【初夢】ウィリアム王子の一日
おおくまねこ
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シナリオID:2687
オープニング
●ウィリアム王子の目覚め
吐く息が白くなる季節。暖かい朝の光を浴びて、君は目覚めた。しかし、君は目覚めてすぐに妙なことに気付いた。君の家(あるいは、昨日泊まった宿)のベッドはこんなにも豪華だっただろうか?
驚いた君が天蓋付きのふかふかベッドから跳ね起きると、そこはやはり君の部屋ではなかった。明らかにここは貴族の部屋だ。部屋中に置かれた豪華な装飾品や、気品あふれるデザインの家具が雄弁にそれを物語っている。
混乱しつつも、部屋の隅に姿見が置かれていたことに気付いた君は、自分の状態を確認するため、鏡に駆け寄って覗き込んだ。
そして君は驚きのあまり、言葉を失った。そこに映っていたのは敬愛すべきリーンエス王国の第二王子(あるいは笑顔がうさんくさいことに定評がある腹黒王子)、ウィリアム・リーンエスだったのだ!
1、そうだ、僕はこの国の王子にして輝ける地上の星、ウィリアムだった。今日は何をしよう? そういえば、誰かとデートの約束をしていたような。
(自分が誰か忘れてしまい、ウィリアムとして一日を過ごす)
2、冗談じゃない! 元の体に戻る方法を探さなければ!
(自分がウィリアムになってしまったことを理解し、元の体に戻ることを目指す)
3、イイー! とってもイイー! 俺の時代到来だな!
(自分がウィリアムのニセモノであることを理解した上でやりたいことをする)
君には、思いつく限りの様々な選択肢がある。さあ、これから何をしよう?
※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。
吐く息が白くなる季節。暖かい朝の光を浴びて、君は目覚めた。しかし、君は目覚めてすぐに妙なことに気付いた。君の家(あるいは、昨日泊まった宿)のベッドはこんなにも豪華だっただろうか?
驚いた君が天蓋付きのふかふかベッドから跳ね起きると、そこはやはり君の部屋ではなかった。明らかにここは貴族の部屋だ。部屋中に置かれた豪華な装飾品や、気品あふれるデザインの家具が雄弁にそれを物語っている。
混乱しつつも、部屋の隅に姿見が置かれていたことに気付いた君は、自分の状態を確認するため、鏡に駆け寄って覗き込んだ。
そして君は驚きのあまり、言葉を失った。そこに映っていたのは敬愛すべきリーンエス王国の第二王子(あるいは笑顔がうさんくさいことに定評がある腹黒王子)、ウィリアム・リーンエスだったのだ!
1、そうだ、僕はこの国の王子にして輝ける地上の星、ウィリアムだった。今日は何をしよう? そういえば、誰かとデートの約束をしていたような。
(自分が誰か忘れてしまい、ウィリアムとして一日を過ごす)
2、冗談じゃない! 元の体に戻る方法を探さなければ!
(自分がウィリアムになってしまったことを理解し、元の体に戻ることを目指す)
3、イイー! とってもイイー! 俺の時代到来だな!
(自分がウィリアムのニセモノであることを理解した上でやりたいことをする)
君には、思いつく限りの様々な選択肢がある。さあ、これから何をしよう?
※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。
解説
朝起きたらウィリアムになってたぜ! という夢です。王都でナンパするなり、王位簒奪を目指すなり、変な法律を作るなり、全て自由です。さあ、一日限りの王子様ライフをエンジョイしよう!
●登場NPC ※夢なので、だいたいプレイング通りのキャラ付けで登場します。台詞は一例です。
パーシア・アイオーラ
「王子! ああ、夢のようですわ……子供ができたらちゃんと認知してくださるかしら……」
ウィリアム強火ファン。学園の校庭に彼の巨大像を建造しているほど。ウィリアムに口説かれた場合、大変なことになることが予想される。
グリゼルダ
「アラン! 嬉しいわ! ついに記憶を取り戻したのね!」
青の親指。ウィリアムを亡くした恋人の生まれ変わりだと信じている。デートOKだが盛り上がると目玉を抉りに来る。夢なので普通にその辺を歩いている。
レイウェスト・バルダス
「ウィリアム、何、今度こそ本当に結婚しろだと?」
シルトラース帝国の皇子。メアリーとの縁談が持ち上がっているが、ウィリアムが狙っているという噂も根強く囁かれている。ウェディングドレスが似合う美少年。
イダ・バルダス
レイウェストの母で姉。世界一美しい女性。バツイチ。
メアリー・リーンエス
「ドゥジンシのネタに詰まった時はお散歩するのが一番ですわ!」
ウィリアムのリアル妹。彼女の部屋がウィリアムの部屋の隣にあるが、午前中はどこかに出かけているようだ。
ラミアス・クルスロード
「嬉しいですよ、ウィリアム。年始休暇を一緒に過ごせるなんて」
パンクリアース学園の教務主任。眼鏡のイケメンで、ウィリアムの学生時代からの友人。ドゥジン界隈ではウィリアムと抜き差しならぬ仲であるという説が囁かれている。
ウィーズル・トレイド
「え、デートッスか? お年玉くれるならいいッスけど」
パンクリアース学園の事務職員。元王子の密偵。とても幼い容姿をしており、一緒に歩いていると漏れなく王国騎士に職務質問される。
ジョージ・リーンエス四世
「何、王位を譲れとな? よろしい、ならば戦争だ」
ウィリアムのお父さん。倒すと王位をドロップする。
アシムベート・グリオウ
「なんと儂とマナズィールしたいと申すか!?」
戦闘民族ギシュムの大酋長。ウィリアムと並び大陸最強クラスのウォーリア。エフレムの兄貴分でもある。強い戦士を見るとズキューンする。
本体
自分自身(PC本人)を夢に登場させることができます。ただし中身はウィリアムです。
マスターより
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。2023年の初シナリオはコメディ全振りです。みんなが大好きウィリアムマン。
シナリオに登録できる関連NPCはマックス3名までなのでパーシアがハブられましたが、学園に会いに行けば普通に出てきます。ご興味がありましたらよろしくお願いいたします。
※本シナリオのリプレイはショートノベル×参加人数の形式で執筆いたしますので、他の方のプレイングとの整合性などは気にせず、自由にプレイングをご提出ください。
リプレイ
●フリーダの夢
「どうやらこの体はウィリアム王子に間違い無い様ですね」
王子の部屋で目覚めたフリーダ=ブロムヴィストは鏡に映った自分の肉体をしげしげと眺め、そう結論した。
『フリーダ……フリーダ……私の声が聞こえますか……私は今……貴方の心に話しかけています……体奪還アール=ティ=エーはーじまーるよー!!』
フリーダ(ウィリアム)の脳裏に聞き覚えのある声が響く。この声こそは、自分をいつも見守ってくれている(?)啓示の主に違いあるまいとフリーダは直感した。
「つまり、自分の体を探さないといけないようですね」
己の使命を理解したフリーダは早速、自分の体がどこにあるかについて考える。
(自分の行動パターンから察するに、恐らく冒険者ギルドにいる可能性が極めて高いと言えるでしょう。そしてスタート地点であるここはウィリアム王子の部屋。ならグランスパーダの王城ですね)
フリーダが窓の外を眺めてみると、この部屋は城下町が一望できる高さだった。
「冒険者ギルドは……あそこですね。という事で最近啓示から得られた最も速いという移動方法で向かってみましょう。とう」
フリーダはためらいなく窓をぶち破り、最短の道を選んだ。
キィイイイイイイン! ドンッ!
