そうだ、キャンプに行こう
辻村朝
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シナリオID:2038
オープニング
「キャンプ場を作る?」
「ああ」
自らの提案を聴き返してきた婚約者の言葉に、ラウロは力強く肯いた。
授恵者でもあるラウロは元々、流れの傭兵稼業で生計を立てていた。
リーンエス王国の一商会であるレンダーノ商会。その令嬢であるクレリアを救ったことを切っ掛けに彼の生活は一変したのだが、以前は長距離の移動や仕事の為に野宿やキャンプもよく行ったものだった。
というか、今でもたまにしている。
以前と違って、仕事がない時に行う為場所が商会が拠点としている街の近郊に限られ、「ラウロが以前どんな生活をしていたのか見てみたい」とついてくるクレリアが同伴していたが。
令嬢であるクレリアが、定住地を持たなかった自分のキャンパーとしての在りように最初はとても驚いていたのを、ラウロは今でもよく覚えている。
そして降って湧いた、次期会頭補佐としての経験を積むという名目での、新事業のプロデュースの話。
『万一失敗しても損害が少ないもの』いう条件の元で提示したラウロの案が、拠点の街の近郊、つまりラウロがたまのオフに過ごす辺りに、誰でもキャンプを楽しめるキャンプ場を造成しよう、というものだった。
「基本的には森をちょっと切り拓いて、場所を作ると同時に薪なんかになる資材を作るだけだからかけるリソースもそんなに多くない。その資材を一部使ってちょっとしたコテージを作ってもいいな。あまり大掛かりになるとその分の資材をどこかから調達しないといけなくなるから、ほんと『ちょっとした』になるけど」
「でも、あの辺確か魔獣が出ないこともないって貴方言ってなかった? そんなに大したのは出ないとも言ってたけど」
首を傾げたクレリアに、「そうだな」とラウロは肯いた。
「その辺含め、継続的に使っていれば維持管理費の方が最終的にかかってくるだろう。けど平民でも問題なく払える程度の使用料もそっちに充当すれば、それでも暫くは保つんじゃないか」
成功すれば儲けもの。仮にコケたとしても、ラウロに課されたミッション自体には成功しているのだから特に問題はない。
「もうひとつ提案なんだが、造成を冒険者に任せたいんだ。ついでに初めての利用客になってもらって。客って言っても勿論そこで料金を取るつもりはないが」
平民も貧民も貴族も、もっと言えばあらゆる種族も識っている冒険者なら、きっと多くの人が楽しめる場所を作ってくれるだろう。
そんなラウロの狙いは、後に商会でも許可されたのだった。
解説
マスターより
リプレイ
「さーて、まずは伐採だな」
本人にしては珍しく斧を装備したナキルが、意気揚々と森の一角へと向かう。
各々のやろうとしていることを踏まえて、事前に示しあった者たち以外にも自ずと班を成して行動するようになった冒険者がいた。
そのうちの一つが開拓班である。
「野営でも、拠点でもない。遊びとしてのお泊りの場、ですね」
ハルハン・ツァガーンナルは目を輝かせながらナキルの後に続く。
話に聞くだに楽しそうな話な上、それを一から作るなんて初めて。テンションも上がるというものだ。
「つっても変に切りすぎないようにはしねえとな」
そう言いながら周囲の様子を見回すのはスー・ルー。
スールが考えていたのは、雨が降って川が増水した時のリスクだった。水が溢れたり地面が緩くなりそうな場所を迂闊にキャンプ場にするのは拙い。故に、切り拓くべきでない場所は考慮すべきだと考えて2人についてきたのだ。
「この辺から行くか」
森に入って間もなく、ナキルは近くの巨木に手を当てながら上を見上げる。
いい感じに育っており、川からも離れている。他の木々のサイズを鑑みても、伐採して問題ないだろう。
そう考えると周囲を見渡す。ツァガーンナルはもう少し森の奥の方へ入ろうとしていたし、スールはまだ森の手前だ。
「こっから切るぞー! 気をつけろよ!」
それでも一応2人に声がけをしてから、ナキルは斧の刃を幹に叩きつける。
スキル込で放たれた一撃は、硬い幹などものともせずに深々と食い込んだ。何度かそこに刃を当てると木は先端からゆっくりと傾き出し、狭いながら元から開けていた場所へと倒れていく。
安全に倒れたことを見守ったナキルは、自分を少し遠くから見つめる思いがけない姿を見かけた。
