【学乱】学園最強は誰だ! 学園無差別武闘会!!

馬車猪

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オープニング

●
 大陸中のエリートが集い、切磋琢磨するのがパンクリアース学園だ。
 学園生には授恵者も多く含まれ、各国の精鋭に匹敵する者までいる。
 その中で誰か最強かという話題になると、少しの嫌悪と共に語られる名がある。
 実家(伯爵家)も本人も徹底した貴族派である、セニャ(セニアーラ)・リーラントである。
「軍を動かせる人が1番強いに決まっているわ」
 学園最強候補の1人であるはずのセニャは、何を言ってるのこの子はという目を質問者(今年入学の男爵令嬢)に向けた。
「えっ、けど、セニアーラ様は」
「個人では統率のとれていない零細亜人部族を1つ潰すのも大変なのよ。個の強さに拘(こだわ)るのは趣味の領域ね」
 学園生である意識が薄く、私兵軍(リーラント領軍)の一員として動くことの多いセニャの意識は学園一般からズレていた。
「できれば学園最強候補の意見を聞きたいわ」
 上品な仕草でぽっちゃり(ようやく普通の肥満体になった)令嬢を見る。
 健康運動部で必死に汗を流す公爵令嬢は、授恵者でもないし武力をふりまわす人間(ヒューマン)にも見えない。
「ここは学園ですわ、セニアーラ様(新入生に不必要な知識を教えて遊ぶのは止めなさい)」
「そうね。確かにそうだわ(猫を被るのも度が過ぎれば害になると思いますよ)」
 貴族としての経験が浅い新入生や男爵令嬢達には理解できないが、それなりの家柄の貴族派令嬢には心臓に悪い光景だった。
「セニャさん! セニャさーん!!」
 貴族派令嬢のサロンと化した健康運動部貴族用部室に、生まれも育ちも平民な学園生(授恵者)の声が響く。
「マズイですピンチですヤベーです!!」
 普段全く運動していないので、制服は汗まみれで髪型も崩れている。
 しかし握りしめたチラシだけはしっかり保持している。
(ちょっと、緊急ならこっち(テレパス)を使いなさい)
「そんな余裕ないです。これ見てくださいコレッ!!」
 しわくちゃになったチラシを広げる。
 それを見た瞬間、セニャの表情はひきつりぽっちゃり令嬢の目が冷たく光った。

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 参加資格はなし。老若男女関係なく正々堂々戦いましょう

●
「勝っても負けても得のない……いえ、まず優勝できないから私にとっては損しかない戦いよ」
 セニャは演技でなくため息をついた。
「セニアーラ様は強いのでは?」
 貴族用部室に秘密裏に招かれた冒険者ギルド職員が、鳥肉料理の大皿に挑みつつ雑に応える。
「最近の冒険者の強さを知らないと思ってるの?」
 セニャの視線が冷たくなる。
 出会った当時なら複数人相手でも圧倒できただろうが、今では一騎打ちでも無視できない確率で負ける。
 複数回戦うことになるトーナメント戦では、決勝に出場するためには余程の運か策謀が必要になってしまう。
「個人の武勇なんて、強そうというイメージを保てる分あれば十分なのよ」
 学園で真剣勝負に追い込まれた時点で負けなのんだしと、伯爵家の令嬢としては十分な認識を口にする。
「セニアーラ様、事態は思った以上に深刻なようです」
 公爵(ぽっちゃり)令嬢が報告書をテーブルの上に戻す。
「貴族派の教師も複数、この武闘会に関わっています」
 態度は普段のままに見えるが、目だけは普段から想像もできないほど厳しい。
「貴族派教師? 一体何の目的で……私の得手不得手は既に知られているから、対策され(メタを張られ)たら5割で負けるわよ」
 セニャは回避特化の物理攻撃型だ。
 命中のみに特化した相手には非常に弱いし、魔法防御を諦め物理防御に特化した相手にも弱い。
 回避に関係なく当たる魔法攻撃にも弱く、実現するかどうかは別だが対策はいくつもあるのだ。
「冒険者(聴講生)を甘く見ているのでしょう」
 職員は、汁まで綺麗に拭き取った皿を見て寂しげだ。諜報対策のため、お代わり禁止なのだ。
「セニアーラ様に手を汚させる(冒険者に暗殺等しかけさせる)つもりでしょう」
 セニャ個人と友誼を結んでいるので、演技の必要のない場でも呼び方を変えない。
「彼等(過激派)が愚かな選択をするのは、冒険者(聴講生)の実力を測り損なったのが大きな原因です。私もセニアーラ様から聞く前は半信半疑でした」
 薄い陶製カップを傾け、砂糖も蜂蜜も入っていないことに気付いて表情が虚ろになった。
 重苦しい沈黙が発生する。
 貴族派伯爵令嬢も、貴族派公爵令嬢も、ギルド職員も、口にできる言葉を見つけられない。
「えーっと、それってつまり学園の貴族派って馬鹿ばかりってことなんじゃ?」
 生まれも育ちも平民な学園生(授恵者)が現実を口にしてしまった。
「セニアーラ様(部下の躾けも出来ないの?)」
「借り1でいいわ(後で埋め合わせします)。あなた(平民学園生)には貸し2よ。そろそろ学園内の仕事だけじゃ支払いが足りなくなるから注意しなさい」
「なんでぇっ!?」
 涙目の平民は無視された。
「この件(無差別武闘会)に関わっている貴族派とその同類を、仮に過激派と呼びましょう」
 ギルド職員が話を本題に戻す。
「過激派は、この件(無差別武闘会)以外でも失敗を繰り返しています。馬鹿とはとても言えないナハティガル伯爵も冒険者を嵌めようとして逆襲を受けましたし」
 公爵(ぽっちゃり)令嬢と伯爵(武闘派)令嬢が紅茶を噴き出しかけて咳き込んだ。
「あの炎上事件」
「そういう真相だったの!?」
 暴露された事実に衝撃を受ける。
「セニアーラ様(過激派を切り捨てて生き残りを図るべきよ)」
「そうしたいけど(臆病者の評判は致命的ですよ)」
 何もしないのが最悪の選択とは分かってはいるが、いくら考えても良い案は出ない。
「一騎打ちじゃなくて複数対複数の戦いにすればいいんじゃないですか? 強かったけど組んだ相手が弱かったから負けたって言い訳できません?」
 貴族の面子(プライド)についての理解が浅い平民が、最も速く打開策(ひどいやり方)に気付く。
「貸しは1でいいわ」
 セニャともう1人の令嬢は目配せで交渉を終える。
 パンクリアース無差別武闘会のルールがいきなり変更になる、前日の光景であった。

