政治討論部と南の海

紀藤トキ

コメント 2

シナリオID:2232

オープニング


 冒険者の尽力もあり、クラブ活動の認定条件の緩和はパンクリアース学園側より承認された。それにより、メンバーに赤点すれすれがいるせいで公認申請が出せなかった政治討論部も、晴れて学園の部活として許可を得ることとなる。部活の後援として名を連ねたのは、部長のトマスの実家であるダンテ伯爵家の他にも正副顧問の家名や部員の実家など数家の名が並んだ。リヴァマス伯爵家の名前が表に出たのは数十年ぶりの事で、断絶していなかった事に驚きの声があがったりもしたようだ。それ以外にはこれといって事件も無く、起伏も無く過ぎていたある日、トマス・ダンテの元に一通の書簡が届いた。

「……ディンドルフ侯からの招待状? 政治討論部、並びに御友人方宛……? 封緘は本物だが、何故だ」

 トマスが首を傾げつつ中を改める。時候の挨拶、息子の危機を救ってくれた事への礼と続いた辺りで、副顧問のテオドールと婚約者のサラを護衛した時の事を言っているのか、と理解する。タイコモも合点がいったと頷いていた。

「なるほど、部活の後援をすんなり了承してくれたわけですね。ディンドルフ侯爵家といえば、中央に興味が無い家として知られていますし」
「確かに、社交などは必要最小限で済ませているという印象だな。あまり良い噂は聞かないが……」

 侯爵という高位にありながら、嫁の成り手がいないので代々の夫人は訳アリばかりだとか。王国は複数の夫人を娶るのが認められているとはいえ、次から次と奥方を増やしているなどとも聞く。当代の侯爵だけの話では無く、代々そうだとか。格上や同格との縁組も無いだけに、派閥にも組み込まれず自主自立でやっているのである意味では中立派貴族と言えなくもない。

●
「……うん。大体あっている。私が死ぬかもしれない計略を仕掛けてきても、実際に死ななかったなら問題ないだろう、とかしれっと言いそうな家だよ、ウチは。そもそも、出自が海賊だからね」

 書簡について相談すべく、副顧問に聞けばそう返事が返って来る。リーンエス王国建国時には既に海賊だったらしく、王家よりも古い歴史を誇っているようだ。誇りになる歴史かどうかはさておき。そのせいか、婚姻についても王国の一般常識に縛られない家として有名だった。これまで代々の当主に他種族趣味があっても隠さないで今まで来ているのは、男らしいのか何なのか。

「今の当主は私の父親だけれど。第一夫人は没落した伯爵家から来てるし、第二夫人は某子爵家の借金のカタ、母は第三夫人なんだが寄り子の家から1人位は出さねばって押し掛けたみたいなものらしいから、結婚で得られる利益はなかったろうな。まあ、ハーフビーストの妾が大勢居ても怒らない相手なんて、訳アリに決まってるだろう?」
「……ある意味、凄い家ですね」

 リブラネスタをはじめ遠隔地との外洋交易を自前で賄っている事と、軍船での護衛も請け負っている事で得られる収益がそれだけ大きいという事らしい。王党派、貴族派の政争に巻き込まれても、支出が増えるだけで実入りはないと割り切っての立ち回りなら大したものだ。

「領都ディントの近くの邸宅を用意するので、皆様で羽を伸ばして欲しい、とある。さて、素直に受けて良い物かな」
「これは、シラーズ船長の私邸だな。親父に封緘を使わせただけで、実際の招待主はあの人か。なら裏はないよ。私の命が助かった事を、普通に喜んでくれるだろう人だからね」

 書簡の中身を確認したテオドールの肩から力が抜ける。ローラ・シラーズ船長は犬系のハーフビーストで、侯爵の気に入りの妾だという。彼女の弟と仲が良かったテオドールの事を気に入り、乗組員だった頃から何かと目を掛けてくれているのだとか。

「なるほど、テオドール先生の初恋と言うのはその人でしたか」
「過ぎた話だよ。忘れてくれたまえ」

 タイコモに確認されて、遠い目をするテオドール。男子たるもの、若い頃には色々な事があるのだ。

「……あまり行きたくないのだが、リヴァマス老が学園を離れるのは手続きが難しい。私が引率するしかないだろうね」
「であれば、サラ嬢はいらっしゃるでしょう。他の関係の方々にも伺ってみるとしましょうか」

 書簡にわざわざ『部員でなくとも同行して良い』とも書いてある。部員以外にも門戸が緩い政治討論部の実態をよく知っているようだ。ディンドルフ侯爵家は中央に興味が薄いにせよ、目と耳は持っているという事だろう。

「……先生は前に命を狙われたのですが、今回の引率をお願いしても大丈夫なのでしょうか?」
「こうして表立って書簡を送ってくださっているのだから、危険はないでしょう」

 首を傾げるシオンに、安全をこちらに示すための侯爵家の封緘だとタイコモが言えば、なるほどと分かったような顔で頷く。一方、カナンは最初から背後事情を分かろうともしていない。

「全部疑って掛かれば、問題ない。護衛の仕事はそれでできる」
「まあ、胡散臭い話なのは間違いないな。副顧問の恩人を疑いたくはないが……」
「面倒があるとしてトマス様とテオドール先生までじゃないでしょうか。それも命の危険は無いと思います」

