藍銅宮にて春を待つ

炙りとろ左門

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シナリオID:2745

オープニング

「は、はゎゎ……」
 シュゼットは鏡に映った自分にひどく動揺していた。癖のある髪は丁寧に梳(くしけず)られ、湿気のある日はもっこりとしていたことが嘘か夢かのように、上品に巻かれている。
 癖っ毛特有の悩み、整えるのが難しい前髪も左右に分けて額を出している。顔には薄く化粧が乗っており、春色のドレスとあわせて、シュゼットを「ちんちくりん」から「麗しく咲く美少女」へと変貌させていた。
「ほ、本当に私ですか?」
 シュゼットは鏡に顔を近づけて神妙な顔で尋ねる。鏡の向こうの自分もこの変化には驚いているようで、同じく怪訝な表情をしていた。
「鏡にものを尋ねるのは、あまりおすすめしない」
 そんなシュゼットを小さな声で諌めるのは、黒装束に身を包んだ少女だ。
「……途中で入れ替わってなければ、そこにいるのは確かにあなた」
「そ、そうですよね……でもまだ信じられません。……あれ? えっと、シルバリーさん、でしたっけ。シルバリーさんはおめかししないんですか?」
 銀閃(シルバリー)と呼ばれた黒装束の少女は無言で肩を竦めて見せた。
 彼女は【影】と呼ばれる隠密兵だ。どこの所属かは明らかにしていないが、ウィリアム王子とともに現れたのだから王家に仕える者なのだろう。だが、王子の直轄ではないらしかった。
「私の仕事は、警備。ドレスじゃ動きにくい」
 もちろん、招待客に扮する者もいるのだろう。しかしシルバリーはそこまでは言わない。
「でも、美味しいお菓子も出るっていうのに……」
「……………………今日は、『予行(リハーサル)』」
 たっぷりと長い間を取って、シルバリーは声を潜めた。
「春から初夏にかけて、この【藍銅宮(アズライト離宮)】を一般開放するために……不足があってはいけない」
 アズライト離宮は、第二王子ウィリアム・リーンエスが保有している小離宮だ。最低限の維持はされていたものの、活用されないままであったためところどころで老朽化が進んでいた。それを冒険者たちが依頼を受けて手を入れたのが、去年の夏のことである。
 その結果、アズライト離宮は冬の間にも準備を進め、春先に迎賓館として生まれ変わることになった。そして今回、実際の運用確認や点検を兼ねて、冒険者たちを招待客として舞踏会が催されることとなったのである。
「供される料理も、音楽隊も、本番を想定してのもの。今回冒険者たちを呼んだのは、すぐにまとまった人数を呼べて、且つ一定の信用があるから。離宮の運用能力(キャパシティ)を測るためで、あなたたちを遇するためじゃない」
 口数が少ないシルバリーには珍しく長く喋った。シルバリーは再び沈黙し、「依頼であることを忘れないで」とだけ言い残して姿を消した。
「……シルバリーさん、おめかししたらもっと可愛いと思うんですけど」
 フードに隠れてよく見えないが、目鼻立ちは整っているように思う。だがそれも変装の上かもしれないし、彼女に取ってはあれが勝負服なのかもしれない。
 その時、大広間の方からゆったりとした管弦楽が流れてきた。どうやらはじまったらしい。
「あっ、冒険者さんたちに挨拶しないと……!」
 シュゼットは鏡から離れ、履き慣れてない靴で躓かないようにゆっくりと、だが気持ちは急いで、会場へと向かうのだった。

