【聖祭】前略、ヴァイセントラフ砦より
菊華 伴
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シナリオID:2675
オープニング
●砦のユールフェス準備
「さぁ、しっかり掃除するよ~」
レビジュ・バトーは、他の帝国軍の医師や薬師たちと仕事場の大掃除を行っていた。今日はユールフェス前という事もあり、徹底的に掃除をしよう、と言う事になったそうだ。
兵士達も、任務の合間に交代で行っているらしい。そして、普段は離れて過ごしている元メドゥの指先構成員だった子供達も、奉仕作業の一環として手伝いに駆り出されていた。
道具の点検や整備、備品の再確認などを行っていると、ブリザラ・ヒャダルが荷物を片付けながら問いかける。
「そういえば、殿下や将軍へ贈り物が出来るかって質問、どうなったんだ?」
その言葉に、レビジュは小さく微笑む。
実は鬼ごっこ祭の後上官などか掛け合ってくれた結果、手紙やカードならばOKだと許可を貰ったらしい。
「まぁ、過去が過去だし制作の際は誰かついていなきゃいけないみたいだけどね」
苦笑するレビジュに対し、ブリザラは納得したような顔になる。リザードマンの少年は「寧ろ、誰かがいた方が相談に乗ってもらえそう」と小さく笑った。
「それで、レイウェスト殿下やバルディオン将軍にユールフェスのカードを送る、か」
そう言ったのは大掃除に駆り出された帝国兵の一人、ユジンである。ドワーフの双子姉妹、グリッタとホークアイもまたリボンや木のビーズなどを用意し、うきうきした様子で準備を進めていた。
「大掃除が終わったらカードづくりですわ」
「殿下と将軍だけではありません。砦の皆さまやお世話になっている里の皆さまにも書きますの」
ウキウキした様子の双子の姿に、ユジンは優しく目を細める。話によると、件の子供達は皆、頑張って帝国の言葉を覚え感謝の気持ちなどを伝えたかったらしい。
ネインもまた色とりどりのカードが入った箱を手に、ニコニコしている。
「皆、カード製作を楽しみにしてるんですよ。デザインとか色々話し合ってましたし」
「そっか、素敵なカードが作れるといいな」
ユジンの目には、そんな子供たちの顔が眩しく映った。
●内緒のご褒美
その頃。冒険者達はとある会議室に集まっていた。
目の前に立つのは小柄な若者。一見ヒューマンだが、よく見ると黒髪の間から小さい角が生えているの見える。
「……と、いう訳なんだが、ユジンからの報告内容から、レビジュを始め子供達は皆まったく気づいていない事が分かった」
と安堵した様子の彼こそが、普段レビジュたちの面倒を見ている上官であった。
名はセディ・キャロル。彼もまた王国の貴族出身で、母がゴブリナであったが為当主から追い出された過去を持つ。故に彼らを何かと気にかけていた。
「それで、だ。これは上層部からの計らいなんだが……あの子達にごく普通のユールフェスを楽しんでほしくて、ご馳走を用意しようと思っている」
彼としては、普段から頑張っている子供達に喜んでもらいたいようで、内緒で準備を進めたいのだそうな。彼は観察していてわかった子供たちの好物や苦手な物などを書いた紙を冒険者達に見せ、「準備を手伝って欲しい」と頭を下げた。
●遠くにいる貴方へ
掃除も終わり、カード製作の準備をしていたレビジュ達。
だが、レビジュはちょっとだけ表情が曇っている。いや、ちょっと考え事をしているようだった。
「何を考えているんですの?」
「あの子の事だよ」
気になり、グリッタが問いかけると、レビジュはちょっとだけ悲し気に頬んだ。その言葉で全員が、誰の事を考えていたか気付く。
唯一『メドゥの指先』に残った嘗ての仲間、エクレール・カインの事である。
だが、レビジュはもう一人の事も考えていた。
(まさか、あの人が僕の事を案じていただなんてね)
冒険者から聞いた、従兄弟にあたるラルジャン・ジキタリスの事である。レビジュは気持ちの整理がつかず、手紙を受け取ることが出来なかった。彼は、否、この場にいる子供達はその出自と過去故に、未だに王国貴族や王族に対しては良い感情を持てないでいる。
「さすがに、古巣との繋がりを疑われそうだし、渡せませんよね」
ホークアイが真面目な表情で呟き、一同は表情を曇らせる。
「ともかく、今はお世話になった人たちへのカードづくりを頑張ろう。冒険者さんにも声をかけてあるって上官さんがいってたから」
レビジュは空気を換えようと、仲間に微笑んだ。しかし、内心では「ラルジャンとは向き合うべきかなぁ」と考える少年なのだった。
●冒険者達の秘密ミッション
「これ、全部作ったんすか」
「あぁ。趣味が編み物でな」
その頃、ユジンはセディの部屋に来ていた。そして、色とりどりの毛糸で編まれた手袋とマフラーに面食らう。
「今年の冬は特に厳しいと噂に聞いてな。仕事の合間に少しずつ作っていたんだ。だが、最近寝てなくて包装がまだなんだよね……」
「いや、寝ろよ!」
苦笑するセディに、ユジンは思わず(上官である事を忘れて)素でツッコミを入れる。だが、彼も忙しいのは理解できる。ユジンは少し考え「こっちの手伝いも冒険者に頼んでみよう」と考えるのだった。
「さぁ、しっかり掃除するよ~」
レビジュ・バトーは、他の帝国軍の医師や薬師たちと仕事場の大掃除を行っていた。今日はユールフェス前という事もあり、徹底的に掃除をしよう、と言う事になったそうだ。
兵士達も、任務の合間に交代で行っているらしい。そして、普段は離れて過ごしている元メドゥの指先構成員だった子供達も、奉仕作業の一環として手伝いに駆り出されていた。
道具の点検や整備、備品の再確認などを行っていると、ブリザラ・ヒャダルが荷物を片付けながら問いかける。
「そういえば、殿下や将軍へ贈り物が出来るかって質問、どうなったんだ?」
その言葉に、レビジュは小さく微笑む。
実は鬼ごっこ祭の後上官などか掛け合ってくれた結果、手紙やカードならばOKだと許可を貰ったらしい。
「まぁ、過去が過去だし制作の際は誰かついていなきゃいけないみたいだけどね」
苦笑するレビジュに対し、ブリザラは納得したような顔になる。リザードマンの少年は「寧ろ、誰かがいた方が相談に乗ってもらえそう」と小さく笑った。
「それで、レイウェスト殿下やバルディオン将軍にユールフェスのカードを送る、か」
そう言ったのは大掃除に駆り出された帝国兵の一人、ユジンである。ドワーフの双子姉妹、グリッタとホークアイもまたリボンや木のビーズなどを用意し、うきうきした様子で準備を進めていた。
「大掃除が終わったらカードづくりですわ」
「殿下と将軍だけではありません。砦の皆さまやお世話になっている里の皆さまにも書きますの」
ウキウキした様子の双子の姿に、ユジンは優しく目を細める。話によると、件の子供達は皆、頑張って帝国の言葉を覚え感謝の気持ちなどを伝えたかったらしい。
ネインもまた色とりどりのカードが入った箱を手に、ニコニコしている。
「皆、カード製作を楽しみにしてるんですよ。デザインとか色々話し合ってましたし」
「そっか、素敵なカードが作れるといいな」
ユジンの目には、そんな子供たちの顔が眩しく映った。
●内緒のご褒美
その頃。冒険者達はとある会議室に集まっていた。
目の前に立つのは小柄な若者。一見ヒューマンだが、よく見ると黒髪の間から小さい角が生えているの見える。
「……と、いう訳なんだが、ユジンからの報告内容から、レビジュを始め子供達は皆まったく気づいていない事が分かった」
と安堵した様子の彼こそが、普段レビジュたちの面倒を見ている上官であった。
名はセディ・キャロル。彼もまた王国の貴族出身で、母がゴブリナであったが為当主から追い出された過去を持つ。故に彼らを何かと気にかけていた。
「それで、だ。これは上層部からの計らいなんだが……あの子達にごく普通のユールフェスを楽しんでほしくて、ご馳走を用意しようと思っている」
彼としては、普段から頑張っている子供達に喜んでもらいたいようで、内緒で準備を進めたいのだそうな。彼は観察していてわかった子供たちの好物や苦手な物などを書いた紙を冒険者達に見せ、「準備を手伝って欲しい」と頭を下げた。
●遠くにいる貴方へ
掃除も終わり、カード製作の準備をしていたレビジュ達。
だが、レビジュはちょっとだけ表情が曇っている。いや、ちょっと考え事をしているようだった。
「何を考えているんですの?」
「あの子の事だよ」
気になり、グリッタが問いかけると、レビジュはちょっとだけ悲し気に頬んだ。その言葉で全員が、誰の事を考えていたか気付く。
唯一『メドゥの指先』に残った嘗ての仲間、エクレール・カインの事である。
だが、レビジュはもう一人の事も考えていた。
(まさか、あの人が僕の事を案じていただなんてね)
冒険者から聞いた、従兄弟にあたるラルジャン・ジキタリスの事である。レビジュは気持ちの整理がつかず、手紙を受け取ることが出来なかった。彼は、否、この場にいる子供達はその出自と過去故に、未だに王国貴族や王族に対しては良い感情を持てないでいる。
「さすがに、古巣との繋がりを疑われそうだし、渡せませんよね」
ホークアイが真面目な表情で呟き、一同は表情を曇らせる。
「ともかく、今はお世話になった人たちへのカードづくりを頑張ろう。冒険者さんにも声をかけてあるって上官さんがいってたから」
レビジュは空気を換えようと、仲間に微笑んだ。しかし、内心では「ラルジャンとは向き合うべきかなぁ」と考える少年なのだった。
●冒険者達の秘密ミッション
「これ、全部作ったんすか」
「あぁ。趣味が編み物でな」
その頃、ユジンはセディの部屋に来ていた。そして、色とりどりの毛糸で編まれた手袋とマフラーに面食らう。
「今年の冬は特に厳しいと噂に聞いてな。仕事の合間に少しずつ作っていたんだ。だが、最近寝てなくて包装がまだなんだよね……」
「いや、寝ろよ!」
苦笑するセディに、ユジンは思わず(上官である事を忘れて)素でツッコミを入れる。だが、彼も忙しいのは理解できる。ユジンは少し考え「こっちの手伝いも冒険者に頼んでみよう」と考えるのだった。
解説
>解説
今回は、ヴァイセントラフ砦でのユールフェスでございます。
次の中から選び、1つ行動を書いてください。複数選びますと出番がぐっ、と減る可能性がありますのでご注意ください。
1:カードづくりの手伝い
レビジュたちはレイウェストやバルディオン、お世話になっている里の人々にユールフェスのカードを送る事に(なんでも、帝国南部のとある地域では恩人や目上の人、仲の良い友達へカードを送る風習があるそうです)。表向きは監視ではありますが、アドバイスしたり、一緒に作ったりしましょう。
2:ご褒美のパーティーを準備しよう
これは彼らの上官、セディからの依頼です。子供達にバレないよう、ユールフェスのご馳走を作ったり、会場の飾りつけをしたり、プレゼントの包装をしましょう。追加でプレゼントもOKです。正し、子ども達にばれないように!
