この想いは誰の為に
真柄 葉
コメント 4
シナリオID:1692
オープニング
秋の収穫祭が終わりを迎える頃、人々は冬の足音を感じながら、次なる特別な時期を待ち望む。
そう、ロスガリアに聖霊節の時期が訪れるのだ。
元々、聖霊節は名を失った神々に祈りを捧げることが始まりとされているが、時は流れ、それは独自の進化をしていった。
聖霊節の時期、人々は亡き祖先や、近しい人々への想いや祈りを捧げると共に、神殿や家庭でモミの木や柊を飾りつけ、街をあげて催しを行い、冬の厳しい中でもとっておきの『ごちそう』を食すのが、現在の聖霊節であった。
そんな聖霊節を前にした11月某日。一人の冒険者がリブラネスタ冒険者ギルドを訪れていた。
「ホリーさん、お久しぶりですっ!」
「あら、セシリーさん。ご無沙汰しています。リブラネスタにお戻りになったんですね」
カウンターに身を乗り出して、受付係のホリーに笑顔を見せるのは、冒険者であり配達業もこなすセシリー・アイスボトムだった。
セシリーは久しぶりに会ったホリーと雑談を交わしつつ、リブラネスタのギルド向けに各地から預かってきた手紙や小包をカウンターへ並べていく。
「……これがグランスパーダ冒険者ギルドからのお届け物で、こっちがゴールディからの手紙です。あとは……あ、これはホリーさんにシャルガネのギルド長さんから個人的なお手紙だそうです」
「シャルガネの? なんでしょう」
和紙で出来た封筒を手渡されたホリー。確かに差出人の所にシャルガネのギルド長の名前が記されていた。
「ありがとうございます。後で拝見しますね」
ホリーは受け取った手紙をカウンター下にしまい込む。
「そうそう、セシリーさん、今年もそろそろあの時期がやってきますね」
「あ、聖霊節ですね。街で収穫祭の片付けを見ましたから、私もそろそろかなって思ってたんですよ。今年はどうするんです?」
「ふふ、もちろんやりますよ。また、お願い出来ますか?」
「もちろんですよっ! 今年も踊る小熊亭ですか?」
ホリーに確認しつつ、セシリーは『踊る小熊亭』へと続く扉を見やった。
収穫祭の飾りつけもすっかり片付けられ、いつもの装いを取り戻しているが、12月に入ればすぐにでも聖霊節の飾り付けが始まるだろう。
「はい、今年も『踊る小熊亭』の一角を借りましたので、そこでやろうと思います」
「わかりましたっ! それじゃ、紙とかペンとか用意しないといけませんね。今年もギルドで用意してもらえるんですか?」
「ええ、そちらもぬかりなく。ただ、プレゼントの方はどうしようかと思っていまして」
「ああ、去年好評でしたもんね。今年はやらないんですか?」
「いえ、今年もやろうとは思うんですけど……セシリーさんのご負担が増えません? 去年はかなり大変だったでしょう」
きょとんと首をかしげるセシリーにホリーが問いかけた。
「え、大丈夫ですよ? まぁ確かにあんまり重いものとか大きなものは困りますけど、マジカルポケットもありますし何とかします! だって、せっかくの聖霊節ですから!」
「そうですか? 運び手のセシリーさんがそう言ってくれるのでしたら」
「はいっ、がんばりますっ!」
心配そうにするホリーに問題ないと示す様に、セシリーはグッと拳を握って見せたのだった。
そう、ロスガリアに聖霊節の時期が訪れるのだ。
元々、聖霊節は名を失った神々に祈りを捧げることが始まりとされているが、時は流れ、それは独自の進化をしていった。
聖霊節の時期、人々は亡き祖先や、近しい人々への想いや祈りを捧げると共に、神殿や家庭でモミの木や柊を飾りつけ、街をあげて催しを行い、冬の厳しい中でもとっておきの『ごちそう』を食すのが、現在の聖霊節であった。
そんな聖霊節を前にした11月某日。一人の冒険者がリブラネスタ冒険者ギルドを訪れていた。
「ホリーさん、お久しぶりですっ!」
「あら、セシリーさん。ご無沙汰しています。リブラネスタにお戻りになったんですね」
カウンターに身を乗り出して、受付係のホリーに笑顔を見せるのは、冒険者であり配達業もこなすセシリー・アイスボトムだった。
セシリーは久しぶりに会ったホリーと雑談を交わしつつ、リブラネスタのギルド向けに各地から預かってきた手紙や小包をカウンターへ並べていく。
「……これがグランスパーダ冒険者ギルドからのお届け物で、こっちがゴールディからの手紙です。あとは……あ、これはホリーさんにシャルガネのギルド長さんから個人的なお手紙だそうです」
「シャルガネの? なんでしょう」
和紙で出来た封筒を手渡されたホリー。確かに差出人の所にシャルガネのギルド長の名前が記されていた。
「ありがとうございます。後で拝見しますね」
ホリーは受け取った手紙をカウンター下にしまい込む。
「そうそう、セシリーさん、今年もそろそろあの時期がやってきますね」
「あ、聖霊節ですね。街で収穫祭の片付けを見ましたから、私もそろそろかなって思ってたんですよ。今年はどうするんです?」
「ふふ、もちろんやりますよ。また、お願い出来ますか?」
「もちろんですよっ! 今年も踊る小熊亭ですか?」
ホリーに確認しつつ、セシリーは『踊る小熊亭』へと続く扉を見やった。
収穫祭の飾りつけもすっかり片付けられ、いつもの装いを取り戻しているが、12月に入ればすぐにでも聖霊節の飾り付けが始まるだろう。
「はい、今年も『踊る小熊亭』の一角を借りましたので、そこでやろうと思います」
「わかりましたっ! それじゃ、紙とかペンとか用意しないといけませんね。今年もギルドで用意してもらえるんですか?」
「ええ、そちらもぬかりなく。ただ、プレゼントの方はどうしようかと思っていまして」
「ああ、去年好評でしたもんね。今年はやらないんですか?」
「いえ、今年もやろうとは思うんですけど……セシリーさんのご負担が増えません? 去年はかなり大変だったでしょう」
きょとんと首をかしげるセシリーにホリーが問いかけた。
「え、大丈夫ですよ? まぁ確かにあんまり重いものとか大きなものは困りますけど、マジカルポケットもありますし何とかします! だって、せっかくの聖霊節ですから!」
「そうですか? 運び手のセシリーさんがそう言ってくれるのでしたら」
「はいっ、がんばりますっ!」
心配そうにするホリーに問題ないと示す様に、セシリーはグッと拳を握って見せたのだった。
解説
●目的
聖霊節に贈るプレゼントに添えるグリーティングカードの作成。
●場所
リブラネスタ冒険者ギルド併設の酒場『踊る小熊亭』の一角に設けられた特設エリアです。
●人物
セシリー・アイスボトム
冒険者であり、家業の配達業を手伝っている元気な19歳。
冒険者としての腕は中の下だが脚力には自信があり、冒険者稼業の合間に街と街を結ぶ広域配達を請け負っている。
●補足
プレイングに
・送り先
・プレゼント(大きすぎず重すぎない物)
・グリーティングカードの内容(~200字程度)
・封筒やカードのチョイス(色やデザインなど)
等をお書きいただければ、聖霊節の時期にセシリーが大切な方の元にお届けします。
色とりどりのカードや封筒、飾りやペンが用意されています。お好みの色や柄があればプレイングで指定してください。
送り先がご家族や友人などのNPCであれば、リプレイ中にお名前を出せます。(ただしMS所有のNPCに出す場合は、真柄所有のものに限ります)
PC様宛である場合は、今回のシナリオ参加者様に限ってお名前をお出しできます。
残念ながら参加者様以外のPC様のお名前は出せませんのでお気を付けください。
プレイングでお書きいただいたカードの内容は、基本的にリプレイで発表させていただきます。
リプレイ中に内容を発表したくないようであれば、『内容:内緒』とお書きください。
字が書けない方はセシリーかホリーが代筆します。また、代筆していただけるPC様も大募集しています!
ジュースやお菓子など、カードを作成しながらつまめるものも用意していますので、お友達とワイワイ賑やかに聖霊節の準備を楽しんでください。
マスターより
師走も差し迫った今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか!
あ、いつもお世話になっております。真柄 葉と申します。
今回はちょっとフライング気味な聖霊節関連シナリオになります。
12月の聖霊節に大切な方の元へ祈りと想いを届けるために、今の内から準備しましょう!
という訳で、うちの配達員が皆様の大切な想いをお届けします。
ご家族、恋人、恩師にご先祖様。生者であれ故人であれ、皆様には大切な方がいらっしゃると思います。その方へPC様の想いを贈りましょう!
