【聖祭】白雪を積み赤果を食む
水繰潤
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シナリオID:2700
オープニング
辺境都市の北側に位置する街ラントの酒場。隅のテーブルでは、ふたりの青年が顔を突き合わせていた。
ひとりはこの街でさまざな事業を纏めている商会の長、アドルフ・ベーレントである。
「――で、用事っていうのはそれだけか」
向かいに座る男はアドルフがラントへ移住する以前からの顔馴染みであり、所謂腐れ縁というやつだ。フットワークの軽さや能力を生かして情報屋をしており、アドルフも時折利用させてもらっている。名はユドという。
今日は報告があると呼び出されて久々に互いの顔を合わせたのだが、やれ飼ってる犬の近況やら、最近新しい恋人が出来たとか、近所の横柄なおっさんが実はヅラだったとか、当たり障りない情報ばかり……つまり、アドルフは暇つぶしの茶に付き合わされていた。
「つれないな、折角キミの探し物の手伝いもしてるっていうのに」
「……そっちはついでだろうが。何か手掛かりが?」
「いや、場所もまだハッキリとは」
瞼を伏せてアドルフは溜息を吐く。飄々とした様子は昔からだが、旧友とはいえ話しているとたまに頭が痛くなる時がある。
「まぁ経路は大体絞れたんだ、何かわかれば連絡はしてやるよ」
「いや、無事であれば私はそれで構わない。……そろそろ戻らせて貰いますよ、こちらも暇ではないので」
アドルフは椅子から立ち上がると、すぐに仕事の顔に切り替わる。こういうところは彼の長所でもあり短所でもある。とはいえ、なんだかんだこうして時間をとってくれる男なのだと肩をすくめてユドは笑う。
「商会長様はお忙しいこって」
「まだ冬祭りの詳細が決まっていないんですよ」
酒場の扉を開けると外は暗く、空には白く厚い雲が広がりひらひらと雪が舞い、地面に積もりはじめている。話し始めたのはまだ明るいうちだったはずなのだが、思ったよりも長居してしまっていたようだ。
首元を撫でる冷気にユドは思わず身震いする。
「ひゃー、今日はどうりで冷えると思った。もうそんな時期なんだな」
この降り方だと、例年通り一晩でも大分積もりそうだ。雪かきの準備や薪が足りているか、住民への呼びかけも必要かもしれない。
「雪か……」
アドルフの掌にふわりと落ちた雪が体温で溶けていくのを見て、ふと、昨年の催しで見かけた雪像を想い出す。この街の雪量ならば充分出来るのではないかと思っていたのだった。
「雪祭りを、しましょうか」
●
「……で、なんで俺も駆り出されてんの?」
「人手は多い方が良いですからね。報酬は出しますよ」
雪祭りの会場入り口にはスコップを持ったユドが立たされていた。傍らにはアドルフと、彼の頭身と然程変わらぬサイズの雪だるまが鎮座している。
街中の広場には大小の雪像がぽつぽつと作られ始め、並ぶ作品はシンプルな雪だるまから精巧な雪像まで様々だ。
露店も設営が終わったところで、工芸品やイチゴを使った甘味、温かいスープなどが楽しめる。
今年は中央に大きなモミの木も用意して、木彫りやガラス細工のオーナメントも露店に多数取り揃えている。
「今年も良い日になるといいですね」
寒い一日だからこそ、多くのひとに暖かい想い出が残る事を祈って。
ひとりはこの街でさまざな事業を纏めている商会の長、アドルフ・ベーレントである。
「――で、用事っていうのはそれだけか」
向かいに座る男はアドルフがラントへ移住する以前からの顔馴染みであり、所謂腐れ縁というやつだ。フットワークの軽さや能力を生かして情報屋をしており、アドルフも時折利用させてもらっている。名はユドという。
今日は報告があると呼び出されて久々に互いの顔を合わせたのだが、やれ飼ってる犬の近況やら、最近新しい恋人が出来たとか、近所の横柄なおっさんが実はヅラだったとか、当たり障りない情報ばかり……つまり、アドルフは暇つぶしの茶に付き合わされていた。
「つれないな、折角キミの探し物の手伝いもしてるっていうのに」
「……そっちはついでだろうが。何か手掛かりが?」
「いや、場所もまだハッキリとは」
瞼を伏せてアドルフは溜息を吐く。飄々とした様子は昔からだが、旧友とはいえ話しているとたまに頭が痛くなる時がある。
「まぁ経路は大体絞れたんだ、何かわかれば連絡はしてやるよ」
「いや、無事であれば私はそれで構わない。……そろそろ戻らせて貰いますよ、こちらも暇ではないので」
アドルフは椅子から立ち上がると、すぐに仕事の顔に切り替わる。こういうところは彼の長所でもあり短所でもある。とはいえ、なんだかんだこうして時間をとってくれる男なのだと肩をすくめてユドは笑う。
「商会長様はお忙しいこって」
「まだ冬祭りの詳細が決まっていないんですよ」
酒場の扉を開けると外は暗く、空には白く厚い雲が広がりひらひらと雪が舞い、地面に積もりはじめている。話し始めたのはまだ明るいうちだったはずなのだが、思ったよりも長居してしまっていたようだ。
首元を撫でる冷気にユドは思わず身震いする。
「ひゃー、今日はどうりで冷えると思った。もうそんな時期なんだな」
この降り方だと、例年通り一晩でも大分積もりそうだ。雪かきの準備や薪が足りているか、住民への呼びかけも必要かもしれない。
「雪か……」
アドルフの掌にふわりと落ちた雪が体温で溶けていくのを見て、ふと、昨年の催しで見かけた雪像を想い出す。この街の雪量ならば充分出来るのではないかと思っていたのだった。
「雪祭りを、しましょうか」
●
「……で、なんで俺も駆り出されてんの?」
「人手は多い方が良いですからね。報酬は出しますよ」
雪祭りの会場入り口にはスコップを持ったユドが立たされていた。傍らにはアドルフと、彼の頭身と然程変わらぬサイズの雪だるまが鎮座している。
街中の広場には大小の雪像がぽつぽつと作られ始め、並ぶ作品はシンプルな雪だるまから精巧な雪像まで様々だ。
露店も設営が終わったところで、工芸品やイチゴを使った甘味、温かいスープなどが楽しめる。
今年は中央に大きなモミの木も用意して、木彫りやガラス細工のオーナメントも露店に多数取り揃えている。
