【CP】迷宮都市のチキン野郎

紀藤トキ

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シナリオID:318

オープニング

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 帝国の冬は、しつこいくらいに言われているが厳しい。王国国境付近まで下ればマシかと言われれば、多少はと答えが返る。いずれにせよ、用意はして困ることは無く、むしろ余分が出る位の方が皆が幸せになるだろう。難民キャンプと言われる一角では、なんやかんやあってずいぶん暮らし向きが上向いてきてはいるのだが、まだまだ余裕はない。
 そんな話を、遠く離れた迷宮都市でも気にしている者はいた。ギルドのネットワークで小耳にはさんでいた受付嬢である。彼女がこっそり依頼の条件につけくわえたのは、ほんの数行の捕足だったのだが。さて、これがどれほどの効果があるのかはわからない。

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 難民キャンプから遠く、遠く離れた迷宮都市エドゥノーグでも、冬に向けた準備は行われていた。エドゥノーグと言えば名物はカエル。足を使った揚げ物やら焼き串はとてもうまい。だが、この時期になると一部の層から決まって出てくる依頼があった。

「チキン狩り」である。

 味はカエルと大差ない気もするのだが、さにあらず。冬の時期にのみダンジョン内に現れる期間限定の迷宮チキン。トサカがあるから雄鶏だと思われる奴が美味なのだ。しかし、奴は雄の癖に雌の陰に隠れて逃げ回る。それどころか迷宮ひよこを盾にしてでも逃げようとする。まさにチキン野郎。相まみえるのはそこそこ難しく、逃がさないとくればなお難しい幻の味であった。その肉を求めて、この時期に迷宮にもぐる冒険者たちも決して少なくない。一発あてたら美味しい。いろんな意味で。だが、幸運の女神に微笑まれる冒険者は決して多くはないのが例年だった。

「そんな時代も今年で終わりだ。いいか、俺達がチキン狩りを依頼する。とはいってもいつものように運に身を任せろというわけではない」

 今年の依頼主は一味違った。なんと。

「相手が逃げ隠れするなら、フロア全域を狩りつくせばいい。俺達はそう気づいたのさ」

 キラリと歯を輝かせるのは、エドゥノーグでシャルガネ料理を出す滝川健次郎氏。タッキーとかケンとか呼ばれている彼の出すフライドチキンはとてもうまい。

「去年は手に入らなかったが、これで今年は焼ける。くっくっく、腕が鳴るぜ」

 整えられた髭を撫でながらニヒルに笑うのは、安い酒場の親父である。なんか帝国の爵位持ちだとかいう噂の彼は人呼んでトリノーブル。庶民の味方だ。それ以外にも有象無象の鳥料理店がこの日を待っていた。エドゥノーグのギルドは受付も広いのだが、全員で押しかけているせいでかなり邪魔である。

「奴が現れるのは地図上のここ、フロアとしては平原に分類される。出現比率は迷宮ひよこ6、迷宮鶏3、そしてチキン野郎が1の比率だ。普段はカエルほど人気の狩場じゃないんで、人はあまりいない。だいたい、200羽ちょっといるはずだ。それを全部、狩れ」

 彼らが言うのは、一匹残らずジェノサイド。結果としてチキンもひよこも皆殺し、という酷い狩り方を提案している。生態系はどうなの? とか心配する必要はない。奴らは迷宮が生み出すよく分からぬ生物だ。一見すれば雄と雌と子がいるように見えているが、冬以外には雌しかいないのに死に絶えないとかいう時点で、まともな生き物であるはずはない。全滅させてもどうせ数日後にはまた増えてるような奴らだ。というか、美味いから細かい事はいいのだ。殺せ。

「おっと、ひよこが可愛いから可哀そうだとかいうなよ。あいつらは素早い。通称は黄色い死神だ」

 そう補足したのは、初老の男だった。家族経営で屋台の旨い鳥を提供する彼は、ファミリーチキンとか、その略称とかで親しまれている。彼の店ではひよこも普段から食材として扱っているらしい。

「ひよこ、雌鶏についてはギルドからも補足させてもらいますね」

 と、受付嬢が言うには。膝くらいまでの小柄な体躯とつぶらな瞳、ふわふわな毛に騙されて一般人がたまに殺されるらしい。滅多にないごちそうに黄色毛玉が食らいつき、毛を赤く染めていく様子はそれはそれは恐ろしいものだったと、目撃者は語る。ひざ丈で肉食のひよことか既に鶏と関係ないだろうと思わないでもないが、これはあくまで迷宮鶏だ。なお、雌鶏の方は人と同じくらいの背丈があり、広場にいる平和の使者にも似た虚ろな目でついばんでくる。とても痛い。あと、蹴られると痛いでは済まないこともある。それだけではすまず、中途半端にダメージを与えてしまうと爆裂する卵を産む。自身を巻き込んで自爆することを厭わないという意味では恐ろしい相手だ。雄鶏を巻き込むことがあるのが収入的意味ではさらに恐ろしい。

「目標の迷宮チキンは、普通の鶏サイズです。だいたい、これくらい」

 これくらい、と受付嬢が両腕で示すサイズは確かに普通。つまり、ほぼ同じくらいのサイズのひよことかなりでかい雌鶏の間をそいつがちょろちょろ逃げ回る、ということらしい。

「いいか。雌鶏は最悪全部吹っ飛んでも構わないし、ひよこは毛ばかりであまりうまくないから捨ててきていい。だが、チキン野郎だけは取ってきてくれ」

 ギラギラした目でそう念を推す、鳥料理店の皆さまであった。つまり、要約するならば。雌鶏と(食べてもおいしい場所が少ないらしい)ひよこはボーナスなので勝手に食ってもいいし、難民や孤児とかに施しても良い。料理してくれと持ち込めば、エドゥノーグの名店がサービスでやってくれるそうな。

「打ち上げはギルドの隣の酒場を貸し切った。つまみの迷宮キャベツくらいは俺達が奢る。鳥を食いたければ自前で獲れ!」

 そういう依頼である。なお、エドゥノーグなり、帝国国境なりに鳥をプレゼントしたい場合は運送費や保存加工費をギルドが持つよ、とのことだ。たとえば、難民キャンプに美味しいチキンを届けることも可能らしいぞ。

