【学行】少年は編入試験に向けてがんばる!

白葉うづき

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シナリオID:2760

オープニング

●始まる、一歩
「メルチス神父。大切な、お話があります」
「何でしょうか、アルド」

 グナーデ教会、子どもたちが寝静まった後。アルド――アルド・シャウアーは真剣な表情でメルチス・アダラードの私室を訪ねた。

「僕、ずっと迷っていました。帝国出身で、家族とはぐれた孤児で、僕がこうして生きていられるのは、教会や街の人たち、神父や教会の皆、冒険者の方たちのおかげなんです。施しを受けるばかりの僕が、これ以上何かを願ってもいいのか。教会の皆を置いていっても大丈夫なのか。踏み出せたとしても、何も知らない、ハーフビーストの僕が未知の学園でやっていけるのか。たくさんたくさん考えました」
「はい。……答えは、出ましたか?」

 メルチスはただ優しく微笑み、言葉を待つ。

「僕は、学園に行きたいです。この力(授恵者)を、どう生かすかずっと悩んでたんだ。もっと勉強して皆の役に立てるようになりたい。恩返しもしたい。たくさんの人に会って、世界を知って、その上で僕が何を出来るか探したい。皆とも話して、ちゃんとお金も稼ぎます。だから、神父」
「はい」
「僕が学園を目指すことを、許してください。僕が一人で出来ないことを、手伝ってください」

 震えた声ですべてを言い切る。返ってくる反応が怖くて、でも勇気を出して見上げると――神父はただ優しく、そして嬉しそうに微笑んでいた。

「ありがとう、アルド。ああ、どうしましょう、本当に嬉しい。貴方が自分の願いを口に出せるようになったことが、こんなにも嬉しいんです。もちろん応援します。応援させてください」

 抱きしめながら聞く神父の言葉は、アルドの言ったすべてを受け入れていて、思わず涙ぐんだ。体温がとても心地よくて、抱き返しながら瞳を閉じる。
 けれどすぐに、その瞳を開くことになった。

「それではまず何をしましょうか。ええと、入学のための編入試験の勉強ですよね。それに貴族の推薦……は、今どうなのでしたっけ。ヘルツェン(領主貴族)も協力をお願いできるとは思いますが、フェリクスが冒険者なら今はいらないと話していたような、はっ! なら冒険者登録からでしょうか! アルドが冒険者に……! そ、それなら戦いもするのですよね、私が教えられればいいのですが生憎治療しか、ああ、どうしましょう!」

 アルドを置いてけぼりにし、メルチスはアルドのことを考えては忙しく表情を変える。その様子がなんだかおかしくて、嬉しくて、アルドも表情を柔らかくした。

「あ、あの、神父……僕、ひとりで出来ることは、やってみます」
「あ……す、すみません、先走って……けれど何でも力になるので、言ってください」
「それならひとつだけ、お願いがあって――」

●学園を目指す勉強会!
 王都に古くから存在する名門校。パンクリアース学園は大陸で最大の教育機関であり、貴族や豪商からの資金協力から成り立っている。貴族のための人材を生み出す場だった学園はここ数年でその有様を大きく変え、平民にもその門戸を開きつつあった。そのひとつとして、冒険者ギルドに所属する「冒険者」に限って貴族の推薦が無い状態で受験が、去年度の編入試験から認められている。制度を知ったアルドは、それを目標に選んだ。

「推薦状を出せるって言われたけど、いつまでもお世話になっていてばかりでは、僕自身も成長できないから。それに、冒険者をしながら学園に通う方のお話も聞きました。僕もそれを目指したいんです。もちろん今のままじゃまだまだ、僕に足りないことはたくさんあります。えと……自信がないんじゃなくて、実力が追いついていないから」

 しっかり者に見える半獣人の少年は、こう見えてもまだ12歳だ。それでも自分に出来ることをしたいと、真っ直ぐ冒険者たちの目を見て話していく。

「今日、皆さんにお願いしたいのは、僕の勉強を……て、手伝っていただけたら、って。一緒に勉強したり、学園生活のお話をしてくれるのも嬉しい、です。苦手な科目とか、戦いも僕はしていかなきゃいけない、から……こ、こんなことお願いするのも、も、申し訳ない気持ちもするけど、お、お願いします!」