●
「冒険者のみなさん、ここが参加者受付です」
 パンクリアース学園の第一訓練場で、冒険者ギルドの職員が受付をしている。
 縦横20メートルの試合場が4つ、観客席はもちろん貴賓席まで完備という充実っぷりは武闘会場という異名に相応しい。
「参加条件は冒険者1名以上を含む5人以下の組をつくることです」
 2人組つくってー、という方向性の嫌がらせではない。
 単独で挑んで己の力を世に示しても良し、5人の冒険者による圧倒的な戦闘力を見せ付けても良し、学園の戦闘系の部から何人か誘って訓練目的で参加しても良しという武闘会だ。
「かなり予定を詰め込んでいますので、武闘会の間はスキルは回復しません」
 試合と試合の間隔も短く、治癒術(ヒール等)は使えるが冒険者以外は疲労が残った状態で戦うことになる。
「試合開始前に術(バフ)をかけることもルール違反ではありません」
 ただ、司会者や解説者のやり方によっては、術(バフ)の無駄遣いになってしまうことも有り得る。
「再起不能者または死亡者が出た場合は、故意かどうかに関係なく失格になります」
 冒険者同士の戦いなら、故意に殺そうとしない限りまず死者はでない。
 しかし非冒険者の授恵者学園生は、基本的に冒険者ほど頑丈ではないし動きも拙い。
 かなり気を遣う必要があるだろう。
「賞品についてですが」
 優勝しても賞品も権利も得られない。
 ただ、エリートが集うパンクリアース学園で、どんな形でも1位になったという実績は非常に大きいはずだ。
「説明は以上です」
 職員は深々と頭を下げる。
 冒険者ではない学園生(授恵者)も、続々集まりつつあった。

解説

●成功条件  死者と再起不能者が発生しないこと。 ●役割 ・参加者  プレイングで特に役割が書かれていない場合は、自動的に参加者になります。  組むつもりがあるかどうか判断できなかった場合、単独での出場者として扱われます。 ・司会 ・解説 ・審判  希望者多数の場合は、試合ごとに司会や解説や審判が交代することもあります。 ・救護班  負けた選手(ドクターストップを含む)の治療を担当します。  やり方次第で、上記の役割よりもさらに目立てるかもしれません。 ●試合場  縦20メートル横20メートルの頑丈な平面です。 ●試合形式  トーナメント戦です。  試合は、降参するか、半数以上が戦闘不能になった側か、救護班によるドクターストップがかかった側か、反則した側が敗北になります。 ●冒険者以外の参加者  第一剣術部、第二剣術部、弓術部、第一ダンジョン部、第二ダンジョン部の授恵者達の一部です。  それぞれの得意分野は、部活の名前から想像出来る通りです。  冒険者の実力を示せば、冒険者と組みたがる学園生は多いでしょう。 ●セニャ  冒険者から誘われない場合は、同行者を見つけられず単独で出場します。  5人以上から誘われた場合はプレイング(口説き文句)判定です。

