【帝国】迫りくる死地

広大野人

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シナリオID:3324

オープニング

●
 北伐隊は帝都に向かって転進。
 その行軍スピードはコンラートが想定していたものよりも早かった。
 というのも、物資の管理と備蓄、補給路の整備や迂回路の選定など、これまでの冒険者の働きが大いに役に立っていたからだ。
 コンラートが率いる精鋭部隊は、本隊に先んじて東部街道に到着。オルセンに残していた予備兵力と合流し、進軍は順調……と思われた矢先、火急の知らせが飛び込んで来た。
「クリーパーの南下だと!?」
 北伐隊が倒し続けていた軟体クリーパーは、結局倒しきれる事は無かった。
 本格的な冬の到来もあり、転進を始めた時、北伐隊を追うような兆しは見られなかったのだが、それが、このタイミングで南下してくるというのは如何なる理由なのか。
「理由は不明です。しかし、人為的な理由とは、とても思えません……ですが、ある意味、運が良かったとも言えます」
 もし、北伐隊がクリーパーの存在に気が付かなければ、そもそも、南下を開始した事を発見できなかったかもしれないからだ。それに、あれだけの期間、削り続けても倒しきれなかったクリーパーだ。無傷だと思うとゾッとする。
 別の側近が畏まって進言した。
「太守様。ここは取って返し、南下するクリーパーを討伐すべきです!」
 今ならオルセン郊外で迎撃が可能だろう。北伐隊の戦力は保持されたままなので、有利に戦えるはずだ。しかし、別の側近が声を荒げた。
「我々は帝都への援軍という事で、ここまで来たのだ! 今更、引き返しては帝都での戦いに遅れる事になる!」
「な、ならば、軍を二つに分けて……」
「帝国軍の威信が掛かっているのだぞ!」
「半分の兵力で、無尽蔵と思えるほど湧いてくるクリーパーと戦えというのか?」
 側近達は喧々諤々としてきた。
 オルセン軍公称1万5千のうち、北伐隊も合わせたほぼ全軍を帝都での戦いに投入する予定だ。
 理由は明白。他国の援軍に後れを取る訳にはいかないからだ。戦後の事も思えば、帝国軍は持てる全戦力を用意し、戦での貢献を少しでも示さなければならない。
 しかし、そうなるとオルセンは無防備になる。そして、オルセン防衛にどれだけの戦力が必要なのか、全く読めないのだ。
 側近達の視線がコンラートに集った。
 意見は出尽くした。後は太守である彼が決断するだけだ。
「我々、オルセンの民は『人類の盾』である。帝都での決戦に征竜は姿を現すだろう。故に我らが帝都に向かうのは当然の事。ここに一切の余地が無い事も、皆も理解しているはずだ」
 ぐるりとコンラートは視線を回し、言葉を続ける。
「我が軍は帝都に向かって進軍。オルセンの防衛は、民兵を招集する」
 それはつまり……民に犠牲を強いる事だ。
「避難を希望する者が安全に移動できるよう手配も怠るな」
 もともと、オルセンに住んでいない人々の大半は避難を選択するだろう。けれど、大部分のオルセンの民は残る事は分かっていた。
 なぜなら、都市全体が『人類の盾』を自負しているのだから。

●
 緊急を知らせる鐘の音が鳴り響くオルセンは慌ただしい様相だ。
 避難する者、戦の準備に取り掛かる者、抱えた在庫を投げ売りする商人、仕事を求め意気揚々としている傭兵……そして、忙しいのは、植物研究所に詰めているトレイシーとイグシィの二人も同様だった。
「研究員の半分も避難しちゃ、仕事が増えちゃうよね。まぁ、いいけどさ」
 トレイシーは逃げるつもりはなかった。研究を途中で放り投げる訳にはいかないし、そもそも、研究物や機材を持って避難するには無理があるからだ。
「こんな時だからこそ稼ぎ時だから、僕も逃げないよ」
 イグシィは商魂逞しいようだ。
 彼がやる気に満ちている要因をトレイシーは訊ねる。
「防衛戦に勝てるという事?」
「帝国の切れ者として名高いコンラート様が、勝ち目の無い戦いを民兵に押し付けるとは到底思えない」
 そして、視線を向けた先にはファンゾム。
 彼女は錫杖を床に突き音を立てるとニヤリと笑う。
「沢山奢って貰ったからぁ、食べた分は働くわよぉ~」
 こんな成りだが、名も無き神の一柱なのだ。
 現状のオルセンでは最大戦力なのは間違いない。コンラートがそこまで計算していたかどうかは分からないが、頼もしい存在ではある。
「ファンゾムさん、一人で勝てるの?」
 トレイシーの質問にファンゾムは首を傾げた。
「勝てるとは言ってないわよぉ?」
 微妙な空気が部屋の中に流れる。
 事情を説明するような視線をトレイシーから向けられて、イグシィが応えた。
「極北から南下してくるクリーパーは広範囲に広がっているようだ。ファンゾムさんが一人で頑張っても限界があるから、民兵に召集が掛かった。幸いにも、以前、構築した陣地があるから、それを使うようだけど……」
 民兵がどこまで戦えるのかは分からない。
 郊外での迎撃に失敗したらオルセンでの籠城戦になる訳だが……地中から現れる敵に対して城壁は何の役にも立たない。
「最悪、オルセンがクリーパーに飲み込まれて全滅ってのもあるのね」
 想像が出来ないようでトレイシーが他人事のように言葉を口にした。
 ファンゾムが身体を解しながら二人に告げる。
「大丈夫よぉ。勝てなくともぉ、負けるつもりはないからぁ」
 彼女なりの秘策があるようだが……?

