【西局】凱旋戦勝会
弓月 蒼
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シナリオID:2535
オープニング
●西境を統べる者
「良く集まってくれた。これ程多くの将兵が。冒険者、傭兵、その他大勢の者達がこの西方辺境伯領を。
引いては『王国』を護る為その身命を賭し、血と涙を流してくれたこと――――心から有り難く思う」
『アクファリテ辺境伯』ルーヴェン・アクファリテの言には王国貴族に有りがちな過度の装飾が無い。
「幾多の犠牲が有り、痛みと傷跡が残った。こっから領内全て元通りになるには人と、金と、時間が必要だ。
だが『太信党』党首は既に無く。古き吸血鬼も裏切り者も諸共に滅んだ。だから今は、こう告げよう」
それは彼が自らを武門と位置付けている故。同時に、最初に実力をこそ求められる西方の気風なのだろう。
「――――俺達の勝ちだ、と」
告げて黄金の杯を一息に飲み干すと、全ての感傷を掻き消す様にそれを掲げた。
後方に控える腹心。片方は空席であり、ぽっかり浮かぶ喪失感を無かった事には出来ない。それでも――――
「「西方辺境伯アクファリテの名に於いて。今此処に! 勝利を宣言する!!」
戦勝会に集った者達が、凱旋の咆哮を上げて杯を呑み干し、満天の夜空へと高らかに掲げた。
――――前を向き、針を進めるのだと。西方辺境を統べる者のけじめを。ルーヴェンは示さねばならなかった。
●西局戦役戦勝会
西方辺境を襲った難事は、漸く一つの区切りを迎えていた。
アクファリテ辺境伯領都は現在、その住人の殆どを王国側へ避難させた影響で概ね伽藍洞である。
少しずつ住人達も帰って来つつあるも、街並みに人足が戻るにはもう暫しの時が必要と言える。
或いは遠く縁故を頼りに旅立った者達は冬支度に入ってしまっただろう、帰還には春を望む必要がある。
その間、住人達の"帰る場所"と、空き家だらけの街の治安を維持するのは領主たる辺境伯の責務であり。
此度の戦勝会はその一環。"勝利"を印象付けると共に、取り戻した"平穏"を改めて証明するものだと言える。
よって、場所は街中央の大広場が選ばれ、嵩む戦費によって圧迫された領財政を大きく押してでも尚。
可及的速やかに開催へ漕ぎつけなければならなかった。"終わり"と感じられる機会を、兵達すら待ち望んでいた。
「だから、此処からは私が音頭を取らせて貰う事になるね。さあ今宵は無礼講だ。皆、思う存分好きに騒ぐと良い!!」
壇上から降りたルーヴェンには未だやる事が山積みである。事後処理も全て完了した訳ではない。
領主でなければ承認が取れず。或いは王家から幾許かの援助を求めなければならないだろう事など幾らでもある。
それは金銭だけに限らず。街の復興や消耗した軍事拠点の輸送など。人手すらもまるで足りない。
故にこの様な祝いの席すらも。此度は臨時と言う事で『護兵団』団長、ダルヴィン・ケルソーが役割を引き継いだ。
「――――だってよ。ハ、ハ、ハ、こちとら喰うもん喰って貰う物貰えば後はおさらばなんだがなァ」
「兵が足りない、と言っていますよ。士官の好機ではないですか?」
「そういうおたくはどうなんだ? あんだけ働いたんだあわよくば――――って、オイオイ睨むなよ。冗句だろうが」
酒杯片手に絡む『砂狼』シャムハーンに、『黒槍の守り人』こと黒フードの傭兵が同じ杯を合わせる嘆息を吐く。
傭兵界隈の同業者、と言うのは本来どう付き合う物なのか。業界の新人である彼にはまるで分からない。
「別に2人とも仕官して来てくれるなら、私も閣下も歓迎すると思うんだがね」
「ハッハッハ、御免被るねェ! アンタの下で働くのは骨が折れそうだ!」
「ダルヴィン殿も、こんな所で水を売っている場合ですか……」
楽しげな話をしていると。割り込んだダルヴィンにシャムハーンが盛大に酒を溢し、黒フードが嫌そうに避けた。
長く暗雲が立ち込めていた、『王国』西方辺境の夜に――――久々の明るい笑い声が沸き上がる。
(……なあ、アジー。私は未だ当分、この声の中に君が居ないことに慣れそうもないよ)
或いはそれは――――すでに戻らぬ誰かを悼む気持ちに必死に立ち向かう者達が手向ける。
今出来る、最大限の鼓舞と言えるのかもしれなかった。
●幕間の向こう側
そんな、祝勝会が行われている広場の裏手。
「……――――さて、団長殿。以前お送りした書状は確認頂けておりますでしょうか」
「ああ、目は通したよグレイマン。閣下から制限付きとは言え許可も取れた。
今回の一件で西境の戦力不足を痛感したよ。漠兵長を喪った責は……当然、私にもある」
グレイマン、と呼ばれた小隊長は自らの白い髭を撫でながら両目を閉じて頷く。
