【聖祭】世界樹の下で

七海真砂

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シナリオID:2689

オープニング

 フィルエス大森林に暮らす湖水(アエリゼル)の巫女、ニルヴァーナは、世界樹の元を訪れていた。
 世界樹を巡る戦い、失われた多くの集落、それでも手に入れられた勝利と……滅びの予言。
 ――かの幽界樹を滅さぬ限り、いずれ滅びの時は来よう――。
 世界樹がもたらしたその言葉は、今も昨日のことのように思い出せる。

 この常春の森が、激動に呑み込まれた一年であったと、言えるだろう。

「だからこそ……人々が晴れやかな心で新年を迎えられるように、しなければいけませんわ」
 聖霊節のお祭りは、きっとその為の良い機会になる……そうニルヴァーナは考えていた。装飾用にテラリウムのランタンを取り寄せ、世界樹の周囲を飾ることで、世界樹を礼拝する人々の気持ちを華やいだものにさせ、料理や飲み物を振る舞うことで、多くの人々に楽しんで貰いたい……と、そう思ったのだが。

「ああ! 一人では準備が終わりませんわ~~!!」
 テラリウムのランタンを飾り付けるだけでも一苦労。終わりは見えず、料理の準備は手付かず。それでも祭りは明日に迫っている。
 お助け下さいハイアルヴ様! と祈ってみるがハイアルヴ様――つまり目の前の世界樹――は答えちゃくれない。
「人の子よ、己の力で成し遂げよ……ということですわね? わかりましたわ!」
 とりあえずそう解釈したニルヴァーナだが、自分一人じゃ間に合わないのは火を見るよりも明らかなので、ここは一つ、頼りになりそうな人物を頼ることにした。
 つまり。

『急募 聖霊節のパーティのお手伝いをしてくれる冒険者』
 という告知が冒険者ギルドに並んだのだった。

解説

 世界樹の下で過ごす一日の様子を描くシナリオです。  朝から夕方まではパーティの準備、夜はパーティの時間になります。  あ、世界樹の中には入れません。危ないからね。 ●パーティの準備をしよう  聖霊節のお祭りにあわせて、世界樹にはエルフ達が礼拝に来ます。その周辺をテラリウムのランタンで飾り付けて、明るく華やいだ雰囲気を演出しましょう。  既にニルヴァーナが世界樹の周囲を結構飾っているのですが、まだまだランタンはあるようです。  パーティでは聖霊節らしいご馳走が振る舞われる……予定でしたが、まだ料理は何もありません! 飲み物も何かロマンティックでムーディな感じの物が振る舞われる予定だったらしいですが、何もありません。  いい感じになるように準備いただけたら嬉しいです。  その他にも、聖霊節のお祭りを盛り上げるための準備ができると良いかもしれません! ●パーティに参加しよう  テラリウムのランタンの明かりに照らされた、世界樹を見上げながら過ごしてみませんか?  聖霊節のお祭りの際に、世界樹に捧げた祈りや願いごとは叶い、誓った約束は永遠になる……なんて言い伝えがあったりするようです。  きっと誰かが頑張ってくれるので(!)美味しいご馳走やドリンクもたくさんあるはずです。この日限りのとびっきりのメニューを楽しみましょう。

マスターより

 こんにちは、七海真砂です。  今回の舞台は世界樹の下。世界樹を礼拝しながら厳かに過ごしたり、ご馳走やドリンクが振る舞われる(はず)の会場で楽しく過ごしたりしませんか?  ご参加、お待ちしています。

