【南乱】されど戦禍は避けがたく

紀藤トキ

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シナリオID:2952

オープニング

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「ふむ、さすが良く見ておるな。私が依頼を出す形式をとって、正解だったか」

 報告書をめくりつつ、クラーケン(グレゴール)は頷く。実際に発見された証拠書類や、見つからなかった薬物と言った情報、なぜかその場にいた吸血鬼。仕組まれているのではという疑念や気づきが指摘されている。

「エドガルの聴取報告は……。なるほど、これは私も会っておく必要がありそうだな」

 キーパーソンであるエドガル・ディンドルフとの会話も、その時の相手の様子の洞察結果などを踏まえて書かれていた。それらの情報にクラーケン(グレゴール)は逐一目を止め、どこか楽しそうに笑いながら、辺境伯へ渡すための資料をまとめていく。

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 翌日。クラーケン(グレゴール)から調査報告を受けたカーチス・ラザフォード辺境伯は険しい表情を浮かべていた。語られた内容を聞けば、魔獣の暴走にディンドルフ侯爵家の関与は濃厚であると結論せざるを得ない。

「……では、例の魔獣を狂暴化させたのは王都のディンドルフ邸で遭遇したその吸血鬼だった、と?」
「メドゥの指先との関連も口にしておったそうだ。高度な死霊術の腕を持つ悪党といえば、そこに繋がるのも頷ける。少なくとも、現地で遭遇したようなゾンビは私には作れん」

 クラーケン(グレゴール)が死霊術師である事を、カーチスも姉の救出の顛末で知っている。その時の手際か、彼をかなり腕の良い術師と見ていたカーチスは、敵へのクラーケン(グレゴール)の高い評価を聞いて眉をひそめた。この世界では、時に暗躍する1人の影響が集団に勝る事もある。

「こちらの調査を妨害する為のメドゥの指先の煙幕だという可能性は?」
「海での魔獣との戦闘中に目撃された使い魔は、その吸血鬼の手のものであったようだ。むしろ事件の最初からメドゥの指先が関係していたのであろう」

 そう言いながら、クラーケン(グレゴール)はカーチスへ追加の資料を手渡す。エドガルが手配したとされる薬物と、その取引についての帳簿だ。そこには、ラズレィ・ダルタスという商人との取引が数年前から存在するように書かれていた。

「……まさか、ディンドルフは以前から吸血鬼と取引があったのか」
「吸血鬼と知らせてはいなかったようだな。リブラネスタの商人として帳簿には載っておったよ」
「リブラネスタに? 実在する商人なのか……?」

 カーチスとしては最悪を想定する必要がある。少なくとも、クラーケン(グレゴール)から手渡された証拠を見る限りではエドガル・ディンドルフは黒だ。数年ものあいだ取引があったとすれば、ディンドルフ本家も無関係ではあるまい。商業貴族でもあるディンドルフ侯爵が、息子の取引先の調査を怠っているとは思えなかった。

「……しかし、どうしてそのような野心を」
「冒険者が考察していたが、北での争乱に乗じてであろう。ディンドルフ家は昔から独立心が強い家だ。内心では王国中枢に心から従ってもおるまい。……魔獣の暴走でラザフォードの艦隊に大きな損害を与えて、その後はどうしようと考えていたものやら」

 肩をすくめるクラーケン(グレゴール)であるが、笑い事ではない。万が一にも都市同盟とリーンエス王国が事を構えたとして、その時にラザフォード辺境伯家が艦隊に打撃を受けた状況であれば、ディンドルフの裏切りは海上での王国の敗北を決定づける。リブラネスタとの怪しげな取引があると言う話も、その疑念を裏付けているように思えた。

