【究脈】強行侵入調査:テムドブルク
革酎
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シナリオID:2776
オープニング
元シルトラース帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーとフィルエス大森林に住まう森の賢者フェアロス・アーラ・アスプロスの両名は、ロモズ歩兵団や冒険者達の支援を得て、シルトラース帝国南部から南東部にかけての幾つかの町や小都市を調査し、幽界樹の分樹が根を下ろしている箇所を四つに特定した。
そのうちのふたつは、帝国南西部の小都市ガークハーグに出現した個体よりも小さく、そして非力であろうことが地下のエーテルの流量及び流速から推測することが出来た。
そのふたつの幽界分樹が出現している町、即ち小都市ガルメッツァとテムドブルクに対して、強行侵入調査を実施し、幽界分樹の出現ポイントが帝国魔導院内の龍脈接続ポイント上であるかどうかを確かめなければならない。
龍脈接続ポイントには、即時通信網構築用装置『龍逓架』が設置されている。
龍逓架は主要な帝国魔導院各支部と帝都本部に置かれている通信装置で、クライスは、この龍逓架が発する魔術的な信号が幽界分樹を呼び寄せた疑いがあると見ていた。
だが、幽界分樹出現ポイントが龍逓架設置場所と重なっていたことをクライス自身が確認していたのは、それまでのところ、東部鎮守都市エスタルのみであった。
そこで他の幽界分樹出現地に於いても、龍逓架が幽界樹出現ポイント上にあったかどうかを見極める必要があった。
過日、クライスとフェアロスは冒険者達と共に小人の町の異名を持つ小都市ガルメッツァに強硬侵入調査を実施し、幽界分樹の出現ポイントが龍逓架設置場所と重なっていた事実を突き止めた。
龍逓架が幽界分樹出現のキーとなっていたのは、エスタルと合わせて都合二カ所目となる。
少しずつではあるが、クライスの仮説を裏付ける証拠が出始めているといって良い。
そして次にクライスが調査すべきと睨んだのは、テムドブルクであった。
テムドブルクは、ガルメッツァから徒歩で東へ二日程の距離にある。
帝国崩壊前の人口はガルメッツァと同じく、およそ3000。人種はヒューマンとハーフビーストが多く、町全体が少しばかりワイルドな雰囲気に包まれている所為か、近隣からは獣家の町という呼称で知られていた。
町中にも緑が多く、敢えて石畳等で舗装せずに自然の大地剥き出しの路面をあちこちに配置しているのは、住民達の好みを反映したものと考えられる。
しかし現在は幽界分樹と種付きクリーパー共の巣窟と化しており、今や街壁に覆われた魔の森という印象を与える様になっていた。
クライスとフェアロス率いる幽界樹対策調査隊は、黒い霧に覆われた森の町に挑もうとしている。
●蘇る記憶
テムドブルク近くの小さな森の中に、十数名の人影が屯していた。
クライスとフェアロスの姿もその中に見られたが、それ以外は大半がエスタルで草人狩りとして行動していた者や、旧帝国魔導院所属でクライスの部下として働いていた者達である。
いずれも授恵者ではないが、集団でかかれば小型クリーパーを一体程度、何とか撃退出来る程度の実力を具えている。クライスは彼らを自身が組織した個人組織『幽界樹対策調査隊』のメンバーに加えた。
勿論彼らの参加は強制ではない。クライスから呼びかけこそしたものの、無理に参加は求めなかった。
が、どの顔ぶれもクライスと共に憎き幽界樹打倒に繋がるのならばと即断で参加を決め、今こうして行動を共にする様になっていた。
そんな彼らの最初の任務が、テムドブルクに於ける強行侵入調査であった。
「皆さん、やる気に溢れていますね」
フェアロスが穏やかに目を細めると、クライスは頼りになる連中ですと頷き返した。
「しかしながら、種付き相手では流石に分が悪い。そこで今回も、冒険者ギルドに護衛戦力の募集をかけておきました」