●
 オルセンの城門近くまでやって来たファンゾムは意外な人物の見送りを受ける事となった。
「あれぇ? エクエス君、元気してたぁ?」
「はい。ファンゾムさんはこれから出陣ですか?」
「そうよぉ」
 二人は並び立つと城門を行き交う人々に何気なく視線を向けたまま会話を続けた。
「私(ボク)が戦えれば、手伝っていたのですが……」
「いいのよぉ。封印解除して貰っただけでぇ、十分だからぁ。それよりぃ、何か言う事があったんじゃないのぉ?」
「……はい。実は、記憶が戻りまして。多分、古のエーテルに触れたのが切欠になったみたいです」
 エクエスは記憶喪失だった。一時は片鱗を掴みかけた事もあったが、それ以上、踏み込まなかった。過去よりも今が大切だったからだ。
「そう。良かったわねぇ」
「あのクリーパーは私(ボク)が対峙した事のあるクリーパーと性質が似ています。強く、巨大なエーテルが現れた時、それを喰らう事ができるような姿になるはずです」
「その見立てのつもりよぉ……だから、ここでお別れねぇ」
「自分を犠牲にするつもりですか?」
 エクエスの質問にファンゾムはクスっと笑う。
「そんなつもりは無いわぁ。けれどぉ……この時代にぃ、わたしの居る理由は無いのよぉ。それだけの事ねぇ」
 ファンゾムはその眷属と信者一円を全て失っている。
 クリーパーとの戦いで全滅したのか、長い年月の中で埋もれていったのか、誰にも分からない。ただ一つ言えるのは、何の記録も無く、ファンゾムという存在だけが、浮いているようなものなのだ。
 それを人は『孤独』と呼ぶらしい。
「だからぁ、最後に華々しくやるつもりよぉ……神の死にぞこないが、今の時代の人々を守る為に散ったと語り継がれるようにね」
「分かりました。私(ボク)は覚えておきます。それでも50年かそこらだけですが」
 二人は微笑を浮かべて短く握手すると、それぞれ、目的地に向かって歩き出した。
 エクエスは王国に向かい、そして、ファンゾムは郊外に構えた陣地へと。

解説

●目的 クリーパーの討伐もしくは漸減 ●状況 極北から南下してきたクリーパーを討伐もしくは漸減します。 以前、『出撃! オルセン軍・北伐隊(100)』(シナリオID:3080)で使用した陣地を利用可能です。具体的な陣地状況については該当シナリオのリプレイを参照下さい。 また、冒険者達は以下の戦場を選択して参戦頂きます。 【1】ファンゾム援護 【2】民兵指揮 【3】後方支援 ※プレイングに選択表明が無かった場合はアドリブ対応とします。 ※選択の割り振りは均等である必要はありません。 ●戦場選択内容 【1】ファンゾム援護 ・ファンゾムのエーテルを喰らおうと集合化した巨大なクリーパーとの戦闘になります。敵の能力は極めて高い上に長期戦が予想されます。 【2】民兵指揮 ・予備役も含めた戦い慣れしていない民兵を十数人~数百人程度を指揮して陣地の外もしくは内にて防衛戦を展開します。 【3】後方支援 ・防御陣地内部での部隊支援を行います。民兵を数人~十数人程度、指揮する事も可能です。支援内容は救護、補給、陣地修復、投石器による援護射撃などになります。 ●クリーパー 『大型』以上と思われるクリーパー。極北にて北伐隊による攻撃を受けダメージを受けていると思われるが全体像は不明。 姿形は『墨色の形状をした凝膠体の塊』。人程度のサイズから5mを越えるサイズまで様々。 【判明している能力】 攻撃方法:体当たり、触手、強力な酸や分離体の射出等 分離合流:あるタイミングを使用して分離や合流が可能 エーテル吸収:エーテルを用いたアクションスキルを使用した際、受けたダメージの半分を直後に回復する(倒せれば回復しない)。 ●味方勢力 ファンゾム:名の無き神の一柱。自身のエーテルを故意に大放出する事で、クリーパーの一部を集合化させている。彼女を援護する場合、友好度及び交友関係の有無によって判定時、有利になる可能性があります。 民兵:判定の複雑さを回避する為、最小単位を1小隊(5人)1ヘクス占有として扱います。槍や弓で武装可能ですが、騎馬隊は居ません。オルセン住民は『人類の盾』としての自負が強く、多くの者が玉砕覚悟です。 ●その他 ・アドリブ対応多めになる可能性もありますのでご了承下さい。 ・NPCとの関わりにおいては、これまでの関わりによる友好度が存在します。友好度による『差』はあるものとしてご理解下さい。 ・NPCが紐付けされていますが、質問への回答は致しません。

マスターより

 おははようございます! 当依頼にて84作目となった広大野人です。  北伐隊はオルセンに残した予備兵力と合流し、『帝国北部方面軍』として決戦の為、帝都へと向かう事になりました……が、タイミング悪く南下してくる極北のクリーパー。  これに対し、コンラートは冷酷な決断を下します。つまり、帝国北部方面軍は帝都へ進撃。防衛戦は民兵に託す――『人類の盾』を自負するオルセン住民とはいえ、強大なクリーパーにどこまで戦えるものか……。  名も無き神の一柱であるファンゾムはコンラートからの要請を受けて参戦しています。彼女もまた、力尽きるまで戦い続けるつもりです。  難易度は『非常に難しい』です。作戦や行動・選択のミス、スキルセットや装備準備等の不足は容赦なくペナルティーになりますので、細心の注意をもって臨んでいただければと思います。最悪の状態時、ファンゾムは冒険者の存命を優先しますので死亡退場の可能性は大いにある事を明記しておきます。  それでは、依頼へのご参加、お待ちしております!

リプレイ

●
 回復や支援の魔法でファンゾムと冒険者達を援護しようと戦場に到着したレティシア・レインフィールは陣地の最前線で腰を掛けているファンゾムに声を掛けていた。
「以前、私自ら嵌めている枷を壊してしまう時が楽しみだと仰いましたね」
 それは貴族であるからこその逃れられない現実。
 ファンゾムはチラリと視線で応えつつ、ポンポンと手で地面を叩いた。
 ふわりとした動作でレティシアは彼女が示した真隣に座る。
「私は私の為の犠牲に報いる為、貴族としての務めに殉じ婚姻を結ぶ筈でした。でも、好きな人の傍にいたいと望んでしまった」
「枷が割れたのねぇ」
 そんな感想に苦笑を浮かべるレティシア。
「私の事が多分好きで、でも私には帰る場所があるからと別れを告げられてしまったけれど……私の想いを伝える為、彼が向かった帝都に向かおうと思います」
「行先があるのは良い事よぉ。大事にした方が良いと思うわぁ。時の流れは過ぎ去ってしまえば、取返しがつかないからぁ」
 軽い動きでファンゾムは立ち上がる――その蛇眼はどことなく寂しそうにも思えた。
「神でもあるのですね」
「それだけ長く寝ていたからかしらぁ。とんだ間抜けよねぇ~」
「ファンゾム様」
 彼女の名を呼び、レティシアは立ち上がると向き合った。
「『行先』はまだ残っています。私も貴方も」
「可笑しな事を言うのねぇ~。最初から何も残っていないわよぉ」
「あります。手に取って初めて分かるものも、あるのですから」
 想いに向き合って枷を外そうとしている己のように。きっと、彼女にも『行先』があるはずだろうから。

