【学転】学園の未来に向けて交流会を
青猫格子
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シナリオID:1919
オープニング
1222年度編入試験が近づくパンクリアース学園。
2年生のアンネリー・ゼンゲルは突然、学園長のフォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスに呼び出された。相談したいことがあるのだという。
「あたしに相談って、一体どういうことかしら?」
戸惑いつつ学園長室にノックして入る。
すると部屋には学園長と、同じく2年生の知り合い、イアン・ランボヴィルがいた。
「ぼくも突然呼び出されて……学園長、一体どういうことなんですか?」
イアンとアンネリーが席につくと、学園長が話を始める。
「知っての通り、パンクリアース学園では貴族の推薦を必要とせず、冒険者を受け入れることになりました。しかし、これは開かれた学園への改革の一歩に過ぎません」
冒険者の受け入れをつつがなく終えたら、次は能力のある平民へ門戸を開く。
さらには優秀な留学生を迎え入れる。
そうしてパンクリアース学園を教育機関として発展させることが、王国の利益となるというのが学園改革の目的だ。
「ですが、そのような急な変化は既存の学園生たちの反発を生みかねません」
現在の学園生は王国の貴族が大多数を占める。その多くはヒューマンで、平民や異種族の生徒が今後増えていくことをすぐに受け入れられるとは限らない。
実際、去年は生徒会役員選挙に伴い様々な事件が起きていた。
「そこでアンネリー様とイアン様、お二人でそうした貴族の生徒たちと、入学希望の冒険者や異種族の生徒たちとの交流のきっかけになるような催しを行ってほしいのです」
学園長の言葉に二人は同時に驚いた。
「ええ!?」
「な、なぜ私が!?」
「アンネリー様は先日、学園祭で、仮装舞踏会を成功に収めましたからその腕を買って。イアン様は授恵者として冒険者ギルドで異種族との交流も多いとのことですので、両者の橋渡しになってほしいのです」
学園長の説明を聞いて、イアンはことの重大さに不安そうな顔になる。
ところが、意外にもアンネリーは乗り気だ。
「そういうことなら! ですが仮装舞踏会はあたしだけで成功したわけではありません。イアンやラルス、冒険者の皆さんの協力もあってのことです。せっかくなので冒険者の皆さんと協力し、学園生と入学希望者の皆さんを招待して大勢で交流会を開くのはどうでしょうか?」
アンネリーの言葉に学園長はうなずく。
「詳細はおまかせします。ではアンネリー様、イアン様、よろしくお願いしますね」
「は、はい……」
イアンはまだ返事していないのだが、断りにくい流れになってしまった。それに、もし断ったことが後から父に知られたら、なんで断ったのだと騒ぐこと間違いない。
「上手くいくかわかりませんが、頑張ります……!」
学園長室を出た二人はその後、アンネリーの友人たちや、メイドのアンジェラなどと話し合い交流会の詳細を決める。
場所はどこがいいか。バラ園などは広くて適していそうだが、まだ寒い。
貴族寮の近くに、学園生が舞踏会の練習をするためのホールが有り、そこを借りることにした。
王国貴族とそれ以外の出身者が交流のきっかけになるよう、各地の料理を持ち寄ってお茶会をするという形だ。
「それぞれ、料理について紹介すれば会話のきっかけになるし、お互いを理解しやすいと思うの」
仮装舞踏会でも様々な地域の料理が提供されていたことから、アンネリーはそう考えたようだ。
舞踏会ほど準備が大がかりなものではないが、イアンたちは招待状の準備などを急いですることにした。
次の日、2年の教室でラルス・ダンネベルクは婚約者から交流会に来るように誘われる。
「へ、なんで俺が?」
「今後、学園では貴族やヒューマン以外の学生との交流も増えると思うわ。なるべく早く慣れておくほうが良いんじゃないかなって思って」
学園においてもっとも多いのは、貴族派貴族、そしてヒューマンである。
ラルスはある意味、典型的な存在であろう。
