【泥乱】征竜の巫女御前試合~ギシュム族異種格闘技戦

おおくまねこ

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シナリオID:2983

オープニング

●老秋のアシムベート
「アシムベート様。征竜の巫女様のことですが、長らく療養生活では退屈してしまわれるでしょう。そこで、彼女の為に何か催しを……と考えているのですが」

 ギシュム族の若者、フェニックは大酋長アシムベートの元を訪れ、イベント開催の許可を取りにきていた。

(現在、この集落には極北から来たという征竜の巫女イネス・コンテスティが療養生活を送っている。たまに筋トレや読書をしている姿が目撃されているが、この集落にはあまり娯楽がない。ギシュム族といえば、暇さえあれば鍛錬に明け暮れている筋金入りの戦闘民族だからだ。きっと、退屈しているだろう)

 そう考えたフェニックは巫女の為に何かイベントを開催してあげよう、と思い立ったのだ。アシムベートはフェニックの言葉に頷いた。

「ふむ。そうだな。それで、どんな催しをやるつもりだ?」
「はい。『ムーンドラ』の御前試合を行おうかと」
「なるほど、ムーンドラか」

 ムーンドラ。それはギシュム族のとある集落に伝わる伝統的なスポーツの一つだ。戦士たちは武器を捨て、マスクを被(かぶ)る。己の肉体のみをぶつけ合い、マスクを奪い合うのだ。『マナズィール』とは異なり、種族全体の風習ではないため知名度は低いが、武器を使わない分大怪我もしにくいので、まだ幼い戦士の鍛錬にも適していると、近年部族では再評価されつつあるスポーツである。

「うむ、あれならば、そうそう死人も出まい。好きにすればいいさ」
「ありがとうございます! アシムベート様!」

 アシムベートの許可を取り付けたフェニックは、さっそく準備の為に出かけていった。一人テントに残されたアシムベートは棚を漁り、自身のムーンドラ用のマスクを見つけた後、物思いに耽り始めた。

(そういえば、ずいぶん昔に弟分(エフレム)と共に、ムーンドラの試合に出たこともあったな。今、お主らは何をしているのだ、エフレム。そしてイダ姫……。レイウェストはずいぶんと苦労をしているようだぞ。風の噂には、王国の姫と婚約したとも聞いた)

 しばし、マスクを手に取ったまま月を眺めていたアシムベートは、ぽつりと呟いた。

「ムーンドラか……儂ももう51歳……近頃は全盛期と比べると、衰えを感じずにはおられぬ。だが、腐っても儂はギシュム一族の酋長。部族の若者達の前では、毅然とした姿を見せねばな」

●御前試合当日
「アシムベート様、この度はわたくしのような部外者の為に御前試合など行っていただき、ありがとうございます」
 
 第三の征竜の巫女・イネスはアシムベートに深く頭を下げた。

「礼には及ばぬさ。征竜の巫女ともなれば、歓待せぬわけにはいかぬ。それに、この催しを考えたのは儂ではなく、部族の若者達であるしな。連中はどうやら、お主の気を惹きたいようだ」
「そうだったのですか」

 顔を上げ、くすりと笑うイネス。アシムベートは上品に微笑むヒューマンの巫女の顔をじっと見つめた。

(確かに、美しい顔をしている。儚げな雰囲気も悪くない。ヒューマンとはいえ、部族の若者達が夢中になるのも無理はないか)