『護兵団』に長く下士官を務める彼は『漠兵隊』との縁故も深い。何度も演習を繰り返し、苦汁を呑まされた仲だ。
であるなら。同じ西方辺境伯麾下の僚友たるダルヴィンの受けた衝撃は、果たして如何ほどのものか。
こればかりは平然を装う年下の上司に、直接問い掛ける訳にもいかない。
「カーン隊長は残念で御座いました。が、なればこそ。我らはこの砂漠に新たな風を吹かねばなりませぬ」
そして例え察する事は出来ようとも、慰める役割に彼は無い。上司が失意に迷うならば。
手加減なく、全力で背を叩き叱咤するのが“小隊長”の役割であり。それをグレイマンは重々承知していた。
「そうだね。提案は一考しよう。……何はともあれ、復興費の捻出は領政として急務だ。
戦力の補填に無尽蔵に資金が用意出来る訳でもなし、何より声を掛けてみない事には始まらない」
「うむ、左様にございますなあ。微力ながら、わしも少々心当たりに当たってみましょうぞ」
失われた縁があれば、新たに生まれる縁もある。北、東、西。『王国』辺境はそうでなくとも終わり無き戦地だ。
彼らは砂漠と共に生き、砂漠と共に死ぬ。その覚悟は、いつであろうと出来ている。
だが同時に。だからこそ隣り合うならば信が置ける者と共に。それもまた……彼らの本音、だと言えるだろう。
客観的事実として。戦勝祝いを幾つも開催し、無礼講だと派手に騒ぐのは不謹慎だと眉を顰める者も居る。
真逆の意見として。死者の勇気と働きを讃える為にこそ、明るく盛大に祝ってやるべきだと謳う者も在る。
けれど西方辺境伯の幕僚としては、もう一歩踏み込んだ部分を考えなければならない。
今より先。此処から先の未来を見据えた時。今回の様な戦いはまた起きないとも限らない。
或いは、それ以上の窮地が待っている可能性すらあると考えれば――――
「同じ轍を踏んでは、笑われてしまうだろうからね」
これもまた、彼が負うべき役割なのだから。
解説
戦 勝 会 D A ! !
●成功条件
戦勝会が恙無く完了する。
●失敗条件
戦勝会が恙無く完了しない。
(刃傷沙汰を超える揉め事が発生した場合失敗となる)
●案内役
・『護兵団団長』ダルヴィン・ケルソー
西方辺境伯麾下の双璧の一人。護国の要、護兵団の若き長。
主に会の案内・運営・進行を司る。尚、実は『青燕兵長』の勧誘役も兼ねている。
・『白髭の小隊長』グレイマン・ヴァジャール
護兵団の小隊長の一人であり、主に兵站輸送を担う後方支援のプロフェッショナル。
自らも戦斧片手に最前線を走り回ったりもするが、専門分野は主に集団防衛戦。
●戦勝会
今確保出来ている兵站の一部と西方辺境伯家出資で行われる凱旋パーティ。
領都に市民はじわじわ戻って来ている物の、完全ではない為人の出入りは割とまばら。
参加者は以下より参加傾向を選択し、1行目に記載する事を推奨。
1.立食
主に食事を楽しみながら歓談。燻製や漬物の他、仕入れの都合から砂漠では高価な果実が豊富。
『王国』基準では珍しい所だと米料理(肉野菜炒めのあんかけピラフ的なもの)が存在する。
2.交流
場に居るPCやNPCと交流を持つ。必然的に食事中心ではなく、主に会話が中心となる。
上述の案内役以外では『砂狼』、『黒槍の守り人』がそれぞれ滞在中。
3.その他
個人的に故人を悼むなど、上記以外の行動に対応。”勧誘への返答”等もこちらに含む。
●論功行賞
下記条件の"いずれか"を満たす場合に限り、特殊なイベントが発生。
1.『青燕兵長』の称号を有する。
【西方辺境伯麾下、下士官への勧誘。『護兵団』や『漠兵隊』では小隊長待遇となる】
2.『青燕兵長』以外の評価称号を【西局】と付くシナリオ群で取得している。
【西方辺境伯麾下、仕官候補生への勧誘。『護兵団』や『漠兵隊』では一兵卒待遇となる】
いずれの場合も西方辺境伯お抱えの為、王家叙勲を必要とする『王国騎士』等を目指す場合不適当。
受領した場合も帝国事変解決までは内定扱いの為、後々気が変わって蹴っても良い。
また帝国崩壊後の国際事情で冒険者の囲い込みは厳禁。かつ王国側の事情で受領者多数の場合抽選となる。
●注意事項
・原則、勧誘は一度きりのチャンスです。
・【西局】における西境の戦いが一区切りついても、西方辺境における事案は続きます。
・無礼講ではありますが、20歳未満は飲酒禁止です。檸檬水や葡萄水で我慢して下さい。
マスターより
78度目まして。シリアスちゃんとダークちゃんは一休み。お祭り大好き弓月蒼です。
勝ったら飲む。これ、戦場の常識。おでおぼえた。
今回は、結果次第で以後の【西局】戦線に悪影響を与える可能性はありません。
しっとりでもわいわいでも、至って気楽に気紛れに。
何にせよ楽しく食べて飲んで騒いで頂けたら幸いです。絶対滑らない隠し芸とか大歓迎。
リプレイ
●二つの勝利