3:砦の兵士達を労おう
子どもだけじゃなくて、大人だってユールフェス楽しみたい……(by新人兵士)
という事で砦の兵士さんにもご馳走をお届けします。砦の料理人たちも忙しいのでてつだったりすると喜ばれるでしょう。
4:その他
上記3つ以外の行動がしたい方はこちらをお選びください。
※以下のメンバーも登場します
ブリザラ・ヒャダル/グリッタ・ルビィ/ホークアイ・ルビィ/ネイン
登場NPCについて(レビジュ及び子供たち以外)
・ユジン
帝国兵の一人。今回は裏方としてしっかり働きます。
・セディ・キャロル
帝国兵の一人で、レビジュ達の上官。子供達を喜ばせたい。
・レイウェスト・バルダス
砦に用事があり立ち寄ります(その時、カードを渡すそうです)
挨拶したり、多少話したり程度には交流可能です。
マスターより
ちょっと言いづらいヴァイセントラフ砦。
そこで過ごすユールフェスの話です。皆さまよろしくお願いします。
レビジュたちと戯れるもよし、兵士たちとまったりするも良し。
レビジュ「今年もいろいろあったねぇ……」
リプレイ
●労いの為、ご馳走の為
――ヴァイセントラフ砦近くの川。
朝早くからそこを訪れたのはトーラ。白い息を吐きながら周囲を見渡す彼女のお目当ては……そこに飛来する鴨である。
(砦の兵士さん達も、ずっと激務続きですし、聖霊節くらいは労いたいですよね。だったら……)
脳裏に描いた料理は、鴨のローストである。丁度いい大きさはどのくらいだろうか、と考えていると、大きな鴨を見つけた。鴨はまだうとうとしているようにトーラには見えた。
「今回は網を使ってみますか」
トーラは、用意した網を手に、呼吸を整える。慎重に行かなければ逃げてしまうからだ。
しかし、彼女はシーフ。そういう動きは得意である。
(3,4羽ゲットできたらいいかもしれませんねぇ)
トーラは唇を引き締めると、しずかに足を踏み出した。
彼女の狩りについては、後ほど。
そして、ヴァイセントラフ砦の厨房でもユールフェスのご馳走を作る話が持ち上がっていた。が、そこへ数名の冒険者が現れるのだった。
●ヴァイセントラフ砦に集まった子供達
ヴァイセントラフ砦は、普段より少し賑やかな様子。というのも、元メドゥの指先構成員の子供達が砦の大掃除に駆り出されているからだ。
普段はレビジュ・バトーたちがいる砦とフィラム、エドゥノーグと別れて過ごしているが、本当の所、ユールフェスを皆で過ごせるように、との上官たちの計らいなのだという。
「皆元気そうだねぇ」
リザードマンの女性、ルチル・プルメリア・グレイハーツは、子供たちの様子に目を細めた。
ルチルはフィラムで彼らの面倒を見ている人と、エドゥノーグで面倒を見ている人双方から子供達宛ての手紙を預かっている。あとで読んであげようと彼女は考えた。
「ルチルさんも、カード製作の手伝い?」
同種の少年、ブリザラ・ヒャダルがひょっこり現れて問いかけると、彼女は「他の手伝いに行くんだ」と苦笑する。
「ルチルさんにも作るから、楽しみにしていてよ!」
ブリザラはルチルににっこり笑うと、数名の子と共にカード製作会場へと向かっていく。その背中を見送り、彼女は「さて……」と秘密のパーティーの準備へと向かうのだった。
表向きは、カード製作の監視としてやってきた冒険者……レティシア・レインフィール、アリア・ティーダ、イズル・M・ヴォルゴールは子供達に囲まれていた。
「こんな感じでどうでしょう?」
お手本として文章例を書いて見せたり、「カードをユールフェスらしい物や、花の形にするのもいいですね」とアドバイスすれば集まった子供達(とくに少女たち)は目をキラキラさせる。
夏のシトラスフェスティバルでの事もあり、一部の少女たちから憧れの対象となっているらしいレティシアは、彼女達からの尊敬の眼差しに少し照れているように見えた。
「他にどんなのがいいかな?」
「お花の絵とかかいてもいいのかしら?」
少女たちに問われ、レティシアは笑顔で頷く。
「そうですね。雛罌粟や釣鐘草、菖蒲水仙、扶郎花あたりは感謝や幸福を願う想いが込められた花言葉を持つ花です。他にも……」
と彼女は自分の記憶や本からの知識を引きだしアドバイス。子供達がおしゃべりしながら楽しそうにカードを作る姿に瞳を細めていると……?
