機会を見て、向かいに座っていた相手に声をかける。
「どういたしまして、御堂さん。お口に合ったならよいのですが」
その相手というのが、シャルロッテ・レッフラー。
秀哉とのなにげない会話に受け答えするシャルロッテの声は分かりやすく弾んでいて、その機嫌のよさが窺い知れた。
チョコを受け取るその日まで、秀哉はシャルロッテを特別、意識していたわけではなかった。
しかし、今シャルロッテを目の前にして、どことなく落ち着かない、すわりの悪いような心地がする。
秀哉は内心、苦笑する――我ながら情けない話だ、と。
「そういえば、シャルロッテ。ひとつ、聞いていいか?」
そこで、頭の片隅に引っ掛かっていたことをふと思い出し、秀哉が問いを発する。
「なんで私が冒険者を、ですか?」
その問いが意外なものであったためか、シャルロッテは目を丸くした。
「ああ。シャルロッテみたいに容姿も性格もよくて、おそらく家柄も低くない……そんな年頃の娘さんが、なんだってこんな危なっかしい世界に?」
秀哉は率直な感想を告げているだけのつもりであるかもしれない。
しかし、その言葉は無自覚にシャルロッテのことを持ち上げていたため、シャルロッテはかすかに顔を赤らめていた。
「……叔父が冒険者だったから、でしょうか」
そしてシャルロッテが自らの胸の内に問いかけ、出した答え。
冒険の末、帰らぬ人となった叔父が、在りし日に経験談を語る際、子供のように輝かせていた目を、シャルロッテは今も鮮明に思い出せる。
その瞳に刻まれていたであろう景色を、シャルロッテもまた、見てみたいというものであった。
「……そして、夢を追う人をちゃんと帰らせてあげたくて。他にも色々あるけど、動機はそんなところです」
自らの話をそう締めくくったシャルロッテは、何故そのようなことを気にしたのか、と秀哉へと問い返した。
「んー、そうだな……知りたくなったんだ。ロッテの事が」
秀哉の答えに、シャルロッテは先程よりさらに目を丸くして。
「これからもよろしくね、シュウヤ」
すぐに、柔らかい微笑みを返したシャルロッテであった。
近づいた二人の距離感を象徴するように。
帰り道、並び歩く二人の姿は互いに寄り添うようで。
秀哉はそっと、横を歩くシャルロッテに手を差し出した。
●
「あ、何してるの?」
バクル・バスリーがぶらりと女神の賽子亭を訪れると、テーブルに冒険者たちが集まり、シリスから何やら説明を受けているところであった。
「ゲームを教えてもらっているところですわ。よければご一緒にいかがかしら」
「どう、かな? ちょうど一席空いてる、し」
席に着いていたセリーヌとティトが、バクルに手招きをする。
「私もそれで構いませんよ」
「そっか、じゃあお言葉に甘えるね」
同じく相席していたらしいヴィルヘルミナも了承の意を示したので、バクルは空いていた席に腰かけた。
「へぇ、ダンジョンになってるんだね、これ」
バクルはテーブルに広げられたボードに描かれた迷宮のイラストを見て、目を輝かせている。
「ええ、ダンジョンへ潜って持ち帰った宝物の価値と合わせた所持金の多さを競う……こう言うと、まるで私たちのお仕事みたいですが」
ヴィルヘルミナは休暇に仕事を思い起こしてしまったことに苦笑してみせるでもなく、ゲームの遊び方をバクルに教えた。
どうやらこのゲームでは、ダンジョンに潜る際、最初に配られた手札の装備品を駆使するらしい。
しかし手札には上限があり、持ち帰るべきお宝も手札の枚数を圧迫するため、少ない装備品で攻略できるならば見返りも大きいのだとか。
そこで調整のため、装備品は最初にプレイヤー間で売り買いすることもできる。
もちろん、装備品が少なければ、その分ダンジョンで危険に遭遇する率も高まる。
「ぼくの装備、誰か、買い取って」
「あ、じゃあ私が買うわ。コイン十枚でいい?」
ティトの呼びかけに、セリーヌが応じる。
ゲームで勝敗を競うといっても、もともと行動を共にしていた二人は和気あいあいと遊んでいた。