「もっとも、魔獣はほぼ無傷で落ちた。彼らの目論見通りには事が運ばなかったのだろうがな」
「ああ。卿がいてくれたのは不幸中の幸いだった」

 姉の危地を救い、魔獣との戦闘においても優秀な動きを見せたクラーケン(グレゴール)は、短い間にカーチスの信頼を得ていた。おそらくは血縁であろうディンドルフに対して、毅然とした態度を崩さないこの男にも、何か事情があるのかもしれぬとは察している。

「いずれにせよ、このままディンドルフを捨て置く訳にはいくまい。決断は如何に?」

 答えを促すクラーケン(グレゴール)へ、カーチスは決然とした表情で頷いた。魔獣暴走の対処に出兵しないだけならいざ知らず、その原因に関わっていたかもしれぬというのであれば、もはや触れることなく過ごせる段階ではない。

「……辺境伯の名に於いて侯爵へ今回の魔獣暴走に関わる釈明を求める。王都へも事態を連絡しよう。……逃走の可能性を鑑みて、領都ディントの海上封鎖を並行して行う」

 ディンドルフ侯爵に謀反の疑いがある。あくまでも状況と一部の証拠からの疑いに過ぎないが、釈明が無ければ事実と見なさざるを得ない。カーチスの命令で二個艦隊が動員され、ディンドルフの領海に展開する事となった。

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 カーチスが王都へ向かう騎士に冒険者の護衛を付けようと思ったのは、冒険者を上手く使っているクラーケン(グレゴール)にならう気持ちがあったのかもしれない。それが事態の命運を分けた。

「この先に村がある。そこで一泊する。馬も休ませねば。……む? 明りがついていない、か?」

 異常を察した騎士が足を止める。沈みゆく夕日が照らす中、火の気配のない村の方角からは何かの腐ったような匂いが漂って来た。ゆらゆらと動く影もいくつか見え、事態の裏に死霊術師がいると聞いていた騎士は舌打ちする。50名に届かぬ程度の村人は、おそらく生きてはいないだろう。

「くそ、村一つを滅ぼすなど、三日も経たずにバレる雑な罠だぞ。王都へ使者を出す事を読んでいたのか……? いや、考える時間が惜しい。村の住人も捨て置けぬな。冒険者諸君、悪いが働いてもらうぞ!」

 僅かに逡巡してから、騎士は前進を決断した。

解説

連作なので、これでちゃんと前回の流れを引いています……。 依頼内容は王都へ向かう伝令騎士の護衛です。 護衛を依頼された冒険者には、伝令騎士が何を王都へ伝えに行くのかは知っていて構いません。 聞かれた際に冒険者へ話す許可が出ています。 問題の村は農村で、整然とした街並みなどはなく、小さな家が適当に点在しています。 村の生き残りはいません。 ●味方戦力 ・王家への伝令騎士(40歳イケオジ) 南方海洋貴族の配下では数少ないホースメンで、30レベル位のウォーリアです。 帝国滅亡前から授恵者でしたが、訓練や実戦に割ける時間があまりなかったようでPCに後から追い抜かれました。 侯爵に謀反の疑いがある旨の記された封書と辺境伯家の使いである証明を持っています。 ●敵戦力 ・ゾンビ(強)×48 結構強いゾンビですが、超強くは無いです。 攻撃型のカンストPCが殴れば一発で消し飛ぶでしょう。 素体的意味で大人のゾンビと子供のゾンビの能力はデータ的には変わりません。 ・吸血鬼ラズレィ・ダルタス 村にいますが、今回は戦闘参加せずに逃げようとしています。探さなければ会いません。

マスターより

紀藤です。 二本同時に出してみました。両方に参加していても別に問題は無いです。 なんかリーンエス王国では侯爵家ばかり酷い目に合ってそうですね……。 よろしくお願いいたします。

リプレイ

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「あの……、もし、良ければ。伝令の内容を、教えて貰えませんか」

 道中、足を止めて昼食を取った折に、アンジェは騎士へと話しかけた。それには自分も興味がある、とジュスト・ヴェルジーも口にする。冒険者に聞かれれば教えて構わないと指示があったと騎士は前置きし、ディンドルフ侯爵家へ辺境伯の責務として疑義を申し立てる旨の報告だと語った。

「そう、ですか。ありがとうございます……」

 聞いた内容と、先の事件の関係をアンジェは頭の中で整理していた。魔獣へ使われていた薬物を、エドガルが所持しており、調査に行けばメドゥの指先の姿があった、という。

(なんだか、ディンドルフ侯爵家が怪しいって……、誘導されてる気がするのは、気のせい、かなあ……? ディンドルフ侯爵、今どうしてる、のかな?)

