【学行】少年は夢を叶えに進む
白葉うづき
コメント 10
シナリオID:2905
オープニング
「アルド兄、いよいよですね」
教会内、皆で食事をとっていた食堂にてピオが呟く。パンを食べていたアルドは一度二度瞬きすると、小さく頷いた。
「うん、いよいよだ。……やるしかないって、思ってる」
「アルドナラいけル!」
「そうよ、あれだけ頑張ってたんだもの」
「へいきだよ、アルド」
ティト、ハウラ、スールの言葉ですぐ笑顔になる。少年を心の底から信じていてくれることが本当に嬉しい。いつもは心配性の神父も、穏やかな微笑みを向けてくれている。
「貴方ならきっと、夢を叶えられます。今はまだ迷い、見えないその先のことも見つけられますよ。ひとつひとつ、貴方が何をしたいか、どんな世界を望むのか見つめていきましょう。神様はいつも貴方の傍にいますし、私たちが見守っています。一人ではないんです」
「はい、……」
慈愛に満ちた言葉で泣きそうになるのをぐっとこらえる。三年も過ごしたこの場所は、すごく暖かい場所だ。けれどそこを自分から飛び立とうとしている。十二歳の少年には、とても大きな決断だ。
「頑張ってね。きっと大丈夫だから。誰よりも努力してたの知ってる、優しいだけのアルドじゃない。今は頼もしくて、これまでのアルドじゃないんだから」
フィオが僅かに瞳を滲ませながら言う。初依頼を終えた少年はその後、勉強や訓練を続けながら依頼にも挑戦していた。最も掃除やお使いレベルの依頼ではあるが、新しいことは触れるたびにそれだけ少年を成長させる。傍目には何も変わっていないかもしれない。けれど、ずっと少年と過ごしてきた家族はその変化がわかっている。
「アルド、オレのパンヤルぞ!」
「ぼくのも!」
「わたしもあげるわ」
「パンだけだと偏りますから、スープもどうぞ」
「え、え」
お皿に積み上げられるパンを見て、アルドは思わず笑う。教会内では、明るい笑い声が響いていた。
●王都・グランスパーダへ!
出発の日。少年は部分鎧をまとい、弓を背負い、新しく調達した短剣をベルトに装着して準備を終える。そうして、教会前で冒険者たちを出迎えた。
「おはようございます、来ていただきありがとうございます。ええと……今日は、僕が編入試験を受けに王都に行くのを、サポートしていただければと、思います。道はわかるんだけど、長く旅をしたことはあんまりなくて……旅のこと、それに護衛のことも一緒に勉強させてもらえれば、嬉しいです」
冒険者に憧れの気持ちを持つ少年は、学ぶ機会があれば少しでも吸収したいらしい。メインは少年の護衛としつつ、王都に着いても教えてもらえれば嬉しいと話した。
「僕が過ごすことになるかもしれない街のことを知っておきたいんです。賑やかで、僕一人だけで訪れることは危ないだろうな、とはわかってるけど……怖がっているだけじゃ駄目、だと思うから。あ、もし道中で戦うことがあれば、僕も頑張るよ」
そう言ってちらりと武器を見る。新しく手に入れた短剣は、お兄さんにせっかく教えてもらったからと買ったようだ。
「王都のことだけじゃなくて、王国や学園、世界のこと、なんでもお話してくれたら、嬉しい。僕は知らなすぎるから……もちろん、試験前の確認も嬉しいな」
いつもより言葉が多めな少年は、緊張もあるからかもしれない。大きく深呼吸すると、子どもたちとお揃いの尻尾のリボンが揺れた。
「もし、また貴族の人に会っても、大丈夫。冒険者だって、学園を目指して勉強してきたんだって胸を張って言えるよ」
少年は、冒険者たちに向かって笑ってみせた。
●王都にて
「本当に俺らが受かるンすかねえ……」
「学園にさえ入っちまえば、コネも出来るし何より身元が保証されんだ。これを上手く使わない手はねえ!」
「でも編入試験があるんですよね? 同じ冒険者だけど、ハティムの兄貴は頭がいいから俺の方は心配ッス……」