リプレイ

「わあ……」
 大きな大きな世界樹を、アステルはキオルティスと一緒に見上げていた。
(これまで、幾多の聖霊節を迎えてきたんだろう……)
 数えきれないほどの聖霊節を見守ってきたのであろう、世界樹の姿にそっと祈りを捧げ、アステルは傍らのキオルティスを見る。
「パーティーの準備とパーティーの盛上げ、頑張ろうね」
「そうだね。聖霊節に彩りと華やぎを添えられれば良いね」
 兄と一緒に聖霊節のパーティを過ごせることを喜びながら笑うアステル。そんな妹に頷き返しながら、キオルティスも「アステルの笑顔が一番のきらめきだけれど、ね!」と目を細めて微笑んでいる。
「これが世界樹……」
 レピド・クロサイトも聳え立つ世界樹を見上げていた。見上げても果てが無いほどに高く感じられ、流石にこれだけ大きければ、準備も大変なのが頷けると、レピドは用意されたテラリウムのランタンへと目をやる。
「あれから、世界樹の様子、は、どんな感じ……?」
「光り輝く聖なる石――エーテル石は確かに世界樹へ力を与えてくれたようですわね。異変は落ち着き、世界樹は穏やかにわたくし達を見守っていてくれております」
 エルの問いかけに答えながら、ニルヴァーナはテラリウムのランタンを手に取る。この暖かい光のように――イダの影響は振り払えているらしいと聞くと、エルもホッとする。
「必要なのは装飾と料理ですよね。まずは二手に分かれましょう」
 作業の進め方に関しては、キリアン・フィッツジェラルドが采配を振るった。役割分担を徹底すれば、限られた時間も有効に活用できるはずだと口にするキリアンに、一緒にいたアドルフ・ジーノも頷く。
「うんうん。お料理は得意な人がいるだろうから、そういった人にお任せなんだよ」
 適材適所で進めていくとして。装飾側に集まった面々にキリアンは作業を割り振る。まずは空間全体を大まかに飾り付けて、それから細部に手を付けて行くのが良いだろう。
「壁歩きを使えば、高いところもいけると思うが……世界樹は歩いても大丈夫なものだろうか」
 人々が敬い、信仰の対象ともなるような存在だ、足蹴にするのはどうなのだろうか……と気にするレピドだったが、
「壁歩きが有効かはわかりませんけれど……木登りと同じですわよね。まあ、大丈夫ですわよ」
 世界樹に登ろうとすることが禁忌ということはない。怒る者が絶対にいないとは言わないが、気にしない人が大半ではないだろうか……とニルヴァーナは言う。それなら、と身軽なレピドは高所を受け持つことにした。
「ランタンの近くに、光を反射するような飾りを付けるのはいかがでしょう? 反射で光が増して綺麗だと思うのです」
 スィーリーンは試作した星型の飾りを皆に見せる。薄い木の板の表面に、光沢のある布を貼り付けたそれは、木漏れ日を受けてキラキラ、キラキラ。
「素敵ですわね……でも、今からで準備は間に合いますかしら?」
「難しい物ではありませんから大丈夫です。手細工は得意ですので、お任せ下さい」
「では、スィーリーンさんの作る装飾を取り付ける位置も考えながら、ランタンを置いていきましょう」
 頷き合い、一同はテラリウムのランタンを両手から下げたり、鞄に入れて背負いながら、飾り付けに向かう。
「所々、足元にもあると歩きやすい、かも」
「なるほど……」
 足元に落ちていた枝や石を拾い、取り除いていくエルの言葉に頷いて、ミゼリア・L・ステュクスは道の右側にそっとテラリウムのランタンを置く。その間隔を見ながら、道の左側にテラリウムのランタンを配置していくのはシャドウである。黙々と作業を進めていく二人によって、足元はあっという間に明るく照らされていった。
「この辺りにもあった方が良いかな?」
「そうだね……ああ、そんなに背伸びすると危ないよ、アステル」
「大丈夫だよお兄ちゃん……とと」
「ほら」
 キオルティスは優しく笑いながら、バランスを崩しかけたアステルの体を支えると、二人で一緒にテラリウムのランタンを吊り下げる。丁寧に、祈りと畏敬の念を込めながら灯すランタンの光は、美しく世界樹の姿を照らす。
「スィーリーンさん、お預かりしますね」
「はい、お願いします」
 グレイブ・ヤードとリディリディ・トゥラ・イェレミースはスィーリーンが作った星飾りを運び、そうした明かりの傍に添えていく。やがて、ゆっくりと日が傾いていく中、幻想的な明かりに世界樹の姿が浮かび上がる――。

