柚子をおゆずりください!
炙りとろ左門
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シナリオID:2699
オープニング
「ううん、ちょっと足りないな……」
柚子の在庫を数えて頭を悩ませるのは、シャルガネの温泉宿「春宵」の女将、マリカだ。
旅の途中立ち寄ったシャルガネにて、その文化の「美意識」に甚く感動し、大森林から氏族ごと移住してきたのが……何十年前だったか。宿は繁盛しており、雪見の次は花見もできるとなれば春先まで客足が遠のくことはない、のだが。
「柚子が……これじゃ回り切らない」
直近の催事に、冬至の時節に入る「柚子湯」イベントがある。客が出入りすればするほど、湯に入れる柚子の交換頻度は高まる。その計算をしていたのだが、柚子園での収穫だけでは賄いきれそうにないのだ。
なにしろこの時期、「春宵」では柚子を使った料理も振る舞うことになっている。「なんだ今年は柚子湯がないのか」なとと残念そうな顔を、お客様にさせるわけにはいかない。
「こうなったら、裏山の柚子の木魔獣から実をもぎ取るしかないわ……!」
そのためには授恵者の力が必要だ。マリカはそうと決まればと早速、倉庫から飛び出した。
解説
マスターより
リプレイ
ナハシュが後続の冒険者に合図を出す。魔樹はまだこちらに気づいていないため、一斉にかかれ、ということだ。
「じゃ、とっととやっちまうか」
ルイドは軽い屈伸運動をした後、手にした【明鞘彼誰】を手の中で回し、エーテル弾を生成するため集中する。その横をシャドウが駆け抜けていった。
「魔獣とて、大地に根を張ったままの木など、この俺の敵ではない!」
シャドウは両手の短剣を素早く振るう。目にも留まらぬ速さで繰り出された斬撃は、的確に魔樹の枝を――いや、枝と実を繋ぐ茎を切り裂く。そしてルイドが放った魔弾が幹に叩き込まれ、伝わった衝撃によって柚子が揺れた。
「収穫も、造作もないことだ」
満足そうなシャドウの背後で落ちる柚子を、【チャージング】で一気に近づいたヴィルヘルミナがバックパックに回収していく。
「ナイス連携なのだ」
魔法を準備するストレガ・L・リベルガストラの言葉に、ヴィルヘルミナははっとする。
「伐採するつもりだったのですが、つい……!」
とはいえ、落ちる前に回収できたのは加点だろう。魔獣を相手取る必要がある手前、依頼主から「多少の傷は問題ない」と言われているものの、できれば無傷で回収したいところだ。
「動きはこちらで抑えるのだ」
ストレガが【絞蛇呪】を唱えると、白く輝くエーテルが蛇のように魔樹に絡みつき、その動きを阻害する。ようやく状況を把握したらしい魔樹はざわりと葉を波立たせた。
「では今のうちに、と」
ローザリカ・L・ディオールが美しい所作で扇を開く。その動きに合わせてローザリカを中心にエーテルの波動が広がり、冒険者たちに恩寵として降り注いだ。
「裏山にこれ一体……一本? だけではないだろうけど、乱獲にならないようにしたいね」
ヨル・スレイマンも剣を抜き、浅く息を吸うと真っ直ぐに魔樹へ向かって駆け出した。
もともと並外れた身体能力を持つ授恵者に更なる強化が施された今、枝を叩き切る動作に過剰な膂力は必要ない。魔樹の脇を通り抜けざまに撫でるように振るわれたヨルの剣が、音もなく魔樹の幹を一刀両断した。
魔樹にまとわりつくエーテルのおかげで横倒しにならず、バランスを保ったまま、魔樹はその枝葉をしなびさせる。追撃を用意していたジュスト・ヴェルジーは、思いの外早く片付いたことに構えていた杖を別方向へと向けた。
「これなら、依頼人の注文通りの数を用意できそうだ」
ジュストの隣で、ユズもまた小さく頷く。奇しくも同じ名前を持つその冒険者は、ころころと転がって来た柚子の実を拾い上げた。