「ならお前にも出来ることあるだろ? 例えば――ライバルを潰すとか。チンピラがそいつに目を付けたり、試験当日に変な道連れてっても、それは事故だよな」
「な、なるほど!」
赤毛の青年がにやりと笑うと、手下である男はこくこく頷いた。
「ここが王都なのね。賑やかだこと」
「アンジェルお嬢様。本日の宿はこちらでございます」
「わかったわ。……それにしても、いくら編入試験とはいえ平民と一緒に受けることになるなんて。……冒険者の異種族もいるのよね?」
「今は来年度の入学に向けて忙しいようで……当日は教師などもおりますゆえ」
「承知しています。ああ、けれど宿にいるだけでは退屈だわ」
貴族の少女は馬車を出て街を歩く。異種族を見るたび、眉間に小さく皺が寄った。
解説
マスターより
リプレイ
王都への旅路の途中。冒険者たちに教えを請うたアルド・シャウアーはルイドの言葉を真剣に聞いていた。熱のこもるきらきらした視線を受け、ルイドは初めての道、相手などに対する心持ちや考えを示していく。
「『不慣れへの慣れ』?」
「ああ。個人的にだが、旅や護衛の時はそういうことを大事にしてるな。だからこうする、を自分なりに持てば、対応できる状況も増えていくんじゃねぇかと思うぜ」
「ルイドさんの言うこと、わかるよ! 院の皆とお出掛けする時、その場所を調べたりするんだ」
「実践できてるじゃねえか」
「お仕事で役立つんだね」
自分の境遇だからこそルイドが身に着けたことは少年の心にも深く刺さったらしい。
「いよいよ、ですね……!」
興奮した面持ちでゲルダ・クラインが拳を握る。何か月も前から応援してきた彼女にとって、少年の集大成を手伝えるのは嬉しいことだ。
「普段通り、いつも通りのアルド様のお力が出せれば、きっと、大丈夫ですっ」
ゲルダがそう元気付けると、少年は目を瞬かせてから視線をうろうろさせる。
「アルド様?」
「えっとね。……お姉さんの笑った顔、初めて見たから」
だから驚いたという少年にゲルダは目を瞬かせる。確かに、少年には伝えるべきことを伝えるため、真面目な表情ばかり見せていたかもしれない。
「ゲルダお姉さんの笑った顔、僕、好きだよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「アルドくん、緊張していますか?」
傍を歩きながら、コルネリウス・アーラが覗き込む。
「そう、だね。不安だったり、ドキドキだったりで、忙しい。王都、楽しみだから」
「ふふ、そんなにドキドキしっぱなしだと疲れちゃうかもしれませんね。なら……いつも通りの日課をするといいかもしれません。そうすれば、いつも通りの力がきっと出せますよ」
コルネリウスの提案に、少年はこくこく頷いた。
「アルド、いいか?」
少年を呼ぶのはカイン・ステラ。手招いた彼は、とある青年を捕まえてアルドに紹介する。
「こっちは俺の友達の江流。江流、俺の友達のアルド」
「初めまして、アルド君」
「こ、こちらこそ」
二人で軽く握手を交わし、海神 江流は軽く自己紹介。自分が同じ立場だったと告げると、少年は目を輝かせた。
「そういった先輩だし、カイン君に君の話を聞いて何か手伝えればと思って」
「すごく、すごく嬉しいです!」
至極喜んでもらえたらしくぶんぶん尻尾が揺れる。それから雑談を交わしていく中で、王都に着いてからの話になった。
「王都、っつーか。人が多い場所は危険が多い。単独行動はなし。荷物もしっかり手放さないようにな、明らかに慣れてないのを狙うから。俺は貴重品とかは“買物籠”使うけど」
そう言ってカインは、何もない場所からガイドブックを出してみせる。
「どうやったの!?」
「アルドも練習すりゃ出来るようになる。やってみるか?」
「うん!」
買物籠の練習用に首飾りを渡し、軽く教えていく。
「少しおさらいをしながら行こうか。アルド君も確認となるだろうしね」
