楓の色づく季節に金の天秤は揺れる

真柄 葉

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シナリオID:2482

オープニング

 リーンエス王国東部、ディオール伯爵領領都『グラン・ディオ』。
 王国でも屈指の商都は、この日、いつも以上の賑わいに包まれていた。

「よくぞ参られた御客人方、さぁ入られよ!
 金と薔薇に彩られし商都『グラン・ディオ』は、貴殿等を歓迎する!!」

 見上げる程に高く重厚な城門前で、揃いの鎧に身を包んだ衛兵が声高に来訪者を招き入れる。
 来訪者たちの目的は、この街で年に二度開催される商大祭『天秤の抱擁(マルシェ・ドゥ・エキリブル)』。
 街に10ある大通りには所狭しと露店が並び、王国のみならず、様々な国から沢山の人々が押し寄せる、王国でも指折りの商祭だ。
 普段から『グラン・ディオ』を拠点とする商人のみならず、この日の為に”とっておき”の品を揃えた行商人たちが通りを埋め尽くす。普段目にする事のない品々に、客達は瞳を輝かせ、一期一会の出会いに心を躍らせた。
 財布のひもは意味をなさず、金貨銀貨が舞い踊る。
 『出会い』に祝福を。
 『破滅』に栄光を。
 リベラの天秤の皿の上で、『商売』という名の薔薇が、大輪の花を咲かせる。

●賑わう街を見下ろす一室
「八番通りで露天商同士のいさかいが起こっております」
 老齢の執事が机に報告書を滑らせた。
「……なるほど、では双方の言い分を聴取し原因を探ってくれるかい。目立つようであれば、詰所へお連れするんだ。くれぐれも丁重に」
「仰せのままに」
 目を通した報告書にサインすると共に指示を出す人物。
 一族の特徴ともいえる薔薇色の長髪を後頭に纏め、くすむことを知らない金色の瞳に陽光を宿す彼こそが、この商大祭の総責任者であり、次期ディオール伯爵家当主『ヴィルジール・L・ディオール』その人であった。
 ヴィルジールは崩れぬ笑みと温和な物腰を湛え、次々と上がってくる報告を処理している。
「六番通りで喧嘩です! どんどん人数が膨れ上がっています!!」
「落ち着きたまえ。すぐに衛兵を向かわせて、事態の鎮静化を。加担した者達は人目のつかない場所へ移動させるんだ。決してお客様を不安にさせてはいけないよ」
「はいっ!」
「三番通りでスリの被害が多発しているとの報告が! 今、衛兵たちが向かっていますが犯人は人混みに紛れて逃げているようです!」
「ふむ……犯人の人相はわかっているのかい?」
「はい! 周りにいた客人や商人が目撃しています!」
「ならば、すぐに三番通りの出口に検問を設けるんだ。路地は封鎖してかまわない。もちろん、お客様には悟られないようにね」
「はっ!」
「ヴィルジール様! 七番通りで――――」
 息をつく間もなく持ち込まれる案件に、ヴィルジールは涼やかな笑みを湛えたまま、的確な指示を出し続けた。

●
「やはり冒険者諸君の犯罪抑止力は賞賛に値するね」
 老執事が淹れた食後のローズティーを楽しみながら、ヴィルジールは窓の外の賑わいを見つめる。
「はい、以前とは比べ物にならない程、トラブルの件数は減っております」
 事実、犯罪抑止としての冒険者の存在は大きなものであった。
「ああ、おかげで随分楽をさせてもらっている」
 ヴィルジールはそう答えると、執務机の上に山と積まれた書類に視線を移す。
 商大祭に冒険者の力を借りる以前、これ以上に膨大な量の案件を処理していた父親と目の前にいる執事の苦労を思うと、本当に楽になった。
「父上とお前には悪いが、時代が私に微笑んだと思っておくよ」
 と、小さく肩をすくめる老執事に苦笑していたら、ドアがノックされた。
「失礼いたします、ヴィルジール様。ご休憩中申し訳ありません。一件ご報告が」
 ドアを開け入ってきた部下は、神妙な顔でヴィルジールを見つめている。
「ふむ、何やら急を要する案件のようだね。聞こうか」
 何やらただならぬ部下の雰囲気に、ヴィルジールは小さく頷くと革張りの執務椅子に腰かけた。

