【帝国】クーネとバルディオン

七海真砂

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シナリオID:1415

オープニング

 北部鎮守都市オルセンから南部鎮守都市ヴィントまでやって来たという、旅の女剣士クーネ・ルウと、ヴィントの太守でもある『賢猪将軍』バルディオンとの面会は早々に叶うことになった。
「今夜、お会いになられるそうです」
「そうか。ありがとう」
 クーネさんは礼を言うと「まだ時間があるな……」と空を見上げる。
 日は、まだ高い。
「そういう事なら、バルディオン将軍への手土産を用意しに行こう」
 言うが早いか、クーネさんは早速歩き出した。
「え? 手土産?」
「そうだ。夜なら何か食材になりそうな獲物が良いだろう。このヴィントには、そういうのが獲れる『ダンジョン』というのがあるのだろう? ちょうどいい、『霊船グロムレイ』に乗り込んで大物を狙うぞ!」
 クーネさんの脳裏には、もうすっかり完璧な手土産GETプランが描かれているようだ。そう言い切ると、ヴィントダンジョンの入口へと向かっていく。
「……どうする、これ?」
「放っておく訳にもいかないでしょう」
 クーネさんを一人にしておく訳にはいかないだろうと、居合わせた冒険者はその後を追いかけた。

解説

 手土産が欲しいクーネさんと一緒に霊船グロムレイに行こう!  あと、バルディオンとクーネさんの面会(クーネさんの手土産が誰かに調理されて会食になる予定)に同席したり、上手くいくように頑張ったりしよう! ●ちょっとした補足  このシナリオは「【帝国】謎の旅人クーネさん」の続きっぽいシナリオです。  クーネさんについて詳しく知りたい方は、こちらを見て頂くと良いかもしれません。

マスターより

 こんにちは、七海真砂です。  今回のシナリオの目標は、バルディオンとクーネさんの面会を成功させること、です。  クーネさんが手土産を持っていくのに失敗しても、面会が無事に終われば大丈夫です。  それでは、ご参加をお待ちしております。

リプレイ

●霊船グロムレイへ
「うーん、クーネ君アグレッシブ……」
 ヴィントダンジョンへ向かうクーネさんの姿に、シェオルは圧倒されていた。
 手土産を、という気持ちはわかるし、悪い人では無いのだろうけれど――。
「あ、待って待って。僕もついていくよー!」
「おっと。そうか、じゃあ一緒に行こう」
 足を止めて待つクーネさんの元へ近付くのはシェオルだけではない。
「あれはクーネさん……? だったかな」
 北から来たという女剣士じゃないか、と気付いたナタリア・フィッツジェラルドもまたやってくる。
「なるほど、霊船グロムレイなぁ……」
(何かこう飄々というかちゃらんぽらんというべきか……私も人の事は言えんが)
 掴みどころのないクーネさんの様子に、ちょっぴり複雑な気持ちになりながらも、監視を兼ねて同行しようと決めるナタリアである。
「クーネさんですか? ボクはエルゼリオ・レイノーラっていいます、よろしくね!」
「うん、私がクーネさんだ、よろしく」
 エルゼリオ・レイノーラのように、クーネさんの噂を聞いてやって来た者もいる。そう気さくに挨拶するクーネさんだが、
(クーネさんは記憶喪失なんだよね、……記憶が無いって、とても心細いはず)
 何ができるかわからないけれど、記憶を取り戻す、その手助けになれたらいいな、とエルゼリオは思う。
(んんんん? なんかどこかで見たことある雰囲気があるような……う~ん、どこで見たっけな~?)
 皆のやり取りを見ながら、むむむと首を傾げているのはサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ。喉に小骨が引っかかった時のような、何とも言えない引っかかり具合があるのだが。
「ん? どうかしたか?」
「にゃ! いやなんでも~。あ、あたしはサフィラだよっ! クーネちゃんよろしくっ!」
 視線に気付いたらしいクーネさんに首を振って。改めて挨拶するサフィラだったが、今度はクーネさんが気になったことを口にする番だった。
「ところで、その格好は?」
「これ? 知らない? 水着だよ!」
 霊船グロムレイでひと狩りするならあたしにおまかせ! と胸を張るサフィラは、既にオシャレな水着に身を包んでいた。
 この姿で獲物とやり合うのだと聞いて、クーネさんはこのような物があるのかと感心しながら、サフィラの周りをくるくる回って水着というものを見ている(ちょこっと触ったりもしたけど、女性同士だからセーフ!)。
「ダンジョンに行く為の装備を整えた、これだけの授恵者に同行して貰えるとは心強い。私は地理にも疎いからな、よろしく頼むよ」
 そんな訳で、みんなに道案内をして貰いながら、ヴィントダンジョンを進むクーネさんだった。