 ランタンの飾りつけの目処がついた頃、エルは作業を抜け出すと、近くの集落で借りたテーブルを運び込んでいた。作業を手伝うのはゴルバルティアとセリオス・オーガストである。
「手伝って、頂いて……助かります」
「なに、力仕事は得意だからな」
 任せておきな! と豪快に笑うだけあって、ゴルバルティアはひょいとテーブルを担いで軽い足取りで世界樹の元まで戻って来る。
「この辺りが良いだろうか」
 飾り付けられた世界樹がよく見える一角を選び、セリオスはテーブルを置く。バランスを見ながらテーブルを配置していると、同じように世界樹の傍を離れていたキリアンとアドルフが戻って来た。
「狩りか?」
「はい。猪が獲れたので焼こうかと」
「いい感じの香草も採れたしね」
 アドルフの鞄には、近くで見かけた薬草や香草が入っている。うまく香草焼きにして貰えば、聖霊節の料理の一つになってくれるだろう。
「あとは焼くだけだな」
「火を起こして来るよ」
 即席の調理スペースでは、カイン・ステラが胡桃とケシの実を使ったペーストを生地で巻いたベイグリを、ヴィナスが砕いたクッキーとチョコレート生地を混ぜ合わせて形を整えたティンギニスを作っていた。
 ヴィナスが起こした火でベイグリを焼きながら、しっかり固めたティンギニスをマジカルポケットで運んできた氷を使って冷やしていく。
「今のうちに飲み物の準備もしようか」
「手伝うよ」
「ありがとう、ヴィナ」
 オレンジ&レモンジンジャーのコーディアルと薔薇とラズベリーのコーディアルを取り出すと、適量をカップに入れて。味を整えながら、鍋で沸かした、たっぷりのお湯を使ってお湯割りに仕上げる。
「あとはお湯を注ぐだけの状態にしておけば、すぐに配れるな」
「そうだね――あ、焼けたみたいだよ」
 準備を進めている間に、焼き上がったベイグリを火から下ろすと、二人は切り分けて皿に盛り付けていく。
「後はサラダなんかあると良さげかね」
 香草焼きを仕上げたサイラスは、見映えするように赤みの強いソースをかけ、次は彩りの華やかなサラダ作りに取り掛かっていく。ドレッシングは白系でまとめて、夜空の下でも映えるように工夫すると、今度は持ってきたオレンジを潰す。
「スクリュードライバにして出すか。……量は少なめで」
 小さなグラスで振る舞うように、サイラスは準備する。酔っ払いを量産するのが目的じゃ無いし、嗜む程度に留めておかなければ、ムーディーな場がトンチキ飲み会になりかねないと危惧してのことだ。
「ん、人が集まって来たね」
「じゃ、そろそろ一枚目いくか!」
 辺りを見て呟くヨル・スレイマンの言葉に、ナハシュがニッと笑う。ヨルの手からナハシュの手へと渡っていくのは、丸い生地の上にトマトソースをたっぷり塗って、スライスした野菜とベーコン、チーズをたっぷり載せた――ピザだ!
 大きな大きな……巨大ピザがナハシュの手によって運ばれていく。
 石を積み上げて用意した即席の窯は、エーテルを通じた働きかけによって火を起こして予熱してある。焼き立てを食べて貰えるように、とタイミングを見計らってピザを焼き始めると、辺りに良い匂いが漂った。
「これは良いね。絶対に美味いやつだ」
 とろとろにとろけたチーズが、食べ頃を教えてくれる。ヨルの表情は見えないけれど、その声を聞けばテンションMAXなことはすぐにわかる。
「食おうぜ? 最初の一切れは、焼いた俺と作ったお前の特権だろ」
 誰にも譲る気は無いと、ヨルが切り分けた最初の一切れをナハシュは掴む。
「うめぇ!!!」
「うん、酒が欲しくなる」
 高らかに叫ぶナハシュの傍らで、これは絶対に合うやつだとヨルはグラスを取りに行く。その間に、二人の声や良い匂いにつられて集まって来た人々へ、二人は早速ピザを配っていく。
(運ぶだけなら、手伝っても大丈夫だろうか?)
 なるほど、こういうのが聖霊節のご馳走なんだな……と調理スペースの様子を眺めていたレピドは、ピザを欲しがる人々の列整理をする。
(運が悪いと、俺が火をつけた鍋は爆発するからな――手伝いはこの位にしておこう)
 それは運が悪いからではなく、余計な一手間を加えるせいなのだが、レピドの記憶力をもってしても正しくは認識できていないようだ。ともあれ、適切な判断によって、料理が爆発するという惨事は免れた。

