テーラーメイドのおしごと!
炙りとろ左門
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シナリオID:2840
オープニング
「はわぁぁああ!?」
冒険者ギルドの受付嬢・シュゼットは悲鳴をあげて部屋から飛び出した。それを、そばかす顔の少女が追って捕まえる。
「ごっごごごめんなさい! 尻尾が敏感だとは知らず……!」
「あわゎわっわ」
シュゼットはまだパニック状態だ。下着姿で廊下に出てしまっていることにも気づいていない。
「ひ、ひとまず! お部屋に戻りましょう!」
そばかす顔の少女はシュゼットを引きずるようにして部屋に戻る。扉には『採寸室』の札がかかっていた。
● 気鋭のテーラー、思案する
リーンエス王国、王都グランスパーダに居を構える服飾店『プリンシパル』。そこの跡取りであり、リボン刺繍の刺子、そばかす顔のアンネローゼは悩んでいた。
「うち、歴史だけは古いんです」
はああと盛大なため息をつくアンネローゼは、親世代の古い工房体制を一新したばかりだ。古典芸術を完全には排除せず、現代芸術と融合させるため、デザイナーを入れ替えた。それ自体はうまくやっているのだが。
「発想も古い! 型通りのドレスや凝ったデザインのドレスならどこだって作れます、そうじゃないんです!」
びしっ、とアンネローゼはソファでぐったりとしているシュゼットを指さす。
「ドレスに限らず……ヒューマン以外も、もっと快適に着られる型を! 作らないといけないんです!」
少なくともこの店では、ヒューマン以外の服は、ヒューマンの型をベースに直して作っている。貴族向けの店であるから自然とそうなるのは仕方のないことだろう。顧客は大方、ヒューマンなのだから。
「経営戦略的にとか、昨今の改革の風を感じて……とかそういうことではないんです。私は、みんなにおしゃれすることを楽しんでほしい。着られる服、見られる服を仕方なく着るのではなく、着たい服を着て欲しい……!」
そのためには、まず種族ごとの型作りから、というのがアンネローゼの主張だ。最初はびくびくとしていた様子だったのだが、服のことになると『熱弁』という表現がふさわしいほどになる。
「もちろん当然、最初に採寸はしますけど……それをしっかりと型に落とし込むには技術が必要です。種族に対する理解を深めないと。というわけで皆さんには……採寸! そのあと仮縫いしたものを着て過ごしていただき、感想を聞かせてもらえればと」
なお、ヒューマンの型も古くなっているので作り直したいらしい。よって、種族不問にて依頼が張り出された。
報酬は、金銭とは別に、高級ブティック『プリンシパル』のオーダーメイド権を三着分。アンネローゼは本気のようである――。
冒険者ギルドの受付嬢・シュゼットは悲鳴をあげて部屋から飛び出した。それを、そばかす顔の少女が追って捕まえる。
「ごっごごごめんなさい! 尻尾が敏感だとは知らず……!」
「あわゎわっわ」
シュゼットはまだパニック状態だ。下着姿で廊下に出てしまっていることにも気づいていない。
「ひ、ひとまず! お部屋に戻りましょう!」
そばかす顔の少女はシュゼットを引きずるようにして部屋に戻る。扉には『採寸室』の札がかかっていた。
● 気鋭のテーラー、思案する
リーンエス王国、王都グランスパーダに居を構える服飾店『プリンシパル』。そこの跡取りであり、リボン刺繍の刺子、そばかす顔のアンネローゼは悩んでいた。
「うち、歴史だけは古いんです」
はああと盛大なため息をつくアンネローゼは、親世代の古い工房体制を一新したばかりだ。古典芸術を完全には排除せず、現代芸術と融合させるため、デザイナーを入れ替えた。それ自体はうまくやっているのだが。
「発想も古い! 型通りのドレスや凝ったデザインのドレスならどこだって作れます、そうじゃないんです!」
びしっ、とアンネローゼはソファでぐったりとしているシュゼットを指さす。
「ドレスに限らず……ヒューマン以外も、もっと快適に着られる型を! 作らないといけないんです!」
少なくともこの店では、ヒューマン以外の服は、ヒューマンの型をベースに直して作っている。貴族向けの店であるから自然とそうなるのは仕方のないことだろう。顧客は大方、ヒューマンなのだから。
「経営戦略的にとか、昨今の改革の風を感じて……とかそういうことではないんです。私は、みんなにおしゃれすることを楽しんでほしい。着られる服、見られる服を仕方なく着るのではなく、着たい服を着て欲しい……!」
