華香、艶やかに
炙りとろ左門
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シナリオID:2092
オープニング
● 華香の典
リーンエス王国東部、享楽都市キサナ——その最大の妓楼となった、妓楼「夜露雫」にて。先日新たに遊女となり、キサナ中を騒がせている期待の艶花、マリカ、フィルヤール、ライラリアは、仲良く花茶を飲んでいた。
「そろそろ『華香の典』ね」
フィルヤールがおっとりと口を開く。最近夜露雫でその単語が出ない日はない。
香水、精油、いわゆるフレグランスと呼ばれるもののための、調合師の祭典。歓楽街であるキサナらしい祭りと言える。
3人にとって、身にまとう「美しさ」は武器である。それにもちろん、香りはかかせない。しかしそれは自分のためというよりは、客のためのもの。
「『自分だけの香り』に憧れる気持ちはあるわね」
マリカが桜饅頭をつまみながらうんうんと頷く。「華香の典」では、調合師が客のために世界にひとつだけの香水や精油を調合するのである。遊女たちもこぞって外に出たがるというものだ。
「……シバは、来るのでしょうか」
ライラリアがぽつりと呟く。その名もまた、夜露雫では毎夜のように囁かれるものだ。
調合師シバ。不思議な魅力を持つ黒髪紫眼の美しい男で、ついた異名が「花精の子」。神出鬼没で、自らを探し出し、それと認めた相手にのみ「願いを叶える特別な香水」を授けるという——。
「私の母の代より前から、夜露雫では馴染みの名前だと……楼主様が」
「じゃあ、生きてたら相当なおじいちゃんじゃない」
噂には尾鰭がつくものだ。マリカはフィルヤールの文机に肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せる。
「……この際はっきりさせるのもいいわね」
「あら、だめよ、女の夢を壊すなんて」
マリカの悪巧みを、フィルヤールは言葉の上では嗜めるが、興味津々といった様子だ。
「でも、ライラリアだって気になるでしょう?」
「まあ……少しは……」
『願いを叶える特別な香水』。シバ同様、そんなものが確かに存在するのか——。
「でも、私たちは自由に外を歩けません」
「だから、冒険者に頼めばいいのよ」
フィルヤールは毛筆を置く。彼女が認めたのは、1通の依頼書だった。
リーンエス王国東部、享楽都市キサナ——その最大の妓楼となった、妓楼「夜露雫」にて。先日新たに遊女となり、キサナ中を騒がせている期待の艶花、マリカ、フィルヤール、ライラリアは、仲良く花茶を飲んでいた。
「そろそろ『華香の典』ね」
フィルヤールがおっとりと口を開く。最近夜露雫でその単語が出ない日はない。
香水、精油、いわゆるフレグランスと呼ばれるもののための、調合師の祭典。歓楽街であるキサナらしい祭りと言える。
3人にとって、身にまとう「美しさ」は武器である。それにもちろん、香りはかかせない。しかしそれは自分のためというよりは、客のためのもの。
「『自分だけの香り』に憧れる気持ちはあるわね」
マリカが桜饅頭をつまみながらうんうんと頷く。「華香の典」では、調合師が客のために世界にひとつだけの香水や精油を調合するのである。遊女たちもこぞって外に出たがるというものだ。
「……シバは、来るのでしょうか」
ライラリアがぽつりと呟く。その名もまた、夜露雫では毎夜のように囁かれるものだ。
調合師シバ。不思議な魅力を持つ黒髪紫眼の美しい男で、ついた異名が「花精の子」。神出鬼没で、自らを探し出し、それと認めた相手にのみ「願いを叶える特別な香水」を授けるという——。
「私の母の代より前から、夜露雫では馴染みの名前だと……楼主様が」
「じゃあ、生きてたら相当なおじいちゃんじゃない」
噂には尾鰭がつくものだ。マリカはフィルヤールの文机に肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せる。
「……この際はっきりさせるのもいいわね」
「あら、だめよ、女の夢を壊すなんて」
マリカの悪巧みを、フィルヤールは言葉の上では嗜めるが、興味津々といった様子だ。
「でも、ライラリアだって気になるでしょう?」
「まあ……少しは……」
『願いを叶える特別な香水』。シバ同様、そんなものが確かに存在するのか——。
「でも、私たちは自由に外を歩けません」
「だから、冒険者に頼めばいいのよ」
フィルヤールは毛筆を置く。彼女が認めたのは、1通の依頼書だった。
解説
皆さんはリーンエス王国東部のいち都市、「享楽都市 キサナ」へとやってきました。
今日はキサナ・フレグランスが一堂に会する「華香の典」。遊女三姉妹は、ほぼ伝説の存在である「調香師シバ」の捜索を冒険者たちに依頼します。
捜索判定にさえ成功すれば、あとはフリータイム。好みの香水や精油の調合を依頼でき、MS的にはこちらがメイン。
詳しくないという方も「こんな感じ」とプレイングに香りの雰囲気を書いていただければ、MSがいいかんじに調合いたします!
【!】香水や精油の成分の一部は、ペットに有害であることがあります。ペット連れの方はご注意ください。
★調香師シバ
キサナの人々の間で知られている調香師です。不思議な魅力を持つ黒髪紫眼の美しい男性で、「花精の子」とも呼ばれていますが、実情は定かではありません。自らを探し出し、それと認めた相手にのみ「願いを叶える特別な香水」を授けると言われています。
■享楽都市キサナ
明けぬ夜の歓楽街。しかしどちらかといえば高級志向、遊ぶにはだいぶお金がかかります。とはいえ、ご飯を食べたり飲んだり、観光する程度であれば冒険者の手取りで足りるでしょう。雰囲気の参考としては、アラビア風というか……そんな感じです。オアシスとはいうものの、砂漠のど真ん中ではないです。
■NPC
★マリカ
気位が高く、それに見合った教養と美貌を兼ね備える遊女です。東方由来と伝えられる遊戯のひとつ「方円目(囲碁)」が得意であり、自分を負かした男だけ奥座敷に上げると豪語しています。親に売られたことを覚えており、いつか幸せな家庭を作りたいと思っています。
★フィルヤール
「夜露雫」の遊女見習いたちにとって頼れる姉であり、母性溢れる遊女です。病気の母のために妓楼に入りました。おっとりとした性格で心優しく、読書を好み、詩作に長けています。いずれ作家になりたいという夢を抱いており、今日も筆を執っています。
★ライラリア
「夜露雫」にて「歌乙女」と呼ばれている遊女です。母親は「舞乙女」と呼ばれた遊女であり、とある上級貴族から一夜の情けをかけられて生まれた娘です。このため生まれも育ちも妓楼で、この世界の外のことをほとんど知りません。憂深い佇まいで、美しく儚げな声で歌います。
マスターより
初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。モフモフの巨大うさぎが生地の上で跳ねるとかいうトンチキは避けられました。おれは しょうきに もどった!
というわけで、キサナにて香水や精油を買ったり作ったりしよう! というシナリオです。あっ違った調香師を探す依頼です。
ぶりとろは冒険者さんのファンなので、できるだけ多くの冒険者さんの香り情報を手に入れるために懲りずにイベシナですスンスンスンスンどうぞお誘い合わせの上クンクンクン ハーーー
■特記
プレイングで指定しなければ、モブ含むNPCの描写は最低限か、登場しません。字数の都合でNPCとのやりとりがカットされる場合もございます。ご了承ください。
マスターページは参照しなくても判定に影響はありませんが、上記の他、描写やマスタリングに関する項目があります。
それでは皆様のご参加&プレイング、お待ちしております!