「頑張って、いっぱい、とる」
そのふたりへ向けて、別の魔樹が枝をしならせ葉を茂らせて威嚇を行う。新たな乱戦の予兆を敏感に感じ取ったミゼリア・L・ステュクスは、素早くジュストたちと魔樹の間に滑り込んだ。
「こっち……」
ミゼリアはその矮躯に似合わぬ両刃の剣を手に、それを地面へ突き刺す。すると香を焚き染めるように、甘やかな香りがエーテルの流れに乗って広がった。それは柚子の香りを容易に上書きし、ミゼリアは魔樹たちの気を引くことに成功する。
【殺界】――ウォーリア技能を持つ冒険者たちの間では戦略的に使用されるその技能は、多くの場合使用者の濃く鋭い殺気によって対象を怯ませ、エーテルによって囲うものだ。ゆえにおよそ嗅覚を持ち得ない相手に対しても通用する。
しかし、ミゼリアの真価――あるいは本来の用途――は、全てが終わった後の攻勢にはない。
魔樹たちが太い枝をしならせる。鞭のように唸るそれが、容赦なくミゼリアの体に叩きつけられた。
「うおっ!? なんかすげえ音したけど大丈夫か!?」
あまりに痛々しい音に、柚子の実の回収に専念していたナハシュが顔を上げた。
普通なら、ミゼリアの体はずたずたに引き裂かれてしまっていただろう。だがミゼリアは普通ではない。風を切り裂くほどの速度で胴体を横殴りにされたにも関わらず、魔樹たちはミゼリアの体にかすり傷しか与えることができなかったのだ。
しかし勢いを殺すことまでは難しいのか、ミゼリアは2、3歩よろめく。
「……ロゼの気持ちがわかる気がするな」
ジュストはやや表情を強張らせたが、それも一瞬のことだ。貴族に求められるのは泰然とした態度。ミゼリアが倒れることなくしっかりと踏ん張ったのを見て、ユズが呪文を唱えた。
「まずは、じっと、させる」
放たれた【フリーズボルト】が魔樹の根本を凍らせる。その余波で柚子の実もまた冷気に晒された。それをみたユズははっと何かに気づく。
「冷凍……柚子」
「ああ、それは美味しそうだ。新しい食べ方として提案できそうだね」
2人を襲わんとする攻撃の数々を、ミゼリアが受け止める。その後ろでジュストは柔らかな声音で言葉を紡ぐが、瞳に宿る光は冷たい。
ジュストが流星のようにエーテルの礫を降らせている、そこから少し離れたところで、ヴィルヘルミナが魔樹を切り倒していた。
「……よし。ひとまずこれくらいにしておくのが良いでしょうか?」
ヴィルヘルミナはしなびて動かなくなった魔樹から柚子の実をもぎ取り、バックパックに詰めていく。いっぱいになったところでルイドとナハシュの元へ戻ると、そこではふたりが柚子の実を詰めた袋を縄でひとまとめに括っていた。
「これは俺の方で【マジカルポケット】に入れとくから、あんたはこっち頼めるか?」
「お任せください」
ヴィルヘルミナはルイドが差し出した袋を両手でそっと受け取り、【マジカルポケット】へと放り込む。この中であれば鮮度も保たれるということで、傷のついたものが中心に格納された。
ほかにも【マジカルポケット】技能を有した冒険者たちにより運搬も問題なく、冒険者たちは予定よりもずっと早く、柚子を持ち帰ることができたのだった。
● くつろぎの柚子湯
「はあ〜……」
ヨルは肩まで湯に浸かると、湯殿に満ちる柚子の芳しい香りを肺いっぱいに吸い込んだ。
「食べても美味しい、風呂に入れれば体が温まる。有能だよな」
熱い湯に甘酸っぱい香り。それだけで疲れが溶け出していくようだ。ヨルは半分ひとりごととして、半分はまだ洗い場にいるナハシュに言葉を投げかける。
「そういえば、冒険者になりたての頃も君と風呂に……」
入ったっけ、と言いながら振り返ったところで、ヨルは慌てた。
「ナハシュ、タオルは巻いておこうね……」
