【想石】あなたを想う指先で
こはる
コメント 2
シナリオID:1946
オープニング
●願い灯る星月夜
月明かりに照らされた部屋の中で、ひそひそとした話し声が途切れる事なく続いていた。
「肩車をしてもらったらね、お日様にも手が届きそうだったのよ。それに草笛やお花飾りを一緒に作ったの」
「たくさん遊んでもらったのね。あの木の実も一緒に拾ったの?」
「そうよ。あとね、お花の絵が描いてある花言葉のご本も見せてもらったの。知らないお花がたくさんだったのよ」
「素敵な本を見せてもらえて良かったわね。ユナの気に入ったお花はあった?」
「全部よ。いつか本物を見てみたいわ。リランお姉ちゃんも一緒によ」
冒険者達と白雪想花を探しに行った小さな冒険譚を楽しそうに話すユナに、リランと呼ばれた女性は瞳を細めて静かに頷いた。
「ええ。見た事のないお花で作る花冠はとっても綺麗でしょうね」
「リランお姉ちゃんとお揃いがいいのよ。それとね、お母さんの髪飾りを褒めてもらえて、このお花の花言葉も教えてもらえたの」
「とても素敵な想いが込められているものね。あなたのお母さんの大好きの気持ちも」
「うん。沢山泣いたらお母さんの願いを叶えてあげてって言われたの」
ユナはそう口にすると、リランにぎゅっと抱き着いた。
「寂しいと嬉しいが一緒に溢れてきて、たくさん泣いちゃったのよ。でもね……」
リランの胸に埋めていた顔を上げ、ユナはにっこりと微笑む。
「嬉しい気持ちの方がちょっぴり多かったの。きっとたくさん優しくしてもらえたからね」
「……ええ、素敵な人達に出会えて良かったわね」
ユナを抱きしめながら、リランは冒険者達との邂逅を思い出す。
ユナが心配で探しに行った先で彼等と出会った瞬間、表情に出さないように努めながらも内心では強く警戒していた。冒険者達への嫌悪感はなかったが、未知の存在がユナと共にいる状況に動揺してしまったのだ。
「うん、お友達も出来てとっても嬉しくて……とっても幸せ……なの、よ……」
ひとしきり話して満足したのか、ユナは次第に微睡の中に落ちていく。リランは柔らかな頬に唇を落とした。
「おやすみなさい、ユナ。優しい夢が見れますように」
ユナが外の世界に興味を持っている事は前から感じていた。冒険者達と出逢った事でその憧れはより強くなった事だろう。
「あなたは自由よ。何処にだって行けるし好きなように生きられるわ。森に閉じ込められなくていいのよ」
まるで願いを託すかのようなリランの呟きは、星々の輝く夜空の下でユナを照らす温かな灯りのようだった。
●宝物はその笑顔
2月のある日。リランはフィルエス大森林の近くのとある町を訪れていた。
エルフの耳をフードで隠し、質素な旅装束に身を包んでいるのには理由がある。里の者に外出の理由は仕事だと思わせる為だ。
閉鎖的であるが故に侵攻を恐れる長老は里の若者に外の世界の情報収集を命じる事があり、自主的に赴く事も里に対する献身だと喜ばれていた。
(ユナが里を出たいと願った時、一番初めに訪れるのはきっとこの町だわ。安全な場所なのか、ユナが困った時に力になってくれそうな人はいるのか、調べておかないと)
町を訪れたのは里の為ではなくユナの為だ。そう遠くない未来に訪れるであろう彼女の旅立ちに少しでも力になってあげたかった。
先日に冒険者達とユナが心を通わせていると感じたからだろうか。
この町にユナを助けてくれる優しい人がいて欲しいと願ってしまうし、もしも出逢えたのならば真心をもって縁を繋ぎたいとリランは思っていた。
フードを目深に被り直し、門を通ろうとしたその時――。
「リランお姉ちゃん!」
「ユナ!?」
驚いて声を上げるリランにユナはぎゅうっと抱き着く。
「寂しくてついてきちゃったのよ!」
「全然気づかなかったわ……」
このまま一人で帰すのは危なくて絶対にしたくない。一緒に町を回るのが一番だとリランは覚悟を決める。
問題はユナの格好だ。リランのように変装をしていない。
もしもこの町の住民がエルフに対して良い感情を持っていなかったとしたら、ユナに危害が及んでしまうかもしれない。
「お姉ちゃん、ここにはお友達に会いに来たの? それとも長老様のお使い?」
「それは……」
「勿論祭りに参加しに来たんだろう? チョコレート作りも宝石を使ったアクセサリー作りもぜひ楽しんでおくれ」
リランがユナの問いに答られずにいると、通りかかった男性が親しげな笑顔で声をかけてきた。
「2月にはチョコレートを、3月には宝石を使ったアクセサリーを大切な人に贈るのがロスガリア中で流行ってきていてね。この町もそれにあやかったって訳さ」
「チョコレート! 初めて聞くわ。どんなお菓子なの?」
「とっても甘くて一口食べたら幸せな気持ちになれる魔法みたいなお菓子だよ」
男性の言葉にユナは瞳を輝かせリランを見つめる。
「リランお姉ちゃん、あたし、魔法のチョコレートもお花のアクセサリーも作りたいのよ!」
「ははっ、こんなに元気いっぱいのエルフのお嬢さんを見たのは初めてだ」
ユナの興奮を表すかのように揺れるエルフ耳を見つめ、男性は快活な笑い声を上げる。その様子と口ぶりからエルフに見慣れているのだとわかる。
町並みに目を移せば、綺麗に整えられた道に多数の店が並び、色とりどりの花が咲いている。
活気に満ちた呼び声があちらこちらから聞こえてくるこの町は多種多様な種族が訪れる観光の町なのだろう。
それならばユナが好奇や嫌悪の視線にさらされる心配もないし、自分もエルフである事を隠す必要はない。
リランはフードを被るのを止めた。視界は鮮明になり、チョコレートの甘い香りがより強くなる。
「ええ、どちらも一緒に作りましょうね」
「うん!」
弾けるような笑顔のユナを抱き上げ、頬を寄せる。
この笑顔を守る為ならば何だって出来る。チョコレートやアクセサリーを作りながら町や人々を観察するのはそう難しくないだろう。
リランは子供らしく無邪気なユナの笑顔に愛しさを募らせ、ユナも里にいる時とは違う明るいリランの表情を嬉しく感じていた。
●甘い魔法か宝石の花か
冒険者であるあなたが訪れた町は、チョコレートの甘い香りと道行く人々の幸せな表情で溢れていた。
人々が時折大切そうに触れるアクセサリーは様々な花の形をしていて、色とりどりの宝石が輝きを放っている。
「大切な人への想いをその指先に込めて、素敵な贈り物を作っていって下さいね!」
チョコレート色を基調とした衣装と、宝石をあしらった花の形のアクセサリーを身に着けた若い女性に声をかけられたあなたは、祭りの詳細について尋ねてみた。
この祭りで楽しめる事は二つあると女性は笑顔で答えた。
一つめはチョコレート作り体験。
ナッツ類やドライフルーツ等の材料や、色々な形のチョコレート型を使って好きなようにチョコレート作りを楽しめる。
二つめは宝石を使った花型のアクセサリー作り体験。
こちらは町の細工職人達が作った花のアクセサリーの型に、好きな宝石を嵌め込んで作るお手軽さが売りだと言う。
アクセサリー型は様々な花の物が用意されているし、宝石も種類豊富に取り揃えられている。希望するのならば花の型から自分で作るのも可能との事だ。
大切なあの人を思い浮かべながら。または肩を寄せ合いながら。
あなたの指先はどのような贈り物を生み出すのだろうか――。
月明かりに照らされた部屋の中で、ひそひそとした話し声が途切れる事なく続いていた。
「肩車をしてもらったらね、お日様にも手が届きそうだったのよ。それに草笛やお花飾りを一緒に作ったの」
「たくさん遊んでもらったのね。あの木の実も一緒に拾ったの?」
「そうよ。あとね、お花の絵が描いてある花言葉のご本も見せてもらったの。知らないお花がたくさんだったのよ」
「素敵な本を見せてもらえて良かったわね。ユナの気に入ったお花はあった?」
「全部よ。いつか本物を見てみたいわ。リランお姉ちゃんも一緒によ」
冒険者達と白雪想花を探しに行った小さな冒険譚を楽しそうに話すユナに、リランと呼ばれた女性は瞳を細めて静かに頷いた。
「ええ。見た事のないお花で作る花冠はとっても綺麗でしょうね」
「リランお姉ちゃんとお揃いがいいのよ。それとね、お母さんの髪飾りを褒めてもらえて、このお花の花言葉も教えてもらえたの」
「とても素敵な想いが込められているものね。あなたのお母さんの大好きの気持ちも」
「うん。沢山泣いたらお母さんの願いを叶えてあげてって言われたの」
ユナはそう口にすると、リランにぎゅっと抱き着いた。
「寂しいと嬉しいが一緒に溢れてきて、たくさん泣いちゃったのよ。でもね……」