 勢いよく頭を下げた少年の、丸まった尻尾はぷるぷると震えていた。

解説

●目標  アルドの勉強をサポートする  (アルドの勉強が進まない場合、失敗となります) ●できること ・一緒に入学を目指して勉強 ・勉強を教えてあげる ・勉強とは別方面からサポートしてあげる ・他、教えたいことを教える ●教えてあげると有効になりそうなこと ・試験のための勉強(学力UP) ・簡単な戦闘指南、入学後の実技やマナーの指導(自信UP) ・王都や学園生活、冒険者をしながら通う話(落ち着き度UP) ●編入試験  超難関として知られる試験。内容は政治、経済、文学、魔法、そして修辞学の理解が必要な論文試験、及び算術、数学、語学の記述試験がある。アルドは三月に行われる編入試験を目指している。  難易度は非常に高く、重箱の隅をつつくかのような問題も多くみられる。 ●NPC ・アルド・シャウアー  パンクリアース学園を目指す半獣人の授恵者。暗記や計算科目、文学が得意だが、政治経済や魔法は関わってこなかった知識のため、どう手を付けていいか悩んでいる。素直な性格が災いしてか引っ掛け問題も不得意。戦闘経験はほぼ無し。 ・メルチス・アダラード  グナーデ教会の神父。そわそわ見守っている。手が必要なら協力を惜しまない。 ●備考 ・スポンジのように知識を吸収し、教えること次第でアルドはどのようにも成長します。少年がどういう未来を辿っていくのか、冒険者たちの手にもかかっています。 ・冒頭「●始まる、一歩」のやり取りはメルチスから聞くことが出来ます。 ・「学園生である」という描写が欲しい場合、学園生だという旨が記載された公認設定が必要になります。

マスターより

お世話になっております。白葉うづきです。 十二歳少年の未来を決めるシリーズ【学行】を始めます! 全五回程度を予定しています。 現在のアルドは学園に行きたいと願い、その勉強やサポートを欲しています。応えてあげれば夢へと近付くでしょう。もし他の未来を提示する場合、彼は並々ならぬ決意と覚悟を持って学園に挑んでいるため、滅多なことでは他の道を考えません。 何かご質問・雑談があればアルド、メルチスが掲示板にてお答えします (出発間際だとお返事が間に合わない可能性があります)。 ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。 皆さんのアニエピカライフが素敵なものになりますように!

リプレイ

●朝の時間:顔合わせ
「初めまして。俺も何か力になれたらいいのだけど」
「アルドです。こちらこそ、その、よろしくお願いし、ます!」
 緊張でがちがちの少年、アルド・シャウアーに目を瞬かせた後、ヨル・スレイマンは気遣わし気に肩を叩いてやる。びんと尻尾が立った。
「一年生のセラフィナです。アルドさんが入学したら少しだけ先輩になりますね」
「アルドです! よろしく……」
「どうしましたか?」
 にっこり微笑むセラフィナ・M・ベイリーに、おずおずとアルドが告げる。
「お姉さん、体調は平気ですか……? 顔色が悪いな、って」
 セラフィナの(ゾンビっぽい)見た目で怖がられると思ったが平気らしい。彼の世話焼き心が上回ったようだ。
「まずは、余計な力を抜いてあげなくてはいけないかな」
 呟くジュスト・ヴェルジーの横を通り、少年に歩み寄ったローザリカ・L・ディオールは膝を曲げ、目線を合わせて話す。
「五年のローザリカ・L・ディオール。今期の生徒会で会計を担ってもいる。少しでも君の力になれたら嬉しく思う、よろしく頼もう」
 こちらこそ、とアルドは笑顔を浮かべる。努めて柔らかく微笑み、ゆっくりと喋ったことで安心したようだ。
「せいとかい……コルネリウスお姉さんもしてたって」
「はい。生徒だけで作る、学校をより良くするための集まりですよ」
 向けられた視線にコルネリウス・アーラも微笑んだ。
「こっちのジュストも一員なんだ」
「ジュスト・ヴェルジー。学習意欲旺盛な生徒が入学してくれるのは在校生としても嬉しい限りだ。俺も出来る範囲でお手伝いしよう」
「知ってるよ、皆から選ばれた、すごい人……です」
 また緊張してしまった。コルネリウスとカイン・ステラは何となく察する。少年にとって冒険者たちは尊敬する人であり、ましてや目標でもある学園生が大勢協力してくれたことで、予想外の嬉しさと申し訳なさが混ざっているらしい。ナタリア・フィッツジェラルドがふむ、と頷く。
「私からの経験則といえば、帝国の従軍治癒士……もとい、学術機関として学んだ末に学者を兼任するようになった時の話になる」
「帝国の、学者さん」
「ああ、ただ学んだ内容はあくまで、帝国という領分内での話であり、王国のそれとは勝手が違うと予測される。ゆえに、シャウアーと共に学ぶ過程で新たな発見が得られるという事は、私自身の理論や理念を固めていくがうえの新たな刺激になる」
「ええと……」
「つまりは、だ。君と学ぶことは、私にとっても大きな学びとなるだろう。お互い、心を育んでいこうじゃないか」
「僕との勉強が、学びに」
「気後れするより、少しでもたくさん吸収しましょう」
「潰れない程度にな」
 ゲルダ・クライン、カインが続き、コルネリウスも言葉を掛ける。
「アルドくんが学園に入学したら、やりたい事はありますか? 私はアルドくんとも一緒にお勉強したり、やりたい事を見つけたり、そのお手伝いも出来たら嬉しいです」
「……そっか。僕、入学してからの具体的な目標、わかってない」
「皆もそれぞれお話してくれます。今から探しながら、少し先の明るいイメージを描いて頑張りましょう」
「うん! 皆さん、改めて、よろしくお願いします!」
 揺れていた尻尾が、ぴたりと止まった。