「ん? 頭にか? 確かに置き場に困るよな」
「腰だよ!」
柚子ジュースの瓶を入れた桶を抱え、ナハシュは小首を傾げる。
「混浴じゃねえなら良いんじゃねえ?」
「誰が見てるか分からないだろ」
ヨルはなるべくそれを見ないようにしながら、再度ナハシュを促す。尤も、ヨルにはナハシュの裸体自体が「困ったもの」なのだが。
「よし、これでいいか?」
「うん……」
ひとまず顔を直視できずに視線を落としたところでデリケートな部分が目に入ってしまうことがなくなった。先ほどよりも気まずさが薄れ、ヨルは居住まいを正す。
(なんていうか、妙に綺麗に見えるんだよな)
ヨルが抱いている気まずさの醸成過程は少々複雑だ。美しさを前にして人間が抱く感情は様々だが、ヨルはナハシュをただ「きれいなもの」として捉えてきた。星空を見て、疾しさを感じる者はいないだろう。そういうことだ。
しかし一度意識してしまえば、そうはいかないものだ。そのことが少し後ろめたい。
「お前が質屋に来てた頃だな。ずっと骨被ってる客だなーって思ってた」
ナハシュは湯に桶を浮かべ、自分の瓶を確保するとヨルのほうに寄せる。ヨルはちゃぷちゃぷと離れていく桶をつかまえてから、ナハシュが先程の話の続きをしているのだと気がついた。
「雪も結構あるな! 雪見風呂ってやつだな」
そして直後、ナハシュの興味は雪に逸れる。ヨルは勢いをくじかれ苦笑するも、ナハシュが楽しそうにしているのでよしとした。
そのナハシュは何やら雪を手に取り、小さな雪像を作っていた。
「雪だるま、雪うさぎ……」
「うんうん」
「雪りんご」
「うん???」
ネタ切れが早い。というか最初に作った雪だるまの頭(もしくは胴体)と何が違うのだ。それに、まだ湯に浸かっていないのではないか。
「ほら、体が冷えるよ」
ヨルはそう言うと、ナハシュの肩を軽く引いて湯の中へ招き入れた。
「十分温まったら、柚子大福をつまみに酒でも飲もう」
「お前に合わせてたら、柚子と一緒に湯に浮かぶことになりそうなんだよなぁ」
「そうだなあ……できればずっと浸かっていたい」
ヨルとナハシュは瓶を軽く掲げて乾杯する。ナハシュの肩に触れて溶ける雪もまた、星に負けず劣らず綺麗だと、ヨルは思うのだった。
冒険者たちが倒した柚子の樹魔獣は、ストレガの手によってその枝葉まで余すところなく利用されることとなった。枝や幹は割って乾燥させ、薪に。葉も乾燥させて火種にする予定だ。
「次は普通の柚子になるか、穏やかで討伐対象とならない魔獣として生まれてくるのだ」
ストレガは個室で夕食をつつきながら、今日戦った柚子魔獣について書き留めていた。ギルドに提出する報告書も作らねばならないというのもあるが、専ら自分のためである。
それが終われば、次なるは料理研究である。ストレガの目が光った。
「柚子は酸っぱすぎて扱いづらい柑橘類と思われているが、シャルガネでは随所で料理に用いられているのだ」
柚子の果汁は前述したように酸味が強いため、蜂蜜や砂糖を加え、水やお湯で割って飲み物として供する。爽やかな後味はもちろんのこと、生姜などを加えれば冬は体の芯から温まることができるのだ。
皮は料理に香りと酸味を与える。これもただ刻んで乾燥させたものを使う場合もあれば、蜜漬けにして柔らかくなったものを用いることもある。酒に漬け込む「通」もいるそうだ。酒に漬け込むといえば、同様に種まで使うという。
そして、芳しい香りは病魔を祓うとの言い伝えもある――それを確かめるため、ストレガは夕食をきれいに平らげると身支度に取り掛かった。
行き先は大浴場。柚子湯で自らを調理すべく、ストレガは機嫌の良い足取りで部屋を出た。
その頃、ユズは供された柚子酒を燗して傾けていた。柚子に蜂蜜を混ぜた甘口の酒だが、シャルガネらしいすっと通ったような清廉な後味に、ユズは目を細める。