 せいぜいハニートラップには気を付けて下さい、とタイコモが冗談めかして笑い、心しようと頷くトマス。現地では、シオンとカナンのどちらかが張り付くことになるだろう。

「強いて言うなら、招きに応じた皆様は、あちらに観察はされるでしょう。彼らのような新しい授恵者の引き抜きは禁止されている筈ですが、先を見越して帝国の皇子や北方の辺境伯が個別に声を掛けているような事例もあるとか。ディンドルフ候が皆様に人材として興味を示しているという可能性は有りえますね」
「なるほど。私とて将来抱えて良いものなら声を掛けたくもなる。彼らは皆、それぞれの見地で勤勉であり優秀だからな……」

 訳知り顔でタイコモが付け足せば、トマスも納得した。ダンテ家の身の丈を考えれば、引く手あまただろう授恵者へ将来仕えて欲しいとは言いにくいが、侯爵家であれば話は違う。いずれは、そのように動き出す貴族が増えていくのかもしれない。

「では、諸々は説明したうえで、南の海へ向かいたいならば問題はないか」
「はい、ディンドルフ家は王党派でも貴族派でもないので、皆様の実家との無いでしょう」

 かくして、政治討論部に少し早い夏のバカンスの機会が、想定外に訪れたのであった。政治も討論も関係ない気もする? いや、これも中央の政争に関わらないと言うだけで、王国貴族の関わる政治の一面ではあるのだ。多分。

解説

色々ごちゃごちゃ書いていますが、特に変な所へ踏み込まない場合は南の海で遊ぼうというだけのお話です。 パンクリアース学園政治討論部の部員じゃなくても遊びには行けます。自由参加の部活なので。 二月辺りに陰謀に巻き込まれて死にそうだった五男テオドールを護衛した件についてのお礼という事ですが、その時の依頼に参加してなくても別に問題ありません。 旅程は一泊。お昼に現着し、翌朝帰途につきます。移動中は特に描写の予定はありません。 概ね、下記のような行動を想定しておりますので番号を入れて下さると幸いです。 1:海で遊ぶ プライベートビーチは遠浅の砂浜です。散歩もできるようです。 水着は貸してもくれますし持参でももちろん可。 2:釣り 磯の方へ向かうと釣りが出来ます。竿や餌は貸してもらえます。釣れるかどうかは賽の目次第。 3:邸内散策 NPC含め、誰かとお話したりできます。 4:大広間 形式ばった場所は居心地悪い人もいるだろうという配慮で、好きな時に注文して食べていいよ的に解放されています。 館の料理人に釣った魚を料理してもらったりもできます。 5:割り当て部屋 4人部屋が多数あります。1人や2人で占めても構いません。また、大広間で朝までダラダラ過ごしても大丈夫です。 ●ゲストNPC 何も無いと接点は挨拶するくらいですが指定があれば絡める人です。 ローラ・シラーズ(37) テオドールの海の師匠で初恋のお姉さんで侯爵の妾の一人。軍船クラーケン号の船長をしています。 犬系ハフビのお姉さんで今回のホスト役です。ちょっとお腹大きいです。 ●トマス・ダンテ周辺NPC タイコモ・チー 酷い名前だがトマスの懐刀で同学年同い年。子爵子息。ヒーラー。学業実技とも良い。 シオン、カナン トマスの子飼いで同学年同い年。孤児院出。ウォーリア、シーフ。実技優秀。シオンは討論部副部長。 サラ・ドルトン(15) 男爵令嬢。己を磨く系意識高め女子。テオドールと婚約中 テオドール・ディンドルフ(テオ)(28) 討論部副顧問。筋金入りのハフビ大好きなくせに貴族の子。五男。学園派にも公平に当たる。サラと婚約中

マスターより

登録もされていないハフビスキー副顧問がメインになるOPの二度目です。 (実際はどう思っているか分かりませんが)ディンドルフ侯爵は表向きは礼として色々便宜を図ってくれていたようです。 部活の後援も快くしてくれたそうで、今回は王国南方の海の私邸を提供してくれました。さすがお金持ちですね! なお、本文中に後援の貴族家で具体的に名前が出ていないのは、OPには原則PC名を出せない故です。 本文中の「数家」にウチも入ってるんだなーという感じでお読みくださいませ。 ※注意書き 政治討論部の入部希望者はプレイングでその旨をお書き下されば、称号を付与いたします。 入部は聴講生でも、初参加の方でも大丈夫です。 ●政治討論部って何するとこ? 名前は政治討論ですが政治に限らず、いろいろ質問したり回答したり意見を募ったりできるような場所です。 今回もそんな感じですが、基本的に部室で喋ってるだけみたいなシナリオが多いです。 関連NPCにトマス(部長)やリヴァマス(顧問)が良くついてきます。 もっと詳しくという方は少し前のシナリオ「政治討論部の新年へ向けて」に質疑がありますので宜しければご確認くださいませ。