そのためには、まず種族ごとの型作りから、というのがアンネローゼの主張だ。最初はびくびくとしていた様子だったのだが、服のことになると『熱弁』という表現がふさわしいほどになる。
「もちろん当然、最初に採寸はしますけど……それをしっかりと型に落とし込むには技術が必要です。種族に対する理解を深めないと。というわけで皆さんには……採寸! そのあと仮縫いしたものを着て過ごしていただき、感想を聞かせてもらえればと」
なお、ヒューマンの型も古くなっているので作り直したいらしい。よって、種族不問にて依頼が張り出された。
報酬は、金銭とは別に、高級ブティック『プリンシパル』のオーダーメイド権を三着分。アンネローゼは本気のようである――。
解説
【!】刺子アンネローゼは、皆さんに頼みたいことがあるようです。
皆さんは王都の高級ブティック『プリンシパル』に呼ばれ、型作りの手伝いをすることになりました。
種族ごとに型を作りたいという話ですが、参加者内に全ての種族が揃っている必要はありません。
採寸のあと、皆さんには仮縫いした服を着てしばらく過ごしていただきます。
この間に服のくせ取りを行い、必要があれば新しく仮縫いした服を作成し、調整を繰り返します。
工房内で過ごしていただくことになるため、お茶やお菓子が用意されていますが、本やテーブルゲームを持ち込んでも構いません。
また、参加者の皆様にはそれぞれ、『プリンシパル』のオーダーメイド権が三着分用意されます。
この機会に全て使い切る必要はありませんが、プレイングに作って欲しい服の詳細を書くと、リプレイで描写されます。
● NPC
シュゼット :冒険者ギルドの受付嬢。採寸と試着の繰り返しにより精魂尽き果てている。
アンネローゼ:『プリンシパル』の次期支配人。普段はオドオドしているが、裁縫のことになると気が強くなる。
== 備考 ==
*マスターページは参照しなくても問題ありませんが、描写やマスタリングに関する項目があります。
*NPCは後述の例外を除き、プレイングに記載がなければ同行描写はされません。同行指定し交流をはかることも可能ですが、描写字数の関係で省略される場合もございます。例外として、判定の結果、情報提供役として登場することがあります。
*本シナリオにはNPC「シュゼット」が関連づけられており、必要な場合に質疑応答を行います。
マスターより
先週順延で次【緑陰】じゃなかった? ハイ……すみません……
OPの制作が間に合いませんでした、ということで箸休めの日常依頼をお届けします。
種族ごとに動きやすい服は、縫製や素材ともに違うんじゃないかなと思いまして。
それでは皆様のご参加&プレイング、お待ちしております!
リプレイ
「全くもって同感だ!」
アンネローゼの手を握って、ローザリカ・L・ディオールは熱い共感を示した。
かつて、既製品ではおしゃれができないという悩みの解決のために座談会まで開いた熱意を持つローザリカにとって、今回の依頼は無視できるものではなかった。
「そうですね。種族的に『仕方ない』と諦めてしまって……寂しく思う気持ちもありました」
そう続けるゲルダ・クラインは、ハーフリングである。その種族的特徴から、色遣いや装飾、シルエットに至るまで――ヒューマンの子供用の服を薦められることが多い。
そんな、やたら実感のこもった反応から少し離れたところでは、ルイドがその様子を見守っている。
情熱溢れる職人の気概に魅せられて引き受けた依頼だ。自らはホムンクルスというやや特殊な種族だが、その特徴の認知は十分とはいえない。特に同階級の中で閉じがちな貴族社会では余計だろう。少しでも情報提供ができれば、そしてその代わりに、まだ拙い礼儀作法について書物から学ぶ時間を得た。
準備ができるまでの時間、ルイドが本を広げた同じテーブルでは、キオルティスがにこやかに微笑んでいる。
「楽しい時間になりそうだね」
身を飾ることが大好きなキオルティスは、オーダーメイド権という報酬もさることながら、やはり他の冒険者の装いも気になって顔を出した。
とはいえ、採寸や試着は、される側もなかなか体力のいることだ。それすらも『楽しい時間にする』ことができるかは、キオルティスの腕の見せ所だろう。
一方、ナハティガル=ラーとルベア・ベルニの両名は、若干落ち着かない様子で待合室のソファに腰掛けていた。
「……王国の高級服飾店に入店する日が来ようとは」
「同感ね」
ルベアは決してこのような場は初めてではないのだが、それでさえ依頼で必要に迫られてという状況下である。落ち着かないのは同じだ。
「俺は服の事はとんとわからん……が、オーダーメイドと既製品とは、そんなに違うものなのか?」