リランの胸に埋めていた顔を上げ、ユナはにっこりと微笑む。
「嬉しい気持ちの方がちょっぴり多かったの。きっとたくさん優しくしてもらえたからね」
「……ええ、素敵な人達に出会えて良かったわね」
ユナを抱きしめながら、リランは冒険者達との邂逅を思い出す。
ユナが心配で探しに行った先で彼等と出会った瞬間、表情に出さないように努めながらも内心では強く警戒していた。冒険者達への嫌悪感はなかったが、未知の存在がユナと共にいる状況に動揺してしまったのだ。
「うん、お友達も出来てとっても嬉しくて……とっても幸せ……なの、よ……」
ひとしきり話して満足したのか、ユナは次第に微睡の中に落ちていく。リランは柔らかな頬に唇を落とした。
「おやすみなさい、ユナ。優しい夢が見れますように」
ユナが外の世界に興味を持っている事は前から感じていた。冒険者達と出逢った事でその憧れはより強くなった事だろう。
「あなたは自由よ。何処にだって行けるし好きなように生きられるわ。森に閉じ込められなくていいのよ」
まるで願いを託すかのようなリランの呟きは、星々の輝く夜空の下でユナを照らす温かな灯りのようだった。
●宝物はその笑顔
2月のある日。リランはフィルエス大森林の近くのとある町を訪れていた。
エルフの耳をフードで隠し、質素な旅装束に身を包んでいるのには理由がある。里の者に外出の理由は仕事だと思わせる為だ。
閉鎖的であるが故に侵攻を恐れる長老は里の若者に外の世界の情報収集を命じる事があり、自主的に赴く事も里に対する献身だと喜ばれていた。
(ユナが里を出たいと願った時、一番初めに訪れるのはきっとこの町だわ。安全な場所なのか、ユナが困った時に力になってくれそうな人はいるのか、調べておかないと)
町を訪れたのは里の為ではなくユナの為だ。そう遠くない未来に訪れるであろう彼女の旅立ちに少しでも力になってあげたかった。
先日に冒険者達とユナが心を通わせていると感じたからだろうか。
この町にユナを助けてくれる優しい人がいて欲しいと願ってしまうし、もしも出逢えたのならば真心をもって縁を繋ぎたいとリランは思っていた。
フードを目深に被り直し、門を通ろうとしたその時――。
「リランお姉ちゃん!」
「ユナ!?」
驚いて声を上げるリランにユナはぎゅうっと抱き着く。
「寂しくてついてきちゃったのよ!」
「全然気づかなかったわ……」
このまま一人で帰すのは危なくて絶対にしたくない。一緒に町を回るのが一番だとリランは覚悟を決める。
問題はユナの格好だ。リランのように変装をしていない。
もしもこの町の住民がエルフに対して良い感情を持っていなかったとしたら、ユナに危害が及んでしまうかもしれない。
「お姉ちゃん、ここにはお友達に会いに来たの? それとも長老様のお使い?」
「それは……」
「勿論祭りに参加しに来たんだろう? チョコレート作りも宝石を使ったアクセサリー作りもぜひ楽しんでおくれ」
リランがユナの問いに答られずにいると、通りかかった男性が親しげな笑顔で声をかけてきた。
「2月にはチョコレートを、3月には宝石を使ったアクセサリーを大切な人に贈るのがロスガリア中で流行ってきていてね。この町もそれにあやかったって訳さ」
「チョコレート! 初めて聞くわ。どんなお菓子なの?」
「とっても甘くて一口食べたら幸せな気持ちになれる魔法みたいなお菓子だよ」
男性の言葉にユナは瞳を輝かせリランを見つめる。
「リランお姉ちゃん、あたし、魔法のチョコレートもお花のアクセサリーも作りたいのよ!」
「ははっ、こんなに元気いっぱいのエルフのお嬢さんを見たのは初めてだ」
ユナの興奮を表すかのように揺れるエルフ耳を見つめ、男性は快活な笑い声を上げる。その様子と口ぶりからエルフに見慣れているのだとわかる。
町並みに目を移せば、綺麗に整えられた道に多数の店が並び、色とりどりの花が咲いている。
活気に満ちた呼び声があちらこちらから聞こえてくるこの町は多種多様な種族が訪れる観光の町なのだろう。
それならばユナが好奇や嫌悪の視線にさらされる心配もないし、自分もエルフである事を隠す必要はない。
リランはフードを被るのを止めた。視界は鮮明になり、チョコレートの甘い香りがより強くなる。
「ええ、どちらも一緒に作りましょうね」
「うん!」
弾けるような笑顔のユナを抱き上げ、頬を寄せる。
この笑顔を守る為ならば何だって出来る。チョコレートやアクセサリーを作りながら町や人々を観察するのはそう難しくないだろう。
リランは子供らしく無邪気なユナの笑顔に愛しさを募らせ、ユナも里にいる時とは違う明るいリランの表情を嬉しく感じていた。
●甘い魔法か宝石の花か
冒険者であるあなたが訪れた町は、チョコレートの甘い香りと道行く人々の幸せな表情で溢れていた。
人々が時折大切そうに触れるアクセサリーは様々な花の形をしていて、色とりどりの宝石が輝きを放っている。
「大切な人への想いをその指先に込めて、素敵な贈り物を作っていって下さいね!」
チョコレート色を基調とした衣装と、宝石をあしらった花の形のアクセサリーを身に着けた若い女性に声をかけられたあなたは、祭りの詳細について尋ねてみた。
この祭りで楽しめる事は二つあると女性は笑顔で答えた。
一つめはチョコレート作り体験。
ナッツ類やドライフルーツ等の材料や、色々な形のチョコレート型を使って好きなようにチョコレート作りを楽しめる。
二つめは宝石を使った花型のアクセサリー作り体験。
こちらは町の細工職人達が作った花のアクセサリーの型に、好きな宝石を嵌め込んで作るお手軽さが売りだと言う。
アクセサリー型は様々な花の物が用意されているし、宝石も種類豊富に取り揃えられている。希望するのならば花の型から自分で作るのも可能との事だ。
大切なあの人を思い浮かべながら。または肩を寄せ合いながら。
あなたの指先はどのような贈り物を生み出すのだろうか――。
解説
●目的
チョコレート作りやアクセサリー作りを楽しんで下さい
●場所
フィルエス大森林の近くの観光町。
●選択肢
【1】 チョコレート作り
たくさんのチョコレート型とトッピングが用意されています。
お好きな型や材料を使ってチョコレート作りを楽しんで下さいませ。
チョコレートはベーシックな茶色のものです。
型はプレイングでご自由にご指定頂けます。
トッピングはナッツ類やドライフルーツが用意されています。
その他にも保存が利きそうな材料でしたらチョコレート作りに使えます。
トッピングの材料もご自由にご指定頂けますが、ロスガリアに存在しない物の場合はぼかした描写になります。
(例:南国系の果物のドライフルーツ→甘く芳醇な香りのドライフルーツ)
中世ヨーロッパに存在していそうな物でしたら問題なく描写が可能です。
【2】 アクセサリー作り
色々な花のアクセサリー型と宝石が用意されています。
どちらもご自由にご指定出来ますので、世界で一つだけのアクセサリー作りをお楽しみ下さい。
こちらも中世ヨーロッパをベースに考えて頂きますと安全です。
ロスガリアに存在しない花や宝石をご指定の場合は、名称は出せませんが外見や色は描写できます。
アクセサリーの種類もご自由にお選び頂けます。
型の素材は金か銀の二種類からお選び下さい。
型から手作りも可能です。
お相手のイメージや誕生花・誕生石から選ぶのも、花言葉や石言葉から選ぶのも、お心のままに。
【注意点】
・選択肢1か2のどちらかをお選び下さい。
・こちらはチョコレートやアクセサリーを作るイベントシナリオですので、贈る所までは描写出来ません。
【その他】
・工程は書いて頂かなくても大丈夫です。
・参加なさっていないPCさんのお名前はリプレイで出せませんが、プレイングでお名前を書いて頂けましたら匂わせます。
・同行者タグ大歓迎です。字数の節約にどうぞ。
・絡みやアドリブについて、よろしかったら以下の番号をプレイングにてご指定下さいませ。
1・NPC含む絡みやアドリブ共に可
2・NPC含む絡みは可、アドリブは不可
3・NPC含む絡みは不可、アドリブは可
4・NPC含む絡みやアドリブ共に不可
●NPC
ユナ
外見年齢6歳くらいのエルフの少女。
とても人懐っこく好奇心旺盛な性格で、初めてのお祭りに大喜びしています。
リラン
外見年齢10代後半くらいのエルフの女性。
穏やかで思慮深い性格で、ユナを実の妹のように大切に想っています。
マスターより
お一人様でのご参加、お友達とのご参加、恋人未満同士のご参加、恋人同士やご夫婦でのご参加、制限はございません。
お砂糖や激重感情や不変の友情等々、与えて頂けますと泣いて喜びます!