「まあ、たしかにそうか……これも貴族としての人付き合いだな」
学園の方針として、冒険者たちを受け入れていくことはすでに決定事項だ。
貴族の学園生たちがこれにどう対応するかは人によるだろうが、できれば対立などは避けたい。
(たしかに、これまで関わってきたヒューマン以外の種族は冒険者などが多い。学園生に増えるとなるとまた違うのかもしれないな……)
ラルスは今後のことも考えながら、交流会へ参加することに決めた。
解説
マスターより
リプレイ
交流会の当日。
パンクリアース学園の厨房では、使用人や冒険者たちが料理の準備をしていた。
食材は王国でなじみのあるものもあれば、珍しい物、シャルガネの食材など幅広く揃えられている。
海神・江流は、交流会のためにシャルガネらしい料理を提供しようと米を研いでいた。
餅米の水を切って鍋に入れ、醤油、みりんなどで味付けし舞茸と共に炊いておこわを作るのだ。
しばらくすると、美味しそうな匂いが周囲に漂ってくる。
「いい匂いですね。よかったら私も手伝いたいです」
厨房にやってきたエフィルミアが江流に声をかける。パンクリアース学園の生徒会長として、入学希望者に少しでも学園をアピールしたいようだ。
「じゃあ、おこわをおにぎりにするのを手伝って貰おうかな」
江流は炊き上がったおこわをボウルにあける。おにぎりにして海苔を巻くことで食べやすくするのだ。
ちょうどやってきたシルヴィア・A・カペルもおにぎりを作るのを手伝うことにした。
「熱そうだが……火傷しないかい?」
湯気の上がるボウルを見てシルヴィアが江流に尋ねた。
「こうして水で手を冷やしながら握るんだ」
江流が手慣れた手付きで握ってみせる。エフィルミアとシルヴィアも真似をしながら作り始めた。
江流たちのすぐ近くでは、ヴィルヘルミナが料理の準備を進めていたが、おこわの良い香りが漂ってきた。
(いい匂いですね……って、こっちも作業を進めませんと)
ドワーフの料理といえば酒飲み向きのおつまみのようなものが多いが、それらをアレンジして小皿料理として出せば喜ばれる筈だ。
塩漬けの肉とジャガイモを炒め、シンプルに塩で味付けしていく。このままでも十分美味しいが、チーズをおろしてかけるとさらに美味になる。
「おいしそう。うちも手伝わせて!」
スフィカがヴィルヘルミナに声をかける。
「では、このお皿をホールへ運んでくださいますか」
「お安い御用。まかせて!」
元気よく返事したスフィカは小皿の並べられた盆をホールへ運んでいく。
会場のホールではすでに作られた料理が持ち込まれ、アンジェラやアンネリーたちがテーブルに並べていた。
「これが、料理大会で優勝した薬膳ローストチキンなのだ!」
ストレガ・L・リベルガストラが運んできたのは、まさに鶏の丸焼き。中には香草や薬草などと大蒜で炒めた米を詰め、蓋をしてじっくり加熱されている。
昨年のパンクリアース学園最強料理人決定戦で優勝したメニューだ。
「噂に聞いていましたけど、本当に美味しそう」
アンネリーがローストチキンを見て喜ぶ。
「料理が美味しすぎて食べすぎたという者が出るだろうと見越して、胃もたれによく効く薬草を詰めたのだ」
ストレガが説明しながらチキンを切り分け、取りやすいように小皿に並べていく。
その間に、他の料理の準備も次々に運ばれてくる。
ハリーヌ・ヨツユビが運んできたのはチョコファウンテンと王国でも知られた各名店のチョコ菓子の数々。
「アンネリー様。このような場を設けていただき、ありがとうございます! ワタクシのような者でも、お役に立てれば幸いでございます」
主催者たちに丁寧に挨拶する。ハリーヌもパンクリアース学園生であり、冒険者であるという立場である。
「ワタクシ、貴族の皆様と張り合うために入学したわけではございません」
いつも礼儀正しいハリーヌ。それは自分の将来のためだ。例えば何かビジネスを始めた時、同窓の人々は大切な商談相手になる。
貴族と敵対するようなことはなるべく避けたい。
「こちらに焼きそばパンも用意いたしました。お召し上がりいただければと思います」
と、お土産に持参した焼きそばパンをアンネリーたちに渡す。