マスターより

 PvPです。  派手にいきましょう。

リプレイ

●
 予想を超えた盛況であった。
 立身出世を夢見る個人から派閥の命令を受けた集団、そして一部の暗部までが学園の武闘会に集まっていた。
「雑音を気にする必要はありません。ルールを破った脅威は、私と私以外の冒険者が鎮圧します」
 ノックス・マグナは第2ダンジョン部有志を前に最終打ち合わせを行っている。
 気付いた他の冒険者や、エーテルリンク中のペットがこくりと頷き監視に適した場所へ移動した。
(帝国出身の身として、学園に能力のある者が入学を許される環境は望ましいことですね。平民に優秀な人材が増えれば王国は変わらざるをえなくなるでしょう)
 だから貴族派はことごとく倒す。
 ノックスは、政治的思惑でも動いていた。
 そして快進撃が始まる。
 罠は事前に見抜いて脅威は文字通り射貫いた後はやる気あふれる学園生(ダンジョン部)に任せてトーナメントを勝ち抜く。
 貴族の面子を必要以上に潰さないよう、半数を倒す(勝利条件を満たす)とき取り巻きだけを倒すこともする。
 が、快進撃も冒険者に当たるまでだ。
「いけますよノックスさん!」
 士気が最高潮のメンバーに、ノックスは表情を変えないままうなずくが負けをほぼ確信している。
(チームの相性が最悪です)
 実際に最悪で、光の六角柱が1つ立った瞬間勝敗が決まった。
「卑怯とは言わせない。私も全力を出しているだけだ」
 光縛封使用直後のサマエラ=フォリウムが第2ダンジョン部を攻撃する。
 4人中3人が授恵者とはいえ、苛酷な戦いを何度も乗り越えてきたサマエラとは格が違いすぎる。
「すまないが」
 手加減はできない。
 ノックスが戦線復帰する前に倒さねば負けるのはサマエラだ。
 朱殷の霊刀が学園生としては十分な性能の防具を切り裂く。
 物理防御は何の役にも立たない。
 サマエラも致命傷や後遺症に繋がる傷は避けてはいるが痛みまでは考慮できない。
「ああっとォー!? モブス(学園生の)選手が危険な角度で倒れたァー!! あれは痛いですね。そしてサマエラ選手、早い! 速い! 疾いーッ!! 紅の暴虐が試合会場を赤く染める、神速の武器捌きだァーー!!」
 実況のサリア・ウェントスがコミカルに盛り上げてくれないと子供が泣きそうな光景だ。
 十数秒経過すると、涙とそれ以外を流す授恵者が試合場の上で呻いていた。
「【第2ダンジョン部】の5名中3名が戦闘不能。サマエラ選手の勝利です」
 整った容姿のイデアが審判をすると非常に華やかだ。
 外見とは逆に徹底して事務的かつ機械的なのが、華やかさだけでなく武闘会の権威と公正さを感じさせる。
「時間がないからどんどんいきますよー!」
 勢いだけで司会しているよう見えてもサリアの大会運営は堅実だ。
 目配せでサマエラの了解を得て、ルールの枠内で順番を変更して問題を回避する。
「【エルヴェンアルヴ】! 2人組での参戦です!!」
 華やかなヒューマンが1人とエルフのララノアが登場する。
 眼鏡を外して黙っていれば神秘的美貌のエルフであるのに、瓶底メガネとあがり症の組み合わせがララノアの輝きを曇らせている。
「美容と健康に香草茶! リブラネスタのエルヴェンアルヴ出張販売! 生徒会選挙で出店予定の店の宣伝を大会側にさせる強い心臓の持ち主だ!」
(あ、あら? お店の紹介の場ではなかったでしゅ?)
 ララノアは動揺して明後日の方向を向き杖を構えて震えていた。
「生徒会総選挙期間はハーブティーのお店の給仕をやってるから皆来てね!」
 豊かな夜色の髪と健康的な色香の肢体が目立つエミリア・シバは、ララノアのフォローと宣伝を同時に行っている。
「2対1でも手加減はしないわ」
「当然だ」
 向き合うエミリアとサマエラの目は真剣だ。
 イデアが戦闘開始を宣言する。
 速度(INI)に優れたエミリアがサマエラの後ろに回り込み、有利な位置から生命を削った。
 サマエラは動揺しない。
 大火力を操るだろうエルフ(ララノア)目がけて突撃する。
「ひぅっ」
 ララノアは痛みを感じ、しかし現実逃避も物理的な逃避もしない。
「え……ぇえい!」
 追い詰められたらとりあえず焼けという、おばあちゃんの実践的な教えに従った……のかもしれない。
(被害は大きいが、まだいける)
 サマエラは魔法にも強い。
 しかも高度な治癒術を修め、かなりのダメージだったはずなのに完全に回復させた。
「リヴァーオブヴァイタルね。使えるのは後1度かしら」
 エミリアは冷静に彼我の力を把握している。
 貴族派のような悪質な偵察をしなくても、冒険者ならこの程度推測できて当たり前だ。
「どうかな」
 サマエラは炎を朱殷の霊盾で耐える。
 ララノアへの攻撃は続行するが、ヒーラーであるララノアは防御面でも優れており生命を削りきれない。
 ダメージが蓄積しすぎたのでリヴァーオブヴァイタルで回復。
 ララノアも自らを回復する。エミリアは回復をララノアに任せて攻撃を続行する。
 回復が間に合わなくなるまで、長い時間はかからなかった。
「サマエラ選手の戦闘不能を確認。【エルヴェンアルヴ】の勝利です」
 イデアは判定を下し、その上で付け加える。
「念のため医務室へ向かって下さい」
 万一(死者発生)があると大問題なのだ。
 大会運営からの強い要請に従い、【エルヴェンアルヴ】の2人は会場を去った。