リプレイ
華香の典——その日、夜露雫の艶花たちが助力を求めた冒険者たちは、伝説の調香師であるシバを探す。その様子を、本人はとある宿の一室から面白そうに眺めていた。
「『シバ』に注目が集まるのは、珍しいことではないけれど……」
とくに『華香の典』ともなれば。長い黒檀の髪を耳にかけ、薄く染まった紫瞳が細められる。
「こんなに大人数に求められるのは初めてだ。皆、私のことは夢物語だと思っているとばかり」
そして、柔らかなソファの背もたれに再び身を預ける。
「隠れないんですか?」
「悪意を持って探しているならそうするけどね」
少女の問いに、シバは微笑んで答える。
「シバ、君の腕を見る良い機会でもある。期待しているよ」
● 調香師を探して
「調香師ねえ……」
ナハシュは大きくあくびをする。あまり興味はなさそうだが、その隣にいるヨル・スレイマンは対照的に楽しそうだ。
「香りは服のようなものなんだ。自分用に香水を調合して貰えるなんてそうないし。折角だから君も作ってもらいなよ、なんなら贈る……まあ見つけることができたら、だけど」
ナハシュの方が人探しは得意だろうと、そういうことだ。とはいえ街の中を闇雲に探しても良い結果は得られないだろう。
「噂話はまず、酒場や娼館で聞き込みだな」
「そうだね、知らない人はいない、という感じのようだし……情報が濃そうなところをあたろう。……そういえば、過去にシバの香水を手に入れた人っているのかな」
ヨルの疑問に、ふむとナハシュは顎をさする。
「それも聞いてみるのもアリかもな」
ふたりは地道に聞き込んでいく。できるだけ探していると悟られないよう、噂話を聞いた観光客、という体で。真偽が不明な噂でも、重なり合うところからひとつの人物像が浮かび上がってくる。
「依頼主の話だと、シバは男だってことだが……たまに女だって話も混ざってくるな」
単に中性的な人物なのかと思いきや、小柄な少女だという。しかし、成人男性であるという話が圧倒的に多い。
「ふたりいる、とかか?」
「襲名制なのかもしれないね。ヒューマンかエルフか……共通しているのは、黒い髪に紫の眼……」
と、ふたりのそばで足音が止まった。雑踏の中、普通は見逃してしまうような気配を、ナハシュは鋭敏に察知する。顔を上げれば、ヴェールで顔を隠した少女が驚いた表情でナハシュたちを見ていた。
「あ、えっと」
少女の瞳は淡い紫——ナハシュが声を上げる前に、少女は弾かれたように駆け出し、人ごみの中に紛れて消えてしまった。
「あれじゃね?」
「えっ」
ヨルは一歩を踏み出して少し悩む。そしてナハシュを神妙な表情で振り返った。
「ここで追いかけたら……変質者と思われないかな!?」
「まあ子供だったしな」
見たところ10歳前後だろうか。悩むヨルの傍らで、ナハシュはその少女がまだ近くからふたりを観察していることに気づかないふりをして、会話を続ける。
「んー、でも仮にシバだったとして。手ぶらでってわけにもいかないだろ」
「あ、ナハシュ、お腹すいた?」
「肉ならいつでも食う準備がある」
物陰にある小さな気配が、ぴくりと反応する。土産の話を続けるふたりに徐々に近づき、やがておずおずと顔を出した——。
サイラスは何人かの調香師に金を握らせて情報を得ようとした——のだが。祭典に参加している調香師たちは揃って「金じゃなく香を買わないか」というので、サイラスの鞄が早々に香で溢れるところだった。さすがキサナまわりの人間は商魂逞しい。
「シバは我々の間でも伝説のようなものでね。黒い髪は特別珍しいものでもないし、瞳の色も光の加減で違って見えたりするだろう?」
ほら、私もだよ、と、その調香師はヴェールから覗く黒髪に触れる。
調香師が作っているのは抹香だ。シャルガネ風の身なりで歩いていたサイラスに合わせてのもので、火に供せば沈香の独特な香りが漂う。
「入れ物も安くしておこう」
「キサナで買うとむっちゃ高くない?」
茶化すようにサイラスが言うと、調香師はおかしそうに笑った。
「一流の技術には一流の品を。それは君の仕事にも通ずることだと思うけれどね」
鉄を鍛える火金の術。それから生み出されるものは、中途半端なものではいけない。
「さあ、できた。まとめて包んでおこう」
ルベア・ベルニは捜索の手を休め、一息ついていた。
情報収集の結果は、シバは「生ける伝説」と呼ぶにふさわしい人物であることを示している。人々が作り出した幻想、夢想の類では、という線すらも浮かんできた。
依頼人は「見つからなければそれはそれで話の種になる」とは言っていたが……。
そもそも彼女たちが望むものを伝えたところで、対価に一体何を求められるのか。
「お金なら解決は比較的簡単だけれど……」
依頼人は夜露雫の艶花たちだ。品のない要求をしてきたらどうしよう。
「……あら?」
ぼうっと考えているルベアの視界に、ふと、小柄な少女が現れた。人の波に飲まれそうになっている彼女を、ルベアはその腕を引いて助け出す。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
少女からは香のにおいがした。調香師たちが纏う空気と同じだ。複数の香りが混ざるも、それを周囲に不快に思わせないようにしている。
しかしそれ以上に香る、肉の串焼き。
「冒険者さんに……もらいました。ので、作ってあげたんです」
大きな、淡い紫の瞳が瞬く。そしてルベアは瞬時に状況を理解した。
「あなたの技術を必要としている人たちがいるの」
それから、自分も——心の安定と、前向きに生きる気持ちを持てる、そんな香りを。
少女は串焼きを食べ終わると、すっと近くの屋台を指差すのだった。
「んん?」
と、そこへベルク・オスマットが合流する。ベルクも超嗅覚で調香師を探していたのだが、途中で食事の匂いにつられたらしい。そして少女に気づくと、じっと見つめる。
「もしかしたらこの子がシバかも……お腹が空いてるみたい」
ルベアが声を潜めてつつ伝えると、ベルクはなるほどと頷いた。
「であれば、買ってやろう」
ベルクの言葉に、少女は目を輝かせる。ベルクはすかさず「ただし、」と付け加えた。
「その代わり、作ってもらいたいものがある」
「お姉さんも、お香が欲しいんですか?」
「ああ。確か……伽羅と言ってたかな。練り香水をな」
昔、ベルクが奉公していた商会で、姐さんが上客の相手をする際につけていた香りだ。思い出と共にあるその香りを、手に入るものなら頼みたい。
「伽羅……は、お家に帰らないと」
少女は少し迷ったようだったが、頼みは受けるつもりであるらしい。
「遊女さんのことも、御師に伝えないと。ついてきてくれますか?」
ルベアとベルクは顔を見合わせる。どうやらシバには、師がいるらしい。
フリューリングスルフト=ティエラは、キサナの古い住人を中心に聞き込んでいた。その中でひとり、やたら印象のぼやける人物を見つけ出す。
「……シバ?」
フリューは小さく尋ねた。すると、その人物は目深に被ったヴェールの下で微笑んだ。
「よく分かったね。冒険者たちは、名無しの気配にはむしろ敏感なのかな」
注意深く観察すれば、黒い髪に紫の瞳の男。聞き込んだ外見的特徴は一致している。しかし世代を跨いで噂される目の前の男は若々しく、どう見ても二十代かそこらだ。花精の子と言われているのにも納得である。単に若作りなだけかもしれないが。
「それで、私を探しているということは、頼みたいものがあるのかな?」
「……んと」
フリューは周りを気にしつつ、もじもじと言葉を紡ぐ。
「その……大人っぽい、香り。ともだちと出かけた時とか……ちょっとおめかしした時、に。こう、お、女の子っぽいの、なーんて」