解説

●場所 だいたい直径10ヘクス程度の円形の場所が指定された狩場です。こんな狭い場所に200羽のチキンとその一党がひしめいています。 ●特殊ルール ひよこは占有ヘクスを持たず、スタック制限を無視します。 (同一ヘクスに4体までの制限を無視します) オーバーキルの量に応じて美味しさの数値が減ります。死体蹴り良くない。 ●敵 こいつらの無茶な生態は迷宮外では維持できません。生きたまま持って帰っても増えません。 迷宮雌鶏(60) 身長1.5~2mほど。攻撃手段は蹴りと突きで、蹴りはノックバック効果を持ち、突きはそれなりに痛いです。 同一スクエアのひよこやチキンを全てガードするリアクションスキルを持ちます。ダメージは一回しか受けません。 (自分もまきこまれている場合は、自分へのダメージ+カバリングを使用したダメージで二回受けます) つまり凄い性能のカバリングスキルですね、ずるい。 あと、戦闘に際してはリアルタイムでいきなりひよこを生成することもあります。卵の期間はどうした。 体力を半分くらい減らして放置されると爆裂卵を産むそうです。卵は次のセットアップフェイズで爆発します。怖い。 迷宮ひよこ(120) 身長50cmほど。攻撃手段はツッツキのみです。身軽にジャンプして急所を狙ったりします。 雌鶏の羽毛の中から飛び出してくることもあります。移動速度は速いです。こそっと気配を消すのも得意です。 なお、ひよこを数時間放置すると雌鶏かチキンに変態します。 迷宮チキン(20) 身長30cmほど。白い羽毛に赤いトサカの鶏っぽい奴です。 弱いし逃げます。基本的に攻撃はしません。 あまりストレスを与えると美味しさがダウンする可能性もなくはないようです。 ●描写 前半は狩り、といっても授恵者がそこそこ揃えば圧殺できる相手です。 めんどくさいギミックがあるのですが、「めんどくせー!」という描写の為のフレーバーですね。 (昨年までは授恵者も少なく、一般人主体だったので全狩りとかとても無理だったようです) 後半は飲食と、もしも施しをする系であればそういう心情なども可。 だいたいのプレイングの様子を見て配分します。 なお、狩る人が全然いなかったらさすがに失敗しますので、お気を付けください。 それでも迷宮キャベツはギルドが用意してくれます。 塩キャベツだけの忘年会がどうしてもやりたければ、あえて失敗させる選択肢もありです。 鳥料理の主達は泣きますし、判定でも失敗を容赦なくつけますよ!

マスターより

ハッピーユールフェス! え? タグは【聖祭】じゃないかって? ハハハ、こんな立派な難民キャンプ依頼を捕まえてご冗談を。 めっちゃくちゃ緩い戦闘依頼です。参加者次第では戦闘はおまけかもしれません。 迷宮都市でもたまにはカエルじゃなくってチキンを食います。 普段の迷宮鶏は狩りの手間と食える量と味のバランスからカエルに劣ると人気が無いようです。 カエルは負けそうになっても逃げやすいけど、チキン階層はひよこがな……、とか先輩冒険者が言っていたらしいですよ。 皆様ののんびりしたプレイングをお待ちしております。

リプレイ

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「難民キャンプに美味しいチキンを山盛りプレゼントするんだ!」

 気合を入れるエルゼリオ・レイノーラの向こうでは、レオネベルも意を同じくしていた。せっかくの聖祭、美味しいものを食べて楽しく過ごしてほしい。

「地元が、まさか帝国難民への食糧供給に役立てるなんて思ってなかったよ」

 と、迷宮都市出身のバクル・バスリーも笑顔になる。リーザヴェールは難民に限らず、孤児たちへ届くようにとギルドに依頼していた。

「なるほど。ソイツラをオレ様達が倒して調理、そしてゆるフェスの食卓に並ぶってこと、……か?」

 途中まで訳知り顔で語っていたブヒブヒだが、周囲からの疑問符付きの視線に最後は少し尻すぼみになった。惜しい、それはユールフェス!

「……色々言ってるけど、とりあえず皆殺しにすればいいんでしょ?」

 と、端的に言い放った悠人・ラドルファスが立ち上がると、主に若人からなる第一陣が後に続く。

「あ、レオさん! 今日はよろしく!」

 ファイサル・アル=ファルドが片手をあげ、聞こえたレオネベルも外套の下で笑顔を浮かべた。楽な任務とはいえ、顔見知りがいるのは気分が良い。

「まあ、ちきんのうた」
「おいしそうな歌になりそうだね!」
「せっかくだから、皆で作りながら行きましょう」

 ニコニコ笑うマレーネ・シェーンベルグに、ニカッと笑い返すクレア・エクレール。アンネエルカがふんわり微笑んで、三人も迷宮へ足を向ける。

「テュリン姉、僕らも行くよ!」
「はいはい、分かったわよ」

 また迷宮に来れてウキウキのララベル・サン・ディーベルに、仕方がないなあ、とお姉さんぶった感じのテュリン・ヴィングが席を立つ。

「あ、あの!」

 と、意を決したようにベアトリーチェ・カロッサがテュリンを呼び止めた。ハーフリングではなく、ドワーフの方とお見受けして、と言う判断基準が胸の辺りにありそうなのはさておき。

「アタシ、ドワーフの人と仲良くしたくて。連れの方がいるから、迷惑かなと思ったんですけど」

 目的地までご一緒できませんか、と言われて見回せば、確かに他にドワーフはいない。視線をやれば、ララベルがニコリと頷いていた。

「私達は構わないわ。ええと……?」
「あ、良かったら、ベアトって呼んでください」
「じゃあ、僕はベルって呼んでね」

 と、言葉を交わしつつ三人が出ていくと、ギルドの平均年齢がぐっと上がる。そして、空気が陰った。

「……さて、交渉だ」

 どっかりと小柄な体で座り込んで、鳥屋を見上げるベゴニア。彼女の狙いは旨いと噂のチキン。1人あたり足1本は欲しい、と強欲にねじ込んでいく。足1本はトンでもねぇ、と親父が天を仰ぎ、その分品質は良くするからとベゴニア。横では焼いたチキンと酒の相性は最高だ、とルチル・プルメリア・グレイハーツが夢見るように呟けば、おい、こいつは分かってるぞと屋台の主が笑い返す。狩りの獲物で宴会とは憧れの海賊っぽいね、とコーデリア・コンクエストが笑顔で言うと、鋭い目つきの料理人が舌打ちを返した。

