果実の街で早春を
崎田航輝
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シナリオID:2846
オープニング
冬の寒さが少しずつ遠ざかり、春の足音が聞こえてくる。
そんな時節に、農園で艶やかな色彩が実を結ぼうとしていた。
それは甘酸っぱくも美しい、苺。今、果実の街に……紅色に華やぐ季節が訪れ始めようとしていた。
都市同盟、平野部の街ユームタルト。
長閑な空気の流れるそこは、一年を通して多様な果物が育てられている。
その色彩と美味は、時々で訪れる人を楽しませ……商人にも観光客にも、“果実の街”としてよく知られる存在だった。
中でも今の時期は――
「色鮮やかになってきたね」
歩む人々が感嘆の声音で上方を仰ぐ。
道々に観賞用の苺が生っており、その果実が鮮やかに色づいているのだ。
そう、苺が旬を迎える今時分、他の季節に劣らず街は色彩豊かで……観光の旺盛を迎え始めていた。
訪れる人の数も右肩上がりで、街も全体で来訪者を歓迎する姿勢。
見回せばアーチだけでなく、家々の軒に果実の鉢と共に――“果実筒”の飾りが並んでいるのも見える。
ガラスの筒に観賞用果実や草花を入れ、オイルで封をして作るそれは……最近、街で流行している飾り物。
その美しさに、制作体験の場も賑わいの一端を担っていた。
勿論、賑わいと言えば……街の農園こそ盛況だ。
様々な品種の苺が最盛期を迎えるそこでは、実った果実を好きなだけ味わえる苺狩りが催され――老若男女がその美味を楽しんでいる。
隣接するカフェでも、新鮮な果実を使ったスイーツが堪能でき……タルトにミルクレープにパフェにと、人気のメニューに枚挙にいとまがなかった。
こんな魅力的な街と時期だからこそ――
「もっともっと街を、色んな人に知ってもらいたい!」
そんな希望に溢れる町長が……観光にと、冒険者達を招く事に決めたのだった。
そうして冒険者達は果実の街を訪れた。
早春の時期、そこは清らかな風に甘酸っぱい香りがのっている。
その中で、それぞれに歩みだした冒険者達は――
そんな時節に、農園で艶やかな色彩が実を結ぼうとしていた。
それは甘酸っぱくも美しい、苺。今、果実の街に……紅色に華やぐ季節が訪れ始めようとしていた。
都市同盟、平野部の街ユームタルト。
長閑な空気の流れるそこは、一年を通して多様な果物が育てられている。
その色彩と美味は、時々で訪れる人を楽しませ……商人にも観光客にも、“果実の街”としてよく知られる存在だった。
中でも今の時期は――
「色鮮やかになってきたね」
歩む人々が感嘆の声音で上方を仰ぐ。
道々に観賞用の苺が生っており、その果実が鮮やかに色づいているのだ。
そう、苺が旬を迎える今時分、他の季節に劣らず街は色彩豊かで……観光の旺盛を迎え始めていた。
訪れる人の数も右肩上がりで、街も全体で来訪者を歓迎する姿勢。
見回せばアーチだけでなく、家々の軒に果実の鉢と共に――“果実筒”の飾りが並んでいるのも見える。
ガラスの筒に観賞用果実や草花を入れ、オイルで封をして作るそれは……最近、街で流行している飾り物。
その美しさに、制作体験の場も賑わいの一端を担っていた。
勿論、賑わいと言えば……街の農園こそ盛況だ。
様々な品種の苺が最盛期を迎えるそこでは、実った果実を好きなだけ味わえる苺狩りが催され――老若男女がその美味を楽しんでいる。
隣接するカフェでも、新鮮な果実を使ったスイーツが堪能でき……タルトにミルクレープにパフェにと、人気のメニューに枚挙にいとまがなかった。
こんな魅力的な街と時期だからこそ――
「もっともっと街を、色んな人に知ってもらいたい!」
そんな希望に溢れる町長が……観光にと、冒険者達を招く事に決めたのだった。
そうして冒険者達は果実の街を訪れた。
早春の時期、そこは清らかな風に甘酸っぱい香りがのっている。
その中で、それぞれに歩みだした冒険者達は――
解説
●概要
都市同盟の街、ユームタルトへ観光に招かれました。
苺狩りやハーバリウム制作を中心に楽しんでゆく事が出来ます。
●ユームタルトについて
同盟の平野部にある都市です。
農業が盛んで、果物類の生産や取引が多く行われています。
今の時期は苺を中心に早春の果物が出回っています。
●行える事
自由に散策出来ます。
以下、立ち寄れる場所やイベントの例を示します。
1.果実筒
生花店にて、いわゆるハーバリウムの制作体験が出来ます。
観賞用果実や花を、オイルと共に筒に入れて封をして作ります。
色とりどりの苺や早春の花を使うのが流行していますが、素材は自由です。ドライフラワーやドライフルーツは、各季節のものが使えます。
また、ランプと組み合わせてオリジナルの照明にするのも人気です。
作ったものは持ち帰ったり、街に飾る事もできます。
2.苺狩り
農園で苺を自由に採って食べる事が出来ます。
品種は多様で、熟したものや熟しきっていないもの、大きなものや小粒なものがあります。
色も紅色やピンク、白や黄色など多彩です。
3.料理
苺狩りで採った苺をログハウスで料理出来ます。
器具や調味料などや揃っていますが、持ち込みも可です。
ジャムや簡単なケーキなどを作るのが人気なようです。
料理が出来ない方は教えてもらう事も出来ます。
4.カフェ
農園に隣接したカフェでスイーツを楽しめます。
メニューは苺が材料ならば様々なものがあるでしょう。
タルトやショートケーキ、苺クリームのミルクレープ、パイやパフェなどが人気です。
ソルベや苺大福、ムースやマカロンなどもあります。
飲み物も苺オレやサングリアなど色々と見つかるでしょう。
5.お土産
果実だけでなく、農園製のジャムや、カフェのメニューのお持ち帰りも出来ます。
商店街では苺をテーマにしたクッションや日用品などのグッズも人気です。
6.散策
観賞用苺のアーチが多く連なる「アーチ通り」や、果実筒が提灯や風鈴のように並ぶ「果実筒通り」が人気のスポットです。
家並みにも鉢植えの苺や果実筒が並んでいて、街全体で景色が楽しめるでしょう。
キウイや柑橘類など、苺以外の果実を探すのも良さそうです。
マスターより
同盟の一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
春に華やぐその街へ、エルナ・クルプファルツは歩み入っていた。
美しいものも、美味しいものも、沢山あるに違いない。
「楽しみです!」
どんなわくわくと出会えるだろう――期待と共にエルナは道を進みだした。
差し込む陽光が、艶やかな果実を煌めかす。
苺狩りへ訪れたヨル・スレイマンとナハシュは、そんな眺めに視線を巡らせていた。
「沢山あるし粒が大きい。すごいな……!」
「ああ、それに――」
ヨルの言葉に頷きながら、ナハシュも少々驚嘆。そこにあるのは紅だけでなく――桃色に白に黄色にと、多様な色彩だったから。
「想像以上にカラフルだな」
「味も楽しみだね」
二人で見合って頷くと、スタッフから軽く説明を聞いた後、早速苺狩りを始める。
まずはナハシュが目の前にある苺を次々に摘んで実食。
すると――
「どれも味が違うな」
それらはどれも赤色だったけれど、粒の大小で歯ごたえも瑞々しさも異なるし……何よりその甘味が別物だ。
ナハシュは勿論甘さ控えめで、酸味の強いものが好きなので、それを重点的に口に運びつつ。
「そっちの房、甘い奴だったぞ」
「ありがとう」
ヨルも応えながら真っ赤な品種の、特に大粒なものを狙って食べると――
「ん、確かに」