それでは皆様のご参加お待ちしております。
リプレイ
「セシリー、ちょっと多いんだけど、一つずつは小さいし届け先は全部一緒なんだけど、ダメかな……?」
代筆に忙しく走り回るセシリーを捕まえて、ララベル・サン・ディーベルが問いかけた。
「あ、いいですよ! でも出来るだけ小さくお願いしますね!」
「よかった、ありがとう!」
それだけ言って走っていったセシリーに小さく頭を下げると、早速と作業に取り掛かる。
用意してきたプレゼントは、贈り人の事をイメージした色とりどりの手袋。そして――。
「こ、これは、えっと、渡さないとバチが当たるっていうから……」
自分に言い聞かせるように手袋の間に挟んだ『お守り』だった。
青空色の封筒に、海と白波を模したカードを入れる。封には錨マークの紙を張り付けて。
「この想いが届きますように――」
祈るララベルのカードにはこう記されていた――。
『いつも温かく僕を支えてくれて、傍にいてくれてありがとう。これからもよろしくね、そしてずっとずっと一緒にいろんな場所を見に行こうね――愛してる』
●
「詰みましたわ」
バンビは最速で詰んでいた。
「贈る先がありませんの。どういたしましょう」
最早、なんで来たの!? というレベルで困り果てていたバンビ。
「どなたでも結構だと思いますよ。贈られた方はきっと喜ばれます」
そんな彼女に代筆手伝いのホリーが声をかけた。
「知り合いと言われましても、いつもちょろ撒く借金取りか、くそ親父殿くらいしか思い当たりませんわ」
「ま、まぁ、とりあえず書いてみるのはどうです? もしかしたら素敵な贈り物を思いつくかもしれませんし」
「なるほど……そう言われるのであれば」
と、ホリーの勧めでバンビはペンをとる。
そして、書いてみたのが――。
『借金取りの皆様。いつもお世話になっております。来年もぶっちぎって差し上げますわ。覚悟してくださいまし』
喧嘩を売っているようであるが、バンビはいたって真面目である。
「プレゼント、なんて何も用意……ああ、そうですわ」
と、バンビは何を思ったのか靴を脱ぎだした。
「そろそろ買い替えようかと思ってましたし、これがいいですわね」
そう言うと、カードと一緒に脱ぎたてホカホカの靴を麻袋へ突っ込んだ。
●
「皆元気でやってるかな」
エルゼリオ・レイノーラは、家族を思いカードを並べる。
贈り先はもう決まっているし、プレゼントもちゃんと用意してきた。
「気に入ってくれるといいけど」
初春を思わせる明るい封筒とドライフラワーを押したカードに、エルゼリオがカードに書いたメッセージは――。
『皆忙しくて家族四人――ううん、五人が揃う事は中々無いけど、いつどこに居ても父上、シグルド兄、オリエ姉の事を想っています。次に皆で会えるのはいつになるかな。出来るだけ早くその日が来る事を願っています。
エルゼリオより。
PS:父上はお酒飲み過ぎないように!』
「――って書いてるのに贈るのはお酒なんだけどね」
自分で苦笑しつつ、父へのプレゼントであるお酒を丁寧に包む。
続いて、リブラネスタで見つけた機能的な文具を兄シグルドへ。姉オリエには、最近出たばかりのコスメをそれぞれ包んだ。
「聖霊節には会えないかもしれないけど、来年早々には一度集まりたいな。集まれるといいな……」
そう呟きながら、エルゼリオは封筒を封蝋で封印した。
●
「あら、なんだか素敵な物を作ってるんですね」
机の上で何やら作業していたAlexandra・Hexe・Claudiaに、ホリーが声をかけた。
「これはシャルガネの『折り紙』という創作物です」
振り向くことなく答えたAlexandraは、出来たばかりのそれを差し出す。
「いただいてもいいんですか?」
「お好きにどうぞ。沢山ありますから」
そう言ってまた作業に戻るAlexandra。彼女が作っているのはベルを模した折り紙だった。
そして、彼女の横には既にメッセージが書かれたカードが――。
『メリー・ユールフェス。今年も肌に地面にと冷たさの染みる季節が来るよ。今年は何を贈ろうかと色々悩んだのだけど……今回はこれにしてみたの。気に入るといいけど。
知ってる? この季節の夜はね、とても明るくなるの。空気が澄み渡って、星付きがいつも以上に輝いて。大地に敷き詰められた白い絨毯が、それに合わせて煌く。……見に来てくれたら嬉しいな』
Alexandraは折り紙を折る終えると、プレゼントの琥珀飾りの長靴と靴下をカードと共に包みに入れ、リボンで封をした。そして、先ほどの折り紙を飾る。
「今年こそ届くかな……」
Alexandraの小さな呟きは、遥か彼方の空へと向けられていた――。
●
『愛する妹ミレイユへ。
しばらく会えてはいないけど、元気にしているかい? こちらは随分と寒くなってきて、冒険者にとってもつらい季節だ。それでも冒険者稼業は楽しい。領地にいた時には感じ得なかった感覚に、兄は毎日ドキドキしているよ。
そちらはワインの仕込みが終わった頃かな? ミレイユもちゃんと手伝ったのだろうね。ミレイユの踏んだ葡萄だ、きっと今年も美味しくなる。
もうすぐ聖霊節の休暇をとる予定だ。纏まった休みが取れたら実家に顔を出すと、父上達に伝えてくれるかい? 会える時を楽しみにしているよ。君の兄、ジュストより』
「――こんな所か」
書き上げたカードにジュスト・ヴェルジーは目を細める。
そして、机に置かれたもう一枚に視線を落とした。それは――。
『秘すれば華なり、秘せずば華なるべからず』
と、短いメッセージが記された真紅のカードだった。
ジュストは二枚のカードを封筒に入れ緑の封蝋を溶かすと、花を咥えた鳥の意匠が美しい印を押した。
「さて、二人はどんな顔をするやら」
そう呟いたジュストは、妹へ送る髪飾り。そして、もう一人へ送る耳飾りを添え、包みの封を閉じる。
●
「あの……すみません」
そもすれば喧騒に掻き消されてしまいそうな小さな呟きに、ホリーが気付く。
「どうしましたか?」
「あ……あの、文字を、書くのが苦手、なの……」
近寄ってきたホリーに、おずおずと答えたのはサラだった。
一生懸命言葉にして訴えかけてくるサラに、ホリーは微笑み隣へ腰かける。
「代筆させていただきますね、ゆっくりメッセージを話してください」
ホリーに言われてこくんと頷いたサラは、胸に息を吸い込み話し出す。
『おにいちゃんへ
メリー・ユースフェル。
えっと、ね。寒い日が続いている、から……マフラーで、首元を、あったかくして、ね。
それから……また一緒に、お出かけ、しよう、ね。やくそく』
「――思いの籠った素敵なメッセージですね」
メッセージを書き終えたホリーが、星の飾りが目を引くツリー型のカードをサラに手渡す。
「ありがとう、ございます……」
カードを受け取ったサラは嬉しそうに頭を下げると、真っ赤な封筒にカードをしまった。
「おにいちゃん、喜んでくれる、かな……」
「ええ、きっと喜んでくれますよ」
カードに添えるプレゼントは黒のマフラー。
サラはホリーの言葉に微笑みながら、マフラーとカードを赤い包みに入れた。
●
『――――――小さな天竺葵より』
冬の空の様に澄んだ蒼のインクで書かれた文字。
一文字一文字丁寧に、沢山の想いを込めて書かれた言葉。
心に抱く気持ちと、少しの我儘と、永遠の願いをこれでもかと詰め込んで。
書かれたメッセージは、たったの一文。
それでいい。それだけあれば伝わると信じて、コルネリウス・アーラはカードを裏返した。
「どうか、届きますように」
この寒空の下でくしゃみでもしているかもしれない想い人に向け、小さく呟く。
そして、裏返してあったカードに押し花を添え香水を一滴。ゼラニウムの香り逃げないように急いで封筒へとしまった。
封蝋には押し花と同じ赤い蝋。鳥を模した印を刻み、封をする。
「可愛い印ですね!」
そんなコルネリアスの手元を見てルアンナ・ミュラーが声をかけた。
「ありがとうございます。鳥の様にどこへでも羽ばたいていく人宛てなので」
そう答えたコルネリウスは、少し照れたように笑う。
「なんだか素敵な人ですね。そんな素敵な人に贈るプレゼントは?」
「えっと……これです」
ルアンナに問われコルネリウスが取り出したのは、小さな編み物だった。
「これは……紐?」
「はい、結い紐です」
そう言ってコルネリウスが封筒に添えたのは、緑と青の紐を編み込んだ手作りの結い紐だった。
「あー! コルネ見っけたー!! もぉ、突然何処か行くんだから探したでしょ!」
そんな二人の元へ声を上げながらサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが駆けてくる。
「ごめんなさい、ちょっとこれだけは一人で書きたかったから」
「ほほーぅ、それは内容が気になりますなぁ。ってそうじゃなくて、プレゼント一緒に選んでくれるんでしょ!」
ぐいぐい来るサフィラに、コルネリウスは苦笑した。
「あれ、サフィラさんプレゼント持ってきてないんですか?」
「うっ……そうなの。選んでたらどれがいいかわからなくなっちゃって。で、皆に聞こうかなって」
首をかしげるルアンナに、サフィラはしゅんと肩を落とす。
「あ、ルアルアはどんなの贈るの?」
「えっと、これです!」
参考までに、とサフィラに問われ、ルアンナが取り出したのは、赤い手編みのマフラーだった。
「この日の為に頑張って編んだんですよ。ちょっと曲がってますけど……」
「やや、すごいよ。これ誰に贈るの? 彼氏?」
「ち、違いますよ! 叔母です!」
「ちっ」
「ちっ、って言った!?」
「賑やかですね。混ぜてもらってもいいですか?」
一際賑やかなそこへ、リサ・ベイカーがリディリディ・トゥラ・イェレミースを連れてやって来た。