「今年も良い日になるといいですね」
寒い一日だからこそ、多くのひとに暖かい想い出が残る事を祈って。
解説
▼状況
今年もラントの冬がやってきました
昨年よりちょっぴりグレードアップした雪祭りがメインのイベントです
▼出来る事
【1】雪像づくり
広場の空いているスペースに自由に雪像を作る事ができます
余りに巨大すぎると場所を取ってしまうので、1へクス以内に収まるサイズでしたら雪だるまから凝った作品まで自由に作れます
必要な雪はユドがせっせと運んできますので雪の運搬は気にしなくて大丈夫です
【2】食べ歩き
削りイチゴや、温かい玉ねぎスープ、ハーブティー、イチゴ飴を楽しめます
【3】ツリーを飾る
広場中央のモミの木に、木彫りやガラスのオーナメントを飾れます
オーナメントは雪の結晶や星、他様々な形があり、露店で取り扱っています
やりたいことはひとつに絞るのをおすすめですが、複数にまたいで行動してもOKです
▼イチゴスイーツ
削りイチゴはイチゴを雪で凍らせてからかき氷のように削ったスイーツです
①蜂蜜とミルクで作った練乳、②甘露アリのシロップ、③イチゴジャム、④なにもかけない、⑤全部のせ
など様々なお味があります
イチゴ飴は飴を纏わせて串にさした生のイチゴです。凍ってはいません
▼工芸品
木彫りの工芸品も特産品のひとつです
動物を模した置物、アクセサリー、髪飾り等など…手作業で作れそうな小物は大体あります
動物のはシャケを咥えたパンダとか奇抜のものもあるみたいです
今年は硝子のオーナメントも扱っています。お土産やツリー飾りにどうぞ
シナリオでのアイテム発行はありませんので、フレーバーなどにお使いください
▼NPC
アドルフ・ベーレント
ラントの町に商会を置く商人の青年。特に触れなくてもOKです
昨年同様その辺で皆さんが楽しんでるのを眺めてたりします
ユド・ユルゲンス
アドルフの旧友、ヒューマンの青年です
雑用を押し付けられて働いていますが、触れなくてもOKです
▼その他
昨年度のラントのお祭りは『【聖祭】赤果の花弁、氷の甘味』を参考に頂けると解りやすいですが読まなくても支障はありません
食事は室内で楽しみたい方は酒場が場所を提供してくれます
外で食べる場合は休憩用のベンチやテーブルがあります
マスターより
ご覧くださりありがとうございます。お久しぶりまたは初めまして、水繰潤です。
一年越しのシナリオでちょっとドキドキしていますがよろしくお願いします。
雪像はお子様がガン見しても大丈夫な作品をお願いします。危ない場合はアドルフから布などで目隠しなど(マスタリング)が入ります。
当日は晴れていますが、寒いので暖かい格好をしてお越しください。
おひとり様でも、お友達とも、デートでも、ちょっとした冬の想い出に如何でしょうか。
どうぞ、ご自由にお過ごしください。
リプレイ
雪祭りの当日。穏やかな陽光が空から射し込み、天候に恵まれたラントの街は昨夜までに降り積もった雪が街を明るく照らしていた。とはいえ、気温は低く時折流れていく風が首筋を撫でると、思わず身震いするほどの寒さではあった。
コートに帽子、更にマフラーで防寒を徹底するヨル・スレイマンの姿を相変らず薄着のナハシュがあきれ顔で見ていた。
「お前……どんだけ寒いんだ……」
雪に囲まれた街中である以上、ヨルの格好の方が一般的には自然ではあるのだが。ちなみにナハシュの帽子とコートはヨルがしっかりと預かっている。
「君だから無理に着ろとはもう言わないけど、寒くなったらいつでも着るんだよ。これから雪まみれになるんだからね」
「動いてりゃ寒くなくなるぞ」
準備運動とばかりに伸びをしてから二人は今日の目的である雪像作りに取り掛かる。
ナハシュが作る雪像は彼らの家に住む黒アルパカがモデルのようで――雪なので色は白いが黒アルパカである。
「色が抜けたらこんな感じか?」
「なるほどアルパカだ。よくできているね、温かそうな毛並みだ」
もこもこの黒(白)アルパカが出来上がっていく隣で、ヨルは愛猫の『ネコ君』をモデルに雪を固めて削っていく。リアリティに拘るヨルは、踏み台も使い耳や毛並みまで細部の再現に余念がない。
――数時間後。
「うん、このサイズにするとなかなか凶悪な爪をしているね君……」
「あっはは、でけえなー!!」
何せスペースをめいっぱいに並んで鎮座するアルパカと猫、爪のサイズも相当なものだ。
せっせと時間をかけて完成した雪像は中々の迫力で、ナハシュはゲラゲラと腹を抱えて爆笑するのだった。
雪祭りと聞いて胸を躍らせていたファーシル・クリスティアは想い出していた。
脳裏に浮かぶのは仮面を付けた淑女、もとい師の姿――あれはいつだったか、『祭りも修行ですわ!』なんて言いながら誰よりもはしゃいで食べ歩き満喫していたのを――。
「私もお師匠様に負けずにお祭りを満喫します! えいえいおうー!」
今日は彼女も師に倣って目いっぱい楽しむ所存とスコップを掲げて気合十分。早速雪像づくりに取り掛かる。
ファーシルが磨き上げてきた上品さと力強さを組み合わせた流派である護気・幻耀剣で培った技術は並ではない。
鍛えられた頑健な足腰で重い雪をよいしょ、よいしょと積み重ねては削り、積み重ねては削りと地道な工程を繰り返していく。
「さーくれつだ、さーくれつだ、芸術はー炸裂だー」
鼻歌まじりに作業は進んでいき、見回っていたアドルフが通りがかった頃にはファーシルの作品はほぼ完成に近づいていた。
「おや、これは……」
とてつもなく精巧なシャケがこれまたリアルなパンダを咥えているではないか――周囲をざわつかせる奇抜さに、アドルフも思わずまじまじと見入ってしまう。
「なかなか、他に類を見ない作品です」
「ふふ、そうでしょう! 雪で像を作れるなんて楽しいですね!」
「そう言って頂けると開催した甲斐がありますね」
気分よく作る事ができたようでご機嫌にやりきったファーシルは、清々しい笑顔を向けるのだった。
ネーヴェ・グラヌローザとエルシー・サリバンは協力しながらかまくらを作成している真っ最中。目指すは豪華なかまくらである。しっかりと土台を作成した後は雪で形を整えていく。