表面はハリがあって、一瞬だけ硬いものかと思わせる。けれど噛み進めると、じゅぷりと果汁が弾けて……非常に身の詰まった一粒だと判るのだ。
小さいものも、甘みが濃縮されていて満足度が高い。
別の品種でも、更に濃厚な甘さを楽しめたり、逆に爽やかさな風味を味わえたり。
「全部美味い」
「甘くない奴が多いのもいいな」
それで、とナハシュは別の苺に目をやる。
「この白や黄色のは食えるのか? 熟してねえ奴か?」
「白も黄色も美味しかったよ。ちゃんと熟れてる」
ヨルの言葉に、ナハシュはへえと頷きつつ、「じゃあ」と実食。まずは白の苺を口に入れると……確かに熟しているのが判る。
ただ赤いものとは違い、刺激が少なくまろやか。クリーミーで優しい味わいだった。
一方、黄色は甘みが華やかでトロピカルな風味。こちらも白や赤に劣らず美味だ。
「色んな味があって飽きねえな」
「色んな味といえば……これも持ってきたよ。どれが一番合うか試そうと思って」
と、ヨルが用意したのはココアパウダーに蜂蜜、甘露アリのシロップ。
「お、いいな。早速試してみようぜ!」
という事でココアパウダーをつけて食べると――芳しくて深い甘みになる。
「これは白が合うね。フルーティなミルクココアみたいだ」
「確かに美味い」
ココアパウダーは余分な甘さが足されず、ナハシュも種々の苺につけて味わう。
逆に、特別に酸味の強い粒には……仄かに蜂蜜やシロップをつけても程よい味わいになった。
ヨルは甘いものは好きだから、勿論甘い粒にもたっぷりかける。すると濃厚な甘み同士のマリアージュで、スイーツのような美味を堪能できて。
「しかし、こうして見ると……」
よく育ってる、とヨルは実感する。
「野生の奴とはだいぶ違うんだよな」
旅生活の長さ故、熟れていない苺の方が食べ慣れているから……尚の事その差異を強く感じるのだ。
「その辺で育つ苺は小さいのに、畑で育つとなんでこんな大きくなるんだろうな。品種とかやり方では、うちの庭でも育つんだろうか……」
「やってみるか?」
ナハシュは言って、良さそうな苺を数個ほどマジカルポケットに入れていた。
「植えたら育つかもしれねえ。ゴールディあったけぇし」
そしたらいつでも苺食えるな、と笑みを見せるナハシュに……ヨルは成程と頷く。
「試すのも面白そうだね」
「店でも種売ってたみたいだし、買ってくか?」
「そうだね。色が多彩なのも楽しみだし……全種類お土産に買って帰ろうか」
勿論果実も一緒に、と言うとナハシュは頷いて……また暫く苺狩りを楽しんでから、場を後にするのだった。
ナハティガル=ラーはゲルダ・クラインと果実色の道を行く。
ゲルダを苺狩りに誘ったその道中だ。
街には甘い香りが漂い、賑わいも満ちている。その空気を楽しみながら――それでも二人は少しだけ静かだった。
それはあの日を想起しているから。
「……」
ナハティガルは青空を仰ぐ。
――かつて、ドン・ゴーフルと呼ばれたゴブリンがいた。
その姿を思い描こうとしても、記憶は不確かで。心の中の像は泡沫のように消えてしまう。
けれど、覚えているものはある。
その存在が神の座に昇ったという日……ゴブリンに降り注いだ光はとても温かだった、と。
今、空には麗らかで優しい陽がある。
あの温度は、きっとそれとよく似ていた。
(俺達は“ヒト”になったのだろうか?)
目に見える変化は無く、今の自分には何もわからない。
ただ、名もなきゴブリンの事を思い出そうとすると、涙が零れるのだ。
「俺達は父なるものに愛されていたのか……?」
「……、ナハティガル様――」
ゲルダはそっと、その横顔を見つめる。
一つの大きな流れが収束に向かって、ゴブリンの種の未来には変化の兆しが現れた
(それでも――)
ゲルダはナハティガルを取り巻く環境の全てが変わる訳ではない事を知っている。
だからきっと、自分と彼の関係も。
ゲルダは目を閉じる。
自分の中にあるもの。それはまだ秘めたままの方が、きっと良いはずだから――と。
「ナハティガル様、農園ですよ」
次には明るい声音で前方を指した。
だからナハティガルも、頷いて……二人で苺狩りと向かう。
畑は沢山の苺が艶めく果実の楽園だ。粒は大小揃っており、色彩も美しい。
ただ、ナハティガルは少々見回す。自身から誘ったはいいけれど、果物の知識には少しばかり乏しくて。
「白や黄色の苺もあるが……食えるのだろうか」
「もちろんです。早速、摘んでみましょう?」
ゲルダは笑みかけると導くように歩みだす。
そうして幾つかの房を見て回り、美味しそうに熟している苺を選び始めた。
心の内にあるものは、仕草に出さないように。
「ナハティガル様、こちらの苺が美味しそうですよ」
摘み取ったその苺を、ナハティガルへと手渡す。
「いいのか」
「はい」
ゲルダが頷くから、ナハティガルはそれを受け取った。
以前は、こういったものを食べても酸っぱいとした感じなかった。ただ、味覚障害も治りつつある今、改めて口に運んでみると――
「……甘いのに酸っぱい。初めての味わいだが、悪くない」
その感覚が新鮮で。
ゲルダは「良かったです」と微笑んで、自身も苺を摘んで一口だけ齧った。
「甘酸っぱくて、瑞々しくて……美味しいですね」
「違う色も食べてみるか」
ナハティガルがいえば、ゲルダは喜んで頷く。
こうして隣同士で苺を食べて、感想を言い合って。
――ただそれだけのことなのに、こんなにも嬉しい。
この先がどうなるのか、それは判らない。
だから今の風を感じるように……ゲルダはナハティガルと並んで、歩みを続けていく。
瞳に映る色彩が、過ぎ去る度に香ってゆく。
そんな景色を楽しみながらスィーリーンは街を歩みゆく。
「道々にも苺が生っているなんて……果実の街と言うだけありますね」
春らしく、華やかで。
見ているだけでも嬉しい気分になれる。
勿論、眺めるだけじゃなく楽しんでゆくつもり。生花店に立ち寄ると、まずは果実筒を作ってみる事にした。
「苺の実が鮮やかですね」
それを幾つか選びつつ、苺の花も選択。
白く可愛いこの花を、是非使いたかったのだ。
あとは黄色いドライフラワーで明るい印象を取り入れて……緑の葉も少し加えて花や実が目立つように配置する。
出来上がったのは、可憐な果実と花を、華やかな色彩が飾る果実筒。
緑の葉が主役を映えさせて、全体で爽やかな春を感じられる――そんな美しい逸品となった。
それをランプと組み合わせると……優しくも華やかな光が零れて。
「綺麗です――」
完成品の輝きにスィーリーンはそっと呟いて……部屋に飾ろうと決めた。
その後はカフェへ赴き、青空と苺畑が見える席につく。
「どれも美味しそうですけれど……」
と、メニューに迷いつつも……苺のタルトと苺ラテに決めて実食。
苺たっぷりのタルトは、生地の優しい食感と、瑞々しい果実が相性抜群で。ラテは苺の甘酸っぱさとミルクのまろやかさが何とも美味だった。
「素敵ですね」
味にも景色にも、実感するように呟く。
春を色々な形で楽しむ一日。それに満足の心持ちで……スィーリーンはゆったりと季節の恵みを味わっていった。
「苺が沢山。綺麗な景色さぁ――」
子兎のイュンと共に、フリューリングスルフト=ティエラは街を歩む。
春の彩は心が躍る。その香りと色が芽吹きを感じさせてくれるようで、眺めるだけでも楽しかった。
と、そんな中にひときわ目を引く色がある。
それは果実筒……果実の色味が煌めくハーバリウムだ。
「はー、ばりうむ?」
興味を持って、その生花店で説明を聞くと――自由なデザインで作れると聞いて。
「わ、楽しそうさぁ!