●
「すまん無理だ」
 イズル・M・ヴォルゴールはエミリア達に頭を下げた。
 観客席から見えないよう用意した天幕(救護室)には、ヒール1回でほぼ癒えた負傷者や、体は癒えても心に受けた傷はまだな負傷者が大勢いる。
「あのっ」
 ララノアはほとんど無意識に手伝いを申し出る。
 イズルは謝絶し、大怪我がないことを確認してから2人を試合場へ送り出した。
(予想が当たって欲しくなかったんだよなー。学園生以上に冒険者が羽目を外すとは)
 冒険者に悪意も殺意もないが自重もなかった。
 無論、冒険者は悪くはないのだ。強すぎる冒険者に刺激された学園生や、各種の派閥の人間が問題なだけである。
「応援です!」
「よし、負傷の程度が軽いのにはそこの煎じた薬草を使ってくれ。ヒールは選手が新たに担ぎ込まれるまで温存だ」
「まだ試合、半分くらい残ってますよね?」
 王都から連れて来られたヒーラー達が、舞台裏(救護室天幕)の惨状を目にして表情を引き攣らせた。
「派手な術や技が飛び交うのはこれからだ」
 イズルの指摘に、彼女(ヒーラー)達が顔を青くしていた。
(減りましたね)
 ティトと共に試合場に上がったセロンガード・シュタインドルフは考える。
 王党派を称していたチームは激減し、貴族派に至っては数えるほどしか残っていない。
「負けない、よ!」
 ティトは気合い十分だ。
 貴族派を自認するセロンガードはどこまで頑張るか数秒考え、まずは勝ち残ることだと現実的な判断を下した。
「ララノアちゃん、気をしっかり持って」
「でも……」
 再び冒険者に当たることになったララノアがショックを受けている。
 しかも今回は同数だ。
 非常に強敵で、勝っても負けても痛い目にあうのは間違いない。
「試合開始です!!」
 サリアが宣言した瞬間、4人が動いていた。
 ララノアの魔法は相変わらず強力だ。
 セロンガードが直撃を浴び、ティトも爆炎に巻きこまれそうになる。
(これなら……いける、よ)
 回避優先の(回避集中を行う)ティトが上回る。
 どれほど強力な攻撃でも当たらなければ無意味だ。
 試合をひっくり返す威力を秘めた炎を一目で把握。
 爆炎のわずかに薄い箇所を思い切りよく突っ切り、しかしエミリアに迎撃され刃の猛攻を受ける。
 回避と命中はどちらが上かで結果が残酷なほど違う。
 今回はエミリアが上回り、回避が高い分防御が薄いティトが圧倒的手数(トリプルファング)で血塗れになる。
(相性、ですね)
 多数の実力者が参加したこの武闘会で、飛び抜けて技術(命中)が高いのがセロンガードだ。
 回避スキルを使うセニャに、まぐれ当たり(クリティカル)以外で当てる可能性があるのは彼だけだ。
 だから、セニャほど回避に特化していないエミリアには高確率で当たる。
 しかも範囲攻撃だ。
 ララノアも巻き込んでいる。
 しかしシーフのエミリアよりヒーラーのララノアの方がかなり頑丈で、倒すには時間がかかりそうだった。
「参ったわね」
 ティトが倒れるよりほんの少しだけ早く、エミリアは矢傷に耐えかね戦闘不能を宣言した。
「あわわ」
 性格は気弱でも戦闘スタイルは前のめり(やられる前にやれ)なララノアが大きな炎弾を放とうする。
「こ、これも経験でしか?」
 気絶直前のティトが肉迫する。
 猛烈な連撃がララノアを苛み、しかし豊富な生命力を誇るララノアは泣きはするが倒れない。
「怖いけど……えっおー! なので」
 ぷすり。
 怖いほど滑らかに、セロンガードの矢がララノアのふくらはぎを貫き試合場の床に射止めた。
「ドクターストップです」
「戦闘を中止して下さい。従わない場合失格です!!」
「すみません通して下さい! 両チームに……負けたチームにだけ? いいのですか?」
 ネーヴェ・グラヌローザを先頭にヒーラーが雪崩れ込む。
 最後の魔法は使われずに終わった。
 判定で勝利したティトとセロンガードは、回復手段がないため死にかけにしか見えなかった。
「囲めぇ!」
 その程度では手加減にもならない。
 次の戦いでティト達とあたった貴族派授恵者達は、開始直後に心を叩き折られる。
 一度も当たらないのだ。
 剣も矢も魔法もティトの足に全く追いつけず、逆にティトの連撃は常に当たる。
(せまい、よ)
 ティトが速度(移動5)を活かして敵の攻撃を受ける機会を減らし、まぐれ当たり(敵のクリティカル)を少しでも減らす努力をしていることにも気づけない。ティトが試合場の狭さに苦労していることもだ。
 すっかり混乱してしまった集団は、セロンガードが射かけるとあっさり崩壊して敗北した。
「準々決勝です。みなさんは出場者を当てることができたかな? 賭け事は先生方にばれないようお願いしますね!!」
 学園生の一部がこっそりしていた賭け事を暴露させつつ、サリアが次の試合も解説していた。
「学園での舞踏会と聞いてやってきたのですが……何か違う気がしますね?」
 フリーダ=ブロムヴィストの脳裏に閃光のようなイメージが現れて消えた。
「聞き間違……この後失敗しないなら……イベント大爆発(大量発生)、かも?」
 神(多分神)からの啓示は相変わらず難解だが今やることは変わらない。
 ティトの圧倒手数を圧倒的な防御力で防ぐ。
 もちろんダメージは受けている。与えるダメージが圧倒的に大きいだけだ。
「矢は痛いですが」
 少しだけだ。
 セニャ(回避特化)に単独で勝てたはずのセロンガード(命中特化シューター)は、フリーダのウォーリアらしい高度な防御と生命が非常に苦手なのだ。
「イヴェールさんにとっての本番は次です。ここは我慢にしどころですよ」
(低確率で新規の事件群(キャンペーン)の発生? 最終的に悪いことにはならないのでしょうが……)
 倒れたティトを超えてセロンガードのバスターアローが襲いかかる。
 キャスターのような軽防御にとっては致命的な威力と射程と精度だ。
 が、ウォーリア2人にとっては痛打ではない。相性が良すぎて、悪すぎた。
 試合は、順当にフリーダ達が圧倒した。

●
 とうとう準々決勝である。
 わずかに残った非冒険者はセニャすら少しは疲れている。だが冒険者は全員元気だ。
「今この時は、ただ戦士として堂々と戦いましょう!」
 ハリス・アル・ターミルが元気かつ正々堂々挨拶する。
 フリーダは平然としているが、全員冒険者で2vs5だと絶望的なほど不利だと悟っている。
「私に用みたいね」
 セニャがイヴェール・イリュジオンの前に立ち、戦いが始まった。
「スキルなしで拮抗ですか」
「温存はしているけど全力だよ」
「分かっていますとも」
 フリーダが4人相手になんとか時間を稼ぐ。
 ハリスは切り札中の切り札(ドラゴンチャリオッツ)を温存しているのですぐには決着はつかない。
(あら、貴族にしては礼儀が欠けてるわね。イリュジオン……はじまりの百家の? 貴族として返り咲く気があるなら別の手を勧めるわ)
 セニャの細剣はイヴェールの鎧でほぼ防ぐことができる。しかし防いでも無視できないダメージが残る。
 手数は圧倒的に違い、イヴェールの命中重視の剣もセニャに届かない。
(ダリアゾルフ公爵家という名前に聞き覚えは? 最後の当主が外法を用いてっ)
(私に殺気を向けているのはその件? 私の先祖が悪質な策で資産か情報を奪ったとしても驚かないし謝らないけど)
 特徴的なピンクの髪が高速回避で揺れ、金の紫の瞳が冷たくイヴェールを観察する。
 イヴェールが足と盾に力(エーテル)を溜める。
 痛みを無視して威圧感を放ち牽制し、しかしセニャはひっかからない。
「ハリス、この人ドラゴン使いよ」
「ごめん時間稼いで」
 ハリス達は闘気槌による猛反撃に耐えフリーダに場外負けを強いる直前だ。
「その口ぶりだとメドゥの指先の関係者についてかしら」
 セニャは声の大きさを通常に戻す。
 非授恵者なら兵士にすらなれないはずの体格から、並の騎士をはるかに上回る速度と力の刺突が繰り出される。
「私が何を言っても信じられないでしょうけど」
 イヴェールは加速する前に連撃で追い込まれ、狙いを付けていたハリスが間合いから外れる。
「うち(リーラント)は経営がうまくいっているの。付き合いが王家への弱みになる輩に接触する気はないし」
 イヴェールの片膝が地面に落ちかける。
 セニャは向きを不規則に変更させつつ素の能力で攻め続ける。
「万一接触があっても露見する前に始末するわ。試合みたいに途中に止めずにね」
 フリーダが場外になると同時に、イヴェールの眼球から1ミリの距離で細剣の切っ先が静止していた。