ガルメッツァ同様、今回の強行侵入調査に於いても本格式凝黒装置を投入する。
しかしながら前回とは異なり、今回は起動と停止には旧帝国魔導院の部下達が担当することになった。その担当者数は全部で十名。
「護衛の冒険者達からすれば、守護する対象が増えたということになりますね」
「それも込みでの依頼だということは伝えてありますから、腕に覚えのある者が集まってくれるでしょう」
その時、テムドブルク近くにまで斥候に出ていた対策調査隊員が戻ってきた。
黒い霧を遠目に眺める位置にまで接近したところ、彼らは幾つかの人影を街壁周辺に目撃した、と語った。
いずれもハーフビーストだったが、その動き方は妙にぎこちなく、見ているだけで嫌悪感を覚える程に不気味だったという。
クライスはまさか、と低く唸った。
「エスタルに現れた草人が、ここにも居たということですか」
渋い表情のクライスに、フェアロスは覗き込む様な視線をぶつけた。
テムドブルクの幽界分樹が、エスタルで草人が生み出された事実を何らかの方法で知り、同じことをしているのかも知れない。
尤も、このテムドブルクでは生きている人間に迎合する為ではなく、単純な白兵戦力として草人を操っている可能性は大いにあった。
「恐らく、遭遇した瞬間に攻撃してくるでしょうね。ひとの姿を模してはいますが、所詮はクリーパー。躊躇してしまえば、こちらがやられます」
但し、テムドブルクに根を下ろしている幽界分樹の規模から考えて、数は然程に多くはないだろう。
エスタル出身の対策調査隊員達も、また面倒な奴らと遭遇することになるのかと、うんざりした表情を並べていた。
解説
マスターより
リプレイ
獣家の町テムドブルク――その街壁内の荒廃ぶりは、想像以上だった。
そもそもが自然を模した構造が多く、舗装されていない路面がそこかしこに配置されている為、廃墟というよりも密林の中に彷徨い込んだ様な錯覚すら感じさせた。
そんな中を、元シルトラース帝国魔導院エスタル支部長クライス・アクバーとフィルエス大森林に住まう森の賢者フェアロス・アーラ・アスプロスの両名を筆頭とする幽界樹対策調査隊の面々が、慎重に周囲の気配を探りながらゆっくりと歩を進めてゆく。
荷馬車に積み込んだ本格式凝黒装置は突入前から稼働し始めており、テムドブルクを覆い尽くしていた黒い霧の一部が早くも漆黒の岩片へと変じられ、次々に渇いた赤土の路面へと吐き出されてゆく。
十数名の一般人から成る幽界樹対策調査隊員らが荷馬車を囲い込む形で旧帝国魔導院テムドブルク支部を目指してゆく訳だが、更にその外縁を覆う十名の冒険者達が、警戒の視線を四方八方に飛ばしている。
通常の建物ばかりではなく、至る所に鬱蒼と茂る樹々が立ちはだかる為、想定以上に死角が多い。索敵が僅かにでも疎かになれば、間違い無く不意打ちを喰らうだろう。
先頭を行くのはコルネリウス・アーラ。今やその鉄壁に等しい防御力と盾役としての力量は多くの冒険者が知るところだが、彼女ですら、今回の強行侵入調査に於いてはいつも以上の緊張感を強いられていた。
そのコルネリウスが足を止めた。と同時に、手信号で後方の面々に停止を指示する。
すぐさま、ルアンナ・ミュラーが陣形から飛び出してきてコルネリウスの後方に位置を取った。
「あの見た目は……話を聞いただけではすぐにピンと来なかったのですが、まだ草人が居たんですね」
杖頭を前方にかざしながら厳しい表情を浮かべたルアンナ。
黒い霧と浄化された空間の境目辺りに、ハーフビーストを模した奇怪な群れが屯している。人間の遺体に種付きクリーパーが張り付いて擬人化した化け物――草人共だった。
「初めての遭遇なら躊躇していたかも知れませんが、今は大丈夫です」
愛剣を鞘から抜き払いつつ、コルネリウスは幽界樹対策調査隊の面々に振り向いた。彼らに不安を与えぬ様にと、穏やかな笑みを湛える。