「ぼくも装備を大放出するよ。安くしておくから、誰か買ってみない?」
「勝負に出ましたね。いいでしょう、私が買い取ります」
バクルの申し出を受けたのは、ヴィルヘルミナだった。
ヴィルヘルミナの指摘通り、バクルの打った手はリスキーだ。
しかし、上手く危険を避けることさえできれば、多くのお宝をそのまま持ち帰れるかもしれない、リターンの大きい行動でもあった。
「お、切り立った崖、ってイベントが出たわね。早速ティトから買ったロープが役に立ったわ」
「セリーヌの役に立ったなら、よかった」
コマを進めた先に置かれていたタイルをめくり、装備品により危険を回避できたことをセリーヌが喜ぶ。
ティトもセリーヌに対しては勝敗のことは脇に置いているのか、一緒になって喜んでいるようだった。
「私はここで宝物を拾うより、もっと深部の価値が高い宝物を狙ったほうがいいですね」
多数の装備品を買い取ったヴィルヘルミナは、危険を恐れず、グイグイと自らのコマを進めていく。
「逆に、ぼくは荷物に余裕があるし、どんどん拾いながら進むほうがいいよね」
一方で、バクルは慎重にコマを進めながら、見つけた宝物をためらわず回収していった。
こうしてゲームは続き、いよいよ終盤を迎える。
「大蝙蝠が出た……!? 装備に弓があれば……!」
「うう、残り体力、少ない」
セリーヌも、ティトも、度重なるイベントによりコマに設定された体力が残りわずかとなっていた。
このダンジョンは深部に進むほど、対応できる装備が少ないイベントが起こるのだ。
「そろそろ引き返さないで大丈夫ですか?」
「このままじゃ、たぶん勝てないからね。とはいえ、最後が大事だから、ここで積み上げた物をダメにしないよう気を付けないと」
ヴィルヘルミナがここで指摘したように、もし引き返すことなくコマの体力が全て尽きれば、せっかく手に入れた宝物の一部を失ってしまうことになる。
そこでバクルは引き際を慎重に見極めようとしていた。
そして――。
「やった! 勝ったー!」
最終的に、一位を取ったのはバクルだった。
「おめでとう。勝ちは逃したけれど、ティトと一緒に遊べて楽しかったわ」
「ぼくも、セリーヌと一緒、楽しかった」
セリーヌとティトも、それを惜しみない拍手で讃える。
「楽しかったですよ。遊び疲れたことですし、外の空気でも吸ってきますね」
お酒は自前がありますが食べ物も欲しいですからね、と付け加えたヴィルヘルミナは、どうやら買い食いでもしてくるつもりのようだ。
「そういえば、熱中すると、水分欲しくなるね」
思い出したようにバクルが呟くと、ドリンクメニューを持ったシリスがそばでにこやかな顔をして立っていた。
●
「やはり奢りで食うメシはうまいな」
「まさか、あんなにすぐに当てられるなんて思わなかったさぁ」
エイル・ビュセファスが上機嫌でランチを食べる目前で、フリューリングスルフト=ティエラは悔しそうな顔をしていた。
二人はどうやら昼食の支払いを賭けてゲームを行い、エイルが勝利を収めたところのようであった。
「なぁエイル、デザート賭けて最後の勝負しようさぁ」
「あぁ、いいぜ。負けても泣くなよ?」
フリューリングスルフトが仕掛けたさらなる勝負を、エイルはニヤリと笑い、受けて立った。
「ん~、よし。答えも決めたさぁ。うちが何になりきってるか、当ててみせるさぁ」
今度は先程のようにはいかない、とばかりに、フリューリングスルフトは不敵に笑ってみせる。
「また瞬殺してやる。あんたは生き物か?」
「違うんさぁ!」
エイルが投げかける質問に、フリューリングスルフトは一つ一つ、イエスかノーで回答していく。
食べられるか? イエス。
熱いものか? ノー。
甘いものか? イエス。
「正解は……はい、開けてみて?」
質問が核心に近づいてきたのを見たフリューリングスルフトは、そこでゲームを中断し、小箱の包みを取り出してエイルに渡す。
「あ? チョコ? 礼のつもりなら金目のものの方が喜ぶぜ?」
「いつもありがとうさぁ。これからもよろしくってことで!」
