【鬼哭】羊が1匹、羊が2匹……

そうすけ

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シナリオID:2571

オープニング

●
 実りの秋を象徴するかのような黄色に染まる平原に、白い点が散っている。ある点はゆっくりと移動し、ある点は微動だにしない。
 白い点の正体は羊だ。
 サボタージュを起こした不平分子ゴブリンたちによって、彼らは壊された柵から平原へと放たれ、残り少なくなった草を頬張っていた。冬になれば干した草ばかり食べることになる。彼らにとっては、この年最後の晩餐……というのは言い過ぎだろうか。
 そのためかどうか分らないが、羊を捕まえようとすると目を釣りあげて頭突きをかましてきたり、一目散に逃げ出したりする。
 絶対に戻らない、と決めているかのように……。
 情報屋のラズリーが腰に手をあてて怒鳴る。
「全部で60匹、急いで連れもどしてきて!」
 ほんの少し緩やかな高低はあるものの、辺りに視界を遮るものはなく、見渡す限りの大草原が広がっている。その向こうに、蒼い影のような森の一部が見えていた。
「森には狼がおる。あの中に迷い込んだら喰われてまう。そうなる前に、捕まえるんや」
 迷惑をかけた不平分子ゴブリンはすでに捕まえられていて、飼育舎で縄に繋がれているから心置きなく羊を追うことができる。
 ちなみに破壊工作を行ったゴブリンは、開拓者としてやってきたこの牧場の従業員だ。
「あ、そや」
 ラズリーの声が、平原に向かって歩み始めた授恵者たちの足を止めた。
「1人か2人、柵を直すの手伝ってくれてもええねんで。お昼ご飯の用意もせなあかんしな」
 と、この牧場の主だろうか、胸や腹に蹄や頭突きの跡をつけた年配の夫婦がそろって頭をさげた。
「みなさん、どうかよろしくお願いします」

解説

●成功条件 日没まで(5時間以内)に逃げ出した羊60匹を捕まえ、柵を直した牧場に連れもどす。 ●以下のお仕事タグのいずれかをプレイングの冒頭に必ず記載してください。 グループタグはその後ろにつけてください。 お仕事タグは1つのみとします。「柵の修理をしてから羊確保へ」といったプレイングはどちらか一方のみの描写になります。 なお、羊を全部連れもどしたあとの夕食シーンは、少しずつですが全員描写します。 ・【羊の捕獲】※最低6人必要。 羊を捕まえて牧場に戻すお仕事。 1頭づつ捕まえてもよし、囲って一気に追い立ててもよし。 ただし、すんなりと捕まってはくれません。時間がたてばたつほど、羊たちは森へ森へと近づいていきます。 ・【柵の修理】 壊された柵を直すお仕事。誰もいなければラズリーが直します(ただし、ヘタクソ)。 結構、広範囲にわたって壊されています。杭打ちから必要な場所も。 ・【食事の用意】 牧場主の妻とともに仲間たちの夕食を作るお仕事。 新鮮なチーズと牛乳、お肉(牧場には牛と豚もいます)、ジャガイモはたくさんあります。 ・【その他】 本依頼の内容からあまりかけ離れた内容のものは描写されません。 こちらで他のお仕事に振り分けます。 この場合も、やることは1つに絞ってください。  採用されない例)どれもつまらない仕事なので、サボって村の酒場へ飲みに行く。  採用される 例)牧場のお手伝い。干し草を束ねて倉庫の中に積む。

