桜の街と秋の暮れ
崎田航輝
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シナリオID:2614
オープニング
日が短くなり、夕焼けの訪れが一層早くなる頃。
桜の街でもまた――紅葉した木々がその葉をはらはらと落とし始めていた。
道々を鮮やかな紅に彩るそれは、叙情的な美観。
同時に、風が冷たくなる時節の訪れでもあるけれど。それ故に――街の広場では、ほかほかと湯気を昇らす大きな鍋に、沢山の人々が集まろうとしていた。
灯籠の並ぶ道に、石畳。
瓦屋根の家並みが何とも風流な――倭桜ノ街。
シャルガネの一端にあるその地区では……ゆっくりと秋の後半が訪れ始める頃だった。
「うん、やっぱり紅葉も綺麗だ」
そんな中、通りを歩む町長は改めて微笑む。
桜の街と言われるここでは、秋の桜も美しい。花はなくとも、見回せば景色が紅葉の色で染まり……歩めばかさりかさりと落ち葉が鳴って快い。
ただ――道行く人々が楽しげなのは、それだけが理由ではない。
甘味処や食事処では秋の味覚が一層味を増し、道の屋台では焼きたての甘栗が香りを漂わせていて。
「今年も、準備は万端ですか?」
「勿論です!」
と、町長に応えるのは忙しそうな町人。
増える観光客や、新たに訪れる人々の為――今年もまた、街の文化に親しんでもらう為の出し物も用意しているのだ。
目玉は、広場に据えた大鍋で作る芋煮。
気温も下がってきた今頃には、身も心も温まる美味となるだろう。
だからこそ――
「やはり、彼らを招かせてもらわねば」
街の魅力をもっと知って、体験して、楽しんでもらいたい人達がいるのだと、町長は踵を返して歩み出す。
それは他でもない――冒険者達の事。
そして秋の暮れが始まるその日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
見えるのは桜紅葉と、季節を味わう人々。
その中で、冒険者達はそれぞれに歩み出して――
桜の街でもまた――紅葉した木々がその葉をはらはらと落とし始めていた。
道々を鮮やかな紅に彩るそれは、叙情的な美観。
同時に、風が冷たくなる時節の訪れでもあるけれど。それ故に――街の広場では、ほかほかと湯気を昇らす大きな鍋に、沢山の人々が集まろうとしていた。
灯籠の並ぶ道に、石畳。
瓦屋根の家並みが何とも風流な――倭桜ノ街。
シャルガネの一端にあるその地区では……ゆっくりと秋の後半が訪れ始める頃だった。
「うん、やっぱり紅葉も綺麗だ」
そんな中、通りを歩む町長は改めて微笑む。
桜の街と言われるここでは、秋の桜も美しい。花はなくとも、見回せば景色が紅葉の色で染まり……歩めばかさりかさりと落ち葉が鳴って快い。
ただ――道行く人々が楽しげなのは、それだけが理由ではない。
甘味処や食事処では秋の味覚が一層味を増し、道の屋台では焼きたての甘栗が香りを漂わせていて。
「今年も、準備は万端ですか?」
「勿論です!」
と、町長に応えるのは忙しそうな町人。
増える観光客や、新たに訪れる人々の為――今年もまた、街の文化に親しんでもらう為の出し物も用意しているのだ。
目玉は、広場に据えた大鍋で作る芋煮。
気温も下がってきた今頃には、身も心も温まる美味となるだろう。
だからこそ――
「やはり、彼らを招かせてもらわねば」
街の魅力をもっと知って、体験して、楽しんでもらいたい人達がいるのだと、町長は踵を返して歩み出す。
それは他でもない――冒険者達の事。
そして秋の暮れが始まるその日、冒険者達は桜の街へ招かれた。
見えるのは桜紅葉と、季節を味わう人々。
その中で、冒険者達はそれぞれに歩み出して――
解説
●概要
シャルガネにある「倭桜ノ街」へ、観光に招かれました。
街の中で自由に過ごしてゆく事が出来ます。
時間帯、訪れる場所などは自由です。
●倭桜ノ街について
シャルガネの一端にある街区。東方文化の色濃い街。
桜の紅葉が葉を落とし始めており、風流な眺めが楽しめます。
秋の味覚の店や、芸術の秋を主題にした各種体験会も催されています。この時期は特に芋煮会が盛り上がるようです。
長らく平和を保ってきた街です。雰囲気はやわらかで、おおらかな人々が多い印象です。
夜は灯籠、提灯に照らされます。
●行える事
街を自由に散策する事が出来ます。
以下、立ち寄れる場所などの例を示します。
1.芋煮会
桜広場にて行われています。
巨大な鍋で芋煮をする催しで、多くの人が参加しています。
料理に加わったり、芋煮の味を楽しんだり出来ます。
メインはベーシックな味付けです。小さな鍋も多数持ち込まれており、そこでオリジナルの味を作る事もできます。
2.食事処、甘味処、屋台
食事処では秋の魚や新酒が提供されています。
甘味処では栗きんとんに栗羊羹、栗まんじゅうなどが人気です。
柿やぶどうなど、秋らしい果実の盛り合わせも人気です。また、甘栗の屋台なども出ています。
3.通りの散策
桜の紅葉が落ち始めており、季節ならではの景色が眺められます。
道々が落ち葉に満ちて、鮮やかな紅に染まっています。
4.翠の園
秋の花と小川が美しい公園です。
散策の他、清流で川魚を釣る事も出来ます。
5.浮世絵制作
肉筆または木版画で制作体験が出来ます。
題材は自由で、絵を一枚仕上げます。知識のある人は教える側に回っても喜ばれるでしょう。
6.和楽器演奏会
舞台のある小屋で三味線や鼓などを学びつつ演奏を楽しめます。
心得のある人は舞台で何らかのパフォーマンスをしても盛り上げられるでしょう。
7.書道
筆と墨を使って自由に書を書きます。
抱負や座右の銘を記したり、掛け軸を作る事も出来ます。
8.神社
泰平の神が祀られた神社です。
お参りする他、おみくじや流鏑馬体験などもあります。
兎や猫などが垣間見える、のんびりとした空気です。
9.土産巡り
東方風の物品を求める事が出来ます。
桜を使った装飾品や日用品、食料品なども人気です。
マスターより
シャルガネの一地区で観光を楽しむシナリオとなります。
秋も後半を迎えた街を散策します。
行わなければならない事などはないので、自由に過ごしてみて下さい。
街には例として示した以外にも、普通の街にありそうな機能を持った施設なら存在します。
適宜過ごしたい場所を訪れてみると良いでしょう。
同行者がいらっしゃる場合は、お名前や共通のグループ名(人数なども併記して下されば確実です)などを記載して頂けると助かります。
皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。
リプレイ
紅色が空に映え、風に舞う葉もまた鮮麗。
そんな美観の道を、ゲルダ・クラインとナハティガル=ラーは並んで歩む。
「綺麗、ですね……」
言葉と共に隣を見るゲルダは落ち着いた灰色地に、野菊の柄が上品な着物姿。
不自然な背伸びはしないように、けれど隣を歩く彼に釣り合うようにと――少しだけ大人っぽさを意識していた。
「ああ」
応えるナハティガルは着物を着流した上に、インバネスコートを羽織って……景色に寄り添った風流さ。
髪型もいつもとは異なり、肩の辺りで組紐を使い緩く一つに纏める形。それが淡く秋風に揺れると、ナハティガルは季節の移ろいを感じた。
――紅葉狩りへ行こうと思い立ったのは数日前の事。
学園の選挙で慌ただしくしていたゲルダに、物見遊山を、と思ったのだ。
「……」
選挙は残念な結果となってしまったが――隣を見ると、ゲルダが特に落ち込んではいない様子で……その事に安堵する思いだった。
「向こうも見てみるか」
視線の先は葉で紅の絨毯になっている。
「はいっ」
ゲルダは勿論と頷いて、共に歩みを向けた。
その色彩は秋だけのもの。だからゲルダは一層、巡る季節を思う。
「……」
冬の雪景色から始まって、春の桜に夏の星空、そして秋の紅葉。
『いつでも一緒』という訳ではないけれど、過ぎていく季節の中で確かに縁は繋がっていて――だからふと考える。
――ナハティガル様にとって、わたしはどういう存在なんだろう?
隣で歩く自分を、彼はどう感じているのだろうと。
その思いを、ナハティガルは知らない。
ただ、隣の横顔をそっと見つめ……ナハティガルもまた思う。
帝国移住したゴブリン達の暴走の事、黒鋼竜の公子の事。自身の意思に関係なく、決断の時が迫っている――そんな予感がするから。
(来年も再来年も)
――俺はゲルダとこうして紅葉を、四季折々の景色を、見に行く事はできるのだろうか?