●一時限目:算術、数学・経済、平民マナー、修辞学
「まずはどこまで出来るか見てみましょう! テストとかあります?」
「あ、お古で貰った参考書に」
「誰か学園関係者が?」
「神父のお友達が先生で、妹さんも学園生で、その縁です」
「俺もやっていいか?」
「もちろんですよ!」
「カイン兄ちゃんもやってくれるの!」
 試験を受けるかはわからないが一緒に勉強を、というカインにアルドは嬉しそうに隣の席を空ける。そうして実際のテスト形式を真似て問題を解いてみた。採点してみると、確かに基本的な数式や使い方はわかっているようだ。
「素晴らしい」
「ただやはり、応用とひっかけ問題が課題になりそうですね」
 同じく算術・数学を教えようとしていたコルネリウスが覗き込む。
「この問題自体も少し古いですしね。そこさえ考え方を身に付ければ、確実に点が採れそうです」
「頑張りましょうね、アルドくん」
「はい!」
 比較的得意ということ、先生が二人いることで、少年は次から次へと問題を解き正解を導き出していく。親身となって教えたことも集中と落ち着きに拍車をかけていた。
「セラフィナお姉さん、コルネリウスお姉さん。こういう時はこの考え方でいいのかな」
「それでも解けますがこの数式を使った方がいいですよ。今はこっちがメジャーです」
「この数式の方がわかりやすいですよね」
「そっか……!」
 セラフィナもコルネリウスも学園生であり、セラフィナに至っては去年入学を果たした一年生だ。最新の試験、最新の授業については知識も慣れもある。
「出来たよ!」
「どれどれ……ふむふむ、すごいですね、良い調子です。それでは次は私とコルネリウスさんでチョイスした問題を解いてみましょうか」
「さっきよりも少し難しいですよ」
「学園のテストではいやらしい言い方をしてくるものもあります。どれがどういう問題なのか、よく考えて解いていきましょう。アルドさんの今の実力なら出来るはずですよ」
「はい!」
 ペンを進める少年は、注意深くなっている分速度が遅くなっている。焦りから落ち着きを失くす様子に、セラフィナは声を掛けた。
「落ち着いて向き合えば、きちんと求められているものが分かるはずですよ。答えはいつも1つしかありませんから」
「! うん、頑張る……!」
 何度も問題を解いていく内に少年は少しずつ成長していった。間違いは確かにあるが、考え方の方向は問題ない。カインが感嘆する。
「すげーなアルド!」
「えへへ……そう、かな。セラフィナお姉さんに教えてもらうと、不思議」
「不思議ですか?」
「どんな問題でも、僕だって頑張れば出来るんだって思えたんだ」
 達成感に満ちた少年が、嬉しそうに笑いかけた。

「異種族、特にハーフビーストという種族が王国貴族の方々にどんな目で見られるか、知っているでしょうか」
 脅かすつもりも、諦めを促す気もない。けれど知っておいた方がいいことだと、ゲルダはあえてその話題を口にする。
「僕は……多分、知っています。この街もね、ええと……前に、ヒューマン以外はあんまり偉くない、っていう大きな教会があって」
 その教会が起こした騒動で攫われたこともあったらしい。その時冒険者に助けてもらい、深く感謝しているともゲルダは聞いた。悲しそうに、それでも少年は笑う。
「僕以外の孤児もヒューマンでない子ばかりなんだ。突然怒られたり、石を投げられたり……そんなの一部の人だけど」
「そうだったんですね……学園を目指す上で忘れないでほしいのは、元々の『貴族のための学園』という側面が強く残っていることです。アルド様が出会った一部の人は、もしかしたら学園の方がその割合が多いかもしれません」
 真剣に聞く少年に、ゲルダは少し声音を和らげる。
「今は変革の波があります。多文化クラスの創設など、よりよい学園を目指して頑張っている方も大勢います」
「そっか……僕たちだけが悩んでいる問題じゃないのは、すごくすごく、……嬉しいね。ありがとう、ゲルダお姉さん」
「では、勉強に移りましょうか。わたしが教えるのは経済と、平民側の観点から気を配った方が良いマナーです」
「はい!」
 仕組みから理解できるよう、丁寧に解説していく。ゲルダの言葉を真正面から受け止め、質問を重ねてもしっかりと答えていく少年は、多少の荒波なら耐えられそうに思えた。