マスターより

よろしければご参加ください。 お待ちしております。

リプレイ

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 壊された柵の向こう、ゆるやかにうねる草原に放たれた羊がはぐれ雲のように配されている。その彼方に赤く紅葉したカエデの森が広がっていた。
 スィーリーンは羊の捕獲に向かう仲間たちを見送ると、皮で作られた作業手袋をはめて、切り倒された太い杭の残りを地面からを引き抜きにかかった。
「また羊が逃げ出さないように、柵をきちんと直さないと」
 羊牧場の柵は、害獣が体当たりしても壊れないように頑丈な作りになっている。これを直すのはかなりの重労働だ。新しい杭を打ち込んだ後は、板を打ちつけていかなくてはならない。
 力を込めて杭を引き抜ぬく。シャベルで杭の周りを掘ればもっと楽に引き抜けるのだが、そんなことをすれば地面が緩くなってしまい、次に打ち込んだときにちゃんと立たなくなるだろう。
 一緒に修繕作業をするラズリーと牧場主が、新しい杭と板を運んできた。
「スィーリーンが手伝ってくれて助かるわ。こんなんウチ1人でやってたら、いつまでたっても終わらんで」
 壊された個所は広範囲に及ぶ。
 スィーリーンは杭うち用の大槌を手に取った。
「木工は得意ですから、任せてください。早く直してしまいましょう。夕飯前に終われば、私も羊の連れ戻しを手伝えますし」
 そこへベルク・オスマットが愛馬ベルク=タークに跨ってやってきた。
「いまからですか、ベルク様?」
「ああ。羊を逃がした馬鹿者にひとこと言いたくてね」
 ベルクは飼育舎へ顔を向けた。
 柵を壊したのは開拓者としてやってきたゴブリンで、この牧場の従業員だった。いまは縛られて飼育舎の隅に転がされている。
「帝国で家畜を逃がしただと、普通なら万死値する大罪だって言ってやったんだ」
「それで、なんて?」とラズリー。
「まるで先祖返りしたみたいにゴブ、ゴブーとしか言わない。ふざけた野郎だ、本来であれば厳重な処罰を望むところだが、帝国の忠実な家臣としては皇子の意に添わねばならん。よってひと言チクリと言うだけにとどめておいた」
 では、とスィーリーンたちにいって、ベルクはベルク=タークの腹を蹴った。
 ある程度の塊になっている羊たちに目をつけて近づき、危険な狼や熊がいる森から逸らすように牧場へ誘導する。牧羊犬と一緒ならもっとはやく連れもどせるだろうが、生憎エーテルリンクは持ち合わせていない。
(まあ、いくらでもやり様はある)
 群れから離れて森に向かおうとする羊には、前方に閃光弾を投げた。光に脅えた羊は、例外なくあわてて戻ってきた。

●
「行け、大福」
 掛け声と同時に、大福が元気よく逃げる羊を追いかけていく。
 大福は白い毛に黒いブチがある狼だが、サイラスがもしかして、と勘ぐるほど犬っぽい。だからか、羊たちは大福を見ても逃げ出したりしなかったのだが……。
 荷馬車から降ろした藁に魅かれて集まってきた羊たちは、サイラスが動物交感を試みようと近づいた途端、バラバラになって走りだした。
「まさか、おれを怖がった? うーん。牧場に帰ろうって伝えようとしたただけなんだがなぁ」
 羊は臆病だ。体の大きなサイラスに威圧されたように感じたのかもしれない。
 大福が走り回って羊たちを一か所に集めた。
「大福、羊たちの一番後ろから追い立ててくれ。おれが藁で牧場までの道筋を作る。道からそれる奴がいたら知らせてくれよ」
 牧場に戻ったら大福に美味いものを食べさせてやらねば。
 サイラスは後ろ板を外してから荷馬車の乗ると、馬に鞭を入れた。ゴトゴトと走りだした荷馬車から藁が少しずつ落ちていく。
 気づいた羊が1頭、また1頭と落ちた藁を食みつつ荷馬車を追う。
 牧場に戻る途中でナハティガル=ラーの姿をみつけたサイラスは、荷馬車の上から手を振った。
「やあ、サイラス。何頭連れている?」
「7頭だ。森の手前でオスマットが6頭ほど追っている。ラーはどれを狙ってるんだ?」
「右手のやつ。森の前に9頭いる。一頭だけ群れから離れて草を食んでいるやつを入れると10頭だ」
 ここから羊の群れなんて見えないぞ、というサイラスにナハティガルは笑って答えた。
「空から見ていたんだ。遠回りして近づき、森側から狼になりきってはぐれ羊を追いたてようと思う。そいつが鳴きながら走りだせば、ほかの羊も一緒になって走ってくれるだろう」
 ナハティガルは荷馬車を見送ると、ゆるりとした足取りで目当ての群れを大きく迂回し、一旦森に入った。
 光と陰が程よく混ざる森の縁で狼の遠吠えを出来るだけ真似し、銀の髪をたてがみよろしくなびかせて疾走した。狙うははぐれ羊だ。
 危険を察知したはぐれ羊は、ナハティガルの姿を見るなり甲高い鳴き声を秋空に響かせた。次の瞬間、少し離れた場所にいた群れと一緒になって、牧場へ駆け戻っていく。
 羊が破れた柵から牧場の中に入ったことを確認してから、擬態を解いた。
 「1頭の羊を捕獲するよりも、100頭の羊を捕獲する方が容易いと言うが――ふむ、非常によく考えられているな。さて、戻って別の……」
 羊を枕にして草原に寝そべるファーシル・クリスティアの姿が目に入り、歩み寄る。
「あ、ラーさん!」
「何をしてるんだ?」
「空をみています。あそこにも羊がいるなぁ、どうやって捕まえようって考えていました」
 言われて見あげると、秋の終わりにあってまだまだ青が深い空を羊のごとくもこもこした綿雲がのんびり流れている。
 ファーシルは見つけた羊を片っ端から追いかけ回し、力に任せて抱き上げ、思う存分もふりながら牧場に連れもどすを繰り返していた。5往復したところで疲れ、この人懐っこい羊を枕に休んでいたらしい。
 さすがに空のアレは捕まえられないな、と言われて、ファーシルはむくりと体を起こした。体から重みが獲れた羊がメーと鳴く。
「そうですね。でもあるいはお師匠様なら……いえ、なんでもありません。独り言です」
 背中やお尻についた草を払い落す。
「日が傾いてきましたね。夜までに逃げた羊を集めないと狼さんに食べられちゃいます。ラーさん、よかったらわたしと一緒に羊を捕まえませんか?」
 いいだろうの一言にファーシルは破顔した。
「頑張りましょう! えいえいおうー!」