リディリディ・トゥラ・イェレミースである。
「そんなところでどうしたんだ?」
「あの……若い木を切ったり、木を雑に扱うようなら、注意しようと思って……」
近寄りながら尋ねると、リディリディは木陰に隠れるように木に寄り添いながら答えた。
元々彼女はこの依頼の話を聞いた際、「森をちょっと切り拓いて」「仮にコケたとしても」という森を軽視しているようにも取れる話にはあまり良い顔が出来なかった。
王国の森、より正確に言えば商会の私有地とはいえ、粗雑な扱いをさせるわけにもいかない、と思ったのだ。
ただ――注意しようにも、リディリディ自身の気弱かつ人見知りな性格に問題があった。特に顔見知りでもない人に見かけられては逃げたくなる。
その点、お互いに姿を見かけたのがナキルであることは彼女にとって幸いだった。
「そういうことかー……。でもまぁ、気をつければ大丈夫だろ。他のやつらにも言っておくぜ」
ナキルもナキルで、エルフであるリディリディが意を決して行動を起こした理由を理解したようだ。
ありがとうございます、と、ひらひらと手を振りながら去っていくナキルの背に向け、リディリディは呟いた。
ナキルからリディリディの注意喚起を聴いた後、ツァガーンナルは木の選別には改めて気をつけつつも伐採を再開する。
「いきますよー!」
普段からハルバードを使っているだけあって、力の入れどころなども分かっている。手際よくと言っていいペースで開拓を進めていく。
気をつけていることは伐採する木の選別だけではない。
「そろそろこっちの方に行ったほうがよさそうだ」
と、それまで進んでいた方とは別の方角を指し示すのはスール。
彼は先立って、川と森の状況を見ながら切り拓かない方が良さそうな場所を探っていたのだ。専門知識があるわけではないから、野性的な勘によるところが大きいが。
雨が降ったら水が溢れたり、地面が緩くなりそうな場所は避けたい。
それだけではない。魔獣や野生動物等の住処や通り道になっている場所も、自然を出来る限り壊さないという意味では重要だった。
そうした観点を考慮しつつ開拓ルートを決めていく。
それでも目指すべきは、出来るだけ小川に近い場所だ。その方が遊びやすそうだというツァガーンナルは考えていたし――。
川は川で、ハリーヌ・ヨツユビが調査と整備を試みていた。
背丈の低いハリーヌは、彼女ならではの目線で整備を行おうとしていた。
「これから暖かくなるでございますから、キャンプなどアウトドアは人気が出るに違いないでございます。子連れの家族には、尚更のこと」
ハリーヌは事前にそう語っていた。鑑みているのはその安全である。
調査を終えたハリーヌは河原に上がる。するとそこにはナキルが立っていた。雨天時に水嵩の増す懸念のある場所に、簡易堤防を作ろうと計画していたのだ。
「実際にキャンプに使う時、安心して来たいからな」
「なるほどでございます、それならば」
と、ハリーヌは調査結果を伝達。ナキルは計画書を作る為にこれをメモに取り、一方でハリーヌは自身の作業を再開する。
幸い川辺には尖った石が多いような場所はなかったが、一方で滑りやすい場所を避けようとすると、釣りをするのに安定して座ったり立ったりできる場所は些か限られるようだった。
「さて、そういうことならやるでございますよ」
ペットのゴリラに目配せをすると、ゴリラは了解とばかりに一つ鳴く。
釣りスペースを確保しやすいように、滑りやすい辺りの石をどけたり、座れるような大きさの石を岸近くに運んだりし始めた。
ハリーヌがいるエリアからやや下流に、もう一人冒険者が居る。
海神・江流だ。彼もまた、仲間たちと森の開拓をしつつ川の調査を進めていた。
増水しても危険はなさそうだと判断できたあたりに目星をつけ、うん、と一つ肯いてから踵を返す。
「こっちで問題ない。ついでにもうちょっと調べてみたんだが、釣り以外にも川遊びも出来そうだ」
森の中に戻った江流は、開拓を行っている仲間たちにそう声をかけた。
この川は全体的に浅く、よほど小さな子供でなければ立って顔は出せる。
「じゃあ、このままやりますね」
ガルシアが一つ肯き、次に伐採しようと予め決めていた木に手をかける。事前に、その周りの背丈の小さな木や草などは綺麗に刈っていた。
まずは倒す方向を確認後、反対側に切り込みを入れた。
そして、今度は正面から切り倒す。
ガルシア自身の膂力もあって、時間もさほどかからず倒れていく。自前の武器でも試してはみたが、やはり木の伐採となると斧の方がやりやすかった。