「はい!」
ヨル・スレイマン、そしてジュスト・ヴェルジーが問題を出し、少年は考えながらしっかり答えを返していく。幾つかやりとりが続いた後、ジュストが描いていた図を差し出した。
「少し息抜きをしようか。アルド君、これは何処だと思う?」
「大きな教会……? あ、王宮ってところかな……」
「君が目指している場所、パンクリアース学園だ」
ローザリカ・L・ディオールの言葉に目が丸くなる。こんなに大きいとは思っていなかったらしい。ジュストが続けて説明していった。
「正門はここで、通用門は……校舎は複数あって……」
「門も校舎もたくさんなの!?」
「ああ。それと、アルドくんは合格したら平民寮に入ることになるね。四人一部屋、伝統的に上の学年と下の学年で同室になるらしいよ」
ジュストを中心に、学園生たちが学園のことについて色々話をしてくれる。少年から緊張の色が薄れていく。
(私はアルドさんを気に入っている。多分)
セラフィナ・M・ベイリーは、王都が見えてくるにつれ瞳を輝かせる少年を見ながら思う。人から怖がられ、罵られても仕方がないという諦念を、彼といると忘れていた。少年は遠ざかるどころか、セラフィナを真っ直ぐ見て、慕ってくれていた。
(胸が暖かくなる、というのは。こういった感覚なのでしょうか)
「アルドさん」
透き通る水のような瞳がじっと見ていた。そこに柔らかく笑いかける。
「アルドさん、ようこそ王都へ」
「……うん!」
伸ばした手に飛びつくよう握ってくれた。その手はとても温かかい。
セラフィナに手を引かれ、少年が王都の門をくぐった。
●
「道中も話した通り、常に誰かの傍にいるようにな」
ランはアルドの肩に常駐、自分も出来るだけ死角を作らないようにカインは位置取る。江流も事前に皆と話し合い、護衛として近くにいるメンバーをローテーションで交代していくことを決めていた。こうしておけば負担軽減にもなるし、アルドの相手や警戒などそれぞれ注力できる。
ともあれ、やっと王都に着いたのだ。手を握ったままセラフィナが声を掛ける。
「先輩として街を案内しますよ。まず、アルドさんが買い物しやすいお店に行きましょうか」
「買い物しやすい?」
「王都には貴族御用達の区画やお店もあって、そこの出入りは基本的に紹介状が必要となるんです」
首を傾げる少年に、ゲルダが隣に来て説明した。
「いわゆるぼったくりのような店もある。良心的な店をいくつか紹介しよう」
「わたしたち向けのお店を紹介しますよ!」
「学用品を揃えられたり、美味しいものがあるお店もです」
ローザリカ、ゲルダ、セラフィナはそれぞれ案内プランを持っているようだ。多種多様な提案が飛び交う。
「いっぱい知ってるね……!」
「僕の家はリベラ商会という商会を運営しているのもあって、馴染みの店も多くてね」
「わたしもここに住んでいますし、商家の娘ですから」
ローザリカ、ゲルダは話をしながら治安の良い大通りへと導き、セラフィナは路地裏からさりげなくアルドを隠して移動した。少年へゲルダが囁く。
「ヒューマン以外の方は、歩いているだけでも目を付けられやすいですから。余計なトラブルに巻き込まれないように、です」
「そう、だよね。……お店。皆で回れるの、すごく楽しみ」
少年は一瞬瞳を伏せるも、すぐに微笑む。この数か月で随分とタフになったようだ。
王都にはさまざまな店が揃っていた。流行りの衣服、美しいガラスペン、新しさを売りにしたレストランや屋台のメニュー。それらを横目に見ながら、少年は羽根ペンを削るナイフを買い、美味しいお菓子を楽しむ。ゲルダがこっちです、と少年を呼ぶ。
「お高めのお店もご紹介しておきますね。ちょっと背伸びがしたい時におすすめです」
「わあ……! 素敵、どれもキラキラに見える……」
「入学後、王都に繰り出すこともあるだろう。その時友達と一緒に周るのもオススメだ」