「此度(こたび)の御前試合は冒険者達も招き、大々的に行う。お主もぜひ、戦士達の雄姿を見届けてくれ」

解説

目標:ギシュム族異種格闘技戦『ムーンドラ』に協力する。 依頼人:ギシュム族の若者達 舞台:ディズル大湿地帯・ギシュム族の集落 状況:ギシュム族は現在集落で療養中の征竜の巫女・イネスの退屈を紛らわせる為、冒険者を招き、御前試合を企画しました。客人である巫女さんの前で死人が出るのはまずいので、試合は殺害NGレギュレーションとなっています。イベントに協力し、御前試合を盛り上げましょう! ●ムーンドラとは ・ギシュム族に伝わる鍛錬の為のスポーツの一つ。 1.武器の使用不可 2.相手を殺すと失格 3.マスクを奪われると敗北となる の3つを基本とする。シングルマッチとタッグマッチの2種類がある。なお、種族全体の風習である『マナズィール』とは異なり、知名度は低い。 ・事前に申し合わせをしておけば、ボクシングなどの変則ルールでの試合も可能。 ・冒険者は必ずしも選手である必要はなく、試合解説やちゃんこ鍋製造などの後方支援を担当してもよい。 ・選手登録の際にプロフィールの登録があり、多少なら設定を盛ることも許される。リングネームでの登録も可能。 ・合意がプレイングで確認できる場合、PC同士のマッチングも可能。 ●登場NPC 『第三の巫女』イネス・コンテスティ ギシュム族に保護された第三の征竜の巫女を名乗る絶世の美女。椅子に座り、ムーンドラを観戦している。イベントの合間に質疑応答が可能。 アシムマスク ウォーリア 言わずと知れたギシュム族の酋長。本名はアシムベート・グリオウ。リザードマンの中で大きな勢力を誇る武闘派一族で、『泥血啜る月吸蟲』の結界の管理や封印強化の儀式の遂行を担ってきた。最近は自身の力と気力の衰えを感じているが、それでもなおギシュム族最強の戦士。冒険者とのタッグマッチの際は適当に部族の若者からパートナーを選ぶ。イベントの合間に質疑応答が可能。 ギシュム族のレスラー 多数 ムーンドラに出場するギシュム族の戦士。巫女さんの前でいいところを見せようと張り切っている。冒険者との試合では必ず授恵者が選出されるため、一方的な展開にはならない。ちなみに異種族(ヒューマン、ハーフビーストなど)の色仕掛けも効く。 ●判定について 本シナリオでは試合のレギュレーションで武器使用が不可の為、『武器』の数値は無視して判定を行う。また、武器の装備が使用条件となっているスキルは使用できない。

マスターより

こんにちは。おおくまねこです。今回はアシム兄さん(エフレム視点)と第三の征竜の巫女を名乗る美女・イネスが登場します。内容はリザードマンの里で異種格闘技大会です。プロレスがベースですが、K-1やボクシングなどの他の格闘技試合にもできます。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。

リプレイ

●灰色の癒し手
「私の名はフェイサル、癒しの術を少々扱う。故あって我が部族の名は語れぬが、良い戦いが見られると期待している」
「よくぞ参られた。癒しの力を持つ同胞よ。我らがギシュム族の戦い、篤とご覧になられるがよい」
 フェイサル・セイフがギシュム族の戦士に挨拶すると、戦士は歓迎の意を示した。

「癒しの術を持つ同胞がいるのは心強い。ぜひ怪我人が出た時は助力をお願いしたい」
「了解した。傷への備えは十分だ。戦士の一族ギシュムの血潮(ちしお)、存分に滾(たぎ)らせよ」

 フェイサルは選手としてムーンドラに参加するためにここに来たのではない。選手や観戦者の救護担当として参加した身である。武器は制限されているとはいえ、リザードマンには鋭い牙や爪、角や硬い鱗を持つ者も多いため、打撲や骨折等の怪我(挫創や挫傷)だけでなく切創等も想定した薬や道具を豊富に準備していた。また、万が一、死人や重篤な怪我人が出そうな場合は、早めに試合を止めるように促すつもりでもある。

「……真の戦士なら、命や痛みを軽んじる事はせんと思うがな」

●ドラゴン・ザ・ダーク対ブラック・タイガー
「さあ、俺の相手は誰だ?」
 ナハティガル=ラーはマントを翻すと、空中を蹴って加速。あたかもマントで飛行しているように見せかけながら、リング・インした。

「竜だー!」
「かっけー!」
 派手な演出に、客席(特にリザードマンのちびっこ達)が盛り上がる。

(私は近接戦は不得手ですので観戦させて頂きますけれど身のこなしや戦術など、参考にさせていただきたいですね)
 スィーリーンはリングサイドで試合の観戦をしていた。選手達が装備している仮面の一部は、スィーリーンが製作したものだ。

「最初の試合です。実況・解説は私、レティシア・レインフィールと」
「ルチル・プルメリア・グレイハーツでお送りするよ」
(大酋長様の事は気掛かりではございますが、王国の者と今話されるのは複雑かもしれませんので、此度は催しのお手伝いをいたしましょう)
「さて、記念すべき第一戦は『ドラゴン・ザ・ダーク』様対、『ブラック・タイガー』様です。資料によりますと、ドラゴン・ザ・ダーク様は暗黒街のレスラー養成所『竜の穴』での地獄の修行に耐え抜き、黒鋼の竜を模したマスクを継承、ドラゴン・ザ・ダークとなって各地を放浪中だそうです」

 レティシアはナハディガルが考えた嘘設定を読み上げ、感心していた。
(ナハディガル様にはそのような過去があったのですね……ゴールディにはそのような修行場が……)
「ブラック・タイガーの方は外海からやってきた、エビの国の残虐ファイターだそうだ。どっちもずいぶん盛ったね……こほん。まさに『龍虎相まみえる』、というやつか。ハイレベルな試合が期待できそうだ」

