【豊穣】秋色の鬼ごっこ祭!
菊華 伴
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シナリオID:2549
オープニング
●さぁ、お祭りを楽しもう!
ここは、帝国南部にある村、『カシュカシュ』。
元メドゥの指先構成員の子供達は、冒険者達と共にそこを訪れていた。ここは不作だった為、食糧問題が発生していた。
「今日は、ここで『豊穣の雫』を使う儀式を行う」
子供達を引率した帝国兵のユジンが、子ども達の前で穏やかに言った。彼の隣には、白い鱗を持つリザードマンの少年、ブリザラが緊張気味に立っている。
「そういえば儀式って何をするの?」
子供たちの中からそんな声があがる。と、ユジンとブリザラの間に立っていたレビジュがロバ耳を揺らしながら「それじゃ説明するよー」と声を上げた。
儀式自体は簡単で、ブリザラが祈りを捧げればよいらしい。
だが、それだけでは面白くない、と今回はちょっとしたイベントも行うという。それが、「豊穣祈願のおにごっこ大会!!」だった。
逃げるのは大人たちで、鬼はおばけなど仮装した子供たち。
鬼は「テリーズ・トラ・トリュース!」と叫びながら大人にタッチ。捕まった大人はお菓子を渡すことで見逃してもらえる。だが、お菓子がなくなったら……?
「こちょこちょして、牢屋にいれちゃうよ!」
と、レビジュは藁で作った家を複数見せる。
元々このあたりでは豊穣祈願のためにこうした藁の家を作り、子供がお化けに変装し、神様を笑わせる為に、大人を少しの間その中に閉じ込める……という風習があったという。それを活かし今回のイベントに繋げたらしい。
「冒険者さんと俺も逃げるからな。みんな頑張って捕まえるんだぞ!」
ユジンの言葉に、子ども達は皆元気に声を上げた。
仮装する子供は彼らだけでなく今回儀式する村の子供達も含まれる。冒険者達はケガさせぬよう気をつけようと頷き合った。
『豊穣祈願の鬼ごっこ大会』が終われば、『豊穣の雫』を使ってブリザラが儀式をする。それが終わったら村の人達と一緒に宴会の時間だ。村の人たちが浄化をしてくれる能力者や冒険者たちを持て成す為、腕によりをかけてご馳走を作ってくれたらしい。「前にここの人々に世話になったから」と、とある商人が食材を提供してくれたおかげだそうな。
今回は任務ではある物の、元『メドゥの指先』の子供達をごく普通の暮らしに慣らす訓練の一面もあるらしい。
「地域の人たちと触れ合う事で、あの子達の成長に繋がればいいんだけどな」
ユジンは穏やかな眼差しでそう言った。
「……レイウェストさんやバルディオンさん、忙しそうだよね?」
ふと、レビジュがユジンに問う。
「確かにな。あの方々も忙しいからな」
ユジンの言葉に頷き、レビジュは少し寂し気に「二人とも、少しはゆっくり休んでこういうお祭りが楽しめたらいいのに……」と呟いた。ユジンは「せめて手紙とか届けられたら……」とレビジュが更に呟いたのを聞き、上官に相談してみようと身を翻したその時。何人かの子供達がこっそりとやって来た。
「あのね。最近レビジュ兄ちゃん元気ないの」
そういえば、かつての仲間と遭遇したと、ユジンも聞いている。それが影響しているのかもしれない、と彼はなんとなく考え……冒険者たちに言う。
「あいつ、確かにちょっと元気ないかもな。……気が向いたら、話を聞いてやってくれ。俺だと遠慮されちまう」
休ませている畑を舞台に行われる、秋のちょっとしたお祭り。君もちょっと遊びに行ってみてはどうだろうか?
解説
みなさーん! テリーズ・トラ・トリュース!
今回は『豊穣の雫』を使った儀式を行うにあたり、『収穫祭』も行います!
皆さんで思いっきり楽しみましょう!!
今回は次の中から1つ選び行動を書いてください。
※複数選ぶと登場シーンが極端に少なくなる可能性があります。ご了承ください。
1)豊穣祈願の鬼ごっこ大会に参加する
村の人々やレビジュたちと一緒に鬼ごっこ大会に参加します。
お化けなどの仮装をした子供達が鬼をやりますので、お菓子を用意して捕まったらお菓子をあげましょう。ただし、お菓子がなくなったら藁の小屋に入れられちゃいます!
※可能であれば閉じ込められる役の人も欲しいです
※スキル使用は極力お控えください。ただし『怪我した子供にヒール』ぐらいはOKです。
※ちなみにレビジュは追われる役、ブリザラは鬼役で参加します
PL情報
年齢が15歳未満の冒険者は仮装して鬼役をやる事ができます。ご希望の方は「鬼役」と必ず記載してください。
2)儀式の後の宴会を楽しむ。
ブリザラが祈りを捧げ、『豊穣の雫』を使用した後は、皆で宴会をします。
今回はとある商人が提供してくれた食材を使い、村の人達がご馳走を用意してくれます(味は極上です)。お酒もふるまわれますが、子どもの皆さんは美味しいコケモモのジュースで楽しみましょう。
※なにか演奏したい人等大歓迎です。
※ユジンは子供たちの世話を中心に行っています。
おまけミッション
ちょっと元気がないレビジュと話し、元気づけてくれる方募集。
(こちらは余裕がある方のみで。成功、失敗には関係しません)
登場NPC
レビジュ・バトー
元『メドゥの指先』構成員の子供達の纏め役をやっている。特に幼い子たちに気を配りつつ町の人も楽しませたい。その一方、レイウェストやバルディオンが休めているか気がかりだったり、ちょっと元気がなかったり。
ブリザラ・ヒャダル
レビジュの弟分。『エーテル浄化』能力者。今回は儀式を頑張る。だいぶコツを掴んできたらしい。その一方、仲間たちが楽しめるよう気を使う予定。大分性格が丸くなった。
ユジン
新米帝国兵で、今回はブリザラの派遣や子供たちの護衛を担当している。お酒を飲まないで子供の面倒に専念したいらしい。
それでは、よろしくお願いします。
皆で楽しいお祭りにしましょう!!
マスターより
どうも、菊華です。
今回は豊作祈願の鬼ごっこ。みんなでワイワイ遊んだら美味しいご馳走が待っています。みなさんふるってご参加くださいませ!
レビジュ「皆で楽しもうね! 待ってるよ~!」
リプレイ
●賑やかに跳ねまわれ!