「……船、だな」
 その場所に一歩踏み込んで、クーネさんは目を丸くした。
 何をどう表現しても『動いている船』としか言いようのない場所、それが霊船グロムレイ。出入りしている授恵者達には見慣れた光景ではあるが、その反応に、ちょっぴり自分達も初めて来た時の事を思い出す。
「しかも、大きい。うん、こういうのは初めて見た気がするぞ」
 湖などに浮かぶ小船とは規模が違いすぎる。驚きながらも揺れる船の上を歩き、興味深そうに霊船グロムレイを眺めるクーネさんである。
「なるほど霊船……しかしザッカ・グロムレイの名を冠する船とは……」
 誰も漕いでいないのに進み続けている船を、うろうろ、ぶつぶつ。そんなクーネさんをシェオルが呼ぶ。
「クーネ君、とりあえずこれを」
「竿か?」
「うん、僕のを貸すよ」
 練習用の釣り竿を渡すシェオルに礼を言い、クーネさんはようやく本題を思い出したようだった。
「クーネさん。どうせ手土産を持っていくなら大物を狙おうぜ!」
「そうだな、上手く釣り上げたいものだ」
 スポーティな水着姿になった、アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトの言葉に頷いて意気込むクーネさん。その目はすっかり海の方を向いている。
「わたしも大物を狙いますね!」
「お、じゃあ勝負だな」
 トーラの言葉にクーネさんがニヤリと笑う。もちろんお前もだぞ、とアルベルトの方を向くクーネさんに、そういう事なら望むところだとアルベルトも笑って頷く。
(いつもは、ちょっと恥ずかしいこの名前ですけど……なんだか親近感が湧いちゃいますね)
 クーネさんを見ながら、トーラはちょっとだけ目を細める。トーラのフルネームはトーラ・ルウ、いつもはあまり名乗らないファミリーネームだけれど、それが同じだという奇遇な縁に、クーネさんが身近に感じられてしまうトーラだった。
「よーし、じゃあ行っくよー!!」
 水兵さん風の水着姿で海へ飛び込んでいくのはララベル・サン・ディーベル。周囲の景色に自分の皮膚の色を変化させながら、海中に潜むようにして獲物が来るのを待つ。他にも大半の冒険者が潜り漁を選んでおり、次々と海へ飛び込んでいく!
「ボクも潜るけど――クーネさん、一人でも大丈夫?」
「ははは、問題ないぞ。船の上にはシェオルなんかも残るようだし、もし何かあったら助けて貰うさ」
 心配そうに振り返るエルゼリオだったが、クーネさんはそう笑って。アルベルトから釣りの基本を教わりながら釣り竿を海に投げ入れると、腰を据えて獲物が掛かるのを待つ構えだ。
 その後ろでは、みんなが釣り上げる(はずの)海産物の仕分けや下ごしらえをするつもりで待機する事にしたシェオルが、大丈夫だと言うかのように頷いている。
「ん……じゃあ、バルディオン将軍に喜んで貰える手土産をGETする為に頑張ってくるね!」
「ああ、お互い頑張ろう」
 エルゼリオ、そしてアルベルトも海へ飛び込み、霊船グロムレイには寄せては返す波の音が静かに響く。
(人となりを確かめたい所だが、大物釣りともなれば私も張り切らねばならん)
 船の上でクーネさんと共に待ちながら過ごすか、それとも――。悩んだ末に、釣り竿を設置したナタリアも獲物を引き寄せるべく、海の中へと向かうのだった。