ユナやリランに絡んで頂く必要はございませんが、プレイングでご指定を頂けましたら喜んで交流をさせて頂きます。
絡みやアドリブについての番号が1や2の方にはご指定がなくても絡みに行ってしまうかもしれません。
皆様にとって素敵な一日になりますように……。
リプレイ
●甘く蕩ける幸せを
春の温かな日差しにアステルは金色の双眸を細め、深く息を吸い込んだ。
鼻孔を擽るのは仄かな花の香りと甘いチョコレートの香り。目に映るのは恋人達が身に着けているアクセサリーの揃いの輝き。
(とっても綺麗……。私もお兄ちゃんとお揃いにしたいな)
大好きな兄を彩るのに相応しいのはどんな宝石だろうか。
(アクセサリーも素敵だけど、チョコレートも喜んでくれそうだよね。良く出来たねって頭を撫でてくれるかな)
暫し考えを巡らせた後、アステルはお下げ髪を揺らし目的の場所へと歩き始めた。
「よかったら一緒に作ってみますか?」
おのぼりさん感溢れるユナとリランにトーラは明るい笑顔で声をかけた。
「ありがとうなのよ、赤い髪のお姉ちゃん!」
「ぜひご教授下さいませ」
「これくらいお安い御用ですよ!」
えへんと胸を張るトーラの指導の下、3人は早速チョコ作りを開始する。
「湯煎にかける前に味見してみましょうか」
「……とっても甘くて美味しいのよ!」
「でしょう? このままでも甘くて美味しいですけど、食べて貰いたい人へ気持ちを込めて丁寧に作るともっと美味しくなりますよ♪」
トーラとユナの身長はあまり変わらないけれども、優しく接するその様子はおねえさんそのものだった。
「溶かしたチョコと温めた生クリームを合わせて、好みの具材を入れて混ぜ合わせ、スプーンで掬って一口サイズに纏めて、ココアパウダーをまぶして固まったらトリュフと言うチョコの完成です!」
「簡単に作れるのね!」
「好きな具材を入れられる且つ失敗し難いのがトリュフの良い所です。ユナさんは何を入れますか?」
「全部!」
「ふふっ、欲張りさんですね。では全具材制覇を目指しましょう!」
――そして数十分後。トーラは大きな石のような特大トリュフチョコに唖然としていた。
「い、一個のチョコに全ての具材を投入するなんて……」
「大きいは嬉しいなのよ! トーラお姉ちゃんは苺が好きなのね」
ユナの言葉にトーラはドキリと胸を高鳴らせる。
目を引く鮮やかな赤色が重なって見えてしまったのだ。支えたいと願ってしまう想い人の瞳の色に。
動揺を落ち着かせようと余った苺を口に運べば、その甘酸っぱさに胸が苦しくなった。
思慕に揺れるトーラの瞳を不思議そうに見つめていたユナは、こちらに近づいて来る人物を見つけ、ぱっと顔を輝かせた。
「ユナ、リラン。また会えたね」
勢い良く駆け寄ってきたユナの頭をイズル・M・ヴォルゴールは優しく撫でる。
「イズルお兄ちゃんもチョコを作りに来たの?」
「うん。家族用に。と言っても賄賂みたいなものだけどね」
聞き慣れない言葉にユナは首を傾げる。
「家族について知りたい事を別の家族から聞き出す為に、だよ」
これはただ純粋な『家族の為』じゃなく、生きている家族達に亡くなってしまった家族の事を尋ねる為の――まだ聞けない事への下準備。
聞き方もあるが、家庭内的センシティブだろう話題を直球で聞くのは旗色が悪い。なのでまず姉上達に探りを入れる作戦にしてその為の賄賂なのだ――なんて事情は話せないけれども。
「人数的に大いに嵩むから頑張らないと」
「じゃあ一緒に作らない? 話しながら作ればあっと言う間に作り終わるよ」
人懐っこい笑顔で近付いてきたトゥーリにユナの瞳が輝く。
「羊のお姉ちゃんだわ! 角がとってもカッコいいのよ!」
興奮気味にトゥーリの角を見つめるユナの姿に場の空気が和み、イズルとトゥーリは一緒にチョコを作る事となった。
トゥーリは手際良く湯煎を終えトッピングに取り掛かかる。
悩んだ末に選んだトッピングは胡桃やアーモンド等の木の実を蜂蜜でカラメリゼしたもの。
少し酸味や食感の変化の為に干した無花果も混ぜてみたり、甘さ抜きのカカオパウダーをまぶして口当たりと味を調える。
(うん。やっぱり木の実や森の果物を使ったお菓子はワタシらしいよね)
トゥーリは持ち運びしやすいようにと棒状に形を整えたナッツバーチョコを満足げに見つめた。冷えて固まった後はどんな風に包装をしようかと考えるのも楽しい。
相手は農耕を重視する氏族の出で、料理やその他の事にも造詣が深い。なので生半可なものは贈れないと少し気遅れしていたけれども。
渡した時の反応を想像すると、胸の奥がじわりと温かくなる。
「トゥーリさんはどなたにチョコを贈るのですか?」
悪戦苦闘の湯煎を終えたリランに尋ねられ、トゥーリはトッピングの手を止めた。
「仲間、親友。そのどちらでもあるけど、強いて言うなら……大切な人に、かな」
その横顔がとても優しく見えて、リランは微かな羨望を微笑みに変える。
「とても素敵ですね」
「そ、そうかなっ?」
トゥーリは気恥ずかしくなってそっと瞳を伏せた。
その隣でイズルは木の実やドライフルーツや酒入りと言った定番のチョコを作り続けながら、ユナに微笑む。
「君へのお礼、ちゃんとしてなかった。ありがとう。君のおかげで、また会えた」
生まれて死んだ日も、誰の子なのかも、墓の場所もまだ知らない。
それでも一人一つ、一緒に味を楽しむ様に場を整えるだろう。大切な兄妹達の為に。
「イズルお兄ちゃんが大好きな人とお話出来て良かったのよ!」
満面の笑顔のユナは、その隣で微笑むリランは。
家族用とは違う、心を込めて作った彩り豊かなチョコを喜んでくれるだろうか。イズルは背中に隠した贈り物をそっと指で撫でた。
「とゆーわけで、ベルクには是非とも本命チョコを作ってもらいたいのです」
本当に何の前提も無いけれど、フレイヤ・サンライズはベルク・オスマットを期待の眼差しで見つめた。
「本命と言われても我にはそんな相手などいないのだが? 強いて言うなら殿下になるのか?」
ベルクの顔には『あくまで敬意である』と書いてあるようだった。
「うんうん、ベルクがあげるなら殿下しかいないよね。それで、どんなのにする? ハート型とかいっちゃう?」
「そうだな……帝国の象徴たる盾を模った土台に、竜と剣の意匠を乗せて帝国の旗を模したチョコはどうだろうか?」
「……すごい壮大なの来た」
「遠くヴィントに居られる殿下に少しでも英気を養ってもらえればと思ってな」
甘酸っぱさの欠片もないチョコ案だが、込める想いは純度100%のようだ。
「うんうん、ベルクらしくていいと思うよ。じゃあ早速作ろっか♪」
フレイヤは慣れた手つきでチョコを溶かし、苺やベリーを潰して混ぜ合わせていく。
それをハートの型に流し込み、どんどんと量産するフレイヤの隣で、ベルクはたどたどしくてチョコ作りに励んでいた。
「これで殿下に少しでも英気を養って頂けるといいのだが」
臣下としてその身を案じる一方で、帝国を揺るがす一連の騒動における皇帝の行動等、殿下の心痛の要因たる強硬派に絶対の殺意の念を飛ばすベルク。帝国旗の先端が聊か鋭いような気がする。
「フレちゃんお手製、大本命チョコのかーんせーい☆ もちろん全部大本命だよ♪」
フレイヤが綺麗なラッピングで包んで可愛いリボンで飾りつけしたその中身には、チョコ文字でしっかりはっきりと『義理』と書かれていた。本命と言われ喜んだ男性がチョコを見て落胆に沈む様は想像に難くない。
「それにしてもフレイヤ嬢は作るのが上手いな」
不恰好な己のチョコと見比べ、ベルクはこのまま渡していいものかと逡巡する。
「私はベルクのチョコ、好きだなぁ。一生懸命な感じがして」
「……ありがとう」
ベルクは深紅の瞳の鋭さを緩め、微かに微笑んだ。
「やあ、ユナ。久しぶりだね。会えて嬉しいよ」
シルヴィア・A・カペルの纏う空気は今日は一段と柔らかだ。
「此方はノイアンだ。リランもこれからよろしくね」
「エル=バ=ノイアンだ。よろしくな」
ノイアンは自分の容姿や態度で2人を怖がらせないようにと軽く挨拶を交わした。
「ノイアンお兄ちゃんはシルヴィアお姉ちゃんの王子様でしょ?」
「ふふっ、その通りだよ。彼は私の大切な王子様だ」
「シルヴィア……まったく。ずいぶん浮かれているな?」
誤魔化す様な咳払いをするノイアンだったが、恋人だと紹介されるのがくすぐったくも嬉しかった。
「彼は料理上手なんだ。チョコの作り方を教わろうと思ってね」
「ラブラブクッキングだわ! リランお姉ちゃん、お邪魔虫はダメなのよ!」
ユナはリランの手を引っ張り少しだけ離れた場所へと移動すると、そこからワクワクとした瞳でこちらを見つめている。
「何だか恥ずかしいけれど始めようか。よろしくね、ノイアン」
「ああ。今回は複雑な事はしない。出来上がりまで……そしてそれを食する所まで楽しむのが料理だからな」
ノイアンが提案したのはオランジェット。オレンジを使ったチョコだ。
「見た目も綺麗で美味しそうだろう?」
「うん。とっても綺麗だね。実は作りたいものがもう1つあるのだけれども、いいかな?」
シルヴィアのお願いに笑顔で頷くノイアン。2人の仲睦まじいチョコ作りが始まった。
オランジェットは砂糖漬けのオレンジの皮をチョコで包んで。
もう1つのチョコは可憐で愛らしい丸みを形作って。
見つめ合い微笑み合う2人の間に甘やかで幸せな空気が流れていく。
「ユナ、リラン、オランジェットが完成したよ」
「わぁ! とっても可愛いのよ!」
「こちらは桜の型のチョコだよ。東方の花だ。ユナは見た事が無いだろう? 何時か一緒に見に行こうね」
2つのチョコに瞳を輝かせるユナとリランにシルヴィアはふわりと微笑んだ。視線を移せば恋人の優し気な青い瞳とぶつかる。
今日はノイアンに教えてもらったけれども、何時か一人でお菓子を作れるようになったら彼に贈りたい。喜んでもらいたい。
「ノイアン、君はどんなお菓子が好き?」
「好きな菓子か……そうだな……シャルガネの和菓子なんかは、どれも興味深い。夏になると涼やかな見た目の……寒天菓子か何かか? そういうものが出回るとか」
「その中で一番の好物はなに?」
「とりわけ好物というものは……そうだな、饅頭とか……」
「饅頭だね。うん、教えてくれてありがとう」
ノイアンの好物を知ったシルヴィアは、饅頭の作り方を覚えようと密かに決意するのだった。
●心照らす煌めきの花を
サシャ・テーリングと梅・雨陽はお互いのイメージでアクセサリーを作り交換すると決めていた。
「うよたんの髪色だと……映えるのはこっちかな? 花や宝石が豊富なのって罠よね。目移りしちゃうわ!」
色々と手に取り雨陽の顔横に当てながら、サシャは嬉しい悲鳴を上げる。
「ウフフん、サッちゃんに似合うのを作っちゃうんだから」
「うん、ありがとね。やっぱりこっちの宝石の方がいいかしら」
「でもワタシ、宝石にはあまり詳しくないのヨ」
「知識よりフィーリングで選べばいいのよ。うーん、こっちも似合うわね」
返事が適当な気がする。
面白くない雨陽は自慢の鹿角でサシャにアタック!
