【幻秋】天高く、波穏やかな秋の日に。
蓮華・水無月
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シナリオID:3278
オープニング
さてその日、冒険者ギルド職員であるペデラ・ウォーカーは上機嫌だった。上機嫌のあまり鼻歌なんかを歌いながら、貼り出していた依頼書に気付いた同僚が「あれ」と目を瞬く。
「ペデラさん、いま休憩中ですよね? 貼り忘れた依頼でも?」
「ん? いや、これはオレの個人的な依頼って言うかさ」
その言葉に、やはり上機嫌で振り返ったペデラの顔と、彼の貼り出していた依頼書をチラリと見比べて、ああ、とにこやかに頷いた。
「いつもの変態趣味のお仲間集めですか」
「心の声がだだ漏れだぞ!? あと石マニアと言え!!」
そんな同僚の言葉にペデラが吼えるが、どっちもどっちである。ゆえに同僚はペデラの言葉をスルーして、依頼書の方に向き直った。
ペデラが珍しい石の収集や、石そのものについて調べる事を趣味としている事は、彼の同僚の間では周知の事実だ。同好の士で集まって情報交換会をしたり、休みの日には石集めに出かけたり――行先によっては同行者と一緒に行くことも、決して珍しくはない。
どうせこれもその類だろうと、目を通せば案の定、リブラネスタ近郊の海岸へ珍しい石を探しに行くので……という同行者を募集する依頼書だった。――リブラネスタ?
「ペデラさん、今回はずいぶん近場ですね?」
「ああ、ほら、こないだまで海が荒れてただろ?」
幾らなんでも護衛は必要なのだろうか、という意味を込めての問いかけに、ペデラがあっさりと頷きながらピッと指を立てる。つい先日まで、リブラネスタへと迫る超大型クリーパー『嵐逆巻く魔海竜』の襲来の影響で、海は勿論リブラネスタ近郊の天候が大いに荒れていた事は、もちろん同僚も承知していた。
ゆえに首を傾げながらも頷けば、だからだよ、とペデラが良い笑顔になる。
「荒天の後は漂着物も多くなるし、地盤が削られて埋まってる石が出て来てる所もある。つまり絶好の珍しい石探しチャンスだ」
「………」
その言葉に同僚は、これだから変態は、という眼差しを遠慮なくペデラに注いだ。だが、もはやそんな視線はそよ風のように受け流し、ペデラは上機嫌な鼻歌を再開したのだった。
「ペデラさん、いま休憩中ですよね? 貼り忘れた依頼でも?」
「ん? いや、これはオレの個人的な依頼って言うかさ」
その言葉に、やはり上機嫌で振り返ったペデラの顔と、彼の貼り出していた依頼書をチラリと見比べて、ああ、とにこやかに頷いた。
「いつもの変態趣味のお仲間集めですか」
「心の声がだだ漏れだぞ!? あと石マニアと言え!!」
そんな同僚の言葉にペデラが吼えるが、どっちもどっちである。ゆえに同僚はペデラの言葉をスルーして、依頼書の方に向き直った。
ペデラが珍しい石の収集や、石そのものについて調べる事を趣味としている事は、彼の同僚の間では周知の事実だ。同好の士で集まって情報交換会をしたり、休みの日には石集めに出かけたり――行先によっては同行者と一緒に行くことも、決して珍しくはない。
どうせこれもその類だろうと、目を通せば案の定、リブラネスタ近郊の海岸へ珍しい石を探しに行くので……という同行者を募集する依頼書だった。――リブラネスタ?
「ペデラさん、今回はずいぶん近場ですね?」
「ああ、ほら、こないだまで海が荒れてただろ?」
幾らなんでも護衛は必要なのだろうか、という意味を込めての問いかけに、ペデラがあっさりと頷きながらピッと指を立てる。つい先日まで、リブラネスタへと迫る超大型クリーパー『嵐逆巻く魔海竜』の襲来の影響で、海は勿論リブラネスタ近郊の天候が大いに荒れていた事は、もちろん同僚も承知していた。
ゆえに首を傾げながらも頷けば、だからだよ、とペデラが良い笑顔になる。
「荒天の後は漂着物も多くなるし、地盤が削られて埋まってる石が出て来てる所もある。つまり絶好の珍しい石探しチャンスだ」
「………」
その言葉に同僚は、これだから変態は、という眼差しを遠慮なくペデラに注いだ。だが、もはやそんな視線はそよ風のように受け流し、ペデラは上機嫌な鼻歌を再開したのだった。
解説
◎目的
リブラネスタ近郊の海岸でのんびり(?)過ごそう。
皆さんはギルドで依頼書を見て、または街中で個人的に声をかけられ、あるいは偶然リブラネスタ近郊のとある海岸を訪れました。
少し前までは『嵐逆巻く魔海竜』の襲来の影響で大いに荒れていた海も、今日はよく晴れて穏やかな様相です。
ぜひ、のんびりとした一時を過ごして頂ければ幸いです。
◎どんな事が出来るの?
1)珍しい石などを探してみよう(※ペデラの護衛をして頂ける方も含みます)
ペデラと一緒に、またはご自由に海岸を歩きながら、珍しい石を探してみましょう。
海岸の端の方には少し切り立った崖のようになっている場所があり、先日の嵐で土が崩れている所があるようです。
また海岸にはあちらこちらに漂着物があり、その中には珍しかったり綺麗だったりする石もあるでしょう。
もしかしたら漂着物の中には、誰かの落とし物もあるかもしれません。
石ではなく、そういった落とし物を探して歩くのも良いかもしれませんね。
2)釣りをしてみよう
先日までの荒天の影響か、この辺りの海岸ではよく魚が釣れるようです。
沖に出たい場合は、偶然居合わせた漁師の方に小舟を借りることも出来るでしょう。
釣れた魚はその辺りで焚火を熾して食べたり、持ち帰ったりすることが出来ます。
もちろんお刺身で食べてもOK。
ただ釣り糸を垂らして自分自身と向き合う時間を過ごすのも良いでしょう。
3)妖精ジュールと遊んで(?)みよう
海岸をうろうろしているとどこからともなく、両手に乗るくらいの白い球形でちょこんと尻尾があり、ペンで雑に落書きしたような大きい目と口がある妖精(?)ジュールが現れる事があります。
「強くなりたきゃイタズラするぞ」と言ってきますが、お菓子やフルーツなど甘いものをお持ちでしたら、それをあげれば仲良く遊んでくれる場合があるようです。
赤白ストライプ柄の三角帽を被っててちょっと可愛い。
「強くなりたい」と答えるとガチバトルが始まりますので、くれぐれもご注意ください。
4)その他
1~3に当てはまらない過ごし方も、もちろんお選び頂けます。
世界観などに反しない範囲でご自由にお過ごしください。
なお、街中ではないのでお店などはありません。
◎登場EXC/NPC
ペデラ・ウォーカー……
一般人ギルド職員。
珍しい石の収集や、珍しい石について調べる事を趣味とする、言うなれば石マニア。
マスターより
いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月と申します。
珍しかったり綺麗だったりする石は良いですよね、ということで、石探し(?)のシナリオでお邪魔させて頂きます。
その昔、某テーマパークを愛する知人に話を聞いた時に『雪が降ったら絶好のチャンス』『雨の日は雨の日しか見れないパークがある』と言っていたのが、大変印象的でした。
今回、そんな感じのお話になります。
イメージとしてはそう。
嵐の後でしか見れない・見つからない、そんなモノやコトがそこにある(何)
そんなこんなの海辺のひと時、お気が向かれましたらどうぞお気軽に、よろしくお願い致します。
リプレイ
さてその日、レピド・クロサイトが受けたのは、ペデラ・ウォーカーの護衛依頼だ。装備をしっかり整えて、周囲に気を配りつつ海岸へ向かう道程で、
(……ん?)
ふと耳に入った旋律に、レピドは首を傾けた。ペデラが歌っている?