ナハティガルが依頼に参加した理由はそれだ。ルベアはナハティガルの疑問に答えるため、記憶を手繰り寄せる。
「ヒューマン以外の種族は着ることができなかったり、着るにしても手直しする必要がある服もあるって話を、別の依頼でしたんだけど……手直しも、結局プロに頼むのならいちから作ってもらおうっていうのがオーダーメイド。冒険者としても、やっぱり自分の体にぴったり合った動きやすい装備って大事じゃない?」
「なるほどな……確かに、それは無視できない要素だ」
ナハティガルは深く頷く。礼服以外のオーダーメイド権の使い道に悩んでいたが、思いつくものがあったようだ。
リューイ=ヴァレンゴルトは、彼とはまた違った目的で依頼を受けた。
大規模作戦で功績を残した、それがひとつ、心境の変化としてある。その上でゴールディに戻る際に礼服も持っておきたかった。
「服っていうのは自己表現でもあるんだと、さっきも言われた。俺は、俺の成したことに恥じない自分でいたい」
「そりゃ、聞いてて微笑ましい話だな」
手にした記章を眺めるリューイの向かいの席で、ペルゼィックは持ち込んだものの点検をしていた。小箱の中に入っているのはガラスビーズだ。
商売人とは流行に乗るもの。流行は貴族が作るもの。となれば、ここがペルゼィックに商機をもたらすこともありうるだろう。まあ本人は、貴族という生き物をそれほど得意とはしていないのだが。
「一着は取っとくといいかもな。切れるカードは多い方がいい」
ペルゼィックがそうリューイへ助言をしたところで、準備が整ったらしい。冒険者たちは順番に採寸室へと案内されるのだった。
====
ゲルダは仮縫いの衣装を纏い、指示通りにその場で数歩歩いてみる。そしてくるりと周り、肩や肘の動きに支障がないかを確認する。
「えっと、もっと動かなくて大丈夫ですか? 素振りとか……」
そのやり取りが想像していたよりも簡潔だったので、ゲルダは半分冗談のつもりで木剣を取り出した。
衝立の向こうから軽やかな笑い声が聞こえ、ナハティガルはふとそちらの方を向いた。確か今は、アンネローゼとゲルダがそこにいるはずだ。
「あ、動かずにお願いします」
「す、すまない」
ナハティガルは慌てて姿勢を正した。仮縫いの服での動きを見て、支障があった襟ぐりの調整してもらっているところだった。
「……貴族が着る服は、全てオーダーメイドなのだろうか」
ふと疑問に思ったことを尋ねると、職人は目を瞬いた。
「ほとんどの場合がそうですね。それが彼らの特権でもありますから」
「そうか……」
やはり、俺とは住む世界が違う――ナハティガルは、慣れない作業に強張る自分の体と、対照的に職人たちと談笑する余裕さえあるゲルダを比べる。
彼女自身は貴族でこそないが、富豪の娘。こういう機会には慣れているのだと思うと、何か見えない壁があるように思えてしまう。
ナハティガルのそんな物思いもつゆ知らず、ゲルダは型取りを終えるとオーダーメイド権を行使することにした。
春先から夏にかけての、貴族の招聘に耐えうる礼服を。あくまでゲルダは「平民」のため、華やかになりすぎないよう、貴人のそばに控えるにふさわしいものを――シチュエーションはそう設定しつつ、ゲルダとしては『ひとりの大人として扱ってもらえる服が主流になるように』という思いがあった。
まず、基調は白のドレープスカート。裏地に薄い桃色を引き、それにややくすんだ水色のアウターを着せ、落ち着きのある雰囲気を作る。袖口には純白のレースを採用し、春は可憐に、夏は涼やかに魅せるように。きらきらしい宝石やビーズは今回は控え、生地と同じ色の糸で刺繍する。
「刺繍は手刺し、レースは手編みか……ふんだんに使えば、それだけで身分を示すことができるね」
冒険者のオーダーをチェックしていたキオルティスがそうコメントすると、ゲルダは曖昧な面持ちで静かに頷いた。
「はい。ひだを作るだけでも軽やかに、華やかに見せることができます」
「そうだね。俺もそんな服をオーダーさせてもらったよ。ぜひ、ここから広まってほしいな」
ゲルダの表情を受けて、キオルティスはそう片目を瞑ってみせた。彼なりの激励――だろうか。胸中に複雑なものはあるが、ゲルダは微笑んで見せる。何事も一歩、踏み出すことからなのだ。
キオルティスは弦を爪弾く。職人たちが集中できるように、また、いつもと違う装いで過ごさねばならぬ心細さを和らげるための音楽を。
そのような中、キオルティスはハーブティーを飲むルベアの様子に目を留めた。
「疲れた?」
「ちょ、ちょっとね」