 不可解さにはレティシア・レインフィールも思い至っていた。妙な手回しの良さとディンドルフ侯へ糾弾に至るまでの段取りの速さからすれば、南方辺境伯領内に内通者がいる可能性まで推測している。まだ、誰というところまでは絞り切れていなかったが。

「以前、北方辺境伯様から陛下に親書をお届けするご依頼をお受けした事が御座いましたが、その時にはメドゥの指先の妨害がございました。何が起こるか分かりません。警戒を十分にいたしましょう」

 そう声を掛ければ、騎士も含め一同が気を引き締める。この先に、小さな村落があるのでそこで馬を休めがてら一泊すると、騎士が改めて行程を述べた。

「そうだ。もしも良ければ、なのだけど」

 と、ジュストが書簡の安全に関する提案を口にする。携帯していては、万が一紛失する危険もあるゆえマジカルポケットにしまってはどうか、もしも騎士に備えが無いのなら、自分が預かると言う。中年の騎士は少し考えてから、丁寧に断りを入れた。主君から託されたもの故、人に託す事はできない、と。安全な正しい選択は此方ではないか、と思う若者の心を察したのか、騎士はもう一つ言葉を継いだ。。

「配慮には感謝する。が、自分は器用な騎士ではないのだ。君は将来命じる側に立つだろう。主命とは受ける側にとって重いものと知っておいてほしい」

 その顔に、なぜか祖父の事を思い出した。顔も雰囲気も圧の強さも歳の頃も異なるが、近衛としての祖父であれば、王に託された書簡を人に預けるであろうか? 想像すると「馬鹿な事を言うな」と怒られそうな気がした。そもそも奪われる状況が想像しがたいのはさておいたとしても。

「騎士ってのはめんどくせぇんだな」
「うむ、違いない」
「合理的ではありませんが、分かる気はします」

 アウトロー気質のナハシュがそう言うと、騎士は気を悪くした様子もなく頷いた。ヴィルヘルミナは、自分にとっては族長の命と言うよりは師匠の指示であろうかと想像する。

(また怒られそうな事を言って……。まあ、大丈夫そうな相手を見ているのかもしれないけど)

 ヨル・スレイマンは相棒の軽口が大した問題にならなかったのに、ほっと息をついた。休憩場所の準備ができたと、ゲルダ・クラインとローザリカ・L・ディオールが声を掛けて、話はそこまでとなった。

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 そして、その日の夕刻。一同は死者が彷徨う村に遭遇した。騎士は迂回ではなく前進を決断し、一同は村へと進む。

「やることが派手だな。迷惑な奴だ」


 ヨルが辟易したような表情を見せ、

「回り込まれている様子はありません。妨害の意図は有れど、待ち構えていると言う訳でもないのでしょうか……?」

 周囲の様子を伺ったヴィルヘルミナが報告する間に、村のゾンビもこちらに気がついたようだ。ゆらゆらと近づく中に子供の姿も見えて、数名が顔を強張らせた。

「……村の人たち、が……? どうして……?」

 濃厚な死の気配は、アンジェに鮮血の記憶を呼び起こす。誰かの、自分の、死の匂い。細かな記憶はなく、恐怖の感情だけが彼女を暴力的に打ち据えた。

「大丈夫ですか? ……顔色が悪い」

 ヴィルヘルミナとて思う所が無い訳ではないが、こんな時にも顔には出ない。動じない風に見える彼女の様子に、アンジェは少し落ち着きを取り戻す事が出来た。

(雑な、罠……、足止め……? その間に、何か……)