「あ、二人共いい所に! ねね、プレゼント何にした?」
現れた二人に、サフィラが早速問いかける。
「プレゼントですか。わたしはこれですね」
と、リサが取り出したのは3本のガラスペンだった。
「私はこれです……」
そして、リディリディが小包を机に置く。
「これは……?」
「……砂糖菓子とチョコです」
リサに問われリディリディは包みの封を少し解いて見せた。
「素敵な贈り物ですね。ご家族宛てですか?」
「はい……妹に」
答えたリディリディの顔には、なぜか複雑な表情が浮かんでいる。
「そうなんですね。わたしも家族に贈る予定なんです。両親と亡くなった母にはお揃いのペンを。あと、弟には本を一冊」
そんな彼女の表情に、事情アリと悟ったリサは、自分の話へ切り替えた。
「本ですか……けっこうしますよね」
「そうですね。おかげでお小遣いがなくなりました。でも、とても勤勉な子なので喜んでくれると思ってます」
「それは……きっと喜ぶと思います」
苦笑するリサに、リディリディは何度も頷いた。
「うわー、皆お洒落だなぁ……うむむむむ」
皆の話を聞き、ペンを上唇と鼻の間に挟み首をかしげるサフィラ。
そんな彼女に苦笑しつつ皆はプレゼントにカードを添えていく。
リサはカードに――。
『お父様、お義母様、そしてフィリップへ
お久しぶりです、お元気ですか? わたしは何とか元気でやっています。そうそう、実は学園で生徒会に所属する事になりました。びっくりですよね。就いた本人もびっくりしています。
あと、大切なお友達ができました。実はその子も商人なんですよ。初めは貴族のご令嬢なのかと思っていたんですけど、話していくうちにたくさん共通点が見つかって……今は仲良くやっています。
年明けには一度帰ろうかと思っています。それでは、また。リサより』
リディリディのカードには――。
『ツィーラへ
突然こんなカードが届いてびっくりしている事でしょう。何でも森の外には聖霊節と言う催しがあってプレゼントを贈るそうです。なので、貴女にプレゼントを贈ります。私から贈られても嬉しくないかもしれませんが、美味しいのでよかったら食べてください。こちらは程々にやっています。そちらの生活は――――』
そして、プレゼントの決まらないサフィラのカードには――。
『シャフィーカママへ
久しぶり、元気にしてる? 家を出てから一度も手紙を出さずにごめんね。折角の聖霊節だったから、思い切って送ってみるよ! あの時は言えなかったけど、家を出る時応援してくれてありがとう! おかげで外の世界で、色んなものを見て学んで体験して、毎日がとても充実してる。今度、友達を連れて遊びに行くね!
追伸:彼氏ができたよ!』
大切な想いの詰まったカードと贈り物が包みに収まっていく――。
●
「ギャメルは誰に出すの?」
「おわっ! ななな、なんだハティ、見るんじゃねぇよ!」
机を覗き込んでくるハティに、ギャメルは慌てて突っ伏してカードを隠す。
「なによ、別に見せてくれてもいいじゃない」
「よ、よくねぇんだよ!」
「なんでよ。別に怪しい場所に送るわけじゃないんでしょ?」
「そうだけどよ……。あ! あれだ、まだ字がうまくねぇから見せたくねぇんだよ!」
「……あっやしいわね」
ひゅーひゅーと鳴りもしない口笛を吹くギャメルに、ハティはジト目を向けた。
「そ、そういうハティは誰に贈るんだよ」
「私? 私は……えっと、お、お義父さんよ」
「え……でも、ハティのとーちゃんって」
「別に誰に贈ってもいいでしょ」
「あ……うん、そうだな。ごめん」
「ちょ、ちょっと、謝らないでよ」
なんとなく気まずくなり二人して黙り込んでしまう。
「……あ、ギャメルはプレゼント決めた?」
「え? ああ、もちろん決めたぞ。これだ」
と、ギャメルは机の下から小さな木箱を取り出した。
「木箱、ね。小物入れか何か?」
「小物入れじゃねぇよ。この中身はク――」
「ク?」
「ク……ロスボウ! そう、クロスボウだぞ!」
「いや、入らないでしょどう考えても……」
また鳴らない口笛を吹くギャメルに、二度目のジト目を向けるハティ。
(本当の中身は普通のクッキーだけど、贈る人に言っちまったら開ける楽しみがねぇだろ)
ギャメルはチラリとハティを見上げた。
「そう言うハティは何を贈るんだ?」
「えっ?」
「死んだとーちゃんになら花か何かか?」
「あー、えっと……そんなんとこよ」
と、今度はハティがギャメルから目を逸らす。
(本当はギャメルのカラーに合わせた緑の羽ペンだけど……流石に言えないわよね)
「そっか、お互い喜んでもらえるといいな」
「……そうね。本当にそう思うわ」
そう言って笑みを交わした二人は、また後でと別れ、プレゼントとカードの仕上げをする。
ギャメルは不器用な文字でカードにこう記した――。
『ハティへ
ゴールディのながやぐらしは きにいった?
わかんないこと あったら なんでも きいてくれよな
これから よろしく!
ギャXルより』
そして、ハティのカードには――。
『ギャメルへ
いつも気にかけてくれてありがとうね。こういうの初めてだから何を書いたらいいのかわからないけど、とりあえず、いつも感謝してるわ。最近、頑張って字を練習してるって聞いたから、ペンを贈るわ。
貴方にジド=ルウの祝福がありますように――。
ハティより』
●
「ナハティガル様……? ここで、何をしているのですか……?」
壁際で冒険者達の様子を見ていたナハティガル=ラーに、ゲルダ・クラインが駆け寄ってきた。
「別に何も。皆が用意を終えるのを待っているだけだ」
「用意……? もしかして、カードの事ですか?」
「カード? ああ、そうだった気がする」
「えっと……差し支えなければ教えていただきたいのですが……待って、どうされるのですか?」
「む? 配達の依頼を受けたからな。配達物を待っているのだが……」
何故そんな事をと、ナハティガルは訝しむ。
「依頼って……もしかして、この依頼ですか……?」
と、そんな彼にゲルダが依頼書を差し出した。
「ああ、それ……だ。なに、配達ではない?」
「えっと……はい、この依頼は――」
驚愕するナハティガルにゲルダは苦笑しつつ、依頼の趣旨を説明した。
「ふむ……困ったな。いきなり誰かに贈れと言われてもどうしたものか」
「よければ、お手伝いしますよ」
ゲルダの提案に二つ返事で答えたナハティガル。
二人はカードを選び椅子へと座った。
ゲルダは深緑に金飾がついた封筒に淡いクリーム色のカード。ナハティガルはシンプルな白のもの。
「あの……どなたに、お出しになるのですか?」
「いや、出す相手がいないからな。白紙で出そうと思う」
「えっ!?」
ナハティガルの答えに、ゲルダは驚く。そして――。
「あ、あの……よかったら、贈り合いっこしませんか?」
そう提案した。
「俺とか? いや、構わんが……年頃の娘に贈る物など皆目見当がつかんぞ?」
「な、なんでもいいと思います。決まらないなら、カードだけでも」
「ふむ……わかった、ゲルダに贈ろう」
「ありがとう、ございます!」
嬉しそうに微笑むゲルダに、ナハティガルは早速ペンをとる。
カードに達筆な文字で刻まれていく――。
『いつも依頼では世話になっている。俺の事などを気に掛けてくれることにも心から感謝を。これからもよろしく頼む』
そして、それを見たゲルダのカードには――。
『ナハティガル様
依頼ではいつもお世話になっています。突然の申し出を快く受けてくださって、ありがとうございます。
どうしても、あの時の感謝の気持ちを形にしておきたくて。
改めてあの時はありがとうございました。
あなたの聖霊節が、素敵なものになりますように――。ゲルダより』
ゲルダはカードを封筒にしまうと、用意していたかすみ草の透かしが入った純金製の栞を添えた。そしてナハティガルは――。
「プレゼントか……」
もちろん用意している訳もなく、困ったように腕を組む。
「ゲルダ、贈り物は後日でいいか?」
「え? はい、大丈夫、ですけど……」
「そうか、ではまた後日に贈らせてもらおう」
そう言うとナハティガルは、ホリーへ相談する為にその場を後にした。
●
「皆、贈り先は決まったのかしら?」
アンネエルカが友人たちに問いかける。
「もちろんだ。俺はお前達に贈るって決めてたからな」
「お前達って……一体何通送るつもりだよ。そんなにいっぱい送ってもらえるのか?」
「なに、ダメなのか? ちょっとセシリーに聞いてくる。アル、お前も付き合え」
「ちょっ、なんで俺がつき合わされんだよ! って、おい待てよ! 置いてくな!!」
確認の為にセシリーの元へ向かったアーシェル・G・クラインに、アルフィー・リッパーが慌てて立ち上がる。
「結局ついて行くんだね」
「なんだかんだ言っても二人は仲良しさんだもの」
苦笑しながら二人の背中を見送るセヴラン・クアルトとアンネエルカ。
「それじゃ、私達は先に作ってしまいましょ。セヴランさんは誰に贈るの?」
「僕かい? 僕は祖母に贈るよ」
そう言って、セヴランは白地に金銀箔が散りばめられたカードを用意した。
「アンネさんは誰に?」
「私はもちろん、パパとママに!」
にこりと笑うアンネエルカの手元には、夜空色の封筒と薄紫と桃色が溶けあった夢見心地なカードが添えられている。
「おや、インクにも凝っているんだね」
「流石セヴランさん、目の付け所が違うわ! そうなの、私の角と同じ色のインクを見つけたからつい買っちゃったの」
「うん、素敵だと思うよ」
小さく舌を出すアンネエルカに、セヴランは目を細めた。
二人はアーシェルとアルフィーの帰りを待つ間にカードを書き進める。
アンネエルカのカードには――。
『大好きなパパとママへ
聖霊節の贈り物、今度は私から二人へ! どうかしらビックリしてくれた?