リプレイ

 リーンエス王国の国土は広く、北と南では気温も相応に違う。午後の眩しい日差しに目を細めつつ、一同は目的地へ辿り着いた。

「今日はのんびりさせていただきますよ」
「ゆっくり羽を伸ばすと良い。と、言うには私も招待客なんだがな」

 キーゼに挨拶されたトマスが苦笑する。彼の連れのネーヴェ・グラヌローザとも会釈を交わした。

「一足早い夏のバカンスですわね。そうですわ、キーゼさん、いつかお約束致しました釣りのコツをご教示下さいましな」
「なるほど、ちょうど良い機会ですね」

 などと、2人で午後の過ごし方の相談を始めている。先に洋館へ向かったエルゼリオ・レイノーラが感嘆の声をあげていた

「流石はディンドルフ侯爵家。邸宅も凄いねぇ」
「いや、ここはシラーズ船長に与えられてる私邸だから、本宅は城だよ。あっちの方にうっすら見えている建物だ」

 地元民のテオドールは彼に案内役を頼まれたようだ。移動中に遠くから見た領都ディントの様子と言い、栄えている侯爵領であるのは間違いない。玄関先まで迎えに出ているのが、館の女主人であろう。

「やあ、テオ坊。それからコイツを助けてくれたらしい皆さん、良く来てくれたね。見ての通り、アタシもお偉い家の出ってわけじゃない。滞在中は、楽に過ごしておくれ」

 ざっくばらんな挨拶に代表としてトマスが礼を告げ、副部長のシオンとタイコモ、書記のゲルダ・クラインといった面々が部屋割り希望の合わせや荷物の運び込みなどをてきぱきと進めていく。

「リサちゃんとは同室でいいですよね。……レティシア様はどうされますか」
「私は……、どちらでも」

 一見すればいつもと同じレティシア・レインフィールだが、心ここにあらずといった風情を目ざとい後輩は察していた。今回の小旅行も、気分転換になればと思って誘ったのだが今の所効果はいま一つのようだ。リサ・ベイカーが身をかがめ、ひそひそと妖精(ゲルダの)耳へ囁く。

(……先輩にも、一人悩む時間が欲しいかもしれません。私達にも作戦会議が必要かも)
(そう……でしょうか)

 リサは、心配するゲルダの気持ちも分かる。が、何となく察している内容が内容で、レティシアから相談してくるならともかく、こちらからどう触れていけばよいのか。デリケートな話題だけに踏み込む度合いを決めかねていた。

●
「この度はお招きくださりありがとうございます。こちら、つまらないものでございますが……」

 ハリーヌ・ヨツユビが差し出したのは、ハーフビーストでも使いやすいコスメ。説明しようとちょこちょこ近づくハリーヌ(二足歩行ハリネズミ)に、ローラ船長の目が丸くなる。

「おやまあ。ここまで獣が強く出ていたら、王国だと生きにくいだろうに。強い子だね。良い子だね」
「はっ、いえ、ワタクシはそれほどの者ではございません、が!」

 抱き上げられて撫でられて、普段誰かに触れられる時とは違う感覚に棘がふわっと動いた。じたばたもがいて脱出し、ちょっと距離を取る。

「やや?もしやおめでたでございますか?」
「――やっぱり、もしかしてお腹に赤ちゃんいるのかなって思ったんだ」
「え? 言ってくれれば祝の品くらい持ってきたのに。三人目だっけ?」

 ハリーヌと同時に、エルゼリオも気が付いていた。テオドールが聞けば、ローラは四人目だよと破顔する。彼が学園教師をやっていた間に、知らない義弟が生まれていたらしい。

「お身体を大切になさってくださいませ」
「ありがとうね。しばらくは海に出ないから、コイツは大事に使わせてもらうよ」
「お気に召しましたら、幸いでございます」

 ハリーヌと挨拶を交わす様子には影こそないが、エルゼリオには思う所もあった。蔑視の強い王国で、侯爵家の妾腹の子が辿る道は容易ならざるものではないか。もしかしたら、テオドールに助けを求めるために、招いたのではとも思う。

「ローラさんに助けてって言われたら。――テオドールさんはどうするの?」
「用件次第だな。船長には恩義があるが、あの人結構無茶苦茶言うからさ」
「あ。頼んでいいならアタシが生むまでの間、大海魔(クラーケン号)を預けたいんだけどねえ?」
「ほら……」

 色っぽい目で片目を瞑る様子には、悩みなど無いようにも見える。エルゼリオの懸念には、テオドールはなるほどと頷いた。

「ウチはちょっと特殊だから。まあ、生まれる子が悪い目に合う事は無いよ」
「それは……。現在の王国でハーフビーストを妾と公言するのに、何の思惑も無いとは思えないのですが」

 思わずヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンが問うと、テオドールは乾いた笑みを返す。実際、思惑どころか当人が自由恋愛をしているだけなのだが、それが許される貴族家というのが普通ではないのは間違いない。

「まあ、ディンドルフ侯爵は代々、女性関係は慎まないから。当代はハーフビーストだけど、先代はエルフだったし、その前は普通にヒューマンだったりして、もう諦められてるんじゃないかな」
「……私もドワーフに一目を置いているところがありますが、それは何と申しますか……」

 ヴァレリアが遠い目をする。領主は領内の支配者だが、それは周囲と毛色の違う事が遠慮なくできるという意味ではない。

「一応他の家にも配慮してはいるんだ。ディンドルフの家名を名乗れるのは、ヒューマン同士の間に出来たヒューマンの子っていうのが条件の一つだから」
「貴族の血は汚していない、と?」
「そもそも、他種族の血が汚れてると考えてる奴は、あまりいない土地だけどね」