えへへー、と笑って言葉尻を濁す。フリューはよく外を駆け回る分、日の暖かな香りや、汗や土のにおいを纏う。それを気にして清める分、それはたいてい石鹸の香りに上書きされてしまうのだが。
「いいよ」
「えっ」
「『願いを叶える香水』の種を明かそう。私たちの作るものは、前に進みたい、変わりたいと思っている人たちの背中を押すためのものだ。それが一人歩きして、『願いを叶える』なんて枕詞がつくようになったんだよ」
シバは、それと認めた相手にしか香水を作らないという。その条件は不明であるものの、金を受け取ったという話は不思議とない。普通の調香師に紛れている時はその限りでは無いらしいが……。
「だから、君が香水を求める理由を教えて欲しいな」
尋ねられ、キオルティスはふむと頤に指をかける。
シバを見つけたキオルティスが案内されたのは、多種多様な香草が保管された隠れ家のような家だった。『今代のシバ』と『次代のシバ』はここで、表向きには父娘として暮らしているらしい。
そんなシバにキオルティスが求めたのは、自分のための香水と、妹へ贈るもの、そしてもうひとつ——。
「どんな時でも、周囲に笑顔をもたらせるように」
いいね、と『シバ』は笑った。
「みっつか。君にひとつ、妹君にひとつ。最後のものは私が作ろう。シバ、混合液を分けておいて」
「はい、御師」
ふたりのシバが慌ただしく作業を始める横で、キオルティスは机の上に置かれたガラスのティーポットに再び視線を移した。乾燥させた花ばなが浮かぶその茶は、夢の中に迷い込んだような香りを漂わせていた。
キオルティスが調合済みの香水を手にシバの隠れ家を去ったのと入れ替わりに、ミリシュ=フレアティはシバのもとに辿り着いた。やや緊張気味にふたりのシバに向き直る。
「あなたの作る香水は、願いを叶える、と」
「背中を押すだけだよ」
シバは苦笑して訂正する。だが、絶対の自信に満ちた微笑みであった。
「君が私を、そして自分のことを信じることができれば、何事もうまくいく。そういうものだ。さ、とにかく座って」
シバはミリシュをティーテーブルにつかせると、ふわりと甘やかな香りのする茶を淹れた。
「……こんな風に、らしい香りを纏うことができればと、思ったのだわ」
かつて愛した人。只人の寿命からしてその者はすでに亡く、本人との再会が難しいとしても。どうしても諦められないのだ。
「花は枯れても、種を残す。そんなふうに君の願いもいつか、しかるべきところに辿り着くはずだ」
桜、桃、女王薔薇、芍薬。シバはそれらの花々の香りを抽出したものを、混合液と一緒に混ぜていく。
「でも、君本来の香りも忘れないでね」
それは、ミリシュが歩んできた道のりの証明となるものだから——シバはそう付け加えた。
「もし真っ当な生き方をしていたら、か」
シバを見つけたオゴスは、作ってほしい香水について話していた。それに対し、シバは薄く微笑んで顎をさする。
「私の作るものは、それを使った人が一歩を踏み出すことを目的としている。君は……『もしも』の夢を見るだけで満足なのかな?」
お節介かもしれないけれど、とシバは言う。
「俺はもう、その道を行くのは無理なんです」
オゴスには目的がある。その道程を、流れる血なしに進めるとは思えなかった。
「じゃあ、こうしよう」
シバはオゴスの纏う雰囲気や交わした言葉から、オゴスの求める香りを導き出す。記録紙に滑らせたペンを一旦止めて、シバはオゴスを見つめた。
「君が、その足取りに自信を持てるように。自分が覚悟して選んだ道だと思えるように。君は、堂々としていればいい」
シバは記録紙を少女に渡すと、棚の引き出しを開けて、香料をいくつか見繕う。ネロリ、フィグ、ロータスフラワー、ジャスミン、インセンス、ホワイトムスク——それらのラベルが貼られた香料を机の上に並べていく。
「それが、いい男というものだ」
ナキルは目の前の少女を見つめた。冒険者たちが教えてくれた依頼人に会うため、ナキルと入れ替わりに出ていったシバの弟子だという。
「今日は本当にお客様が多いです。シバが1日の間にこんなにたくさん調香をするのははじめてでしょう」
「……どうして作ってくれるんだ?」
聞けば、彼らは香水を作る相手に条件を設けているらしい。香水にかける願いを持っている人、前へ踏み出すのに少しの勇気が必要な人々へ。しかし時には、気まぐれで。
「シバは疲れていないし、冒険者さんたちにはいっぱい美味しいものを買ってもらったので」
ナキルと少女の間に置かれた皿には、小さな丸い揚げ菓子が積まれていた。蜂蜜と粉砂糖をふりかけたそれは、いかにも甘そうで、かつ高そうだ。
「それに、自分のことを忘れないで欲しいという気持ちは、とても良くわかります」
少女はぽそりと呟いた。
『調香師シバ』は、襲名制なのだという。どちらのシバにも、親やそれに準ずる者から与えられた名があるに違いない。だがシバを継ぐと決めた日に、それは失われたのだ。
「……オレの好きな人は、エルフなんだよな」
ナキルが命を落としても、これから彼女には長い時間がある。その中で、忘れられて欲しくない。
言外に含まれた想いに触れ、少女はどこか寂しそうに笑った。
夜露雫の近くで、セヴラン・クアルトは先日ライラリアの為に弾いた曲を披露していた。妓楼の彼女にも届くといいと願いつつ、いつのまにかセヴランの奏でる音に耳を傾ける通行人がひとり、またひとり。
他の冒険者の話では、依頼人の要望はすでにシバに伝わったらしい。彼か彼女か、とにかくその気があるのなら、近くに来ているはずだ。
演奏が終わると、聴衆のひとりがセヴランに近づいてきた。
「素敵な曲だった。君は妓楼の人ではないようだけれど……」
「お姫様達と縁があって」
「なるほど。実は、これから彼女達に会いに行くんだ」
「ではそのついでに」
セヴランは、ライラリアたちの為の香りを希望した。本人達が望むであろうものとは別に、先ほどの曲を元にしてほしい、と。
男はセヴランをじっと見つめた後、おもしろそうに笑って頷いた。
「分かった。じゃあもう一度お聞かせ願えないかな? それを対価としよう」
「よろこんで」
セヴランはふたたび楽器を手に取ると、弦に弓を滑らせた。儚げな旋律がキサナの夜に滲む。それは夜露雫の艶花たちの耳にも届いていた。
● ひとひらの勇気
座敷に案内されたシルヴィア・A・カペルは、やや緊張気味にフィルヤールと向かい合っていた。シルヴィアの言葉にフィルヤールが激昂したことは記憶に新しく、帰れと言われるのではないかと思ったからだ。
フィルヤールは笑ってはいなかった。だが、表情は冷たいものでもない。シルヴィアがフィルヤールの表情を窺っていることに気づくと、彼女は軽く目を伏せた。
「すみません。愛想笑いをするくらいならと思って」
フィルヤールもまた、シルヴィアに対する距離を探っているようだった。そこから「向き合いたい」という気持ちを汲んで、シルヴィアはほっと肩の力を抜く。
「この間はごめんね。お詫びの品を持ってきたんだ。私は、君の夢を応援したい」
シバに作ってもらった、と、シルヴィアは香水瓶をフィルヤールに差し出す。フィルヤールはちょっと驚いた様子でそれを受け取る。
「君は自力で夢を叶えると思うけれど、でも、気持ちというか、その」
「ありがとうございます。実は、私も用意しているものが……」
フィルヤールは一旦香水瓶を脇に置くと、懐から小瓶を取り出した。
「もし貴女がまたいらしたら、お渡ししようと思っていました」
水仙がカッティングされたガラス小瓶の中身は、香水だという。
「私はあの時、『何も知らないくせに』と思ったのです。そして貴女にも、同じ思いをさせたことでしょう」
だから、とフィルヤールは続けた。
「お互いのこと、少しずつ知ることができたらと……思いますわ」