エイルが包みを開くと、ハーブチョコの小箱が姿を現した。
フリューリングスルフトはニコニコとエイルの反応を窺っている。
「ま、貰えるもんは貰うが……」
熱烈な視線を感じながらも、エイルはチョコをひとかけら口にした。
「食べた? 食べたよね! ふふふ、さぁエイル! お礼にうちに柿シャーベット奢るさぁ!」
それを見たフリューリングスルフトは、オーガの首でも取ったように返礼を要求した。
「はぁ!? 賭け勝負の報酬だから関係ねぇだろ! つぅか、押し売りじゃねぇか!」
エイルはしっしっと手で追い払おうとする。
「感謝の気持ちは本当さぁ。なぁ、ええやろ? なぁなぁ」
「ちっ……仕方のないヤツだ」
しかしフリューリングスルフトが袖を掴んで離さないため、エイルはとうとう根負けしたのか、なんだかんだで青果商の屋台へ向かったのだった。
●
「わたくしアウル様に勝負を申し込みますわ!」
「あァ、カード勝負だァ?」
キャロライン・スノーイーリスが仁王立ちでビシッと指を差した先で、アウル・アンサラーはいかにも面倒くさそうな顔をした。
「この知的美少女を捕まえてアホっぽいと連呼するその勘違い、今日こそ正してさしあげます!」
「はァー……別に構わねェが、早速滲み出てんぞ、アホっぽさが」
キャロラインの勢いに、どうせ断ってもしつこいだろうと、アウルは呆れ気味に勝負を受けて立つ。
二人が臨むのは、複数枚のカードを組み合わせて役を作っていき、陣地に置いた役の強さによって、陣地の所有権を奪い合うゲームだ。
「ふふ、どうです? さっそく一つ、役を作りましたわよ」
テーブルにカードを並べつつ、序盤は調子よく手を進めていたキャロライン。
(最初は多少負けても問題ねェ。今のうちにクセを見極めておかねェとな)
しかしアウルは不利に焦ることなく、じっとキャロラインを観察していた。
「うっ……ちょっと調子が悪いですの」
そしてキャロラインも徐々に押し返され始める。
先に役を揃えてカードを陣地に置いたはいいものの、それを強さで上回る役をアウルが次々と置いていったからだ。
「どうした? 威勢がいいのは最初だけかァ?」
「くっ、精神攻撃ですって……!?」
こうしてアウルがキャロラインを煽るのにも、狙いがある。
キャロラインは物事を深く考えるようなタイプではないとアウルも踏んではいるが、波に乗れば理不尽なツキが回って来る、そういう相手だ。
そうなる前に揺さぶりをかけ、崩していく――それがアウルの策だった。
そして――。
「見ろ、これが結果だ」
「わたくしには見えません……持病の眼精疲労が!」
アウルがキャロラインによく見るよう促したテーブルにズラリと並べられたカードは、アウルの圧勝を示していた。
「またワケの分からねェこと言ってんなァ……溢れてんぞ、アホっぽさが」
アウルは目元を手で押さえるキャロラインを無視して、屋台で買ってあった柿のシャーベットをむしゃむしゃと食べている。
「くぅ、ゲーム強いアウル様かっこいい! それがまた悔しいですの~!」
あえなくアホの子の汚名返上を逃したキャロラインはしばらくの間むくれていたが、デザートのシャーベットを口にすると、その甘さにすぐ機嫌を直して表情をほころばせた。
●
ナハシュの手にしたカップの中で、カラカラ、とサイコロの小気味よい音が鳴る。
カップはそのままタンッと勢いよくテーブルに伏せられた。
「出目は12だ。通すか?」
中が自分だけに見えるよう、カップの端をそっと持ち上げたナハシュが一瞬ニヤリと笑い、問いかける。
「いいよ、通そう」
その様子をじっと眺めていたヨル・スレイマンは、あっさりとした様子で答えた。
「ふぅん、いいのか? 俺が嘘ついて多めにメダルをがめようとしてるかもしれねぇぞ?」
「今日のナハシュ君は運を味方につけているように見えるからね」
意外そうな顔をするナハシュに、ヨルはあくまで飄々と話す。
「まぁいい、メダル12枚もらってくぞ。そういえばヨル、飲まないのか?」
「勝負時は酒飲まないことにしているんだよね」