帝国南部・カシュカシュ。
元『メドゥの指先』構成員の子供達の内、半数以上は子供である。レビジュ・バトーは、メンバーの中で鬼役になれる子供達と村の子供たちを集め注意事項を話していた。
その様子を逃げる役となった冒険者達が見つめている。
「ねぇ、思ったんだけどさ~、僕の大きさなら追いかける方でもよくない? やっぱりダメ?」
そう問いかけるのは、ハーフリングのアドルフ・ジーノ。だが、問われた獅子のハーフビースト、ユジンはジト目でアドルフを見つめた。
「ダメに決まってるだろ。アンタ、直感だけど18か19ぐらいだと思うし」
「そっかぁ」
苦笑するアドルフを「まぁまぁ」と窘めるのはキリアン・フィッツジェラルド。彼は穏やかに微笑んで用意したお菓子を見せた。
「がんばって捕まえに来た子にご褒美を用意しましたし、これはこれで楽しいとおもいますよ」
「そうだね! キリアンお兄さんとマオお兄さんも一緒だし、楽しもう!」
「うん! おもいっきり楽しもう!」
気を取り直したアドルフに名を呼ばれ、カミンル・マオが顔を上げる。彼がにこやかに頷き微笑めばキリアンとアドルフも釣られて笑顔になっていた。
そんな風に【星灯】の3人が話しているうちに、鬼ごっこ大会の時間は迫っていくのだった。
大きなスペースの向こう、藁で出来た幾つもの家が並んでいる。そして、鬼役となった子供達が仮装をし、わくわくとした表情で大人たちを囲んでいた。
「孤児院の子たちを思い出しますね」
そう言ったのはシルク・メイプルリーフ。彼女はおっとりと笑みをこぼしながら「ちゃんとうまく捕まってあけないと……」と考えていた。
大半の冒険者達はそうかもしれない。だが、サイラスとベルク・オスマットはただならぬ気配を漂わせていた。それに気づき、シルクは「あら……?」と首をかしげる。
「そろそろか」「そろそろだな」
サイラスとベルクは頷き合う。
「では逃げに専念した時の大人気なさを見せてしんぜようか」
「あぁ。大人気ないという言葉はな、大人がやるから存在するのだよ?」
とドヤ顔を披露している。思わず「あら~……」と何と言えばいいか迷うシルク。そして彼女の傍らでは少し顔を真っ赤にしたホムンクルスの少女の姿がった。ベルクの妹、ヤウズ・オスマットである。
「お、お姉ちゃん……ホントにやる心算なの?」
身内の大人げない言葉が恥ずかしかったらしい。ヤウズは、子ども達が楽しめるようにフォローしようと考えた。シルクは、慈愛に満ちた笑顔で肩をぽん、と叩く。
「お二人とも、楽しそうですねぇ。私たちもがんばりましょうね」
「えぇ、子ども達を楽しませましょう」
ヤウズは、シルクのやんわりした笑顔にフォローされながらも、小さく微笑んだ。
閑人休話。
「それじゃあ、10数えるよ~! 冒険者さん達は逃げてねー!」
レビジュが声を上げ、子ども達が元気に数を数え始める。付き添いできた帝国兵や村の大人たち数名が逃げる範囲を囲む。冒険者達はその広場に散らばり、カウントが終わるのを待つ。
「きゅう、じゅう! さあ、追いかけよう!!」
レビジュもまた広場の中ほどへとやってきて子供達を誘う。……と、そこに突撃するハーフリングのお姉さん。もといRe:Lee。
「ほらみんなー! レビジュお兄ちゃんはこっちだよ~!!」
と叫びながら走ってくるではないか! これには「はぁ?!」と面食らうレビジュ。自慢の足で逃げるのだがRe:Leeがにっこり笑う。
「サイドから回り込め! 逃げ道を塞げ! レビジュの逃げ足の速さは知ってるからね~! いっけぇ!!」
とまるで引率の先生のような感じで子供達を誘導する。彼が持つお菓子を空にするつもりか! というぐらいである。
「ちょっと! ちょっとこれどういう??」
「問答無用!!」
逃げるレビジュと追うRe:Lee&子供達。そうこうしているうちに、少し曇っているように見えた少年の顔が、Re:Leeには、元気になっていくような気がしていた。
少し離れた場所では、ファーシル・クリスティアが華麗な足捌きで走っていた。子供達が楽し気に追いかけるが、銀の髪を靡かせるファーシルをなかなか捕まえられない。
(少し手加減が必要ですわね)
ファーシルが少しだけ速度を落とすと、お化けの仮装をした幼子が、「捕まえたー!」と満面の笑みを浮かべた。
話を聞いた時は「子供達から逃げればいいのですね?」と頷いた彼女。そこで閃いたのが、彼女が会得している流派の動きだったらしい。
「このステップで指一本触れさせませんわっ!」
「ちょっと待つさぁ! 今回は子供達を楽しませる事が優先だから、普通でいいよ♪」
タンマをかけたのはフリューリングスルフト=ティエラ(以下、フリューと表記)。傍らのシャルロット・エクレールもまた、頷いている。
「なら、引き離さない程度に逃げて……がいいでしょうか?」
「その方がいいかもしれませんね」
シャルロットも頷き、3人で子供達を楽しませようと頷き合った。
今も、ファーシルから少し離れた場所を二人が楽し気に走っている。
「我こそは赤翼の魔女、シャルよ! 捕まえてごらんなさい!」
「赤翼一番風のフリューとイュンさぁ!うちらを捕まえられるかなぁ?」
青い瞳をキラキラさせ、程よい速さとオーバーリアクションを見せれば子供達もいい笑顔で追いかける。そして捕まると、シャルロットは愛らしいウサギの足跡模様のトフィを上げるのだった。モデルはフリューがつれている兎のイュンである。
その他、木の実や花を閉じ込めたフリューお手製べっ甲飴も一緒に配る。可愛いお菓子は特に女の子たちに好評なようだ。
また、捕まりそうになったフリューが連れてきたウサギを前に出し「くっ、イュン&尻尾もふもふ囮作戦!!」とするのも人気の秘訣で、特に小さな子たちはタッチを忘れイュンに夢中になる事も。
だが、大き目の子供達には捕まる。そしてお菓子を配っている間もふもふタイムとなる。実に平和な光景である。
「ん?」
フリューがお菓子を貰っていない子がいないか確認していると、サイラスが自慢げな顔で走っている姿が。だが、適度な早さである。それでも巧みな回避技術で楽しく子供達のアタックをかわしている。
「おおっと!」
「捕まえたー!」「テリーズ・トラ・トリュース!」
リザードマンの少女が果敢にもジャンプして捕まえる。と、彼は苦笑して『シェリーの詰め合わせ』から1つお菓子を放出する。その他にも手作りスイートポテトや大学芋、カボチャのお菓子等いろいろ持参しているようだ。
一つ渡したらさっ、と回避。それが特に年長の子達に受けていた。
「なるほど、なかなかだな」
なんていうベルクは……逃げ回っていた。元から鍛えた機動力などで逃げ回っていた。
「ハフリンのねーちゃんが言っていたみたいに囲め!」
「マジ強いぞこのねーちゃん!!」
12,3歳ぐらいの男の子たちがベルクを追いかけまくるが、ギリギリ追いつかない。その光景に少々恥ずかしくなりながらも、ヤウズは適度に捕まりそうで捕まらない速さを維持し、お菓子が中々ゲットできない子達に適度に捕まっていた。
「あのねーちゃんめちゃくちゃ早い」
「そ、そうね」
ため息を吐くハーフリングの少年に、ヤウズは少々顔が強張りながら頷いた。今だけは身内だとは言いづらい。
ベルクが捕まる気配はなく、一人、また一人と追う者が減っていく。後に残ったのは、あと2,3年もすれば成人の仲間入りだろうという年長の子が数名。
(本当に逃げ切るつもりかしら……)
ヤウズは少々嫌な予感を抱いていた。
「凄いな……」
そんなやり取りに苦笑しているレビジュは、走りながら他の参加者の様子も見ていた。やはり、村の子も、自分の仲間も楽しんで欲しいと願うからだ。
(古巣に居た頃は考えたことないや)
なんて振り返っていると、シルクと出くわした。彼女は「テリーズ・トラ・トリュース!」と言ってタッチする幼子に身を屈め、お菓子をあげていた。
レビジュが何気なく挨拶すると、彼女はふわりとした微笑みでこんなお誘いをしてみる。
「レビジュさんも1度一緒に捕まりつつお菓子配ってみませんか?」
「そうだねぇ。それが……」
それは良さそうだ、と思い頷こうとしたが、彼は忘れていた。今も子供達に追われていることを!