心は表に語らず、目線を紅葉に戻す。
その顔を小さく、ゲルダは隣から見つめる。
ゲルダもまた、その思いを言葉に表す事はしない。
今はただ……。
――彼がこの気持ちに気付きませんように。
――この縁が、途切れてしまいませんように。
そう願うだけで精一杯だったから。
二人は紅に染まった道を歩む。風は優しくも、次の季節の温度を帯びていた。
サイラスは甘味処へ。
まずは秋の果実の盛り合わせを、茶と共に楽しんでいた。
「やっぱり新鮮さは大事だな」
口に運ぶと、りんごは瑞々しくも程よい歯応え。
小粒のぶどうは強い甘味とジューシーさで、大粒のものも丁度よい硬さと甘酸っぱさで、採れたてならではの美味だ。
勿論、栗のお菓子も吟味。
「じゃあ、これを」
と、頼んだ栗まんじゅうは、ほくほくの栗あんが優しい口溶けで。
共に注文した栗羊羹も濃厚な甘みで、まるごと入った栗も甘露でやわく煮えており……深みのある風味が上品だった。
「後は、そうだな……」
プレーンな栗をほぐしたものと、りんごや梨を少々。
こちらは飼い犬にあげて……はぐはぐと食べて満足げな鳴き声を零す、そんな姿を暫し横目に眺めるのだった。
そうして数軒はしごした後は、次にお土産探し。
果物などを見繕いつつ――
「折角だし、栗は持ち帰っとくか」
と、大粒な甘栗を見つけるとそちらへ。モンブランなどを作るのにも良いだろうと、十分な量を確保して。
「こんなもんか」
満足に頷いたサイラスは、後は景色も時折眺めながら……ゆるりと通りを歩んでいった。
甘味処の一角で、エルナ・クルプファルツはお茶とお菓子を楽しんでいた。
「ん、美味しいです!」
栗羊羹の滑らかな甘味を楽しみ、お茶をずずずと啜り。
更にりんごやぶどうも入ったあんみつを食べれば、大満足。
外を見れば鮮やかな紅葉が目にも楽しくて……お腹も一杯で心も癒えて、元気いっぱい。再び通りへと出てゆく。
「次は、どこへ行きましょうか――!」
見回せばどこも秋の彩。
甘い匂いに、芳しい香り。美味もまだまだ待っている。
だからそれを楽しみに……エルナは軽やかな足取りで散策を続けていった。
窓から景色を望める甘味処。
その席で、ベルク・オスマットはお品書きを眺めていた。
「色々と揃っているな」
豊かな品揃えに少々迷いつつ、まずは栗あんがたっぷりと詰まったまんじゅうを選択。だけでなく――忘れてはならぬ清酒も注文して。
「よし」
と、とっくりを傍らに楽しみ始めた。
すると栗まんじゅうは風味豊かな甘さが快い。
そこで酒を一口含むと、辛口なのど越しがその甘味を程よく溶かしていって。
「うむ、やはり酒には甘味が合う」
ベルクは頷きつつ、まんじゅうを完食。
次に、金色が美しい栗きんとんを注文。こちらに合わせるのもまた別の地酒で……澄んだ透明色が美しい一品だ。
「こちらはすっきりとした味わいだな」
栗きんとんはなめらかな舌触りが美味を運ぶ。同時に飲んだ酒は、先刻のものより透明感のある甘口で、淡めの味付けの栗と相性が抜群だ。
そうして外を眺めると、落ち葉が風に踊っていて。
「秋もそろそろ、終わりか」
ゆっくりと季節が冬支度を始めている。
その眺めもまた、美しく。
穏やかな晩秋の時間を――ベルクはゆるりと過ごしていた。
街の旺盛に伴って、演奏会にも多くの聴衆が集まる。
そんな舞台に――ルルト・アーキスとアルバス・ロウルは共に上がっていた。
「街の皆に成果を披露できるね!」
「ああ」
何せあれから一年、三味線の練習を続けてきたのだから。
二人は目を合わせて合図を送ると……弾むような音色を奏で出す。
アルバスはルルトを導きながら、心の向くままに楽しく。ルルトもアルバスの音色の重ねるよう、心のままに朗らかな曲を紡いで。
雅ながら、踊りたくなるようなその旋律に――人々も暫し夢中になって耳を傾けた。
盛り上がったまま終奏を迎えると、拍手喝采。
その中で二人は舞台から降りて……ぴょんと加わったタマさんと共に三人でハイタッチ。
「……すっごく楽しかった!」
「ああ、楽しかったな!」
ふと目を向ければ、さらなる曲を求めるアンコールが湧いていて……三人で再び舞台へ。町人の鼓や笛と合わせ、一層の盛り上がりを作った。
そうして音楽を楽しんだ後は――
「腹が減ったな」
「ボクもお腹ぺっこぺこ!」
「よし。いろいろ見て回るか?」
「うん!」
と、笑み合って散策へ向かう。
「何食べよっかなぁ♪ 」
そうしてルルトがわくわくと通りを歩むうち……賑わいに誘われ桜広場へ。
あたたかな湯気を昇らす芋煮をゲットして、早速座って食べようとする。
――と。
「あれは――」
アルバスがふと、見知った人影を見つける。
明媚な紅色の道を、パルドとウォーゼルは並んで歩んでいた。
「紅葉って綺麗だな」
「うん」
パルドの言葉にウォーゼルも心から頷く。
「夏も良かったけど、この季節も素敵だね」
風鈴が心地良い音を奏でていた通りも、今は紅葉がとても綺麗で……時節で姿を変える美観に、目を奪われる。
だけでなく二人が微笑むのは……猫のショコラが落ち葉の上でガサガサと飛び跳ねているから。
ミニコボのチョコもそこへ加わり、一緒になって降る葉を捕まえようと足を伸ばし……上手くキャッチしては、また転がって戯れる。
ふふ、と笑いながらパルドは思い出す。
「そういえば初めてシャルガネに来たのも秋だったな」
「あれからもう一年か」
「色々あったけど……ウォーゼルはどの季節が好き?」
「うーん……」
ウォーゼルは悩む。
どの季節も、パルドと過ごした楽しい思い出ばかりだから。
それでも――
「選ぶとしたら、秋かな? 紅葉が綺麗で、美味しい物が沢山だし。それに……。――パルドはどの季節が好き?」
「んー、いつも、美味しいものたくさんだったもんな」
パルドも調理会を思い返し悩む。
それに、新年も風鈴も楽しかった。
けれど――
「全部好きだけど、強いていうなら、今の季節が一番好き」
「同じだね。俺も”今”が一番だよ」
ウォーゼルは応える。
二人の心は同じだ。――互いが居る“今”が一番だから。
「……あ、羊羹また買ってもいい?」
「うん」
ウォーゼルの言葉にパルドが頷いて、買い物をしつつ散策を続けると――そこで、アルバスとルルトに気づいたのだった。
「二人も来てたんだな」
アルバスが歩んでゆくと、パルドもウォーゼルと共にそちらへ。
「ああ、久しぶりだな」
「うん。久しぶりだね! 元気だった?」
と、ルルトも元気よく手を振りつつ駆け寄って……タマさんと共に、チョコとショコラにもしゃがんで挨拶。
アルバスもチョコとショコラにも挨拶し撫でてあげると……ウォーゼルはそんな様子に微笑んで。
「二人も元気そうで何より」
『わふっ!』
チョコも朗らかに鳴き、ショコラもまたタマさん達に挨拶を返すから――皆は笑みを交わし、同席。ウォーゼルとパルドも芋煮を頂く事にした。
「色んな種類があるみたいだよ」
「食べ比べてみたいな」
パルドはわくわくと、まずは普通の味付けのものを貰って。
「あちっ」
猫舌なので冷ましつつ……はふはふと口の中の熱を逃がしながら食べる。
「美味しい! おかわりもらってくる!」
「ふふ、俺もおかわりしよう」
と、それに表情を和らげつつ、ウォーゼルも素朴な味を楽しんでおかわり。更に唐辛子の利いた味付けや、甘めの芋が加わったものなど幾つもの美味を堪能した。
「デザートも一緒に食べようか」
アルバスは言って、栗まんじゅうをおすそ分け。
するとルルトもまた色彩の詰まった籠を見せる。
「果物の盛り合わせもあるよ!」
入っているのは深い紫のぶどうや、緑が美しいぶどう。
瑞々しいりんごに梨、香り高い桃もまた鮮やかで。
「わっ、すごい!」
嬉しい驚きにウォーゼルが笑むと、パルドも香りに誘われ共に実食。
何より、皆で和気藹々と食べると一際美味しくなるから。
皆は穏やかな秋の暮れを、楽しく和やかに過ごしていった。
「へぇ……」
視界に広がる鮮麗な紅色。
その美観にナキルが感心を零すと――隣に並ぶエフィルミアも心同じく、感嘆を浮かべていた。
「綺麗……!」
桜と言えば春のイメージを持っていたけれど。
「秋に葉がこんなに綺麗に色づくなんて知らなかった――」
「ああ、桜にこういう楽しみ方もあったんだな」
ナキルが応えて歩むと、エフィルミアもまた真っ赤な桜紅葉の間を進み出す。
すると風に揺れる紅の葉が美しく……絨毯のように広がる地面の葉も、かさりかさりと小気味好い音を響かせて。
「こうやって踏みしめて歩くのも楽しいね!」
「そうだな」
エフィルミアの花のような笑顔に、ナキルも頷いた。
「花見は見知ってたケド――紅葉ってのも悪くない」
吹く風は春よりも冷たさを増している。
けれどそれが春にはなかった叙情と色彩を生み出している。
そう思えば、これもまた季節の恵み。
それに、エフィルミアにとっては重ね着でおしゃれが楽しい時節。
踊るような足取りで前に出ると、くるりと回って裾を靡かせ……気合を入れておしゃれしてきた秋服を、一番見せたかった相手に改めて見せた。
「秋の桜も私に似合うでしょ?」
そう言う表情は悪戯っぽい笑み。
そんな魅惑的な一面に――ナキルはというと、真っ直ぐに頷く。
「あぁ、似合ってるな。……何時も可愛いけど、今日は綺麗ってカンジかな」
桜の中に溶け込むようなミアも良かったけど――紅色の中に咲くように映えるミアも魅力的だ、と。
「枯れない桜はオレが独り占めだな」
「……」
向けられた衒わぬ言葉と視線に、エフィルミアは少し照れて目をそらす。
(もうっ、本当、そういうところがかっこいいんだよね……!)