●
「行くぞ!」
 試合開始と同時に、ドラゴン・ザ・ダークの重心が深く沈む。消えた、と見えるほどの高速移動を披露したドラゴン・ザ・ダークは、次の瞬間にはコーナーポストの上に移動していた。勢いよくポストから飛び降りたドラゴン・ザ・ダークは、ブラック・タイガーのこめかみに踵落としを叩きこんだ。さらに、流れるようにもう一本の足で膝蹴りを放ち、両足で相手選手を投げ飛ばす。

「出ました! ドラゴン・ザ・ダークの必殺技、『ドラゴンファング』です!」
 レティシアが叫んだ。
「ぐおっ……!」
 強烈な先制攻撃を受け、よろよろと起き上がるブラック・タイガー。さすがはギシュム族の戦士というべきか、すぐに態勢を立て直し、ドラゴン・ザ・ダークに掴みかかってきた。
ドラゴン・ザ・ダークは華麗なムーンサルトでブラック・タイガーの突進を回避し、すかさず相手の背中にレッグ・ラリアートを叩きこんだ。

(ちょっとは試合を盛り上げないとな)
 ドラゴン・ザ・ダークはリングの中央で立ち止まると、ちょいちょい、と相手に手招きした。そして仁王立ちし、相手が来るのを待つ。試合を盛り上げるためのパフォーマンスだ。

「うおおお!」
「ごはっ!」
 あえて避けなかったドラゴン・ザ・ダークの首にブラック・タイガーのダッシュラリアットが炸裂した。ドラゴン・ザ・ダークはコーナーポストに叩きつけられ、マットに座り込む。
「はあ、はあ」

 ブラック・タイガーはドラゴン・ザ・ダークへと歩み寄り、マスクを剥ごうと近づいていく。しかし、それはドラゴン・ザ・ダークの罠だった。彼は逆転勝利を演出するため、じっと敵が近づいてくるのを待っていたのだ。

「黒竜重爆!」
 カッと目を見開いたドラゴン・ザ・ダークは、とんぼ返りしながら、キックで相手の顎を蹴り上げた。さらに、空中で相手の背中を掴んだドラゴン・ザ・ダークは、両膝を勢いよく背中へと叩きつける。そしてそのままグロッキー状態となっている相手と共に後方へと倒れこみ、相手の胸をマットに叩きつけた。

「がはっ……!」
 ドラゴン・ザ・ダークの必殺技を食らったブラック・タイガーはよろよろと立ち上がろうとしたが、起き上がれず、途中でバタンと倒れた。そしてレフェリーが両手を交差し、試合は終了した。

●フェイサルとイネス
「肋骨にヒビが入っているな。だが折れてはいない。この程度ならヒールですぐ治るだろう」
 フェイサルがヒールをかけると、ブラック・タイガーの負傷はたちまち治った。
「ありがとうございます、フェイサル殿」

 試合が終了するたび、フェイサルは医療テントで選手達を診察した。捻挫や打撲程度であれば、通常の治療を施し、ひどい怪我であれば回復魔法での治療を行った。

「さて、しばらくの間は手が空いたな。巫女殿と少し話してみよう」

 フェイサルは救護の必要がない休み時間に、イネスに声をかけてみた。イネスの周りには常にたくさんのリザードマン達がいた。また、他の冒険者達もこの新たな巫女に興味があるのか、皆、それとなく会話が聞こえるくらいの位置にいた。

「初めまして、巫女殿。私はフェイサルと申します」
「初めまして。フェイサル様。私は三人目の征竜の巫女イネスでございます。よろしくお願いします」

 フェイサルが挨拶すると、イネスはニコリと微笑んだ。
(彼女はヒルルク殿やレイウェスト殿とは違う「声」を聞いたのだろうか?)
既に征竜の巫女二人とは面識がある事もあり、フェイサルはイネスが今までどのような「声」を聞いて来たのか、尋ねてみることにした。

「はい。私は征竜様の声を聞いています。最初に声を聞いたのは、巫女に選ばれた時。『世界の敵を倒す手伝いをせよ』と、征竜様はおっしゃられました。そして、今から一か月ほど前に、征竜様は、『ディズル大湿原のリザードマンが早く竜になれるように導け』と私に告げたのです」
 そう言って、イネスは右手の手袋を外した。そこには、赤い征竜の紋章が刻まれていた。

(ヒルルク殿とは異なる、赤色の紋章……紋章の形は瓜二つだな)
「左様ですか。では、貴殿は戦いはお好きですか?」
「はい。戦いは好きです。体を鍛えることと、倒した獣を食べることが好きなので。あれは私の武器なんですよ」
 イネスはそう言うと、壁に立てかけられていたポールアームを示して微笑んだ。

「ありがとうございます。巫女殿」
 フェイサルは礼を言い、イネスの傍から離れた。

(ヒルルク殿とは異なり、こちらの巫女殿はずいぶんと落ち着いた方だな。性格的な違いなのかもしれないが、熱狂的というほどの信仰心は感じない……)