見れば足取りも軽やかで、今日の目的が楽しみだと知れた。その様子に、ふと悪戯心が疼く。
ペデラの死角へ移動し、縁の横笛を構えて――おもむろにレピドが奏で出したのは、ペデラの鼻歌に絡む旋律だ。刹那、驚いたようにきょろきょろ辺りを見回したペデラが、
「何お前、そんなに吹けるのか!? すげぇじゃん!」
「ああ」
目が合うや否や驚きに破顔したのに、返すレピドの頷きは淡々と。だがどこか誇らしげなのを、ペデラは見逃さない。
ゆえに「頑張ってんなぁ!」とわしわし撫でたペデラに、レピドは小さく頬を緩め。それを見ていた友人達は、飼い主に褒められる子犬を幻視したとかしないとか。
●
海岸沿いを、ルルト・アーキスとパルドの捜波が奔る。
「危険な生物は居なさそうだ」
「こっちも安全そうだよ!」
「ありがとな!」
探知結果を告げるパルドとルルトに、ペデラがぱっと顔を喜色に染めて崖へと走り出す。それより一足早くナハティガル=ラーは、探波で安全を確かめた。
崩れかけた所が狙い目と話していたが、本当に崩れて下敷きに、なんて目も当てられない。ゆえに崖に張り付くペデラを視界に入れつつ――ふ、と海岸を眺め渡した。
「――嵐が過ぎ去った後には、独特の静けさがある、な」
もちろんナハティガル他、幾人もの冒険者の姿もあるが、それでもどこか不思議な静寂が横たわる。それに軽く目を眇めて魅入ってから、ナハティガルも珍しい石を探すことにした。
と言ってもナハティガルは、鉱物に詳しくない。だが、外観が独特だとか、発光してたり、何か特殊な効能がありそうな石が採取出来ればいい。
ゆえにペデラから少し離れた崖に目を凝らせば、幾つかの石が見えた。ほう、と手を伸ばすのに気付いたペデラが、「周りから掘った方が良いぞ」と助言する。
言われた通り石の周囲を堀れば、すぐに石が零れ落ちてきた。ナハティガルの親指の先程の石は、陽光で不可思議な緑に煌めき――ふと、誰かを幻視する。
微笑み、丁寧に背嚢に収めた。そうしてまた探すナハティガルの後ろを、コルネリウス・アーラはのんびり足元を見つめ、サクサク砂を鳴らして通り過ぎる。
(改めて見ると、色々な物が落ちてますね)
先日の嵐のせいかと、今は穏やかな海を眺めつつ歩き――あ、と足を止めた。そうして拾い上げたのは、表面にうっすら何かの模様が浮き出た石。
よく見ようと陽にかざせば、星の模様だと知れた。わぁ……、とコルネリウスは感嘆の息を零す。
「綺麗ですね……こんな素敵なものが見つかるなんて」
知らず、口元を綻ばせた。そうして、誰かに見せようと振り返れば丁度、ディレイン・オールドケイジがペデラに声をかける所。
誰かが怪我をしないか目を配るディレインは、今のところ出番がない事に安堵しつつ、どうも、と頭を下げる。
「レピド君にはいつもお世話になって……いや、お世話して……かな?」
そんな決まり文句を口にする、ディレインは途中で大いに首を捻り、ちら、と当人の方を見やった。なにしろレピドは、すぐに無茶をするのだ。
それゆえの疑問符に、あぁ……とペデラが遠い目になった。保護されたばかりの真っ白なレピドの教育担当だったという彼には、きっと苦労の3つや4つや10や20はあったのだろう。
無言で頷き合う2人の間には、そんな雰囲気が漂っている。それにクスッと笑って、コルネリウスは「お2人とも」と声をかけた。
「良い石は見つかりました? 私はこんな石を見つけたのですが――」
「おっ、良いの見つけたな!」
「――本当に石が好きなんだねぇ」
途端、コルネリウスの指先で光る星模様の石に、キラキラと目を輝かせるペデラに、似たもの親子なのかもねぇ、と肩を竦めるディレインである。その視線に、気付いたレピドが首を傾げた。
何か用かと近寄れば、ディレインが「何でもないよ」と首を振る。
「レピド君は何か見つけた?」
「いや。あの――上に見える石を取りに行こうとしてた」
そんなディレインに、レピドは崖を指さした。ペデラから石の話はよく聞かされた、どういう石が良いのか大まかに推測出来るハズ――と、目を凝らしていたのだ。
だから、と告げるレピドと崖を見比べて、気を付けてね、とディレインは眉尻を下げた。そんな崖の上では、同じく石を探して登ったパルドが、きょろきょろ見回している。
命綱もつけてるが、見上げるルルトはちょっとハラハラだ。
「気を付けてね、パルド!」
「ああ」
ゆえに声をかけたルルトに、かけられたパルドはひょいと手を挙げ、見つけた石を幾つか採取した。ピンク、黄、白、青、様々に煌めく石を握り、危うげなく降りてルルトに見せれば、わぁ、と緑の瞳が輝き。
山分け、と手に乗せられた石を、嬉しそうにうっとり見つめた。
「綺麗だね! 可愛い形の石も見つかれば良いんだけど」
「だな。ウォーゼル達にも渡したいし……っと」
「わっ、ショコラ?」
そんなルルトに頷き友人の事を口にした、パルドの脇からショコラがルルトの手の輝石にじゃれつく。慌ててショコラを止めるパルドに、いいよとルルトはにっこりし。
ポケットから別の輝石を出し、ショコラの首輪に飾り付ける。
「こんな感じで、集めた石でアクセサリーを作って贈ろうと思うんだよ! ――ショコラ、それはあげるね♪ タマさんと遊んでおいで」
――なぁ!
「へぇ、良いな。ペデラさんにも聞いてみよう」
「うん。きっと詳しいよね」
首元の輝石に満足そうなショコラを促せば、良いお返事で猫達が駆けて行く。それを見ながら呟いた、パルドにルルトがまたにっこり。
その様子を、遠くから見たヴィルヘルミナは、眩しげに目を細めた。
(穏やかですね)
秋晴れの海辺で遊ぶ、猫達の姿は平和そのもの。実のところ、一時はどうなる事かと思ったが、案外何とかなるものだ。
とはいえ、どうにかクリーパーを撃破したら、また別の竜絡みで騒ぎになるとは。そう、考えながら歩いていたヴィルヘルミナはふと足を止める。
何か居た。
「強くなりたきゃイタズラするぞ!」
それは、妖精ジュールだった。イタズラ――そういえば、甘いもの好きなんでしたっけ?
持ってきたチョコレートを思い出し、差し出してみればジュールがくるんと宙返り。そうして食べ始めたジュールを眺め――ふと、呟く。
「強くなりたきゃ……ですか」
それはジュールが告げた言葉。大陸のあちこちで、人類に告げられている言葉。
いったい、どんな意味があるのだろう。そう――思索に耽ろうとして、周囲の気配が変わったと気付き。
失敗を悟った。口の周りを茶色くしたジュールが、嬉しそうにこちらを見ている。
「強くなりたきゃイタズラするぞ!」
そうして――次の瞬間ヴィルヘルミナの前に、クリーパーが出現した。
●
穏やかな波打ち際には、沖へ釣針を投げる人の姿があった。おぉ、と見回せば向こうの岩場でも釣り糸を垂らす人の姿。
釣りと言えば、とアルフィー・リッパーは期待の眼差しで、ネーヴェ・グラヌローザを振り返る。
「ネーヴェは釣りが好きって前に言ってたよな? もしよかったら教えてくれないか?」
「釣り……ですか」
そうしてキラキラ見つめるアルフィーに、見つめられたネーヴェは少し困り顔になった。アルフィーと同じ光景を見つめて――えぇと、と眉尻を下げ丁寧に言葉を選ぶ。
「生憎、釣りはあまりしたことがありませんが、漁で宜しければ教えられますわ」
「漁?」
「はい。折角ですから小舟をお借りしましょうか」
そう、微笑み歩き出したネーヴェの後姿にアルフィーは、漁? ともう1度首を傾げた。――どうやら、漁と釣りを勘違いしていたようだ。
そうか、と頷き小走りになって、追いついたネーヴェの顔を覗き込む。
「ネーヴェ先生よろしくな!」
「ふふ、何だかくすぐったいですわね」
そんなアルフィーに、ネーヴェははにかみながらも「お任せください」と微笑んだ。そうして小舟を借りて、漕ぎ出した沖合に浮かぶ船の中の1艘で、ウォーゼルとアルバス・ロウルも、釣り糸を垂らしていた。
「そっち、釣れたか?」
「まだ」
並んで釣竿を持ちながら、交わす言葉は穏やかだ。海岸沿いで、偶然出会って一緒に沖へ漕ぎ出した2人は、片や貢ぎ物を得ようとし、片や絶好の釣り日和を楽しんでいた。
ウォーゼルが選んだ釣りポイントで、魚が餌に食い付くのを待つ船上では、チョコが大はしゃぎであちらこちら歩き回ったり、2人によじ登ったり。そんなチョコを構いつつ、アタリが来るやひょいと魚を釣り上げる、ウォーゼルの様子を見ていたアルバスは――なぁ、と改まって問いかけた。
「猫の喜ぶことって解るか?」
「ん? 猫?」
唐突な問いに、ウォーゼルはこてんと首を傾げ。すぐに何を聞きたいのか気が付き、チョコをひょいと手招きした。
大喜びで膝に座るチョコに微笑んでから、ここ、と手を伸ばす。
「この辺りを撫でてあげると喜ぶ仔が多いよ」
猫とミニコボだと厳密には変わるだろうけどと、注釈しつつ撫でるウォーゼルの、手をアルバスはじっと見つめた。貢ぎ物然り、いまだ気を許して貰えないタマさんと仲良くなるべく、奮闘中なのだ。
こう……とエアなでなでをする間にまた1匹、ウォーゼルが魚を釣り上げる。そうして針を外しながら、そうだ、とアルバスを誘った。
「この後パルドとお昼の予定なんだけどアルバスも来る? ご飯は釣果次第、だけど」
「俺もいいのか? なら、お言葉に甘えて――豪華な昼食といこうじゃないか」
そのお誘いに、これはいっそう気合が入ると、アルバスはニッと笑う。折よく来たアタリにぐっと合わせ、先よりもなお張り切って釣り始めた沖合の小舟をグレイブ・ヤードは、岩場の上からのんびりと眺めた。
手に持つ釣り竿は、その心持ちと同じくただ静か。
(……ふむ?)