サプライズの為にカードにしたけれど、今度はお友達も一緒に顔を出すわね。
実はね、今も大好きなお友達と一緒にこのメッセージを書いているのよ。
一生懸命選んだプレゼント、気に入ってくれますように! ――アンネエルカより』
添えるのは「お揃いのアロマキャンドル」。
セヴランのカードには――。
『シェアトへ
冒険者稼業は最近控えめだけど、楽師業は充実しているよ。一応ね。
いつでも帰れるし会えるけど、やっぱりこういうものはちゃんと贈らないとね。
という訳で、受け取ってくれると嬉しい。きっと気に入ると思うよ。
では、いつまでも美しく、そして健やかに――。セヴランより』
添えるのは「繊細なガラス細工の耳飾り」。
二人がカードを書き終えた頃、アーシェルとアルフィーが帰ってきた。
「OK貰って来たぜ」
「強引に押してたくせ――わぷっ!?」
ぐっと親指を立てる右手とアルフィーの頭をわしゃわしゃする左手。
忙しい両手に、アンネエルカとセヴランは苦笑しつつ、おかえりと二人を迎えた。
「さて書くか」
アーシェルは早速机に向かい4枚ものカードを並べると、机を囲む仲間達の顔を眺める。
そして、一人一人に前にカードを置くと流麗な筆致でカードにメッセージを書いていった。
アルフィーへ、紫のカードに黒猫の切り絵を添えて――。
『アルは俺にとって大切な弟だ。もっとたくさん甘えてこいよ』
アンネエルカへ、城のカードに羊の切り絵を添えて――。
『アンネが笑うと幸せな気持ちになる。これからも守らせてくれな』
セヴランへ、青いカードに栗鼠の切り絵を添えて――。
『また二人で旅をしようぜ、相棒。だから、ふらっといなくなるなよ?』
ここにいないもう一人の仲間へ、赤いカードに狐の切り絵を添えて――。
『いつも支えてくれてありがとうな。俺も同じくらいお前を支えたい。だからもっと頼ってくれ』
アーシェルは書き終わったそれぞれに「黒猫の人形」「白薔薇のブローチ」「ララとロロの人形」「銀薔薇のブローチ」を添えて封をした。
一方、アルフィーは慣れないペンを手に懸命にカードに向かう。
『アーシェルへ お前が怪我したら皆が心配する。だから無理するな』
ぶっきらぼうに書かれたカードを急いで封筒にしまったアルフィーは、見られないように黄石のブローチと共に包みに突っ込むと――。
「これが届く頃に、もう一度集まって、皆でうまい物でも食いたいな」
手の中にある小さな包みを見つめながら、ぽつりと呟く。
「そうだね。是非ご相伴にあずかりたいね」
セヴランはソワソワと揺れる尻尾を微笑ましく見つめながら頷いた。
「私も賛成! 皆で集まってパーティーをしましょう!」
「そうだな、あいつも呼んで皆でパーッとやろうぜ。アル、料理は任せたぞ」
「なっ! なんで俺が……べ、別にいいけどよ……」
ふんとそっぽを向きつつも、パタパタと揺れる尻尾に三人は笑顔で「ありがとう」を伝えた。
●
「まさか、こんな催しに参加する事になるとは……俺には縁遠い世界だと思っていたんだが」
エル=バ=ノイアンの前には白いカードが置かれている。
レースのアートカットが施されたカードには、まだ何も記されていない。
じっとカードを見つめるノイアンの脳裏には、先日の失態が浮かぶ。
「誤解だと……いうべきか」
隣の机で筆の覚束ない者に丁寧な講座を開いている彼女をちらりと見た。
「ああ、そうだナキル。うまいよ」
カードとインクを前に四苦八苦するナキルのペンに手を添え、シルヴィア・A・カペルがゆっくりと手を動かした。
「こ、こうか?」
「そうそう、それで『感謝』と読むんだよ」
「おぉ……これが『感謝』か」
シルヴィア『先生』指導の元、書き上げた文字にナキルが感動している。
「『先生』こっちも見てもらえる?」
と、もう一人の生徒ルベア・ベルニが書き終えたカードを指さした。
「……うん、とても上達したね。ルベアらしい綺麗な字だよ」
「そ、そう? ありがとう」
シルヴィアの賛辞と笑顔にルベアは思わず照れて俯く。字は正直まだ慣れない。教養もあまりないので文法も滅茶苦茶だろう。それでも綺麗と言ってくれる『先生』に感謝しつつ、ルベアは贈り先を想う。
ルベアのカードにはこう記されていた――。
『大切なアナタへ
いつも私を支えてくれるアナタへ、感謝を込めて。
私もアナタの支えになると嬉しい』
短いながらも心の籠ったメッセージを、淡橙色の封筒にしまったルベアは、プレゼントの子猫のぬいぐるみを添えた。
「俺だって……」
「なんだか楽しそうですね?」
ルベアに負けじとカードを向き合うナキルに、エフィルミアがとてもいい笑顔で声をかけた。
「なっ! なんだよミア、見るなよ!」
「そんなに真剣に練習して、誰に贈るんですか?」
「はぁ?! 別にミアに書いてるわけじゃねぇし、関係ないだろ!」
「む……そうですか。ふーん」
と、エフィルミアは覗き込んでいたナキルのカードから顔を離す。
「なんだよ、何怒ってるんだよ……」
「怒ってませんけどー。ナキルくんに字を教えたのは私なのに、シルヴィアさんに手を取り教えてもらって鼻の下を伸ばしてるナキルくんには、全然怒ってませんー」
「は、鼻の下なんか伸ばしてないし! つか、絶対怒ってるだろ!」
「ったく、こんな所で喧嘩するなよ。シルヴィアも見てないで止めろ」
口論に発展しそうな二人の間に海神・江流が割って入る。江流は、隣で微笑ましく見つめていたシルヴィアに呆れ顔を向けつつ、二人のカードを指さした。
「ほら、早く書かないと置いていかれるぞ。他の奴等はもう終わったみたいだ」
「え? うわやばっ! ほらミアも早く書けよ! だ、誰に贈るかしらねぇけど……」
「心配しなくてもナキルくんにはあげませんー」
チラリとエフィルミアを見上げてくるナキルにそう答え、彼女はカードを持って別の机へと行ってしまった。
「あ……う……」
「ほら、ずっとそのまま呆けていたら、挽回のチャンスまでなくなってしまうよ」
ぷりぷりと肩を怒らせながら離れていくエフィルミアを見つめていたナキルに、シルヴィアがカードを寄せた。
「沢山の『ありがとう』を込めて贈ればいい。きっとわかってくれるよ。その為に選んだ花なんだろう?」
ナキルのカードには紫色のパンジーの押し花が添えられている。
「……そうだ、今のオレが居るのは全部、ミアのおかげだ」
「心からそう思うのなら、一文字一文字思いを込めて書くと言い」
「わかった。ありがとう『先生』」
シルヴィアの微笑みに力強く頷いたナキルがカードへ向かう。
「苦労するな」
完全お怒りモードのエフィルミアの陣取る机に江流が座った。
「もぉ、いいんです。ナキルくんなんて知りません」
「その割には気合の入ったカードだな」
エフィルミアの手元にあるピンクのビオラと雪の結晶が描かれた美しいカードには、想いの籠ったメッセージが書かれていた。
「み、見ないでください! もぉ……」
エフィルミアは江流からカードを遠ざけつつ丁寧に封筒にしまうと、プレゼントの淡緑色にインク壺と桜色の羽ペンを添えた。
「私の事よりエルさんはどうなんですか?」
大切な贈り物に用意が終わったエフィルミアが、江流に問いかける。
「俺は終わってる。見るか?」
と、江流は胸元からカードを5枚取り出した。
見事な毛筆で書かれたそれは――。
ノイアン、シルヴィア、ナキルへ贈る猩々木デザインのカードに『幸運を祈る』と一言。
ルベアには『また共闘よろしく』と草割草のカードで短く。
そして。
「『いつでも頼りに来い。でも負けるな』……」
「ここで渡そうか?」
「もぉ、エルさん、それじゃ聖霊節の意味がないですよ」
真面目にそう聞いてくる江流に、エフィルミアは怒っていた肩を脱力させた。
「そうか? うーん……あ、それじゃこれをやるよ」
と、江流はごそごそと鞄に手を突っ込むと一冊の本を取り出す。
「これは?」
「生徒会長が補習やら追試とか格好悪いだろ。俺が使ってた参考書だ」
「せ、聖霊節に参考書って! 聖霊節なのにロマンチックの欠片もないですね!?」
言ってる事は確かだし、色々ギリギリなのも確かだけど、こうストレートに言われれば流石のエフィルミアも怒らないわけにはいかない。だからこう返してやった――。