●
 ストレガ・L・リベルガストラは、思わずと言った感じで涙を流した牧場主の妻を飼育舎の外へ連れだした。
 ゴブゴブという声だけが、飼育舎の中から2人を追いかける。
「突然、ああなってしまって。いい子だったのに……」
 ストレガはジャガイモをたくさん入れたカゴを、右手に持ち替えた。
 今のところ理由はわかっていないが、どうも事件に作為的なものを感じる。牧場主が邪魔だと思うなら、ゴールディーに連れ帰ってもいいが……。
「同胞達について調査中だが、きっと正気でないのだろう。迷惑をかけるが落ち着くまでこのままにしておいてほしいのだ」
「彼はもとに戻りますか?」
  ストレガは断言を避けた。
「私には同胞たちが理由もなく暴れているとはとても思えないのだ。案外、美味しいものを食べると落ち着くかもしれないのだ」
  ストレガは夫人とともに広々とした牧場の台所で、みんなのために夕食を作り始めた。まず、大量に持ってきたジャガイモの皮をむいて刻む。
 油を引いたフライパンに切ったジャガイモを敷き詰めて、刻んだ肉とチーズを乗せ、塩胡椒で味付けた。その上に切ったジャガイモで蓋をすれば、ジャガイモとチーズのミルフィーユ焼きの完成だ。食べる時に切り分けて、トマトソースをかけて食べる。
「クリームスープもいい匂いがしてきたのだ。肉はみんなが戻ってきてから焼くのだ」
 