「わ、わたしはこの場合どっちの立場で考えればいいの……?」

 商家の娘のリサ・ベイカーとしては原価だの既に店に入っているコース予約だのという料理人の都合もわかる。むしろそちら側の言い分の方が理解できる。

「おい、ギルドは依頼の仲介が仕事じゃないのか?」

 人生はともかく冒険者としての先輩と依頼人の丁々発止にアスドルバル・ガルシア・ペレイロが話を振るが、受付嬢は我関せずの様子。いや、ちょっぴりベゴニア達を応援している気配まである。

「殺伐とした空気ねえ……」

 神官としては制止すべきか、とロゼットは悩む。しかし美味しく頂く事は狩猟の神の意にも叶うわけで。途中から意を決したリサの提案もあり、結局落しどころはチキンの15%と相成った。つまり予想されるチキンを全て捕らえれば丸々3匹。足は6本だけだが唐揚げやらローストやらで色々食べれるのはまあ悪くない。

「助かったぜ、お嬢ちゃん。足だけ持ってかれちゃあ、危うくコースのメインを替えなきゃならんとこだった」

 リサへ深々と頭を下げる料理人。ベゴニアとの交渉には負けかけていたらしい。

「……話は決まったようだな。ならば受けよう」

 こんな内容でも依頼は依頼。ナハティガル=ラーはあくまでもシリアスに、条件が定まるのを待ってから受理票にサインした。

●
 迷宮鶏の穴場までは、取り立てて言うほどの事もなく。ほどなくして一団は目的地へと着いた。

「……なんだこの眺め。鶏小屋かよ」

 目を丸くして、シスル・ノーティラスが言う。小さな町で朝市を開く広場位の敷地に、ぎっしりと詰まった迷宮鶏は壮観だ。彼らの中では秩序があるのか、衝突が起きるでもなくコッココッコと走り回っている。

「何とも逞しく勇ましい鶏のお嬢さん達だね……」

 と、冷や汗交じりにセヴラン・クアルトが見つめるのは、大きな雌鶏だった。つぶらな焦点の分からぬ瞳でこちらを見ている。身震いしつつ視線を下げれば、小柄な白いチキンが目に入った。カップルだろうか。体格差は大きいが愛の形はそれぞれなので否定はしない。と、見る間にポコリと雌鶏の脇腹からひよこが生まれ落ちた。

「いきなり、親からひよこが出てくるのって、おかしくねぇか? ……ぶひ」

 あまりの光景にブヒブヒが唖然とする。

「コレを鶏と言っても良いのだろうか……」
「『チキンっぽい得体の知れないナニカ』なんだよね?」

 首を傾げたアスドルバルに、エルゼリオがそう返した。こうして現物を目の当たりにすると、コレジャナイ感が半端ない。これ、食べて大丈夫なのか? と一同の頭をよぎった疑問を。

「――まぁ、今迄何事も無かったのなら大丈夫なのだろう」

 ナハティガルがクールに切って捨てた。語尾に、小さく多分とついていたが。

「まずは雄の肉を集める場所を幾つか決めよう。と言っても……」
「どこを見ても鶏ばかりだ。目印に困るよな」

 考え込む悠人の横で、ナハシュが視線を右から左へ。岩でもあればいいのだが、と思ったところで。

「ならば俺を目印に、そちら端へずれたそちら、そこ、あっち、でどうだい」
「お、ヨルか」

 お前もこの仕事受けたんだな、と言うナハシュに頷き返し、ヨル・スレイマンがそう提案した。彼は後方から全体を見て回復を飛ばそうと考えていたので、少なくとも序盤は動き回る予定が無い。

「集積場所は決まったか。運び出しは、まあ少し集まってからになるだろうが……」

 ベゴニアが事前に運び出しまでの体制を作ろうと提案すると、広間の様子を見てから涙目になっていたリサが大きく頷いた。

「そうですね、鮮度は重要です! 運び出しに立候補させてください! ……可愛いひよこを倒す罪悪感とかじゃないですよ?」
「あれを可愛いと思えるとは、心優しいお嬢さんだ。いや、素敵じゃあないか」

 セヴランが見ている間にもまた、ひよこが生まれ落ちていた。とはいえ、生誕の様子を除けば見た目は可愛い。手触りも柔らかそうだ。

(……くっ、その手が。いや、でもこれは悪いひよこ……!)

 リサの言葉に心揺れるレオネベルの手をちょんちょんとファイサルがつつく。

「凄い数だ。やっぱりレオさんに声を掛けて良かった」
「あ。……うん。そうだ、な」

 合法的に戦線離脱する機を逸して、レオネベルは戦いへ向かう。難民キャンプの皆のためにもここは心を鬼にするしかないのだ。

●
 各自でチキン、雌鶏、ひよこと狙いを定めて動き出した冒険者たち。迷宮雌鶏がバサリと翼を広げる。ホイッスルが鳴ったような気がした。

「うぇ!?」

 天眼に超視覚まで組み合わせていたキーゼが変な声を出した。範囲カバーリングの正体は、周囲のひよこだの雄鶏だのを呼び寄せるというか、吸い寄せるというか。とにかく集合させてしまうという物だったようだ。冒険者たちのようにカバーする側がすっ飛んでいくスタイルではない。

「何だか損をしたような気がしますね」

 鶏がひしめく空間目掛けて放たれたメテオライトの光が消えてみれば、そこにいるのは5体ほどの雌鶏のみ。雌鶏の翼にカバーされたひよこどもは無傷のようだ。やはり範囲攻撃していたベゴニアやテュリンも渋い顔である。

「よし、チキン一匹退治したよ!」

 と、バクルから朗らかな声が上がった。シーザーロアで引っ張っていたチキンは招集に応じなかったらしい。そして、固まった鳥団子(文字通り)の一つが崩れ落ちる。ルチルとセヴランが撃ち込んだ相手に、ブヒブヒと悠人が斧で切りつけたのだ。息絶えた雌鶏の中から、ひよこが一匹、ひよこが二匹。