「――――裏取引か」
 部下が持ち込んだ報告書に書かれていた内容に、ヴィルジールは感情なく呟く。
「申し訳ありません。本来であれば城門での検問で排除すべきところなのですが、衛兵に見落としがあったようです」
「なるほど、見落としか。衛兵とはいえ人である事には変わりない。見落としの一つや二つすることもあるだろう。とはいえ、これは見落としていい類の案件ではないね」
 ヴィルジールはカップを皿に戻し、机に両肘をついた。
「――いや、裏取引が行われると知れているという事は、その後の追跡が完了しているという事かな」
「はい、既に『売人』と『客』を特定、取引場所も判明しており、突入準備も完了しております」
「素晴らしい。それでこそディオールが誇る俊英たちだ。それでは早々に…………いや、それよりも――――」
「はい、警備担当の衛兵の処断ですね。既に彼等を拘束しヴィルジール様の裁定を待っております」
 机についた両手に口元を当てるヴィルジールの仕草をそう受け取った部下が先んじて進言する。
「兵の処断? 拘束? なぜそのような事をするんだい?」
「何故、と申されましても……怪しげな者を街に入れた責任を取らせる為ですが」
 しかし、その返答は想像していたものではなかった。部下は困惑しながらも真意を問う。
「責任を取らせるか、なるほど。確かに責任の所在を明確にすることは必要だろう。しかし、処断や拘束は本当に必要だろうか」
 困惑する部下に小さく微笑むと、ヴィルジールは椅子を回転させ、窓の外に視線を向けた。
「見たまえ、この街の賑わいを」
 窓の外には年に二度の商大祭『天秤の抱擁(マルシェ・ドゥ・エキリブル)』に沸く街。そして、沢山の人々の賑わいがあった。
「この時期だけどはいえ、彼等には大変な激務を強いている」
 街の賑わいは窓を閉めたこの屋敷の部屋の中にまで響いている。
「そんな中での失敗だ。同情の余地は少なからずあるかと思うのだが、君はどう思うかな」
「確かにそうは思いますが……それでは、彼等はお咎め無し、という事でしょうか」
 そう問いかける部下にヴィルジールは答えず、代わりに柔らかな笑みを向けた。
「彼等の失敗を責め、排除する事は容易い。しかし、失敗を責めたところで何の益にもならない。それよりも彼等に挽回の機会を与え、一層の働きを期待する方が有益だとは思わないかい?」
 そう言われ、部下はハッと顔を上げる。
「彼等も我がディオールを支えてくれる優秀な人材達だ。そんな優秀な者達が一度や二度の失敗で退場していくのは、あまりにも惜しい。『人』は『財』だよ」
 そこには先ほどとは打って変わって、商人らしい怜悧な笑みが浮かんでいた。
「委細承知いたしました、ではその者達を現場に同行させ、挽回の機会とさせましょう」
「ああ、そうしてくれるかい。名誉挽回のチャンスと知れば、彼等もやる気を出してくれることだろう。もちろん、働きに見合った報酬を約束するよ」
「ありがとうございます。それを聞けば彼等もさらに奮い立つことでしょう」

 深々と頭を下げ退室していく部下を見送ったヴィルジールは、冷めてしまったローズティーで口を濡らすと、再び視線を窓へと移す。
「こちらの心配は必要ない。君はゆっくりと祭を楽しむといいよ」
 窓の外にいるだろう最愛の妹へ向け、ヴィルジールは微笑み、呟いた――――。