倒れてから残った切り株の処理は、エル=バ=ノイアンの仕事だ。
伐採した木の周りをスコップで粗方掘り起こした後、露出した木の根を切断。そして、幹をテコの原理で地上に露出させる。伐採以上に手間がかかる作業だというのもあり、この処置を施す木は必要最低限に絞っていた。
一方でガルシアが切り倒した木はというと、シルヴィア・A・カペルによる枝打ちを経て丸太へと変わっていっていた。
分担しているので効率がいいが故に、ある程度丸太や伐採した木が溜まってくると今度はシルヴィア自身の作業スペースが狭くなる。
「よし、そろそろ行くか」
「そうだね」
シルヴィアは合流した江流とともに丸太を荷台に載せ、黒汗馬に運ばせる。
森を開拓する以外にもキャンプ場設備を整える為に動いている冒険者たちがおり、江流は事前に彼らに顔通しを行った上で提供する先を考えていた。
森も大分拓けてきた。
自然の保護を考えるとそろそろ伐採は終わらせた方がいいだろうという頃合いになり、シルヴィアと江流が最後の丸太運搬に向かっている間に、残ったノイアンとガルシアは整地作業を済ませる。開拓を進めながら整地も並行していた為、残っていた作業量自体はそれほど多くはなかった。
4人で合流したところで、江流が見つけたポイントに向かう。
「釣り竿を握るのは子供の頃以来かな」
と言いながらもそこそこ慣れた手つきで釣り糸を垂らしたシルヴィアは、傍らに座り、やはり釣り竿を握るノイアンの手の大きさに少しばかり動揺してしまった。
当のノイアンはというと、
「切羽詰まった依頼の中ではこうもゆっくりできないからな」
目の前の糸の揺れを見ていた故にシルヴィアの僅かな変化には気付けず、ただ穏やかな表情を浮かべていた。
「……一人でないというのも、悪くない」
江流も加えた3人で釣った魚は、
「下処理はお任せください」
と、1人待機していたガルシアが鱗取りと内臓取りを行う。
その手際の良さはシルヴィアだけでなく、シャルガネ育ちの江流も感嘆するほどだった。
それからハーブ塩を振って出来上がった塩焼きを、4人は堪能するのだった。
●管理するために
時間は遡る。
ヴィナスとルーンス・ラグネルは造成を始めるにあたり、事前にラウロとクレリアに会っていた。
「正直、一日での造成というのは出来ないと思う。コテージや遊具、柵などは作るにしろ安全確認が必要だよ」
子供が面白く感じる遊具ほど大怪我しやすいものは多いのだと付け加えるヴィナスに、2人も「それもそうか」と顔を見合わせる。最初から一日で全て完成するとは思っていなかったらしいが、課題は想定よりも根深かったようだ。
あと、とルーンスが付け加えるように言う。
「付近に河川がある以上水難事故はある程度想定した方がいい。魔獣だけが死者を出すんじゃないし、人が足を滑らせて溺れ死ぬってことは十分あり得る。穏やかな流れでも溺れる時は溺れるよ」
――貴族の子供でそういう事故起きたら、商会潰れる以上があるでしょ?
ルーンス自身も商会の跡継ぎであることを知らずとも、重みを感じる言葉であった。管理事務所に常備しておく為の救命ロープや毛布等の備品の手配、図解による注意書きの看板も設置されることになった。
勿論、ただ設備を準備しておくだけではない。
「不慣れな人は慣れてる人からしたら信じられないようなことをしてしまう。安全なんてあっという間に時の彼方。事故が起きないのがベストだけど想定はしないとね」
活かせないと意味がないのだ。
管理事務所の管理者に、応急手当や水難救助の為の訓練ないしは講習を受けてもらった方がいいだろう、というヴィナスの提案に、ラウロたちが異を唱えるわけもなかった。
次いでヴィナスとルーンスが取り掛かったのは、設備を作ろうとしていた冒険者たちとの相談会である。
設備をリストアップした上で、開拓した場所にどのように設置するか綿密に計画を練っておかないと資材もすぐ無くなってしまうからだ。
使える資材や設備の配置は紙に書いて割り振りした後、他の冒険者たちは各自の作業に入った。流石に冒険者たちだけでは手が足りない為、各設備の設置には商会側が人手を用意してくれている。
兄弟はというと、管理事務所の設置に向け作業に入っていた。
事前に商会から提供されていた資材のうち、2人の手元に残ったものはそれほど多くはない、が。
「ここでいいか?」