ナハシュはほくほくとした顔でテーブル中央に積まれたメダルから12枚を手元に引き寄せつつ、不思議に思っていたことを尋ねる。
ヨルの答えからすると、遊びの賭け事とはいえ、勝敗にはそれなりにこだわりがあるということだろうか。
「今度は俺だね……出目は10だよ」
手番はヨルに移ったようで、今度はヨルが二個のサイコロを入れたカップを振り、伏せた。
「さっきから妙に宣言する出目が高いんだよな……よし、その出目、ダウトだ」
ナハシュが目を細めてヨルの顔を眺めるも、ヨルの目元は隠れており、どうにも表情が読めない。
そこでナハシュは勝負をかけてみることにした。
「今回は本当に出てるよ。今回は、だけどね」
宣言を疑われたヨルがカップを開けると、二個のサイコロはそれぞれ4と6の目を上に止まっていた。
「さては、これまでの出目のほうを吊り上げてたな……もってけ」
ナハシュは悔しがりつつ、自らの手元にあるメダルを10枚、ヨルに渡した。
こうしてメダルをやりとりしつつ、ゲームは進み――。
「日頃の行いがいいからね。勝負事はそんなにだけど、運試しは結構好きなんだ」
最終的に、既定のメダル枚数を先にためたヨルが勝利した。
「やれやれ、負けたか。約束通り、メシ代と宿代は払ってやるよ。でもな……それはそれとして、俺も食うぞ! 宴会だ!」
「浮いた金で酒を頼もう。ナハシュ君にも分けてやるよ」
ナハシュが注文のためにシリスを呼び、ヨルがメニューから好きなものを選んでいく。
二人は勝負のあとくされもなく、和やかに宴会を楽しんだ。
●
「えと、私は聖職者です。シリスさんのカードを確かめたところ、善良な村人でした」
「おっと、騙されちゃダメですよ。私が本物の聖職者で、クローリカの正体は悪しき吸血鬼なんです」
おずおずと手を上げて名乗り出たクローリカに、やや食い気味に発言を被せて来たのはルアンナ・ミュラーだ。
二人に加え、テーブルの周りにはシリスとアネータが席に着いていた。
なにやら物騒な単語が飛び交っているが、これもシリスが二人を誘ったゲームの一環である。
なお、アネータは食べきれず余った柿のシャーベットのおすそ分けを宿に届けに来たら、ゲームに巻き込まれた形となる。
「お嬢様は吸血鬼ではない私のことを、吸血鬼とおっしゃっています。嘘をついているので、お嬢様こそ吸血鬼ですね」
村人に化けて紛れ込んだ吸血鬼であると名指しされたクローリカは、それに対し精一杯の反論を試みる。
「そもそも聖職者は最大でも一人までしかいないので、私が誰を何と言おうと、クローリカが本物の聖職者なら関係ないはずですよ?」
しかしルアンナも負けじと言い返す。
「おっと、時間だね」
しばし続いた二人のやりとりを、シリスが制止した。
「それじゃあ各自、吸血鬼だと思う相手を指差しておくれ。せーの!」
シリスの掛け声と共に、ゲームの参加者は一斉に指差しを行う。
互いに相手が吸血鬼だと主張し合う、ルアンナとクローリカは当然のように互いに指を向け合い。
そして、アネータは恐る恐るもクローリカを指差し、シリスはビシッとルアンナに指を向けていた。
「ではカードの公開ですね……私は本当に聖職者だったんですよ」
「あはは、ごめんなさい。私のほうは吸血鬼のカードですね」
クローリカが申し訳なさそうに、手元に伏せられたカードを公開すると、なるほど、確かにそこには聖職者が描かれている。
一方、ルアンナがめくったカードには、おどろおどろしい吸血鬼の姿が描かれていた。
ちなみに、シリスとアネータの手元に配られていたカードは、二人が村人であることを示していた。
また、テーブル中央に一枚伏せられていたカードは、もう一枚の吸血鬼である。
「同数の場合は、吸血鬼を指せなかった村人がいるかどうかで判断される、でしたね。今回は吸血鬼の勝ちです♪」
「むむ、せっかく一回が短いゲームですし、もう一勝負といきましょう」
ご機嫌のルアンナに対し、クローリカは次の勝負を挑むべく、カードを回収してシャッフルする役割を買って出ていた。
●