●篝火の絆VSギシュム・ソウルズ
「さて、次の試合はタッグ・マッチとなります。対戦されるのは、ヨル・スレイマン様とナハシュ様の『篝火の絆』チームと、『アシムマスク』様と『アシムマスク・ジュニア』様の『ギシュム・ソウルズ』チームです。ちなみにアシムマスク・ジュニア様はアシムマスク様とは子弟関係であり、血の繋がりは無いそうです」
「ふむ。アシムベートの隠し子かと思ったけど、違うんだね」
(仮に隠し子がいたとしても、こんな大会には出さないだろうけど)

「ついに来たぜ、アシムマスクにタッグマッチを挑む時が! アシムマスク初めて聞いたけどな!!」
 マスクを被り、ノリノリで現れたナハシュ。彼は相手選手の正体に気付いていない。ギシュム族が見るからに一目置いているので、なんかすごいリザードマンなんだろう、ぐらいの認識であった。そしてナハシュの相方は、いつも通り骨を被っているヨル・スレイマンだ。
「そういやあ、ここまでしっかりタッグ組むのはあんまねえな! 楽しんでいこうぜ」
「武器無しルールでの闘技もあまり経験がないな……。まあそうだね、楽しんでいこう」

「行くぜ、アシムマスク!」
 ゴングが鳴ると同時に、ナハシュはアシムベートに突撃した。が、彼と正面から組み合うことは避け、二人の選手の後ろをぐるぐると旋回し始めた。
(隙のない構えだ。やっぱただものじゃねえな、アシムマスク……)

「やるからには、勿論勝ちに行くよ」
 リングサイドで待機中のヨルは胸の前で十字を切り、頭を垂れた。すると、ヨルとナハシュのエーテルが共鳴し、二人の手の甲に印字が刻まれた。さらにヨルは自身に輝刃をかけ、火力を底上げする。

「さて、腕を見せてもらおうか!」
 最初に動いたのはアシムマスク・ジュニアだ。高速移動しているナハシュの位置を正確に捉え、パンチを放ってきた。ナハシュは身を捻り、ジュニアの拳を躱す。アシムマスクは警戒しているのか、リングの中央で構えたまま、動かない。

(アシムマスク、慎重だな……あんなにムキムキなのに血気盛んなタイプじゃねえのか?)
「よし、ここは……」
 ナハシュは一瞬リングサイドのヨルに目配せすると、ジュニアと距離を詰め、秘策を発動した。その瞬間、ヨルとナハシュの位置が瞬時に入れ替わり、ジュニアの眼前にヨルが出現した。

「なにっ……!?」
 これには驚いたのか、ジュニアもアシムマスクも目を見開いた。
「君の相手は今は俺だよ」
 囁きながら、ヨルは骨の兜でヘッドバットした。武器が使えないルールでは、これが一番強力な攻撃なのだ。
「あだっ……!」
 鼻先に硬い骨をぶつけられ、ジュニアが怯む。しかし、ジュニアは尻尾をぶうんと振り回し、ヨルの腹を殴りつけてきた。肋骨の軋む感覚に、ヨルは目を細める。
(ジュニアの方も油断できない相手だな。アシムベートがパートナーに選ぶだけのことはある)

「今だ!」
 ナハシュはアシムマスクの注意がジュニアに向いた瞬間を狙い、一気に距離を詰めた。狙うは、アシムマスクの後頭部! 陽炎のように揺らめくエーテルに包まれて加速し、瞬時にアシムマスクの真後ろに出現したナハシュ。アシムマスクはナハシュの殺気に気付き、すぐに振りむこうとしたが、ヨルの『福音共鳴』で強化されていたナハシュの動きは、アシムマスクの速力を上回っていた。
 スパーン!
 ナハシュの手刀がアシムマスクの頭に炸裂した。はらり。その瞬間、アシムマスク……否、アシムベート・グリオウの素顔が露出した。

「見事だ、ゴブリンの戦士よ」
「おっす。あんた、アシムベートだったんだな」

●
 その後、ヨルはアシムマスク・ジュニアとの一騎討ちを制し(二人がかりでボコボコにするのはスポーツマンシップに反するだろうと思い、ナハシュは空気を読んだ)、二人はタッグマッチに完勝した。

「お疲れさま」
 ヨル、ナハシュ、そしてアシムマスク・ジュニア(本名ベルディオ)はエールで乾杯した。

「いやあ、なかなかの策士でしたな。すっかり翻弄されてしまいましたよ」
「いやいや、君もアシムベートも強かったよ。君に殴られた分はけっこう効いた」
「アシムマスクがアシムベートだったなんて全く気付かなかったぜ……」
「いやいや、そこは名前で気づいてくださいよ!」