「ああ、助かる。ありがとう」
黒汗馬を引き連れた江流とシルヴィアがやってきた。製材した丸太を運んできたのだ。
また来るよ、と言い残して一旦その場を去る江流たちの姿を見送りつつ、ヴィナスとルーンスは作業を再開した。
●充実する設備
「ここか」
開拓の手伝いに一旦目処をつけたスールもまた、切り拓いて出来た資材の運搬を担っていた。
彼がやってきたポイントからは、数人の冒険者達が各々のスペースで作業しているのが見える。今いる辺りに木材を置いておけば、取りにも来やすいだろう。
そう考え運んできた木材を置き、追加分を運ぶべく踵を返した。
シルク・メイプルリーフは、東屋の設営に取り掛かろうとしていた。
雨を凌ぐ為だけでなく、釣った魚を大量に焼けるBBQ広場的な用途も兼ね備えるのが狙いである。
「このあたりがいいですかね」
目処をつけた場所は、開拓班が切り拓いた土地の中心である。既に切り株の掘り起こしと整地も済んでいた。
東屋にした理由は用途以外にもある。ここなら周囲の木々に燃え移らず憩いの場にもなるし、非常時の避難場所にも使える。
何より、屋根とそれを支える柱さえあればいいので、取る面積の割に資材は使わなくて済むという算段だった。
「よいしょ、っと」
丸太のうちの1本を、柱として地面に突き立てる。根元のあたりを石などで固定した後、安定を確認してから柱を掴んでいた手を離した。
駆り出された手伝いの視線が汗の滲んだ豊かな膨らみにちらちら向くのを気にせず、シルクは次の作業に取り掛かった。
「キャンプだってさベルク! ベルクにぴったり合う可愛い水着もちゃんと準備してきたし泳ご泳ご☆ ……水場どこ……?」
フレイヤ・サンライズは辺りをきょろきょろと見回す。
水着は今じゃない、とベルク・オスマットは話を脇に置いて、それから、
「ここをキャンプ地とする!」
ドン、と効果音がつきそうなくらい胸を張った。
一瞬の静寂の後、「……という冗談は置いておいて」気を取り直す。
「とりあえず炊飯の場でも整えることから始めるか、せっかくのキャンプで冷や飯食らいや飯抜きはいやだからな」
「はーい☆」
2人は野外炊飯場を作り始めた。場所はシルクが整えている東屋から川に向かっていく中間地点。
提供されていた石材や、河原の石等も使いつつ石組窯を作っているベルクの横から――
「ねぇねぇ、ピザ焼ける竈とかも作ったりしない? 絶対ウケるって♪」
フレイヤのそんな提案。
幸い、資材はある。炊飯場の外見を整える為に必要だと判断はしていたからだ。
そういうワケだから、
「お、ピザ窯か、別にピザ以外にも使えるし便利なことには違いないから作るか!」
ベルクもノリノリになった。石組窯も後は他の人手だけでなんとかなるくらいにはなっている。
そのモブから「あの、実際に使うときの薪の使用量は……」と突っ込まれたが、
「え? それは利用者の考えることだろ?」
もはや止まらない。フレイヤと2人がかりで、ピザ窯作りに取り掛かった。
本当はドーム型の窯が作りたかったのだが、ドーム部分をレンガで作りつつ一日で固定する方法がないので、上部も焼き床部分同様の形状である二層式のものにした。これならさほど時間もかからずに作れるというのもある。
2人は手際良くレンガと支える為の資材を積み上げ、滞りなく完成させる。するとフレイヤは持ってきた荷物の中から何かを取り出した。
「なんでそんなものを」
事前に作ってきたらしいピザ生地だった。
「キャンプで焼こうと思って♪」
「……さては最初から窯も作るつもりだったな?」
「内緒☆」
フレイヤは笑って真実を話さなかったが、さておきピザは上手に焼けた。
「ん、いい感じじゃない! もうこれキャンプの目玉だよ☆」
そうして2人は、作りたての窯で焼き立てのピザを堪能するのだった。
リサ・ベイカーとゲルダ・クラインは、丁度ヴィナスやルーンスも課題の一つに挙げていた立て看板を作ることにした。
キャンプに慣れていない者もいれば、字が読めない者もいるのがこの王国だ。
その両方が恙無く安全に楽しめるようにする必要がある。そう考えると、作るべきものはたくさんあった。
まずは施設の場所と名称を記した案内図。これは相談会で決まった配置図をもとに、イラストや記号を描けばいいのでそれほど難しくはない。
【立入禁止】【魔獣注意】あたりまでまだ絵にしやすいが、それ以外の禁止事項はイラストだけで理解出来るようにするには一工夫が要る。