「俺が担当するのはアルド君が苦手な政治学だ。あとは魔法や礼儀作法についても教えられる。まず土台となる基礎的な知識から身につけよう」
「は、はい!」
「……俺みたいな貴族の生徒と話すのは初めてかな?」
 先程の授業よりもあからさまに緊張しているのが見て取れた。ジュストの問いに、アルドはおずおずと答える。
「ジュスト……さんが、すごく、その、ええと……」
「何だろう」
「か……」
「うん」
「……っこ、よく、て……王子様、かなって……そう思ったらみ、見惚れて、ちゃって」
 ――どうやら、整った容姿や貴族然とする話し方にすっかり委縮しているらしい。ただ、ある程度想定していたことではあった。ジュストはアルドに近しい二人を手招く。
「カイン君、コルネリウス嬢。頼めるかい」
「なるほど、わかりました」
「アルド、少し体動かそうぜ。座ってばっかりで体固まったろ」
「え? う、うん」
 にこやかにジュストは見送る。もう少し体も心も解してもらった方がいいだろう。

●二時限目:実戦訓練
「戦闘は未経験だったね。今は勉強ばかりだろうから、気分転換のつもりで行こう」
 一旦座学を止め、三人の先生による戦闘指南が始まった。弓も扱うことから、教会の敷地内ではなく近くの広場で行っている。
「まず俺の構えを見ていてくれ」
「こ、こうですか?」
「もう少し角度を持たせようか……よし、いいぞ」
 ヨルは祭刀を持たせ、実際に振るったり、相手がいる想定で心構えを説いていった。『使える』という自信を持たせることは何よりも大事だ。
「なかなか筋がいいな」
「ヨルお兄さんの教え方、すごくわかりやすいから」
 飲み込みも早く、簡単な型と振るい方はすぐに覚えた。見たことをそのまま真似るのは得意ではなさそうだが、教えたことは忘れないようだ。
「獣に襲われた時に身を守るくらいはできて損はないだろう」
 いずれ必要になった時にと告げれば、嬉しそうに頷いた。具体的に大切な者が思い浮かんでいるのかもしれない。
「次は接近戦のお勉強をしましょうか!」
 ぱしん、と手に拳を打ち付けたコルネリウスが前に出る。教えるのは護身や武術。武器を持たない時や、身体の使い方も役に立つ基礎中の基礎だ。受け身、受け流し方、接近された時の対処。やはりと言っていいが身のこなしは鈍い。教えたことを忠実に守り、こなすだけの熱意は感じられた。
「上手です、私の背中も任せられそうですね」
「そうなれたら嬉しいな。お姉さんの戦う姿、本当に格好良いね……!」
「まだまだ、私の格好良さはそんなものじゃありませんよ!」
「わあ……!」
「俺から教えられるのはやっぱ、シューターとしての基本だ」
 カインの言葉に、少年が表情を引き締めた。コルネリウスも含め、お互い二年以上もの付き合いがある。誰よりも気安いからこそ、甘えてはいけないと感じていた。
「弓の構え方と矢の番え方。まずは弓だけ持って練習するぞ」
「俺も手伝おう」
 ヨルも一緒に、二人でアルドの姿勢や持ち方を見ていく。ある程度練習したところで実際に矢を撃ってみた。初めの矢は下に落ち、次は地面に突き刺さり、三本目は的代わりに置いた板の遥か右に飛んでいった。アルドはぷるぷると震える。
「これは」
「そうだな」
 ヨルとカインが頷き合う。
「筋力が足りねえ」
「!!!」
「なるほど。アルドくんのマッスル強化ですね」
「確かにある程度のマッスルは基本中の基本か」
「いい感じのマッスルになって貰わねえとな」
「まっする……」
 コルネリウスも話に入り、三人がそれぞれ筋トレの方法を出し合う。これを続けていけばアルドのマッスルもある程度鍛えられるだろう。
「筋トレも含め、全部自主練な。移動後にすぐ構えて撃つとか、実践的なやつは基本が出来るようになってから教える」
「はい!」
「あと、弓は射程がある分目的をもって撃つ必要がある」
 威力、命中精度、味方の支援。教えることは山ほどあるが、それも実戦あっての話。
「今日はその一歩だ。あと、必須じゃねえけど、相棒と戦えるのもシューターの特徴だな」
「兄ちゃんのファだね! この子も?」
「ああ、ランって言うんだ」
 カインの肩に乗っていた栗鼠が腕を伝って降り、挨拶のようにアルドを見つめる。エーテルリンクのメリット、デメリットを伝えた。
「あと、相棒と戦うなら、養うことも考える必要がある。相棒との出会いは縁もあるけど。……こいつ(ラン)との出会いは結構特」
 あ、とアルドが呟くと同時にランがカインの頬へ体当たりをした(どうやら聞かれたくない話らしい)。
「いてて……っと、じゃあこれ。貸してやるから、エーテルを通す練習もしようぜ」
「何かにエーテルを通したことは?」
 少年は、小さく頷く。
「弓。前に、その……神父が危なかった時に、神父の周りをもくもくって出来たんだ」
 それは目標位置に煙幕を張るスキル。あの時は無我夢中だったが、それから何度か試して出来るようになったらしい。渡したペンダントはすぐに淡い光を放った。
「アルド君は、パワーというよりは繊細なエーテルの扱いが得意なのかもしれないな」
「よし、それじゃあ撃ってみましょうか!」
「……え」
 ――コルネリウスの言葉に、一気に顔が強張った。
「私は防御が得意ですから、遠慮しなくて大丈夫ですよ。これでも実は私、学園最強の武闘派エルフで通っています、えっへん」
「で、でもお姉ちゃんに当たったら」
 思わず砕けた呼び名が本人の前で出てしまうほど動揺している。
「煙幕なら傷つけなくて済むぞ?」
「それなら、……大丈夫」
 少年は息を吐き、弓を構えた。エーテル矢が弧を描いて飛び、着弾点でコルネリウスを煙に包む。心配で駆け寄る少年に、課題がひとつ見えたようだ。