「ねぇ、アリアさん……ちょっと恥ずかしいぃ……」
「ん?」
と、アリアにハグハグされてるレビジュの姿が。思わずくすり、と笑ってしまうもアリアを窘める。
「あ、そっか! 書きにくかったんだね!」
「たぶん、ちょっと恥ずかしかったんじゃないかな……。一応、レビジュも男の子だし」
イズルも苦笑していると傍らでドワーフの双子、グリッタとホークアイがアリアを涙目で見ている事に気付いた。
「私達もあんな風になれるかしら……」
「いっぱいご飯を食べて、体を鍛えれば……」
まぁ、乙女の悩みというものは難しいものである。イズルはとりあえずそっとしておくことにした。
因みに、イズルもレティシア同様礼儀作法はばっちりである。そしてお洒落な面もあり、そこを活かしてお手本を作って見せる。そして、子ども達の書く文字についても相談に乗っているのだった。
「うまく書けない……」
「試しにこっちのペンをつかって、試し書きしようか」
と、小さい子のアシストもしてくれている。こんな様子故に、とくに幼い子から「お兄ちゃん」と慕われているようだ。
「俺も、お手本以外のカードを作るかな」
「監視? 何のことかな?」と言わんばかりの笑み。これにはレティシアもアリアも思わずくすりと笑ってしまう。
一方、アリアも子供達とカード作り。
「取り敢えず日ごろの感謝とか、『一年お疲れ様でした』とか……? 好意はこうやって示せるのだけど、いざ手紙で、しかも自分の事を真面目に文字にすると難しいんだよねぇ!」
と真面目に考えていた彼女だが、ややあって「そうだ!」と手をぽん、と叩き、木のビーズで飾りを作り始めた。
「何してるの?」
フェレットのハーフビーストの子に問われ、アリアはにっこり微笑む。
「カードに飾りをつけてみようと思って。それに香油で香りをつけても素敵になるかもって思っているんだよ」
「香油かぁ……」
イズルはそれも面白いと頷いていると、レビジュが薬剤師に分けて貰えるか交渉しに行くことに。
(そういえば……)
ふと脳裏に過ったのは、レビジュにとって従兄弟にあたる少年の事。複雑な事情がある為、今は口にしないが……。
「そういえば、この間の依頼の時はラルジャン様からの手紙を『まだ読めない』と……」
ラルジャン・ジキタリスからの手紙の事を思い出し、レティシアもまた表情を曇らせる。
「レビジュ様は、カインの事とその人の事で迷っていたのかしら」
そう言ったのは、グリッタである。彼女は双子の片割れのホークアイと頷き合うと、ホークアイが口を開いた。
「私達に気遣っているのでしょう。気にしないでいいのに……」
「そうかもしれませんね。……少し、話してみましょうか」
レティシアの言葉に、イズルとアリアも何か考えていたのだろう。静かに笑みで答えた。
レビジュが薬剤師の元から分けてもらった香油を運んでいると、窓の外から雪が降っているのが見えた。
(さっきまで晴れていたのに……)
外の掃除を担当している人は大丈夫だろうか? と気にしていると……、ベルク・オスマットの姿を見つける。
「おや、カード製作をしていたのではないか?」
「今、香油をもらいに行っていたんだ」
レビジュがアリアからアイデアを貰った事を話すと、ベルクもほんのりと笑顔になった。
自分は別の仕事があるから、と少年と別れた後。彼女はカード作りに向かう子どもたちの様子を見かけた時の事も振り返る。
(本当に、幼き子等が良き顔をするようになったな)
最初に会った時は、皆不安に満ちた顔をしていた。それが、徐々に生きる力を取り戻し、裏のない笑顔をするようになったと感じた。それが、少し彼女の心の中を温かくする。
(そういえば……)
レイウェスト・バルダスが今日、用事がありここに立ち寄る予定だ、というのは話に聞いている。ならば先触れが到着するだろう。
(さて、先触れがくるのは……)
彼女としては、殿下に子供たちのカードを送るタイミングを掴みたいのだ。
「到着するならば、あっちだな」
ベルクは、一先ずそこへ行ってみる事にした。
レビジュは、香油を届け終わるとカード製作に戻る。だが、彼は少し悩んでいるように見えた。
「レビジュは、誰にカードを送りたいんだ? 将軍や殿下には送ると聞いていたけど」
イズルに問われ、レビジュはこくりと頷く。だが、少しだけ表情を曇らせた。
「王国の従兄弟が、手紙をくれたんだ。でも、まだ冷静に読めるか自信がなくて読んでいない。レティシアさんに預かってもらってる。それとね……」
レビジュはこっそりとイズルに打ち明けた。それは、彼も戦った事のあるエクレール・カインの事だった。
未だ『メドゥの指先』に自らの意思で残っている為、繋がりを疑われる可能性がある。それだけではなく、彼は既にレビジュ達と決別している、と。
「いずれ、また戦うと思う。場合によっては、僕の手で倒さなくちゃいけないかもしれない。それでも、仲直りできなくてもせめて、生きて欲しくて」
仲間だったから、とレビジュが絞り出すように呟けばイズルは静かに頷いた。
二人に作るとしても、どういうメッセージを書けばいいのだろう、というのもあるようだ。イズルは少し考え「それじゃあ、俺もラルジャンにカードを書こうかな」と微笑んだ。
「どうして?」
「彼は今、王国のパンクリアース学園に通っているんだ。そこで依頼を受けてね……」
イズルがラルジャン・ジキタリスの人柄や、その時あった事を話すとレビジュは「そっか……」と小さく頷いた。
「そうそう! 以前の指先君へもこの際書いてみたらどうかな? ほら、修羅場でこう想いを纏めるのって難しいからねっ」
アリアがそれに乗って提案してくれる。彼女は優しい笑顔でレビジュに言う。
「書き出したら君の心を整理するのに役立つかもしれないよ。それに、カードを渡すチャンスだってくるかも、だし! 素直な気持ちでいいと思うよ!」
その言葉に押され、レビジュは「書いてみようかな」と頬をかきながら頷いた。
その様子を温かいまなざしで見ていたレティシアだったが、レビジュは小さく頷いて彼女のもとへと歩み寄る。
「何でしょう?」
「ラルジャンからの手紙、僕にくれませんか? 今なら、落ち着いて読めると思います」
レビジュはそういってぺこりと頭を下げた。レティシアはレビジュへと、ラルジャンの手紙を渡しながらそっと心の中で呟く。
(漸く、渡せましたよ……ラルジャン様)
●その頃の厨房
「熱気が凄いですね」
数羽の鴨を捕まえ、羽根を毟りって下処理まで終えたトーラは、厨房に来た途端そう呟いた。
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは「よし、ここは俺が腕によりをかけてご馳走を作るぜ!」とシルトラース帝国の伝統料理を豪華にしたものを作るべく奮戦していた。しかも砦の兵士と子供達の為にである。そのため量もそこそこ多い。
「スープの方は丁度いい味になってきたな……」
スープの味見をしながらいい笑顔になるアルベルト。これを食べる人々の口に合えばいいが、と少しドキドキするものの笑顔の為に努力は惜しまないようだ。
「とてもいい匂いですね! こっちは何にするんですか?」
トーラが興味を持って問えば、アルベルトはにっこり笑う。
「細かく切った野菜とひき肉を合わせ、中にチーズを入れるよ。これを焼いてソースを絡めると祝いの料理になるんだ」
楽しみにしていて欲しい、とアルベルトが言えばトーラも笑顔で頷く。
(わたしも負けられませんよ~!)
トーラは早速内臓を取り除いた鴨の中に野菜を詰め、ローストの準備にとりかかった。
その鴨の内臓はというと、食べられる部分を使い別の料理人がパテを作っていた。これは兵士たちのおつまみになるようだ。
「見事だな……」
その手際に感心していたのはナタリア・フィッツジェラルド。難民キャンプで行われた入隊試験を経て兵士になった者達の一部が彼女を『教官』と呼んでいた。そして……。
「そうですね、教官! あの料理人はめちゃくちゃ腕がいいんですよ!」
と、彼女を手伝うユジンもまた、そう呼ぶ一人であった。
ナタリアは慌ただしい中でも身体をはって最前線に立つ者達へ労おうと考えた。そして、ユジンがどれだけ成長したか、確かめられる好機でもある、と。
彼女はユジンと二人、厨房で働く調理人達の腕や肩を揉んだりとマッサージをしながら話していた所である。
「私は傷を癒す事には慣れている。しかし、心を癒した経験はそれほど無いんだ。よかったら、私にその術を教えてくないか?」
「心を……? そんな大層な事はしてませんよ」
ユジンは彼女の言葉に目を丸くし、首を振る。そして苦笑しながら言葉を続けた。
「俺は、よく話を聞いていただけです。子供達とも偶々歳が近かったから、あの子らの上官の手伝いをする機会が多かっただけで……。それとも砦の先輩方の件か? そりゃあ、先輩たちが色々教えてくれたから今の俺達がいるんだ。 こんな時ぐらい、ゆっくりしてほしいじゃねぇか」
「そうか……」
ユジンは、最初緊張しながらも、徐々に楽し気にそう言う。
彼曰く、難民キャンプ出身の兵士たちもユジンと話し合い、率先して動いているらしい。ナタリアは、そんな彼を微笑ましく思い穏やかに言う。
「ならば、労われる兵士の中にはユジン、君も含まれてもいいのだろう? もちろん彼らもだ」
後で彼らにも何か労いをしようと考えるナタリア。ユジンはその言葉に目を丸くした。が、ややあってちょっと照れ交じりに微笑んだ。
「俺達はその……、恩返しの一環でやってるだけだよ」
「いいじゃないか。君たちも砦の兵士である事に変わりはない」
ナタリアはいつもより柔らかい笑みを浮かべそう言ったのだった。
(どこもかしこも忙しそうだったが、ここが一番人手を欲してそうだな)
と、料理の腕を振るう若者が一人。ホムンクルスのルイドである。
彼は料理人に頼まれ、主に料理の下準備を手伝っていた。手伝いということで砦を訪れたルイドは、「ユールフェスの準備ならメシも相応の量作るだろうし……」と厨房へと最初に踏み入った。その結果、大量の材料の下準備を任されたのである。
「予想以上の量だがやってやれないわけじゃない」
手早く野菜の下準備や下茹でなどを行えば料理人達も大助かり。ついでにアルベルトとトーラの料理の仕込みもさり気無くフォロー。大活躍である。
因みに、ルチルは卵要員としてニワトリを連れていた。そのニワトリが産んだ卵もお菓子作りの材料として貰っていた。
「お菓子の材料、追加分置いとくぜ。これぐらいでいいか?」
今彼が運んでいたのは小麦粉や卵など。丁度アルマ・ヴァレンタインに頼まれていたのだ。
「ありがとう! 今手が離せなかったから助かったよ」
そういうアルマは丁度お菓子の家のパーツとなるクッキーをオーブンに入れていた所だ。先ほどまでユールフェスらしい彩りと形をした前菜を作っていたと思っていたが……。
(彼女も、アルベルトやトーラも料理上手だな。何故だろう、ちょっと俺自身も楽しくなってるかもしれない)
周りに刺激されたルイドは、それとなく料理長に「今日は酒とかでるのか?」と聞いてみた。すると、成人した兵士には振る舞われるとの事と聞き、彼は腕まくり。
「そいじゃ、ちょっとしたつまみを作っておくか。さっき鴨のレバーパテを作ってるのを見たが、そいつだけじゃ面白みがないってね」
さて何を作ろうか……と、ルイドは材料を見ながら考える。
(なんだか料理とかの腕が上がった気がするなぁ)
アルマは先に出来上がっていたクッキーを見ながら実感し、嬉しくなった。そして、様子を見に来たエヴァン・ピオネロの口へ「はい、あーん♪」とクッキーの試食を頼む。
「……!」
婚約者がいるアルベルトは、「彼女にそうされたら、自分はどうなるだろう」と少し頬を赤くし、ルイドは「おぉっ」とちょっと目を見開く。ユジンは「アツアツだな!」と楽し気に囀ってナタリアに苦笑され、トーラは何故か顔を真っ赤にしていた。
(で、殿下にそんなことできるわけありませんから!)