「サッシャんこっち見て!」
「きゃあっ! い、いきなりどうしたの??」
「今日も可愛いネ」
「あ、ありがと……」
屈託なく褒められて、サシャは角アタックを食らった事をすぐに許してしまいそうになる。
「なんか、選ぶだけで楽しいネ。髪飾りにもブローチにも出来るのにするんだから」
あれでもないこれでもないと悩んだり、お互いの可愛さに顔を綻ばせること数十分。
「悩んだだけあってうよたんにぴったりの組み合わせになったわ」
「ワタシもだヨ。絶対にサッちゃんに似合うって自信満々だからネ」
仲良く隣に並んで製作開始。手を動かしながらもお喋りに花が咲く。
サシャが雨陽に贈るのは濃ピンクと白のスイートピーの組み合わせをイメージしたアクセサリー。
若草色と淡黄色のリボンで纏め、留め具位置に雨陽の瞳と同じピンクを帯びたオレンジのスピネルをあしらう。
「石言葉は『内面の充実』と『安全』よ。うよたんを守ってくれますように」
「ワー、カワユイネ! ウレシイ! 早速着けなきゃ!」
スイートピーの花言葉は白が『ほのかな喜び』でピンクが『優美』だと伝えると、雨陽はサシャに抱き着いて喜んだ。
雨陽からサシャに贈るのは薄ピンクの八重咲のチューリップに小さなガーネットをあしらったアクセサリー。
「花言葉は『愛の芽生え』ヨ。サッちゃんっぽいかなッテ。宝石はネ、天道虫をイメージしたのヨ!」
「すごく可愛い!」
「石言葉は『友愛』と『勝利』ヨ。友情と必勝祈願だからネ!」
2人はお互いの想いが嬉しくて、手を合わせてキャッキャと喜びを分かち合った。
「ところで……あそこの2人……出来てるわよね?」
小声で囁くサシャの視線の先にはカップル各種が。真剣に考え作りつも周囲の物色、萌え補充は忘れないのはさすが『ドゥジンの指先』。
「え? 出来てる? なになに」
「ほら、あそこ」
「ふんふん、彼らね……更にフリルをつけるといいんじゃないカシラ!」
「フリルを彼氏に着けちゃう? 倒錯的でそれも良いわね!」
良くわかってない雨陽と萌方向に話を彩るサシャ。
実はズレている会話も何故か無事に着地点へ到達するのだった。
「秀くん、色んな宝石があって綺麗だね」
「ああ。ロッテに何か贈る物を考えてたから、誘ってくれて渡りに船のような感じだ。一緒に作れるのがすごく楽しみだしな」
「私もだよ……!」
そう言って抱き着いて来るシャルロッテ・レッフラーが可愛くて、御堂・秀哉は天を仰ぎたくなった。
「ロッテはネックレスと指輪ならどっちが欲しい?」
「秀くんから貰えるなら何でも嬉しいけど……実は私もネックレスを作ろうと思ってたんだ。だからお揃いにしない?」
シャルロッテの提案に秀哉は笑顔で頷く。
秀哉はベーシックな形にしようと決めていた。その方がシャルロッテの可憐さを引き立たせる。ネックレスは大きくせずに着けていて疲れないものを。
「俺は花には疎いからロッテが選んでくれないか?」
「あのね、このアングレカムってお花はどうかな」
シャルロッテが指差すのは個性的だが流麗なデザインが人目を惹く花型だった。
「綺麗だし人と被らなさそうなのがいいな」
「ふふっ、世界に二つだけだね」
枠の色はロッテの髪色に近い金に。そこに秀哉はダイヤモンドを嵌め込んでいく。
(まぁ、そもそもこう言うの疎くてあんま上手くねぇけどさ。ロッテ、喜んでくれるといいなぁ)
シャルロッテは秀哉の楽し気な横顔を幸せそうに見つめ、その指先に視線を移す。
「どうしてダイヤモンドを選んだの?」
「ああ。これは自分の誕生石ってやつらしくて、例え離れていてもロッテを護るお守り代わりになるように。本当は俺がいつでもいてやれればいいんだけどな」
シャルロッテは自然にさらっと殺し文句を言える秀哉をズルいと思った。頬が微かに熱い。
「ロッテが選んだのはホワイトサファイアだったな。由来とかあるのか?」
「……内緒」
シャルロッテは悪戯っぽく微笑んではぐらかす。
アングレカムの花言葉は『いつまでもあなたと一緒』。
ホワイトサファイアの石言葉は『安らぎ』。
(贈り物なのに自分の願いを託すのも変かもだけど……いいよ、ね?)
いつまでも一緒にいたい。
彼の安らぎになりたい。
シャルロッテは2つの願いを指先に込めるのだった。
黒豹のパルドと黒狼のウォーゼルは仲良く並んでアクセサリーに使う宝石を選んでいた。
(パルドの誕生石の月長石と瞳の色に似た黄玉も使いたいな)
ウォーゼルはパルドに因んだ宝石を探し、パルドもまた。
(紫ダイヤはあるかな。ウォーゼルの瞳の色だし、奇跡の石だから)
同じ孤児院で育ち、同じ人から名を与えられた大切な家族。
もしも出逢えていなかったら……なんて考えられないくらい、お互いが大切で。
「「あった!」」
初めに重なったのは跳ねるような声。続いて、嬉しそうな瞳。
「楽しみにしてるね」
「ああ、出来上がるまで内緒だからな」
2人は向かい合って座り、完成前に見てしまわないようにその間に衝立を設置する。
パルドが選んだのは金色の藤の花型。
藤の花を輪にした物を二つ、互い違いに重ねて。細くなった花先の間を紫ダイヤで繋いだ形だ。
(ウォーゼルがどんなのを作ってるのか気になる……)
出来上がるまで内緒と言ったけれど、つい向かいを何度もチラ見してしまう。
一方ウォーゼルが選んだのは銀色のガーデニアの花型。
銀の茎と葉で出来た輪と、月長石の花冠に黄玉が煌めく花が咲き誇る落ち着いた雰囲気のデザインだ。
作成に集中し真剣なその耳が感じた気配にぴくりと動いた。目線を上げるとパルドと目が合う。
そのまま微笑むとパルドは慌てて視線を逸らした。
「調子はどう?」
「すごくいい感じだぞ」
「うん、俺もいい感じだよ」
「オレも負けらんないな」
自信ありげに答えたパルドは作業へと戻る。
その姿を暫く眺め、ウォーゼルはまた微笑んだ。パルドの一生懸命さが伝わってすごく嬉しい。
お互いにアクセサリーを作り終え、いざお披露目となった時。
2人に優しい奇跡が訪れる。
「「同じだ!」」
作っていたのはお互いにバンダナリングだったのだ。
孤児院の院長が独り立ちのお祝いにくれたお揃いのバンダナは2人にとって宝物。
それを彩る物なのが嬉しくて、幸せで。
「ありがとう。ずっと大切にする」
「俺も。宝物がまた増えたね」
宝物と共に思い出もまた、一つ。
嬉しそうなウォーゼルの笑顔を見つめているとパルドの胸は温かくなる。
けれどもどこか、切なくて。
「ガーデニアはパルドの誕生花で花言葉は『喜びを運ぶ』だよ。旅人の御守りに使われている月長石は誕生石だし、パルドの瞳に似た黄玉も使ってみた。災いを退け幸せが訪れるように。大切なパルドの幸せを願って作ったんだ」
大切だと言われて嬉しいのは大切な『家族』だから。その筈なのに。
「紫ダイヤはお前の瞳の色だし、滅多に出逢う事のない奇跡の石って聞いたんだ。そのくらい珍しいんだって。出会えたのが奇跡とかオレ達みたいだ」
「うん。出逢えて良かったね、俺達」
曖昧な想いがウォーゼルの笑顔に溶けていく。
藤の花言葉は『決して離れない』。紫ダイヤの石言葉は『愛情』。
ガーデニアの花言葉は『幸せを運ぶ』。黄玉は『友情』を、月長石は『恋の予感』を意味する。
家族愛とは違う『愛しさ』の意味を、2人はまだ知らない――。
伝えられない想いや隠し切れない愛しさは瞳に映る。まるで夜空に浮かぶ星の瞬きのように。
(ヴィナと交換するなら彼に似合うものを作りたい)
カッシアは言葉に出来ない想いを胸に秘めていた。
それはヴィナスも同じで。愛しさを指先に込め、丁寧にアクセサリー作りを続けていく。
程なくして、2人は完成した贈り物をお披露目し合った。
「花は詳しくないけれど、形が魅力的だったから」
カッシアが作ったのは『幸運の守護石』であるブラックオパールに『幸せな愛』と言う花言葉を持つ銀のブルースター台座のブレスレット。
(いつかの夜に、君の瞳に映った星みたいで)
そう伝えればヴィナスは喜んでくれるだろうか。
あの時を思い出してくれるだろうか。
「君ならこういう石も似合うでしょ」
ああ、どうしても素っ気なくなってしまう。
君を想う心とは裏腹に。
(キラキラした輝きの一瞬の中に俺の色もあればいいのだけど)
今日も素直に言えはしない。想いは募るばかりだ。
まるであの夜の思い出を象徴したかのようなブレスレットに、ヴィナスは驚きを隠せなかった。
(俺、勘違いするよ? 結構嫉妬深いってこの前の聖霊節で教えたのにいいの?)
抱き寄せて伝えたらどんな顔をするだろうか。
カッシアも俺と同じ『好き』だったらいいのに。
「ありがとう。とても綺麗だ。俺のも気に入ってもらえるといいのだけれども」
衝動を堪えてカッシアに差し出すのは金の桔梗台座のペンダント。
花の中央には星の様なエメラルドが輝いている。
「カッシアが生まれたっていう5月頃の風みたいで綺麗な石だよね」
型の金色にも石の種類にも触れずに。ヴィナスは花も台座も星みたいでしょと柔らかく笑うだけ。
(カッシアは引くかな)
俺と同じ種類の好意か判ってないのに――。
桔梗はヴィナスの誕生花。台座の金は彼の髪の色に、エメラルドは彼の瞳の色に似ていた。
桔梗の花言葉は『永遠の愛』。
エメラルドは『愛の成就』と言う意味を持つ。
ヴィナスが自身の象徴のようなアクセサリーに込めたのは愛情と独占欲。
(星みたいな石……まるで君も同じ気持ちなのかって、勘違いするぞこの人たらし)
カッシアは差し出されたブレスレットに目を見開く。
彼の気持ちは分からないけど、一度貰ったからにはもうこれは自分の宝物。
失くさぬようにとそっと愛し気に撫でる。
「大切にする」
俺のこの気持ちも。この先ずっと。
「俺達も楽しんでるからあなたも楽しんでね」
「ありがとうなのよ。ヴィナスお兄ちゃん達は綺麗な夜のお空とぴかぴか光るお星様みたいね!」
ユナは自分達の髪色を見て直感的にそう思ったのだろうか。カッシアとヴィナスは思わず顔を見合わせた。
「ユナちゃん!」
「サラちゃん! 来てたのね!」
2人を見送ったユナはサラの声に振り返り、笑顔のまま抱き着いた。
「えへへ、会えて嬉しい、の。ね、一緒に、アクセサリー作り、しない?」
「うん、一緒に作りたいのよ!」
「よかった……。リランおねえちゃんも、一緒に……どう、かな?」
リランは穏やかに微笑み、こくりと頷く。
3人が仲良くアクセサリーの材料を選んでいる頃、マリィ・スノードロップは初めて訪れる大森林の近くの街並みを楽しんでいた。
(折角の観光町、華やかなアクセサリーと甘いチョコ、この季節ならでは。楽しまなくてはなりません!)