どのような友人であれ、せっかく遠出をするなら誰かと一緒の方がより楽しいとローザリカは考える。それは学びに心を燃やす少年たちにとっては特別なご褒美にもなるだろう。
「もちろん僕を誘ってくれても嬉しいけどね?」
「え! いいの……?」
少年の瞳に気遣いが見える。それを吹き飛ばすような微笑みをローザリカは送った。
「あそこのお肉は美味しいですよ、一緒に――」
「お姉さん?」
セラフィナは、僅かに手を握ることで異常事態を報せる。アルドの近くに怪しい気配があった。少年は視線を移し、ヨルがこちらを向いていることに気付く。
(任せて)
口元に指をたて、カインと江流が端に寄せた怪しい人物に接近。そのまま路地に押し込んだと思ったら、腕を捻られたスリがヨルに捕まっていた。
「スリがいた時は逃げるところを足で引っ掛けて転ばせ、捻り上げて憲兵に引き渡すんです。捻じれば相手は動けません、覚えておくといいですよ」
「う、うん!」
街を歩く間も色々と学び、セラフィナの出す問題にも答える。安心ですねと伝えると、照れくさそうに頬を染めた。
●
「先ほどの話にもあったけれど」
ジュストが先導し、今度はエリアごとに王都の説明が始まる。
「貴族の邸は貴族街に、貴族御用達の店はその近辺に集中しているんだけれど、用事がなければ立ち入らない方が良い」
異種族というだけでなく、使用人や客、王国騎士といった貴族と近しい者以外は目を付けられるエリアだ。
「スラムや路地裏もね」
「うん、わかった」
「ここまでくると学園が近いな、少し見ていくかい?」
ローザリカの言葉に思いきり頷く。そうして、街中に現れた大きな建物――まだ門しか見えていない場所でも、その巨大さにアルドは口を開けたまま見上げた。
「ここが、俺たちが通う学園。そして君の学園になるかもしれない場所だ」
江流が隣に立ち、同じく学園を見る。さまざまな想いを皆が持つ場所は、少年にとってはまっさらな場所でしかない。
「“王国貴族のための学園”の話は?」
「うん……教えてもらった」
「そうか。忘れないでいた方がいいかもね」
変わりつつあるとはいえ、深く根付いたものを取り去ることなどできない。そもそも貴族以外を迎え入れること自体、王国の利を狙う打算的なものがあるからこそだ。
「編入生に学園が何を求めているのかを知る意味で、王国や学園の歴史に触れることが俺の試験対策だったな」
「お話してもいい?」
「もちろんだ」
「まあ、この前の小間使いさん。迷子かしら」
現われた少女は、微笑んで少年を見ていた。その視線に江流はかつての光景を思い出す。脳裏に浮かぶ彼女と同じような、揺らがない想いを持つ瞳。この少女は間違いなく王国貴族だ。
「おや、アンジェル嬢。先日以来ですね」
以前出会った少女に、ジュストは微笑んで挨拶する。ローザリカもすぐさま貴族の礼を取ってみせた。冒険者たちもそれぞれの反応を示す中、少年もたどたどしく礼を取る。
「こんにちは。迷子では、ないです。明日、編入試験を受ける予定、で」
「え? 失礼、聞き違いではないかと思ったの」
「決してそういうことはありませんよ」
微笑んだコルネリウスが声を掛ける。視線を冒険者たちに移していった彼女は、やがて肩を竦めた。
「わたくしの命の恩人は、わたくしとはお話が合わないみたい。とても残念だわ」
「どうしてそう言い切れる?」
「だって、そちらの子の入学を望んでらっしゃるから」
江流に少女は微笑む。
「優秀な方がいるのは存じてます。けれど、それも命の恩人様のような力がある方一握り。どうしてわざわざ交じわろうとするのか。生まれた時から立場も見ているものも違うのに―――でしょう?」
「え?」
水を向けられた少年が目を瞬かせる。その反応だけで少女は満足だったようだ。
「わたくし、犬は嫌いだけど雇ってあげましょうか。見目は可愛らしいもの」