「皆さんは私達で必ずお護りますから、装置の方は宜しくお願いします」
そのコルネリウスからの呼びかけに対し、荷馬車を囲む幽界樹対策調査隊員達は幾分緊張した様子ではあったものの、彼らの視線の中には疑いの念など微塵にも感じられない。
彼らは既に、自分達を護ってくれる冒険者達を十分に信頼している様子だった。
「囲まれてる……って訳でもないが、右手側にも別集団が居るみたいだね」
頭蓋面の奥から鋭い眼光を迸らせるルチル・プルメリア・グレイハーツが、静かな警鐘を放った。
すぐさま、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトの両名が動く。ふたりは任せろといわんばかりの勢いで右方向に突出していった。
「幽界分樹! 草人! 貴様らを倒して本格式凝黒装置と術師全員を護ってみせる!」
巨大な刃を轟然と構えながら草人共との間合いを詰めてゆくアルベルト。サフィラがすぐその後に続き、両脇の死角からの奇襲に備えた。
「他に敵の姿は無さそうだ……前方と右手、今はこの両者に集中しても良いだろう」
逆方向と後方に対して素早く索敵の視線を走らせていたセリオス・オーガストが、自身も弓を構えつつ、他の面々に向けて手短かに伝えた。
帝国魔導院テムドブルク支部内へ入れば戦闘は極力避けたいところだが、そこに到達するまでは荷馬車と、そして一般人たる幽界樹対策調査隊員達を確実に守り切らなければならない。
その為にはセリオスのみならず、ルチルとしても戦闘技術の出し惜しみはしていられない。ふたりは前衛役のコルネリウスやアルベルトを支援すべく、接敵前の段階から強力な鏃を叩き込んで草人共の出足を鈍らせることに集中した。
●積み重なる不安を払い除け
先に片付いたのは、比較的数の少ない右手側の草人共だった。
アルベルトの放つ鋭い剣戟の嵐が次々と敵を薙ぎ倒す一方、後方支援に入ったアウレーリア・フォン・ネーベルベルクの魔法攻撃がその威力を見せつけ、早々に敵集団を殲滅したのである。
前方側はルアンナが仕掛けた稲妻の連鎖で敵の動きを封じ、続けてコルネリウスの剣捌きとセリオスの正確な射撃が威力を発揮して、草人共を確実に仕留めていった。
更にベルク・オスマットとナタリア・フィッツジェラルドも加勢に入り、右手側の敵勢力殲滅にやや遅れる形ではあったが、こちらも然程の時間を要することなく無事に全てを討滅することが出来た。
「……それにしても、龍逓架か。エフレム卿は元近衛出身、彼とてその存在は把握していたであろうし、それはイダ妃とて変わらぬか」
戦闘を終えて荷馬車まで引き返す際、ベルクは何ともいえぬ微妙な表情で旧帝国魔導院テムドブルク支部の方角に視線を流した。
東部鎮守都市エスタルの事例から考えて、イダ・バルダスがどこまで龍脈を掌握し、そして幽界分樹と繋がっているのかが大いに気になるところだった。
たった今斃した草人や、或いは種付きクリーパー共が、下手をすればイダの軍隊として機能する可能性すらある訳だ。その脅威を排除する為となれば、全ての幽界分樹を帝都奪還前に討伐する必要性が出てくるかも知れない。そう考えると、何とも気の滅入る話だ。
「龍脈の扱いについてはイダ妃はどうも知識が豊富らしいし、龍脈から力を汲み上げられると、果たしてひとの手に負えるのだろうか?」
「……それは、今は考えても仕方が無いんじゃないか?」
ひとり悶々と頭を悩ませるベルクに、ナタリアが苦笑を漏らした。
ナタリアとて地質学の観点から幽界分樹の成長過程、或いは周辺土壌や生態系に与える影響には大いに興味があった。彼女は龍脈と種付きクリーパーの行動にも何らかの関係があると睨んでいるが、今はそれ以上のことを考える余裕は無い。イダ・バルダスのことまで思考を巡らせてしまうと、今為すべきことに対しての視点がぼやけてしまう恐れがあった。
「本格的に考えるのは、まだまだ先で良いだろう。今はここテムドブルクに集中しようじゃないか」