●
 巨大クリーパーの前面に立つにはゲルダ・クラインとルイドの二人。
「わたしも全力でお手伝いをさせていただきますね」
「戦力的にも簡単に散られたら困るからな」
 その言葉は二人のすぐ後ろに控えるファンゾムに向けられたものだ。
「頼もしいわねぇ」
 彼女が笑顔で感想を告げた相手は真横に立つローザリカ・L・ディオールだった。
 ローザリカはエーテルを高めながら、応える。
「君ばかり良い格好をさせるわけにはいかないから。それと、先日、ジュストを貸してやった借りも返して貰いたい」
「あら。何が良いのぉ?」
「征竜を討ち果して、伝説になるくらいのお代は払って貰わなくてはね?」
 つまり、彼(ジュスト)の価値はそれぐらいあるという事だ。
 当の本人であるジュスト・ヴェルジーが咳払いする。
「高みを望んで、至る為の努力は惜しまないが……ロゼの冗談さ」
「愛されている証拠じゃない~? 私も頑張るけどぉ、ジュスト君も価値に相応しい活躍をしてくれるのよねぇ~」
「……前線も長期戦も得意ではないんだけれどね。最善は尽くすさ」
 今回は敵との相性が悪いので両肩を竦めるジュスト。
 冒険者達とファンゾムのやり取りをシルヴィア・A・カペルはレティシアと共に見守っていた。
(覚悟を決めた者は、皆、同じ目をする……民兵も、神も、蟻亜人も……)
 それは死を厭わない目だ。
 同時に悲しい事でもある。死を覚悟するのと死ぬのは違う事だから。
(……太守にとっても苦しいご決断だった筈だ)
 もし、同じ立場にあったらシルヴィアも同じ決断をしていただろう。分かるからこそ辛い。
(私も『人類の盾』の一助となろう)
 決意を胸に秘め、シルヴィアは軍刀を抜き放った。
 キオルティスはその音を聞き、一歩一歩、地面を踏みしめながら進む。
「合流や分離時に核みたいなのが見つかればいいけど……望み薄かな」
 けれど、弱点が無い訳ではないはずだ。
 戦いながら良く観察して探っていくしかない。
「まずは、悪い影響(バッドステータス)を与えられるかだね」
 いつまで続くか分からない、死闘が始まるのであった。

●
 アルマ・ヴァレンタインは次々に運ばれてくる民兵の治療に追われていた。
「エクエスさんに、良い報告を届けたいし、頑張るよ!」
 その宣言通り、アルマと指揮下の民兵達の働きは多くの者達を助けた。
 担架や馬車を使って負傷した者を救護所に運び入れると、状態に応じて分けた上で、アルマが回復魔法を行使する。
「この人達をオルセンに搬送して欲しいんだよね」
 傷が回復してもすぐに戦えない者達は陣地に残っていても意味が無いので、後方――つまり、オルセンへと移していた。不穏分子を叩いたと言ってもまだ勢力が残っているので不安はあったが……。
(……鬼ならぬ主力がいない隙になにかしでかすかもと思ってたけど、このタイミングでの蜂起は無いみたい)
 オルセンで医療品を集めている最中、アルマは偶然にも熱心な征竜信者と遭遇したのだ。
 どうやら、皇帝恭順派が討たれた事で関係性が瓦解。独立派はクリーパーの南下を恐れ真っ先にオルセンを脱出したという。
 征竜信者も難民が主体だったので、多くの者が南に向かって避難しているようだが、一部の信者は残っているようだった。
(クリーパーが共通の敵というのなら、民兵に紛れて参加しているのかな?)
 今の所、それらしき人物の姿は見当たらない。だが、アルマがたまたま得た情報は、この後、活かされる事になるのだ。
 その時、アルマを呼ぶ民兵の声が響く。
 どこかで激戦があったようで、数える気にもなれないほどの人達が運ばれてきたからだ。アルマは救護スタッフを見渡すと、力強く頷いた。
「まだまだ戦いは続くから、気合入れていこー!」
 拳を挙げて応じる声がとても頼もしく聞こえるアルマであった。

●
 ローザリカの支援魔法が途切れるタイミングでシルヴィアが掛け直す。
「やはりというべきか、エーテルを用いた攻撃は威力が落ちるようだね」
 その分析にキオルティスが同意した。
「これなら、直接殴った方が早そうだ」
「攻撃は最大の防御という事かな?」
 5mを越える大きさのクリーパーは弱まる気配が全く無かった。
 ファンゾムを捕らえようと無数の触手を伸ばしてくる――それを冒険者達が弾き、あるいは切り落として防ぐ。
 いつでも回復魔法で援護が出来るようにと準備していたローザリカだったが、ファンゾムと並び立つとギュッと拳をつくる。
「僕も攻撃に回ろう。ただの素殴りだが、多少は鍛えているからね」
 淑女神拳ケレス流と特製のヒールから繰り出される威力は、多少というレベルではなく、クリーパーに十分なダメージを与える事ができそうだった。
「それならぁ。追撃は任せたわぁ」
 流し目でファンゾムが振り回した錫杖。
 直撃した部位が根こそぎ崩壊。そこにローザリカの蹴りが叩き込まれる。抉れた外縁部が更に広がった。
 ゲルダも天槍を突き出してダメージを稼ぐ。
「この調子で削り続けたい所ですね」
 ファンゾムと冒険者達の消耗は、想定よりも少ない。
 もちろん、油断はできない。いつでもファンゾムをカバーできるようには準備していた。それはルイドも同様だった。
「奴等は考えるって事はしないのだろうが……備えておいて損はないはずだぜ」
 攻撃に参加してみて分かった。手応えは確かに感じるのだが、違和感があるのだ。
 その違和感を最も抱いていたのがジュストだった。
 彼はクリーパーの合流や分離に気を配っていたのだ。
「周囲の敵が、減らない? いや、なんだ、この動きは……」
 地表に現れては巨大な集合体への合流を目指す個体と民兵に向かう個体の他に、再び地面に潜る個体がいるのだ。
 その意味が理解できたのは、シルヴィアの次にレティシアが掛け直した支援魔法の効果が切れた時だった。