●三時限目:政治学、魔法、礼儀作法・修辞学
「それでは改めて。リーンエス王国の政治について学ぶことは、ひいては貴族社会、礼儀作法を学ぶということでもある。きっと君の役にも立つだろう」
「はい、先生!」
 先程とは打って変わった態度と表情。どうやら体を動かしてきたのはいい刺激だったとジュストは頷く。なお、カインは準備をしてくると席を外していた。
「学ぶべきことは多く、複雑なところも多い。一通り教えていくけど、遠慮なく質問して良いからね」
「わかりました!」
 少年が新しい知識に目を輝かせたり、戸惑ったりしながら授業は続いていく。ジュスト自身が教えることに慣れていたのもあり、想定していた学習範囲は大体網羅することが出来た。懐中時計を確認し、休憩を提案する。
「ジュストさんが先生だったら、いつも楽しく勉強できそう」
「それは嬉しいね。……俺のことは、まだ王子様かな」
「あ、えっと」
 ひとしきり恥ずかしがった後、アルドはそっと口にする。
「ジュスト、お兄さん」
「ふふ、ありがとう」

「頼もしい先生たちに色々と教わってきたことだろう。それでは、一風変わった紋章学などはいかがかな?」
「もんしょう?」
「ひと目でどこの家、どこの国など所属の分かるマーク、と言えばわかるだろうか。王国だと、剣を中央にした、白と青(碧寄り)の旗を見たことがあるかな」
「ある!」
 学園の在る王国の政治や歴史から貴族は切って切り離せない。貴族も家ごとに持つものであり、在学中家紋に関わるかもしれない、目にすることもあるだろうし、また試験に関係する可能性もある。知っておいていい知識だと、ローザリカは説明する。
「知識の引き出しを多くするのも、小難しい出題形式においても重要だ。意地の悪い問題に出くわした時、正解が絞れることも多い」
 紋章はその所属を象徴する意匠が使われていることが多い。正解への連想を可能とする知識の一つにもなるだろう。
「例えるなら……人物の2択で迷った時に、家紋の形状から爵位を思い出して判断材料にするだとか。名前だけでなく何をした人物なのか覚える時に紋の意匠が役に立つとか、そんな感じかな?」
「爵位、さっきジュストお兄さんの授業でも教わったよ。すごくわかりやすかった」
「そうか、そうか」
 婚約者の評判にうんうん頷き、引き続き紋章学を進めていく。魔法が関わる箇所は一際楽しそうに聞いていた。