同時に会場にやってきたヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンもアンネリーたちに挨拶をした。
「昨年末に入学を果たした身ですので学生生活の歴史は浅い身ですが、入学希望者との間を取り持てたらと思います」
今回の参加者の中にはヒューマン以外の種族もいる。ヴァレリアは彼らの知識が商業、工業にもたらす影響に興味があるようだ。
「個人的にはドワーフの冶金含む技術面には興味があり、私としても民生品製造……なんなら兵器開発や軍需産業においても後学の為に勉強になると思いますので」
「なるほど……後でヴィルヘルミナさんに話を聞いてもいいかもしれませんね」
アンネリーは厨房で働いている彼女のことを思い浮かべた。今は忙しいだろうが、ヴァレリアが興味を持つような話を知っているかもしれない。
●それぞれの思いが交差する交流会
しばらくして招待客たちも集まり、時間となったため交流会が始まる。
といっても、今回は特に出し物などはなく、食事と雑談が中心だ。
最初にアンネリーが軽く挨拶をして、あとはそれぞれの料理を食べながら各テーブルで話すことになった。
「二人も仲が良さそうで何よりだ」
料理を運んできたシルヴィアが、アンネリーやラルスたちの所へ挨拶にやってきた。
生徒会副会長の彼女は公約で兄姉制度の実施を掲げていた。今回はそれのアピールも兼ねているようだ。
参加者は入学希望者よりも既存の学生や手伝いの方が人数が多い。
入学希望のユークリア・フィナンシェ、アウレーリア・フォン・ネーベルベルク、アシュリー・レドルナンは開始してすぐ周囲に取り囲まれていた。
学園生たちは興味深そうに質問を投げかける。
「帝国からの留学生なんですよね。王国でどのようなことを学びたいですか?」
「帝国の貴族の教育ってどのような感じ? やはり厳しいのかしら?」
「まて、そんなに一度に答えられないだろう」
料理を食べていたラルスが呆れたようにつぶやく。
ユークリア、アウレーリアは生徒らの質問に答えながらも、料理を取りにきたアンネリー、イアンたちに挨拶する。
「入学希望者として素敵な催しに参加させて頂いております、ユークリアと申します」
帝国貴族の令嬢であり、礼儀作法もきちんとしていた。
「こちらこそ、参加ありがとう。帝国の留学生が学園に増えることはきっと良い刺激になると思うわ。よろしくね」
「はい! 来年から宜しくお願いしますね先輩! それにしてもこのおこわも、ローストチキンも美味しいです」
挨拶を終えたユークリアはテーブルに並んだ料理を早速味わっている。
「よかった、ローストチキンも好評なようなのだ」
配膳をしていたストレガは、参加者たちの反応を見て満足していた。
「あなたがチキンを料理したんですね。素晴らしい料理の腕です!」
ユークリアの賛辞に、彼女は嬉しそうに頷く。
「食は万世共通の幸福なれば。毎日作っている常駐のシェフ達に感謝を伝える文化が芽生えてほしい。ユークリア殿のようなお方が増えてくれると嬉しいのだ」
学園生活の中での楽しみといえば学食であるという者もいる。
そうした食事を作る料理人たちに感謝する心を持ってほしいというのが彼女の願いだ。
そのころ、アウレーリアはアンネリーたちに挨拶をしていた。
「既に聴講生として何度も学園に関わってはいるけれど、機会が得られるならば入学してみようかと思っています」
彼女も帝国の出身である。王国貴族との縁を有効活用したい思惑もあり、入学希望しているようだ。
テーブルには彼女が持ち込んだ帝国風レシピを元に料理人たちが作成した料理も並んでいる。
「今回はグヤーシュや、デザートにパラチンタなどを用意しました。気に入っていただけるといいのですが」
アウレーリアの紹介を聞きながら、参加者たちは興味深そうに料理を味わっている。
こうした珍しい料理は会話のきっかけにもなり、好評であった。
アシュリーは学園生や冒険者たちに囲まれ、会話を続けていた。
「アシュリーさんはどういうきっかけで入学希望をしたのかな?」
「えっと、やっぱりこれからは冒険者も学問が大事かなって」
話しかけられたアシュリーは質問に適当に答えながらも、この状況に困惑していた。