「エルさんはもう少し乙女心を学ぶといいと思います! そんなんじゃいつまでも”彼女”できませんよ!」
●
「シルヴィア」
「ノイアンか。どうしたんだ?」
講師を終え自分のカードに取り掛かっていたシルヴィアの元へ、ノイアンがやってきた。
「あ……いや、なんだ」
「うん?」
言い淀むノイアンにシルヴィアが首をかしげる。
「何か……欲しい物とかあるのか」
「ほ、欲しいものか。もしかして私にくれるのかな」
ノイアンに問われ一瞬目を瞠ったシルヴィアだったが、すぐに相好を崩し。
「では、君の手料理を」
「そんなものでいいのか……?」
「そんなものも貰えないのかい?」
「いや……わかった、考えておく」
「ああ、楽しみにしているよ」
そう短く言葉をかわし、二人はまた別の机に着く。
(色々と聞きたい事はあるのだけど……今はこれでいい)
シルヴィアは雪に遊ぶ白と黒の猫の絵が入ったカードに――。
『貴方の日々が幸せに満ちたものでありますように』
と記し、シックなガラスの砂時計を添える。
(気付いて……いないのか? それなら……)
複雑な表情で机に戻ったノイアンがカードに向かう。
『清廉なるあなたへ、真心を込めて』
と書いたカードに、白詰草の四葉と花が刺繍されたハンカチを添えた。
そんな二人のやり取りとみていたルベアが、江流に耳打ちする。
「江流さん、あの二人って……」
「うん? ああ、あれを『不器用』っていうんだ。覚えとくといい」
「不器用……え? なに、どういう事よ」
頭の上に「?」を作るルベアに、江流は微笑みかける――。
●
こうして参加者全員のプレゼントが集まった。
「大切にお届けしますっ!」
預かった『大切な想い』を必ず、想い人の元へ。
セシリーは一つずつ大切に鞄へ入れると、最後に大きく頭を下げたのだった――。
代筆に忙しく走り回るセシリーを捕まえて、ララベル・サン・ディーベルが問いかけた。
「あ、いいですよ! でも出来るだけ小さくお願いしますね!」
「よかった、ありがとう!」
それだけ言って走っていったセシリーに小さく頭を下げると、早速と作業に取り掛かる。
用意してきたプレゼントは、贈り人の事をイメージした色とりどりの手袋。そして――。
「こ、これは、えっと、渡さないとバチが当たるっていうから……」
自分に言い聞かせるように手袋の間に挟んだ『お守り』だった。
青空色の封筒に、海と白波を模したカードを入れる。封には錨マークの紙を張り付けて。
「この想いが届きますように――」
祈るララベルのカードにはこう記されていた――。
『いつも温かく僕を支えてくれて、傍にいてくれてありがとう。これからもよろしくね、そしてずっとずっと一緒にいろんな場所を見に行こうね――愛してる』
●
「詰みましたわ」
バンビは最速で詰んでいた。
「贈る先がありませんの。どういたしましょう」
最早、なんで来たの!? というレベルで困り果てていたバンビ。
「どなたでも結構だと思いますよ。贈られた方はきっと喜ばれます」
そんな彼女に代筆手伝いのホリーが声をかけた。
「知り合いと言われましても、いつもちょろ撒く借金取りか、くそ親父殿くらいしか思い当たりませんわ」
「ま、まぁ、とりあえず書いてみるのはどうです? もしかしたら素敵な贈り物を思いつくかもしれませんし」
「なるほど……そう言われるのであれば」
と、ホリーの勧めでバンビはペンをとる。
そして、書いてみたのが――。
『借金取りの皆様。いつもお世話になっております。来年もぶっちぎって差し上げますわ。覚悟してくださいまし』
喧嘩を売っているようであるが、バンビはいたって真面目である。
「プレゼント、なんて何も用意……ああ、そうですわ」
と、バンビは何を思ったのか靴を脱ぎだした。
「そろそろ買い替えようかと思ってましたし、これがいいですわね」
そう言うと、カードと一緒に脱ぎたてホカホカの靴を麻袋へ突っ込んだ。
●
「皆元気でやってるかな」
エルゼリオ・レイノーラは、家族を思いカードを並べる。
贈り先はもう決まっているし、プレゼントもちゃんと用意してきた。
「気に入ってくれるといいけど」
初春を思わせる明るい封筒とドライフラワーを押したカードに、エルゼリオがカードに書いたメッセージは――。
『皆忙しくて家族四人――ううん、五人が揃う事は中々無いけど、いつどこに居ても父上、シグルド兄、オリエ姉の事を想っています。次に皆で会えるのはいつになるかな。出来るだけ早くその日が来る事を願っています。
エルゼリオより。
PS:父上はお酒飲み過ぎないように!』
「――って書いてるのに贈るのはお酒なんだけどね」
自分で苦笑しつつ、父へのプレゼントであるお酒を丁寧に包む。
続いて、リブラネスタで見つけた機能的な文具を兄シグルドへ。姉オリエには、最近出たばかりのコスメをそれぞれ包んだ。
「聖霊節には会えないかもしれないけど、来年早々には一度集まりたいな。集まれるといいな……」
そう呟きながら、エルゼリオは封筒を封蝋で封印した。
●
「あら、なんだか素敵な物を作ってるんですね」
机の上で何やら作業していたAlexandra・Hexe・Claudiaに、ホリーが声をかけた。
「これはシャルガネの『折り紙』という創作物です」
振り向くことなく答えたAlexandraは、出来たばかりのそれを差し出す。
「いただいてもいいんですか?」
「お好きにどうぞ。沢山ありますから」
そう言ってまた作業に戻るAlexandra。彼女が作っているのはベルを模した折り紙だった。
そして、彼女の横には既にメッセージが書かれたカードが――。
『メリー・ユールフェス。今年も肌に地面にと冷たさの染みる季節が来るよ。今年は何を贈ろうかと色々悩んだのだけど……今回はこれにしてみたの。気に入るといいけど。
知ってる? この季節の夜はね、とても明るくなるの。空気が澄み渡って、星付きがいつも以上に輝いて。大地に敷き詰められた白い絨毯が、それに合わせて煌く。……見に来てくれたら嬉しいな』
Alexandraは折り紙を折る終えると、プレゼントの琥珀飾りの長靴と靴下をカードと共に包みに入れ、リボンで封をした。そして、先ほどの折り紙を飾る。
「今年こそ届くかな……」
Alexandraの小さな呟きは、遥か彼方の空へと向けられていた――。
●
『愛する妹ミレイユへ。
しばらく会えてはいないけど、元気にしているかい? こちらは随分と寒くなってきて、冒険者にとってもつらい季節だ。それでも冒険者稼業は楽しい。領地にいた時には感じ得なかった感覚に、兄は毎日ドキドキしているよ。
そちらはワインの仕込みが終わった頃かな? ミレイユもちゃんと手伝ったのだろうね。ミレイユの踏んだ葡萄だ、きっと今年も美味しくなる。
もうすぐ聖霊節の休暇をとる予定だ。纏まった休みが取れたら実家に顔を出すと、父上達に伝えてくれるかい? 会える時を楽しみにしているよ。君の兄、ジュストより』
「――こんな所か」
書き上げたカードにジュスト・ヴェルジーは目を細める。
そして、机に置かれたもう一枚に視線を落とした。それは――。
『秘すれば華なり、秘せずば華なるべからず』
と、短いメッセージが記された真紅のカードだった。
ジュストは二枚のカードを封筒に入れ緑の封蝋を溶かすと、花を咥えた鳥の意匠が美しい印を押した。
「さて、二人はどんな顔をするやら」
そう呟いたジュストは、妹へ送る髪飾り。そして、もう一人へ送る耳飾りを添え、包みの封を閉じる。
●
「あの……すみません」
そもすれば喧騒に掻き消されてしまいそうな小さな呟きに、ホリーが気付く。
「どうしましたか?」
「あ……あの、文字を、書くのが苦手、なの……」
近寄ってきたホリーに、おずおずと答えたのはサラだった。
一生懸命言葉にして訴えかけてくるサラに、ホリーは微笑み隣へ腰かける。
「代筆させていただきますね、ゆっくりメッセージを話してください」
ホリーに言われてこくんと頷いたサラは、胸に息を吸い込み話し出す。
『おにいちゃんへ
メリー・ユースフェル。
えっと、ね。寒い日が続いている、から……マフラーで、首元を、あったかくして、ね。