その工夫の部分を、親友2人は図案を描きながら相談する。
「『所定のエリア以外での焚き火禁止』とか、どういう風にすれば……」
「わかりやすく……ううん、こんな感じのイラストが良いでしょうか?」
首を撚るリサに、ゲルダがざっと書いた図案を提示する。もの自体はシンプルに、焚き火にバツマークをつけたものだが。
「一箇所でまとめるんじゃなく、駄目なエリアにこれを立てるんです。目立つところに」
「なるほど……流石ゲルダちゃん」
一度に全ての注意事項がわかればそれに越したことはないが、どうしても難しいものは出てくる。施設案内図の概要のところに記載する、という手もあるが、それだと何もないところへの注意が甘くなるのだ。だったら、ゲルダの言うようにした方がわかりやすい。
考えるべきなのはルールに関することだけではない。初心者の為に、火の付け方やテントの立て方といったものも必要だった。ちなみにテントは、レンダーノ商会で貸出用のものも準備するらしい。
これまた2人で悩み、唸り、閃いた時には明るく声を上げ、案を仕上げていく。
図案さえ仕上げてしまえば、後はこちらのものだ。リサには絵画の心得がある。
板状にした木材にリサがささっと線画を描き、彼女が別の板に取り掛かっているうちにゲルダはペンキで色を塗ったり、看板を組立てたり。
最後の一枚――最も大きくする必要があった案内図は2人で仕上げ、
「「できました!」」
と華やいだ声を上げた。
「ふふ、可愛いの、できましたね!」
「そうですね! 子供にも分かりやすそうだし」
2人で出来たての看板を見下ろしてから、顔を見合わせて笑う。
「たくさんのひとが、キャンプを楽しめるといいですね」
そのゲルダの言葉に、リサも笑顔のまま肯くのだった。
管理事務所の裏手から暫く川の下流沿いに向かったところに、商会が用意していた資材の置場がある。
更にその向こう側の川岸の端で、ストレガ・L・リベルガストラは数人の手伝いとともに東屋を作っていた。
作っているのは獣の解体場である。これを設置している水場から離れたところには、廃棄物処理用地も整えていた。併せて、花を摘む場所も管理事務所と解体場の間に設置されることになった。
こういった場所の指定を行ったのは衛生の問題である。
「上水が血などで汚染されることを避けるのだ」
幸い下流には、事務所裏手すぐのところで分岐する支流があった。本流よりもやや流れが早い支流は、下水として用いるには最適だったのである。花摘みも解体場もこの支流上にある。
解体場を下流に選んだのはもうひとつ理由がある。内蔵が苦手な者もいるからだ。
加えて獣臭対策も加味したのが、資材置場の場所だった。
管理事務所からは容易に歩いていける。その事務所の裏手にも、大蒜等の香草を栽培すると良いとストレガは提案する。
「薪と共に販売すれば資金の足しになるのだ」
なるほど、と話を聞いたラウロはメモを取った。
アルシエラ・ライゼルが作ろうとしていたものは、他の冒険者達とは趣が異なる。
遊園地、もとい、主に子供向けの遊び場所である。
「KIKORIはやらない。時短」
木材も自前かと準備はしていたが、分け与えられた資材で割と何とかなりそうだったし、人手もある。
KIKORIも楽しそうだったが、やりすぎるのは良くないので我慢しつつ、早速遊具の制作に取り掛かった。
丸太を細かく切断した後、それを繋ぎ合わせて輪を作る。尖った部分を丸めたそれをロープに引っ掛けた。
そのロープを丈夫な木に吊るして、まずアスレチックの完成。
完成の感慨に浸る間もなく、次の遊具制作を始める。
更には木人と砂場を拵えた後、最後にアルシエラが取り掛かったのはシーソーだ。
半分に切った長い木に取っ手をつけ、真中両サイドに固定する台を作る。
両端があたる地面にも木を埋めてショックを吸収する――のだが。
「むずい……」
渋面を作っていると、どこからか木の杭を打つ音が聞こえてきた。
きょろきょろと周囲を見渡す。少し遠くで木の柵を作っている人物の存在に気づき、アルシエラは思わず呟いた。
「さすがだわ」
●魔獣対策も入念に
(魔獣が今後も忌避するようにしなければな)
だわは少し仕事を済ませて、開拓予定のない森から出る。
近隣に生息する魔獣は大して危険ではないらしいが、それでもサイズが大きいものは一般人にとっては脅威の対象だろうと考えたのだ。そういう魔獣を討伐してきたのに加え、鍋を叩いて音で威嚇し、魔獣の気配が遠ざかるのも感じてきたところだった。