「ふふ……いい、きぶん」
ほほえみと、心地よさそうな声。見る人が見ればほろ酔い加減か、といったところだが、ユズはすでに相当の量を飲んでいた。いい飲みっぷりと女将に気に入られ、目の前には神餐よろしく柚子大福が綺麗に積まれている。
「……のこりは、おみやげ」
もともと多くを食べられないため、最初に自分が食べる分と持ち帰る分を分けてもらっていたのだ。追加の柚子大福は想定外だったため、そのまま風呂敷に包む。家族や弟子の喜ぶ顔を思い浮かべると、また気分が良くなった。
「そうだ、おもち……」
柚子大福を包み終わったところで、ユズは囲炉裏座敷で餅を焼くことを思いついた。もちだけに。確か麿茶という甘草茶もあるという話だ。
「あ」
いそいそと囲炉裏座敷へ向かうと、そこにはストレガがいた。風呂上がりの小休憩にと立ち寄ったらしい。ストレガは顔を上げてユズを手招く。
「柚子にユズ、なのだ。やはり関係が?」
「ふふ……きづかれちゃった」
ユズはストレガと囲炉裏を囲む。焼けて膨らむ柚餅の香りが、馨しかった。
かぽーーーーん……。
そんな音が響き渡る、大浴場。シャドウは柚子魔獣との戦いによる汗を流していた。香り高い湯に浸かることでようやく人心地ついたという様だ。入る前にすれ違ったヨルから「擦り傷が残っていると沁みるかもしれないから」と言われ念の為に治癒魔法をかけてもらったが、それもあってか力を抜いて過ごせている気がする。
それでだけではない。
「この……どこか懐かしい気持ちは、なんだ?」
いい湯だ、と思う。その想念が、あるいはこの大浴場という場所が、シャドウに強い既視感を与えた。
シャドウは過去の記憶を有していない。が、覚醒している意識がそれについて思い出せないだけで、過去にこういう場所を訪れたことがあったのかもしれない。
シャドウは身を起こして石縁に腰掛けた。温められた体が外気によってほどよく冷えていく。そうするとまた湯に浸かりたくなって……そんなことを先ほどから繰り返していた。
「は……」
と、背後でわずかに息を呑む気配がした。なんだと振り返れば、ミゼリアがぽかんとシャドウを見つめていた。シャドウは先ほど廊下ですれ違ったヨルとナハシュの会話を思い出す。そう、誰が見ているかわからないからきちんと腰にタオルを巻いておけと――。
「……」
「……」
2人はしばらく見つめ合っていた。やがてミゼリアが「すみません……間違えました……」と頭を下げ、しずしずと湯煙の向こうへと――脱衣所の方へと引き返していった。
「……ふむ」
シャドウは再び湯に浸かった。そうして十分に体を温めた後、湯から上がり、手拭いて股間をパーン!!して帰っていった。
「……うっかり、うっかり」
ミゼリアは今度こそ女湯の脱衣所にて襤褸布を脱ぐと、気を取り直して湯殿へと足を踏み入れた。女将から「あなたは女湯ね」と言われていたにもかかわらず、間違えてしまった。暖簾に染め抜かれた文字がかなり達筆で、読めなかったのもある。
普段であれば銭湯の汚れなどは気にしないのだが、折角だから入っていってという女将のすすめと、またミゼリア自身柚子風呂というものに興味があったのだ。表情こそ変わらないが、ミゼリアは期待に胸を膨らませて湯気の向こうに目を凝らす。
「……!」
湯船に浮かぶたくさんの柚子。温められてのぼりたつ柚子の香り。ミゼリアはわたわたと体を洗ったあと、ゆっくりと柚子湯に使った。
「ほわ……」
湯の絶妙な熱さに体の芯から温められ、思わず声が漏れた。ぷかぷかと流れて浮かぶ柚子を指先で突っついたり、顔を近づけて香りを吸い込んでみたり。割れてしまった実を見つければ、専用の桶に入れていく。そんな時間がなんだかとても楽しく思えて。
「もうすこしだけ……」