授恵者といえども、華奢な少女たちである。重さのある雪は積み上げるのも削るのもかなりの重労働だが、お喋りと共に進めていけば楽しい想い出のひとときに早変わり。
「ネネ! 形はこんな感じで大丈夫かな?」
「はい、素敵だと思いますわ。では、私は中を作っていきますわね」
エルシーが外観を整えていく間に、中を空洞にするためスコップを構えるネーヴェの姿は中々様になっている。
普段はおっとりとした柔らかい雰囲気を纏っている事が多いものの、盛った雪をもりもりと掘り進めていくネーヴェの姿は凛々しくもどこか優雅で、その姿にエルシーは思わず魅入ってしまう。
「……エル? どうしましたか?」
「あ……見惚れて手が止まっちゃってたよ」
「まぁ……!」
視線を合わせてくすぐったそうにお互い笑い合えば。早く完成させなくちゃ、と作業を再開する。
削って彫って、整えて。最後に水を掛けて外観を凍らせれば、城の形をしたかまくらの完成だ。
繊細な模様で彩られ、外観だけに留まらず内部の中央にも狐と雪の結晶のモチーフが刻まれる。入口にも彼女達の相棒である栗鼠のティムと猫のアーテルを模した雪人形がちょこんとお座りをして門番を務めている。
「お? お嬢さんたちすげーの作ったなぁ! これ2人でやったの?」
せっせと雪を運んでいたユドは思わず足を止め、感嘆の声を漏らした。
「ふふ、そうでしょう? 頑張った甲斐があったね!」
まさに氷の城と呼べる見事な出来栄えに、ユドに限らず行く人の目を引き付けたのは言うまでもない。
中には雪で作った椅子とテーブルもしっかりと並べられて、二人並んで座れば素敵なティータームの始まりだ。
樽ジョッキにたっぷりと注がれたホットチョコをひと口啜れば、冷えた身体がじんわりと温まるのを感じる。
「ふふ、一仕事終えた後に一緒に頂くホットチョコレートは格別ですわね」
「疲れた体に甘いのが染みるね……」
雪が音を吸収して、賑やかなはずの外の雑音は思いのほか気にならない。そんな静かな空間の中、白を纏うネーヴェの姿は景色に溶け込んで、外を眺める姿は額に入れたいほどに美しく映えていた。
「……ル、エル?」
はっと我に帰れば、不思議そうに首を傾げたネーヴェの姿。
「あ、また見惚れちゃってた……」
「ふふ、エルったら」
寒さも気にならない程に少女たちの温かく幸せな時間は、もう少し続くのである。
今年は恋人同士としてラントを訪れたエル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペル。この街で過ごすのは彼らも1年ぶりとなる。
王国で過ごす時間も多い彼らにとって雪が積もる景色はやや珍しく、柔らかい銀雪が反射した陽光で街を照らす様子は少し不思議な光景だ。
「こうして方々に足を伸ばせば、いろんな景色と出会えるが……ふむ」
周囲を見渡すノイアンはふと思い立ち、まっさらな雪に手を突っ込み塊を作るとそのまま雪の上を転がし始める。
「……ノイアン?」
おもむろに雪だるまを作り始めた彼にシルヴィアが目を瞬かせると、ノイアンは慌てて弁明する。
「いや、なんだ、こうも見事に積もっていれば、土をつけずに雪だるまが作れるのではないかと思って……」
「あぁ、確かに綺麗な雪だるまが作れそうだね」
シルヴィアが頷けば、大きさやデザインを相談しながら共同作業での雪だるま製作が開始される。
「頭と体のバランスにはこだわりたいね」
「バランスといえば、3段以上重ねるスノーマンもあるそうだ」
「ふふ、それなら3段以上重ねようか。手分けした方が効率がいいかな。私は胴体を作っていこう」
童心がうずいてきたのを隠しきれない様子のノイアンに、シルヴィアは口元を緩ませる。
お喋りに興じながら雪玉を転がしていけば、あっという間に両手で抱える程の真っ白な雪玉が3つ完成した。
ノイアンが雪玉を重ねている間に、腕代わりに挿す枝を探してきたシルヴィアは、突如吹いてきた強い風の冷たさに思わずノイアンの後ろで縮こまる。
彼女も背が低い方ではないはずだが、長身のノイアンの背中に隠れれば、その姿はすっぽりと納まってしまう。
(……暫くこのままくっついていたい)
「ん? どうした……」
「あ、いや……風が冷たかったから、思わず君の背に隠れてしまった」
広い背中が頼もしくてひっそりとノイアンのコートの背に頬を寄せていると、彼女の様子に気付いたノイアンがきょとんとした顔で振り返る。思わずシルヴィアの頬に赤みが差した。
「風除けがいるなら、次はカマクラでも作るか?」
シルヴィアの髪が溶けた雪で濡れている事に気付いたノイアンが手巾を当ててそっと拭きとりながら問いかければ、シルヴィアの視線がおどおど定まらなくなってしまう。
「……風除けはまぁ、口実でもあったのだけれど」
「……口実ということなら、一緒に入れるくらい大きいものを作らないとな」
まだ熱が引ききらないシルヴィアの頬が、更に赤くなっていく。ふたりで入るかまくらは、きっと温かく心地よい空間だろう。
「楽しみにしているよ」
彼の肩に掛かった雪をそっと払いながら、シルヴィアは幸せな笑顔を向けた。
「雪だー!」
愛猫のショコラと共に雪の上を飛び回るパルドの後を、帽子やマフラーで防寒したミニコボのチョコもちょこちょこと歩いてついていく様子がなんとも微笑ましい。
昨年チョコと偶然ラントに立ち寄ったウォーゼルは、今年はパルド達と共にラントを訪れていた。今日はふたりチョコとショコラをモデルにした雪像とかまくらを作る心算である。
心ゆくまで雪にまみれて転げ回ったあとは、スコップを片手に製作を開始する。
「サイズはオレらの背丈ぐらいのが作りやすいかな?」
「そうだね、それくらいが丁度良さそう」
ウォーゼルとパルド、ふたりで協力しながら雪を積み、形を整えたら細かな部分を削っていき――
「……あれ? いつの間に」
ウォーゼルがふとみると、いつのまにか隣で作業をしていたはずのパルドの姿が見えなくなっている。
どこにいったのかと周囲を見渡せば、いつの間にかショコラ達と戯れているパルドをすぐに発見した。目が合った瞬間に思わず苦笑が漏れる。
「おぉーい!」
「いや違うぞ、飽きたとかじゃなくて休憩も必要だと思うんだ」