●
 サウンドボマーは戦闘中での使用が出来ないが、イズレンディル・パラリムが陣地内に組んだ櫓の上は、戦場にあって、厳密には戦場では無かった。
「真北の方向に最大距離です!」
 その声は櫓の周囲に配置された投石器を操作する民兵達に聞こえた。
 イズレンディルにとって幸運だったのは、民兵達の中に正規軍の予備役が居た事と堅固な守りを誇るオルセンの城壁にも同様の投石器が設置されていた事だ。
 豪快な音を立てて投石器から打ち出される弾。
 それは出現したクリーパーの群れに直撃すると粉々にさせる。少し大きいサイズは倒しきれないが、それでも、前線の冒険者達の助けにはなった。
「状況は見ております。勝つ為にすべき事をこちらからお知らせします」
 陣まで敗走する一隊を見つけ、イズレンディルは的確に指示を出す。
 退路を用意しつつ、機動防御に徹している部隊に位置を知らせているのだ。そのおかげもあり、今の所、戦線が維持出来ていた。
「必ず勝てますよ」
 指示通り、黙々と投石器を打ち続ける民兵達にイズレンディルは声を掛けた。
 戦況を直接、視認できないので、後方支援に当たる人達は不安を抱くだろう。
 それが士気の低下を招く波となり、周囲に広がってしまう。それを許す訳にはいかない。
(クリーパーの一部は陣地ではなく、あちらに集まっているようですね)
 心の中で冷静に分析する。囮となっているファンゾムに向かって、次々にクリーパーが集まっているように見えたからだ。
 イズレンディルは意識を集中させ、呼吸を整えると、今一度、戦場を見渡した。彼ら彼女らを最大限に援護する事――それは一体でも多くのクリーパーを倒す事だからだ。

●
 懸念されていた陣地内へのクリーパーの出現は今の所、無かった。
「わたしが囮に出て、クリーパーを誘い出します。皆さんはそれを射って下さい!」
 安全な陣地内からサウンドボマーを使い、陣地外に湧いたクリーパーに向かってトーラが堀を飛び越えて向かう。
 誘き出されたのは数体のクリーパー。
 トーラに接近するまでに間に、集合を繰り返し、その大きさは人の背丈を簡単に超える程になった。恐らく、トーラから発せられるエーテル量に合わせたサイズなのだろう。
 初陣の民兵もいるようで驚きの声が陣地の中から挙がった。
 そこにレタラ・スマリの声が響く。
「クリーパーの大きさに惑わされるな。皆、それぞれの一撃は弱くとも、一斉に撃てば大きな一撃となる」
 弓隊の指揮を執っているのだ。
 民兵達は訓練されている訳ではないので、精度にはムラがあるが、そこは数でカバーだ。戦場の状況を土塁の上から確認して指示を出す。
「万が一に備え、遮蔽物の影へ」
 トーラが囮になっているとはいえ、何の拍子でターゲットが変わるか分からない以上、警戒する必要はあるのだ。民兵達は土塁の内側に並ぶと矢を番えた。
 曲射で土塁や柵を越えてクリーパーを攻撃する。その為に、距離と方角をレタラがしっかりと確認する。
「一斉射撃!」
 放たれた矢は雨のように敵の頭上へと降り注ぐ。
 かなりの命中があったようだが、どの程度の傷を負わせたのかは分からない。しかし、無傷という事は無いだろう。授恵者の一撃は確かに強力だが、数を揃えた非授恵者の矢雨も同等以上の威力があるとレタラは分析していた。
 援護射撃を確認し、トーラが敵の懐へと飛び込む。
 エーテルを用いたスキル攻撃はダメージの通りが悪い。
 シーフらしい軽々しい挙動でトーラは攻撃後に間合いを取った。
「これは……地中の中にいるようですね」
 陣地からは距離的な都合で分からなかったが、トーラが居る場所からだと、真下ではないものの、北の方角に向かってクリーパーが地中に潜んでいる事が分かったのだ。
(大小さまざまな反応が地面の中に……)
 大地の中の僅かな隙間をしみこむように移動しているのだろうが、ここで一つ疑問が生じた。南下する気配が感じられないのだ。
(きっと、ファンゾムさんのエーテルに向かっているのですね)
 もし、彼女が居なかったら、今頃、陣地の内部も戦闘になっていたはずだ。
 陣地の方に振り返ったトーラは高々と手を挙げる。その合図を確認したレタラが魔弓にエーテルを込めながら、民兵達に次の斉射タイミングを伝えた。
「オレが撃った後に続くんだ」
 目標が大きければ大きい程、囮であるトーラの負担は大きくなるが、民兵達が放った矢も当たり易くはなる。
 外れた幾本かの流れ矢がトーラの近くに落ちるが、臆した様子なく、陣地に振り返ると力強く声を発した。
「ファンゾムさん達が集合体を討つ迄、もう少しの我慢です!」
 民兵達が矢を番えて撃つ。それも戦況が確認しづらい土塁の内側から。
 彼らの士気をどれだけ維持できるかどうかは、このような戦いでは重要な事だ。
 レタラと民兵達による弓矢の援護に、トーラはもう一度、クリーパーに向かって駆け出した。クリーパーの大部分がファンゾムに注意が向いている今こそ、敵を各個撃破する絶好の機会なのだから。