(にしし……あっちにいるね……)
 双波で気配を探ったサフィラは、まるで人魚のように海中を泳ぐ。認識を妨げるエーテルを体の周囲に張り巡らせながら距離を詰めたサフィラはゆるぅり、旋回しながら光と匂いを発して――。
「ヒット!」
 近付いてきた赤い魚に銛を一撃! 見事に仕留めたサフィラは浮上すると真っ先に船に戻って来る。捕まえたのは鯛、得意げに「獲ったぞー!」と掲げる姿にクーネさんが拍手する。
(群れが来た……あれは鮭、かな?)
 じっと待ち構えていたララベルは、群れを散らさないように気を付けながらゆっくり位置取りをすると――スィフトスイマーで一気に加速した!
「!」
 虚を突かれ、慌てて逃げ出す鮭の群れ。だが、彼らが逃げ出した方向の先には、仕掛けられた大網がある。方向転換するにも後方には既にララベルの姿があり、鮭はもう逃げられない!
「やったね! 今時期の鮭なら、卵も取れるかもしれないよ♪」
 よいしょっと捕まえた鮭を船の上に運びながら、にっこり笑うララベルである。
 足の裏にエーテルを集中させ、歩いていたエルゼリオは魚影に気付いて、魚達の好奇心を刺激する光と匂いを発する。ゆらゆら泳ぎながら近付いて来るのはイワシの群れだ。
(神のご加護は魚相手でも等しくあるってことで……えいっ!)
 エルゼリオが構えた銛を叩き込む! 叩き込む!
 連続して繰り出された銛は次々とイワシを貫き、ちょっとした串刺しのようになっている。
「………」
 皆がそうして獲物を捕まえていく中、トーラは辛抱強く、ずっと待ち続けていた。流れる藻に紛れながら波に漂い、じっと獲物が射程範囲に入るのを待つ。
 いや、ただ攻撃が届くだけでは生ぬるい。確実に急所を突けると、そう確信できる所まで接近してくるのを待って――。
(今です! 捕まえますよー!)
 トーラは銛を繰り出した。貫かれたタコは墨を吐いて逃げ出そうとするも、しっかりと銛が刺さっており抜け出せない。もがいていたタコが力尽きるのを待って、船上に戻ったトーラはゆっくりと銛を抜いた。