「今だー!!」「わああああ!!?」
慌てるレビジュにダイブし、捕まえるRe:Lee。それに倣う幼い子供達。ごろん、と草の上を転がれば、目が合って思わず笑いあう。つられてシルクもふふっ、と笑ってしまった。
レビジュとRe:Leeはお菓子をねだる子供達やシルクに助け起こされ、仲良く(?)3人で持っていたお菓子を分け与える。Re:Leeはそれとなく悪戯っ子の目になった。
「ところで、レビジュも逃げ切るつもりだったの~?」
「いや、さすがにそれは考えてなかったよ」
苦笑しながらレビジュが答えていると、三人が用意していたお菓子が底をついた。
「まぁ……! でも、子ども達みんな、嬉しそうでしたね」
「うん。なんだか僕も嬉しくなっちゃった」
シルクとレビジュがそんなことを話している間に、子供達は別の大人へと走っている。
「次捕まったらあっちだからね!」
Re:Leeが藁で出来た小屋を指させば、レビジュもまた慌てて逃げるのだった。
「ふふっ、いい笑顔ですね」
シルクも頷き、再び逃げるのだった。
あちこちで不作の声を聞いたトーラは、「せめて手が打てる所だけでも回復させたい」と考えていた。
(それに、人々の、特に子供の沈んだ顔はあの方も……)
トーラの脳裏に過ったのは、慕うあの方の曇った表情。彼女としてはやはり優しいあの方が心を痛める状況を変えたかった。
そんな彼女は準備段階から入り、コケモモのプチタルトを作っていた。そして……。
「さあ、捕まえられたら美味しいタルトが貰えますよー? こっちですよー」
と、藤篭にプチタルトを入れえて子供達の気を引く。子供達は甘い香りに釣られ、トーラを追いかけた。
適度な速さで追いかけられ、未だ誰も捕まえられず泣いてしまった年少の子の為にわざと捕まってみせる。
「捕まっちゃいましたね。では、このタルトをどうぞ!」
身を屈め、トーラがプチタルトを渡しているとカミンルとキリアン、アドルフの3人もまた適度に捕まり、お菓子を配っている姿が見えた。
「こっちにもありますよ~。他に貰っていない子はいないかな?」
カミンルがお菓子を配りながら子供達に確認する。その傍ではキリアンがお菓子を貰った子を見送っている。
「こっちは、持ってきたお菓子ほぼなくなりました」
「子供達、みんな足が速いよね」
アドルフが参ったというような顔でそう言えば、トーラと目が合った。
「そっちはどんな様子でしょうか?」
「まだタルトはありますよ。でも、油断できない状況です」
キリアンの問いに頷き、篭の中身を見せて答えるトーラ。アドルフは
「こっちはもうお菓子が殆どなくなった所だよ~」
と言いながらほぼ空になった袋を見せた。
4人が耳を澄ますと、ちらほらとお菓子がなくなったという声が聞こえる。そろそろ誰かが捕まってもおかしくないな、と顔を見合わせているうちに子供達が迫る。
「散開!」
「ほら、まだまだありますよ~!」
トーラがタルトで気を引いている間に、アドルフ達は別方向に走り出した。
●冒険者と藁の小屋
トーラ達が話している頃にはお菓子を持っていない冒険者もちらほら。そして、どこからともなく擽ったそうに笑う声。子供達に擽られるフリューである。
「捕まったさぁ~! シャル~たすけて~」
お菓子路を配り終えたフリューが子供達に捕まり、藁の小屋に連れていかれる。それを見たシャルロットがちょっとオーバーに振り返って見せる。
「ややっ!? 疾風のような私の相棒が捕まった!! いい子達、手を貸して! 助けに行こう~!」
そう言って駆け出せば、特に幼い子達がきゃっきゃっと笑いながら付いて行く。シャルロットの楽しい言動がなかなか追いつけない小さい子や上手く混ざれない子を誘っているようだ。
藁の小屋に連れていかれたフリューを、シャルロットと子供達が追う。そして藁の小屋からフリューを出し、子ども達へトフィやべっ甲飴をプレゼント。
そしてシャルロットが逆に藁の家へ。ある程度追いかけっこをしたのち、フリューも再び藁の小屋へ。
「ふふ、なかなか楽しかったさ~」
「そうですね。……後で、怪我した子がいたら治療しておきましょうか」
そんなことを言いながら、藁の小屋で仲良く休憩に入る。そしてこっそりお菓子を交換して微笑み合う。
「どこにいても想ってくれてありがと。おかげで私、寂しくないよ」
「ふふ、お互い様かもしれないさぁ?」
シャルロットの言葉に、フリューもにっこりと頷いた。
その頃、ファーシルも捕まっておりお菓子を渡そうとした。だが、既に入れていた容器は空っぽである。と、いう事は……?
「「こしょこしょだー」」
「きゃああっ?!」
と、こしょこしょされてしまい、藁の家へ。
「藁の小屋に閉じ込められてしまいましたわー!」
素朴だがちょっと暖かい藁の家。これに「うわぁ、藁! 藁の小屋ですよー!」とちょっとばかりテンションが上がっている。
「これはこれで、趣がありますね」
ファーシルが擽ったそうに微笑んでいると、その視線の先では【星灯】の3人が子供達に追われており、つい注目してしまう。
(あの3人もお菓子を全部配り終えまして?)
彼女は暫くアドルフ達の奮闘を見つめる。
(僕は、曲がりなりにも帝国の弓兵で鍛えられましたからそう簡単には……)
キリアンが袋の奥に残っていたお菓子を確認しつ走っている。彼らを追っているのは、10歳前後の子供達。そしてカバーするように年長者たちも近づいている。と、そこで、カミンルは頷いた。
(こうなったら……)
カミンルが走ってくる子供達の前に立ちはだかる。すぐさま擽られるカミンルだが
「ここは僕が囮に! 僕にかまわず行ってください!」
と笑いをこらえて叫ぶ。彼の行動が予想外だったキリアンとアドルフは思わす声を上げる。
「カミンルさん!?」
「ま、マオお兄さん……僕達の為に?! でも置いて行けないよっ」
「いいから行って下さい!!」
幼い子供達に、半ば引きずられるかの如く藁の家へ連行されるカミンル。二人は顔を見合わせる。
そうして、カミンルはファーシルのいる小屋へと入れられるのだった。
「残りのお菓子はこれだけですね」
アドルフが、袋の中からお菓子を取り出し、考える。キリアンもまた残っていたお菓子を集めながら呟いた。
「つまりは、僕が『囚われの姫君を救うナイト』という事ですかね?」
「そうかもしれない。あ、連れていかれるマオさん、なんか楽しそう?」
キリアンとアドルフは顔を見合わせると残っていたお菓子を手に頷き合うのだった。
「その大学芋やスイートポテト、カボチャのお菓子は甘い物好きが自分で楽しむ為に本気で作った菓子やぞ。まぁ、喉に詰まらせないようにな」
サイラスは手作りお菓子を放出し、藁の小屋へ連行されていた。その間もベルクが追いかけられている姿を見、「やるなぁ」と感心したりする。
サイラスが入れられた小屋はやや大きめ。そこでは既に先客のフリューとシャルロットが差し入れられたお茶を飲んでいた。
サイラスもお茶を貰い、「意外と楽しかったな」と振り返っていると……?
少しだけ時間を巻き戻し、ファーシルがいる小屋。カミンルもまた、子ども達に捕まりそこへ入れられた。彼は真剣にアドルフとキリアンの無事を祈っていたのだが……?
(もしかしたら、二人とも僕を心配して駆けつけてくれたりして。それで、僕は二人に『信じていたよ』なんて言って二人に駆け寄り抱きついて……)
こんな風に妄想に浸っていた。その様子にファーシルは不思議そうに見つめている。
「そして甘い言葉を投げかけられて……なんてたまんねーなぁ!!」
ふと漏れた声に「まぁ」と小さく声を上げるファーシル。窓代わりに掛けられた穴をみれば、サイラスが気まずそうに見ていた。
(みられちゃった)
でも、カミンルは気にしないことにした。
(まぁ、子ども達が喜んでいるならば……)
子供達に連行され、藁の小屋へ向かうトーラ。そこで彼女が見たのは、かき集めたお菓子で交渉するアドルフとキリアンの姿だった。
そのお陰もあり、カミンルは連れ出され、「望んだ形ではないでしょうけど……」苦笑するキリアンに、彼は小さな笑みで「ありがとう」と頷いた。
その3人が藁の小屋に戻ってくると、シルクとレビジュ、Re:Leeの他、ヤウズもいた。村の人が暖かいお茶を持ってきており、それを静かに頂く。
「あったかいですね」
シルクがほっ、とした笑顔を見せていると外で叫び声が聞こえる。
「お姉ちゃん?!」
聞き覚えのある声だったのか、ヤウズが窓代わりの穴へ駆け寄れば視線の先でベルクが用意したお菓子を根こそぎ奪われ、藁の小屋へ連行されていた。
「すっげぇ素早い姉ちゃんつかまえたー!!」「よっしゃああ!」
年長の子供達(特に男子)が盛り上げる。どうやら、ベルクで最後だったらしく、逃げ切れなかったことをベルクは内心悔しかったようだ。
「負けは、負けだ」
と潔く小屋には入れられたが。その姿を見てヤウズは少しほっ、としたのだった。
豊作祈願鬼ごっこは、大盛況のうちに幕を閉じた。怪我した者は治癒の心得を持つシルクやファーシル、シャルロット達によって治療され安堵する。子供達は沢山お菓子をもらい、ご機嫌なまま儀式は始まった。
●豊作祈願と『豊穣の雫』
鬼ごっこ大会が終われば、簡易的にだが舞台が整えられる。そして、白いローブに着替えたブリザラが、『豊穣の雫』に祈りを捧げた。
儀式に合わせ弦楽器を奏でるのは、ナタリア・フィッツジェラルドだ。
キラキラ輝く『豊穣の雫』と、真剣に祈るブリザラ。そして、ナタリアの演奏は人々に祈る気持ちを自然と抱かせた。
「お疲れ様」
儀式が終わった後。何気なくナタリアがブリザラへ声をかけると、少年は照れたように「うんにゃ」と首を降る。だが、それでは彼女はブリザラを労うのだった。
その儀式を見、宴準備を手伝おうとしたトーラは、レビジュが何か考えているように見えた。
「わたしは貴方の事を見る約束をしているんですし、遠慮なく言っていいんですよ?」
出来る限りの事をするから、と言えばレビジュは少し申し訳なさそうに頷いた。
●さぁ、宴の時間だよ!