沖の様子を眺める限り、クリーパーやらの影響はもうなさそうだ、と頭の片隅で思う。思い、す、と引き上げた空の釣り針に淡々と餌をつけ直し、ぽちゃんと海面に落とした。
耳に届くのは波の音と、賑やかに石を探す人々の声。見降ろす海面の透明度に、海の中も落ち着いてきたようですね、と思う。
そんな事を考えつ、実のところはただ無心に釣り糸を垂らすグレイブとは、別の岩場に鎮座するシルヴィア・A・カペルもまた、穏やかに海面を見つめていた。釣竿を握る手付きは、危うげない。
(懐かしいな)
先生との旅路では何度も、野営で釣った魚を焼いて食べたものだ。こうして釣り糸を垂れていると、その思い出がまざまざと蘇ってくる。
くん、と竿先に伝わるアタリに合わせ、引き上げれば手の平より少し大きいくらいの魚が、ビチビチ身をくねらせた。慣れた手つきで針を外し、マジカルポケットの中の保存容器に放り込む。
さて、どんな魚料理を作ろうかと、そうしてシルヴィアは楽しく考えた。冒険者になってから、何種類かの魚料理も学んで作れるようになったけれども、
(やっぱり、まずは『潮汁』に挑戦だね)
シャルガネに縁の深い恋人のため、シャルガネ風の料理だという潮汁を習得したいと考えるシルヴィアだ。作った事はないけれど、簡単だと聞くからきっとシルヴィアにも作れるだろう。
そう考えるシルヴィアの眼差しは、穏やかで甘かった。
●
眼前の青い海に、アリエッタは感動に打ち震えた。
「こ、これがはねむーんというやつだね!」
「うーん、そうなるのかな?」
ぐっと両手を握って振り返ったアリエッタに、振り返られたララベル・サン・ディーベルはちょっと考える。――確かに、アリエッタと一緒に出掛けるのは6月以来。
だからにこにこ嬉しそうなアリエッタに、ララベルもにっこりした。刹那、落ちている様々なモノに気が付き、わぁ、と目を見張る。
「色んな物が流れてきてるよ! これ、なんだろ……わわっ!?」
漂着物の中に在った、色褪せた布の1つを拾い上げたララベルが、布地の少ない水着と気付いてわたわたした。なぜかとてもイケナイ事をしてしまったように、真っ赤になって布地を元に戻し――ふぅ、と額の汗を拭って。
ふと、呟く。
「……でも、少し残念だな、もう少し暖かかったら皆の水着姿が見れたのに」
「水着を着るどころか、海風でちょっと寒いくらいかもね」
いかにも残念そうなララベルに、ひょい、と木彫りの小箱を拾いながら、アルラ・ニグラスが肩を竦めた。何か珍しいものが入ってるかしらね? と調べる、その胸元がララベルの位置からだととてもよく見える。
ポッ、と頬を染めたララベルの視線を追ったルーシカも、それに気が付きクスッと笑った。水着にならなくてすらこれなのに、水着になっていたらナニが起こったか。
ルーシカが想像したものと、まったく同じ光景を想像して、テュリン・ヴィングは遠い瞳になる。長年の付き合いのララベルと居ると、なぜだかよく大変な事に巻き込まれるのだ。
だが、それも最早いつもの事と思えるだけの経験を重ねて来た。ゆえに瞬きと小さな吐息1つを零し、テュリンも漂着物に目を向ける――どうせなら何か珍しいもの、あわよくば魔法の研究などに使える何かが見つかれば良いが。
そうして5人、仲良く秋の海岸沿いを、歩く。探すのは前述のような漂着物や、綺麗な石――他にも、珍しかったり綺麗だったり、目新しいものなら何でも。
商売になりそうな何かが見つかったら最高だと、考えながら砂浜を見ていたヒロ・テスタロッサが、巻貝を見つけて「あ♪」と拾い上げた。実のところ、故郷は海から遠かったので、こうして海岸沿いを散策しているだけでも楽しい。
巻貝を耳に当てれば、ザザザ……ッ、と小さく響く。
「この貝殻、耳に当てると海の音がする♪」
「えっ、ホント?」
「あ、あたしも聞きたい!」
その言葉にララベルが、ヒロの反対側から貝殻に耳を当てた。同時に、アリエッタが手を挙げながら小走りに駆け寄ってきて――常なら砂浜でも危うげないアリエッタの足が、なぜかもつれ。
ぐらりと倒れた彼女を助けようと、ララベルが手を伸ばす。
「わわっ!?」
「きゃぁ!」
「おっと♪」
だが、そのまま一緒に倒れかけたララベルごと、ヒロががっしり受け止めた。顔を支えるぽよんとした感触――ボンッ! と真っ赤になって飛び起きれば、手がふよんと何かに触れる。
フリーズしたララベルの眼前には、胸元を押さえて真っ赤なアリエッタと、ちょっと照れつつ受け止めるヒロ。そんな3人の様子を、少し離れた所から見たテュリンは、「やっぱりね……」と嘆息した。
これでは海岸散策ではなくララベルのラキスケ祭だ。仄かな頭痛を覚えながら同意を求めてルーシカとアルラを振り返り――あれ、アルラは?
どこにも姿が見えなくて、ルーシカとテュリンは顔を見合わせた。それから辺りを見回せば、頭上の崖の壁にしゃがみ込んでいる、アルラの姿があって。
見えていた。アルラのスカートに秘められた何もかもが。
その光景に、テュリンが頭痛を堪える表情になり、ルーシカがひょいと肩を竦めた。そうして2人、予感と共にララベルを振り返れば――ぽかん、とアルラを見上げていたララベルが、アルラ! と走り出した。
「危ないよ! ほら、掴まって……!」
「平気よ……あら?」
そのまま崖を駆け上がり、手を伸ばすララベルにアルラがくすりと笑う。だがなぜかその身体がぐらりと揺れ、足が崖の壁から離れた。
落ちる2人を受け止めようと、ヒロが駆け込んでくる。頭上から振って来た2人は見事ヒロの腕に収まり――だが勢い余ってそのまま、すぐ傍に居たテュリン達を巻き込み崩れ落ちた。
それは、惨劇であった。何しろ、焦ったララベルがどうにか起き上がろうとする度に、テュリンの胸元がはだけ、ルーシカの足が露わになり、アルラの胸元に埋まり、ヒロの衣服が際どくズレるのだ。
あぁぁぁぁ……とララベルは身も蓋もなく真っ赤になって、右を向いては謝り、左を向いては謝り倒す。それに――誰からともなく、苦笑とため息が漏れた。
やれやれ、とルーシカがすぐ傍に落ちていた石を拾い上げる。崖の上からアルラ達と一緒に落ちてきたと思しき石は、透明感があってキラキラと美しい。
「結果オーライ、ってやつかな」
「わぁ、綺麗だね! そうだ、似合いそうな物を見つけたら、贈り合うのもどうかな?」
その石を見つめながら言ったルーシカに、ララベルがぱっと顔を輝かせ、にっこり微笑み提案する。それに、女性陣は顔を見合わせて――良いんじゃない、とクスクス笑った。
●
「――ふむ。海の状態は悪くないようですね」
何匹目かの魚をリリースし、グレイブは独り言ちる。とはいえ、そんなもっともらしい事を言いながらも、ぼんやりと思考を手放して静かな時間を過ごすのが主目的なので、実のところ海の状態もグレイブにとっては、ただのついでに過ぎなかった。
もちろん、海の状態が良いに越した事はないですがと、呟きつつ近くをちょろちょろしていた虫を捕まえ、ひょいと針に引っ掛けて海面に放り投げる。そうしてまた、ゆらゆら揺れる糸の先を見つめ――ただ、何も考えない。
ザザ……ン