早速、教えてもらいながら実作。
「どの色がいいさぁ?」
イュンにも聞くと、イュンはきょろきょろと見回した後、桜やネモフィラに顔を近づけていて……フリューはよしっと頷く。
「それで作るさあ!」
緑の葉も入れて、果実で濃い色味も添えながら。
一緒に作った果実筒は、清廉な春を思わせる逸品になった。
「あ、そうだ。折角やし……んふふ♪」
と、フリューは更に小さなガラスドームを選び――ネックレスタイプのものを作る事にする。
入れるのはアネモネに似た赤い花。
『忘れられない一瞬を、咲いたひと時を、きらきら宝箱に入れよう』
その花弁を丁寧に配置しながら……歌を口遊む。
『見る度思い出せるように、いつも忘れていても、宝箱があればきっと大丈夫』
流麗なメロディは、春らしいあたたかさも備えていて。
『残してしまってもだいじょうぶ、きっとあなたも笑顔にするから』
思いと共に封をすれば、心が詰まった無二の色彩が出来上がる。
「――花が咲いた後に種が残るように、うちが好きな物も残していくさぁ」
たくさん自分の宝箱を埋めよう。
これはその一つ。
完成したそれを大切に手にすると、イュンも一緒に見つめる。
それに微笑んで、フリューはまた春の道へと歩みだした。
春風に、小さな苺が柔く揺れている。
そんな穏やかな景色の道をルベア・ベルニは歩みゆく。
「やっぱり良い場所ね」
最近は一人で出かける事もなかったけれど、果実の街と聞いて……いてもたってもいられなかった。
そうして訪れたここはやはり、快い色彩と香りに満ちていて。
「まずはどこへ行こうかしら」
と、見回して――果実筒の制作体験の場を見つけて参加。照明と組み合わせてみようと、早速苺の果実の配置を考え始める。
「色も沢山あるけど……」
赤に紫に黄色。
思案しながら、ルベアが考えたのはそれらの色を綺麗にグラデーションさせる事だ。
深い赤の苺の近くに、紫の果実やツツジの花を添えて。青い花や葉っぱを挟んで、苺の色も緑から黄色へ変遷させてゆく。
「これで、明かりを灯したら――」
オイルを入れてから、ランプと合わせてみる、と。
ぼう、と灯った輝きが、果実や花の色合いを透かして七彩に煌めく。
柔らかな光は、それぞれの色の境目をぼかして溶け合わす。置く角度でも微妙に色彩が異なって……幻想的な煌めきを楽しめる逸品になった。
「ん、良い感じ」
完成品は持ち帰る事にして――ルベアはその足でカフェへ。
「色々、揃ってるのね……」
多彩な苺のスイーツに目移りしつつ、注文したのはショートケーキとパフェ。甘いものから酸味の強めなものまで、多種の苺が使われているものを選んだ。
早速、ケーキでクリームと甘い苺のハーモニーを楽しむと――パフェでアイスと共に酸味の強い苺も味わって。
「どちらも美味しいわ」
また甘いものを口に運んでは、別の味も楽しんで。
穏やかな春の日に、ルベアはゆったりとした時間を過ごしていった。
「お、ここが果実筒通りか」
苺に飾られたアーチの先。
そこに広がる景色の中へ、歩み入ったルイドは視線を巡らせていた。
視界に映るのは、筒に浮かぶ果実や花が幾つも飾られた眺め。
苺を中心に紅色が映えるものもあれば、青や緑の花とのコントラストや、それらに近い色の果実を主役に据えたものもあって。
「へえ」
美しく並んだそれを次々と眺めては、ルイドは声を零す。
果物は味でも香りでも見た目でも楽しめる、とは理解していたつもりだったけれど。
(完全な観賞用としての加工ってのもあるんだな)
季節そのものにはまだそこまで詳しくはない。
ただ、それでも思うものはあって。
「なんつーか……春らしさっての、この色彩からも感じるような気がするわ」
それもまた新鮮な経験と感慨。
だからゆったりと歩いて光景を楽しみながら……ルイドは暫し道を行く。
そうしていると、次第に食欲も感じてきて。
「さて、何かあるかな」
横道を見れば、店は幾つもある。
そこを少々探してみて――
「そうだな。これと、これを」
と、決めたのは苺やオレンジのドライフルーツ。他にもビワやメロンと、幾つかの乾物を見つけてそれぞれ購入した。
選んだのは、どれも甘さ控えめなもので。
「ん、良い味だな」
果実感と共に凝縮された旨味を楽しめる。
それを、足取りと同じようにゆったりと噛み締めつつ――ルイドはまた散策へ。
通りは長く続いていて、鮮やかな色彩が視界の先まで続いている。それを一歩一歩、味わいながら……春の風と共に進んでいった。
幾つもの色彩が揺蕩い、差し込む外光を美しく透かす。
そんな果実筒の並ぶ生花店へ――ヴィナスとルーンス・ラグネルは、共に制作体験へ訪れていた。
「こういう体験できるの、貴重だよね」
「そうだね」
ルーンスに頷きながら、ヴィナスはまず並ぶ見本を眺めている。
今日は楽しむ為に来たのは勿論、商人として視察も兼ねるつもり。
その視点で見ると、飾り物としての見た目と共に……オイルで密封するという手法と手軽さが気になっていた。
「標本みたいに長期に保存できそうだね」
果実や花も十分魅力的だけど、それ以外にもできるなら面白そうだ、と。
言葉にルーンスも成程と頷く。
「そうか、花と果実でなければならない訳じゃないもんねぇ」
空気に触れたり湿度で劣化する様々なもの。それを詰めた様を想像して感心を零した。
「にいさまのアイディアは相変わらず勉強になるよ」
「早速、作ってみようか」
ヴィナスは笑み返しつつ、花と容器を選んでゆく。
ルーンスも多様な色と形のそれらを検分して……共に制作を始めた。
その最中も、ヴィナスは道具や工程から多くの知見を得てゆく。例えば、用意されているオイルは透明だけれど――
「色が付けられるなら面白い事も出来るね。空の下に咲く花とか。この辺りの容器なら、ペーパーウェイトのようにする事も可能だろうし」
と、あまり使われない小さな容器も手に取ると……ルーンスは声音を明るくする。
「表現できる世界が一気に広がるね。セミオーダーみたいに、ある程度お客様の好みに合わせたアイテムが作れれば……贈り物用途にも良さそう」
そんな話をする内に、ヴィナスの方は完成を見ている。
それは苺の果実と花を使ったハーバリウム。流行に則りながらも、丁寧な配置で美しい色合いが表現されており……普遍的な魅力の逸品となっていた。
「それじゃあ、これは」
と、ヴィナスはそれをルーンスへ手渡す。
職人達への土産に、と。
「皆なら、俺が土産にした意味を分かるだろうからね」
皆といっても無論、ごく一部の人物は除外しての話。
ルーンスもそれが判るから、頷いて。
「なら僕はミモザの花にしようかな」
言って清廉な金色の花を入れて、ヴィナスのものとは印象を違える。
「あの馬鹿どもが至るとは思えないけど、にいさまに気づく可能性を減らしておくよ」
「うん。ありがとう」
共に職人の土産になるそれは、きっと今後に役立ってくれるだろう。
思いと共に店を辞した二人は――
「苺ジュース飲んで、のんびりお土産でも買おうか」
楽しむ事もまた視察には大事。
客になってその目線で物を見たいから、と。
ヴィナスが目を向ければルーンスも勿論と応える。