「失礼。同じ学園に通うかもしれない者に掛ける声としては、あまり相応しいとは思えませんよ」
ジュストの一言で冒険者たちは察する。彼女も入学予定の者なのだ。
(かつて王都に住み現在は当主療養のため王国北部の領地に滞在、身分は男爵。穏健派ではある)
貴族が持つ名札は情報を集める上でまたとない目印だ。彼女の素性は、ジュストの情報網で把握していた。
「私も学園の3年生なんです、よろしくお願いしますね」
コルネリウスは凛と立ち、にこやかに微笑んで応対する。先ほどの発言は忘れることはない、と瞳の奥が言っていた。
「改めて自己紹介を」
そしてジュストはローザリカと共に学園生であることを告げる。
「現生徒会の役員でもあります。何か困り事があればいつでもお尋ねください」
「……そう。学園は本当に変わっていってしまっているのね」
ここにいるのはほとんどが学園生であり、役員も混じっている。そこで得心したらしい。
(彼女の目には、俺たちのやることが愚行に映っているのだろう)
江流は思う。平民を、異種族を学園へ誘おうとする今の光景がまさにそうだ。今の学園、王国の状況は、彼女から見るとよほど許しがたいものなのかもしれない。
――ただ、それは世界の変容だ。彼女が望もうと望むまいと、その奔流は止められるものではない。
「もし、貴女と学園でまた会えるのならば、貴女にとっての学園生活が実りあるものになるよう、努めさせてもらうよ。自分も、生徒会役員として」
まだ先はわからない。少女がそのままで終わるか、変わりゆく世界で何かを得られるのか。それは間違いなくこれからの学園が大きく関与する。
「変わった方ね」
「そうかな。本心だから」
江流の言葉に、驚いたように少女は目を丸くしていた。
「アンジェル嬢。学園生皆、入学を楽しみにしています」
「ええ、よろしくお願いしますね、先輩方」
ジュストにそれだけ返し、従者と行ってしまった。
「なんだあいつ」
「アルドさん、気にすることはありませんよ」
カインとセラフィナが憤り、
「なかなか鮮烈な少女だったね」
「仕方がないです。そういう環境で価値観を育んできたのですから、そう簡単には変わるものではありません」
ヨルは肩を竦め、ゲルダはひとつ息を吐く。少年を見ると深く考え込んでいる様子だった。
「アルド様、平気ですか」
「大丈夫、……びっくりしちゃっただけ」
そう言って笑ってみせる。ただそれは、ゲルダたちを安心させるためのものに見えた。ゲルダは静かに瞳を合わせる。
「これから先、心無いことを言われることが何度だってあります。それでも、たくさんたくさん頑張ってきたアルド様を、わたしたちが見てきました」
自分の意志でここまで来たのは、他でもない少年だ。それを、ここにいる誰もが知っている。
「その志を、――その強さを、他の誰でもないアルド様ご自身が、認めてあげてくださいね」
「強さ……?」
「アルド様は強いですよ」
目を瞬かせた後、くしゃりと笑った。
「ゲルダお姉さんも、僕にも強さをくれるくらい強いね。……僕、頑張るよ。見てて」
そう少年は先程とは違う笑みを浮かべる。初めて会った時とも、まったく異なっていた。
「ひとつだけ知っておいてほしい。何を言われようと、君や君の家族の尊厳は美しいままだ」
「……皆が言われたらきっと、すごく傷付くだろうな、って考えてたんだ」
ヨルが視線を合わすようにしゃがみ、声を掛けるとそんなことを話してくれる。やはり少年は、周りの人が傷付けられる方が辛いらしい。
「胸を張っていてくれ。それでいい。その姿を見た君の家族だって安心する」
「うん……僕も誇らしくて、胸がいっぱいだった」
視線はコルネリウスを向いていた。彼女の毅然とした態度もまたアルドの目に眩しく見えている。
「お姉ちゃんが格好いいと、僕もすごく嬉しくなって、勇気を貰えるんだ」
「ふふ、ありがとうございます。心も身体も強いお姉さんです!」