(ハイアルヴ様……世界樹様……)
 一方、世界樹の下には祈りを捧げる人々が次々と訪れていた。テラリウムのランタンで照らし出された世界樹の姿を見つめながら、リディリディも両手を組んで祈りを捧げる。
(なんとなく……なつかしい気がするのは、わたしがエルフだったから、でしょうか……)
 ミゼリアにはホムンクルスになる前の記憶が無い。何かを思い出したわけでもないが、なんとなく、世界樹に祈る人々を見ていると胸がきゅっとする気がする。
 エルフ達の尖った耳――ミゼリアと同じ尖った耳。
 もしかしたら、ミゼリアもいつか、こうして世界樹の元へ祈りを捧げに来たことが、あるのだろうか?
「何か、作法などはあるのでしょうか?」
「祈り方は、人によって様々ですわね。わたくしはフィルエス湖から運んできた清めの水……聖水を振りかけながら祈りますけれど、湖水の里の者が皆そう祈るという訳ではありませんし……」
 グレイブの問いにニルヴァーナは答えながら、小瓶を取り出す。実際、周りを見ていても祈り方は人それぞれのようで、リディリディのように目を閉じて祈りを捧げる形を基本に、様々なバリエーションが見られた。
「わたくしのやり方でよろしければ……聖水をお分けしましょうか?」
「そうですね、ええ、お願いします」
 儀礼というものは積み重ねによって出来ている。ハイアルヴの巫女であるニルヴァーナに伝わる祈り方もまた、その形の一つとして敬いたいと、グレイブは手順を教わりながら聖水を身に振りかけて祈る。
(願わくば、来年(つぎ)もまた。この世に生きる者全てに、良き実りのあらんことを)
 そして、
(地に還りしものたちに、安らかなる眠りを)
 喪われていったものたちにも幸いがあるようにと、グレイブは祈る。
「エルフの人たち、に、とって……身近にあって、とても大切な存在、なんです、ね?」
 見よう見まねで同じように礼拝しつつ、エルは世界樹とそこに集った人々を見つめていた。
「はい。――世界樹が、世界の裂け目を塞ぎ続けていることを皆が知った後、その傾向は更に強まっているかもしれませんわ」
 世界樹を敬い、祈る人々の姿には、そんな影響もあるらしい。大地の守護者――偉大なその存在を大切に感じる者が多々いても不思議ではないし、そんな世界樹だからこそ、願い事が成就すると皆が信じるのだろう。
「願い事は、来年も様々な体験が出来ますように、かな」
 レピドはホムンクルスとして目覚め、冒険者になってからの日々を振り返る。経験した様々な出来事は、そのどれもが大切で――この先もそうした経験を増やしていきたいと、そう思うから。
(俺の願い事は、勿論あれだな)
 サイラスは、他の何者にも邪魔されることなく『自分』を保ったまま竜化が果たせるように、と願を掛けておく。その為に己を磨き、研鑽を積む日々を送ってきているつもりだ。
(転生したら俺じゃ無いもの。俺は、俺のまま竜になってみせる)
 輪廻転生を信じるリザードマンでありながら、輪廻転生を望まない。自分自身を更なる高みへ昇らせてみせるという、それは改めての決意表明でもあった。
「祈り、約束、それらが永遠のものになるのなら、僕達の星の輝きも、小さくても永遠のものになるのでしょうか」
「一つの祈りや約束がたとえ小さくても、集まれば大きくなって、遠くても強く大きく照らす道標になるよ。きっとね」
 祈り、願う皆の姿を見ながらキリアンが呟いた言葉に、アドルフが答える。アドルフらしい答えだと笑みを覗かせて、キリアンはきっと、今こうしてテラリウムのランタンが世界樹を、この場所を照らし出しているように、皆の願いもまた輝く時が来るのだろうと、行き交う人々の姿を見つめる。

