【学祭】頑張れ、保健同好会!(と、悩める男子生徒)
菊華 伴
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シナリオID:2472
オープニング
●保健同好会は人手不足
「獣人の生徒の前で、話せないなんて……でも、私は保健委員であって……」
パンクリアース学園・とある一室。そこで一人のヒューマンが頭を抱え、何度かふるふるしていた。白衣を着た彼は眼鏡をかけなおすと両頬を叩く。
「そうだな、差別意識はいかん。私は医者を目指しているんだ、獣人を恐れていては医者にはなれない。しかし……」
と一人小さな声で呟いていたのだが……あたりを見渡して深いため息を吐いた。
彼は保健同好会のリーダーで名をラルジャン・ジキタリスという。小柄な体と愛らしい顔立ちが原因で少女に見られがちだが17歳の男性だ。そして現在彼は2つの悩みを抱えていた。
1つ目:保健同好会の人員不足と顧問の不在。
元々、彼ら保健同好会は非公式の存在である。故に顧問を得、実績を積んで『委員会』への昇格に向けて準備を進めていた。しかし、先日のアレコレの果てに異種族の生徒を受け入れることになったが、一部の貴族派生徒が問題を起こしたり、新しい考えについていけない等で自主退学したり、同好会を辞めたりした為人が足りなくなってしまったのだ。
また元々打診していた貴族派の教師も結婚を機に退職してしまった為一から探し直しとなっていた。
2つ目:獣人への意識
ラルジャンは、獣人に対し複雑な感情を抱いている。その為獣人を前にするとうまく言葉を紡げない。ラルジャン自身は「心の奥にある差別意識ではないか」と悩んでいる。
「私が、獣人の前では話しづらくなること、以外が、先だろう。……保健同好会のメンバー増加と顧問の先生の確保。それが、急務だな」
ラルジャンがぶつぶつ言いながら保健室を歩いていると、軽くノックの音が聞こえた。入室を促すと……ウサギの耳をした獣人の女子生徒が姿を現した。今年入学した授恵者の一人、ミカヅキである。
「ラル先輩、薬草積んできたよ。……ん? どうしたの?」
「あ、ああ……。あ、あ洗うから、そこにお、置いてて……」
ラルジャンは、ぎこちない笑顔でどもりながら指示を出す。ミカヅキは、少し寂しそうな顔をして籠を置くと
「う、うん。ミカ、授業終わったら、また薬草積んでくるよ」
そう言って脱兎のごとく保健室を立ち去った。その背中を見送り、ラルジャンは頭を掻きむしった。
「だ・か・ら! これじゃ、だめなんだっ!!!」
ラルジャンはそのまま床に膝を付くと、そのまま「これじゃだめなんだ……」とこぼした。
●ミカヅキは考えた。
ミカヅキは、ラルジャンが困っていることを感じていた。
「獣人が怖いのかな、あのおぼっちゃん先輩。獣人、こわくないんだけどなぁ」
彼女は知っている。ラルジャンが授業以外は保健室(と名付けた一室)で手当てにあたっていたり、放課後に色んな生徒や教師に保健委員の必要性を訴えている事を。だから、苦手意識を持たれていようと力になりたかった。
「うん。……提案しよ」
彼女は、ギルドで学んだ依頼書の書き方を簡単にまとめて跳ねるように保健室へ向かった。
「ぼ、冒険者に力を、かか借りる……?」
「はい。『ほけんいいんかい』つくりたいなら、まず、『どーこうかい』の人を増やさないと。そのために、力借りるのアリだと思うから」
ミカヅキから聞かされた提案に、ラルジャンは目を丸くする。しかし、少し考え……ミカヅキ達冒険者ならばなにか提案をくれるかもしれないと思ったのだ。
テーブルの上には、仲間の印として作った若葉色の腕章があった。同好会ができた時から頑張っている仲間の一人が『保健同好会』のメンバーの印として作ったものだ。
「力を、……かっ、借りてみよう、かかかな……」
ラルジャンは、一度腕章を見て頷き、ぎこちない笑顔で依頼書を書き始めた。
「獣人の生徒の前で、話せないなんて……でも、私は保健委員であって……」