見つかったという表情を浮かべつつ、ショコラを抱えるパルドが弁明するも、飽きたと顔に書いてある。しかし作業も終盤に差し掛かっており、休憩にはまだ少し早い。
「もう少しだから頑張ろう?」
相方に優しく諭されてパルドも素直に作業再開すれば、そこからの作業は早かった。
数十分後、二人の背丈と並ぶほどのチョコとショコラの雪像に猫耳を生やした愛らしいかまくらが完成する。
「うん、結構いい出来じゃない?」
「そっくりだよな」
完成した雪像とチョコ達をを見比べてウォーゼルが笑顔を浮かべれば、パルドも満足げに頷いて。去年もらったラント土産のキーホルダーも二匹によく似ていたなと想い出す。
雪像作成を終えた後は皆でかまくらに入り、疲れた身体を癒す。
天井に下げたテラリウムのランタンが優しく照らす空間の中、ブランケットを敷いた藤篭の中からはショコラ達が顔を出し、皆で身を寄せながら暖を取る。
事前に購入しておいた玉ねぎスープやイチゴを頬張って和気藹々とした時間を過ごせば、この地に来られた嬉しさに全員の顔が自然と綻ぶ。
「あ、これしってる。カマクラっていうんでしょ」
「お耳もついてる! すごーい!」
雪像を見て回る子供達も、その暖かな空気に惹かれて時折ひょっこりと中を覗き込んでくる。
「一緒においで。みんなで使おう」
可愛らしい来客にパルド達が手招きをすれば、子供達から歓声が上がった。
広場を囲むように多くのひとが雪像作りに勤しむ様子が目に留まり、ルイドは思わず足を止めた。
「ほぉ、雪で作るのか……」
積もった雪を掬いとり、ぎゅっと握ると小さな雪の塊が掌に残る。なるほど確かにこれを積み重ねていけば像を作れるのだと感心する。
「どれ、俺もなんか作ってみるか」
元々は露店での食べ歩きを予定していたものの、雪に触れてすっかり好奇心が刺激されてしまったようだ。ここは一旦変更し、先に雪像作成に挑戦することに。
とはいえ、さて何を作ろうかと思案して空を仰ぐと、街路樹に留まった小鳥が視界に入る。柔らかな冬の羽毛は寒さを凌ぐために膨らんで、夏よりも更に丸々とした姿が印象的だ。
「……あぁ、鳥にするか」
腰辺りまでのサイズの雪玉を固めて小鳥の身体を作ってから、試行錯誤を重ねつつ徐々に細部を整えていく。
羽の表現に苦戦しつつも丁寧に模様を削った後、柔らかな雪をまぶすように纏わせて全体をふっくらと見せていけば――。
「わぁ、可愛い鳥さん……!」
「すごい、ふかふかしてる!」
まあるくふかふかな胴体に、石を埋めて表現したつぶらな瞳、小さな嘴。小首を傾げたような仕草を見せる小鳥はなんとも愛らしく。その出来栄えに、道行く子供や女性達からは絶賛の声が挙がっている。
しかしならが当のルイド本人は自作の雪像を見ながら『まるっこくて食ったら美味そうだよな……』なんて密かに思っていたらしい。恐らく空腹もあるのではなかろうか。
無事完成した雪像も満足のいく出来栄えになったとひとつ大きく伸びをすれば、作業開始から太陽の位置が大分ずれている事に気付く。
随分と集中してしまったようだと、ルイドは腹の虫が騒ぎ出したところで当初の予定通り、食事へと繰り出すのだった。
「見てイュン! ツリーさぁ。うちらも何か飾ろうか!」
フリューリングスルフト=ティエラは子兎を腕に抱えて、ツリーを囲むように点在する露店を巡っていく。
「イュンはこれが好きさぁ?」
ピコピコと動く耳を見ながら、星や花、兎を模ったオーナメントや狸の人形を購入すれば飾り付けの準備は万端だ。
ツリーの周囲は飾り付けをする人々で賑わっており、アドルフも丁度子供達の飾り付けを手伝っているところだった。巡回ついでにこうして子供達に手を貸しているらしい。
フリューリングスルフトもオーナメントを何処に飾ろうかと大きなツリーを見上げて暫し思案。
「上の方に飾ってもええかな?」
「ええ、構いませんよ。梯子や脚立もありますが」
「大丈夫さぁ!」
言うが否や、フリューリングスルフトは地面を蹴って軽やかに跳びあがる。ひらりひらりと舞いながらあっという間に天辺まで登っていき、枝にオーナメントを結びつけた。
「お姉ちゃん、すごーい!」
「私のも天辺の近くに飾れるかなぁ」
「うちが手伝うから大丈夫! この辺でいいさぁ?」
その姿を目にした周囲が沸くのはいう間でもなく。暫しの間、子供達のオーナメントを飾り付けるためにツリーの周囲を飛び回る赤毛の少女の姿が見られたという。
「お姉ちゃんありがとう!」
フリューリングスルフトの働きで、大きなツリーは天辺まで満遍なく飾りが施され見栄えが増していた。
ひと区切り付いたところで手を振る子供達に見送られ、彼女は再び露店へと足を伸ばす。
「いい仕事したさぁ♪ お土産買っていこうか、イュン」
去り際に木彫り工芸がおすすめだとアドルフに教えられ、友人達へのお土産を選ぶべく店を覗き込む。
髪飾りにやペンダント、木彫りの置物等々……目移りしながら悩む事、十数分後――。
「んふふ♪ 良いお土産買えたさぁ」
フリューリングスルフトは向日葵色の髪紐とシャケを咥えたパンダを購入し、子兎と共にご満悦の様子で街を歩くのだった。
「ラグネル氏、来てくださったのですね。ご無沙汰しております」
「はい、今年も楽しませてください」
アドルフと握手を交わすルーンス・ラグネルは、今年は兄弟揃ってラントを訪れていた。
「兄のヴィナスです。以前弟が世話になったとか。よろしくお願いします」
「あぁ、お兄様でしたか。此方こそ様々学ばせて頂いておりますよ」
ラントの街を初めて見るヴィナスへの案内がてら、ルーンスとアドルフの間で早速交わされるのはビジネストークである。
「アドルフさん、今年の雪の調子はどうですか」
「降雪量も雪の質も昨年と然程変わりはありませんので、今年から氷室を利用してみようと話が進んでいます」
アドルフは示した先に、昨年には無かった小屋が建てられている。山の斜面に掘られた横穴を利用した倉庫になっているのが見て解った。
「去年話していたものですね! 素材は木材ですか?」
「ええ、まだ雪を入れるのはこれからですが、中を見学してくださっても構いませんよ」
「ありがとうございます、ちょっと見てきます!」
氷室へ駆けていくルーンスの姿をヴィナスと共に見守りながら、アドルフは眼を細めて静かに呟く。