 三人は朗らかに笑った。

「ははっ、楽しかったな―! 偶にはこういうのも悪くないだろ?」
「だね。不思議と楽しかった。闘技なのにね。……こういうのもたまにはいいな」
「ええ。ここのところ、アシムベート様はいまいち覇気がなかったのですが……お二人との試合のおかげか、ちょっとやる気が出たみたいです。シングルマッチにも名乗りを上げてました」

「そうか。俺とナハシュも残りの試合を観戦させてもらおうかな。せっかく屋台も出てるしさ」
「だな! あのスズメみたいな鳥の焼き鳥、試してみようぜ、ヨル!」
「そうだね。あれは……雲霞鳥(うんかちょう)という魔獣だっけ?」
「あ、雲霞鳥の丸焼きはお勧めできませんよ。あんまり美味しくないんで……」

●キジトラマンVS仮面ヒーラー
「武器使用禁止の格闘試合……『まるごとショウガ』のテストにはもってこいだな」
 レピド・クロサイトの今日の目的は、仕事ということはもちろんだが、パワーアップした着ぐるみアーマーの性能をテストすることであった。また、素手でどこまで戦えるのか確かめる意味もある。

「よし……この外見なら誰も俺だとは気づかないだろう」
 レピドは正体を隠すため、素顔はフェイクカバーで美女に変装していた。あと、知り合いにスタイルのいい美女が多いせいか、女体化レピドはイネスにも匹敵するナイスバディに仕上がった。

「お姉ちゃん、見ねえ顔だな♪ 俺はハヤトってんだ♪」
 そしたら、なんか通りすがりのゴブリン・ロードがナンパしてきた。レピドが仕方なく地声で返答し、正体を明かすと、ハヤト=ガラン=ヴォルファングはしょんぼりした様子で去っていった。

●
「続いての試合は、『キジトラマン』様と、『仮面ヒーラー』様の試合になります。プロフィールによりますと、キジトラマン様は『猫』だそうです。獣人(ハーフビースト)の方でしょうか」
「キジトラマン……一体何ピドなんだ……」
 レティシアとルチルは首をひねった。

(胸大きいと思った以上に邪魔だな……ここは先手必勝で行こう)
 試合開始と同時に、キジトラマンは突進した。レピドは体ごと伸び上がるように右手を前に出し、相手のマスクを狙う。仮面ヒーラーはのけぞり、パンチを回避した。

「変わった軌道のパンチですね」
「アッパーでもフックでもない。猫パンチだな」

「はっ!」
 仮面ヒーラーはジャンプキックでキジトラマンへと反撃した。モーションが大きかったので、キジトラマンは余裕をもってキックを回避し、着地した瞬間に足に猫パンチを叩きこむ。ぽかぽかぽかぽか。キジトラマンは器用に相手の攻撃を躱しつつ、体ごと消える足運びで仮面ヒーラーをどつき回した。しかし、相手はヒーラーなので、多少ダメージを受けてもすぐに回復してしまった。

(くそ、急所を狙ってもすぐに回復される……ある意味助かるが)
 元暗殺者のサガか、肝臓やら正中線上の急所やらを平気で狙っているキジトラマンであった。

「かくなる上は……」
 キジトラマンは後ろを取り、相手に組み付いた。そのまま首を絞め上げる。やがて、相手がぐったりと脱力した。

「そこまで! 勝負あり!」
「……そうだ、殺すのは駄目だった」
 キジトラマンは審判の言葉にはっとなり、窒息した仮面ヒーラーから手を離した。

●ファーシル仮面VSマンティス・マスク
「格闘技の試合ですか! 我が護気(ごき)・幻耀剣(げんようけん)の訓練にはもってこいですね!」
 武闘派部族として名高いギシュム族が武闘大会を行うと聞き、ファーシル・クリスティアは張り切っていた。しかし、受付に行ってみると、思わぬレギュレーションが発覚した。

「えっ、武器の使用は禁止?……残念。でも徒手空拳で戦うこともありますし、いろいろ試してみましょう。えいえいおうー!」

 ファーシルは自作の仮面を着用し、鏡で自分の試合用コスチュームをチェックする。
「正義の味方みたいで恰好いいかも?」

●
「次の試合は冒険者の『ファーシル仮面』様と、ギシュム族の戦士『マンティス・マスク』様の対決です。資料によりますと、ファーシル仮面様は謎の仮面の淑女から『護気・幻耀剣』という武術を学んだそうです。着用されている仮面もお師匠様のものをアレンジしたものだとか。対して、マンティス・マスク様はマナズィールから帰還されたばかりの若き戦士で、蟷螂(かまきり)の動きを模した格闘術の使い手とのことです」
「ゴキ・ゲンヨウケン……(情報屋の)アタイも聞いたことのない武術だな……相手の方は象形拳(しょうけいけん)系の一派か……なかなかの好カードだね」