それから……また一緒に、お出かけ、しよう、ね。やくそく』
「――思いの籠った素敵なメッセージですね」
メッセージを書き終えたホリーが、星の飾りが目を引くツリー型のカードをサラに手渡す。
「ありがとう、ございます……」
カードを受け取ったサラは嬉しそうに頭を下げると、真っ赤な封筒にカードをしまった。
「おにいちゃん、喜んでくれる、かな……」
「ええ、きっと喜んでくれますよ」
カードに添えるプレゼントは黒のマフラー。
サラはホリーの言葉に微笑みながら、マフラーとカードを赤い包みに入れた。
●
『――――――小さな天竺葵より』
冬の空の様に澄んだ蒼のインクで書かれた文字。
一文字一文字丁寧に、沢山の想いを込めて書かれた言葉。
心に抱く気持ちと、少しの我儘と、永遠の願いをこれでもかと詰め込んで。
書かれたメッセージは、たったの一文。
それでいい。それだけあれば伝わると信じて、コルネリウス・アーラはカードを裏返した。
「どうか、届きますように」
この寒空の下でくしゃみでもしているかもしれない想い人に向け、小さく呟く。
そして、裏返してあったカードに押し花を添え香水を一滴。ゼラニウムの香り逃げないように急いで封筒へとしまった。
封蝋には押し花と同じ赤い蝋。鳥を模した印を刻み、封をする。
「可愛い印ですね!」
そんなコルネリアスの手元を見てルアンナ・ミュラーが声をかけた。
「ありがとうございます。鳥の様にどこへでも羽ばたいていく人宛てなので」
そう答えたコルネリウスは、少し照れたように笑う。
「なんだか素敵な人ですね。そんな素敵な人に贈るプレゼントは?」
「えっと……これです」
ルアンナに問われコルネリウスが取り出したのは、小さな編み物だった。
「これは……紐?」
「はい、結い紐です」
そう言ってコルネリウスが封筒に添えたのは、緑と青の紐を編み込んだ手作りの結い紐だった。
「あー! コルネ見っけたー!! もぉ、突然何処か行くんだから探したでしょ!」
そんな二人の元へ声を上げながらサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが駆けてくる。
「ごめんなさい、ちょっとこれだけは一人で書きたかったから」
「ほほーぅ、それは内容が気になりますなぁ。ってそうじゃなくて、プレゼント一緒に選んでくれるんでしょ!」
ぐいぐい来るサフィラに、コルネリウスは苦笑した。
「あれ、サフィラさんプレゼント持ってきてないんですか?」
「うっ……そうなの。選んでたらどれがいいかわからなくなっちゃって。で、皆に聞こうかなって」
首をかしげるルアンナに、サフィラはしゅんと肩を落とす。
「あ、ルアルアはどんなの贈るの?」
「えっと、これです!」
参考までに、とサフィラに問われ、ルアンナが取り出したのは、赤い手編みのマフラーだった。
「この日の為に頑張って編んだんですよ。ちょっと曲がってますけど……」
「やや、すごいよ。これ誰に贈るの? 彼氏?」
「ち、違いますよ! 叔母です!」
「ちっ」
「ちっ、って言った!?」
「賑やかですね。混ぜてもらってもいいですか?」
一際賑やかなそこへ、リサ・ベイカーがリディリディ・トゥラ・イェレミースを連れてやって来た。
「あ、二人共いい所に! ねね、プレゼント何にした?」
現れた二人に、サフィラが早速問いかける。
「プレゼントですか。わたしはこれですね」
と、リサが取り出したのは3本のガラスペンだった。
「私はこれです……」
そして、リディリディが小包を机に置く。
「これは……?」
「……砂糖菓子とチョコです」
リサに問われリディリディは包みの封を少し解いて見せた。
「素敵な贈り物ですね。ご家族宛てですか?」
「はい……妹に」
答えたリディリディの顔には、なぜか複雑な表情が浮かんでいる。
「そうなんですね。わたしも家族に贈る予定なんです。両親と亡くなった母にはお揃いのペンを。あと、弟には本を一冊」
そんな彼女の表情に、事情アリと悟ったリサは、自分の話へ切り替えた。
「本ですか……けっこうしますよね」
「そうですね。おかげでお小遣いがなくなりました。でも、とても勤勉な子なので喜んでくれると思ってます」
「それは……きっと喜ぶと思います」
苦笑するリサに、リディリディは何度も頷いた。
「うわー、皆お洒落だなぁ……うむむむむ」
皆の話を聞き、ペンを上唇と鼻の間に挟み首をかしげるサフィラ。
そんな彼女に苦笑しつつ皆はプレゼントにカードを添えていく。
リサはカードに――。
『お父様、お義母様、そしてフィリップへ
お久しぶりです、お元気ですか? わたしは何とか元気でやっています。そうそう、実は学園で生徒会に所属する事になりました。びっくりですよね。就いた本人もびっくりしています。
あと、大切なお友達ができました。実はその子も商人なんですよ。初めは貴族のご令嬢なのかと思っていたんですけど、話していくうちにたくさん共通点が見つかって……今は仲良くやっています。
年明けには一度帰ろうかと思っています。それでは、また。リサより』
リディリディのカードには――。
『ツィーラへ
突然こんなカードが届いてびっくりしている事でしょう。何でも森の外には聖霊節と言う催しがあってプレゼントを贈るそうです。なので、貴女にプレゼントを贈ります。私から贈られても嬉しくないかもしれませんが、美味しいのでよかったら食べてください。こちらは程々にやっています。そちらの生活は――――』
そして、プレゼントの決まらないサフィラのカードには――。
『シャフィーカママへ
久しぶり、元気にしてる? 家を出てから一度も手紙を出さずにごめんね。折角の聖霊節だったから、思い切って送ってみるよ! あの時は言えなかったけど、家を出る時応援してくれてありがとう! おかげで外の世界で、色んなものを見て学んで体験して、毎日がとても充実してる。今度、友達を連れて遊びに行くね!
追伸:彼氏ができたよ!』
大切な想いの詰まったカードと贈り物が包みに収まっていく――。
●
「ギャメルは誰に出すの?」
「おわっ! ななな、なんだハティ、見るんじゃねぇよ!」
机を覗き込んでくるハティに、ギャメルは慌てて突っ伏してカードを隠す。
「なによ、別に見せてくれてもいいじゃない」
「よ、よくねぇんだよ!」
「なんでよ。別に怪しい場所に送るわけじゃないんでしょ?」
「そうだけどよ……。あ! あれだ、まだ字がうまくねぇから見せたくねぇんだよ!」
「……あっやしいわね」
ひゅーひゅーと鳴りもしない口笛を吹くギャメルに、ハティはジト目を向けた。
「そ、そういうハティは誰に贈るんだよ」
「私? 私は……えっと、お、お義父さんよ」
「え……でも、ハティのとーちゃんって」
「別に誰に贈ってもいいでしょ」
「あ……うん、そうだな。ごめん」
「ちょ、ちょっと、謝らないでよ」
なんとなく気まずくなり二人して黙り込んでしまう。
「……あ、ギャメルはプレゼント決めた?」
「え? ああ、もちろん決めたぞ。これだ」
と、ギャメルは机の下から小さな木箱を取り出した。
「木箱、ね。小物入れか何か?」
「小物入れじゃねぇよ。この中身はク――」
「ク?」
「ク……ロスボウ! そう、クロスボウだぞ!」
「いや、入らないでしょどう考えても……」
また鳴らない口笛を吹くギャメルに、二度目のジト目を向けるハティ。
(本当の中身は普通のクッキーだけど、贈る人に言っちまったら開ける楽しみがねぇだろ)
ギャメルはチラリとハティを見上げた。
「そう言うハティは何を贈るんだ?」
「えっ?」
「死んだとーちゃんになら花か何かか?」
「あー、えっと……そんなんとこよ」
と、今度はハティがギャメルから目を逸らす。
(本当はギャメルのカラーに合わせた緑の羽ペンだけど……流石に言えないわよね)
「そっか、お互い喜んでもらえるといいな」
「……そうね。本当にそう思うわ」
そう言って笑みを交わした二人は、また後でと別れ、プレゼントとカードの仕上げをする。
ギャメルは不器用な文字でカードにこう記した――。
『ハティへ
ゴールディのながやぐらしは きにいった?