力こぶを作ってみせると、なかなか大きいものが出来た。
「そうだ、ひとつ教えておこう」
「なあに?」
「もし誰かを許せない時は、剣じゃなくて素手で殴る方がいいね」
「え!」
突拍子無く感じたのか、くすくす笑う少年にヨルが囁いた。
「俺は貴族が苦手だし嫌いだ」
「!」
「けど、今ここにいる皆のように、話の分かる人らもいることを知った。言葉を尽くして和解という道も考えられるようになったんだ」
秘密だけど、とそっと指を立てる。少年も真似をして指を立てた。
「僕たちだけの秘密、ちゃんと守るよ」
「良い子だ」
「勉強にはなったかな」
「え?」
「貴族に限らず、人が集まる場所では互いに隔たりもある。学園ではこういった機会が増えるだろう。そして歩み寄りたいと思った時、『礼儀作法』はそのための一歩ともなる知識だ」
育った環境はそれぞれ違う、なら考えも思考も違って当たり前のことなのだ。『会話』の出来る手段は多いことに越したことはない。ローゼリカの言葉にジュストも続く。
「俺も同意見だよ。けれど前よりも勉強できているみたいで驚いた」
「僕、わかりたいと思ったんだ。今のままだと、お話も出来ないから……せめて、目を見てもらえるように。あの子は、僕のことが怖いのかな」
ジュストは頷いた。
「知らない、という点では恐らくね」
●
それからは何かが起こる訳でもなく、皆で王都を巡り、夕食をとって宿へと向かった。同じ部屋割りとなった男性陣と、隣の部屋の女性陣と明日の確認をした後、冒険者たちは眠りにつく。
そして、試験の朝が来た。
「アルド、少し早めに出て……そうだな。散策とかしてみねぇか?」
「行く!」
早く起きてしまい、そわそわとしていた少年にルイドが声を掛ける。昨日も回ったが、今回は目的の無い散歩のようなものだ。緊張も少しはほぐれるだろう。他の冒険者たちも誘い、肩に栗鼠を乗せて少年は宿を出た。
「俺も王都にはそんな詳しくねぇから、一緒に経験積もうぜ」
「うん! ルイドさん、好きなものはある?」
「俺か? そうだな……食べ歩きが気になってたが、さすがに今はやってねえか」
ルイドの言葉に、何故か少年は目を輝かせる。
「じゃあ、今度一緒に食べ歩きしよう!」
適当な食堂で朝食をとった後――それに気付いたのは、ルイドだった。
「何だこれ、通行止め?」
「さっきまではなかったけれどね」
道路の真ん中に標識が置かれていた。ヨルがひょいと見てみる、簡素も簡素な作りものだ。
「こっちは学園へ行く道だが」
「通らない方がいいかもしれません。遠回りをしても十分間に合いますよ」
ローザリカ、ゲルダも訝しげに首を捻る。誰がどう見てもトラブルの匂いがした。朝も早いからかあまり通りに人はなく、騒ぎにもなっていないが。
「とりあえず行こうか。少しは早めについた方が、アルド君も安心だろう」
標識のある道を避け進んでいく、すると少し狭い道に差し掛かった。自ずと警戒が強まる中、先を歩いていたカインが声を掛ける。
「止まってくれ」
「おいおい、ここは通行料が必要だぜぇ?」
少年が足を止めた途端、前方から数人の男たちが近寄ってきた。柄の悪い男たちはにやにやと笑みを浮かべている。
「どうしても通りたいってんなら」
「通りたいってんなら、――なんだ?」
威圧。そうとしか呼べないほどの覇気がルイドから発せられていた。睨み付ける彼の他、冒険者たちは静かな闘気を纏わせている。並大抵の者は逃げたしたいと考えるくらいには。
「ひ、ひい!」
尻尾を巻いて逃げ出すチンピラに、コルネリウスは首を傾げる。ヨルとジュストも肩を竦めた。
「何だったんでしょう……」
「まあ、一つ言えるのは。受験生の邪魔を考える誰かがいるんだろうね」
「それも安易な方法で、だ。先を急ごう」
しばらく進んでいくと、小さな影がぶつかってきた。江流が難なく受け止める。
「おっと」