「……まだ若いが、その分伸びしろもある。聡明な弟さんだ」
「そうでしょう。ルーンは可愛い上に頼もしいので」
当然という様子で自分の事のように微笑んで頷くヴィナスのブラコンぶりに、アドルフは一度静かに目を閉じると、伏し目がちに口元を緩ませて控えめに笑う。
「ええ、お気持ちは解ります。私も、下に一人居ましたのでね」
和やかに兄トークを重ねるうちにルーンスが戻ってくると、再びビジネストークを交わしつつ。街を一周し終えたところでアドルフは一旦仕事へ戻る為、互いに礼を伝えて別れを告げる。
「同盟で何か用事がある時はお声がけください。当商会で品物は用意できなくとも情報や伝手位なら用意できると思います」
「えぇ、その折には是非に。今日はどうぞごゆっくりお過ごしください」
昨年は大人数で雪合戦を楽しんだサイラスは、今年はのんびりと食べ歩きに興じることに決めたようで、ペットの大福と共にラントを訪れていた。
早速玉ねぎスープで身体を温めてから、デザートタイムに突入すべく削りイチゴを購入する。
「とりあえず全部」とメニューをそれぞれ全部購入した際には、露店の親父が『身体冷やさんようにな!』と面食らっていたらしい。
トッピングを一切取り除いたシンプルな削りイチゴから食べ始め、周囲を走り回る大福にもイチゴを少量お裾分け。
「とりあえず贅沢なもん食っても安い物とか嫌わずに食べる所とかは良いところだと思うぞ?」
飛びつく様にイチゴを頬張る愛犬の好き嫌いの無さには、主人であるサイラスでさえも感心するところである。
イチゴ本来の味にしっかりと舌を慣れさせた後は、練乳、シロップ、イチゴジャム……時には味を混ぜながら、様々な組み合わせを楽しんでいく。
頭痛に襲われないようにゆっくりと味わって。最後は全部乗せで贅沢をしてフィニッシュすれば、すっかり腹の中はイチゴで満たされていた。
アドルフと別れたヴィナスとルーンス兄弟は、露店で購入したイチゴ飴を手に散策をしつつビジネストークに花を咲かせる。
「キャンディフォンデュとかしたら面白そう」
イチゴに纏わせた飴をぱりっとかみ砕けば、その甘酸っぱさに刺激され、ふと案が思い浮かんだのだ。
「水飴を自分で果物にくるっと包んで雪や氷で冷やして固める……とか。屋台とかには向いてないけど面白いかも」
ルーンスの案に面白い試みだと、ヴィナスも飴を頬張りながら話しに乗っていく。
「チョコレートだとまだコストかかるしね。水飴の方が若干コストは抑えられるかな」
安価な卵を使ったカスタードフォンデュも面白いだろうし、蜂蜜を利用すればヌガーのような日持ちするお菓子をお土産にしてもいいかもしれない。
「アドルフさんにも、ゆるっとアイディアとして出してみよう」
「あぁ、いいんじゃないか」
案は独占するのもひとつだが、広めて需要を高めるのもまた市場の活性に繋がっていく。
原価やコスト、需要と供給。商売の基礎だからこそあれやこれやと意見を交わせば、ヴィナスも自分が商人である事を実感するのだった。
満足いくまで雪像を作ったナハシュとヨルは、日が落ちたラントで空腹を満たしに屋台を巡っていた。
玉ねぎスープをメインディッシュに、時折ハーブティとシンプルな削りイチゴを堪能しているナハシュを見れば、ヨルは『寒くないのか』という言葉を飲み込みつつも。
心配を隠きれずにチラチラと視線だけ寄越しながら自身もスープを啜っていた。
「寒い訳じゃねえからな。玉ねぎスープが美味いんだよ」
言葉に出さずとも、ヨルの心配は筒抜けである。
それならまぁいいか、いやよくないが。なんて頷きながらもスープを飲み終えたヨルはイチゴ飴を購入すると、そのままナハシュに飴を向ける。
「ん、飴だよ。一ついるかい?」
「お、じゃ一個だけ」
串からぱくりと一口貰えば、パリッとした飴の甘さに続いて瑞々しい苺が口にいっぱい広がった。
「すっげぇ、これ全部雪出来てんのか……」
「いや、壮観ですね」
広場を囲むようにずらりと並んだ雪像達。小さな雪だるまから大きなアルパカ、かまくらまで多種多様で、それらひとつひとつの出来栄えにはユドもアドルフも感嘆の溜息が漏れる。
「大成功なんじゃないの、商会長サマよ」
「ええ、皆さんのお蔭で大いに盛り上がりました。これは次回も楽しみですね」
アドルフは露店で貰ったというイチゴ飴をひとつ口に放り込むと、その甘酸っぱさも今日の想い出と共に噛み締めて。
ラントの祭りの夜は更けていく――。
コートに帽子、更にマフラーで防寒を徹底するヨル・スレイマンの姿を相変らず薄着のナハシュがあきれ顔で見ていた。
「お前……どんだけ寒いんだ……」
雪に囲まれた街中である以上、ヨルの格好の方が一般的には自然ではあるのだが。ちなみにナハシュの帽子とコートはヨルがしっかりと預かっている。
「君だから無理に着ろとはもう言わないけど、寒くなったらいつでも着るんだよ。これから雪まみれになるんだからね」
「動いてりゃ寒くなくなるぞ」
準備運動とばかりに伸びをしてから二人は今日の目的である雪像作りに取り掛かる。
ナハシュが作る雪像は彼らの家に住む黒アルパカがモデルのようで――雪なので色は白いが黒アルパカである。
「色が抜けたらこんな感じか?」
「なるほどアルパカだ。よくできているね、温かそうな毛並みだ」
もこもこの黒(白)アルパカが出来上がっていく隣で、ヨルは愛猫の『ネコ君』をモデルに雪を固めて削っていく。リアリティに拘るヨルは、踏み台も使い耳や毛並みまで細部の再現に余念がない。
――数時間後。
「うん、このサイズにするとなかなか凶悪な爪をしているね君……」
「あっはは、でけえなー!!」
何せスペースをめいっぱいに並んで鎮座するアルパカと猫、爪のサイズも相当なものだ。
せっせと時間をかけて完成した雪像は中々の迫力で、ナハシュはゲラゲラと腹を抱えて爆笑するのだった。
雪祭りと聞いて胸を躍らせていたファーシル・クリスティアは想い出していた。
脳裏に浮かぶのは仮面を付けた淑女、もとい師の姿――あれはいつだったか、『祭りも修行ですわ!』なんて言いながら誰よりもはしゃいで食べ歩き満喫していたのを――。
「私もお師匠様に負けずにお祭りを満喫します! えいえいおうー!」