「親方! 空からウィリアム王子が降って来た! パジャマで!」
「何ィ! ウィリアム王子が寝間着のまま降ってきただと? どんな寝相してんだ」
たちまち街は大騒ぎになり、人が集まってきた。
「良かった。さすがはウィリアム王子。頑丈ですね」
少々のダメージを受けたが、普通に生きていたフリーダ入りウィリアムは、落下の衝撃で出来たクレーターの中から身を起こすと、啓示から学んだ高速移動テクニックの実践に映る。
「どぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅえ、どぅどぅどぅどぅどぅどぅえ!」
奇声を上げつつ、コサックダンスの如く足を前方に振り上げ、ぴょんぴょんと跳ねるフリーダ。驚くべきことに、この奇妙な動作により、フリーダは人類の限界を超越した恐るべき高速移動を実現していた。どう見てもおかしいのだが、普通に走るより遥かに早い速度で、群衆を蹴り飛ばしながらフリーダは冒険者ギルドへと突っぱしっていく。
「どぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅえ、どぅどぅどぅどぅどぅどぅえ!」
寝間着のまま奇声を上げ、冒険者ギルドへと直進していくウィリアム王子。明日のビッグオウム便の一面記事の見出しは「ウィリアム王子、ご乱心?」で決まりだろう。
「なるほどなるほど、普通に歩くよりも圧倒的に速く移動できてこれは便利ですね。どぅえどぅえ。周りの視線が気になりますが……まぁ私ではないので大丈夫でしょう。きっと」
フリーダがジャンプキックでバーンと冒険者ギルドのドアを蹴り開けると、そこには優雅にモーニングセットを楽しんでいるフリーダがいた。
「あ、君は……へぶしっ!?」
フリーダは会話イベントを省略し、自分に腹パンした。今ので魂が抜けたのか、フリーダは元の姿に戻れた。
『よくやりました、フリーダ。今のはなかなかの好タイムです』
●リューイの夢
「そうか。そういえば、彼女とのデートがあったな」
リューイ=ヴァレンゴルトは夢の中でウィリアム王子になりきっていた。今の自分の記憶にあるのは、ある貴族令嬢とのデートの約束。そして、それはお忍びのデートである。ウィリアム王子は高貴な身分であり、イケメンであり、高身長であり、そして世界でも有数の授恵者である。モテないわけがない。
「やあ」
王子が待ち合わせ場所の広場で相手を待っていると、令嬢は約束の時間の五分前にやってきた。
「ウィリアム様! すみません、じいやの目を盗むのに苦労してしまいました。お待たせしてしまいましたか?」
「大丈夫だよ、自分も来たばかりだから。それよりも、今日はウィルと呼んでくれ」
ウィリアムは乙女を蕩かす甘い微笑みを投げ、セレナの手を取って王都の散歩を始めた。
「よく似合っているね」
「お世辞でも王子にそう言っていただけると嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃないさ」
ウィリアム(中身はリューイ)はセレナの服装を褒めた。二人はその後も最近評判になっている王都の店を巡り、最後には落ち着いた店で昼の軽食を取りながら談笑した。
「楽しい時間をありがとう」
「こちらこそ。王子とデートできた時間は至上の喜びでした」
別れる際に、気持ちの良い笑顔を浮かべて礼を言うと、セレナもたおやかに微笑んだ。
(彼女はわきまえた女性だ。王子とデートできたという良い想い出ができたこと自体で、満足できるだろう。彼女の家とは仲良くやっていきたいからね)
王子が令嬢とデートした真意は王党派への根回しであった。彼女の実家は、王都の商工会に強い影響力を持っているのだ。
「彼女のような女性は、誠実な相手と幸せになってほしいよ」
ウィリアムになりきっているリューイは嬉しそうに去っていく貴婦人の背を見送りながら、ぽつりと呟いた。
●レピドの夢
「これは、王子……か?」
鏡に映った己の顔をぺたぺたと触り、レピド・クロサイトは困惑していた。理由は不明だが、自分の魂は今王子の肉体に入っているようだ。体中をまさぐってみたが、賢者の石はどこにもなかった。つまり、原因不明である。
「まずは自分の体を探さないとな」
レピドは元の自分に戻るべく、行動を開始した。愛想がログアウトした王子と化したレピドは臣下や街の人々を威圧しながら、王都で己の肉体を探した。
「ここにはいないようだな。リブラネスタに行こう。誰か知り合いが『躍る子熊亭』にいればいいんだが」
レピドは額に手を当て、踊る子熊亭にいる人物エーテルを探知する。ウィリアムほどの授恵者ともなれば、一度記憶した人物のエーテルなら数百キロ離れていようとも探知が可能なのだ。ただし女性に限る。
「む。この酒臭いエーテルはリーミルのものだな」
シュビッ。ウィリアム(レピド入り)が気合を込めると、その姿が瞬時に掻き消えた。
「あれ、ウィリアムさんなの」
酒場のカウンターの内側に突然ウィリアム王子が目の前に出現し、リーミルは驚いた。
「……リーミル、レピド・クロサイトを見なかったか?」
「え、レピドさん? あの人なら、御機嫌な様子でお出かけしていったの」
「そうか」
ウィリアム(レピド入り)はリーミルに軽く会釈し、踊る子熊亭から出ていった。
「ウィリアムさん、今日はお腹が痛いのかもしれないの。いつもはナンパしてくるのに……」
●
「どこに行ったんだ、俺の体は……」
ウィリアム(レピド入り)はリブラネスタで聞き込みをしながら、自分の体を必死に探した。
「ウィリアム王子だな! お命頂戴!」
「闘気塊!」
「ぬわーっ!」
「ウィリアム! ウィリアム! デートしましょう! 大丈夫よ、私に任せてくれれば、痛くないようにしてあげるから! 痛覚とか邪魔ですものね!」
「ドラゴンチャリオッツ!」
「あーれー!」
剣圧が大地を切り裂き、エーテル波が山を打ち砕く。正にウィリアム無双である。
「さすがはウィリアム王子だ。武力チート王子で助かった」
邪魔する奴らを蹴散らし、レピドはひたすらにウィリアム王子を探した。なんか本物のウィリアムより強いストーカーも混ざっていたような気もするが、気にしてはいけない。
「見つけた! ……あれは何をやってるんだ?」
「やあ、美しいお嬢さん。僕と一緒に遊ばないかい?」
ついに発見したレピドの体は、大量の女性を引き連れていた。どうやら、街中の女性に声をかけまくっているらしい。年齢層は幅広く、ちょっとまずそうなぐらい若い子や、逆に孫がいそうな年齢の女性もいた。そして、レピドのペットであるショウガは困惑気味にレピド(ウィリアム入り)の後ろをついてきている。
(何をしているのかよく分からんが、妙に腹立たしいな)
ウィリアム(レピド入り)は内から湧き上がってくる衝動のままに、己の肉体へと突撃する。
「いい加減にしろ!」
「はぐっ!」
ダッシュジャンピング頭突きを食らったレピド(ウィリアム)は口から魂が飛び出し、意識を失ったのだった。
●ヨルの夢
「どうしてこうなった」
ヨル・スレイマンは頭を抱えた。朝起きたらウィリアム王子の姿になっていたのだ。友人のナハシュなら無邪気に喜んだであろうが、ヨルは彼ほど大胆ではない。不安の方が優っていた。
「入れ替わりがバレると殺される気がする……。全力で隠しながら自身を探すしかないな」
ヨルは溜息をついた。とりあえず自分のいる部屋の位置を確認しるべく窓の外を覗くと、そこには美しいグランスパーダの城下町が広がっていた。少し遠くに見えるのは、パンクリアース学園だろうか。ヨルは改めて部屋の方に視線をやる。そこにあったのは、今まで見た事もないほど豪華な部屋だ。
(この美しすぎる場所は見れば見るほど場違いで萎縮してしまう)
ヨルは逃げるようにウィリアムの部屋から立ち去り、王城を抜けだそうと試みた。
「やあ、ウィリアム王子。知っておりますかな? 貴族派の●●家のご長男が、金の鉱脈を買収したそうですぞ」
「おや、そうなのかい」
(知るわけないだろ。俺は元奴隷だぞ)
「ウィリアム王子。今年も当家の畑でメロンが取れました。今度お城に持って行きますね」
(奴隷と王族じゃ天と地の差だ。……やはり同じヒューマンであるはずがない)
城の中で話しかけてくる貴族達との会話を適当にやり過ごし、ヨルは溜息を吐く。しかし、勝利眼でヨルはウィリアムが周囲からの期待や妬みを一身に浴びていることも知ってしまった。
(この中でよく平静を保っていられる。王子メンタル鈍すぎでは??)
●
「あら、あれはもしや……。ウィリアム王子~! ウィリアム王子~!」
ヨルが王都を彷徨っていると、300メートルほど先からパーシアが突っ走ってきた。
「や、やあパーシア君。今日も大変麗しいね! まるで朝露に濡れる薔薇のようだ」
(こんなもんでいいだろうか? 距離感が分からない)
ヨルは挙動不審気味な態度でパーシアに挨拶する。
「まあ、ウィリアム王子、そんな。嬉しいですわ……」
ウィリアムの肩をがしっと掴み、にじり寄って来るパーシア。貴族の令嬢は殿方の誘いを待つのがマナーと聞いていたが、このお嬢さんはずいぶんアグレッシブなようだ。
「すまない、急用を思い出した!」
「お待ちになって! ウィリアム王子!」
夜が逃亡を図ると、パーシアは追いかけてきた。授恵者だけあり、パーシアの足は早い。しかも全力疾走しているのに、何分経ってもペースが全く落ちない! あるいは、これも愛の力の為せる技か。
(モテすぎるのも考えものだ!)
ヨルは猛スピードで追いかけてくるパーシアから逃げ回りながら、そんなことを考えるのだった。
●ナハシュの夢
「俺の時代到来だな!」
ナハシュはガッツポーズをした。朝起きたらウィリアム王子になっていたのだ。この大陸では何かと色眼鏡で見られがちなゴブリンから、この大陸でトップクラスに高貴な家柄である第二王子への転生。ナハシュはこのまま王子として生きる気満々であった。
「とりあえずこの服は脱いじまおう。ゴワゴワするし」
ナハシュは王子の服を脱ぎ捨て、半裸になった。
「半裸がゴブリンの民族衣装だ。王子がゴブリンの伝統衣装になる、これぞ開かれた学園、開かれた王国の姿だ!!」
学園生達が聞けば卒倒しそうな思想を叫ぶウィリアム(ナハシュ入り)。とりあえず法衣貴族に自身のツテをフル活用して学園の校則改定をねじ込んでみた。
「学園の敷地内において、上半身の衣服の着用を禁ずる……正気ですか、ウィリアム王子!」
「半裸って……女性もですか?」
「うん!」
「なるほど、素晴らしい法案だ!」
「ウィリアム・イズ・ゴッド!」
スケベな法衣貴族達を味方につけたウィリアム(ナハシュ入り)は学園にごり押しし、半裸校則を学園の校則にねじ込んでしまった。冬期休暇明けからはきっとパンクリアース学園は男子校になるだろう。
「あと、ナハシュを探してくれ。あいつにはちょっと用があるんだ」
ナハシュは王家の密偵に頼み、代わりにウィリアムが入っているであろう自分の旧ボディを探させることにした。
「は、サウナ、ですか?」
「貴族共はいいもん食ってるがその分太りやすい。そこでこのデトックスだ」
本体が見つかるまでの間は王城の庭に建造した超豪華な風呂に入り、湯浴みとサウナを楽しんで過ごした。そして数日後、ウィリアム入りのナハシュが見つかった。
「やあ、ナハシュ君。僕の体で色々楽しんでいるようだね!」(ピキピキ)
「きたな。良いだろ半裸は! いつでもサウナに入れるんだぜ!!」
ナハシュはウィリアムと共にサウナを楽しんだ。しかし、ナハシュが背中を晒した瞬間、ウィリアムはナハシュの背中を切りつけてきた!
「おっと!」
しかし、ウィリアム(ナハシュ入り)はカウンターを決め、ためらいなく自分の体を一刀両断した。
「馬鹿なっ……! 自分の体を……!」
「この身体結構使い勝手がいいんだ。ありがとな!」
ウィリアムを始末し、完全にボディを乗っ取ったナハシュは朗らかに笑った。
●ギーゼラの夢
「僕がウィリアム王子に!? これは推しの既成事実を作るチャンスでは!!」
自分が朝起きたらウィリアム王子になっていたことに気付いたギーゼラは歓喜した。ギーゼラは(脳内の)ドゥジン神の囁かれるまま、ウィリアム王子×レイウェスト、通称ウィル×レイを確実なものにするために暗躍することにした。
「誰でもいい! 誰か来てくれ! 急いで頼みたいことがあるんだ!」
ウィリアムが廊下に向かって叫ぶと、すぐに執事やメイドたちがやってきた。
「王子、どうなさいました」
「礼服とウエディングドレスの用意を。それと結婚指輪を大至急用意してくれ。もちろん最高級のものをね」
そう言って、ロイヤルイケメンスマイルを決めるウィリアム(ギーゼラ入り)。その神々しいオーラにメイドたちや一部執事はうっとりした。
「は? 王子? それは一体? おっしゃる意味がよくわからないのですが……」
「馬鹿ね、分からないの? ウィリアム王子はついにレイウェスト皇子を迎えに行くとおっしゃられているのよ!」
「ああ、その通りだ! 僕は愛しの花嫁を迎えに行く!」
王城は騒然となった。王や王妃、エドワード王太子も困惑していたが、メアリー王女だけは
「ウィリアムお兄様、その言葉を待っておりましたわ! お兄様がレイウェスト皇子を手中に収めても、帝国は王国と仲良しになれますものね!」
と一人興奮していた。
●
「ウィリアム王子、大事なお話があると聞いたのですが」
王国の高級宿に呼び出されたレイウェストは、ウィリアムの熱い眼差しにただならぬものを感じ、緊張した面差しでウィリアムの正面に座っていた。大陸一の美姫と称えられたイダの生き写しと言われるだけあり、レイウェストは今日も美少年だ。その佇まいにはウィリアムが惚れ込むのも無理はない。
「レイウェスト、僕と結婚してくれ」
「は?」
ウィリアムはきょとんとするレイウェストを手を握り、小さな箱を手渡した。ウィリアムに促され、レイウェストが箱を開けると、そこにはリーンエス王家の紋章が入った指輪が入っていた。
「君がメアリーと婚約するかもしれない。それを聞いて僕は本当の気持ちに気付いた。レイウェスト、君の美しいドレス姿が忘れられない。国の為に懸命に頑張る姿も愛おしい。どうか今度は僕の本当の花嫁になってほしい」
(完璧な演技じゃないですかぁ?)