「冒険者としての依頼も、楽しむことだからね」
そうして二人はカフェに向かい、ジュースを注文した。
グラスに入ったそれは、新鮮な果実でしか出せない芳醇な香りと……瑞々しいまでの甘酸っぱさが無二の美味で。
「楽しんで商人として知見を得る、実にいい依頼だよね」
「そうだね。本当に」
言ってヴィナスも肯く。
春の色を拵えて、春の味を楽しんで。テラスの席で春の風も感じながら――二人は穏やかな時間を送っていった。
「さて。沢山あるな」
小粒から大粒、色も様々。
そんな果実を目にするカイン・ステラは……今しがた苺狩りへとやってきた所。
勿論、味を楽しみに来たのもあるけれど――
「良いのが見つかりそうだな」
探すのはスイーツに使う苺だ。
丁度、ルーンスの誕生日が近い頃。何か苺のスイーツを作ってとリクエストされたので……それに適したものが見つかれば、と思っての事。
「色も選び放題だな……」
と、早速食べていくと、どれも違った味を楽しめる。
小さいのは濃密で、大きいものは瑞々しくて。白はまろやかで優しく、紫は上品で香り高かった。
「これだけあると絞れないな……。寧ろちょっとずつ色々な苺楽しめるよう、小さいものを多く作った方がいいかもな。……これ、甘くて美味いな」
と、その中でもケーキに向いたジューシーさのあるものや、アイスに向いた強い甘みのあるものを見つけて選定。
結果として、多くの美味な品種を知る事が出来ると――
「お土産買うか」
傍の店にも、苺製品がよりどりみどり。
まず特製の紅茶を手にすると、色や甘さが多彩なジャムも幾つか選んで。
「ドライフルーツもあるのか」
こちらも複数の品種を買っていく事にする。
そのまま楽しむのは勿論、お菓子の材料にも出来る。そんなお土産を沢山手に入れて満足すると――
「独りでうろつくのもなんだしな」
店を出て、カフェの近くへ。
丁度そこで、兄弟の姿を見つける事が出来たので――カインは軽く手を振って、そちらへ歩み出した。
澄んだ空に、そよぐ苺が鮮麗なコントラストを加える。
そんな道をエヴァン・ピオネロとアルマ・ヴァレンタインは隣同士、並んで歩んでいた。
「今年も良い天気ですね」
「そうだねー」
風は春の温度で快く、甘酸っぱい香りものっていて。こうしているだけでも、エヴァンはお腹が鳴ってしまうのを自覚するけれど。
「まずはどこに行きましょう?」
「去年は苺狩りから行ったからー……」
今年のおデートは初挑戦から、と。
アルマが指をさすのは生花店だ。
果実筒の制作体験で賑わっていて――エヴァンも「いいですね!」と応え、共に参加する事に。
そうして流れを学び、早速作業に入ると……容器も花も、果実もよりどりみどりで。
「これだけ沢山選べるとあれもこれも詰め込みたくなって困っちゃうね」
「そうですね……」
エヴァンも見回しながら頷く。
ただ、美しい色彩を見ているとすぐにイメージは固まった。
選んだのは、苺の旬に合わせて――赤の系統の果実達。
桃色を起点に、紅色に変遷していくように、大小様々なそれらをうまく配置して……オイルを注ぐと、底から天辺まで螺旋状に繋がる形になる。
アルマは笑顔で覗き込んだ。
「桃色が映える色合いでステキな感じ!」
「えへへ、ありがとうございます」
エヴァンが喜ぶのは他でもない、主役となった桃色がアルマをイメージしたものだから。
「光が差すとテーブルに桃の光が伸びて綺麗ですね……」
確認しつつ、ランプと合わせると――柔らかい色が綺麗な照明が完成。贈り物としてアルマに渡した。
「良かったらアルマの部屋に飾って欲しいです」
「いいの? ありがとー!」
笑顔で受け取ったアルマは、それなら、と自身の作品にも思いを込める。
こちらは淡い青色の果実と花を配置。オイルを注ぐと……穏やかで優しさを感じる色合いの逸品となった。
「青で纏めたのも綺麗ですね……」
「うん。これ、良かったらエヴァくんのお部屋に飾ってみてー?」
「ぼくにですか? 喜んで飾りますね……!」
アルマからそれをプレゼントされたエヴァンは、笑顔で頷いて。思いを贈り合えた嬉しさと共に……次は苺狩りへ向かった。
そこで色も大きさも、沢山の種類の苺を手に入れると……料理へ。
「エヴァくん助手お願いね」
「はいっ、頑張りますね」
頷くエヴァンは、アルマの手の届かない場所にあるヘラやボウルを手渡してお手伝い。
礼を述べつつ、アルマはそれらを使ってケーキの生地を混ぜ始めた。
ただ、その最中もエヴァンはグゥ、とまたお腹が鳴って。
「……苺を少し摘まんでも良いですか?」
「ふふ、あんまり食べると飾る分がなくなっちゃうよ?」
アルマは笑みつつも、苺を口元に差し出す。
「はい、あーん」
「ぁ……アーン」
エヴァンは照れながらそれを口に入れて……幸せな甘みを噛みしめるのだった。
それから生地を焼くと、紅やピンクの苺をのせて完成。
「完成したよー」
「美味しそうです……!」
早速実食すると、生地はふわふわで、クリームもなめらかに仕上がっている。
それを苺と一緒に食べると、瑞々しさと甘みが最高の相性で。
「美味しいねー」
「はい、本当に」
お土産用に、白や黄色の苺も使ってカラフルなジャムを作ってある。勿論沢山作ったのでそれもケーキやバゲットに塗って味見して。
「こちらも美味しいです」
ふふ、とエヴァンが笑みを零すと、アルマも笑顔になる。
色彩豊かな春の味。それを楽しみながら感じる、春の風もまた……華やかな色彩に満ちているようだった。
「わぁ、ルティスお兄ちゃん見て見て!」
軽やかな足取り小走りするアステルに、導かれるように……キオルティスは果実筒通りを歩み出していた。
そこでは筒に籠められた花と苺の色彩が、陽光と青空に映えていて。
アステルが興味深げに視線を巡らせるのも、キオルティスには理解できる。
何故なら瞳に映るその景色は――
(とても綺麗で美しい。背徳的に、ね)
キラキラと、目を引く輝きと色合い。
そして……花々の一瞬を閉じ込めたエゴ。どこか蠱惑的なまでの魅力を感じてしまうのは、そこに理由があるとも思えて。
(アステルは……)
――どんなふうに感じているだろう。
自分よりも素直に綺麗と言えるのかも知れない、と。キオルティスは気になって見やる……と、アステルは明るい声音を聞かせてくる。
「凄く綺麗で可愛いね!」
同系統の色で纏めたものや、虹色を描くもの。
容器の形も様々で、一つ一つに違った世界観があるようで。
「果実筒って面白いね♪ どれも違うものばかりで、街も色付いて……創作意欲湧いちゃう!」
「弾けてるね」
キオルティスはその様子に、声と微笑を零した。
実際、それらは創作物として目と興味を引くものである事に間違いはなく。
(俺の。アステルの。音楽や絵の切欠になりそうなことは確かだね)
何故ならこんなに美しいのだから、と。
思いと共に見回す、キオルティスの様子を……アステルもまたちらりと目に留めていた。
その横顔は、少し和らいだようだけれど。一瞬前は、少し翳りもあったように思えて。
(何だか……何考えてるんだろう。元気、無い?)