 差別は無いらしいが、伴侶としてはドワーフとリザードマンが比較的不人気らしい。理由は、地面に縛り付けられて海に出れなくなる気がするから、だとか。

「ディンドルフ侯爵家はある意味中立派だと伺いましたが、中立と孤立は違います。孤立している家が、そんな違いを見せれば叩かれる隙になるだけですよね」

 ミィアは、ディンドルフ侯爵が建国以来家を保っているからには、孤立では無く中立なのだろうと踏んでいた。つまり、どの派閥にも取り込まれぬように「貸し」を作り、適度な距離を取る為の外交が欠かせない筈だ、と。その動きに興味があるのだとミィアは言う。

「ディンドルフ侯爵家が自主自立であるならば、むしろ政治的に動かなければ保てないでしょう。婚姻というカードを捨ててもなお、政治的に弱みにならないだけの強さがあるのでは?」

 そして他の札を優位に使って駆け引きをする、それだけのバランス感覚がある筈だとミィアが言えば、テオドールは自分よりもウチの事が分かってそうだと苦笑する。ハーフリングにしては背の高い容姿と相まって、ぱっと見では貴族や商家の令嬢のようなミィアの視点ではあった。

「まあ、そういう面もあるね。ウチが他所に優位なのは、政治的な面子の貸し借りよりどちらかといえば商売上の話なんだ」

 テオドールが語る所に拠れば、各地への船便のそれなりの範囲がディンドルフの港から出ている。その積み荷そのものや、道中の安全などを保障しているというのが最大の強みだ。

「派閥抗争をするのは構わないが、うちはどこにもつかないし、どこかが取り込もうとしたら手を切るよ、と言うスタンスだね」
「……貴族と言うよりは商人か、あるいは地方軍閥か何かでしょうか……」
「辺境伯も、北以外は似たような物じゃないかな」

 言い換えれば、海という地の利に頼っているにせよ辺境伯と比しても遜色ない背景のある侯爵家と言う事と、ミィアは納得した。受け答えする婚約者(テオドール)から、少し離れて座っているサラに海神・江流が声を掛ける。

「こんにちは、少しいいかな」
「あら。部員の海神様、でしたわね? どうぞ」

 江流の年齢の半分以下のサラと、テオドールの13歳差の婚約。貴族社会では良くあるし、何なら市井でも訳アリなら不思議の無い関係だが、江流の周囲で似たような話は余りない。機会があれば、当事者がどう思っているのか聞いてみたかった。

「あら。そうでしたの? ……でも、あまり海神様に参考になる様なお話ができるかどうか」

 サラにも江流の事情は知られていた。まあ学園でも有名な高嶺の花に冒険者とくれば、噂の種になるのは必然か。

「私達はお互い、義務として一緒に過ごしている段階ですわね。先生は楽しい方ですから、義務としても不快ではないですが。先の事はまだわかりませんわ。破棄する時の相談もしておりますし」

 婚約破棄などすれば大騒動になるのが今の貴族社会だ。状況次第でと考えているサラもテオドールも、その弊害は覚悟しているのだろう。

「侯爵令嬢ともなれば、私などとは全然名の重みも違うと思います。ですから、参考にはならないと思うと申し上げました」
「俺の側は、貴族の事情に首を突っ込んだだけの平民なんだけどな」
「まだご自身の事をそう考えているのだとしたら、少しお覚悟が足りないかと思いますわ」

 期間が長引けば噂にも重みができる。別れたとしても、身分違いの悲恋や一時の気の迷いで済むか、公然の愛人だったなどと言われる可能性だってある。相手に降りかかる物を含めて背負える覚悟があって、今の状態を続けているのかと問われると、軽々しくは答えを出せない。

「……参ったな」

 婚姻が自分の武器と育った娘に比べれば、30を過ぎて恋に戸惑う江流の方が幼いのかもしれなかった。話が一区切りついた所で、ローザリカ・L・ディオールが声を掛けてくる。

「私もディンドルフ侯爵家の海上交易路についてお話を伺いたいのだが、サラくんも同席してはくれないだろうか」
「あら、それは楽しそうなお話ですわね。テオドール先生さえよければ、喜んで」
「……いや、いいけどね。船長には貴族っぽい話は無理だろうなあ。海の話ならともかく」

 まず婚約者の意向を伺っている。一般的な令嬢はまあそうなんだよな、と思いつつ、ジュスト・ヴェルジーが後からフォローに入った。

「むしろ、政治の話になる事を避けたいんですよ。同席者は多い方がいいし、できれば利害関係がない人が望ましい」

 男性陣が話を纏める間に、女性陣もこそこそと会話を交わしている。

(結婚前に、相手の家の様子を知っておくのも良いかと思ってね。お節介だったかな?)
(ご配慮ありがとうございます)

 侯爵家と男爵家の格差を思えば、気安く話せるのは五男と婚約者と言う立場の今のうち。テオドールが婿入りしてからでは難しかろう。

「その席、私も同席させていただいて良いでしょうか? 海を巡る冒険など、是非お聞かせ願いたく」

 未知なる物事へ貪欲なヴァレリアが前のめりだ。ハフビの扱いの話なども面白かったが、海賊の出から貴族となったという出自にも興味があるらしい。

●
(政治? 派閥? 陰謀? 知らんわそんなもん、遊べるなら遊ぶだけだし)

 一方、サイラスはその辺りの会話からは一線を引いていた。自分は王国民でもないし、王国の政治に干渉するつもりも義理もない。知り合いが困るならともかく、サイラスが主体的に首を突っ込もうとは毛頭思っていなかった。