「そういえばクーネはいつからの記憶がねーんだ? 名前は覚えてたのか?」
 サバを仕留めたハヤト=ガラン=ヴォルファングは、大物と呼ぶにはやや物足りない釣果に複雑な顔をしながら船に上がると、今も釣り竿の前で獲物を待ち続けているクーネさんに、そう尋ねかけた。
「ちゃんと覚えているのは帝国崩壊の頃くらいからかな。名前はなんとなく覚えていたぞ。クーネさんはそういう記憶喪失らしいな!」
 人によって色々なケースがあったりするらしいなぁ記憶喪失は、とクーネさんは笑っている。
「クーネという名前は、首刈帝クジンリーネに似ている気もするが、無関係なんかなぁ。クーネは自分じゃどう思う?」
「うーん、クーネさんには分からないが、もし首刈帝を信仰してクーネと名付ける事があるのだとしたら嬉しい、かな」
 その問いかけに、クーネさんは少し静かに、しみじみとして答えた。
「あっ」
 そうか、と声を上げたのはサフィラだ。
「クーネちゃんが誰かに似てると思ったら、友達に似てるんだ! 親戚かなー?」
「ほう? まあ赤の他人でも、世界には似ている者が三人いるらしいと言うしな!」
 そこまで似てるなら、いつか会ってみたいものだとクーネさんは笑う。
(クーネのことを知るのは、何かの役に立つかもしれないよね)
 うんうん、と頷いてララベルもクーネに近付く。
「クーネは、好きな食べ物とかある?」
「好き嫌いは特に無いな。なんでも食べるぞ」
 どうやら選り好みをしないタイプらしい。そうハッキリ言いきるクーネさんだったが、「ああ、でも」と何かを思い出したように付け加える。
「羊と芋のスープ、あれはいいなぁ」
「好きといえば、クーネさんは強い人が好きと言っていましたけど、その理由を聞いてもいいですか?」
 そういえば、と、トーラも先日会った時の事を聞いてみることにする。
「好きなものは好きだ……じゃ、ダメか? 難しいな……」
 いざ改まって好きな理由を述べるというのは案外難しいぞと考え込んでしまうクーネさんである。
「強いのは良いことだ……理由になってるだろうか? まあ今の帝国には強い者が必要だし、そうなる事を目指す者はとても好ましいとクーネさんは思うぞ!」
 だからまぁ、好きだ! と力強く言いきるクーネさん。
「あら? その竿、引いてるんじゃないかしら」
「おっ?」
 釣り糸に微かな反応があるのを見てミツキ・アインホルンが声を掛けると、クーネさんは慌てて竿を取った。
 それは、魚群を惹きつけようとして撒き餌を放ったナタリアに向かって、集まってきた魚達による反応だ。十分に食いついている反応を手に感じながら、クーネさんが思いっきり竿を引くと、その先に掛かっていたのは――。
「サンマ、だね」
「今が旬の魚だよ!」
 細長い魚の姿は、脂がのって美味しそうには見えるものの、大物とは呼び難い。すぐ近くにあったナタリアの竿も、クーネさんよりちょっと大きなサンマが掛かっているように見え……クーネさんはなんとも微妙そうな顔をした。
「よし、獲れたぞ!」
 そこにカツオを担いだアルベルトが上がって来る。
 撒き餌を放ち、水流操作で齧りついてくる魚達からのダメージを押さえて機を待ったアルベルトは、群れの中でもひときわ大振りのカツオをゲットすることに成功していた。
 サンマとカツオ、どちらも美味しい魚で、そこに優劣はない、無いはずなのだが。
「ぐぬぬ、アルベルト方が大きいじゃないか……というか、皆クーネさんよりも大物を釣っているんじゃないか……!?」
 みんなの釣果を見ながら悔しそうにする、釣り初心者のクーネさんだった。

●会食と懺悔
 バルディオンとの面会の前に、とクーネさんを呼び止めたのはレティシア・レインフィールだった。控えめな微笑みと共に「よろしければ」と申し出たのは、身支度のその手伝いであった。
「……確かに。頼んでも良いだろうか」
「はい。それでは失礼いたします」
 頷いたレティシアは湯浴みの準備を既に整えており、ダンジョンで浴びた潮風の名残りや汚れを落としたクーネさんの髪を梳き、結い上げる手伝いをする。
「そういえば、クーネ様の瞳の色は殿下と同じ紅なのでございますね」
「へえ、そうなのか」
 鏡の前に座るクーネさんの瞳を見ながら、レティシアはふと思い出したように口を開く。
 レイウェスト皇子の話は人づてに聞いたものの、まだ直接会ったことは無い。だから、瞳の色の話も今初めて知ったという様子で、クーネさんは鏡越しにレティシアを見た。
「もしかして、過去に皇族の方が降嫁などされたお家のご出身の方なのでございましょうか……?」
「皇族? クーネさんが? それは無いと思うなぁ」
 赤い目ということなら、トーラやミツキだってそうじゃないかとクーネさんは笑い飛ばす。
 確かに、赤い瞳の者は決して少なくない。だが紅という色味の合致があるからこそ、もしかしたらと思ったのだ。だが、レティシアはそれ以上は言及せず「そうですね」と微笑むだけに留めた。