また、これで全ての脅威が取り払われたとも限らない。
記録とサバイバル知識を元に、森の中で毒草や毒茸にあたるものを回収してきてある。
これを磨り潰し、やはり回収してきた魔獣の死体や木の実に混ぜた毒餌を森の近くの何箇所かに設置した。
そんな彼の作業には途中から同行者が加わっていた。カハトラである。
森の中の魔獣討伐でばったり出くわしただけで初対面なのだが、考えていた対策の方向性が似たようなものだったのでそのまま行動を共にしていた。
「こんな感じでいいか」
「ああ」
だわが立てた柵の一部の上部に、蝋台を設置する。明かり取りと魔獣避けを兼ねたものだ。
更にカハトラは、柵近辺の太い木々に、木材と母蜘蛛糸のロープを利用したくくり罠を設置した。罠を踏み抜くと母蜘蛛糸のロープの伸縮性によって木に吊り上げられる、という仕組みである。母蜘蛛糸のロープは横からの負荷への耐久性はない為切られてしまうと吊り上げは出来ないが、初見なら効果はあるはずだ。
これらの罠は民間への開放前には回収される手筈となっている。管理者にも毒の詳細や罠の仕組みを教えておけば、オープン後もいざという時何とかなるだろう。
「んー! 森の空気は落ち着くね、ロイ」
「ああ、エルフには森だね」
テス・クラルスとロイ・アウレアは共にエルフである。
冒険者としてそれなりに時間は経つが、やはり森という環境は2人にとって呼吸のし易い場所だった。
テスはゴミ捨て場となっている穴の周辺に、曼珠沙華の花を植えた。
根が深く広く張って、その末端まで毒を持つという。仮にゴミ捨て場からいい匂いがしたとて、動物も魔獣も漁れなくなるだろう。
いい仕事をした、と少し口元を綻ばせたところで、荷車に木材を積んだロイが戻ってきた。
「クローリカさんが向こうで柵を作ってるみたいだ。手伝いに行こう」
「分かった」
ロイの提案に、テスは肯く。
ロイの言葉通り、クローリカは開拓班の切り倒した木の一部を融通してもらい、柵を作っていた。
一定間隔で『この先魔獣生息エリアの為侵入は危険です』と記した立札も設置している。
そろそろ融通してもらった資材も切れそうになってきたところで、
「ちょうどよかったみたいだね」
荷車を引いたロイとテスがやってきた。
手伝う、と言ってきた2人に、クローリカは「助かります」と礼を述べる。資材を再度調達すべきか悩んでいたところだったのだ。
そんなわけで、3人で柵の作成に取り掛かる。
「一般人も利用しますし、脅威への対策は念入りにしておきたいですね」
「うん」
「でも……そうだな」
クローリカの言葉に対し、ロイは少しだけ作業の手を止めて森の方を見た。
「勿論人にとって魔獣は脅威だけど、可能なら共存なり棲み分けなりしたいかな、オレは」
「……全ての魔獣が積極的に人に迷惑をかけたり、害を成すわけでもありませんしね」
中には人の余計な手さえ伸びなければ、野生動物同様の生態で過ごしている魔獣も居るのだ。
クローリカはそう考え直して、少しだけ認識を改めたのだった。
作った柵に、テスの提案で擦り下ろした唐辛子を塗る。
「匂いを動物が嫌って近寄らなくなるんだ。魔獣にもある程度は効くと思う」
「なるほどな……。じゃあついでに、鳴子も作っておこう」
「いいですね。金属はあまりないですが、音を鳴らせそうな細かい木ならそこそこあります」
ロイのアイデアにクローリカがそう乗っかり、即席の鳴子を括り付けた。
「よし、じゃあ仕上げだ」
今度はテスが森に立ち入り、笛を吹きながら巡る。
独特の威圧感を込めながら回るその姿で以て、「この音の元には怖いものがいるのだ」と知らしめる為だ。
後にこの笛は、管理事務所に預けられることになった。
セロンガード・シュタインドルフもまた、複数の罠を張っておこうと考えていた一人である。
他の冒険者も考えていたものに加え――
「……空、あり得ますね」
上を見上げて、呟く。鳥獣系の魔獣なんかが来ることもあるだろう。そう考えると、案山子や鳥除けも作っておく必要がありそうだ。
「セロン」
セロンガードが案山子を作っていると、背後から声をかけられた。
「ティト、いい場所はありましたか」
セロンガードは一旦手を止め振り向く。「セロンの手伝いをする」と言って、罠を設置するのに適したロケーションを探しに行っていたティトの姿がそこにはあった。