パンクリアース学園・とある一室。そこで一人のヒューマンが頭を抱え、何度かふるふるしていた。白衣を着た彼は眼鏡をかけなおすと両頬を叩く。
「そうだな、差別意識はいかん。私は医者を目指しているんだ、獣人を恐れていては医者にはなれない。しかし……」
と一人小さな声で呟いていたのだが……あたりを見渡して深いため息を吐いた。
彼は保健同好会のリーダーで名をラルジャン・ジキタリスという。小柄な体と愛らしい顔立ちが原因で少女に見られがちだが17歳の男性だ。そして現在彼は2つの悩みを抱えていた。
1つ目:保健同好会の人員不足と顧問の不在。
元々、彼ら保健同好会は非公式の存在である。故に顧問を得、実績を積んで『委員会』への昇格に向けて準備を進めていた。しかし、先日のアレコレの果てに異種族の生徒を受け入れることになったが、一部の貴族派生徒が問題を起こしたり、新しい考えについていけない等で自主退学したり、同好会を辞めたりした為人が足りなくなってしまったのだ。
また元々打診していた貴族派の教師も結婚を機に退職してしまった為一から探し直しとなっていた。
2つ目:獣人への意識
ラルジャンは、獣人に対し複雑な感情を抱いている。その為獣人を前にするとうまく言葉を紡げない。ラルジャン自身は「心の奥にある差別意識ではないか」と悩んでいる。
「私が、獣人の前では話しづらくなること、以外が、先だろう。……保健同好会のメンバー増加と顧問の先生の確保。それが、急務だな」
ラルジャンがぶつぶつ言いながら保健室を歩いていると、軽くノックの音が聞こえた。入室を促すと……ウサギの耳をした獣人の女子生徒が姿を現した。今年入学した授恵者の一人、ミカヅキである。
「ラル先輩、薬草積んできたよ。……ん? どうしたの?」
「あ、ああ……。あ、あ洗うから、そこにお、置いてて……」
ラルジャンは、ぎこちない笑顔でどもりながら指示を出す。ミカヅキは、少し寂しそうな顔をして籠を置くと
「う、うん。ミカ、授業終わったら、また薬草積んでくるよ」
そう言って脱兎のごとく保健室を立ち去った。その背中を見送り、ラルジャンは頭を掻きむしった。
「だ・か・ら! これじゃ、だめなんだっ!!!」
ラルジャンはそのまま床に膝を付くと、そのまま「これじゃだめなんだ……」とこぼした。
●ミカヅキは考えた。
ミカヅキは、ラルジャンが困っていることを感じていた。
「獣人が怖いのかな、あのおぼっちゃん先輩。獣人、こわくないんだけどなぁ」
彼女は知っている。ラルジャンが授業以外は保健室(と名付けた一室)で手当てにあたっていたり、放課後に色んな生徒や教師に保健委員の必要性を訴えている事を。だから、苦手意識を持たれていようと力になりたかった。
「うん。……提案しよ」
彼女は、ギルドで学んだ依頼書の書き方を簡単にまとめて跳ねるように保健室へ向かった。
「ぼ、冒険者に力を、かか借りる……?」
「はい。『ほけんいいんかい』つくりたいなら、まず、『どーこうかい』の人を増やさないと。そのために、力借りるのアリだと思うから」
ミカヅキから聞かされた提案に、ラルジャンは目を丸くする。しかし、少し考え……ミカヅキ達冒険者ならばなにか提案をくれるかもしれないと思ったのだ。
テーブルの上には、仲間の印として作った若葉色の腕章があった。同好会ができた時から頑張っている仲間の一人が『保健同好会』のメンバーの印として作ったものだ。
「力を、……かっ、借りてみよう、かかかな……」
ラルジャンは、一度腕章を見て頷き、ぎこちない笑顔で依頼書を書き始めた。
解説
今回は、パンクリアース学園の『保健同好会』の顧問を探したり、メンバーをさがしたり、『保健同好会』がどんなことをするのか宣伝したり、がメインとなります。
『保健同好会』について
発起人はラルジャン・ジキタリス。
けが人の手当や病人の看病などを自主的に行っているチームです。元々医者を目指している彼が同じ考えを持つ仲間と作ったのが始まりとなっています(医者や薬師系の家柄の子が多かった)。