 そうして支度を済ませ、約束の時間よりも少し早く、クーネさんは面会の場を訪れた。既に準備は整っており、別行動をしていた者達も集まっている。
「俺はナハティガル=ラーという。アンタはクーネサン? それとも、クーネ=サンなのか?」
「どちらでもない。クーネ・ルウだ」
 真顔で尋ねるナハティガルがツボに入ったのか、くつくつ笑いながら答えたクーネさんは「まあ気軽にクーネさんと呼んでくれ」とナハティガルに返している。
(クーネさん……クジンリーネ……もし『首刈帝』クジンリーネ・バルダスと関係があるとして、だ)
 もしその末裔だとしたら、それはバルダス皇家に連なる者だという事になる。レイウェストだけが唯一だと思われていた、皇族の生き残りだなんて事が果たして有り得るだろうか――考える所は、自然とレティシアと近いものになる。
 その答えを知り得る者すら失われていそうなことが、帝国の現状ではあるのだが……。
「待たせたようだな」
 そこに朗々と響いたのは、このヴィントの太守『賢猪将軍』バルディオンの声だった。すぐにクーネさんが拝礼したのは、事前にほんのりとマナーについてレティシアから教わっていたのが大きいだろう。
「構わん。北部鎮守都市オルセンから来たという女剣士だな?」
「はい。クーネ・ルウと申します」
 礼節よりも実を取り、すぐ本題に入ろうとするバルディオンの言葉に顔を上げるクーネさん。その手には今も、彼女が宝剣マフダルだと語った、長大な骨剣がある。
「……確かに、以前コンラート卿が持っていたのと同じ剣だ」
 バルディオンが大きく息をつく。彼が、それを宝剣マフダルだと認める事には、大きな意味があった。
「本物で間違いねぇのか?」
「相違ない。征竜の足骨を材料に作られたと言われる宝剣マフダルは、紛い物を作り上げることすら困難であろう」
 念を押すようにハヤトが尋ねるが、バルディオンはそう言い切る。万が一、見た目の酷似した何らかの巨大な骨を用意できたとしても、今度は強度が伴わないはずだ。
「では、後の詳しい話は、食事を取りながら行ってはどうだろうか」
 そうナハティガルが勧めるのと同時にギーゼラが料理を運び込み始める。調理を一緒に手伝ったシェオルと共に出していくのは、クーネさんが釣ったサンマの塩焼きに、シャルガネの文化で縁起がいいと言われる鯛を中心にした新鮮な刺身、タコや鮭を煮込んだ鍋料理など、どれも丁寧に作られた品々だ。
 料理は同席する冒険者達の分も十分に用意されている。食べきれそうにない分はトーラの提案で、長期保存できるように加工し、食糧庫へ届けることになっていた。
「……飲み物を」
 ベルク・オスマットは敢えて、きちんと栓がされたままの瓶で飲み物を持ち込んだ。バルディオンとクーネさんの前で開封し、異常が無いことを二人が確認できるようにする。
「どうぞ」
「ありがとう」
 意図は通じているのだろう。礼を言いながらバルディオンとクーネさんの双方が受け取るのを見届け、ベルクは一礼して一歩下がった場所に控える。
「うむ、美味い」
 最初に口を付けたバルディオンが、そう味を褒める様子にホッとしながら、授恵者達も食事を取り始めた。
(うーん、豪勢!)
 シェオルも、もぐもぐと舌鼓を打つ。クーネと共闘した際の状況について、補足が必要そうな場面があれば発言を、と備えつつも、今は和やかに食事を楽しませて貰うシェオルだった。