――――勝利にも二種類ある。得る為の勝利と、護る為の勝利と。
そして前者は多く勝者に何かを齎すが。後者は必ずしも勝者に益する事は無い。
外敵からの侵略は、傷跡だけを遺していく。勝とうと、負けようと、等しく。変わりなく。
本来であれば。そも、戦火が上がりさえしなければ。喪わないで済んだ筈の物を只管に奪っていく。
「……これで、しばらくは静かになる、のかな」
酒を酌み交わし肩を組み合う護兵団の兵士達を横目で見ながら、くぴ、と配っていた温かなお茶に口を付ける。
西局の戦いには途中から参戦したエルだが。方々で陽気に騒ぐ人々を見るのは悪い気持ちでは無かった。
"死者を悼む為に神妙厳かに"と言う声が有る事は知っていた。領都を歩いていると嫌が応にも聞こえてくる。
けれど――――死者は、死者だ。喜びも哀しみもしない。芸術都市出身者の常として。
彼女の感性は時に酷く客観的に出来事を捉える。芸術は、あくまで命ある者の為に在る。
「君も、誰かを悼んでいるのかな」
突然声を掛けられて、エルが視線を向けると。其処には銀の髪の綺麗な女性が佇んでいた。
彼女が『1221年度パンクリアース学園生徒会 副会長』シルヴィア・A・カペルである事は知らずとも。
"君も"と言うからには彼女も、この戦いで誰かを見送り、或いは誰かを亡くしたのだろうか。
「いえ、わたしは……」
自分は未だ。何故戦っているのかも分かっていない。そう応じようとしたその時。
シルヴィアの視線が彼女の持ち物へ向いている事に気が付いた。
「もし良ければ、一曲お願い出来るかな」
或いは、音楽に造詣の深い人なのだろうか。僅かに不安を憶えるも。今は宴、無礼講、と聞く。
(……だったら、少し位は)
場の雰囲気。熱。感情。そういった物を阻害しない様に気を付けながら、愛用の弦楽器に指を掛ける。
音楽は手慰みだ。貴族の目に留まる程の才覚は無い。エル自身、其処には見切りを付けている。
けれど、静かな旋律が奏でられると。エルとシルヴィアに周囲に屯う男達の視線が向くのが分かった。
何処か無理矢理だった笑いが、ふっと落ち着いた様に自然な笑みへ変わって行くのを目の当たりにして。
シルヴィアが満足そうに瞳を細めた。エルは無表情のまま、けれど少しだけ嬉しかった。
こんな物でも、ほんの少しでも、誰かの慰めになれば良い……と、心から思えた。
――――ああ、終わったんだ。復興は大変だろう。明日からはまた、きっと騒がしくなる。
広場中央で焚かれた篝火の火の粉が夜闇に散って、秋の冷えた風が吹き抜けていった。
(……たくさん死んだのね)
何処かで響く弦楽器の音色。その最中『威風凜然』デイジー・ロックウェルは篝火を見ていた。
少し視線を横に逸らせば。既に酔いに浸って騒ぐ者。手を取り合い踊り出す者が居る傍らで。
疲れた様に座り込む者。何をするでもなく呆と槍に寄りかかる者。動と静に極端に分かれている事が見て取れる。
大きな戦いだった。デイジーの感覚では普段やっている仕事と大差無かったが、全体を俯瞰してみれば。
手痛い敗北もあった。力不足を――――自分の向き先の曖昧さを、嫌が応にも実感する。
例えば8mの巨大魔獣を一人で抑えようとした女冒険者の如く。何か強みを身に着けた方が良いのだろうか……
「評価してもらえたのは素直に嬉しく思います。でも、あたしは既に北境の従騎士格を受けた身なので」
気付けば、近場に立っていた白い髭の老兵――グレイマンと言う名だと今日初めて知った――へ返答していた。
彼女は件の老兵から勧誘を受けた立場だが、デイジーが憧れる"騎士"は忠義の士だ。二君に仕える者ではない。
「うむ、北境伯も良い部下を見初められた。であれば仕方あるまいて」
「……あたしは、何を評価して貰えたんです?」
グレイマンの瞳に笑みが滲むのが分かった。祖父と孫ほど齢の離れた両名である。
"何故"――――と言うその問が如何に"若い"物であるか。デイジーに自覚は無くとも。老兵には瞭然であり。
「そうさな……伸び代、かの」
「伸び――――……ると、思いますか」
「わしとて小と付けども隊長よ。遊びで戦っておる様に見えるかね」
片眉を上げにやりと笑うグレイマンに改めて未熟を。背を押されてしまった事を思い知る。
けれど確かに、悩み続けても前には進めない。そして、悩むのは元々苦手だ。自分は、結局自分にしかなれない。
デイジーがそんな自分なりの結論に辿り着いた頃。藪を挟んで真逆の位置でもまた、一つの誘いに対して答えを示す男が居た。
「すまねぇな、自由が俺のモットーでよ……ただ、1つだけ謝らせてくれ」
『ブレイブファング傭兵団団長』ハヤト=ガラン=ヴォルファングが柄にも無く視線を落とす。
今も、胸に落ちる後悔がある。失態、と言い換えても良い。漠兵隊長を喪った責の一端は自分にある。