今日は彼女も師に倣って目いっぱい楽しむ所存とスコップを掲げて気合十分。早速雪像づくりに取り掛かる。
ファーシルが磨き上げてきた上品さと力強さを組み合わせた流派である護気・幻耀剣で培った技術は並ではない。
鍛えられた頑健な足腰で重い雪をよいしょ、よいしょと積み重ねては削り、積み重ねては削りと地道な工程を繰り返していく。
「さーくれつだ、さーくれつだ、芸術はー炸裂だー」
鼻歌まじりに作業は進んでいき、見回っていたアドルフが通りがかった頃にはファーシルの作品はほぼ完成に近づいていた。
「おや、これは……」
とてつもなく精巧なシャケがこれまたリアルなパンダを咥えているではないか――周囲をざわつかせる奇抜さに、アドルフも思わずまじまじと見入ってしまう。
「なかなか、他に類を見ない作品です」
「ふふ、そうでしょう! 雪で像を作れるなんて楽しいですね!」
「そう言って頂けると開催した甲斐がありますね」
気分よく作る事ができたようでご機嫌にやりきったファーシルは、清々しい笑顔を向けるのだった。
ネーヴェ・グラヌローザとエルシー・サリバンは協力しながらかまくらを作成している真っ最中。目指すは豪華なかまくらである。しっかりと土台を作成した後は雪で形を整えていく。
授恵者といえども、華奢な少女たちである。重さのある雪は積み上げるのも削るのもかなりの重労働だが、お喋りと共に進めていけば楽しい想い出のひとときに早変わり。
「ネネ! 形はこんな感じで大丈夫かな?」
「はい、素敵だと思いますわ。では、私は中を作っていきますわね」
エルシーが外観を整えていく間に、中を空洞にするためスコップを構えるネーヴェの姿は中々様になっている。
普段はおっとりとした柔らかい雰囲気を纏っている事が多いものの、盛った雪をもりもりと掘り進めていくネーヴェの姿は凛々しくもどこか優雅で、その姿にエルシーは思わず魅入ってしまう。
「……エル? どうしましたか?」
「あ……見惚れて手が止まっちゃってたよ」
「まぁ……!」
視線を合わせてくすぐったそうにお互い笑い合えば。早く完成させなくちゃ、と作業を再開する。
削って彫って、整えて。最後に水を掛けて外観を凍らせれば、城の形をしたかまくらの完成だ。
繊細な模様で彩られ、外観だけに留まらず内部の中央にも狐と雪の結晶のモチーフが刻まれる。入口にも彼女達の相棒である栗鼠のティムと猫のアーテルを模した雪人形がちょこんとお座りをして門番を務めている。
「お? お嬢さんたちすげーの作ったなぁ! これ2人でやったの?」
せっせと雪を運んでいたユドは思わず足を止め、感嘆の声を漏らした。
「ふふ、そうでしょう? 頑張った甲斐があったね!」
まさに氷の城と呼べる見事な出来栄えに、ユドに限らず行く人の目を引き付けたのは言うまでもない。
中には雪で作った椅子とテーブルもしっかりと並べられて、二人並んで座れば素敵なティータームの始まりだ。
樽ジョッキにたっぷりと注がれたホットチョコをひと口啜れば、冷えた身体がじんわりと温まるのを感じる。
「ふふ、一仕事終えた後に一緒に頂くホットチョコレートは格別ですわね」
「疲れた体に甘いのが染みるね……」
雪が音を吸収して、賑やかなはずの外の雑音は思いのほか気にならない。そんな静かな空間の中、白を纏うネーヴェの姿は景色に溶け込んで、外を眺める姿は額に入れたいほどに美しく映えていた。
「……ル、エル?」
はっと我に帰れば、不思議そうに首を傾げたネーヴェの姿。
「あ、また見惚れちゃってた……」
「ふふ、エルったら」
寒さも気にならない程に少女たちの温かく幸せな時間は、もう少し続くのである。
今年は恋人同士としてラントを訪れたエル=バ=ノイアンとシルヴィア・A・カペル。この街で過ごすのは彼らも1年ぶりとなる。
王国で過ごす時間も多い彼らにとって雪が積もる景色はやや珍しく、柔らかい銀雪が反射した陽光で街を照らす様子は少し不思議な光景だ。
「こうして方々に足を伸ばせば、いろんな景色と出会えるが……ふむ」
周囲を見渡すノイアンはふと思い立ち、まっさらな雪に手を突っ込み塊を作るとそのまま雪の上を転がし始める。
「……ノイアン?」
おもむろに雪だるまを作り始めた彼にシルヴィアが目を瞬かせると、ノイアンは慌てて弁明する。
「いや、なんだ、こうも見事に積もっていれば、土をつけずに雪だるまが作れるのではないかと思って……」
「あぁ、確かに綺麗な雪だるまが作れそうだね」
シルヴィアが頷けば、大きさやデザインを相談しながら共同作業での雪だるま製作が開始される。
「頭と体のバランスにはこだわりたいね」
「バランスといえば、3段以上重ねるスノーマンもあるそうだ」
「ふふ、それなら3段以上重ねようか。手分けした方が効率がいいかな。私は胴体を作っていこう」
童心がうずいてきたのを隠しきれない様子のノイアンに、シルヴィアは口元を緩ませる。
お喋りに興じながら雪玉を転がしていけば、あっという間に両手で抱える程の真っ白な雪玉が3つ完成した。
ノイアンが雪玉を重ねている間に、腕代わりに挿す枝を探してきたシルヴィアは、突如吹いてきた強い風の冷たさに思わずノイアンの後ろで縮こまる。
彼女も背が低い方ではないはずだが、長身のノイアンの背中に隠れれば、その姿はすっぽりと納まってしまう。
(……暫くこのままくっついていたい)
「ん? どうした……」
「あ、いや……風が冷たかったから、思わず君の背に隠れてしまった」
広い背中が頼もしくてひっそりとノイアンのコートの背に頬を寄せていると、彼女の様子に気付いたノイアンがきょとんとした顔で振り返る。思わずシルヴィアの頬に赤みが差した。
「風除けがいるなら、次はカマクラでも作るか?」
シルヴィアの髪が溶けた雪で濡れている事に気付いたノイアンが手巾を当ててそっと拭きとりながら問いかければ、シルヴィアの視線がおどおど定まらなくなってしまう。
「……風除けはまぁ、口実でもあったのだけれど」
「……口実ということなら、一緒に入れるくらい大きいものを作らないとな」
まだ熱が引ききらないシルヴィアの頬が、更に赤くなっていく。ふたりで入るかまくらは、きっと温かく心地よい空間だろう。
「楽しみにしているよ」