「北部の情報を改めて聞かせて貰っていいかしら」
 食事が始まってしばらく。最初に切り出したのは、発言を記録するための用意を済ませたアウレーリア・フォン・ネーベルベルクであった。
(色々と訊かなければいけないわ……これからの為に)
 北部そのものの状況もそうだが、懸念は帝都である。『語らずの智者』エフレムが向かった帝都から、南北に向けてどのような動きが起きるか分からない。
(状況次第では南北打通を急がないと)
 知る事は、その判断材料にもなるからだ。
「オルセンが健在だという話は聞いている。その詳細から聞こう」
 バルディオンはそう促すと、冒険者達にも気になる点があれば遠慮せず口にして欲しいと告げる。ベルクは飲み物を注ぎながら頷くと、北の状況に話題が及んだことで、その会話に耳を澄ませる。
(本来は北壁の防人ゆえ、オルセンの太守に従うべきなのだろうが……)
 ベルクは今でこそ冒険者だが、冒険者である以前にこの身は帝国の臣であるという自負がある。しかし、少し前までゴールディに身を置いていたこともあり、情報という点においては、やはりクーネさんからの話が気になるところだ。
「では、順を追って話そう」
 クーネさんは、少し前にも伝えた内容を、改めて整理するように語る所から始めた。
 北部鎮守都市オルセンにも幽界樹が生えかけたこと。それが速やかに粉砕され、オルセン自体の被害は軽微で済んでいること。周辺の村落や砦には被害が出ており、避難民はオルセンへ逃げ込んでいること。
「極北からクリーパーの襲来もあったが、近頃ではそうした動きは落ち着いている。ミツキ達から話を聞いたが、今は南部の方が大変な状況じゃないかな。ただ、食糧に関しては大差が無いかもしれない」
 クーネさんがオルセンを発った時、今こちらで見られる凶作の兆しといった話は特に出ていなかったという。
 だが、去年の冬を越す為にオルセンの備蓄は吐き出され、ほぼ全てが尽きている。この状態でもう一度冬を迎えるとなると……楽観はできない状況だろう。
(なるほどね。オルセンという街はそのような状況なのか)
 シグルド・オルセンは、奇遇にも自分と同じ名を持つ都市の状況を、興味深そうに聞いている。
「マフダル家の者は皆無事なのか」
「だと聞いた。実際、葬式の類は記憶に無いなぁ」
 記憶喪失のクーネさんが言うことなので、その記憶がアテになるかが若干問題かもしれないが……その辺りの説明も受けた上で「なるほど」とバルディオンは頷く。
「――コンラート卿は相変わらずコーヒーがお好きなのだろうか」
 少し目を細めて、オルセン太守コンラートのことを口にするバルディオンだったが、その言葉にクーネさんは虚を突かれたような顔をする。
「へ? あいつコーヒーは泥水のようで好かんと言っていたぞ」
 急に味覚が変わったのかと驚いているクーネさん。その様子に、バルディオンは表情を崩さず呟く。
「……相変わらずのようだな」
「ああ……なるほど」
 バルディオンに試されたのだ。コンラートと直接の面識があり、共に飲み物を口にする程度の関係ではあるのだと、そう判断するための発言だったのだろう。どうやらオルセン太守のコンラート卿は、余程コーヒーが嫌いな人物らしい。
「あの、コンラート卿は何故クーネさんに宝剣を託し、こちらに向かわせたのでしょう?」
 話がオルセン太守のコンラートについて及び、気になっていたことを尋ねたのはギーゼラだ。太守なら優先すべきは街の防衛のはずで、それよりも南部への連絡を優先したのであれば、その理由があるのではないか、と。
 だが、まず少し誤解があるようだとクーネさんは首を振る。
「私が南へ来たのは私がそう決めたからで、コンラートの指示があった訳じゃない。マフダルも南に行くのに武器が欲しいと借りたものだしな。それも、さっき言ったように北部の状況が落ち着いていて、私がマフダルを持って行っても問題は無いと判断したからだろう」
(そこで、なんで太守が宝剣を手放すんですか、しかも問題ないって判断するんですか……!?)
 いや、あの、と言いかけたギーゼラだったが苦い顔をして押し黙る。
 クーネさんの中では、それは問題の無いことなのだろう。そういう事になっているのだろう。ギーゼラにはそうは思えないけれど、オルセンは一体どうなっちゃってるんだと心配になってしまうレベルだけれども!
(多分これ、クーネさんにこれ以上重ねて聞いても答えは……出ないやつですね……)
 そう踏んだギーゼラは、ひとまず置いておいて、もう一つ気になっていたことを聞いてみることにする。
「それで、クーネさんは何故宝剣を扱えるのでしょう? 宝剣は誰でも簡単に扱えるものではないはずですよね」
「え、そうなのか?」
 逆に驚いたらしいクーネさんの反応が返って来る。
「まあ確かに『簡単』ではないかもしれないな。宝剣マフダルを使って戦うと疲労が深く、あまり長くは戦えない。そのような負荷があることこそが宝剣の証なのかもしれない」
 あるいは『征竜の虹宝剣』とは少し異なる性質を持つ宝剣なのだろうか? クーネさんの言葉を聞きながら、少し考えこんでしまうギーゼラである。
「あとは南に来るまでのルートと、それからダルトートの状況ね、聞きたいのは」
 メモを取っていたアウレーリアが話題を整理すると、確かに、とバルディオンも頷いた。ロモズ歩兵団がもたらした報告は、バルディオンの耳にも当然入っている。
「特に幽界樹の情報があれば、どんな些細な内容でもいい、何でも欲しいわ」
「ああ――。バルディオン将軍にも、皆にも、そのことを話しておかなければならない」
 アウレーリアの呼びかけに、クーネさんが神妙な顔つきになる。皆を見回すクーネさんの空気が、なんだか少し重たく感じられた。
 何か、ある。
 そう察した冒険者達の視線を浴びながら、クーネさんは言い難そうにしながらも重たい口を開いた。