「漁場はあっち? 俺は先に行ってるわ」

 今回の目的は、釣り。褌一丁と職人の釣竿を手に準備万端のガチ勢である。

「広い海! 青い空! これが王国南方でございますね!」

 感動に打ち震えるハリーヌも、スポーティな水着に身を包んだその肢体(性別も分からないハリネズミのサービスシーン)を陽光の下に惜しげもなく晒していた。

「その、やっぱり私には明るい色は……派手なパレオも……、そういうのはミアさんに似合うのであって……」
「やっぱり可愛いですね! ルベアさんは素敵な方ですから、もっと自信を持って!」

 羽織物から左腕や背中が覗かないかと気もそぞろに、ルベア・ベルニがミア=リゼルに引っ張られていく。2人で海に来るのは初めてではないにせよ久しぶりで、年頃の少女らしく水着選びから楽しんだらしい。

「わぁ凄いよ、遠くまで砂浜広がって……。海、歩いてってみようよ」
「そういう時は、男らしくエスコートしてくれるものよね?」

 テュリン・ヴィングが揶揄うように手を出せば、頬を赤らめつつララベル・サン・ディーベルが手のひらをそっと添える。幼馴染の2人は海へも幾度となく来たことがあるが、学園生と言う立場と、恋人と言う関係になって見る景色は鮮やかに感じた。

「あ! トマスくん! 一緒に海で遊ぼー!」
「トマスさんも、良かったらご一緒に如何ですか?」

 同じく水着で浜辺まで駆けていたサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが手を振り、コルネリウス・アーラがふわりと笑う。

「我々は水着は用意してこなかったのだが……」
「もう、せっかくの海なのに駄目だぞ! 自分はともかく、周りの子には用意しないとー!」
「波打ち際で貝殻拾いをしようと思っているので、その格好でも大丈夫ですよ」

 生まれも育ちも内陸のトマスにとっても、海は未経験ではないにせよ珍しいらしい。

「以前の……何と言ったか。そうだ、ゴブリンの……山刀団、の一件もこんな役に立つ物なのだな」

 サマエラ=フォリウムもメリハリのある身体を飾り気のない水着で覆っていた。冒険者ギルド分類で細身だというが、測定係の目は節穴だったに違いない。時折、監視するような視線を感じて周囲を見ると、同様に警戒しているトマスの護衛達にも気が付いた。

(まあ、目立たぬように過ごしていれば害はない、だろうか)

 殺意や悪意は感じないので、そっと身を隠して磯へと向かう。実は浜辺で戯れる組よりも、磯で釣りを楽しむ面々の方がしっかり水着を着こんでいた。先のハリーヌも相棒のゴリラと共に水辺で鼻をひくひくさせている。腰に巻いたロープをゴリラに委ね、いざ水中へ。

「お? そっちも撒き餌持ち? 2人でやると効果は二倍になるのかねえ」

 先に足を水に浸けていたサイラスが、目ざとくハリーヌのスキルに言及する。倍になるかは定かではないが、普段は漁場になっていないのか魚は豊富なようだ。様子見で投げた竿にもう当たりが来ている。

「こりゃあ、魔獣はいないか? 平和すぎる」

 街からも遠くはない沿岸部となると、居たとしても普通の魚に毛が生えた程度のものだろう。それ以上のモノが釣れてしまえばそれはそれで問題だ。口を開けて待っている白い狼(大福)へと、針を外して投げると喜んで喰いついた。さて、釣りガチ勢のサイラス以外に実は今一人、職人の釣竿と水着をセットにやる気満々な少年がいる。

「オレも釣りには自信があるからな。今日は楽しもうぜ!」
「釣り糸を垂らして待つより、銛で突きに行った方が早くない?」
「まあ、試してみなって」

 経験者のナキルが、エフィルミア(森育ちの彼女)にレクチャーするつもりらしい。今日の釣果でサイラスに挑めそうなのは彼くらいに見えたのだが、未経験者(足手まとい)がいるならサイラスの天下は揺るぐまい。

「やっぱりそうですよねえ。銛で突いた方が早くおもってしまいますわ」

 竿を手にネーヴェも首を傾げているようで、聞いていたキーゼが表情は変えずに眉を少し上げた。

「海エルフとして名高い貴女が釣りの経験が浅い、というのも驚きですが……、確かに潜った方が確実なのかもしれませんしね」

 キーゼは「こんな物は餌をつけて居そうな場所に投げるだけですよ」と簡単に説明を終えて、習うより慣れろという方針である。一方、似た立場のナキルは手取り足取り面倒を見るタイプらしい。