「すまないッス! あれ、お兄さん方どうしたんです、こんなところで大勢で……あれだ、編入試験ってヤツですかい? それならいい近道知ってますよ!」
「いや、いい」
「いいです」
「気持ちだけ受け取っておこう」
カイン、セラフィナ、ローザリカが首を振る。
「けどホラ、少しでも早く行った方がおトクじゃないスか! ね!」
「どうしてそんなに必死なんでしょうか」
「ひ、ひっしじゃないッスよぉ」
ゲルダの問いに焦りが浮かぶ。不審に思った冒険者たちがじりじりと距離を詰めると――脱兎のごとく逃げ出した。
「今日は特に不審者が多いね」
「アホが多いんだろ」
江流の言葉にカインが返す。再び歩いていると、――今度は冒険者たちを分断するよう、光を放つ六角形が何人かを囲った。冒険者たちの前に赤毛の青年が現れる。アルドより年上に見え、浅黒い肌を持っていた。
「さて、ここを通りたきゃ……なんて言うつもりはねぇ。お前ら今日の試験受けに来たんだろ? 少しの間足止めされて」
青年も最後まで言うことは出来なかった。
「脆いですね」
「騒ぎにはあまりしたくないんだ」
セラフィナが杖を掲げ、ジュストが指先を向けた先から光弾が放たれた。光の柱はすぐに霧散する。一瞬のことで、例え誰かが見ていても何が起こったかわからなかっただろう。
「先程からの妨害行為は貴方たちですね」
「どうします兄貴、俺らまで試験受けらンなくなるッスよ!」
「馬鹿」
「へえ、受験生」
カインが前に出てにっこりと微笑む。
「謝って真面目に試験受けるのと、俺にこれの中身ぶちまけられて下半身ピカピカで試験受けられなくなるの、どっちがいい?」
「どっちもいやっッス!」
「貴方たちは、編入試験を受ける為に皆で頑張ってきたのでしょう?」
カインを制し、コルネリウスが諭すように言葉を紡ぐ。
「ならば自信を持って正々堂々挑みなさい」
「試験駄目ならそもそも落ちるしな。学園に入っただけで将来安泰になるほど王国って甘くねぇと思うぞ」
「俺たち庶民には欲しいモンなんだよ。ともかく、ここは通してやるよ!」
青年たちは走って逃げて行く。コルネリウスがその背に呼びかけた。
「学園でお待ちしていますよ!」
「うるせーばーか! ブス!」
ピキ、とどこかで聞こえたような気がした。
●
冒険者たちは無事に学園へと辿り着く。いよいよだ。ヨルが視線を同じくし、少年の肩を叩く。
「ここまでよく頑張ったし、きっと大丈夫。でも勝負はわからないからね。勝っても負けても運命だが、悔いだけは残さないようにやってくるといい」
そうすればどう転んでも次に進める。小さな手を握ると、あの頃より日に焼けたミサンガが結ばれていた。しっかりと頷き、握り返す力に微笑む。
「アルドなら大丈夫。お前はやれる男だ。行ってこい!」
「うん! ありがとうカイン兄ちゃん」
「アルドくん、両手を出して」
小さな手を包むように握り、柔らかく微笑む。少年も幸せそうに微笑んだ。
「あったかいね」
「私の家族がいつもしてくれる、気持ちが落ち着くおまじないです」
「嬉しい」
「いつでもそばにいますよ」
「頑張ってな」
言葉少ななルイドだが、そこに乗る気持ちには確かだ。皆から掛けられる言葉に、少年は幸せそうに微笑む。皆に育ててもらった少年は、元気よく告げた。
「行ってきます!」
*
――後日。冒険者ギルドに駆け込む影があった。
「今日は何の依頼だい?」
「あのね、報告したい人たちがいるんだ」
少年が微笑む。
「皆のおかげで、夢を叶えられた、って」
マスターコメント
ミドルシナリオ易しい 報酬:標準9 / 6〜10人
2023年04月15日 11時17分40秒 公開
相談掲示板
えと、こんにちは、アルドです。 この前はたくさんありがとう。いよいよだから……また、力を貸してくれたら嬉しい、です。 王都ってどんなところ、だろう。目が回っちゃいそう、だな。 試験、めいっぱい頑張り、ます!