●
 ファンゾムを狙った範囲攻撃を幾度か受け、スキルを行使して戦線を維持している状況の中、シルヴィアが敵の『仕掛け』に気が付いた。
「地面の中から合流しているようだね」
 個体同士が融合する際には何らかのアクションを消費している。だが、対峙しているクリーパーの攻撃は止まらない。
 仲間の動きに合わせるように攻撃を続けていたキオルティスもある事実に辿り着く。
「これだけダメージを積み重ねているのに倒せないと思ったら、合流する事でその分のエーテルが補充されているからか」
 しかも、敵の総量は底が見えないのだ。
 これまで北伐隊が削り続け、今も民兵と冒険者達が戦っているのにも関わらず……枯れる事がないのは脅威と言えた。
「確実に長期戦なんだよ。敵は無尽蔵に湧き続ける。けれど、こちらの回復魔法には限りがある……早期に決着をつけたい所だけど」
 キオルティスの台詞の後をシルヴィアが続ける。
「恐らく、此処だけでは足らない。広い戦域で効率よくクリーパーを倒し続ける必要があったという事だ」
「だからと言って諦める訳にはいきません」
 勇ましくゲルダが宣言する。
 民兵達も頑張っているのだ。不足があるのであれば、全体でフォローするだけの事。構えた槍に力を込めた時だった。
 別方向から塊が一斉に放たれた。狙いはファンゾムだったので、カバリングを発動させて対応はしたが――。
「結構な数が向かって来ます」
「合流を狙っているのか、あるいは直接、叩きに来たか」
 警戒するルイドの目には、数えるのも馬鹿らしくなるクリーパーが映っていた。埒が明かない状況にクリーパーも戦い方を変えて来たのだろう。
「ジュスト、あれらの合流を止められるか?」
「やってみるさ」
 本来であれば体当たりや侵攻を防ぐ為にと温存していた召喚魔法(グラビティ)を唱えるジュスト。幸いにも動きが遅いクリーパー共は、召喚術内では身動きが取れなくなったようだ。
「けれど、このままって訳にはいかないようだ」
 チラリと向けた視線の先、別の個体群が大地から現れようとしていたからだ。
 ファンゾムが棒状を地面に突き刺して、エーテルを周囲に放つ。
「もっとぉ、攻撃力を上げないといけないみたいねぇ」
 戦いの経過はいつの間にか、どれだけ削れるかではなく、どれだけ合流を防げる攻撃を繰り出せるかに変わっていたのであった。

●
 稜堡の一つ、その先端から望む陣地の外でアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトが漆黒の剣を振るっていた。
「俺が囮になる! 皆さんは陣地の中から矢を放って援護をしてください」
 背を民兵に向ける事になる為、クリーパーまで届かなかった流れ矢が飛来するが、アルベルトは気にせずに立ち続ける。
 南下してきた一部のクリーパーと民兵達との戦いは、至る所で一進一退の様相を呈していた。敗走する部隊が誘引してしまったクリーパーをアルベルトが引き付ける形となるケースも戦闘開始から徐々に増えてきている。
「消耗戦になってきたという事か」
 それでも民兵達が押され切れていない理由は、ファンゾムにあった。彼女から発せられる膨大なエーテルにクリーパーの注意が向いているからだ。
 一見すると好ましい戦闘の経過……しかし、アルベルトの胸の奥で何かが引っ掛かる。
 その正体を掴みかねていたその時、隣の稜堡からナハティガル=ラーが単身でやって来た。
「前線を突破した敵が大挙してここに雪崩れ込んでくるようだ」
「稜堡間で迎えるって事だな」
 十字砲火を浴びせれば効率良く敵を倒せるだろう。ただし、その為には稜堡間まで敵を誘導しなければならない。
 当然の事ながら、囮役がやられては成立しない作戦だ。
「とにかく、敵の数が多い。恐らく、最前線に出た部隊が引っかけ回し過ぎたのだろう」
 ナハティガルの推測にアルベルトは頷いた。
 北伐隊が対峙したこのクリーパーは足音に感応して地中から姿を現していた。10人いれば10体近く出て来る。その状態で戦場を渡り走ると別の10体が追加される訳だ。
 足音の数、つまり、人数が多ければ多い程、そして、移動する距離が広ければ広い程、出現する敵の数は膨大に増加していく。
「殲滅力さえあれば、もっと沢山、倒しまくれたって事か。いや、だが、民兵に過度な負担も掛けられない」
「その当たりのバランスが難しい所だ。エーテルを用いた攻撃も、余程の威力がなければ半減してしまうからな」
 エーテルを練る事で行使するスキルは強力な攻撃だが、敵はエーテルの一部を吸収する能力を持っているのだ。一撃で倒しきれば良いのだが、冒険者全員がそれほどの力を持っているとは限らない。
 土埃を挙げて迫って来る敵をアルベルトは睨む。
 人サイズほどの大きさなら、スキルを行使すれば、アルベルトであれば一撃で倒せるだろう。
 だが、数が多いから全てを捌くのは無理があるようだ。
「民兵達の覚悟も決まっている。俺に出来るのは彼らを信じる事だ」
「そうだな。背水の陣と言った所か――あいつ等の覚悟は理解している……やるからには1人も死なせん」
 二人は互いの健闘を誓うように、各々の武器を軽く合わせた。
 今から効率的な戦略を組み直すのは困難だ。だからといって諦めるような事はしない。
 敵に向かって駆け出したアルベルトを視界の中に入れつつ、ナハティガルも走り出す。それを感知した幾体かのクリーパーが塊を射出してきた。
 それをナハティガルは冷静に見切って避けるともっとも突出している1体に狙いをつける。左右に持った短剣を目にも止まらぬ速さで斬りつけた。
(あとはファンゾムと援護している冒険者に託すしかないな)
 時間を掛ければ、民兵達でもそれなりの戦果を挙げられるはずだから。