「カードですか……ふむ、面白そうですね」
女神の賽子亭で共にテーブルを囲む仲間からゲームに誘われ、ガレシアス=エルムートは一時の思案の後、頷いた。
「ああ、せっかくだ。ちょっとした賭けをしようじゃないか」
スヴァン=ウォルフ=ユーウェンは、シリスから借りたカードの束を手に、仲間たちへと提案を行う。
「まぁ、賭けるんですの? でしたら、私は程々のところで楽しみますわね」
賭け事と聞いて、ネーヴェ・グラヌローザは目を丸くしてみせたものの、それで引き下がるつもりもなさそうだ。
「どうだ、お前もやっていかないか?」
慣れた手つきでカードをシャッフルしながら、スヴァンが近くを通りかかった相手に声をかける。
「美男美女のお誘いならお断りするわけにはいきませんね、やりましょう」
声をかけられた相手というのが、たまたま女神の賽子亭を訪れていたキーゼである。
「まあ、お世辞が上手ですのね」
「僕は思ったことをそのまま言っているだけですよ」
頬に手を当て照れ臭そうに振る舞うネーヴェに、キーゼは表情筋が生きているか怪しいような真顔のまま答えた。
もしこれから行うゲームで、キーゼの表情から手を読もうと思ったら、苦労するのは間違いないであろう。
「あまりこういう遊びをしたことがないもので、よろしければ軽くルールをご教示いただけますと嬉しゅうございます」
「ああ、いいぞ」
ネーヴェの要望に応え、ゲームを遊び慣れない参加者にスヴァンが手ほどきを行なっていく。
「ははぁ、五枚の手札の組み合わせで、役を作ってその強さを競うわけですね。これは興味深い」
「加えて、役の強さに対する自信に応じたチップを賭けてやりとりすることになりますね」
そのルール説明をガレシアスが感心しながら聞く横で、キーゼが補足を行っていく。
「よし、ルールはこれで大丈夫だな? ゲームを始めるぞ――賽は投げられた、ってな」
「これから始まるのはカードですけどね」
スヴァンのツッコミ待ちの発言に、即座にキーゼが反応したところで、いよいよゲームが開幕した。
「こう見えて結構運がいい方ですの、そう簡単には負けませんわよ」
配られた手札がよかったのであろうか、ネーヴェは早速、ウキウキとした様子を見せている。
「なるほど、面白い」
スヴァンは自らの手札を眺めて、すでに勝ち誇ったような顔だ。
実際に強い役が出来ているのかもしれないし、あるいはハッタリかもしれないが、それはショーダウンまで分からない。
「ふむ……」
一方、キーゼはエールを嗜みながらも、絵に描いたような無表情を貫いている。
その実、キーゼはゲームの参加者の一挙一動に目を光らせ、油断なく場の空気を読み取り、戦略に組み込んでいた。
「私もいい札が揃いましたよ」
「ほう、たいした自信だ。じゃあ、いくぞ――勝負!」
ガレシアスがその利発そうな顔に不敵な笑みを浮かべ、掛け金のチップを惜しみなく積み上げる。
それを受けたスヴァンの掛け声で、参加者が一斉に手札を公開すると――。
「ふるはうす」
「そりゃツーペアだな」
自信満々に役を宣言したガレシアスに、スヴァンの容赦ない指摘が突き刺さった。
そんな一幕を挟みつつも、ゲームは進み――。
「先程、それほど強くない手札で賭けていらしゃったので、今度もブラフかと思いましたが……ちゃんと強い役を揃えていらしたのですね」
「ペースを乱すのも戦略のうちですので」
ネーヴェの感嘆の声を受けてなお、キーゼは得意げになるでもなく、冷静にマイペースを保っている。
キーゼは時にブラフは挟みつつも、勝算が高い場面でのみ勝負に出る慎重さを持ち合わせていた。
「うう、さっきから私、チップを吐き出す一方なんですが……」
「とりあえず同額のチップを積むことを繰り返してりゃそうなるわなぁ」
肩を落とすガレシアスを見て、他でもないそのガレシアスからありがたくチップを受け取り続けているスヴァンが、苦笑の声を漏らす。
「参りました! すっからかんです!」
そして、ついにガレシアスのチップが尽きたことで、ゲームが終了した。