ハーフビーストに関しては、なかなか個体差の大きい種族であるため、基本の型は作らずに留意すべき項目を書き出してガイドとすることが決定した。このガイドを作成するための質問攻めに遭っていたのだ。
「で、その分の報酬がこれ、と」
キオルティスは、ルベアが机上に広げていた紙の端をとんとんと指で叩く。
1着目はシンプルな白いワンピースに、灰色のカーディガンを組み合わせたものだ。清潔感を保ちつつ、雰囲気が沈みすぎないように色調が調整されている。またカーディガンの袖や襟口を飾る刺繍は布地と同色のものを用いる予定だ。光の加減でのみ繊細な刺繍が浮かび上がる――見本の端切れを見せられ、キオルティスは驚いた。
「すごいね、職人技だ」
2着目は黒を基調にしたロングワンピース。露出を抑えるための長手袋も見本があるのだが、そちらも見事な出来だ。しかし『肩袖と長手袋の合間から見える素肌のチラリズム』について職人から熱弁されたことを思い出したルベアは、視線を遠くに投げた。
3着目は社交界用の華やかなドレス案で、最も書き込みが多い。柔らかな雰囲気のシフォンドレスがベースになっているようだが、なんと、総レースのワンピースを内側に隠しているのである。あまりにも挑戦的で大胆、職人たちの熱意はもはや狂気の域だ。キオルティスは推定工数と見積もりの欄を確認し、ルベアがやたらとハーブティーを飲んでいる理由を察した。
「これは確かに、落ち着いてはいられない数字だね」
「そうなのよ……アナタはどんなものを頼んだの?」
問われ、キオルティスは先ほど受け取ったラフを見せた。王国風の配色だが、襟の袷や袖口の処理などはシャルガネ風だ。深い紫を金糸で彩り、たなびく紗が異国情緒を演出する。たっぷりと布を使った上半身に対し、下半身はすっきりとまとめてメリハリをつける。動きやすさも重視しているようだ。
「素敵ね、華やかだけれど品があって」
「ありがとう、完成が楽しみだよ。他の皆のも気になって、見せてもらってるんだ」
なら、とルベアは向こうのテーブルにつくリューイの方を指し示した。
「やあ、キミもなんだか落ち着かない様子だね」
キオルティスにそう話しかけられたリューイの手には、ゴーフルコンソ記章がある。冒険者としての功績を認められた証だ。
「それに合う服を頼んだのかい?」
「ああ……俺は肌の色もちょっと皆とは違うから、1着目は体に合うやつを。2着目は、『着ることで自信が持てるように』って、この記章をデザインに取り入れることになったらしい」
「へえ! もしよければ、見せてくれないかな」
リューイは頷き、キオルティスを隣に招く。机上に広げられたデザインはスリーピースのスーツだ。記章は黒いため、それが埋もれることのないように濃淡のある灰色で構成されている。白いシャツにブルーグレーのベスト、ジャケットはグレーで締めて、胸元に飾る記章の黒が目立つように。
「タイをどうするか決めて欲しいってことで、悩んでるところだ」
「なるほど……リボンかスカーフか。どっちも宝石をあしらうんだね?」
熟練の刺繍職人を抱えるこの工房では珍しく、デザインに刺繍がほとんど用いられていない。キオルティスの疑問に、リューイは頷いて答えた。
「『戦いで得た勲章だから、優雅さよりは堅実さや剛毅なイメージを合わせる』……だそうだ」
「なるほど。宝石も小粒を散りばめるのではなく、大粒をひとつ。台もシンプルに装飾は盛らず、驕った雰囲気にならないようにしている。タイは……悩ましいね」
リューイも同感であるようで、「もう少し悩んでみる」と答えた。
ローザリカはオーダーメイドの内容をまとめ終えたあと、ふうと息をつく。
人々が行き交う通りで、愛しい彼と並んで歩くときに、似合うものを――ローザリカの希望を、職人たちは手際良く取り入れた。白いレース襟に萌葱色のワンピース、ふくらはぎには白い裾がたなびくように。喧騒に溶け込みつつも決して存在感を失わないようにと、鍔の広い帽子もセットになっている。
ローザリカがオーダーしたこれは、やがてベースコンセプトとしてセミオーダープランに追加される予定となった。いつかローザリカが主催した座談会で出た話を実現させたいとかけあったのだ。
襟はバリエーションをいくつか用意し、取り外しができるように。ワンピースは二層にして、色や柄を好みで切り替えられる。これらはテキスタイル職人をローザリカのほうで用意するという形で実現しそうだ。
「お疲れさん。相変わらずというか、今回は特にやる気がすごかったな……」
ペルゼィックが刺繍の本から顔を上げ、ローザリカのために席を開ける。ローザリカは婚約者のいる身として適切な位置に腰掛けると、扇を広げた。
「君も売り込みをしていたな。好感触だったようだが、僕としてもそれには興味がある」