解説

【!】冒険者ギルドに受付嬢シュゼットは、冒険者たちに頼み事があるようです。 ● 概要 皆さんは、迎賓館として新生したウィリアム王子の私宮【アズライト離宮】に招待されました。 今回は春先の開館に向けて、その運用に支障がないか確かめるための予行練習です。舞踏会は『参加者が冒険者のみ』という点を除いて、貴族の社交界と同じ段取りで進められます。 あくまでキャパシティの確認と設備点検が目的のため、厳しいマナーは求められません。お気軽にご参加ください! ● ドレスコード 私服や手持ちの礼服でもいいですが、希望者には離宮のものが貸与されます。 ● アズライト離宮 第二王子ウィリアム・リーンエスが保有している小離宮であり、去年の夏に冒険者(たくみ)たちの手によってリフォームされ、迎賓館として生まれ変わりました。以下の施設が開放予定です。 【1】大広間 青地に金銀の糸を編んだカーペットが敷かれた大広間です。王国の象徴色をふんだんに使い、調度品は伝統を踏襲しつつも、そのなかに新しさを感じさせるデザインのもので統一されています。予行中は軽食が提供され、ダンスを楽しむことができます。 【2】ギャラリー ウィリアム王子をはじめ、王室関係者の成長を追うことができる肖像画ギャラリーです。王子も幼い時分はこのような感じで…… 【3】大浴場  青や白、水色のタイルが敷き詰められた床に大理石の浅い浴槽があり、足湯を楽しめます。海辺のコテージを思わせる調度品の数々は、王都にいながら南部の潮風を感じられるものとなっています。 ※ 宿泊は許可しないため、一般開放はこのように限定的なものにする予定です。 【4】庭園 離宮の庭を散策することができます。春に先駆けて咲いている花々もあり、東方風の庭園を再現した区画では梅の花が咲いています。 ● 関連NPC シュゼット:冒険者ギルドの新米受付嬢。 シルバリー:【青薔薇】所属の密偵の少女。 ● 特記 マスターページは参照しなくても問題ありませんが、描写やマスタリングに関する項目があります。 また、NPCは基本的にプレイングに記載がなければ同行描写はされません。同行指定し交流をはかることも可能ですが、描写字数の関係で省略される場合もございます。ご了承ください。

マスターより

去年の8月!?!?!!?!?(倒れる) あけましておめでとうございます、炙りとろ左門です(起き上がる) 旧年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします……ということで、最初のシナリオは昨年夏に出した王子の離宮の話の続きです。わ、忘れてなんかないんだからねっ! 王都で色々あったものですから、その結果を待っておりました。王子が亡くなっていたら存在しないシナリオだったかもしれない……新年らしく、お祝いしましょう! 依頼の趣旨として人が多い方が良いため、よろしければぜひお友達とお誘い合わせください。 それでは皆さんのご参加とプレイング、お待ちしています!

リプレイ

 スィーリーンは大広間の床、壁、天井をぐるりと見渡した。自分たち冒険者が手がけたものが、王都の職人たちによってさらに洗練されたものに仕上がっている。
 織り目の細かい布地に煌めく金糸銀糸。見たこともないような繊細な刺繍図案。ドレスを借りて良かった、とスィーリーンはほっと胸を撫で下ろす。場にあった装いというものは大切だ。
 特に見事だと感じたのは刺繍糸の代わりにリボンを用いた、立体的な刺繍だ。スィーリーンが古い生地を再利用して手がけた調度品、その褪せた箇所や滲みを覆い隠すような形で自然に彩っている。
「あ、あの……このあたりの内装を担当された『リザードマンのおしゃれな冒険者』さんとは……あなたのことでしょうか!」
 調度品を検分していると、スィーリーンに声をかけるものがあった。声を上擦らせているのはそばかす顔の少女で、リボン刺繍の刺し子だという。
「まあ、ではこれは貴方が……?」
「は、はい。よろしければお話を」
 曰く、刺し子の少女は、スィーリーンの評判を聞いてずっとその姿を探していたという。スィーリーンは少女を笑顔で迎え、軽食を挟みつつ、おしゃれについて語り合うのだった。


 何か引っ掛かるものを感じたのは、奇跡に近かったかもしれない。
 大広間の内装をチェックしていたシルヴィア・A(アルヴィン)・カペルは、音楽隊の演奏が籠もる壁を発見した。王子の宮に不備があってはならない――が、さりげなく壁に伸ばした手を掴まれる。
「この壁は設計仕様に基づいている――から、やめて」
 壁と柱の繋ぎを隠すカーテンの下から伸びてきた手。その持ち主は、年端も行かぬ華奢な少女だった。シルヴィアは目を瞬き、そして瞬時に状況を把握する。
「……君たちのような【影】の者が使うから、かな?」
 少女は小さく頷いた。そしてシルヴィアの腕を放し、ぎこちない動きで跪いた。
「無礼を許して、ほしい。貴人とのやりとりは、教えられて、ない」
 命令以外の言葉掛けなど不要――つまり彼女は、そういう種類の【影】だ。シルヴィアはわずかに表情を曇らせる。
「それ、じゃあ」
 少女はシルヴィアに短く告げると、姿を消す。
 ――【銀閃(シルバリー)】。少女を識別する銘(な)を、シルヴィアは後から知ることになる。