「かんぱーい!」
誰が音頭を取ったかはさておき、次々にゴブレットが合わさって鈍い音を立てる。長い机には様々な料理が並び、子ども達も目を輝かせる。
【星灯】トリオは子供達と食べさせ合いをしたり、と和気あいあいな様子を見せていた。
賑やかで、笑顔が絶えない会場にバイオリンの音色が響く。
イズル・M・ヴォルゴールが、祝宴や酒場で弾くような陽気な曲を中心に、見事な演奏を披露してくれているのだ。彼はそれとなく会場にいる人達からもリクエストを受けては、可能な限り演奏しているようだった。
「ねぇ、さっきあっちのお姉さんが演奏していた曲、弾ける?」
ふと、小さな女の子が問いかける。さすがにイズルの知らない曲だったが、傍にいたナタリアが「楽譜を見せようか?」と提案する。
「あの曲は、意外と簡単だ。ヴォルゴールならできると思うが……」
「そうかな? じゃあ……」
ナタリアから楽譜を借り、静かに演奏する。と、周りは静かになり、穏やかな気持ちでその一曲を耳にする。
演奏が終われば、周りから拍手され、イズルは照れてしまった。
一方、ナタリアは久々にあったユジンと歓談していた。
「暫く見ない間に護衛の任務を務めるようになったとは。中々立派なものだ」
「いや、俺はまだまだだ。教官みたいにがんばらなねぇと」
ユジンの言葉に照れてしまうナタリア。彼女はその件も含めサポートできたら、と考えたのだった。
(いい音色ですね)
レティシア・レインフィールは、食べやすい大きさに切ったりして取り分けるなどし、幼い子供たちの食事を手伝っていた。その最中に聞いた音色にそっと瞳を細める。
彼女自身は気掛かりな事が多い影響で食欲が無く、少量の食事と飲み物を口にしただけである。
「どうしたの? 食事、ちょっとしか食べていないけど……」
近くで同じようにしていたレビジュが心配そうに声をかけてきた。レティシアは気付かれぬよう微笑み、それとなくチョコレートバーを手渡した。「いいの? なんか悪いなぁ」なんて言いつつも、レビジュの耳が嬉しそうに動いている。
「そういえば、初めて会ったのは砦でしたね」
その時のレビジュは様々な不安を不器用に隠しながら、静かに何かを待っているようだった。だが、少しずつ成長していった事を彼女は知っていた。
「あの時からこれまで、レビジュ様は多くの方の力になられましたね。その成果の一つが、今日のこの光景かと」
「そう、なのかな」
レティシアの静かで優しい言葉は、レビジュの心の何かを確かにしていく。
レティシアは言う。自分には何も優れた能力がなく、他の人よりも何倍も努力しなければならない、と。それだけではなく、多くの失敗や後悔はある、と。
それでも彼女は言葉を続ける。
「民の為に力を尽くすのが。『貴族の責務』ですが、私自身の願いとして多くの皆様を、そして幸福を護りたいと思うのです。勿論、その中の一人はレビジュ様でございますよ」
何気ない言葉に面食らったレビジュであったが、彼はそっとレティシアの手を取る。
「ありがと。でもね、僕はレティシアさんも心配だな。少し痩せた?」
心配そうに彼女を見るレビジュは、辺りをキョロキョロすると村の人に頼んでお茶を持ってきてくれた。
「僕がレティシアさんの役に立てるかは解らないけど。これ、食欲がわく薬草と心を落ち着かせる薬草を使ったハーブティーだよ。冒険者はハードな職業でしょ? だから……」
逆に心配をかけてしまった事を申し訳なく思いつつも、レティシアはレビジュが見せた優しさに、成長を実感する。
「よかったら、一曲どうかな?」
そこにイズルが姿を現し、バイオリンを見せる。ふと、二人の様子が気になった彼は様子を伺っていたらしい。レビジュは渡りに船だとばかりに頷いた。
「イズルさん、ありがと! 僕のお気に入りなんだけど……」
レビジュは夏のイベントで演奏された曲の1つをイズルに強請った。
(お安い御用さ)
イズルは陽気な太陽と爽やかな風を思わせる一曲を披露する。その軽やかなメロディーに合わせ手拍子をすれば、どこかで誰かが指笛を合わせる。レティシアは、レビジュが自分を元気づけようとしている事、イズルもまた自分と同じようにレビジュを心配している事に気づいた。
(あなたを見守っている人は、多いのですよ)
レティシアはそっとレビジュに微笑み頷いた。
曲が終わり、イズルは何気なくレビジュに言った。
「頼りないだろうけど、何かあったら駆けつけるよ」
迷惑か? と問えばレビジュは首を降る。
(俺は人に何かを説くほど人間も経験もまだまだ……。でも、やっぱり俺も気難しい事言った方がいいのか?)
なんて悩んだりもしたが、自然とあの言葉が出た。イズルはレビジュに対しては『先輩』や『大人』より、『兄弟』や『友達』でいたい。その気持ちは今も変わらない。
今度、故郷の名産品を持ってこようか、と言えばレビジュは少し頬を赤くして喜んだ。
(『豊穣の雫』……確かに興味深き物でしたね。でもまぁ、豊作祈願としてあんなに走る事になろうとは……)
リコリス・アデュラリアがコケモモのジュースを口にしながら振り返る。彼女は風のように走りつつ元気な子供達に囲まれて、少し胸の奥が擽ったい気がした。
その最中見かけたレビジュは、子ども達の前では笑っていたものの、一人になるとうっすらと気落ちしているように見えた。
(そういえばハーフリングの子の作戦に釣られて少しは元気になったかもしれないけど、気になりますね)
それとなくリコリスはレビジュを探すことにした。
「随分豪華な飯だね。もう豊穣祭の時期なんだなあ」
ヨル・スレイマンがご馳走の前でぽつりと呟き、子供達が料理を取るのを手伝ったり、美味しそうなパイに口をつけたりと宴をしっかり楽しんでいた。
気にかけていた子供達の様子を見た彼は「元気そうでよかった」とそっと胸をなでおろす。そうしながら自分の分の酒とコケモモのジュースの差し入れを手にレビジュの元へ。レビジュはちらりとレティシアを見たが、彼女はこくりと頷いた。
ちょっと顔色が悪そうに見えたレティシアに対しヨルは「なにか色々ありそうだなぁ」と思いつつも彼女にもコケモモのジュースを渡した。
「やぁ、久しいね。今日は楽しかったかい?」
「お久しぶり。今日は、けっこう楽しかったよ」
鬼ごっこをあまりやった事が無かったから、とレビジュは少し恥ずかしそうに言う。ヨルはさり気無くジュースを渡し、自分はお酒を一口。それとなくレビジュを観察していると、ちょっと気落ちしているのをなんとなく感じている。
(レビジュ自身はうまく隠しているつもりなんだろうな)
なんてヨルは思いつつ深く追求するのは自分じゃない方が……とも考えた。それでも力になりたいのも本心だ。
「今は皆それぞれが大変な状況で、自分の事を後回しにした方がいいと思う時もあるかもしれない。けど、そんな事はないからね」
最初、不思議そうにしていたレビジュであったが、レティシアの言葉を思い出しはっ、となる。ヨルは穏やかに「いつでも相談してくれていいし、皆そう思っているかも」と付け加えると、少しだけ少年の表情がゆるくなった気がした。
「ここでしたか」
不意に声がして振り返ると、リコリスがいた。レビジュ達が挨拶をすると、彼女は会釈をしつつ空いた席に座る。
「貴重な薬草の調合にでも失敗しましたか? ……それとも、何か行き詰まりでもしましたか」
「そういう訳ではないのだけど」
それでも言いづらいのか、レビジュは少々口ごもった。リコリスは小さく頷く。
「言いづらそうですね。でも、全く事情を知らない相手だからこそ、話せる事もあるでしょう」
だから何かあるのなら……とリコリスは進める。レビジュは何か言おうとして……かぶりを振った。
なら薬草か毒草の話でも? と彼女が問いかけようとした時、にこやかなエルフの女性が姿を現した。アリア・ティーダだ。
「レビジュ君! 少しいい?」
「? いいよ」
アリアに呼ばれ、レビジュはリコリス達に一礼し席を立った。
二人は少し離れた静かな場所に移動し、飲み物片手におしゃべりしていた。少しでも本音を吐ければという彼女なりの気遣いである。耳を済ませれば、イズルが奏でるバイオリンの音色が聞こえる。