(クソっ、同じ戦場にいたってのに……)
誰に何と言われようと、ハヤト自身がそう感じているのだ。こればかりは拭い様もなく。
告げられ、頭を垂れた彼の謝罪を。けれどダルヴィンは静かに首を振ることで返答へと代えた。
「彼女は……アジーはそんな事で誰かを責める人ではないさ。何よりハヤト殿。ハヤト=ガラン=ヴォルファング。
貴殿があくまで自らを傭兵団の長足らんとするなら、その"後悔"をただ苦しむだけで消化してはいけない」
そんなことは。閣下もアジーもきっと望んではいない。と、ダルヴィンは続けた。
長とは、"自らの責を自らが負った上で、あくまでそれ以上の成果で以て報いる者"を指すのだと。
「貴殿と戦地を共に出来ないのは残念だ。けれど私達は変わらず、貴殿とその爪牙に期待している」
護兵団の長。ダルヴィンが掲げた西方の地酒に、自ら持ち込んだ蒸留酒打ち合わせ。
亡き漠兵隊長への献杯とする。それは、ハヤトがもう一度前を向き直し歩き始めるに必要な事だったのだろう。
「世話になった! ウチの傭兵団が必要な時ゃいつでも声掛けてくれ!」
「ああ。もしも次があるなら――――その時はまた宜しく頼むよ」
拳と拳をぶつけ合い、たとえ僚友となる事は適わずとも。共に息災であれと祈り袂を分かつ。
或いはこれも、戦場が生んだ友誼の一つと呼べるのかもしれない。
●西境の宴
黒いフードを目深に被り、黒塗りの槍を携える。『黒槍の守り人』と呼ばれる傭兵が居る。
王国西方でじわりと名を広めた当人は戦勝会の会場から離れ、人も少ない領都の通りに佇んでいた。
「お久し振り、ガレスさん」
声を掛けた『春燈の朋』エルゼリオ・レイノーラからは、それが本当は"誰か"一目で分かった。
外界と自己とを区切る様な黒いフードを下ろす姿を見れば、黒髪黒眼。元北境の騎士の姿。
「健勝な御様子何よりです。エルゼリオさん」
エルゼリオにとって見知った旧友が其処に居た。
「多分、ガレスさんの事だから北境の敵を追って西に辿り着いたんでしょ?」
「それは……正しいとも言えますし、間違いとも言えるかと。
お恥ずかしながら、現在の自分の半分ほどは、私事で動いているに等しい状態です」
街路樹に凭れてそう呟く黒い傭兵の言は明瞭とは言い難い物の。恐らく彼なりに護るべき者の為。
彼の秘密主義は今に始まった話でも無いし、それでも。本当に必要な事は話してくれるだろうと。
「そう言えば学園で、オルファレナさんに会ったよ」
「……? ああ、自分の事をレナから聞いたのですか。あの子は元気にしていましたか」
「いや、ガレスさんの事を聞いたら"祖母を通し正式にお尋ね下さい"ってビシッと言われちゃったよ」
その言に。黒い傭兵は数度瞬くと幾らか逡巡の色を見せた末。小さく呼気を溢した。
かつては子供であった義妹も今となっては立派な淑女だ。さにあらん。そうであろうとも。
「エルゼリオさん、一つ頼みがあります。どうかレナに俺の素性を伝える事は避けて頂きたい。
『白銀』は『王党派』の中核。その弱みは本来、人の口に上げてはならぬもの」
過激派貴族『黒槍』と王党派貴族『白銀』の忌み子。
これは、使いようと握る者によっては王国の権力図に大きな亀裂を入れられる強力な札と言える。
貴族としての日の浅さ故だろう。エルゼリオはこの瞬間までその事実に気付かなかった。
頷く友人の姿を見てほっと息を吐く。もう二度と自らの失態で、『王国』に仇為す訳にはいかないのだから。
――――同時刻。戦勝会会場では今まさに、料理の出入りが開会以来最盛期を迎えていた。
「戦勝会だぞ! 飲んで食う以外にすることがあるか!?」
冒険者は、その運動量に比例してだろうか。男女共に健啖家が多い。
『青燕兵曹』ナハシュがもっくもくと口に詰め込む山盛りの何かは砂蛇の挽肉を使った肉団子だ。
砂漠の民から仕入れた香辛料は『王国』で流通する物よりも、ずっと強い辛みと舌への刺激が特徴だ。
汗を掻いた身体に塩分が染み渡り、歯応えのある肉は噛むほど肉汁が毀れる。実に"野性味溢れる"味わいと言える。
「ん~~~っ! なんですかこれ! 凄い、口に入れるとお米がぱらぱら解けてく……!」
「うわ、うわぁ……これ、後で調理法を教わって帰ろうかしら……」
一方で、此方も同じく『青燕兵曹』であるルアンナ・ミュラーとロゼットが歓声を上げるのは米料理。
それも『王国』では滅多に見ない炒めた米に肉と野菜を載せとろみのある"餡"を掛けた物。と言う奇妙な一皿。
水が貴重な砂漠に面するからこそ、高級料理に"水"が用いられたのだろう。これが炒めた米を口の中で包み込む。
シャルガネ伝来の"出汁"の分化が『王国』西方で変貌を遂げたか。口一杯の旨味は砂鮫の鰭か。しかして後味はさっぱりだ。