彼の肩に掛かった雪をそっと払いながら、シルヴィアは幸せな笑顔を向けた。
「雪だー!」
愛猫のショコラと共に雪の上を飛び回るパルドの後を、帽子やマフラーで防寒したミニコボのチョコもちょこちょこと歩いてついていく様子がなんとも微笑ましい。
昨年チョコと偶然ラントに立ち寄ったウォーゼルは、今年はパルド達と共にラントを訪れていた。今日はふたりチョコとショコラをモデルにした雪像とかまくらを作る心算である。
心ゆくまで雪にまみれて転げ回ったあとは、スコップを片手に製作を開始する。
「サイズはオレらの背丈ぐらいのが作りやすいかな?」
「そうだね、それくらいが丁度良さそう」
ウォーゼルとパルド、ふたりで協力しながら雪を積み、形を整えたら細かな部分を削っていき――
「……あれ? いつの間に」
ウォーゼルがふとみると、いつのまにか隣で作業をしていたはずのパルドの姿が見えなくなっている。
どこにいったのかと周囲を見渡せば、いつの間にかショコラ達と戯れているパルドをすぐに発見した。目が合った瞬間に思わず苦笑が漏れる。
「おぉーい!」
「いや違うぞ、飽きたとかじゃなくて休憩も必要だと思うんだ」
見つかったという表情を浮かべつつ、ショコラを抱えるパルドが弁明するも、飽きたと顔に書いてある。しかし作業も終盤に差し掛かっており、休憩にはまだ少し早い。
「もう少しだから頑張ろう?」
相方に優しく諭されてパルドも素直に作業再開すれば、そこからの作業は早かった。
数十分後、二人の背丈と並ぶほどのチョコとショコラの雪像に猫耳を生やした愛らしいかまくらが完成する。
「うん、結構いい出来じゃない?」
「そっくりだよな」
完成した雪像とチョコ達をを見比べてウォーゼルが笑顔を浮かべれば、パルドも満足げに頷いて。去年もらったラント土産のキーホルダーも二匹によく似ていたなと想い出す。
雪像作成を終えた後は皆でかまくらに入り、疲れた身体を癒す。
天井に下げたテラリウムのランタンが優しく照らす空間の中、ブランケットを敷いた藤篭の中からはショコラ達が顔を出し、皆で身を寄せながら暖を取る。
事前に購入しておいた玉ねぎスープやイチゴを頬張って和気藹々とした時間を過ごせば、この地に来られた嬉しさに全員の顔が自然と綻ぶ。
「あ、これしってる。カマクラっていうんでしょ」
「お耳もついてる! すごーい!」
雪像を見て回る子供達も、その暖かな空気に惹かれて時折ひょっこりと中を覗き込んでくる。
「一緒においで。みんなで使おう」
可愛らしい来客にパルド達が手招きをすれば、子供達から歓声が上がった。
広場を囲むように多くのひとが雪像作りに勤しむ様子が目に留まり、ルイドは思わず足を止めた。
「ほぉ、雪で作るのか……」
積もった雪を掬いとり、ぎゅっと握ると小さな雪の塊が掌に残る。なるほど確かにこれを積み重ねていけば像を作れるのだと感心する。
「どれ、俺もなんか作ってみるか」
元々は露店での食べ歩きを予定していたものの、雪に触れてすっかり好奇心が刺激されてしまったようだ。ここは一旦変更し、先に雪像作成に挑戦することに。
とはいえ、さて何を作ろうかと思案して空を仰ぐと、街路樹に留まった小鳥が視界に入る。柔らかな冬の羽毛は寒さを凌ぐために膨らんで、夏よりも更に丸々とした姿が印象的だ。
「……あぁ、鳥にするか」
腰辺りまでのサイズの雪玉を固めて小鳥の身体を作ってから、試行錯誤を重ねつつ徐々に細部を整えていく。
羽の表現に苦戦しつつも丁寧に模様を削った後、柔らかな雪をまぶすように纏わせて全体をふっくらと見せていけば――。
「わぁ、可愛い鳥さん……!」
「すごい、ふかふかしてる!」
まあるくふかふかな胴体に、石を埋めて表現したつぶらな瞳、小さな嘴。小首を傾げたような仕草を見せる小鳥はなんとも愛らしく。その出来栄えに、道行く子供や女性達からは絶賛の声が挙がっている。
しかしならが当のルイド本人は自作の雪像を見ながら『まるっこくて食ったら美味そうだよな……』なんて密かに思っていたらしい。恐らく空腹もあるのではなかろうか。
無事完成した雪像も満足のいく出来栄えになったとひとつ大きく伸びをすれば、作業開始から太陽の位置が大分ずれている事に気付く。
随分と集中してしまったようだと、ルイドは腹の虫が騒ぎ出したところで当初の予定通り、食事へと繰り出すのだった。
「見てイュン! ツリーさぁ。うちらも何か飾ろうか!」
フリューリングスルフト=ティエラは子兎を腕に抱えて、ツリーを囲むように点在する露店を巡っていく。
「イュンはこれが好きさぁ?」
ピコピコと動く耳を見ながら、星や花、兎を模ったオーナメントや狸の人形を購入すれば飾り付けの準備は万端だ。
ツリーの周囲は飾り付けをする人々で賑わっており、アドルフも丁度子供達の飾り付けを手伝っているところだった。巡回ついでにこうして子供達に手を貸しているらしい。
フリューリングスルフトもオーナメントを何処に飾ろうかと大きなツリーを見上げて暫し思案。
「上の方に飾ってもええかな?」
「ええ、構いませんよ。梯子や脚立もありますが」
「大丈夫さぁ!」
言うが否や、フリューリングスルフトは地面を蹴って軽やかに跳びあがる。ひらりひらりと舞いながらあっという間に天辺まで登っていき、枝にオーナメントを結びつけた。
「お姉ちゃん、すごーい!」
「私のも天辺の近くに飾れるかなぁ」
「うちが手伝うから大丈夫! この辺でいいさぁ?」
その姿を目にした周囲が沸くのはいう間でもなく。暫しの間、子供達のオーナメントを飾り付けるためにツリーの周囲を飛び回る赤毛の少女の姿が見られたという。
「お姉ちゃんありがとう!」
フリューリングスルフトの働きで、大きなツリーは天辺まで満遍なく飾りが施され見栄えが増していた。
ひと区切り付いたところで手を振る子供達に見送られ、彼女は再び露店へと足を伸ばす。
「いい仕事したさぁ♪ お土産買っていこうか、イュン」
去り際に木彫り工芸がおすすめだとアドルフに教えられ、友人達へのお土産を選ぶべく店を覗き込む。
髪飾りにやペンダント、木彫りの置物等々……目移りしながら悩む事、十数分後――。
「んふふ♪ 良いお土産買えたさぁ」
フリューリングスルフトは向日葵色の髪紐とシャケを咥えたパンダを購入し、子兎と共にご満悦の様子で街を歩くのだった。