「ダルトートに生えていた幽界樹は私が斬った」

「斬った……!?」
 百戦錬磨の将軍、バルディオンの顔にも流石に衝撃が広がった。それは冒険者達も同じである。それまで和やかな雰囲気を作り上げるべく細やかな気配りをしていたナハティガルも目を見開き、ベルクは落としかけた瓶を慌てて拾い上げた。
「倒した、ということでございましょうか?」
「倒したと、そう思っていた」
 衝撃を抑えながら確認を取るレティシアの問いかけに「だが」とクーネさんは息を吐き出す。
「今のヴィント近郊の状況、そして皆の話を聞くに、そうでは無かったようだ」
 クーネさんが、皆の顔を直視するのを避けるかのように、瞳を伏せて続ける。
「すまない。私が攻撃を加え、倒し損ねた幽界樹が野に放たれてしまったことが、おそらく今このヴィント北部で起こっている事態の元凶なのだと思う。本当にすまない」
「――謝罪は、いい。それよりも事態が見えぬ」
 もっと詳しい説明を、と求めるバルディオンにクーネさんが頷く。
 オルセンを発ったクーネさんは、帝都を避けるように東側を迂回するような形で南下してきたこと。
 その途中にある帝国都市ダルトートに立ち寄ったこと。ダルトートは幽界樹が生え、廃墟と化していたこと。
「おそらくヴィントと同様の状況、だと思う」
 皆から聞いた奪還前のヴィントと、クーネさんが見たダルトートの状況は同様だったらしい。単身旅をしてきたクーネさんは、そのダルトートの中に入ると幽界樹の元へ向かい――。
「斬った。縦にこう、真っ二つに裂けて吹き飛んだから、倒したものだと思っていたのだが……」
「その片割れ――分かたれし幽界樹、とでも呼べる存在が目撃された、ということね」
 大きく溜息をつきながら、アウレーリアは状況を書き取る。いっそこれが嘘なら良かった位なのだろうが、クーネさんが嘘や誤魔化しを口にしているようには見えず、ミツキは思わず頭を押さえた。
 普通に考えれば、幽界樹を斬っただなんて話は信じ難い。だがクーネさんは宝剣マフダルを携えている。
「幽界樹を斬ることが目的の旅だったの?」
「いや、それ自体が目的だった訳ではないよ。ただ、そこに幽界樹があったから……オルセンの時と同じように倒せると思ったんだけどなぁ……」
 生えかけで不完全だったオルセンの幽界樹と、成長しきったダルトートの幽界樹では違った、ということなのだろうか。
 そうして、ダルトートの外を徘徊するようになった『分かたれし幽界樹』の実を植え付けられたクリーパー達が、ヴィントに向けて南下してきている……そう考えれば現在の状況に、説明はつく。