●
 歓声が響く。
 誰も足踏みなどしていないのに、一般観客席はもちろん貴賓用の席でも揺れを感じる。
「試合場には近付くんじゃないよ。不正を疑われたら成績や実家の名誉が傷つくってこと、忘れるなよ?」
 司会を引き継いだルチル・プルメリア・グレイハーツは、冗談めかした口調で最後通牒を送る。
 貴族派のチームがことごとく敗退して今にも暴れようとした者達が、顔を真っ赤にしてそれぞれの席へ戻っていく。
「次は準決勝第2試合だ。東が【四葉】! そして西がっ」
 口を閉じて歓声が弱まるのを待つ。
 緊張感が試合場周辺へと広がり、騒ぎの音量が小さくなり生唾を飲み込む音がいくつも生じた。
「【メタ強】だ! メンバーは徹頭徹尾貴族らしい貴族学生セニアーラ・リーラント! そしてブレイブファング傭兵団団長ハヤト=ガラン=ヴォルファング!」
 傲然と試合場を見るセニャ(ヒューマン)と、大陸の学問の中心でにやりとするゴブリン(ハヤト)の組合せは新しい時代を感じさせる。
「今の所2人は目立ってないが、次は否応なく目立つだろうぜ。続いて」
 歓声が爆発する。
「圧倒的なタフ(頑丈)さを見せ付けるハリス・アル・ターミルッ!! そして攻防回復全てに活躍中のトゥーリ選手だ!!」
 重要部位のみを守る鎧のリザードマン戦士(ウォーリア)が、騎士槍を軽々片手で掲げたトゥーリ(ハーフビースト)を片手で支えつつ手を振っている。
 トゥーリが飛び降りてもハリスの上体は揺れない。トゥーリの圧倒的身体能力は着地の瞬間も蹄に音をたてさせない。
「そして戦士(ウォーリア)殺しのエフィルミアだ! 重装甲には毒撃を撃ち込んで時間経過で勝つ! 回避上手のメンバーとの連携は圧倒的! 次の戦いでも魅せてくれるかっ!?」
「毒って便利でしょう?」
 既にスキルがほぼ尽きていることに気付かせず、エフィルミアが熱狂する観客に愛嬌を振りまき会場全体を誘導した。
「続いて西の……おーっとこれは」
 司会(ルチル)は途惑うふりをして熱気に燃料を注ぐ。
「事前のドクターストップだ! ドクターストップの要請がヒーラーから出たぞ!!」
 紹介の順番待ちでいつも以上におどおどしていたリディリディ・トゥラ・イェレミースの顔色が酷い。
 なお、魔力に対する感覚の鋭い者達(授恵者)は、リディリディから噴き上がる巨大な魔力に強い緊張を強いられている。
「即死の可能性があります。装備を低品質の品に換えるか、超魔法や高速展開式超魔法の使用を取り止めてください」
 死体じみた貴族派選手を完全に癒やしてきたネーヴェからの進言に、司会(ルチル)が応える前に観客全体が納得する。
 なお、リディリディはすっかり混乱してエルフ耳がいつも以上に下がって目も涙目である。
「確かにな」
「全快魔法(リヴァーオブヴァイタル)も死体には効かないものね」
 【四葉】のメンバーであるアーシェル・G・クラインとリサ・ベイカーが救護班からの要求を受け容れる。
「大丈夫だ、俺達がついてる。楽しもうぜ」
 アーシェルは頼り甲斐のある笑みでリディリディを落ち着かせた。
「では相手方のドクターストップの判定に超魔法や高速展開式超魔法の分を……はい、ありがとうございます」
「おーっと、良かったなセニアーラ選手!」
 死ぬ可能性があったのは、セニャだけであった。
「審判は引き続き、私イデアが担当します。準決勝第2試合開始まで後10秒……5秒……始め」
 【メタ強】は試合開始時点で散開を終えている。
 だが試合場は縦横それぞれ20メートル。
 メテオライト3(直径15メートルの範囲攻撃)から逃れるのは実質無理だ。
 複数の小さな光弾は、色も眩しさも通常と変わらないのに生者の生存本能に悲鳴をあげさせる禍々しさだ。
 しかも狙いが異様に正確だ。
 リディリディはただよく狙った(攻撃集中した)だけのつもりでも、圧倒的な魔力と魔法技術がある彼女がすると文字通りの必殺技になった。
「ハリスさん!」
 跳ねとばし(ドラゴンチャリオッツ)を取り止め(キャンセル)してハリスがトゥーリを庇う。
 並の魔法なら防具なしでも耐えられるはずのハリスが、魔法的にも十分な防御がされているのに鱗を砕かれ肉を抉られた。
 トゥーリは最強の札(リヴァーオブヴァイタル)を使う。
 ヒールなら時間がかかる治療が一瞬で完了した。
「おい!」
「出し惜しみはしないわ」
 ハヤトもセニャも迷わずとっておき(残り1回分しかない神眼法)を使う。
 リディリディにとってはバフ不十分でも2人にとっては十分に怖い一撃が、神眼法で強化された回避能力でもぎりぎりでしか躱せない。
 次は回避不可能だ。
「いくぞ」
 どういう状況でどの戦術を使うかは戦う前に決めている。
 ハヤトの拳打蹴撃とセニャの細剣が、一般的剣士の3倍の速度で数合わせ(【四葉】の非冒険者授恵者)を打ち倒した。
 5vs5から5vs3。
 5vs2になった時点で決着だ。
「後少し付き合ってもらうぞ」
 金と赤のオッドアイが暗闇めいた気配を帯びる。
 アーシェルはリディリディの守り以外を切り捨てて、【メタ強】へ闘気槌による範囲攻撃を送り込む。
 アーシェルの練度(レベル)は冒険者最高峰(レベル30)ではない。
 しかし回避が得意なシーフに防御集中を強いる精度はある。
(試合独特の制限付きとはいえ、やるものだ)
 カバリングが5秒に一度程度しか使えないのがもどかしい。
「楽しくやるのが一番! でもどうせやるなら、最強目指したいですよね?」
 エフィルミアの魔法の糸が、アーシェルの体を縛って攻防を邪魔した。
「怖いのはキャスターと、ヒーラー」
 リサはリディリディの魔法を見ても助っ人が倒れても驚かず最適の策を使う。
「手数でキャス」
 言葉ごとトゥーリが光の六角柱に封じ込められる。
 リサの強力な魔力が反映された柱は、強力な魔法攻撃で集中攻撃しない限り壊れない。
 これでトゥーリはこの試合から脱落(15秒間戦闘参加不可能)だ。
「ならこうだ!」
 守るべき相手を失ったハリスが前進。
 糸で邪魔されている最中のアーシェルに体当たりを敢行する。
 アーシェルは防御には成功する。
 しかしドラゴンチャリオッツによる衝撃には耐えられない。
 特になめらかな訳ではないが平坦な床を滑り、場外を強いられた。
「リディリディさんは攻撃に専念(リソース全部使って)! あなた達、お願いそのままで(伏せたままでいて)」
 リサは事前の打ち合わせ通りの指示を出し、攻撃ではなくリディリディの守りに専念する。
 シーフ3人の猛攻は悲鳴をあげたくなるほど痛く、しかも手数の差で守り切れずにリディリディに打撃が向かってしまう。
(だめ……まだ……)
 発動だけは間に合った。
 エフレムなどの例外を除けば、現時点で事実上の最強攻撃術が【メタ強】を襲う。
 ハヤトが舌打ち。
 反応強化では回避の増強が間に合わず、脇腹を撃ち抜かれて横向きに倒れた。
 重く鋭い2本の杭(細剣)が、リディリディの喉と左胸に軽く触れて止まる。
「ハヤト選手とリディリディ選手を戦闘不能と判定」
 戦闘の熱さと観客席の興奮とは対照的に、イデアの審判と態度は機械的で、揺るがない。
「【四葉】の半数以上の戦闘不能を確認。【メタ強】の勝利です」
 既に言葉ではない音が爆発した。
 観客席では興奮のあまり失神する学園生までいる。
「1つ、聞いていいですか?」
 敗北を噛みしめ、しかし顔は伏せずにリディリディが問う。
「セニャは貴族として何を目指してどう振る舞うつもりか聞きたいです。知りたいんです、貴女の前に立つ為に」
 リーラント伯爵子女は、歓声で声が遠くまで届かないのを確認した上で口を開く。
「目的は一所懸命(領地死守と存続)、手段は必要なら汚い手でも、よ」
 偽りをよく使うセニャが、珍しく本音だけを口にしていた。
「生きてる?」
 セニャがハヤトを見下ろし、しゃがみ込みながら剣を持っていない手を伸ばす。
「お貴族様がゴブリンに触れていいのかよ」
 ハヤトがからかう。
 セニャは手を伸ばしたまま渋面になる。
「よくはないけど、肩を並べて戦った相手に剣を向ける趣味はないわ。治療してもらいにいくわよ」
 負傷者の扱い方には、慣れていた。
「負けたか」
 アーシェルは試合場には戻らず、試合場から戻ってきた【四葉】メンバーを出迎える。
「すまないな」
 守り切れなかった学園生に少しだけ頭を下げる。
 すると、学園生は大げさなほど驚き慌てて否定する。
「他のチームは学園生全滅してるのに私達3位か4位ですよ! ここまで守って連れてきてくださってありがとうございます!!」
 心の底から湧き出る笑顔に、アーシェルも釣られて笑ってしまった。
「アーシェルさん、後1戦(3位決定戦)です」
 リサは残っているヒールを全て使って前衛(アーシェル)の傷を治療する。
「最後までよろしくお願いします」
 リサの信頼は全く揺らがない。
 特別な優遇を受けて(冒険者のいないグループで)勝ち上がり準決勝で敗北したチームを相手に、1人も倒れず完勝した。