その他、学園の生徒が健康的・衛生的に過ごせるように手助けする一方、ここでの活動を通して医学的な研究の助けにもなれば、と考えているようです。
>登場NPC
ラルジャン・ジキタリス
貴族派の『ジキタリス』子爵の息子。小柄な身体と赤い瞳と白銀の髪、愛らしい顔立ちで女性に見られることが多い。保健同好会の問題の他、獣人にはぎこちない接し方しかできず悩んでいる。
よくみると、帝国に所属するだれかに似ているようだ。
PL情報
レビジュ・バトーの従兄弟に当たります。また、レビジュについては多少情報を掴んでいるようです。
ミカヅキ
ウサギのハーフビーストの少女。兎耳と桃色の髪と赤い瞳が特徴。男の子っぽい衣服を纏う。ラルジャンを慕っており、今回冒険者を頼ってみてはと提案したのは彼女。
依頼内容
今回は次の中から1つ選び行動してください。
1)保健同好会の勧誘もしくは顧問探し
現在、メンバーは10人いるかいないかという状態で、ラルジャンとしてはあと10人ぐらいメンバーが欲しいそうです。PCさんがメンバーになるのもアリです。
どんな人が向いているのか
・誠実な人
・清潔さについて一緒に考え、実行してくれる人
・人の為に力を貸すことを惜しまない人
2)ラルジャン自身の悩みを解決する
ラルジャンとしては「医者となるなら、いろんな種族を見れるようにせなければ」と考えていますが、獣人の前ではぎこちない接し方になってしまいます。それを彼は「自分が心の奥に持つ獣人への差別意識」と考えているようですが、ミカヅキからみた印象は「怖がっているようにも、罪悪感をもっているようにも見える」らしいです。
3)新しい活動について提案する
ラルジャンは、『今の活動だけでは足りないのでは?』と疑問視しています。保健委員になる・ならないにかかわらず幅広い意見を集めたいようです。
4)その他
上記3つに当て間ならない行動をしたい場合はこちらをお使いください。
それでは、よろしくお願いします。
マスターより
今回は、ラルジャンくんとミカヅキちゃん率いる保健同好会のお話です。
よろしくおねがいします。
リプレイ
●保健同好会に集まれ?
保健同好会が借りている部屋。そこに集まった12人の冒険者に、ラルジャンたち保健同好会のメンバーは目を見開いた。
「こ、これは……」
「ミカヅキが、相談したんだよ」
えっへん、と胸を張るミカヅキ。その様子を微笑まし気に見ている中、生徒会長のエフィルミアがラルジャンへ一歩踏み出した。
「誰かを救うための部活っていいなって思うので、全力で応援したいです! がんばりましょう!」
「……! ありがとうございます、生徒会長っ」
ラルジャンは心から喜んでいるようで、握手を自然と求めていた。その様子を見ていたギャメルとストレガ・L・リベルガストラは顔を見合わせる。
(どうやらエルフは大丈夫そうなのだ)
(じゃあ、他のヒューマンに近い種族はどうだろう?)
二人がそっと顔を見合わせていると、彼の相談に乗りたいと考えているレティシア・レインフィールとコルネリウス・アーラもまたラルジャンの様子から何かを感じ取っているようだった。
「私は、ラルジャン・ジキタリスです。今回は、よろしくお願いします」
改めてラルジャンを始めとする同好会の会員たちがそれぞれ名乗り、一礼する。
「早速話し合ってみようよ!」
「そうだな……、ある程度分担して行おう。私は、部員勧誘や顧問探しの為の交渉をやってみようと思う」
とアドルフ・ジーノが提案すれば、ナタリア・フィッツジェラルドは頷きながら行動を宣言する。と、エデル=マグノリアが
「顧問となる方は、なるべく活動に理解の在る方が良いのでしょうけれど……」
と少し不安げに呟いた。彼女は「宛があればさっさと頼み込んでいるのでは?」と考えたようだ。それを読み取ったのか、ラルジャンは少しだけ表情を曇らせた。
「2,3人声をかけてみた先生はいるのだが、袖にされてしまってね」
「なるほど……。少しアプローチ先を変えたほうがいいのかもしれませんね」
エデルは考え、頷きながらそう言った。