●
 そして、ファーシル仮面とマンティス・マスクの試合が始まった。

「やれやれ、アシムベート様も他の連中も不甲斐ないったらありゃしない。外(そと)の連中に連敗とはね。鍛え方が足りないんだよ」
 マンティス・マスクはぼやき、カマキリが威嚇するような態勢を取った。

(試合ではまともに力比べをしては分が悪そうですし、仮面を奪うことに注力しましょう)
 筋骨隆々としたリザードマンである相手との体格差を見て、真っ向勝負は不利だと看破したファーシルは、一計を案じた。

(すっ)
「!?」
 ファーシルは構える際にわざと足を大きく開いたのだ。その瞬間、ドレスのスリットからファーシルの美しい脚線美が露わになった。

「おお……!」 
 ほんの一瞬だけだが、マンティス・マスクはファーシルの脚線美に魂を奪われてしまった。
(やりました! 『いろじかけ』成功です!)

 勢いよく踏み込んだファーシルは相手の足を踏みつけ、そのまま突進の威力を乗せた肘打ちを叩きこむ。
「ごはっ!」
『荒(あら)・疾麗(しつれい)!』

 ファーシルが技名を告げた際には、すでに第二撃のモーションが始まっていた。ファーシルはぐりぐりと踏んづけたままの足を抉りながら、相手の腹を殴りつける。

 ――き、きたねえ……!
 ギシュム族の戦士達はかろうじてその言葉を飲み込んだ。

「うおお!」
 血反吐(チヘド)を吐きながらマンティス・マスクは大きく両手を広げ、ファーシルに組みついてきた。ファーシルは相手ごと高速でグルグルと回転し、相手の攪乱を目論む。

「ぬ……!」
 しかし、力比べではやはりファーシルが不利だった。マンティス・マスクは必死に抵抗し、ファーシルを押し倒そうと体重をかけてきた。
 
「かくなる上は……! 護気・幻耀剣『崇波亜(すうぱあ)・詣努(もうど)』!
 びかびかびかー!
 突如、ファーシルの全身が黄金色に発光した。大気中のエーテルを吸収してパワーアップしたファーシルは強引に相手のグラップリングを振り払い、相手の頭部目掛け、渾身の掌底を放つ!

「ムーンドラ試合規則第一条! マスクを剝がされた選手は失格となります!」
「うあああああっ……!」

 ちゅどーん。黄金色に輝く掌(てのひら)でマスクを切り裂き、ファーシルは見事勝利したのだった。

●ハヤトVSアシムベート
『ムーンドラか……面白ぇ! いっちょやってやっか!! むちむちエロスリットの巫女さんもいるしな♪」

 リング・インしたハヤトが鼻の下を伸ばし、リングの上から笑顔で巫女イネスに手を振ると、イネスはニッコリ笑って手を振り返してくれた。

「さあ、注目の一戦だよ。次はハヤトVSアシムマスクだ。ハヤトはシャルガネ出身のゴブリン・ロードで、資料によると、流派はシノビ・スタイルだそうだ。アシムマスクの方はまあ、今更説明不要だろう」
「アシムベート様はシングルマッチにも出場されるのですね。さすがは酋長様です」

 ちなみにアシムベートのマスクはさっきの試合でナハシュが破壊したので、エフレムモデルの新しいマスクに代わっている。スィーリーンが選手用に製作したもののうち、アシムベートが気に入って選んだらしい。以前のものより今風でおしゃれになったとギシュム族の間でも好評だ。


 ニンジャ! ニンジャ! アシムベート! アシムベート!
 シノビVSアシムベートという好カードに、ギシュム族は盛り上がっていた。

「なあ、アシムベート。あんた今日二試合目だけど大丈夫か?」
 黒い頭巾で顔を隠したハヤトが問いかけると、アシムベートはフッと笑った。
「無論だ。頭の傷はフェイサル殿に癒してもらったし、何の支障もないさ」
「安心したぜ。どうせやるなら、万全の状態のあんたと戦いてぇからな!」
(見事な覇気だ。儂にも、先ほどの二人(ヨルとナハシュ)やこの若者のようにギラギラした頃があったはずなのだが……)
 気負わず構えるハヤトの姿を、アシムベートは少しうらやましく感じていた。

「さあ来い! 若きシノビよ!」
「行くぜ!」
(さて、イネスちゃんの為にも試合を盛り上げねえとな♪」

 ハヤトはまずコーナーポストによじのぼると、ポストを蹴り、空中からアシムベートへと襲い掛かった。空高く舞い上がった状態からコンドルのように頭上の死角を狙う、両足キックだ。アシムベートは落下してくるハヤトの動きを冷静に見極め、パンチで叩き落とそうとした。
「……ッ!」
 危うくカウンターで迎撃されかけたハヤトは強引に落下の軌道を変え、マットに着地した。