解説

●目的 商大祭『天秤の抱擁』でお買い物を満喫してください! ●場所 王国東部ディオール伯爵領領都『グラン・ディオ』。 王国と同盟を結ぶ大街道の要衝で、両国交易の中継地点として発展を遂げた街です。 今回開催される祭は、『グラン・ディオ』にて年に二回開催される『天秤の抱擁(マルシェ・ドゥ・エキリブル)』という大きな商祭です。 『グラン・ディオ』が街を上げて行う祭で、街に10ある大通り全てに露店が並び、街は商売一色に染まります。 ・一番通り『朱金の並木道』 『グラン・ディオ』のメインストリート。街を東西に貫く大通りで普段から多数の露店と商店が鎬を削るもっとも賑やかな通り。 ・二番通り『白銀の参道』 『グラン・ディオ』を南北に貫く大通り。生鮮食品を扱う商店や露店が並ぶ街の台所。 ・三番通り『黄銅の小道』 街の中央から北東へと延びる通り。普段は倉庫が並ぶ静かな通りですが、この時期は、各倉庫が扉を開け在庫処分という名のバーゲンセールを行います。 ・四番通り『黒鉄の近道』 街の中央から南西に延びる通り。金属加工に長けた職人達が工房を構える通り。オリジナルのアクセサリー等をオーダーするのが定番。 ・五番通り『青錫の一本道』 街の中央から北西に延びる通り。芸術家達が多く通りで、芸術家たちが通りに出て芸を披露したり作品を展示したりと、他の通りとは一味違う体験ができます。 ・六番通り『紫晶の花道』 街の中央から南東に延びる通り。服飾関係の工房や商店が並び、オーダーメイドのドレスなどを注文することが出来ます。 ・七番通り『赤鋼の片道』 街の南端と西端を結ぶ通り。他国から居を移してきた商人達が店を出す、異国情緒あふれる通り。 ・八番通り『翠鉛の脇道』 街の北端と東端を結ぶ通り。骨・革細工の工房が並びオリジナルの財布や鞄、靴などをオーダーメイドできます。 ・九番通り『橙玉の枝道』 街の南端と東端を結ぶ通り。木工細工の工房や商店が並ぶ通りで、家具はもちろん工芸品や釣り竿などもそろえられています。 ・十番通り『玄錆の隧道』 街の北端と西端を結ぶ通り。闇市のような少し怪しい雰囲気が薫る通りで、中古品やジャンク品が無造作に積まれています。 ●人物 ヴィルジール・L・ディオール ディオール伯爵家次期当主にして、直轄運営する『リベラ商会』を仕切る若旦那。 怜悧な笑顔が似合う才貌両全のやり手なお兄さん。 ディオールのお屋敷で、商大祭の管理運営を行っています。

マスターより

年に二回の商大祭『天秤の抱擁(マルシェ・ドゥ・エキリブル)』の季節がやって参りました! 皆さんはヴィルジール氏からの依頼で商大祭の警備を担う冒険者です(建前 しかし、トラブルはリベラ商会の精鋭さん達が勝手に解決してしまうので出番はありません(本音 ヴィルジール氏としては、確たる所得や装備へのこだわりを持ち、人脈豊富な冒険者を祭に招けば、警備がてら金も落として貰えて良いことづくめと考えているようです。 「折角の商大祭、仕事は気にせず楽しんでくださいね」なんて優しい顔で送り出しつつ、計算高い内心はニコニコしている事でしょう。 また、買い物ではなくお祭りを盛り上げるイベントなんかを企画して頂いてもOKです! ヴィルジール氏は商魂たくましいので、祭が盛り上がるのであれば喜んで受け入れてくれるでしょう。 なお、アイテムをお探しの方は、ざっくりとこんな感じのものを探していると書いていただければ、商人(真柄)がなんかうまい感じに考えてご提案させていただきます。※オリジナル化を確約するものではありません それでは、楓の葉が色づく商都『グラン・ディオ』にて、皆様のお越しをお待ちしております!

リプレイ

 『天秤の抱擁』(マルシェ・ドゥ・エキリブル)。
 熱狂のただ中にある街を眺めながら、ゲルダ・クラインとナハティガル=ラーは、街の中央広場で少し遅い昼食をとっていた。
「――――そういえばゲルダ、アルベイルの好みはわかるか?」
 食事も終わり、もう一度街に繰り出そうかと思案していた所に、ナハティガルが問いかける。
「アルベイル様の好み、ですか? 存じませんが……何か贈られるんですか?」
「ああ、まだ先の話だが、次の誕生日の為に何か用意しておこうと思ってな」
「なるほど、誕生日ですか。申し訳ありませんが好みは……あっ」
「何か思いだしたか?」
「い、いえ、先日はその、素敵な、とても素敵な贈り物を、ありがとうございました」
 ゲルダは話の腰を折って申し訳ないと思いつつも、礼を言っていなかったと頭を下げた。
「気にしないでいい。好きでやった事だ。それに気に入ってもらえたのなら俺も嬉しい」
「あ……えへへ、そう言ってもらえてよかったです。今度はわたしも、その……ナハティガル様のたん――――」
「しかし、ゲルダも知らないとなると何を贈ったものか……」
 ゲルダの返事があまりに小声だったのか、それとも街の喧騒からか、その言葉はナハティガルに届かず。
「うん? ゲルダ、どうした」
「……あ! いえ……えっと、それじゃ、一緒に探しませんか!」
「いいのか?」
「もちろんですっ!」
 こうして、二人は共通の友人の贈り物を探す為、熱狂の中に再び身を投じた。