「ばっちり、だよ。あと、この辺りに棲んでる動物とか、生えてる植物のことも調べておいた、よ」
そう言って手元のメモを叩くティト。メモは管理事務所に渡しておけばこれまたばっちりだろう。
セロンガードはティトの成果を確かめると、一つ肯いた。
「ありがとうございます。それじゃあ、今作ってる分を仕上げたら設置しにいきましょう」
「わかった、よ」
セロンガードを助けられて良かったと思ったのか、ティトは嬉しそうに目を細めた。
そうして2人もまた罠を張り。
2人も含めた多くの冒険者が一通りの作業を終えたときには、日はいい感じに傾いていた。
●満喫
シルクが作った東屋から、開拓班が切り拓いた部分にかけ、いくつかのテントが張られる。
早速利用する冒険者たちのものだ。
「カレーを作りました!」
声を上げたツァガーンナルの眼の前の鍋からは、香辛料のいい香りが漂う。
ベルクとフレイヤが指揮を取って作った野外炊飯場を活用したものだ。
「こちらも出来たのでございます」
東屋の中心に据え付けられた焚き火台に火をくべ、ハリーヌが準備していたのは魚の塩焼きだ。魚は川で釣ってきたものである。
ちなみに東屋の作成主であるシルクはといえば、ハリーヌとは別口で塩焼きに取り組んでいる。……が、今完成する様子はない。
「またあしたこの東屋に来てください。究極の塩焼き魚ってやつをお見せしますよ」
とは本人談。手の込んだ仕込みが続いているようである。
それはそうと。
「何だか即席のBBQなのに、意外と豪華な食卓になるようでございますね」
「そうですね」
ハリーヌの言葉に、冒険者たちの料理を都度都度手伝っていたクローリカが肯く。
2人の視線の先では、ロイが持ち込んだ肉をこんがり上手に焼き上げたところだった。
「お疲れ様ー!」
ロイの音頭でその場にいる者たちで乾杯をする。夫々が作った料理をシェアしつつ、焚き火を囲みながら今日一日の作業を労いあった。
「頑張った後のご飯や、星空を見ながらの料理は、晴れ晴れした気持ちになりますよね。オープンが楽しみです」
「遊具もあるようでございますし、子供たちものびのびと遊べるのでは」
「見た時びっくりしたよ。子供の喜ぶ様が目に浮かぶ」
ハリーヌの言葉にロイが反応した。2人の言う遊具とはアルシエラ謹製のものだ。
びっくりしたといえば、と付け足したのはツァガーンナルだ。
「看板や案内図もとても分かりやすかったです」
「魔獣が近寄らないようにする対策も結構色々しましたし、森に関する危険、というのは当面はなさそうですね」
クローリカは言いつつ、ともに柵を立てたロイやテスを見てから、少し離れたところで焚き火を囲うだわとカハトラに目を向けた。
鍋で煮込んだ干し肉や、他の面子からシェアさせてもらった料理もつまみながら、だわとカハトラが盛り上がっていたのは邪竜対策の話題だ。
「ギルドで開発している防衛技術について、少し意見を聞きたい」
と言い出したのはカハトラだ。だわとしてもドワーフ王国の仇敵である邪竜に対する効率的な戦術や技術には興味があったので、カハトラの話を聞きつつ私見を述べる。
そうしているうちに更に時間は過ぎ、東屋の賑わいも落ち着き始めた。2人は鍋と焚き火を片すと、夜の見回りに出る。
昼に仕掛けた罠にまだ魔獣がかかっていないのも、まだ安心は出来ないにしろ穏やかさの象徴の一つかもしれない。
「……空が美しいな」
「ああ、星が綺麗だ」
ふと空を見上げ、2人はそんな感想を漏らす。それから視線を下ろしたカハトラは、だわの顔を見た。
「……マミダの作戦にも参加していたと言っていたな」
「ああ」
「冒険者たちの協力がなければ、あの地を邪竜から守ることも、こうして我々が穏やかに時を過ごすこともままならなかった。……感謝する」
「テントでこんなにゆっくりするのも、珍しい、ね」
「そうですね」
ティトとセロンガードはテントの中で寝袋に入りながら、言葉通りゆっくりする。
そんなわけで2人はティトが最近たまに遊んでいるパーティゲームをすることにした。シナリオはセロンガードが用意したものだ。
だが、この手のゲームは終わるまでに時間がかかる。
その上昼間も結構働いたし、2人ともいつでも寝られる態勢だった。
故に、ティトは考えている最中、猛烈な眠気を自覚した。思考がまとまらず、瞼も重い。
だから寝袋ごと転がり、セロンガードの方へ。添い寝してもらう格好になる。
それから間もなく穏やかな寝息を立て始めた。
――毛布をかけてくるセロンガードの温もりを感じながら。