「釣り竿はこう持って」
「持ち方はこんな感じでいい?」

 見よう見まねのエフィルミアに手を添えて姿勢を整えてから、隣でひゅん、と竿を振る。

「やってみるか?」
「うん。こう、かな?」

 勢いよく振った竿の先から、針が勢いよく飛んで行った。楽しく話しながら待つことしばし、竿が揺れる。

「な、なんか掛かった! 引っ張られてるー!これどうしたらいいの?」
「落ち着けミア、こう確り構えて――」

 慌てるエフィルミアに落ち着いて声を掛けるナキル。普段よりも頼もしく思えて、内心ときめきつつも言葉に従い引いて押して。


 楽し気なカップル(ゴリラとハリネズミを含む)や、気炎を上げているガチ勢から離れ、ひっそりとサマエラは釣り糸を垂らす。

「さて、食せる様なものは釣れるだろうか」

 のんびりと待つのは苦にならず、むしろ剣を交わすひりついた感覚よりも好みかもしれない。

●
「うわっ、た、とっ、足! 攣った、かも!」
「ベル、大丈夫!? ……ああ、うん。そうなるわよね」

 それを見越して沖まで泳いでいたテュリンは、胸元を抑えつつ苦笑する。慌てたララベルが伸ばした手はテュリンの手では無く豊かな胸元に伸び、いつもの如き偶然が水着のひもを緩めてしまう。

「他の人に見られてないからいいけど……。ちょっと水着追いかけてくるわ。1人で平気?」
「うん……、ごめん。大丈夫」

 はしゃいで泳ぎすぎたかもしれない、と脚をセルフ揉みしつつ反省するララベル。後で浜でマッサージしてあげる、と言えば頬を染めて喜ぶ様子が可愛らしい。姉と弟から恋人になっても、変わらない事もある訳で、ちょくちょく世話を焼いてもあげたいのだ。浜辺では、寄せては返す波に足まで浸しつつ、ミアが楽し気な沖の方をちらりと見る。

「ところで私は今年、泳げるようになりたいと思ってて……。ルベアさんはどうですか? 泳ぐのは得意?」
「泳ぎ? そこそこ得意、だと思うわ」

 依頼では素潜り漁の経験もあるし、とルベアが答えると、ミアは目を輝かせた。泳ぎ方を教えて欲しいという友人に、ルベアはいつものようについ、予防線を張ってしまう。

「教えるなんてしたことないから上手く教えられるかどうか分からないけど、私で良かったら……」
「もう。ルベアさんだからお願いしているんです!」
「そう。アナタが綺麗に泳げるようになったら、きっと喜んで見惚れる男もいることだし、責任重大ね」

 お友達ですから、と言われれば照れつつも頷き。ふと思いついたように揶揄いの言葉を口にした。

「……あ、あの人のことは……! もう、私と一緒にいるのですから、他の人のお話、だめなのです」
「あ、うん……」

 照れ隠しに飛びつくように腕を取り、早く早くと沖へ引っ張るミア。どちらが泳げないのか、そこだけ見ていると分からなくなりそうだった。

「む。貝が逃げたぞ」
「トマスくん、ヤドカリ知らないの?」

 笑いながら、サフィラが説明する。トマスは物知りのようで案外偏っていた。

「あら、この穴は……」
「貝が棲んでいるんでしょうね。掘れば見つかるかもしれませんよ」

 波打ち際の空気穴を見つけたコルネリウスに、食材に関する知識は豊富なシオンが掘る事を提案する。貝殻だけでなく、中身も手に入れば夕食が少し豪華になりそうだ。

「貝殻だけでなく、浜には色々な物があるのだな」
「この枯れ木とか、どこから流れて来たのかな?」
「もしかしたら難破した船の一部かもしれませんね」
「あ、サンゴだ!」

 浜を歩けば、他にもいろいろな物が見つかり、話題も弾む。きょろきょろ目ざといサフィラが何かを見つけて、コルネリウスが話題を広げるのにトマスが相槌を打った。

●
 海が望めるテラスで風に吹かれつつ、やはり水着も持って来たかったというローザリカを、先日の潮干狩りを例にジュストが宥めている。

「今日のドレスも涼し気でよく似合っているよ」
「それなりに気合を入れて選んだからね。当然、と言っておこうか」
「これから陽射しも強くなるし、近々帽子や日傘を新調しようか」

 などとジュストが言う。貴族の常識的には買うとは出入りの商人に持ってこさせるの意味ではあるが。

「買いに行くのかい?」
「君さえよければ」

 街デートの口実にもなる。そんな2人に少し遅れてヴァレリアとローラがやってきた。話題はディンドルフの誇る海上交易の話になる。出自が海賊という家が侯爵にまでなるには余程の事があったのかとヴァレリアが水を向ければ、ローラはそうでもないと苦笑した。

「私掠船として相応の活躍をされた、とかで認められたのかと思いましたが……」
「リーンエス王家や始まりの百家だって、その頃は森や荒れ地を開拓する冒険者みたいなもんだ。ウチは海だったってだけさ」

 自分達はその頃から今まで家風を変えておらず、他の王国貴族が変わったのだというのがディンドルフ側の言い分らしい。数百年掛けて王国領内は魔獣やクリーパーを駆逐しつつあるが、海はいまだに人の手の及ばぬ場所だ。同じ人間相手の闘争にかまける暇があれば海に挑むのがディンドルフの男……、に限らず女もか。

「その意気で海上交易も進めているという事かな。正直、内地のうちからすれば羨ましい」
「ふぅん、ディオール……というとリベラ商会かい? 金払いは良い上客だったね」

 貴重な積み荷を急ぎでという注文を受けた事もあるとローラは言う。交易路としての港自体は所定の利用料を払えば誰でも船を持てる。しかし、ディンドルフの領海は決して安全では無く、侯爵家の軍船を雇うか、自前で護衛を用意するかが必要であり、それが侯爵家の力の源泉だ。

