【再起】持参金だったもの
馬車猪
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シナリオID:3128
オープニング
次女以降の貴族令嬢が貴族社会の一員であり続けるのは大変だ。
家から斡旋される嫁ぎ先は長女に比べるとはるかに劣ることもしばしばで、斡旋自体されないことすらある。
自ら相手を求める場合、既に地位がある男は競争率が非常に高く、立身出世の可能性がある男を射止めるのも同じくらい難しい。
実家から渡された持参金だけを頼りに生きていくしかない元令嬢も決して珍しくはない。
「先輩、どうして」
全ての財産を接収された少女が呆然としている。
声はかすれ、壊れた楽器じみた不規則な息が収まらず、見開いたままの瞳から静かに涙が流れる。
「少ないわね」
かつて先輩だった女の顔は見えないがどんな表情をしているかは分かる。
学園にいたときと同じ気品と傲慢が両立した態度で、少女の財産だったものを換金していた。
●数日前
「復興が進めば別の問題も出てきますな」
ヴィントで仕事をする高級官僚が、あまりにもあからさまな態度でちらちら見ている。
「他国出身の平民ではできることに限りがありますから」
代官は世評からは想像し辛いくらい穏やかな態度で、しかし目は穏やかさとはかけ離れている。
「うるせぇもっと仕事しやがれ!」
官僚が吠えた。
「皇子妃との相性が最悪だから褒美の領地を貰って引っ込むって言っているでしょう!」
代官も猫を被るのを止める。
祖父と孫ほど歳が離れた高官と高官の間で罵声が飛び交い始める。
「それが帝国の民より大事か!」
「論点をすり替えるな信賞必罰を徹底しろって言ってるのよ!」
「爵位は今の時点で確定だろうが!」
「実質宗主国の王女が乗り込んでくるのよ価値観が過激派と一般部隊くらい違うのがね!」
「……いや過激なのは貴公じゃね?」
「帝国という外敵が弱った直後に内部の粛清を始めた王家も過激でしょう。我慢しきれず暴発して潰された馬鹿が多いのは確かですけど」
言い訳に無理がある自覚はあるらしく、セニャはこほんと咳払いをして口調と態度を通常に戻す。
「この話は後でじっくりしましょう」
高級官僚もセニャにあわせて口調を改める。
表面的な態度は穏やかになっても、帝国行政が半ば崩壊頃から踏ん張って来ただけあって諦める気は皆無だ。
「最近の問題は、セニャ殿の真似をしようとす者達です」
大量の物資や家畜と共に帝国に現れた少女が広大な地域を担当する代官にまで出世するというのは、事実であると同時にお伽噺めいている。
真似しようとする者も当然のように多い。
なお、その少女は伯爵代理として実際に領地を経営していた実務経験者であるとか、身内相手の政争に負けた後も人材と私財を確保した上で帝国まで逃げて来たとかという事情はあまり知られていない。
「他国の紐付きは論外ではありますが、うまいことやれる人材なら採用するつもりはあったのですよ?」
「それは、まあ、うん」
セニャの歯切れが悪くなる。
「人材としての質があまりにも……。本当にパンクリアース学園に通っていたのですよね」
「通ってはいたはずですよ?」
セニャが動揺し始める。
貴族派だから駄目とは言いたくはないが、他の派閥より貴族派に駄目な人間が多いのはセニャでも否定できない事実だ。
「このまま王国に追い返してもいいですが私がやると全て取り上げてからになりますよ」
嫌ならお前が担当しろ。
そうすれば王国貴族派令嬢が路頭に迷わず済む。
その結果引退が遅れてメアリー王女相手に帝国政界で不利な戦いをすることになるかもしれんが自業自得だよなぁ?