勿論、思ってても口には出してあげないけれど。
そんな様子のエフィルミアに、今度はナキルが悪戯っぽく笑って。
「まぁ、オレがそう思うのも、ミアと一緒に居るからだと思うぜ」
「……うん」
エフィルミアは頷き、また隣に寄り添う。
――手を繋いで進むこの道が、ずっと続きますように。
そんな思いを胸にいだきながら。
「よし、他にも色々あるみたいだしな。もっと沢山2人で見に行こうぜ、ミア!」
「うん!」
いっぱい色んなものを見に行こうね、と。
エフィルミアは思いと共にナキルと歩んでゆく。
自分だって――いつでも楽しいのは、ナキルが隣に居てくれるからなのだから。
互いの手のあたたかさを感じながら二人は歩む。それを見守るよう、桜紅葉が美しくそよいでいた。
紅色を帯びた街を、ヴィナスとルーンス・ラグネルは並んで散策。
景色を楽しみながら――神社へと寄っていた。
「ここも綺麗だね」
「うん。それに――とても良い場所だ」
ルーンスの言葉に応え、ヴィナスはゆるりと見回している。
手水舎に入ってから拝殿へ。巡って参道を歩む間も……感じるのは穏やかな空気だ。
横切っていくうさぎや、日向ぼっこをしている猫も目に入るから、一層それを実感してヴィナスは目元を和らげる。
「ここは緩やかに確実に発展したからこそ、のんびりした場所があるよね」
だからこそ思う事もあった。
そんな横顔を、ルーンスは見やる。
ヴィナスの考えている事については、知っていた。
「臥魅郷の事だよね」
ヴィナスが依頼を通じて、同じシャルガネにあるその郷を気にかけている事を、ルーンスも聞き及んではいた。
ヴィナスも頷く。
「この先が変わり目になると思うから。ルーンはどう思うかな」
「やっぱり……聞く範囲でも無防備さは感じるかな」
ルーンスは答えた。
だからある種の成功例としてのこの街を、改めて訪れた――そのヴィナスの目的が、ルーンスにも判る。
「今は平和が最優先で、ある種セーブされている状態だと思うけど。解決したら、それもわからなくなるだろうし」
「うん。姿を見せ始めた同盟の商人に上手く転がされる危険性もある」
それはヴィナスにとっての正直な懸念だ。
「発展の形としていいケースが同じシャルガネにあるんだから、沿えるところは沿いたいね」
「そうだね。ここは……泰平の神が奉られてるだけあって兎も猫も泰平のようだし」
と、ルーンスは寛ぐ動物達を見やりつつ。
「魅力を失わない発展があってこそ経済は生まれる。それを考えると、商談を持ち掛ける商人は吟味した方がいいだろうね」
アーダベルト商会が手を貸すのも良いかも、とも呟きながら。
神社を出た二人は土産巡りへ。
風流な品々を眺め、ヴィナスはそこからも知見を得る。
(あの色を損なわない特産品となると、伝統工芸かな)
機会があったら提案しよう、と。
そんな事を考え続ける自分に、ふと笑みを零す。
「やっぱり、ルース・アーダベルトは商人を捨てられないらしい」
「捨てられないどころか」
と、ルーンスは笑みを返す。
「ルース・アーダベルトが凄腕の商人だというのは、当商会では変えられない事実だけど?」
「ありがとう。……これも母さんの血かな」
「だね」
僕とにいさまの商才は絶対アレ由来ではないから、と。
言ってから、ルーンスが気分をまたすぐに街巡りに戻すと――ヴィナスも頷いて。二人でまた散策を続けていった。
「いい匂いがする――」
秋風に乗って、季節の味覚の香りが漂う。
そんな通りをアルマ・ヴァレンタインは散策していた。
(エヴァくんはご用事で一緒にこれなくてざんねんだけどー……)
折角の秋の倭桜ノ街。
たまにはお一人様で回るのも良いかもと――早速広場の湯気に誘われて、芋煮を頂く事にする。
すると、優しい出汁の味が何とも沁みて。
「ん、美味しいー」
里芋もほくほく、且つ口当たりが滑らかで美味。
勿論食事処も寄って、焼き立ての秋刀魚も実食。はふりと口に運ぶと脂と旨味が得も言われぬ美味しさだ。
「デザートも食べに行こうっと」
と、甘味処では栗の甘露煮で芳醇な甘味を楽しむだけでなく、栗ようかんに栗まんじゅうと栗づくしを味わって。
「そうだ。お土産にも買っていこう」
特に美味しかった栗のお菓子はお土産用にも買って包んでもらう。
更にぶどうや魚といった他の食料品も仕入れつつ――
「あっ、お揃いで使えそう」
土産物店で、装飾に使える色彩豊かな組紐や……風流な柄の食器を買う事にして。
「これでよしっと」
それらを渡せる事を楽しみに……アルマは帰路へと歩んでいった。
「紅葉の赤が鮮やかね」
肩に乗せた栗鼠のクノキと共に、桜広場へ歩んできた楓月・千弦は――感心の声で景色を見回していた。
ふしぎ亭のメンバーで一緒に、秋を楽しみに来た所。
既に良い匂いも漂っていて……テュリン・ヴィングはそちらに歩みを向ける。
「あれが芋煮ね」
「わぁ、大きな鍋」
と、ララベル・サン・ディーベルが笑顔を浮かべるのも当然だろう。
賑わいの中心に鎮座した鍋は、両手を広げても足りないほど大きさで……高らかに湯気を昇らせる眺めが何とも壮観だ。
「いいね」
そう興味深げに視線を巡らすのは、ルーシカ。
土地ならではの料理に出会えると、また一つ見聞も広まる。ばかりでなく……単純にこれほどに大きな鍋で料理を作ることはまず無いから。
「眺めているだけでも楽しいね――」
勿論、食べる側としても全うして勉強するつもりだから。
「頂いていこうよ」
「うん」
と、アリエッタもわくわくと輪の中へ歩んでゆく。
すると広場にはシンプルな芋煮だけでなく多様な味付けがあって、目移りしてしまう。
「どれにしようか?」
「じゃあ、まずは基本の味を頂きましょ?」
言ったのはアルラ・ニグラス。
皆も頷くと、大きな鍋から芋煮を貰い、近くの東屋で食べる事に。
と、そこでアルラは思いついたようにララベルと向かい合う位置に座った。
「食べさせてあげるわね。はい、あーん」
「い、いいの? あ、あーん……」
ララベルは照れつつも口を開け、はふりと食べる。
それは勿論美味、だけれど――視線はその少し下。
というのもアルラが開いた胸元のまま近くに座っているからで。
「お芋より胸が気になるかしら?」
「いっ、いやっ! その、ご、ごめん……!」
ララベルが赤くなって視線を逸らすと、アルラは微笑んで……暫しからかってみせるのだった。
ララベルは恐縮しつつも、次は自分が箸を握る。
たまには自分から積極的に、と思い立ったのだ。
「今度は僕から。ほら、あーんして」
「あらいいの? ありがとう」
と、アルラはそれは素直に嬉しく……里芋の優しい味を楽しんだ。
「うふふ。こういう日に外で暖かいも食べるのっていいわよね」
「そうだね」
ララベルも頷きつつ、次にアリエッタへもお芋を差し出して。
「はい、アリエッタ」
「――う、うん」
ララベルの笑顔と仕草に、アリエッタは顔を赤らめる。
恥ずかしいけれど、勿論嫌ではないから。
「ね、猫舌だから念入りにふーふーしてね」
上目遣いにお願いすると、ララベルは「勿論」と頷いてフーフー。それからそっと芋を近づけると……アリエッタはあーんと口で受け取った。
顔は更に真っ赤だけれど、それでもしっかり味も堪能して。
「おいしいよ」
「ん、良かった」
ララベルもそれに笑みを返す。
そうして次はルーシカへ。