中の人であるギーゼラは自分のウィリアムの演技に酔いしれていた。
「……わかった。そこまで私のことを想ってくれるのなら、私は貴方の妻となろう。ウィリアム」
(よっしゃー!)
ギーゼラは歓喜した。その後、二人の縁談はトントン拍子に進んだ。そして……。
「新郎ウィリアム。新婦レイウェスト。二人は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「「誓います」」
「それでは、誓いの口づけを……」
(やったー! 行け、ウィリアム王子!)
「やったー! ん? あれ?」
残念ながら、そこでギーゼラは目を覚ましてしまった。
●ベルクの夢
「ウィリアム殿下になった? よろしい、ならばドゥジン教徒に新たなジャンルをプレゼントだ」
朝起きたらウィリアム王子になっていたベルク・オスマットはほくそ笑んだ。なんでこうなったのかは分からないが、こうなった以上やっておかねばならないことがある。それは、ドゥジン教徒に伝わるウィル×レイネタを消し去ることである。
「そのためには……ウィル×ラミネタを流行らせると共に、ウィリアムロリコン疑惑で王子の社会的信用を破壊する!」
悪魔的作戦を思いついたベルクは早速ラミアスにちょっかいをかけるべく、パンクリアース学園へと赴いた。
(ラミアス殿が来るのを待つぞ)
ウィリアム(ベルク入り)はレイウェストとの偽結婚式でウィリアムが来ていた白い礼服を着用し、廊下のど真ん中でラミアスを待ち伏せすることにした。しばらく待っていると、授業が終わり、教室からラミアスが出て来た。
「あれ? ウィリアム王子。何をしてるんです? そんな格好で」
(来たな)
ラミアスを確認したベルクは早速作戦を実行することにした。なんとウィリアム(ベルク入り)はおもむろにジャケットとシャツを脱ぎ始めたのだ!
「やあラミアス、やらないか」
●
「くっ……僕の体は今頃何をしているんだ……」
その頃、ウィリアムの中身が入ったベルクの体は逆海老反り縛りされた状態でウィリアムの部屋に吊るされていた。ベルクがウィリアムの体で暴走をしようとしたら、真っ先に自分の元に飛び込んできたのだ。しかし、神になれる資格を持つウィリアムの肉体を持つベルクは、自分の体で襲ってきたウィリアムをあっさり返り討ちにしてしまったのである。
●
ラミアスにこっぴどく叱られ、学園出禁を言い渡された後、今度はウィリアム(ベルク入り)はウィーズルをお年玉で誘い出し、公園でデートを楽しんでいた。なお、遊びだと思われているのか、ウィーズルはリアル王子とのデートだというのに割と愛想がなかった。
「ウィーズル、僕の膝の上に座ってくれないかい?」
「嫌ッス」
ウィリアム(ベルク入り)の要求にウィーズルは露骨に嫌そうな顔をした。するとウィリアム(ベルク入り)は微笑みを浮かべ、懐から大きな金貨を取り出し、ウィーズルの脇に置く。
「いいじゃないか、お小遣いあげるから」
「うわ……ドン引きッス……かつてお仕えしていた王子がこんなド変態だったなんて……」
ウィーズルは遠慮のない蔑みの目をウィリアムへと向けた。
「頼む、この通りだ! 僕の膝の上に座ってくれ! ハーフリング美少女を膝の上に乗せて頭を撫でるのが僕の夢だったんだ!」
ウィリアム(ベルク入り)は大声で叫び、がばっと土下座した。そして懐から金貨がぎっしり詰まった袋を追加でウィーズルへと差し出す。
「王子がそこまで言うならやってあげるッスけど、今度から王都で会っても他人のフリするッスからね」
ウィーズルはウィリアムからもらった金塊をリュックに詰めると、絶対零度の声音で告げた。そして要求通り、ウィリアムの膝の上にちょこんと座る。
「……満足したッスか?」
「もう少し楽しませてくれ」
(ふふふ、これでウィリアム王子の評判は地に墜ちるな……)
ウィリアム(ベルク)がしばらくそうしていると。王都を巡回していた王国騎士が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あのー。ウィリアム王子。お楽しみの所すみませんが、ちょっと詰め所まで来ていただけますか。ウィリアム王子が公園で幼女相手に変態的な行為をしていると市民から通報が……」
「なんだって! 僕がいつそんなことを!?」
「あ、おまわりさん、コイツッス。どーぞ取り調べをお願いするッス」
「そんなぁ! この女性は26才のハーフリングであって、幼女では……」
「はい、言い訳は詰め所で聞きますねー」
(ふふふ、完璧だ……しばらく地下牢で臭い飯でも食うがいい、ウィリアム……)
ウィリアム(ベルク)は内心ほくそ笑みながら、王国騎士に連行されていった。
●ダニエルの夢
「この顔は、ウィリアム王子!? もしかして体が入れ替わったのか!?」
ダニエル・ヘリントンは朝目覚めるとウィリアム王子になっていた。が、彼は嘆くどころか、神に感謝した。
「これはチャンスかもしれない!」
邪悪な笑みを浮かべるダニエル。ウィリアムはこの国の第二王子であり、その影響力は言うまでもなく大きい。ならば――
「この格好で際どいブーメランビキニパンツ一丁で素晴らしい肉体美を見せつけることで、国民全員を『清く正しい心』に目覚めさせることができるのでは!?」
●
(あれ、幻覚かな? ウィリアム王子がパンイチに見える……)
(ウィリアム王子……もしかしなくても裸では?)
王都の人々はウィリアムのパンイチ姿に困惑した。だが、いくらなんでも超展開過ぎて誰も王子に突っ込めずにいた。そんな時、一人の勇気ある少年がウィリアムを指差し、こう叫んだ。
「裸だ! 王子様は裸だぞ!」
「その通りだとも! みんな、僕を見てくれ!」
ウィリアム(ダニエル入り)は力強く少年の言葉を肯定し、アブドミナル&サイのポーズを取った。
「さあ、僕の美しい肉体を見て『清く正しい心』に目覚めるのだ!」
王子が王都を練り歩いていると、一台の馬車が猛スピードで突っ込んできて、王子のすぐ近くで停車した。馬車から降りて来たのは、1222年度パンクリアース学園生徒会長、パーシア・アイオーラだ!
「ウィリアム王子がファンサービスをなさっていると聞いて! ああ、なんと美しい肉体なのでしょう」
パーシアはうっとりした。
「こんにちは。パーシア。さあ、僕の肉体美を思う存分その目に焼き付けるんだ」
「はうっ」
間近でパンイチのウィリアムに微笑まれ、興奮がリミットブレイクしたパーシアは卒倒してしまった。彼女には刺激が強すぎたようだ。
「嗚呼、こんなにも僕の美しい肉体を見てもらえるなんてK・A・I・K・A・N」
担架で運ばれていくパーシア嬢を見送りながら、ウィリアム(ダニエル入り)は恍惚としている。しかし、誰もがウィリアムの肉体を「美しい」と感じるわけではない。中には「体を鍛えるなんて脳筋のすること」と斜に構えたヒョロガリ貴族とかもいる。
「馬鹿らしい。筋肉を自慢するなんてさ。肉体労働なんて平民がやることだろう」
「そんなことはない! 僕の美しい肉体を見ても清く正しい心に目覚めない『だらし無ぇ輩』は、生尻を叩いて『歪み無い心』を注入してやる!」
「な、何をするだぁ―ッ!?」
突然豹変したウィリアム(ダニエル入り)はワイルドに跳躍すると、貴族のボンボンのズボンを素手で引きちぎってしまった。そのまま路上でフォールディングし、ボンボンのパンツへと手をかける。
「らめぇええええええええ」
ボンボンは絶叫した。
……。
「ふう。なんだかとてもいい夢を見た気がするなあ……あれ。もう思い出せない。……仕方ないね」
●シャドウの夢
「うん、いい朝だ。今日は市場に行ってみようかな。王都に住む人々の陳情を聞くのも、王子の務めだからね」
早朝にウィリアム王子として目覚めたシャドウは自分が何者なのか忘れ、ウィリアム王子になり切っていた。変な初夢を見た多くの冒険者がウィリアムに抱いているイメージとは違い、シャドウの中のウィリアム王子は統治者にふさわしきナイスガイであった。
「やあ、王都のみんな。ウィリアムだよ! 困ったことがあれば、僕になんでも言ってくれ!」
上半身裸のウィリアムは爽やかな笑顔で人々に愛想を振りまいた。残念ながら、シャドウの中のウィリアム王子像もやはり変態王子であったようだ。
「おはようございます、ウィリアム王子。実は、最近小麦の値段が高騰しておりまして……なんとかならないでしょうか?」
「分かった。僕から父に伝えておくよ」(雄々しく大胸筋を見せつけながら)
「ありがとうございます!」
「ウィリアム王子だわ! 筋肉質で素敵! し、下は脱がないんですか?」(ドキドキ)
「はは、僕の生まれたままの姿は乙女たちへの刺激が強すぎるからね。僕の聖剣は封印しないといけないんだ」(広背筋を誇示する)
ウィリアム王子になりきっているシャドウは鍛え上げた筋肉をこれ見よがしに見せつけ、人々と交流していく。時々ポーズを取り、ファンサービスすることも忘れない。
「ウィリアム王子だ! 裸だぞ! ねえ、寒くないの?」
「はは、大丈夫さ。鍛えているからね」
寒風吹きすさぶ1月のグランスパーダを、ウィリアム(シャドウ)は上裸で練り歩いて行く。これが大陸最強の覇権国家、リーンエス王国の王都の日常だ。
「ほーら、見てごらん! 地上にあって輝ける星、冒険者ウィルのお通りだよ!」
こうすることで人々はこの国に対する安心感を抱くのだ。この強き王子がいれば大丈夫だと!