禁欲を是とするシグモルの神官戦士たるロゼットが、手にした匙を震わせて真剣に悩む程に手が止まらない。
肉と野菜は薄切りにされ生活魔法で僅かな焦げ目が付けられており、苦味すら良いアクセントとして機能する。
これには正統パン派のルアンナが思わず戦慄するのも止む無しだろう。
「おや、これは賑やかなことだね。おすすめは何かな?」
となれば、旋律流れる一角を離れ、護兵隊長の姿を探して歩くシルヴィアが流れ着くは必然と言え。
顔馴染みのロゼットが珍しく食べる事に集中している様に思わず笑いが毀れるも。
「これはこれは、戦功者が揃って連れないじゃないか」
流石に会場の華がそれだけ集まれば主催者が見て見ぬふりなど出来る筈もない。
何せ、この場に集まった4人は揃って。既に彼から『護兵団』の幕僚にならないかと勧誘を受けていたのだから。
が、しかし――――
「兵士になるつもりはないので、勧誘はお断りします」
「『蒼玉』家での立場も考えると、流石に辺境へ仕官は赦されないかな」
「私はあくまでシグモルの神官として身を立てたいと思ってますので……」
「辺境は面白そうだが、下士官とか堅苦しそうであんま好きじゃねえんだよな」
実にまさかの四連敗である。さしものダルヴィンも思わず眩暈を憶えた様に衝撃でふらついてみせた。
「……とは言え、ファブランド侯爵家は吸血鬼に操られゴルティエ侯爵はメドゥに通じていた。
『王国』の内憂は本当に根が深い。同じ王国貴族として、何かあれば助力は拒まない心算ですよ」
流石に可哀想に思ったか。そう言ってシルヴィアが手を差し出すと。
苦く笑んだダルヴィンがその手を握り返す。例え同じ場所で戦う事が叶わずとも。戦友である事に変わりは無いと。
「あー、まあ何だ。後々蹴ってもいいんだろ?」
或いは、如何にも演技に富んだ彼の振る舞いは案外無駄でも無かったらしい。
まさか此処まで袖にされ続けると思っていなかったナハシュが、気紛れに助け舟を出したのだから。
「ああ、勿論だよ。私達だって何も君達に首輪を着けたい訳じゃない」
「だったら、貰っといてやっても良い。今回は中々面白かったしな」
ほら。と差し出された手に、ダルヴィンが護兵団の仮勲章を託す。
それを確認し、心配げに見ていたルアンナとロゼットがほっと息を吐いた。宴は未だ、これからなのだから。
●光と影の狭間で
「俺は……祖父に学園卒業後は家を継ぐ迄、国の為に働けと言われているから」
『青燕兵曹』ジュスト・ヴェルジーはそう言って何処か納得し切れてない風に笑ったが。
同行した『赦さない淑女』ローザリカ・L・ディオールは勿論そんな幼馴染の微妙なもやもやを赦す気は無かった。
「しゃきっとしろ。皆が悼む気持ちを持ち合わせていて、それでも前を向いている。
ならば僕らもそれに倣い笑顔で過ごすべきだろう。弱さを噛み締めるべきは、この場ではない」
曲刀もかくやと言うバッサリ具合に、遠目で見ていた『砂狼』が口笛を吹いた。さぞ小気味良かったのだろう。
ジュストも恐らく、全く無関係な観客だったならそれは口笛の一つも吹きたくなったろうと思えば。
いっそ一周回って腹も座った。何せこうもあからさまに発破を掛けられたのだから意地を見せねば男が廃る。
「そう……だな。失礼しました。俺が力になると見込んでくれるのなら、前向きに検討したいと思います」
「ありがとう、いずれ轡を並べ砂漠を駆ける日を楽しみにしているよ」
ダルヴィンから差し出された仮勲章をジュストが握ると。ローザリカは満足げにそれを見て頷いた。
誰が勧誘を受けている場面なのか一瞬良く分からなくなるが、勿論主役はジュストなのである。
「ま。しかし西境の兵が増えるのも良かれ悪しかれじゃあるんだがな――――っと、お?」
「あら、この間は無茶を聞いて頂いて本当にありがとう。流石は『砂狼』、良い乗り心地だったわよ」
『砂狼』シャムハーンは傭兵であり、此度の戦いでは結果的に金払いの確りした方に付いただけに過ぎない。
場面が違えば敵対する事もある訳だが、そんな彼に声を掛けたのは『青燕兵曹』ザザ=ステルヴィナ。
確りと化粧をして着飾った彼は、最早性別不明の化身とかしている訳だが――――
「ハハハ、こりゃ驚いた。一体何処の美人かと思えばあの時の冒険者じゃねえか。
なんだい、また俺の砂蜥蜴に2人乗りで遠出でもしたいって? あんた位の美人なら大歓迎だぜ」
ちょっと素敵よね~などと思っていたザザに戦慄走る。何せ相手は砂漠の民。笑顔も野性的な肉食系美中年である。
味方とすれば心強く、敵に回せば恐ろしい。その危険な魅力も含めて思わずときめくをとめ心。
「これから傭兵団はどうされるの? このまま西方辺境伯の元に留まるのも悪くはないと思うのだけれど」
「仕事が有って報酬が貰えるなら何処なりと行くさ。傭兵ってなそういうもんだろ?」