と高級官僚は思っているしセニャもそのことに気付いている。
「ぐぬぬ」
相手の企みが分かっていても、セニャは後輩を見捨てることができなかった。
●
物資も家畜も価値は変動する。
作付けされない畑が大量にあった頃と、無理矢理にでも作付けを強行しある程度の収穫があった現在では値段が違うのだ。
「高値掴みをしたわね」
呆然としている少女を優しく抱き上げソファーに座らせ、セニャは厳しい表情を少し緩める。
「食料もそうだけど、家畜も病気持ちだったわ」
それだけならまだマシなのだ。
「最大の問題は、お小遣いかそれ以外か知らないけどもとが王国貴族の資金だったってこと」
紐付き人材も紐付き資金も帝国にとっては毒だ。
受け入れるしかないこともあるが、仮にセニャが紐付き資金や物資を持ち込んでいたら帝国に拒否されていただろう。
「どんなお金を使ったか聞いていいかしら」
「……持参金です」
「そう」
セニャはため息をつきたくなるのを我慢する。
この少女には学園を実力で卒業する能力もなく、実家から独立した後暮らしていくための資金も7割以上失ってしまった。
セニャができるだけ高く買い取らなければ処分費用がかかって0になっていたかもしれない。
(見捨てても法的には問題ないけど)
人間を1人救うのは普通の人間にとっては大事業だが、今のセニャは一時的とはいえ帝国内で大きな力を持っている。
(片手間で助けられるなら助けるべき……なのでしょうけど何故か嫌な予感がするのよね)
見捨てられないのが甘さか人間性の証明かは分からないが、セニャは助けるのを選択してしまった。
「わたしのバイト代になりなさいっ」
翌日、全財産の7割を失った少女がうっきうきで仕事をしていた。
セニャの真似をしてセニャと違って実家の資金で物資を購入した貴族派貴族子女が、昨日の少女と同じ目にあっている。
「誰かの陰謀だったりしないかしら、これ」
多分違うだろうなと現状を正しく認識してしまい、セニャは大きく肩を落として胃痛に耐えていた。
●
「コンサル依頼です」
冒険者ギルドの受付嬢が、伊達眼鏡をかけてキリッとした表情をしている。
「帝国代官が最近雇ったバイトが全く使えないので鍛えたり他の場所に就職できるようしたりして欲しいという依頼です」
全員貴族派貴族出身。
全員パンクリアース学園の学園生(休学中)。
全員嫁ぎ先のあてがない10代後半ヒューマン女性。
上記3行から推測できる、どこにでもいるコネ入学の貴族派貴族子女だ。
「依頼人は帝国で代官をしている人です」
元は王国の貴族派貴族令嬢だが特に気にする必要はない。
仕事はできる職務に忠実な代官が、行くあてのない知り合いを鍛えようとしても成果が出ずに冒険者ギルドへ依頼しただけだ。
「これでも貴族派貴族の娘としてはマシな部類らしいですけど……」
頭は良くないし武官としても文官としても駆け出し未満だし非ヒューマンや非貴族に対する蔑視が強いという問題がありすぎる連中だ。
「肉体や精神に傷を残さないなら何をやってもいいらしいので、何とかお願いします」
事実上実家から見捨てられている貴族子女3人をなんとかして欲しいという、とても手間がかかりそうな依頼であった。
解説
マスターより
リプレイ
フリーダ=ブロムヴィストという冒険者がいる。
帝都陥落以降に授恵者として目覚めた、セニャと比べれば新しく格は既にセニャを上回る冒険者だ。
白金に輝く武具は美しさと性能を兼ね備え本人は実績だけでなくカリスマも身につけている。
貴族としてうまれた者が『貴族家系の初代は彼女のような人なのでしょうね』と評価するほどだ。
それはそれとして仕事である。
「ダンスで体の動かし方の基本は身につけているはずです。私の真似をしてついて来て下さい」
フリーダにとっては一晩中走ることが可能な速度でも王国から来た令嬢達にとっては過酷そのものだ。
「王国に送り返されたいならそのままどうぞ」
180度反転して同じ速度で後退しながら言うと、3人の速度が少しだけ上がった。
(今後のご活躍をお祈り申し上げるのはダメですか? 啓示では『現状では有名な茶人に抹茶ラテを作らせる位の難行』と出ていますし。抹茶ラテというのはわかりませんが、これは一筋縄では行かなそうです)
苛烈な戦いの中でも平常心でいられるフリーダが驚いてしまうほどの酷さだ。