●シェルリアの夢
「やっっったー! これぞドゥジン神の思し召し!」
ウィリアムの肉体を手に入れたシェルリア・リトヴァールは大歓喜した。自分の体がどうなっているのかとかあんまり気にせず、とりあえず大喜びするあたり、彼女こそ真のドゥジンソルジャーだと言えるだろう。
「ま、まずは自分の体を検分しないとですね。鏡の前で服を脱ぎましょう。事態把握の為です。資料だなんて思ってません。……思ってません」
シェルリアはウィリアムをパジャマを脱ぎ捨て、ウィリアムボディの検分を始めた。
「ふう。すっかりスケッチに熱中してしまった。ラミアス、怒ってないかな?」
お昼前、シェルリアは王都をダッシュしていた。手帳によれば、今日はラミアスと遊ぶ約束をしていたらしい。
(つまり、デートですね! ウィリアム王子はラミアス先生をあわよくば自室に連れ帰り、●●したり××したりしようとしていたに違いありません!)
妄想たくましいシェルリアはそう確信していた。
「今日はラミアス先生……もとい友人のラミアス、くん? と過ごす約束だったね。ラミアス、くんでいいんでしょうか?」
ウィルアムとラミアスが友人関係というのは学園では割と有名だが、シェルリアは二人が実際に一緒にいるところを見た事がないのであった。ちなみにラミアスの方は基本「ウィリアム王子」呼びだが、たまに「ウィリアム」と呼び捨てにしている時がある(黄金像の会議の時とか)のを、シェルリアは耳ざとく聞いている。
「ラミアス、君もそろそろいい人が見つかったかい?」
「あいにく、仕事が忙しいもので。それに、結婚するなら王子の方が先でしょう。いつまでもふらふらしているおつもりで?」
「僕の想い人は堅物でね。デートに誘うのも一苦労なんだ。眼鏡が似合う人なんだけど」
「ふむ……。どなたか存じ上げませんが、眼鏡が似合うのならきっと知的な方なのでしょうね」
(……王子の口調ってこれでいいんでしょうか。今後の創作活動の大事な資料で燃料です、堪能しないと! ところでラミアス先生、ちょっと不機嫌になってませんかー!? これは脈アリでは!?)
喫茶店に入った二人は、恋バナをしたり、学生時代の思い出に花を咲かせたりと、楽しい時間を過ごした。
「ねえラミアス。夕食も、勿論夜も一緒に過ごしてくれるんだろう? 朝まで離さないよ」
「フッ……相変わらず強引な人ですね。ウィリアム。今夜は犬のようにキャンキャン泣かせてあげましょう」
「来たー―ッ!」
シェルリアは絶叫し、拳を握ったポーズで目を覚ました。
「あ、夢だったんですね……しかし、初夢は実現すると聞いたことがあります! つまり、これは予知夢なのでは!?」
●ジュストの夢
「俺が今ウィリアム王子ということは、俺の体にはウィリアム王子が……?」
朝起きたらウィリアム王子になっていたことに気付いたジュスト・ヴェルジーはショックを受けた。
「くっ、ロゼに近づく前に元に戻らないと!」
自分が王子になっているのなら、おそらく自分の体には入れ替わりでウィリアムが入っているのだろう。
(王子も早く元に戻ろうとしてくれてるなら話は早いけど、ウィリアム王子だしなぁ……)と嘆息。
(あの王子のことだ。ディオール家を王党派に取り込むべく、ここぞとばかりロゼに言い寄ることも考えられる。ディオール家は中立派だし)
幼い頃、まだ騎士に憧れていた頃は純粋にウィリアム王子を敬愛もしていたジュストだったが、今はもう、子供の頃に思っていたほどには『冒険者ウィル』がピュアな存在ではないことは知っているし、ヴェルジー家の王党派貴族としての英才教育の成果である自身の立ち位置、ウィリアム王子に今のような生き方をさせている王国体制への反発、臣下としては未熟な自身への苛立ちなど、様々な感情がない交ぜになり、ジュストは王子に複雑な感情を抱いていた。ジュストはとりあえずウィリアム姿のまま、自身の肉体を目指してパンクリアース学園まで全力疾走する。この時間なら、自分は学園に登校しているはずだ。校門まで辿り着いたジュストは適当な学園生を捕まえて尋ねる。
「すまない、この辺でジュスト君を見なかった!?」
「え、王子? ジュスト君なら教室に……」
「ありがとう! くそ、人目の少ない生徒会室とかだったら良かったんだが、普通に授業を受けるのか!」
ジュストは悪態をつき、自分のクラスに向かってダッシュした。王城からずっと走りっぱなしだが、さすがウィリアムの体。まったくスタミナが切れる気配がない。
「いた! 俺だ! しまった、ロゼもいるじゃないか!」
ジュストは中にウィリアムが入っているのであろう自分の体を見つけた。だが、都合の悪いことに、ローザリカも同じ教室で授業を受けている。流石に授業中に口説いたりはしないだろうが、もはや気が気でならない。一刻も早く自分の体を取り戻さねば。
「こうなったら……!」
ジュストは強硬手段を取ることにした。
「ピンポンパンポン。五年生のジュスト・ヴェルジーさん。ジュスト・ヴェルジーさん。ウィリアム王子がお呼びッス。すぐに応接室にお越し下さいッス」
魔法の校内放送を使い、ジュストは自分の体を呼びつけたのだった。
「全く、強引だなあ、ジュスト。僕も久々に授業を受けたかったんだけど」
「それ俺の体なんで……! さっさと元の体に戻りましょう。ロゼや生徒会長が事態に気付けば大騒ぎになりますよ」
「ああ、それは確かに。で、どうやったら戻れるんだい?」
「分かりません。色々試してみる他はないですね……」
(いかん、胃痛と頭痛がしてきたぞ……)
ジュスト(体はウィリアム)はストレスマッハだった。
「生徒会長。ジュストとウィリアム王子が図書館でデートをしてたと聞いたんだけど、何か知ってるかい?」
「なんですって! 王子が!? 副会長と!? すぐに二人を探し出しましょう! 王子がまさか二刀流だったなんて! ウォーリアなのに!」
「僕もショックだ! ジュストはキャスターなのに二刀流だったとは!」
ジュストの明日はどっちだ。
●ローザリカの夢
「!!?!?」
視界に入る引き締まった身体に、ローザリカ・L・ディオールはただただ困惑していた。朝起きたらなんか男になっていたのだ。それもただの男ではない。鏡に映ったこの顔は、リーンエス王国の第二王子に相違ない。謎過ぎる事態にローザリカは石になっていたが、従者の手によって朝の支度は勝手に進んでいく。
(……某婚約者殿よりも肉付きが良い。いや、そんなことに思いを馳せている場合ではなく!)
「ど、どうしてこんなことに! そして僕が王子ということは王子が僕ということでは!」
着替えが終わった後、「しばらく思索に耽りたい」と従者達を追い払い、ローザリカは我が身に起きた事態について思いを巡らせる。
「今! この僕が目にしたように! 着替えという場面でこう、見えてしまうものがあったり……!」
もし王子が自分のボディで着替えやら入浴やらをしていたとすれば、ローザリカ入りウィリアムと婚約者殿による「どっちが先にウィリアム王子をSATUGAIできるか競争」が勃発してしまう。そんな事態になれば、ディオール家の名誉も地に墜ち……どころの騒ぎではない。リアルにリーンエス王国は内戦になってしまう。
「~~!! まずい! 早く僕の元へ、いや王子の姿で僕本体へ会いに行くのもいろいろ不味いか?!」
ローザリカは年頃の若い貴族女性であり、婚約者もいる身である。ウィリアム王子の姿で会いにいけば、あらぬ誤解を生んでしまうだろう。
「あ、そういえば今日は婚約者と出掛ける予定が! だけど王子の姿で彼と出掛けるのは嫌すぎる。絵面もだが、いくら王子にでも彼は譲れないというか……僕は一体どうすればいいんだー!」
ローザリカ(体はウィリアム)は絶叫した。
「なあ、なんか、王子が部屋で一人で叫んでないか?」
「本当だな。デートのブッキングでもしたのかな?」
●
その頃、ウィリアムが入ったローザリカは王都でジュストとのデートを楽しんでいた。
「ジュスト、僕はなんだか歩き疲れてしまったよ、おんぶしてくれ」
「お、おんぶ? 今日はずいぶん積極的だね、ロゼ」
「何をやっているんだー!!!」
その時、飛び込んで来たウィリアム王子(ローザリカ入り)のドロップキックがローザリカ(ウィリアム入り)に炸裂し、ローザリカは吹き飛ばされた。ばしゃーん、と派手に水飛沫を上げ、ローザリカのボディは噴水に突っ込む。
「行こう、ジュスト! 説明は後だ!」
「??? ウィリアム王子? あの、なぜロゼにドロップキックを……? 納得の行く説明をしてほしいんですが?」
「いいから来い! 僕が君の婚約者だ!」
「???」
困惑するジュストを引っ張り、ウィリアム(ローザリカ入り)は喫茶店に入っていった。
●レタラの夢
「やあ、待たせたね、ラミアス」
ウィリアム(中身はレタラ・スマリ)はカジュアルなコーデを決め、王都の噴水前の広場へとやってきた。レタラは自分が誰かさっぱり忘れ、ウィリアムになりきっているのだ。
「私も今来たところですよ、ウィリアム」
待ち合わせ相手のラミアス・クルスロードは微笑む。普段は学園教師としてふさわしいフォーマルなファッションだが、今日はウィリアムと同じく、彼もラフな格好をしている。
「ラミアス。久々にテニスでもしないかい? 負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くと言うルールで」
「いいでしょう。私が勝ったら……何かおしおきをしてあげましょう」
「フ。それは怖い。じゃあ僕が勝ったら、君は一日僕の召使いになってもらおうかな」
二人は学生時代に返ったような楽しい時間を過ごした。日が沈んだ後は王都の高級宿で夕食を取り、いい雰囲気になった。
「ラミアス。二人きりの時はウィルと呼んでくれないか」
「承知しました、ウィル。ではその代わり、私……いえ、僕のことはラミと」
「ああ、分かったよ。ラミ」
ディナーの後、ウィリアムと共に酒場を数件梯子したラミアスは泥酔状態になっていた。
「すっかり門限を過ぎてしまいましたね……早く寮に戻らないと寮母さんに叱られてしまいます……」
「ラミ。僕の部屋に寄っていかないか?」
「僕の部屋ってウィリアム……それ、王城じゃないですか……」
「いいじゃないか。遠慮するなよ、ラミ。学園には僕が強引に引き留めたと言っておけばいい」
「しかし……教師が規則を破っては学生達に示しが……」
「ああもう、こんな時まで真面目なんだな、君は。そんな奴はこうだ」
ウィリアムはラミアスを強引に担ぎ上げ、王城まで突っ走っていく。ラミアスはばたばた暴れたが、大陸最強クラスのウォーリアであるウィリアムの肉体はびくともしなかった。
●
「ウィル……ここは」
「僕の部屋さ」
「お、お兄様ー! ラミアス先生に一体何をー!?」
いよいよウィリアムがラミアスを征服しようとした時である。妹姫であるメアリーが事態に気付き、大声を出してしまった。ちなみにメアリー王女は頬を赤らめ、両手で顔を覆っているが、指の隙間はバッチリ開いていた。
「あ」
その瞬間、レタラは自分が本当は誰なのか思い出してしまった。俺は王子じゃない。ドゥジン作家レタラだ。
(外見こそ王子とはいえ、自身がCPに絡むのは解釈違いだ。どうすれば……)
「どうしたんです。ウィル。僕を猫のように鳴かせてくれるんじゃないかったんですか……」
レタラの困惑とは裏腹に、目の前のラミアスはどこか恥じらいながら己を見つめている。メアリー王女の教育上大変よろしくない光景である。
(ドゥジン神よ、教えてくれ! 俺はどうすれば!?)