「……本音を言うとね? 出来れば貴方とは戦場で敵として戦いたくはないなと思ったの」
おずおずとそう口にしてみせると、向けられた視線は細く、鋭く。何処か子供っぽく『砂狼』は笑う。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえの。だが俺達は『砂漠の狼』、首輪は着けらんねえのさ。但し――――」
ずいと距離を詰められた時、彼は後ろに下がる事だって出来た。けれど敢えてそうしなかった。
『砂狼』の金の瞳にザザが。ザザの紫の瞳に『砂狼』が映っていた。他に何も見えない程。
「紫色の星空は砂漠の安らぎだ。その眼に免じて、一度だけ頼みを聞いてやるよ」
低く囁かれ、互いしか見えない程間近に居た事に気付いたザザは思わず一歩二歩退くと、衝動的に頬を抑えた。
傭兵などと言う明日も知れない業種に就いていると、どうも性別など些末事になって来るらしい。
――――そんな宴の風景とは裏腹に。心穏やかでは居られない者たちもまた、いる。
「……確かに勝ちはしたな。同時に己の自惚れと無能を知るはめとなったが……」
『黒曜の従者』ベルク・オスマットは拝借して来た地酒の一本を開けると、それを戦死者碑に振りかけた。
勝利――――ではあるのだろう。『王国』は守られ、西方辺境伯も健在。対して『太信党』は散々たる有様だ。
党首ウザリは息絶え、同盟を組んでいたファブランド侯も既に亡い。戦争には勝った。其処までは正しい。
だが、彼女は護れなかった。帝国北方の防人が何たる恥か。先祖の名に泥を塗ったに等しい愚挙だ。
「結局奴の、ウザリの言う通り調子に乗っていたのだろうな……そのツケが――――」
無念、だったろう。こんな戦いで喪われて良い命では無かった筈だ。
この国は自浄の途上にある。そして祖国の奪還も未だ成らず。アザンティアの力が必要な場など幾らでも有った筈。
それをみすみす灰燼に帰したのは自身の慢心故だと、ベルクはそう定義した。そうしないではいられなかった。
水が貴重な西境に流通する程だ。良い酒なのだろうにまるで水の様だった。煽っても酔えず、勝利の美酒には程遠い。
「何腐ってんだ、そんな所で」
『青燕兵曹』ケン・Z・ブラッドリーがそんな所に通りかかったのは偶然だろうか。いや、偶然ではあるまい。
彼の手には『護兵団』小隊長の内定を意味する仮勲章がある。それは彼がダルヴィンと杯を交わした証である。
「……貴様か、放っておけ」
「そうは行かねえ。生き残った奴らが盛大に祝わなきゃ、逝った連中も喜べねぇからな」
2人は共に、アザンティア・カーンの最期を看取った者同士だ。それはつまり、どちらも遺された側だと言える。
じろりと流し見たベルクが確保して来た酒の一瓶を強引に奪うと、ケンは持っていた3つの酒杯の1つに注ぎ差し出す。
意味する所を悟ってか。どうも今宵は、1人で物思いに耽る権利すらないらしいと。
酒杯の一つを慰霊碑に捧げ、3つを軽く打ち合わせた。それでも――――彼は。彼女は。生きているのだから。
「ま……乗りかかった上、託されたと。思わせて貰っても良いよな」
「……死人に口無しと思って勝手な事を言う」
「良いんだよ。俺を信じて逝ったなら、俺は俺なりにその信に報いるだけさ」
言葉は要らず、寂寥の想いだけが募る。誰かを殺めるとはそういう事。誰かを亡くすとは、きっとそういう事なのだろう。
――――そうして、ケンに自らの分の酒杯を手渡したダルヴィンはと言えば、此度最後の勧誘相手と対していた。
「悩みましたが……お受けしようと思います」
『不可侵』コルネリウス・アーラが自らの胸に手を当て首肯する。それは、彼女の決意の表れでもあった。
“ロモズ歩兵団長”でもある彼女の道は無数に開けている。西境の護兵団もまた、その1つと言って良いだろう。
けれど後者に関しては、あくまで『王国』を護ると言う動機が必要不可欠だ。
例えばロゼットがシグモル火山帯での大成を望み。ルアンナがあくまで兵ではなく個であることを願う様に。
「私はこれから何処に依り、すべてを尽くすか改めて決め直さねばなりません。
本当は今あるもの、この先大切にしたいもの、全部を護りたいけれど……」
コルネリウスは『学園』において多くを学び一つの気付きを得た。それは、“何でも”は護れないと言う事だ。
価値観、優先順位、帰属意識と言い換えても良いだろう。個人が届くのは何処までも両手の範囲までであり。
その手の先を何処へ向けるか。それを見定めるには“その地の在り様”を学ばなければ行けないのだと。
「なるほど。では私からはこう言おう。迷うと良い、悩むと良い。その結果僚友となれたなら、私は嬉しい。とね」
「はい。本当に大変な戦いでしたが、その分多くの事を学べました。ありがとうございます……!」