(真剣に祈ってる奴が多いんだな)
 焼き立てのピザに齧りつきつつ、シャドウはそんな世界樹の様子を見つめていた。ずいぶんと馬鹿でかい木だが、これにそんなご利益があるとは。
(願い事か。俺は特に無いな)
 強いて言えば、失われた記憶が元に戻るように、くらいだろうか。
 素性も、名前も何も思い出せないシャドウにとって、この場はとりあえず食事にありつける素晴らしい場である。取り分けた猪の香草焼きをもぐもぐと齧ると、更にベイグリとティンギニスへ手を伸ばす。
(おいしい……)
 初めて見るお菓子に内心そっと心躍らせ、ミゼリアも一切れずつベイグリとティンギニスを口へ運ぶ。素朴で、でもとても美味しいその味を噛みしめるように、ゆっくりと食んだミゼリアは、静かにその味を楽しんでいる。
「おかわりを……いただいても、いいでしょうか……今度は、薔薇とラズベリーの方を……」
「勿論構わないよ」
 カインが渡すお湯割りを受け取って、一口……ほっと息をつくミゼリアであった。
 シャン!
 そんな中、響いた音色にミゼリアが視線を向ける。そこに立っていたのはキオルティスとアステルだ。
(せーの!)
 視線を交わしてタイミングを計り、キオルティスの抱えた竪琴とアステルの持つフルートが同時に音色を奏で始める。静かだけれど場が華やぐようにと、二人が奏でる曲に、キオルティスの足に付けられた鈴が時折揺れ、辺りを包み込んでいく。
(ここにいる人たちの笑顔が守られますように)
(世界が幸せに満ち満ちているように)
 願いを、祈りを込めたメロディがこの空間の彩りと化す中、スィーリーンは料理を覗き込んだ。
「こちらは、鮎でしょうか?」
「はい、フィルエス湖で採れた鮎をお持ちしましたの」
 スィーリーンの問いかけにニルヴァーナが頷く。トマトやオリーブと一緒に煮込み、アクアパッツァにした鮎は、あっさりとした口当たりで思わずフォークが進んでしまう。
「湖水の里ではこういうのを食うんだ?」
「そうですわね、魚料理は豊富ですわよ」
 ナハシュが皿に取り分けてヨルの元へ戻ると、ヨルは静かに世界樹の方を見つめていた。イダの影響下に置かれた世界樹による事件は記憶に新しく、少し複雑な思いはあるけれど。
「食おうぜ?」
「……そうだね」
 頷いて、酒を片手に口にする料理は旨い。
「今回のは、これはこれで楽しかったな。飯もうめぇし」
「そうかい? じゃあ来年は巨大ステーキか巨大ミートパイにしようか」
「いいな! じゃあ次はミートパイにしようぜ。今日のピザかそれ以上にでかいやつ!!」
 さぞ喰い応えのある物が出来上がるだろうとワクワクしながら笑うナハシュに、OKとヨルは笑んだ。
(来年も、また一緒に――ナハシュはそこまで深く考えていないかも、しれないけどね)
 世界樹が願いを叶えてくれると言うのなら、今はそう誓いを立てておこうと、ヨルはピザを口の中へ運ぶ。
「カインも。カインだってたまには、怠け者になってのんびりしていいんだよ?」
「怠け者って……」
 ヴィナスの言葉に思わず苦笑しながら、カインもまたテーブルの方へ向かう。洗い物を片付けてしまおう、と考えていたカインだったが「それは後で俺がやるから」とまで言われてしまえば、パーティに参加しない訳にはいかないだろう。
「はい、これ食べて食べて。――こんな日だし、お母さんに親孝行っていう気分味合わせてよ」
「年下に親孝行気分も何もないだろ」
 孤児院の子達には兄ちゃんじゃなくて母ちゃんだと思われている節のあるカインだが、ヴィナスにまで『カイン母ちゃん』扱いされてしまうとは。
(でもこれ、冗談、とかじゃなく……ガチなんだろうな)
 ヴィナスの態度は、茶化すようなものではなかった。――実の親に親孝行はもうできないし、あの人(継母)よりもカインの方が、よっぽど母親らしいと思っているのは、嘘じゃない。
「メリーユールフェス、カイン」
「ああ。メリーユールフェスだわ」
 薔薇とラズベリーのコーディアルのお湯割りで乾杯をして、食べるティンギニスは冷たいけれど暖かかった。
「ほ、ほらこっち。ここなら……」
 人目につかず、二人きりで過ごせそうな場所へとセリオスの手を引いて向かったゴルバルティアは、きょろきょろと辺りを再確認した後、一口大に切った料理をフォークに刺した。
「食べる、だろ?」
「ああ」
 ゴルバルティアが差し出したそれを見て、ふっと笑ったセリオスはあーんと口を開けて料理を貰う。
「旨いな」
「そ、そうか。じゃあもう一口……」
「ティアも食べるだろう?」
 その手からフォークを取って、今度はセリオスが反対にゴルバルティアの口元へ料理を運ぶ。そうして交互に一口ずつ、料理を味わう二人だったが。
「セリオス……付いてる」
「ん?」
 口の端についたソースを拭うように、ゴルバルティアはそっと、唇を寄せて。ちゅ、っと味が分からなくなるくらい甘いソースを絡め取る。
「え、えと……め、メリーユールフェス。セリオス」
「メリーユールフェス、ティア」
 顔を赤くして囁くゴルバルティアに、何でもない様子でキスを返して。セリオスはもう一口掬い取った料理を、ゴルバルティアの方へ向けた。