……まぁ、想像しちゃうよね。乙女だもの。
「美味しい! いい焼き加減ですよ!」
「ふふ、ありがと」
エヴァンのお墨付きをもらい、アルマは早速そのクッキーでお菓子の家を作り始める。
一連の様子を見られていた事に気付いていないエヴァンは、「お疲れ様」と一礼してその場を後にした。
●準備も楽し
「セディさんの努力が最大限に生きるようにお手伝いしますね」
と、エヴァンはセディが作ったプレゼントの包装を行っていた。会場の掃除を終えたルチルもリボン掛けを手伝ってくれている。
セディから子供たちの好みなどを聞いたエヴァンは、一目で誰宛の贈り物か解るように工夫できないか考えた。その結果、子ども達一人一人好きな物の絵を描くことにした。
(こんな感じかな?)
子供たちの髪と同じ色のリボンを結い、好きな物の絵と組み合わせれば誰のかが解る仕組みだ。ルチルはそのアイデアに「なるほど~」と楽し気に微笑んだ。
「そういえば、どうやって運ぼう? やっぱりマジポケかい?」
「大きな袋に纏めた上でそうするつもりだよ」
リボンを丁寧に結いながら問うルチルに、エヴァンは白い布の袋を見せた。〈マジカルポケット〉は直径2メートル程度までの物ならば色々仕舞える為色んな授恵者達に重宝されているようだ。
「二人とも手際がいいな」
セディが感心していると、二人とも少し照れてしまう。
暫くして、包装がすべて終えると袋に纏め、一度エヴァンのマジポケへ。しかし……と、彼はセディを見た。
「プレゼントを子ども達に渡すのは、勿論セディさんの役目ですよ」
「喜んでもらえるだろうか……」
少し緊張気味なセディに、ルチルとエヴァンは微笑む。
「大丈夫だよ。ずっと子ども達を見ていたんだよね?」
ルチルは励ますように彼の背中を一度だけぽん、と叩いた。
会場は掃除の他、テーブルにクロスを飾る等終わっていた。あとは飾るだけである。そこで香りの良いキャンディーやクッキー、星の飾りを天井からつるしたり、壁にリボンをつけたりしてみる。目指すはお菓子の家の内装である。
応援として呼ばれた兵士達と共に、3人はせっせと可愛い内装を目指し作業に励むのだった。
「いやぁ、助かったよ!」
ナタリアとユジンは料理人たちからマッサージの礼を言われていた。
「調理の際鍋を振ったり、重い物を持ったりと腕を酷使すると聞いていたからな。少しでも癒せたならば」
「おっちゃん達には普段から美味しいメシを食わせてもらってるし……」
少し照れながら言うナタリアとユジンを料理人達は微笑ましいく思った。
お礼を背に部屋を後にすると、ベルクが急ぎ足で前を通り過ぎた。
「どうした?」
「先ほど先触れが来た。我はレビジュ達の状況を確認してくる」
子どもたちが殿下や将軍等にユールフェスのカード書いている、とユジンから聞いていたナタリアは、「なるほど」と手を打った。
●さぁ、準備は整った!
厨房にはいい匂いが立ち込める。普段の食事よりちょっと豪華な、ユールフェスのご馳走である。もちろんお菓子も揃っており、準備は万端だ。
「こっちは子ども達の分で……」
「こっちが兵士達の分、だな!」
「おつまみはこのぐらいでいいかな」
「ふふっ、お菓子もばっちり!」
トーラ、アルベルト、ルイド、アルマが料理とお菓子の仕上げを終え、仕分けをしていた。兵士たちの分は食堂で出される者と見張り担当など持ち場から動けない人用のお弁当に分けられている。
「では、時間も時間ですしお弁当を届けてきましょう」
トーラがルイドと頷き合ってバスケットを抱える。
「子どもたちの分は俺が運んでこよう」
アルベルトが料理と取り皿などをワゴンに入れていると、アリアがやってくる。彼女は会場整備の手伝いに回っていたのだ。
「お料理運ぶの大変じゃない? 助っ人にきたよっ!」
「ティーダさん、助かった! 会場の準備は……」
「それならばっちりですよ」
エヴァンがひょっこりと顔を出して報告する。彼曰く、ルチルが子ども達をそろそろ呼びに行くらしい。また、最後の仕上げとしてセディが花を飾っているとの事。
「それじゃあ、トーラさんとルイドさんもよろしく。いこう、ヴァレンタインさん」
アルベルトはアルマと頷き合い、アリア、エヴァンと共に秘密のパーティー会場へと食べ物を運んでいく。
「子ども達の方は任せましたよ。さあ、わたし達も」
「あぁ。いこう」
トーラとルイドもまた頷き合い、特別なお弁当を届けに向かった。
「ユールフェスのお弁当です!」
「あぁ、ありがとう」
トーラは見張り台にいる兵士へとお弁当を届けに行った。彼らは次の交代まで下に降りることが出来ない。それ故に、食事をここで取る事も多いようだ。
鴨肉のローストの一部をサンドイッチにした物だが、味が良かったのだろう。兵士たちの反応は上々である。
「こちらもありますよ。冷めないうちにどうぞ!」
〈マジカルポケット〉に入れていた為、出来立ての湯気が暮れなずむ砦の空に立ち上る。トーラが用意したホットワインに、兵士たちは目をぱっ、と輝かせた。
「気が利くね、お嬢さん。ホント、寒い日はこういうのが美味しいんだよ」
「香辛料が入ったのは特に美味しい」
ホットワインを貰った兵士達は、皆笑顔で少女に礼を述べ、口をつけた。
一方、ルイドは非番になった者達へお酒とおつまみのお届けに。すると、既に酒の入った兵士たちは陽気な声を上げ出迎えた。
「おっ、これはなかなか美味しそうじゃねぇか!」
「これ、雰囲気がお洒落だなぁ! 何だい?」
「こっちは鴨レバーのパテで、こっちがチーズ入りの揚げ肉団子。それから、チーズの盛り合わせと……」
ルイドが説明していく傍から、テーブルに置かれたおつまみに手が伸びる。
(作った甲斐があったな)
とルイドがほんのり微笑んでいると、兵士の一人が肩を組もうとしてきた。咄嗟に避けると兵士は「つれねぇなあ」と笑った。
「あんちゃん、イける口かい? 飲んでけよ?」
「いや、まだ配達が残ってんだ。またな」
ルイドは苦笑し、その場を後にする。お酒の匂いが漂うが、今はそれを無視し次の配達場所へと向かって行った。
お菓子が吊り下げられた、パーティー会場。可愛らしく飾り付けられた部屋に、白いクロスが引かれたテーブル。そこに料理が次々に並べられる。
「取り皿よし、飲み物よし! それからお菓子の家よし!」
アルベルトが指さし確認し、アリアはユールフェスの飾りを追加。そしてルチルが密かに用意した里の人々からのカードも飾っておく。
「お菓子はこっちにも置いておくね」
アルマが追加のお菓子を置き、エヴァンは飾りに不備がないか最後の点検。それを終えた所で3人に問う。
「そろそろ子ども達を呼んでいいかな?」
アルベルトたちが頷くと、彼は外で待機していたルチルにサインを送る。彼女はそれに頷きながらもちょいちょいとアルベルトを呼ぶ。
「どうしたんだ?」
「そろそろ殿下がお見えになるらしいよ」
「そうか。ありがとう、グレイハーツさん。では、行ってくるよ」
彼はエヴァン達に一礼し、速やかに部屋を出た。
カードが大体出来上がり、イズルが回収している頃。ベルクが彼らの元を訪れた。
「あ、ベルクさん! どうしたの?」
「実は殿下がお見えになるのだ。それでカードを渡すならちょうどいいかと思ってな」
ベルクの言葉を聞き、レティシアは「まぁ」と小さく声を上げる。
回収の際仕分けも行っている為、殿下宛は直ぐに用意できる。だが少し時間が欲しいとも思った彼女はイズルとレビジュに相談する。
その結果をレビジュから聞いたベルクは静かに頷いた。
「おっと! みんな揃ってるみたいだね!」
そこへやって来たのはルチル。彼女はリザードマン特有の尻尾を少し揺らし、子ども達についておいで、と微笑んだ。
(どうやら準備が終わったみたいですね)
レティシアはふふっ、と優しい笑みをこぼすと子ども達を促して退出。ベルクは楽し気な子供たちの背中を見送ると、レイウェストを出迎えるべくその場を後にする。と、ルチルがイズルと共にレイウェスト宛の手紙をラッピングするのが見えた。
●ユールフェスはこれからだ!