ザザザ……ン
穏やかな波の音が、グレイブの鼓膜をくすぐり消えていく。くん、と竿に伝わる力に引き上げれば、今度はバレたようで針だけが揺れていた。
ふむ、と呟き虫を捕まえ、針につける。ぽちゃん、と海面に放り投げ、釣竿を構えて無心になる。
食べるためではなく、ただ時を過ごし、エーテルの悪影響などないか調べるための釣りは、そうして過ぎるのだった。
●
崩れかけた崖の壁面を、ナハティガルは危うげなく歩く。下から「あれ良いなぁ!」という心からの叫びが聞こえたのに、唇の端を釣り上げナハティガルは、護衛の領分は保ったまま、あえて土が崩れている場所を狙った。
嵐で荒れてしまった壁面で、きらりと陽光を反射する何かを見逃さない。しゃがみ込みシーフズツールで掘り出せば、ポロ、と石が零れ落ちてきた。
蜂蜜のような金色。――さらりと揺れる金色を幻視して、ふ、と微笑む。
そんな風に石を採取しては、どんどん背嚢に収めていく。他にも露出している石がないか見回せば、数歩ほど離れた所に、不可思議な色に揺れる石を見つけた。
これも珍しそうだ、と掘り出し、土を払う。陽光にかざせば乳白色の煌めきが、ナハティガルに降り注いできた。
(――これは彼女に似合うだろうか)
気付けばそんな事ばかりを考えながら、ナハティガルはその石を背嚢に仕舞う。そうして、彼女に似合いそうな――彼女が喜びそうな石を求め、歩き回るのだった。
●
まずは、マジカルポケットから取り出した魚を切り分ける。軽く塩を振って置く間に、枯れ木を組んで火をつけた。
火勢が安定したら魚を洗い、昆布と水と共に鍋に入れ、火にかけて。沸騰する前に昆布を取り、さらにじっくり煮込んでいく。
「アクを取る、のだったね」
聞いたレシピ通りにシルヴィアは、浮いてきた灰汁を丁寧に取り除いた。それから隠し味をひとたらしして、塩で味を調えれば潮汁の完成――のはずだ。
その頃には、同時進行で焼いていた魚の塩焼きも良い匂いを漂わせていた。こちらはかつて取ったる杵柄だ、こんなものだなと火から遠ざけておき。
潮汁を器によそって、月仙をクイ、とまずは一献。うん、と微笑み潮汁に口をつければ、深い出汁の風味が口一杯に広がった。
「――中々上手く出来たんじゃないかな?」
笑みを深めて今度は塩焼きを食めば、こちらは慣れ親しんだ安定の味。そうしてまた一献――嗚呼、普段とは何もかも違うのに、悪くない。
頬を撫でる澄んだ秋風に誘われ、眼差しを向ければ遠く広がる水平線。空と海の境界線は、どこまでも広がっていて。
「今度は、食べて欲しいものだね」
恋人の面影を抱きつつシルヴィアは、潮汁をまた食むのだった。
●
「比較的やり易いのは投網漁ですわね」
小舟の上で、ネーヴェはそう説明する。とあみ、とアルフィーがオウム返しした。
それに微笑み頷いて、やってみせますわね、と慣れた手つきで投網を構え。
「この網を海へ向かって、こう、ぽーいっとしてからですね、ぐぐっと引き揚げを」
「おぉ~ッ、凄いぞネーヴェ!」
身振りと擬音と感覚で説明する、ネーヴェの手から放たれた投網がふわりと大きく広がって、アルフィーが拍手喝采を上げた。それに「お恥ずかしいですわ」とはにかみつつ、投網を手繰るネーヴェの手付きはプロである。
次いでアルフィーも投網体験をしてから、今度は揃って海の中へ。
「銛を使った刺突漁もご教示致しますわ」
「かっけー!」
そう言って銛を構えるネーヴェに、アルフィーの興奮は鰻登りだ。大物も倒しそうな雰囲気を纏うネーヴェは、想像とは違って、だがとても格好いい。
ゆえに、獲物を探して泳ぎ始めたネーヴェに、アルフィーもどうにか泳いでついて行き。逸れていないか振り返ったネーヴェに、ぐっと親指を立てた瞬間「ふぎゃ!?」と悲鳴を上げた。
「アルフィーさん!?」
「イタタタタッ!?」
わたわたするアルフィーの尻尾の先には、カプリと齧り付く魚が1匹。ハッ! と狙い定めて銛で突いたネーヴェは、勢いのままアルフィーを抱いて泳ぎ出す。
その腕は力強く、アルフィーの内心は「ネネネネネーヴェ!?」と大騒ぎ。その間に小舟に辿り着き、アルフィーを引き上げたネーヴェは治療を施して。
はた、と気付く。――冷静に考えてみると、あれこれに引かれるのでは?
ゆえにそっと顔色を窺ったネーヴェに、だがアルフィーは「ありがとな、ネーヴェ!」といつも通り。それにほっと胸を撫で下ろし――そんなネーヴェを見つめてアルフィーは、少し胸を痛めた。
(俺がネーヴェを守りたいって思ってたけど、ネーヴェの方が俺よりもずっと強いんだよな……)
今だって、アルフィーはネーヴェに助けられ、守られた。――その事実に、アルフィーの胸がきゅぅ、と痛む。
自分ももっとネーヴェに頼られるよう――ネーヴェを守れるよう強くなろう。そう、アルフィーは改めて決意するのだった。
●
くぅ、とお腹の鳴る音に、パルドは土を掘る手を止めた。音の主を振り返れば、お腹を押さえて少し恥ずかしげ。
そんなルルトを、パルドは誘う。
「このあとウォーゼルと飯なんだけどルルトも来るか?」
「ご飯いいの? やったー♪」
その言葉に、ルルトは万歳で立ち上がった。そうして2人と2匹で連れ立って、待ち合わせ場所へと向かえばそこには、アルバスとウォーゼルが待っていた。
――あれ?
「アルバスも来てたんだ!」
「ルルトも来てたのか!」
互いに指差しあって驚く2人に、ウォーゼルとパルドも目を丸くする。すごい偶然だと4人で顔を見合わせてから、はっと我に返ったアルバスが手に下げた容器をずいと出した。
ん? と覗き込んだルルトは、また目を丸くしてびっくり。
「2人で釣ったの? すごーい!!」
「ん、まあ。これで昼飯だってさ」
それに何でもない顔をしつつ、胸を撫で下ろすアルバスである。実のところ、坊主だったら気まずいと、ルルトに今日の予定を秘密にしていたのだ。
そんな2人の傍らで、パルドとウォーゼルが釣れた魚を見てわいわい話す。
「沢山釣れたな、美味そうだ」
「捌いて、刺身や焼き魚にするよ。チョコ頼める?」
「チョコ? ……あぁ、寝ちゃったのか」
きょとん、と首を傾げたパルドは直ぐに、ウォーゼルの腕の中で眠るチョコに気付き、笑って受け取った。それに「頼むね」と言い置いて、ウォーゼルは忙しく動き始める。
鱗を取って3枚におろし、半分ほどに塩を振り。待つ間に残りは刺身にし、巴屋の高級醤油を添えれば完成。
わぁ、と歓声を上げたルルトに「先に食べてて」と告げてウォーゼルは、塩を振った魚を焼く。その香ばしい匂いに釣られ、やって来た人にも一緒に食べないか誘えば、幾人かが嬉しそうに頷いた。
その賑やかな昼食会で、パルドは嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせ、新鮮な魚を口一杯頬張ってご満悦。にんまり笑顔でどんどん食べ進める傍らで、アルバスはせっせとルルトとタマさんに魚を献上する。
「ほらルルト、これもあるぞ。タマさん、こちら解しておいたんでどうぞ」
「ふふー、良かったねタマさん! すっごく美味しいんだよ♪」
――にゃー!