「就職先見つけるなり王国に帰るなり、まず身体が資本であるのは言うまでもありません。啓示にも『今時純魔も体力振りは当然』と良くわかりませんが概ね間違っていないと思いますし」
3人中唯一の授恵者には重りを追加する。
「まだ始まったばかりです。王国の令嬢は根性無しと思われてしまいますよ」
発言者が優れたヒューマンであるフリーダでなければ剣を抜いて襲いかかっていたかもしれないほど奮起し、昼の休憩まではジョギングを続けることができた。
(うーん駄目駄目ですね。自身の不遇を嘆くだけなら先に繋がりません)
まだ1日目の午前とはいえあまりにも酷い。
とりあえず、他の冒険者の授業に耐えられる程度には鍛えてあげようと思うフリーダであった。
●
「ベルク殿から呼ばれて参りましたバスラと申します。あ、こちらは紹介状となります」
実在の紹介からの紹介状と共に小柄なハーフビーストが現れる。
「先方とうまくやらせていただくためにセニャお嬢様からご紹介していただくようにと指示を受けております。ご協力いただけますでしょうか?」
「授恵者ね」
紫と金の瞳がハーフビーストの姿を映す。
気の弱い者なら名声と気配で畏怖して屈服しそうになるかもしれないが、これでもセニャに悪意はない。実力者に対する好意を消せば普段からこんなものだ。
「ごめんなさい。調査が済むまで拘束させて貰うわ。隠しているようだけど貴方ほどの授恵者が無名な訳がないもの。……あっちに借りを作ることになるけど仕方がないか」
種明かしをされるまで、セニャは目の前の人物がベルク・オスマットであることに気づけなかった。なお、顔を真っ赤にして恥ずかしさを我慢していたらしい。
そんなベルクが講師陣の補佐として参加した結果の反応は激烈だった。
程度の差はあるが視界に入るだけでも苦痛らしい。
(王国の差別意識はセニャ嬢が上限近くだと思っておったがあれでもかなり穏やかだったのか)
うまれと血を誇るだけの3人娘と、差別を肯定される社会を維持しようとするセニャのどちらがマシは別の話だ。
(無能の自覚もなしにただ相手の種だけで見下すような輩は不要である。というか殿下に噛みつきかねない駄犬なんぞいらん。だがこんなのでも利用できるなら利用せねばならんほど人材が不足しておる。本当にいまいましい)
ベルクは内心を全く感じさせないまま補佐に徹する。
「貴女たちに礼儀作法等の社交やヒーラーのスキルを伝授します」
頭脳面での最初のトーレーナーはダニエル・ヘリントンだ。
貴族としてうまれ育った3人には過剰な自信があるため顔に反発心が表れる。
敵意に近い態度を向けられてもダニエルは礼儀正しく穏やかな態度を崩さない。
「場所が変われば内容も変わります。僕が教える内容を既にご存じかもしれませんが、そのときは復習のつもりで聞いて下さい」
3人娘の自尊心を適度に刺激しながら、自らの授業についての興味刺激する。
生徒は優秀とはとても言えないが貴族令嬢ではある。
礼儀作法にも詳しいベルクの補佐は大いに助けになった。
「ヒールが使えなくても怪我の手当の仕方は覚えることができます。緊急時に近くに専門家がいるとは限りません。今覚えなければ大事な人が取り返しのつかないことになるくらいのつもりで学んで下さい」
実務経験がある者の言葉は重い。
3人娘は珍しく反発せず、不器用なりにダニエルから教えを受けていた。
●
権力や武力を持つ貴族は優れた血をとりこむ機会が多く、美容への投資の効果もあって美貌の持ち主が貴族以外より多い。
採用担当の目には駄目人間かそれ以下の3人娘も、火遊びの相手としては魅力的ではあるのだ。
「純粋に学園生であり王国貴族令嬢の将来を案じての参加であり、他意はない。ないんだよ??」
ここ数年は優雅さを維持した上で質実剛健に頑張り成果も出しているのだが、それまでの評判と第一人称が色男なジュスト・ヴェルジーはそう見られがちだ。
地位と才能と美貌を兼ね備えたジュスト相手に3人が3人とものぼせ上がっているので当然ともいえる。
ローザリカ・L・ディオールはジュストに見劣りしないほど華やかだ。
「王国を去ろうとしている令嬢の下へわざわざ、だろう? まったく僕の婚約者殿は誰にでもお優しくて困ったものだな」
じろりと睨む様は迫力と美しさを兼ね備えてはいるのだが少しだけ陰りがある。
「ま、本気で疑っているわけではないが」
僕を誘うくらいするべきだろうと心の中だけでつぶやく。
(依頼より難しいな)
ジュストの脳裏に、維持するための不断の努力の上に愛という花が咲く、というどこで読んだか分からない言葉が浮かぶ。