荷馬車付近にまで引き返したナタリアは、幽界樹対策調査隊員達と談笑していたグレイブ・ヤードからテムドブルクの見取り図を受け取った。
グレイブは、突入後最初の戦闘には参戦しなかった。
彼は種付きクリーパー相手ではどうしても非力といわざるを得ない幽界樹対策調査隊員達の傍らで、彼らを護り切ることに専念していたのである。
グレイブが攻撃には廻らず、徹底して護衛に専念したことは幽界樹対策調査隊員達を大いに安堵させた。
冒険者全員が草人との戦いに集中してしまうと、いざ敵が防衛線を突破してきた際には不測の事態が生じる。そのもしもの場合に備えてグレイブが荷馬車脇に控えていたというのは、一般人の心境から見ても非常に心強かった。彼らが恐慌状態に陥らず、比較的冷静に戦況を見守ることが出来たのも、グレイブの護衛専心の念があればこそであろう。
「しかしこの黒い霧は、本質は何なのでしょうね?」
だが、グレイブは決して恩着せがましい態度は取らず、幽界樹対策調査隊員達には気さくに接し続けた。彼らから過度の緊張感を取り除いてやろうというその心遣いと、グレイブの得意とする話術が彼らの信頼を勝ち得たのは後々、大きな財産となるだろう。
「さて、それじゃあ移動再開ね」
ナタリアと並んで町の見取り図を覗き込んでいたアウレーリアが、ぱんぱんと両掌を軽く叩いた。
少しでも早く旧帝国魔導院テムドブルク支部に到達し、彼らの目的――幽界分樹が根を下ろしている場所の特定に辿り着かなければならない。彼女の提案で突入路と撤退路は別に取ることも検討されたが、結局は最短距離を往復する方が良いということで、現在進んでいる突入路を往復することとなっていた。
勿論アウレーリアに異論は無かったが、復路に敵が集中した場合にも備えて、第二の撤退路を検討しておく必要もあった。その為には一瞬でも早く目的地に到達し、別の経路を調査する時間を少しでも長く確保しなければならない。ここでのんびりしている余裕は無かった。
「では、行きましょう」
先頭を行くコルネリウスの号令を受けて、幽界樹対策調査隊は再び動き出した。
●新たな謎
更に二度の戦闘を経て、一行は旧帝国魔導院テムドブルク支部に辿り着いた。
ここで冒険者達は二手に分かれ、一部が魔導院内部の調査へと向かう。
内部に潜入したのはクライスを筆頭としてベルク、ルチル、サフィラ、セリオス、ナタリアの六名。
フェアロスを含む残りの面々は本格式凝黒装置と幽界樹対策調査隊員達を護りつつ、潜入班の帰りを待つ運びとなった。
潜入班と待機組は互いに念の声で連絡を取り合うことにしているが、即時通信網構築用装置『龍逓架』が設置されている場所如何によっては、念の声が届かない可能性も十分にあり得る。その為、連絡が完全に途切れた場合はルチルの相棒たる栗鼠のラトとその分身が緊急連絡役として走ることとなった。
「前回、ガルメッツァでも調査を経験しているから、大丈夫だとは思うけど……」
崩れかけた石造りの建屋へと消えていく仲間達を見送りながら、アウレーリアは幾分渋い表情で屋根付近をそっと見上げた。
幽界分樹のものと思しき樹木の枝葉が、屋根を突き破って顔を覗かせている様にも見える。が、それが本当に幽界分樹の一部なのかは分からない。もともとこのテムドブルク自体が樹々の多い街並みであり、幽界分樹に見えるその部分も、実は元々から棲息していた樹木の一部であるかも知れないのだ。
何とも奇妙な感覚に陥る時間帯だったが、待機組が潜入班の帰りを待つ間も、草人の群れが時折現れ、攻撃を仕掛けてくることがあった。
その都度、コルネリウスがルアンナと共に少し離れた位置へと敵を誘い出し、なるべく幽界樹対策調査隊員達から距離を取ったところで戦闘に突入することにしていた。
ところが何度目かの戦闘を終えたところで、コルネリウスは奇妙なことに気付いた。
「この地面……何か、大きな戦闘があった様な形跡が見受けられますね」