「疲れたけど充実した一日だったな」
「そうだね」
ロイとテスは寄り添って星を見上げる。
「昔もこうして見上げたね」
なんてことを、テスは唐突に思い出した。
あの時と今では、2人の関係性は大きく異なるが、過去と今の幸せが重なる様な不思議な感覚を覚えていた。
ロイの肩に寄りかかるように頭を載せると、彼もまたテスの肩を抱く。ロイも幸せを噛み締めているのだろうと思う。
だからそんな幸せが続くように、テスは願った。
「また一緒にキャンプに来ようね」
黙って笑みを浮かべたままロイへの頬への口づけに、思いも乗せて。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:少ない25 / 4〜25人
2022年05月21日 17時29分13秒 公開
参加者
相談掲示板
ロイ・アウレアです。よろしくお願いします。 今のところテスと【2】魔獣対策をする予定です。 必要なら狩るが、鹿威しや鳴子みたいなのを設置し近寄らせない方向で出来たら良いなぁと。 【2】の予定の方が多かったら他へ移動するので教えてくださいね。 また一緒に作業できる方が居たら協力したいと思ってます。
「ナキルだ、よろしくな! 【1】あたりで開拓でもするかな。 他の項目でも資材としての木材とかは、必要になるだろうし… あとは、ちっと河川周りが気になるくらいか、キャンプ地作って増水した川でどうこうってのが無い方がいいし。 今回で策は打てなくても、警戒地だけピックアップだな。」
クローリカです、よろしくお願いします。 私は【2】の魔獣対策に、【1】の伐採で出た木材などを使って柵を作りたいと思っています。 一般の方も利用する手前、魔獣対策はきちんとやっておかないとですし。
ヴィナスだよ。 よろしくね。 弟と一緒に【3】で設備を整える方に行くよ。 管理事務所はいると思うし。
ここまでで既に、1~3まで名乗りがあるね。 安心して【2】で働かせて貰うよ。 クローリカさんの作ってくれる柵の更に外に鳴子、通路(出入口?)付近に鹿威しかな? 必要なら資材を分けて貰いに行くので宜しく。細かい点は出発まで考えます。 …っと、特に決めてないが【4】も当然に楽しませて貰います。
ボクは【1】で開拓のお手伝いをします! 敷地に川が隣接していれば、色々遊んだりできることも、増えそうですね あとは、【4】で料理を作ろうかと思います! 外で食べるカレーとか、美味しいですよね!
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【1】で友人達と作業した後、のんびりする予定だよ。 皆にとって良い一日になりますように。
ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 キャンプでございますか。これから良い季節になるでございますから、きっと流行るに違いないでございます! ワタクシは【1】で川辺の調査や整地を行いたいでございますね。 ファミリーのお客様など、特に子連れの方に気をつけていただきたいのは川の事故でございます。 ワタクシは背が低いでございますから、お子様の目線で安全に遊泳できそうな場所や逆に危険な場所を見極めたいでございます。 その後は、【4】でどなたかとお食事でもご一緒できれば…と。 当日はよろしくお願いするでございますよ!
【3】で遊園地っぽいの作る事にした 作るのは輪っかのブランコ 木人、木刀 砂場 シーソーあたり 行動に迷ったりしたらお気軽参加おけおけ
今日、出発だね。行動が固まったので話します。 【2】で鳴子や他のアイデアを実行しつクローリカさんのお手伝いをさせて下さい。 柵は確実な分時間も掛かるよね。(建築・土木を準備) 【1】の方々に資材を分けて貰いに行ったり、必要なら自分も動きます。 アルシエラさんの遊園地っぽいの子供たちが喜ぶね。良いなと思いました。 夜は迷宮産お肉セットを持込んで皆さんとシェアする事と 逆に皆さんの料理を分けて貰えたら嬉しいので、この辺りはMS一任としてます。 では、改めて宜しくお願いします。
テス・クラルスです 私は【2】で柵づくりのお手伝いをしたり 魔獣が「近づいても利点がないな」って思うような環境にできないかを考えてみるよ 【4】ではご相伴に預かって楽しめたらいいなっておもってる どうぞよろしくね