それが少し心配で。
思い立ったアステルは、カフェを見つけて指した。
「あ、ルティスお兄ちゃん、あそこのカフェ行きたい! 少し歩き回ったし、休憩……とか、さ」
「いいね」
と、それにはキオルティスも笑顔で頷いた。
それ以上は口にしない。ただ、アステルが気を遣ってくれている事は判ったから……後でお土産をこっそり買って渡そう、と心に決めるのだった。
二人でカフェに入ると――
「どれも美味しそー!!」
アステルはメニューを捲っては目移り。
「と、とりあえずはムースかなぁ……タルトも頼みたいし、あ、飲みものはストロベリーティーがいいかな――」
「ふふ、メニュー捌きが流石だね」
キオルティスの向ける微笑みに、アステルは「ルティスお兄ちゃんは如何する?」と返しながら……「あ」と顔を明るくした。
「そうだ、違うもの頼んでシェアとかしたい! そしたら美味しいの、ルティスお兄ちゃんと共有も出来て、沢山も食べれるでしょ?」
「いいね。じゃあ、俺はケーキとベリーエイドかな」
そうしてムースにタルト、ケーキと色彩豊かな品々がやってくると……早速シェア。
ムースはなめらかな甘みが上品で、タルトは果実たっぷり。
ケーキはクリームが苺の味を引き立てていて……飲み物もまた美味で。
「全部美味しいね!」
「そうだね。――ところでアステル? 年頃のコがそんなに食べて大丈夫かい?」
「え、えっと……ここまで歩いてきたから大丈夫!」
アステルがそんなふうに返すと、キオルティスはふふ、と笑みながら。
「どんなアステルでもおにーちゃんは大好きだけどね!」
思いと共に、自分もあむりとケーキを味わう。
春が香る甘みはどれも優しくて。緩く流れる時間を、二人は暫し寛いでいった。
花と果実が織りなす世界。
ボトルに詰まったその色彩を――エル=バ=ノイアンは興味深く眺めていた。
「ふむ……また変わった趣のある……」
「どれも良く作られているね」
隣で応えて言うのはシルヴィア・A・カペル。この生花店に立ち寄って――共に果実筒の制作を始めるところだ。
最初のボトル選びから、多くの選択肢があって迷うけれど。
「俺はこちらを使おう」
ノイアンが選んだのはポケット瓶――ウィスキーボトル型。蓋も含め、特有の情緒を持つ容器となりそうだった。
頷きながら、隣のシルヴィアはフラスコ型のボトルを選択。
ころんとした丸みを帯びたフォルムが可愛らしいだけでなく……正面と背面が平らになっていて、直立でも斜めでも置けるタイプだ。
「では、作っていこうか」
「ああ」
ノイアンは花や果実に視線を巡らす。
どちらも淡い色から鮮やかな色、大きなものから小さなものまで勢ぞろいしている。どれも見目に美しく、無限の選択肢があるけれど――
「……そうだな。ではこれを」
ノイアンには既にイメージが出来ていた。
メインに選ぶのは白のヘリクリサム。清廉さを思わすそれを、静やかな美しさのイモーテルとニゲラ、可憐なかすみ草で彩ってゆく。
青に近い緑と白、その組み合わせで……鮮やかさに少々劣る分、落ち着いた、穏やかな雰囲気を演出していた。
シルヴィアが目元を和らげる。
「綺麗だね」
「――そちらも」
と、ノイアンが視線を返す先では……シルヴィアも作業を進めていた。
白い水仙と青い紫陽花が目を引くが――こちらも派手な華美さはなく清らかな色味。
そこに青い千日紅で柔らかな美しさを、白いかすみ草でふんわりとした空気を添えて……目立たぬ程度に白の小さな果実を交え、可憐な魅力も加える。
「あとはここに」
と、光に透けるガーデンクォーツを底に置けば、静謐と幻想を思わす果実筒の完成だ。
「巧みだな。特にその、水仙が良い」
「ありがとう。……私の個人紋はハープと水仙なんだ」
ノイアンに応え、シルヴィアは微笑む。
ハープは祖父――先代『蒼玉侯』から貰った紋だ。その祖父の花は白菖蒲で……水仙はシルヴィアだけの紋だった。
だから一入の思い入れがあって。
「王国に春を告げる花が、君にも真っ先に春を届けられるように」
――何時でも君を守りたい。
その想いを込めたから、と。
「……ありがとう」
あたたかな感情に、ノイアンは一度目を伏せる。
それから自分のボトルを示した。
そこにはノイアンの思いが籠もっているから。
「花言葉についてはお前の方が詳しいだろうから、解説は不要だろうが……」
仄かに口ごもってから、続けた。
「こういうことは言葉にしておくことが大事だと……聞く」
だから――んんっ、と咳払いをして。
「……“いつまでも続く喜び”。それがこの花言葉らしい」
言ってヘリクリサムを仄かに揺らす。
「二人で過ごす日々がそうであるように……願わせて欲しい」
「――、ありがとう」
シルヴィアは心から、素直な気持ちを返した。
だから、私も、と。
「私も願っているよ」
――君との日々が何時までも喜びに満ちているように。
思いを告げれば、ノイアンも頷いて表情を和らげる。
春の中、心を描いた二つの色彩は優しくて。窓から差し込む光を穏やかに、柔らかく溶かしていた。
美しいものも、美味しいものも、沢山あるに違いない。
「楽しみです!」
どんなわくわくと出会えるだろう――期待と共にエルナは道を進みだした。
差し込む陽光が、艶やかな果実を煌めかす。
苺狩りへ訪れたヨル・スレイマンとナハシュは、そんな眺めに視線を巡らせていた。
「沢山あるし粒が大きい。すごいな……!」
「ああ、それに――」
ヨルの言葉に頷きながら、ナハシュも少々驚嘆。そこにあるのは紅だけでなく――桃色に白に黄色にと、多様な色彩だったから。
「想像以上にカラフルだな」
「味も楽しみだね」
二人で見合って頷くと、スタッフから軽く説明を聞いた後、早速苺狩りを始める。
まずはナハシュが目の前にある苺を次々に摘んで実食。
すると――
「どれも味が違うな」
それらはどれも赤色だったけれど、粒の大小で歯ごたえも瑞々しさも異なるし……何よりその甘味が別物だ。
ナハシュは勿論甘さ控えめで、酸味の強いものが好きなので、それを重点的に口に運びつつ。
「そっちの房、甘い奴だったぞ」
「ありがとう」
ヨルも応えながら真っ赤な品種の、特に大粒なものを狙って食べると――
「ん、確かに」
表面はハリがあって、一瞬だけ硬いものかと思わせる。けれど噛み進めると、じゅぷりと果汁が弾けて……非常に身の詰まった一粒だと判るのだ。
小さいものも、甘みが濃縮されていて満足度が高い。
別の品種でも、更に濃厚な甘さを楽しめたり、逆に爽やかさな風味を味わえたり。
「全部美味い」
「甘くない奴が多いのもいいな」
それで、とナハシュは別の苺に目をやる。
「この白や黄色のは食えるのか? 熟してねえ奴か?」
「白も黄色も美味しかったよ。ちゃんと熟れてる」
ヨルの言葉に、ナハシュはへえと頷きつつ、「じゃあ」と実食。まずは白の苺を口に入れると……確かに熟しているのが判る。
ただ赤いものとは違い、刺激が少なくまろやか。クリーミーで優しい味わいだった。
一方、黄色は甘みが華やかでトロピカルな風味。こちらも白や赤に劣らず美味だ。
「色んな味があって飽きねえな」
「色んな味といえば……これも持ってきたよ。どれが一番合うか試そうと思って」
と、ヨルが用意したのはココアパウダーに蜂蜜、甘露アリのシロップ。
「お、いいな。早速試してみようぜ!」
という事でココアパウダーをつけて食べると――芳しくて深い甘みになる。
「これは白が合うね。フルーティなミルクココアみたいだ」
「確かに美味い」
ココアパウダーは余分な甘さが足されず、ナハシュも種々の苺につけて味わう。
逆に、特別に酸味の強い粒には……仄かに蜂蜜やシロップをつけても程よい味わいになった。
ヨルは甘いものは好きだから、勿論甘い粒にもたっぷりかける。すると濃厚な甘み同士のマリアージュで、スイーツのような美味を堪能できて。
「しかし、こうして見ると……」
よく育ってる、とヨルは実感する。
「野生の奴とはだいぶ違うんだよな」
旅生活の長さ故、熟れていない苺の方が食べ慣れているから……尚の事その差異を強く感じるのだ。
「その辺で育つ苺は小さいのに、畑で育つとなんでこんな大きくなるんだろうな。品種とかやり方では、うちの庭でも育つんだろうか……」
「やってみるか?」
ナハシュは言って、良さそうな苺を数個ほどマジカルポケットに入れていた。
「植えたら育つかもしれねえ。ゴールディあったけぇし」
そしたらいつでも苺食えるな、と笑みを見せるナハシュに……ヨルは成程と頷く。
「試すのも面白そうだね」
「店でも種売ってたみたいだし、買ってくか?」
「そうだね。色が多彩なのも楽しみだし……全種類お土産に買って帰ろうか」
勿論果実も一緒に、と言うとナハシュは頷いて……また暫く苺狩りを楽しんでから、場を後にするのだった。
ナハティガル=ラーはゲルダ・クラインと果実色の道を行く。
ゲルダを苺狩りに誘ったその道中だ。
街には甘い香りが漂い、賑わいも満ちている。その空気を楽しみながら――それでも二人は少しだけ静かだった。
それはあの日を想起しているから。
「……」
ナハティガルは青空を仰ぐ。
――かつて、ドン・ゴーフルと呼ばれたゴブリンがいた。
その姿を思い描こうとしても、記憶は不確かで。心の中の像は泡沫のように消えてしまう。
けれど、覚えているものはある。
その存在が神の座に昇ったという日……ゴブリンに降り注いだ光はとても温かだった、と。
今、空には麗らかで優しい陽がある。
あの温度は、きっとそれとよく似ていた。
(俺達は“ヒト”になったのだろうか?)