つい長湯してしまう。結局、湯殿を閉じる時間になるまで、ミゼリアは柚子風呂を堪能したのだった。
ミゼリアが大浴場を貸し切り状態に出来たのは、他の客がそれぞれ部屋の風呂を使っていたのもひとつある。ヴィルヘルミナもそのひとりだ。
「うー……ん」
温かな湯船の中でうんと伸びをしたあと、弛緩した体に爽やかな柚子の香りが満ちる。疲れを残さないためにはきちんと体を温めることだ。同行の治癒師たちに治してもらったおかげで体には傷ひとつないが、魔法は筋肉の緊張までほぐしてくれるわけではない。ふくらはぎや太もも、二の腕を湯船の中で揉みほぐし、湯船から上がればストレッチを。これをしないと、いくら歴戦の兵といえども翌日に響いてしまう。
「それから、これを……」
湯船から上がったヴィルヘルミナは素早く寝衣に着替えると、あらかじめ縁の下に置いておいた籠を取り出す。
夕食の柚子料理も美味だったが、デザートとして取っておいたものがあるのだ。熱のこもった体を内から冷ますべく、庭のかまくら内で冷やし、縁の下で保冷しておいた柚子氷菓である。
「うん、溶けていませんね。冬だからこそです」
純白の陶器に盛られた淡雪のような山の上には、柚子蜂蜜の甘いソースがかかっている。それをスプーンで掬って口に運べば、雪のようにさっと溶けて消えた。
「……寝る前にもう一度くらい、そうですね、足湯ならばのぼせないでしょう」
ふかふかの布団の温もりも良いが、湯船の快適さも捨てがたいものだ。甘やかな余韻に浸りながら、ヴィルヘルミナは微笑んだ。
「……つい、たくさん食っちまったな」
ルイドは空になった鍋を見つめた。豆乳に生姜と柚子皮を加え、野菜や肉を一緒に煮込んだ鍋料理だった。出汁を少し加えているのか、五臓六腑に染み渡る塩気と温もりに、つい箸が進んでしまった。
「だってうまかったし……」
そう言い訳しながら、ルイドは柚子酒を傾ける。シャルガネの風味は王国や帝国の料理とはまた違った素朴な味わいだが、それがまた良い。そして鍋の残り汁には栄養がたっぷり滲み出ているからと、最後にシャルガネの麺である「うどん」が投入され、それを胃に収めたのが先ほどのこと。少し休んでから風呂に行くのがよさそうだと、ルイドは部屋を出る。
部屋でゆっくりするのもいいが、庭に「かまくら」なるものがあるらしい。途中通りかかった囲炉裏端でストレガとユズに柚子餅を勧められたが、食休みに来たと告げれば誰ともなく笑い出す。そんな空気を心地よく思いつつ、ルイドは庭に降りるとかまくらの中を覗き込んだ。
「灯りがある……雪、とけねえのか」
女将も理屈を理解しているわけではないらしいが、シャルガネではこの中で餅を焼いたりすることもあるそうだ。さすがに人ひとりが座り込めるスペースに小さな灯りがあるだけだが、かえってシャルガネ独特の美意識が反映されている気がする。
「オツなもんだな」
風呂場で雪見酒と思い持ち出した酒だが、かまくらの中でというのも悪くない。ルイドはかまくらの中からしばらく、降り積もる雪を静かに見つめていた。
柚子料理を前に、ローザリカは漏れ出る笑みを隠しきれていない。湯上がりに浴衣に着替えたこともあって、表情を隠してくれる扇も手元にない。故に少し気恥ずかしいが、ジュストの前であれば多少の気の緩みは許されるだろう。
そんなローザリカの甘えを、ジュストもよく理解している。美味い料理は日々を彩ってくれるものだ。それも王国から遠く離れた地での依頼の後となれば、余計に身にしみるというもの。
箸の使い方にもずいぶん慣れて、ふたりは上品に料理を堪能する。が――。
「ジュスト」
「うん?」
微笑んで、ジュストは応える。しかしローザリカはどこか不満そうだ。
「さっきから、僕のほうにばかり料理が来ているのだが……?」