●
「いいですかワライタケさん、いきますよ」
 オゴスは肺に空気を入れると、声帯模写を活用してトラの吠え声を発した。この付近にトラが生息しているか不明だが、サウンドボマーで増幅させた猛獣の声は羊たちを怯えさせてくれるだろう。
 第一声後、すぐさまワライタケが木蔭から飛び出した。羊たちの尻を猛然と追う。
 ――と、1頭の羊がくるりと体を回してワライタケと向き合った。頭突きをしかけるつもりらしい。
「いかん。いま助けに行きます!」
 オゴスは慌てて森の縁を出た。
 ワライタケはさっと頭突きを避けると羊とにらみ合った。そのままじりじりと視線で威嚇して下がらせていく。
 そこへトラの声で吼えるオゴスがやってくると、羊はあわてて尻を向け、先に行った仲間たちのあとを追った。
「ふう……。怪我はありませんか?」
 声をかけると、ワライタケはオゴスの足にぴったりと自分の頭や体をくっつけてきた。
 あたりに人目がないことを確認してその場にしゃがみ、ワライタケの頭をわしわしとなでる。
「おーよしよし! 利口だな!」
 同刻、ワライタケとエーテルリンク中のテテリカは思わず身をよじらせた。
(かまってくれるのはありがたいが……)
 触覚こそ共有されないが、ワライタケが目じりを下げたオゴスに撫でまわされているのは視覚と聴覚でわかる。わかるからこそ少々落ち着かない。
 オゴスに追われて駆けてきた羊が群れに加わったところで、テテリカは羊たち触れ、動物交感をしながら声をかけた。
「これでわかっただろ。森は危険で牧場は安全ということが」
 羊の群れを落ち着かせている間も、エーテルリンクで繋がったワライタケに指示を与えてオゴスをサポートする。
 吹き渡る秋の風がずいぶん冷たくなってきた。空へ顔を向けて、日が傾き始めていることに気づく。
「ずいぶん日が短いな。北国だからか」
 おーい、という元気な声に首を戻すと、袖に隠れた手を振るギャメルの姿が見えた。
 突然、メスの羊がメ―メ―鳴きだした。
 体の大きな牧場主から借りたウールのセーターは、裾がギャメルのひざ下まである。白くてモコモコしたセーターを着るギャメルが子羊めいて見えるため、迷子の子羊がきたと勘違いしたのだろう。
「無事、牧場に送り届けてきたぜ。このセーターのおかげか、羊たちが大人しくついて来てくるんだ。コイツらも任せてくれ」
「よろしく。俺はこの場で待機し、新たな羊の到着に備える」
 テテリカから羊の群れを引き継いだギャメルは、牧場に向かって歩きだした。
 ギャメルの周りを母性本能を刺激されたメスの羊たちを囲む。森から出てきた大きな緑色の猛獣たちから守ってやろうとして。
 当のギャメルはそんなこととは露知らず、今度も羊たちが怖がって身を寄せてきたのだと思っていた。
 安心させてやろうと、もこもこの毛を優しくなでる。
「怖かったかー? もう大丈夫だぜ。安全な場所に帰ろうなー」

●
 海神 江流(ウミガミ エル)はカイン・ステラとともに紅葉する木々の下にいた。のんびりと草を食む羊の群れを背に、森の中を覗いている。
「カイン、本当に狼がいると思うかい?」
「さあな。だが、魔獣がいてもおかしくないぞ」
 それは物騒だな、とつぶやいて江流は頭に落ちたカエデの葉を手で払った。
「あれとか?」
 江流が指さす先で、1匹のリスが樹に垂れる蜂蜜を舐めていた。カインが苦笑いで受ける。
「あれは違うだろう。確かめてみてもいいが、そろそろ羊を追わないと。シルヴィアが退屈して待っているぞ」
「羊を上手く誘導したら、ちょっと樹液を集めてみるか。リベルガストラさんに渡したら、それでお菓子を作ってくれるかもしれない」
 カインはホークアイを使って、再度群れの位置と構成を確認した。
「あの顔の黒くて大きな羊、あれがボスじゃないかと思う。俺はまずアレを落とすことにしよう」
 先に出るといって、カインはのんびりとした足取りで群れのリーダーらしき羊に近づいて、モコモコした尻に手を置いた。
「よう、大将、帰った方がいいぜ。冬になる前に飯を食いてぇのは大将達だけじゃねぇぞ」
 一拍置いて、ボス羊がゆっくりと頭をカインに向けた。少しさがってから、闘牛よろしく後ろ足で草を蹴り上げる。
「交渉決裂、か」
 カインは背の後に手を回すと、あらかじめ決めておいたハンドサインを江流に出した。
 江流が大声をだしながら、疾風足を使って羊たちに次々と触れていく。
「これから冬だし、厩舎にいた方が暖かいし、外には餌になる草も少ないし雪が降ったら大変だ。何より森の狼に襲われるかもしれないから、帰ろう?」
 羊たちがバラバラになって走り出した。逃げ出したわけではなく、江流をからかうように四方からモフモフした体をこすりつけてくる。
 江流は笑いながら羊たちに動物交感で語り掛け、少しずつ、少しずつ、シルヴィア・A・カペルがいる方へ誘導していく。
 ちょっとした混乱の中で、ボス羊がカイン目掛けて駆けだした。
 腰を低くしたカインがドンと胸で頭突きを受け止める。
「よし、捕まえた。逃がさないからな」