「へぇ……」
少し賑やかになったと思ったルイドは、レイウェスト・バルタスが砦に来た事を兵士達の会話で知った。
よく見れば、ベルクとアルベルト、ナタリア、ユジンが彼に挨拶しているのが見える。
「レイウェスト殿下! わざわざお越しいただきありがとうございます」
「出迎え、ありがとう。……やはり、ユールフェスだけあってどこか和やかだね」
レイウェストはアルベルトにそう言うと優しい笑顔を浮かべた。
話によると、レイウェストはユールフェスと言う事で兵士達を労うべく来たようだ。
(ならば、好都合かもしれない)
ベルクは僅かに笑みを深めた。
「将兵への激励を兼ねて砦内の視察を行うのですか?」
「ああ。あまり時間は取れないが……」
レイウェストも忙しい身である。だが、少しでも様子を見ておきたいようだ。二人は「お供します」と護衛を買って出、共に歩きだした。
その様子を見ていたルイドもまた、食堂へ踵を返し、楽し気に向かって行った。
「わぁ……!!」
レティシアに案内され部屋にやって来た子供達は、用意された料理や素敵な飾り付けに目を輝かせた。
「皆が頑張っていたから、ご褒美として用意されたんだ」
「その前に、セディさぁーん!」
イズルが説明し、アリアが声をあげると白い袋をもったセディが笑顔で子供達を呼び寄せる。そして、一人ずつ名前を呼べばリボンと絵で判断しプレゼントを手渡す。
「手袋だぁ!」「あったかそ~」
子ども達はプレゼントに大喜び! しかも袋にそれぞれ好きな物が描いてあり、笑みを押さえられないようだ。
お礼をいう子ども達の明るい顔に、アルマとエヴァンも思わずほっこりするのだった。
子供達がパーティーを楽しむ姿に、レイウェストは小さく「よかった」と呟いた。そんな彼に声をかける者が。ルチルである。
「久しぶりだね。少し気を抜いてゆっくりして行くといいよ」
彼女はそういいながら、ラッピングされた袋をベルクとアルベルトと共に差し出した。
「これは、子ども達からのカードです。そして、こっちが俺からです」
「後ほど将軍にも届ける所存です」
その事に少し驚きながらも、彼は「ありがとう」と笑みを溢し受けとる。
「アンタが救おうとした命が、甘さは間違いではないとしっかり見ておくんだよ」
ルチルの言葉に、レイウェストが静かに頷く。彼自身、こうして明るくなった子ども達の様子に安堵しているようだ。
(過去はどうあれ、殿下がそなた等に生きて欲しいと願い今のそなた等がいる)
ベルクは、レイウェストの横顔と子供たちの様子を見ながら穏やかな眼差しを向ける。
「今のそなた等は、我らが守るべき帝国の民の一員だよ」
瞳を細め、優しい声で彼女は呟けばナタリアも笑顔で頷いた。
食堂では、兵士たちがご馳走を食べている。料理のとりわけなどを手伝っていたトーラとルイドであったが、窓をみて思わず微笑む。
「雪が……」
「ユールフェスらしくなってきたな」
思わず笑いあっていると、どこからともなく歌が聞こえてきた。程よく酒の入った兵士が歌い出したようだ。
それに合わせ、一人、また一人で歌い始める。
その楽しい歌声に、二人も釣られてしまった。
「これ、お願いできますか?」
「えぇ」
レティシアは、レビジュからラルジャン宛てのカードを託される。彼女はそれを大切にしまうと、ふわり、とカモミールの香りが。その正体は彼女からレビジュへのカードである。
先日心配してくれたお礼や、レビジュ自身の悩みへの激励が書かれたカード。それを読んだ時少年はどんな顔をするのだろうか?
「ありがとう。後で読むね」
レビジュは嬉しそうに微笑んだ。その様子をイズルは暖かい笑顔で見守る。
すると、子どもの一人が「雪だ!」と声を上げる。皆窓の外をみると、確かにちらほらと雪が降り始めていた。
「俺、ホントは雪が嫌いだったんだ。すっげぇ冷たいから。でも、こんな日に楽しい思い出が出来たんだもん、少しはちがうかな」
ブリザラが、雪を見上げてそういえば準備を手伝った物たちは努力が報われたな、と感じた。
しばらくして、レイウェストは砦を出る。
それを見送った者達は、それぞれユールフェスを楽しむことに。
「ユジン。食事に行こうか」
「……はいっ! ベルクさんも一緒にどうですか?」
「そうしよう。トーラ殿が作った鴨肉のロースト、未だあるといいが……」
ナタリア、ユジン、ベルクは揃って食堂へ。アルベルトは「子ども達の料理は足りているだろうか?」と呟きながら会場へ向かう。
「ん?」
何かがかちゃりと音がして振り返ったルチルは、しっぽに星飾りが飾られていた事に気付く。「こらこら、アタイの尻尾はツリーじゃないぞ」と思わず苦笑していると、つれていたニワトリが興奮していた。
「……危機感故に興奮しているのかい?」
思わず問いかけてしまうルチルに、アルベルトが手を振る。子ども達が待っている、と。彼女は「今行くよ」とニワトリと共に会場へと向かった。
ヴァイセントラフ砦のユールフェスは、笑顔と笑い声に満ち、ほっこりと過ぎて行く……。
(終)
――ヴァイセントラフ砦近くの川。
朝早くからそこを訪れたのはトーラ。白い息を吐きながら周囲を見渡す彼女のお目当ては……そこに飛来する鴨である。
(砦の兵士さん達も、ずっと激務続きですし、聖霊節くらいは労いたいですよね。だったら……)
脳裏に描いた料理は、鴨のローストである。丁度いい大きさはどのくらいだろうか、と考えていると、大きな鴨を見つけた。鴨はまだうとうとしているようにトーラには見えた。
「今回は網を使ってみますか」
トーラは、用意した網を手に、呼吸を整える。慎重に行かなければ逃げてしまうからだ。
しかし、彼女はシーフ。そういう動きは得意である。
(3,4羽ゲットできたらいいかもしれませんねぇ)
トーラは唇を引き締めると、しずかに足を踏み出した。
彼女の狩りについては、後ほど。
そして、ヴァイセントラフ砦の厨房でもユールフェスのご馳走を作る話が持ち上がっていた。が、そこへ数名の冒険者が現れるのだった。
●ヴァイセントラフ砦に集まった子供達
ヴァイセントラフ砦は、普段より少し賑やかな様子。というのも、元メドゥの指先構成員の子供達が砦の大掃除に駆り出されているからだ。
普段はレビジュ・バトーたちがいる砦とフィラム、エドゥノーグと別れて過ごしているが、本当の所、ユールフェスを皆で過ごせるように、との上官たちの計らいなのだという。
「皆元気そうだねぇ」
リザードマンの女性、ルチル・プルメリア・グレイハーツは、子供たちの様子に目を細めた。
ルチルはフィラムで彼らの面倒を見ている人と、エドゥノーグで面倒を見ている人双方から子供達宛ての手紙を預かっている。あとで読んであげようと彼女は考えた。
「ルチルさんも、カード製作の手伝い?」
同種の少年、ブリザラ・ヒャダルがひょっこり現れて問いかけると、彼女は「他の手伝いに行くんだ」と苦笑する。
「ルチルさんにも作るから、楽しみにしていてよ!」
ブリザラはルチルににっこり笑うと、数名の子と共にカード製作会場へと向かっていく。その背中を見送り、彼女は「さて……」と秘密のパーティーの準備へと向かうのだった。
表向きは、カード製作の監視としてやってきた冒険者……レティシア・レインフィール、アリア・ティーダ、イズル・M・ヴォルゴールは子供達に囲まれていた。
「こんな感じでどうでしょう?」
お手本として文章例を書いて見せたり、「カードをユールフェスらしい物や、花の形にするのもいいですね」とアドバイスすれば集まった子供達(とくに少女たち)は目をキラキラさせる。
夏のシトラスフェスティバルでの事もあり、一部の少女たちから憧れの対象となっているらしいレティシアは、彼女達からの尊敬の眼差しに少し照れているように見えた。
「他にどんなのがいいかな?」
「お花の絵とかかいてもいいのかしら?」
少女たちに問われ、レティシアは笑顔で頷く。
「そうですね。雛罌粟や釣鐘草、菖蒲水仙、扶郎花あたりは感謝や幸福を願う想いが込められた花言葉を持つ花です。他にも……」
と彼女は自分の記憶や本からの知識を引きだしアドバイス。子供達がおしゃべりしながら楽しそうにカードを作る姿に瞳を細めていると……?