差し出された仮勲章を受け取ると、コルネリウスは大きく頭を下げて感謝を告げた。
この国は豊かだ。食うに困る者は決して多くはなく、一見しただけならば何も苦労はない様に見える。
けれど、一歩外敵に晒される辺境に踏み込めば、これ程に危険が満ち容易く命が喪われて行く。
『学園』と言う絶対的に安全な鳥籠の中では決して学べない事。学んだからこそ、見える景色がある。
大切な者を守りたいと。常々そう思っているコルネリウスにとって、それは衝撃的ですらあった。
同じ国土の中ですら日々血を流している人が居るのだ。それは豊かさの裏側に隠された『王国』の現実でもある。
「……あ」
――――等と真剣に考えていた筈だが。豊かさの象徴である料理の品々を見ていたら空腹にまで気付いてしまった。
きゅるーっと鳴ったお腹の音に思わず耳がしょんぼり下がるも。ダルヴィンもこれには笑う他ない。
「よーうジジイ共!! まだ生きてたか、お疲れさん!!」
「わっはっは、何をぬかすか小鬼の小僧が! 儂はお主が孫の顔を見る頃合いまでは死ぬ気は無いわい!」
「おいおいマジかよ不死身かジジイ! だったら当分は退屈しなさそうだなあ!」
肩を組んで乾杯し合うナハシュとグレイマンが居るかと思えば、話がどう転んだのかロゼットとルアンナは首を傾げ。
「戦力強化も重要だけど、砂漠の蛮族……と呼ばれている人達とも共存の道を模索したくもあるわね」
「開幕一番でドッカンドッカンやったら恭順の姿勢を見せたりしませんかね……?」
「それはちょっと……変に追い詰めて噛みつかれるのも嬉しくないでしょうしね」
「吸血鬼と違って倒しておしまいじゃないのが面倒ですね……」
今後の西境について意見交換をし合ったりもしている。唯人、亜人、神官、パン屋、老若男女。
其処には種族による差別も、立場による区別もない。それは或いは彼女が思う理想の姿なのかもしれず。
「お腹が空いている様だね、米料理は如何かな? ああ、果物も美味しかったよ」
「わ、ありがとうございます! 頂きます……!」
同じ『学園』生徒会役員であるシルヴィアの勧めに応じて食べた不思議な餡の掛かった米の料理は。
どちらかと言えば傍流パン派を標榜するコルネリウスが、思わず動揺する程の美味みを口の中で表現してみせた。
何時だって、本気で知ろうと思わなければ見えないのだ。光と影の、狭間と言う物は。
●たった一つの冴えたやり方
「レティシア先輩は、確かこっちに来た筈……」
『白銀の朋友』リサ・ベイカーはそんな宴の盛り上がりに背を向け独り。領都の表通りを歩いていた。
先日、『王国』南部の小さな港街で見て以来、彼女の良く知る先輩の様子は明らかに大分おかしかった。
普段から何処か呆っとした所のある女性だったが、最近はとみにそうだ。
かと思えば、突然深く深く沈みこんだり。悩んでいる素振りを見せる割に調子を聞くと“大丈夫”の一点張り。
流石にこれはおかしいと、リサが所在を探りたくなるのも仕方がない話ではあったが――――
――――しかし此処まで適確な場面に出くわすとは。さしもの彼女すら思っていなかった。
先輩の姿を見失ったと思った――――その視線の直線上。黒槍を抱えた傭兵が、今にも領都を出ようとしており。
「……ガレス様は、そういう事をすると思っていました」
彼が待ち伏せていた『夜に咲く白月』レティシア・レインフィールに捕まったのは全く予定外と言う他はない。
義理として戦勝会に出席こそしたが、この地に於ける彼の役割は終わったのだ。だから――――
「『隠者』様に、ガレス様が北境に戻れる様進言のお願いをして来ました」
「……は!?」
流石に聞き捨てならないと。視線をはっきり向けた黒い傭兵の手を。レティシアが両手で握り引き寄せる。
それがどれほどの勇気を必要としたかは分かるまい。けれど只事で無い事は、彼にでも理解する事が出来た。
「待って下さいレインフィール殿。それはどういう、いや、あの『隠者』がそんな話を受け入れる訳が――――」
「――――私は、貴方から沢山の物を受け取りました」
その言葉に、彼は動きを止めざるを得ない。それは違う。違う筈だと首を振ろうとも。
「私の痛みと虚勢に気付いてくれた。臆病な私に、何度も手を差し伸べてくれた」
もし、そうであるならば。彼女に救われていたのは自分の側に違いない。穢れた血の、生きる価値の無い咎人に。
それでも生きて欲しいと何度乞われたか。その度に誰が一番傷付いたかを知っている。それなのに。
「だから、今度は私が――――「それは違う!!」」
強く、強く首を振った。もしも彼女がそんな勘違いをしているならば、糾さなければならない。
「貴女は、御自分を何だと思っているのです! 俺には、貴女に返せる物が何もない!