「ん? 何か気になるのか? 調べものなら手伝ってやってもいいぜ?」
「……犯人が、居る、と思うのですけれど。どこにいるのでしょうか、と……」

 物憂い様子のアンジェに、ナハシュが声を掛ける。ジュストも村の様子に思う所があるようだが、今はそれよりも気掛かりがあると告げた。

「この手口には覚えがあるな……。ただ、俺はそっちには回れそうもないから任せるよ」

 彼の視線の先、どうしようもなく終わってしまった状況に、ローザリカの心が軋んでいる。夕日に照らされた小さな姿が子供の死体であることが否応も無く理解でき、冷静に揺るがずあらねばと言う彼女の心と裏腹に、拳が悔しさに震えた。

「……大丈夫かい? ロゼ」

 無茶をするなと言っても無駄だろうとジュストは思う。ならば、割り切れる自分がその分を肩代わりしようと杖もつ手に力を込めた。彼の心の動きを察して、ローザリカの心が温かい物に包まれる。

「……ありがとう」

 一人ではない。ならば、前を向いて戦おうと思った。探索に向かうナハシュとアンジュを見送り、残る6名と騎士が死体と相対する。

(また、私は何も守れない……)

 レティシアが思い返すのは目の前の惨状ではなく、自身が冒険者として関わって来た記憶だった。守れたもも確かにあると分かってはいても、失ってしまったものばかりが心に刺さる。家の意向にも反し、婚約者にも甘えて冒険者として活動を続けていても、何も自分は出来てはいないのではないか。何かを考えれば自分を責める言葉ばかりが頭に渦巻く。それを受け止めて軋む心の痛みからは目をそむけた。

(こんな酷いことを、何のために……)

 ゲルダに思いつくのは伝令が王都へ向かうのを阻む時間稼ぎ。素直に考えれば、その連絡その物や、現在のディントの海上封鎖で不都合を感じるのが敵、だろうか。

「……いえ、まずは彼らに眠っていただくことが先決、ですね」

 言葉に出せば、覚悟が定まる。表情から少女らしい感情の色が薄れ、ゲルダは戦士の顔となった。大地へと大太刀を叩き付ければ、鈍い衝撃音がと轟き渡る。それが開戦の狼煙代わりとなった。

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「これは、操り手がいるような動きではないね。素直すぎる」

 横合いから向かって来た相手を一か所にまとめるべく、誘っていたヨルがそう言う。輝刃を受けたジュストの放った火の鳥が、釣られてきた敵をまとめて焼き払った。先頭に立っているヴィルヘルミナも、自分に寄って来た死体を薙ぎ払う。撃ち漏らしがあればと炸光矢を用意していたローザリカの出番は今の所、無い。

「随分、脆いですね。いえ、ゾンビと言うのはこういう物なのかもしれませんが」

 いまだ、敵に包囲の動きなどは見えず、時間を稼ぐにもいい加減すぎるとヴィルヘルミナは感じた。レティシアが危惧していたように、護衛対象の騎士を特に狙っている様子も、今のところはない。ヨルが気に掛けていた特殊な動きをする個体や、戦線離脱するような個体も見受けられなかった。

「使者の騎士様を、此処で倒すのまでが目的ではない……? 足止めが目的なのでしょうか。それとも」

 油断を招いて、隙をつく可能性もある。警戒を促すレティシアの呼びかけもあり、楽勝ムードでも一同に油断はない。

「右側、新手だね。4人……、いや。4体だ」
「わたしが抑えます」

 屋根に上ったローザリカが報告すると、ゲルダが一歩前へ。今日の彼女は比較的軽装であるが、そもそも攻撃を受ける前に倒している。たとえ攻撃の機会を許したとしても、死者の鈍い動きに捕らえられる事は無いだろう。重装のヴィルヘルミナですら、運が悪くなければ当たりはしない。