「くっ、多いぞ」

 一気に膨れ上がった殺気の数。両の腕では捌ききれぬと覚悟したが、一撃一撃が軽い。それでも随分とひどい目にあった。

「ぶひぃ~」

 とびかかられた数は悠人より少ないのだが、そこは経験の差か。ブヒブヒが目を回している所へ、後ろから見守っていたリサのヒールが飛ぶ。ちなみに、見た目はひどかったのだが二人とも生命に別条はない。

「……私は絶対前に出ないからな!」

 身震いしながらベゴニアが宣言する。

「爆弾、産まれたぞ!」

 ひよこを相手する合間に、アスドルバルが注意を促す。同じく、前列でひよこの相手をしていたシスルが顔をあげれば、すぐ近くでポロリとこぼれる卵。

「うええ! ままよ!」

 咄嗟に拾い上げたところで。

「右奥へ。そこには仲間もチキンもいません」
「ありがとよ!」

 キーゼのアドバイスに従って勢いよく放り投げると激しい爆発音と共に黄色い毛やら肉片やらが吹き上がる。どくろマークのキノコ雲が見えるような気がした。どうやら、これが今回最大の範囲と破壊力を持つ攻撃(ビックリドッキリアタック)だったらしい。

「あわよくば産ませて武器がわりにと思ったが……、想定以上だな」

 悠人の洞察力をもってすれば自明の理。ひよこは愚かチキンもあのダメージには耐えられまい。

 一方、あらかじめチームを組んでいた三人娘は堅実に事を進めていた。

「こんがりチキン~♪」
「はー、どっこいしょ~、ですわ♪」
「ローストチキンにフライドチキン、バンバンジーに参鶏湯~♪」

 アンネエルカがぶん殴り、合いの手と共にマレーネの魔法の矢が刺さる。仕上げにクレアが撫で切りにすれば、ひよこフィーバーの始まりだ。

「夢と!」「希望と!」「あげあぶら~、ですわ♪」

 黄色い暴風の中から楽し気な声が聞こえてくるのに、マレーネが合わせつつ。守り手がいなくなったところで逃げ出すチキンの脚へアンネエルカの鉄槍が刺さる。

「美味しいチキンは逃がさない~♪」
「美味しいチキンは~♪」
「にがしませんわ~♪」

 クレアが腱を裂き、動けなくなった。敵中で楽しそうな二人をマレーネが回復する。まだひよこは右往左往したり攻撃したりしてきているのだが、彼女たちは次の獲物を探すようだ。

「チキンと雌鶏、回収ーっと」

 後を任された回収班のナハシュが黄色いプールを走り抜ける。雌鶏がいなくなった後のチキンやひよこは、厄介なことに他の雌鶏を探すようだ。合流されると、ハリネズミのようにひよこ嘴で武装した雌鶏が誕生することになり、精神的にも実によくない。

「そこで我に秘策あり! これでも、くらいなさーい!」

 ロゼットが大音声と共に、用意してきた乾パンをまとめて放り投げた。さすがに欠片でどうにかなるような数ではないのだ。果たしてよく分からない生態の迷宮ひよこが餌に食いつくのか。注目の一瞬は、ぴよぴよという狂気の声でかき消された。どうやら雌鶏の庇護下にないひよこは野生が強めらしい。

「後はお願いします」
「心得た! 『時々狩人』の腕の程をお見せしましょう」
「数を減らすのは重要ですしね」

 セヴランの矢が飛び、キーゼのメテオライトの光が被る。ひよこは己の危機に見向きもせずに乾パンを貪っていたが、光が閃いた後にはひよこは残っていなかった。

●
 雌鶏が存命中は、チキンは徹底的にその庇護下から出ようとしない。シーザーロアで引っ張り出すのは有効だったが、スキルの回数には限りがある訳で。

「くっそ、何が何でも守るのかよ……」

 衝撃刃で狙撃してみた結果、レオネベルが悔し気に吐き捨てる。別にひよことの戦いから逃避して離れた敵を狙ったわけではない。あくまで、これはチキン優先の作戦に基づくものである。

「レオさんの顔がまたしわしわに……!」

 仕方がなく現実へ向き直ったレオネベルの顔を、ファイサルが痛ましげに見やった。恐るべし、ひよこ。恐るべし、精神攻撃。自分には特に影響がない所を見ると、頼もしいレオネベルを集中的に狙っているのだろう。たぶん。

「おのれひよこの姿をした卑怯な悪魔共!」

 ファイサルが悲痛な叫びをあげたところで。レオネベルの大太刀がにょきりと光の刃を生やし、そのまま振り上げられる。

「ひよこ。ああ、ひよこ。ごめんな。さよなら……。ひよこたち」

 射程を伸ばした闘気が周囲の黄色い悪魔どもをまとめてなぎ倒し、後に残ったのは憔悴したレオネベルと、心配げなファイサル。

「……チキンと雌鶏はいないな。ひよこはついでに、次!」

 ひよこをぽいぽいとポーチに放り込みながら、ナハシュが横を走り抜ける。アスドルバルが二人に「こんなおっさんので悪いが、……ヒールいるか?」声をかけた。心的外傷にヒールは効かないのだが、殺伐とした殺し合いに傷ついた心に人の情けがとても暖かかった。

 とはいえ。雌鶏の無敵バリアも自身が死んでしまえばそれまでだ。ひよこの数の暴力は確かに回避しきれなくもなるが、(精神的意味で)体制を立て直した授恵者達にとって万に一つ位しか不覚を取る可能性はない。

「これだけ撃っても、気温が下がった感じはしないのね」

 最後の氷嵐をテュリンが撃ちこみ、ひよこを巻き込んでいく。雌鶏は先ほどララベルの追撃で倒れていた。そのララベルはといえば。

「逃がさないから!」

 すたこらさっさとひよこをかき分けて走り出していたチキンへ追いつき切りつけていた。コケー! などと悲痛な声をあげつつも、反撃せずに逃げの一手なのはいっそ見事ともいえるが。足の速さで負けているのだからどうしようもない。