血縁の女性陣ならより優雅かつ実践的な言葉で懇々と説教してきそうだが今この場にいないので自らでなんとかするしかない。
ジュストは真摯な瞳でうなずいてから仕事に専念する。
まずは自己紹介。
その後は性急にならないぎりぎりの速度で本題に入る。
「経験として身につけているだろうけど、ここでは知識と技術として改めて身につけてもらうよ」
人や場所ごとの話し方、歩き方、視線、服装、それら全てが交渉と交流のための基本原則だ。
知性と品格は相手に舐められない為の武器であり防具。
傲慢と無謀が人の形をしているような実例もこれだけは基本に忠実だ。
「現在の世界情勢は流動的だ。しかし変わらないこともある」
王国なら王党派と貴族派でも価値観の一部が共通し、帝国も過激派の価値観もとそれ以外ですら一部ではあるか共通する。
(ヒューマンとそれ以外の関係についての理解が浅い。王国の貴族派の中だけで生きていくならそれでも良かったのだろうけど)
現実を直視させ過ぎれば心が折れて再起するまでの余裕もなくしてしまう。
逆にジュストが愛想良くすれば3人娘のやる気は改善されるだろうが複数の意味で後が怖い。
予定していた内容を終えるまで、顔には出さないが強い緊張を感じて。
「これで知識は理解できたはずだ。次は実践だね」
ジュストは優雅に合図を送る。
質実剛健を通り越して無味乾燥な倉庫と積み下ろしのための基地に、宮廷はもちろん学園にも全く及ばない、しかし明らかに王国の文化を感じさせる家具や装飾が運び込まれる。
(ある程度自業自得と思わなくもないが戻らない過去を責めても得が無い。彼女らの性格的にもおだてて……ではなく出来そうな部分を褒めて伸ばす方が良さそうだ)
ローザリカはセニャとは比較にならないくらい善人である。
「君達相手に面白い商売をしてくれた輩にも思うところがある。可愛い後輩にしてくれた分のお返しはちゃんとしないと失礼だろう?」
セニャが支払った依頼料ほどの額を吐き出させ、有力な平民や役人相手の社交や交渉を練習するための舞台を整えた。
(反応が薄い。今の能力は期待できない……伸び代が多いと前向きに考えるべきか)
不敵に微笑むローザリカに先輩より強い凄みを感じた3人娘は、反発を感じはしても予想より素直に講義を受ける。
「あ、あの」
頭と体を酷使する講義と演習の間の休憩で、1番手ひどく財産を奪われた1人が手を挙げる。
差別意識が強く最も採用から遠いと見られている彼女ではあるが、ヒューマンの貴族令嬢のローザリカに対しては温和ですらある。
「積極的なのは何にも勝る美点だ。滑らかに発音することを意識すればなお良い」
既に格付けは済んでいる。
憧れの視線を極自然に受け止め話を続ける。
「完了した契約をなかったことにするのは難しい。しかし2度と同じ失敗をしないことはできる」
新たな演習は皆非常に熱心で、予想より良い成果があった。
●
3人一斉に怒りを露わにしても、セロンガード・シュタインドルフにとっては牙も爪もない愛玩犬が騒いでいるようなものだ。
「ですがパンクリアース学園ですよ? みっとなくしがみついてでも居座る価値は……」
プライドだけは高そうな3人だと我慢しきれない内容を口にする。
もちろん剣を抜いたりしないよう加減には気を付けてだ。
(涙目ですか)
3人の感情を揺さぶったのは趣味ではなく情報収集のためだ。
復学する気が本当にないのかどうか確かめなければ、徹底的に鍛える選択肢も帝国の職につける選択肢も提供できない。
(大きな騒ぎにならないよう気を付けましょう)
セロンガードは対象の状態を確かめつつ慎重に扱っていた。
●
「先人に倣いて曰く、死馬の骨を買う、と」
薄暗い会議室にアウレーリア・フォン・ネーベルベルクの声が響く。
「帝国は慈善団体ではないので、受け入れには当然他意はあります。どうせここまで来たら王国人の流入は止められません。せめて優秀な人材を呼び寄せられるよう、布石を打ちましょう」
優れた話術とカリスマが相乗効果を発揮している。
「残念ながら……」
セロンガードは自身の調査結果とこれまでの講義や演習の成果を伝達する。
「彼女達を受け入れる代わり、宣伝塔になってもらうくらいのことはしたかったのですけどね」
アウレーリアが少し落胆し。
「放置して楽な道に向かわせても問題がないといえばないですけど」
セロンガードをちらりと見る。