しばらくの歓談ののち、シルヴィアは妓楼を後にした。その後、海神・江流がフィルヤールのもとを訪れる。
「早速頼ってくれて嬉しいね」
「口だけではない殿方だと思っておりますもの。冒険者さんたちのおかげで、シバも会いにきてくれましたし」
でも、とフィルヤールは筆を置いて江流を振り返った。
「伝説上の存在と言われておりましたから、本当に驚きましたのよ。よく見つけられましたね」
「おいおい、君が依頼したんだろう?」
手を伸ばしても届かない場所にある光を見つめる瞳。だから、光をつかめるような手伝いをしてやれたら、自分も少しは徳が積めるのではないか。そう思ったことも確かだ。
「まあ探し回ったおかげで、面白い収穫もあったよ」
シャルガネ男に似合う香水があるかと、江流はそんな文句と一緒に聞き回った。その途中で手に入ったものを取り出して見せる。
「練り香水。『翡翠』っていうんだってさ」
フィルヤールは断りを入れてそれを少量手に取った。シトラス系の爽やかな香りから、ほんのり甘く、異国を思わせる花と木の香りが広がる。
「遠い国の香りがします。いつか、足を伸ばしてみたいものですわ」
連れて行ってとは言わない。諦めているわけではなく、ただ本当にいつか叶うと思っている——そんな声音に、江流ははにかんだ。
ローザリカ・L・ディオールはその光景を前に固まってしまった。
視線の先、往来の向こうには、従弟であるジュスト・ヴェルジー。そのひとが、贈り物と思しき包みを手に妓楼に入っていくではないか。
ローザリカは素早く建物を確認した。夜露雫——依頼人である遊女のいる場所だ。彼女達は自由に外へ出て行くことはできない。きっと報告に向かうのだろう。そうに違いない。
そう思えども、ローザリカの心はざわついた。
まったく、我が従弟殿は婚約者を放って妓楼に向かうと言うのだから——心の中でそう強がってみようとしても、『婚約者』という部分に差し掛かったところで思考がぐちゃぐちゃになってしまった。
……嫌だ。
ローザリカの手の中にも、包みがある。香水はすでに気に入っているものがある。ジュストが自分のために依頼してくれた品が。だから、今度は彼のために、彼の願いを叶えることができるものを、と望んだ。
出来上がるまでの間に浮き足立った心は、いまここにきて鉛に変わってしまったようだ。
(……気づいて)
振り返ってほしい。そうすればこの気持ちをそのままぶつけられるのに——。
ジュストは緊張気味に正座していた。その隣には、同じく落ち着かない様子のローザリカが座っている。向かい合うライラリアだけが、きょとんとしている。
「あの、そちらの方は」
「俺の婚約者だよ」
ジュストは澱みなく答えたが、ちらりとローザリカの様子を窺った。
……むくれている。かなり拗ねている。ちょっと涙目だ。
入り口でローザリカに気づき、軽く言い合いになりかけたため、騒ぎになる前にローザリカを連れてライラリアの座敷まで上がらせてもらったのだ。
ジュストの紹介に、ライラリアは宝石のような瞳を丸くした。
「こんやくしゃ……?」
「将来一緒になろうって、約束した相手のこと」
これは何かの罰だろうか。いや、罰に違いない。ジュストはどこか気恥ずかしい思いと申し訳なさを抱えつつ、ローザリカの前でライラリアに婚約者とは何かを説明した。
「シバとはもう会ったかな? その確認に来たんだ」
「はい。噂通り、不思議と魅力的なお方でした。……婚約者さんがお持ちのそれは……シバに頼んだものですか?」
ライラリアはローザリカが大切に持っている包みに言及する。ああ、とジュストは頷いた。
「彼女の願いを叶える香水を、ね。俺の願いは……彼女が幸せでいることだから」
「まあ……!」
ライラリアは頬を染め、きらきらした瞳で、ジュストとローザリカの顔をしきりに見やる。
『口では、なんとでも……』
ローザリカは悔しそうに小さく呟いたが、言葉尻は濁した。彼は、自分の願いを叶えられる男だ。だからこそローザリカは、彼の願いを叶えてほしいと望んだのだから。
パヴェル・A・サムルガチェフのそばに、今日はフーアはいない。パヴェル自身感覚が鋭く、このような幾つもの香りが混じる場はつらい。猫ともなれば余計だろう。というわけで今回は留守番だ。
パヴェルがキサナを訪れたのは、友のためである。パヴェルの纏う独特の香りも、シバ捜索に一役買った。シバはパヴェルに「引退前にたくさん仕事ができた」と笑って礼を述べた。彼はこれから艶花たちのために香水を作り、それを自分の最後の仕事にするという。
パヴェルの手には、それとは別に作ってもらった香油がふたつある。海辺をイメージしたパッションフルーツの甘く爽やかな香り、そして桃や桜、樹木とムスクの香りが漂うそれは、ここではないどこかへ旅した気分になる。
「素敵な香り」
マリカはパヴェルが小分けにしたそれを受け取ると、はにかんだ。
「また会えただけでも嬉しいのに、こんなにいい香りまで……ありがとう! 今日はゆっくりしていく時間はあるの?」
「マリカ嬢の時間さえあればな」
「もちろん! 歓迎するわ。話したいことがたくさんあるのよ」
遊女となってからも、マリカの明るさは損なわれることがない。マリカはパヴェルのために香りが薄く、籠らない部屋を取ると、菓子と茶を運ばせた。
「あなたの話もいっぱい聞かせてね」
「なるほど、香水瓶の卸屋からか。確かに私もガラス瓶までは作れないからなあ」
これは参ったと笑ったシバは、ヴァンゲルス・ロッドの要望通りのものを作ってみせた。ヴァンゲルスはそれを片手に、夜露雫へと赴く。
『茉莉花』とシンプルに名付けられたそれは、しかし、この世にふたつとないものである。それを携え、ヴァンゲルスは座敷でマリカを待つ。
「会いに来てくれて嬉しいわ。さあ、勝負しましょう!」
が、現れたマリカは挨拶もそこそこに、廊下に置いていた木盤と円石を詰めた箱を運び込んだ。ヴァンゲルスは慌てて声をかける。
「待て待て、いや、また勝負はできたらとは思ってたが、なんかこう、もうちょっと……ほら、焦らす、みたいな時間があるんじゃないか? 遊女には」
マリカの奥座敷に上がる条件は、彼女に方円目で勝つことだ。その方法を来てすぐの客に出すものかとヴァンゲルスは言っているのである。
が、マリカは不思議そうに小首を傾げる。
「いいじゃない。だって今度は私が勝つもの」
相変わらずである。
「分かった。それはやる。やるが、その前にこれを貰ってくれ」
ヴァンゲルスはマリカの手の上に小さな包みを置いた。
「茉莉花、って香水だ。ジャスミンのことな。嬢ちゃんの名に通ずるモンがあると思ってよ。……お前さんは自力で夢を掴むだろうが、後押し程度に思ってくれ」
「いいの? ありがとう!」
マリカはさっそくと蓋を開け、香りを楽しむ。そして軽く手首につけると、それをヴァンゲルスの首筋に擦り付けた。
「今日から私の香りね。だから、つけて帰らなくちゃダメよ」
── ○ ──
コハクは華香の典の様子を記録した報告書を眺め、行きたかったなあと小さく頬を膨らませた。急な用事が入ってしまったのだ。
シバは実在していた。そのことが冒険者たちによって証明されたことは、確かな真実として広まっていくだろう——。
● 調香記録紙
■ヨル・スレイマン様
オードトワレ「タレイア」
トップノート:ジャスミン、ベルガモット
ミドルノート:ネロリ
ラストノート:サンダルウッド、シダー
■ナハシュ様
オードトワレ「グラハ」
トップノート:グレープフルーツ
ミドルノート:シカモア、ピオニー
ラストノート:インセンス、ウッディ
■サイラス様
抹香「祈院」
トップノート:シナモン
ミドルノート:シダーウッド