「糸を引いている相手の姿はまだ見えないな……。もう逃げてしまったのかもしれないが」

 ローザリカの視界に、知性のありそうな動きをする相手は入って来なかった。これだけのゾンビが自然発生するとも思えないのだから、作り手はいた筈だ。ナハシュやアンジェには、彼女が敵を見つけた時には合図を送る旨を伝えている。合図が無いという事は表通りや井戸回りのような開けた場所に死霊術師の姿は無いという意味だと、彼らにはわかるだろう。

「敵がいなくなりましたね……。もう一度、音を立てますか?」
「いや、まだ辿り着いていないだけで、こっちに向かっている姿がある。待っていればいいだろう」

 小首を傾げるゲルダに、周囲を確認しなおしたローザリカがそう答える。この依頼を受け、戦場に立っているのはいずれも手練れの授恵者だ。夕陽が沈みきる前に戦闘が集結しそうな勢いであった。

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 ナハシュは探索に出る前に、村へ向けて宗波を放っていた。マークした敵の多くはゲルダの発した大音量に反応を示しているが、一体だけ動かない姿がある。

「いや、簡単に見つかり過ぎだろ。隠れる気、あんのか?」
「もう、見つかりましたか?」

 呆れるナハシュに、アンジェが色の違う双眸を瞬かせた。身軽なナハシュは言うまでもないが、アンジェも音を立てない装いだ。戦場に気を取られたゾンビに見つからぬよう、ナハシュに先導されつつ怪しい気配のある家屋に辿り着く。

「よお! 派手にやったな―!」
「……派手なのは君達ではありませんか。やれやれ、私に何か用事でも?」

 扉を蹴り開けたナハシュに、屋内に潜んでいた青白い肌の男は一瞬ぎょっとしたようだ。気を取り直して大仰に肩をすくめて見せた。前回の調査ではナハシュは顔を合わせてはいないが、聞いたラズレィの外見に一致する。

「まあなんだ、世間話しに来た感じだ」
「……なるほど。そういう酔狂は嫌いではありませんがね」

 曲者同士の会話の後から、アンジェが顔を覗かせる。当人としては決然と勇気を振り絞ったのだが、あの村の様相を作り出した相手かも知れないと思えば、いかんせん足が震えていた。

「……今日は、ご挨拶は、なし、ですか?」
「ええ、まあ。名乗りをあげれば戦いになるでしょう? 私は戦って死ぬのは嫌いではないのですが、死んですぐは本調子では無いのですよねえ」
「何言ってんだ、こいつ」

 前半はともかく、後半にはナハシュも突っ込みを入れざるを得ない。村の惨状を作ったのは貴方ですか、というアンジェの確認にラズレィは渋々と頷いた。時間も手間も掛けられなかった雑な仕事には、自分としては不満があるなどと、聞いてもいないのに語りだす。

「つうか何でここに張った? 素通りされてもおかしくねえだろ」
「それはまあ、ここを通ると聞いておりましたし、騎士殿の性格も伺っておりましたから。まあ時期までは分からなかったのでこんな雑な仕込みになりましたけれどね」
「右腕の命令とか、他に理由や優先事項があるんじゃねぇのか」
「まさかまさか。偉大なる右腕様はこのような些末な事を気に留められる事はございませんよ。しいて言うなら、私からの不肖の弟子へのお節介と言った所でしょうか。いや、そもそも彼の事は右腕様が気に入っておいででしたから、その意味では右腕様の為でもあるのですが」

 べらべらと喋る内容が真実かどうかは分からないが、アンジェの見る限り何かを隠し持っている様子はない。より良い目をしている筈のナハシュが何も言わないのだから、おそらく妙な気配は無いのだろう。外の戦いの音が静かになった頃合いに、ラズレィは「野蛮な皆様が来る前にお暇いたしましょう」などと芝居がかった様子で霧と変じた。