その一方で……。
(医者や薬師はまだ貴族が多く平民には縁遠い存在だな。でも、医者と薬師だけで衛生は保てない……)
とイズル・M・ヴォルゴールは内心で考えているうちに、1つの提案が脳裏から浮かび上がってきた。
「『医者や薬師を助ける平民の育成』にも積極的になると、この同好会の目指す目標に近づけるかもしれないな」
イズルの言葉に、同意するように頷くのは、キリアン・フィッツジェラルド。彼は「確かにそうですが……」と前置きした上で
「まずは、清潔感への意識を自ら考えられるようにしないと、加入にあたるイメージは沸き難いと思います。具体的な宣伝内容は、それらを怠る事でのマイナスイメージを伝えようかと」
キリアンの提案に、イズルは「確かにな」と納得の表情になる。
キリアンの言葉に頷いたのは、イズルだけではない。イーティルもまた真面目な表情で口を開く。
「ひとまずは具体的な活動内容の周知と、『清潔に関係する事』や『怪我をした時にどう動くべきか』といった事柄への具体的なイメージを持たせることが先決だねえ」
知識がなければ行動のしようがないし、どうすべきかというイメージがなければ行動に移しにくいだろう……と考えたのだ。これに関しては一同深く頷く。
次に声をかけたのはアドルフ。彼は学園生へ1つ質問する。
「確か、授業内で実技を教えることがあるんだよね?」
「あぁ……。私はちょっと苦手なところがあるが」
ラルジャンが頷けば、アドルフはこくり、と頷いた。
「なら、怪我人はいるけど同好会の人手が足りないことが考えられるし、クラスで1人軽い怪我を手当する役割を担う人を提案するよ!」
アドルフは自己手当の知識を学ぶ事と、この役割がきっかけで保健に興味を持つこともあるのではないか、と考えた。いつでも魔法で怪我を治せるわけではないのだから、と。
「でも、どう役割分担するの?」
「簡単な怪我はクラスで任命した人が、それ以上の物は保健同好会が受け持つ事にしたらいいんじゃないかな?」
ミカヅキの問いに、アドルフは考えながら答え、どうかな? とラルジャンを見る。彼は「なるほど……」と感心したような様子だ。
「この時点で色々と出ましたが、どうですか?」
今まで様子を見ていたフェミナ・ノ・リビディーネがラルジャンに問う。彼女はふふ、と優しい笑みを浮かべ
「私からの提案は、『学園外での活動』です」
と己の過去の経験から思いついたことを出してみる。これにはラルジャンもミカヅキも目を見開き、驚いているようだった。
「今までと違う環境での経験は確実に自身の見識を広げてくれます。それだけではなく、色んな患者と触れ合う機会が増えるのは良い事だと思うのです」
フェミナは理由あって過去に帝国内にて流浪生活を行っていたらしい。それ故に思う所があるようだ。
「冒険者の方々に話が聞けて、良かった。少しずつ、出来る事から始めていこうと思う」
ラルジャンが真面目な顔をしつつもほんのり喜びを滲ませている様子にほっこりする面々。
出された案をメモしたラルジャンは少し生気を取り戻したように思えた一同。その後も色々と案が出され、賑やかになってきた。
また、複数の冒険者が同好会への参加を希望すればラルジャンは目を丸くする。彼は、喜びで言葉を詰まらせながらも、「ありがとう!」と頭を下げた。
ある程度落ち着いたところで、ギャメルを始めとしたラルジャンの悩み相談に乗りたいと考えていたメンバーが動き出す。
「よかったら、保健同好会の理念についてもっと聞かせてもらえますか?」
レティシアがそういえばラルジャンは嬉しそうに頷く。と、ミカヅキが「紅茶入れてきます」とうきうきな様子で準備に取り掛かる。
それに乗る形で数名が部屋に残り、他の冒険者達は早速同好会の会員たちと共にできる事をやってみる事にした。
と、ここでイズルはふとラルジャンを振り返る。
(あれ?『ジキタリス』……? この家名どこかで……)
ふと、脳裏に過るハーフビーストの少年が語った事。その諦めの滲んだ声が、僅かにイズルの目を見開かせる。