「これも美味しいご馳走の為! 走りますよーー!!」

 さきほど仲良くなったベアトリーチェが仕留めたチキンをバックパックへ。そろそろ集積場所にも集まってきているようだ。

「ここでちゃんと締めた方が美味しいんじゃないかな?」
「任せとけ。鶏くらい絞めたことあるっつーの」

 弓を打ち放しながら言うセヴランの言葉に応じて、シスルが戦闘不能なだけで息のあるチキンを丁寧に締めていく。今持ってきたチキンを渡し、まとまった数を受け取った。

「袋をギルドで借りてきました! これに入れましょう」

 リサが袋の口を広げて持ち、ベアトリーチェが中に入れていると。

「地上に戻るんですか? じゃあ俺達が護衛につきます」

 と、ファイサルが声をかけてきた。確かに、鮮度は大事だとは言え迷宮内を二人で戻るのは危ないだろう。

「アタシはありがたいです、けど」
「でも、いいの? 狩りの方は」

 尋ねてくるベアトリーチェとリサに、ファイサルは悲し気に顔を振る。

「ああ。一度、外の空気を吸わせてやりたいんですよね……、レオさん」

 見やった三人の視線の先、レオネベルがしわしわのくしゃくしゃで泣きながら武器を振るっていた。

●
 馴れという訳ではないだろう。さきよりも戦場が広がったのだ。一気に倒し切れなかった雌鶏から卵がゴロリと転がり出た。その雌鶏はルチルが射殺するも。周囲にはチキンがいる。まずい、と誰もが思ったところで。

「私に、秘策があります!」

 ばーんと立つコーデリア。さっきそう言っていたロゼットがカッコよかったし。それに、海賊ジョンならこういうはずだ。と思いながら、チャージングで一気に突っ込んだ。秘策の内容を直前に聞いたヨルは心配げに見送るが。

「……仕方がない、隔離する」

 光縛封で爆発の被害は最小限にとどまった。爆心地にいたはずのコーデリアは。

「獲りま……ったぞー!」

 ボロボロながら、チキンの首根っこを捕まえていた。手品の種は、カバリング。卵の爆発に巻き込まれかけたチキンを庇い、「この人が俺の新しい雌鶏(ハニー)……?(トゥンク)」と勘違いさせたところで捕まえるというまさに海賊らしい作戦だった。いや、そうでもなかった。

「全員無事じゃないと、美味しく酒も飲めないからね」

 気を付けてね、とため息交じりにヒールを飛ばすヨルであった。別の方角では。

「それじゃあ、大きいの行くよ!」

 自身に強化を施したエルゼリオが、本日数度目の大技を繰り出す。外に出ていたひよことチキンが雌鶏に回収され、闘気の塊にぶん殴られた。無駄にも見えるが、ここで範囲攻撃を使っておかないとフリーなひよこがうろうろとうっとおしい。

「よし、倒した!」

 ダメージが重なっていた雌鶏がひと声残して崩れ落ちる。攻撃のチャンスはこのタイミング(雌鶏が死んだ直後)。飛び出したチキンが最寄りの別の雌鶏の場所までひた走る、その瞬間にしかない。庇護者(雌鶏)が倒れるたびに次の安全地帯(女の尻の後ろ)までの距離は遠くなる。生きる為に明日へ向かって逃走しようとしたチキンの脚が、がくんと落ちた。

「コケー!?」
「ふふ……いい声で鳴いてくださるのね」

 うっすらと笑んだリーザヴェールがアーケインテンペストを置いたのだ。ついで大樹の杖を向けて魔法攻撃を放つが。

「あら、これでは足りないのね……。貴方たちも、私たちも、増えすぎたら潰える運命なのに……」

 運命に逆らっても、苦しみが増すだけ、と言いたげな彼女の視線の先。

「逃走中のチキンを捕捉。これより制圧を開始する」

 ナハティガルが文字通りに宙を飛んで駆けてきた。弱っていると見て、二刀で刻めば断末魔の悲鳴をあげて崩れ落ちるチキン。

「任務完了。これより帰投する」

 チキンの首をひっつかんで、黒衣のゴブリンが駆け過ぎていく。

「せめて、苦しまずに逝ってくれるとよいのだけど……」

 儚げにリーザヴェールが呟いた。綺麗に締めてくれるようだから大丈夫だろう。

 乱戦に備えてメテオライトを大量に用意していたベゴニアが範囲攻撃を撃ち尽くす前に、雌鶏は駆逐されていた。ひよこもかなりの数が倒され、そのまま放置されているために範囲攻撃の余波で見るも無残な姿に変わり果てている。おかげで、元気いっぱい戻ってきたレオネベルはまたくしゃくしゃになっていた。

「もう一仕事か。いいだろう」

 あくまでクールにチキンを追いかけまわすナハティガル。どれだけ逃げても、もう身を休める場所はないというのに。ララベルやシスル、悠人たちも追いに入り、弓や杖を持つ者は狙撃で体力を削る。ほどなくしてチキンも全滅した。残るはひよこのみ。その数も決して多くはない。

「なあ、ひよこの孵化で肉を増やすか?」

 ルチルの提案に、一同は揃って首を振る。肉体的にはともかく、精神的にはもう十分働いた。ならば、もうここは切り上げても良いだろう。さあ、帰って宴会の時間だ。

●
 持ち帰ったチキンの質と量は十分、雌鶏も予想よりマシな状態だった。しかし、ひよこは。

「こりゃあひでぇ……」

 滝沢健次郎氏が顔をこわばらせる中。

「なぁに、ミンチだと思えばやりようがある」

 家族経営のチキン屋がニヤリと笑った。ナゲットを作るらしい。トリノーブルもつくねの準備を始めていた。細かい骨にどうしても残る肉についても、アスドルバルが一言あるらしく。

「適当に煮込めばスープくらいにはならないか?」

 具に野菜でも入れれば、とつけたすと、セヴランが歌うように続けた。

「寒くなってきたから大蒜を効かせた鶏団子とキャベツのスープとか食べたいな、僕は」

 2人の注文に、無言で頷くノーブル氏。彼だけではなく、料理人一同うっきうきのようだ。冬の間にもう一度依頼を出そうなどと言っている。

「原形をとどめているひよこは唐揚げにして欲しい。絶対美味い」

 その為にひよこも拾っていたナハシュのリクエストは滝沢氏が請け負った。唐揚げなら任せろーなどと言っている。

「さかばといえば、なべ、ですわ。……ですわ?」

 言ってから、かくりと首をかしげるマレーネ。はて、この記憶はどこから出てきたのだろう。まあ、友人と一緒に食べるものが美味しくなるならなんでもいいのだけれど。

「おお、これがプロの技かー。包丁はああ使うと肉が残らないんだな」

 シスルがじっくり観察しているのは、スラムの子供たちに振る舞う時の役に立たないか、という視点から。鳥料理は骨や軟骨も使うだけあって無駄も少ない。参考になる。

「キャンプへ送るのは、これくらいかな?」
「孤児院にはこれくらい持っていきたいわ」

 他にも数名希望していたキャンプへ送る分はエルゼリオが取りまとめ、孤児院へはリーザヴェールが持参することになった。特に他の希望の無い仲間たちは、今日の宴会で不足が無ければ文句はないだろう。