●
 最前線では押していると思った戦況があっという間に瓦解しかけ、幾つかの部隊が進退窮まる状況になっていた。
 一隊を預かるヴィルヘルミナが救援に駆け付ける。
「無理は禁物です。一時的に退く事も立派な戦い方になります」
 白銀の巨剣を高々と掲げ、民兵達に告げた。
 士気が高いからこそ、退く事を知らない者達もいる。戦闘が開始され戦線が押し上げていたのは、玉砕覚悟の民兵達が突っ込み過ぎた結果だったのだ。
 結果、戦える者が極端に減っていき、敵勢力の中に深く入ったせいで敵の出現数が大幅に増えた。一隊や二隊では対応できない敵の数に囲まれてしまう場合に繋がる訳だ。
 周りで戦う友軍が瓦解しないよう、各隊の損耗具合を考慮していたヴィルヘルミナの読み通りとも言える。
(一つのヒビから、一気に大きな亀裂が入る事もありますから)
 蠢く様に近づいて来るクリーパーにヴィルヘルミナはエーテルを込めた剣を振り、衝撃波を放つ。
 その威力は凄まじく、直撃を受けた一体は文字通り、木端微塵に吹き消えた。
「徐々に下がりながら戦いを続けます。まだ戦える方も私達と共に行きましょう」
 生き残った他隊の民兵にも声を掛けて遅滞戦術を取るヴィルヘルミナ。
 その時、クリーパー共に変化の兆しが見えた。
「集合しているようですね」
 恐らく、ヴィルヘルミナのエーテルに合わせるように集まっているのだろう。人サイズを上回る大きさになれば、冒険者にとっても脅威になる――が、ある事にヴィルヘルミナは気がついた。
「合わさる際に隙が生じているのでしょうか?」
 それは僅かな時間かもしれない。けれど、法則に辿り着けば、有効に突ける一瞬だった。

●
「突然の招集だったのに、これだけの民兵が集まるのね……私も聖盾に刻んだ神の教えに誓って、彼らの命を守るわ」
 強い想いを抱き、ロゼットは陣地の正面に立つ。そこは左右に稜堡があるとはいえ、激戦地の一つでもあった。
 最前線から撤退してきた部隊を受け入れつつ、追いかけて来たクリーパーに攻勢を仕掛ける。
「家族を、故郷を、守るための戦いよ! 誇りをもって戦いましょう!」
 凛とした声と共にロゼットのエーテルが広がる。
 槍を構えた民兵達への支援魔法だ。槍の穂先を並べて作る槍衾は単純な戦い方ではあるものの、その分、民兵達は理解し易かった。なにより、一体感が違う。
 それに、敗走する味方に矢が当たる可能性があるのなら、直接、助けるしかない。
 ロゼットは土塁から飛び降りると、指揮する民兵達の先頭に立った。
「クリーパーを迎撃するわ!」
 槍隊を引き連れ、ロゼットは撤退してくる民兵達を追いつこうとするクリーパーに備える。
 回復魔法を唱えるタイミングを図りつつ、槍隊の動きを確認。同士討ちにならないように位置取りに気を配りながら、祭棍を指揮棒代わりに振った。
 ロゼットの的確な指示により、槍衾がクリーパーの追撃を押し留める。
(ざっと見ても100人以上の隊みたいね)
 負傷者の数を把握しつつ、最大限にエーテルを高めるロゼット。
 淡い光がロゼットを中心に広がった。その範囲内に癒しの力が解き放たれる。余程、重傷でない限り、また戦う事が出来るだろう。
 強力な回復魔法なので使用できる回数に限りはあるが、ロゼットの活躍は少なくない数の民兵を救い、戦線の維持に繋がるのであった。

●
 戦場を駆ける事でハヤト=ガラン=ヴォルファングは戦況をよく把握していた。
 厳しい状態に追い込まれた民兵の隊を見つけると銀色の疾風の如く現れて、隊の壊滅を防ぐ。
「うるァ! 俺様が相手だ!」
 素早く叩き込む四連撃を受けたクリーパーは次々に塵と化した。
 民兵の存在に釣られて出現した敵は人型のサイズで、それは、手練れの冒険者であれば優位に戦える程度の存在だった。だからこそ、ハヤトの攻撃はよく通った。
「しっかし、数だけはキリが無いな! 車列(トレイン)かよ!」
 馬車が列を成して走る風景をハヤトは頭の中で描いていた。
 陣地に控えている民兵達の殲滅力が高ければ、車列(トレイン)自体は問題なかっただろう。索敵、接敵、誘引、攻撃……これらを連動させるには、訓練不足だったかもしれない。
 広すぎる戦線を全てカバーするのは、縦横無尽に戦うハヤトであっても無理があった。
 他の戦線に空いた穴を防いだルベア・ベルニが合流する。
 陣地や他冒険者からの情報を元に、民兵達を率いて機動防御に徹していたのだ。
「連絡を受けて来たけど、もう倒しちゃったのね」
「だが、無駄ではなかったみたいだぜ」
「そうね。どうやら、私達のエーテルに反応して、集まるみたい」
 これまで冒険者の力に引き寄せられて、クリーパーが融合する事があった。今回は二人分のエーテルに釣られたようで、人サイズが盛り盛りと大きくなっていく。
「集合を待つ必要は無いわ」
 ルベアは指揮下の民兵達に指示を出す。
 数十人による槍衾が融合しようとしているクリーパー共の背を突いた。ダメ押しにルベア自身も飛び込んで攻撃を加える。
 その様子を見て、ハヤトが口元を緩めた。
「なるほど、これは使えるぞ。クリーパーが集まる隙を狙って民兵に攻撃させれば、比較的安全だな」
「確実って訳じゃないみたいだけどね」
 クリーパーが集合する際は、攻撃や移動が一時的に止まるのだ。絶対に攻撃が無いとは言い切れないが、そのアドバンテージは揺るぎない。
 ファンゾムがエーテルを放ってクリーパーを巨大な集合体にさせたように、個々の冒険者でも、ある程度の大きさまで集合させる事が出来たはずだ。
「集合するって事は分離も出来るんだろうな。つまり、集合と分離を繰り返しさせる事ができたら、一方的に殴れたって事か!」
「その方法が分かれば、良かったけど……一先ず、目の前の敵を倒す事に専念かな」
 槍衾で傷を負わせたが中型クリーパーのサイズまで膨らんだ敵にハヤトとルベアが対峙する。民兵を前に出すには危険な存在だからだ。
 ルベアが手を真横に差し出して槍隊を下げつつ、弓兵に指示を出す。
「各自、援護射撃を」
 そして、自身は敵の正面へと向かう。
 クリーパーの胴体が膨らんだ次の瞬間、無数の触手が飛び出て来たが、ルベアは短剣で打ち払いながら、触手の軌道を見切る。
 しかし、深追いはしない。適度な距離を保ち、クリーパーの注意を引く。なぜなら、ハヤトが、駆け回りつつ、強力無比な連撃を叩き込むからだ。
 クリーパーの能力でエーテルを行使した攻撃は威力が低下するが、四連撃が半減しても二連撃には相当する威力はある。
「目標が一つになった方が、攻撃する手間がすくねぇぜ!」
 二人の連携の前に有効な反撃が出来ずにクリーパーは削られていく。それを補充するように、集合を繰り返す事で、敵は一方的に叩かれ続けるのであった。