●
「ロゼとこの街を回るのは随分と久しぶりだね」
「ああ、初めて会ったあの時以来か」
「そうだね。あの時は――――」
「……あの時は、なんだ」
「いや、眩しい思い出だと思っただけさ」
 ジト目で見上げるローザリカ・L・ディオールに、ジュスト・ヴェルジーは肩をすくめつつ、並んで街を往く。
 こうしてまた共に歩める。並んで歩きながらローザリカはふとそんな事を思った。
 すっかり追い抜かれた背も、遠くなってしまった歩幅もちょっぴり憎くはあるけれど――――。
「まったく、君ばかり格好良くなられても困るというのに」
「ん、何か言ったかい?」
「……何も言っていない。雑踏から君を見つめる子女の黄色い声でも聞こえたのではないか?」
「そうか。では、応えなければ――――悪かった、冗談だ」
 今度はしっかりと睨んでやれば、降参する様に両手を上げた従弟殿。
「俺が誰かの誘惑に負けないよう、お相手いただけますか」
「当然だ」
 恭しく差し出された手を取り、腕を絡めた。

 他愛のない会話を重ねながら、沢山の想い出が刻まれた街を歩く。程なくして、その店は見えてきた。
 二人が探すのは、来月に控えたローザリカの誕生日兼婚約発表会に使う装飾品。
 色々と迷ったが、馴染みのある店がいいだろうと、以前にも世話になったこの店を訪れた。
「さて、具体的にどういったものにするかだけど――――」
「その前に」
「うん?」
「似合うと頷くばかりでは許さないから、ちゃんと君の好みを言うように。わかったな?」
 ローザリカに言われジュストは面食らった。まさか、選ぶ前から釘を刺されるとは。
 ジュストは肩をすくめつつ、大仰に頷いて見せる。
「よろしい。では、選んでくれ」
 ローザリカの許可は下りた。ジュストは改めて並んである装飾品に目をやる。
 職人の腕が感じられる精巧な彫金細工はどれも超一級品。金に糸目をつけるつもりはないが、ただ高いだけではダメだ。彼女の燃えるような赤髪に似合う物でなければならない。
 ロゼの髪は美しい赤(ワインレッド)。ドレスの色も薔薇色だと言っていた。ならば、それらを引き立たせるには――――。
「好みというか、意見……いや、要望なんだけれど、例えば『緑』を使ったほうがいい、とか、そういうものはあるかい?」
「……君がそれを望むなら」
「望む、か。なかなか素敵な言い回しだね。では、遠慮なく。……宝石は緑石をあしらうとして、あとはそうだな……金属と宝石だけだと、無機質になりがちか……秋の今なら鳥の羽や薔薇で飾るのはどうだろう」
 そう問いかけたら、ローザリカは大きな瞳を見開き、ゆっくりと頷いた。

(……まさか無意識に言っている訳じゃないだろうな)
 職人との交渉に入ったジュストを見つめながら、ローザリカは思う。
(そのどちらもが、ジュスト、君のイメージに他ならないのだぞ)
 一方のジュストは。
 百戦錬磨の商人でもあるローザリカが見つめる中、職人とやり取りする。こちらの要望を伝え、気に食わない所があればきっぱりという。言いなりにはならないと強い意思を示す。

「待たせたね。完成次第屋敷に届けてくれるそうだ」
 交渉を終え、ローザリカの元へ戻ったジュスト。
「そうか、楽しみが増えるな」
「ああ、まったくだ…………それで、ロゼ」
「どうした?」
「お願いが一つあるんだけど、良いかな」
「願い?」
「出来上がってくる髪飾りは、パーティ当日に俺がロゼの髪に飾りたいんだけど……駄目?」
 少し気恥ずかしそうに言うジュスト。
「……私もその方がいい。ジュストにこそ、付けて欲しい」
 ローザリカは少し頬を染めながら、その願いに応えるように、真っ直ぐにジュストを見つめて言い切った。