(……これだけ授恵者がいたら、かっぱらいも出来ないなぁ)
その時、見覚えのある顔を見かけたので、いい機会だと学園生たちの輪を抜ける。
少し離れていたところで談笑していたフクシア・S・シュルツは、笑顔で近づいてくるアシュリーを見てぎょっとした。
「何をなさっているんです?」
貴族の学園生たちに挨拶をしていたフクシアは、近づいてきたアシュリーを見てそれどころではなくなってしまう。
あわててアシュリーの首根っこを掴む勢いで捕まえ、ホールの隅へやってきた。
「なんだよもう~! 冒険者として交流会に招待されて、ちょうどいい機会だから学園に来てみたんだよね」
可愛い顔で平然としているが、要するに学園の備品を盗もうとやってきたのである。
「盗みにいい機会も何もありません!」
フクシアは以前、彼に屋敷に侵入されたことがある。何も盗られてはいないが。
彼が更に犯罪を重ねぬよう、しっかり捕まえておかなければと掴む手にさらに力を入れる。
「い、痛いよ! 今回は何も盗ってないでしょ? セーフセーフ!」
「今回はまだ何も盗っていないのですね」
じっと彼の目を見つめた後、フクシアは安堵のため息を漏らした。
他の学園生と縁をつくろうと参加した今回の交流会だが、おかげでアシュリーの盗みを事前に防ぐことが出来た。
「未遂の内に発見出来た私の徳が更に積まれました。盗みよりも折角ですから美味しい物を頂くといいですよ」
フクシアはそう言ってアシュリーを料理のテーブルへ案内する。
離してくれそうにないのでアシュリーも諦め、一緒に料理を食べることにした。
参加者のアンネリーたちへの挨拶が一通り落ち着いた頃、レティシア・レインフィールがやって来た。
彼女はパンクリアース学園の卒業生である。
「仮装舞踏会に引き続き、お疲れ様でございました」
レティシアが用意したのは、領地で取れたハーブ入りのクッキー。食後にお茶と共に頂くのに丁度良い。
「学園について、わからないことがあったら気軽に尋ねてくださいね」
アンネリーたちと会話していた入学希望者にレティシアが声をかける。
「環境そのものにさほど不安はないけれど、共同生活がどのような感じなのかは気になりますね」
アウレーリアが思っていたことを口にする。
「そうですね……でしたら、後で寮を見学するのはどうでしょう」
レティシアがアウレーリアたちに提案する。
実際に生活している場所を見るのがわかりやすいだろう。アンネリーも賛成する。
「今すぐは難しくとも、家や派閥といった立場や身分、種族に関係無く、互いにただ一人の者として向き合い、共に成長する。後輩の皆様がそのように在れる事を、私は望んでおります」
と、レティシアは明るく微笑んだ。
●料理を楽しむ人々
様々な料理を食べながら会話の弾む参加者たち。
王国ではチョコレートが人気のため、ハリーヌが持ち込んだチョコファウンテンに浸した果物を味わう者や、チョコ菓子を手にする者は多い。
また、江流たちの作った舞茸おこわも人気であった。
物珍しさと、おにぎりの形にして海苔を巻いてあるため、手軽に食べられるのが好評なようだ。
「よかった。みんなで握ったかいがあったね」
料理の評判な様子を見てエフィルミアはシルヴィアたちと喜ぶ。
参加者が多いため、料理が減る速度も早い。
厨房ではまだ江流やヴィルヘルミナたちが料理を作り続けているし、アンジェラや他のメイドたちが次々新しい料理を運んでくるので問題はなさそうだ。
「おにぎりもいいが、サンドはどうだ?」
ナキルがテーブルに、薄くスライスした茹で蛸とサラダのマリネ風バケットサンドをカットをして並べながら呼びかける。
「わあ、美味しそう」
エフィルミアはサンドを手にし、思い出したように別に用意してあったおにぎりを取り出す。
「ナキルくんは普通のおにぎりじゃ物足りないだろうから、特別に薬草にぎりね!」
「ミア……また変なモノ作ってねーだろうな」
エフィルミアの作った料理を警戒するナキル。
手渡された特製おにぎりは、おにぎり周囲に苔の様に刻んだ薬草が振りかけられていた。
「いや、まず普通のおにぎりを食べてからにするよ。普通のも食べないと差が分からねーだろ?」