「あら、本当ですね。結構な人数が争った様な……」
旧帝国魔導院の建物近くで戦っていたのでは、絶対に気付くことが無かった事実である。コルネリウスとルアンナは荷馬車のもとへ急ぎ引き返し、フェアロスにその旨を伝えた。
「少し、気になりますね。コルネ、案内して貰えますか」
幽界樹対策調査隊員達の護衛を一時的にアルベルトとアウレーリア、グレイブの三人に任せつつ、フェアロスはコルネリウス、ルアンナと共に件の辻へと向かった。
舗装されていない地面であったが為に、戦闘の痕跡は実にはっきりと、そして色濃く残されている。フェアロスは地面にしゃがみ込み、無数の足跡をじっと凝視した。
「敵は、人間ではなかったのかも知れません」
フェアロスが見たところ、襲い掛かってきた相手はオーガかトロールサイズの怪物で、しかも一体だけではなさそうだとの見解を示した。対する人間側は百数十名。恐らく、このテムドブルクに常駐していた防衛戦力がほぼ全員、迎撃に廻ったものと見られる。
「この破壊の痕跡から見ると、戦いは、幽界分樹が出現する直前に発生した様ですね」
ルアンナが、ぐるりと周囲を見渡しながら呟く。
戦いの痕跡は、破壊の衝撃が生々しい半壊の建物だけではない。そこら中に散らばっている白骨、折れた剣や割れた盾、砕けた鎧の残骸など、よくよく見てみれば至る所に戦闘の痕が見受けられる。
一体ここで、何があったというのだろう。
そして同様の疑問は、旧帝国魔導院テムドブルク支部内へと潜入していった潜入班の前にも出現していた。彼らは異様な程の破壊の波が屋内のそこかしこに残されていることに、違和感を覚えていたのである。
途中、何度か草人と遭遇しかけたが、ルチルとセリオスによる細心の回避移動で戦闘を避けることが出来た。が、彼らが見た草人はいずれも損傷が激しく、頭部が半分以上失われていたり、胸元が大きく抉られている者が居たりなど、明らかに何らかの激しい戦闘によって死亡した者に種付きクリーパーが寄生したと思しき痕跡が幾つも目に付いた。
「妙だな。エスタルの草人とは随分、様子が異なる」
「……だね。損傷の激しい遺体に無理矢理寄生している様に思える」
セリオスとルチルは訝しげに首を傾げながら、それでも何とか地下の最深部にまでクライス達を先導した。
そして、そこでも奇妙な光景が出現した。
龍逓架設置場所の龍脈接続地点は巨大な地下広間だったのだが、どういう訳か、そこにも激しい戦闘の痕が見られたのである。
幽界分樹出現ポイントが龍逓架設置場所と重なっていたことは確認出来たのだが、この戦闘の痕は一体、何を意味するのだろうか。
●思いがけぬ展開
やがて、潜入調査班は地上へと引き返した。ルチルとセリオスが叩き出した回避経路と、ベルクの徹底した索敵で草人との戦闘は一度も発生しなかったのは流石というべきだった。
その一方で、草人の配置は冒険者達の予測を少々、裏切っていた。どの草人も龍脈の位置とは無縁に徘徊していたし、幽界分樹が近いからといって特段その数が増えたり、幾重にも防御を敷いている訳でもなかった。
「結局、幽界樹が自身の思考で龍脈接続点に分樹を張ったかどうかは、分からなかったね」
「そんな高度な話ではないだろう。幽界樹も所詮はクリーパー、人間の様に複雑な思考が出来る訳ではない」
幾分拍子抜けした様子のルチルに、クライスは苦笑を返した。
一方、ナタリアも幽界分樹と種付きクリーパーの徘徊位置や出現数で幽界分樹接近の手応えを得られるかと考察を進めていたが、こちらも空振りだった。
「ま、今回もこれまで同様、幽界分樹が龍逓架設置場所に現れていたという事実が掴めただけでも、良しとするべきだろうな」
ナタリアのこの結論には、ベルクも素直に頷き返す。兎に角この調査は、クライスの推測が正しいことが立証されればそれで良いのであり、それ以外の推測や予測は今後の情報次第ということになる。イダ・バルダスの思惑は確かに気になるが、現時点では流石にそこまでは分からないだろう。