「ルー。はい、あーん」
「おや、いいの? それじゃあ遠慮なく」
と、ルーシカも「あーん」と里芋を食べる。
はふ、と湯気を漂わせて味わうそれは……柔らかく煮えていながら、さっくりした食感も残っている。
玄妙な味付けの出汁がまた丁度良く――飾り気のない、穏やかな美味だった。
「寒くなってきたこの季節には、本当にもってこいの料理だね」
時節と合わせて楽しむ事で、真価が判る味もある。また一つ学びを深め、ルーシカはメモを残していく。
と、その隣ではララベルが千弦にも向いていて。
「千弦も食べる?」
「私もいいけど……クノキがほしいみたいよ」
言った千弦が肩を見ると、クノキが返事をするようにチュチュチュと鳴く。
「それじゃあ、あげるね。はい」
ララベルが微笑んで、そっと大根をあげると……クノキは大事そうにそれを抱えてかりかりと齧り始めるのだった。
「ふふ、ありがとう」
千弦も笑みを返して、クノキの食べる姿を暫し眺める。
それにララベルも表情を和らげつつ、次はテュリンにも芋を差し出した。
「はい、テュリン姉も」
「私も? じゃあ、お言葉に甘えて」
テュリンは折角だからと受ける事にする。
実は、嫌な予感がしないではなかった、けれど。自覚した時には既に遅い。ララベルの箸からつるりと芋が滑り――テュリンの谷間に。
「あっ、ちょっ、あちっ! ちょっ、中にっ!?」
テュリンは悶えつつ、あまりの熱さに思わず服を脱ごうとした。が、慌てるあまり足がもつれ……ララベルに抱きつく。
その内に転げて、いつしかララベルに組み敷かれる形になって。
「……ふふ、これもまたラキスケ被害の星に生まれた者の宿命かしらね」
何かを悟ったような表情で、そのまま横になっているのだった。
それでも気を取り直して立ち上がると――
「折角だから、ベルにも食べさせてあげるわよ」
言って、意趣返しというわけではないけれど……口移し。
「ん……あ、ありがとう」
ララベルは驚き半分で真っ赤になりながらも、もぐもぐと味わうのだった。
と、アリエッタもララベルの口へ芋を近づけて。
「あたしも、お返しに」
「もぐ……美味しい」
ララベルが更にそれを受け取る、と……ルーシカも同時に更にそこへ大根を。
「じゃ、ボクも。はい」
「も、もぐ……もご……」
既にララベルの口はいっぱいだったが、ルーシカはとりあえず押し込んで。
「皆の想いをこんなに受け止めてあげるなんて、優しいねベルは」
そうクスッと笑う。
ララベルは「もごごご」と言葉にならぬ言葉を零していたが……それでも何とか咀嚼して、飲み込んでいるのだった。
その後は景色を眺めて食べ歩き。
「あっ、魚の串焼きがあるわよ」
テュリンが見つけると、皆で購入。
皮はかりかり、中はふわふわの美味を堪能しつつ……千弦はりんご飴を買いながら、甘栗があればクノキに分け与えて。
「色々とあって楽しいわね」
「うん。本当に飽きないよ」
ルーシカもカステラのふわふわさを楽しみつつ頷く。
ララベルも同じ気持ちで……苺飴があればアリエッタにも買って。
「はい」
「ありがとう」
アリエッタは、ララベルの選んだものなら何でも嬉しいけれど……お揃いだからなお幸せ。
「甘くておいしいね」
「うん」
そう応えるララベルと微笑みあって、同じ味を楽しんでいた。
アルラは栗まんじゅうなどの甘味だけでなく、酒も度々口にしている。
ララベルの視線が向くと、悪戯っぽく笑んで。
「こんなに食べて大丈夫か心配? まぁ大体は胸に行くから」
「そ、そうなの?」
「確かめてみる?」
胸を見るララベルに、アルラはからかい半分で近寄る……と、不意にもつれて倒れ込み、本当に確かめさせる事になってしまったりしつつ。
「……あとで、良く動けば大丈夫かな?」
千弦はそんな様子を眺めながら、自分も食べ過ぎを心配するのだった。
そうして屋台を巡り終わる頃には、夜になっていて――テュリンは景色を見回す。
何時もの如くアクシデントもあったけど、と。
「今回も楽しかったわね」
「うん、皆、ありがとう」
ララベルは心から言った。
「皆と素敵が思い出が作れて、嬉しい」
「あたしもだよ」
アリエッタは「あは♪」と笑んでララベルに抱きつく。
「大好きだよ、ララベル」
「――うん、僕も」
ララベルは皆にも思いを告げながら……通りを見つめる。
「お土産屋さんで何かお揃いの、買いたいな」
「良いものがあるといいわね」
千弦の言葉に皆は頷き、早速店々を巡る。
そして東方風の食器や組紐、浴衣も見つけて――お揃いで購入していくのだった。
風の温度、移ろう景色。
四季を実感しながら、見える全てを記憶に留めて……ルイドは散策をしていた。
「ん、ここは神社ってやつか。初めて来たな」
と、そこへ寄ってみる。
参拝の方法などを眺めつつ、神社の来歴などにも目を通していると――
「祀ってんのは、と……泰平の神……あー」
そこでふと思案。
(どうすっかな)
平和は勿論、めでたい事だけれど。
(多少は世が乱れてないと冒険者って食っていけねぇ気も……)
いや、とまた思い直す。
便利屋という意味であれば、泰平の世でもはばかる身では無いのかも知れないと。
「……」
ただ、少々考えて今は拝殿から踵を返す。
(願うかどうかも微妙な念を送ったって、神も困るだろうしな)
それでも……おみくじの前では足を止めて。
「運試しくらいは許してもらえっかね」
叶えるか撥ね退けるか、その時が来れば指針の一つには出来る。
そうして引いた結果は――大吉。
曰く、「自身の未来を掴み取っていくだろう」と。
(成程な)
未来は無論、判らない。
だからこそ心に留めておくのも良いだろう、とルイドはまた歩み出す。そんな秋の暮れの風は、とても涼やかだった。
紅の葉が揺れて音を奏でる。
そんな道をフリューリングスルフト=ティエラは子兎のイュンと共に行く。
「今年も綺麗やね?」
またこの季節に来れた事。
今度はイュンが一緒な事が嬉しくて。イュンも顔を寄せてくれるから、フリューは笑みを零して。
「ふふ、イュン可愛いさぁ」
はらりと紅葉が落ちてくると、それをイュンの頭に飾り……葉を踏む音を楽しんだ。
「今度は二人も連れてこよ♪」
とても綺麗な葉を見つければそれも手にして、留守を預かる友人へのお土産にする。
と、不意に楽しげな音色が聞こえた。
見れば、楽器を奏でる演奏会だ。
「楽しそうさぁ!」
だから自分も参加して、鼓を習って。
「ポコポコ鳴るん、タヌキの血が熱くなるさぁ」
段々と我慢出来なくなり……覚えた鼓を相棒にいざ舞台へ。
「そいやっさぁ!」
軽やかに跳び、踊り、そして唄う。
――ひとつ、ふたつ、みっつ。
――季節は巡り。燃えるが如く紅を、再びこの目に映す喜びを。
――ぽんぽん、ぽんぽこりん。叩いて奏でて祝いませう。
朗らかで陽気、それでいて巧みで美しい。
そんな舞いと歌声に人々も歓声で応えると――フリューはさらに歌い踊り、場に華を添えていった。
昇る香りと湯気に誘われ、レピド・クロサイトは広場に寄っていた。
「芋煮、か」
そして器で受け取ったそれを、早速実食すると……
「これは……」
静かな瞳を仄かに見開く。
出汁が優しく、素材の味は沁み入るようだ。
「なんというか……懐かしい、落ち着く味だ。初めて食べた筈なのに」
その素朴な味が気に入っておかわりまでしつつ。