「もしかして……」
何かを悟った彼に気付いたレティシアが、静かに頷く。目が合ったイズルは、レティシアにその事を告げ……彼女もまた同じことを考えたと告げた。
「改めて見ると、顔つきが似ていますね」「あぁ……」
二人は、あの砦で今日も製薬に勤しんでいるだろうその子の事を思った。
●保健同好会を知ってもらおう
「まず、学園派が多いクラスに声をかけてみようと思う」
エフィルミアはそう言ってとあるクラスの前へ。確かに学園派ならば新しい考えについていけない、という事はなさそうだ。
試しに学園派の生徒が多いクラスでは、興味を持って話を聞いてくれる人が多かった。ナタリアが『帝国の従軍治癒士』という経験を明かしたのも効果があったのかもしれない。興味を持ったのか、多くの生徒たちがナタリア達の元へ集まった。
何か解りやすい例えを、と求められるとナタリアは「こういうのはどうだろう」といい例を提示する。
「例えば、君に意中の子が居るとしよう。しかし身嗜みを軽んじてしまうとどうなる?」
そう問われた男子生徒は「誰にも相手にされませんし、むしろ嫌悪されるでしょう」と真顔で言った。ナタリアは少し瞳を細め、頷く。
「そうだな。それが嫌ならば、『身の回りや身嗜みだけでも綺麗にする事』だ。それだけでも違う」
「……確かに!」
目を僅かに見開き、納得した表情の男子生徒。他の生徒たちもわかりやすい例えに納得がいっているように見える。
エフィルミアは受け入れられやすい空気が作られたように思い、自然と笑みを深めた。
「『衛生や医術について学びたい』とか、『自分が誰かの役に立ちたい』って人は入部考えてみませんか?」
まずはお試しでもいいので! と声をかければ数名の人が仲間と相談しつつ前向きに検討しているように見える。
将軍など戦闘系の職を目指す者にも「兼任でもやってみて悪くないですよ?」とエフィルミアは声をかける。
「なるほど……。確かにな」
戦場でのとっさの判断。そして、孤立した時に自分で手当する技術や病気の治し方……。それを知っているかどうかが生死を分けるとエフィルミアが真面目に語り、ナタリアは頷いて肯定する。
「切っ掛けは、自分の為でもいいよ。誰かへの治療を通して命に貴族も庶民も関係ないって気づいてくれるようになったら嬉しいな」
「保健同好会での活動は、非授恵者でも出来る小さな行為だろう。だがそれも、手を取り合える仲間達が居れば大きな力にも負けないものだと思わないか?」
二人の言葉に説得力を覚えた者達は、十分勉強になったようだ。手ごたえを覚えた一同は、少し自信がついたのだった。
一方、顧問教諭を探すことも忘れてはいない。
これに関してはエデルがいい提案をしてくれた。
(本来優先度が高いのは理系か体育科の先生よね……)
そう考えたのだが、別の視点からのアプローチをしてみてはどうだろう、とも思ったようだ。
「文系……例えば法律関係の先生とか、説明して理解を得られるのなら良いと思うわ。例えば……法律関係であれば、こちらとしても『法の下でいかに医療を役立てていくか』の勉強にもなる、といった感じで」
「それは考えてもみなかった……」
提案を聞いた際、ラルジャンは目を丸くしてそう言った。エデルとナタリアは同好会のメンバーと共に先生たちから話を聞き、顧問になってくれそうな先生をリストアップ。改めてラルジャンが交渉してみる事にする。
その一方でフェミナが面白い提案をしていた事もエデルは思い出す。
「顧問については……『外部の人間』に外部講師という形でお願いするとかできないのでしょうか? 先ほど話した事にもつながりますが、視野が広がるとも思うのです」
可能なら手助けをするつもりらしい。ラルジャン自身は興味を持っているようだが、学園のルール的にOKなのかはわからない。
(でも、その許可が下りるのならばいい経験が詰めるかもしれませんね)
その辺りは学園のルールを振り返ってから実行に移すのがいいだろう、とエデルたちは考えた。
●こんな活動はどうだろう?