ともあれ、龍逓架設置場所と幽界分樹出現ポイントが重なっていた事実を確認した潜入班は、急ぎ地上へと引き返した。
ところが彼らが帰還してみると、グレイブとサフィラが思わぬ収穫を得ていた。
「にゃ! お帰り! こっちもちょっと、面白い話が聞けたよ!」
いつもの陽気な笑顔で出迎えるサフィラに、ベルクは何事かと小首を傾げた。
どうやらグレイブが得意の話術で幽界樹対策調査隊員達と会話を弾ませていたところ、メンバーのひとりが北部鎮守都市オルセンの龍逓架設置場所を思い出した、というのである。
確かに、かの都市にも幽界分樹は出現したが、その個体は謎の女傑クーネが討伐し、町全体の壊滅を免れている。
クライスもオルセンについては近いうちに調査に行く必要性を感じていたらしいが、グレイブがこの場で早々に情報を引き出す(思い出させる)ことに成功していた。
「そちらは、どうだったのですか?」
逆にグレイブは、潜入班の成果に興味を示した。既に念の声による連絡で一定の成果は得られたとの情報を得ていたものの、屋内で激しい戦闘の痕跡がそこかしこに見られたというのは、想定外の発見だった。
そしてグレイブが、コルネリウスが発見した大規模な戦闘の痕跡の旨を告げると、クライスは腕を組み、黙って考え込んでしまった。
「幽界分樹出現の直前に、何者かがここに攻め込んできて、結構な規模の戦闘が発生していたのか」
「しかし、それならどこかに記録が残っているかもな」
そこに、何度目かの草人との戦闘を終えたアルベルトが帰ってきた。彼は騎士ではあるが、冒険者でもある。もしも何らかの大きな戦闘があったのなら、冒険者ギルドに誰かが駆けこんでいたのではないかとの推測を示した。
「にゃ! そういうことなら、あたしが見に行ってくるね!」
「ひとりじゃ危ない。我も一緒に行こう」
サフィラが元気良く飛び出そうとしたところで、ベルクが名乗りを上げた。が、ふたりだけでも然程に危険度は変わらないということで、結局セリオスも同行することとなった。
そうして三人が、見取り図を頼りに冒険者ギルドへと走っていった。
この三人が帰ってくるまでの間に更に一度、草人の襲撃があったのだが、コルネリウス、アルベルトを主力とする前衛組に加えてルアンナ、アウレーリアの魔法火力、ルチルの遠隔攻撃、ナタリアとグレイブの治癒補助といった十分過ぎる戦力で、事無きを得た。
やがて、三人が帰ってきたところで奇妙な情報がもたらされた。
「ビッグ・デッド・ママ……確かに、そう書いてあったのか?」
「聞いたことがあるのか?」
渋い表情を浮かべるクライスに、セリオスが問い返した。
冒険者ギルド内に残されていた依頼票に、その奇妙な名が記されていることに気付いたのはベルクだった。誰かが緊急迎撃依頼を持ち込んだらしいのだが、その迎撃対象がビッグ・デッド・ママという名の化け物だったということが推測される。
クライスは、その名を持つ化け物を知っていると答えた。
●アバランチレディース、そしてルグランブラード
シルトラース帝国崩壊前、ある死霊術師が帝国内に出現した。
名を、ザーティ・アンドロポフという。記録にはほとんど残されていないが、メドゥの指先に所属する死霊術師だという話だ。
ザーティは六体の雌オーガゾンビを率いていた。この雌オーガゾンビをアバランチレディースと呼んでいたとの由。そのアバランチレディースに属するひと際大きな体格の雌オーガゾンビが、ビッグ・デッド・ママと命名されていたらしい。
残る五体のうち、一体はオーント・スイサイド、そして四体はウォーガールズ(ガールアルファ、ガールベータ、ガールガンマ、ガールデルタ)との名称だという。
クライスはこのアバランチレディースと過去に一度、帝国内の辺境で遭遇したことがあった。
「六体の雌オーガゾンビ……成程、あの足跡の数と合致しますね」