飼い猫のショウガが興味深げに覗き込んでくると――
「お前はこっちだ」
と、動物用のおやつを与えて……にゃあ、と鳴いておやつを食べるショウガを暫し眺めているのだった。
その後は散策へ。
目に映る木々を改めて仰ぐと――
「……真っ赤、だな」
零れるのは感心の声だ。
初めての秋、初めての紅葉。桜も初めてで、その清廉な美しさに惹かれる。
鮮やかなのに、血の赤とは違って。
「こんな『赤』もあるんだな」
心穏やかに見られる赤の風景に、感嘆を覚えないでは居られなかった。
懐に入れたショウガも景色が楽しいのだろうか。ごろごろと喉を鳴らしては、レピドへ体を擦り付ける。
だからレピドは微かに表情を和らげて。
「向こうも歩くか」
秋の暮れでも、どこかほかほかした気分で――更に足を伸ばしていった。
シルヴィア・A・カペルとエル=バ=ノイアンは、並んで街を歩み始めた所。
「今日は付き合ってくれるんだろう?」
言ったシルヴィアは、ちょっとだけ拗ねている。
最近会えていなかったが故の、恋人への甘えでもあって。それが判るから、ノイアンは申し訳なさそうに苦笑いして。
「ああ、ゆっくり過ごそう」
するとシルヴィアも、ん、と頷いて寄り添い……桜広場へ向かった。
そこは柔らかな薄明かりが、夜に紅葉を映えさせていて。
目を奪われながら散策すると、芋煮の催しに辿り着く。
「折角の機会だ、作ろうか」
シルヴィアの為に、と。
ノイアンはそこで鍋に材料を分けて貰い、作業を始める。
「ノイアンらしいね」
張り切る恋人の姿に、シルヴィアは少し口の端を緩めて。
「此処で一番美味しい芋煮を頼むよ」
「ああ」
ノイアンは応えて具材を切り、出汁もとる。
「少し甘めにするか」
味噌もいいけれど……今回は醤油にして。丁度よく煮こみ完成。シルヴィアは感心の面持ちだ。
「流石だ。美味しそうだよ」
「では食べるか」
そして実食すると……里芋は口の中でほろりと崩れるようだ。
シャルガネの味わいは温かくて――
「……ほっとするな」
ノイアンは呟いて続ける。
「隣にシルヴィア、お前がいるのもあるだろうな」
「……ん、同じ気持ちだよ」
シルヴィアも、温かさと美味を楽しみながら――隣の体温に身を寄せる。
「もうすぐ、一年か」
付き合ってからの日々を思い返し、シルヴィアは呟く。
「……はやいものだ」
ノイアンもそう頷く。
「色々な事があったな」
「うん。それでも……君への熱は収まる事はないよ」
「俺も――お前のお陰で心が冷えるということがない」
ノイアンも真っ直ぐに応えた。
次の一年も、互いに想いをあたためていけたら――そう思うのだ、と。
シルヴィアも同じ心。だからこれからの日々こそ楽しみで。
「どこか行きたい所や、やりたい事はあるかな」
「そうだな……シルヴィアは?」
「私は君と、故郷で聖霊節を楽しみたい」
「花の領都の聖霊節か。もちろん、行こう」
「本当? 楽しみにしてるよ」
シルヴィアは笑んで寄り添う。
こうして次の年も、そのまた次の年も、お互いを温めていこう、と。
その言葉にノイアンも頷く。
冬は近づけど、互いの温度はあたたかく。二人は穏やかな秋の日を、静かに過ごしていった。
そんな美観の道を、ゲルダ・クラインとナハティガル=ラーは並んで歩む。
「綺麗、ですね……」
言葉と共に隣を見るゲルダは落ち着いた灰色地に、野菊の柄が上品な着物姿。
不自然な背伸びはしないように、けれど隣を歩く彼に釣り合うようにと――少しだけ大人っぽさを意識していた。
「ああ」
応えるナハティガルは着物を着流した上に、インバネスコートを羽織って……景色に寄り添った風流さ。
髪型もいつもとは異なり、肩の辺りで組紐を使い緩く一つに纏める形。それが淡く秋風に揺れると、ナハティガルは季節の移ろいを感じた。
――紅葉狩りへ行こうと思い立ったのは数日前の事。
学園の選挙で慌ただしくしていたゲルダに、物見遊山を、と思ったのだ。
「……」
選挙は残念な結果となってしまったが――隣を見ると、ゲルダが特に落ち込んではいない様子で……その事に安堵する思いだった。
「向こうも見てみるか」
視線の先は葉で紅の絨毯になっている。
「はいっ」
ゲルダは勿論と頷いて、共に歩みを向けた。
その色彩は秋だけのもの。だからゲルダは一層、巡る季節を思う。
「……」
冬の雪景色から始まって、春の桜に夏の星空、そして秋の紅葉。
『いつでも一緒』という訳ではないけれど、過ぎていく季節の中で確かに縁は繋がっていて――だからふと考える。
――ナハティガル様にとって、わたしはどういう存在なんだろう?
隣で歩く自分を、彼はどう感じているのだろうと。
その思いを、ナハティガルは知らない。
ただ、隣の横顔をそっと見つめ……ナハティガルもまた思う。
帝国移住したゴブリン達の暴走の事、黒鋼竜の公子の事。自身の意思に関係なく、決断の時が迫っている――そんな予感がするから。
(来年も再来年も)
――俺はゲルダとこうして紅葉を、四季折々の景色を、見に行く事はできるのだろうか?
心は表に語らず、目線を紅葉に戻す。
その顔を小さく、ゲルダは隣から見つめる。
ゲルダもまた、その思いを言葉に表す事はしない。
今はただ……。
――彼がこの気持ちに気付きませんように。
――この縁が、途切れてしまいませんように。
そう願うだけで精一杯だったから。
二人は紅に染まった道を歩む。風は優しくも、次の季節の温度を帯びていた。
サイラスは甘味処へ。
まずは秋の果実の盛り合わせを、茶と共に楽しんでいた。
「やっぱり新鮮さは大事だな」
口に運ぶと、りんごは瑞々しくも程よい歯応え。
小粒のぶどうは強い甘味とジューシーさで、大粒のものも丁度よい硬さと甘酸っぱさで、採れたてならではの美味だ。
勿論、栗のお菓子も吟味。
「じゃあ、これを」
と、頼んだ栗まんじゅうは、ほくほくの栗あんが優しい口溶けで。
共に注文した栗羊羹も濃厚な甘みで、まるごと入った栗も甘露でやわく煮えており……深みのある風味が上品だった。
「後は、そうだな……」
プレーンな栗をほぐしたものと、りんごや梨を少々。
こちらは飼い犬にあげて……はぐはぐと食べて満足げな鳴き声を零す、そんな姿を暫し横目に眺めるのだった。
そうして数軒はしごした後は、次にお土産探し。
果物などを見繕いつつ――
「折角だし、栗は持ち帰っとくか」
と、大粒な甘栗を見つけるとそちらへ。モンブランなどを作るのにも良いだろうと、十分な量を確保して。
「こんなもんか」
満足に頷いたサイラスは、後は景色も時折眺めながら……ゆるりと通りを歩んでいった。
甘味処の一角で、エルナ・クルプファルツはお茶とお菓子を楽しんでいた。
「ん、美味しいです!」
栗羊羹の滑らかな甘味を楽しみ、お茶をずずずと啜り。
更にりんごやぶどうも入ったあんみつを食べれば、大満足。
外を見れば鮮やかな紅葉が目にも楽しくて……お腹も一杯で心も癒えて、元気いっぱい。再び通りへと出てゆく。
「次は、どこへ行きましょうか――!」
見回せばどこも秋の彩。
甘い匂いに、芳しい香り。美味もまだまだ待っている。
だからそれを楽しみに……エルナは軽やかな足取りで散策を続けていった。
窓から景色を望める甘味処。
その席で、ベルク・オスマットはお品書きを眺めていた。
「色々と揃っているな」