「今日は肉と酒が尽きるまで好きなだけ騒ごうじゃないか!」

 と、ルチルが声をあげているが、雌鶏が8割がた良い状態で手に入っている時点で、食べつくせることなどあるはずもなく。むしろ処理するのが大変なくらいだった。他所へと送る希望を出していた面々の中には遠慮したのか帰り支度をする者もいたのだが、いいから食って行けと引き止められる。

「依頼の時点では要らないと言っていたが。余った雌鶏は引き取ってくれて良いんだよ」

 ベゴニアがにんまり笑えば、料理屋たちもまいったな、と苦笑い。それじゃあ鳥以外のつまみも出すか、と言う話になり、宴会は一段と豪勢になるようだ。

「誰もが笑顔の良い結果ですね」

 目論見通り、というかそれ以上の宴になりそうで、キーゼは外套の下の唇を上向かせた。これは楽しいからではなく、あくまで仕事がうまくいったからだが。それはそれとして。労働後の一杯は格別なのだから。

●
「海賊ジョンにかんぱーい!」
「かんぱーい!」

 海賊っぽい宴会にご満悦のコーデリアの音頭に、バクルが唱和する。二人をはじめ、若年者にはノンアルコールドリンク各種。年長者にはお酒。業務時間中の受付嬢が恨めし気に眺めながら曰く。

「ギルドのお膝元でおいたは許しませんよ!」

 らしい。まあ、今日の参加者には悪い子はいなかったので問題はなかった。仕事が終われば解散だと思っていた悠人も、依頼人から是非にと頼まれれば断る程のこだわりもなく。乾杯程度はつきあっている。

「ふーん、つまり仕事の出来が良かったから、追加報酬ってわけだ」

 別に周りと合わすつもりはないが、ただで一人飯を食べれるというのもまあ悪くはないだろう。

「はー、仕事の後の酒は美味い」
「美味い肉! 酒!! そしてキャベツだ!!!」

 わはははは、と陽気に飲んでいるのはヨルとナハシュだ。迷宮での居場所は離れていたが、飲み会は合流したらしい。別の卓では、テュリンとララベルのコンビにベアトリーチェが同席していた。

「チキン美味しいです……」

 さっき滝川健次郎氏の前に立って(フライドチキン下さい)と念じてみたのだが。なぜか隣の家族(ファミリー)経営な屋台親父がチキンを差しだしてきたので首をかしげている。まあ、美味しいからいいのだ。

「はい、あーんして」
「じっ、自分で食べれるから」

 いたずらっぽく笑うテュリンに、ララベルが頬を染めつつ抵抗する。だって、今日会ったばかりの女の子が見てるのに。

「あーん、よ?」
「……うん、じゃあ」

 抵抗はあまり続かなかった。二人の関係は姉と弟みたいなもの、だと聞いてはいるのだが。ちょっとドキドキしながらベアトリーチェはお酒をちびりちびり。里で噂に聞いたドワーフと違って、テュリンは無理やり飲ませないし、がはがは下品に笑ったりもしない。異種族のララベルとも仲が良いし、エルフの自分にも分け隔てなかった。

「やっぱり、里から出て来てよかったな」

 今度は逆になってあーん、とやっている二人を見ながら、ベアトリーチェはにっこり笑う。あーんまではいかずとも、「この料理美味しいよ!」とか「それ食べてごらんなさい」などと巻き込まれるのはこのすぐ後の事だった。

「はふぅ。エールを飲みながら手を油でギトギトにして食べるチキンは最高だね、独身万歳だよ」

 ベゴニアはご満悦だ。決して、現実から目をそらしてはいない。あっちの卓であーんとかやってるのは見えていないのだ。と、思えばなんかいい感じの曲をセヴランが弾きだしている。

「うふふ。じょしかいといえば、こいばな。さあさあ、はじめましょう」

 マレーネがあっちで同席者に話を振っているのも、聞こえない。ハーフリング三十代独身女子はやさぐれつつエールを煽っていた。一方、マレーネと談笑している若い二人は。

「こ、恋バナ!?」

 目を白黒させつつ、クレアは口の中のチキンを飲み込む。彼女にはまだぴんと来ない話題だ。

「私、恋バナって初めて!」

 と楽しそうに返すアンネエルカは、「コイバナを友達とするシチュエーション」が楽しくてしょうがない様子だ。そんな二人を、マレーネはにこにこと眺めつつ。どんな殿方がタイプなのか、と問えば考え込む。クレアの方は、それでも何となく恋という物が頭の中にあるようで。

「……芯が強くて優しい人?」
「ほうほう、ほかになにか、ごちゅうもんはありますか?」
「あ、浮気はダメ絶対!! あと年上で落ち着いてる人かなぁ」

 ほわほわと浮かぶものを言語化していた。アンネエルカはまだまだのようで、途中からクレアの聞き役に回っている。

「なんだか奥が深いわ。でもきっと素敵なものよね」
「たぶん、おそらく?」
「いつか私にも出来るかしら」

 なぜか、絶対にダメ! と言う幻聴が聞こえた。あと、消化を気にしてキャベツに移行しつつあるベゴニアには、恋だの愛だの結婚に繋がりそうな話題は何も聞こえていない。いいね。

「あれは悪いひよこだった。仕方が無かったんだ……」

 レオネベルは表向き立ち直っていた。まだ影を背負っているようにも見えるが、多分気のせいだ。明日になったらひよこに会いに行って思う存分本物のひよこ分を補充してくるのだろう。

「あの、ファイサルさんもどうぞ?」
「ありがとう、ベイカーさん。迷宮チキン、楽しみだったんです」

 輸送の護衛から、打ち上げもなんとなく同席することになった。初対面の女性相手にそこまで打ち解けられるはずもなく、本当ならチキンに小躍りしたい内心を隠してもぐもぐと食べる。旨い。