ローザリカの視線が机上に注がれる。置かれた小箱の中にはガラスビーズが入っていた。
「貴族は高価で良質な宝石を求めるが、庶民は手が届かない。それが貴族と庶民の服飾の違い――君はそれに、大胆にも切り込もうとしている」
ガラスビーズの加工技術はまた特殊だ。その問題を解決する必要はあるが、投じれば大きな波紋を呼ぶことも可能な商材だ。実現できるかどうかはまた別として、ペルゼィックの持つ眼に、ローザリカの勘が働く。
「そういえば、なんか妙なオーダーしてたよな」
と、同じ席についていたルイドがそう言った。ルイドは「貴人の護衛などの依頼の際に動きやすい礼服を」と頼んだのだが、その横でペルゼィックは「服はいい」と言ったのだ。
「結局、何を貰ったんだ?」
ルイドの問いかけに、ローザリカも興味を引かれてペルゼィックを見る。ペルゼィックは短く「刺繍の見本」と答えた。
「ちと興味あることと、刺繍が相性良さそうなんだ」
「なるほどね……それで刺繍の本まで読んでるのか」
そういうルイドも本を借りているが、それは礼儀作法の本だ。立ち姿に関してはやはり実践が最も重要視されるが、基本的な作法や前提、暗黙の了解――そういったものは、こうして読んで学べるものがいい。
「妙なオーダーといえば、あちらさんも何か話し込んでるな」
ルイドは職人たちと大机を囲んでいるナハティガルをちらりとみやる。
ルイドも、ホムンクルスという種族ゆえか職人たちから質問攻めにあった。宝石の位置は個々人によって違うため、大きさや位置によっては微調整が必要になってくる。修正が容易になるような型取りのため、仮縫い後の調整回数は最も多かった。
「っていうのとは、ちょっと違う雰囲気じゃないか?」
物々しい雰囲気を感じるのは、おそらく、装備品の金具が触れ合う金属音のせいだろう。
それをルイドが指摘すると、二人もナハティガルが頼んでいるものが気になり始めた。顔を見合わせ、本を閉じて席を立ち、大机に近づく。
「戦闘装備については我々の知識が不足しているので、用いる素材については今後詰めていく必要がありますが」
そこでは職人の一人がそう語りつつ、トルソーにかけた竜皮の胸甲と、ロングコートの干渉を確認していた。
「さすがにそれは、仕立て屋には手に余るんじゃねえか?」
「俺も、無理を言っているとは思う」
ペルゼィックの感想は尤もだ。ナハティガルも同意する部分があるのか、難しそうに眉を寄せた。戦闘服には耐刃性や伸び縮み、吸汗性が求められる。領分としては武具屋だろう。
「確かにそうかもしれませんが、冒険者向けの装備から学べるところは多そうです!」
ナハティガルの装備を物色していたアンネローゼが顔を上げた。研究熱心な彼女はナハティガルの装備を買いあげかねない勢いだったのだが、そこにペルゼィックとローザリカが割り込んでいく。
「「こちらで良い武具屋を紹介する」」
「おーおー……」
商魂逞しい二人の背中を見遣り、ルイドはトルソーにかかった服を観察した。彼の手元にはオーダーメイド権が2着分残っているが、こういうのも悪くはないな、とナハティガルを振り返る。ナハティガルはルイドに、職人たちの書き込みでびっしり埋まった紙を差し出すのだった。
アンネローゼの手を握って、ローザリカ・L・ディオールは熱い共感を示した。
かつて、既製品ではおしゃれができないという悩みの解決のために座談会まで開いた熱意を持つローザリカにとって、今回の依頼は無視できるものではなかった。
「そうですね。種族的に『仕方ない』と諦めてしまって……寂しく思う気持ちもありました」
そう続けるゲルダ・クラインは、ハーフリングである。その種族的特徴から、色遣いや装飾、シルエットに至るまで――ヒューマンの子供用の服を薦められることが多い。
そんな、やたら実感のこもった反応から少し離れたところでは、ルイドがその様子を見守っている。
情熱溢れる職人の気概に魅せられて引き受けた依頼だ。自らはホムンクルスというやや特殊な種族だが、その特徴の認知は十分とはいえない。特に同階級の中で閉じがちな貴族社会では余計だろう。少しでも情報提供ができれば、そしてその代わりに、まだ拙い礼儀作法について書物から学ぶ時間を得た。
準備ができるまでの時間、ルイドが本を広げた同じテーブルでは、キオルティスがにこやかに微笑んでいる。
「楽しい時間になりそうだね」
身を飾ることが大好きなキオルティスは、オーダーメイド権という報酬もさることながら、やはり他の冒険者の装いも気になって顔を出した。
とはいえ、採寸や試着は、される側もなかなか体力のいることだ。それすらも『楽しい時間にする』ことができるかは、キオルティスの腕の見せ所だろう。