「こういうのもなかなか楽しいものですわね。皆様、お酒は飲めますかしら。最後は皆様で乾杯と致しませんか?」
「こうして美しい女性や既知の男性と遊べるだけで値千金ですよ、僕としては。せっかくなので僕から一杯、奢らせてください」
ゲームの後はネーヴェとキーゼの提案により、宴会が始まり――。
「さっきから気になっているんだが、シャーベット、っていうのか、あれ? チョコレートのシャーベットはないのだろうか……」
スヴァンは、アネータが女神の賽子亭におすそ分けとして持ち込んだ、柿のシャーベットの存在を気にしていた。
最後はスヴァンの視線に気づいたアネータにより、デザートに柿のシャーベットが振る舞われたのだった。
●
カラーフレム――それはエルタ・リコから少々の旅を要する場所にある集落。
都市部を離れ、山間部に差し掛かろうという位置にあり、周囲には湖が点在している。
そうした湖の近辺が有している特異な植生は、この集落で行われていた蝋燭生産に大きく寄与しているところである。
都市同盟に属しながら豊かな自然に囲まれたカラーフレムの集落は、かつて受けたクリーパーの襲撃により、今や復興途上にあった。
クリーパーは主に生きた人間を狙っていたため、建物に対する被害は壊滅的ではなかったものの、決して無視できない損害を被っていたのは確かである。
そのカラーフレムを、復興に携わる住人達の様子を眺めながら、ぷらぷらと歩く姿が二人分。
「……ま、何はともあれ平和になってよかったんじゃね?」
そのうちの一人というのがゼラルム・エルホワイト。
ゼラルムは、カラーフレムを襲ったクリーパーとかつて対峙した冒険者のうちの一人でもある。
闇靄の黒猫と名付けられたクリーパーとの対決は、苛烈を極めるものだった。
そのためにゼラルムがカラーフレムを訪れた際は、当然のように、集落に住人の姿はなかった。
それが、今は少しずつとはいえ、住人による活気を取り戻している。
「……そうだね」
そして隣を歩くもう一人がサニー・フォン・オルライト。
二人は多くを語らない。
集落が奏でる復興の音に、静かに耳を傾けながら、歩んでいた。
(喪ったモノは還らない。それでも人々は前を向いて歩いて行ける……強い人たちだ)
サニーはそっと目を伏せて、カラーフレムの人々の心に思いを巡らせる。
今となっても戻らぬ人々のことを、集落の住人も決して忘れたわけではあるまい。
歩みを止め、振り返りたくなることも、きっと幾度となくあったはずだ。
しかし、人々はこうして未来に目を向けている。
サニーはそうした人々の姿に自らの信念を重ね、強い共感を覚えていた。
同時に、サニーは隣を歩くゼラルムが、この集落の未来を取り戻すために一役買ったという事実を、ちょっぴり誇らしくも感じたのだった。
●
「ごきげんよう、アックス殿。平素、女神の賽子亭を利用してます、ドローミと申します」
ドローミは名乗りつつ、木材を椅子代わりにして腰かけていたアックスに声をかけた。
「お噂はお伺いしています。クリーパー討伐時にご尽力いただいたそうで……」
アックスはドローミに気付くと、慌てて立ち上がって礼をする。
「住人の戻り具合は如何ですか? 一応、授恵者ですので、今回は力仕事も行えます。何かお手伝いさせてはもらえませんか」
ドローミはカラーフレム復興の進み具合をアックスに尋ねると共に、手伝いを申し出た。
「その話なんだけど、ボクにも手伝わせてもらえないかな?」
そこへエルゼリオ・レイノーラが姿を現す。
「クリーパー討伐に参加はしてないけど、お手伝いがしたいんだ。できれば、色付き炎の蝋燭が作れるくらいにまで」
じゃないと犠牲者の霊を祀ることができないから――最後にそっと、エルゼリオはそう付け加えた。
「これをあちらへ運べばよいのですね?」
「うん、お願い」
力仕事を買って出たドローミに、土木工事の知識を持つエルゼリオが知恵を貸すことで、カラーフレムの復興作業が目覚ましいペースで進んでいく。