美味しい魚料理ににっこにこのルルトの傍らで、タマさんもご満悦。ほっ、と胸を撫で下ろしたアルバスの膝を、ショコラが『こっちは?』と言うようにカリカリ引っ掻くので、勿論お出しさせて頂く。
その頃には、調理を終えたウォーゼルも食事の輪に加わった。皆の顔を見回して、嬉しそうに目を細める。
「美味しい? ならよかった」
「美味しい! そうだ、ルルトと綺麗な石見つけたんだ、これとかさ」
「うわぁ、沢山あったんだね」
そんなウォーゼルに、パルドが見つけた石を見せたり、愛猫達が波間で小魚などをハンティングしていた様などを話して聞かせれば、ウォーゼルの笑みがますます深まった。そんな風に和気藹々と、午後のひと時は過ぎて行くのだった。
●
どこかで見た、それが第一印象だ。どこだったか、どんな敵だったか思い出せないのは、ジュールの不可思議パワーのせいか。
「いっくよー」
声色だけは変わらぬ暢気さで、剛腕の一撃がヴィルヘルミナに真っ直ぐ振り下ろされる。咄嗟に砂浜を転がり回避するも、二撃、三撃と敵の追撃は容赦ない。
イタズラですか、と口中で呟いた。随分と可愛くない悪戯だと、片膝を突いて起き上がり、月喰いに手をかける。
瞬間、抜き放った白銀の刃に込めたエーテルを解放した一撃は、神速の名に違わぬ速度で敵へと喰い込み、さらに鋭い追撃がそれを後押しした。だが足りない。
それを悟った刹那、可愛くない轟音が「あれれ~?」と可愛らしく叩き込まれた。ズゥン! 地響きと共に砂が巻き上がり、視界が奪われる。
耳は役には立たないが、温度変化を探れば砂の向こうに何かが見えた。視界が晴れた瞬間が勝負だと、抜き身の月喰いを鞘に納めて2度目の鳴神を準備する。
逃げられないのは幸いだ、他の人を巻き込まずに済む。そう思ってからふと違和感に視線を僅かに動かせば、こちらが見えてないかのように穏やかな人々が見えた。
これも不可思議パワーなのか。考える隙にも砂埃が鎮まり、敵への射線と視線が通る。
「これで終わりにしたい所です……!」
刹那、ヴィルヘルミナは全身全霊を込めて月喰いを抜き放った。
●
「ねぇ、なんでこんなボロボロなの?」
ディレインは大いに困惑して、突然傷だらけで現れたヴィルヘルミナの傷を癒す。その声に、微かに目を開けたヴィルヘルミナもまた困惑の色を浮かべた。
ジュールが、と掠れ声で呟いたのに、「ジュール?」とディレインも眉を潜め――けれども何も居ない。だが錯覚ではなかった事は、この傷が物語っている。
さて、自分は勝ったのか負けたのか。思い出せない事に嘆息し、あとは自分でやりますと丁寧に礼を言う。
そう? と眉尻を下げてディレインはもう1度、ヴィルヘルミナの全身を診た。そうして、自分でも直せるなら大丈夫かな、と立ち上がる。
友人達の所へ戻ると、コルネリウスとレピドが同時に振り返った。
「大丈夫でした?」
「何があったんだ?」
「おじさんにもよく解らないんだよねぇ……」
そうして尋ねられた言葉に、ディレインは大いに首を捻る。本人もよく解ってない風だったし――誰かにイタズラされたのかもしれない。
そう言えば、2人がきょとんと顔を見合わせて。とにかく大事がなくて良かったと、また石探しに精を出し始める。
その背中を眺めつつ、先ほどまで寝ころんでいた巣に潜り込んだ。――持参した毛布を適当に畳み、枕代わりに昼寝していたのだ。
何しろ本当に、本当に色々と大変だったから。ここらでゆっくりさせてもらいたい、と。
(こういう毎日が末永く続いてほしいものだねえ……)
そう考えながら友人達の話し声に耳を傾けるうち、うたた寝を始めたディレインを起こさぬよう心持ち声を潜めて、コルネリウスは問いかける。
「ペデラさん、レピドさん。その後はどうです?」
「まぁまぁってトコだな。レピドは?」
「――こんな石を見つけた」
それに楽しげに応じたペデラから、話を振られてレピドは懐から幾つかの石を出す。どこか空を思わせる、様々な青の石――赤系の物も見つけはしたが、苦手意識が立って手が出なかった。
そんな、細かな事を言いはしないが、まるで見通しているかのように「頑張ったな」とペデラはわしわし撫でる。それからコルネリウスに、そういうお前は? と問いかけた。
それに、コルネリウスはにっこりし。手の平に幾つか輝石を転がせば、親子が揃って覗き込む。
「本当に色々な石があるんですね――見てください、これとか花の模様みたいで」
「お、こういうのなら前にオレも……って、それ何だ?」
それに何やら言いかけたペデラが、コルネリウスの隣に幾つか置かれた物品に首を傾げた。ああ、とそれにコルネリウスは苦笑する。
「落とし物も見つけたんです。――持ち主が見つかるかはわからないけれど、此処に埋もれているのはきっと寂しいから」
どこか保管できる場所があればと、慈しむようにそれらを見つめるコルネリウスに、地元の人に聞いてみるかとペデラが立ち上がった。が、それより早くレピドが、俺が行って来ると歩き出す。
そんな親子を見比べ――ふふ、とコルネリウスは微笑んだ。
(……ん?)
ふと耳に入った旋律に、レピドは首を傾けた。ペデラが歌っている?
見れば足取りも軽やかで、今日の目的が楽しみだと知れた。その様子に、ふと悪戯心が疼く。
ペデラの死角へ移動し、縁の横笛を構えて――おもむろにレピドが奏で出したのは、ペデラの鼻歌に絡む旋律だ。刹那、驚いたようにきょろきょろ辺りを見回したペデラが、
「何お前、そんなに吹けるのか!? すげぇじゃん!」
「ああ」
目が合うや否や驚きに破顔したのに、返すレピドの頷きは淡々と。だがどこか誇らしげなのを、ペデラは見逃さない。
ゆえに「頑張ってんなぁ!」とわしわし撫でたペデラに、レピドは小さく頬を緩め。それを見ていた友人達は、飼い主に褒められる子犬を幻視したとかしないとか。
●
海岸沿いを、ルルト・アーキスとパルドの捜波が奔る。
「危険な生物は居なさそうだ」
「こっちも安全そうだよ!」
「ありがとな!」
探知結果を告げるパルドとルルトに、ペデラがぱっと顔を喜色に染めて崖へと走り出す。それより一足早くナハティガル=ラーは、探波で安全を確かめた。
崩れかけた所が狙い目と話していたが、本当に崩れて下敷きに、なんて目も当てられない。ゆえに崖に張り付くペデラを視界に入れつつ――ふ、と海岸を眺め渡した。
「――嵐が過ぎ去った後には、独特の静けさがある、な」
もちろんナハティガル他、幾人もの冒険者の姿もあるが、それでもどこか不思議な静寂が横たわる。それに軽く目を眇めて魅入ってから、ナハティガルも珍しい石を探すことにした。
と言ってもナハティガルは、鉱物に詳しくない。だが、外観が独特だとか、発光してたり、何か特殊な効能がありそうな石が採取出来ればいい。
ゆえにペデラから少し離れた崖に目を凝らせば、幾つかの石が見えた。ほう、と手を伸ばすのに気付いたペデラが、「周りから掘った方が良いぞ」と助言する。
言われた通り石の周囲を堀れば、すぐに石が零れ落ちてきた。ナハティガルの親指の先程の石は、陽光で不可思議な緑に煌めき――ふと、誰かを幻視する。
微笑み、丁寧に背嚢に収めた。そうしてまた探すナハティガルの後ろを、コルネリウス・アーラはのんびり足元を見つめ、サクサク砂を鳴らして通り過ぎる。
(改めて見ると、色々な物が落ちてますね)
先日の嵐のせいかと、今は穏やかな海を眺めつつ歩き――あ、と足を止めた。そうして拾い上げたのは、表面にうっすら何かの模様が浮き出た石。
よく見ようと陽にかざせば、星の模様だと知れた。わぁ……、とコルネリウスは感嘆の息を零す。
「綺麗ですね……こんな素敵なものが見つかるなんて」
知らず、口元を綻ばせた。そうして、誰かに見せようと振り返れば丁度、ディレイン・オールドケイジがペデラに声をかける所。
誰かが怪我をしないか目を配るディレインは、今のところ出番がない事に安堵しつつ、どうも、と頭を下げる。
「レピド君にはいつもお世話になって……いや、お世話して……かな?」
そんな決まり文句を口にする、ディレインは途中で大いに首を捻り、ちら、と当人の方を見やった。なにしろレピドは、すぐに無茶をするのだ。
それゆえの疑問符に、あぁ……とペデラが遠い目になった。保護されたばかりの真っ白なレピドの教育担当だったという彼には、きっと苦労の3つや4つや10や20はあったのだろう。
無言で頷き合う2人の間には、そんな雰囲気が漂っている。それにクスッと笑って、コルネリウスは「お2人とも」と声をかけた。
「良い石は見つかりました? 私はこんな石を見つけたのですが――」
「おっ、良いの見つけたな!」
「――本当に石が好きなんだねぇ」
途端、コルネリウスの指先で光る星模様の石に、キラキラと目を輝かせるペデラに、似たもの親子なのかもねぇ、と肩を竦めるディレインである。その視線に、気付いたレピドが首を傾げた。
何か用かと近寄れば、ディレインが「何でもないよ」と首を振る。
「レピド君は何か見つけた?」
「いや。あの――上に見える石を取りに行こうとしてた」
そんなディレインに、レピドは崖を指さした。ペデラから石の話はよく聞かされた、どういう石が良いのか大まかに推測出来るハズ――と、目を凝らしていたのだ。
だから、と告げるレピドと崖を見比べて、気を付けてね、とディレインは眉尻を下げた。そんな崖の上では、同じく石を探して登ったパルドが、きょろきょろ見回している。
命綱もつけてるが、見上げるルルトはちょっとハラハラだ。
「気を付けてね、パルド!」
「ああ」
ゆえに声をかけたルルトに、かけられたパルドはひょいと手を挙げ、見つけた石を幾つか採取した。ピンク、黄、白、青、様々に煌めく石を握り、危うげなく降りてルルトに見せれば、わぁ、と緑の瞳が輝き。
山分け、と手に乗せられた石を、嬉しそうにうっとり見つめた。
「綺麗だね! 可愛い形の石も見つかれば良いんだけど」
「だな。ウォーゼル達にも渡したいし……っと」
「わっ、ショコラ?」
そんなルルトに頷き友人の事を口にした、パルドの脇からショコラがルルトの手の輝石にじゃれつく。慌ててショコラを止めるパルドに、いいよとルルトはにっこりし。
ポケットから別の輝石を出し、ショコラの首輪に飾り付ける。
「こんな感じで、集めた石でアクセサリーを作って贈ろうと思うんだよ! ――ショコラ、それはあげるね♪ タマさんと遊んでおいで」
――なぁ!