(尊敬してる人……だっけ? 将軍とか以外にも大人びている子だからこそ吐き出せる相手をこの機に増やして貰えれば)
アリアはそっとレビジュを見て微笑む。
「こんなおせっかい、ごめんね。実は。初めてのとき受取ってくれたチョコが嬉しくて、さ」
「ううん、色んな人が心配してくれてるって知ってるから。アリアさんもでしょ」
少年の問いに「そうだよ」とアリアは頷いた。
「若い時、色々理想があってやんちゃして悪めの事やって。……それで挫折したボクが、こんなご時世に敵だった子とお喋り出来たのが嬉しくてさ」
このご縁大切にしたいんだ、と素直に言えばレビジュは目を丸くする。
「そっか。心配かけて悪かったなっておもったけど、心配してくれる人がいるって、嬉しいんだね」
レビジュはそれとなく呟き、小さく微笑んだ。
「バトー、ちょうどいい所に」
アリアと仲良く宴に戻ると、ナタリアが手招きする。レビジュが不思議そうにしていると、彼女は穏やかに口を開いた。
「確か、殿下や将軍らに手紙を出したいと聞いたが……」
その言葉に、レビジュは大きく頷く。なんでもレビジュを含めた元メドゥの指先構成員の子たちは皆殿下や将軍に手紙や贈り物をしたかったらしい。
「それに、忙しそうでしょう? だから……」
「成程。殿下や将軍らの多忙は偏に、手足といえる臣下の我々の力不足だ。責めるべき対象が目の前にいるとなれば、君がそれ程気にする事は無い」
ナタリアは優しい顔だが真剣みを宿した目で頷く。彼女は胸に手を当て、そっと目を細めた。
「手紙などを届けたいなら、出来る限りこちらの権限で何とかしよう。私も医者の端くれだ。彼らが快復して祭りを見に行ける事を信じて、尽力するまで」
レビジュは、小さく「ありがとう」と呟いた。
(いい人達だなぁ。なんだか、胸の奥があったかいや)
レビジュは、関わってくれた冒険者達に感謝すると同時に、彼らならば話せるような気がした。それは、先日交戦した少年……。デゼスポワル最後の一人、ネクロマンサーのカインの事だった。
(あいつは、こっちにこないだろうな……。でも……)
せめて、生きて欲しいと願う。だが、彼だけはメドゥの指先のままだ。
(いつかは、この手でやらなくちゃいけないのかな)
レビジュは、一度深呼吸し手を握り締める。と……足音が聞こえた。
「あ、いたいた!」「実は探していたのですよ」
そこに現れたのはフリューとシャルロットだ。二人はそっと差し入れのべっ甲飴とトフィを彼に渡す。
「え? いいの?」
二人は優しく微笑みレビジュに握らせる。その優しさが、深く胸に溶けるのだった。
宴も終わり、また日常に帰っていく。
また恵が溢れる土地になる事を祈りつつ。そして、帝国にも冬が近づいていくのであった。
(終)
帝国南部・カシュカシュ。
元『メドゥの指先』構成員の子供達の内、半数以上は子供である。レビジュ・バトーは、メンバーの中で鬼役になれる子供達と村の子供たちを集め注意事項を話していた。
その様子を逃げる役となった冒険者達が見つめている。
「ねぇ、思ったんだけどさ~、僕の大きさなら追いかける方でもよくない? やっぱりダメ?」
そう問いかけるのは、ハーフリングのアドルフ・ジーノ。だが、問われた獅子のハーフビースト、ユジンはジト目でアドルフを見つめた。
「ダメに決まってるだろ。アンタ、直感だけど18か19ぐらいだと思うし」
「そっかぁ」
苦笑するアドルフを「まぁまぁ」と窘めるのはキリアン・フィッツジェラルド。彼は穏やかに微笑んで用意したお菓子を見せた。
「がんばって捕まえに来た子にご褒美を用意しましたし、これはこれで楽しいとおもいますよ」
「そうだね! キリアンお兄さんとマオお兄さんも一緒だし、楽しもう!」
「うん! おもいっきり楽しもう!」
気を取り直したアドルフに名を呼ばれ、カミンル・マオが顔を上げる。彼がにこやかに頷き微笑めばキリアンとアドルフも釣られて笑顔になっていた。
そんな風に【星灯】の3人が話しているうちに、鬼ごっこ大会の時間は迫っていくのだった。
大きなスペースの向こう、藁で出来た幾つもの家が並んでいる。そして、鬼役となった子供達が仮装をし、わくわくとした表情で大人たちを囲んでいた。
「孤児院の子たちを思い出しますね」
そう言ったのはシルク・メイプルリーフ。彼女はおっとりと笑みをこぼしながら「ちゃんとうまく捕まってあけないと……」と考えていた。
大半の冒険者達はそうかもしれない。だが、サイラスとベルク・オスマットはただならぬ気配を漂わせていた。それに気づき、シルクは「あら……?」と首をかしげる。
「そろそろか」「そろそろだな」
サイラスとベルクは頷き合う。
「では逃げに専念した時の大人気なさを見せてしんぜようか」
「あぁ。大人気ないという言葉はな、大人がやるから存在するのだよ?」
とドヤ顔を披露している。思わず「あら~……」と何と言えばいいか迷うシルク。そして彼女の傍らでは少し顔を真っ赤にしたホムンクルスの少女の姿がった。ベルクの妹、ヤウズ・オスマットである。
「お、お姉ちゃん……ホントにやる心算なの?」
身内の大人げない言葉が恥ずかしかったらしい。ヤウズは、子ども達が楽しめるようにフォローしようと考えた。シルクは、慈愛に満ちた笑顔で肩をぽん、と叩く。
「お二人とも、楽しそうですねぇ。私たちもがんばりましょうね」
「えぇ、子ども達を楽しませましょう」
ヤウズは、シルクのやんわりした笑顔にフォローされながらも、小さく微笑んだ。
閑人休話。
「それじゃあ、10数えるよ~! 冒険者さん達は逃げてねー!」
レビジュが声を上げ、子ども達が元気に数を数え始める。付き添いできた帝国兵や村の大人たち数名が逃げる範囲を囲む。冒険者達はその広場に散らばり、カウントが終わるのを待つ。
「きゅう、じゅう! さあ、追いかけよう!!」
レビジュもまた広場の中ほどへとやってきて子供達を誘う。……と、そこに突撃するハーフリングのお姉さん。もといRe:Lee。
「ほらみんなー! レビジュお兄ちゃんはこっちだよ~!!」
と叫びながら走ってくるではないか! これには「はぁ?!」と面食らうレビジュ。自慢の足で逃げるのだがRe:Leeがにっこり笑う。
「サイドから回り込め! 逃げ道を塞げ! レビジュの逃げ足の速さは知ってるからね~! いっけぇ!!」
とまるで引率の先生のような感じで子供達を誘導する。彼が持つお菓子を空にするつもりか! というぐらいである。
「ちょっと! ちょっとこれどういう??」
「問答無用!!」
逃げるレビジュと追うRe:Lee&子供達。そうこうしているうちに、少し曇っているように見えた少年の顔が、Re:Leeには、元気になっていくような気がしていた。
少し離れた場所では、ファーシル・クリスティアが華麗な足捌きで走っていた。子供達が楽し気に追いかけるが、銀の髪を靡かせるファーシルをなかなか捕まえられない。
(少し手加減が必要ですわね)
ファーシルが少しだけ速度を落とすと、お化けの仮装をした幼子が、「捕まえたー!」と満面の笑みを浮かべた。
話を聞いた時は「子供達から逃げればいいのですね?」と頷いた彼女。そこで閃いたのが、彼女が会得している流派の動きだったらしい。
「このステップで指一本触れさせませんわっ!」
「ちょっと待つさぁ! 今回は子供達を楽しませる事が優先だから、普通でいいよ♪」
タンマをかけたのはフリューリングスルフト=ティエラ(以下、フリューと表記)。傍らのシャルロット・エクレールもまた、頷いている。
「なら、引き離さない程度に逃げて……がいいでしょうか?」
「その方がいいかもしれませんね」
シャルロットも頷き、3人で子供達を楽しませようと頷き合った。
今も、ファーシルから少し離れた場所を二人が楽し気に走っている。
「我こそは赤翼の魔女、シャルよ! 捕まえてごらんなさい!」
「赤翼一番風のフリューとイュンさぁ!うちらを捕まえられるかなぁ?」