「これからレイウェスト殿下が大変になりそうなので、そこに人材が欲しい所です」
セロンガードからの回答は端的だ。
「あまり人道的手法とは言えませんが有効な手段はこれくらいしか」
アウレーリアは代官が運営している組織の1つに放り込むつもりだ。
組織といっても合法なものだ。大きな債務を抱えた連中が法律ぎりぎりの重労働をさせられているだけだ。
「仕事の班には非ヒューマンを混ぜて、仕事の後の休みを限界まで削る代わりに王国貴族の価値観を破壊させましょう。私やれば出来る! 的自信は能力主義社会で生きるには一番大事ですしね」
アウレーリアは露悪の意識も知識を誇る意識もない。
伯爵令嬢にとって、この程度は基本的な教養でしかないのだ。多分。
ナタリア・フィッツジェラルドが3人を連れてくる。
アウレーリアは実際に帝国伯爵令嬢でナタリアも実際に帝国子爵令嬢。
その上で前者は貴族らしい振る舞いを、後者はその従者として振る舞っているので王国貴族令嬢に対する説得力は非常に強い。
「アウレーリア様は慈悲深い方です。王家が権力を強める王国からも、血族からも見捨てられた皆様方に機会を与えるのですから」
事実のみで形作られた言葉が最も鋭利な刃となる。
ナタリアに適度に壊された3人は、アウレーリアの計画通り一般的な仕事場へ出荷された。
●
今日の労働に感謝します!
帝国万歳!
そんな威勢の良い声が外から聞こえる。
教育の手段としての掛け声が3人娘から他にも広がったようだ。
「やり過ぎではないかね!」
視察に来た帝国官僚が動揺半分怒り半分の状況だ。
「ご安心下さい。あくまで合法でございます」
アウレーリアの補佐に徹していたナタリアが応対する。
「3人の成長をご覧下さい」
ナタリアは徹頭徹尾淑女の振る舞いをしているだけでなく各種知識も技能もあるので説明能力は十分だ。
「1人目のアディ嬢。未だ粗忽な面はありますが人柄は温和です。年齢と授恵者であることを考慮すれば帝国武官の候補として扱うのが適当と思われます」
びしっ、と敬礼っぽい仕草をする1人目は元気だけはある。
「2人目のルイカ嬢。彼女は今の能力は採用の水準にはありません」
説明された幼げな令嬢ががっくりと肩を落とす。
ナタリアは視線を動かし説明のバトンを渡す。
「今回の依頼で最も成長したのはこの娘だな。学園に送り返されてもうまくやれるだろうが帝国に戻って来ないだろう」
依頼人への報告と書面の提出を済ませたベルクが、見習いでもなんでもいいから名目をつけて採用するよう勧めている。
「3人目のエセタ。彼女は……」
ナタリアが視線を向けるとびくりと震える。
価値観が完全に崩れた訳ではないが実際の社会を知った今はかつてのように単純ではいられない。
「人材としての価値では頭一つ飛び抜けています。幼少時から貴族社会に属すことの利点の実例ですね」
ナタリアは冷静に評価する。
交渉も教養も膨大なこつの集合だ。
質の低い貴族もただの平民と比べると所有するこつは多い。それを家族として至近で観察できたなら、少々の才能や努力の差では補えない有利になる。
(劇的に向上したがまだ人材とは呼べない。しかし人材が危機的な帝国なら希望する者もいるはずだ。今回の教育を引き継いで使えるよう仕上げてくれる者がいれば最良だが……)
ナタリア達が優れた教導技術を存分に振るったとはいえ限られた時間なので人格や能力を完全に塗り替えるのは難しいのだ。
「採用に悩むようならこちらで割り振るわ」
ぎりぎりで最低限の強制が終わったことに内心安堵しながらアウレーリアが話を進める。
「アディはここで護衛。授恵者としても強くなるよう努力を怠らないこと。ルイカはしばらくセニャについていって学びなさい。エセタは近くの街の役場でクレーム処理よ。3人とも職業や人種蔑視思考を出したらまた最初からね。私達がいないからもっときつい内容になるでしょうけど」
アウレーリアの言葉を聞いた3人が真っ青になる。
「適性の判断は僕とほぼ同じか」
ローザリカは興味深そうだ。
出身国は違ってもどちらも有能な伯爵令嬢なので共通部分も多いのかもしれない。
「良い『買い物』だろう?」
ローザリカは官僚と代官に不敵に笑いかける。
(……危険な人材育成手法が開発されてしまった気がするわ)
セニャは、自身の表情が引きつりそうになるのを頑張って耐えていた。
マスターコメント
ショートシナリオ易しい 報酬:多い8 / 4〜8人