「いい動きだ。捉えたと思ったが」
「……本気でやらねえと、骨ぐらいは折られそうだな」

●
(奴はどこだ!?)
 アシムベートはリング内を高速移動し続けるハヤトの動きを目で追っていた。アシムベートの攻撃の命中率は約二割ほど。特に渾身の一撃は全てハヤトに見切られていた。

(剣があれば……いや、たとえ剣があったとしてもこの男は容易く捉えられる相手ではない)
 
 一方、ハヤトにとってもアシムベートは決して余裕のある相手ではなかった。周りには華麗にヒット&アウェイを行っているように見えているかもしれないが、実際には綱渡りだ。あと一発もらえば、きっと立ち上がれなくなるだろう、とハヤトは感じていた。

(このスピードを維持できるのもそろそろ限界だ! ここで決める!)

「うらぁああああ!」
 ハイディングで一瞬だけ、気配を隠していたハヤトは背後からアシムベートを抱え上げ、アシムベートを思いっきり後方へ投げ捨てた!

「リングアウトの場合、十秒以内にリングに戻れない場合は失格です!」
 審判が叫んだ。

(立つなよ……あのデカいオッサンをもう一回投げ飛ばす体力は残ってねえ!)
 荒い息を吐きながら、ハヤトはリング外で膝立ちになっているアシムベートを凝視していた。そして――アシムベートは起き上がれず、ハヤトの勝利が確定した。

「見事だ、若きシノビよ。次の機会にはぜひ儂の挑戦を受けてくれ」
「ああ。今日は俺が勝ったけど、武器アリならきっとあんたの方が強かったと思う」
 ハヤトはアシムベートと固く握手を交わした。

●第三の征竜の巫女イネス
「流石にあの帝国とアシムベートの密約には大酋長の求心力が低下するだけの理由はあったが、この時期に現れた蜥蜴人(リザードマン)の気を引く存在ってのは、ちょっと怪しいんじゃないか」
(リブラネスタの件もあるしね)

 ルチルの言葉に、レティシアは頷いた。
「ルチル様もそう思われますか。実は私も同じような考えです。征竜の巫女イネス様……彼女が現れたタイミングが出来すぎている気がして」
「スィーリーン。アンタも同じかい?」
 ルチルが問うと、スィーリーンは控えめに頷いた。
「……はい。征竜の巫女様を疑うのはよくないと思うのですが……少々、違和感があります」
「決まりだね。アタイ達でちょっと探りを入れてみようか」

●
「竜への道を目指す者として征竜に近しい者、そして蜥蜴人の進化に助力する貴方自身に興味があるんだ。よければ話を聞かせておくれ」
 ルチルは他の冒険者達と共にイネスの元に行き、話しかけた。

(イネスの周りには常にリザードマン達が大勢いる。あまり失礼な質問はしない方がいいかもしれない)
「極北って、アタイはいったことないんだけど……どんなところなんだい?」
「すみません、征竜様に里のことはみだりに話さぬようにと言われております」
「そうか。そいつはすまなかったね。アンタ、ヒルルクのことは知ってるかい?」
「ええ。もちろん存じております。一人目の巫女様ですね。直接お話をしたことはございませんが、祭事でお顔を拝見したことがあります。あちらは、私のことなど覚えていないかもしれません」

「ふむ。南下してディズル大湿原にやってきた理由は何か理由があったのかい?」
「この湿地帯のリザードマン達を導き、竜に至らせる為です。征竜様のお言葉ですから」

「ギシュム族とはどんな話を? 故郷の話はできないんだろ?」
「ギシュム族の方々とは、お互いが戦ったことのある強敵の話をしたり、トレーニング談義をしたり、お話を聞いたりしております。興味深いのは、この土地に封印されている大型クリーパー『泥血啜る月吸蟲』の話ですね。とても……良い試練のようでございますから」

 ルチルが聞こうと思っていたことをあらかた聞き終えた後、次にレティシアが前に進み出た。

「イネス様。旅の本来の目的地はどちらだったのでしょうか?」
「元々ディズル大湿地帯のリザードマン達に会いに来たので、すでに本来の目的地に着いているといえます。ギシュム族の方々に保護していただけたことも、征竜様のお導きだったのかもしれません」
「そうですか。最近メドゥの指先の活動も活発ですし、供の方とお二人での旅は大変だったのでは?」
「はい。それなりに大変でした。女と年寄りの二人旅のせいか、人攫いやガラの悪い方のナンパにはよく遭います。ただ、普段は巫女であることを隠しておりましたため、巫女の力が原因で犯罪者に狙われたことはございませんでした」
(嘘をついている方特有の戸惑いや同様は感じられませんね。ですが……なんとなく、私達のどの質問にも、すごく答え慣れているような……正直に答えて下さっているのか、あるいは、とても嘘が上手な方なのか……)
 それが、レティシアが彼女の受け答えに対して抱いた印象だった。