 メエェェェ~。
 シルヴィアはころん、ころんと見事なでんぐり返りで転がっていく羊を追いかけた。ゆるい坂の終わりで止まった羊が、もう一度メェーと鳴き声をあげる。
  シルヴィアはうずくまる羊の傍に座ると、ふあふあした背を撫でた。顔を向けてきた羊の目を覗き込んで微笑む。
「ごめんよ。でも狼に食べられるよりは良いだろう?」
 羊はシルヴィアがかざした羊飼いの杖にじっと視線を注ぐ。杖頭がとてもユニークな杖だ。
 杖のフックのように曲がった部分で、カインと江流に追われてきた羊のうち、はぐれて行動しようとする羊の足を引っかけた。転ばせるつもりはなかったのだが……。
「メェェ~」
「おや、これが誰のものか解かったのかい? それはすごい。君は賢いな」
 羊は仲間の顔を覚えているという。羊以外の動物の顔も認識していて、人間の顔もわかるらしい。牧場主の顔やこの杖のことも覚えているのだろう。
「さて、落ち着いたところで戻ろうか。上でカインと江流、それに羊の仲間たちがまっているよ」
 シルヴィアは羊を連れて歩き出した。まるで仲の良いペットを連れた散歩のようにも見えるが、羊飼いの杖と動物交感を巧みに使って羊を誘導していた。