一方、ナハティガル=ラーとルベア・ベルニの両名は、若干落ち着かない様子で待合室のソファに腰掛けていた。
「……王国の高級服飾店に入店する日が来ようとは」
「同感ね」
ルベアは決してこのような場は初めてではないのだが、それでさえ依頼で必要に迫られてという状況下である。落ち着かないのは同じだ。
「俺は服の事はとんとわからん……が、オーダーメイドと既製品とは、そんなに違うものなのか?」
ナハティガルが依頼に参加した理由はそれだ。ルベアはナハティガルの疑問に答えるため、記憶を手繰り寄せる。
「ヒューマン以外の種族は着ることができなかったり、着るにしても手直しする必要がある服もあるって話を、別の依頼でしたんだけど……手直しも、結局プロに頼むのならいちから作ってもらおうっていうのがオーダーメイド。冒険者としても、やっぱり自分の体にぴったり合った動きやすい装備って大事じゃない?」
「なるほどな……確かに、それは無視できない要素だ」
ナハティガルは深く頷く。礼服以外のオーダーメイド権の使い道に悩んでいたが、思いつくものがあったようだ。
リューイ=ヴァレンゴルトは、彼とはまた違った目的で依頼を受けた。
大規模作戦で功績を残した、それがひとつ、心境の変化としてある。その上でゴールディに戻る際に礼服も持っておきたかった。
「服っていうのは自己表現でもあるんだと、さっきも言われた。俺は、俺の成したことに恥じない自分でいたい」
「そりゃ、聞いてて微笑ましい話だな」
手にした記章を眺めるリューイの向かいの席で、ペルゼィックは持ち込んだものの点検をしていた。小箱の中に入っているのはガラスビーズだ。
商売人とは流行に乗るもの。流行は貴族が作るもの。となれば、ここがペルゼィックに商機をもたらすこともありうるだろう。まあ本人は、貴族という生き物をそれほど得意とはしていないのだが。
「一着は取っとくといいかもな。切れるカードは多い方がいい」
ペルゼィックがそうリューイへ助言をしたところで、準備が整ったらしい。冒険者たちは順番に採寸室へと案内されるのだった。
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ゲルダは仮縫いの衣装を纏い、指示通りにその場で数歩歩いてみる。そしてくるりと周り、肩や肘の動きに支障がないかを確認する。
「えっと、もっと動かなくて大丈夫ですか? 素振りとか……」
そのやり取りが想像していたよりも簡潔だったので、ゲルダは半分冗談のつもりで木剣を取り出した。
衝立の向こうから軽やかな笑い声が聞こえ、ナハティガルはふとそちらの方を向いた。確か今は、アンネローゼとゲルダがそこにいるはずだ。
「あ、動かずにお願いします」
「す、すまない」
ナハティガルは慌てて姿勢を正した。仮縫いの服での動きを見て、支障があった襟ぐりの調整してもらっているところだった。
「……貴族が着る服は、全てオーダーメイドなのだろうか」
ふと疑問に思ったことを尋ねると、職人は目を瞬いた。
「ほとんどの場合がそうですね。それが彼らの特権でもありますから」
「そうか……」
やはり、俺とは住む世界が違う――ナハティガルは、慣れない作業に強張る自分の体と、対照的に職人たちと談笑する余裕さえあるゲルダを比べる。
彼女自身は貴族でこそないが、富豪の娘。こういう機会には慣れているのだと思うと、何か見えない壁があるように思えてしまう。
ナハティガルのそんな物思いもつゆ知らず、ゲルダは型取りを終えるとオーダーメイド権を行使することにした。
春先から夏にかけての、貴族の招聘に耐えうる礼服を。あくまでゲルダは「平民」のため、華やかになりすぎないよう、貴人のそばに控えるにふさわしいものを――シチュエーションはそう設定しつつ、ゲルダとしては『ひとりの大人として扱ってもらえる服が主流になるように』という思いがあった。
まず、基調は白のドレープスカート。裏地に薄い桃色を引き、それにややくすんだ水色のアウターを着せ、落ち着きのある雰囲気を作る。袖口には純白のレースを採用し、春は可憐に、夏は涼やかに魅せるように。きらきらしい宝石やビーズは今回は控え、生地と同じ色の糸で刺繍する。
「刺繍は手刺し、レースは手編みか……ふんだんに使えば、それだけで身分を示すことができるね」
冒険者のオーダーをチェックしていたキオルティスがそうコメントすると、ゲルダは曖昧な面持ちで静かに頷いた。
「はい。ひだを作るだけでも軽やかに、華やかに見せることができます」