アドルフはその頃、保健同好会の活動に興味を持った人へ、医療・薬学知識などから参考にした話をしていた。
その内容の中にはキリアンから聞いた『過去に起った疫病』の話も含まれる。途中、話を聞いて気分が悪くなった生徒もいたようだが、『場所が清潔であればそれだけ病気にかかりづらい』という事は解ってもらえたかもしれない。
「そう言う話を聞くと、益々衛生って大事だなと思うなぁ」
とイズルが真面目な顔で頷く。
そんな彼は、この部屋で香油をつかった聞香……空間浄化も行っていた。
これは先ほど、イズルがラルジャンへ提案した『衛生に関係ある品の体験会』である。それを聞いたラルジャンは「ならば……」と学校用に用意した香油を出してくれた。
(まさかすぐに実行できるとは思わなかったけれど……)
ラルジャンは意外と行動的なのかもしれない、とイズルは思う。
(香りにも効能があり、貴族で嗜む人もいれば、平民だと民間療法で馴染みのあるもの。だから、どちらにも興味を持ってもらえるかもしれない、とは思ったが……)
イズルの読みは当たったかもしれない。よい香りのお陰で貴族、平民関係なく話を聞きに来てくれる人が増えたように思う。機会があれば、石鹸の製作体験もやってみたいな、とイズルは考える。
「興味から、良い石鹸や香油の作り手候補も現れれば……」
そうなれば、卒業後の進路にもいい効果がでるかもしれない。この辺りをもう少し押してみてもいいかもしれない、とイズルは思った。
アドルフが話を終えると、次はキリアンが話し始める。
「僕は趣味と実益でジビエハンティングを行っていますが、時には百発百中とはいかない上、未熟だった頃には血や周囲の泥で獲物を汚してしまう事もありました」
一部の生徒が真面目な顔で頷く。もしかしたら、キリアン同様ハンティングをやっているのかもしれない。キリアンは言葉を続ける。
「それで肉の清潔を怠ると砂や泥まで一緒に食してしまいかねない事もあり、見た目上の忌避感にも繋がります」
その一言に大きく反応する生徒が複数いた。「流石にそんなものを出すわけにはいかない」と口に出す生徒もいるぐらいだ。ごく一部の生徒が青い顔をしていたが、そういうものを口にしたことがあるのかもしれない。
キリアンはこうしめる。
「飲食店経営者である以上、出来る限りの最高のサービスの為ならば店内の清涼な環境も無視出来ない事です」
これには、飲食店関連の仕事に関わる家の生徒たちが食いついた。
折角の食事が美味しくないということは避けなくてはならない。そして、客離れにつながってしまうだけではない、という事を悟ったようだ。
姉であるナタリアの話を聞いた上でキリアンの話を聞いた者は『根っこは同じ』と呟いた。軍人になるにしろ、料理人になるにしろ、『衛生の重要さ』は同じである、と。
別の場所では、イーティルが数名の同好会員と共にポスターを作っていた。
彼女の提案の1つ『衛生管理について書いた物を学園の目につきやすい所に貼る』を早速やってみる事にしたのだ。因みに許可を貰いに行ったところ、直ぐにOKがでたのはありがたい。
「これは、こう……かな?」
「これなら誰でも出来そう?」
『簡単な応急処置についての資料』も試しに作っている所だ。これを他の人に読んでもらい、わかりやすいようなら数を増やす所存である。
アドルフは『クラスで1人軽い怪我を手当する役割を担う人を出しては?』と提案した。これが実行されるならば、大いに役立つだろう。
いくつかの案が採用され、ちらほらと参加希望者や参加を検討してくれる人が増えてくる。冒険者達は、今後もなにか力になれれば……と思うのだった。
●ラルジャンの悩み
それぞれ改めて簡単に挨拶した後、ミカヅキが紅茶を入れてくれた。ラルジャンはどもりながらも「気を付けるように」とそっと声をかける。
その様子を見ていたレティシアは、少しだけ目を細めた。
(差別しているようには……見えませんが)
彼女が何を言わんとしているのか分かったのか、ストレガやコルネリウスはラルジャンを見て頷く。
(学園が方針転換した中で、露骨に態度に出ちまうのは不便だろう。逆に苦手意識があっても行動に出なけりゃオレはそれで問題ねぇと思うんだよね)
ギャメルもまた、ラルジャンの様子を見て考える。負の感情を無理やり押し込めてしまったら、別の歪みになりかねない、と。
ラルジャンは子供の頃の体験から医者を目指し、また衛生面の大切さを悟ったという。その話に相槌を打っていたレティシアは、それとなく相談しやすい雰囲気を作れるよう話を運んでいく。