フェアロスも納得した様子で頷いた。コルネリウスが発見した古い戦闘現場には、アバランチレディースが暴風の如く破壊の限りを尽くしたと思われる痕跡が、生々しく残されていた。
「支部内の戦闘の痕も、アバランチレディースが残したものじゃないのかい?」
ここでルチルが記憶を辿りながら、意見を加えてきた。
そういわれてみれば、とベルクとナタリアも合点のいった様子で頷いた。確かにあの破壊の規模は、数体のオーガサイズの化け物が暴れたとなれば納得もいくだろう。
だがここで、一同の頭の中にひとつの疑問が湧き起こった。
ザーティとアバランチレディースは、何を目的としてテムドブルクを攻撃したのか、だ。
それも幽界分樹出現の直前という、極めて微妙なタイミングで。
「ガルメッツァには、アバランチレディースが現れた痕跡は無かったんだな?」
ナタリアからの問いかけに、アウレーリアは一瞬考え込んだ。が、幾ら思い起こしてみても、ガルメッツァに今回の様な戦闘の痕跡は無かった様に思える。
それはクライスとフェアロスも同様で、コルネリウス、ルアンナにしても矢張りその様な記憶は無かった。
「態々、地下にまで侵入したということは……奴らの狙いも、龍逓架だったのか?」
セリオスの疑念に、一同は顔を見合わせた。
メドゥの指先に所属する死霊術師が、龍逓架を破壊しようとしたというのだろうか。
仮にそうだとして、一体何を目的としての行動なのだろう。
「分からない……が、今やるべきことはまず、ここから離脱することだな」
クライスが、再び現れつつある草人の群れに視線を投じた。確かに、最早ここに長居する理由は無い。
一同は早々に離脱準備へと入った。
それから、数日後。
一旦幽界樹対策調査隊をカルケルーア・ロモズへと引き返させた後、クライスはフェアロスとグレイブ、そして地元が近いということでベルクの合計三名を伴い、今回の調査依頼の延長ということでビッグオウムを使わせて貰ってオルセンへと飛んだ。
そこで四人は帝国魔導院オルセン支部へと足を運び、幽界分樹が出現した位置を確かめてきた。
ところが、そこで思わぬ情報が四人に衝撃を与えた。
オルセンから西へ数日行ったところに、ルグランブラードと呼ばれる町がある。そこにも帝国魔導院の支部が置かれており、当然ながら龍逓架も設置されていた。
しかしながら、このルグランブラードには幽界分樹は出現しなかったという噂が飛び込んできていた。
クライスとフェアロスにとっては、まさに衝撃の情報だった。
龍逓架が幽界分樹を呼び寄せるキーとなっているという推測がほぼ固まりかけていたところへ、この想定外の情報である。驚くなという方が無理であろう。
ただ単に龍逓架が設置されているというだけでは、幽界分樹は出現しないのか。更に別の、クライスですら知り得ない特殊な条件が必要だというのだろうか。
オルセンからカルケルーア・ロモズへ引き返してきたクライスは、今まで以上に言葉少なに考え込み、フェアロスですら中々声をかけづらい状況に陥っていた。
「父さん……次に向かう場所は、もう決まったのですね?」
「ルグランブラード、ですね。あそこを調べないことには、次へ進めないでしょう」
雪が降り積もるカルケルーア・ロモズの集落玄関口で出迎えたコルネリウスに、フェアロスは何ともいえぬ表情を返した。
そして、ルグランブラードでの調査には幽界樹対策調査隊の投入は不要となる筈だ。何故ならば、幽界分樹が出現しなかったということであれば、黒い霧も発生していないことになるからだ。
かの地で、一体何が待ち受けているというのか。
現時点では、誰にも予測がつかなかった。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:多い10 / 6〜10人
2023年02月19日 03時42分23秒 公開
参加者
相談掲示板
ヒーラー、グレイブ・ヤードです。 とりあえずは護衛と探索と2手に分かれる感じでしょうか?