●
 暮れなやむ光の中に、新しくなった柵の内で寝転んで草を食む羊の影が長く伸びている。
 特に人なれして大人しい羊を何頭かに藁を与えて寝そべらせ、モフモフのソファーの背にしたのだ。それにウールのひざ掛けと焚き火があれば、寒さに震えることなく野外の食事を楽しめる。
「さあ、たくさん食べるのだ!!」
 ストレガと牧場主、そしてその妻が食事を運んできた。
 カインも料理の取り分けを手伝う。
「どれも美味そうだな。あ、そうだ江流。あれをストレガに」
「ああ、そうだ。忘れてた」
「なんなのだ」
 江流は腰に下げていた革袋を外すと、笑顔でストレガに手渡した。横からシルヴィアが中身について説明する。
「森の木から取ってきた蜂蜜だよ。羊を戻してから、3人で急いで採りに行ったんだ」
「リスがおいしそうに舐めていたんだ」
 そういえばあの辺に大きなハチの巣がありましたね、と牧場主。
「小麦粉とバター、それに卵もあるのだ。この蜜を使ってお菓子を焼くとするのだ」
「やった。採ってきた甲斐があったぜ」
「食後の楽しみが増えた」とシルヴィアも喜ぶ。
 カインはストレガに料理のレシピを教えてくれ、と頼み込んだ。
「とくにこのミルフィーユ焼きのレシピが知りたい」
「ほんま美味しそうやな、うちもレシピ教えて」
 ラズリーはナイフを手に取った。
「ナハティの分、うちが切り分けたる。はい、どうぞ!」
 ナハティガルはラズリ―から、ジャガイモとチーズのミルフィーユ焼きを盛った皿を受け取った。
 熱々を手で掴んで頬張れば、サクッとしたポテトの食感とやわらかなチーズが舌の上に蕩けていく。
「成程、流石に美味いな。普段食ってるチーズや肉とは鮮度が違う……ような気がする」
 もう一度美味いとしみじみ呟いて、ナハティガルはミルフィーユ焼きをかみしめた。
 スィーリーンは椀を受け取ると、こわごわと羊の背もたれに体をあずけた。
「あったかい……」
 羊の体から感じる温もりが、大工仕事でかたくなった背中をほぐしていくようだ。顔に微かにあたるクリームシチューの湯気もなぜか嬉しい。
  手にパンとシチューの椀を持ったファーシルがやってきて、隣に座った。羊に背を預けて顔を空へ向ける。
「わぁ、スィーリーンさん見てください。星が出てますよ。うーん、羊さんはどこかにいますかねぇ」
「ええっと、あれなんか羊に見えませんか。ほら、あの星とあの星をこう繋いで……」
 しばらく2人で、夜空の星を指さしながら、ああだ、こうだといいながら羊の星座を作っていた。
「あー、楽しい。羊さんのほかにもたくさん動物が作れました。さあ、シチューが冷めきってしまわないうちに食べましょう」
 ファーシルは膝の上にウールのひざ掛けを広げた。その上に椀をおき、ちぎったパンを浸して食べる。「美味しいです。お師匠さんにいっぱいお土産ばなしができました」
 はやく食べさせて、としきりにせがむ大福を連れたサイラスが2人の前を通りかかった。
「それはよかったな、ファーシル。スィーリーン、柵を見せてもらった。じつに丁寧な仕上がりだ」
「「ありがとうございます」」
 可憐にハモッた声を聴いて、サイラスは焚火の傍へ大福を連れて行った。
「まてまて、あわてるな。よーく冷ましてからな」
「横、いいか?」
 ギャメルが声をかけてきた。焚火の近くで寝ている3匹の羊を指さしている。
「いいぜ。3人で使ってくれ。オレと大福は焚き火のそばがいい」
 オゴスとワライタケを連れたテテリカもやってきて、それぞれ羊に背を預けた。
 テテリカはワライタケに生肉を与え、肉を刺した串を焚き火周りに立てた。
 よく火が当たるように串の角度を調整しだしたオゴスの横顔を、微妙な目で見る。
「ん? なんだテテリカ。オゴスとなんかあったのかよ?」
 テテリカの気づまりを察してたギャメルが、羊にもたれかかりながら問いかけた。
 オゴスも、「え、俺? なにかしましたか?」と聞く。
「うっかり忘れたのか。リンク中の獣が見聞きしたことはシューターに筒抜けだぞ」
「あ……。す、すみませんでした」
 ギャメルはなぜオゴスが謝ったのか訳が分からず、ワライタケに目で問いかけた。が、さっぱりわからない。
 ちぇ、なんだよと横むいて、飼育舎から出てくるベルクを見つけた。
「ベルク=タークに餌をやっていたのか?」
「それもあるが、料理を食べさせてやるついでにここの柵を壊したヤツとまた話をしてみた」
「どうして柵を壊して羊を逃がしたのか、ワケを言いましたか?」
 ベルクはオゴスの問いに首を横にふって答えた。
「ゴブゴブいいながら、バターを乗せた熱々のジャガイモを手づかみして火傷したよ。まるで樹海の奥からでてきた古ゴブリンみたいだった」
 マジか、と絶句したギャメルに、テテリカは暗い目を向けた。
「……このままゴブリン狂暴化が続けば、樹海観光は廃れてしまうかもしれない」
 串を回していたオゴスの手が止まった。
 話を聞いているうちに、いつか自分も……と不安になったのだ。
 オゴスの内心の動揺を悟ったギャメルが、シチューのジャガイモをフォークで刺しながら明るく元気に宣言した。
「心配いらねぇよ。オレがなんとかしてみせる!」
「頼もしいな」とベルク。
「では、たくさん食べて英気を養うとしよう」
 
 授恵者たちは羊にもたれ、じゅうじゅうしたたる肉汁と美しい焚き火とのコラボレーション、やさしい湯気をあげるシチューとミルフィーユ焼を楽しんだ。

マスターコメント

お待たせいたしました。 羊の連れもどしと柵の修繕、お疲れさまです。 思う存分羊をもふりながら、みんなで美味しい食事を頂きました。 描写はありませんが、急遽焼かれたお菓子は蜂蜜入りのフェナンシェです。 暴れて捕まった牧場のゴブリンは、しばらく牧場で預かってもらえるようです。 彼が元の真面目で優しい青年にもどれるかは、みなさんの次なる活躍次第となるでしょう。 ご参加ありがとうございました。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準12 / 6〜25人

2022年11月29日 17時35分09秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。 出発直前での顔出しとなってしまい申し訳ない。 俺は【羊の捕獲】に回るつもりだ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0