「そうだね。俺もそんな服をオーダーさせてもらったよ。ぜひ、ここから広まってほしいな」
ゲルダの表情を受けて、キオルティスはそう片目を瞑ってみせた。彼なりの激励――だろうか。胸中に複雑なものはあるが、ゲルダは微笑んで見せる。何事も一歩、踏み出すことからなのだ。
キオルティスは弦を爪弾く。職人たちが集中できるように、また、いつもと違う装いで過ごさねばならぬ心細さを和らげるための音楽を。
そのような中、キオルティスはハーブティーを飲むルベアの様子に目を留めた。
「疲れた?」
「ちょ、ちょっとね」
ハーフビーストに関しては、なかなか個体差の大きい種族であるため、基本の型は作らずに留意すべき項目を書き出してガイドとすることが決定した。このガイドを作成するための質問攻めに遭っていたのだ。
「で、その分の報酬がこれ、と」
キオルティスは、ルベアが机上に広げていた紙の端をとんとんと指で叩く。
1着目はシンプルな白いワンピースに、灰色のカーディガンを組み合わせたものだ。清潔感を保ちつつ、雰囲気が沈みすぎないように色調が調整されている。またカーディガンの袖や襟口を飾る刺繍は布地と同色のものを用いる予定だ。光の加減でのみ繊細な刺繍が浮かび上がる――見本の端切れを見せられ、キオルティスは驚いた。
「すごいね、職人技だ」
2着目は黒を基調にしたロングワンピース。露出を抑えるための長手袋も見本があるのだが、そちらも見事な出来だ。しかし『肩袖と長手袋の合間から見える素肌のチラリズム』について職人から熱弁されたことを思い出したルベアは、視線を遠くに投げた。
3着目は社交界用の華やかなドレス案で、最も書き込みが多い。柔らかな雰囲気のシフォンドレスがベースになっているようだが、なんと、総レースのワンピースを内側に隠しているのである。あまりにも挑戦的で大胆、職人たちの熱意はもはや狂気の域だ。キオルティスは推定工数と見積もりの欄を確認し、ルベアがやたらとハーブティーを飲んでいる理由を察した。
「これは確かに、落ち着いてはいられない数字だね」
「そうなのよ……アナタはどんなものを頼んだの?」
問われ、キオルティスは先ほど受け取ったラフを見せた。王国風の配色だが、襟の袷や袖口の処理などはシャルガネ風だ。深い紫を金糸で彩り、たなびく紗が異国情緒を演出する。たっぷりと布を使った上半身に対し、下半身はすっきりとまとめてメリハリをつける。動きやすさも重視しているようだ。
「素敵ね、華やかだけれど品があって」
「ありがとう、完成が楽しみだよ。他の皆のも気になって、見せてもらってるんだ」
なら、とルベアは向こうのテーブルにつくリューイの方を指し示した。
「やあ、キミもなんだか落ち着かない様子だね」
キオルティスにそう話しかけられたリューイの手には、ゴーフルコンソ記章がある。冒険者としての功績を認められた証だ。
「それに合う服を頼んだのかい?」
「ああ……俺は肌の色もちょっと皆とは違うから、1着目は体に合うやつを。2着目は、『着ることで自信が持てるように』って、この記章をデザインに取り入れることになったらしい」
「へえ! もしよければ、見せてくれないかな」
リューイは頷き、キオルティスを隣に招く。机上に広げられたデザインはスリーピースのスーツだ。記章は黒いため、それが埋もれることのないように濃淡のある灰色で構成されている。白いシャツにブルーグレーのベスト、ジャケットはグレーで締めて、胸元に飾る記章の黒が目立つように。
「タイをどうするか決めて欲しいってことで、悩んでるところだ」
「なるほど……リボンかスカーフか。どっちも宝石をあしらうんだね?」
熟練の刺繍職人を抱えるこの工房では珍しく、デザインに刺繍がほとんど用いられていない。キオルティスの疑問に、リューイは頷いて答えた。
「『戦いで得た勲章だから、優雅さよりは堅実さや剛毅なイメージを合わせる』……だそうだ」
「なるほど。宝石も小粒を散りばめるのではなく、大粒をひとつ。台もシンプルに装飾は盛らず、驕った雰囲気にならないようにしている。タイは……悩ましいね」
リューイも同感であるようで、「もう少し悩んでみる」と答えた。
ローザリカはオーダーメイドの内容をまとめ終えたあと、ふうと息をつく。
人々が行き交う通りで、愛しい彼と並んで歩くときに、似合うものを――ローザリカの希望を、職人たちは手際良く取り入れた。白いレース襟に萌葱色のワンピース、ふくらはぎには白い裾がたなびくように。喧騒に溶け込みつつも決して存在感を失わないようにと、鍔の広い帽子もセットになっている。