「ねぇ、アリアさん……ちょっと恥ずかしいぃ……」
「ん?」
と、アリアにハグハグされてるレビジュの姿が。思わずくすり、と笑ってしまうもアリアを窘める。
「あ、そっか! 書きにくかったんだね!」
「たぶん、ちょっと恥ずかしかったんじゃないかな……。一応、レビジュも男の子だし」
イズルも苦笑していると傍らでドワーフの双子、グリッタとホークアイがアリアを涙目で見ている事に気付いた。
「私達もあんな風になれるかしら……」
「いっぱいご飯を食べて、体を鍛えれば……」
まぁ、乙女の悩みというものは難しいものである。イズルはとりあえずそっとしておくことにした。
因みに、イズルもレティシア同様礼儀作法はばっちりである。そしてお洒落な面もあり、そこを活かしてお手本を作って見せる。そして、子ども達の書く文字についても相談に乗っているのだった。
「うまく書けない……」
「試しにこっちのペンをつかって、試し書きしようか」
と、小さい子のアシストもしてくれている。こんな様子故に、とくに幼い子から「お兄ちゃん」と慕われているようだ。
「俺も、お手本以外のカードを作るかな」
「監視? 何のことかな?」と言わんばかりの笑み。これにはレティシアもアリアも思わずくすりと笑ってしまう。
一方、アリアも子供達とカード作り。
「取り敢えず日ごろの感謝とか、『一年お疲れ様でした』とか……? 好意はこうやって示せるのだけど、いざ手紙で、しかも自分の事を真面目に文字にすると難しいんだよねぇ!」
と真面目に考えていた彼女だが、ややあって「そうだ!」と手をぽん、と叩き、木のビーズで飾りを作り始めた。
「何してるの?」
フェレットのハーフビーストの子に問われ、アリアはにっこり微笑む。
「カードに飾りをつけてみようと思って。それに香油で香りをつけても素敵になるかもって思っているんだよ」
「香油かぁ……」
イズルはそれも面白いと頷いていると、レビジュが薬剤師に分けて貰えるか交渉しに行くことに。
(そういえば……)
ふと脳裏に過ったのは、レビジュにとって従兄弟にあたる少年の事。複雑な事情がある為、今は口にしないが……。
「そういえば、この間の依頼の時はラルジャン様からの手紙を『まだ読めない』と……」
ラルジャン・ジキタリスからの手紙の事を思い出し、レティシアもまた表情を曇らせる。
「レビジュ様は、カインの事とその人の事で迷っていたのかしら」
そう言ったのは、グリッタである。彼女は双子の片割れのホークアイと頷き合うと、ホークアイが口を開いた。
「私達に気遣っているのでしょう。気にしないでいいのに……」
「そうかもしれませんね。……少し、話してみましょうか」
レティシアの言葉に、イズルとアリアも何か考えていたのだろう。静かに笑みで答えた。
レビジュが薬剤師の元から分けてもらった香油を運んでいると、窓の外から雪が降っているのが見えた。
(さっきまで晴れていたのに……)
外の掃除を担当している人は大丈夫だろうか? と気にしていると……、ベルク・オスマットの姿を見つける。
「おや、カード製作をしていたのではないか?」
「今、香油をもらいに行っていたんだ」
レビジュがアリアからアイデアを貰った事を話すと、ベルクもほんのりと笑顔になった。
自分は別の仕事があるから、と少年と別れた後。彼女はカード作りに向かう子どもたちの様子を見かけた時の事も振り返る。
(本当に、幼き子等が良き顔をするようになったな)
最初に会った時は、皆不安に満ちた顔をしていた。それが、徐々に生きる力を取り戻し、裏のない笑顔をするようになったと感じた。それが、少し彼女の心の中を温かくする。
(そういえば……)
レイウェスト・バルダスが今日、用事がありここに立ち寄る予定だ、というのは話に聞いている。ならば先触れが到着するだろう。
(さて、先触れがくるのは……)
彼女としては、殿下に子供たちのカードを送るタイミングを掴みたいのだ。
「到着するならば、あっちだな」
ベルクは、一先ずそこへ行ってみる事にした。
レビジュは、香油を届け終わるとカード製作に戻る。だが、彼は少し悩んでいるように見えた。
「レビジュは、誰にカードを送りたいんだ? 将軍や殿下には送ると聞いていたけど」
イズルに問われ、レビジュはこくりと頷く。だが、少しだけ表情を曇らせた。
「王国の従兄弟が、手紙をくれたんだ。でも、まだ冷静に読めるか自信がなくて読んでいない。レティシアさんに預かってもらってる。それとね……」
レビジュはこっそりとイズルに打ち明けた。それは、彼も戦った事のあるエクレール・カインの事だった。
未だ『メドゥの指先』に自らの意思で残っている為、繋がりを疑われる可能性がある。それだけではなく、彼は既にレビジュ達と決別している、と。
「いずれ、また戦うと思う。場合によっては、僕の手で倒さなくちゃいけないかもしれない。それでも、仲直りできなくてもせめて、生きて欲しくて」
仲間だったから、とレビジュが絞り出すように呟けばイズルは静かに頷いた。
二人に作るとしても、どういうメッセージを書けばいいのだろう、というのもあるようだ。イズルは少し考え「それじゃあ、俺もラルジャンにカードを書こうかな」と微笑んだ。
「どうして?」
「彼は今、王国のパンクリアース学園に通っているんだ。そこで依頼を受けてね……」
イズルがラルジャン・ジキタリスの人柄や、その時あった事を話すとレビジュは「そっか……」と小さく頷いた。
「そうそう! 以前の指先君へもこの際書いてみたらどうかな? ほら、修羅場でこう想いを纏めるのって難しいからねっ」
アリアがそれに乗って提案してくれる。彼女は優しい笑顔でレビジュに言う。
「書き出したら君の心を整理するのに役立つかもしれないよ。それに、カードを渡すチャンスだってくるかも、だし! 素直な気持ちでいいと思うよ!」
その言葉に押され、レビジュは「書いてみようかな」と頬をかきながら頷いた。
その様子を温かいまなざしで見ていたレティシアだったが、レビジュは小さく頷いて彼女のもとへと歩み寄る。
「何でしょう?」
「ラルジャンからの手紙、僕にくれませんか? 今なら、落ち着いて読めると思います」
レビジュはそういってぺこりと頭を下げた。レティシアはレビジュへと、ラルジャンの手紙を渡しながらそっと心の中で呟く。
(漸く、渡せましたよ……ラルジャン様)
●その頃の厨房
「熱気が凄いですね」
数羽の鴨を捕まえ、羽根を毟りって下処理まで終えたトーラは、厨房に来た途端そう呟いた。
アルベルト・V・シュタールシュヴェーアトは「よし、ここは俺が腕によりをかけてご馳走を作るぜ!」とシルトラース帝国の伝統料理を豪華にしたものを作るべく奮戦していた。しかも砦の兵士と子供達の為にである。そのため量もそこそこ多い。
「スープの方は丁度いい味になってきたな……」
スープの味見をしながらいい笑顔になるアルベルト。これを食べる人々の口に合えばいいが、と少しドキドキするものの笑顔の為に努力は惜しまないようだ。
「とてもいい匂いですね! こっちは何にするんですか?」
トーラが興味を持って問えば、アルベルトはにっこり笑う。
「細かく切った野菜とひき肉を合わせ、中にチーズを入れるよ。これを焼いてソースを絡めると祝いの料理になるんだ」
楽しみにしていて欲しい、とアルベルトが言えばトーラも笑顔で頷く。
(わたしも負けられませんよ~!)