「「ありがとうございました」」
 やがて、夜は更け――演奏を終えたアステルとキオルティスが二人並んでお辞儀をすると、あちこちから拍手が贈られる。
「楽しかったね、お兄ちゃん!」
「そうだね、楽しくて素敵な一日だった」
 目の前を通り過ぎていく沢山の人達の姿……かけがえのない大切なものを見つめながらの演奏は、二人にとっても、またとない時間だった。
「……私の演奏、どうだった?」
 前よりも上達したかな、なんて見上げて来るアステルの姿に、キオルティスは勿論素晴らしかったよと、手放しで称賛する。妹だからという贔屓目を抜きにしても、アステルの演奏は見事ものだ。
「でもね、演奏もだけれど……アステル自身も素敵だったよ」
「ほんと? えへへ……」
 微笑みかけるキオルティスの言葉に嬉し恥ずかし、照れ恥ずかしそうに笑うアステルである。
(……わたしを、知っているひとは、いませんでした、ね……)
 時折、昔の自分を知る人がいないか、尋ねて回っていたミゼリアだったが、残念ながらホムンクルスと化す前のミゼリアを知る人には出会えなかった。褐色の肌のエルフが多い集落の話を聞いたり、ミゼリアと特徴の似たエルフが失踪したという噂話を耳にしたりはしたけれど――詳しく調べるなら機会を改めて、となるだろうか。
「片付け……は、明日にしましょうか」
「ええ、今夜は一晩このままで……」
 準備を手伝ったからには、最後までご一緒しますよと言い添えるグレイブに、感謝の言葉を返しつつ、今夜はもう暫く、この幻想的な世界樹を見つめていましょうかとニルヴァーナは笑う。
 リディリディのように、長い時間を掛けて祈りを捧げている者もいる。そうした者達の為にも、このままにしておこう、と。
「そうか、願い事……えっと、来年もセリオスと一緒に居たいし、セリオスの無事もお願いしたいし、後は……」
 ハッと思い出した様子でゴルバルティアが唱えるのは、セリオスに関する願い事ばかり。一方のセリオスは世界樹を見上げながら静かに願う。
「……セリオスは? 何を願ったんだ?」
「内緒」
「ええー!?」
 秘密にしようとするセリオスだが、気になる、教えてくれとねだられてしまうと弱い。結局、ゴルバルティアを抱き寄せると囁いた。
「ティアと共に、ずっといられるように――と」
「な、なんだ、一緒だな」
 結局おんなじなんだなと笑いつつも、皆の目が気になって、あたふたしてしまうゴルバルティア。
「うふふ。――皆様の願いが、叶いますように」
 きっと叶えてくれますわよね、ハイアルヴ(世界樹)様……と、ニルヴァーナはテラリウムのランタンの灯火で浮かび上がった世界樹の姿を見つめた。

マスターコメント

 メリーユールフェス!  皆さんのご協力のおかげで、楽しく賑やかなパーティになりました。ありがとうございます。  聖霊節を経て、皆さんに良き一年がありますように!
イベントシナリオ

イベントシナリオ易しい 報酬:標準18 / 4〜25人

2023年01月07日 11時06分40秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. グレイブ・ヤード

    礼拝予定 グレイブ・ヤードです

  2. ヨル・スレイマン

    ヨル・スレイマンだ。 手が足りていないようなので、生活魔法で火の扱いに気をつけつつピザを焼いて配ろうと思っている。 適当にやったら世界樹を眺めに行こうかな。 当日は宜しく。良い日になるといいね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0