青い瞳をキラキラさせ、程よい速さとオーバーリアクションを見せれば子供達もいい笑顔で追いかける。そして捕まると、シャルロットは愛らしいウサギの足跡模様のトフィを上げるのだった。モデルはフリューがつれている兎のイュンである。
その他、木の実や花を閉じ込めたフリューお手製べっ甲飴も一緒に配る。可愛いお菓子は特に女の子たちに好評なようだ。
また、捕まりそうになったフリューが連れてきたウサギを前に出し「くっ、イュン&尻尾もふもふ囮作戦!!」とするのも人気の秘訣で、特に小さな子たちはタッチを忘れイュンに夢中になる事も。
だが、大き目の子供達には捕まる。そしてお菓子を配っている間もふもふタイムとなる。実に平和な光景である。
「ん?」
フリューがお菓子を貰っていない子がいないか確認していると、サイラスが自慢げな顔で走っている姿が。だが、適度な早さである。それでも巧みな回避技術で楽しく子供達のアタックをかわしている。
「おおっと!」
「捕まえたー!」「テリーズ・トラ・トリュース!」
リザードマンの少女が果敢にもジャンプして捕まえる。と、彼は苦笑して『シェリーの詰め合わせ』から1つお菓子を放出する。その他にも手作りスイートポテトや大学芋、カボチャのお菓子等いろいろ持参しているようだ。
一つ渡したらさっ、と回避。それが特に年長の子達に受けていた。
「なるほど、なかなかだな」
なんていうベルクは……逃げ回っていた。元から鍛えた機動力などで逃げ回っていた。
「ハフリンのねーちゃんが言っていたみたいに囲め!」
「マジ強いぞこのねーちゃん!!」
12,3歳ぐらいの男の子たちがベルクを追いかけまくるが、ギリギリ追いつかない。その光景に少々恥ずかしくなりながらも、ヤウズは適度に捕まりそうで捕まらない速さを維持し、お菓子が中々ゲットできない子達に適度に捕まっていた。
「あのねーちゃんめちゃくちゃ早い」
「そ、そうね」
ため息を吐くハーフリングの少年に、ヤウズは少々顔が強張りながら頷いた。今だけは身内だとは言いづらい。
ベルクが捕まる気配はなく、一人、また一人と追う者が減っていく。後に残ったのは、あと2,3年もすれば成人の仲間入りだろうという年長の子が数名。
(本当に逃げ切るつもりかしら……)
ヤウズは少々嫌な予感を抱いていた。
「凄いな……」
そんなやり取りに苦笑しているレビジュは、走りながら他の参加者の様子も見ていた。やはり、村の子も、自分の仲間も楽しんで欲しいと願うからだ。
(古巣に居た頃は考えたことないや)
なんて振り返っていると、シルクと出くわした。彼女は「テリーズ・トラ・トリュース!」と言ってタッチする幼子に身を屈め、お菓子をあげていた。
レビジュが何気なく挨拶すると、彼女はふわりとした微笑みでこんなお誘いをしてみる。
「レビジュさんも1度一緒に捕まりつつお菓子配ってみませんか?」
「そうだねぇ。それが……」
それは良さそうだ、と思い頷こうとしたが、彼は忘れていた。今も子供達に追われていることを!
「今だー!!」「わああああ!!?」
慌てるレビジュにダイブし、捕まえるRe:Lee。それに倣う幼い子供達。ごろん、と草の上を転がれば、目が合って思わず笑いあう。つられてシルクもふふっ、と笑ってしまった。
レビジュとRe:Leeはお菓子をねだる子供達やシルクに助け起こされ、仲良く(?)3人で持っていたお菓子を分け与える。Re:Leeはそれとなく悪戯っ子の目になった。
「ところで、レビジュも逃げ切るつもりだったの~?」
「いや、さすがにそれは考えてなかったよ」
苦笑しながらレビジュが答えていると、三人が用意していたお菓子が底をついた。
「まぁ……! でも、子ども達みんな、嬉しそうでしたね」
「うん。なんだか僕も嬉しくなっちゃった」
シルクとレビジュがそんなことを話している間に、子供達は別の大人へと走っている。
「次捕まったらあっちだからね!」
Re:Leeが藁で出来た小屋を指させば、レビジュもまた慌てて逃げるのだった。
「ふふっ、いい笑顔ですね」
シルクも頷き、再び逃げるのだった。
あちこちで不作の声を聞いたトーラは、「せめて手が打てる所だけでも回復させたい」と考えていた。
(それに、人々の、特に子供の沈んだ顔はあの方も……)
トーラの脳裏に過ったのは、慕うあの方の曇った表情。彼女としてはやはり優しいあの方が心を痛める状況を変えたかった。
そんな彼女は準備段階から入り、コケモモのプチタルトを作っていた。そして……。
「さあ、捕まえられたら美味しいタルトが貰えますよー? こっちですよー」
と、藤篭にプチタルトを入れえて子供達の気を引く。子供達は甘い香りに釣られ、トーラを追いかけた。
適度な速さで追いかけられ、未だ誰も捕まえられず泣いてしまった年少の子の為にわざと捕まってみせる。
「捕まっちゃいましたね。では、このタルトをどうぞ!」
身を屈め、トーラがプチタルトを渡しているとカミンルとキリアン、アドルフの3人もまた適度に捕まり、お菓子を配っている姿が見えた。
「こっちにもありますよ~。他に貰っていない子はいないかな?」
カミンルがお菓子を配りながら子供達に確認する。その傍ではキリアンがお菓子を貰った子を見送っている。
「こっちは、持ってきたお菓子ほぼなくなりました」
「子供達、みんな足が速いよね」
アドルフが参ったというような顔でそう言えば、トーラと目が合った。
「そっちはどんな様子でしょうか?」
「まだタルトはありますよ。でも、油断できない状況です」
キリアンの問いに頷き、篭の中身を見せて答えるトーラ。アドルフは
「こっちはもうお菓子が殆どなくなった所だよ~」
と言いながらほぼ空になった袋を見せた。
4人が耳を澄ますと、ちらほらとお菓子がなくなったという声が聞こえる。そろそろ誰かが捕まってもおかしくないな、と顔を見合わせているうちに子供達が迫る。
「散開!」
「ほら、まだまだありますよ~!」
トーラがタルトで気を引いている間に、アドルフ達は別方向に走り出した。
●冒険者と藁の小屋
トーラ達が話している頃にはお菓子を持っていない冒険者もちらほら。そして、どこからともなく擽ったそうに笑う声。子供達に擽られるフリューである。
「捕まったさぁ~! シャル~たすけて~」
お菓子路を配り終えたフリューが子供達に捕まり、藁の小屋に連れていかれる。それを見たシャルロットがちょっとオーバーに振り返って見せる。
「ややっ!? 疾風のような私の相棒が捕まった!! いい子達、手を貸して! 助けに行こう~!」
そう言って駆け出せば、特に幼い子達がきゃっきゃっと笑いながら付いて行く。シャルロットの楽しい言動がなかなか追いつけない小さい子や上手く混ざれない子を誘っているようだ。
藁の小屋に連れていかれたフリューを、シャルロットと子供達が追う。そして藁の小屋からフリューを出し、子ども達へトフィやべっ甲飴をプレゼント。
そしてシャルロットが逆に藁の家へ。ある程度追いかけっこをしたのち、フリューも再び藁の小屋へ。
「ふふ、なかなか楽しかったさ~」
「そうですね。……後で、怪我した子がいたら治療しておきましょうか」
そんなことを言いながら、藁の小屋で仲良く休憩に入る。そしてこっそりお菓子を交換して微笑み合う。
「どこにいても想ってくれてありがと。おかげで私、寂しくないよ」
「ふふ、お互い様かもしれないさぁ?」
シャルロットの言葉に、フリューもにっこりと頷いた。
その頃、ファーシルも捕まっておりお菓子を渡そうとした。だが、既に入れていた容器は空っぽである。と、いう事は……?
「「こしょこしょだー」」
「きゃああっ?!」
と、こしょこしょされてしまい、藁の家へ。
「藁の小屋に閉じ込められてしまいましたわー!」
素朴だがちょっと暖かい藁の家。これに「うわぁ、藁! 藁の小屋ですよー!」とちょっとばかりテンションが上がっている。
「これはこれで、趣がありますね」
ファーシルが擽ったそうに微笑んでいると、その視線の先では【星灯】の3人が子供達に追われており、つい注目してしまう。
(あの3人もお菓子を全部配り終えまして?)