「あ、ぁゎゎ」
 シュゼットはフリューリングスルフト=ティエラを前にして戦慄(わなな)いていた。なぜか。
「今日のフリューさん、淑女(レディ)って感じです……!!」
「せやろ??」
 フリューは上品な仕草で横髪を払った。ふわりと広がる香りを、シュゼットの鋭敏な嗅覚が捉える。
「くんくん……とってもいい香りです! わぁー、すごいなぁー、とにかく……きれいです!」
 フリューの周りをすばしこく駆け回りながら、シュゼットは両手を広げ目を輝かせてフリューを賞賛する。そんなシュゼットの手を取って、フリューは微笑んだ。
「じゃあ、一曲お願いできるさぁ?」
 今日は鮮烈な紅い風ではなく。春先の鮮やかな花々を揺らす、優しい風になろう、と――。


「なるほど。これがウィリアム王子の離宮……」
 トーラは大広間を見回して、天井の高さや、用いられている調度品の質の高さに目を瞬かせる。こういう場所に馴染みがない分、好奇心を刺激されていた。
(練習の機会もそうそうないですし、渡りに船とはこのこと)
 トーラは白いドレスの裾をちょっと摘む。彼女が抱くコンプレックス、その脚を覆い隠す長い裾、それがダンスで翻ることを心配していた。
「そう、これは、万一の時のための予行練習です」
 彼の方の前に、ドレスで出て行かなくてはならない時のため。その際に決して粗相があってはならない。脚が見えることに気を取られているようではだめなのだ。ふくらはぎが見えるほどの大きな動きをしない足運びを学ばねばならない、なんとしてでも。
 トーラは音楽に合わせて踊る面々の動きを見つめ、裾から離した手を握ったり開いたりする。そして、冒険者のひとりからダンスに誘われたところで、気づいた。
(き、緊張で手汗が……!!)
 グローブは必須装備であると頭に叩き込み、トーラは焦燥で引き攣りそうになる頬を赤らめたのだった。


「おや、おや」
 そんなトーラの様子を、少し離れた場所から微笑ましく眺めるハーフビーストがいた。ハリーヌ・ヨツユビだ。
 めかし込んだトーラと同様に、ハリーヌもこの場に相応しく身なりを整えてきた。その毛並みはいつにも増して艶があり、蠱惑的な香りを薄ら漂わせている。
「このあたりなら、階段に登れば……」
 ハリーヌは大広間において全体を見渡せる場所を探していた。どこにビジネスチャンスが転がっているともしれないのだ、それも王子の離宮となれば尚更である。会場の下見ができるチャンスなどそうそうない。
 今回は予行練習らしく関係者と呼び集められた冒険者のみのようだが、向こうでは貴族らしい青年が舞踏会での作法について話している。それに耳を傾けつつ、舞踏会の進行や音楽の種類について学ぶ。
「踊る回数や場所にこれほどの慣例があるのですか……なるほどなるほど。……それにしても」
 ハリーヌは目をきらりと光らせる。その視線の先には、ウィリアム王子に指南役として呼ばれた貴族令息の横顔があった。
「コネは作っておくべきでございますね……!」
 ハリーヌはこの離宮の改修の関係者だ。話のきっかけとしては十分である。ハリーヌはくっと背筋を伸ばし、歩き出した。


 四条(しじょう)・薫(かおる)は大広間をぐるりと一周すると、ふうと息をついた。
「気になった場所は、特にはありませんでした」
 薫がカーテンの影に向かって話しかけると、ややあって小さな声が返ってきた。
「……前回の改修とその後の調整で、構造的な問題はクリアしている。でも、確認は大事」
 【銀閃(シルバリー)】は薫の報告を受け取ると、少しだけカーテンの裾から顔を出した。
「慣れない格好で、よくあんなに歩ける」
 そう呟くと、薫のつま先をじっと見つめる。
「痛くない? 私は苦手」
「……なるほど。場に慣れていない御令嬢が、その服装によって転倒する危険性はあるかもしれませんね」
「……」
 【銀閃(シルバリー)】は沈黙したのち、薫に小さなポーチを差し出した。薫が中身を確認すると――
「これは、救急鞄?」
「必要な時に、使うといい」
 それは、彼女なりの気遣いだったのか。【銀閃(シルバリー)】はすぐに姿を消してしまったが故に、その真意を問うことはできなかった。しかし薫は手元の救急鞄に視線を落とし、ふっと笑みを漏らすのだった。