「ハッ! ゆ、夢か……。やけにリアルだった気がする……」
汗をびっしょりかき、レタラは目を覚ました。だが転んでもタダでは起きない男は「次の新刊は決まりだな」と夢の内容を記録し始めるのだった。
●楽しい夢の終わり
「なんだか、変な夢を見たような気がするなぁ。俺がウィリアム王子になってたような……」
初夢から目覚めたパヴェル・A・サムルガチェフは身を起こし、頭を掻いた。ウィリアム王子が強く関係した夢だったことは確かだが、細かい内容は早くも忘れそうになっている。だが、別に問題ないだろう。夢とは元々そういうものだ。
「今度ギルドに顔出したら、他の連中と初夢の話でもするかぁ」
年始であっても、冒険者の仕事はなくならない。また何か依頼がギルドに持ち込まれているだろう。愉快な夢を見た冒険者達は、また日常へと回帰していくのであった。
「どうやらこの体はウィリアム王子に間違い無い様ですね」
王子の部屋で目覚めたフリーダ=ブロムヴィストは鏡に映った自分の肉体をしげしげと眺め、そう結論した。
『フリーダ……フリーダ……私の声が聞こえますか……私は今……貴方の心に話しかけています……体奪還アール=ティ=エーはーじまーるよー!!』
フリーダ(ウィリアム)の脳裏に聞き覚えのある声が響く。この声こそは、自分をいつも見守ってくれている(?)啓示の主に違いあるまいとフリーダは直感した。
「つまり、自分の体を探さないといけないようですね」
己の使命を理解したフリーダは早速、自分の体がどこにあるかについて考える。
(自分の行動パターンから察するに、恐らく冒険者ギルドにいる可能性が極めて高いと言えるでしょう。そしてスタート地点であるここはウィリアム王子の部屋。ならグランスパーダの王城ですね)
フリーダが窓の外を眺めてみると、この部屋は城下町が一望できる高さだった。
「冒険者ギルドは……あそこですね。という事で最近啓示から得られた最も速いという移動方法で向かってみましょう。とう」
フリーダはためらいなく窓をぶち破り、最短の道を選んだ。
キィイイイイイイン! ドンッ!
「親方! 空からウィリアム王子が降って来た! パジャマで!」
「何ィ! ウィリアム王子が寝間着のまま降ってきただと? どんな寝相してんだ」
たちまち街は大騒ぎになり、人が集まってきた。
「良かった。さすがはウィリアム王子。頑丈ですね」
少々のダメージを受けたが、普通に生きていたフリーダ入りウィリアムは、落下の衝撃で出来たクレーターの中から身を起こすと、啓示から学んだ高速移動テクニックの実践に映る。
「どぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅえ、どぅどぅどぅどぅどぅどぅえ!」
奇声を上げつつ、コサックダンスの如く足を前方に振り上げ、ぴょんぴょんと跳ねるフリーダ。驚くべきことに、この奇妙な動作により、フリーダは人類の限界を超越した恐るべき高速移動を実現していた。どう見てもおかしいのだが、普通に走るより遥かに早い速度で、群衆を蹴り飛ばしながらフリーダは冒険者ギルドへと突っぱしっていく。
「どぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅどぅえ、どぅどぅどぅどぅどぅどぅえ!」
寝間着のまま奇声を上げ、冒険者ギルドへと直進していくウィリアム王子。明日のビッグオウム便の一面記事の見出しは「ウィリアム王子、ご乱心?」で決まりだろう。
「なるほどなるほど、普通に歩くよりも圧倒的に速く移動できてこれは便利ですね。どぅえどぅえ。周りの視線が気になりますが……まぁ私ではないので大丈夫でしょう。きっと」
フリーダがジャンプキックでバーンと冒険者ギルドのドアを蹴り開けると、そこには優雅にモーニングセットを楽しんでいるフリーダがいた。
「あ、君は……へぶしっ!?」
フリーダは会話イベントを省略し、自分に腹パンした。今ので魂が抜けたのか、フリーダは元の姿に戻れた。
『よくやりました、フリーダ。今のはなかなかの好タイムです』
●リューイの夢
「そうか。そういえば、彼女とのデートがあったな」
リューイ=ヴァレンゴルトは夢の中でウィリアム王子になりきっていた。今の自分の記憶にあるのは、ある貴族令嬢とのデートの約束。そして、それはお忍びのデートである。ウィリアム王子は高貴な身分であり、イケメンであり、高身長であり、そして世界でも有数の授恵者である。モテないわけがない。
「やあ」
王子が待ち合わせ場所の広場で相手を待っていると、令嬢は約束の時間の五分前にやってきた。
「ウィリアム様! すみません、じいやの目を盗むのに苦労してしまいました。お待たせしてしまいましたか?」
「大丈夫だよ、自分も来たばかりだから。それよりも、今日はウィルと呼んでくれ」
ウィリアムは乙女を蕩かす甘い微笑みを投げ、セレナの手を取って王都の散歩を始めた。
「よく似合っているね」
「お世辞でも王子にそう言っていただけると嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃないさ」
ウィリアム(中身はリューイ)はセレナの服装を褒めた。二人はその後も最近評判になっている王都の店を巡り、最後には落ち着いた店で昼の軽食を取りながら談笑した。
「楽しい時間をありがとう」
「こちらこそ。王子とデートできた時間は至上の喜びでした」
別れる際に、気持ちの良い笑顔を浮かべて礼を言うと、セレナもたおやかに微笑んだ。
(彼女はわきまえた女性だ。王子とデートできたという良い想い出ができたこと自体で、満足できるだろう。彼女の家とは仲良くやっていきたいからね)
王子が令嬢とデートした真意は王党派への根回しであった。彼女の実家は、王都の商工会に強い影響力を持っているのだ。
「彼女のような女性は、誠実な相手と幸せになってほしいよ」
ウィリアムになりきっているリューイは嬉しそうに去っていく貴婦人の背を見送りながら、ぽつりと呟いた。
●レピドの夢
「これは、王子……か?」
鏡に映った己の顔をぺたぺたと触り、レピド・クロサイトは困惑していた。理由は不明だが、自分の魂は今王子の肉体に入っているようだ。体中をまさぐってみたが、賢者の石はどこにもなかった。つまり、原因不明である。
「まずは自分の体を探さないとな」
レピドは元の自分に戻るべく、行動を開始した。愛想がログアウトした王子と化したレピドは臣下や街の人々を威圧しながら、王都で己の肉体を探した。
「ここにはいないようだな。リブラネスタに行こう。誰か知り合いが『躍る子熊亭』にいればいいんだが」
レピドは額に手を当て、踊る子熊亭にいる人物エーテルを探知する。ウィリアムほどの授恵者ともなれば、一度記憶した人物のエーテルなら数百キロ離れていようとも探知が可能なのだ。ただし女性に限る。
「む。この酒臭いエーテルはリーミルのものだな」
シュビッ。ウィリアム(レピド入り)が気合を込めると、その姿が瞬時に掻き消えた。
「あれ、ウィリアムさんなの」
酒場のカウンターの内側に突然ウィリアム王子が目の前に出現し、リーミルは驚いた。
「……リーミル、レピド・クロサイトを見なかったか?」
「え、レピドさん? あの人なら、御機嫌な様子でお出かけしていったの」
「そうか」
ウィリアム(レピド入り)はリーミルに軽く会釈し、踊る子熊亭から出ていった。
「ウィリアムさん、今日はお腹が痛いのかもしれないの。いつもはナンパしてくるのに……」
●
「どこに行ったんだ、俺の体は……」
ウィリアム(レピド入り)はリブラネスタで聞き込みをしながら、自分の体を必死に探した。
「ウィリアム王子だな! お命頂戴!」
「闘気塊!」
「ぬわーっ!」
「ウィリアム! ウィリアム! デートしましょう! 大丈夫よ、私に任せてくれれば、痛くないようにしてあげるから! 痛覚とか邪魔ですものね!」
「ドラゴンチャリオッツ!」
「あーれー!」
剣圧が大地を切り裂き、エーテル波が山を打ち砕く。正にウィリアム無双である。
「さすがはウィリアム王子だ。武力チート王子で助かった」
邪魔する奴らを蹴散らし、レピドはひたすらにウィリアム王子を探した。なんか本物のウィリアムより強いストーカーも混ざっていたような気もするが、気にしてはいけない。
「見つけた! ……あれは何をやってるんだ?」
「やあ、美しいお嬢さん。僕と一緒に遊ばないかい?」
ついに発見したレピドの体は、大量の女性を引き連れていた。どうやら、街中の女性に声をかけまくっているらしい。年齢層は幅広く、ちょっとまずそうなぐらい若い子や、逆に孫がいそうな年齢の女性もいた。そして、レピドのペットであるショウガは困惑気味にレピド(ウィリアム入り)の後ろをついてきている。
(何をしているのかよく分からんが、妙に腹立たしいな)
ウィリアム(レピド入り)は内から湧き上がってくる衝動のままに、己の肉体へと突撃する。
「いい加減にしろ!」
「はぐっ!」
ダッシュジャンピング頭突きを食らったレピド(ウィリアム)は口から魂が飛び出し、意識を失ったのだった。
●ヨルの夢
「どうしてこうなった」
ヨル・スレイマンは頭を抱えた。朝起きたらウィリアム王子の姿になっていたのだ。友人のナハシュなら無邪気に喜んだであろうが、ヨルは彼ほど大胆ではない。不安の方が優っていた。
「入れ替わりがバレると殺される気がする……。全力で隠しながら自身を探すしかないな」
ヨルは溜息をついた。とりあえず自分のいる部屋の位置を確認しるべく窓の外を覗くと、そこには美しいグランスパーダの城下町が広がっていた。少し遠くに見えるのは、パンクリアース学園だろうか。ヨルは改めて部屋の方に視線をやる。そこにあったのは、今まで見た事もないほど豪華な部屋だ。
(この美しすぎる場所は見れば見るほど場違いで萎縮してしまう)
ヨルは逃げるようにウィリアムの部屋から立ち去り、王城を抜けだそうと試みた。
「やあ、ウィリアム王子。知っておりますかな? 貴族派の●●家のご長男が、金の鉱脈を買収したそうですぞ」
「おや、そうなのかい」
(知るわけないだろ。俺は元奴隷だぞ)
「ウィリアム王子。今年も当家の畑でメロンが取れました。今度お城に持って行きますね」
(奴隷と王族じゃ天と地の差だ。……やはり同じヒューマンであるはずがない)
城の中で話しかけてくる貴族達との会話を適当にやり過ごし、ヨルは溜息を吐く。しかし、勝利眼でヨルはウィリアムが周囲からの期待や妬みを一身に浴びていることも知ってしまった。
(この中でよく平静を保っていられる。王子メンタル鈍すぎでは??)