「幽界樹を中途半端に破壊したせいで、皆に迷惑をかけて本当にすまない。もちろんクリーパーを一緒に倒すため、協力は惜しまない」
 この事態を解決するため、出来る限りのことはすると神妙な顔で告げるクーネさんだが、彼女の持ち込んだ爆弾に、バルディオンは新たな頭痛の種を抱える事となる。
「つまり、南下しているクリーパーを食い止め、分かたれし幽界樹を打倒する必要がある、と」
「北と南の連携は、それからという事になりそうね」
 ナハティガルの言葉にミツキが呟く。クーネさんによって生み出された分かたれし幽界樹によって、南北が遮られる状態と化している以上、先に分かたれし幽界樹に手を付けなければなるまい。北部を気に掛けるベルクやギーゼラ達もそれに頷いた。
(しっかし宝剣マフダルがあるとはいえ、一人で幽界樹を真っ二つにするとは……クーネ、あんた一体何者なんだ?)
 未だ素性の不確かなクーネさんを、ハヤトはジッと見つめていた。

マスターコメント

・霊船グロムレイ突発釣り大会、一番大物を釣り上げたのはトーラさんでした。 (賞品はありません。なお、めっちゃクーネさんに悔しがられました)  トーラさんの意向で、余った食材はヴィントの皆さんに贈られました。 ・分かたれし幽界樹については、革酎マスターの「【帝国】ロモズ歩兵団、北へ」前後編などでも取り上げられていますので、そちらもどうぞ。
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:無し15 / 4〜25人

2021年09月23日 19時21分41秒 公開

成功

相談掲示板

  1. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 とりあえず、霊船グロムレイで釣りをする予定だぜ。 ・・・で、質問なんだが、霊船グロムレイでの釣りの判定ってダンジョンアタックと同じ考え(ルール)って考えで良いのか?

  2. ミツキ・アインホルン

    キャスターのミツキよ。よろしくお願いするわ 私は面会での立ち回り中心ね。上手くいくよう、頑張るわ >釣り どうなのかしらね。多分一緒だとは思うけど……

  3. トーラ

    シーフのトーラです。 わたしもグロムレイでの漁に参加させて貰いますね。よろしくお願いします! >釣り おそらくですけど、ダンジョンアタックと違って行動(プレイング)で修正がついたりするのではないでしょうか? ただ、グロムレイは一人でしか入れない仕様なので、協力が出来るかは怪しいかなという気がします。

  4. ギーゼラ

    ヒーラーのギーゼラです。よろしくお願いします。 漁で獲れたものを手土産とするなら、面会というより、食事会になりそうですねぇ。 フフフフフ、お堅い面会よりも、食事をしながらの方が口が軽くなりそうでいいです。 うっかり機密事項を喋ってくれるかも! というわけで、僕は料理と給仕に回りたいと思います。

  5. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 俺は将軍とクーネさんの面会に同席させて貰う予定だ。

  6. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。 今回はヨロシクね! ボクは霊船でバルディオン将軍への手土産をGET出来るように頑張るよ~。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0