「まあ、リブラネスタなんかは自前で船団組んでくる事もあるわね。あそこの海軍はウチともいい勝負すると思う」

 負けるとは言わない辺りが矜持なのだろう。これが内地なら街道筋の治安を守らなければ他の街道を選ばれてしまうが、海路は選べる良港がそう多くない。ディンドルフ侯爵はあえて海を掃除しきらないのかもしれないな、とジュストは思うが、それを口にはせず当たり障りの無い歓談を続けた。

●
 日が傾き、徐々に水温が下がって来る。海水の掛け合いではしゃいでいたララベルとテュリンも海から上がり、浜で並んで夕日を眺めていた。リブラネスタで見るのとは、少し趣が違って見える。

「小さい頃も一緒に海行ったけど、こんなに遠浅でも綺麗でも無かったよね……」
「同じ海でも、場所が違えば環境も違うからね。それでも、楽しいのは変わらないわね」
「うん。今日も楽しかった、ね」

 時間を惜しむように呟き、隣の横顔を覗き込むと、テュリンがそっと目を閉じた。唇を寄せたララベルの肩に手を回し、自分の方へと強く引き寄せる。寄せては返す波音が、2人の吐息に重なった。

●
 本日の釣果は、質でも量でもサイラスが圧倒的だった。小物はリリースしたりペットの餌にしたりで数に数えぬ状況で、数にして3割。大物の上位10傑のうち6尾が彼の釣り上げたものである。なお、それ以外は2位の魚が無欲の勝利かサマエラ。5位と10位が経験者の矜持を見せたナキル。8位にしれっと仕事をこなす男キーゼが入っている。

「魚との攻防とか待ってる時のドキドキ感とか、釣りも結構楽しいね!」
「そうか? それなら良かった」

 初挑戦のエフィルミアも楽しんだようで、ナキルとしてはそれが何よりも嬉しい。楽し気な笑顔に見とれていると、ナキルの釣った魚を感心してみていたエフィルミアに「こういう新鮮なの、お刺身にしたら美味しいんでしょ?」などと美味しい夕食をねだられる。

「おう、港育ちのいい所見せてやるぜ!」

 料理は本職に任せるにせよ、捌く位はお手の物と腕まくりしつつナキルは調理場へ向かった。

「勝負には負けてしまいましたが沢山釣れて嬉しいですわ」

 サイズ的にはともかく、当たりの多かったネーヴェが嬉しそうに笑う。キーゼが提案した「釣果が少ない方が勝ち」という提案は未経験の自分への配慮かとも思いつつ、それでも大漁は嬉しい物だ。

「さ、キーゼさんのお望みは?」
「そうですね、ではまた今度釣りに行きましょう、ということで」

 さほど悩む様子もない所を見れば、勝った場合の返答は用意していたのだろう。いや、負けた場合もか。二択しかない選択肢なら、事前に両方考えている方が彼らしい。そんな彼が慌てた所も見てみたい向きはあるかもしれないが、ネーヴェは彼らしい楽しみ方を見るだけで満足でもあった。

「せっかくなので、自分で釣った物は調理してみたいのだが、厨房を借りても構わないか?」
「あ、私も明日のお弁当を作りたいので、ご一緒させてもらえますか?」

 サマエラが調理場に向かうのを見て、リサも翌朝の為の仕込みに同行する。余分に作った分は、大広間に供しても良い。

「せっかくなので海の幸を使いたいのですけれど、少し分けて頂いてもいいでしょうか」
「構わないぞ。何を作るんだ?」

 リサはサンドイッチをメインに、魚の唐揚げと燻製魚の取り置きを少し分けて貰い、マリネ仕立てのサラダを作る。サマエラは料理人から港町の名物などを聞き、自分なりにアレンジに挑戦していた。本職の料理人の技を見るのも楽しい物だ。ついでに、出来立てのちょっと味見なども楽しみつつ、広間へ出来上がった料理を運んでいく。

「は、はじめまし、」

 広間では、ティトリー=R=アルバートがシルヴィア・A・カペルへ挨拶をしようとして早々に噛んでいた。最近、授恵者となるまで病弱だった彼は学園にも社交の場にも出る機会がなく、歳も家格も近いカペル家の令嬢と会うのも初めてだ。

「お初にお目に掛かります。私はカペル侯爵家のシルヴィア。アルバート侯爵家のティトリー様にお会い出来て光栄です
「ティトリー=R=アルバート……です。こちらこそ、お会いできて光栄です」

 何事もなかったように、落ち着いて述べるシルヴィアに、ティトリーも落ち着きを取り戻す。それでもまだ堅い様子に、シルヴィアはあくまで上品に問いかけた。

「学園の部活動ですし、同じ冒険者でも御座います。多少の御無礼をお許し頂けますでしょうか」
「そ、そうですね。お互い気楽に話せると……いいな」

 返事を聞くが早いか、よそ行きの礼を解いたシルヴィアが破顔する。助かった、とばかりの様子に目を丸くするティトリーに片目を瞑り、料理の並ぶテーブルへと誘った。立食形式に馴染みのないティトリーに説明すると、きょろきょろと興味深げに料理を見ている。