わかんないこと あったら なんでも きいてくれよな
これから よろしく!
ギャXルより』
そして、ハティのカードには――。
『ギャメルへ
いつも気にかけてくれてありがとうね。こういうの初めてだから何を書いたらいいのかわからないけど、とりあえず、いつも感謝してるわ。最近、頑張って字を練習してるって聞いたから、ペンを贈るわ。
貴方にジド=ルウの祝福がありますように――。
ハティより』
●
「ナハティガル様……? ここで、何をしているのですか……?」
壁際で冒険者達の様子を見ていたナハティガル=ラーに、ゲルダ・クラインが駆け寄ってきた。
「別に何も。皆が用意を終えるのを待っているだけだ」
「用意……? もしかして、カードの事ですか?」
「カード? ああ、そうだった気がする」
「えっと……差し支えなければ教えていただきたいのですが……待って、どうされるのですか?」
「む? 配達の依頼を受けたからな。配達物を待っているのだが……」
何故そんな事をと、ナハティガルは訝しむ。
「依頼って……もしかして、この依頼ですか……?」
と、そんな彼にゲルダが依頼書を差し出した。
「ああ、それ……だ。なに、配達ではない?」
「えっと……はい、この依頼は――」
驚愕するナハティガルにゲルダは苦笑しつつ、依頼の趣旨を説明した。
「ふむ……困ったな。いきなり誰かに贈れと言われてもどうしたものか」
「よければ、お手伝いしますよ」
ゲルダの提案に二つ返事で答えたナハティガル。
二人はカードを選び椅子へと座った。
ゲルダは深緑に金飾がついた封筒に淡いクリーム色のカード。ナハティガルはシンプルな白のもの。
「あの……どなたに、お出しになるのですか?」
「いや、出す相手がいないからな。白紙で出そうと思う」
「えっ!?」
ナハティガルの答えに、ゲルダは驚く。そして――。
「あ、あの……よかったら、贈り合いっこしませんか?」
そう提案した。
「俺とか? いや、構わんが……年頃の娘に贈る物など皆目見当がつかんぞ?」
「な、なんでもいいと思います。決まらないなら、カードだけでも」
「ふむ……わかった、ゲルダに贈ろう」
「ありがとう、ございます!」
嬉しそうに微笑むゲルダに、ナハティガルは早速ペンをとる。
カードに達筆な文字で刻まれていく――。
『いつも依頼では世話になっている。俺の事などを気に掛けてくれることにも心から感謝を。これからもよろしく頼む』
そして、それを見たゲルダのカードには――。
『ナハティガル様
依頼ではいつもお世話になっています。突然の申し出を快く受けてくださって、ありがとうございます。
どうしても、あの時の感謝の気持ちを形にしておきたくて。
改めてあの時はありがとうございました。
あなたの聖霊節が、素敵なものになりますように――。ゲルダより』
ゲルダはカードを封筒にしまうと、用意していたかすみ草の透かしが入った純金製の栞を添えた。そしてナハティガルは――。
「プレゼントか……」
もちろん用意している訳もなく、困ったように腕を組む。
「ゲルダ、贈り物は後日でいいか?」
「え? はい、大丈夫、ですけど……」
「そうか、ではまた後日に贈らせてもらおう」
そう言うとナハティガルは、ホリーへ相談する為にその場を後にした。
●
「皆、贈り先は決まったのかしら?」
アンネエルカが友人たちに問いかける。
「もちろんだ。俺はお前達に贈るって決めてたからな」
「お前達って……一体何通送るつもりだよ。そんなにいっぱい送ってもらえるのか?」
「なに、ダメなのか? ちょっとセシリーに聞いてくる。アル、お前も付き合え」
「ちょっ、なんで俺がつき合わされんだよ! って、おい待てよ! 置いてくな!!」
確認の為にセシリーの元へ向かったアーシェル・G・クラインに、アルフィー・リッパーが慌てて立ち上がる。
「結局ついて行くんだね」
「なんだかんだ言っても二人は仲良しさんだもの」
苦笑しながら二人の背中を見送るセヴラン・クアルトとアンネエルカ。
「それじゃ、私達は先に作ってしまいましょ。セヴランさんは誰に贈るの?」
「僕かい? 僕は祖母に贈るよ」
そう言って、セヴランは白地に金銀箔が散りばめられたカードを用意した。
「アンネさんは誰に?」
「私はもちろん、パパとママに!」
にこりと笑うアンネエルカの手元には、夜空色の封筒と薄紫と桃色が溶けあった夢見心地なカードが添えられている。
「おや、インクにも凝っているんだね」
「流石セヴランさん、目の付け所が違うわ! そうなの、私の角と同じ色のインクを見つけたからつい買っちゃったの」
「うん、素敵だと思うよ」
小さく舌を出すアンネエルカに、セヴランは目を細めた。
二人はアーシェルとアルフィーの帰りを待つ間にカードを書き進める。
アンネエルカのカードには――。
『大好きなパパとママへ
聖霊節の贈り物、今度は私から二人へ! どうかしらビックリしてくれた?
サプライズの為にカードにしたけれど、今度はお友達も一緒に顔を出すわね。
実はね、今も大好きなお友達と一緒にこのメッセージを書いているのよ。
一生懸命選んだプレゼント、気に入ってくれますように! ――アンネエルカより』
添えるのは「お揃いのアロマキャンドル」。
セヴランのカードには――。
『シェアトへ
冒険者稼業は最近控えめだけど、楽師業は充実しているよ。一応ね。
いつでも帰れるし会えるけど、やっぱりこういうものはちゃんと贈らないとね。
という訳で、受け取ってくれると嬉しい。きっと気に入ると思うよ。
では、いつまでも美しく、そして健やかに――。セヴランより』
添えるのは「繊細なガラス細工の耳飾り」。
二人がカードを書き終えた頃、アーシェルとアルフィーが帰ってきた。
「OK貰って来たぜ」
「強引に押してたくせ――わぷっ!?」
ぐっと親指を立てる右手とアルフィーの頭をわしゃわしゃする左手。
忙しい両手に、アンネエルカとセヴランは苦笑しつつ、おかえりと二人を迎えた。
「さて書くか」
アーシェルは早速机に向かい4枚ものカードを並べると、机を囲む仲間達の顔を眺める。
そして、一人一人に前にカードを置くと流麗な筆致でカードにメッセージを書いていった。
アルフィーへ、紫のカードに黒猫の切り絵を添えて――。
『アルは俺にとって大切な弟だ。もっとたくさん甘えてこいよ』
アンネエルカへ、城のカードに羊の切り絵を添えて――。
『アンネが笑うと幸せな気持ちになる。これからも守らせてくれな』
セヴランへ、青いカードに栗鼠の切り絵を添えて――。
『また二人で旅をしようぜ、相棒。だから、ふらっといなくなるなよ?』
ここにいないもう一人の仲間へ、赤いカードに狐の切り絵を添えて――。
『いつも支えてくれてありがとうな。俺も同じくらいお前を支えたい。だからもっと頼ってくれ』
アーシェルは書き終わったそれぞれに「黒猫の人形」「白薔薇のブローチ」「ララとロロの人形」「銀薔薇のブローチ」を添えて封をした。
一方、アルフィーは慣れないペンを手に懸命にカードに向かう。
『アーシェルへ お前が怪我したら皆が心配する。だから無理するな』
ぶっきらぼうに書かれたカードを急いで封筒にしまったアルフィーは、見られないように黄石のブローチと共に包みに突っ込むと――。
「これが届く頃に、もう一度集まって、皆でうまい物でも食いたいな」
手の中にある小さな包みを見つめながら、ぽつりと呟く。
「そうだね。是非ご相伴にあずかりたいね」
セヴランはソワソワと揺れる尻尾を微笑ましく見つめながら頷いた。
「私も賛成! 皆で集まってパーティーをしましょう!」
「そうだな、あいつも呼んで皆でパーッとやろうぜ。アル、料理は任せたぞ」
「なっ! なんで俺が……べ、別にいいけどよ……」
ふんとそっぽを向きつつも、パタパタと揺れる尻尾に三人は笑顔で「ありがとう」を伝えた。
●
「まさか、こんな催しに参加する事になるとは……俺には縁遠い世界だと思っていたんだが」
エル=バ=ノイアンの前には白いカードが置かれている。
レースのアートカットが施されたカードには、まだ何も記されていない。
じっとカードを見つめるノイアンの脳裏には、先日の失態が浮かぶ。
「誤解だと……いうべきか」