ナキルは特製おにぎりとは別に普通のおにぎりも皿に取り、席についた。
エフィルミアも一緒に食べることにする。
「……うん、おいしい!」
「ナキルくんのバケットサンドも美味しいねっ」
舞茸おこわのおにぎりはとても美味しい。その間にエフィルミアはサンドを美味しそうに食べている。
「ミアのそう言う顔は毎日見たくなるな……」
と言いながら特製おにぎりを口にするナキル……。
「うん? いや案外行けるな……あれ?」
彼女の手料理を食べ続けるうちに、なんだかんだ身体が順応していたナキル。耐えられるというだけで薬草の苦味などは全く消えていないのだが。
「毎日見たい!? 俺のご飯を毎日作ってくれっていう事!?」
普通に作れば美味しいのに、と釈然としないナキルだが、それに気づかずエフィルミアはナキルの言葉に照れていた。
●社交界の一幕
(主催は貴族派ダンネベルク家嫡男の婚約者候補令嬢だったかな)
学園生たちの会話を眺めながら思いにふけるジュスト・ヴェルジー。パンクリアース学園4年生である。
彼は入学希望者のことはもちろん気になるが、在校生たちにも興味を抱いていた。
主催者たちに挨拶を終えた後、会場を見て回っていると従姉と彼女が最近お気に入りの森人が一緒にいるのを見かける。
「なぜ君までいるのかな、従弟殿?」
にこやかに入学希望者に挨拶をしていたローザリカ・L・ディオールはジュストを見て一瞬表情が崩れる。
入学前の生徒を値踏みするための良い機会、と交流会に参加したローザリカ。
元々学園に籍を置くのも将来に向けての『買い物』のためという彼女らしい目的であった。
(……せっかく、格式張らない交流会でなら気さくに話が出来るかもしれない、と思ったのに)
値踏みとは別に、エリカとゆっくり話せると思い彼女を誘っていた。
もっとも、エリカ・プレトリウス本人は裏方を任されるのだと思い参加したのだが、社交側だと知ってあわてて寮に戻り着替えてきたばかりであった。
「先程は失礼いたしました……何かおかしな所が無いと良いのですが」
聖霊節の時に子爵夫妻から貰った、パーティ用のドレスを身に着けたエリカがジュストに会釈をする。
一応、パンクリアース学園に属しているエリカだが、元は孤児であった為か、社交の場で失礼なことがないか気にしているようだ。
「やぁ、エリカ嬢。いつもの君も素敵だが今日は殊更美しいね」
そんな彼女の様子を見てジュストが優しく声をかける。
「有難うございます。馬子にも衣装です」
エリカが謙遜して答えるが、ローザリカはジュストの態度が気に入らないようで、刺々しく返す。
「彼女にドレスが似合っているのは僕も同意見だが。どうしてそうも胃もたれしそうな言動に出来るのか不思議でならないよ」
「おやおや、独り占めしないと落ち着かないのかい?」
ジュストもローザリカも一見して柔和な様子を保っているが、言い争いは終わらない。
(な、なぜお二人はそこまでぶつかり合ってしまうのでしょう……でも)
エリカは二人の様子にハラハラしながら、どうすればいいのかわからずにいた。
「エリカ嬢、こういう場の過ごし方のコツをご存知かな。楽しいことを見つければ良い。料理でもドレスでも人間でも。興味が湧いたものを見てご覧」
「エリカ君に一ついいことを教えてあげよう。こういう男に絡まれた時は適当に流して立ち去るのが一番いい」
言い争い合っている様に見えるのに、二人の様子はある意味では生き生きして見えるのだ。
そんな風に思ってはいけないのかもしれないが……。
「お二人は仲がよろしいんですね」
気がつくと、エリカはつい率直に印象を口にしていた。
すると、「仲良くない!」と、二人の声が同時に重なる。
気まずそうにジュストが咳払いをし、ローザリカは苛立たしく顔を背けた。
その動作のタイミングまで合っていたので、エリカは微笑みを漏らさないように必死だった。
(……只の“わたし”は何にも興味はない筈で)
エリカはなぜ二人が自分のことで争ってしまうのか分かっていない。だけど、彼らならずっと見ていてもいいなと思うのだ。
●静観する者たち
学園生たちが和気藹々――表面上は皆そうだ――と交流を繰り広げているすぐ側で。