「夢の味だなあ……」
「そうね、美味しい! わたしも初めて食べたわ」

 屈託ないリサに、ファイサルの孤独癖がどこまで保てるか。そして、レオネベルは。

「うわ、これウマいな!」

 一口食べたチキンの味に、もやもやが吹き飛んでいた。

●
「ありがとう、私の騎士様。とても素敵だったわ」

 薄味に作ってもらった煮込みの皿を置くと、狼は一度頭を下げてからもしゃもしゃと食べ始める。リーザヴェールは今日の出来事を思い返していた。みんな綺麗で優しい、見ていて飽きない人たちばかり。

「そうね、またこういう事があったら、足を運んでもいいかしら……?」

 飽きっぽい彼女のことだから、次の時にも同じ思いでいるかはわからないけれど。少なくとも、今日は楽しかった。

「ダンジョン攻略、とはちょっと違ったけど、こういうのも冒険だよね」

 うんうん、とバクルが今日の事を思い返す。最初の頃にシーザーロアでチキンを引っ張っていたおかげで、色々な戦い方をしている人を特等席で見ることができた。というか、今日のチキン殊勲賞は多分彼だ。授恵者の戦い方(スキル)など知らなかった依頼人たちは話を聞いて、今後の依頼の出し方を考えると言っていた。

「求:シーザーロアを使える少人数チキン狩り@鳥屋」

 などと言う暗号のような注文書が並び、チキンが冬の風物詩になるのも近いだろう。

「実は、野菜好きなんですよね……あ、海賊っぽくないから、内緒ですよ」

 コーデリアがキャベツのお代わりをよそっていく。最初は得体のしれないチキンのような何かを警戒していたエルゼリオも、目を輝かせて並びなおしていた。

「こっちも美味しいですよ」
「本当に? じゃあそれも食べようかな」

 などとついつい取りすぎても、まだまだ食べきれないほど残っているので心配はいらない。

「ぐへへへ、キャベツも食べるけど、やっぱり、肉のほうがいいぜ」

 などとご満悦なブヒブヒは、各店舗の鶏料理を一周して、二周目にチャレンジ中だ。次は少し目先を変えてひよこを食べてもいいな、と鼻息も荒い。

「俺はキャベツだけでも飲める口だが肉があるに越した事はないな……」

 おじさんであるアスドルバルはバランスよく、適度によそっていく。

「仕事に見合う報酬の受け取りまでが依頼だったな……、いただこう」

 結構口に合ったのか、ナハティガルもお代わりの列に並んでいた。あっちの方ではなぜかチキンがうまいという合唱が始まり、セヴランの伴奏で何人か歌いだしている。そういえば戦闘中にも歌っている奴がいたな、と思い。ナハティガルには自分があの輪に加わっている光景を一瞬だけ思い浮かべた。

「……ないな」

 一時の気の迷いを振り払い。彼はチキンを皿に盛った。

「これは美味しいわ。エールと合わせたくなるのも分かる……」

 ほう、とロゼットが頬に手を当てて息を吐く。揚げたチキンをキャベツで巻いただけのそれが殊の外旨い。

「どれどれ……おお! なあヨル! キャベツにチキンくるむと美味いぜ!!」

 ロゼットの真似をしたナハシュがけらけら笑いながら、もう一つ作ったキャベツ巻きをヨルの口に突っ込んだ。酒が飲めないと抗議するヨルに、お代わりか? などと酒を注ぎなおす。

「……君は本当に自由だな」

 苦笑交じりに言うヨルの視線の先で、ナハシュはいつの間にか轟沈していた。

マスターコメント

皆さま楽しそうで、書いている私もにっこりでした。 労働の後の一杯は最高ですね! 戦闘面は、雌鶏空母とひよこ艦載機みたいなイメージだったのですが。 シーザーロアの対策はなかった。 ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ

イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 10〜25人

2020年12月10日 14時12分30秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ベゴニア

    キャスターのベゴニアだよ。 そうだね、さすがに私も塩キャベツだけの忘年会なんてごめんだよ。 唐揚げも良いけど、たまに食べる骨付きチキンもとても素敵だからね。 エールを飲みながら、手を油でギトギトにしながら食べる鶏料理なんて最高じゃないか。 塩キャベツだって胃もたれしそうな時にかじると助かるから重要だよ。 チキンのあいま、あいまにパリポリかじるのは私は嫌いじゃぁない。 若い頃みたいに好き勝手に油物だけ食べても大丈夫だった時とは違うからね……。 大人の女性としては野菜も摂取して健康に気をつかう事も覚えないとね。 まぁ、それはともかくとして皆、今回はよろしくお願いするよ。 鳥たちからの攻撃は怖いけど、数が数だからね。 私は範囲攻撃をひたすらに叩き込む事になりそうかな。 迷宮チキンは美味しさを保つためにパパっと狙い撃ちしたいけれど、 迷宮雌鶏が庇うんだね……ちょっと方法を考えないといけないかもしれない。 迷宮ひよこを変態させるかどうかはちょっと迷うところだけど、 数時間かかるって所が大変だね、普通に攻撃してくるみたいだし。 さて、どんな風にしようか。

  2. 悠人・ラドルファス

    ふーん、皆殺しね。解りやすくていいと思うよ。 悠人・ラドルファス、一応ウォーリアー 雌だけ処理して、ひよこは成長を待って、残ったチキンをぶっ殺せばいいんでしょ? まぁ、雌を適度に弱らせて足と胴体縛れば爆裂卵を産む武器にもなるし、使い様はありそうだね

  3. ロゼット

    ヒーラーのロゼットよ。よろしく。万一、怪我人が出たら癒すわ。 さすがにこの時期に、チキンに逆襲くらって病院送りは嫌でしょ。 とりあえず迷宮雌鳥を先に何とかしないと、危ないし邪魔だし、 増えるし爆発するしで良いコトなさそうね。 ひよこは数時間待たされて、雌鳥に変態された時のガッカリ感が 辛そうだから倒した方が良いかも…生まれてすぐ人間の急所を 分かってるとか、怖すぎなんだけど(汗

  4. バクル・バスリー

    ウォーリアのバクルだよ。よろしくね。 シーザーロアで迷宮チキンを呼び寄せたりできないかなぁ。

  5. No.5

    ウォーリアのレオだ。よろしく頼む。 …そうか、ここのひよこは狩らなきゃいけねぇやつなんだな… とりあえず雌鶏が厄介そうだし範囲攻撃とかを主軸にできるだけ早めに倒して回った方がよさそうだな。 難民キャンプの人たちにチキン届けてやりてぇし塩キャベツ忘年会も避けたいから頑張るつもりだ。