目に見える変化は無く、今の自分には何もわからない。
ただ、名もなきゴブリンの事を思い出そうとすると、涙が零れるのだ。
「俺達は父なるものに愛されていたのか……?」
「……、ナハティガル様――」
ゲルダはそっと、その横顔を見つめる。
一つの大きな流れが収束に向かって、ゴブリンの種の未来には変化の兆しが現れた
(それでも――)
ゲルダはナハティガルを取り巻く環境の全てが変わる訳ではない事を知っている。
だからきっと、自分と彼の関係も。
ゲルダは目を閉じる。
自分の中にあるもの。それはまだ秘めたままの方が、きっと良いはずだから――と。
「ナハティガル様、農園ですよ」
次には明るい声音で前方を指した。
だからナハティガルも、頷いて……二人で苺狩りと向かう。
畑は沢山の苺が艶めく果実の楽園だ。粒は大小揃っており、色彩も美しい。
ただ、ナハティガルは少々見回す。自身から誘ったはいいけれど、果物の知識には少しばかり乏しくて。
「白や黄色の苺もあるが……食えるのだろうか」
「もちろんです。早速、摘んでみましょう?」
ゲルダは笑みかけると導くように歩みだす。
そうして幾つかの房を見て回り、美味しそうに熟している苺を選び始めた。
心の内にあるものは、仕草に出さないように。
「ナハティガル様、こちらの苺が美味しそうですよ」
摘み取ったその苺を、ナハティガルへと手渡す。
「いいのか」
「はい」
ゲルダが頷くから、ナハティガルはそれを受け取った。
以前は、こういったものを食べても酸っぱいとした感じなかった。ただ、味覚障害も治りつつある今、改めて口に運んでみると――
「……甘いのに酸っぱい。初めての味わいだが、悪くない」
その感覚が新鮮で。
ゲルダは「良かったです」と微笑んで、自身も苺を摘んで一口だけ齧った。
「甘酸っぱくて、瑞々しくて……美味しいですね」
「違う色も食べてみるか」
ナハティガルがいえば、ゲルダは喜んで頷く。
こうして隣同士で苺を食べて、感想を言い合って。
――ただそれだけのことなのに、こんなにも嬉しい。
この先がどうなるのか、それは判らない。
だから今の風を感じるように……ゲルダはナハティガルと並んで、歩みを続けていく。
瞳に映る色彩が、過ぎ去る度に香ってゆく。
そんな景色を楽しみながらスィーリーンは街を歩みゆく。
「道々にも苺が生っているなんて……果実の街と言うだけありますね」
春らしく、華やかで。
見ているだけでも嬉しい気分になれる。
勿論、眺めるだけじゃなく楽しんでゆくつもり。生花店に立ち寄ると、まずは果実筒を作ってみる事にした。
「苺の実が鮮やかですね」
それを幾つか選びつつ、苺の花も選択。
白く可愛いこの花を、是非使いたかったのだ。
あとは黄色いドライフラワーで明るい印象を取り入れて……緑の葉も少し加えて花や実が目立つように配置する。
出来上がったのは、可憐な果実と花を、華やかな色彩が飾る果実筒。
緑の葉が主役を映えさせて、全体で爽やかな春を感じられる――そんな美しい逸品となった。
それをランプと組み合わせると……優しくも華やかな光が零れて。
「綺麗です――」
完成品の輝きにスィーリーンはそっと呟いて……部屋に飾ろうと決めた。
その後はカフェへ赴き、青空と苺畑が見える席につく。
「どれも美味しそうですけれど……」
と、メニューに迷いつつも……苺のタルトと苺ラテに決めて実食。
苺たっぷりのタルトは、生地の優しい食感と、瑞々しい果実が相性抜群で。ラテは苺の甘酸っぱさとミルクのまろやかさが何とも美味だった。
「素敵ですね」
味にも景色にも、実感するように呟く。
春を色々な形で楽しむ一日。それに満足の心持ちで……スィーリーンはゆったりと季節の恵みを味わっていった。
「苺が沢山。綺麗な景色さぁ――」
子兎のイュンと共に、フリューリングスルフト=ティエラは街を歩む。
春の彩は心が躍る。その香りと色が芽吹きを感じさせてくれるようで、眺めるだけでも楽しかった。
と、そんな中にひときわ目を引く色がある。
それは果実筒……果実の色味が煌めくハーバリウムだ。
「はー、ばりうむ?」
興味を持って、その生花店で説明を聞くと――自由なデザインで作れると聞いて。
「わ、楽しそうさぁ!
早速、教えてもらいながら実作。
「どの色がいいさぁ?」
イュンにも聞くと、イュンはきょろきょろと見回した後、桜やネモフィラに顔を近づけていて……フリューはよしっと頷く。
「それで作るさあ!」
緑の葉も入れて、果実で濃い色味も添えながら。
一緒に作った果実筒は、清廉な春を思わせる逸品になった。
「あ、そうだ。折角やし……んふふ♪」
と、フリューは更に小さなガラスドームを選び――ネックレスタイプのものを作る事にする。
入れるのはアネモネに似た赤い花。
『忘れられない一瞬を、咲いたひと時を、きらきら宝箱に入れよう』
その花弁を丁寧に配置しながら……歌を口遊む。
『見る度思い出せるように、いつも忘れていても、宝箱があればきっと大丈夫』
流麗なメロディは、春らしいあたたかさも備えていて。
『残してしまってもだいじょうぶ、きっとあなたも笑顔にするから』
思いと共に封をすれば、心が詰まった無二の色彩が出来上がる。
「――花が咲いた後に種が残るように、うちが好きな物も残していくさぁ」
たくさん自分の宝箱を埋めよう。
これはその一つ。
完成したそれを大切に手にすると、イュンも一緒に見つめる。
それに微笑んで、フリューはまた春の道へと歩みだした。
春風に、小さな苺が柔く揺れている。
そんな穏やかな景色の道をルベア・ベルニは歩みゆく。
「やっぱり良い場所ね」
最近は一人で出かける事もなかったけれど、果実の街と聞いて……いてもたってもいられなかった。
そうして訪れたここはやはり、快い色彩と香りに満ちていて。
「まずはどこへ行こうかしら」
と、見回して――果実筒の制作体験の場を見つけて参加。照明と組み合わせてみようと、早速苺の果実の配置を考え始める。
「色も沢山あるけど……」
赤に紫に黄色。
思案しながら、ルベアが考えたのはそれらの色を綺麗にグラデーションさせる事だ。
深い赤の苺の近くに、紫の果実やツツジの花を添えて。青い花や葉っぱを挟んで、苺の色も緑から黄色へ変遷させてゆく。
「これで、明かりを灯したら――」
オイルを入れてから、ランプと合わせてみる、と。
ぼう、と灯った輝きが、果実や花の色合いを透かして七彩に煌めく。
柔らかな光は、それぞれの色の境目をぼかして溶け合わす。置く角度でも微妙に色彩が異なって……幻想的な煌めきを楽しめる逸品になった。
「ん、良い感じ」
完成品は持ち帰る事にして――ルベアはその足でカフェへ。
「色々、揃ってるのね……」
多彩な苺のスイーツに目移りしつつ、注文したのはショートケーキとパフェ。甘いものから酸味の強めなものまで、多種の苺が使われているものを選んだ。
早速、ケーキでクリームと甘い苺のハーモニーを楽しむと――パフェでアイスと共に酸味の強い苺も味わって。
「どちらも美味しいわ」
また甘いものを口に運んでは、別の味も楽しんで。
穏やかな春の日に、ルベアはゆったりとした時間を過ごしていった。
「お、ここが果実筒通りか」
苺に飾られたアーチの先。
そこに広がる景色の中へ、歩み入ったルイドは視線を巡らせていた。
視界に映るのは、筒に浮かぶ果実や花が幾つも飾られた眺め。
苺を中心に紅色が映えるものもあれば、青や緑の花とのコントラストや、それらに近い色の果実を主役に据えたものもあって。
「へえ」
美しく並んだそれを次々と眺めては、ルイドは声を零す。
果物は味でも香りでも見た目でも楽しめる、とは理解していたつもりだったけれど。
(完全な観賞用としての加工ってのもあるんだな)
季節そのものにはまだそこまで詳しくはない。
ただ、それでも思うものはあって。
「なんつーか……春らしさっての、この色彩からも感じるような気がするわ」
それもまた新鮮な経験と感慨。
だからゆったりと歩いて光景を楽しみながら……ルイドは暫し道を行く。