「……これから、どこに、行くの、ですか?」
「面白いことをおっしゃる。不死の吸血鬼の行く先は、棺桶に決まっておりましょう。その辺の木っ端とは違い、私は偉大な右腕様から不死を頂いた真の不死者ですからねえ」

 ロスガリアの吸血鬼にそう言う概念があるのかどうかは疑問ではある。が、彼にとってはそういうものであるらしかった。

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 村落内に動く物が絶え、すっかり日も沈んでいる。ラズレィが立ち去るのを確認した2人は、戦闘の終わった面々と再合流を果たした。

「敵の狙いを考えると、先を急いだほうがよさそう……でしょうか」

 そう提案しつつも、散乱する死体を目にすればせめて埋葬したいとゲルダは思う。その意を汲んだという訳ではないのだろうが、騎士はこの場で留まる事とした。

「一泊していくならば屋根がある場所を借りる方が良いでしょう。その礼、と言う訳ではないですが埋葬を行うならばこの辺りではどのような風習になりますか」
「不幸に生まれた死者ゆえ、火を使うのが望ましかろうな」

 腐臭はきつくないので、とは口に出さず、ヴィルヘルミナが騎士に問う。燃やすのなら使うと良い、とナハシュが火酒を提供した。幸いと言って良いのか、遺体がある場所は一か所にまとまっているので作業の効率は良い。

(また驚かそうと思った? それだけのためにここまでやる?)

 釈然としない思いを感じつつ、ヨルは遺体に残る思念を探る。悲嘆、絶望、驚き。感じ取れる残滓があるという事は、ゾンビになった時期は比較的最近なのだろう。自らが倒した相手を沈鬱な表情で運ぶゲルダを手伝おうとしたローザリカを制し、ジュストが先に立って動く。ゲルダが抱えていたのは、彼女と同じくらいの背格好のヒューマンの遺体であった。ヴィルヘルミナが紋具を使用して掘った穴へとまとめる。1人づつ墓を作る余裕も時間もないのだ。

「随分しけた村だな。良い酒の一本もねぇ」
「豊かな王国とはいえ、贅沢が出来る程ではないということだろうね」

 残された何かが無いかと村を見回っていたナハシュは手ぶらで帰って来た。死者には無用の長物も、使った火酒の分に見合うかどうか。同行したヨルは、大事に置かれていた木のおもちゃを一緒に焼くべく持ち帰っていた。

「運が悪かったね。せめて君達のこれからの旅路が、良いものであることを祈っているよ」

 火酒を注がれた遺体の山にヨルが火をつける。嗅ぎなれない臭いと共に遺体がゆっくり燃えはじめた。

(せめて安らかな祈りがありますように)

 ゲルダは真摯に祈りを捧げ、頭を垂れる。その横でレティシアは強く唇を噛んでいた。

(……このような犠牲を減らす為、もっと、私は……)

 心の中だけで、彼女は自責と覚悟の言葉を呟いている。ナハシュから聞いた会話内容から、やはり内通者はいるのだと思わざるを得ない。死霊術師の吸血鬼が『弟子』と呼ぶような関係性。冒険者達の報告から、エドガルが嵌められているという推定を落とした内容を辺境伯へ伝えられるような立ち位置。幾度か事件に関わった面々や、そうでなくとも報告書を読んだ者であれば同じ結論に辿り着く。証言と状況の全てが、今はクラーケンと名乗るグレゴール・ディンドルフこそが事態の焦点であろうと指し示していた。