話が落ち着いたところで、ラルジャンの悩みについても聞きたい、とそれとなくストレガが話を出すと、彼は申し訳なさそうに頭を下げた。
「お恥ずかしい話です。医者を目指しておきながら……」
「しかし、それは……ハーフビーストだけなのだ?」
ストレガの言葉に、頷いたのは、ミカヅキだった。彼女は兎耳を垂らしながら、僅かに首を傾げた。
「ミカヅキが見た限り、では。ラルジャン、チェス好きのドワーフさんと友達だし……」
「エルフも大丈夫なようですね」
コルネリウスが同種であるエフィルミアと話している様子を思い返しながら答える。彼女の家族には他種族の者がおり、なにか役に立てれば……と考えていた。
「ラルジャンさん、どうして獣人だとギクシャクしてしまうのか、理由を探してみましょう」
「そう……だな」
ラルジャンは、少し緊張気味に頷いた。
「恐怖……。なにか、恐れていることがあるのだ? 動物、魔獣ではどうなのだ?」
ストレガが問えば、ラルジャンは首を降る。
ゴブリンに対しては、特に態度を変えることは無い、と彼女やギャメルとの会話から知ることが出来たし、保健同好会の会員になったリザードマンとは普通に話していたのを他の面々も目撃した。
だが、ハーフビーストのイーティルと話している時はどもりや強張りが声に滲んでいるのも聞いている。
「私には知らない事に異様に恐れているようにも見えるのだ。単に獣人と言っても多様な動物の因子を持つから『どのように治療したらいいかわからない』というのもあるのではないか?」
ラルジャンはストレガの言葉に、しばし考え込んだ。
ギャメルは許可を貰い、〈エンパシー〉を使ってみるが……なんとなくそれが原因ではないように思えた。
「これは私から見たラルジャン様の様子から考えた事ですが……。無意識でも獣人を差別する貴族なら、気遣う事も罪悪感を抱く事も無い筈です」
レティシアがそっと切り出すと、ラルジャンは僅かに目を見開く。
(何かを、隠している?)
ギャメルはラルジャンの様子等から、そんな風に予測する。だが、彼は口を閉ざしたままだ。
強張った顔の彼を見、コルネリウスは穏やかに諭すように語る。
「私達は、互いに解らない事も多いですね。今はうまく話せなくても、急がなくて良いと思います。恐れは言葉を少しずつ重ねて、相互理解で解くことが出来ますし……」
「少しずつ……」
漸く、ラルジャンが表情を緩める。コルネリウスの言葉に心が少し解れたのだろう、少しばかり呼吸も安定しているように見えた。
「なぁ、ラルジャン。ちょっと試したいことがあるんだ。目を瞑って、今から言うハーフビーストを想像して欲しい」
ギャメルの言葉に、ラルジャンは頷く。
「じゃあ、行くぞ。まず、兎」
ラルジャンの表情からは、心配や「申し訳ない」というような物が感じ取れる。ギャメルは首を僅かに傾げ、狼やアルパカなど幾つか出してみる。だがそれには何も反応がない。彼は息をのみ、そっと次の動物を告げた。
「じゃあ、これは? ロバ……!!?」
瞬間、ギャメルは胸が痛くなったような気がした。ラルジャンから感じ取ったのは、強い悲しみだったのだ。
(やはり……)
レティシアは、少しずつ『予想している答え』近づいていくつもりだった。だが、ギャメルが取った行動により、より確信に近づいた。
彼女とイズルは、過去に彼の口から『ジキタリス』の名を聞いていた。そして、ラルジャンの険しい表情に重なった、その少年の名は……。
「レビジュ様……」
思わずついた名前は、帝国の小さな薬師、レビジュ・バトーの名だった。ラルジャンは、深いため息を吐き、頷いた。
「貴方がたは冒険者だ。『指先』に下った叔父上の息子を知っていてもおかしくないだろう……」
冒険者と言うのは、凄いな、と力なく言うラルジャンは、レティシア達へ問う。「あの子は、元気か」と。
「えぇ、帝国で薬師としての腕を振るっていますよ。味方として……」
レティシアがレビジュの話を少しすると、ラルジャンは、ぽろぽろと赤い瞳から涙をこぼしながら、「そうか」と何度も頷いた。
詳しい事は聞けなかった。が、彼が幼い頃、別荘に封されたレビジュを見に行った事があるらしい。だが、その時彼は知ってしまった。レビジュが父親や使用人に虐待されていた事を。そして、現場を目撃した際、レビジュと目が合った。初めて目にした悪意を持った大人に、ラルジャンは怖気づき逃げてしまった。