そうしていると、次第に食欲も感じてきて。
「さて、何かあるかな」
横道を見れば、店は幾つもある。
そこを少々探してみて――
「そうだな。これと、これを」
と、決めたのは苺やオレンジのドライフルーツ。他にもビワやメロンと、幾つかの乾物を見つけてそれぞれ購入した。
選んだのは、どれも甘さ控えめなもので。
「ん、良い味だな」
果実感と共に凝縮された旨味を楽しめる。
それを、足取りと同じようにゆったりと噛み締めつつ――ルイドはまた散策へ。
通りは長く続いていて、鮮やかな色彩が視界の先まで続いている。それを一歩一歩、味わいながら……春の風と共に進んでいった。
幾つもの色彩が揺蕩い、差し込む外光を美しく透かす。
そんな果実筒の並ぶ生花店へ――ヴィナスとルーンス・ラグネルは、共に制作体験へ訪れていた。
「こういう体験できるの、貴重だよね」
「そうだね」
ルーンスに頷きながら、ヴィナスはまず並ぶ見本を眺めている。
今日は楽しむ為に来たのは勿論、商人として視察も兼ねるつもり。
その視点で見ると、飾り物としての見た目と共に……オイルで密封するという手法と手軽さが気になっていた。
「標本みたいに長期に保存できそうだね」
果実や花も十分魅力的だけど、それ以外にもできるなら面白そうだ、と。
言葉にルーンスも成程と頷く。
「そうか、花と果実でなければならない訳じゃないもんねぇ」
空気に触れたり湿度で劣化する様々なもの。それを詰めた様を想像して感心を零した。
「にいさまのアイディアは相変わらず勉強になるよ」
「早速、作ってみようか」
ヴィナスは笑み返しつつ、花と容器を選んでゆく。
ルーンスも多様な色と形のそれらを検分して……共に制作を始めた。
その最中も、ヴィナスは道具や工程から多くの知見を得てゆく。例えば、用意されているオイルは透明だけれど――
「色が付けられるなら面白い事も出来るね。空の下に咲く花とか。この辺りの容器なら、ペーパーウェイトのようにする事も可能だろうし」
と、あまり使われない小さな容器も手に取ると……ルーンスは声音を明るくする。
「表現できる世界が一気に広がるね。セミオーダーみたいに、ある程度お客様の好みに合わせたアイテムが作れれば……贈り物用途にも良さそう」
そんな話をする内に、ヴィナスの方は完成を見ている。
それは苺の果実と花を使ったハーバリウム。流行に則りながらも、丁寧な配置で美しい色合いが表現されており……普遍的な魅力の逸品となっていた。
「それじゃあ、これは」
と、ヴィナスはそれをルーンスへ手渡す。
職人達への土産に、と。
「皆なら、俺が土産にした意味を分かるだろうからね」
皆といっても無論、ごく一部の人物は除外しての話。
ルーンスもそれが判るから、頷いて。
「なら僕はミモザの花にしようかな」
言って清廉な金色の花を入れて、ヴィナスのものとは印象を違える。
「あの馬鹿どもが至るとは思えないけど、にいさまに気づく可能性を減らしておくよ」
「うん。ありがとう」
共に職人の土産になるそれは、きっと今後に役立ってくれるだろう。
思いと共に店を辞した二人は――
「苺ジュース飲んで、のんびりお土産でも買おうか」
楽しむ事もまた視察には大事。
客になってその目線で物を見たいから、と。
ヴィナスが目を向ければルーンスも勿論と応える。
「冒険者としての依頼も、楽しむことだからね」
そうして二人はカフェに向かい、ジュースを注文した。
グラスに入ったそれは、新鮮な果実でしか出せない芳醇な香りと……瑞々しいまでの甘酸っぱさが無二の美味で。
「楽しんで商人として知見を得る、実にいい依頼だよね」
「そうだね。本当に」
言ってヴィナスも肯く。
春の色を拵えて、春の味を楽しんで。テラスの席で春の風も感じながら――二人は穏やかな時間を送っていった。
「さて。沢山あるな」
小粒から大粒、色も様々。
そんな果実を目にするカイン・ステラは……今しがた苺狩りへとやってきた所。
勿論、味を楽しみに来たのもあるけれど――
「良いのが見つかりそうだな」
探すのはスイーツに使う苺だ。
丁度、ルーンスの誕生日が近い頃。何か苺のスイーツを作ってとリクエストされたので……それに適したものが見つかれば、と思っての事。
「色も選び放題だな……」
と、早速食べていくと、どれも違った味を楽しめる。
小さいのは濃密で、大きいものは瑞々しくて。白はまろやかで優しく、紫は上品で香り高かった。
「これだけあると絞れないな……。寧ろちょっとずつ色々な苺楽しめるよう、小さいものを多く作った方がいいかもな。……これ、甘くて美味いな」
と、その中でもケーキに向いたジューシーさのあるものや、アイスに向いた強い甘みのあるものを見つけて選定。
結果として、多くの美味な品種を知る事が出来ると――
「お土産買うか」
傍の店にも、苺製品がよりどりみどり。
まず特製の紅茶を手にすると、色や甘さが多彩なジャムも幾つか選んで。
「ドライフルーツもあるのか」
こちらも複数の品種を買っていく事にする。
そのまま楽しむのは勿論、お菓子の材料にも出来る。そんなお土産を沢山手に入れて満足すると――
「独りでうろつくのもなんだしな」
店を出て、カフェの近くへ。
丁度そこで、兄弟の姿を見つける事が出来たので――カインは軽く手を振って、そちらへ歩み出した。
澄んだ空に、そよぐ苺が鮮麗なコントラストを加える。
そんな道をエヴァン・ピオネロとアルマ・ヴァレンタインは隣同士、並んで歩んでいた。
「今年も良い天気ですね」
「そうだねー」
風は春の温度で快く、甘酸っぱい香りものっていて。こうしているだけでも、エヴァンはお腹が鳴ってしまうのを自覚するけれど。
「まずはどこに行きましょう?」
「去年は苺狩りから行ったからー……」
今年のおデートは初挑戦から、と。
アルマが指をさすのは生花店だ。
果実筒の制作体験で賑わっていて――エヴァンも「いいですね!」と応え、共に参加する事に。
そうして流れを学び、早速作業に入ると……容器も花も、果実もよりどりみどりで。
「これだけ沢山選べるとあれもこれも詰め込みたくなって困っちゃうね」
「そうですね……」
エヴァンも見回しながら頷く。
ただ、美しい色彩を見ているとすぐにイメージは固まった。
選んだのは、苺の旬に合わせて――赤の系統の果実達。
桃色を起点に、紅色に変遷していくように、大小様々なそれらをうまく配置して……オイルを注ぐと、底から天辺まで螺旋状に繋がる形になる。
アルマは笑顔で覗き込んだ。
「桃色が映える色合いでステキな感じ!」
「えへへ、ありがとうございます」
エヴァンが喜ぶのは他でもない、主役となった桃色がアルマをイメージしたものだから。
「光が差すとテーブルに桃の光が伸びて綺麗ですね……」
確認しつつ、ランプと合わせると――柔らかい色が綺麗な照明が完成。贈り物としてアルマに渡した。
「良かったらアルマの部屋に飾って欲しいです」
「いいの? ありがとー!」
笑顔で受け取ったアルマは、それなら、と自身の作品にも思いを込める。
こちらは淡い青色の果実と花を配置。オイルを注ぐと……穏やかで優しさを感じる色合いの逸品となった。
「青で纏めたのも綺麗ですね……」
「うん。これ、良かったらエヴァくんのお部屋に飾ってみてー?」
「ぼくにですか? 喜んで飾りますね……!」
アルマからそれをプレゼントされたエヴァンは、笑顔で頷いて。思いを贈り合えた嬉しさと共に……次は苺狩りへ向かった。
そこで色も大きさも、沢山の種類の苺を手に入れると……料理へ。
「エヴァくん助手お願いね」
「はいっ、頑張りますね」
頷くエヴァンは、アルマの手の届かない場所にあるヘラやボウルを手渡してお手伝い。
礼を述べつつ、アルマはそれらを使ってケーキの生地を混ぜ始めた。
ただ、その最中もエヴァンはグゥ、とまたお腹が鳴って。
「……苺を少し摘まんでも良いですか?」
「ふふ、あんまり食べると飾る分がなくなっちゃうよ?」