「へぇ、良いな。ペデラさんにも聞いてみよう」
「うん。きっと詳しいよね」
首元の輝石に満足そうなショコラを促せば、良いお返事で猫達が駆けて行く。それを見ながら呟いた、パルドにルルトがまたにっこり。
その様子を、遠くから見たヴィルヘルミナは、眩しげに目を細めた。
(穏やかですね)
秋晴れの海辺で遊ぶ、猫達の姿は平和そのもの。実のところ、一時はどうなる事かと思ったが、案外何とかなるものだ。
とはいえ、どうにかクリーパーを撃破したら、また別の竜絡みで騒ぎになるとは。そう、考えながら歩いていたヴィルヘルミナはふと足を止める。
何か居た。
「強くなりたきゃイタズラするぞ!」
それは、妖精ジュールだった。イタズラ――そういえば、甘いもの好きなんでしたっけ?
持ってきたチョコレートを思い出し、差し出してみればジュールがくるんと宙返り。そうして食べ始めたジュールを眺め――ふと、呟く。
「強くなりたきゃ……ですか」
それはジュールが告げた言葉。大陸のあちこちで、人類に告げられている言葉。
いったい、どんな意味があるのだろう。そう――思索に耽ろうとして、周囲の気配が変わったと気付き。
失敗を悟った。口の周りを茶色くしたジュールが、嬉しそうにこちらを見ている。
「強くなりたきゃイタズラするぞ!」
そうして――次の瞬間ヴィルヘルミナの前に、クリーパーが出現した。
●
穏やかな波打ち際には、沖へ釣針を投げる人の姿があった。おぉ、と見回せば向こうの岩場でも釣り糸を垂らす人の姿。
釣りと言えば、とアルフィー・リッパーは期待の眼差しで、ネーヴェ・グラヌローザを振り返る。
「ネーヴェは釣りが好きって前に言ってたよな? もしよかったら教えてくれないか?」
「釣り……ですか」
そうしてキラキラ見つめるアルフィーに、見つめられたネーヴェは少し困り顔になった。アルフィーと同じ光景を見つめて――えぇと、と眉尻を下げ丁寧に言葉を選ぶ。
「生憎、釣りはあまりしたことがありませんが、漁で宜しければ教えられますわ」
「漁?」
「はい。折角ですから小舟をお借りしましょうか」
そう、微笑み歩き出したネーヴェの後姿にアルフィーは、漁? ともう1度首を傾げた。――どうやら、漁と釣りを勘違いしていたようだ。
そうか、と頷き小走りになって、追いついたネーヴェの顔を覗き込む。
「ネーヴェ先生よろしくな!」
「ふふ、何だかくすぐったいですわね」
そんなアルフィーに、ネーヴェははにかみながらも「お任せください」と微笑んだ。そうして小舟を借りて、漕ぎ出した沖合に浮かぶ船の中の1艘で、ウォーゼルとアルバス・ロウルも、釣り糸を垂らしていた。
「そっち、釣れたか?」
「まだ」
並んで釣竿を持ちながら、交わす言葉は穏やかだ。海岸沿いで、偶然出会って一緒に沖へ漕ぎ出した2人は、片や貢ぎ物を得ようとし、片や絶好の釣り日和を楽しんでいた。
ウォーゼルが選んだ釣りポイントで、魚が餌に食い付くのを待つ船上では、チョコが大はしゃぎであちらこちら歩き回ったり、2人によじ登ったり。そんなチョコを構いつつ、アタリが来るやひょいと魚を釣り上げる、ウォーゼルの様子を見ていたアルバスは――なぁ、と改まって問いかけた。
「猫の喜ぶことって解るか?」
「ん? 猫?」
唐突な問いに、ウォーゼルはこてんと首を傾げ。すぐに何を聞きたいのか気が付き、チョコをひょいと手招きした。
大喜びで膝に座るチョコに微笑んでから、ここ、と手を伸ばす。
「この辺りを撫でてあげると喜ぶ仔が多いよ」
猫とミニコボだと厳密には変わるだろうけどと、注釈しつつ撫でるウォーゼルの、手をアルバスはじっと見つめた。貢ぎ物然り、いまだ気を許して貰えないタマさんと仲良くなるべく、奮闘中なのだ。
こう……とエアなでなでをする間にまた1匹、ウォーゼルが魚を釣り上げる。そうして針を外しながら、そうだ、とアルバスを誘った。
「この後パルドとお昼の予定なんだけどアルバスも来る? ご飯は釣果次第、だけど」
「俺もいいのか? なら、お言葉に甘えて――豪華な昼食といこうじゃないか」
そのお誘いに、これはいっそう気合が入ると、アルバスはニッと笑う。折よく来たアタリにぐっと合わせ、先よりもなお張り切って釣り始めた沖合の小舟をグレイブ・ヤードは、岩場の上からのんびりと眺めた。
手に持つ釣り竿は、その心持ちと同じくただ静か。
(……ふむ?)
沖の様子を眺める限り、クリーパーやらの影響はもうなさそうだ、と頭の片隅で思う。思い、す、と引き上げた空の釣り針に淡々と餌をつけ直し、ぽちゃんと海面に落とした。
耳に届くのは波の音と、賑やかに石を探す人々の声。見降ろす海面の透明度に、海の中も落ち着いてきたようですね、と思う。
そんな事を考えつ、実のところはただ無心に釣り糸を垂らすグレイブとは、別の岩場に鎮座するシルヴィア・A・カペルもまた、穏やかに海面を見つめていた。釣竿を握る手付きは、危うげない。
(懐かしいな)
先生との旅路では何度も、野営で釣った魚を焼いて食べたものだ。こうして釣り糸を垂れていると、その思い出がまざまざと蘇ってくる。
くん、と竿先に伝わるアタリに合わせ、引き上げれば手の平より少し大きいくらいの魚が、ビチビチ身をくねらせた。慣れた手つきで針を外し、マジカルポケットの中の保存容器に放り込む。
さて、どんな魚料理を作ろうかと、そうしてシルヴィアは楽しく考えた。冒険者になってから、何種類かの魚料理も学んで作れるようになったけれども、
(やっぱり、まずは『潮汁』に挑戦だね)
シャルガネに縁の深い恋人のため、シャルガネ風の料理だという潮汁を習得したいと考えるシルヴィアだ。作った事はないけれど、簡単だと聞くからきっとシルヴィアにも作れるだろう。
そう考えるシルヴィアの眼差しは、穏やかで甘かった。
●
眼前の青い海に、アリエッタは感動に打ち震えた。
「こ、これがはねむーんというやつだね!」
「うーん、そうなるのかな?」
ぐっと両手を握って振り返ったアリエッタに、振り返られたララベル・サン・ディーベルはちょっと考える。――確かに、アリエッタと一緒に出掛けるのは6月以来。
だからにこにこ嬉しそうなアリエッタに、ララベルもにっこりした。刹那、落ちている様々なモノに気が付き、わぁ、と目を見張る。
「色んな物が流れてきてるよ! これ、なんだろ……わわっ!?」
漂着物の中に在った、色褪せた布の1つを拾い上げたララベルが、布地の少ない水着と気付いてわたわたした。なぜかとてもイケナイ事をしてしまったように、真っ赤になって布地を元に戻し――ふぅ、と額の汗を拭って。
ふと、呟く。
「……でも、少し残念だな、もう少し暖かかったら皆の水着姿が見れたのに」
「水着を着るどころか、海風でちょっと寒いくらいかもね」
いかにも残念そうなララベルに、ひょい、と木彫りの小箱を拾いながら、アルラ・ニグラスが肩を竦めた。何か珍しいものが入ってるかしらね? と調べる、その胸元がララベルの位置からだととてもよく見える。
ポッ、と頬を染めたララベルの視線を追ったルーシカも、それに気が付きクスッと笑った。水着にならなくてすらこれなのに、水着になっていたらナニが起こったか。
ルーシカが想像したものと、まったく同じ光景を想像して、テュリン・ヴィングは遠い瞳になる。長年の付き合いのララベルと居ると、なぜだかよく大変な事に巻き込まれるのだ。
だが、それも最早いつもの事と思えるだけの経験を重ねて来た。ゆえに瞬きと小さな吐息1つを零し、テュリンも漂着物に目を向ける――どうせなら何か珍しいもの、あわよくば魔法の研究などに使える何かが見つかれば良いが。
そうして5人、仲良く秋の海岸沿いを、歩く。探すのは前述のような漂着物や、綺麗な石――他にも、珍しかったり綺麗だったり、目新しいものなら何でも。
商売になりそうな何かが見つかったら最高だと、考えながら砂浜を見ていたヒロ・テスタロッサが、巻貝を見つけて「あ♪」と拾い上げた。実のところ、故郷は海から遠かったので、こうして海岸沿いを散策しているだけでも楽しい。
巻貝を耳に当てれば、ザザザ……ッ、と小さく響く。
「この貝殻、耳に当てると海の音がする♪」
「えっ、ホント?」
「あ、あたしも聞きたい!」
その言葉にララベルが、ヒロの反対側から貝殻に耳を当てた。同時に、アリエッタが手を挙げながら小走りに駆け寄ってきて――常なら砂浜でも危うげないアリエッタの足が、なぜかもつれ。
ぐらりと倒れた彼女を助けようと、ララベルが手を伸ばす。
「わわっ!?」
「きゃぁ!」
「おっと♪」
だが、そのまま一緒に倒れかけたララベルごと、ヒロががっしり受け止めた。顔を支えるぽよんとした感触――ボンッ! と真っ赤になって飛び起きれば、手がふよんと何かに触れる。
フリーズしたララベルの眼前には、胸元を押さえて真っ赤なアリエッタと、ちょっと照れつつ受け止めるヒロ。そんな3人の様子を、少し離れた所から見たテュリンは、「やっぱりね……」と嘆息した。
これでは海岸散策ではなくララベルのラキスケ祭だ。仄かな頭痛を覚えながら同意を求めてルーシカとアルラを振り返り――あれ、アルラは?