ローザリカがオーダーしたこれは、やがてベースコンセプトとしてセミオーダープランに追加される予定となった。いつかローザリカが主催した座談会で出た話を実現させたいとかけあったのだ。
襟はバリエーションをいくつか用意し、取り外しができるように。ワンピースは二層にして、色や柄を好みで切り替えられる。これらはテキスタイル職人をローザリカのほうで用意するという形で実現しそうだ。
「お疲れさん。相変わらずというか、今回は特にやる気がすごかったな……」
ペルゼィックが刺繍の本から顔を上げ、ローザリカのために席を開ける。ローザリカは婚約者のいる身として適切な位置に腰掛けると、扇を広げた。
「君も売り込みをしていたな。好感触だったようだが、僕としてもそれには興味がある」
ローザリカの視線が机上に注がれる。置かれた小箱の中にはガラスビーズが入っていた。
「貴族は高価で良質な宝石を求めるが、庶民は手が届かない。それが貴族と庶民の服飾の違い――君はそれに、大胆にも切り込もうとしている」
ガラスビーズの加工技術はまた特殊だ。その問題を解決する必要はあるが、投じれば大きな波紋を呼ぶことも可能な商材だ。実現できるかどうかはまた別として、ペルゼィックの持つ眼に、ローザリカの勘が働く。
「そういえば、なんか妙なオーダーしてたよな」
と、同じ席についていたルイドがそう言った。ルイドは「貴人の護衛などの依頼の際に動きやすい礼服を」と頼んだのだが、その横でペルゼィックは「服はいい」と言ったのだ。
「結局、何を貰ったんだ?」
ルイドの問いかけに、ローザリカも興味を引かれてペルゼィックを見る。ペルゼィックは短く「刺繍の見本」と答えた。
「ちと興味あることと、刺繍が相性良さそうなんだ」
「なるほどね……それで刺繍の本まで読んでるのか」
そういうルイドも本を借りているが、それは礼儀作法の本だ。立ち姿に関してはやはり実践が最も重要視されるが、基本的な作法や前提、暗黙の了解――そういったものは、こうして読んで学べるものがいい。
「妙なオーダーといえば、あちらさんも何か話し込んでるな」
ルイドは職人たちと大机を囲んでいるナハティガルをちらりとみやる。
ルイドも、ホムンクルスという種族ゆえか職人たちから質問攻めにあった。宝石の位置は個々人によって違うため、大きさや位置によっては微調整が必要になってくる。修正が容易になるような型取りのため、仮縫い後の調整回数は最も多かった。
「っていうのとは、ちょっと違う雰囲気じゃないか?」
物々しい雰囲気を感じるのは、おそらく、装備品の金具が触れ合う金属音のせいだろう。
それをルイドが指摘すると、二人もナハティガルが頼んでいるものが気になり始めた。顔を見合わせ、本を閉じて席を立ち、大机に近づく。
「戦闘装備については我々の知識が不足しているので、用いる素材については今後詰めていく必要がありますが」
そこでは職人の一人がそう語りつつ、トルソーにかけた竜皮の胸甲と、ロングコートの干渉を確認していた。
「さすがにそれは、仕立て屋には手に余るんじゃねえか?」
「俺も、無理を言っているとは思う」
ペルゼィックの感想は尤もだ。ナハティガルも同意する部分があるのか、難しそうに眉を寄せた。戦闘服には耐刃性や伸び縮み、吸汗性が求められる。領分としては武具屋だろう。
「確かにそうかもしれませんが、冒険者向けの装備から学べるところは多そうです!」
ナハティガルの装備を物色していたアンネローゼが顔を上げた。研究熱心な彼女はナハティガルの装備を買いあげかねない勢いだったのだが、そこにペルゼィックとローザリカが割り込んでいく。
「「こちらで良い武具屋を紹介する」」
「おーおー……」
商魂逞しい二人の背中を見遣り、ルイドはトルソーにかかった服を観察した。彼の手元にはオーダーメイド権が2着分残っているが、こういうのも悪くはないな、とナハティガルを振り返る。ナハティガルはルイドに、職人たちの書き込みでびっしり埋まった紙を差し出すのだった。
マスターコメント
お疲れ様でした! あっあっ字数が足りません〜(;ω;)型は無事取れましたということで……ご参加ありがとうございました!
リプレイ中のお召し物につきましてはあくまで『仮稿』ということで、アレンジや変更を加えてくださって構いません。
それではまた、お会いしましょう〜!
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2023年03月25日 22時32分47秒 公開
大成功
相談掲示板
みなさん!お集まりいただきありがとうございます(ふっかつ!) 特に大丈夫だとは思いますが、ご不明な点がございましたらお申し付けくださいね。