マスターコメント

お疲れ様でした。 というわけで、イラストをめちゃくちゃ悪そうに書いて頂いた怪しい仮面が今回の【南乱】の事態の元凶でした。 イラストが納品された時点で「これは絶対悪いこと考えてそうに見えるな、さすがはちーせんさん!」とウッキウキしていました。逆に怪しすぎて怪しいと指摘するのもためらわれたのかもしれぬ……。 まだ彼が名指しされてはいなかったのですが、口の軽いラズレィに動機を聞く行動をした人がいた時点で喋る内容が内容なので……。あとは状況証拠も揃っているし、彼が塔にぶち込まれた理由などを聞いている人もいるし、繋ぎ合わせて内通者が誰なのか判明したと判定しました。 そこをちょっと甘い判定にしたので、成功度としては一つ下げています。 ご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2023年05月03日 19時21分32秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしくね。 全く、嫌な手を使ってくる。 雑というか、悪趣味というか。 目的は伝令騎士の護衛だし、やることといえば騎士をフォローする形で村人だったゾンビを掃討することだからシンプルといったらシンプル。 ただ吸血鬼に関しては依頼の範疇外ではあるんだけれど、個人的に殴りたい(探したい)って人がいる場合その分俺がゾンビを倒すつもりでいるよ。

  2. ゲルダ・クライン

    ウォーリアのゲルダです。よろしくお願いしますね。 彼にとっては時間稼ぎのつもり、でしょうか。……それならば、一刻も早く片を付けないと、ですよね。 >吸血鬼 個人としては追うつもりはありません、が、追いたい方がいらっしゃるのであれば わたしもその分ゾンビさんをたくさん倒せるように頑張ります……!

  3. ナハシュ

    シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 足止めだか何だか知らねえが、どのみち寄る予定だったんだろ。 とりあえず全滅させて村で一泊すればいいってことだよな?シンプルでいい。 吸血鬼に関しては同じくどちらでもいいし、追いたい奴がいるなら戦闘よりコイツの捜索と足止め重視で組むことはできるぜ。

  4. ヴィルヘルミナ

    ウォーリアのヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いします。 日没みたいですし、時間が経てば辺りは真っ暗になりますね。 視界確保に暗視を持っていくのも手ですか。 吸血鬼に関しては因縁もないので、私からは特になにも。 護衛に注力しようと思います。

  5. アンジェ

    …あの、…アンジェ、です。ヒーラー…、です。 よろしく、お願いします…。(ぺこり) ええと、吸血鬼、関係とかはないですけど…。 村を滅ぼした犯人がいるなら、確認、はしておいてもいいかもと思うので…。 探してみても、いいでしょうか…?

  6. ジュスト・V・ケレス

    では吸血鬼の方はアンジェ嬢と、ナハシュ殿も対応可能ということなら二人にお任せしようかな。勿論他に希望者がいれば一緒に向かって貰って構わないよ。 視界確保とゾンビ達の注意を惹きつけるならこちらでエンライトなども用意しておいた方が良いだろうか? 俺は用意できるし、使わない方が良いという意見がなければ持参予定。 攻撃スキルに関しては範囲魔法を中心に持参するつもりでいるよ。 あとは数が数だし、ゾンビ達の動きによってはアーケインストリームで足止めも考えている。

  7. ローザリカ・D・ケレス

    ヒーラーのローザリカ。よろしく頼もう。 ……村を丸ごととは嫌なやり口だ。せめてきちんと眠らせてやりたい。 僕は暗視を習得してはいるが明かりも付けても良いように思ったよ。 吸血鬼を探す動きもするようだし、討伐班が明かりを付けて陽動を兼ねても良さそうだ。 ゾンビが寄って来てくれる分には助かるところでもあるしね。

  8. ヨル・スレイマン

    ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しくね。 なんでこんな手段を取ったのかについては、確かに少しだけ興味はあるな。 ラズレィを見つけることで何かわかることもあるかもしれないと思う。 とはいえ2人行くならちょうどいいかな。俺も範囲攻撃を持ちつつゾンビの対応をメインに考えるよ。 数がとにかく多いので、変に散ってしまったり包囲されたりするのには気をつけたいね。 照明については同じくあっていいと思う。暗視も持っていくつもりではある。