彼女は暫くアドルフ達の奮闘を見つめる。
(僕は、曲がりなりにも帝国の弓兵で鍛えられましたからそう簡単には……)
キリアンが袋の奥に残っていたお菓子を確認しつ走っている。彼らを追っているのは、10歳前後の子供達。そしてカバーするように年長者たちも近づいている。と、そこで、カミンルは頷いた。
(こうなったら……)
カミンルが走ってくる子供達の前に立ちはだかる。すぐさま擽られるカミンルだが
「ここは僕が囮に! 僕にかまわず行ってください!」
と笑いをこらえて叫ぶ。彼の行動が予想外だったキリアンとアドルフは思わす声を上げる。
「カミンルさん!?」
「ま、マオお兄さん……僕達の為に?! でも置いて行けないよっ」
「いいから行って下さい!!」
幼い子供達に、半ば引きずられるかの如く藁の家へ連行されるカミンル。二人は顔を見合わせる。
そうして、カミンルはファーシルのいる小屋へと入れられるのだった。
「残りのお菓子はこれだけですね」
アドルフが、袋の中からお菓子を取り出し、考える。キリアンもまた残っていたお菓子を集めながら呟いた。
「つまりは、僕が『囚われの姫君を救うナイト』という事ですかね?」
「そうかもしれない。あ、連れていかれるマオさん、なんか楽しそう?」
キリアンとアドルフは顔を見合わせると残っていたお菓子を手に頷き合うのだった。
「その大学芋やスイートポテト、カボチャのお菓子は甘い物好きが自分で楽しむ為に本気で作った菓子やぞ。まぁ、喉に詰まらせないようにな」
サイラスは手作りお菓子を放出し、藁の小屋へ連行されていた。その間もベルクが追いかけられている姿を見、「やるなぁ」と感心したりする。
サイラスが入れられた小屋はやや大きめ。そこでは既に先客のフリューとシャルロットが差し入れられたお茶を飲んでいた。
サイラスもお茶を貰い、「意外と楽しかったな」と振り返っていると……?
少しだけ時間を巻き戻し、ファーシルがいる小屋。カミンルもまた、子ども達に捕まりそこへ入れられた。彼は真剣にアドルフとキリアンの無事を祈っていたのだが……?
(もしかしたら、二人とも僕を心配して駆けつけてくれたりして。それで、僕は二人に『信じていたよ』なんて言って二人に駆け寄り抱きついて……)
こんな風に妄想に浸っていた。その様子にファーシルは不思議そうに見つめている。
「そして甘い言葉を投げかけられて……なんてたまんねーなぁ!!」
ふと漏れた声に「まぁ」と小さく声を上げるファーシル。窓代わりに掛けられた穴をみれば、サイラスが気まずそうに見ていた。
(みられちゃった)
でも、カミンルは気にしないことにした。
(まぁ、子ども達が喜んでいるならば……)
子供達に連行され、藁の小屋へ向かうトーラ。そこで彼女が見たのは、かき集めたお菓子で交渉するアドルフとキリアンの姿だった。
そのお陰もあり、カミンルは連れ出され、「望んだ形ではないでしょうけど……」苦笑するキリアンに、彼は小さな笑みで「ありがとう」と頷いた。
その3人が藁の小屋に戻ってくると、シルクとレビジュ、Re:Leeの他、ヤウズもいた。村の人が暖かいお茶を持ってきており、それを静かに頂く。
「あったかいですね」
シルクがほっ、とした笑顔を見せていると外で叫び声が聞こえる。
「お姉ちゃん?!」
聞き覚えのある声だったのか、ヤウズが窓代わりの穴へ駆け寄れば視線の先でベルクが用意したお菓子を根こそぎ奪われ、藁の小屋へ連行されていた。
「すっげぇ素早い姉ちゃんつかまえたー!!」「よっしゃああ!」
年長の子供達(特に男子)が盛り上げる。どうやら、ベルクで最後だったらしく、逃げ切れなかったことをベルクは内心悔しかったようだ。
「負けは、負けだ」
と潔く小屋には入れられたが。その姿を見てヤウズは少しほっ、としたのだった。
豊作祈願鬼ごっこは、大盛況のうちに幕を閉じた。怪我した者は治癒の心得を持つシルクやファーシル、シャルロット達によって治療され安堵する。子供達は沢山お菓子をもらい、ご機嫌なまま儀式は始まった。
●豊作祈願と『豊穣の雫』
鬼ごっこ大会が終われば、簡易的にだが舞台が整えられる。そして、白いローブに着替えたブリザラが、『豊穣の雫』に祈りを捧げた。
儀式に合わせ弦楽器を奏でるのは、ナタリア・フィッツジェラルドだ。
キラキラ輝く『豊穣の雫』と、真剣に祈るブリザラ。そして、ナタリアの演奏は人々に祈る気持ちを自然と抱かせた。
「お疲れ様」
儀式が終わった後。何気なくナタリアがブリザラへ声をかけると、少年は照れたように「うんにゃ」と首を降る。だが、それでは彼女はブリザラを労うのだった。
その儀式を見、宴準備を手伝おうとしたトーラは、レビジュが何か考えているように見えた。
「わたしは貴方の事を見る約束をしているんですし、遠慮なく言っていいんですよ?」
出来る限りの事をするから、と言えばレビジュは少し申し訳なさそうに頷いた。
●さぁ、宴の時間だよ!
「かんぱーい!」
誰が音頭を取ったかはさておき、次々にゴブレットが合わさって鈍い音を立てる。長い机には様々な料理が並び、子ども達も目を輝かせる。
【星灯】トリオは子供達と食べさせ合いをしたり、と和気あいあいな様子を見せていた。
賑やかで、笑顔が絶えない会場にバイオリンの音色が響く。
イズル・M・ヴォルゴールが、祝宴や酒場で弾くような陽気な曲を中心に、見事な演奏を披露してくれているのだ。彼はそれとなく会場にいる人達からもリクエストを受けては、可能な限り演奏しているようだった。
「ねぇ、さっきあっちのお姉さんが演奏していた曲、弾ける?」
ふと、小さな女の子が問いかける。さすがにイズルの知らない曲だったが、傍にいたナタリアが「楽譜を見せようか?」と提案する。
「あの曲は、意外と簡単だ。ヴォルゴールならできると思うが……」
「そうかな? じゃあ……」
ナタリアから楽譜を借り、静かに演奏する。と、周りは静かになり、穏やかな気持ちでその一曲を耳にする。
演奏が終われば、周りから拍手され、イズルは照れてしまった。
一方、ナタリアは久々にあったユジンと歓談していた。
「暫く見ない間に護衛の任務を務めるようになったとは。中々立派なものだ」
「いや、俺はまだまだだ。教官みたいにがんばらなねぇと」
ユジンの言葉に照れてしまうナタリア。彼女はその件も含めサポートできたら、と考えたのだった。
(いい音色ですね)
レティシア・レインフィールは、食べやすい大きさに切ったりして取り分けるなどし、幼い子供たちの食事を手伝っていた。その最中に聞いた音色にそっと瞳を細める。
彼女自身は気掛かりな事が多い影響で食欲が無く、少量の食事と飲み物を口にしただけである。
「どうしたの? 食事、ちょっとしか食べていないけど……」
近くで同じようにしていたレビジュが心配そうに声をかけてきた。レティシアは気付かれぬよう微笑み、それとなくチョコレートバーを手渡した。「いいの? なんか悪いなぁ」なんて言いつつも、レビジュの耳が嬉しそうに動いている。
「そういえば、初めて会ったのは砦でしたね」
その時のレビジュは様々な不安を不器用に隠しながら、静かに何かを待っているようだった。だが、少しずつ成長していった事を彼女は知っていた。
「あの時からこれまで、レビジュ様は多くの方の力になられましたね。その成果の一つが、今日のこの光景かと」
「そう、なのかな」
レティシアの静かで優しい言葉は、レビジュの心の何かを確かにしていく。
レティシアは言う。自分には何も優れた能力がなく、他の人よりも何倍も努力しなければならない、と。それだけではなく、多くの失敗や後悔はある、と。
それでも彼女は言葉を続ける。
「民の為に力を尽くすのが。『貴族の責務』ですが、私自身の願いとして多くの皆様を、そして幸福を護りたいと思うのです。勿論、その中の一人はレビジュ様でございますよ」
何気ない言葉に面食らったレビジュであったが、彼はそっとレティシアの手を取る。
「ありがと。でもね、僕はレティシアさんも心配だな。少し痩せた?」
心配そうに彼女を見るレビジュは、辺りをキョロキョロすると村の人に頼んでお茶を持ってきてくれた。
「僕がレティシアさんの役に立てるかは解らないけど。これ、食欲がわく薬草と心を落ち着かせる薬草を使ったハーブティーだよ。冒険者はハードな職業でしょ? だから……」
逆に心配をかけてしまった事を申し訳なく思いつつも、レティシアはレビジュが見せた優しさに、成長を実感する。
「よかったら、一曲どうかな?」
そこにイズルが姿を現し、バイオリンを見せる。ふと、二人の様子が気になった彼は様子を伺っていたらしい。レビジュは渡りに船だとばかりに頷いた。
「イズルさん、ありがと! 僕のお気に入りなんだけど……」
レビジュは夏のイベントで演奏された曲の1つをイズルに強請った。
(お安い御用さ)
イズルは陽気な太陽と爽やかな風を思わせる一曲を披露する。その軽やかなメロディーに合わせ手拍子をすれば、どこかで誰かが指笛を合わせる。レティシアは、レビジュが自分を元気づけようとしている事、イズルもまた自分と同じようにレビジュを心配している事に気づいた。
(あなたを見守っている人は、多いのですよ)
レティシアはそっとレビジュに微笑み頷いた。
曲が終わり、イズルは何気なくレビジュに言った。
「頼りないだろうけど、何かあったら駆けつけるよ」
迷惑か? と問えばレビジュは首を降る。
(俺は人に何かを説くほど人間も経験もまだまだ……。でも、やっぱり俺も気難しい事言った方がいいのか?)