トーラは早速内臓を取り除いた鴨の中に野菜を詰め、ローストの準備にとりかかった。
その鴨の内臓はというと、食べられる部分を使い別の料理人がパテを作っていた。これは兵士たちのおつまみになるようだ。
「見事だな……」
その手際に感心していたのはナタリア・フィッツジェラルド。難民キャンプで行われた入隊試験を経て兵士になった者達の一部が彼女を『教官』と呼んでいた。そして……。
「そうですね、教官! あの料理人はめちゃくちゃ腕がいいんですよ!」
と、彼女を手伝うユジンもまた、そう呼ぶ一人であった。
ナタリアは慌ただしい中でも身体をはって最前線に立つ者達へ労おうと考えた。そして、ユジンがどれだけ成長したか、確かめられる好機でもある、と。
彼女はユジンと二人、厨房で働く調理人達の腕や肩を揉んだりとマッサージをしながら話していた所である。
「私は傷を癒す事には慣れている。しかし、心を癒した経験はそれほど無いんだ。よかったら、私にその術を教えてくないか?」
「心を……? そんな大層な事はしてませんよ」
ユジンは彼女の言葉に目を丸くし、首を振る。そして苦笑しながら言葉を続けた。
「俺は、よく話を聞いていただけです。子供達とも偶々歳が近かったから、あの子らの上官の手伝いをする機会が多かっただけで……。それとも砦の先輩方の件か? そりゃあ、先輩たちが色々教えてくれたから今の俺達がいるんだ。 こんな時ぐらい、ゆっくりしてほしいじゃねぇか」
「そうか……」
ユジンは、最初緊張しながらも、徐々に楽し気にそう言う。
彼曰く、難民キャンプ出身の兵士たちもユジンと話し合い、率先して動いているらしい。ナタリアは、そんな彼を微笑ましく思い穏やかに言う。
「ならば、労われる兵士の中にはユジン、君も含まれてもいいのだろう? もちろん彼らもだ」
後で彼らにも何か労いをしようと考えるナタリア。ユジンはその言葉に目を丸くした。が、ややあってちょっと照れ交じりに微笑んだ。
「俺達はその……、恩返しの一環でやってるだけだよ」
「いいじゃないか。君たちも砦の兵士である事に変わりはない」
ナタリアはいつもより柔らかい笑みを浮かべそう言ったのだった。
(どこもかしこも忙しそうだったが、ここが一番人手を欲してそうだな)
と、料理の腕を振るう若者が一人。ホムンクルスのルイドである。
彼は料理人に頼まれ、主に料理の下準備を手伝っていた。手伝いということで砦を訪れたルイドは、「ユールフェスの準備ならメシも相応の量作るだろうし……」と厨房へと最初に踏み入った。その結果、大量の材料の下準備を任されたのである。
「予想以上の量だがやってやれないわけじゃない」
手早く野菜の下準備や下茹でなどを行えば料理人達も大助かり。ついでにアルベルトとトーラの料理の仕込みもさり気無くフォロー。大活躍である。
因みに、ルチルは卵要員としてニワトリを連れていた。そのニワトリが産んだ卵もお菓子作りの材料として貰っていた。
「お菓子の材料、追加分置いとくぜ。これぐらいでいいか?」
今彼が運んでいたのは小麦粉や卵など。丁度アルマ・ヴァレンタインに頼まれていたのだ。
「ありがとう! 今手が離せなかったから助かったよ」
そういうアルマは丁度お菓子の家のパーツとなるクッキーをオーブンに入れていた所だ。先ほどまでユールフェスらしい彩りと形をした前菜を作っていたと思っていたが……。
(彼女も、アルベルトやトーラも料理上手だな。何故だろう、ちょっと俺自身も楽しくなってるかもしれない)
周りに刺激されたルイドは、それとなく料理長に「今日は酒とかでるのか?」と聞いてみた。すると、成人した兵士には振る舞われるとの事と聞き、彼は腕まくり。
「そいじゃ、ちょっとしたつまみを作っておくか。さっき鴨のレバーパテを作ってるのを見たが、そいつだけじゃ面白みがないってね」
さて何を作ろうか……と、ルイドは材料を見ながら考える。
(なんだか料理とかの腕が上がった気がするなぁ)
アルマは先に出来上がっていたクッキーを見ながら実感し、嬉しくなった。そして、様子を見に来たエヴァン・ピオネロの口へ「はい、あーん♪」とクッキーの試食を頼む。
「……!」
婚約者がいるアルベルトは、「彼女にそうされたら、自分はどうなるだろう」と少し頬を赤くし、ルイドは「おぉっ」とちょっと目を見開く。ユジンは「アツアツだな!」と楽し気に囀ってナタリアに苦笑され、トーラは何故か顔を真っ赤にしていた。
(で、殿下にそんなことできるわけありませんから!)
……まぁ、想像しちゃうよね。乙女だもの。
「美味しい! いい焼き加減ですよ!」
「ふふ、ありがと」
エヴァンのお墨付きをもらい、アルマは早速そのクッキーでお菓子の家を作り始める。
一連の様子を見られていた事に気付いていないエヴァンは、「お疲れ様」と一礼してその場を後にした。
●準備も楽し
「セディさんの努力が最大限に生きるようにお手伝いしますね」
と、エヴァンはセディが作ったプレゼントの包装を行っていた。会場の掃除を終えたルチルもリボン掛けを手伝ってくれている。
セディから子供たちの好みなどを聞いたエヴァンは、一目で誰宛の贈り物か解るように工夫できないか考えた。その結果、子ども達一人一人好きな物の絵を描くことにした。
(こんな感じかな?)
子供たちの髪と同じ色のリボンを結い、好きな物の絵と組み合わせれば誰のかが解る仕組みだ。ルチルはそのアイデアに「なるほど~」と楽し気に微笑んだ。
「そういえば、どうやって運ぼう? やっぱりマジポケかい?」
「大きな袋に纏めた上でそうするつもりだよ」
リボンを丁寧に結いながら問うルチルに、エヴァンは白い布の袋を見せた。〈マジカルポケット〉は直径2メートル程度までの物ならば色々仕舞える為色んな授恵者達に重宝されているようだ。
「二人とも手際がいいな」
セディが感心していると、二人とも少し照れてしまう。
暫くして、包装がすべて終えると袋に纏め、一度エヴァンのマジポケへ。しかし……と、彼はセディを見た。
「プレゼントを子ども達に渡すのは、勿論セディさんの役目ですよ」
「喜んでもらえるだろうか……」
少し緊張気味なセディに、ルチルとエヴァンは微笑む。
「大丈夫だよ。ずっと子ども達を見ていたんだよね?」
ルチルは励ますように彼の背中を一度だけぽん、と叩いた。
会場は掃除の他、テーブルにクロスを飾る等終わっていた。あとは飾るだけである。そこで香りの良いキャンディーやクッキー、星の飾りを天井からつるしたり、壁にリボンをつけたりしてみる。目指すはお菓子の家の内装である。
応援として呼ばれた兵士達と共に、3人はせっせと可愛い内装を目指し作業に励むのだった。
「いやぁ、助かったよ!」
ナタリアとユジンは料理人たちからマッサージの礼を言われていた。
「調理の際鍋を振ったり、重い物を持ったりと腕を酷使すると聞いていたからな。少しでも癒せたならば」
「おっちゃん達には普段から美味しいメシを食わせてもらってるし……」
少し照れながら言うナタリアとユジンを料理人達は微笑ましいく思った。
お礼を背に部屋を後にすると、ベルクが急ぎ足で前を通り過ぎた。
「どうした?」
「先ほど先触れが来た。我はレビジュ達の状況を確認してくる」
子どもたちが殿下や将軍等にユールフェスのカード書いている、とユジンから聞いていたナタリアは、「なるほど」と手を打った。
●さぁ、準備は整った!
厨房にはいい匂いが立ち込める。普段の食事よりちょっと豪華な、ユールフェスのご馳走である。もちろんお菓子も揃っており、準備は万端だ。
「こっちは子ども達の分で……」
「こっちが兵士達の分、だな!」
「おつまみはこのぐらいでいいかな」
「ふふっ、お菓子もばっちり!」
トーラ、アルベルト、ルイド、アルマが料理とお菓子の仕上げを終え、仕分けをしていた。兵士たちの分は食堂で出される者と見張り担当など持ち場から動けない人用のお弁当に分けられている。
「では、時間も時間ですしお弁当を届けてきましょう」
トーラがルイドと頷き合ってバスケットを抱える。
「子どもたちの分は俺が運んでこよう」
アルベルトが料理と取り皿などをワゴンに入れていると、アリアがやってくる。彼女は会場整備の手伝いに回っていたのだ。
「お料理運ぶの大変じゃない? 助っ人にきたよっ!」
「ティーダさん、助かった! 会場の準備は……」
「それならばっちりですよ」
エヴァンがひょっこりと顔を出して報告する。彼曰く、ルチルが子ども達をそろそろ呼びに行くらしい。また、最後の仕上げとしてセディが花を飾っているとの事。
「それじゃあ、トーラさんとルイドさんもよろしく。いこう、ヴァレンタインさん」
アルベルトはアルマと頷き合い、アリア、エヴァンと共に秘密のパーティー会場へと食べ物を運んでいく。
「子ども達の方は任せましたよ。さあ、わたし達も」
「あぁ。いこう」
トーラとルイドもまた頷き合い、特別なお弁当を届けに向かった。
「ユールフェスのお弁当です!」
「あぁ、ありがとう」
トーラは見張り台にいる兵士へとお弁当を届けに行った。彼らは次の交代まで下に降りることが出来ない。それ故に、食事をここで取る事も多いようだ。
鴨肉のローストの一部をサンドイッチにした物だが、味が良かったのだろう。兵士たちの反応は上々である。
「こちらもありますよ。冷めないうちにどうぞ!」
〈マジカルポケット〉に入れていた為、出来立ての湯気が暮れなずむ砦の空に立ち上る。トーラが用意したホットワインに、兵士たちは目をぱっ、と輝かせた。
「気が利くね、お嬢さん。ホント、寒い日はこういうのが美味しいんだよ」
「香辛料が入ったのは特に美味しい」
ホットワインを貰った兵士達は、皆笑顔で少女に礼を述べ、口をつけた。
一方、ルイドは非番になった者達へお酒とおつまみのお届けに。すると、既に酒の入った兵士たちは陽気な声を上げ出迎えた。
「おっ、これはなかなか美味しそうじゃねぇか!」
「これ、雰囲気がお洒落だなぁ! 何だい?」
「こっちは鴨レバーのパテで、こっちがチーズ入りの揚げ肉団子。それから、チーズの盛り合わせと……」
ルイドが説明していく傍から、テーブルに置かれたおつまみに手が伸びる。
(作った甲斐があったな)
とルイドがほんのり微笑んでいると、兵士の一人が肩を組もうとしてきた。咄嗟に避けると兵士は「つれねぇなあ」と笑った。
「あんちゃん、イける口かい? 飲んでけよ?」
「いや、まだ配達が残ってんだ。またな」
ルイドは苦笑し、その場を後にする。お酒の匂いが漂うが、今はそれを無視し次の配達場所へと向かって行った。
お菓子が吊り下げられた、パーティー会場。可愛らしく飾り付けられた部屋に、白いクロスが引かれたテーブル。そこに料理が次々に並べられる。
「取り皿よし、飲み物よし! それからお菓子の家よし!」
アルベルトが指さし確認し、アリアはユールフェスの飾りを追加。そしてルチルが密かに用意した里の人々からのカードも飾っておく。
「お菓子はこっちにも置いておくね」
アルマが追加のお菓子を置き、エヴァンは飾りに不備がないか最後の点検。それを終えた所で3人に問う。
「そろそろ子ども達を呼んでいいかな?」
アルベルトたちが頷くと、彼は外で待機していたルチルにサインを送る。彼女はそれに頷きながらもちょいちょいとアルベルトを呼ぶ。
「どうしたんだ?」
「そろそろ殿下がお見えになるらしいよ」
「そうか。ありがとう、グレイハーツさん。では、行ってくるよ」
彼はエヴァン達に一礼し、速やかに部屋を出た。
カードが大体出来上がり、イズルが回収している頃。ベルクが彼らの元を訪れた。
「あ、ベルクさん! どうしたの?」
「実は殿下がお見えになるのだ。それでカードを渡すならちょうどいいかと思ってな」
ベルクの言葉を聞き、レティシアは「まぁ」と小さく声を上げる。
回収の際仕分けも行っている為、殿下宛は直ぐに用意できる。だが少し時間が欲しいとも思った彼女はイズルとレビジュに相談する。
その結果をレビジュから聞いたベルクは静かに頷いた。
「おっと! みんな揃ってるみたいだね!」
そこへやって来たのはルチル。彼女はリザードマン特有の尻尾を少し揺らし、子ども達についておいで、と微笑んだ。
(どうやら準備が終わったみたいですね)
レティシアはふふっ、と優しい笑みをこぼすと子ども達を促して退出。ベルクは楽し気な子供たちの背中を見送ると、レイウェストを出迎えるべくその場を後にする。と、ルチルがイズルと共にレイウェスト宛の手紙をラッピングするのが見えた。
●ユールフェスはこれからだ!