どこにも姿が見えなくて、ルーシカとテュリンは顔を見合わせた。それから辺りを見回せば、頭上の崖の壁にしゃがみ込んでいる、アルラの姿があって。
見えていた。アルラのスカートに秘められた何もかもが。
その光景に、テュリンが頭痛を堪える表情になり、ルーシカがひょいと肩を竦めた。そうして2人、予感と共にララベルを振り返れば――ぽかん、とアルラを見上げていたララベルが、アルラ! と走り出した。
「危ないよ! ほら、掴まって……!」
「平気よ……あら?」
そのまま崖を駆け上がり、手を伸ばすララベルにアルラがくすりと笑う。だがなぜかその身体がぐらりと揺れ、足が崖の壁から離れた。
落ちる2人を受け止めようと、ヒロが駆け込んでくる。頭上から振って来た2人は見事ヒロの腕に収まり――だが勢い余ってそのまま、すぐ傍に居たテュリン達を巻き込み崩れ落ちた。
それは、惨劇であった。何しろ、焦ったララベルがどうにか起き上がろうとする度に、テュリンの胸元がはだけ、ルーシカの足が露わになり、アルラの胸元に埋まり、ヒロの衣服が際どくズレるのだ。
あぁぁぁぁ……とララベルは身も蓋もなく真っ赤になって、右を向いては謝り、左を向いては謝り倒す。それに――誰からともなく、苦笑とため息が漏れた。
やれやれ、とルーシカがすぐ傍に落ちていた石を拾い上げる。崖の上からアルラ達と一緒に落ちてきたと思しき石は、透明感があってキラキラと美しい。
「結果オーライ、ってやつかな」
「わぁ、綺麗だね! そうだ、似合いそうな物を見つけたら、贈り合うのもどうかな?」
その石を見つめながら言ったルーシカに、ララベルがぱっと顔を輝かせ、にっこり微笑み提案する。それに、女性陣は顔を見合わせて――良いんじゃない、とクスクス笑った。
●
「――ふむ。海の状態は悪くないようですね」
何匹目かの魚をリリースし、グレイブは独り言ちる。とはいえ、そんなもっともらしい事を言いながらも、ぼんやりと思考を手放して静かな時間を過ごすのが主目的なので、実のところ海の状態もグレイブにとっては、ただのついでに過ぎなかった。
もちろん、海の状態が良いに越した事はないですがと、呟きつつ近くをちょろちょろしていた虫を捕まえ、ひょいと針に引っ掛けて海面に放り投げる。そうしてまた、ゆらゆら揺れる糸の先を見つめ――ただ、何も考えない。
ザザ……ン
ザザザ……ン
穏やかな波の音が、グレイブの鼓膜をくすぐり消えていく。くん、と竿に伝わる力に引き上げれば、今度はバレたようで針だけが揺れていた。
ふむ、と呟き虫を捕まえ、針につける。ぽちゃん、と海面に放り投げ、釣竿を構えて無心になる。
食べるためではなく、ただ時を過ごし、エーテルの悪影響などないか調べるための釣りは、そうして過ぎるのだった。
●
崩れかけた崖の壁面を、ナハティガルは危うげなく歩く。下から「あれ良いなぁ!」という心からの叫びが聞こえたのに、唇の端を釣り上げナハティガルは、護衛の領分は保ったまま、あえて土が崩れている場所を狙った。
嵐で荒れてしまった壁面で、きらりと陽光を反射する何かを見逃さない。しゃがみ込みシーフズツールで掘り出せば、ポロ、と石が零れ落ちてきた。
蜂蜜のような金色。――さらりと揺れる金色を幻視して、ふ、と微笑む。
そんな風に石を採取しては、どんどん背嚢に収めていく。他にも露出している石がないか見回せば、数歩ほど離れた所に、不可思議な色に揺れる石を見つけた。
これも珍しそうだ、と掘り出し、土を払う。陽光にかざせば乳白色の煌めきが、ナハティガルに降り注いできた。
(――これは彼女に似合うだろうか)
気付けばそんな事ばかりを考えながら、ナハティガルはその石を背嚢に仕舞う。そうして、彼女に似合いそうな――彼女が喜びそうな石を求め、歩き回るのだった。
●
まずは、マジカルポケットから取り出した魚を切り分ける。軽く塩を振って置く間に、枯れ木を組んで火をつけた。
火勢が安定したら魚を洗い、昆布と水と共に鍋に入れ、火にかけて。沸騰する前に昆布を取り、さらにじっくり煮込んでいく。
「アクを取る、のだったね」
聞いたレシピ通りにシルヴィアは、浮いてきた灰汁を丁寧に取り除いた。それから隠し味をひとたらしして、塩で味を調えれば潮汁の完成――のはずだ。
その頃には、同時進行で焼いていた魚の塩焼きも良い匂いを漂わせていた。こちらはかつて取ったる杵柄だ、こんなものだなと火から遠ざけておき。
潮汁を器によそって、月仙をクイ、とまずは一献。うん、と微笑み潮汁に口をつければ、深い出汁の風味が口一杯に広がった。
「――中々上手く出来たんじゃないかな?」
笑みを深めて今度は塩焼きを食めば、こちらは慣れ親しんだ安定の味。そうしてまた一献――嗚呼、普段とは何もかも違うのに、悪くない。
頬を撫でる澄んだ秋風に誘われ、眼差しを向ければ遠く広がる水平線。空と海の境界線は、どこまでも広がっていて。
「今度は、食べて欲しいものだね」
恋人の面影を抱きつつシルヴィアは、潮汁をまた食むのだった。
●
「比較的やり易いのは投網漁ですわね」
小舟の上で、ネーヴェはそう説明する。とあみ、とアルフィーがオウム返しした。
それに微笑み頷いて、やってみせますわね、と慣れた手つきで投網を構え。
「この網を海へ向かって、こう、ぽーいっとしてからですね、ぐぐっと引き揚げを」
「おぉ~ッ、凄いぞネーヴェ!」
身振りと擬音と感覚で説明する、ネーヴェの手から放たれた投網がふわりと大きく広がって、アルフィーが拍手喝采を上げた。それに「お恥ずかしいですわ」とはにかみつつ、投網を手繰るネーヴェの手付きはプロである。
次いでアルフィーも投網体験をしてから、今度は揃って海の中へ。
「銛を使った刺突漁もご教示致しますわ」
「かっけー!」
そう言って銛を構えるネーヴェに、アルフィーの興奮は鰻登りだ。大物も倒しそうな雰囲気を纏うネーヴェは、想像とは違って、だがとても格好いい。
ゆえに、獲物を探して泳ぎ始めたネーヴェに、アルフィーもどうにか泳いでついて行き。逸れていないか振り返ったネーヴェに、ぐっと親指を立てた瞬間「ふぎゃ!?」と悲鳴を上げた。
「アルフィーさん!?」
「イタタタタッ!?」
わたわたするアルフィーの尻尾の先には、カプリと齧り付く魚が1匹。ハッ! と狙い定めて銛で突いたネーヴェは、勢いのままアルフィーを抱いて泳ぎ出す。
その腕は力強く、アルフィーの内心は「ネネネネネーヴェ!?」と大騒ぎ。その間に小舟に辿り着き、アルフィーを引き上げたネーヴェは治療を施して。
はた、と気付く。――冷静に考えてみると、あれこれに引かれるのでは?