●
「なんだろうね、準決勝第2戦の淡泊さは」
 司会席のルチルが鼻を鳴らした。
「大きな大会には無粋な隠し味を仕込む者も現れる」
 野性味が強いハーフビーストの偉丈夫、スヴァン=ウォルフ=ユーウェンが冷静に語る。
「だがその程度の雑味で駄目になる選手(カカオ)はいない」
 選手(冒険者)の誇りを説得力溢れる形で語るスヴァンではあるが、言語感覚は独特(使っているのはカカオ言語)だ。
「来るぞ、白と黒のチョコ対決だ!!」
 わぁ、と歓声があがる。
 直前の試合で凄まじい魔法攻撃を受けたはずの【メタ強】が、完全に回復した状態で試合場に上がる。
 ヒールを豊富に準備したトゥーリの戦果である。
「やるからには正々堂々、全力で参りますよ。よろしくお願いします」
 こちらも無傷の【森花風】を代表してコルネリウス・アーラが挨拶する。
 貴族派貴族(セニャ・リーラント)の優勝阻止のため王党派によりトーナメントの組み合わせで優遇された気配はあるが、その程度の些事はお互い気にもしない。
「【メタ強】は1人重体判定で出場出来ないけど4対3で【メタ強】有利だ。【森花風】がどこまでスキルを温存できているかが勝敗に影響するだろうね」
 決勝戦に出場した7人は全員強者だ。
 ルチルは戦力は均衡していると観客へ解説する。
「正々堂々全ての攻撃を受けて、その上で相手に降参させるのってカッコよくない?」
 ハリスの隣で胸を張るトゥーリ。
 細身の体に重量級戦士(ウォーリア)並みの装備を身につけたコルネリウスは、私こそが【森花風】の盾であり鎧であると無言で宣言する。
 イデアが決勝戦の試合場に登場する。
「決勝戦開始まで後10秒……5秒……始め」
 徹底して冷静な言葉で、最後の戦いが始まった。
(光縛封を温存してる? それとも魔法攻撃が本命? 最低でも片方は場外にする!)
 【メタ強】の事前準備は完璧だ。
 トゥーリが仕掛ける。
 エフィルミアが続く。
 【森花風】前衛であるコルネリウスに対し、トゥーリの魔力を帯びた槍が突き出され盾で受け流される。
 即座に続いたエフィルミアの暗器は形見の剣(雪割草の誓い)で弾かれる。
 コルネリウスは的確な位置を維持してイズレンディル・パラリムを守ると同時に、自らも完璧に守っていた。
 本命のハリスが加速する。
 速いのも固いの当たり前。
 防御する側(コルネリウス)にとって最悪なのは、回避特化(シーフによくある型)で無い限り防げない跳ね飛ばし攻撃(ドラゴンチャリオッツ)だ。
 キャスター(イズレンディル)ではなくヒーラー(光縛封の使い手)を狙った一撃に、コルネリウスは超加速(カバリング)で追い付き盾で防ぐ。
 盾で威力は防いでも勢いは消えない。
 つるりとした地面でも耐えられる足が試合場の床で滑り、【森花風】の2人を残して場外を強いられた。
「これはチョコフォンデュの奔流だ! 圧倒的な守りの強さを魅せてきたコルネリウス選手が場外!!」
 4vs2。
 数では【メタ強】の圧倒的有利になった。
(ここだ)
 キーゼは選択の時がきたことを悟る。
 冒険者と同じかそれ以上に強いシーフ(セニアーラ)が1人、おそらくスキルがほとんど尽きてはいるが高水準の回避能力を持った冒険者が2。
 彼女達を狙えば2人は拘束できる。
 しかしそれは間違いなく罠だ。
(勝ちにいく)
 キーゼの目には、勝利に繋がる道が……ただし異様に細い1本の道が見えていた。
「氷室で適正に保管されていたチョコレートのように、来るかキーゼ!!」
 実況のスヴァンの発言内容がほとんど意味不明だが何を言いたいかは分かる。
 すごいものがくる。間違いなくだ。
 キーゼが防御と並行して祈る。
 祈りを起点に力が現実世界に現れ、光の六角柱の形をとってハリス(【メタ強】前衛)を封じ込めた。
「南東」
 キーゼとイズレンディルが試合場の隅へと跳ぶ。
 特にイズレンディルは半歩左右に動くだけで場外な位置だ。
 つまり、【メタ強】の遊撃達がキャスター(イズレンディル)を倒す前にキーゼを排除するしかなくなった。
 場外で1人失格にされた【森花風】が、場外で失格になるルールを逆利用したのだ。
「後一歩っ!」
 魔力を帯びた槍がキーゼの分厚い装甲を抉る。
 エフィルミアは獰猛に攻撃を繰り返してキーゼを圧倒する。しかし短時間では攻めきれない。
「キーゼはまさにカカオの如き硬さ! 【メタ強】もシェアされるチョコの如く華麗に回避しているぞ、やるな」
 キーゼカッコカリと名付けたカカオを隣に置くほどキーゼ推しなスヴァンだが、実況内用は公平にチョコレートづくしであった。
「スヴァンの好物はチョコレート。つまりチョコで例えるという事は最大級の賛辞さ」
 ルチルの発言は多分フォローなのだろう。
 3人の猛攻に見事耐え抜くキーゼに、会場の視線が集中している。
(全員優れた使い手ですね。ですが今は)
 イズレンディルは生命力を術に注ぐ。
 攻撃術(メテオライト)は基本に忠実に。
 高度な精度をできる限り損なわずに威力を高めて目の前の3人に意識を集中する。
「またエルフっ」
 セニャが人間(ヒューマン)離れした反応速度で、光弾を見てから躱す。
 成功はしたが本当にぎりぎりで、高価な素材で作られた足防具に深い傷が入る。
「たぁっ」
 ヤギ状の蹄が足跡をつけて床から飛び退く。
 トゥーリにとってはほとんど偶然。しかし実力と執念が呼び寄せた偶然(回避成功)だ。
 しかし成功は続かず、光弾に直撃されたエフィルミアが床に膝をついた。
「エフィルミア選手戦闘不能。試合は続行します」
 イデアの判定は機械的で、一切装飾のない言葉が観客の興奮を煽る。
 生き残りは3人中2人と4人中3人。
 相変わらず【メタ強】有利かと思われたとき、セニャの足捌きがわずかに乱れた。
 顔色も悪い。普段と異なる戦いと緊張で予想以上に消耗している。
「セニャ、跳んで!」
 トゥーリの声はほんの少しだけ遅れてしまった。
 セニャはもう少しで倒せそうなキーゼに攻撃してしまい、そのタイミングで光弾に狙われ回避が間に合わない。
 狙われたのはトゥーリもだ。
 激痛が体を貫き、追撃を受ければ命に関わる隙を見せてしまった。
(大森林のエルフの評判にも関わる大舞台です。限界ぎりぎりまではやりますよ)
 危険なほど生命力を失っても攻撃を続けるイズレンディル。
 3回目の光弾は、これまでと同じ破壊力を秘めていた。
 ネーヴェが合図を送る。
 イデアが真紅の旗を振るう。
「トゥーリ選手とセニアーラ選手が戦闘不能。試合終了」
「【森花風】の勝利です! 救護班急いで。観客は席を離れないように!!」
 ルチルの言葉は、爆発する歓声にかき消されていた。