アクセサリー作りの会場に辿り着くと、嬉しそうに宝石と周りの人々を見比べている少女――リゼット・ブランの姿が目に留まった。
(わああ……綺麗! 皆さん贈る相手を思いながら作るんですね。瞳がキラキラしてますね。いいなぁ)
リゼットの瞳もキラキラと楽し気に輝く。
やがて目が合った2人はすっかり意気投合し、これも素敵な縁だと一緒にアクセサリーを作る事となった。
お喋りをしながら材料を選び終え、作業をする机を探していると、リゼットは見知った顔を発見する。
「アルフィーさん!」
声をかけられたアルフィー・リッパーは黒い尻尾をゆらりと揺らした。
「リゼット、久しぶりだな。そこが空いてるから良かったら一緒に作らないか?」
アルフィーの誘いにリゼットは笑顔で頷き、マリィも嬉しそうにぺこりと頭を下げた。
「私は今贈ろうと思うと家族なんですけど、お兄ちゃんとかお父さん? でもちょっと違う……なので、いつか出会えるかも知れない誰かの為に作ろうって思ってます」
テーブルの上に選んだ材料を並べながら、リゼットは少し照れくさそうにそう口にする。
「わたしもです! 特定の人はまだ居ないのですが……まだ見ぬ誰かを想って、想いを込めてのアクセサリー作りをしてみたいんです。気は早いですが、未来の人の為と想って……!」
兎耳が嬉しそうに動くマリィを見つめながら、アルフィーは似た者同士だな、と心の中で呟く。
(女性が好むものなんてわからないけど……。もう少しであいつの大切な日だし、プレゼントを何か贈れたらいいな)
脳裏に浮かぶのは同じ猫仲間。
白の髪と黒い耳、そして紫の瞳がとても美しい猫の女性だ。
(確か2月はアメジストが誕生石だったな。あいつの瞳の色とも同じだし、それを加工して作るか)
工芸品を作るのが得意なアルフィーは慣れた手つきでブレスレットを作っていく。
集中してた事もあり、あっと言う間に完成。
アメジストを小花に見立てて配置をしたブレスレットを見つめ微かに微笑む。
「すごく可愛いです! このお花は菫みたいですね。花言葉は確か『誠実』とか『愛』だった気がします」
「マリィさん、アメジストは『愛の守護石』って呼ばれてるみたいですよ!」
「あ、愛って……。そう言うんじゃないからなっ!」
見つめ合って「「きゃ~~」」と盛り上がる乙女達。
アルフィーは意図しなかった意味に赤面してしまう。
その後も2人は恋への憧れを話題に話に花を咲かせつつ、しっかりと手元も動かしていた。
「出来ました! 我ながら可愛いです♪」
マリィは控えめな大きさのローダンセが連なるピンブローチを満足げに見つめた。
型は銀色。宝石は少し濃い桃色のルべライトを。
「花言葉は『終わりのない友情』と『変わらぬ思い』です。素敵じゃないです?」
「ええ、とっても素敵です! それにルべライトは『良縁成就のお守り石』らしいですよ」
マリィのピンブローチを大絶賛するリゼットが作ったのは、男性用のラペルピンと自分用のブローチ。
銀色のマーガレット型に花弁には水晶を、花芯はタンザナイトを。
カットを良く見て選んで、光の加減で枠の銀色と一緒にキラキラ光る様に。
「水晶はオールマイティな御守り石ですし男性も着けやすいかなって。宝石は自分の瞳の色なんですけれど、アメジストにしなかったのが拘りです」
「マーガレットの花言葉は『真実の愛』で、タンザナイトは『家庭円満』の意味があるみたいですよ!」
リゼットがふふっと柔らく微笑めば、マリィは興奮気味で花言葉と石言葉を伝えて。
((いつか素敵な人と出会えます様に……))
2人の乙女が込めた想いに応えるように3色の宝石が煌めいた。
「えっと、ね、アイリスと、マーガレットの、金色のお花の、型をふたつ、用意して……ううんと」
サラはユナをジッと見つめる。
「淡い紫色の宝石、と、鮮やかな緑色の、宝石。ぱちん、ぱちん、って、嵌め込む、ね。わたし、こういうの、得意、なの。ユナちゃんと、リランおねえちゃんは、どんな、感じ?」
サラの手元で輝くのは紫がかったモルガナイトと鮮やかなグリーンガーネット。
彼女とユナの瞳の色で、石言葉は『愛情』と『絆』だ。
「私はもう少しで完成しそうです。ユナはまだまだみたいですね」
「ううっ、レティシアお姉ちゃんと一緒に頑張るのよ!」
涙目なユナの頭をレティシア・レインフィールは優しく撫でる。
ユナとリランを見かけ挨拶をしたその流れで一緒に作る事となったのだが、内心の困惑を演技で隠し続けていた。
(貴族令嬢としてならともかく、私個人の好みの物を選ぶのは苦手……というよりも、何が好きなのか、分からなくなってしまったから)
けれど、大切な人に贈るのであれば――。
そう考え選んだあの人との思い出のある銀の鈴蘭の型を、レティシアは指先でそっとなぞる。
宝石は髪か瞳の色の物が良いのだろうかと考え、手を伸ばした宝石の色に。ふと、別の人の顔が浮かんで。
そう言えば同じ色をしていた事に今更気付いたけれど。
それ以上は考えてはいけないと、次に浮かびかけた考えを振り切るように選んだのは月長石だった。
鈴蘭の型に嵌めようと力を籠めると、月長石が壊れてしまいそうで怖かった。恐る恐る、少しずつ力を加えて花弁を彩っていく。
「この宝石は白いけれど、ほら……レティシアお姉ちゃんの瞳の色にも光るのね」
青色閃光と呼ばれる輝きにレティシアは息を呑む。
(あの人はもう居ないけれど。だからこそ、この想いだけは)
月長石の石言葉は『恋の予感』。
満月の夜に口にくわえると自分の未来が見えるとの言い伝えもあった。
「チョコレートを贈ったり宝石を贈ったり、色々考えるよね。面白いけど」
ヨル・スレイマンは宝石の配置を何度もやり直しているユナの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「苦戦してるね、お嬢さん。手先はそこそこに器用だから手伝おうか?」
「ありがとう、骸骨さんのお兄ちゃん。でもね、1人で頑張りたいのよ」
「俺もさっき同じ事を言われた。一緒に見守ってやろうぜ」
ユナを見つめるアルフィーは、頑張ったご褒美にと簡単な髪留めを作って贈ろうと思っていた。
仕事を終え拠点へ戻る途中に町を訪れたヨルは、折角だから友人への贈り物に何か作っていこうと思ったけれど。
彼を想いながら作るのはどこか気恥ずかしい。
ヨルが完成させたのは銀色の椿の花型にオニキスを使ったベルトのバックル。
(オニキスはいいとして……椿はちょっと重いかもなぁ)
この想いが情かと言われればわからないけど。
守りたいもの。笑っていて欲しいもの。
(渡り鳥に変わらないでいて欲しい、というのはちょっとエゴいんだけども)
友人の髪の色のオニキスは『守護』の意味を。
香りのしない椿の花言葉は『不変』。そして『私は常にあなたを愛します』。
「とっても素敵に出来たのね! すぐにあげるの?」
「いや、渡せるかはちょっとわからないんだけど」
今頃、何をしているだろうか。
また一緒に酒が飲みたいな、と喉だけじゃなく心も少し乾いてる気がして。
まあ、何かの拍子にきっと渡せる時が来る気がするから。
「今日はありがとうね」
「どういたしましてなのよ! 私もあとちょっとだわ!」
気合を入れ直すユナにサラは声をかける。
「私が、作ってるのは、ね、髪留め、なの。あのね、これは、ひとつはユナちゃん、の。えへへ、お揃い」
「ありがとうなのよ!!」
「アイリスと、マーガレットの、花言葉はね、信じる心と、真実の友情が、一番、ぴったり、だと、思った、の。ずっと、仲良し、でいたいな、って」
サラの想いを理解したユナの顔に笑顔の花が咲く。
「友情って素敵ですね……。リランさんはどなたを想って作ったのですか?」
マリィの問いにリランは瞳を細めてユナを見つめる。
「あの子を想って作りました。チョコレートの方は酷い出来栄えですけれども」
この胸の中にあるあなたへの想いを指先に込めて。
あなたを、あなたの心を、優しさで彩れますように――。
春の温かな日差しにアステルは金色の双眸を細め、深く息を吸い込んだ。
鼻孔を擽るのは仄かな花の香りと甘いチョコレートの香り。目に映るのは恋人達が身に着けているアクセサリーの揃いの輝き。
(とっても綺麗……。私もお兄ちゃんとお揃いにしたいな)
大好きな兄を彩るのに相応しいのはどんな宝石だろうか。
(アクセサリーも素敵だけど、チョコレートも喜んでくれそうだよね。良く出来たねって頭を撫でてくれるかな)
暫し考えを巡らせた後、アステルはお下げ髪を揺らし目的の場所へと歩き始めた。
「よかったら一緒に作ってみますか?」
おのぼりさん感溢れるユナとリランにトーラは明るい笑顔で声をかけた。
「ありがとうなのよ、赤い髪のお姉ちゃん!」
「ぜひご教授下さいませ」
「これくらいお安い御用ですよ!」
えへんと胸を張るトーラの指導の下、3人は早速チョコ作りを開始する。
「湯煎にかける前に味見してみましょうか」
「……とっても甘くて美味しいのよ!」
「でしょう? このままでも甘くて美味しいですけど、食べて貰いたい人へ気持ちを込めて丁寧に作るともっと美味しくなりますよ♪」
トーラとユナの身長はあまり変わらないけれども、優しく接するその様子はおねえさんそのものだった。