イズル・M・ヴォルゴールは給仕をしつつ生徒たちの話や動向を窺っていた。
(学校は社会の、濃縮された縮図だ)
生徒たちが入学希望者やその他の学年の者と話す様子を見てイズルはそう感じていた。
小さな領地の名家に生まれた彼は、この変化していく学園に興味があった。
交流会には先の生徒会総選挙で生まれた生徒会役員たちの一部も参加している。
従来の貴族社会と学園の掲げる能力のある物全てへ門戸を開くという目標にどのような折り合いをつけるのか。
入学をしていなくても、この改革の過程自体に学ぶところはあるだろう。
(そして冒険者がこの学園にどのような影響をもたらすか……も気になるところだ)
既に聴講生として学園にはある程度の冒険者たちが出入りしているが、編入試験により更に増えていくと思われる。
彼らの存在が学園をただかき回しているだけではないか、見定めようとイズルはやり取りを眺めていた。
空いた皿を下げ、飲み物を運ぶ中、イズルは自分と同じく参加者たちを観察している存在が他にもいることに気がついた。
その一人がキーゼだ。
「お飲み物をお取りしましょうか?」
給仕らしく、丁寧な態度でイズルが声をかける。
「ええ。ではお茶をいただきましょうか」
キーゼの言葉で、イズルは食後向けのシャルガネ産のお茶を取りに行く。
食事を終えた様子のキーゼであったが、あまり食べていないようだ。
料理を味わうよりは、超聴覚を用いて参加者たちの会話に耳を傾けることに神経を集中していたのだ。
ちょうどその時は、アンネリー、イアンたちがスフィカと会話しているのを耳にしていた。
スフィカは厨房で調理の補助をしていたが、ひと仕事終えて交流会の見学を兼ねて挨拶に来ていた。
「編入試験ってどんな感じなのかな? うち、今まで学より肉体労働! って感じだったからさ」
「私も気になります!」
隣でスープを飲んでいたユークリアも興味があるようだ。
「うーん、以前はとても難しかったみたいだけど……今回からはどうなんだろう?」
スフィカの質問にイアンが首を傾げながら答える。パンクリアース学園の編入試験は非常に難しいことで知られていた。しかし貴族は家格や財力で試験の成績によらず合格になることが多い。
「王国の学園だから、俺の時は王国史とか調べてたかなぁ」
追加のおにぎりを運んできた江流が話を聞いていた。彼は編入試験に合格し、パンクリアース学園生となった。他にも試験の経験者はいるはずなので、そうした経験談は参考になるかもしれない。
「推薦状が無くても編入試験を受けられるのだから、試験を受ける者が多くなるはずだ。だから競争率は上がるかもしれないな」
ラルスの見解では、たとえ試験が難しくなくなっても、競争率が上がって受かるものは限られるというものだ。もっとも、根拠のない予想なので外れているかもしれない。
「そうか〜、やっぱり現実は厳しいなあ」
今から勉強してどうにかなるなら、挑戦してもいいかなと考えていたスフィカが残念そうにつぶやく。
「まあ、あくまで予想だから。挑戦してみても良いのではないかしら。それに、競争率が上がるってことは優秀な学園生が多くなるってことよね。それ自体は学園に良い影響があると思うわ」
アンネリーがあわててフォローするように言う。
(良い影響か……はたしてそれだけだろうか)
アンネリーたちの話を聞きながら、学園の改革についてキーゼの見解は少し異なるものであった。
(王国が冒険者を抱き込むことは、それが王国の利益となるからだ。学園の改革はその延長上にあるもの……)
希望や期待を以て学園の改革を目指す者たちはもちろんいる。だが彼らが理想と王国の現実的な判断との間でどう揺れ動いていくか、彼の興味はそこにあった。
●デザートはレモンの香り
アンネリーたちとの話が終わり、ユークリアと少しがっかりしていたスフィカに声をかける者がいた。
「お勉強、興味があるのでしたらお手伝いしますっ」
ミア=リゼル。彼女は少し前にパンクリアース学園の編入試験に合格している。
一緒にいたヴァレリアも同意する。
「私も、最近試験に受かったばかりなので、参考になる話ができるかもしれません」
彼女やナキルも昨年末に編入試験で合格していた。