●
「負けちゃったね」
 全力を出し切ったトゥーリは爽やかだ。
 団体戦で2位という、当初の目標以上の成績を手に入れたセニャは救護テントの中で頭を抱えている。
「派閥に属したチームが上位に1つも残っていないなんて……」
 勝者は1位の【森花風】であり、上位を独占した冒険者だ。
 ここまで冒険者の割合が高いと2位チームにセニャが混じっていても誤差でしかない。
「大変お疲れ様に御座いました。これから傷を癒やしますね。さ、私達に診せて下さいまし」
 ネーヴェが穏やかな言葉遣いと迫力のある態度で患者(セニャ)を威圧する。
 命の危険があった学園生に使ったので強力な術(リヴァーオブヴァイタル)は既に品切れだ。
 傷口を洗い、痛んだ箇所は固定した上で、最小限の術(ヒール)を使う。
「今回は惜しくも敗退してしまいましたが、必ずや後の糧になりましょう」
 優しい労いの言葉ではあるのだが、ヒーラーとして患者(問題児)を見事に制圧もしていた。
「敢闘賞に続いて優勝者の発表です。コルネリウスさん、壇上へどうぞ。こちらも3人中2人がフィルエス大森林出身の……」
 ただの祭り(武闘会)が、学園に波紋を広げようとしていた。

マスターコメント

 おつかれさまでした。
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 8〜25人

2021年07月15日 21時05分56秒 公開

成功

相談掲示板

  1. トゥーリ

    トゥーリだよ、よろしく! セニャさんを誘う予定だよ。あとは友達が来れたら来てくれるかも……? 頑張ろうね!