ラストノート:サンダルウッド、ムスク、アンバー
■パヴェル・A・サムルガチェフ様
香油「海辺にて」
シングルノート:パッションフルーツ
香油「はなまつり」
トップノート:マグノリア
ミドルノート:ピーチ、チェリー
ラストノート:ウッディ、ムスク
■ベルク・オスマット様
練り香水「アグラ」
伽羅、ムスク、アンバー
■セヴラン・クアルト様
オードパルファム「三花神」
トップノート:ベルガモット、ローズ
ミドルノート:ジャスミン、マグノリア
ラストノート:バニラ、ムスク
■フリューリングスルフト=ティエラ様
オードパルファム「バニラローズ」
トップノート:ベルガモット、イランイラン
ミドルノート:ジャスミン、ローズ
ラストノート:バニラ、ムスク
■海神・江流様
練り香水「翡翠」
トップノート:レモン、カシス
ミドルノート:ミュゲ、イランイラン
ラストノート:ムスク、サンダルウッド
練り香水「光芒」
トップノート:ベルガモット、オレンジフラワー
ミドルノート:ローズ、ジャスミン、マグノリア
ラストノート:ムスク、アンバー、オークモス
■キオルティス様
オーデコロン「午後のテラス」
トップノート:ローズ、ミュゲ
ミドルノート:バイオレット、ピンクペッパー
ラストノート:珈琲、ムスク
オーデコロン「小花」
トップノート:アップル、ラズベリー
ミドルノート:ローズ、ミュゲ
ラストノート:ムスク、シダーウッド
オードトワレ「花の夜夢」
トップノート:ダマスクローズ、イランイラン
ミドルノート:ジャスミン
ラストノート:ホワイトムスク、ムスク
■ナキル様
オーデコロン「ゆめうつつ」
トップノート:マルメロ
ミドルノート:ジャスミン、オレンジブロッサム
ラストノート:ウッディ
■オゴス様
オードパルファム「Bonne foi」
トップノート:ネロリ、フィグ
ミドルノート:ロータスフラワー、ジャスミン
ラストノート:インセンス、ホワイトムスク
■ルベア・ベルニ様
精油「軽やかに」
グレープフルーツ、ライム、ローズウッド、ユーカリ
■シルヴィア・A・カペル様
オードトワレ「夜薔薇」
トップノート:ラベンダー、ダージリン
ミドルノート:ジャスミン、ホワイトローズ
ラストノート:サンダルウッド、ムスク
オードパルファム「夢叶う」
トップノート:ティアレ/ジャスミン
ミドルノート:スズラン/バニラ
ラストノート:ムスク
■ヴァンゲルス・ロッド様
オードパルファム「茉莉花」
トップノート:ベルガモット
ミドルノート:イランイラン、ジャスミン
ラストノート:バニラ、ムスク
■ジュスト・ヴェルジー様
オードパルファム「Je l'aime」
トップノート:マグノリア
ミドルノート:チュベローズ、スズラン、フリージア
ラストノート:バニラ、ムスク
■ローザリカ・L・ディオール様
オードパルファム「Je l'aime」
トップノート:ピンクペッパー、ナツメグ
ミドルノート:シダーウッド
ラストノート:インセンス、ムスク
■ミリシュ=フレアティ様
オードパルファム「春を束ねて」
トップノート:チェリー、ピーチ
ミドルノート:ダマスクローズ、ピオニー
ラストノート:ホワイトムスク
「『シバ』に注目が集まるのは、珍しいことではないけれど……」
とくに『華香の典』ともなれば。長い黒檀の髪を耳にかけ、薄く染まった紫瞳が細められる。
「こんなに大人数に求められるのは初めてだ。皆、私のことは夢物語だと思っているとばかり」
そして、柔らかなソファの背もたれに再び身を預ける。
「隠れないんですか?」
「悪意を持って探しているならそうするけどね」
少女の問いに、シバは微笑んで答える。
「シバ、君の腕を見る良い機会でもある。期待しているよ」
● 調香師を探して
「調香師ねえ……」
ナハシュは大きくあくびをする。あまり興味はなさそうだが、その隣にいるヨル・スレイマンは対照的に楽しそうだ。
「香りは服のようなものなんだ。自分用に香水を調合して貰えるなんてそうないし。折角だから君も作ってもらいなよ、なんなら贈る……まあ見つけることができたら、だけど」
ナハシュの方が人探しは得意だろうと、そういうことだ。とはいえ街の中を闇雲に探しても良い結果は得られないだろう。
「噂話はまず、酒場や娼館で聞き込みだな」
「そうだね、知らない人はいない、という感じのようだし……情報が濃そうなところをあたろう。……そういえば、過去にシバの香水を手に入れた人っているのかな」
ヨルの疑問に、ふむとナハシュは顎をさする。
「それも聞いてみるのもアリかもな」
ふたりは地道に聞き込んでいく。できるだけ探していると悟られないよう、噂話を聞いた観光客、という体で。真偽が不明な噂でも、重なり合うところからひとつの人物像が浮かび上がってくる。
「依頼主の話だと、シバは男だってことだが……たまに女だって話も混ざってくるな」
単に中性的な人物なのかと思いきや、小柄な少女だという。しかし、成人男性であるという話が圧倒的に多い。
「ふたりいる、とかか?」
「襲名制なのかもしれないね。ヒューマンかエルフか……共通しているのは、黒い髪に紫の眼……」
と、ふたりのそばで足音が止まった。雑踏の中、普通は見逃してしまうような気配を、ナハシュは鋭敏に察知する。顔を上げれば、ヴェールで顔を隠した少女が驚いた表情でナハシュたちを見ていた。
「あ、えっと」
少女の瞳は淡い紫——ナハシュが声を上げる前に、少女は弾かれたように駆け出し、人ごみの中に紛れて消えてしまった。
「あれじゃね?」
「えっ」
ヨルは一歩を踏み出して少し悩む。そしてナハシュを神妙な表情で振り返った。
「ここで追いかけたら……変質者と思われないかな!?」
「まあ子供だったしな」
見たところ10歳前後だろうか。悩むヨルの傍らで、ナハシュはその少女がまだ近くからふたりを観察していることに気づかないふりをして、会話を続ける。
「んー、でも仮にシバだったとして。手ぶらでってわけにもいかないだろ」
「あ、ナハシュ、お腹すいた?」
「肉ならいつでも食う準備がある」
物陰にある小さな気配が、ぴくりと反応する。土産の話を続けるふたりに徐々に近づき、やがておずおずと顔を出した——。
サイラスは何人かの調香師に金を握らせて情報を得ようとした——のだが。祭典に参加している調香師たちは揃って「金じゃなく香を買わないか」というので、サイラスの鞄が早々に香で溢れるところだった。さすがキサナまわりの人間は商魂逞しい。
「シバは我々の間でも伝説のようなものでね。黒い髪は特別珍しいものでもないし、瞳の色も光の加減で違って見えたりするだろう?」
ほら、私もだよ、と、その調香師はヴェールから覗く黒髪に触れる。
調香師が作っているのは抹香だ。シャルガネ風の身なりで歩いていたサイラスに合わせてのもので、火に供せば沈香の独特な香りが漂う。
「入れ物も安くしておこう」
「キサナで買うとむっちゃ高くない?」
茶化すようにサイラスが言うと、調香師はおかしそうに笑った。
「一流の技術には一流の品を。それは君の仕事にも通ずることだと思うけれどね」
鉄を鍛える火金の術。それから生み出されるものは、中途半端なものではいけない。
「さあ、できた。まとめて包んでおこう」
ルベア・ベルニは捜索の手を休め、一息ついていた。
情報収集の結果は、シバは「生ける伝説」と呼ぶにふさわしい人物であることを示している。人々が作り出した幻想、夢想の類では、という線すらも浮かんできた。
依頼人は「見つからなければそれはそれで話の種になる」とは言っていたが……。
そもそも彼女たちが望むものを伝えたところで、対価に一体何を求められるのか。
「お金なら解決は比較的簡単だけれど……」