  9. ナハシュ

    オーケーオーケー、そんなら看破や宗波を中心に、討伐よりは索敵の方で動く形で考えておく。 見つけたらアンジェに伝えつつ監視と必要なら足止め‥みたいな感じで動けばいいかな。 >照明 同じくあっても全然いいと思うな。数が多いのも戦闘ヶ所が分かりやすいのもそうだが、王家の伝令騎士がそもそも暗視を持っているかが謎だ。 もし無けりゃどのみちたいまつか何か持つかもしれねえし、そんならいっそ照らした方が良い気はするぜ。

  10. ナハシュ

    ッと、書き忘れだ! この伝令騎士が持ってる書状、もしコイツが了承するなら念のため他の奴で持っておくか? マジカルポケットとかに入れてよ。

  11. ヴィルヘルミナ

    ゾンビは全部片づけるとして、ここで一晩過ごすのは大変そうですね。腐臭とか色々とありそうで。 50近くの遺体は放置という感じでしょうか。片づける暇無さそうですし。 照明はあっていいと思います。既に挙げられたものそうですし、スキル枠も一つあけられますし。 書状は聞いてみてもいいですね。 伝令の方がスキルに何を入れているのかにもよりますが。

  12. アンジェ

    >索敵 は、はい、ナハシュさん、よろしくお願いします。(ぺこり) …犯人を見つけたら、聞くのは、なぜ村を滅ぼしたのかと、それから…。 ええと、他にも聞いた方がいい事、ありますか…?

  13. ゲルダ・クライン

    はっっ、もしかしたら気にされている方がいらっしゃるかもしれませんので、念のため! 本日返却のリプレイにて重体判定をいただきましたが、プレイングは送信済ですので依頼への影響はありません。 ご心配をおかけしまして大変申し訳ないです……! (※ ご報告のみですので、リアクションは不要です!)

  14. ナハシュ

    おー、ゲルダはお大事に!あとはとりあえず急ぎのとこだけ! >書状 ならマジカルポケットを持ち込んで‥と思ったが、吸血鬼探しに行くなら俺はやめた方が良い。 ゾンビとの戦闘側にお任せするぜ。 >50人の死体 いっそ燃やすかぁ!?派手なキャンプファイヤーだ! 派手なキャンプファイヤーだし、元々この辺で一泊する予定だったんならバラバラにするにしろ燃やすにしろしておいてもいいんじゃないかと思うな。戦闘で再度使用できないくらい壊れてるかもしれないが。 >聞いておくこと 俺は特に思いつかないな!足止め以外の理由があればと、何故この場所を張ったかとかか・・? まあ思いついたら何か書いておこうと思う。

  15. ヨル・スレイマン

    ゲルダ君はお疲れさまだった。無事で何より、お大事にね。 >書状 ゾンビ側だがマジカルポケット、俺は未所持なんだよな。申し訳ない。 他に持てる人がいればお願いできると嬉しい。預かっておくだけでも違うかもしれないが。 >聞いておくこと 聞いて答えてくれるかはわからないし、何か持っていないかとか、態度とかよく見ておくといいかもしれないね。なんにせよ危険だとは思うので気をつけて。 >50人の死体 (ナハシュの言葉に一瞬止まり)⋯⋯『火葬』だね。火葬。 死体は再使用されることもあるし、燃やしておくのはありだと思う。 時間があるなら祈っておいてもいい。問題なさそうなら入れておくよ。

  16. アンジェ

    >聞いておくこと ナハシュさん、ヨルさん、答えてくださって、ありがとうございます…。 …はい、観察、大事ですね。 ゲルダさん、お大事に…。

  17. ジュスト・V・ケレス

    ゲルダ嬢はお大事にね。 反応が遅れてしまったがマジカルポケットは俺の方で用意させてもらった。 騎士殿に確認の上、承諾されたら預かる旨行動に入れてあるよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0