●
 街が誇る針子達がその技を競う六番通りへ、ミゼリア・L・ステュクスは足を踏み入れた。
「……やはりめだちますか」
 自分に……いや、纏う衣装に人々の視線が集中する。漆黒の襤褸布(かつてドレスだったもの)はこの通りではあまりに異質なのだろう。
 だが、これを脱ぐつもりはない。通りに並ぶ煌びやかなドレスがいかに素敵だろうが、この姿が過去と今を繋ぐ唯一の手掛かり。記憶を無くした自分の存在証明であり、存在意義だ。それに、この襤褸(ドレス)には――――。
「かつて、わたしのそばにあった誰かの、想いや祈りがこめられている……そうかんじるのです」
 小さな呟きを雑踏にかき消しながら、ミゼリアは通りを歩く。

●
 異国情緒を感じられる七番通りに、ルイドは居た。
 依頼主からは気楽に買い物でも楽しんでくれと言われたが……。
「そうはいっても、買い物ばっかりするわけにゃいかねぇだろ」
 なんて呟きつつ、意外と生真面目なルイドは警備がてら店を回る。
「ん? これは……本じゃねぇか? いや、本、なのか……?」
 そんな中、ある一軒の店先に目を留めた。並んでいるのは古書らしき代物で、かなりいい値段がする。正直、何が書かれてるかわからないし、役に立つとも思えない。
「随分と胡散くせぇが……そこが気に入った。買うわ」
 だからこそ、だろうか。例え偽物だろうと、話のネタに位はなると購入を決めた。

 そんな調子で買い物を満喫したルイドだったが――――。
「やっぱ、買い物だけしてるのはな……」
 いくら街の警備というのが『建前』だとしても、何もしないのは気が引ける。
「何かありそうな通りを探してみるか」
 そう呟いたルイドは一番トラブルがありそうな(十番)通りへ足を向けた。

●
 革の独特の匂いが漂う八番通りを訪れていた、レピド・クロサイトは一軒の工房へ立ち寄った。
「店主、こいつに合う首輪はあるか」
 そう言って、レピドは職人に相棒の猫(ショウガ)を見せる。
「色? そうだな……俺の家猫になるなら……赤だ。赤で頼む」
 足元で大欠伸中の相棒に何色が似合うかなどわからないが、自分の家に住まわすのなら、何か一つでも共通点があるといいだろうと、自分の髪色と同じものをオーダーした。
 早速と製作を始める職人を待つ間、レピドは棚に並べられた品々を眺める。
「これは……」
 そんな中に、レピドの目を奪った品があった。
 それは黒みがかった革で作られたベルトポーチ。添えられた説明書きには熊の魔獣革とある。
 値段は張るが、しっかりとしたその造りと、醸し出す雰囲気にレピドは一目惚れした。
「主人、これを試着してみてもいだろうか」
 奥へ問いかけると、了承の返事が返ってきた。許可を得て、改めて腰に巻く。
 今まで使っていた汎用品とはまるで違う着け心地。柔らかく軽いのに、驚くほど丈夫だ。
「主人、首輪と一緒にこれも貰おう。サイズを合わせてもらえるか」
 一目で気に入ったレピドは、首輪と共に購入を決める。

●
 華やかなりし『グラン・ディオ』の影と揶揄される十番通り。
 先ほどまでの煌びやかな雰囲気とは真逆の気配を感じ、突き刺さる視線は更に多くなった。
 無感情に無表情に。通りに並ぶ店々を見て回る襤褸を纏った美女(ホムンクルス)は、奇異の目に晒される。
「奇異から好奇へとかわりました。やはり何かかってくるべきでしたか……」
 視線に込められた感情の変化を敏感に感じつつ、ミゼリアは怪しげな通りを歩いた。
 自分はホムンクルス。造られた存在……。
 店々に並ぶ使い古された道具たちを見つめながら、ミゼリアは思う。
 道具は誰かの役に立ってこそ幸せであり、主人を持たぬ道具たちは、こうしてここで新しい主を待っている。
 ならば、私はどうなのか。
 盾型で、愛玩用。それがわたしの『規格』だった。
 わたしを造ったアルルカンは『悪い人』だったらしい。それでも、それ(アルルカン)がわたしの生みの親である事には変わりない。
 わたしはきっと親(アルルカン)の役には立たなかったのだろう。
「……つよくなれば、やくにたつのかな」
 そんな事をぼんやりと考えながら、ミゼリアは通りを歩く。