依頼人は夜露雫の艶花たちだ。品のない要求をしてきたらどうしよう。
「……あら?」
ぼうっと考えているルベアの視界に、ふと、小柄な少女が現れた。人の波に飲まれそうになっている彼女を、ルベアはその腕を引いて助け出す。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
少女からは香のにおいがした。調香師たちが纏う空気と同じだ。複数の香りが混ざるも、それを周囲に不快に思わせないようにしている。
しかしそれ以上に香る、肉の串焼き。
「冒険者さんに……もらいました。ので、作ってあげたんです」
大きな、淡い紫の瞳が瞬く。そしてルベアは瞬時に状況を理解した。
「あなたの技術を必要としている人たちがいるの」
それから、自分も——心の安定と、前向きに生きる気持ちを持てる、そんな香りを。
少女は串焼きを食べ終わると、すっと近くの屋台を指差すのだった。
「んん?」
と、そこへベルク・オスマットが合流する。ベルクも超嗅覚で調香師を探していたのだが、途中で食事の匂いにつられたらしい。そして少女に気づくと、じっと見つめる。
「もしかしたらこの子がシバかも……お腹が空いてるみたい」
ルベアが声を潜めてつつ伝えると、ベルクはなるほどと頷いた。
「であれば、買ってやろう」
ベルクの言葉に、少女は目を輝かせる。ベルクはすかさず「ただし、」と付け加えた。
「その代わり、作ってもらいたいものがある」
「お姉さんも、お香が欲しいんですか?」
「ああ。確か……伽羅と言ってたかな。練り香水をな」
昔、ベルクが奉公していた商会で、姐さんが上客の相手をする際につけていた香りだ。思い出と共にあるその香りを、手に入るものなら頼みたい。
「伽羅……は、お家に帰らないと」
少女は少し迷ったようだったが、頼みは受けるつもりであるらしい。
「遊女さんのことも、御師に伝えないと。ついてきてくれますか?」
ルベアとベルクは顔を見合わせる。どうやらシバには、師がいるらしい。
フリューリングスルフト=ティエラは、キサナの古い住人を中心に聞き込んでいた。その中でひとり、やたら印象のぼやける人物を見つけ出す。
「……シバ?」
フリューは小さく尋ねた。すると、その人物は目深に被ったヴェールの下で微笑んだ。
「よく分かったね。冒険者たちは、名無しの気配にはむしろ敏感なのかな」
注意深く観察すれば、黒い髪に紫の瞳の男。聞き込んだ外見的特徴は一致している。しかし世代を跨いで噂される目の前の男は若々しく、どう見ても二十代かそこらだ。花精の子と言われているのにも納得である。単に若作りなだけかもしれないが。
「それで、私を探しているということは、頼みたいものがあるのかな?」
「……んと」
フリューは周りを気にしつつ、もじもじと言葉を紡ぐ。
「その……大人っぽい、香り。ともだちと出かけた時とか……ちょっとおめかしした時、に。こう、お、女の子っぽいの、なーんて」
えへへー、と笑って言葉尻を濁す。フリューはよく外を駆け回る分、日の暖かな香りや、汗や土のにおいを纏う。それを気にして清める分、それはたいてい石鹸の香りに上書きされてしまうのだが。
「いいよ」
「えっ」
「『願いを叶える香水』の種を明かそう。私たちの作るものは、前に進みたい、変わりたいと思っている人たちの背中を押すためのものだ。それが一人歩きして、『願いを叶える』なんて枕詞がつくようになったんだよ」
シバは、それと認めた相手にしか香水を作らないという。その条件は不明であるものの、金を受け取ったという話は不思議とない。普通の調香師に紛れている時はその限りでは無いらしいが……。
「だから、君が香水を求める理由を教えて欲しいな」
尋ねられ、キオルティスはふむと頤に指をかける。
シバを見つけたキオルティスが案内されたのは、多種多様な香草が保管された隠れ家のような家だった。『今代のシバ』と『次代のシバ』はここで、表向きには父娘として暮らしているらしい。
そんなシバにキオルティスが求めたのは、自分のための香水と、妹へ贈るもの、そしてもうひとつ——。
「どんな時でも、周囲に笑顔をもたらせるように」
いいね、と『シバ』は笑った。
「みっつか。君にひとつ、妹君にひとつ。最後のものは私が作ろう。シバ、混合液を分けておいて」
「はい、御師」
ふたりのシバが慌ただしく作業を始める横で、キオルティスは机の上に置かれたガラスのティーポットに再び視線を移した。乾燥させた花ばなが浮かぶその茶は、夢の中に迷い込んだような香りを漂わせていた。
キオルティスが調合済みの香水を手にシバの隠れ家を去ったのと入れ替わりに、ミリシュ=フレアティはシバのもとに辿り着いた。やや緊張気味にふたりのシバに向き直る。
「あなたの作る香水は、願いを叶える、と」
「背中を押すだけだよ」
シバは苦笑して訂正する。だが、絶対の自信に満ちた微笑みであった。
「君が私を、そして自分のことを信じることができれば、何事もうまくいく。そういうものだ。さ、とにかく座って」
シバはミリシュをティーテーブルにつかせると、ふわりと甘やかな香りのする茶を淹れた。
「……こんな風に、らしい香りを纏うことができればと、思ったのだわ」
かつて愛した人。只人の寿命からしてその者はすでに亡く、本人との再会が難しいとしても。どうしても諦められないのだ。
「花は枯れても、種を残す。そんなふうに君の願いもいつか、しかるべきところに辿り着くはずだ」
桜、桃、女王薔薇、芍薬。シバはそれらの花々の香りを抽出したものを、混合液と一緒に混ぜていく。
「でも、君本来の香りも忘れないでね」
それは、ミリシュが歩んできた道のりの証明となるものだから——シバはそう付け加えた。
「もし真っ当な生き方をしていたら、か」
シバを見つけたオゴスは、作ってほしい香水について話していた。それに対し、シバは薄く微笑んで顎をさする。
「私の作るものは、それを使った人が一歩を踏み出すことを目的としている。君は……『もしも』の夢を見るだけで満足なのかな?」
お節介かもしれないけれど、とシバは言う。
「俺はもう、その道を行くのは無理なんです」
オゴスには目的がある。その道程を、流れる血なしに進めるとは思えなかった。
「じゃあ、こうしよう」
シバはオゴスの纏う雰囲気や交わした言葉から、オゴスの求める香りを導き出す。記録紙に滑らせたペンを一旦止めて、シバはオゴスを見つめた。
「君が、その足取りに自信を持てるように。自分が覚悟して選んだ道だと思えるように。君は、堂々としていればいい」
シバは記録紙を少女に渡すと、棚の引き出しを開けて、香料をいくつか見繕う。ネロリ、フィグ、ロータスフラワー、ジャスミン、インセンス、ホワイトムスク——それらのラベルが貼られた香料を机の上に並べていく。
「それが、いい男というものだ」
ナキルは目の前の少女を見つめた。冒険者たちが教えてくれた依頼人に会うため、ナキルと入れ替わりに出ていったシバの弟子だという。
「今日は本当にお客様が多いです。シバが1日の間にこんなにたくさん調香をするのははじめてでしょう」
「……どうして作ってくれるんだ?」
聞けば、彼らは香水を作る相手に条件を設けているらしい。香水にかける願いを持っている人、前へ踏み出すのに少しの勇気が必要な人々へ。しかし時には、気まぐれで。
「シバは疲れていないし、冒険者さんたちにはいっぱい美味しいものを買ってもらったので」
ナキルと少女の間に置かれた皿には、小さな丸い揚げ菓子が積まれていた。蜂蜜と粉砂糖をふりかけたそれは、いかにも甘そうで、かつ高そうだ。
「それに、自分のことを忘れないで欲しいという気持ちは、とても良くわかります」
少女はぽそりと呟いた。