ウォーリアのアルベルト・V・シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺は護衛を務める予定だぜ。
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 今回は、術師10名を護りながらになりますし護衛はしっかりと組んでいきたいです。 前回のクリーパーは序盤から連携を取ってきた事と、ジャマーは効果がありませんでしたので、それを踏まえて対処したほうが良いですね。 あとは街中は舗装されていないようですから、足場が悪い可能性もあるので注意したいところでしょうか。 索敵と護衛とに分かれるのは私も賛成ですし、私は護衛班へ回りたいと思います。
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 我は前回に続き今回も調査に回ろうと思う。
情報屋のルチルだ、よろしく。 まだまだ情報が少ないようだね…一先ず自分も調査側だな。
キャスターのルアンナです、今回もよろしくお願いします! 私は護衛ですねー。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 私は地質学をそれなりに究めているから調査を表明するが、ヒーラーは護衛においても貴重だからそっちに移る事も構わない。 それで、今の所表明しているのは。 ◆調査 ベルク、ルチル、ナタリア ◆護衛 コルネリウス、アルベルト、ルアンナ
にゃ!シーフのサフィラだよっ! みんなよろしくねっ! んと、索敵は調査側でいいのかなっ? そしたらあたしは双波と看破持ってって 調査チームに加わろうかなっ! ◆調査 ベルク、ルチル、ナタリア、サフィラ ◆護衛 コルネリウス、アルベルト、ルアンナ
キャスター、アウレーリアです。宜しく。 私も前回に引き続き、護衛を担当させていただきますね。 ◆調査 ベルク、ルチル、ナタリア、サフィラ ◆護衛 コルネリウス、アルベルト、ルアンナ、アウレーリア
では私は護衛側を。 話術などで操作担当の方の心理的な負担も少しは解消してみようかとは思います。 ◆調査 ベルク、ルチル、ナタリア、サフィラ ◆護衛 コルネリウス、アルベルト、ルアンナ、アウレーリア、グレイブ
・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む 人数配分的に俺は調査のほうがよさそうだな とりあえず孤高者の宗波やホークアイなどを持っていくつもりだ ◆調査 ベルク、ルチル、ナタリア、サフィラ、セリオス ◆護衛 コルネリウス、アルベルト、ルアンナ、アウレーリア、グレイブ
さて、概ね班分けが進んで来たが調査部隊はどう動こうかね。 調査の目はなるべく広げた方がいいが、接敵の危険あるとすれば分散からの孤立は避けたい。 シーフは手分けして動いていて何かあったらすぐに合流、それ以外はまとまって動く事にするかね?
ふむ、それだとシーフ組は持ているならテレパスをもって動くのが得策か? テレパスの距離程度でも警戒網を作るには十分だろうし。
脇からとなりますが 調査も以前の地図などありましたらある程度個所の要点とか絞れませんかね? 例えば前に幽界分樹や草人を退治した個所はどうなっているかとか、比較などで情報は集められるのかなと。 >自身の行動について 周囲の観測とヒーラー(癒し手)としての役割に専念しますよ。 多少の無理は通しますが、捜査術師の護衛、防衛が主軸となります。
出発ギリギリの時間帯になってしまうが。 孤立して叩かれるというリスクも最悪の可能性というなら、接敵は極力避けて調査に専念するにおいて閃光塗弾を持てるだけ持ち込むほか、1発限りだが光縛封でバリケード設置という風にも動くつもりだ。 後は地質学で判明した手掛かりは、逐一テレパスで伝達もしてみる。
私も術師の護衛を優先する形で行動します。 私もテレパスを持ちますので、情報共有出来るように記載しているのと、父さんへの補助の打診なども私からお願いするようにしてみますね。
テレパスの使用に異論はないが、念の為使用にメインアクションを消費する事に気をつけて欲しいと忠告しておくよ。 ナタリアがテレパスを用意してくれるそうだから、通信役は任せてしまっていいだろうか? その分索敵や偵察の仕事はするとも。 龍脈と幽界樹の分布には関連があるという情報は出ているから、指針となるよう予めクライスに聞いておくつもりではある。 グレイブが気にしてるのがそういう事なら、まあ心配はいらないかと。
ああ、調査はなるべく戦闘を避けていく方針で賛成だとも。 こちらは物理的な封鎖は取れないからとりあえず閃光塗弾やらで、戦うにしても必要以外はやり過ごすための戦闘にするつもりさ。
えぇ、まあ 黒い霧の中の調査とはありますがこの中を文字通り闇雲にというのは難しそうと思いまして。 気にしなくてよかったかもしれませんけどね