●
 サイラスは十番通りのいかにもな店で品を漁っていた。
「んー……これも違うかー」
 彼の探しているのは『魔術書』。中でも自身がずっと研究している『魂』にまつわる秘本だった。
 しかし、本自体が貴重品である為、数が圧倒的に少ない事と、この場所自体、出自不明な品々が並んでいる事もあって、サイラスの望むような『一品』とは、残念ながらお目にかかれていない。
「やっぱ、そうそうないかー。目的のブツが無くても、禁書の一つでも転がってると思ったんだがなー」
 巡った店は10を超えた。
 王国でも有名な商都での祭典。どさくさに紛れて、どこからか怪しげな品が持ち込まれていないかと期待したのだが、どうやらこの街の検閲はよほどしっかりとしているらしい。
 サイラスは魔導書を諦め、鍛冶で使えそうなものはないかと別の店を巡る。

「ん? ユニークなデザインだな。どの時代のもんだ?」
 歩き疲れて休憩しようかと思っていた矢先、一軒の軒先にそれを見つけた。
 それは小さな箱。くすんだ金色の箱は金属製だとわかる以外、何もかも不明。表面に複雑怪奇な文様が刻まれているが、いつの時代のものかもわからない。
 店の主人は紀元前の一品だというが、本当かはどうかすこぶる怪しい。
 幸い金はあるから、提示された金額は余裕で出せる。だが、正体不明なこれは一体何なのか。
「ま、いいか。せっかくここまで来て土産の一つもないと寂しいしな。研究目的に買ってくか。使えなけりゃ鋳潰しゃいいしなー」
 ガラクタであるならそれはそれ。暇つぶしにはなるだろうと、サイラスは金貨の入った袋を積んだ。

●
 雑多に過ぎる店々。雰囲気に見合う客層。ルイドは妙にしっくりくる雰囲気を纏う十番通りで『お仕事』をするつもりだったのに……。
「ここも平和だな」
 結局出番はなさそうだと早々に諦め、何か掘り出し物でもないかと武具を扱う店を巡ったルイドは、ふと一軒の店に入った。
「めちゃくちゃ雑に重ねてるな……」
 主人の冷ややかな視線を感じながらも、積まれている武具を漁る。特に何が欲しいわけでもないが、何か目玉商品でもあれば――――。
「……なんだこれ」
 そう思い店の奥を漁っていたら、それはあった。
 武器……だろうと思う。しかし、こんな複雑怪奇なものは見た事がない。
 店主が「ただのガラクタだ」と言ってくるが、ルイドにはそうは見えなかった。
「ん、可変するのか。……ここを、こうか……? うおっ! へぇ、こいつは」
 試行錯誤の末、ルイドが組み立てたそれは、やはり『武器』だった。
「面白れぇ。シーフの俺に使えるかわかんねぇが……親父、これを貰うぞ!」

●
 ベルトポーチの調整を待つ間、レピドは十番通りを訪れた。
 もし何かあるならと訪れた怪しげな通り……だったのだが。
「無駄足か。いや、折角来たのだし、あれを探すか」
 通りの怪しげな雰囲気になんとなく親しみを感じつつ、探すのは調理用具。
「どうせまた壊れるんだ、中古品で十分だろう」
 破損の原因は自分にあるのだが、と思いつつもレピドは中古品を漁った。

 中古の調理用具を幾つか手に入れ、店を出ようとした時、相棒の蕩けた鳴き声が聞こえた。
 何事かと視線を下げてみれば、ショウガが木の枝に体をこすり付けふやけている。
「なんだ、これは……」
 曰く付きの紋具かと訝し気に枝を見ていたら、主人がマタタビだと教えてくれた。
「そんなものがあるとは……面白いな、これももらえるか」
 レピドはふやける相棒への土産だと、追加でその枝を購入した。