豊かな品揃えに少々迷いつつ、まずは栗あんがたっぷりと詰まったまんじゅうを選択。だけでなく――忘れてはならぬ清酒も注文して。
「よし」
と、とっくりを傍らに楽しみ始めた。
すると栗まんじゅうは風味豊かな甘さが快い。
そこで酒を一口含むと、辛口なのど越しがその甘味を程よく溶かしていって。
「うむ、やはり酒には甘味が合う」
ベルクは頷きつつ、まんじゅうを完食。
次に、金色が美しい栗きんとんを注文。こちらに合わせるのもまた別の地酒で……澄んだ透明色が美しい一品だ。
「こちらはすっきりとした味わいだな」
栗きんとんはなめらかな舌触りが美味を運ぶ。同時に飲んだ酒は、先刻のものより透明感のある甘口で、淡めの味付けの栗と相性が抜群だ。
そうして外を眺めると、落ち葉が風に踊っていて。
「秋もそろそろ、終わりか」
ゆっくりと季節が冬支度を始めている。
その眺めもまた、美しく。
穏やかな晩秋の時間を――ベルクはゆるりと過ごしていた。
街の旺盛に伴って、演奏会にも多くの聴衆が集まる。
そんな舞台に――ルルト・アーキスとアルバス・ロウルは共に上がっていた。
「街の皆に成果を披露できるね!」
「ああ」
何せあれから一年、三味線の練習を続けてきたのだから。
二人は目を合わせて合図を送ると……弾むような音色を奏で出す。
アルバスはルルトを導きながら、心の向くままに楽しく。ルルトもアルバスの音色の重ねるよう、心のままに朗らかな曲を紡いで。
雅ながら、踊りたくなるようなその旋律に――人々も暫し夢中になって耳を傾けた。
盛り上がったまま終奏を迎えると、拍手喝采。
その中で二人は舞台から降りて……ぴょんと加わったタマさんと共に三人でハイタッチ。
「……すっごく楽しかった!」
「ああ、楽しかったな!」
ふと目を向ければ、さらなる曲を求めるアンコールが湧いていて……三人で再び舞台へ。町人の鼓や笛と合わせ、一層の盛り上がりを作った。
そうして音楽を楽しんだ後は――
「腹が減ったな」
「ボクもお腹ぺっこぺこ!」
「よし。いろいろ見て回るか?」
「うん!」
と、笑み合って散策へ向かう。
「何食べよっかなぁ♪ 」
そうしてルルトがわくわくと通りを歩むうち……賑わいに誘われ桜広場へ。
あたたかな湯気を昇らす芋煮をゲットして、早速座って食べようとする。
――と。
「あれは――」
アルバスがふと、見知った人影を見つける。
明媚な紅色の道を、パルドとウォーゼルは並んで歩んでいた。
「紅葉って綺麗だな」
「うん」
パルドの言葉にウォーゼルも心から頷く。
「夏も良かったけど、この季節も素敵だね」
風鈴が心地良い音を奏でていた通りも、今は紅葉がとても綺麗で……時節で姿を変える美観に、目を奪われる。
だけでなく二人が微笑むのは……猫のショコラが落ち葉の上でガサガサと飛び跳ねているから。
ミニコボのチョコもそこへ加わり、一緒になって降る葉を捕まえようと足を伸ばし……上手くキャッチしては、また転がって戯れる。
ふふ、と笑いながらパルドは思い出す。
「そういえば初めてシャルガネに来たのも秋だったな」
「あれからもう一年か」
「色々あったけど……ウォーゼルはどの季節が好き?」
「うーん……」
ウォーゼルは悩む。
どの季節も、パルドと過ごした楽しい思い出ばかりだから。
それでも――
「選ぶとしたら、秋かな? 紅葉が綺麗で、美味しい物が沢山だし。それに……。――パルドはどの季節が好き?」
「んー、いつも、美味しいものたくさんだったもんな」
パルドも調理会を思い返し悩む。
それに、新年も風鈴も楽しかった。
けれど――
「全部好きだけど、強いていうなら、今の季節が一番好き」
「同じだね。俺も”今”が一番だよ」
ウォーゼルは応える。
二人の心は同じだ。――互いが居る“今”が一番だから。
「……あ、羊羹また買ってもいい?」
「うん」
ウォーゼルの言葉にパルドが頷いて、買い物をしつつ散策を続けると――そこで、アルバスとルルトに気づいたのだった。
「二人も来てたんだな」
アルバスが歩んでゆくと、パルドもウォーゼルと共にそちらへ。
「ああ、久しぶりだな」
「うん。久しぶりだね! 元気だった?」
と、ルルトも元気よく手を振りつつ駆け寄って……タマさんと共に、チョコとショコラにもしゃがんで挨拶。
アルバスもチョコとショコラにも挨拶し撫でてあげると……ウォーゼルはそんな様子に微笑んで。
「二人も元気そうで何より」
『わふっ!』
チョコも朗らかに鳴き、ショコラもまたタマさん達に挨拶を返すから――皆は笑みを交わし、同席。ウォーゼルとパルドも芋煮を頂く事にした。
「色んな種類があるみたいだよ」
「食べ比べてみたいな」
パルドはわくわくと、まずは普通の味付けのものを貰って。
「あちっ」
猫舌なので冷ましつつ……はふはふと口の中の熱を逃がしながら食べる。
「美味しい! おかわりもらってくる!」
「ふふ、俺もおかわりしよう」
と、それに表情を和らげつつ、ウォーゼルも素朴な味を楽しんでおかわり。更に唐辛子の利いた味付けや、甘めの芋が加わったものなど幾つもの美味を堪能した。
「デザートも一緒に食べようか」
アルバスは言って、栗まんじゅうをおすそ分け。
するとルルトもまた色彩の詰まった籠を見せる。
「果物の盛り合わせもあるよ!」
入っているのは深い紫のぶどうや、緑が美しいぶどう。
瑞々しいりんごに梨、香り高い桃もまた鮮やかで。
「わっ、すごい!」
嬉しい驚きにウォーゼルが笑むと、パルドも香りに誘われ共に実食。
何より、皆で和気藹々と食べると一際美味しくなるから。
皆は穏やかな秋の暮れを、楽しく和やかに過ごしていった。
「へぇ……」
視界に広がる鮮麗な紅色。
その美観にナキルが感心を零すと――隣に並ぶエフィルミアも心同じく、感嘆を浮かべていた。
「綺麗……!」
桜と言えば春のイメージを持っていたけれど。
「秋に葉がこんなに綺麗に色づくなんて知らなかった――」
「ああ、桜にこういう楽しみ方もあったんだな」
ナキルが応えて歩むと、エフィルミアもまた真っ赤な桜紅葉の間を進み出す。
すると風に揺れる紅の葉が美しく……絨毯のように広がる地面の葉も、かさりかさりと小気味好い音を響かせて。
「こうやって踏みしめて歩くのも楽しいね!」
「そうだな」
エフィルミアの花のような笑顔に、ナキルも頷いた。
「花見は見知ってたケド――紅葉ってのも悪くない」
吹く風は春よりも冷たさを増している。
けれどそれが春にはなかった叙情と色彩を生み出している。
そう思えば、これもまた季節の恵み。
それに、エフィルミアにとっては重ね着でおしゃれが楽しい時節。
踊るような足取りで前に出ると、くるりと回って裾を靡かせ……気合を入れておしゃれしてきた秋服を、一番見せたかった相手に改めて見せた。
「秋の桜も私に似合うでしょ?」
そう言う表情は悪戯っぽい笑み。
そんな魅惑的な一面に――ナキルはというと、真っ直ぐに頷く。
「あぁ、似合ってるな。……何時も可愛いけど、今日は綺麗ってカンジかな」
桜の中に溶け込むようなミアも良かったけど――紅色の中に咲くように映えるミアも魅力的だ、と。
「枯れない桜はオレが独り占めだな」
「……」
向けられた衒わぬ言葉と視線に、エフィルミアは少し照れて目をそらす。
(もうっ、本当、そういうところがかっこいいんだよね……!)