●
 攻撃に専念すればするほど、ファンゾムに対峙しているクリーパーの勢いは強くなっていく。
 それは敵の力が増した事を意味していた。恐るべき攻撃が一行を襲う。
「これで、アイアンヴェールは使い切りました」
 ゲルダはそれでも尚、ファンゾムの傍に張り付いた。
 堅い防御力を誇るゲルダであっても回復魔法の援護が無ければ立ち続ける事はできなかっただろう。
「ルイド様、先に私が……」
 共に守り続けて来た冒険者の名を呼ぶ。
 長期戦により防御系スキルを行使するエーテルも枯渇しつつあった。限られた力を上手に使うにはこれまで以上の連携が必要になる。だからこそ、ゲルダは先に使う事を暗に告げたのだ。
 驚異的な踏ん張りを見せるゲルダを支えているのはレティシアとシルヴィアの二人だった。
「エーテルを使い切る前に、何らかの手段を決めたい所でございますね」
「もう一度、攻勢に出るべきか、距離を取って立て直すか、どちらにせよ、簡単ではないかな」
 しかし、考える時間は無かった。
 更に巨大化したクリーパーが僅かだが、ゆっくりと動き出したからだ。最前線で奮闘を続けていたキオルティスが警戒の声を発する。
「動き出した! いや、これは……飲み込むつもりだ!」
 もはや、前のめりに倒れるという表現の方が正しいかもしれない。
 叩きつけのような衝撃が前衛を襲う。難を逃れたのは後衛以外では素早く回避したキオルティスと偶然にも回復魔法の交代要員として一時的に下がったローザリカだった。
 大きなダメージを受けながらも立ち続けるゲルダをキオルティスが下がらせたが、狙いの中心となっていたファンゾムと彼女を庇ったルイドが直撃を受け、そのまま飲み込まれてしまった。
 渾身の力を込めて自身の周囲に『場』を形成したファンゾムは何が起こったのか即座に理解し……そして、覚悟を決めた。
「どれだけ粘れるかだけど……って、ルイド君!?」
 英雄再起(灰昂)で凌いだ彼がファンゾムの手を掴んだのだ。
「……守るって、何度も言っただろうが。俺はお前の守護者だ。少なくとも、俺が死ぬまでは、お前を死なせやしねぇ」
「ルイド君って変な所、頑固よねぇ。大丈夫よ、私はこう見て『神』なんだから」
 大丈夫じゃない状況に、ルイドは言い放つ。
「神だ、人だって、区分はどうでもいい。俺は『ファンゾム』っていう個を守るだけだ!」
 その言葉に、何か返そうした彼女の顔は――寂しげでもあったが、少し嬉しそうにも見えた。けれど、次の瞬間、クリーパーにルイドだけが弾き出されてしまった。
 地面に叩きつけられる痛みに耐えながら、ルイドは頭上を見上げ――脳裏の中、いつか見た幼い男の子の姿と重なり、言葉にならない声で叫んだ。
 悲痛の表情でローザリカは回復魔法を行使しつつ、隣に並んだジュストの裾をギュッと掴む。
(…………)
 飲み込まれたファンゾムがどうなるのか分からない。全てのエーテルを吸い尽くされ、形すらも残らなくなるかもしれない――だが、ジュストは冷静だった。
 クリーパーの様子をジッと観察して確信めいた台詞を口にする。
「まだ終わっていない」
 それを奇跡と呼ぶべきかどうか分からない。けれど、ここまでの奇縁と歩んだ積み重ね、民兵達の頑張りは決して無駄ではなかったのだ。

●
 紙一重という言葉通り、ファンゾムは生きながらえていた。
 要因は幾つかある。倒せなかったものの、クリーパーに相当なダメージを与えた事が出来た事、ファンゾムの消耗を抑える戦いが出来た事、そして、彼女の心情を支えられた事だった。
「『行先』……私にもあったみたいよぉ」
 知りたくなった。守ると言った守護者がどこまで守ってくれるのか、知り合った冒険者達がこれからどんな時を過ごすのか。
 もう少しだけ、『未来』を見てみたいから……だから、今、クリーパーに飲まれる訳にはいかないのだと。


 戦いの結果を聞いたコンラート・マフダルは『帝国北部方面軍』のうち、後詰の僅かな予備兵力をオルセンに残しただけで、帝都へと向かう。
 そして、ファンゾムを飲み込んだ巨大なクリーパーはその場から動けず、オルセン郊外でその巨体を風雪に晒し続けるのであった。


 『辿り着く行先へ』に続く――。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  大変、厳しい戦いであったかと思います。一応、漸減は達成できたので『普通』判定となりますが……この結果を『普通』と判断するか『失敗』と思うかは各自次第という事でしょうか。  ただ、コンラートが率いる『帝国北部方面軍』は実質、戦力低下無しに帝都へ向かうので、連動上は『成功』かもしれません。  次回はリプレイ内でも記した通り、『辿り着く行先へ』として、ファンゾムの救出及びクリーパーの討伐としてシナリオを予定しています(【帝国】連動からは外れますが)。  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会あればご参加の程、お待ちしております。
イベントシナリオ