それでも望まれるなら幾らでも生き恥を晒しましょう。けれど、貴女はいつも最初に御自分を犠牲にする!」
言わなければならなかった。もっと自分を大切にして欲しいと。こんな――――こんな男の為に、何一つ。
「ガレシウス・アルヴァ・クラティアス」
―――――けれど、続く筈の言葉は出なかった。呆然と、既に遠く、遥か以前に棄てた筈の名を確かめる。
「オルファレナ様は、貴方を護る為に『白銀』の義務に殉じると決めました。
それでも貴方は、御自分には何も無いと仰られるのですか。私は――――私、だって――――」
黒の傭兵が、拳を握るのが分かった。勝手に秘密を暴いたのだ。怒鳴られる覚悟位はしていた。
なのに、どうして。――――どうして貴方が、そんな。まるで泣きそうな眼をするのだろう。
「……自分は罪を侵しました。例え誰がそれを許そうとも。断じて、赦されてはならない」
擦り切れた声。両手で握っていた手は冷え切って、その手は力無くするりと抜けた。
感情の全てを押し殺したような声音は無機質に。けれどそれだけに、まるで突き放されたかのように響く。
「ましてや――――レティシア殿。貴女がそれを背負う事など、決して有ってはならない」
身を引き、外套を翻すと。そうして黒い傭兵は、決して振り返る事は無く――――
「――――待って下さい!」
けれど、リサにはそれを見逃す事が出来なかった。何せ幾らなんでもあんまりだ。
確かにレティシアは少しばかり勢い余って先走ったかもしれない。けれどそれはお互い様だろう。
ガレスの言い分はあまりに自分勝手に聞こえたし、リサの基本姿勢は可哀想な先輩の味方だった。
「貴女は……いえ、今の話を聞いていたのですか?」
「どうでも良い話です。少なくとも、自分の意見を押し付けるだけを会話とは言いません」
正しい商人の交渉術その1。正論で殴る。一瞬、黒い傭兵がたじろいだのが分かった。
「理解を求めるならせめて話を聞きましょう? 先輩だって話したい事が有るんですよね?」
「え……あ、はい。それは……――――は、い」
正しい商人の交渉術その2。中立を味方に付ける。レティシアが勢いに負けて頷いた。
「……、……。……自分が、勝手だと?」
「勝手です。別に今で無くて構いませんからもう少し胸を割って話をしましょう?」
正しい商人の交渉術その3。逃げ場を残し誘導する。黙ったガレスが俯き、眉間を抑えて暫し。
永遠に続く沈黙に耐えかねた様に、小さく頷いたのを確認してから解放した。積み重ねが生きたと言う他はない。
リサは彼女なりに気を利かせた心算だ。何せ私的事情には一切触れなかったし聞かなかった。
けれど呆気にとられたレティシアが後々、赤くなったり青くなったり出来たのは概ね彼女の話術のお陰だった。
「――――え、あ。隠し芸? 宴会で披露できる芸なんて……歌えって!?」
「うむ、宴と言えば歌よ。よぉし音頭は儂に任せておけ! そこの嬢ちゃん、伴奏を頼む!」
「え、あの、でもわたし、此方の音楽なんて知らな……」
「その辺は気持ちじゃ! 雰囲気じゃ! さあ良いな――――!!」
かくて祝勝会は夜明けまで続いた。ジュストがグレイマンに無茶振りをされて歌い出すわ。
なり行きで巻き込まれたエルが愛用の弦楽器で西方特有の情熱的な旋律を奏でさせられ疲弊するわ。
「ふむ、芸事を披露する婚約者殿というのも珍しいな。なかなか上手い物じゃないか」
「ああ、西方の店で聞いた奴を幾つか覚えてて……――――あ」
「……ほう。――――ほーう? 店で。ああそう言えば女性から恋する男性へ向けた歌詞の様だったが。
どういった店なのか詳しく聞いても? ――――あ、こら芸事の途中で逃げるとは信じ難い奴め……!」
「あっははは、何だか楽しくなって来たわー――久し振りに踊りでも披露しようかしらん?」
失言に目敏く気付いたローザリカが追い、歌い手が逃げる傍らでザザがショールをはためかせ踊り出すわ。
「オイオイ、誰だよ地酒の中に火酒を混ぜたの。ありゃ夜明けまで醒めねえぞ」
「あの、わたし結局いつまで演奏を続ければ……」
「あはは、お腹が膨れたら何だろう目の前がぐるぐるするー」
「こいつ、ただ葡萄を食べただけで雰囲気で酔ってやがる……! あ、こらケルソー! 放置するなケルソー!」
せっせと葡萄を食べていたデイジーが周囲の酒気に充てられ、視界をぐるぐるさせたりしたものの。
まさにこれこそ宴と言った盛り上がりの中で幕を閉じた。または、幕引きを余儀なくされた。
物語であれば、戦いの勝利は未来と栄光を約束するのだろう。けれど現実は、物語の様に上手くは出来ていない。
だからこそ彼らは時に騒ぎ、笑い、泣き、叫び、歌い、舞い、盃を傾けるのだろう。区切りと、或いは決別として。
――――西境の領都の夜が明け、そうして、また朝日が昇る様に。
マスターコメント
皆様お疲れさまでした。弓月 蒼と申します。
この度はご参加ありがとうございました。この様な結末に至りましたが如何でしたでしょうか。
皆様それぞれに、一区切り付けて頂けたようで何よりです。
戦勝会も大勢の方が盛り上げて下さり冥利に尽きると言う事で『大成功』をお贈り致します。
また、西方辺境伯よりの勧誘を受けられた方には特別な称号を発行してあります。
将来的な進路の一つとして、どうぞお受け取り下さい。
それでは、『太信党』に端を発する西方辺境の戦い【西局】はこれにて一端決着と相成り。
けれど西方の難事は未だ続きます。更なる展開にご期待下さい。
御参加誠にありがとうございました。ご縁がありましたらまた次の機会にお会いしましょう。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準16 / 15〜25人
2022年10月22日 23時32分08秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
【西局】お疲れさま。ヒーラーのロゼットよ。 「1.立食」で、普通に参加させてもらうわ。 内容的に、交流やその他で参加の人が多そうだけど、 気軽に来た人がいたら、よろしくね。