●
「あら、あれはもしや……。ウィリアム王子~! ウィリアム王子~!」
ヨルが王都を彷徨っていると、300メートルほど先からパーシアが突っ走ってきた。
「や、やあパーシア君。今日も大変麗しいね! まるで朝露に濡れる薔薇のようだ」
(こんなもんでいいだろうか? 距離感が分からない)
ヨルは挙動不審気味な態度でパーシアに挨拶する。
「まあ、ウィリアム王子、そんな。嬉しいですわ……」
ウィリアムの肩をがしっと掴み、にじり寄って来るパーシア。貴族の令嬢は殿方の誘いを待つのがマナーと聞いていたが、このお嬢さんはずいぶんアグレッシブなようだ。
「すまない、急用を思い出した!」
「お待ちになって! ウィリアム王子!」
夜が逃亡を図ると、パーシアは追いかけてきた。授恵者だけあり、パーシアの足は早い。しかも全力疾走しているのに、何分経ってもペースが全く落ちない! あるいは、これも愛の力の為せる技か。
(モテすぎるのも考えものだ!)
ヨルは猛スピードで追いかけてくるパーシアから逃げ回りながら、そんなことを考えるのだった。
●ナハシュの夢
「俺の時代到来だな!」
ナハシュはガッツポーズをした。朝起きたらウィリアム王子になっていたのだ。この大陸では何かと色眼鏡で見られがちなゴブリンから、この大陸でトップクラスに高貴な家柄である第二王子への転生。ナハシュはこのまま王子として生きる気満々であった。
「とりあえずこの服は脱いじまおう。ゴワゴワするし」
ナハシュは王子の服を脱ぎ捨て、半裸になった。
「半裸がゴブリンの民族衣装だ。王子がゴブリンの伝統衣装になる、これぞ開かれた学園、開かれた王国の姿だ!!」
学園生達が聞けば卒倒しそうな思想を叫ぶウィリアム(ナハシュ入り)。とりあえず法衣貴族に自身のツテをフル活用して学園の校則改定をねじ込んでみた。
「学園の敷地内において、上半身の衣服の着用を禁ずる……正気ですか、ウィリアム王子!」
「半裸って……女性もですか?」
「うん!」
「なるほど、素晴らしい法案だ!」
「ウィリアム・イズ・ゴッド!」
スケベな法衣貴族達を味方につけたウィリアム(ナハシュ入り)は学園にごり押しし、半裸校則を学園の校則にねじ込んでしまった。冬期休暇明けからはきっとパンクリアース学園は男子校になるだろう。
「あと、ナハシュを探してくれ。あいつにはちょっと用があるんだ」
ナハシュは王家の密偵に頼み、代わりにウィリアムが入っているであろう自分の旧ボディを探させることにした。
「は、サウナ、ですか?」
「貴族共はいいもん食ってるがその分太りやすい。そこでこのデトックスだ」
本体が見つかるまでの間は王城の庭に建造した超豪華な風呂に入り、湯浴みとサウナを楽しんで過ごした。そして数日後、ウィリアム入りのナハシュが見つかった。
「やあ、ナハシュ君。僕の体で色々楽しんでいるようだね!」(ピキピキ)
「きたな。良いだろ半裸は! いつでもサウナに入れるんだぜ!!」
ナハシュはウィリアムと共にサウナを楽しんだ。しかし、ナハシュが背中を晒した瞬間、ウィリアムはナハシュの背中を切りつけてきた!
「おっと!」
しかし、ウィリアム(ナハシュ入り)はカウンターを決め、ためらいなく自分の体を一刀両断した。
「馬鹿なっ……! 自分の体を……!」
「この身体結構使い勝手がいいんだ。ありがとな!」
ウィリアムを始末し、完全にボディを乗っ取ったナハシュは朗らかに笑った。
●ギーゼラの夢
「僕がウィリアム王子に!? これは推しの既成事実を作るチャンスでは!!」
自分が朝起きたらウィリアム王子になっていたことに気付いたギーゼラは歓喜した。ギーゼラは(脳内の)ドゥジン神の囁かれるまま、ウィリアム王子×レイウェスト、通称ウィル×レイを確実なものにするために暗躍することにした。
「誰でもいい! 誰か来てくれ! 急いで頼みたいことがあるんだ!」
ウィリアムが廊下に向かって叫ぶと、すぐに執事やメイドたちがやってきた。
「王子、どうなさいました」
「礼服とウエディングドレスの用意を。それと結婚指輪を大至急用意してくれ。もちろん最高級のものをね」
そう言って、ロイヤルイケメンスマイルを決めるウィリアム(ギーゼラ入り)。その神々しいオーラにメイドたちや一部執事はうっとりした。
「は? 王子? それは一体? おっしゃる意味がよくわからないのですが……」
「馬鹿ね、分からないの? ウィリアム王子はついにレイウェスト皇子を迎えに行くとおっしゃられているのよ!」
「ああ、その通りだ! 僕は愛しの花嫁を迎えに行く!」
王城は騒然となった。王や王妃、エドワード王太子も困惑していたが、メアリー王女だけは
「ウィリアムお兄様、その言葉を待っておりましたわ! お兄様がレイウェスト皇子を手中に収めても、帝国は王国と仲良しになれますものね!」
と一人興奮していた。
●
「ウィリアム王子、大事なお話があると聞いたのですが」
王国の高級宿に呼び出されたレイウェストは、ウィリアムの熱い眼差しにただならぬものを感じ、緊張した面差しでウィリアムの正面に座っていた。大陸一の美姫と称えられたイダの生き写しと言われるだけあり、レイウェストは今日も美少年だ。その佇まいにはウィリアムが惚れ込むのも無理はない。
「レイウェスト、僕と結婚してくれ」
「は?」
ウィリアムはきょとんとするレイウェストを手を握り、小さな箱を手渡した。ウィリアムに促され、レイウェストが箱を開けると、そこにはリーンエス王家の紋章が入った指輪が入っていた。
「君がメアリーと婚約するかもしれない。それを聞いて僕は本当の気持ちに気付いた。レイウェスト、君の美しいドレス姿が忘れられない。国の為に懸命に頑張る姿も愛おしい。どうか今度は僕の本当の花嫁になってほしい」
(完璧な演技じゃないですかぁ?)
中の人であるギーゼラは自分のウィリアムの演技に酔いしれていた。
「……わかった。そこまで私のことを想ってくれるのなら、私は貴方の妻となろう。ウィリアム」
(よっしゃー!)
ギーゼラは歓喜した。その後、二人の縁談はトントン拍子に進んだ。そして……。
「新郎ウィリアム。新婦レイウェスト。二人は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「「誓います」」
「それでは、誓いの口づけを……」
(やったー! 行け、ウィリアム王子!)
「やったー! ん? あれ?」
残念ながら、そこでギーゼラは目を覚ましてしまった。
●ベルクの夢
「ウィリアム殿下になった? よろしい、ならばドゥジン教徒に新たなジャンルをプレゼントだ」
朝起きたらウィリアム王子になっていたベルク・オスマットはほくそ笑んだ。なんでこうなったのかは分からないが、こうなった以上やっておかねばならないことがある。それは、ドゥジン教徒に伝わるウィル×レイネタを消し去ることである。
「そのためには……ウィル×ラミネタを流行らせると共に、ウィリアムロリコン疑惑で王子の社会的信用を破壊する!」
悪魔的作戦を思いついたベルクは早速ラミアスにちょっかいをかけるべく、パンクリアース学園へと赴いた。
(ラミアス殿が来るのを待つぞ)
ウィリアム(ベルク入り)はレイウェストとの偽結婚式でウィリアムが来ていた白い礼服を着用し、廊下のど真ん中でラミアスを待ち伏せすることにした。しばらく待っていると、授業が終わり、教室からラミアスが出て来た。
「あれ? ウィリアム王子。何をしてるんです? そんな格好で」
(来たな)
ラミアスを確認したベルクは早速作戦を実行することにした。なんとウィリアム(ベルク入り)はおもむろにジャケットとシャツを脱ぎ始めたのだ!