当時当主だった祖父に掛け合い、ラルジャンはレビジュを助けてもらおうとした。だが、祖父からは「見た事を忘れなさい」とだけしか言われなかった。それは両親や使用人たちも同様で。
だけどずっと、ずっと彼の中ではあの光景が繰り返され、悪夢に魘されるようになった。赤と青の目が、助けを求めるように彼をずっと見ている夢を。
それらを全て黙ったまま過ごしていくうちに、ハーフビーストの目をみるとその時の事を思い出すようになった……らしい。
(重い)
(彼もまた、差別の犠牲者なのかもしれません)
ギャメルは痛む頭を押さえ、レティシアは深く深呼吸をして感じた感情を抑える。
「なるほど。その目に恐れを抱いたというわけだったのだ」
冷静にストレガが言い、ラルジャンに歩み寄る。彼女はしっかりとラルジャンを見た。
「荒療治だが、多くの獣人を治療するのが良いと思うのだ。その為に医学の勉強も進めるのだ。ハーフビーストも基本的にはヒューマンと変わりない筈ではあるのだ」
「他にも、ミカヅキさんを交えて、同好会メンバーと交流を重ねてみるのも手ね。お茶を一緒に楽しむ、とか」
コルネリウスが寄り添うように話す。
「彼と向き合う、という方法もあります。何か、変わるかもしれません。いつ渡せるかはわかりませんが、レビジュ様へお手紙を書いてみては?」
レティシアもまた提案すれば、ラルジャンは「ありがとう」と静かに微笑んだ。
ずっと黙っていた事を話すことが出来たからか、悩みの理由を掘り下げることが出来たからか、前よりも少しだけ明るい顔になった気がした。
●保健同好会は、少しずつ進みだす
相談を終え精神的に落ち着いたラルジャンは、他の会員達と一緒に活動していた冒険者達を出迎える。
そしていろいろと報告を受けていると、フェミナがそれとなく近づいた。彼女はレティシア達から話を聞き、一つ助言しようと考えたのだ。
「そう言えば、あの件で相談されたようですね」
「お陰で、光明が見えた気がしているよ」
ラルジャンが苦笑交じりに言えば、フェミナが真面目な顔で言う。
「焦って克服しようとすればするほど逆に道は遠のいてしまいますよ。まずは身近にいるハーフビーストの方の事をよく知る事から初めてはいかがでしょうか?」
「ありがとう。……同好会のメンバーとまずは触れ合ってみよう、と思うよ」
ラルジャンは、フェミナのアドバイスに微笑み、小さく頷いた。
今回の一件で、様々な種族の生徒がちらほらと入ってくれるようになった。そこに数名の冒険者も含まれる。
「皆さんのおかげで、仲間を増やすことが出来ました。……ミカヅキ、も、ありが、と」
「へへっ! 坊ちゃん先輩もいい顔になった!」
ミカヅキも、少しはラルジャンがどもらなくなった事が嬉しいのだろう。最初よりいい顔をしているように思えた。
「役に立てたのならば、よかったのだ。ラルジャン、精進あるのみなのだ」
ストレガが小さく笑いかければ、ラルジャンもまた頷く。
冒険者達の行動が、彼の心に火をつけたのは明らかだった。
そして、同好会への入会を希望したエデル、コルネリウス、ナタリア、フェミナの4名には、腕章が配られる。
「これからも、よろしく」「よろしくだよっ」
ラルジャンとミカヅキから笑顔で渡された、若草色の腕章を受け取った4人は、胸の中がちょっと擽ったい思いを覚えつつそれぞれ微笑んだのだった。
パングリアース学園保健同好会。
彼らの歩みは、まだ始まったばかり……。
(終)
マスターコメント
今回は、保健同好会を助けて下さりありがとうございます。
みなさんのおかげで仲間が増えました!
また、ラルジャンも悩み解決へ向けて少しずつ歩みだせそうです。
総合的に『大成功』と相成りました。
また縁がありましたらよろしくお願いします。
イベントシナリオ普通 報酬:多い12 / 5〜25人
2022年10月06日 10時29分50秒 公開
大成功
参加者
相談掲示板
ギャメルだぜ。よろしく頼む。 オレは聴講生、フツーの冒険者の立場だな。 行動は 2)ラルジャン自身の悩みを解決する の予定だぜ。
イズル・M・ヴォルゴールです。よろしくお願いします。 3で、清潔アピールするイベントを提案しようと思っています。
エデルよ、よろしくね。 【1】か、【3】をやってみるつもり。 同好会員になってもいいかもしれない、と考えてるとこよ。
コルネリウスです、よろしくお願いします。 私は【2】でお話を伺ってみようかと思っています。
エフィルミアです!よろしくお願いしますっ。 【1】でメンバー探しを頑張ろうと思います!