「溶かしたチョコと温めた生クリームを合わせて、好みの具材を入れて混ぜ合わせ、スプーンで掬って一口サイズに纏めて、ココアパウダーをまぶして固まったらトリュフと言うチョコの完成です!」
「簡単に作れるのね!」
「好きな具材を入れられる且つ失敗し難いのがトリュフの良い所です。ユナさんは何を入れますか?」
「全部!」
「ふふっ、欲張りさんですね。では全具材制覇を目指しましょう!」
――そして数十分後。トーラは大きな石のような特大トリュフチョコに唖然としていた。
「い、一個のチョコに全ての具材を投入するなんて……」
「大きいは嬉しいなのよ! トーラお姉ちゃんは苺が好きなのね」
ユナの言葉にトーラはドキリと胸を高鳴らせる。
目を引く鮮やかな赤色が重なって見えてしまったのだ。支えたいと願ってしまう想い人の瞳の色に。
動揺を落ち着かせようと余った苺を口に運べば、その甘酸っぱさに胸が苦しくなった。
思慕に揺れるトーラの瞳を不思議そうに見つめていたユナは、こちらに近づいて来る人物を見つけ、ぱっと顔を輝かせた。
「ユナ、リラン。また会えたね」
勢い良く駆け寄ってきたユナの頭をイズル・M・ヴォルゴールは優しく撫でる。
「イズルお兄ちゃんもチョコを作りに来たの?」
「うん。家族用に。と言っても賄賂みたいなものだけどね」
聞き慣れない言葉にユナは首を傾げる。
「家族について知りたい事を別の家族から聞き出す為に、だよ」
これはただ純粋な『家族の為』じゃなく、生きている家族達に亡くなってしまった家族の事を尋ねる為の――まだ聞けない事への下準備。
聞き方もあるが、家庭内的センシティブだろう話題を直球で聞くのは旗色が悪い。なのでまず姉上達に探りを入れる作戦にしてその為の賄賂なのだ――なんて事情は話せないけれども。
「人数的に大いに嵩むから頑張らないと」
「じゃあ一緒に作らない? 話しながら作ればあっと言う間に作り終わるよ」
人懐っこい笑顔で近付いてきたトゥーリにユナの瞳が輝く。
「羊のお姉ちゃんだわ! 角がとってもカッコいいのよ!」
興奮気味にトゥーリの角を見つめるユナの姿に場の空気が和み、イズルとトゥーリは一緒にチョコを作る事となった。
トゥーリは手際良く湯煎を終えトッピングに取り掛かかる。
悩んだ末に選んだトッピングは胡桃やアーモンド等の木の実を蜂蜜でカラメリゼしたもの。
少し酸味や食感の変化の為に干した無花果も混ぜてみたり、甘さ抜きのカカオパウダーをまぶして口当たりと味を調える。
(うん。やっぱり木の実や森の果物を使ったお菓子はワタシらしいよね)
トゥーリは持ち運びしやすいようにと棒状に形を整えたナッツバーチョコを満足げに見つめた。冷えて固まった後はどんな風に包装をしようかと考えるのも楽しい。
相手は農耕を重視する氏族の出で、料理やその他の事にも造詣が深い。なので生半可なものは贈れないと少し気遅れしていたけれども。
渡した時の反応を想像すると、胸の奥がじわりと温かくなる。
「トゥーリさんはどなたにチョコを贈るのですか?」
悪戦苦闘の湯煎を終えたリランに尋ねられ、トゥーリはトッピングの手を止めた。
「仲間、親友。そのどちらでもあるけど、強いて言うなら……大切な人に、かな」
その横顔がとても優しく見えて、リランは微かな羨望を微笑みに変える。
「とても素敵ですね」
「そ、そうかなっ?」
トゥーリは気恥ずかしくなってそっと瞳を伏せた。
その隣でイズルは木の実やドライフルーツや酒入りと言った定番のチョコを作り続けながら、ユナに微笑む。
「君へのお礼、ちゃんとしてなかった。ありがとう。君のおかげで、また会えた」
生まれて死んだ日も、誰の子なのかも、墓の場所もまだ知らない。
それでも一人一つ、一緒に味を楽しむ様に場を整えるだろう。大切な兄妹達の為に。
「イズルお兄ちゃんが大好きな人とお話出来て良かったのよ!」
満面の笑顔のユナは、その隣で微笑むリランは。
家族用とは違う、心を込めて作った彩り豊かなチョコを喜んでくれるだろうか。イズルは背中に隠した贈り物をそっと指で撫でた。
「とゆーわけで、ベルクには是非とも本命チョコを作ってもらいたいのです」
本当に何の前提も無いけれど、フレイヤ・サンライズはベルク・オスマットを期待の眼差しで見つめた。
「本命と言われても我にはそんな相手などいないのだが? 強いて言うなら殿下になるのか?」
ベルクの顔には『あくまで敬意である』と書いてあるようだった。
「うんうん、ベルクがあげるなら殿下しかいないよね。それで、どんなのにする? ハート型とかいっちゃう?」
「そうだな……帝国の象徴たる盾を模った土台に、竜と剣の意匠を乗せて帝国の旗を模したチョコはどうだろうか?」
「……すごい壮大なの来た」
「遠くヴィントに居られる殿下に少しでも英気を養ってもらえればと思ってな」
甘酸っぱさの欠片もないチョコ案だが、込める想いは純度100%のようだ。
「うんうん、ベルクらしくていいと思うよ。じゃあ早速作ろっか♪」
フレイヤは慣れた手つきでチョコを溶かし、苺やベリーを潰して混ぜ合わせていく。
それをハートの型に流し込み、どんどんと量産するフレイヤの隣で、ベルクはたどたどしくてチョコ作りに励んでいた。
「これで殿下に少しでも英気を養って頂けるといいのだが」
臣下としてその身を案じる一方で、帝国を揺るがす一連の騒動における皇帝の行動等、殿下の心痛の要因たる強硬派に絶対の殺意の念を飛ばすベルク。帝国旗の先端が聊か鋭いような気がする。
「フレちゃんお手製、大本命チョコのかーんせーい☆ もちろん全部大本命だよ♪」
フレイヤが綺麗なラッピングで包んで可愛いリボンで飾りつけしたその中身には、チョコ文字でしっかりはっきりと『義理』と書かれていた。本命と言われ喜んだ男性がチョコを見て落胆に沈む様は想像に難くない。
「それにしてもフレイヤ嬢は作るのが上手いな」
不恰好な己のチョコと見比べ、ベルクはこのまま渡していいものかと逡巡する。
「私はベルクのチョコ、好きだなぁ。一生懸命な感じがして」
「……ありがとう」
ベルクは深紅の瞳の鋭さを緩め、微かに微笑んだ。
「やあ、ユナ。久しぶりだね。会えて嬉しいよ」
シルヴィア・A・カペルの纏う空気は今日は一段と柔らかだ。
「此方はノイアンだ。リランもこれからよろしくね」
「エル=バ=ノイアンだ。よろしくな」
ノイアンは自分の容姿や態度で2人を怖がらせないようにと軽く挨拶を交わした。
「ノイアンお兄ちゃんはシルヴィアお姉ちゃんの王子様でしょ?」
「ふふっ、その通りだよ。彼は私の大切な王子様だ」
「シルヴィア……まったく。ずいぶん浮かれているな?」
誤魔化す様な咳払いをするノイアンだったが、恋人だと紹介されるのがくすぐったくも嬉しかった。
「彼は料理上手なんだ。チョコの作り方を教わろうと思ってね」
「ラブラブクッキングだわ! リランお姉ちゃん、お邪魔虫はダメなのよ!」
ユナはリランの手を引っ張り少しだけ離れた場所へと移動すると、そこからワクワクとした瞳でこちらを見つめている。
「何だか恥ずかしいけれど始めようか。よろしくね、ノイアン」
「ああ。今回は複雑な事はしない。出来上がりまで……そしてそれを食する所まで楽しむのが料理だからな」
ノイアンが提案したのはオランジェット。オレンジを使ったチョコだ。
「見た目も綺麗で美味しそうだろう?」
「うん。とっても綺麗だね。実は作りたいものがもう1つあるのだけれども、いいかな?」
シルヴィアのお願いに笑顔で頷くノイアン。2人の仲睦まじいチョコ作りが始まった。
オランジェットは砂糖漬けのオレンジの皮をチョコで包んで。
もう1つのチョコは可憐で愛らしい丸みを形作って。
見つめ合い微笑み合う2人の間に甘やかで幸せな空気が流れていく。
「ユナ、リラン、オランジェットが完成したよ」
「わぁ! とっても可愛いのよ!」
「こちらは桜の型のチョコだよ。東方の花だ。ユナは見た事が無いだろう? 何時か一緒に見に行こうね」
2つのチョコに瞳を輝かせるユナとリランにシルヴィアはふわりと微笑んだ。視線を移せば恋人の優し気な青い瞳とぶつかる。
今日はノイアンに教えてもらったけれども、何時か一人でお菓子を作れるようになったら彼に贈りたい。喜んでもらいたい。
「ノイアン、君はどんなお菓子が好き?」
「好きな菓子か……そうだな……シャルガネの和菓子なんかは、どれも興味深い。夏になると涼やかな見た目の……寒天菓子か何かか? そういうものが出回るとか」
「その中で一番の好物はなに?」
「とりわけ好物というものは……そうだな、饅頭とか……」
「饅頭だね。うん、教えてくれてありがとう」
ノイアンの好物を知ったシルヴィアは、饅頭の作り方を覚えようと密かに決意するのだった。
●心照らす煌めきの花を
サシャ・テーリングと梅・雨陽はお互いのイメージでアクセサリーを作り交換すると決めていた。
「うよたんの髪色だと……映えるのはこっちかな? 花や宝石が豊富なのって罠よね。目移りしちゃうわ!」
色々と手に取り雨陽の顔横に当てながら、サシャは嬉しい悲鳴を上げる。
「ウフフん、サッちゃんに似合うのを作っちゃうんだから」
「うん、ありがとね。やっぱりこっちの宝石の方がいいかしら」
「でもワタシ、宝石にはあまり詳しくないのヨ」
「知識よりフィーリングで選べばいいのよ。うーん、こっちも似合うわね」
返事が適当な気がする。
面白くない雨陽は自慢の鹿角でサシャにアタック!