「やあラミアス、やらないか」
●
「くっ……僕の体は今頃何をしているんだ……」
その頃、ウィリアムの中身が入ったベルクの体は逆海老反り縛りされた状態でウィリアムの部屋に吊るされていた。ベルクがウィリアムの体で暴走をしようとしたら、真っ先に自分の元に飛び込んできたのだ。しかし、神になれる資格を持つウィリアムの肉体を持つベルクは、自分の体で襲ってきたウィリアムをあっさり返り討ちにしてしまったのである。
●
ラミアスにこっぴどく叱られ、学園出禁を言い渡された後、今度はウィリアム(ベルク入り)はウィーズルをお年玉で誘い出し、公園でデートを楽しんでいた。なお、遊びだと思われているのか、ウィーズルはリアル王子とのデートだというのに割と愛想がなかった。
「ウィーズル、僕の膝の上に座ってくれないかい?」
「嫌ッス」
ウィリアム(ベルク入り)の要求にウィーズルは露骨に嫌そうな顔をした。するとウィリアム(ベルク入り)は微笑みを浮かべ、懐から大きな金貨を取り出し、ウィーズルの脇に置く。
「いいじゃないか、お小遣いあげるから」
「うわ……ドン引きッス……かつてお仕えしていた王子がこんなド変態だったなんて……」
ウィーズルは遠慮のない蔑みの目をウィリアムへと向けた。
「頼む、この通りだ! 僕の膝の上に座ってくれ! ハーフリング美少女を膝の上に乗せて頭を撫でるのが僕の夢だったんだ!」
ウィリアム(ベルク入り)は大声で叫び、がばっと土下座した。そして懐から金貨がぎっしり詰まった袋を追加でウィーズルへと差し出す。
「王子がそこまで言うならやってあげるッスけど、今度から王都で会っても他人のフリするッスからね」
ウィーズルはウィリアムからもらった金塊をリュックに詰めると、絶対零度の声音で告げた。そして要求通り、ウィリアムの膝の上にちょこんと座る。
「……満足したッスか?」
「もう少し楽しませてくれ」
(ふふふ、これでウィリアム王子の評判は地に墜ちるな……)
ウィリアム(ベルク)がしばらくそうしていると。王都を巡回していた王国騎士が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あのー。ウィリアム王子。お楽しみの所すみませんが、ちょっと詰め所まで来ていただけますか。ウィリアム王子が公園で幼女相手に変態的な行為をしていると市民から通報が……」
「なんだって! 僕がいつそんなことを!?」
「あ、おまわりさん、コイツッス。どーぞ取り調べをお願いするッス」
「そんなぁ! この女性は26才のハーフリングであって、幼女では……」
「はい、言い訳は詰め所で聞きますねー」
(ふふふ、完璧だ……しばらく地下牢で臭い飯でも食うがいい、ウィリアム……)
ウィリアム(ベルク)は内心ほくそ笑みながら、王国騎士に連行されていった。
●ダニエルの夢
「この顔は、ウィリアム王子!? もしかして体が入れ替わったのか!?」
ダニエル・ヘリントンは朝目覚めるとウィリアム王子になっていた。が、彼は嘆くどころか、神に感謝した。
「これはチャンスかもしれない!」
邪悪な笑みを浮かべるダニエル。ウィリアムはこの国の第二王子であり、その影響力は言うまでもなく大きい。ならば――
「この格好で際どいブーメランビキニパンツ一丁で素晴らしい肉体美を見せつけることで、国民全員を『清く正しい心』に目覚めさせることができるのでは!?」
●
(あれ、幻覚かな? ウィリアム王子がパンイチに見える……)
(ウィリアム王子……もしかしなくても裸では?)
王都の人々はウィリアムのパンイチ姿に困惑した。だが、いくらなんでも超展開過ぎて誰も王子に突っ込めずにいた。そんな時、一人の勇気ある少年がウィリアムを指差し、こう叫んだ。
「裸だ! 王子様は裸だぞ!」
「その通りだとも! みんな、僕を見てくれ!」
ウィリアム(ダニエル入り)は力強く少年の言葉を肯定し、アブドミナル&サイのポーズを取った。
「さあ、僕の美しい肉体を見て『清く正しい心』に目覚めるのだ!」
王子が王都を練り歩いていると、一台の馬車が猛スピードで突っ込んできて、王子のすぐ近くで停車した。馬車から降りて来たのは、1222年度パンクリアース学園生徒会長、パーシア・アイオーラだ!
「ウィリアム王子がファンサービスをなさっていると聞いて! ああ、なんと美しい肉体なのでしょう」
パーシアはうっとりした。
「こんにちは。パーシア。さあ、僕の肉体美を思う存分その目に焼き付けるんだ」
「はうっ」
間近でパンイチのウィリアムに微笑まれ、興奮がリミットブレイクしたパーシアは卒倒してしまった。彼女には刺激が強すぎたようだ。
「嗚呼、こんなにも僕の美しい肉体を見てもらえるなんてK・A・I・K・A・N」
担架で運ばれていくパーシア嬢を見送りながら、ウィリアム(ダニエル入り)は恍惚としている。しかし、誰もがウィリアムの肉体を「美しい」と感じるわけではない。中には「体を鍛えるなんて脳筋のすること」と斜に構えたヒョロガリ貴族とかもいる。
「馬鹿らしい。筋肉を自慢するなんてさ。肉体労働なんて平民がやることだろう」
「そんなことはない! 僕の美しい肉体を見ても清く正しい心に目覚めない『だらし無ぇ輩』は、生尻を叩いて『歪み無い心』を注入してやる!」
「な、何をするだぁ―ッ!?」
突然豹変したウィリアム(ダニエル入り)はワイルドに跳躍すると、貴族のボンボンのズボンを素手で引きちぎってしまった。そのまま路上でフォールディングし、ボンボンのパンツへと手をかける。
「らめぇええええええええ」
ボンボンは絶叫した。
……。
「ふう。なんだかとてもいい夢を見た気がするなあ……あれ。もう思い出せない。……仕方ないね」
●シャドウの夢
「うん、いい朝だ。今日は市場に行ってみようかな。王都に住む人々の陳情を聞くのも、王子の務めだからね」
早朝にウィリアム王子として目覚めたシャドウは自分が何者なのか忘れ、ウィリアム王子になり切っていた。変な初夢を見た多くの冒険者がウィリアムに抱いているイメージとは違い、シャドウの中のウィリアム王子は統治者にふさわしきナイスガイであった。
「やあ、王都のみんな。ウィリアムだよ! 困ったことがあれば、僕になんでも言ってくれ!」
上半身裸のウィリアムは爽やかな笑顔で人々に愛想を振りまいた。残念ながら、シャドウの中のウィリアム王子像もやはり変態王子であったようだ。
「おはようございます、ウィリアム王子。実は、最近小麦の値段が高騰しておりまして……なんとかならないでしょうか?」
「分かった。僕から父に伝えておくよ」(雄々しく大胸筋を見せつけながら)
「ありがとうございます!」
「ウィリアム王子だわ! 筋肉質で素敵! し、下は脱がないんですか?」(ドキドキ)
「はは、僕の生まれたままの姿は乙女たちへの刺激が強すぎるからね。僕の聖剣は封印しないといけないんだ」(広背筋を誇示する)
ウィリアム王子になりきっているシャドウは鍛え上げた筋肉をこれ見よがしに見せつけ、人々と交流していく。時々ポーズを取り、ファンサービスすることも忘れない。
「ウィリアム王子だ! 裸だぞ! ねえ、寒くないの?」
「はは、大丈夫さ。鍛えているからね」
寒風吹きすさぶ1月のグランスパーダを、ウィリアム(シャドウ)は上裸で練り歩いて行く。これが大陸最強の覇権国家、リーンエス王国の王都の日常だ。
「ほーら、見てごらん! 地上にあって輝ける星、冒険者ウィルのお通りだよ!」
こうすることで人々はこの国に対する安心感を抱くのだ。この強き王子がいれば大丈夫だと!
●シェルリアの夢
「やっっったー! これぞドゥジン神の思し召し!」
ウィリアムの肉体を手に入れたシェルリア・リトヴァールは大歓喜した。自分の体がどうなっているのかとかあんまり気にせず、とりあえず大喜びするあたり、彼女こそ真のドゥジンソルジャーだと言えるだろう。
「ま、まずは自分の体を検分しないとですね。鏡の前で服を脱ぎましょう。事態把握の為です。資料だなんて思ってません。……思ってません」
シェルリアはウィリアムをパジャマを脱ぎ捨て、ウィリアムボディの検分を始めた。
「ふう。すっかりスケッチに熱中してしまった。ラミアス、怒ってないかな?」
お昼前、シェルリアは王都をダッシュしていた。手帳によれば、今日はラミアスと遊ぶ約束をしていたらしい。
(つまり、デートですね! ウィリアム王子はラミアス先生をあわよくば自室に連れ帰り、●●したり××したりしようとしていたに違いありません!)
妄想たくましいシェルリアはそう確信していた。
「今日はラミアス先生……もとい友人のラミアス、くん? と過ごす約束だったね。ラミアス、くんでいいんでしょうか?」
ウィルアムとラミアスが友人関係というのは学園では割と有名だが、シェルリアは二人が実際に一緒にいるところを見た事がないのであった。ちなみにラミアスの方は基本「ウィリアム王子」呼びだが、たまに「ウィリアム」と呼び捨てにしている時がある(黄金像の会議の時とか)のを、シェルリアは耳ざとく聞いている。
「ラミアス、君もそろそろいい人が見つかったかい?」
「あいにく、仕事が忙しいもので。それに、結婚するなら王子の方が先でしょう。いつまでもふらふらしているおつもりで?」
「僕の想い人は堅物でね。デートに誘うのも一苦労なんだ。眼鏡が似合う人なんだけど」
「ふむ……。どなたか存じ上げませんが、眼鏡が似合うのならきっと知的な方なのでしょうね」
(……王子の口調ってこれでいいんでしょうか。今後の創作活動の大事な資料で燃料です、堪能しないと! ところでラミアス先生、ちょっと不機嫌になってませんかー!? これは脈アリでは!?)