『調香師シバ』は、襲名制なのだという。どちらのシバにも、親やそれに準ずる者から与えられた名があるに違いない。だがシバを継ぐと決めた日に、それは失われたのだ。
「……オレの好きな人は、エルフなんだよな」
ナキルが命を落としても、これから彼女には長い時間がある。その中で、忘れられて欲しくない。
言外に含まれた想いに触れ、少女はどこか寂しそうに笑った。
夜露雫の近くで、セヴラン・クアルトは先日ライラリアの為に弾いた曲を披露していた。妓楼の彼女にも届くといいと願いつつ、いつのまにかセヴランの奏でる音に耳を傾ける通行人がひとり、またひとり。
他の冒険者の話では、依頼人の要望はすでにシバに伝わったらしい。彼か彼女か、とにかくその気があるのなら、近くに来ているはずだ。
演奏が終わると、聴衆のひとりがセヴランに近づいてきた。
「素敵な曲だった。君は妓楼の人ではないようだけれど……」
「お姫様達と縁があって」
「なるほど。実は、これから彼女達に会いに行くんだ」
「ではそのついでに」
セヴランは、ライラリアたちの為の香りを希望した。本人達が望むであろうものとは別に、先ほどの曲を元にしてほしい、と。
男はセヴランをじっと見つめた後、おもしろそうに笑って頷いた。
「分かった。じゃあもう一度お聞かせ願えないかな? それを対価としよう」
「よろこんで」
セヴランはふたたび楽器を手に取ると、弦に弓を滑らせた。儚げな旋律がキサナの夜に滲む。それは夜露雫の艶花たちの耳にも届いていた。
● ひとひらの勇気
座敷に案内されたシルヴィア・A・カペルは、やや緊張気味にフィルヤールと向かい合っていた。シルヴィアの言葉にフィルヤールが激昂したことは記憶に新しく、帰れと言われるのではないかと思ったからだ。
フィルヤールは笑ってはいなかった。だが、表情は冷たいものでもない。シルヴィアがフィルヤールの表情を窺っていることに気づくと、彼女は軽く目を伏せた。
「すみません。愛想笑いをするくらいならと思って」
フィルヤールもまた、シルヴィアに対する距離を探っているようだった。そこから「向き合いたい」という気持ちを汲んで、シルヴィアはほっと肩の力を抜く。
「この間はごめんね。お詫びの品を持ってきたんだ。私は、君の夢を応援したい」
シバに作ってもらった、と、シルヴィアは香水瓶をフィルヤールに差し出す。フィルヤールはちょっと驚いた様子でそれを受け取る。
「君は自力で夢を叶えると思うけれど、でも、気持ちというか、その」
「ありがとうございます。実は、私も用意しているものが……」
フィルヤールは一旦香水瓶を脇に置くと、懐から小瓶を取り出した。
「もし貴女がまたいらしたら、お渡ししようと思っていました」
水仙がカッティングされたガラス小瓶の中身は、香水だという。
「私はあの時、『何も知らないくせに』と思ったのです。そして貴女にも、同じ思いをさせたことでしょう」
だから、とフィルヤールは続けた。
「お互いのこと、少しずつ知ることができたらと……思いますわ」
しばらくの歓談ののち、シルヴィアは妓楼を後にした。その後、海神・江流がフィルヤールのもとを訪れる。
「早速頼ってくれて嬉しいね」
「口だけではない殿方だと思っておりますもの。冒険者さんたちのおかげで、シバも会いにきてくれましたし」
でも、とフィルヤールは筆を置いて江流を振り返った。
「伝説上の存在と言われておりましたから、本当に驚きましたのよ。よく見つけられましたね」
「おいおい、君が依頼したんだろう?」
手を伸ばしても届かない場所にある光を見つめる瞳。だから、光をつかめるような手伝いをしてやれたら、自分も少しは徳が積めるのではないか。そう思ったことも確かだ。
「まあ探し回ったおかげで、面白い収穫もあったよ」
シャルガネ男に似合う香水があるかと、江流はそんな文句と一緒に聞き回った。その途中で手に入ったものを取り出して見せる。
「練り香水。『翡翠』っていうんだってさ」
フィルヤールは断りを入れてそれを少量手に取った。シトラス系の爽やかな香りから、ほんのり甘く、異国を思わせる花と木の香りが広がる。
「遠い国の香りがします。いつか、足を伸ばしてみたいものですわ」
連れて行ってとは言わない。諦めているわけではなく、ただ本当にいつか叶うと思っている——そんな声音に、江流ははにかんだ。
ローザリカ・L・ディオールはその光景を前に固まってしまった。
視線の先、往来の向こうには、従弟であるジュスト・ヴェルジー。そのひとが、贈り物と思しき包みを手に妓楼に入っていくではないか。
ローザリカは素早く建物を確認した。夜露雫——依頼人である遊女のいる場所だ。彼女達は自由に外へ出て行くことはできない。きっと報告に向かうのだろう。そうに違いない。
そう思えども、ローザリカの心はざわついた。
まったく、我が従弟殿は婚約者を放って妓楼に向かうと言うのだから——心の中でそう強がってみようとしても、『婚約者』という部分に差し掛かったところで思考がぐちゃぐちゃになってしまった。
……嫌だ。
ローザリカの手の中にも、包みがある。香水はすでに気に入っているものがある。ジュストが自分のために依頼してくれた品が。だから、今度は彼のために、彼の願いを叶えることができるものを、と望んだ。
出来上がるまでの間に浮き足立った心は、いまここにきて鉛に変わってしまったようだ。
(……気づいて)
振り返ってほしい。そうすればこの気持ちをそのままぶつけられるのに——。
ジュストは緊張気味に正座していた。その隣には、同じく落ち着かない様子のローザリカが座っている。向かい合うライラリアだけが、きょとんとしている。
「あの、そちらの方は」
「俺の婚約者だよ」
ジュストは澱みなく答えたが、ちらりとローザリカの様子を窺った。
……むくれている。かなり拗ねている。ちょっと涙目だ。
入り口でローザリカに気づき、軽く言い合いになりかけたため、騒ぎになる前にローザリカを連れてライラリアの座敷まで上がらせてもらったのだ。
ジュストの紹介に、ライラリアは宝石のような瞳を丸くした。
「こんやくしゃ……?」
「将来一緒になろうって、約束した相手のこと」
これは何かの罰だろうか。いや、罰に違いない。ジュストはどこか気恥ずかしい思いと申し訳なさを抱えつつ、ローザリカの前でライラリアに婚約者とは何かを説明した。
「シバとはもう会ったかな? その確認に来たんだ」
「はい。噂通り、不思議と魅力的なお方でした。……婚約者さんがお持ちのそれは……シバに頼んだものですか?」
ライラリアはローザリカが大切に持っている包みに言及する。ああ、とジュストは頷いた。
「彼女の願いを叶える香水を、ね。俺の願いは……彼女が幸せでいることだから」
「まあ……!」
ライラリアは頬を染め、きらきらした瞳で、ジュストとローザリカの顔をしきりに見やる。
『口では、なんとでも……』
ローザリカは悔しそうに小さく呟いたが、言葉尻は濁した。彼は、自分の願いを叶えられる男だ。だからこそローザリカは、彼の願いを叶えてほしいと望んだのだから。
パヴェル・A・サムルガチェフのそばに、今日はフーアはいない。パヴェル自身感覚が鋭く、このような幾つもの香りが混じる場はつらい。猫ともなれば余計だろう。というわけで今回は留守番だ。
パヴェルがキサナを訪れたのは、友のためである。パヴェルの纏う独特の香りも、シバ捜索に一役買った。シバはパヴェルに「引退前にたくさん仕事ができた」と笑って礼を述べた。彼はこれから艶花たちのために香水を作り、それを自分の最後の仕事にするという。
パヴェルの手には、それとは別に作ってもらった香油がふたつある。海辺をイメージしたパッションフルーツの甘く爽やかな香り、そして桃や桜、樹木とムスクの香りが漂うそれは、ここではないどこかへ旅した気分になる。