「へぇ……」
少し賑やかになったと思ったルイドは、レイウェスト・バルタスが砦に来た事を兵士達の会話で知った。
よく見れば、ベルクとアルベルト、ナタリア、ユジンが彼に挨拶しているのが見える。
「レイウェスト殿下! わざわざお越しいただきありがとうございます」
「出迎え、ありがとう。……やはり、ユールフェスだけあってどこか和やかだね」
レイウェストはアルベルトにそう言うと優しい笑顔を浮かべた。
話によると、レイウェストはユールフェスと言う事で兵士達を労うべく来たようだ。
(ならば、好都合かもしれない)
ベルクは僅かに笑みを深めた。
「将兵への激励を兼ねて砦内の視察を行うのですか?」
「ああ。あまり時間は取れないが……」
レイウェストも忙しい身である。だが、少しでも様子を見ておきたいようだ。二人は「お供します」と護衛を買って出、共に歩きだした。
その様子を見ていたルイドもまた、食堂へ踵を返し、楽し気に向かって行った。
「わぁ……!!」
レティシアに案内され部屋にやって来た子供達は、用意された料理や素敵な飾り付けに目を輝かせた。
「皆が頑張っていたから、ご褒美として用意されたんだ」
「その前に、セディさぁーん!」
イズルが説明し、アリアが声をあげると白い袋をもったセディが笑顔で子供達を呼び寄せる。そして、一人ずつ名前を呼べばリボンと絵で判断しプレゼントを手渡す。
「手袋だぁ!」「あったかそ~」
子ども達はプレゼントに大喜び! しかも袋にそれぞれ好きな物が描いてあり、笑みを押さえられないようだ。
お礼をいう子ども達の明るい顔に、アルマとエヴァンも思わずほっこりするのだった。
子供達がパーティーを楽しむ姿に、レイウェストは小さく「よかった」と呟いた。そんな彼に声をかける者が。ルチルである。
「久しぶりだね。少し気を抜いてゆっくりして行くといいよ」
彼女はそういいながら、ラッピングされた袋をベルクとアルベルトと共に差し出した。
「これは、子ども達からのカードです。そして、こっちが俺からです」
「後ほど将軍にも届ける所存です」
その事に少し驚きながらも、彼は「ありがとう」と笑みを溢し受けとる。
「アンタが救おうとした命が、甘さは間違いではないとしっかり見ておくんだよ」
ルチルの言葉に、レイウェストが静かに頷く。彼自身、こうして明るくなった子ども達の様子に安堵しているようだ。
(過去はどうあれ、殿下がそなた等に生きて欲しいと願い今のそなた等がいる)
ベルクは、レイウェストの横顔と子供たちの様子を見ながら穏やかな眼差しを向ける。
「今のそなた等は、我らが守るべき帝国の民の一員だよ」
瞳を細め、優しい声で彼女は呟けばナタリアも笑顔で頷いた。
食堂では、兵士たちがご馳走を食べている。料理のとりわけなどを手伝っていたトーラとルイドであったが、窓をみて思わず微笑む。
「雪が……」
「ユールフェスらしくなってきたな」
思わず笑いあっていると、どこからともなく歌が聞こえてきた。程よく酒の入った兵士が歌い出したようだ。
それに合わせ、一人、また一人で歌い始める。
その楽しい歌声に、二人も釣られてしまった。
「これ、お願いできますか?」
「えぇ」
レティシアは、レビジュからラルジャン宛てのカードを託される。彼女はそれを大切にしまうと、ふわり、とカモミールの香りが。その正体は彼女からレビジュへのカードである。
先日心配してくれたお礼や、レビジュ自身の悩みへの激励が書かれたカード。それを読んだ時少年はどんな顔をするのだろうか?
「ありがとう。後で読むね」
レビジュは嬉しそうに微笑んだ。その様子をイズルは暖かい笑顔で見守る。
すると、子どもの一人が「雪だ!」と声を上げる。皆窓の外をみると、確かにちらほらと雪が降り始めていた。
「俺、ホントは雪が嫌いだったんだ。すっげぇ冷たいから。でも、こんな日に楽しい思い出が出来たんだもん、少しはちがうかな」
ブリザラが、雪を見上げてそういえば準備を手伝った物たちは努力が報われたな、と感じた。
しばらくして、レイウェストは砦を出る。
それを見送った者達は、それぞれユールフェスを楽しむことに。
「ユジン。食事に行こうか」
「……はいっ! ベルクさんも一緒にどうですか?」
「そうしよう。トーラ殿が作った鴨肉のロースト、未だあるといいが……」
ナタリア、ユジン、ベルクは揃って食堂へ。アルベルトは「子ども達の料理は足りているだろうか?」と呟きながら会場へ向かう。
「ん?」
何かがかちゃりと音がして振り返ったルチルは、しっぽに星飾りが飾られていた事に気付く。「こらこら、アタイの尻尾はツリーじゃないぞ」と思わず苦笑していると、つれていたニワトリが興奮していた。
「……危機感故に興奮しているのかい?」
思わず問いかけてしまうルチルに、アルベルトが手を振る。子ども達が待っている、と。彼女は「今行くよ」とニワトリと共に会場へと向かった。
ヴァイセントラフ砦のユールフェスは、笑顔と笑い声に満ち、ほっこりと過ぎて行く……。
(終)
マスターコメント
おまたせしました。ヴァイセントラフ砦のユールフェス、如何だったでしょうか?
皆様のやさしさのお陰でユールフェスも穏やかに過ぎただけでなく、子ども達からレイウェストへの暖かいメッセージが届けられました。
その他、兵士たちも楽しく過ごせたようで文句なしの大成功でございます。
また色々ありますが子ども達は色々経験して欲しいですね。
それではまた縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントシナリオ普通 報酬:標準11 / 5〜25人
2023年01月14日 10時25分57秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
エヴァンです。宜しく…お願いします。 アルマと【2:ご褒美のパーティーを準備しよう】に参加を予定してますが 人数が大きく偏るようでしたら移動を検討しますので教えてくださいね。
アルマだよ、どーぞよろしくねー エヴァくんと同じく【2】でご馳走の準備とかをメインにがんばる予定だよ
トーラです。 わたしは3で兵士さんたちへの労いをやろうと思います。
もうすぐ新しい1年が始まるんだねぇ。 ユールフェスに集まってくれて、ありがとう。 報告書(プレイング)の提出は本日の23:00まで! 白紙とかに注意してね!