喫茶店に入った二人は、恋バナをしたり、学生時代の思い出に花を咲かせたりと、楽しい時間を過ごした。
「ねえラミアス。夕食も、勿論夜も一緒に過ごしてくれるんだろう? 朝まで離さないよ」
「フッ……相変わらず強引な人ですね。ウィリアム。今夜は犬のようにキャンキャン泣かせてあげましょう」
「来たー―ッ!」
シェルリアは絶叫し、拳を握ったポーズで目を覚ました。
「あ、夢だったんですね……しかし、初夢は実現すると聞いたことがあります! つまり、これは予知夢なのでは!?」
●ジュストの夢
「俺が今ウィリアム王子ということは、俺の体にはウィリアム王子が……?」
朝起きたらウィリアム王子になっていたことに気付いたジュスト・ヴェルジーはショックを受けた。
「くっ、ロゼに近づく前に元に戻らないと!」
自分が王子になっているのなら、おそらく自分の体には入れ替わりでウィリアムが入っているのだろう。
(王子も早く元に戻ろうとしてくれてるなら話は早いけど、ウィリアム王子だしなぁ……)と嘆息。
(あの王子のことだ。ディオール家を王党派に取り込むべく、ここぞとばかりロゼに言い寄ることも考えられる。ディオール家は中立派だし)
幼い頃、まだ騎士に憧れていた頃は純粋にウィリアム王子を敬愛もしていたジュストだったが、今はもう、子供の頃に思っていたほどには『冒険者ウィル』がピュアな存在ではないことは知っているし、ヴェルジー家の王党派貴族としての英才教育の成果である自身の立ち位置、ウィリアム王子に今のような生き方をさせている王国体制への反発、臣下としては未熟な自身への苛立ちなど、様々な感情がない交ぜになり、ジュストは王子に複雑な感情を抱いていた。ジュストはとりあえずウィリアム姿のまま、自身の肉体を目指してパンクリアース学園まで全力疾走する。この時間なら、自分は学園に登校しているはずだ。校門まで辿り着いたジュストは適当な学園生を捕まえて尋ねる。
「すまない、この辺でジュスト君を見なかった!?」
「え、王子? ジュスト君なら教室に……」
「ありがとう! くそ、人目の少ない生徒会室とかだったら良かったんだが、普通に授業を受けるのか!」
ジュストは悪態をつき、自分のクラスに向かってダッシュした。王城からずっと走りっぱなしだが、さすがウィリアムの体。まったくスタミナが切れる気配がない。
「いた! 俺だ! しまった、ロゼもいるじゃないか!」
ジュストは中にウィリアムが入っているのであろう自分の体を見つけた。だが、都合の悪いことに、ローザリカも同じ教室で授業を受けている。流石に授業中に口説いたりはしないだろうが、もはや気が気でならない。一刻も早く自分の体を取り戻さねば。
「こうなったら……!」
ジュストは強硬手段を取ることにした。
「ピンポンパンポン。五年生のジュスト・ヴェルジーさん。ジュスト・ヴェルジーさん。ウィリアム王子がお呼びッス。すぐに応接室にお越し下さいッス」
魔法の校内放送を使い、ジュストは自分の体を呼びつけたのだった。
「全く、強引だなあ、ジュスト。僕も久々に授業を受けたかったんだけど」
「それ俺の体なんで……! さっさと元の体に戻りましょう。ロゼや生徒会長が事態に気付けば大騒ぎになりますよ」
「ああ、それは確かに。で、どうやったら戻れるんだい?」
「分かりません。色々試してみる他はないですね……」
(いかん、胃痛と頭痛がしてきたぞ……)
ジュスト(体はウィリアム)はストレスマッハだった。
「生徒会長。ジュストとウィリアム王子が図書館でデートをしてたと聞いたんだけど、何か知ってるかい?」
「なんですって! 王子が!? 副会長と!? すぐに二人を探し出しましょう! 王子がまさか二刀流だったなんて! ウォーリアなのに!」
「僕もショックだ! ジュストはキャスターなのに二刀流だったとは!」
ジュストの明日はどっちだ。
●ローザリカの夢
「!!?!?」
視界に入る引き締まった身体に、ローザリカ・L・ディオールはただただ困惑していた。朝起きたらなんか男になっていたのだ。それもただの男ではない。鏡に映ったこの顔は、リーンエス王国の第二王子に相違ない。謎過ぎる事態にローザリカは石になっていたが、従者の手によって朝の支度は勝手に進んでいく。
(……某婚約者殿よりも肉付きが良い。いや、そんなことに思いを馳せている場合ではなく!)
「ど、どうしてこんなことに! そして僕が王子ということは王子が僕ということでは!」
着替えが終わった後、「しばらく思索に耽りたい」と従者達を追い払い、ローザリカは我が身に起きた事態について思いを巡らせる。
「今! この僕が目にしたように! 着替えという場面でこう、見えてしまうものがあったり……!」
もし王子が自分のボディで着替えやら入浴やらをしていたとすれば、ローザリカ入りウィリアムと婚約者殿による「どっちが先にウィリアム王子をSATUGAIできるか競争」が勃発してしまう。そんな事態になれば、ディオール家の名誉も地に墜ち……どころの騒ぎではない。リアルにリーンエス王国は内戦になってしまう。
「~~!! まずい! 早く僕の元へ、いや王子の姿で僕本体へ会いに行くのもいろいろ不味いか?!」
ローザリカは年頃の若い貴族女性であり、婚約者もいる身である。ウィリアム王子の姿で会いにいけば、あらぬ誤解を生んでしまうだろう。
「あ、そういえば今日は婚約者と出掛ける予定が! だけど王子の姿で彼と出掛けるのは嫌すぎる。絵面もだが、いくら王子にでも彼は譲れないというか……僕は一体どうすればいいんだー!」
ローザリカ(体はウィリアム)は絶叫した。
「なあ、なんか、王子が部屋で一人で叫んでないか?」
「本当だな。デートのブッキングでもしたのかな?」
●
その頃、ウィリアムが入ったローザリカは王都でジュストとのデートを楽しんでいた。
「ジュスト、僕はなんだか歩き疲れてしまったよ、おんぶしてくれ」
「お、おんぶ? 今日はずいぶん積極的だね、ロゼ」
「何をやっているんだー!!!」
その時、飛び込んで来たウィリアム王子(ローザリカ入り)のドロップキックがローザリカ(ウィリアム入り)に炸裂し、ローザリカは吹き飛ばされた。ばしゃーん、と派手に水飛沫を上げ、ローザリカのボディは噴水に突っ込む。
「行こう、ジュスト! 説明は後だ!」
「??? ウィリアム王子? あの、なぜロゼにドロップキックを……? 納得の行く説明をしてほしいんですが?」
「いいから来い! 僕が君の婚約者だ!」
「???」
困惑するジュストを引っ張り、ウィリアム(ローザリカ入り)は喫茶店に入っていった。
●レタラの夢
「やあ、待たせたね、ラミアス」
ウィリアム(中身はレタラ・スマリ)はカジュアルなコーデを決め、王都の噴水前の広場へとやってきた。レタラは自分が誰かさっぱり忘れ、ウィリアムになりきっているのだ。
「私も今来たところですよ、ウィリアム」
待ち合わせ相手のラミアス・クルスロードは微笑む。普段は学園教師としてふさわしいフォーマルなファッションだが、今日はウィリアムと同じく、彼もラフな格好をしている。
「ラミアス。久々にテニスでもしないかい? 負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くと言うルールで」
「いいでしょう。私が勝ったら……何かおしおきをしてあげましょう」
「フ。それは怖い。じゃあ僕が勝ったら、君は一日僕の召使いになってもらおうかな」
二人は学生時代に返ったような楽しい時間を過ごした。日が沈んだ後は王都の高級宿で夕食を取り、いい雰囲気になった。
「ラミアス。二人きりの時はウィルと呼んでくれないか」
「承知しました、ウィル。ではその代わり、私……いえ、僕のことはラミと」
「ああ、分かったよ。ラミ」
ディナーの後、ウィリアムと共に酒場を数件梯子したラミアスは泥酔状態になっていた。
「すっかり門限を過ぎてしまいましたね……早く寮に戻らないと寮母さんに叱られてしまいます……」
「ラミ。僕の部屋に寄っていかないか?」
「僕の部屋ってウィリアム……それ、王城じゃないですか……」
「いいじゃないか。遠慮するなよ、ラミ。学園には僕が強引に引き留めたと言っておけばいい」
「しかし……教師が規則を破っては学生達に示しが……」
「ああもう、こんな時まで真面目なんだな、君は。そんな奴はこうだ」
ウィリアムはラミアスを強引に担ぎ上げ、王城まで突っ走っていく。ラミアスはばたばた暴れたが、大陸最強クラスのウォーリアであるウィリアムの肉体はびくともしなかった。
●
「ウィル……ここは」
「僕の部屋さ」
「お、お兄様ー! ラミアス先生に一体何をー!?」
いよいよウィリアムがラミアスを征服しようとした時である。妹姫であるメアリーが事態に気付き、大声を出してしまった。ちなみにメアリー王女は頬を赤らめ、両手で顔を覆っているが、指の隙間はバッチリ開いていた。
「あ」
その瞬間、レタラは自分が本当は誰なのか思い出してしまった。俺は王子じゃない。ドゥジン作家レタラだ。
(外見こそ王子とはいえ、自身がCPに絡むのは解釈違いだ。どうすれば……)
「どうしたんです。ウィル。僕を猫のように鳴かせてくれるんじゃないかったんですか……」
レタラの困惑とは裏腹に、目の前のラミアスはどこか恥じらいながら己を見つめている。メアリー王女の教育上大変よろしくない光景である。
(ドゥジン神よ、教えてくれ! 俺はどうすれば!?)
「ハッ! ゆ、夢か……。やけにリアルだった気がする……」
汗をびっしょりかき、レタラは目を覚ました。だが転んでもタダでは起きない男は「次の新刊は決まりだな」と夢の内容を記録し始めるのだった。
●楽しい夢の終わり
「なんだか、変な夢を見たような気がするなぁ。俺がウィリアム王子になってたような……」
初夢から目覚めたパヴェル・A・サムルガチェフは身を起こし、頭を掻いた。ウィリアム王子が強く関係した夢だったことは確かだが、細かい内容は早くも忘れそうになっている。だが、別に問題ないだろう。夢とは元々そういうものだ。
「今度ギルドに顔出したら、他の連中と初夢の話でもするかぁ」
年始であっても、冒険者の仕事はなくならない。また何か依頼がギルドに持ち込まれているだろう。愉快な夢を見た冒険者達は、また日常へと回帰していくのであった。
マスターコメント
皆さんやりたい放題ですね! ゴキゲンなプレイングをありがとうございました。皆様もお楽しみ頂ければ幸いです!
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:標準14 / 4〜50人
2023年01月11日 13時44分17秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
同人作家、ギーゼラです。よろしくお願いします。 推しカプは王子×殿下です。同志も歓迎ですよぉ! フフフフフ、ウィリアム王子になれるなんて最高じゃないですか! 公式で推しカプを再現出来ると言う事ですよねぇ!? 部下に命じて今すぐ指輪とウエディングドレスの用意を! レイウェスト殿下に本気のプロポーズを決めにいきますよぉ! 最高の口説き文句を考えなくちゃ!唸れ僕の妄想力(腐)!!
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。出発は明日の朝8時となります。どうか皆様、良い夢を。
申し訳ありません。先程のグリゼルダのアナウンスは誤報でした。出発は明後日(日曜日)の朝8時です。