  6. ブヒブヒ

    ぶひーっ!! オレ様、ブヒブヒ。 よろしくな。 とにかく、どうにかするな。

  7. コーデリア・コンクエスト

    ウォーリアのコーデリア・コンクエストと申します。 よろしくお願いいたします。 私は単体への攻撃手段しか持っていませんので、メインは雄鶏を狙いつつHPが半分以下になった雌鶏がいればそちらを優先しようと思います。 ……爆裂する卵で雄鶏が吹き飛びそうになったらそちらをかばうことも検討しなければいけないでしょうか、これは。

  8. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。クラスはシューター。 狩った鶏肉は食っていいと聞いて来た。よろしく。 集団とはいえ余程手を抜かない限りはまず勝てる相手のようだが、油断しないぐらいには酒と焼き鳥に思いを馳せよう。 いると厄介な雌鶏を先に片付ける方に賛成だね。 ただ、戦闘が長引くと迷宮チキンのストレスも高くなると思うから全員が雌鶏を追っかけて後回しにするのではなく、そちらの始末にも人手を割いた方がいいと思う。

  9. アスドルバル・ガルシア・ペレイロ

    ヒーラーのアスドルバル・ガルシアだ。 よろしく頼む。 キャベツも悪くないと思うんだが…まあいい。 俺は隅の方で適当に逃げてきたのを殴ってる事にしよう。

  10. ベゴニア

    さて、一応真面目に対応策考えた方が良いかな。 正直言うと、鶏の海の中に飛び込んで四方八方からつつかれるのは御免被りたいね。 ガチガチに防具を固めたウォーリアの人ならともかく、 私がやったら髪まで引っ張られて泣きだす未来が見えるよ。 ・オーバーキルすると美味しさが減る ・迷宮雌鶏は同一ヘクスマップの味方を纏めて庇う ・迷宮雌鶏を放置するとひよこや爆発卵を産む 皆も言ってるけど、この辺から考えると迷宮雌鳥を優先的に叩いた方が良さそうだね。 ただ、庇うの特性から範囲攻撃をしていれば勝手に死んでくれるような気もするけど。 オーソドックスに行くのなら、前衛の人達に壁を作ってもらって、 後衛は後ろから狙い撃ち、前衛は津波のように襲って来る鶏をその場でブロックしながら退治。 って感じになるのかな? 戦闘領域は狭いから後列職ならその場から動かないでも隅まで攻撃できそうだし。 鶏の海の中に飛び込んで埋もれながら戦いたい人も居るのかもしれないから、 そういう人たちには突っ込んでもらって、 倒したチキンだけでも回収しながら戦って貰うと良いかもしれない。 問題のもう一つがオーバーキルかな……というか、もしかしてフル火力だとダメなんだろうか。 雌鶏はともかくとして、チキン相手とか範囲攻撃が指定無しで重なるとダメそうだよね。 一応ノービス装備も持って行って、状況を見て持ち替えながら戦う事にするよ。

  11. ロゼット

    >オーバーキル 鉄の剣で切ったのと、鋼の剣で切ったので味が変わるというのも 変だし、倒して回収しないまま何度も攻撃、ボロボロにするなって 注意じゃないかしら?鮮度が落ちるみたいな。 特に迷宮チキンは、倒したら早く回収して、踏まれたり 戦闘に巻き込まれたりしないよう、確保した方が良いのかも。

  12. 悠人・ラドルファス

    なんかチキンを倒したら集めておくスペースとか作っておけばいいのかもね 爆裂卵のリスクはあるけれど場所解ってれば防衛もしやすいし 後はやっぱり爆裂卵やひよこの反撃で消耗しないように大勢で囲んで袋叩きにするほうがいいんだろうね 産ませる前に倒すに限るでしょ、この手の類って

  13. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラだよ。 今回はヨロシクね! 難民キャンプの人達に沢山チキン届けてあげたいから頑張るよ~。 取り敢えず、ボクは隊列前方で迷宮雌鶏と迷宮ひよこ&(発見次第)迷宮チキンを攻撃する予定。

  14. リサ・ベイカー

    あ、ヒーラーのリサです。 よろしくお願いします。 〉早く回収 じゃあ、わたし、皆さんが確保したチキンがある程度溜まったら、外に運びましょうか?

  15. ナハシュ

    ナハシュだ。よろしくな。 そしたら俺も運び出す係かなー。あとは後方に抜ける奴がいたら適当に狩っておくみてえな感じでよ。 爆発卵は次のセットアップに爆発すんだろ?その前に遠くにぶん投げたらダメなのかね。

  16. ヨル・スレイマン

    ヒーラーのヨル。宜しくね。 雌鶏優先で良いと思う。 庇うの特性のせいで半端に体力を残した状態になりやすいのもちょっと怖いよね。 叩けるうちに叩くのが一番安全っぽく感じるよ。 ひよこは生成してくれた方が食べる分は多くなりそうだけど。 ん、ん。じゃあ俺は回復系重視で行こうかな。必要ない時は雌鶏を狙うよ。 此方の消耗が少なければ、確実に多く持って帰れるだろう。鶏肉楽しみだね。

  17. ベゴニア

    >チキンを集める場所を作る これは良い考えだと思うよ。 戦闘中に倒した後もずっとその場に残しておくと、 爆裂卵とか範囲攻撃の余波とか踏み潰されたりとかで、 肉質が悪くなってしまう可能性が高いしね。 雌鶏とひよこは数が多いから無理かもしれないけど、 最低でもチキンだけは倒したらすぐに回収して運び出す感じだね。 >ひよこの変態 丈夫な檻でもあると良いんだけどね。 なんとか追い込むか捕まえて放り込むなりして、 チキンか雌鶏に変わったら絞めて取り出して、をする感じで。 どっちに変わるか判らない時点でギャンブルだけれど、 人数が集まらない時のチキンの供給源として……いや難しいかな。

  18. 悠人・ラドルファス

    >外への運び出し ありがと、これあると助かる >爆裂卵 投げられるんじゃない? ま、やるだけやるつもりだけどさ。オレも

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0