隣の机で筆の覚束ない者に丁寧な講座を開いている彼女をちらりと見た。
「ああ、そうだナキル。うまいよ」
カードとインクを前に四苦八苦するナキルのペンに手を添え、シルヴィア・A・カペルがゆっくりと手を動かした。
「こ、こうか?」
「そうそう、それで『感謝』と読むんだよ」
「おぉ……これが『感謝』か」
シルヴィア『先生』指導の元、書き上げた文字にナキルが感動している。
「『先生』こっちも見てもらえる?」
と、もう一人の生徒ルベア・ベルニが書き終えたカードを指さした。
「……うん、とても上達したね。ルベアらしい綺麗な字だよ」
「そ、そう? ありがとう」
シルヴィアの賛辞と笑顔にルベアは思わず照れて俯く。字は正直まだ慣れない。教養もあまりないので文法も滅茶苦茶だろう。それでも綺麗と言ってくれる『先生』に感謝しつつ、ルベアは贈り先を想う。
ルベアのカードにはこう記されていた――。
『大切なアナタへ
いつも私を支えてくれるアナタへ、感謝を込めて。
私もアナタの支えになると嬉しい』
短いながらも心の籠ったメッセージを、淡橙色の封筒にしまったルベアは、プレゼントの子猫のぬいぐるみを添えた。
「俺だって……」
「なんだか楽しそうですね?」
ルベアに負けじとカードを向き合うナキルに、エフィルミアがとてもいい笑顔で声をかけた。
「なっ! なんだよミア、見るなよ!」
「そんなに真剣に練習して、誰に贈るんですか?」
「はぁ?! 別にミアに書いてるわけじゃねぇし、関係ないだろ!」
「む……そうですか。ふーん」
と、エフィルミアは覗き込んでいたナキルのカードから顔を離す。
「なんだよ、何怒ってるんだよ……」
「怒ってませんけどー。ナキルくんに字を教えたのは私なのに、シルヴィアさんに手を取り教えてもらって鼻の下を伸ばしてるナキルくんには、全然怒ってませんー」
「は、鼻の下なんか伸ばしてないし! つか、絶対怒ってるだろ!」
「ったく、こんな所で喧嘩するなよ。シルヴィアも見てないで止めろ」
口論に発展しそうな二人の間に海神・江流が割って入る。江流は、隣で微笑ましく見つめていたシルヴィアに呆れ顔を向けつつ、二人のカードを指さした。
「ほら、早く書かないと置いていかれるぞ。他の奴等はもう終わったみたいだ」
「え? うわやばっ! ほらミアも早く書けよ! だ、誰に贈るかしらねぇけど……」
「心配しなくてもナキルくんにはあげませんー」
チラリとエフィルミアを見上げてくるナキルにそう答え、彼女はカードを持って別の机へと行ってしまった。
「あ……う……」
「ほら、ずっとそのまま呆けていたら、挽回のチャンスまでなくなってしまうよ」
ぷりぷりと肩を怒らせながら離れていくエフィルミアを見つめていたナキルに、シルヴィアがカードを寄せた。
「沢山の『ありがとう』を込めて贈ればいい。きっとわかってくれるよ。その為に選んだ花なんだろう?」
ナキルのカードには紫色のパンジーの押し花が添えられている。
「……そうだ、今のオレが居るのは全部、ミアのおかげだ」
「心からそう思うのなら、一文字一文字思いを込めて書くと言い」
「わかった。ありがとう『先生』」
シルヴィアの微笑みに力強く頷いたナキルがカードへ向かう。
「苦労するな」
完全お怒りモードのエフィルミアの陣取る机に江流が座った。
「もぉ、いいんです。ナキルくんなんて知りません」
「その割には気合の入ったカードだな」
エフィルミアの手元にあるピンクのビオラと雪の結晶が描かれた美しいカードには、想いの籠ったメッセージが書かれていた。
「み、見ないでください! もぉ……」
エフィルミアは江流からカードを遠ざけつつ丁寧に封筒にしまうと、プレゼントの淡緑色にインク壺と桜色の羽ペンを添えた。
「私の事よりエルさんはどうなんですか?」
大切な贈り物に用意が終わったエフィルミアが、江流に問いかける。
「俺は終わってる。見るか?」
と、江流は胸元からカードを5枚取り出した。
見事な毛筆で書かれたそれは――。
ノイアン、シルヴィア、ナキルへ贈る猩々木デザインのカードに『幸運を祈る』と一言。
ルベアには『また共闘よろしく』と草割草のカードで短く。
そして。
「『いつでも頼りに来い。でも負けるな』……」
「ここで渡そうか?」
「もぉ、エルさん、それじゃ聖霊節の意味がないですよ」
真面目にそう聞いてくる江流に、エフィルミアは怒っていた肩を脱力させた。
「そうか? うーん……あ、それじゃこれをやるよ」
と、江流はごそごそと鞄に手を突っ込むと一冊の本を取り出す。
「これは?」
「生徒会長が補習やら追試とか格好悪いだろ。俺が使ってた参考書だ」
「せ、聖霊節に参考書って! 聖霊節なのにロマンチックの欠片もないですね!?」
言ってる事は確かだし、色々ギリギリなのも確かだけど、こうストレートに言われれば流石のエフィルミアも怒らないわけにはいかない。だからこう返してやった――。
「エルさんはもう少し乙女心を学ぶといいと思います! そんなんじゃいつまでも”彼女”できませんよ!」
●
「シルヴィア」
「ノイアンか。どうしたんだ?」
講師を終え自分のカードに取り掛かっていたシルヴィアの元へ、ノイアンがやってきた。
「あ……いや、なんだ」
「うん?」
言い淀むノイアンにシルヴィアが首をかしげる。
「何か……欲しい物とかあるのか」
「ほ、欲しいものか。もしかして私にくれるのかな」
ノイアンに問われ一瞬目を瞠ったシルヴィアだったが、すぐに相好を崩し。
「では、君の手料理を」
「そんなものでいいのか……?」
「そんなものも貰えないのかい?」
「いや……わかった、考えておく」
「ああ、楽しみにしているよ」
そう短く言葉をかわし、二人はまた別の机に着く。
(色々と聞きたい事はあるのだけど……今はこれでいい)
シルヴィアは雪に遊ぶ白と黒の猫の絵が入ったカードに――。
『貴方の日々が幸せに満ちたものでありますように』
と記し、シックなガラスの砂時計を添える。
(気付いて……いないのか? それなら……)
複雑な表情で机に戻ったノイアンがカードに向かう。
『清廉なるあなたへ、真心を込めて』
と書いたカードに、白詰草の四葉と花が刺繍されたハンカチを添えた。
そんな二人のやり取りとみていたルベアが、江流に耳打ちする。
「江流さん、あの二人って……」
「うん? ああ、あれを『不器用』っていうんだ。覚えとくといい」
「不器用……え? なに、どういう事よ」
頭の上に「?」を作るルベアに、江流は微笑みかける――。
●
こうして参加者全員のプレゼントが集まった。
「大切にお届けしますっ!」
預かった『大切な想い』を必ず、想い人の元へ。
セシリーは一つずつ大切に鞄へ入れると、最後に大きく頭を下げたのだった――。
マスターコメント
素敵か!!??
あ……皆様、おつかれさまでした!
とても素敵なメッセージとプレゼントの数々に、書いてるこっちまで幸せを分けていただいた気分でした!
お預かりした大切な想いの数々は、セシリーが必ずお届け先へお届けします。
贈られる方の喜ぶ顔が目に浮かぶようですね!
それでは、ご参加ありがとうございました!
ホリーとセシリーに代わり、お礼申し上げます!
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない25 / 4〜25人
2021年12月10日 23時27分13秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
「ナキルだ、よろしくなー… …聖霊節って…プレゼント必須だったのか… 知らねーコトが多いな…(メモ)」
アルフィー・リッパーだ…同席する奴らはよろしく頼むぜ ま、別に俺はこんなイベントは楽しみじゃないけどな(と言いつつ尻尾は全開でブンブンと振られており)
ヒーラーのギャメルだぜ。よろしくな! ご近所さんのハティにお手紙出すぜ。 文字を書く機会がねぇと、せっかく覚えた字も忘れちまいそうだし。 ハティには、これからよろしくの気持ちを込めたカードと気軽な贈り物が良さげかな。
エフィルミアです!よろしくお願いしますー! グリーティングカード作り楽しみですっ。 聖霊節で皆の思いが届きますように!