「では、修辞学を始めよう」
「はい!」
「シャウアーはあまりこの学問に触れたことがなさそうだ。よって基本的なところから解説しよう」
 教壇代わりの机の前に立ち、説明を始める。ナタリアいわく、修辞学とは受け手を唸らせたり、関心・感動させるような理論の展開にあり、対象からの理解や納得を得る為のメソッドを究める学問のことだ。
「故に持論をどう展開していくか、聞き手読み手に伝わる伝え方をするか、シャウアーの感性やボキャブラリを築き上げていくことのは正しいというべきか、必然というべきか」
「ぼきゃぶらり……」
「語彙のことだ。我々と話すことでも成長できるだろう。他、我々の教導内容に思うところがあれば受け答えをし、自分の中での理念を固められるよう精進を……シャウアー? ついてきているだろうか」
「す、少し早くて、ごめんなさい。すごく知りたいことを話してくれているのは、分かるんだ」
 ナタリアの教えることをかみ砕き、自分の言葉への置き換えに苦戦しているらしい。それもまた少年の刺激になっていることが分かった。
「謝ることはない。そうだな……では、休憩を挟むことにしよう」
 その言葉に、待機していたセラフィナが顔を覗かせ、お茶に誘った。

●休憩時間
 食堂にはお菓子と紅茶が並んでいた。神父(メルチス・アダラード)が居るところを見ると、彼も手伝って用意したようだ。アルドは瞳を輝かせた後、途端にそわそわし出す。
「ねえ、皆もお茶にしているかな」
「あいつらにもコーディアル(オレンジとレモンジンジャーをシロップに浸けた飲み物)を淹れたし、菓子も食べてる。任せとけ」
「ありがとう!」
 少年は他の子どもたちを気にしていたらしい。ただカインの目から見て、彼らに元気がないように見えたのは気になったが。
「ジュストさんがティーセットも持ってきてくれたんです。学園にも貴族のお茶会はありますが、一度こういう茶器で飲んだり経験しておけば焦りませんよ」
「教えたことを思い出して、焦らずにこなしたらいい」
「こういう場は開き直って堂々とすることも有効だよ」
 ジュストの話す学園生活に耳を傾け、優美なティーセットに目を白黒させたり、苦戦しながら、けれど楽しそうにアルドはお茶を楽しむ。それを見てセラフィナは頷いた。いい想い出があれば、きっと後々少年の力になるだろう。
 続けてローザリカが話すのは、部活動や自身の公約の話だ。
「部活動が活発でね、僕は生徒会選挙の公約で部活動主体イベントの開催を掲げてもいる」
「それって、どんな?」
 アルドに説明すると、未知の催しに目を輝かせた。
「知識を深めるだけでなく貴重な経験や掛け替えのない友など得難いものに出会える場だと思う。勉強だけが学びではない」
「!! そうなんだ……友達。僕に」
 それは少年が初めて知った価値観だ。考えるアルドに、ローザリカは柔らかい眼差しを向ける。
「出会う者も様々いる。君がいろんなことを経験できるよう願っているよ」
「ありがとう、ローザリカお姉さん。僕ね、もっと楽しみになった」
「志を同じにする方を見つけるのは、とても大切なことだと私も思います」
「ゲルダお姉さんも?」
「ええ。特に冒険者にとって大切なことは、……ひとりで抱え込まないこと、だと思いますから」
 冒険者は万能ではない。自分の出来ることの把握も必要だし、一人では難しいことも、周囲に助けを求めることが出来れば補い合える。少年も深く頷いた。
「味方と支え合うからこそ、大きな敵にだって立ち向かえるんです」
「うん。忘れない。甘えるんじゃなくて、僕も助け合いたい」
 いつかお姉さんたちに恩返ししたいと、少年は微笑む。
 コルネリウスは役員経験も含め、学内の改革活動など学園で起こっていることを話していく。
「クラブ活動だと、政治討論部やガーデニング愛好会の活動を頑張っています。最近、新聞部を立ち上げたんですよ。種族や生まれにとらわれず、自分らしく過ごせるようにと日々私も頑張っています」
「しんぶん?」
 説明すると、興味を持ってうんうん頷いていた。
「いつかお姉さんの新聞、読んでみたいな」
「ふふ、それは私も楽しみです」

「俺も、君と同じ孤児だったんだ」
「!!」
 驚く少年に、ヨルは言葉を重ねていく。無教養から勉強をして去年学園に入ったこと、多文化クラスには多種族がいること。体験談を交え、少しでも彼の自信に繋がるように。
「数年前は読み書きも覚束なくてね! でも、俺も友人の役に立ちたかったから。学んで良かったと思う。剣だけができる人間は、剣でできることしかできない」
「お兄さん、すごくかっこいい。もっとお話を聞かせて」
 そう言って、少年は眩しそうにヨルを見た。