「素敵な香り」
マリカはパヴェルが小分けにしたそれを受け取ると、はにかんだ。
「また会えただけでも嬉しいのに、こんなにいい香りまで……ありがとう! 今日はゆっくりしていく時間はあるの?」
「マリカ嬢の時間さえあればな」
「もちろん! 歓迎するわ。話したいことがたくさんあるのよ」
遊女となってからも、マリカの明るさは損なわれることがない。マリカはパヴェルのために香りが薄く、籠らない部屋を取ると、菓子と茶を運ばせた。
「あなたの話もいっぱい聞かせてね」
「なるほど、香水瓶の卸屋からか。確かに私もガラス瓶までは作れないからなあ」
これは参ったと笑ったシバは、ヴァンゲルス・ロッドの要望通りのものを作ってみせた。ヴァンゲルスはそれを片手に、夜露雫へと赴く。
『茉莉花』とシンプルに名付けられたそれは、しかし、この世にふたつとないものである。それを携え、ヴァンゲルスは座敷でマリカを待つ。
「会いに来てくれて嬉しいわ。さあ、勝負しましょう!」
が、現れたマリカは挨拶もそこそこに、廊下に置いていた木盤と円石を詰めた箱を運び込んだ。ヴァンゲルスは慌てて声をかける。
「待て待て、いや、また勝負はできたらとは思ってたが、なんかこう、もうちょっと……ほら、焦らす、みたいな時間があるんじゃないか? 遊女には」
マリカの奥座敷に上がる条件は、彼女に方円目で勝つことだ。その方法を来てすぐの客に出すものかとヴァンゲルスは言っているのである。
が、マリカは不思議そうに小首を傾げる。
「いいじゃない。だって今度は私が勝つもの」
相変わらずである。
「分かった。それはやる。やるが、その前にこれを貰ってくれ」
ヴァンゲルスはマリカの手の上に小さな包みを置いた。
「茉莉花、って香水だ。ジャスミンのことな。嬢ちゃんの名に通ずるモンがあると思ってよ。……お前さんは自力で夢を掴むだろうが、後押し程度に思ってくれ」
「いいの? ありがとう!」
マリカはさっそくと蓋を開け、香りを楽しむ。そして軽く手首につけると、それをヴァンゲルスの首筋に擦り付けた。
「今日から私の香りね。だから、つけて帰らなくちゃダメよ」
── ○ ──
コハクは華香の典の様子を記録した報告書を眺め、行きたかったなあと小さく頬を膨らませた。急な用事が入ってしまったのだ。
シバは実在していた。そのことが冒険者たちによって証明されたことは、確かな真実として広まっていくだろう——。
● 調香記録紙
■ヨル・スレイマン様
オードトワレ「タレイア」
トップノート:ジャスミン、ベルガモット
ミドルノート:ネロリ
ラストノート:サンダルウッド、シダー
■ナハシュ様
オードトワレ「グラハ」
トップノート:グレープフルーツ
ミドルノート:シカモア、ピオニー
ラストノート:インセンス、ウッディ
■サイラス様
抹香「祈院」
トップノート:シナモン
ミドルノート:シダーウッド
ラストノート:サンダルウッド、ムスク、アンバー
■パヴェル・A・サムルガチェフ様
香油「海辺にて」
シングルノート:パッションフルーツ
香油「はなまつり」
トップノート:マグノリア
ミドルノート:ピーチ、チェリー
ラストノート:ウッディ、ムスク
■ベルク・オスマット様
練り香水「アグラ」
伽羅、ムスク、アンバー
■セヴラン・クアルト様
オードパルファム「三花神」
トップノート:ベルガモット、ローズ
ミドルノート:ジャスミン、マグノリア
ラストノート:バニラ、ムスク
■フリューリングスルフト=ティエラ様
オードパルファム「バニラローズ」
トップノート:ベルガモット、イランイラン
ミドルノート:ジャスミン、ローズ
ラストノート:バニラ、ムスク
■海神・江流様
練り香水「翡翠」
トップノート:レモン、カシス
ミドルノート:ミュゲ、イランイラン
ラストノート:ムスク、サンダルウッド
練り香水「光芒」
トップノート:ベルガモット、オレンジフラワー
ミドルノート:ローズ、ジャスミン、マグノリア
ラストノート:ムスク、アンバー、オークモス
■キオルティス様
オーデコロン「午後のテラス」
トップノート:ローズ、ミュゲ
ミドルノート:バイオレット、ピンクペッパー
ラストノート:珈琲、ムスク
オーデコロン「小花」
トップノート:アップル、ラズベリー
ミドルノート:ローズ、ミュゲ
ラストノート:ムスク、シダーウッド
オードトワレ「花の夜夢」
トップノート:ダマスクローズ、イランイラン
ミドルノート:ジャスミン
ラストノート:ホワイトムスク、ムスク
■ナキル様
オーデコロン「ゆめうつつ」
トップノート:マルメロ
ミドルノート:ジャスミン、オレンジブロッサム
ラストノート:ウッディ
■オゴス様
オードパルファム「Bonne foi」
トップノート:ネロリ、フィグ
ミドルノート:ロータスフラワー、ジャスミン
ラストノート:インセンス、ホワイトムスク
■ルベア・ベルニ様
精油「軽やかに」
グレープフルーツ、ライム、ローズウッド、ユーカリ
■シルヴィア・A・カペル様
オードトワレ「夜薔薇」
トップノート:ラベンダー、ダージリン
ミドルノート:ジャスミン、ホワイトローズ
ラストノート:サンダルウッド、ムスク
オードパルファム「夢叶う」
トップノート:ティアレ/ジャスミン
ミドルノート:スズラン/バニラ
ラストノート:ムスク
■ヴァンゲルス・ロッド様
オードパルファム「茉莉花」
トップノート:ベルガモット
ミドルノート:イランイラン、ジャスミン
ラストノート:バニラ、ムスク
■ジュスト・ヴェルジー様
オードパルファム「Je l'aime」
トップノート:マグノリア
ミドルノート:チュベローズ、スズラン、フリージア
ラストノート:バニラ、ムスク
■ローザリカ・L・ディオール様
オードパルファム「Je l'aime」
トップノート:ピンクペッパー、ナツメグ
ミドルノート:シダーウッド
ラストノート:インセンス、ムスク
■ミリシュ=フレアティ様
オードパルファム「春を束ねて」
トップノート:チェリー、ピーチ
ミドルノート:ダマスクローズ、ピオニー
ラストノート:ホワイトムスク
マスターコメント
お疲れ様でした! これだけの人数の冒険者に本気で探されたらそりゃ見つかってしまう……! ご参加ありがとうございました。
調香についてはリプレイ終わりで触れておりますが、イメージやご希望をもとに、実際に組み合わせ可能な内容に近づけました(一部設定を優先したため、難しいものもあります)。最近はオリジナルの香水を作れるサービスもありますので、いかがでしょうか|ω・)
それではまた、お会いしましょう〜!
イベントシナリオ普通 報酬:標準18 / 4〜25人
2022年04月27日 10時59分51秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 調合師シバを探す予定だよ。フィルヤールとも話したいと思っている。どんな香水を調合してもらうかはこれから楽しく考えるつもりだ。 皆にとって良い一日になりますように。
オゴスと申します。どうぞよろしくお願い致します。 ふふ。普段は潜伏した敵を慎重に探すことが多いですが、こういう人探しは平和に楽しめそうですね。 上手く見つけることができたら香水の調合も頼んでみます。
「ナキルだ、よろしくな。 さて、人探しが終わったら……だな、前の作業の続きも出来るし… 記憶力Lv5と天眼を使った聞き込みと捜索をしようと思うぜ。」
フリューさぁ、よろしくね! 人探し!香水調合してもらえたらえぇな~♪ うちも聞き込みとかなんか……なんか( とにかく頑張るさぁっ!