2023年08月02日 16時33分30秒 公開
参加者
相談掲示板
キャスターのジュストだ、よろしく。 とはいえ今回はキャスターとしてというより学園生として力になれれば幸いだ。 三人とも休学中とはいえ学園生だし、貴族令嬢だからね。 王国貴族の端くれとして見捨てるのは忍びない。 というわけで、他意はないので……安心して欲しい。 所感としては……アディ嬢は帝国、エセタ嬢は王国で頑張れるように育成できれば良いのかなと思った。 ルイカ嬢は武芸は無理せず、体力向上程度に他は経験を積ませて適性をみつつ伸ばせる所を伸ばしてあげられたらと思うけれど、エセタ嬢同様ちょっと帝国領でやっていくのは厳しそうかなぁという印象。セニャ嬢のところならと思ったけれど、家臣はほぼ埋まっているし。 とりあえず俺から彼女達に教えられそうなのは政治知識や礼儀作法、交渉、話術や弁論、資料検索の類。 どちらかというと文官向けのものになるね。 汎用スキルの1枠は教導にする予定。 ああ、それと。 教育場所なんだけれど、もし商業系の勉強をさせたいなら三人を食い物にした商家を巻き込んでみても良いかもしれないね?
一応これでも学園生、アウレーリアです。宜しく。 程度の問題はありますが、帝国としては人材流入を積極的に歓迎したいところ。 特に先入観なく、全員受け入れを目指す方針で対応したいと考えます。 王国に居場所がない人達にとっての寄る辺でありたいと願う次第です。 が、それは勿論ありのままの貴女でLet it goという意味ではありませんので。 適宜必要な範囲で”コンサルティング”していこうと思いますし、それでどうしても相性不適ということでありましたら、残念ながら今後のご活躍をお祈りすることもあろうかと。 それでもやはり、どこへ行っても箸にも棒にも掛からないという仕上がりでは依頼の趣旨に反しますし、最低限の当ては見繕って差し上げたいですね。 そういう意味では、商家を巻き込むのも確かに一案だと思います。 なにも公務業界ばかりが働き口ではありませんし、インターンとでも申しましょうか。 相手方の求める人材像に合わせてカリキュラムを組むなど、柔軟に対応ですね。
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 アディ嬢は、何とか補佐できる人間を見つけられれば何とかなりそうか。 ルイカ嬢も一旦代官は目指さずに、行儀見習いとして働く傍らで勉強に励めば希望があるか? エセタ嬢は……ちょっと思いつく手段が一回心を折るどころか破壊して再構築(それこそホムンクルス作るレベル)するぐらいしか思いつかないな((
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 アディに関しては、全てにおいて低水準でも唯一の授恵者ともなれば帝国・それも武官向きだろうし頭脳労働というか判断が絡む場面では相応に上手くやっていける上司やブレインの下に配置さえ出来ればそれなりには働けるはず。 お調子者、という所が良くも悪くも偶に瑕だが、矯正可能な範疇だろうし上手くいけば円滑なパートナー関係を結べそうか。 ルイカは何もかも経験不足だが素直ともなると、彼女こそ二人三脚でのコンサルティングで、当事者視点での得意分野や興味深い分野を見つけていく形になりそうか。 その際、今一度学園で専門分野を学ぶ形で戻ってもらう事になりそうだが。 最後のエセタに関しては、ちょっと相手の弱みに踏み込んだ形になりそうかね。 お払い箱?にされた事情に関しては3人共等しく聞いて回る次第だが、その際にだ、差別される側に立った気分はどうだ?とばかりにな。
ヒーラーのローザリカ。 学園生かつ王国貴族令嬢同士、まあいろいろと察せられる立場ではあるだろうか。 正直これまでの努力を怠るなど自業自得な部分もあるだろうが、 変えようのない過去を詰っても現状は良くならないしね。 あまり厳しく当たるよりある程度はほめて伸ばせたら……いいのだろうか…… お調子者のアディ君や、経験不足なだけで素直なルイカ君については おだてようというか、どう転がすかでどうにかなりそうではありそうか。 エセタ君については礼儀作法と社交性はあるようだし、 商業系で窓口とか売り込みとかをやらせるのもいいかもしれない。 ヒューマン相手の仕事の方が多いだろうから蔑視もどうにかなるかと思って。