二人の授恵者で出来る範囲には限りがあったものの、それでも土地を覆っていた瓦礫の多くは撤去され、住居の基礎が作られ、井戸は新たに掘り直された。
「次のお祭りまでに蝋燭を間に合わせるには、どうしたら良いですか?」
復興作業がひと段落したところで、エルゼリオはアックスに問いかける。
エルゼリオにとって、カラーフレムの人々が慰霊を行ない、前に進んでいけるようにすることは大きな関心ごとであったからだ。
「そうですね、まずは生活基盤が整うことが一番ですが……職人の中にも戻らない者がいますので、後進の育成も必要でしょうね」
アックスの答えたように、今も生きる人々の生活が確保されることがスタート地点である。
そういう意味では、エルゼリオとドローミが復興を手伝ったことで、確かに蝋燭の生産再開に一歩近づいたとも言えよう。
「貴方たちにはこれをさしあげましょう」
作業が中断されている間、ドローミは人々に振る舞う昼食の調理を行っており、女神の賽子亭で買ったパンを温める匂いに釣られて寄って来た子供たちに、手持ちのチョコレートを配っていた。
復興に従事する住人たちは、ドローミの温めたパンとスープに舌鼓を打って疲れを癒し、日が暮れるまで作業を続けた。
もちろん、エルゼリオとドローミの二人もその日の間中、住人たちを助け、作業を手伝ったのだった。
マスターコメント
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2021年03月06日 04時48分57秒 公開
参加者
相談掲示板
ドローミと言います、今回も宜しくお願いしますね。 【質問】 黒猫の依頼、最初の回?参加しておらず不明なのですが、事件の期間カラーフレム住民は避難していましたか? 今回は、作業の手伝いに行きたいと思っています。
集まってくれてありがとうね、あんた達。 【回答】 詳しいのは2回目にあたる「【凶兆】乖離する闇靄」のオープニング描写だけど。 ざっくり言うと、闇靄の黒猫は突然カラーフレムに現れて住人に被害を出したから、現在残っているのは、運よく難を逃れてどこかで保護されていた住人か、カラーフレムを故郷にしていた者や、カラーフレムに移住しようと考えている者、ってことになるね。 今、集落にいない住人も、なにせ遺体が残っていないもんだから扱いとしては「行方不明」なままの者も多いね。 ただ、逃げるときに襲われていた人々を見た住人もいるし、犠牲者は確かに存在すると考えられているよ。
ルアンナです、よろしくお願いします♪ シリスさんのお誘いに乗ってゲームしようと思ってます!
おかみ ありがとうございます。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 今の所ひとりなので、アネータさん達とお金を出し合って皆でシャーベットを食べたいな、と思っているのですが 他にも食べる方や興味のある方が居れば是非ご一緒しませんか。
No.6
リディリディです。その、よろしくお願いします・・・。 アーラさん、あの、よければ参加させてもらって良いでしょうか。 シャーベット?というのに興味が、その・・・、あります。
スィーリーンと申します。よろしくお願いします。 コルネリウス様、私もご一緒させていただいていいでしょうか? シャーベット、是非食べてみたいと思って。
>リディリディさん、スィーリーンさん 勿論です、是非ご一緒しましょう! 気になりますよね、私も食べた事はないので、とても楽しみなんです。
コルネリウス様、有難うございます。 リディリディ様もよろしくお願いしますね。
シャーベットご一緒の方はタグあった方が良さそうでしょうか。シンプルに【柿】でひとまず纏めておきますね。
No.11
>アーラさん、スィーリーンさん は、はい。よろしくお願いします。 【柿】ですね。プレイングにはそちらを記載します。
タグは【柿】ですね。了解いたしました。
エルゼリオ・レイノーラだよ。今回は宜しくね! ボクはカラーフレムの復興をお手伝いする予定。