 一方、回廊のほうでは――。

「ダンスというのは、なかなか体力がいるのだな! 教えてくれて助かった」
 シャドウは礼服の襟を正しつつ、一歩後ろを歩くアラン・スミシーを振り返った。
「リードくらいはね。お役に立てて何よりだよ」
 アランもまた、貸し出されていた礼服を纏っていた。髪を軽く撫で付けて香水も軽くふれば、この年齢の男性特有の色香が引き出されるというものだ。
 庭園に続く回廊へ一歩踏み出したアランは、射し込む日の光に目を細める。
「それで、ギャラリーに興味があるという話だったけれど」
「ああ。リーンエス王家についてもっと知っておきたいと思ってな」
 庭園を囲む回廊の壁に並ぶのは、ウィリアム王子を中心に王家の面々を描いた肖像画だ。
「ウィリアム王子やメアリー王女のことは知っているが、他の顔ぶれは知らないからな」
 国王ジョージ4世とその妃ルイーズ、そして王太子エドワード。王妹キャサリンが描かれたものもある。……記録という点で今より若い姿が多いが、シャドウはアランの解説を頷きながら聞いていた。
 と、その言葉がふと途切れる。
「アラン?」
「……ああ。あれを見てたんだ」
 首を傾げたシャドウに対し、アランは庭園の一区画を指さした。正確には、そこに植わっている東方梅を。
「あれは、東方の『ウメ』という花木だよ。……ふむ、たまには書き物でもしようかな?」
「書き物?」
 梅の木に向かって歩いていくアランの後を追って、シャドウも梅の花びらが舞う中を進む。アランは木の下から梅の花が揺れる様をしばらく見つめていた。

 處(ところ) 藍の庭にて 綻ぶ梅花
 幽(かす)けき地にて 春を唄えば
 是(これ)ぞ 絢爛の戀(こい)も敵わぬ
 舞い散る華の 儚きこと哉――

 紡がれる詩は、異郷にて囲われ咲き誇る梅の美しさを讃えたものだ。何を、どのように『美しい』と感じるかは十人十色。アランが梅をこのように表現したことに、シャドウは感心する。
「アラン……ブラボー!」
「ああ、ありがとう。でもおじさんとしたことが、口上(あいさつ)を忘れていたね」
 アランは照れ臭そうにしつつ、観客(シャドウ)に向かって丁寧に礼をする。
「紳士淑女の皆様。一介の旅好き、アラン・スミシーでございます。名前は……偽名なのは、まぁ失敬するね!」

====

「今日の君も綺麗だ」
「とっ……当然だ」
 軽くターンをすると、耳元で小さな音がした。イヤリングが揺れ、金属同士が擦れる小さな音だ。ローザリカ・L(リベラ)・ディオールはそれに気を取られたフリをして、婚約者から視線を逸らす。
「よく似合ってる。やっぱり俺の見立ては当たってた」
 が、熱い視線から逃れた先でそのように甘く囁きかけられ、ローザリカは反射的にダンスの相手を――ジュスト・ヴェルジーを睨みつけた。
「ようやく俺の方を見てくれたね」
「〜〜〜っ!」
 幸せそうに綻ぶ口元。重なる手から伝わる熱さ。触れ合うほどの近さともあれば、吐息を感じられそうなほど。そんな中向けられる翡翠の瞳が、ローザリカへの想いを語る。
 ステップ、ステップ。もはや体が覚えている動きに、今更意識を取られようはずもなく。
「……いつだって、僕だって。君を独り占めしたいと思っているよ」
 そう、いつだって。ローザリカはこういった瞬間を望んでいる。見つめ合い、ただ二人だけで踊り続けていたい――君が望むように。

「じゃあ、目を逸らさないで」
 ドレスの裾が花のように広がった。
「俺だけを見て」
 瞬きの間ですら、その褪せない彩(いろ)に自分が映っていることを願う。

 ローザリカが先程まで感じていた気恥ずかしさは、もう溶けて消えてしまった。愛しい男(かれ)の想いを受け取ったから。
「君こそ、僕以外に気を取られたら、許さない」
 耳飾りにさえ嫉妬するだなんて言ったら、君は笑うかもしれないけれど。