ゆえにそっと顔色を窺ったネーヴェに、だがアルフィーは「ありがとな、ネーヴェ!」といつも通り。それにほっと胸を撫で下ろし――そんなネーヴェを見つめてアルフィーは、少し胸を痛めた。
(俺がネーヴェを守りたいって思ってたけど、ネーヴェの方が俺よりもずっと強いんだよな……)
今だって、アルフィーはネーヴェに助けられ、守られた。――その事実に、アルフィーの胸がきゅぅ、と痛む。
自分ももっとネーヴェに頼られるよう――ネーヴェを守れるよう強くなろう。そう、アルフィーは改めて決意するのだった。
●
くぅ、とお腹の鳴る音に、パルドは土を掘る手を止めた。音の主を振り返れば、お腹を押さえて少し恥ずかしげ。
そんなルルトを、パルドは誘う。
「このあとウォーゼルと飯なんだけどルルトも来るか?」
「ご飯いいの? やったー♪」
その言葉に、ルルトは万歳で立ち上がった。そうして2人と2匹で連れ立って、待ち合わせ場所へと向かえばそこには、アルバスとウォーゼルが待っていた。
――あれ?
「アルバスも来てたんだ!」
「ルルトも来てたのか!」
互いに指差しあって驚く2人に、ウォーゼルとパルドも目を丸くする。すごい偶然だと4人で顔を見合わせてから、はっと我に返ったアルバスが手に下げた容器をずいと出した。
ん? と覗き込んだルルトは、また目を丸くしてびっくり。
「2人で釣ったの? すごーい!!」
「ん、まあ。これで昼飯だってさ」
それに何でもない顔をしつつ、胸を撫で下ろすアルバスである。実のところ、坊主だったら気まずいと、ルルトに今日の予定を秘密にしていたのだ。
そんな2人の傍らで、パルドとウォーゼルが釣れた魚を見てわいわい話す。
「沢山釣れたな、美味そうだ」
「捌いて、刺身や焼き魚にするよ。チョコ頼める?」
「チョコ? ……あぁ、寝ちゃったのか」
きょとん、と首を傾げたパルドは直ぐに、ウォーゼルの腕の中で眠るチョコに気付き、笑って受け取った。それに「頼むね」と言い置いて、ウォーゼルは忙しく動き始める。
鱗を取って3枚におろし、半分ほどに塩を振り。待つ間に残りは刺身にし、巴屋の高級醤油を添えれば完成。
わぁ、と歓声を上げたルルトに「先に食べてて」と告げてウォーゼルは、塩を振った魚を焼く。その香ばしい匂いに釣られ、やって来た人にも一緒に食べないか誘えば、幾人かが嬉しそうに頷いた。
その賑やかな昼食会で、パルドは嬉しそうに尻尾をゆらゆらさせ、新鮮な魚を口一杯頬張ってご満悦。にんまり笑顔でどんどん食べ進める傍らで、アルバスはせっせとルルトとタマさんに魚を献上する。
「ほらルルト、これもあるぞ。タマさん、こちら解しておいたんでどうぞ」
「ふふー、良かったねタマさん! すっごく美味しいんだよ♪」
――にゃー!
美味しい魚料理ににっこにこのルルトの傍らで、タマさんもご満悦。ほっ、と胸を撫で下ろしたアルバスの膝を、ショコラが『こっちは?』と言うようにカリカリ引っ掻くので、勿論お出しさせて頂く。
その頃には、調理を終えたウォーゼルも食事の輪に加わった。皆の顔を見回して、嬉しそうに目を細める。
「美味しい? ならよかった」
「美味しい! そうだ、ルルトと綺麗な石見つけたんだ、これとかさ」
「うわぁ、沢山あったんだね」
そんなウォーゼルに、パルドが見つけた石を見せたり、愛猫達が波間で小魚などをハンティングしていた様などを話して聞かせれば、ウォーゼルの笑みがますます深まった。そんな風に和気藹々と、午後のひと時は過ぎて行くのだった。
●
どこかで見た、それが第一印象だ。どこだったか、どんな敵だったか思い出せないのは、ジュールの不可思議パワーのせいか。
「いっくよー」
声色だけは変わらぬ暢気さで、剛腕の一撃がヴィルヘルミナに真っ直ぐ振り下ろされる。咄嗟に砂浜を転がり回避するも、二撃、三撃と敵の追撃は容赦ない。
イタズラですか、と口中で呟いた。随分と可愛くない悪戯だと、片膝を突いて起き上がり、月喰いに手をかける。
瞬間、抜き放った白銀の刃に込めたエーテルを解放した一撃は、神速の名に違わぬ速度で敵へと喰い込み、さらに鋭い追撃がそれを後押しした。だが足りない。
それを悟った刹那、可愛くない轟音が「あれれ~?」と可愛らしく叩き込まれた。ズゥン! 地響きと共に砂が巻き上がり、視界が奪われる。
耳は役には立たないが、温度変化を探れば砂の向こうに何かが見えた。視界が晴れた瞬間が勝負だと、抜き身の月喰いを鞘に納めて2度目の鳴神を準備する。
逃げられないのは幸いだ、他の人を巻き込まずに済む。そう思ってからふと違和感に視線を僅かに動かせば、こちらが見えてないかのように穏やかな人々が見えた。
これも不可思議パワーなのか。考える隙にも砂埃が鎮まり、敵への射線と視線が通る。
「これで終わりにしたい所です……!」
刹那、ヴィルヘルミナは全身全霊を込めて月喰いを抜き放った。
●
「ねぇ、なんでこんなボロボロなの?」
ディレインは大いに困惑して、突然傷だらけで現れたヴィルヘルミナの傷を癒す。その声に、微かに目を開けたヴィルヘルミナもまた困惑の色を浮かべた。
ジュールが、と掠れ声で呟いたのに、「ジュール?」とディレインも眉を潜め――けれども何も居ない。だが錯覚ではなかった事は、この傷が物語っている。
さて、自分は勝ったのか負けたのか。思い出せない事に嘆息し、あとは自分でやりますと丁寧に礼を言う。
そう? と眉尻を下げてディレインはもう1度、ヴィルヘルミナの全身を診た。そうして、自分でも直せるなら大丈夫かな、と立ち上がる。
友人達の所へ戻ると、コルネリウスとレピドが同時に振り返った。
「大丈夫でした?」
「何があったんだ?」
「おじさんにもよく解らないんだよねぇ……」
そうして尋ねられた言葉に、ディレインは大いに首を捻る。本人もよく解ってない風だったし――誰かにイタズラされたのかもしれない。
そう言えば、2人がきょとんと顔を見合わせて。とにかく大事がなくて良かったと、また石探しに精を出し始める。
その背中を眺めつつ、先ほどまで寝ころんでいた巣に潜り込んだ。――持参した毛布を適当に畳み、枕代わりに昼寝していたのだ。
何しろ本当に、本当に色々と大変だったから。ここらでゆっくりさせてもらいたい、と。
(こういう毎日が末永く続いてほしいものだねえ……)
そう考えながら友人達の話し声に耳を傾けるうち、うたた寝を始めたディレインを起こさぬよう心持ち声を潜めて、コルネリウスは問いかける。
「ペデラさん、レピドさん。その後はどうです?」
「まぁまぁってトコだな。レピドは?」
「――こんな石を見つけた」
それに楽しげに応じたペデラから、話を振られてレピドは懐から幾つかの石を出す。どこか空を思わせる、様々な青の石――赤系の物も見つけはしたが、苦手意識が立って手が出なかった。
そんな、細かな事を言いはしないが、まるで見通しているかのように「頑張ったな」とペデラはわしわし撫でる。それからコルネリウスに、そういうお前は? と問いかけた。
それに、コルネリウスはにっこりし。手の平に幾つか輝石を転がせば、親子が揃って覗き込む。
「本当に色々な石があるんですね――見てください、これとか花の模様みたいで」
「お、こういうのなら前にオレも……って、それ何だ?」
それに何やら言いかけたペデラが、コルネリウスの隣に幾つか置かれた物品に首を傾げた。ああ、とそれにコルネリウスは苦笑する。
「落とし物も見つけたんです。――持ち主が見つかるかはわからないけれど、此処に埋もれているのはきっと寂しいから」
どこか保管できる場所があればと、慈しむようにそれらを見つめるコルネリウスに、地元の人に聞いてみるかとペデラが立ち上がった。が、それより早くレピドが、俺が行って来ると歩き出す。
そんな親子を見比べ――ふふ、とコルネリウスは微笑んだ。
マスターコメント
いつもお世話になっております、または初めまして、蓮華・水無月です。
この度はご参加頂きまして、本当にありがとうございました。
秋の海岸で思い思いに過ごす物語、如何でしたでしょうか。
皆さまの楽しげなプレイングに、蓮華も何だか波打ち際を歩いているような気持になりながら、精いっぱい紡がせて頂きました。
きっとペデラさんもほっくほくで、収集した石を分類しておられる事と思います。
良い骨休めになった事でしょう。
このシナリオが皆様にとって、楽しんで頂けるものでしたら幸いです。
またのご縁がございましたら、どうぞ宜しくお願いいたします(深々と
イベントシナリオ易しい 報酬:少ない19 / 4〜25人
2023年11月10日 14時33分58秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ギルド職員、ペデラ・ウォーカーが出発24時間前をお知らせするぜ。準備はOKか? 皆、集まってくれてありがとうな!!