「ラグネル氏、来てくださったのですね。ご無沙汰しております」
「はい、今年も楽しませてください」
アドルフと握手を交わすルーンス・ラグネルは、今年は兄弟揃ってラントを訪れていた。
「兄のヴィナスです。以前弟が世話になったとか。よろしくお願いします」
「あぁ、お兄様でしたか。此方こそ様々学ばせて頂いておりますよ」
ラントの街を初めて見るヴィナスへの案内がてら、ルーンスとアドルフの間で早速交わされるのはビジネストークである。
「アドルフさん、今年の雪の調子はどうですか」
「降雪量も雪の質も昨年と然程変わりはありませんので、今年から氷室を利用してみようと話が進んでいます」
アドルフは示した先に、昨年には無かった小屋が建てられている。山の斜面に掘られた横穴を利用した倉庫になっているのが見て解った。
「去年話していたものですね! 素材は木材ですか?」
「ええ、まだ雪を入れるのはこれからですが、中を見学してくださっても構いませんよ」
「ありがとうございます、ちょっと見てきます!」
氷室へ駆けていくルーンスの姿をヴィナスと共に見守りながら、アドルフは眼を細めて静かに呟く。
「……まだ若いが、その分伸びしろもある。聡明な弟さんだ」
「そうでしょう。ルーンは可愛い上に頼もしいので」
当然という様子で自分の事のように微笑んで頷くヴィナスのブラコンぶりに、アドルフは一度静かに目を閉じると、伏し目がちに口元を緩ませて控えめに笑う。
「ええ、お気持ちは解ります。私も、下に一人居ましたのでね」
和やかに兄トークを重ねるうちにルーンスが戻ってくると、再びビジネストークを交わしつつ。街を一周し終えたところでアドルフは一旦仕事へ戻る為、互いに礼を伝えて別れを告げる。
「同盟で何か用事がある時はお声がけください。当商会で品物は用意できなくとも情報や伝手位なら用意できると思います」
「えぇ、その折には是非に。今日はどうぞごゆっくりお過ごしください」
昨年は大人数で雪合戦を楽しんだサイラスは、今年はのんびりと食べ歩きに興じることに決めたようで、ペットの大福と共にラントを訪れていた。
早速玉ねぎスープで身体を温めてから、デザートタイムに突入すべく削りイチゴを購入する。
「とりあえず全部」とメニューをそれぞれ全部購入した際には、露店の親父が『身体冷やさんようにな!』と面食らっていたらしい。
トッピングを一切取り除いたシンプルな削りイチゴから食べ始め、周囲を走り回る大福にもイチゴを少量お裾分け。
「とりあえず贅沢なもん食っても安い物とか嫌わずに食べる所とかは良いところだと思うぞ?」
飛びつく様にイチゴを頬張る愛犬の好き嫌いの無さには、主人であるサイラスでさえも感心するところである。
イチゴ本来の味にしっかりと舌を慣れさせた後は、練乳、シロップ、イチゴジャム……時には味を混ぜながら、様々な組み合わせを楽しんでいく。
頭痛に襲われないようにゆっくりと味わって。最後は全部乗せで贅沢をしてフィニッシュすれば、すっかり腹の中はイチゴで満たされていた。
アドルフと別れたヴィナスとルーンス兄弟は、露店で購入したイチゴ飴を手に散策をしつつビジネストークに花を咲かせる。
「キャンディフォンデュとかしたら面白そう」
イチゴに纏わせた飴をぱりっとかみ砕けば、その甘酸っぱさに刺激され、ふと案が思い浮かんだのだ。
「水飴を自分で果物にくるっと包んで雪や氷で冷やして固める……とか。屋台とかには向いてないけど面白いかも」
ルーンスの案に面白い試みだと、ヴィナスも飴を頬張りながら話しに乗っていく。
「チョコレートだとまだコストかかるしね。水飴の方が若干コストは抑えられるかな」
安価な卵を使ったカスタードフォンデュも面白いだろうし、蜂蜜を利用すればヌガーのような日持ちするお菓子をお土産にしてもいいかもしれない。
「アドルフさんにも、ゆるっとアイディアとして出してみよう」
「あぁ、いいんじゃないか」
案は独占するのもひとつだが、広めて需要を高めるのもまた市場の活性に繋がっていく。
原価やコスト、需要と供給。商売の基礎だからこそあれやこれやと意見を交わせば、ヴィナスも自分が商人である事を実感するのだった。
満足いくまで雪像を作ったナハシュとヨルは、日が落ちたラントで空腹を満たしに屋台を巡っていた。
玉ねぎスープをメインディッシュに、時折ハーブティとシンプルな削りイチゴを堪能しているナハシュを見れば、ヨルは『寒くないのか』という言葉を飲み込みつつも。
心配を隠きれずにチラチラと視線だけ寄越しながら自身もスープを啜っていた。
「寒い訳じゃねえからな。玉ねぎスープが美味いんだよ」
言葉に出さずとも、ヨルの心配は筒抜けである。
それならまぁいいか、いやよくないが。なんて頷きながらもスープを飲み終えたヨルはイチゴ飴を購入すると、そのままナハシュに飴を向ける。
「ん、飴だよ。一ついるかい?」
「お、じゃ一個だけ」
串からぱくりと一口貰えば、パリッとした飴の甘さに続いて瑞々しい苺が口にいっぱい広がった。
「すっげぇ、これ全部雪出来てんのか……」
「いや、壮観ですね」
広場を囲むようにずらりと並んだ雪像達。小さな雪だるまから大きなアルパカ、かまくらまで多種多様で、それらひとつひとつの出来栄えにはユドもアドルフも感嘆の溜息が漏れる。
「大成功なんじゃないの、商会長サマよ」
「ええ、皆さんのお蔭で大いに盛り上がりました。これは次回も楽しみですね」
アドルフは露店で貰ったというイチゴ飴をひとつ口に放り込むと、その甘酸っぱさも今日の想い出と共に噛み締めて。
ラントの祭りの夜は更けていく――。
マスターコメント
ご参加ありがとうございました。
雪像づくりに参加された方も多く、素敵な作品が沢山生まれたお祭りになりました。
雪はいつか溶けてしまいますが、想い出や記録としてラントの街にずっと残り続けることでしょう。
楽しんで頂けましたら幸いです。
イベントシナリオ易しい 報酬:無し14 / 4〜25人
2023年01月10日 13時44分10秒 公開
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