●四時限目、終わりの会:おさらい、これから
 中断していた修辞学を終え、ナタリアからはさらに効率的な有用資料の探索法、コルネリウスからは文学を教わった。一通り終えたところで、ナタリアとヨルが学園の参考書を手にやってくる。
「スレイマンが引っ掛け問題をパターン化してくれた。私と、他の皆も協力してテストも作ったよ」
「含みがある文言にはある程度パターンがある。剣の型と同じだ。頭に入れておくだけでも違うはずだよ」
 ヨルに教わり、その確認として問題を解き、ナタリアも加わって解説する。初めに教わった算術・数学だけでなく幅広い範囲の問題を解いていった。暗くなり始めるとランプを付け――やがて日が暮れたところで、今日はお開きとなる。

「お姉さん、お兄さん、今日はたくさんありがとう」
 少年はまだ早い時間ながらうつらうつらしており、すっかり疲れ果てていた。セラフィナ、ゲルダ、ナタリアと握手をし、カインとは拳を軽くぶつける。
「私からもお礼を申し上げます」
「アルドくんもメルチスさんもお疲れ様でした。……安心して気を抜ける場所を作る事、今もこれからも貴方だから出来る事だと思っています」
「はい。これからもそうありたいと努力していきます」
 柔らかく笑う神父は、コルネリウスを見つめていた。
「生徒会は生徒たちの相談窓口のようなものだ。気軽に訪ねてほしいな」
「いつでも待っているよ」
 ジュスト、ローザリカの後、ヨルがしゃがんで目線を合わせる。
「俺が剣を持ったのが君と同い年くらいの頃だ。だから、というわけじゃないけど。君の決意がいい未来に繋がることを祈ってるよ。手を出してほしい」
 取り出したミサンガを、少年の小さな手に乗せた。
「頑張ったら最後の最後は神頼みになる。大丈夫、神はちゃんと見ているからね」
「うん! 僕、頑張るよ。皆に教わったこと、忘れない」
 少年は去っていく冒険者に思いきり手を振る。ミサンガを結んだ手で、見えなくなるまでずっと。

マスターコメント

お疲れ様でした! アルドの勉強は全体的に捗り、戦闘面は課題が見えました。 皆さんに教わったことを胸に、勉強に励んでいきます。特に学力と自信がアップしました。 筋力パラメータも出現しました。こちらも今後に関わってくるかと思います。 MVPは最もアルドに勇気をくれた方、教え方に工夫があり少年を慮っていただいた方へ。 加えて、アルドは皆さんから貰った言葉も大切にしていきます。 ご参加いただきありがとうございました!
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜10人

2023年02月06日 10時51分01秒 公開

成功

相談掲示板

  1. アルド・シャウアー

    こ、こんにちは! 今日は、僕の依頼に集まっていただき、ありがとう、ございます。 無茶を、言っているのは、わかっている、けど……どうか、その。力を貸していただければ、嬉しい、です。 何でもやります。僕の先生に、なってください。 お願い、します!!

  2. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 頼まれたからには、学者としての知見を示すつもりだ。 さて、編入試験の内容は政治、経済、文学、魔法、そして修辞学の理解が必要な論文試験、及び算術、数学、語学の記述試験と…… 教えるにあたって教導は持っていくとして、出来る事といえば修辞学の為の弁論術、及び文学・語学(文芸)、政治知識、魔法知識くらいか。 ただ試験内容の中には重箱の隅をつつくような問題もある事や、シャウアーの性格的にひっかけ問題も不得意となると、資料検索や看破のコツを教えるという形でサポートという事も考えている。 目下の課題において、どう手を付けたらいいのか分からないとなれば資料検索による効率的な手段も活きてくるもの。 礼儀作法にも覚えはあるが、それに関しては突き詰めると、おしゃれさんのように外観やコーデに関するマナーにも踏み込まなければならないんじゃないか?って思ってしまうよ。 あと、素朴な疑問としては、フォルトゥナ校長からの試験に合格したという事実のみでは学園生の証明には成り得ず。 合格した事を設定に組み込んで公認化、という風にしないと学園生という事にはならないのだろうか。

  3. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく。 学園生として入学希望者は歓迎したいし、力になれることがあるなら尽力させて頂こう。 俺からしてあげられそうなことは王国の社会制度から政治経済及び魔法の基礎知識とその応用、あとは礼儀作法についての教導かな。 俺も貴族だし、学園の生徒だから俺と接すること自体入学後のイメージトレーニングというかシュミレーションになって自信に繋がってくれると良いなと思っている。 ただ、指導内容も苦手分野だろうし普段接しなれていない存在とのコミュニケーションは疲れるだろうから……様子を見て適当なところで休憩を挟むなりしてバトンタッチ出来たらと考えているよ。