「本当!? ぜひ、お話を聞かせて!」
スフィカが再び元気を取り戻す。
「先輩! よろしくお願いします」
ユークリアも興味があるようだ。二人は料理を食べながら話を聞くことになった。
「これは私のおすすめ、レモンクリームチーズテリーヌ。あとはちみつレモネードもどうぞ」
二つともミアが持ち込んだ料理だ。彼女はレモンに深い思い入れがあるらしい。
「うん、おいしい。レモンの香りがとても良い感じ!」
スフィカは美味しそうに食べる。労働の後にレモンの爽やかな香りは一層食欲をそそられるものだった。
(材料費でニ、三日分の食費が飛んだことは話さない方が良いわね……)
ミアはパクパク食べているスフィカを見て、彼女が遠慮しないようにしなければと思う。
試験や学園生活の話をしていると、ナキル、エフィルミア、シルヴィアたちもテーブルへやってきた。
「オレたちも一緒にいいかな」
「もちろん。デザートも食べてね」
ミアがテリーヌを彼女たちにも差し出す。
「ふわー、このテリーヌとても贅沢! 美味しい!」
エフィルミアがテリーヌを食べて驚く。その反応を見てスフィカは初めて高価な料理なのではと思うが、すでにたくさん食べてしまった後だ。
(エフィルミア様、今まで風評のみでしか知りませんでしたが……なるほど)
ヴァレリアはナキルとは同期生であるが、エフィルミアに会うのは初めてだった。
ナキルたちと和気藹々としている様子を見て、生徒会という組織を少し身近に感じられるようになった気がする。
「異種族の知識が学園に入ることは、王国としても勉強になると思います。エフィルミア様はそうした生徒の希望になるでしょう」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
急にヴァレリアに声をかけられてエフィルミアは少し驚くが、期待が寄せられているのだろう。
その後も彼女たちは食事を楽しみながら、編入試験の経験談などの話で盛り上がっていた。
●会の終わり
交流会の終わりの時間が近づいてきた。
会は十分成功したと思われるが、アンネリーは少し残念そうだ。
「もっとみんなと色々な話をしたかったけど、挨拶だけでも随分時間がかかってしまったわ」
「主催だとそんなものさ」
ラルスが元気づけるように声をかける。とはいえ、主催ではない彼は声をかけられた人としか積極的に話していないように思えた。
「うーん、なんていうか、まだどう接していいか悩んでいるところはあるな」
要するに、まだ慣れていないということだ。今回は入学希望者や冒険者たちの様子を見ることが多かったが、いずれは積極的に交流できる日が来るかもしれない。
もうひとりの主催者、イアンは厨房へやってきていた。
「どうしました、イアン様?」
厨房で料理の片付けなどをしていたアンジェラが声をかける。
「うん、デザートが結構残ったから、皆で食べてほしいなって」
料理がたくさんあったため、残ったデザートが多かったようだ。
手のつけられていなかったクッキー、テリーヌ、パラチンタなどを盛った皿を手にしていた。
「ありがとうございます、ではお茶を入れますね」
アンジェラは厨房で働いていたストレガ、ヴィルヘルミナ、江流たちを呼び集めてお茶にすることにした。
「今日はありがとう。いきなり交流会を開くってなったときは驚いたけど、皆のおかげで無事に開催できたよ」
イアンは冒険者たちに礼を言い、その後は会の終了の挨拶をするためにホールへ一旦戻っていった。
「お忙しそうですね。私たちもあとで会場の片付けはありますが、ひとまず一旦休憩にしましょうか」
と、厨房では少し遅れてささやかなお茶の時間となった。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準20 / 4〜25人
2022年02月24日 21時26分14秒 公開
参加者
相談掲示板
キャスター、ヴァレリア・ブランシェ・ウィザースプーンと申します。 お見知り置きを。 私としては、参加者ではリゼル様が知っている事でしょうけど昨年末の編入試験に合格した身ではありますから、【2】の入学希望者の立場で参加という事になるのでしょうか?