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 アルドくんはいよいよ試験ですね、100%の力が出せるようにサポートさせてください。 あまり心配はしていないのですけれど、赤毛の青年一派からの物理的なちょっかいを防ぐことと、アンジェルさんとお会いした際にフォローすることが必要でしょうか。 何方か必ず側にいれば大丈夫かな、とは思っていますけれど。 落ち着いて試験に挑めるようにしたいですね。
カイン・ステラ。よろしくな。 アルドはいよいよ試験か。 今までやってきたことが発揮できるように力を貸すぜ。 大丈夫、お前はできる男だ。 ま、試験を受ける奴は色々だよな。 人が少なくなれば合格が転がり込んでくるわけでもないし、ついでに合格しても学園生活で不祥事起こしたら、受験に落ちるよりもっとやべーと思うけどなー。 令嬢の方はあれだ、受かったとしても、学園生活で卒倒しねえといいな。 感想はさておいて、どうするかな。
ウォーリア、ルイド。良しなに。 実力外の手段で相手を蹴落とすのも、場合によってはそう悪いもんでもねぇとは思うが……今回は悪手だったってことできっちり防がせてもらうか。 常に誰かはアルドの側に、ってことで異論ない。試験前にあんま悪目立ちさせたくねぇし、絡まれた時はなるべく暴力無しで追っ払えるよう威圧感あたり持って行こうかなと考え中だ。 アンジェルの方は……礼儀に気を付けておけば概ね何とかなっかね? つっても俺もさほど得意じゃねぇから皆に頼り気味になるかもしれねぇが。 アルドと何の話をするかも考え中。なんか役立ちそうなことを伝えられたらとは思うが、変に詰め込むような話し方は避けるつもりだ。
セラフィナです。よろしくお願いします。 常に誰かはアルドさんの傍にいる方針に異論ありません。 危ない事を防ぐのも勿論ですけど、緊張を和らげられるように街を楽しめるといいですね。 皆さん案内する街の場所とか決まっていますか? 私はこれから使う学用品を、手頃な価格で質の良い物を売っている店を紹介したいな と考えているのですけど。 あとは軽く試験前の復習もしたいです。 暴漢対策としては、スリは捻りあげて憲兵に突き出してもいいですかね? 相手に怪我をさせずに拘束する方法も解説して、憲兵に引き渡す作業まで経験させておくのもいいかと思いまして。 雑魚に絡まれた場合は暴力なしで適当にあしらう形で大丈夫かと。 憲兵に突き出す程でもないですし、未遂なら見逃してあげましょう。 昔は容赦なくぼこぼこにして思い知らせてあげたのですけど、アルドさんの影響で私もちょっと甘くなっちゃったかもしれません。 アンジェルさんは私が下手に話しかけると悲鳴を上げられそうなので。 (学園で貴族達に悲鳴を上げられた事を思い出し苦い顔) アンジェルさんの対応は他の方にお任せ出来るとありがたいです。
ジュストだ、今回もよろしくね。 アルド君は実力を遺憾なく発揮できるよう頑張って。 というわけで王都を案内がてら、試験前におさらいを少しできれば良いなと考えているよ。 常に誰か一人が傍にいるのは賛成。 トラブルに巻き込まれそうになった時の対処法は教えてあげた方が確かに良いかもね。 良かれと思ってしたことが、実際に善行だったとしても自分の首を絞めてしまう、なんてことは王都でも学園でもよくある話だから。 俺はアンジェル嬢対策というか、遭遇時のフォローを考えておくよ。
ヨル・スレイマン。今回もよろしく。 アルド君は悔いなくやれるといいね。頑張っておいで。 常に誰かついてあげるのが良さそうだね。そのあたりは問題なさそうか。 暴漢対策も一通り教えてあげていいと思うな。とはいえ試験前に関しては、出来るだけ防止する方向ではありたいなとは思う。 俺は俺で貴族の人はいまだにあんまり得意では無いので⋯⋯⋯まあ、だから言える言葉はあるかもしれないな。基本は護衛と案内をしつつ、トラブルへの対応を加勢するようにしておくよ。
ゲルダです。よろしくお願いしますね。 はい、常にどなたかがお傍にいるという方針、とっても良いと思います……! 個人的には、トラブルに巻き込まれた際にアルド様の自信や落ち着きに影響が出てしまうのが怖いかな、と思いますので、そのあたりのフォローができるように動きたいなと考えています。 特に、アンジェル様に心のないお言葉を掛けられる可能性もあるかなと思いますので、アルド様がその言葉に負けないように勇気付けられたらいいなと思っています。
ローザリカ、今回もよろしく頼もう。 君が積み上げたものや背負ってきた想いは裏切らないさ。 ……不測の事態を防げるよう、僕らも全力でサポートしよう。 誰かしらは付き添う方針には無論賛成だ。 僕はジュストと同じく件の令嬢関連かな。一応貴族の生まれ同士でもあるしね。
海神江流です。 顔出し遅くなりまして申し訳ありません。 今回はよろしくお願いします。 馴染みの人が多いのだろうし、誰かが常に一緒にって所はお任せしようかなとか。 一見さんの自分としては、自分も試験で入学した平民だから、似た立場からかけられる言葉もあるかなと考えています。