イベントシナリオ非常に難しい 報酬:多い17 / 4〜25人

2023年11月17日 01時09分56秒 公開

普通

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーの神官ロゼットよ。よろしくお願いするわ。 北に南に、どこも慌ただしくなってきたわね。 今のところ【2】に行く予定だけど、 難易度も高いし、周りを見ながら行動を考えるわ。 >防御陣地について 防衛に使用する陣地は、基本は堀と土塁ね。 外から来る敵が堀に落ちて、土塁を登らないといけない形。 土塁は敵の射撃から身を隠す遮蔽にもなるわ。 前回、冒険者が工兵と作成した強化部分が残っているなら、 陣地には幾本かの稜堡が突き出ていて、正面以外の左右にも 射線が通るように工夫されていた、はず。 (『出撃! オルセン軍・北伐隊(100)』より) >クリーパーについて 【判明している能力】以外だと敵は地中に沈むことができて、 足音を感知して大きさや人数に応じて地上に出現してくるわ。 オープニングで、城壁が役に立たないと書かれているから、 地中に沈んだまま移動もできるということかしら…。 場合によっては、防御陣地の中に出現もできるかもしれない。

  2. トーラ

    シーフのトーラです。 よろしくお願いします! わたしも2へ回りますね。 クリーパーが地中を浸透して来るなら、捜波で警戒出来ないかと考えています。

  3. ローザリカ・D・ケレス

    ヒーラーのローザリカ、よろしく頼もう。 ファンゾム君とは縁があるから【1】に行きたい。 能力の高い相手との長期戦になることと、 スキルでの攻撃後に体力を回復されることを踏まえてバフと回復を主体に考えている。 幸い攻撃力を上げるほど回復量もあがるし、手があけば通常攻撃での殴りも重ねられたら。

  4. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく。 今回は【1】に向かう予定。 持久戦にはあまり向かない性質なんだが、足を引っ張らないように尽力したい。 O召喚系での敵の勢いを幾らかコントロールしつつ、数を減らすという形での援護を予定しているよ。

  5. ロゼット

    >配置希望 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ 【3】後方支援

  6. イズレンディル・パラリム

    キャスターのイズレンディルです。よろしくお願いします。 私は【3】後方支援で参加の予定です。 戦線の状況を確認しながら、投石機と陣地修復の指揮をする事を検討中です。 今のところ直接的な戦闘には参加出来無さそうなので、支援に専念しますね。

  7. ルイド

    ウォーリア、ルイド。良しなに。 【1】参加予定。 味方庇いつつ、余裕ありゃ削り役にもなれりゃと思うんだが…… 長期戦となると、カバリングは特に重そうな攻撃なりに限定して使った方がいいかね。 タイミング誤らないように気を付けるわ。

  8. トーラ

    すみません。ちょっと気になることが。 前回の依頼で出たオルセンの不穏分子なんですが、もしかしたらこの機会に何か騒動を起こす可能性があるのではと思うのですけれど、少しだけでもその対応を考えておいた方が良くないいでしょうか? 【1】は必要ないでしょうけれど、【2】と【3】は気にとめておくだけでも、いざという時の対応も取りやすいのでは無いかと。 【2】はわたしも気を付けますので、よろしければ【3】の方でどなたか気にとめておいて貰えないでしょうか? それと、クリーパーはサウンドボマーで誘い出せていたようなので、わたしが囮になって適当な場所へ誘い出すのでそれを民兵の方と攻撃して貰えたらと思います。

  9. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! んじゃ、俺は【2】で民兵を指揮しつつ極力死者が出ねぇように暴れ回るつもりだぜ!! >配置希望 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト 【3】後方支援 イズレンディル

  10. ゲルダ・クライン

    ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いしますね。 【1】に回りますね。カバリングは複数枚あったほうがよさそうですので、ルイド様と同じくカバリングと余力があれば削り役で考えています。 >配置希望 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド ゲルダ 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト 【3】後方支援 イズレンディル

  11. シルヴィア・A・カペル

    シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【1】で回復支援をするつもりだ。余力があれば積極的に攻撃もしていきたい。 >配置希望 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド ゲルダ シルヴィア 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト 【3】後方支援 イズレンディル

  12. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー 【3】で救護!を医療・薬学とあわせてやってみようかなと あと前回関わってないけど不穏分子が3派くらい?あるんだったっけ 依頼の活動ばしょは防御陣地内部になるみたいだけど 準備段階でオルセン内もあっちこっちまわる機会はありそうだし 残留思念感応でなにか掴んだら情報きょーゆーするように書いておくね

  13. ルイド

     >不穏分子 確かにこのタイミングで行動起こされると、内容の如何に関わらず邪魔過ぎるな……。 気に留めてもらえるなら助かる、よろしく頼むわ。 >【1】 耐久面も手厚そうでありがたい。 一応ヒールを持とうかと思っていたが、これなら僅かな回復を増やすよりも装甲防御あたりに枠を割いた方が良さそうか。 カバリングも、連携を意識して過不足なく使用するようにしておくな。

  14. ロゼット

    >【2】行動 陣地内から民兵に射撃や白兵戦の指示を出しながら、 必要に応じてヒール系での立て直しを入れていくわ。

  15. ナハティガル=ラー

    遅参申し訳ない。 シーフのナハティガル=ラーだ。――今回も宜しく頼む。 >配置希望 俺は【2】に向かわせて貰おう。 ファンゾム達を突破して来たクリーパーを攻撃地点まで誘い込み、稜堡等の防御機能を利用して迎撃する予定だ。 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド ゲルダ シルヴィア 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト ナハティガル 【3】後方支援 イズレンディル アルマ

  16. ルベア・ベルニ

    ぎりぎりでごめん。 シーフのルベアよ、宜しく。 >配置希望 【2】へ向かうわ。 指揮なんてガラじゃないけど…うまく戦場を維持出来るように都度借りた民兵を動かしたいなって。 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド ゲルダ シルヴィア 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト ナハティガル ルベア 【3】後方支援 イズレンディル アルマ

  17. レタラ・スマリ

    出発直前の発言になってしまって本当にすまない。シューターのレタラだ。 配置は【2】を希望した。難しい戦いとなるが、無事の成功を祈る。 【1】ファンゾム援護 ローザリカ ジュスト ルイド ゲルダ シルヴィア 【2】民兵指揮 ロゼット トーラ ハヤト ナハティガル ルベア レタラ 【3】後方支援 イズレンディル アルマ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0