ヴィルヘルミナです。 折角なので何か料理しようかなと。多分ほとんど台所だと思います。
海神江流だよ。今回は宜しくね。 俺は去年秋の編入試験で入学済みだから【1】って事になるかな。 料理は色々出るみたいだけど、折角だし俺もシャルガネっぽい物でも作ろうかな。 いろんな地域のものがあった方が会の趣旨に沿ってると言うか、話題にしやすいだろうしね。 >ヴァレリアさん 既に編入試験を終えてるなら現時点で1年生として入学してるはず。 俺と同じで【1】になるんじゃないかな。 【2】は1222年度編入試験で入学してくる新1年生候補の人が対象だと思うよ。 その頃には俺達は2年生になってるだろうしね。
イズル・M・ヴォルゴールです。今回はよろしくおねがい致します。 【3】で給餌係のような事をしていると思います。
こんにちは、ミア=リゼルです!よろしくお願いしますね。 ヴァレリアさんや江流さんがおっしゃっているように、私は【1】で参加したいと思いますっ 具体的には…ま、真っ白なんですけど!参考書とか、持ち込んでみますっ
「ナキルだ、よろしくなー! オレも【1】学園生 で参加っと。 >ヴァーレ あ、オレ等はもう1年生だぜ。 >リゼ お、リゼもよろしくな。 (同期がいる安心感) 料理か…改めて料理って言うと…いっつもその場の思い付きで作ってきたから 故郷とかそんな趣のある料理が無い……いや、無くも無いか……一般受けするかはさておき。」
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 【1】学園生として参加するよ。 入学希望者と交流したり、アンネリー達とも話をしたりする予定だ。 皆の料理も楽しみにしているね。
ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 皆様、今回はよろしくお願いするでございますよ! ワタクシは【1】の学園生でございます。 このようなナリで学園生となりましたもので、色々と思うところもございます。 ぜひとも交流会に参加させていただきたいでございますよ。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 【1】学園生での参加です! 江流さんに料理を教わって皆に振舞いたいと思いますっ。
入学希望ということで【2】のユークリアです! もう明日提出なんですね(汗)
>ナキルさん あっナキルさんも(手を振る 明日出発ですね!白紙には注意しないと… せっかくなので同卓されてきた方にご挨拶に伺いたいのですが、プレの字数的にもリプレイ描写字数的にも難しいと思うので… 私は参考書の他はレモンクリームチーズテリーヌ(材料費2200G)とはちみつレモネードを持っていきます。もしよかったら食べてみてくださいっ
「>ユークリア お、貴重な【2】新入生枠! そこのミア…あー。エフィルミアの作るモノには気をつけてな…ミア=リゼルが作るのは美味かったぜ。 >ミア (いや……海神に教わったら…流石に普通のモノを作れる…か?) …ちゃんと教えられたコトをやれよな…?」
>ナキルさん 江流さんの作るシャルガネ料理も食べに伺う予定なので、もしかしたらそんな機会もあるかもしれません! 参考書とかも必要かもしれませんね、なるほどなるほど……。ミアさん違い(
ん、出発直前になってしまいましたけれど。 【2】入学希望者で参加のアウレーリアです。どうぞ宜しく。
さて、よろしくお願いします。 【3】その他 ですね