 そんな二人の様子を、シュゼットは目を輝かせて見つめていた。
「イズルさんイズルさん! 見ましたかアレいいえ見てください刮目してください素敵じゃないですか!?」
 シュゼットにぐいぐいと袖を引かれ、イズル・M(エム)・ヴォルゴールは苦笑する。シュゼットの瞳は恋に焦がれる乙女のそれだ。あんなロマンチックな恋愛がしてみたい、そう願う、少女のもの。物語の中の王子様とお姫様のような――そんな光景に、礼儀もすっ飛んでしまったらしい。
「いいなあ〜……」
「では、一曲いかがですか?」
 イズルが少し身を屈めてそう尋ねると、シュゼットはイズルを振り返り、大きな目を丸くした。
「あ、で、でも、足、踏んじゃうかもしれません。ちゃんとした踊り方もわからなくて」
「大丈夫。ダンスは楽しむことが大事だよ。そう何度も同じ人とは踊れないけど……」
 礼儀作法は問われない場とはいえ、事情により無視することができない場合もある。シュゼットはそれを把握し、神妙に頷いた。
「では、お手をどうぞレディ。一緒に素敵な夢を見ましょうか」


 ひとときの夢を見る者たちがいる、一方で。


「はい」
 ここに1000Gをパートナーに握らせた男がひとり。
「よーし任せとけ」
 そして女役を快く引き受けた男がひとり。
 ヨル・スレイマンとナハシュである。

 それが先日のやり取りであり、今。
「ヒェッ……綺麗……」
 会場に現れた美女に、ヨルは慄いていた。
「どうだ? 結構よくできてるだろ」
 ナハシュは女性用のドレスに身を包み、【フェイクカバー】も使用しての美女と変貌していた。が、「こういうところは軽食も美味いしな」という一言で、ヨルは「いつものナハシュだ」とほっと胸を撫で下ろす。
「気合い入れてきたね……」
「『調査依頼で社交界に潜り込むようなことも増えたし、場数を踏んでおくのは大事』……ってお前が言ったんだろ?」
「そうだけど!」
 そうだけど、こんな綺麗だなんて思わないじゃないか!
 という言葉を、すんでのところでヨルは飲み込んだ。
「それに、君とまた踊りたかったし……」
 ヨルがもごもごとなんとか絞り出した言葉を、
(まあ本音はそっちだろなあ)
 理由は分からずとも、本人に汲まれていることは知りもせず。
「じゃ。踊り終わったら食いに行こうぜ! あっちのテーブルに肉があった!」
「うん、そうだね……」
 こんな日が来る時のために密かに練習していたのだ、その成果を見せる時である――ヨルはひとつ深呼吸をして、ナハシュをダンスへ誘う。
 肝心のナハシュはといえば、踊りの最中は各テーブルに用意された料理の把握に余念がなかったのだが。
「前よか踊りやすいな。今なら喋りながらでも余裕じゃねえか?」
「え、あ、う。うん」
 そんな風に不意に褒められ、ヨルの心臓がまた跳ねたのだった。


 庭園にて早春の花びらと一緒にくるくると舞っていたフリューは、頭上のイュン(うさぎ)を腕に抱え直す。
「君と出会って、あっという間に一年経ってしもうたね」
 まだ仔うさぎだったイュンも、すっかり大きくなった。愛くるしさは相変わらずだが。
「世界は楽しい?」
 一緒に見てきた景色、過ごした時間。その全てを共有してきた相手の小さな額に、フリューは自分の額を合わせる。
「世界はもっともっと広くて、楽しいんさぁ。全部、見せてあげる」

====

 ――ウィリアム王子の本音はともかくとして、異種族という壁は堅固だ。迎賓館はその壁に穿たれた門(あな)となり得るのか。
 この大広間で、様々な思惑が絡むことになろう。その足音はもう、すぐそこまで迫っている。

マスターコメント

お疲れ様でした! 楽しんでいただけましたら幸いです。 本番の舞踏会は2月か3月にやりたいですね。3月は学園の卒業パーティーなどをしたい。だが予定は未定なのであった……。 それではまた、お会いしましょう〜!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準13 / 9〜25人

2023年01月22日 21時09分55秒 公開

大成功

相談掲示板

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0