「え? そうかな」
ジュストはさりげなく、自分のぶんをローザリカの膳に回していた。これもおいしいからお食べという気持ちからなのだが、ローザリカはジュストが先ほどから柚子豆腐しかつついていないことに気づいてしまった。
「ジュスト」
「いや、これはね。柚子豆腐とポン酢の相性について自領でも検討できないか研究中で……」
「それは今すべきことか?」
むうっとむくれるローザリカの表情から、ジュストは視線を逸らす。
「こっちを見ろ!」
「それはちょっと」
直視できないのは気まずいからではない。かわいいからだ。ローザリカはジュストが煩悶を抑えている間に、寄越された品々をジュストの膳に戻していく。
「この蒸し魚は実がふっくらしていて、味付けもさっぱりしていて美味しい。こっちの鶏肉も柔らかくて美味だ。君の口に合いそうなものばかりだし、もっとこう、身になりそうなものをだな」
「……おすすめに根菜類が見当たらないけど」
「君はまず肉だ、肉」
ジュストは苦笑しつつ、箸を進める。ローザリカの見立てはジュストの好みに正確に嵌まっていた。それに気づくと、どこかこそばゆい。
「……うん、美味しい。こういうしっかりした食事は久々――」
「ほーう」
ローザリカの声音が落ちた。それに、ジュストははっと我に返る。
「誤解だ、ちゃんと食事はとっていたさ。ただここまでの量を食べてなかった、っていうだけで」
「ほーーーーう……?」
墓穴だ。ジュストは弁明を諦め、瞑目した。
「寝ない、休まない、食事は手を抜く……まったく君という男は! 今日という今日は許さないからな」
返す言葉もない。が、ジュストの予想に反して、雨のように抗議の言葉は降り注いでこなかった。おやと思って目を開けると、ローザリカはいたずらを思いついた子供のような顔でジュストを見つめていた。
「うん、そうだな。まずは睡眠から補給してもらおう」
そして少し離れたところに座り直すと、自身の膝上を軽く叩く。
「さあ、こちらへ、婚約者殿」
ジュストは目を瞬いた。普段であればロゼを嗜めていただろう。いくらふたりきりとはいえ、と。
だが、ロゼがいつになく気を緩めた様子で甘えてくるものだから、ついジュストの方も――誘われるまま席をたち、ごろりとローザリカの膝上に頭を預けた。
「……いい香りだ」
そう感慨深げに表情を緩めるジュストを見て、ローザリカは胸がいっぱいになる。
ローザリカはジュストの髪に指を差し入れ、その頭を撫でる。ローザリカの手にジュストの手が重なった。
「良い気分だ」
「ああ」
どちらともなく、そう優しく囁き。互いへの愛おしさを胸に、大事に抱え込んだ。
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冒険者たちの活躍により、柚子の実不足は解消された。
年も明け、雪が溶ければ、春が来る。
梅花を綻ばせる、温かな風が――。
マスターコメント
ミドルシナリオ易しい 報酬:標準10 / 6〜10人
2023年01月08日 23時16分30秒 公開
相談掲示板
キャスターのジュストだ、よろしく。 柚子料理も気になるし、柚子湯も良いね。 ただ柚子を楽しむ為に魔獣の討伐と収穫が必要みたいだけど、強さはそうでもないみたいだしそんなに相談することもないかな? 一応後方から実を傷つけないように単体魔法か、メテオライトで攻撃しようかと考えてるよ。 全員で戦闘に参加しなくても大丈夫な気がするし、実が痛まない内に柚子を確保する為に採取に専念する人もいて良いと思う。