勿論、思ってても口には出してあげないけれど。
そんな様子のエフィルミアに、今度はナキルが悪戯っぽく笑って。
「まぁ、オレがそう思うのも、ミアと一緒に居るからだと思うぜ」
「……うん」
エフィルミアは頷き、また隣に寄り添う。
――手を繋いで進むこの道が、ずっと続きますように。
そんな思いを胸にいだきながら。
「よし、他にも色々あるみたいだしな。もっと沢山2人で見に行こうぜ、ミア!」
「うん!」
いっぱい色んなものを見に行こうね、と。
エフィルミアは思いと共にナキルと歩んでゆく。
自分だって――いつでも楽しいのは、ナキルが隣に居てくれるからなのだから。
互いの手のあたたかさを感じながら二人は歩む。それを見守るよう、桜紅葉が美しくそよいでいた。
紅色を帯びた街を、ヴィナスとルーンス・ラグネルは並んで散策。
景色を楽しみながら――神社へと寄っていた。
「ここも綺麗だね」
「うん。それに――とても良い場所だ」
ルーンスの言葉に応え、ヴィナスはゆるりと見回している。
手水舎に入ってから拝殿へ。巡って参道を歩む間も……感じるのは穏やかな空気だ。
横切っていくうさぎや、日向ぼっこをしている猫も目に入るから、一層それを実感してヴィナスは目元を和らげる。
「ここは緩やかに確実に発展したからこそ、のんびりした場所があるよね」
だからこそ思う事もあった。
そんな横顔を、ルーンスは見やる。
ヴィナスの考えている事については、知っていた。
「臥魅郷の事だよね」
ヴィナスが依頼を通じて、同じシャルガネにあるその郷を気にかけている事を、ルーンスも聞き及んではいた。
ヴィナスも頷く。
「この先が変わり目になると思うから。ルーンはどう思うかな」
「やっぱり……聞く範囲でも無防備さは感じるかな」
ルーンスは答えた。
だからある種の成功例としてのこの街を、改めて訪れた――そのヴィナスの目的が、ルーンスにも判る。
「今は平和が最優先で、ある種セーブされている状態だと思うけど。解決したら、それもわからなくなるだろうし」
「うん。姿を見せ始めた同盟の商人に上手く転がされる危険性もある」
それはヴィナスにとっての正直な懸念だ。
「発展の形としていいケースが同じシャルガネにあるんだから、沿えるところは沿いたいね」
「そうだね。ここは……泰平の神が奉られてるだけあって兎も猫も泰平のようだし」
と、ルーンスは寛ぐ動物達を見やりつつ。
「魅力を失わない発展があってこそ経済は生まれる。それを考えると、商談を持ち掛ける商人は吟味した方がいいだろうね」
アーダベルト商会が手を貸すのも良いかも、とも呟きながら。
神社を出た二人は土産巡りへ。
風流な品々を眺め、ヴィナスはそこからも知見を得る。
(あの色を損なわない特産品となると、伝統工芸かな)
機会があったら提案しよう、と。
そんな事を考え続ける自分に、ふと笑みを零す。
「やっぱり、ルース・アーダベルトは商人を捨てられないらしい」
「捨てられないどころか」
と、ルーンスは笑みを返す。
「ルース・アーダベルトが凄腕の商人だというのは、当商会では変えられない事実だけど?」
「ありがとう。……これも母さんの血かな」
「だね」
僕とにいさまの商才は絶対アレ由来ではないから、と。
言ってから、ルーンスが気分をまたすぐに街巡りに戻すと――ヴィナスも頷いて。二人でまた散策を続けていった。
「いい匂いがする――」
秋風に乗って、季節の味覚の香りが漂う。
そんな通りをアルマ・ヴァレンタインは散策していた。
(エヴァくんはご用事で一緒にこれなくてざんねんだけどー……)
折角の秋の倭桜ノ街。
たまにはお一人様で回るのも良いかもと――早速広場の湯気に誘われて、芋煮を頂く事にする。
すると、優しい出汁の味が何とも沁みて。
「ん、美味しいー」
里芋もほくほく、且つ口当たりが滑らかで美味。
勿論食事処も寄って、焼き立ての秋刀魚も実食。はふりと口に運ぶと脂と旨味が得も言われぬ美味しさだ。
「デザートも食べに行こうっと」
と、甘味処では栗の甘露煮で芳醇な甘味を楽しむだけでなく、栗ようかんに栗まんじゅうと栗づくしを味わって。
「そうだ。お土産にも買っていこう」
特に美味しかった栗のお菓子はお土産用にも買って包んでもらう。
更にぶどうや魚といった他の食料品も仕入れつつ――
「あっ、お揃いで使えそう」
土産物店で、装飾に使える色彩豊かな組紐や……風流な柄の食器を買う事にして。
「これでよしっと」
それらを渡せる事を楽しみに……アルマは帰路へと歩んでいった。
「紅葉の赤が鮮やかね」
肩に乗せた栗鼠のクノキと共に、桜広場へ歩んできた楓月・千弦は――感心の声で景色を見回していた。
ふしぎ亭のメンバーで一緒に、秋を楽しみに来た所。
既に良い匂いも漂っていて……テュリン・ヴィングはそちらに歩みを向ける。
「あれが芋煮ね」
「わぁ、大きな鍋」
と、ララベル・サン・ディーベルが笑顔を浮かべるのも当然だろう。
賑わいの中心に鎮座した鍋は、両手を広げても足りないほど大きさで……高らかに湯気を昇らせる眺めが何とも壮観だ。
「いいね」
そう興味深げに視線を巡らすのは、ルーシカ。
土地ならではの料理に出会えると、また一つ見聞も広まる。ばかりでなく……単純にこれほどに大きな鍋で料理を作ることはまず無いから。
「眺めているだけでも楽しいね――」
勿論、食べる側としても全うして勉強するつもりだから。
「頂いていこうよ」
「うん」
と、アリエッタもわくわくと輪の中へ歩んでゆく。
すると広場にはシンプルな芋煮だけでなく多様な味付けがあって、目移りしてしまう。
「どれにしようか?」
「じゃあ、まずは基本の味を頂きましょ?」
言ったのはアルラ・ニグラス。
皆も頷くと、大きな鍋から芋煮を貰い、近くの東屋で食べる事に。
と、そこでアルラは思いついたようにララベルと向かい合う位置に座った。
「食べさせてあげるわね。はい、あーん」
「い、いいの? あ、あーん……」
ララベルは照れつつも口を開け、はふりと食べる。
それは勿論美味、だけれど――視線はその少し下。
というのもアルラが開いた胸元のまま近くに座っているからで。
「お芋より胸が気になるかしら?」
「いっ、いやっ! その、ご、ごめん……!」
ララベルが赤くなって視線を逸らすと、アルラは微笑んで……暫しからかってみせるのだった。
ララベルは恐縮しつつも、次は自分が箸を握る。
たまには自分から積極的に、と思い立ったのだ。
「今度は僕から。ほら、あーんして」
「あらいいの? ありがとう」
と、アルラはそれは素直に嬉しく……里芋の優しい味を楽しんだ。
「うふふ。こういう日に外で暖かいも食べるのっていいわよね」
「そうだね」
ララベルも頷きつつ、次にアリエッタへもお芋を差し出して。
「はい、アリエッタ」
「――う、うん」
ララベルの笑顔と仕草に、アリエッタは顔を赤らめる。
恥ずかしいけれど、勿論嫌ではないから。
「ね、猫舌だから念入りにふーふーしてね」
上目遣いにお願いすると、ララベルは「勿論」と頷いてフーフー。それからそっと芋を近づけると……アリエッタはあーんと口で受け取った。
顔は更に真っ赤だけれど、それでもしっかり味も堪能して。
「おいしいよ」
「ん、良かった」
ララベルもそれに笑みを返す。
そうして次はルーシカへ。
「ルー。はい、あーん」
「おや、いいの? それじゃあ遠慮なく」
と、ルーシカも「あーん」と里芋を食べる。
はふ、と湯気を漂わせて味わうそれは……柔らかく煮えていながら、さっくりした食感も残っている。
玄妙な味付けの出汁がまた丁度良く――飾り気のない、穏やかな美味だった。
「寒くなってきたこの季節には、本当にもってこいの料理だね」
時節と合わせて楽しむ事で、真価が判る味もある。また一つ学びを深め、ルーシカはメモを残していく。
と、その隣ではララベルが千弦にも向いていて。
「千弦も食べる?」
「私もいいけど……クノキがほしいみたいよ」
言った千弦が肩を見ると、クノキが返事をするようにチュチュチュと鳴く。
「それじゃあ、あげるね。はい」
ララベルが微笑んで、そっと大根をあげると……クノキは大事そうにそれを抱えてかりかりと齧り始めるのだった。
「ふふ、ありがとう」
千弦も笑みを返して、クノキの食べる姿を暫し眺める。
それにララベルも表情を和らげつつ、次はテュリンにも芋を差し出した。
「はい、テュリン姉も」
「私も? じゃあ、お言葉に甘えて」
テュリンは折角だからと受ける事にする。
実は、嫌な予感がしないではなかった、けれど。自覚した時には既に遅い。ララベルの箸からつるりと芋が滑り――テュリンの谷間に。
「あっ、ちょっ、あちっ! ちょっ、中にっ!?」
テュリンは悶えつつ、あまりの熱さに思わず服を脱ごうとした。が、慌てるあまり足がもつれ……ララベルに抱きつく。
その内に転げて、いつしかララベルに組み敷かれる形になって。
「……ふふ、これもまたラキスケ被害の星に生まれた者の宿命かしらね」
何かを悟ったような表情で、そのまま横になっているのだった。
それでも気を取り直して立ち上がると――
「折角だから、ベルにも食べさせてあげるわよ」
言って、意趣返しというわけではないけれど……口移し。