「ぼくは、魚は蒸し料理がすき……」
「ならばそこのが美味しそうだ。私も一つ頂こうか」

 丁度来たリサやサマエラの料理も一つ二つと皿に乗せ、会話慣れしたシルヴィアがリードし、ティトリーの緊張も徐々に失せて懐っこい面が見えてきた。

「そういえば、同学年……だったね」
「お互い来年卒業か。色々と自由も利かなくなるだろうけど、それまでは学園生活を楽しもう」
「そうだね……とはいえぼくは、三男だから。どうするか、考えなくちゃ……」
「確か、テオドール副顧問は五男だったかな。彼のように学園で職に就くのも良いかもしれないが……」

 何事も無ければ学園は6年で出るのが普通だ。そう話を振られたティトリーが胸の辺りを抑えつつ顔をしかめた。

「卒業……ぼく、卒業できるかな……?」
「成績に不安があるのかな。今度一緒に勉強会をしようか」
「いいの?」

 今は諸所の部活でも勉強会を開くし、個人でも勉学に励むのは奨励されている。お互いの立場上2人では無理だろうが、大勢であれば機会もあるだろう。

●
 夜の食事を終えて、身支度を整え、三々五々と部屋へ帰っていく。日中に遊び疲れて早々に眠りにつく者もいれば、ここぞとばかりに話が弾む部屋もあった。サフィラとコルネリウスは今日の話題でひとしきり笑い合い、これまでの思い出話に盛り上がる。

「ふぁぁぁ……眠くなってきちゃった……」
「そろそろ、お休みしましょうか?」

 そうして明りがまた一つ消える時刻に、リサとゲルダは額を寄せて悩んでいた。議題は先輩のレティシアの事だ。様子がおかしいと思い元気づけたいというゲルダに、悩みの目算はついている物の対処法までは分からないリサ。ロスガリアに草津の湯はないし、そもそもそれでも効果がない病である。

「海にお誘いして、少しでも気分転換になればいいな」
「それでいいと思います。あまり私達が気にしすぎると、レティシア先輩も気にしてしまうから」

 軽食の用意も準備万端、明日には自然に誘わねば、と気合を入れている間に瞼が下がり、気が付けば朝。

「一緒に海を見にいきませんか?」
「……そう、ですね」

 海に来たのに、部屋に籠ってばかりでは後輩から心配もされよう。レティシアは普段通りを装って微笑み返す。名残を惜しむように、朝の海を楽しむ人たちを遠目に見つつ、砂浜の堤から水平線を望んだ。

(こんな風に、湖を見る事がありましたっけ。あの頃は彼は、まだ騎士でしたね……)

 考えまいと思うのに、つい悩みの種に考えが向かう。せっかく用意してくれた朝食も、味がしない。

「その……無理にお話をしていただこうとは、思っていません」
「……っ」

 ゲルダの小さな声に、レティシアが息を止める。

「ただ。広い海を見て、波の音を聞いて、潮風を身に感じて。――今、思い浮かぶことを。そのまま、思い浮かべていてほしいです」

 最初に感じたのは、心優しい後輩たちに、容易く見抜かれている自分への不甲斐なさ。そして、ゲルダとリサが一夜明けるまで触れないでくれた優しさと。そちらに目を向ければ、2人のまっすぐな目が見つめている。

「大丈夫ですよ。きっと、大丈夫です」

 事情は知らずとも、ゲルダはそう繰り返す。貴族の生き方は難しい。弱さに揺れる事もあるだろうがそれを否定せず、レティシア自身を認めて欲しい、と。

「ええ。先輩、大丈夫ですよ。まだ何も終わってません、これからですよ! わたしも、お手伝いします!」

 リサが力強く続ける。後輩達の心配に気づかなかった自分を情けなく思いつつも、レティシアは辛うじて微笑みを浮かべた。

「……ありがとうございます。私はもう、大丈夫ですから」

 時を置いて、場所を変えて、気分も変えようとして、それでも悩むことから離れられなかった。その悩みと向かい合える強さが、まだ今の自分に無いとしても。強くなりたいと願う気持ちは、あの日と変わらず心の底にある。

マスターコメント

久しぶりに字数と戦ってしまった! 例によって、入部希望の方に称号を。釣り将軍にも称号を。MVPとか居るような話でもないので無しです。 招待者の希望通り皆様楽しんで下さったので、成功段階は大成功でお返ししています。 ディンドルフ侯爵の変な所に注力してくださった方には、聞かれた部分は返せている、といいな。 と言う訳で、副顧問の御実家は、武闘派で我が道を行く家ですが、それだけでもない感じのおうちでした。 イチャイチャしている皆様には、楽しくイチャイチャしてもらいました。見てのとおりです。 釣り判定は道具、スキル、熱意(プレイングに割かれた文字比率)全てが強かった方が多少の乱数など物ともせず優勝です。 他の方はそれなりに乱数での意外な結果もあり、当然の結果もあり……。 高級魚とか下魚とかの判定はなかったので、でかいけどまずい魚とかあったかもしれないのはノーカン。 鯛が釣れたとか長靴だったとかも入れても楽しかったかもしれませんが、そういうのは釣り有識者のMSに任せよう。 というわけで、少し早めの海遊び、楽しんで頂けたら幸いです。 ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準24 / 10〜25人

2022年06月08日 04時56分03秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ナキル

    「ナキルだ、よろしくな。 ミアと一緒に遊んでる予定だぜ。」

  2. ハリーヌ・ヨツユビ

    ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 護衛依頼は受けておりませんでしたが、せっかくのご招待でございます。 皆様、よろしくお願いするでございますよ!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0