「サッシャんこっち見て!」
「きゃあっ! い、いきなりどうしたの??」
「今日も可愛いネ」
「あ、ありがと……」
屈託なく褒められて、サシャは角アタックを食らった事をすぐに許してしまいそうになる。
「なんか、選ぶだけで楽しいネ。髪飾りにもブローチにも出来るのにするんだから」
あれでもないこれでもないと悩んだり、お互いの可愛さに顔を綻ばせること数十分。
「悩んだだけあってうよたんにぴったりの組み合わせになったわ」
「ワタシもだヨ。絶対にサッちゃんに似合うって自信満々だからネ」
仲良く隣に並んで製作開始。手を動かしながらもお喋りに花が咲く。
サシャが雨陽に贈るのは濃ピンクと白のスイートピーの組み合わせをイメージしたアクセサリー。
若草色と淡黄色のリボンで纏め、留め具位置に雨陽の瞳と同じピンクを帯びたオレンジのスピネルをあしらう。
「石言葉は『内面の充実』と『安全』よ。うよたんを守ってくれますように」
「ワー、カワユイネ! ウレシイ! 早速着けなきゃ!」
スイートピーの花言葉は白が『ほのかな喜び』でピンクが『優美』だと伝えると、雨陽はサシャに抱き着いて喜んだ。
雨陽からサシャに贈るのは薄ピンクの八重咲のチューリップに小さなガーネットをあしらったアクセサリー。
「花言葉は『愛の芽生え』ヨ。サッちゃんっぽいかなッテ。宝石はネ、天道虫をイメージしたのヨ!」
「すごく可愛い!」
「石言葉は『友愛』と『勝利』ヨ。友情と必勝祈願だからネ!」
2人はお互いの想いが嬉しくて、手を合わせてキャッキャと喜びを分かち合った。
「ところで……あそこの2人……出来てるわよね?」
小声で囁くサシャの視線の先にはカップル各種が。真剣に考え作りつも周囲の物色、萌え補充は忘れないのはさすが『ドゥジンの指先』。
「え? 出来てる? なになに」
「ほら、あそこ」
「ふんふん、彼らね……更にフリルをつけるといいんじゃないカシラ!」
「フリルを彼氏に着けちゃう? 倒錯的でそれも良いわね!」
良くわかってない雨陽と萌方向に話を彩るサシャ。
実はズレている会話も何故か無事に着地点へ到達するのだった。
「秀くん、色んな宝石があって綺麗だね」
「ああ。ロッテに何か贈る物を考えてたから、誘ってくれて渡りに船のような感じだ。一緒に作れるのがすごく楽しみだしな」
「私もだよ……!」
そう言って抱き着いて来るシャルロッテ・レッフラーが可愛くて、御堂・秀哉は天を仰ぎたくなった。
「ロッテはネックレスと指輪ならどっちが欲しい?」
「秀くんから貰えるなら何でも嬉しいけど……実は私もネックレスを作ろうと思ってたんだ。だからお揃いにしない?」
シャルロッテの提案に秀哉は笑顔で頷く。
秀哉はベーシックな形にしようと決めていた。その方がシャルロッテの可憐さを引き立たせる。ネックレスは大きくせずに着けていて疲れないものを。
「俺は花には疎いからロッテが選んでくれないか?」
「あのね、このアングレカムってお花はどうかな」
シャルロッテが指差すのは個性的だが流麗なデザインが人目を惹く花型だった。
「綺麗だし人と被らなさそうなのがいいな」
「ふふっ、世界に二つだけだね」
枠の色はロッテの髪色に近い金に。そこに秀哉はダイヤモンドを嵌め込んでいく。
(まぁ、そもそもこう言うの疎くてあんま上手くねぇけどさ。ロッテ、喜んでくれるといいなぁ)
シャルロッテは秀哉の楽し気な横顔を幸せそうに見つめ、その指先に視線を移す。
「どうしてダイヤモンドを選んだの?」
「ああ。これは自分の誕生石ってやつらしくて、例え離れていてもロッテを護るお守り代わりになるように。本当は俺がいつでもいてやれればいいんだけどな」
シャルロッテは自然にさらっと殺し文句を言える秀哉をズルいと思った。頬が微かに熱い。
「ロッテが選んだのはホワイトサファイアだったな。由来とかあるのか?」
「……内緒」
シャルロッテは悪戯っぽく微笑んではぐらかす。
アングレカムの花言葉は『いつまでもあなたと一緒』。
ホワイトサファイアの石言葉は『安らぎ』。
(贈り物なのに自分の願いを託すのも変かもだけど……いいよ、ね?)
いつまでも一緒にいたい。
彼の安らぎになりたい。
シャルロッテは2つの願いを指先に込めるのだった。
黒豹のパルドと黒狼のウォーゼルは仲良く並んでアクセサリーに使う宝石を選んでいた。
(パルドの誕生石の月長石と瞳の色に似た黄玉も使いたいな)
ウォーゼルはパルドに因んだ宝石を探し、パルドもまた。
(紫ダイヤはあるかな。ウォーゼルの瞳の色だし、奇跡の石だから)
同じ孤児院で育ち、同じ人から名を与えられた大切な家族。
もしも出逢えていなかったら……なんて考えられないくらい、お互いが大切で。
「「あった!」」
初めに重なったのは跳ねるような声。続いて、嬉しそうな瞳。
「楽しみにしてるね」
「ああ、出来上がるまで内緒だからな」
2人は向かい合って座り、完成前に見てしまわないようにその間に衝立を設置する。
パルドが選んだのは金色の藤の花型。
藤の花を輪にした物を二つ、互い違いに重ねて。細くなった花先の間を紫ダイヤで繋いだ形だ。
(ウォーゼルがどんなのを作ってるのか気になる……)
出来上がるまで内緒と言ったけれど、つい向かいを何度もチラ見してしまう。
一方ウォーゼルが選んだのは銀色のガーデニアの花型。
銀の茎と葉で出来た輪と、月長石の花冠に黄玉が煌めく花が咲き誇る落ち着いた雰囲気のデザインだ。
作成に集中し真剣なその耳が感じた気配にぴくりと動いた。目線を上げるとパルドと目が合う。
そのまま微笑むとパルドは慌てて視線を逸らした。
「調子はどう?」
「すごくいい感じだぞ」
「うん、俺もいい感じだよ」
「オレも負けらんないな」
自信ありげに答えたパルドは作業へと戻る。
その姿を暫く眺め、ウォーゼルはまた微笑んだ。パルドの一生懸命さが伝わってすごく嬉しい。
お互いにアクセサリーを作り終え、いざお披露目となった時。
2人に優しい奇跡が訪れる。
「「同じだ!」」
作っていたのはお互いにバンダナリングだったのだ。
孤児院の院長が独り立ちのお祝いにくれたお揃いのバンダナは2人にとって宝物。
それを彩る物なのが嬉しくて、幸せで。
「ありがとう。ずっと大切にする」
「俺も。宝物がまた増えたね」
宝物と共に思い出もまた、一つ。
嬉しそうなウォーゼルの笑顔を見つめているとパルドの胸は温かくなる。
けれどもどこか、切なくて。
「ガーデニアはパルドの誕生花で花言葉は『喜びを運ぶ』だよ。旅人の御守りに使われている月長石は誕生石だし、パルドの瞳に似た黄玉も使ってみた。災いを退け幸せが訪れるように。大切なパルドの幸せを願って作ったんだ」
大切だと言われて嬉しいのは大切な『家族』だから。その筈なのに。
「紫ダイヤはお前の瞳の色だし、滅多に出逢う事のない奇跡の石って聞いたんだ。そのくらい珍しいんだって。出会えたのが奇跡とかオレ達みたいだ」
「うん。出逢えて良かったね、俺達」
曖昧な想いがウォーゼルの笑顔に溶けていく。
藤の花言葉は『決して離れない』。紫ダイヤの石言葉は『愛情』。
ガーデニアの花言葉は『幸せを運ぶ』。黄玉は『友情』を、月長石は『恋の予感』を意味する。
家族愛とは違う『愛しさ』の意味を、2人はまだ知らない――。
伝えられない想いや隠し切れない愛しさは瞳に映る。まるで夜空に浮かぶ星の瞬きのように。
(ヴィナと交換するなら彼に似合うものを作りたい)
カッシアは言葉に出来ない想いを胸に秘めていた。
それはヴィナスも同じで。愛しさを指先に込め、丁寧にアクセサリー作りを続けていく。
程なくして、2人は完成した贈り物をお披露目し合った。
「花は詳しくないけれど、形が魅力的だったから」
カッシアが作ったのは『幸運の守護石』であるブラックオパールに『幸せな愛』と言う花言葉を持つ銀のブルースター台座のブレスレット。
(いつかの夜に、君の瞳に映った星みたいで)
そう伝えればヴィナスは喜んでくれるだろうか。
あの時を思い出してくれるだろうか。
「君ならこういう石も似合うでしょ」
ああ、どうしても素っ気なくなってしまう。
君を想う心とは裏腹に。
(キラキラした輝きの一瞬の中に俺の色もあればいいのだけど)
今日も素直に言えはしない。想いは募るばかりだ。
まるであの夜の思い出を象徴したかのようなブレスレットに、ヴィナスは驚きを隠せなかった。
(俺、勘違いするよ? 結構嫉妬深いってこの前の聖霊節で教えたのにいいの?)
抱き寄せて伝えたらどんな顔をするだろうか。
カッシアも俺と同じ『好き』だったらいいのに。
「ありがとう。とても綺麗だ。俺のも気に入ってもらえるといいのだけれども」
衝動を堪えてカッシアに差し出すのは金の桔梗台座のペンダント。
花の中央には星の様なエメラルドが輝いている。
「カッシアが生まれたっていう5月頃の風みたいで綺麗な石だよね」
型の金色にも石の種類にも触れずに。ヴィナスは花も台座も星みたいでしょと柔らかく笑うだけ。
(カッシアは引くかな)
俺と同じ種類の好意か判ってないのに――。
桔梗はヴィナスの誕生花。台座の金は彼の髪の色に、エメラルドは彼の瞳の色に似ていた。
桔梗の花言葉は『永遠の愛』。
エメラルドは『愛の成就』と言う意味を持つ。
ヴィナスが自身の象徴のようなアクセサリーに込めたのは愛情と独占欲。
(星みたいな石……まるで君も同じ気持ちなのかって、勘違いするぞこの人たらし)
カッシアは差し出されたブレスレットに目を見開く。
彼の気持ちは分からないけど、一度貰ったからにはもうこれは自分の宝物。
失くさぬようにとそっと愛し気に撫でる。
「大切にする」
俺のこの気持ちも。この先ずっと。
「俺達も楽しんでるからあなたも楽しんでね」
「ありがとうなのよ。ヴィナスお兄ちゃん達は綺麗な夜のお空とぴかぴか光るお星様みたいね!」
ユナは自分達の髪色を見て直感的にそう思ったのだろうか。カッシアとヴィナスは思わず顔を見合わせた。
「ユナちゃん!」
「サラちゃん! 来てたのね!」
2人を見送ったユナはサラの声に振り返り、笑顔のまま抱き着いた。
「えへへ、会えて嬉しい、の。ね、一緒に、アクセサリー作り、しない?」
「うん、一緒に作りたいのよ!」
「よかった……。リランおねえちゃんも、一緒に……どう、かな?」
リランは穏やかに微笑み、こくりと頷く。
3人が仲良くアクセサリーの材料を選んでいる頃、マリィ・スノードロップは初めて訪れる大森林の近くの街並みを楽しんでいた。
(折角の観光町、華やかなアクセサリーと甘いチョコ、この季節ならでは。楽しまなくてはなりません!)