  2. キーゼ

    さて、宜しくお願いします。 僕はこういう荒事には向いていませんのでね。おとなしく解説していますね

  3. ネーヴェ・グラヌローザ

    ヒーラーのネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 今回はドクターストップ役も含めた救護班に回るつもりです。全力で治療を頑張りますわ。

  4. イズル・M・ヴォルゴール

    ヒーラーのイズル・M・ヴォルゴールです。よろしくおねがいします。 救護班で参加します。

  5. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。 荒事には向いてないもんで今の所は司会でもやってるつもりだよ。

  6. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    スヴァンだ。 救護班かその他雑用でもするか……

  7. イヴェール・アーチボルト

    イヴェール・イリュジオンと申します。 どうぞ宜しくお願い致します(ぺこり 特に恨みは無いのですが、赤毛でオッドアイという容姿に個人的に思うところがあるので彼女と戦いにきました。 なので参加者になります。

  8. ハリス・アル・ターミル

    ハリスと申します。どうぞ宜しく。トゥーリ殿にお誘い頂き参加致しました。 学園情勢は複雑怪奇にて、ただの農民である私に解せるものでもありませんが…。 それでも、模擬戦なれば互いに力を尽くし魂を磨く機会となりましょう。

  9. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、みんなよろしくな!! 王国の貴族連中に傭兵団を売り込むちゃんすだからな♪ 参戦させて貰うつもりでいんぜ! ちなみにソロで行くか誰かとチーム組むかは考え中だな。 声がかかりゃチーム戦も検討すんぜ♪

  10. ノックス・マグナ

    シューターのノックスです。よろしくお願いします。 少しばかり心が揺れていましたが、リーラント嬢に声をかけようと思います。

  11. No.11

    その・・・、キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします。 ひさしぶりにリーラントさんを見かけましたので参加させてもらいました。 リーラントさんとは相対する形となりますが、お話しさせてもらえればと思っています。

  12. パヴェル・A・サムルガチェフ

    キャスターのパヴェルだ。よろしくなぁ。 こういう手合いはそこまで得意じゃねぇが、やれるとこまでやってやるぜ

  13. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 今回は参加者として参加予定となります。 可能であればチームで行きたいと考えています。

  14. ティト

    シーフのティトです。よろしく、ね。 参加者として出る予定だよ。 ん…いけるところまでがんばる、よ。

  15. No.15

    キャスター、イデアと申します。よろしくお願い致しますね そうですねえ……審判でもしてみようか、と考えております

  16. イズル・M・ヴォルゴール

    >救護班予定の方 個人行動として、救護所に待機してどんな人が運ばれてもある程度は大丈夫なように 準備を整えてようと思っています。 救護所がない場合はそれに準じたものの設置を予定しています。 基本的に救護場所から動かない予定ですが、ドクターストップは現場に出る必要もあるかと思うので、もし必要なら声掛けいただければ検討します。

  17. セニャ・リーラント

    参加者のセニャ・リーラントよ。 正々堂々やりましょう?

  18. アーシェル・G・クライン

    ウォーリアのアーシェルだ。 出場者として参加しようと思っている。 司会がいてくれると盛り上がるし、救護班がいてくれると安心して戦えるな。 頼りにさせてもらうぜ。

  19. サマエラ=フォリウム

    ヒーラー、サマエラ。単独参加予定だ。 勝敗より、経験を積めたらと思う。よろしく頼む。

  20. ネーヴェ・グラヌローザ

    >イズル様 私も救護班として参加予定です。場所を整えて頂けるのは大変助かりますわ。お互い協力して動けたらと存じます。どうぞ宜しくお願い致します。 私はドクターストップ役としていつでも現場に出られるように、天眼で戦況を俯瞰観察していくつもりです。

  21. イズレンディル・パラリム

    エルフのキャスター、イズレンディル・パラリムと申します。 今回はコルネさん、キーゼさんとご一緒させて頂き、参加者として出場予定です。 精一杯頑張りますので、宜しくお願いしますね。

  22. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです。 参加者としてイズさん、キーゼさんとご一緒させて頂く予定です。 宜しくお願いします。

  23. リサ・ベイカー

    ヒーラーのリサです。 アーシェルさん、リディさんと、 学園生誘って参加予定です。 よろしくお願いしますね。

  24. ノックス・マグナ

    貴族派が優勝すると後に影響を与えそうなので方針を変えますね。 参加者として貴族派を打ち負かそうと思います。

  25. キーゼ

    解説予定でしたが、お誘いありましたので、参加者側になります

  26. エフィルミア

    シーフのエフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 参加者として出る予定ですが、チームを組むかソロで行くかはこれから考えます!

  27. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    救護班予定だったが実況をするつもりだ。実況………

  28. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    お声がかかったんでトゥーリとハリス、エフィルミアと組むことになったぜ!

  29. エミリア・シバ

    えーっと、色々と悩んだら表明が遅れたけれど、お店の友達と参加すると思うわ。 【質問】 質問して良いのかわからないけれど、トーナメントってことだけど、一戦ごとにスキルは回復するのかしらね?

  30. イズレンディル・パラリム

    >エミリアさん 回答があればよいのですが、ひとまずOPに 「試合と試合の間隔も短く、治癒術(ヒール等)は使えるが冒険者以外は疲労が残った状態で戦う」 と記載はあります。 明確な記載ではないですが、スキルの回復は無いようには感じられますね。 ご参考までに。

  31. エミリア・シバ

    >イズレンディルさん ごめんなさい、ありがとう。 冒険者がどうなるか少し疑問だったのだけれど、やっぱり普通に回復なさそうよね。

  32. ララノア・グラヌローザ

    よよよ、よそしゅくお願いいたしましで(あせあせ ひ、ヒーラーの…ララノア、でっしゅ!!(がばちょー お友達と…その…参加者として…へぅ。。。 が、がんばりましで…(フードひっぱりひっぱり えっおーーー!!なのでふぃぅん…ッ

  33. サリア・ウェントス

    遅くなったけどシーフのサリアよ、よろしくね! 司会・実況・解説の手が足りなさそうな所を手伝おうと思うわ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0