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いしますね。 木の魔獣に関しては駆け出しでも倒せる程度の強さみたいですし、気楽に行けそうですね。 先に仰られている通り、柚子の実を傷つけるような大規模な攻撃だけは避けた方がいいでしょうが。 実の回収は大きな袋を持って行って、マジカルポケットにでも放り込んでおけば楽でしょうか。 後半は色々できますけど、行動は絞った方が一つ一つの描写としては濃くなりそうですね。 まあ、この辺りは個人の自由ですけど。
ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しくね。 柚子は確かに、なるべく綺麗に取ってこれると良さそうだね。 あとは必要以上に取りすぎないくらい気をつけておけばいいのかな。来年もなるかもしれないし、普段大人しいのなら。 俺は通常攻撃か魔矢で倒すのをメイン、それとヒール系は一応持っておくよ。 柚子湯に入る前に無用に怪我してるのはちょっとね。かすり傷でもさ。 後半は今のところ柚子湯に入る方を主で考えているけど、どちらも楽しそうだね。 何にせよ良い日になるといいな。
シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 程よく実を傷つけねえようにだな!柚子も言われてる通り、バックパックとマジカルポケットはあれば完璧そうだと思う。 つっても枝をしならせる奴は実が傷みやすそうな気がするよな。まあ全部が全部きれいな必要はないんだろうが、枝のリーチより遠くからの攻撃のが良かったりしねえかな。もしくは向こうが攻撃に移る前に一気にかますみてえな。 とりあえず採取メインで考えておくつもりではいるぜ。 後半は柚子湯に入るつもりでいたな。むしろ柚子湯に入りに来たらモンスターもいた感じだ。 柚子のメシも旨そうだし、うまくやれたらと思うぜ。
ウォーリア、ルイド。良しなに。 そうだな、実の状態を気にしつつ適度に拾うことも忘れず、で問題ねぇと思うぜ。 どんくらい必要なのか分からねぇが、一応俺もマジカルポケットとかは持っておくか。 戦闘の方では離れて単体魔法撃っとく予定。命中確保したら実への誤射減らせるかなってことで、攻撃集中も重ねるつもり。 後半は……飯も風呂もいいよな、どっち主体にすっか悩む。もうちょい考えるわ。
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 私も離れて単体魔法撃ってるのだ。 サクッと倒せるように束縛と行動不能でも。
遅くなったがヒーラーのローザリカ、よろしく頼もう。 柚子、味も香りもよくて好きだよ。楽しみだ。 枝をしならせる攻撃を誘発しないよう、離れて攻撃するのも確かに良さそうだ。 僕も弓の単体射撃である程度離れた箇所から攻撃しようかな。
私は特性での大技で速攻をかけようかなと考えていました。 一発限りなので相手の数次第ですが、早めに決着つければ気を揉む時間も減るかなと。 離れた方が良いなら弓を持ちますが。
シャドウだ。よろしく。 ただの近接殴り屋だから普通に殴ります。。。
えと、遅くなって、ごめん。キャスター、ユズ。……よろしく。 ボク、BS付与、予定。あと、アーケインで足止めも、いいのかも、って、思った。 後半、ご飯、食べて、囲炉裏で柚子餅、焼きたい。 一緒の場所、選ぶ人、もしいたら、よろしく。
ウォーリアの、ミゼリア……です。 戦いのほうは……壁役のうごきを、しようかなと……。 てきの、あしどめとか……こうげきを、ひきうけたりとか……が、メインになるかと、おもい……ます。 よろしく、おねがいします……ね。
殴り方完全に合わせる必要はねぇと思うし、接近戦は接近戦で問題ないんじゃねぇかな。 削りかけのやつとか味方近くの敵ほど優先して落とすようにしておくんで、サクサク倒して柚子拾って後半戦楽しむ方に備えるか。