アクセサリー作りの会場に辿り着くと、嬉しそうに宝石と周りの人々を見比べている少女――リゼット・ブランの姿が目に留まった。
(わああ……綺麗! 皆さん贈る相手を思いながら作るんですね。瞳がキラキラしてますね。いいなぁ)
リゼットの瞳もキラキラと楽し気に輝く。
やがて目が合った2人はすっかり意気投合し、これも素敵な縁だと一緒にアクセサリーを作る事となった。
お喋りをしながら材料を選び終え、作業をする机を探していると、リゼットは見知った顔を発見する。
「アルフィーさん!」
声をかけられたアルフィー・リッパーは黒い尻尾をゆらりと揺らした。
「リゼット、久しぶりだな。そこが空いてるから良かったら一緒に作らないか?」
アルフィーの誘いにリゼットは笑顔で頷き、マリィも嬉しそうにぺこりと頭を下げた。
「私は今贈ろうと思うと家族なんですけど、お兄ちゃんとかお父さん? でもちょっと違う……なので、いつか出会えるかも知れない誰かの為に作ろうって思ってます」
テーブルの上に選んだ材料を並べながら、リゼットは少し照れくさそうにそう口にする。
「わたしもです! 特定の人はまだ居ないのですが……まだ見ぬ誰かを想って、想いを込めてのアクセサリー作りをしてみたいんです。気は早いですが、未来の人の為と想って……!」
兎耳が嬉しそうに動くマリィを見つめながら、アルフィーは似た者同士だな、と心の中で呟く。
(女性が好むものなんてわからないけど……。もう少しであいつの大切な日だし、プレゼントを何か贈れたらいいな)
脳裏に浮かぶのは同じ猫仲間。
白の髪と黒い耳、そして紫の瞳がとても美しい猫の女性だ。
(確か2月はアメジストが誕生石だったな。あいつの瞳の色とも同じだし、それを加工して作るか)
工芸品を作るのが得意なアルフィーは慣れた手つきでブレスレットを作っていく。
集中してた事もあり、あっと言う間に完成。
アメジストを小花に見立てて配置をしたブレスレットを見つめ微かに微笑む。
「すごく可愛いです! このお花は菫みたいですね。花言葉は確か『誠実』とか『愛』だった気がします」
「マリィさん、アメジストは『愛の守護石』って呼ばれてるみたいですよ!」
「あ、愛って……。そう言うんじゃないからなっ!」
見つめ合って「「きゃ~~」」と盛り上がる乙女達。
アルフィーは意図しなかった意味に赤面してしまう。
その後も2人は恋への憧れを話題に話に花を咲かせつつ、しっかりと手元も動かしていた。
「出来ました! 我ながら可愛いです♪」
マリィは控えめな大きさのローダンセが連なるピンブローチを満足げに見つめた。
型は銀色。宝石は少し濃い桃色のルべライトを。
「花言葉は『終わりのない友情』と『変わらぬ思い』です。素敵じゃないです?」
「ええ、とっても素敵です! それにルべライトは『良縁成就のお守り石』らしいですよ」
マリィのピンブローチを大絶賛するリゼットが作ったのは、男性用のラペルピンと自分用のブローチ。
銀色のマーガレット型に花弁には水晶を、花芯はタンザナイトを。
カットを良く見て選んで、光の加減で枠の銀色と一緒にキラキラ光る様に。
「水晶はオールマイティな御守り石ですし男性も着けやすいかなって。宝石は自分の瞳の色なんですけれど、アメジストにしなかったのが拘りです」
「マーガレットの花言葉は『真実の愛』で、タンザナイトは『家庭円満』の意味があるみたいですよ!」
リゼットがふふっと柔らく微笑めば、マリィは興奮気味で花言葉と石言葉を伝えて。
((いつか素敵な人と出会えます様に……))
2人の乙女が込めた想いに応えるように3色の宝石が煌めいた。
「えっと、ね、アイリスと、マーガレットの、金色のお花の、型をふたつ、用意して……ううんと」
サラはユナをジッと見つめる。
「淡い紫色の宝石、と、鮮やかな緑色の、宝石。ぱちん、ぱちん、って、嵌め込む、ね。わたし、こういうの、得意、なの。ユナちゃんと、リランおねえちゃんは、どんな、感じ?」
サラの手元で輝くのは紫がかったモルガナイトと鮮やかなグリーンガーネット。
彼女とユナの瞳の色で、石言葉は『愛情』と『絆』だ。
「私はもう少しで完成しそうです。ユナはまだまだみたいですね」
「ううっ、レティシアお姉ちゃんと一緒に頑張るのよ!」
涙目なユナの頭をレティシア・レインフィールは優しく撫でる。
ユナとリランを見かけ挨拶をしたその流れで一緒に作る事となったのだが、内心の困惑を演技で隠し続けていた。
(貴族令嬢としてならともかく、私個人の好みの物を選ぶのは苦手……というよりも、何が好きなのか、分からなくなってしまったから)
けれど、大切な人に贈るのであれば――。
そう考え選んだあの人との思い出のある銀の鈴蘭の型を、レティシアは指先でそっとなぞる。
宝石は髪か瞳の色の物が良いのだろうかと考え、手を伸ばした宝石の色に。ふと、別の人の顔が浮かんで。
そう言えば同じ色をしていた事に今更気付いたけれど。
それ以上は考えてはいけないと、次に浮かびかけた考えを振り切るように選んだのは月長石だった。
鈴蘭の型に嵌めようと力を籠めると、月長石が壊れてしまいそうで怖かった。恐る恐る、少しずつ力を加えて花弁を彩っていく。
「この宝石は白いけれど、ほら……レティシアお姉ちゃんの瞳の色にも光るのね」
青色閃光と呼ばれる輝きにレティシアは息を呑む。
(あの人はもう居ないけれど。だからこそ、この想いだけは)
月長石の石言葉は『恋の予感』。
満月の夜に口にくわえると自分の未来が見えるとの言い伝えもあった。
「チョコレートを贈ったり宝石を贈ったり、色々考えるよね。面白いけど」
ヨル・スレイマンは宝石の配置を何度もやり直しているユナの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「苦戦してるね、お嬢さん。手先はそこそこに器用だから手伝おうか?」
「ありがとう、骸骨さんのお兄ちゃん。でもね、1人で頑張りたいのよ」
「俺もさっき同じ事を言われた。一緒に見守ってやろうぜ」
ユナを見つめるアルフィーは、頑張ったご褒美にと簡単な髪留めを作って贈ろうと思っていた。
仕事を終え拠点へ戻る途中に町を訪れたヨルは、折角だから友人への贈り物に何か作っていこうと思ったけれど。
彼を想いながら作るのはどこか気恥ずかしい。
ヨルが完成させたのは銀色の椿の花型にオニキスを使ったベルトのバックル。
(オニキスはいいとして……椿はちょっと重いかもなぁ)
この想いが情かと言われればわからないけど。
守りたいもの。笑っていて欲しいもの。
(渡り鳥に変わらないでいて欲しい、というのはちょっとエゴいんだけども)
友人の髪の色のオニキスは『守護』の意味を。
香りのしない椿の花言葉は『不変』。そして『私は常にあなたを愛します』。
「とっても素敵に出来たのね! すぐにあげるの?」
「いや、渡せるかはちょっとわからないんだけど」
今頃、何をしているだろうか。
また一緒に酒が飲みたいな、と喉だけじゃなく心も少し乾いてる気がして。
まあ、何かの拍子にきっと渡せる時が来る気がするから。
「今日はありがとうね」
「どういたしましてなのよ! 私もあとちょっとだわ!」
気合を入れ直すユナにサラは声をかける。
「私が、作ってるのは、ね、髪留め、なの。あのね、これは、ひとつはユナちゃん、の。えへへ、お揃い」
「ありがとうなのよ!!」
「アイリスと、マーガレットの、花言葉はね、信じる心と、真実の友情が、一番、ぴったり、だと、思った、の。ずっと、仲良し、でいたいな、って」
サラの想いを理解したユナの顔に笑顔の花が咲く。
「友情って素敵ですね……。リランさんはどなたを想って作ったのですか?」
マリィの問いにリランは瞳を細めてユナを見つめる。
「あの子を想って作りました。チョコレートの方は酷い出来栄えですけれども」
この胸の中にあるあなたへの想いを指先に込めて。
あなたを、あなたの心を、優しさで彩れますように――。
マスターコメント
この度はご参加下さりありがとうございました!
ですのに大幅な遅刻となってしまい、申し訳ございません。
今後はこのような事がないように、スケジュール管理だけでなく体調管理も含めて注意してまいります。
解説にも書かせて頂いたのですが、こちらは『作るまで』のシナリオでした。
ですので『贈る』プレイングはアレンジをして描写させて頂ております。
本当は絡みOKと仰って下さっている皆様にNPC達を絡みに行かせたかったのですが、ジスーに阻まれ叶わずでした……。
今回はお声がけして下さった方のみとさせて頂いております。
宝石の名前での指定がなかった方は、私の方で色から選ばせて頂きました。
石言葉や言い伝えなどもPCさんに合わさせて頂いたのですが、いかがだったでしょうか……?
大遅刻をして皆様にご迷惑をおかけした身ですのに恐縮ですが、皆様の想いを描かせて頂けてとても幸せでした。
指先に込めた想いがあなたとあなたの大切な人を、優しく温かく包み込んでくれますように……。
イベントシナリオ普通 報酬:少ない22 / 4〜25人
2022年03月10日 21時56分58秒 公開
大成功