「俺も話を聞かせてもらっていいだろうか」
 イネスの周りに冒険者達が集まっているのを見たレピド(キジトラマン衣装は脱いだ)は、自分も輪に混ざり、彼女に質問をしてみた。

「ええ、もちろん」
 イネスはたおやかに微笑んだ。

「アンタはいつ巫女に?」
「二年ほど前になります」
(二年前……帝国崩壊から一年後くらいか)
「何が得意なんだ?」
「武術と、お料理を少々嗜んでおります」
「元々は、何処に住んでたんだ?」
「極北でございます。とても厳しい環境でした……それ以上のことは、申し上げられません。征竜様との約束ですので」

 次にイネスに質問をしたのは、スィーリーンだった。

「イネス様、リザードマンの思想に共感を示して下さり嬉しく思います。その、この様な質問は不敬かも知れませんけれど……征竜様は本当に、我々リザードマンが今世で竜に至る事を望んでおられるのでしょうか。征竜様はもっと慎重なお考えをお持ちだと思っておりましたもので」
 スィーリーンがためらいがちに問いかけると、イネスは沈痛な表情を浮かべ、静かに頷いた。

「私は『この地のリザードマンを竜となるように導け』という、征竜様の声を確かに聞きました。……それと、確証はありませんが、何か……焦りのような意志を感じた気がします。征竜様のおっしゃる『世界の敵』と関係があるのかもしれません」

「あ、俺も混ぜてくれ! イネスちゃんとはぜひ俺も話がしたいと思ってた!」
 フェイサルから治療を受け、戻ってきたハヤトはイネスの傍に寄ってきた。その両の眼は、イネスのきわどい衣装の隙間から覗く、肌色の部分に向けられている。

「なあ、イネス。俺は他の巫女とも顔馴染みなんだが、征竜の巫女ってな何人いるんだ?」
「おそらく……私を含めて三人ではないでしょうか。私以外には、ヒルルク様と、シルトラース帝国の皇子レイウェスト・バルダスだけだと思います」
「そっか。巫女の役目ってのは? どうやったら巫女になれるんだ?」
「私は征竜様の従者です。征竜様から与えられた使命を果たすことが、役割だと言えるでしょう。私は、この土地のリザードマンの方々が竜となれるように導けという託宣に従い、この地にやってきました。巫女になる方法は……征竜様に選ばれる以外にはありませんね。『資格』を持つものだけが、征竜の巫女になることができます」
「その『資格』ってのは?」
「秘密です。征竜様に決して口外しないように命じられておりますので」
「そうか」
(従者がどうとか、資格がどうとかは、確かヒルルクも言ってた気がするが……うーん?)
 ハヤトは色々考えてみたが、考えがまとまらなかったので、もう一つ聞きたかったことを聞くことにした。

「イネス、俺と遊びに行かないか? この辺はちょっとじめじめしてるだけど、シノビのテクニックを手取足取り伝授してやるぜ♪」
「まあ。アシムベート様に打ち勝った方からのお誘いは大変光栄なのですが、その……」

 ちらりとハヤトの後ろを見るイネス。ハヤトが振り向くと、そこにはギシュム族の若い衆が百人ほど集まっていた。彼らはみな、イネスに心酔する者達である。イネスは今やギシュム族のアイドル。デートに誘うなどもってのほかだと考える者は少なくない。

「ハヤト殿。酋長を破った貴殿の力に感服いたしました。どうか、我らに稽古をつけていただきたい」
 ふんす、と鼻息を吐くギシュム族のでかいお兄さん達。彼らの額には青筋が立っていた。

「いや、俺は……アシムベートとの戦いで疲れちゃったんで、イネスちゃんに膝枕で癒しを……」
「何をおっしゃる! まだまだ元気が有り余っているではないですか!」(ガシッ)
「いいから来い! 俺達と肉体言語で濃密な交流をしようぜ!」
「うげええ!? 誰か、助けてくれー!」

 こうして、冒険者達も参加したギシュム族のムーンドラ大会は、盛況で幕を閉じたのだった。

マスターコメント

イベントが盛り上がったので結果は大成功とさせていただきます。レギュレーション的に不利な面があったとはいえ、アシムベート二連敗は予想外でした。倒した方々はおめでとうございます! ミステリアスな美女のイネスちゃんは次フェーズもきっと登場するでしょう。お疲れ様でした!
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:多い10 / 4〜25人

2023年05月21日 23時30分36秒 公開

大成功

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0