アルマは笑みつつも、苺を口元に差し出す。
「はい、あーん」
「ぁ……アーン」
エヴァンは照れながらそれを口に入れて……幸せな甘みを噛みしめるのだった。
それから生地を焼くと、紅やピンクの苺をのせて完成。
「完成したよー」
「美味しそうです……!」
早速実食すると、生地はふわふわで、クリームもなめらかに仕上がっている。
それを苺と一緒に食べると、瑞々しさと甘みが最高の相性で。
「美味しいねー」
「はい、本当に」
お土産用に、白や黄色の苺も使ってカラフルなジャムを作ってある。勿論沢山作ったのでそれもケーキやバゲットに塗って味見して。
「こちらも美味しいです」
ふふ、とエヴァンが笑みを零すと、アルマも笑顔になる。
色彩豊かな春の味。それを楽しみながら感じる、春の風もまた……華やかな色彩に満ちているようだった。
「わぁ、ルティスお兄ちゃん見て見て!」
軽やかな足取り小走りするアステルに、導かれるように……キオルティスは果実筒通りを歩み出していた。
そこでは筒に籠められた花と苺の色彩が、陽光と青空に映えていて。
アステルが興味深げに視線を巡らせるのも、キオルティスには理解できる。
何故なら瞳に映るその景色は――
(とても綺麗で美しい。背徳的に、ね)
キラキラと、目を引く輝きと色合い。
そして……花々の一瞬を閉じ込めたエゴ。どこか蠱惑的なまでの魅力を感じてしまうのは、そこに理由があるとも思えて。
(アステルは……)
――どんなふうに感じているだろう。
自分よりも素直に綺麗と言えるのかも知れない、と。キオルティスは気になって見やる……と、アステルは明るい声音を聞かせてくる。
「凄く綺麗で可愛いね!」
同系統の色で纏めたものや、虹色を描くもの。
容器の形も様々で、一つ一つに違った世界観があるようで。
「果実筒って面白いね♪ どれも違うものばかりで、街も色付いて……創作意欲湧いちゃう!」
「弾けてるね」
キオルティスはその様子に、声と微笑を零した。
実際、それらは創作物として目と興味を引くものである事に間違いはなく。
(俺の。アステルの。音楽や絵の切欠になりそうなことは確かだね)
何故ならこんなに美しいのだから、と。
思いと共に見回す、キオルティスの様子を……アステルもまたちらりと目に留めていた。
その横顔は、少し和らいだようだけれど。一瞬前は、少し翳りもあったように思えて。
(何だか……何考えてるんだろう。元気、無い?)
それが少し心配で。
思い立ったアステルは、カフェを見つけて指した。
「あ、ルティスお兄ちゃん、あそこのカフェ行きたい! 少し歩き回ったし、休憩……とか、さ」
「いいね」
と、それにはキオルティスも笑顔で頷いた。
それ以上は口にしない。ただ、アステルが気を遣ってくれている事は判ったから……後でお土産をこっそり買って渡そう、と心に決めるのだった。
二人でカフェに入ると――
「どれも美味しそー!!」
アステルはメニューを捲っては目移り。
「と、とりあえずはムースかなぁ……タルトも頼みたいし、あ、飲みものはストロベリーティーがいいかな――」
「ふふ、メニュー捌きが流石だね」
キオルティスの向ける微笑みに、アステルは「ルティスお兄ちゃんは如何する?」と返しながら……「あ」と顔を明るくした。
「そうだ、違うもの頼んでシェアとかしたい! そしたら美味しいの、ルティスお兄ちゃんと共有も出来て、沢山も食べれるでしょ?」
「いいね。じゃあ、俺はケーキとベリーエイドかな」
そうしてムースにタルト、ケーキと色彩豊かな品々がやってくると……早速シェア。
ムースはなめらかな甘みが上品で、タルトは果実たっぷり。
ケーキはクリームが苺の味を引き立てていて……飲み物もまた美味で。
「全部美味しいね!」
「そうだね。――ところでアステル? 年頃のコがそんなに食べて大丈夫かい?」
「え、えっと……ここまで歩いてきたから大丈夫!」
アステルがそんなふうに返すと、キオルティスはふふ、と笑みながら。
「どんなアステルでもおにーちゃんは大好きだけどね!」
思いと共に、自分もあむりとケーキを味わう。
春が香る甘みはどれも優しくて。緩く流れる時間を、二人は暫し寛いでいった。
花と果実が織りなす世界。
ボトルに詰まったその色彩を――エル=バ=ノイアンは興味深く眺めていた。
「ふむ……また変わった趣のある……」
「どれも良く作られているね」
隣で応えて言うのはシルヴィア・A・カペル。この生花店に立ち寄って――共に果実筒の制作を始めるところだ。
最初のボトル選びから、多くの選択肢があって迷うけれど。
「俺はこちらを使おう」
ノイアンが選んだのはポケット瓶――ウィスキーボトル型。蓋も含め、特有の情緒を持つ容器となりそうだった。
頷きながら、隣のシルヴィアはフラスコ型のボトルを選択。
ころんとした丸みを帯びたフォルムが可愛らしいだけでなく……正面と背面が平らになっていて、直立でも斜めでも置けるタイプだ。
「では、作っていこうか」
「ああ」
ノイアンは花や果実に視線を巡らす。
どちらも淡い色から鮮やかな色、大きなものから小さなものまで勢ぞろいしている。どれも見目に美しく、無限の選択肢があるけれど――
「……そうだな。ではこれを」
ノイアンには既にイメージが出来ていた。
メインに選ぶのは白のヘリクリサム。清廉さを思わすそれを、静やかな美しさのイモーテルとニゲラ、可憐なかすみ草で彩ってゆく。
青に近い緑と白、その組み合わせで……鮮やかさに少々劣る分、落ち着いた、穏やかな雰囲気を演出していた。
シルヴィアが目元を和らげる。
「綺麗だね」
「――そちらも」
と、ノイアンが視線を返す先では……シルヴィアも作業を進めていた。
白い水仙と青い紫陽花が目を引くが――こちらも派手な華美さはなく清らかな色味。
そこに青い千日紅で柔らかな美しさを、白いかすみ草でふんわりとした空気を添えて……目立たぬ程度に白の小さな果実を交え、可憐な魅力も加える。
「あとはここに」
と、光に透けるガーデンクォーツを底に置けば、静謐と幻想を思わす果実筒の完成だ。
「巧みだな。特にその、水仙が良い」
「ありがとう。……私の個人紋はハープと水仙なんだ」
ノイアンに応え、シルヴィアは微笑む。
ハープは祖父――先代『蒼玉侯』から貰った紋だ。その祖父の花は白菖蒲で……水仙はシルヴィアだけの紋だった。
だから一入の思い入れがあって。
「王国に春を告げる花が、君にも真っ先に春を届けられるように」
――何時でも君を守りたい。
その想いを込めたから、と。
「……ありがとう」
あたたかな感情に、ノイアンは一度目を伏せる。
それから自分のボトルを示した。
そこにはノイアンの思いが籠もっているから。
「花言葉についてはお前の方が詳しいだろうから、解説は不要だろうが……」
仄かに口ごもってから、続けた。
「こういうことは言葉にしておくことが大事だと……聞く」
だから――んんっ、と咳払いをして。
「……“いつまでも続く喜び”。それがこの花言葉らしい」
言ってヘリクリサムを仄かに揺らす。
「二人で過ごす日々がそうであるように……願わせて欲しい」
「――、ありがとう」
シルヴィアは心から、素直な気持ちを返した。
だから、私も、と。
「私も願っているよ」
――君との日々が何時までも喜びに満ちているように。
思いを告げれば、ノイアンも頷いて表情を和らげる。
春の中、心を描いた二つの色彩は優しくて。窓から差し込む光を穏やかに、柔らかく溶かしていた。
マスターコメント
お疲れ様でした。
街は各所で賑わい、明るい盛り上がりを見せました。街の春に興を添える事が出来て、街としても喜ばしい結果となったことでしょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準18 / 4〜25人
2023年03月22日 15時11分48秒 公開
大成功
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