  4. コルネリウス・アーラ

    コルネリウスです、よろしくお願いします。 アルドくんの入学のお手伝いですね! 満遍なく、それぞれの得意分野でお手伝いできたら良さそうですね。 私は苦手分野がアルドくんと同じというのもあり、学園での過ごし方のお話や戦闘指南などを中心にサポートが出来たらと今のところ思っています。 あとは、メルチスさんも落ち着かなさそうですし、何か一緒に出来ることをお手伝いして頂けたら良いなぁと考えています。

  5. カイン・ステラ

    よ、アルド、神父。 アルドが編入試験するんだってな。 って、改めて……シューター、カイン・ステラ。よろしく。 俺は聴講生という立場なんで、編入試験関係は判らないことも多いから、一緒に学ぶ立場になると思う。 教えるなら、アルドは同じシューターなんで、その辺かなと思ってる。 シューターも相棒(ペット)の有無だけでも動き方変わるし、冒険者としての活動も考えるなら、この辺の話必要だろうし。

  6. セラフィナ・M・ベイリー

    キャスターのセラフィナです。よろしくお願いします。 私も学園生という立場なので、お手伝い出来る事があれば、と参加しました。 今一年生という立場なので、学園が冒険者様に作った入学試験を経験しています。 問題傾向を教えられたらいいな、と。 あと算術と数学は得意なので教えられると思います。 スパッと答えが合うと気持ちいいですし、少しの公式を理解しておけばどうとでもなりますから。 他には気分転換も兼ねてお茶とお菓子を用意しましょうか。 >学園生の証明 選挙の時は学園生であるという公認申請がないと認められなかったですけど 普段はどうなんてしょう? 入れておいた方が確実かな、とは思いますが…。

  7. ゲルダ・クライン

    ゲルダです。よろしくお願いしますね。 平民の異種族として短くない時間を学園で過ごしていましたので、一昨年から続く学園の変化についてお話ができればなと考えています。 お教え出来る科目ですが、こう見えて商人の娘ですので、経済のお話と、あとは平民側の視点から見た礼儀作法かなと。 教導のスキルも一応は持っているですが、汎用スキルは『商業知識』と『礼儀作法』で枠が埋まってしまうので、教え方については他の方のサポートがありますと大変助かります。

  8. ヨル・スレイマン

    多文化クラスのヨル・スレイマン。宜しくね。 学園での戦術講義もある程度は知っているから、戦術指南方面を中心に話してあげられそうな気がする。多文化クラスには異種族の子も多いし、そういう話もできると思うかな。 学問については、文学ならギリギリ手伝えるかも。経済算術数学あたりはむしろ俺が習いたいくらいだ⋯⋯。 とはいえ、試験勉強はすでにとても手厚そうなので、俺は「自信」と「落ち着き」の項目で頑張りつつサポートに回るつもりで考えているよ。できそうな範囲で手薄なところを補強できれば、と思う。

  9. ナタリア・フィッツジェラルド

    回答有難う、ベイリー。 一応私も、学園長からの試験に合格した身ではあるが、依頼上での話ではないから事実は彼女(運営)のみぞ知るという感じだから、公認設定に追記しておいたほうがいいかもな。 修辞学は受け手を唸らせたり関心・感動させるような理論の展開により、対象からの理解や納得を得る為のメソッドを究める学問なだけに。 それを可能とする為にアルドの感性やボキャブラリを築き上げていくという点で、コルネリウスの言うように一人一人の得意分野で貢献したり経験則を伝えていくというのはアリだな。 ましてや先代当代問わず、生徒会の関係者も居るから、為になる話には事欠かない筈。 ゆえに私自身、学園生としての歴史・経験の浅さもあるからアルドと一緒に物を学ぶ立場にもなって、相互に刺激し合うというのも考えている。

  10. メルチス・アダラード

    ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。教会を任されているメルチス・アダラードと申します。 此度は皆様の力をお借り出来ること、誠に有り難く存じます。 お手伝いがあれば何でもご用命ください。 …(こそこそ) コルネリウスさん、ありがとうございます…今回はアルドの依頼なのであまり世話を焼きすぎないでと言われております…けれどお手伝いなら許されますよね…!

  11. ローザリカ・D・ケレス

    5年のローザリカ。 参加も挨拶も遅くなって失礼したが、よろしく頼みたい。 紋章知識を習得していたから、そこから広げて家紋が関わりそうな政治や 聖紋・呪紋が関わる魔法関連の指導が出来たらと思っている。 他の行動は考え中な部分もあるが息抜きがてら学園の話など出来たらいいなと。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0