●
「貴族の令息が持っていても不自然でない物……なかなか難しいですね」
「儀礼剣などではありきたり――――というよりも、我々が贈れるような代物はないだろうな」
 友人はかりにも公爵令息。高価な品など腐るほど持っているだろう。ならば何を贈る? あまり奇をてらったものは逆に不躾か……。
「ナハティガル様はお優しいですね」
 そんな風に考えていたら、ゲルダがそっと声をかけてきた。
「優しい? 俺がか」
「はい。とても」
 そう言って向けられたゲルダの笑顔が眩しく、ナハティガルは少しだけ照れ臭そうに視線を外す。
「あ、あの……えっと、ナハティガル様の誕生日、お尋ねしても大丈夫でしょうか」
 そんなナハティガルに、ゲルダは意を決して問いかける。
「俺の誕生日か、11月23日だ。勝手にそう決めた」
「勝手に……?」
「本当の誕生日は知らないからな」
「あ……」
 ゲルダは申し訳なさそうに俯きながらも、耳にした日付を呟く。
「11月23日……」
「ないと不便だからと言われてな。ジーナと適当に決めた」
「ジーナ、さん……そう、なんですね……」
 その後、二人は十番通りの店々を巡っていく。
 歪な土人形を見つけ、贈り物にはならないなと二人して呆れたり、征竜の骨で作った槍だという、見るからに怪しい一品に釣られていくナハティガルをゲルダが慌てて止めたり、そんな彼女に似合うだろうとナハティガルが勧めたリボンを見たゲルダが、嬉しそうに微笑んだり。

「これは……」
 散々歩き回り、日も暮れようかという時間。ナハティガルはそれを見つけた。
「わぁ、素敵な『剣』ですね!」
「ああ、これはどうだろうか」
「アルベイル様にですか。とてもいいと思います! あ、でもこれ……『双剣』みたいですよ」
「ああ、一本はアルベイルに、もう一本は俺にと考えた」
「お揃いっ! とても、素敵だと思います……!」
「そうか、ゲルダがそう言ってくれるのであれば、これにしよう」
 興奮気味に語るゲルダに小さく微笑んで、ナハティガルは店先に並んだ二本の剣を手に取った。

マスターコメント

おつかれさまでした! 十番通りが人気過ぎてビビりました! という訳でアイテム希望の方だけですが、以下が考えたものです!(複数希望の方はごめんなさい!一品のみです! 『錦陵の匣(ザ・ミスティス)』:くすんだ金色をした小箱。表面には精緻な彫刻が刻まれ、振るとカラカラと音がするが、開け方は不明。透視などで中身を探る事もできな謎遺物。 『哭熊のボイテル』:かつて帝国を荒らした熊の魔獣『嘆きのシュファン』の革で造られたベルトポーチ。分厚く非常に丈夫な上、収納物が立てる音を消音する機能もあるらしい。 『大禍の牙(サイズ・オブ・ディザスター)』:折り畳み式の巨大な漆黒鎌。組み立て方次第で様々な形態の武器になるが、癖が強すぎて扱える者はいないという。 『無名:共鳴双子剣(ツーサイズ)』:黒の兄剣、白の弟剣。まるで鏡写しの如き一対の直剣。昼と夜が同じになる日、離れた双子は互いを求め『鳴く』という噂がある。 『翡翠燕の髪飾り(ベネディクション・デ・リ・ロンデル)』:ジュストがローザリカへ贈った婚約パーティ用の髪飾り。伝説の翡翠燕の姿を模した金細工に翠玉の瞳が輝き、尾には本物の尾羽が使われ、美しき薔薇色を彩る。
ショートシナリオR

ショートシナリオR易しい 報酬:多い8 / 4〜8人

2022年10月04日 13時17分48秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ヴィルジール・L・ディオール

    ようこそ我が領都グラン・ディオへ。 領主である父に代わり、皆さまを歓迎させていただきます。 形式上依頼という形を取ってはいますが……折角の商大祭。 皆さまの羽を休める機会となることを願っております。

  2. ルイド

    ルイドだ。出発も近いがよろしく頼むわ。 各々好きに散財……警備するだろうから、相談の必要はねぇよな。 一応言や、七番と十番が特に気になるんで重点的に見回る予定。

  3. レピド・クロサイト

    レピド・クロサイトだ。 俺は八番通りと十番通りにいると思う。すれ違ったり出会った時はよろしくな。

  4. ミゼリア・L・ステュクス

    ……ミゼリアです。……ごあいさつ、するのを……すっかり、わすれてました……。 わたしは、六番通りと、十番通りに、行くつもり……です。 もし、すれちがったり、お会いできたら……よろしく、おねがいします……ね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0