なんて悩んだりもしたが、自然とあの言葉が出た。イズルはレビジュに対しては『先輩』や『大人』より、『兄弟』や『友達』でいたい。その気持ちは今も変わらない。
今度、故郷の名産品を持ってこようか、と言えばレビジュは少し頬を赤くして喜んだ。
(『豊穣の雫』……確かに興味深き物でしたね。でもまぁ、豊作祈願としてあんなに走る事になろうとは……)
リコリス・アデュラリアがコケモモのジュースを口にしながら振り返る。彼女は風のように走りつつ元気な子供達に囲まれて、少し胸の奥が擽ったい気がした。
その最中見かけたレビジュは、子ども達の前では笑っていたものの、一人になるとうっすらと気落ちしているように見えた。
(そういえばハーフリングの子の作戦に釣られて少しは元気になったかもしれないけど、気になりますね)
それとなくリコリスはレビジュを探すことにした。
「随分豪華な飯だね。もう豊穣祭の時期なんだなあ」
ヨル・スレイマンがご馳走の前でぽつりと呟き、子供達が料理を取るのを手伝ったり、美味しそうなパイに口をつけたりと宴をしっかり楽しんでいた。
気にかけていた子供達の様子を見た彼は「元気そうでよかった」とそっと胸をなでおろす。そうしながら自分の分の酒とコケモモのジュースの差し入れを手にレビジュの元へ。レビジュはちらりとレティシアを見たが、彼女はこくりと頷いた。
ちょっと顔色が悪そうに見えたレティシアに対しヨルは「なにか色々ありそうだなぁ」と思いつつも彼女にもコケモモのジュースを渡した。
「やぁ、久しいね。今日は楽しかったかい?」
「お久しぶり。今日は、けっこう楽しかったよ」
鬼ごっこをあまりやった事が無かったから、とレビジュは少し恥ずかしそうに言う。ヨルはさり気無くジュースを渡し、自分はお酒を一口。それとなくレビジュを観察していると、ちょっと気落ちしているのをなんとなく感じている。
(レビジュ自身はうまく隠しているつもりなんだろうな)
なんてヨルは思いつつ深く追求するのは自分じゃない方が……とも考えた。それでも力になりたいのも本心だ。
「今は皆それぞれが大変な状況で、自分の事を後回しにした方がいいと思う時もあるかもしれない。けど、そんな事はないからね」
最初、不思議そうにしていたレビジュであったが、レティシアの言葉を思い出しはっ、となる。ヨルは穏やかに「いつでも相談してくれていいし、皆そう思っているかも」と付け加えると、少しだけ少年の表情がゆるくなった気がした。
「ここでしたか」
不意に声がして振り返ると、リコリスがいた。レビジュ達が挨拶をすると、彼女は会釈をしつつ空いた席に座る。
「貴重な薬草の調合にでも失敗しましたか? ……それとも、何か行き詰まりでもしましたか」
「そういう訳ではないのだけど」
それでも言いづらいのか、レビジュは少々口ごもった。リコリスは小さく頷く。
「言いづらそうですね。でも、全く事情を知らない相手だからこそ、話せる事もあるでしょう」
だから何かあるのなら……とリコリスは進める。レビジュは何か言おうとして……かぶりを振った。
なら薬草か毒草の話でも? と彼女が問いかけようとした時、にこやかなエルフの女性が姿を現した。アリア・ティーダだ。
「レビジュ君! 少しいい?」
「? いいよ」
アリアに呼ばれ、レビジュはリコリス達に一礼し席を立った。
二人は少し離れた静かな場所に移動し、飲み物片手におしゃべりしていた。少しでも本音を吐ければという彼女なりの気遣いである。耳を済ませれば、イズルが奏でるバイオリンの音色が聞こえる。
(尊敬してる人……だっけ? 将軍とか以外にも大人びている子だからこそ吐き出せる相手をこの機に増やして貰えれば)
アリアはそっとレビジュを見て微笑む。
「こんなおせっかい、ごめんね。実は。初めてのとき受取ってくれたチョコが嬉しくて、さ」
「ううん、色んな人が心配してくれてるって知ってるから。アリアさんもでしょ」
少年の問いに「そうだよ」とアリアは頷いた。
「若い時、色々理想があってやんちゃして悪めの事やって。……それで挫折したボクが、こんなご時世に敵だった子とお喋り出来たのが嬉しくてさ」
このご縁大切にしたいんだ、と素直に言えばレビジュは目を丸くする。
「そっか。心配かけて悪かったなっておもったけど、心配してくれる人がいるって、嬉しいんだね」
レビジュはそれとなく呟き、小さく微笑んだ。
「バトー、ちょうどいい所に」
アリアと仲良く宴に戻ると、ナタリアが手招きする。レビジュが不思議そうにしていると、彼女は穏やかに口を開いた。
「確か、殿下や将軍らに手紙を出したいと聞いたが……」
その言葉に、レビジュは大きく頷く。なんでもレビジュを含めた元メドゥの指先構成員の子たちは皆殿下や将軍に手紙や贈り物をしたかったらしい。
「それに、忙しそうでしょう? だから……」
「成程。殿下や将軍らの多忙は偏に、手足といえる臣下の我々の力不足だ。責めるべき対象が目の前にいるとなれば、君がそれ程気にする事は無い」
ナタリアは優しい顔だが真剣みを宿した目で頷く。彼女は胸に手を当て、そっと目を細めた。
「手紙などを届けたいなら、出来る限りこちらの権限で何とかしよう。私も医者の端くれだ。彼らが快復して祭りを見に行ける事を信じて、尽力するまで」
レビジュは、小さく「ありがとう」と呟いた。
(いい人達だなぁ。なんだか、胸の奥があったかいや)
レビジュは、関わってくれた冒険者達に感謝すると同時に、彼らならば話せるような気がした。それは、先日交戦した少年……。デゼスポワル最後の一人、ネクロマンサーのカインの事だった。
(あいつは、こっちにこないだろうな……。でも……)
せめて、生きて欲しいと願う。だが、彼だけはメドゥの指先のままだ。
(いつかは、この手でやらなくちゃいけないのかな)
レビジュは、一度深呼吸し手を握り締める。と……足音が聞こえた。
「あ、いたいた!」「実は探していたのですよ」
そこに現れたのはフリューとシャルロットだ。二人はそっと差し入れのべっ甲飴とトフィを彼に渡す。
「え? いいの?」
二人は優しく微笑みレビジュに握らせる。その優しさが、深く胸に溶けるのだった。
宴も終わり、また日常に帰っていく。
また恵が溢れる土地になる事を祈りつつ。そして、帝国にも冬が近づいていくのであった。
(終)
マスターコメント
おそくなり、申し訳ありません。菊華です。
今回は暖かいプレイング、誠にありがとうございます。
おかげさまでお祭りは大盛り上がり!
レビジュも心の負担がちょっとおりました。ちゃんと話しますのでしばしお待ちくださいませ。
それでは、また縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントシナリオ普通 報酬:標準18 / 5〜25人
2022年11月21日 14時54分13秒 公開
大成功
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