「ん……あ、ありがとう」
ララベルは驚き半分で真っ赤になりながらも、もぐもぐと味わうのだった。
と、アリエッタもララベルの口へ芋を近づけて。
「あたしも、お返しに」
「もぐ……美味しい」
ララベルが更にそれを受け取る、と……ルーシカも同時に更にそこへ大根を。
「じゃ、ボクも。はい」
「も、もぐ……もご……」
既にララベルの口はいっぱいだったが、ルーシカはとりあえず押し込んで。
「皆の想いをこんなに受け止めてあげるなんて、優しいねベルは」
そうクスッと笑う。
ララベルは「もごごご」と言葉にならぬ言葉を零していたが……それでも何とか咀嚼して、飲み込んでいるのだった。
その後は景色を眺めて食べ歩き。
「あっ、魚の串焼きがあるわよ」
テュリンが見つけると、皆で購入。
皮はかりかり、中はふわふわの美味を堪能しつつ……千弦はりんご飴を買いながら、甘栗があればクノキに分け与えて。
「色々とあって楽しいわね」
「うん。本当に飽きないよ」
ルーシカもカステラのふわふわさを楽しみつつ頷く。
ララベルも同じ気持ちで……苺飴があればアリエッタにも買って。
「はい」
「ありがとう」
アリエッタは、ララベルの選んだものなら何でも嬉しいけれど……お揃いだからなお幸せ。
「甘くておいしいね」
「うん」
そう応えるララベルと微笑みあって、同じ味を楽しんでいた。
アルラは栗まんじゅうなどの甘味だけでなく、酒も度々口にしている。
ララベルの視線が向くと、悪戯っぽく笑んで。
「こんなに食べて大丈夫か心配? まぁ大体は胸に行くから」
「そ、そうなの?」
「確かめてみる?」
胸を見るララベルに、アルラはからかい半分で近寄る……と、不意にもつれて倒れ込み、本当に確かめさせる事になってしまったりしつつ。
「……あとで、良く動けば大丈夫かな?」
千弦はそんな様子を眺めながら、自分も食べ過ぎを心配するのだった。
そうして屋台を巡り終わる頃には、夜になっていて――テュリンは景色を見回す。
何時もの如くアクシデントもあったけど、と。
「今回も楽しかったわね」
「うん、皆、ありがとう」
ララベルは心から言った。
「皆と素敵が思い出が作れて、嬉しい」
「あたしもだよ」
アリエッタは「あは♪」と笑んでララベルに抱きつく。
「大好きだよ、ララベル」
「――うん、僕も」
ララベルは皆にも思いを告げながら……通りを見つめる。
「お土産屋さんで何かお揃いの、買いたいな」
「良いものがあるといいわね」
千弦の言葉に皆は頷き、早速店々を巡る。
そして東方風の食器や組紐、浴衣も見つけて――お揃いで購入していくのだった。
風の温度、移ろう景色。
四季を実感しながら、見える全てを記憶に留めて……ルイドは散策をしていた。
「ん、ここは神社ってやつか。初めて来たな」
と、そこへ寄ってみる。
参拝の方法などを眺めつつ、神社の来歴などにも目を通していると――
「祀ってんのは、と……泰平の神……あー」
そこでふと思案。
(どうすっかな)
平和は勿論、めでたい事だけれど。
(多少は世が乱れてないと冒険者って食っていけねぇ気も……)
いや、とまた思い直す。
便利屋という意味であれば、泰平の世でもはばかる身では無いのかも知れないと。
「……」
ただ、少々考えて今は拝殿から踵を返す。
(願うかどうかも微妙な念を送ったって、神も困るだろうしな)
それでも……おみくじの前では足を止めて。
「運試しくらいは許してもらえっかね」
叶えるか撥ね退けるか、その時が来れば指針の一つには出来る。
そうして引いた結果は――大吉。
曰く、「自身の未来を掴み取っていくだろう」と。
(成程な)
未来は無論、判らない。
だからこそ心に留めておくのも良いだろう、とルイドはまた歩み出す。そんな秋の暮れの風は、とても涼やかだった。
紅の葉が揺れて音を奏でる。
そんな道をフリューリングスルフト=ティエラは子兎のイュンと共に行く。
「今年も綺麗やね?」
またこの季節に来れた事。
今度はイュンが一緒な事が嬉しくて。イュンも顔を寄せてくれるから、フリューは笑みを零して。
「ふふ、イュン可愛いさぁ」
はらりと紅葉が落ちてくると、それをイュンの頭に飾り……葉を踏む音を楽しんだ。
「今度は二人も連れてこよ♪」
とても綺麗な葉を見つければそれも手にして、留守を預かる友人へのお土産にする。
と、不意に楽しげな音色が聞こえた。
見れば、楽器を奏でる演奏会だ。
「楽しそうさぁ!」
だから自分も参加して、鼓を習って。
「ポコポコ鳴るん、タヌキの血が熱くなるさぁ」
段々と我慢出来なくなり……覚えた鼓を相棒にいざ舞台へ。
「そいやっさぁ!」
軽やかに跳び、踊り、そして唄う。
――ひとつ、ふたつ、みっつ。
――季節は巡り。燃えるが如く紅を、再びこの目に映す喜びを。
――ぽんぽん、ぽんぽこりん。叩いて奏でて祝いませう。
朗らかで陽気、それでいて巧みで美しい。
そんな舞いと歌声に人々も歓声で応えると――フリューはさらに歌い踊り、場に華を添えていった。
昇る香りと湯気に誘われ、レピド・クロサイトは広場に寄っていた。
「芋煮、か」
そして器で受け取ったそれを、早速実食すると……
「これは……」
静かな瞳を仄かに見開く。
出汁が優しく、素材の味は沁み入るようだ。
「なんというか……懐かしい、落ち着く味だ。初めて食べた筈なのに」
その素朴な味が気に入っておかわりまでしつつ。
飼い猫のショウガが興味深げに覗き込んでくると――
「お前はこっちだ」
と、動物用のおやつを与えて……にゃあ、と鳴いておやつを食べるショウガを暫し眺めているのだった。
その後は散策へ。
目に映る木々を改めて仰ぐと――
「……真っ赤、だな」
零れるのは感心の声だ。
初めての秋、初めての紅葉。桜も初めてで、その清廉な美しさに惹かれる。
鮮やかなのに、血の赤とは違って。
「こんな『赤』もあるんだな」
心穏やかに見られる赤の風景に、感嘆を覚えないでは居られなかった。
懐に入れたショウガも景色が楽しいのだろうか。ごろごろと喉を鳴らしては、レピドへ体を擦り付ける。
だからレピドは微かに表情を和らげて。
「向こうも歩くか」
秋の暮れでも、どこかほかほかした気分で――更に足を伸ばしていった。
シルヴィア・A・カペルとエル=バ=ノイアンは、並んで街を歩み始めた所。
「今日は付き合ってくれるんだろう?」
言ったシルヴィアは、ちょっとだけ拗ねている。
最近会えていなかったが故の、恋人への甘えでもあって。それが判るから、ノイアンは申し訳なさそうに苦笑いして。
「ああ、ゆっくり過ごそう」
するとシルヴィアも、ん、と頷いて寄り添い……桜広場へ向かった。
そこは柔らかな薄明かりが、夜に紅葉を映えさせていて。
目を奪われながら散策すると、芋煮の催しに辿り着く。
「折角の機会だ、作ろうか」
シルヴィアの為に、と。
ノイアンはそこで鍋に材料を分けて貰い、作業を始める。
「ノイアンらしいね」
張り切る恋人の姿に、シルヴィアは少し口の端を緩めて。
「此処で一番美味しい芋煮を頼むよ」
「ああ」
ノイアンは応えて具材を切り、出汁もとる。
「少し甘めにするか」
味噌もいいけれど……今回は醤油にして。丁度よく煮こみ完成。シルヴィアは感心の面持ちだ。
「流石だ。美味しそうだよ」
「では食べるか」
そして実食すると……里芋は口の中でほろりと崩れるようだ。
シャルガネの味わいは温かくて――
「……ほっとするな」
ノイアンは呟いて続ける。
「隣にシルヴィア、お前がいるのもあるだろうな」
「……ん、同じ気持ちだよ」
シルヴィアも、温かさと美味を楽しみながら――隣の体温に身を寄せる。
「もうすぐ、一年か」
付き合ってからの日々を思い返し、シルヴィアは呟く。
「……はやいものだ」
ノイアンもそう頷く。
「色々な事があったな」
「うん。それでも……君への熱は収まる事はないよ」
「俺も――お前のお陰で心が冷えるということがない」
ノイアンも真っ直ぐに応えた。
次の一年も、互いに想いをあたためていけたら――そう思うのだ、と。
シルヴィアも同じ心。だからこれからの日々こそ楽しみで。
「どこか行きたい所や、やりたい事はあるかな」
「そうだな……シルヴィアは?」
「私は君と、故郷で聖霊節を楽しみたい」
「花の領都の聖霊節か。もちろん、行こう」
「本当? 楽しみにしてるよ」
シルヴィアは笑んで寄り添う。
こうして次の年も、そのまた次の年も、お互いを温めていこう、と。
その言葉にノイアンも頷く。
冬は近づけど、互いの温度はあたたかく。二人は穏やかな秋の日を、静かに過ごしていった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
芋煮を中心に広場や各所で盛り上がった日となりました。
多くの人が訪れて賑やかになった事で、街としても理想的な結果となりました。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準25 / 4〜25人
2022年11月29日 18時54分11秒 公開
大成功
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